アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
昼前のみかづき荘。二階・悪魔の部屋にて。
寝台に意識不明の悪魔を寝かせたスバミは、悪魔がここまで満身創痍になったのは自分の責任だと言って必死に看病する。皆が部屋を出たあと、ふと悪魔の体に触れていると魔力を吸われていることに気付いた。ちょっと気持ちいい。悪魔の体に寄り添うように寝そべり、どうにもくすぐったい心地で魔力を吸われていく。そうしているうちに、いつの間にか眠ってしまった。
†
悪魔は目を覚ます。見慣れた天井。夕暮れの窓辺。傍らから寝息。床に座って腕を枕に寝そべっている。
「……かずみ……」
「────、…………っ! 悪魔さん、起きた!?」
「あぁ……大丈夫か?」
「う、うん……」
スバミは申し訳なさそうに頷く。
「オレは……どのくらい寝ていた?」
「えっと……六時間くらい?」
それからスバミは、悪魔が寝ている間に起きた出来事を報告する。
オリジナルの昴かずみはマギウスに拉致監禁されていたが、ずっと眠らされていたのか、その間の記憶はないと言う。そして昴かずみを探しに来た御崎海香と牧カオルは、悪魔が起き次第、お礼を言ってあすなろ市に帰るという。
「……お前は、どうするんだ?」
「……わたしは……」
スバミはしばらく俯くと、悪魔の顔を見上げて布団に寝そべる。
「ほら、なんかヤバかったわたしは、優勝者に従うって言ってたような気がするし……だから────悪魔さんの近くにいたら、ダメかな……?」
「……!」
夕暮れのせいで紅潮しているように見えるのは気のせいだろうか。悪魔はそっぽを向いて目を閉じる。
「それはサトカやヒーム、ほかにも吸収されていた魔法少女に影響されて吐いた言葉だろう」
「そうかもだけど……悪魔さんは、やっぱり嫌かな……だってわたし、みんなにすごく迷惑かけちゃった……」
「かずみは起動キーで操られていたんだ。それはもうみんな分かってる。大変だったなと、笑って許してくれるさ」
「…………」
悪魔は直感する。まだ大切な返答をしていないと。
「……オレは別に嫌じゃない。ただお前を助けたかっただけだ」
「────っ! 悪魔さん……!」
スバミは喜びの表現として抱きつきにかかる。それを片手で制する悪魔だが、魔法少女らしい馬鹿力により無理やり抱擁される。
「離れろ」
「あのさ、じゃあさ! わたしに名前をつけてよ!」
「────名前?」
「うん! 人造魔法少女1号スバミって、なんかダサいと思うんだよね……かずみってのもいいけど、オリジナルと混同するし……できれば苗字も欲しいな!」
「……………………」
悪魔は考える。彼女にはどういう名前が似合うだろうかと。
「話は聞かせてもらったわ!」
突然扉が開かれる。入室してきたのは御崎海香、そして牧カオルと昴かずみ。
「私は“オリー”がいいと思うわ! プレイアデス星団を追いかけるオリオン座に由来してね」
「いや海香。その前に礼を言わないと……」
「チャオ! 昴かずみだよ! なんかよく分かんないけど、あなたにも助けられたって聞いて、帰る前にお礼を言いに来ました!」
悪魔は目を見張る。分かってはいたことだが、本当にスバミと昴かずみは瓜二つだと。服装が違うだけで顔も髪型も波動もそっくりだ。オリジナルとクローンなのだから当然ではあるが、やはり目の前で並ぶと外見的に双子に見える。
「……昴かずみを助けたのはスバミ自身だ。お礼を言うならそっちにしてくれ。あと名前の件だが……かずみ、どう思う?」
「うーん……やっぱり“かずみ”は残したいかなぁ~」
そこで悪魔は今までの思い出を振り返る。
「昨日、一日中神浜市を散策したが……いつもかずみは食ってばっかだったな」
「そこはオリジナルと一緒だな!」
「かずみらしいわ」
『えへへ……』
「料理教室では毒を食らわば皿まで……カラオケボックスでも歌より団子。果てには魔法少女まで食べちまった」
悪魔のブラックジョーク。スバミは頭を掻いて申し訳なさそうに苦笑いするほかない。
「ということで、そうだな────こういうのはどうだ?」
悪魔は名案閃いたりと口に出す。
「────
「────っ!」
スバミ────もとい、鼓星かずみの瞳がキラキラと輝く。
「鼓星とはオリオン座の和名ですね」御崎海香の豆知識。
「え、そうなの!? 私“舌鼓を打つ”の“つづみ”かと思ったよぉ~!」昴かずみの感想。それには鼓星かずみも同感と言いたげに何度も頷く。
「もしかして、昴に合わせて星の名前にしてくれたのか?」鋭い牧カオル。
「まぁそんなところだな。舌鼓を打つってのも発想の根底にはあったから、あながち間違いでもない。海香がオリオン座と口にしたから思い付いたんだ。だからこれはみんなで作れた名前だな」
「……っ!」
突然、鼓星かずみは悪魔に抱きつく。
「おい……!」
「ありがとう! 悪魔さん! わたし……人間でも魔法少女でもない変な存在だけど……それでも、ここにいていいんだよね?」
「……あぁ。みかづき荘に住んでもいいって、やちよが言ってたか?」
「うん! 食費は自分持ちだけどね! だからこれからバイト頑張るよ!」
鼓星かずみの心は活気に満ちている。これからは美味しいものをいっぱい食べて、とにかく元気に生きていくんだと。そう悪魔は直感した。そんな鼓星かずみを見て、昴かずみ・御崎海香・牧カオルは、どこか安堵したように暖かく見守る。
「ねぇ、かずみ。困った時は、私たちの豪邸に来てもいいからね!」昴かずみはガッツポーズを取る。
「……! うん! 今度絶対、遊びに行くよ!」
「待ってるよ」
「遠慮せず来いよな!」
かくして、みかづき荘に一人の仲間が増えた。名を鼓星かずみ。昴かずみのドッペルから培養されたクローン。魔法少女と同等の力を持つが、ソウルジェムは魂が具現化した代物ではない。つまり鼓星かずみは、昴かずみのように、再びインキュベーターと契約することができる。
悪魔たちは一階に下りる。そこでみかづき荘の面々が揃い、あすなろ市に帰る昴かずみ一行を見送った。
「ばいばい! またねー!」
門扉の先まで行って手を振った鼓星かずみは「ただいまー!」と笑顔でみかづき荘に戻ってくる。
「ねぇ悪魔! みかづき荘のみんな!」
『?』
「────チャオ! わたしは鼓星かずみ! これからもよろしくねっ!」
第2.5章 完