アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
クロスオーバー先:嘘喰い
5月2日【相変わらず子供に好かれるねぇ、アンタ】佐倉杏子
鼓星かずみが みかづき荘の仲間入りを果たして、ちょうど一週間が経過した。
早朝。朝食後のリビング。起床した悪魔が階段を下りてくる。
「おはよう」
「クマ吉ー!」
悪魔の挨拶に真っ先に応えたのは百江なぎさ。ソファに座って背もたれにうつ伏せており、小さな手で悪魔を手招きする。
ソファにはみかづき荘の面々が座っており揃ってテレビを見ているが、その中には客人・佐倉杏子と千歳ゆまの姿もあった。
「佐倉、ゆま」
「よぉ寝坊助。朝飯たかりに来たぜ」
「ご飯とお味噌汁とゆで卵とごまサラダとタコさんウインナーとベーコンハム美味しかった! 悪魔も食べればよかったのに!」
佐倉杏子は膝の上に千歳ゆまを乗せて、ぬいぐるみを抱くようにあぐらをかいている。緑髪の頭頂にアゴを置いて、のんびりと寛いでいた。
暁美ほむらは爆睡するランボを膝枕しながら静かにテレビを視聴。
環いろはは姿勢よく座っているが、膝の上に環ういを乗せて抱きしめている。さらに環ういはリリスを抱きしめていた。赤く丸い眼が無機質に光を反射してテレビを注視している。
黒江は背もたれに身を預けて呆としており、膝の上にフゥ太を乗せていた。フゥ太はテレビが目新しいのか前のめりに見ているが、そうすると黒江の視線が遮られてテレビが見えなくなるため、定期的にフゥ太の体を抱き寄せている。密着する黒江の胸元とフゥ太の背中。実家に弟が居るためか、黒江は特に気にしておらず、傍らに座る凪とその膝の上に座るイーピンと共にひたすらボーッとテレビを眺めていた。
「おはよう、ボス」「サオシャンハオ!」「ツナ兄おはよう!」凪とイーピン、フゥ太の挨拶。
『おはようございます、悪魔さん』環姉妹、暁美ほむら、黒江の声がかぶる。
「さぁ早くクマ吉も座るのです! なぎさは待ち遠しかったのですよ!」
「……やちよにやらせてもらえ」
百江なぎさの狙いを直感した悪魔は断固拒否する。
「やちよは部屋にこもって神浜うわさファイルを編集しているのです。さぁ分かったら早く!」
「……はぁ……」
もう番組は終わりに差し掛かっている。ほんの数分なら良いかと悪魔はソファの端っこに座る。すると百江なぎさは悪魔の膝の上に飛び乗って座り、テレビを見始めた。内心ご満悦の様子。やはり大人ぶっていても、まだまだ甘えたがりの子供である。
番組の内容は、ニュース番組の1コーナーに設けられたインタビュー。今日は神浜市でモデル業をやっている人に取材したらしく、ふと七海やちよの顔がテレビに映る。
「あ、来ました!」環いろはが叫ぶ。
『今日は取材に応じてくれてありがとうございます!』
『いえ。こちらこそ目をかけてくれて感謝しています』
『さっそくですが、七海やちよさんは小学生の頃からモデル業をやっており、今は大学生とお聞きしました。二足の草鞋を履くのは大変ではございませんでしたか?』
『大変だと思わなかった時はありません。でも学業もモデルもどちらも大好きでしたから、それを兼任することに苦労は感じても後悔したことはありません』
『では、近頃からドラマの出演を依頼されているようですが?』
『最近は多忙の身で全て断っています。しばらくして落ち着けば受けるつもりですが、仕事は待ってはくれませんからね』
『では女優業も視野に入れていると?』
『理想では、そういう将来もありかもしれませんね。ただし女優業を狙っているモデルも数多くいます。多忙という理由で断っている私では、彼女たちに簡単に追い抜かされてしまうのも時間の問題でしょうね』
『となると、本腰を入れる気はない……?』
『そう捉えられるとたくさんの人に誤解されて怒られてしまうでしょうけど、気持ちの上では負けるつもりは毛頭ない、という意味で言わせてもらいました』
『おぉ。なんだか強かでミステリアスな感じがしますね。きちんと現状の劣勢を知った上で、先を行くライバルたちと戦う……今のはそういう宣言でよろしいでしょうか?』
『はい』
『ありがとうございます。────あの、自分も七海やちよさんの仕事、楽しみにしておりますので。わたくしごとですが、女優業、応援させてもらいます!』
『! ……ありがとうございます。嬉しいです』
『ということで本日は、神浜市の美人モデル・最近巷でうわさの七海やちよさんにお話をうかがわせていただきましたー!』
取材アナウンサーと七海やちよは美麗の笑みを浮かべる。そこでシーンは切り替わり、番組は別のコーナーに移った。
「やちよさん……前も仕事場を見せてもらったけど、テレビにも出ちゃうなんて……なんだか一気に遠くなっちゃったような気がするよ……」
「それでもやちよさんはやちよさんだよ、お姉ちゃん」
「モキュー!」
「しっかし七海やちよもよく言うねー。これ、あちこちに喧嘩売りやがったってことだろ? 実際は魔法少女と学生とモデル、三足のわらじなのにさ。二兎を追う者は一兎をも得ずって慣用句、知らないのかね?」
「キョーコ、ことわざ名人!」
「でもやちよさんは、小学生の時から魔法少女だったって言ってました。昔から三足のわらじでやって来て、まだ余裕もありそうだし……もしかしたら本当にモデルさんになったりして?」
「スピー、スピー……やちよ~……また別の映画に出てるぅ~……お姫様の次は、悪い氷の女王様ぁ~……すぴぃ~」
「やちよさん、堂々としてて立派だったね。やっぱり芸能人なんだ」
「やち姉お化粧してた!」
「カッコイイ! カワイイ!」
そこで庭から鼓星かずみが戻ってくる。全員分の洗濯物を干していたようだ。万々歳でバイトを始めて、家主の七海やちよに家賃と食費を支払っている。だがあまりにも多く食べるため支払いが間に合わず、こうして家事を手伝うことでツケを払っている。
「あ! 悪魔おはよう!」
「かずみ。なんだか家事が板についてきたな?」
「うん! いい花嫁修業になるよ! でもわたしは花嫁より団子だけどね!」
「うまく言ったつもりなのです?」
隣家の朝食の香りが漂い、鼓星かずみのアホ毛がくるくると反応する。
「これは……モーモーパークのスライスチーズを乗せてこんがりと焼いた水名区のスーパーにある特製食パン四斤の匂い!!」
「パンの数まで当てたのです。なんだか恐ろしいのです」
「でもパンの耳の匂いが三斤分しかない……ということは、お子さま用にパンの耳を取ってから焼いたんだね!」
「なぜお隣にお子様がいると分かるのです!? もはや透視能力の域なのです!」
鼓星かずみはソファに向かい、悪魔の隣にちょこんと座る。しれっと悪魔の腕を抱いて密着。毎日の平穏な日常に幸せを感じて嬉しそうに微笑んでいる。
「そうだ、ところでかずみ。持っているペルソナカードを分配する話なんだが……」
「あ、そっか! 今すぐ出すよ。わたしが暴走してマギウスの研究所を襲撃した時に、研究所を守っていた黒羽根を倒して奪ったペルソナカードのことだよね?」
「あの、かずみさん。マギウスの本拠地は知らないんですか?」環いろはの質問。
「ごめん。知らないんだ……たしかに魔法少女を吸収した時、色々と記憶が知識として入ってきたけど、サトカもヒームも本拠地までは知らなかった。わたしが吸収することを見越して、大切な情報は除外していたんだろうね……ちなみに研究所は大東区の山奥にあったけど、いつでも廃棄できるような施設だったし、結構わたしも調べたけど手がかりはゼロだったから、今行っても収穫はないと思う……」
「そうですか……でも、かずみさんが謝る必要はありません。こっちこそ気にさせてごめんなさい。もうみんなソウルセルゲームのことは気にしていないので、いつも通り仲良く行きましょう!」
「いろはちゃん……」
人造魔法少女1号スバミとして暴力の限りを尽くしたことを、鼓星かずみは未だ気にしているようだ。
それを察した環いろははフォローする。それはほかのみんなも同じことだった。
「みんな、ありがとう。……それじゃあ、これがペルソナカードね!」
魔属性の星。火属性の塔。水属性の剛毅。木属性の月。光属性の法王。闇属性の皇帝。無属性の隠者。
「配分はあらかじめオレとやちよで決めた。魔の星はかずみが所有しろ。オレは水の剛毅と無の隠者を貰う。やちよは火の塔と木の月。そして────闇の皇帝はなぎさが持て。あと、ここにはいないが、まどかに光の法王を与える。ほむら、渡してくれ」
「あ、はい!」
「なぎさがペルソナカードを持ってもいいのですか?」
「やちよからのお許しだ。あいつも戦力として期待しているってことだろう。ただ悪用したら即取り上げると言っていた」
「了解なのです」
その時、みかづき荘に元気な来客が飛び込んできた。
「おっはよー! 由比鶴乃だよっ!」
「鶴乃。受け取れ」
悪魔は手持ちのペルソナカードを投げ飛ばす。「うわっとぉ!?」それを難なくキャッチした由比鶴乃の目には、火属性の死刑囚の絵柄が映る。
「やちよから伝言だ。《護身用に持っていなさい》だとさ。あと《くれぐれも使い過ぎないように》と」
「え、ほんと!? やったー! ししょーありがとー! 悪魔もありがとー!」
続けてチャイムが鳴る。そして由比鶴乃の騒音を聴いて入ってきたのは鹿目まどかだった。
「おじゃまします」
「まどか」
魔力パターンで来ていることを察知していた暁美ほむらは応接に出て、事情を説明しペルソナカードを手渡す。
「え……私が持っていてもいいの?」
「あくまで護身用にね。でも命の危険が迫った時だけだよ。使えば一気にソウルジェムが穢れちゃうから……」
「……うん。分かった。魔女化しちゃうもんね。気をつけるよ」
そこで悪魔が声を上げる。
「加えて、やちよから伝言だ。わざわざ言う必要もないだろうが、あえて釘を刺す。ペルソナカードを使っていいのは神浜市限定だ。神浜市以外で使えば即魔女化する危険性がある。分かったな?」
一同は頷く。
ふと千歳ゆまは見上げると、佐倉杏子の興味なさそうな顔が目に入った。
「キョーコ、カード欲しくない?」
「ん? あぁまぁ……スタンドってのは未だによく分かんねぇが、強い代わりに穢れの急速増加っていう代償が大きいからねぇ……仮にスタンド使いと敵対することになっても、あたしは実力でなんとかするさ」
「……オレの女教皇を分けるか?」
「悪魔。心配してくれてるのかい? 要らない世話だよ。借りは作りたくないんでね。欲しくなったら適当に分捕るさ」
ふと悪魔の前に凪が立つ。手元には二つの匣兵器。
「あの……ボス……これ……雨と、雲の人から……」
「むくと恭弥か。魔法生物を保護したんだな。だが預けて来るってことは……」
「戦闘用に使える。この子たちも了承済み。三兄弟で、大和・武蔵・小次郎。雨の人はこの前、小次郎を取りに来た。ボスには武蔵」
「武蔵か。よろしくな」
悪魔は声をかける。雨燕の匣兵器がカクカクと震える。
「そして……黒江には、大和」
「えっ……私? もうイチゾーがいるけど……いいの?」
「うん。ちゃんとお世話できるならそれでいいって、雨と雲の人が言ってた」
「……そっか。分かった。きちんと面倒見るよ。ありがとう、凪さん」
悪魔は雨の炎をリングに灯す。黒江も真似て雨の炎を灯し、同時開匣。開かれた匣兵器から雨燕が発射され、みかづき荘の部屋の中を自由自在にぶつかることなく器用に飛び回る。
「わぁ……!」
「青い炎をまとってキレイ……!」
鹿目まどかと環いろはは、雨燕の美しさを見て感動する。
すると雨燕の武蔵と大和は二人の肩に留まった。
「……ねぇ鶴乃ちゃん。今度のまかない飯は《燕の巣》がいいな?」
「さすがにこの場では自重するのです かずみ。燕の巣を見てヨダレを垂らすのはいいのですが、ツバメを見てヨダレを垂らすな、なのです」
新たな仲間を迎え入れた悪魔は、現在の装備を確認する。
《財布》《スマホ》《チェーンベルト》《保存用匣兵器:食品・飲料水・衣類・日用品etc》
《笹川京子のソウルジェム》《水泳の魔女(青音すず)のグリーフシード》《三浦ハルのソウルジェムのカケラ》《ハーフソウルリング×6》《ランチアのリング》《空系リング》《雪系リング》《ラピッドクリスタル》《ソニッククリスタル》
《SISTEMA C.A.I.ver.D》────《天空霧のバトルグローブver.R.S.C》《天空霧のカモフラパーカー》《天空嵐雨のマジカルヘッドフォン》《晴のコンタクトスコープ付き嵐のコンタクトディスプレイ》《雨のキャノンレーダー付き嵐雷空雨のホバーシールド》《天空霧のカモフラ黒スーツ》《嵐の髑髏型死炎放射器》《
《
《
ちなみにリングの装着箇所は────左手の小指から親指、右手の親指から小指に掛けて────
左手「‐‐雨霧嵐」 右手「晴雲空雷雪」となっている。
また、首元にはランチアの空系リングをブレスレットとして掛けている。そのため死ぬ気の炎を灯すと自動的に点火するが、特に戦闘では使用せず、思い出の品として大切に身に付けている。
悪魔の肩に雨燕が留まる。体から青い魔力の輝きを鎮めて、ただの燕に見せかける。
そこで七海やちよが居間に降りてきて、一同は召集された。
「今日は参京区に足を運んでウワサを調査するわ。当然発見次第破壊。やることは口寄せ神社の時と一緒よ」
「やちよ。オレは工匠区に用がある。そっちに寄ってからでもいいか?」
「えぇ……でも何しに行くの?」
「ちょっとな。さる刀匠に依頼がある」
環姉妹の会話。
「今度こそマギウスの本拠地が分かるといいね、うい」
「うん! 万年桜さんはマギウスの本拠地を知らないから……やっぱり色々な所を探索するしかないんだよね」
「│本拠地の居場所は不明だけど、本拠地は北養区に存在する│」
『っ!?』
悪魔と百江なぎさ以外が目を見張って驚く。
「空間位相が異なるという意味だ。マミを探している時、助太刀魔法を何度か使用したが、ウワサらしき概念障壁に全て妨害された。だからういの言う通り、ほかのウワサを辿って本拠地を見つけ出すしかない。現実空間には存在しないんだからな。魔法の痕跡が北養区の山中に香るだけで、実際に足を運んでも意味はない。本拠地のゲートを見つけるしか侵入方法はないんだから」
今までの探索では、新西区・水名区のウワサを潰して回ったが、本拠地のゲートらしきウワサは無かった。悪魔の証言によれば北養区にも無いという。ならば参京区か、栄区か、それとも中央区か。はたまた大東区か、工匠区か。あるいは南凪区か。時間が掛かるが一つ一つ確実に丹念に探してウワサを潰していき、ゲートをあぶりだすしかない。
悪魔の話に全員が頷くと、各々は自らの行動原理を再認識する。
環いろはと環ういは、里見灯花と柊ねむを見つけ出すため。
万年桜は、大切な四人の少女を守り抜くため。
リリスは、環いろはや環うい、そして優しいみんなのために出来ることを頑張るため。
七海やちよは、マギウスの悪逆非道な行いを止めるため。それは環姉妹や他のメンバーも同様である。
暁美ほむらは、今度こそ鹿目まどかを助けるため、いつもと全く異なる時間軸で多くの仲間と共にワルプルギスの夜に対する勝機を見つけ出すため。
鹿目まどかは、より多くの人々や魔法少女を助けるため。
百江なぎさは、巴マミを連れ戻すため。
由比鶴乃は、強いて言えば七海やちよと再び行動を共にするため。
ランボは、ただ遊びに来ただけ。
黒江は、誰かの役に立つため。悪魔や環いろはのように、勇気を持って色々なことに臆せず立ち向かうため。
フゥ太は、ただ身を守るため。
イーピンは、殺し屋として修行を積むため……だったが、最近はこの日常が楽しくて仕方がない。
ジュリー凪は、六道骸と悪魔のために出来ることを尽力する。
鼓星かずみは、命の恩人たる悪魔のためなら出来ることは全てやるつもりだ。
その一方で。
佐倉杏子は、ただ自分のために生きている。千歳ゆまを保護していることも、退屈な毎日に刺激が欲しかったからであり、ちょっと生き方を教えてやろうと思っただけで、結局は自分のためであることに変わりはないとうそぶいている。
千歳ゆまは、命の恩人である佐倉杏子のためなら魔法少女にだってなってやるつもりだ。たとえいつか魔女になろうとも。
「それでは出発よ」
七海やちよは外に通じる扉に向かう。
そこで悪魔は思案する。先週からずっと考えていることだ。
それはアリナ・グレイのこと。彼女は明らかにマギウス関係者であり、鼓星かずみを捕まえたと言っていた。つまり黒羽根か白羽根、あるいは実力的に幹部以上の存在かもしれない。しかし悪魔の目的の為にも、ここで“アリナ・グレイを売る”ような真似は効率が良くない。しかし野放しにしていい相手ではないことも事実だ。
(もしアリナのことを話したら、七海やちよは彼女を問い詰めに行くだろう。そうなれば二人が出会った瞬間、命懸けの衝突は避けられない。ハッキリ言って殺し合いだ。どちらも強者。戦えば片方は必ず死ぬ。だから……
アリナ・グレイについて報告するのは後回しにする。それにウワサを潰して回る以上、いずれアリナ・グレイが悪魔たちの前に敵として現れる可能性は非常に高い。その時に相手取ればいいだけの話だ。
(しかしアリナは……ここでオレが何も言わなかったことを、特に恩に感じることは絶対にないだろう。彼女はそういう性格では全然ないし、マギウスに対してもオレに対しても、ひとつのアート作品としてしか見ていない。善悪が基準ではなく、あくまでアートが物事の基準なんだ)
その上でアリナ・グレイを庇うような真似……否、保身のために重要な情報を隠すような裏切り行為を働くのは、なぜか。
(ひとえに信頼関係の構築。アートにしか興味がないとは言え、人間である以上、ある程度の駆け引きは成り立つ。たとえ狂人であろうとも。彼女はより面白い方に着く。であれば事を急ぐ必要はない。ここは自然の流れに身を任せた方が最善と見た)
まだ戦争の時ではない。熟慮の末、悪魔は判断を下す。
(それに……マギウス関係者といえば、八雲みたまもそうだ。ソウルセルゲームの後、オレは単に“八雲みたまはマギウスが設定した機動キーを調整魔法で破壊した”としか説明しなかったが……そもそも“その機動キーを設定したのは八雲みたまである”ことは説明しなかった)
ではなぜ本当のことを明かさなかったのか。理由は単純明快。
悪しき将来が増える代わり、良き将来が増えるとも見越しての泳がしである。
(調整屋は中立を信条とする。それを破ったと分かれば、周囲の魔法少女からの信用はガタ落ちだ。
重ね重ねの熟慮の末、その判断を下した悪魔は無言でみかづき荘を後にし、一行と離れてバス停に向かう。
「わっ!」「ツナ兄!」「あくま!」
その時、いきなり背後から鼓星かずみとフゥ太に抱きつかれ、頭の上にランボが飛び乗ってきた。
「なんだお前ら」
「わたしは悪魔と一緒に行くことにしたよ!」
「僕はお散歩!」
「ランボさんひまー。かけっこしよー?」
「……遊びに行くんじゃないんだぞ?」
なぜ自分は子供に好かれるのだろうかと溜息をついた悪魔は、今日もお守役となる。鼓星かずみは子供ではないが、実年齢的にはゼロ歳だ。実質子供……否、赤子である。
不意に動物型匣兵器が震える。開匣。
「ガフ!」「キュー!」「ピィー!」
ナッツ・チーズ・武蔵が飛び出る。ナッツは猫っぽい動物にしか見えないため、一般人に見られてもおそらく大丈夫だろう。魔法生物になったことで普通の子ライオンとは見違えて見た目が変化しているからだ。
悪魔の足元から走り出すナッツ。チーズは頭の上に乗っかって、針を痛がったランボが肩に落ちる。それを悪魔は受け止める。武蔵はもう片方の肩に留まった。ふと右腕を取られてかずみが抱きつく。左手もフゥ太に取られてギュッと握られる。
「……ハァ。オレは遊園地の着ぐるみか?」
ベタベタと周りの体温がうっとうしい。だが悪魔は拒絶しない。そうすれば周りが悲しむと直感しているからだ。無理に引き剥がせばフゥ太は嘘泣きを始め、鼓星かずみはもっと強引に接近してくる。
「ハッ。相変わらず子供に好かれるねぇ、アンタ」
背後から佐倉杏子の声。千歳ゆまの気配もする。
「なんだ。また増えるのか? 大所帯は勘弁したいんだが」
「参京区に向かった方も中々の大所帯だよ。まぁ心配すんなって。行き先が同じなだけさ。あたしはウワサなんてどうでもいいし」
「工匠区に用事でもあるのか?」
「神浜市の東側は寂れててね。あそこの治安の悪さが性に合っているだけさ」
「そうか」
悪魔は直感しても何も言わない。今の目的を犠牲にしてまで佐倉杏子を止めようとは思わない。
そんな心の声が聴こえてくる。
たとえ悪人でも殺していい理由にはならない。そう思うだけで行動に移さないことを人は偽善と言う。言葉だけの善良さは無意味で無価値だ。無力にすら劣る愚かさと言えよう。そのように悪魔は思う。
(アリナと同様……佐倉と事を構えれば
それを人は覚悟と言う。全てを救うことは不可能だ。それでも全てを救いたいと願うなら。今すぐ幻想は捨て、現実を見て、助ける者と助けない者を
そうやって悪魔は少しずつ、少しずつ成長して、助ける範囲を増やしてきた。今もまだ足りない。見殺しにするしかない命が数多くある。せめて目に見える範囲すべてを助けられるような男になりたい。最初に並盛町を出た時に強く思ったことだ。
「時間が惜しい。飛ぶぞ」
「うわぁ!?」
フゥ太の体を支えた悪魔は跳躍。鼓星かずみやナッツ、佐倉杏子や千歳ゆまと共に、傍らを通過したバスの上に飛び乗る。そのまま一行はバスに揺られて、悪魔以外は車道散策を楽しんでいた。
(いつか佐倉が、腐らず前を向いて魔法少女の人生を歩めるように……そのためにも、オレはもっと────)
悪魔は今日も矛盾を抱えて生きていく。いつかその矛盾を、全てをすくい取る祈りの手で燃やし尽くすために。
悪魔は今日も眉間にシワを寄せていく。それは十四歳の少年がしていい顔ではないと、誰も彼も気付かなかった。
†