アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
炎の少年と使い魔の猛烈なる激突。透き通るような純炎は花火のように炸裂するが、使い魔による竜巻のごとし突撃は手ごわく、打ち返される。
そうして環いろはの助太刀に現れた少年とキュゥべえは、竜巻とぶつかった衝撃のあまり後方に吹き飛んだ。かたや逆噴射で姿勢を安定させた少年は「くっ……!」と苦悶しつつ速攻で攻撃を再開。かたや宙を舞ったキュゥべえは「キュ!?」と鳴き、環いろはの伸ばされた両手の上に落っこちて無事に抱き留められた。対する使い魔も衝撃を受けて群れはバラバラとなり竜巻は四散したが、すぐに結界内を飛び回って統制を取り戻し反撃を開始する。
「うおおおおおおおおおっ!!」
『□▽★※◎◆♯ポッポー!!!!』
それは熾烈な空中戦として環いろはの目に映った。自由自在に空中を高速移動する炎の少年と使い魔の群れが激突と交差を幾度となく繰り返す。その爆炎と火花散る大空をポカンと眺めていると、膝の上でもぞもぞとキュゥべえが起き上がった。
「やれやれ……危うく落下するかと思ったよ。受け止めてくれてありがとう、環いろは」
「キュゥべえ……」
「うん? どうしたんだい。そんなに呆けて」
「えっと……だって……男の子が……戦って……?」
魔法少女の世界に突如として現れた
「あぁ。彼が珍しいんだね」
「キュゥべえは知ってるの?」
「もちろん。彼は悪魔。魔法少女ではない、ただの少年さ」
「えっ……悪魔って、あの悪魔のこと……!?」
「あの悪魔って、どの悪魔のことだい? いま言ったように、悪魔という名前はただの自称だよ。彼は君たち魔法少女が守るべき一般人のひとりだ。まぁ、彼はその立場を逆にしたがっているようだけどね」
「……逆にって……?」
「それより環いろは。彼にだけ戦わせてもいいのかい?」
「────! そ、そうだ……私も加勢しなきゃ……!」
環いろはは立ち上がり、その膝に乗っていたキュゥべえは飛び降りる。それを見て取った悪魔は上空から叱るように叫んだ。
「お前は来るな! そのキュゥべえを守っていろ!」
「えっ……!? いや、でも、そういうわけには……!」
「こいつらは思ったより硬い! お前の攻撃では一撃で倒すのは不可能だ! けどオレの撃ち漏らしなら一撃で片付けられるはず! だからお前には
「は────はいっ!?」
悪魔の気迫に押された環いろはは素直に言うことを聞く。悪魔が一撃を加えてなお生き残っている使い魔を集中的に攻撃。すると悪魔の言う通り、面白いように使い魔が撃ち落とされていく。そして群れの三割を削って余裕が出来た頃、悪魔は地上の魔法少女を見下ろして焦ったように問い掛けた。
「おい! ソウルジェムの穢れ具合は大丈夫か!?」
「えっ……あ、はい! まだ大丈夫ですっ!」
「“まだ”じゃなくて、具体的な数量を答えろ! パーセントでも割合でも構わない!」
「えっ!? え、えっと……五割くらい……? です……!」
それを聞いた瞬間、悪魔は懐からグリーフシードを取り出して投げ渡す。
「
「……!」
それは厳しく窘めるようでいて、とても温かな血の通った叱り方だった。環いろはは受け取ったグリーフシードでソウルジェムを完全に浄化する。そして試しに、まだダメージを受けていない体力満タンの使い魔に向かって光の矢を撃ち込む。すると使い魔に光の矢が命中した途端、それは一撃で消し飛んだ。
「……っ!」
それは環いろはにとって初めての発見と言えた。しばらく魔法少女を続けていればいつかは気付くことだが、実は穢れと魔力効率には密接な関係がある。ソウルジェムに穢れが溜まると、そのぶん魔法の燃費や性能が低下するのだ。例えば穢れが25%溜まると、魔力による攻撃時、通常よりダメージが25%ダウンする。よって魔女戦では、基本的にソウルジェムを完全に浄化した状態で挑むのが望ましい。
ちなみに、こういった要素があることから、ほとんどの魔法少女は穢れと魔力効率の考察を膨らませて“ソウルジェムが穢れきると魔法を使用できなくなる”という認識に
また、余談だが、キュゥべえに「穢れが溜まるとどうなるの?」という質問をした場合、上記のような“魔力効率の低下”の事のみ答えるため、魔法少女の宿命である魔女化には気付かない場合が多い。ただし「穢れが溜まりきったらどうなるの?」という質問なら、ほかに誤魔化しようがないため、キュゥべえはきちんと“魔女化する”と答える。
そこで環いろはは、空中で戦う悪魔に向かって問いかけた。
「あ、あの! あなたも、ソウルジェムとか、そういうのがあるなら、大丈夫なんですか……?」
「オレにそんなものはないから心配するな!」
「環いろは。何度も言うようだけど、彼はただの人間だ」
「で、でもキュゥべえ……じゃあ、あの人はどうやって、使い魔と戦ってるの……?」
環いろはの純粋な疑問。悪魔が一撃を叩き込んで放置した使い魔をどんどん撃ち落とし、きちんと仕事しながらもキュゥべえに質問する。
「彼がどうやって魔女や使い魔と戦えているのか。それは
「死ぬ気の……炎?」
「彼が額から灯している炎のことだよ。あれは死ぬ気の炎と呼ばれており、それ自体が破壊力を持った超圧縮エネルギーなんだ。通常の炎より圧倒的に密度が異なり、脅威的な力の塊として恐れられる代物だ。実際ああやってグローブに炎をまとわせることで、強力な武器として応用できている」
「……。それって……魔力とは違うものなの……?」
「ご名答。魔力と死ぬ気の炎は全く異なるエネルギーだ。ただし
ただし悪魔は変換能力を持たない。よって魔法を行使したい時は、魔力を生成するため生命力を削る必要が出てくる。それは寿命の削減だけではなく、精神力の摩耗も意味している。
「さらに言うなら、
「そ……そうなの……?」
悪魔という名前の少年。死ぬ気の炎。よく分からないことだらけで理解が追い付かない。そんな環いろはは、上空で大きな熱量が放出されようとしていることを知覚した。
「数が多いな……このままでは埒が明かない。一気に決める!」
悪魔は多量に放出した死ぬ気の炎を両掌に集中させる。
「
圧縮した炎を全方位に発散させるように爆発させた強烈なる炎の一撃。それを浴びた使い魔たちは一匹残らず燃え尽きていく。そうして列車中央付近の使い魔の一団を壊滅させた悪魔は車両の屋根に着地。その肩にキュゥべえが飛び乗り、環いろはが駆け寄ってくる。
「あ、あの……! 危ないところを助けてくれて、ありがとうございました!」
「あぁ。どういたしまして。オレは悪魔だ」
「私は環いろはと言います……!」
「よろしく。──それでキュゥべえ。この使い魔に見覚えはないのか」
悪魔に問われたキュゥべえは空を仰ぎ観察する。
「これは新種の魔女の手下かな。ボクのプロファイルには、こんな使い魔の記録は存在しない」
「だがこの使い魔の数はどう見てもベテランだろう。偵察不足だな、キュゥべえ」
「そう言われるのも仕方がない。なぜなら今しがた気付いたことがある。この神浜市、どうもおかしい気がするんだ。最近の情報がめっきり無い。このあたりに配属されているボクらは、いったい何をしているんだろう?」
「……どういうことだ? まさか二木市のようなことになっているんじゃ……」
「それはない。
神浜市にインキュベーターがいない。その理由として最初に考えられることはキュゥべえ狩り。しかしそれはキュゥべえ本人から“それはない”と言われた。ならばなぜ? という疑問が悪魔とキュゥべえの首をかしげさせる。その様子を黙って見守っていた環いろはは、二人の話について行けずにいた。
「……あ、あの! 今はそれより、早くこの結界をなんとかしないと……!」
「────そうだな。いつ結界が解除されて、この列車が地上に落とされるか分からない」
「じゃあ先に進みましょう! 私たちなら、すぐに全ての使い魔を倒せるはずですっ!」
「いや、それは失策だ」
「……?」
悪魔は列車の先頭を見渡す。
「列車の最前列、中央、最後尾で三つの使い魔の群れがあった。今オレたちは中央の使い魔を殲滅したから、三分の一の使い魔を倒したことになる。よってこれ以上は使い魔を倒さない方がいい」
「え? なんでですか……?」
「使い魔を倒しすぎれば結界が解けて、この列車は地上に墜落する。そうなれば中の乗客は全員死亡だ」
「あっ……! じゃあ、どうすれば……」
「簡単だ。ちょっと使い魔と話してくる」
「────えっ!?」
†