アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
地平線から太陽が昇りきった頃。北養区の山頂から位相を異ならせる亜空間・万年桜のウワサ空間にて。ソウルセルゲームの挑戦者が集う。
環いろは、環うい、万年桜、リリス。
七海やちよ、由比鶴乃。
鹿目まどか、暁美ほむら。
黒江、フゥ太、イーピン、凪。
そしてランボを頭に乗せた悪魔がウワサ空間に立ち入り、巨木の前に広がる正四角形の
「ようこそ。有象無象のチャレンジャー。待ちくたびれたぞ。……はて? これから死にゆく者とは思えないほど目に気合が宿っているが……まさか、このわたしに勝てると本気で思っているのかな?」
不敵な笑みを浮かべる漆黒の魔法怪人。彼女は環いろはを始めとする魔法少女の“なぜ”という問いかけに一切応じず、ただ自らの生きる理由を懸けて決闘を申し込む。
「問答無用。大切な言葉は既に持っている。進化が欲しければ力尽くで押し通せ!」
スバミの怒号により空気が痺れる。ピシャリと声音が鳴り止むと、自信に満ちた悠然たる声が静寂を引き裂く。
「ルールは単純明快。わたしと代表選手のタイマン勝負だ。代表選手が負けたら次の代表選手と交代する。いくらわたしでもたくさん試合をすれば疲れるかもしれないからね……そこを狙ってくるがいい。敗北条件は、棄権するか、リングの外に体の一部が付いてしまったら負けとなる。あと一応、手加減はするが……手が滑って殺されても当然負けだ……。そして代表選手がいなくなれば、わたしの勝ちとし……世界中すべての魔法少女を吸収する。なお、人類とインキュベーターの扱いは、まだ決めていない。ただ面白いことになるとは約束しておこうか……。また、細かいルールについてはその都度一緒に決めていこう。さらにルールの穴を突いた戦い方も、寛大な心で許すと前もって言っておこう。ただ、あまりこずるいやり方だと堪忍袋の緒が切れて何をしでかすか分からないぞ……? 故に諸君の良心を信じる……」
『……っ』
魔法少女たちは息を呑む。あまりにも泰然自若とした立ち居振る舞いは、真の強者としての貫禄を醸し出している。
「……あぁそうそう。ひとつ忘れていた。君たちが勝利した場合のことも、ありえないが、一応決めておいた。優勝賞品は二点。マギウスの研究所から救い出してきた《昴かずみ》と、一夜で集め切った《グリーフシード百個分》だ……素直に喜べよ。お前たちにとって手間が省けたんだからな……そしてさぁらぁに! わたしに勝てば一生奴隷としてなんでも言うことを聞いてやる……」
強気な発現から分かる通り、負ける気は毛頭ないようだ。巨木の傍らに背中を預ける昴かずみは気を失っている。その手前には大きな箱があり、どっさりとグリーフシードが溢れんばかりに入っている。
その時、赤い魔法少女と緑色の幼女の声が響いた。
「へぇ~。顔も知らねぇ女の子は要らないが、グリーフシードが手に入るってのはイイ条件だね……」
「キョーコとゆま、電撃参戦!」
悪魔たちの前に佐倉杏子と千歳ゆまが降り立つ。ずっと尾行していたのだろうか。
「佐倉さん!」環いろはが驚く。
「昨夜の半端ないデカさの騒音念話を聞いてね。あんたらなら何か知ってんじゃないかと
「待って佐倉さん。敵は強いわ。ここはまず実力を見てから挑んだ方が効果的よ」七海やちよの忠告。
「そんなの知らないね。……だが、最初に挑戦する奴を見てから決めようか。あたしは確実に景品を手に入れたいからね」佐倉杏子は悪魔を見て言う。
「最初の挑戦者は……私です」
環いろはが前に出る。意外そうに目を丸くする佐倉杏子。
そこで悪魔は内心で歯噛みした。
(っ……本当はオレが一番槍を買って一気に決めるべきなのに……今はそれができない。なぜならかずみは
完全体スバミに傷つけられた傷の治りが遅い。それもまた逆転勝利の呪いが働いていない影響だ。
悪魔は逆転勝利の呪いがなければ、魔女や魔法少女に完敗する。死炎闘法だけでは防戦一方が関の山だ。まず勝てる見込みはない。叛逆魔法を使えば一縷の望みが出てくるが、それでも勝率が0%から1%に上がるだけ。確実に勝ちたいなら逆転勝利の呪いは必須である。
しかし完全体スバミは悪魔を
「それでは────ソウルセルゲームを始めよう……代表選手はリングに上がれ。いつでも掛かってこい。それが試合開始……すなわちスタートの合図となる……フフッ」
余裕の笑みをこぼす完全体かずみは、漆黒の翼を折りたたんで腕を組み仁王立つ。
「……それじゃあ行ってきます」
舞台に上がる環いろは。手元にはペルソナカード、頭にはキモチの髪飾り。
そうしてソウルセルゲームは開催した。
†
環いろはは両手にクロスボウとナイフを構える。遠近両用の戦闘態勢。ペルソナカードを使用してスタンドを発現。完全カウンター型のマントを羽織る。戦闘開始。光矢速射。スバミに直撃するが、かすり傷一つ無い。「屁でもないな?」環いろはの視界からスバミが忽然と消え去る。その意味が分からずともマントを羽織って身を守った瞬間、鏡のマントは打撃を受けて光り輝きエネルギーを反射する。スバミの体に直撃するも、やはり傷が付かない。「ほう。無敵のマントか。迎撃機能付きとは便利な代物だ。しかしそんなにも誰かを傷付けたくないか?
「燃費の悪い戦い方だ。それほどのパワーを小細工に弄するとは……使い方というものがなっていない。それに分かっているのか? 単純なパワーを引き上げるほど、それはわたしにとって脅威に映る……脅威には、それ相応のパワーで相手せねば無作法というものだ……つまり、誤って殺してしまっても、つまらん文句を吐くなよ……」
一段階ギアを上げたスバミはマッハ1で差し迫る。鏡のマントに一撃。マッハ1の威力が跳ね返される。瞬間、マッハ5のパワーで二連撃。差し引きマッハ4のパワーで環いろはを場外に殴り飛ばした。生え伸びる髪が柱に届く前にウワサ空間の端まで吹き飛んで見えない青空と草原の壁に叩き付けられた環いろはは一撃で失神した。「環さん!!」「お姉ちゃん!?」すぐにサポーターの環うい、黒江、凪、フゥ太が駆け付ける。
「さぁ……て、次のチャレンジャーは、誰かな?」「モッキュ!」リリスが舞台に上がる。「……おいおい、冗談だろ?」「モッキュッキュ!」「そうか。ではデコピン一発で退場だ」空を打つデコピン。それは超圧縮された透明な空気弾としてリリスの額に直撃。爆風を発生させながらリリスは場外に吹き飛ばされた。「モギュー!?」「力もなく言葉も持たない奴は惰弱すぎてなんの役にも立たない。その良い見本だったな、今の茶番は……」スバミは次の代表選手を待つ。
「ケンカごっこならランボさんも参加するんだもんね!」「あ、ダメだよランボちゃん!」暁美ほむらが制止するが、ランボは舞台の上に駆け上がる。「ほう……お前、わたしが怖くないのか? このスバミに向かってくるのか?」「だってオマエじぇんじぇんコワくないもんねー! あくまみたいにホッカホカ!」「……フン。ではスタートだ」ランボはギャハハと豪快に笑って手榴弾を投げバズーカを撃ち込む。が、その全てが直撃してもスバミは無傷。「……」「……」「────ギャー! バケモノだ!」「いまさらか」スバミは指を弾いて空気弾を撃つ。それはリリスが吹き飛ばされたのと同じ技。それを見て覚えていたランボは恐怖のあまり泣き喚いて、自分に十年バズーカを打ち込んだ。「なに?」十年後ランボ(男性)が登場。空気弾が股間に直撃して「グフゥッ!?!?!?」わけがわからないままきりもみ回転して舞台の上を転がり悶絶する。そこで悪魔が声を上げた。「大人ランボ! 十年バズーカを使え!」「わ、若かりし頃の、ボンゴレ……が・ま・ん……できそうに、ない、です……」「いいから使え! 死ぬ気で動け! 今はお前が頼りなんだ!」「……! この泣き虫ランボのオレが……?」そこまで言われては死ぬ気で十年バズーカを取り出すしかない。股間の激痛、いや激痛というにはあまりにも形容しがたい生き地獄と戦いつつ、大人ランボは自らに撃ち込む。そして白煙の中から姿を現したのは、頼もしいオーラ全開の二十年後ランボだった。
「……やれやれ。この現象……夢でないとすれば、随分と久しぶりに十年バズーカで過去に来たようだ……ボンゴレに、ほむらの姐さん……
「お前は……。バカなことを聞くかもしれないが、魔法少女ではないな?」
「話している時間はない……もう一分もないとして考える……倒せはしないだろうが、次の一撃で痛打を与える。それが今のオレにできる全力の手助けです────」
二十年後ランボは二本のツノを頭に取り付けてDランクのリングから雷の炎を灯すと突撃開始。「サンダー・セット! 《
「な、なぁんだとぅおおおおおお!?」
「そもそも魔法少女に肉体的なダメージは効果がない。魔力で簡単に治ってしまう。かといってソウルジェムを傷付けるようなことはしたくない。命まで奪う気はない。ならばどうするか。────オレ考案の魔法少女に対するダメージの与え方。それはオレにしか出来ないやり方だ」
スバミの全身に電流が走る。「永遠に帯電し感電し続けろ。オレの電磁的誘導力は、捕まえた仔猫を簡単には逃さないぜ」「っ……!? 魔力による高速再生が、麻痺してうまく働かない……!?」「そもそもの年季が違うんだ。伊達に十年、魔法に彩られた崩壊世界で生き残ってはいない……」「うぉおおおおおおおおお!?」ボフン。と音がして二十年後ランボの全身が白煙に包まれる。同時に電撃角から解放されたスバミは大きく距離を取って、感電しつつも肉体を徐々に再生し、ぜえぜえと冷や汗をかく。白煙から落ちてきた五歳児のランボは、自身の電撃に焼かれて気絶した。「こ、こんなことが……魔法少女ですらない人間に……しばらく残る傷を付けられるとは……! ただの戦士ではない……魔法少女を相手に一歩も引かぬ戦いぶり……その姿、まさしく超戦士!」体内に雷の炎が帯電するスバミは、ランボのアフロ頭を掴んで場外に投げ飛ばす。「ランボ!」「ランボちゃん!」駆け寄る悪魔と暁美ほむら。
「ともだち、きずつけた! イーピン、許さない!」「あ、ダメだよイーピン!!」舞台に飛び上がったイーピンと、それを諌める黒江。「くらえ!」「うるさい!」イーピンの蹴りを指先一本で受け止めたスバミは、足を掴んで場外に投げ飛ばす。「わぁ!!」「イーピン!」地面に叩きつけられて転がったイーピン。それを抱き上げた黒江は、合成した回復薬を飲ませる。
「さぁ来い……たまに感電して動きが止まるのは厄介だが……そら、もう肉体が再生しきったぞ……次のチャレンジャーはいないのかな? 赤ん坊の方がまだ勇敢なようだが……」「│私が出る│」「万年桜さん……気をつけて……」「│うん。いろははゆっくり休んでいて│」環いろはたちに見送られて万年桜が舞台に上がる。両手には桜の木の枝。それは巨木から採取した双剣。魔力を流せば桜色の超振動ブレードに変化し、一気に身をかがめて跳躍疾走。麻痺して時たま動きが止まる瞬間を突いて、完全体スバミと肉薄する。「技も何もない単調な攻撃だ……出直して来い!」「│ぐっ!│」悠長な戦いをしていてはあっという間に場外に出されてしまう。環いろはもせめてマギアを撃てればと後悔していた。そして万年桜も二の轍は踏まない。「刻み込む! │
「やちよ。悠長にしている暇ないのですよ。今がチャンスかもしれないのです」
「……そうね。このまま息つく暇のない連戦で消耗させたいところだけど……」
「────」
無言のまま暁美ほむらが舞台に上がる。「ほむらちゃん!? なんで私より先に……」「まどかなら私を案じてきっとそうすると思ったから、先回りしちゃった。安心して。まどかの番には回らせない……ここで私が無力化する!」暁美ほむらの眼光が敵を射抜く。「ほう……弱々しく見えて芯は強いと見た……いいぞ、もっとわたしを楽しませろ!」暁美ほむらはペルソナカードを使ってスタンドを発現。砂を操って砂鉄を寄せ集める。するとスバミの全身に大量の砂鉄が引き寄せられた。スバミの体にまとわりつく砂鉄は、その繊細な動きを執拗に奪う。「なにっ!?」「今のあなたはランボちゃんの電撃によって帯電している。つまり今のあなたは磁石も同然……! 感電と砂鉄でスピードを奪い、私の得意分野に持ち込ませてもらう……!」「考えたな、弱小魔法少女!」スタンドを仕舞う。一旦砂鉄を出現させれば、スバミが砂鉄を振り払ってもすぐにまとわりつく。魔力を節約。削減した分は増殖魔力に当てる。スタングレネード。閃光。視界を奪う。時間停止。舞台の上に大量のトラップを設置。そして時は動き出す。四方八方に暁美ほむらの姿が八体。そのうち七体は分身。拳銃・突撃銃・散弾銃・軽機関銃による無限の銃声。増殖魔力により弾丸は尽きない。「このわたしに物理ダメージが効くとでも!?」「それでも魔力を使って肉体を再生する以上、いつかは魔力が尽きるはず。その時があなたの負ける時よ!」銃弾では効果が薄い。対戦車火器・迫撃砲を取り出す。砲撃によりスバミの体が一歩後退。と同時に足元に設置されていた爆弾が爆発。さらに分身体の暁美ほむらがゴルフクラブを持ってスバミの頭部に打ち据える。次の瞬間、ゴルフクラブの先端に仕込んでいた火薬が増殖魔力と化学反応を起こして爆発。スバミの体が焦げ上がる。
ちなみに技名は《
「なるほど、わたしのエネルギー切れが狙いか……だがわたしは既に六人の魔法少女を吸収している。この程度のダメージでは一割も消耗していないぞ……?」「……それでも、少しずつ削る……!」「────やはりそういう作戦か。大見得を切っておいて内心では勝ち目がないと諦めている」「それは違う! これはみんなで勝つ戦い……それに、私だって負ける気はさらさらない!」
スバミが動く。地雷を踏んで爆発。怯んだところに手榴弾が投げ込まれる。爆発。麻痺したところに爆弾が投げ込まれる。爆発。「あなたが動けばわたしは瞬殺される……だからあなたにターンは回させない!」「っ! まさか、このまま互いに魔力切れの相討ちとなるまで持っていくつもりか……! つまらん真似を!」その涙ぐましい根性と努力は認めるが、スバミは音速突破で暁美ほむらの首に掴みかかる。時間停止。スバミを躱してトラップを再設置。グリーフシードを使用してソウルジェムを浄化。最短効率で準備を済ませて時は動き出す。「!? なんだ、どういうことだ!? 消えただと! 後ろか!!」「これがあと────
(っ……これ以上の武装は、ワルプルギスの夜のために取っておかないといけない……でも、もしかずみさんに負けることがあれば、ワルプルギスの夜が来る前に……まどかが吸収されて殺される……! ────どうする? ここで出し切る場合、ワルプルギスの夜の戦いで勝てなくなる……どうすれば────今回の戦い、どこまで私は出し切れば……っ!!)
「考え事とは余裕だな」暁美ほむらの背後に腕を組んだスバミが立つ。「────え?」振り返ろうとした暁美ほむらは視界が高速回転。きりもみ回転して場外にたたき出された。「今までお前が見ていたわたしは残像だ。しばらく観察していたが、いきなり消える原理は皆目見当がつかなかった……しかし急に背中がガラ空きになったので容赦なくご退場願った」「っ……そんな……みんな、ごめんなさい……油断した……まどか……」「ほむらちゃん! 謝る必要ないよ! すごかった! 次は私に任せて! ほむらちゃんの頑張りを無駄にはしないから!」
暁美ほむらの手を取って強く握った鹿目まどかは、キリっとした目付きでスバミを射抜き、一回の跳躍で舞台に上がる────が、それを七海やちよが制した。「待ちなさい。暁美さんの努力を無駄にしたくないなら、鹿目さんは副将として出番が来るまで耐えるべきよ。まだ彼女は二割も消耗していない。ここは次鋒と中堅たちに任せてちょうだい」「────!」鹿目まどかは考え直す。それに暁美ほむらも賛成した。どちらかといえば鹿目まどかを戦いに出したくないという思いが本音だが。「そうだよ、まどか。少し落ち着いて……でも、私のためにそこまでやる気を出してくれて、ありがとう……」「ほむらちゃん……あはは、確かにちょっと調子に乗ってたかも……少し恥ずかしいな……」てへへと照れる鹿目まどか。(かわいい)暁美ほむらは内心で呟く。
「百合の花が咲いているところ悪いが、わたしはランブルフィッシュを愛でる方が好きでね。花好きと魚好きでは分かり合えないかな?」「そんなことはないのです。というわけで鶴乃、行くのです」「えっ! 次はなぎさちゃんじゃなかったっけ!?」「なぎさは少し考えを改めたのです。次鋒戦は暁美ほむらで終了。次は中堅戦として頑張るのです」百江なぎさは何を考えているのか。ともあれ由比鶴乃は待ちに待った出番が来たことで鼻息を荒くする。「わかった! まっかせて! ふんふん!」由比鶴乃は舞台に上がる。そこでスバミが忠告した。「まだ地雷が残っている。丹念に潰しても良かったが……ギミックとして残しておけば面白いか。そういうわけで気をつけたまえ。不意の地雷で場外に吹き飛んでもわたしは知らないぞ?」「平気だよ! 私だってほむらちゃんが残した布石を無駄にする気はないからね!」由比鶴乃は変身。橙色の中華服に身を包み、炎燃え上がる鉄扇を振るう。戦闘開始。「先手必勝! 開幕ぶっぱが正義ってししょーも言ってた!
「ぜぇ……はぁ……まだだ……まだ三割程度も消耗していないぞ……」
「中堅の鶴乃がやられた……次は副将の鹿目さん……」七海やちよは深刻そうな顔をする。
その時、ウワサ空間に足を踏み入れる者が三名いた。
一人は緑髪緑眼のロリ体型。一人は赤紫髪赤紫眼の眼鏡美少女。一人は仮面に素顔を隠した常闇の騎士。
「西の代表者からの応援要請だ。今は神浜市の魔法少女が一丸となって戦うべき時……そういうことだろ? 七海やちよ」
「中央区の代表者・都ひなの!」
「私は呼ばれていませんが、仲間が吸収されたとあっては黙ってはいられません。人造魔法少女1号スバミとやら……お覚悟を」
「あなたは……参京区の常盤ななか!」
「我が名はエッダ。旧き仇敵を倒すのはこの私だ。ぽっと出の怪物に獲物を横取りされては我の名折れだからな。特別に助太刀に来たぞ」
「……いや、あなたは何をしているの? 十七夜……」
かくして神浜市の強者が出揃う。佐倉杏子は静観。都ひなのが舞台に上がる。
「面白い……だが今までの戦いで一つ分かったことがある。
「おいおい思いっきり舐められてんな。お前ホントにあのかずみか?」都ひなのは呆れかえる。
「ですがこれはチャンスです。一斉に切り伏せてしまいましょう」常盤ななかの眼鏡がきらりと反射する。
「袋叩きは性に合わんが……今は手段を問うている場合ではないのは確かだ」エッダはソウルジェムが欠けている。そのぶん強さもダウンしている。これは願ってもないチャンスである。
常盤ななかとエッダも舞台に上がる。戦闘態勢。「敵はオレンジの魔力だ。魔力相性は気にしなくてもいい。ただ魔力の中で随一の推進力を誇る。スピードには気をつけろよ」「さすがは中央区の古参。そして弱点が突けないということは、弱点を突かれる心配もないということ。つまりこれは自力が試される勝負となるでしょう」「ナイトメア・モスカ。発艦」エッダはモスカに搭乗。戦いが始まる。前衛の常盤ななかが先陣を切る。時雨華心流による雨の乱舞。中衛のモスカが疾駆してミサイルを射出。後衛の都ひなのは支援に徹して固有魔法《化学爆発》を駆使。────しかし勝負は一分と続かなかった。追い詰められたスバミはギアを上げてマッハ4の速度を叩き出し蹂躙劇を始める。一撃で常盤ななかの刀を折り、蹴り上げ、一撃でモスカを破壊し、エッダをつまみ出して殴り上げ、一撃で都ひなのに頭突きして、三者を場外に吹き飛ばした。
「ぐぁあ!?」「なんて……強さ……」「くっ……帰還するぞ、モスカ」駆けつけた環いろはは、都ひなのと常盤ななかに治癒魔法をかける。そして故障したモスカはバチバチと回路をショートさせながら死炎を蒸してエッダと飛行撤退した。
「おいおい、ここまで雁首揃えてコレとか、神浜市の魔法少女は母数が多いだけで精鋭ぞろいとは行かないんだねぇ……これだけやって敵の底も見えねぇとか、なにやってんだって話だよ」佐倉杏子の煽りと、心の底から呆れ果てたような溜め息。
「そこまで言うなら、そろそろ試してもいいんじゃないかしら? 佐倉さん」七海やちよはじろりと睨む。
「ふん……その言葉、後悔すんなよ?」
柱の上で観戦していた佐倉杏子は朱槍を担いで舞台に降り立つ。うんまい棒も食べ終えた。槍を構えて今までにない強敵と対峙する。風が吹く。桜の花びらが二人の間に落ちた。駆ける。真紅の稲妻、漆黒の閃光。交差するは
佐倉杏子は舞台を降りる。そこに千歳ゆまが駆け寄った。「キョーコ、負けちゃったの……?」「ん? あぁ。あのままやってたら本気出されて殺されてたかもしれねぇし、あれ以上は魔力とグリーフシードの無駄遣いだからな。あたしは無駄なことはやらない主義なのさ。ま、あとはあいつらがなんとかするだろ。仮に負けても────あたしが真の切り札を見せてあの化物を倒してやる。そんでゆまを守るから、安心しな」「……! うん!」
そしてとうとう副将戦。鹿目まどかが舞台に上がる。そこに美国織莉子と呉キリカが現れた。「鹿目まどかでは彼女に勝てません。それは鹿目まどかの契約内容から分かりきっていることです」藪から棒に。それを言いに来ただけのようだ。「どういうこと? そんなのやってみなくちゃ分からない」「ではどうぞご自由に……」戦闘開始。木の杖を弓に変形。光矢を番えて背後に魔法陣を展開。その量、大小あわせて五枚。「収束────発射!」高圧縮された魔力矢による怒濤の攻撃。目前の熱量から、一撃でも喰らえばシに匹敵すると判断したスバミは最高速度で上空に遁走。追尾性能を持った光矢を全力回避する。一見するにパワー勝負では鹿目まどかの圧勝。その才能の輝かしさに誰もが目を見張る。だが七海やちよは渋い顔をしていた。同時にスバミがその理由を言い当てる。「確かに強いが、経験が浅い。あの銃娘より浅いぞ。しかし単純なパワーだけなら、わたしより遥かに格上……掠りでもしたら撃墜される……故に、
大将戦。七海やちよが舞台に上がる。「待っていたぞ。ようやく面白い戦いができそうだ……魔法少女にしては異例とも言える七年の大ベテラン。その実力を余すところなく体験させてくれよ……」「当然。出し惜しみは無しよ────」七海やちよは槍を回転させて構える。戦闘開始。直後、舞台上から二人の姿が掻き消えた。悪魔、佐倉杏子、百江なぎさは上空を睨む。一拍遅れて他の全員も視線を追いかけ空を見上げた。そこは暴風雨の領域。横殴りの雨の如し無限の投槍。青い魔力のほかに、緑と紫と赤の魔力がきらめく。音の衝撃波が全ての槍を薙ぎ払う中、七海やちよとスバミは交差する槍の雨の中で激烈な格闘を繰り広げる。互いに痛打の入らない攻防。腕と腕が激突し、脚と脚と打擲し、槍の穂先が装甲に弾かれる。「ガハッ!!」しかしスバミは激しく吐血。既に内臓はズタボロだ。魔力の高速再生も麻痺で追いつかない。「装甲の……貫通概念……だと!?」「……」槍を硬化で固め分解でコーティング。装甲を削りながら鋭い槍で貫く。増殖で硬化分解槍を無数に増やす新戦法。だが既に《装甲貫通》魔法があるなら、分解効果は体表ではなく体内に影響を与える。ボロボロと分解されて崩れ去る内臓。ダメージは消化器官にも影響を与えた。「うっぷ……!?」スバミは何かを吐き出しそうになる。腹と喉の苦しみに悶絶する。その隙を逃さぬベテランは皆無。「
仕切り直し。両者距離を取り、七海やちよは過熱するように超振動を起こすソウルジェムを
七海やちよの半魔女化。モギリのドッペル。その姿は切符鋏。七海やちよの背後に這い登る異形の魔障は、彼女の両手をサソリのような足に換え、左足からはサソリの尻尾のような巨大なハサミが生え伸びる。魔女が被るような黒い帽子。虚ろな瞳。ハサミの先からはカンテラがぶら下がり、赫々とした魔球を灯している。「嘔吐毒……
半壊した舞台の上には七海やちよ。その上空には依然として完全体のスバミ。両者、息は絶え絶え。全力を振り絞る激闘はまだ続くのか。「────わたしはドッペルの肉から造られた」「……?」「そんな奴がドッペルを出せるだろうか? わたしは考えた。簡単なことだったよ。ドッペルとは感情の写し。たとえこの感情がウワサの物語によって造られたものでも、わたしには心がある! ならば……
人造魔法少女1号スバミ・完全体。其は究極のドッペル。その姿は細胞。脱皮と成長を繰り返す虫のような緑の細胞は、あらゆるものを吸収して変化していく。霊長の地母にして保管者でもあるこのドッペルは、惑星を一個の生命と位置付けて喰らい始める。人は星を食い潰して進化してきた。人は魔法少女を焚き火として文明を栄えさせた。であれば、このドッペルは星も魔法少女も喰らい尽くす。次世代の人間として。究極の生命体として。主を高次元へと誘うために。
「なに……この魔力反応……!?」「こんなの……超大型魔女と……何も変わらない……っ!!」七海やちよと暁美ほむらの驚愕。「終わりだ。消え失せろ」片手をかざしたスバミは一閃。魔力光弾を発射して舞台そのものを跡形もなく吹き飛ばした。「キャアアアア!」「やちよさぁ────ん!!」ウワサ空間の壁に激突した七海やちよはボロボロの体で草原に落ちる。そこに駆けつける環いろは。「ふむ……これでは試合にならんな。舞台を作り直そう」スバミは具現魔法で石畳のタイルを作成。百に登る枚数を当てはめて闘技場を修復する。「さて……挑戦者はこれで終いかな? であれば、わたしの勝利となるが……」「っ……!」一同は歯噛みする。このままではスバミは手がつけられない怪物として世界中の魔法少女を襲い始める。手始めに神浜市が全滅するだろう。「……さ、再挑戦は、ダメでしょうか……?」環いろはが問いかける。「ふむ……それは些か都合が良すぎないか? だが貴様の真の実力を見る前に場外に出してしまったことは、そちらの力不足が原因だが少し後悔している。そうだな……では、こうしよう」スバミは新たなルールを取り決めた。「再挑戦する場合、殺害を有りとする。つまり────自殺志願者は再挑戦するといい。わたしが直々に吸収してやる……」「……っ!」「そんなの……ダメよ、環さん……」「やちよさん!」「こう、なったら……私が、相討ち覚悟で……!」
七海やちよは懐に隠した死神のペルソナカードに手を忍ばせる。その時、思わぬ客人がウワサ空間に入場した。「む?」スバミはひと目で見切る。彼女は────七海やちよに並ぶ強者であると。「なっ……」佐倉杏子は目を見張った。「……!」百江なぎさは言葉もなく、懐かしの顔を目にして固まっている。「────」最初は驚いた悪魔だが、すぐに澄ました顔で成り行きを見守り、超直感で内心を探るも全く読めない。何かに阻まれているようだ。おそらくウワサだろう。巴マミはウワサに守られている。あるいは囚われている。そして鹿目まどかと暁美ほむらが驚嘆の声を上げた。「ま……マミさん!」「マミさん、その格好は……?」巴マミは後輩たちを目にすると、機械的な表情でにこやかに微笑む。そしてスバミを見上げると、そっと舞台の上に跳躍してリボンをくるくると回し華麗に舞い降りた。「人造魔法少女1号スバミ。マギウスの命令で────あなたを排除するわ」黄金純白の衣装に身を包む巴マミの宣戦布告。勝負は余韻を与えず火蓋を切った。
刹那の相重なりあう無限重複の黄金銃声。ウワサ空間を埋め尽くすほど展開された無限のマスケット銃は円環と隊列を描き、無数の射撃を披露する。それは一方的な蹂躙劇だった。スバミの肉体、究極のドッペルの肉体をことごとく撃ち抜き、鮮血をばら撒いていく。「グオオ……グォオオオオオオオオオオ────ッッッ!!?」「息つく暇も与えずに
魔属性だけでも他属性のペルソナカードは使用可能だ。ただし性能は低下する。匣兵器の開匣条件と同様の仕組みだ。魔属性すなわち大空の属性は、全てに染まり全てを包み込むエネルギーであるがゆえに。
魔の星。スタンド名は《
火の塔。スタンド名は《
水の剛毅。スタンド名は《
木の月。スタンド名は《
光の法王。スタンド名は《
闇の皇帝。スタンド名は《
無の隠者。スタンド名は《
スタンドは一人一体まで。それは精神一つに一体までと換言できる。そしてスバミの精神は現在、かずみ、スバミ、サトカ、御崎海香、牧カオル、ヒーム、究極のドッペル、と七人分の精神が宿っている。そのため七体のスタンドを同時に発現することができた。
太陽拳。閃光が空間を襲う。気円斬を放ち、巴マミの背後に瞬間移動
♪~Magia~♪
「────ッ!」その時、舞台の四隅に立つ柱が四本、突然交差するように倒れてきた。それは黄金砲弾を受けて粉々に砕け散る。その間隙を突いてスバミは転ぶように横っ飛び。黄金砲弾を回避し、それはウワサ空間の壁に激突して大穴を開けた。かくして柱の倒壊は舞台を区切り、巴マミとスバミの対決は寸断された。「誰の仕業!? っ……柱の細く弱いところを熱が溶かして曲げている……まさか……」巴マミは誰の仕業かひと目で把握した。
「……っ!?」スバミは目を疑った。目の前に立つ少年。悪魔の背中を見上げて。「ここまでだ。マミ。お前に人殺しはさせない」「……退きなさい。これは私の使命なの」「
悪魔と巴マミが睨み合う。そこで巴マミはマギウスからの念話を受けた。「────、…………そう。命拾いしたわね」「お前がな」悪魔は煽っているわけではない。念話の内容を直感したのだ。ここでマギウスはダークホースの悪魔と切り札たる巴マミを戦わせて、万が一にも巴マミを失うようなことがあってはならないと判断し、退却を命令した。「……ふん」巴マミは跳躍してウワサ空間を脱出する。「マミさん待って!」「マミさん!」「おいマミ!」「……」鹿目まどか、暁美ほむら、佐倉杏子の呼びかけに答えず、巴マミは立ち去る。それを百江なぎさは静かに見守っていた。悪魔はホバーシールドを開匣して、サトカとヒーム、御崎海香と牧カオルを舞台の外に運ぶ。「これで邪魔者は消えた。かずみ……覚悟はいいか」「っ……悪魔さんが、わたしに勝てるはずない……ぐっ!」スバミは飢えを感じる。暴食の欲望。サトカとヒームを喰わなくては。完全体になるために。究極の生命体になるために。「ぐぅううううう……!」グルグルとお腹が鳴る。空腹だ。空腹。お腹が空いた。食べたい。たべないと。「グ……グル……グル……」スバミの頭部が黒い口に覆われる。ピンク色の長い舌が地に垂れる。もはや正気を失いかけている。その前に彼女を助け出す。
「ドッペルとは感情の写しだ。先ほど究極のドッペルを目にした時────オレは直感した。お前は泣いていた。心の奥底で助けを求めていた。こんなことはしたくないと。でもそう在るように生まれたのだから、そうする以外にどうすればいいのか
左目に手をかざす。瘴気放出。呪印・第二形態に移行。「化け物だって、人間として生きていいんだ」
悪魔の頭髪が膨大に生え伸び、黒い炎となった髪と眉毛が燃え盛る。眼窩上部が隆起して強面に。まるで魔人とも形容すべき人外の姿となった悪魔は、文字通り悪魔らしい見た目として黒々とした死ぬ気の炎を全身から燃え上がらせていた。
戦闘開始。「グルルァアアア!!」飢餓感に狂ったスバミは、悪魔を無視してサトカとヒームの存在を本能的に感知。ソウルセルゲームのルールすら忘れて場外に駆け出す。「《
その大爆発の衝撃波は、余波として万年桜のウワサ空間に響き渡った。直後、一体目の分身体が二度目の助太刀魔法を行使して帰還。分身体はエネルギーが尽きて消滅。その傍らには八雲みたまが立っていた。「っ!」八雲みたまは突然の出来事に困惑する。そこで悪魔は直感した。「なんだ……ウワサ空間の外で待機していたのか」そして八雲みたまは人造魔法少女1号スバミを目にした途端、目を見張って硬直した。悪魔は他者に聞こえない声量で八雲みたまに語りかける。「お前が加担した罪だ。やりそこねた贖罪を、ここで清算しろ。もとよりそのつもりで、ここに来たんだろう」「────」八雲みたまは意を決する。ハンカチを取り出し、《調整》魔法を行使。瘴炎鎖で拘束されているスバミに近付こうとした刹那「グルグラァアアアア!!」「ぐっ……!」スバミの圧倒的なパワーに悪魔は引きずられる。危なくて八雲みたまは近付けない。「起動キーであるサトカとヒームが居なくなっても、まだ強制駆動を続けている……完全に暴走状態だわ……」「っ……!」雲の増殖効果で筋力倍加。瘴炎鎖を楔として地面に打ち込むことで足場を補強。綱引きに耐え切る。「昂ぶるモルガナイトの髪飾り!」その時、環いろはがキモチを使用した。生え伸びる桃色の髪の毛がスバミの胴体を拘束する。同時に髪の毛が悪魔の瘴炎によって焼かれていくが、おかまいなしと言いたげにスバミの拘束を援護した。「悪魔さん! これでいいんですね!?」「あぁ……ありがとう、いろは!」直後、七海やちよの投槍。最後の力を振り絞って投げた槍はスバミの腹部を貫通。穂先が地面に食い込んでスバミの位置を固定する。「悪魔! 何する気なのか知らないけど、さっさと決めなさい!」「やちよ……!」しかしスバミの全身から莫大な魔力が放出される。空腹のドッペルの力が本領を発揮してきた。瘴炎鎖や環いろはの髪はブチブチと音を立ててちぎれていき、七海やちよの硬槍も亀裂が入る。「チッ……見てられねぇぜ!」赤い影が走る。多節棍でスバミの関節を極めた佐倉杏子は、さらに結界魔法で動きを束縛した。「佐倉……!」「これはツケだぜ、悪魔!」鹿目まどかは治癒魔法で環いろはの髪の燃焼やちぎれかかる部分を癒す。暁美ほむらは舞台に上がり、悪魔のそばに駆けつけた。「あの、悪魔さん! いったい何をするつもりなんですか!?」「みたまに調整させる! だが見ての通り、今のかずみは大人しく調整を受けられる状態じゃない!」「────それなら、私の時間停止魔法で……!」「だが調整は触れる必要がある! 調整の瞬間だけは反撃を受けるぞ!」「それならこの由比鶴乃にお任せだよ!」舞台に降り立った由比鶴乃だが、具体的に何をすれば良いのかと鼻を鳴らす。「鶴乃……よし、ほむらが時間を止めてかずみに近付く! みたまが調整を開始したら反撃を受けるはずだ。それを鶴乃が対処して、とにかくみたまを守りきれ!」「了解っ!」そこに百江なぎさが駆け寄る。「それなら遮断魔力が適切なのです。なぎさの泡で包めば、ある程度の攻撃には耐え切れるのです。鶴乃はヘイトを稼げばそれで良いのです」そこで悪魔は指示を出す。「ひなの! 硬化魔力を四人に掛けてくれ!」「お────おう! 任せろ!」都ひなのから緑色の魔力がきらめき、八雲みたま・暁美ほむら・由比鶴乃・百江なぎさに硬化性質を付与する。「ななか!」「言われずとも、一瞬だけでも大きく動きを止めれば良いのでしょう? ならば! 時雨華心流 攻式・八之型────《
刹那、暁美ほむらは固有魔法《時間停止》を行使した。暁美ほむらの体に触れている限り、八雲みたま・由比鶴乃・百江なぎさは止まった時間の中を移動できる。「私から手を離さないでください! すると時間が止まってしまうので!」「えっ! それじゃあ片手でドッペルの相手をしなくちゃいけないの!?」「ほむらと鶴乃を紐で結べば良いのです。そんなものがあればの話ですが」百江なぎさは四人を包み込む遮断泡を生成して四人の体をコーティング。「あと……彼女に触れたら、自動的にいろはちゃんと悪魔さん……あと佐倉さんも止まった時間の中に入ってきます」「つまり、どのみち綱引きは避けられないってことね」「でも危険を感じたらすぐに離れてください! そうしたらすぐに動きが止まるので!」敵が反撃したら距離さえ取れば時間停止で回避の余裕が生まれる。そのための暁美ほむら。由比鶴乃は一瞬でも反撃を押し返すため魔力を蓄積。八雲みたまはスバミに触れる。瞬間、色のない世界の中でスバミが動き出す。そしてスバミと鎖や髪、槍で接続している悪魔や環いろは、佐倉杏子も動き出した。『────ッ!』「グルルァアアアア!!」暴れだすスバミ。背中の翼は瘴炎鎖が縛っているが、隙間から漏れ出てきた空腹のドッペルが地団駄を踏む。「炎舞!」由比鶴乃の鉄扇が炎を逆巻いて迎撃。「モベホーン!」百江なぎさも加勢する。ゼロ距離での攻防。その中で八雲みたまは、スバミの中にある起動キーを破壊するため《調整》を施した。「これで────あなたは元に戻る!」「っ────! 時間停止、限界です!」
白き閃光が空間を包む。八雲みたまは、人造魔法少女1号に搭載された起動キーを調整により破壊した。起動キーとは、究極の生命体に進化するため必要な栄養素──サトカとヒーム──を吸収するための強制駆動システムである。この起動キーが発動した時、人造魔法少女1号は理性が吹き飛び、ただひたすらサトカとヒームを取り込んで、マギウスのために働く使い魔となるはずだった。
しかし数奇な運命──黒いトランク・悪魔との出会い──により、人造魔法少女1号スバミは、計画段階とは異なる方向に進化していった。そして今、彼女の自由を奪う起動キーを破壊した。これによりスバミは、もはやマギウスに囚われない、ただの普通の女の子として、これからを生きることができる。
(ごめんなさい────許してほしいなんて思わない。思えない。この起動キーを施したのは、ほかならぬこの私……言い訳のしようもない……私の罪)
白き閃光が鎮まる。呆然と佇む魔法少女たち。スバミは意識を失って地に伏せる。それを目にした悪魔は直感。もう彼女の中に強制駆動による暴走の気配が一ミリもない。それに安堵したのか、魔法行使の濫用で生命力が底をついたのか、自動的に呪印形態が解けて、悪魔は背中から倒れるように気絶した。
一斉に駆け寄る魔法少女たち。鹿目まどかは治癒魔法をスバミに掛けて、環いろはは悪魔の体に治癒魔法を掛けようとする。が、そんな環いろはを百江なぎさが制した。環いろはは「いくら寿命のためでも」と、もっとほかに理由があるのではないかと説明を求めるが、百江なぎさは「クマ吉の本意ではない」としか言わずけむに巻く。傷は痛いだろうが死ぬほどではない。自然治癒に任せた方が良いと。黒江も環いろはの言い分には賛成で、自然治癒を促進させる薬を調合しようと提案するが、それもまた百江なぎさに止められる。
やがて御崎海香と牧カオルが目を覚ます。万年桜の大木の陰で眠っていたオリジナルの昴かずみは、呑気に大きなあくびをしてようやく目を覚ました。ここまでドンパチやってよく眠れるなと佐倉杏子はツッコミを入れつつ、グリーフシードがたんまり入った箱を持ち出して千歳ゆまと退散。入れ違いに御崎海香と牧カオルが昴かずみの体に飛びつくが、昴かずみはなぜ自分がこんなところにいるのか皆目見当がつかず困惑していた。
かくして激闘のソウルセルゲームは終了し、一行は一路みかづき荘に帰宅したのであった。
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「秩序大爆衝突」って何?