※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【あぁそうでした。すみません楽しくて。ついうっかり疎かに】ミザリー立会人

 

 工匠区の地下貯水槽。ウワサ空間の浅層にて。

 

 一台のテーブル。向かい合う座席には悪魔と七瀬ゆきか。

 悪魔の背後には佐倉杏子。三人ともギャンブルに似合うスーツ・ドレスを身にまとっている。

 七瀬ゆきかの背後には白羽根が一人、黒羽根が六人。

 そして一台のテーブルの一切を取り仕切るディーラーは、ミザリー立会人のウワサ。

 

「コイントスを行ないます」

「私は裏で」七瀬ゆきかの即答。

「……表」

「では────ご武運を」

 

 立会人がフクロウ印の金コインを指で弾く。宙を舞うコインはテーブルに落ちて、くるくると横回転し、やがて裏を上に上げた状態で静止した。

 

「七瀬ゆきかサマの勝利により、ゲームの内容が決定されました」

「……不(・)運(・)、でしたね……」

「……」

「これから遊んでいただくゲームは【ペルソナ相性当てゲーム】です」

「ペルソナ……?」

「ペルソナカードを使うのか?」

「ハイ。ではルールをご説明いたします」

 

《ルール》

・対戦プレイヤーは二名。

・二名のプレイヤーが保有するペルソナカードを使用する。必要枚数は一枚から七枚。

・ゲーム開始時、カードの絵柄が見えないように伏せて、カードを“セット”する。

・二名のプレイヤーはセットしたペルソナカードから一枚選択し、立会人の合図に合わせて同時にカードを場に出して絵柄を見せ合う。

・ペルソナカードには相性があり、それにより勝敗が決まる。魔は火に一番強く、火は水に一番強く、水は木に一番強く、木は光に一番強く、光は闇に一番強く、闇は無に一番強く、無は魔に一番強い。勝利条件を図解にすると《魔→火→水→木→光→闇→無→魔》となる。勝敗が付かなかった場合は引き分け(ドロー)となる。

・場に出したペルソナカードは立会人が使用する。勝者のペルソナカードを使ってスタンドを発現し、一回だけ敗者に攻撃する。完全に引き分けの場合はスタンド無し。

・場に出したペルソナカードは全て捨て札となる。捨て札となったカードは墓地という場所に配置し、そのゲーム中は再使用できなくなる。

・主なゲームの終了条件を列挙する。「先に3勝したプレイヤーの勝利」「先に手札が尽きたプレイヤーの敗北」……同時に手札が尽きた場合は最も勝利数の多いプレイヤーが勝利するが、勝利数も同数だった場合は完全ドローとなる。「ゲームが続行不可能の状態に陥った場合は立会人の裁量で落としどころを決める」

・イカサマ禁止。イカサマが発覚した場合は反則負けとなる。ただしルール上ありえない事態ではない限り、立(・)会(・)人(・)は(・)イ(・)カ(・)サ(・)マ(・)の(・)解(・)明(・)を(・)行(・)わ(・)な(・)い(・)。つまりプレイヤーがイカサマの原理を解明しない限り、どのような訴えも“ただの言いがかり”として処理する。あくまでプ(・)レ(・)イ(・)ヤ(・)ー(・)に(・)よ(・)る(・)イ(・)カ(・)サ(・)マ(・)の(・)発(・)覚(・)が(・)為(・)さ(・)れ(・)た(・)場(・)合(・)の(・)み(・)、立会人はそれをイカサマとして取り扱う。

・魔法禁止。ただし本人の意思に反して発動するタイプの常時発動型魔法(パッシブスキル)の場合は禁(・)止(・)で(・)き(・)な(・)い(・)の(・)で(・)禁(・)止(・)さ(・)れ(・)な(・)い(・)。

 

 ────。

 

「何か質問はありますか?」

「魔力による肉体の再生は禁止ですか?」七瀬ゆきかが手を挙げる。

「ハイ。魔力操作による負傷の治療は魔法扱いとなりますので反則負けとします。基本的に魔力を回すことは本ゲームでは禁止させていただきます。……あとこれは独り言ですが、私は無属性のウワサですので分(・)析(・)魔(・)力(・)は(・)使(・)え(・)ま(・)せ(・)ん(・)」

 

 ミザリー立会人は悪い笑みを浮かべる。ルール説明にあった「イカサマ禁止」の項目からも分かることだが、どうやらミザリー立会人はイカサマバッチこいなタイプのディーラーらしい。

 

「佐倉。火属性の魔法少女を潰してくれないか?」

『────っ!?』

 

 悪魔の言葉に羽根たちが驚愕・困惑する。

 

 無表情の佐倉杏子は、そうするのがさも当然であるかのように無言で槍を振るう。増殖魔力で多節棍の柄を延々と伸ばしていきムチのようにしならせて、テーブル越しの遠隔地を横薙ぎ。白羽根は飛び退いて躱したが、残る六人の黒羽根は逃げ遅れて掃討される。並べられたドミノを横合いから引っぱたくように叩きつけられた黒羽根たちは、悲鳴を上げる間もなく互いの体を重ね合わせて壁に激突。強く体を打ったせいか、ぐったりと伸びてしまった。

 

「な────何をするだァーッ!」

 

 激昂した七瀬ゆきかは席を立ち、テーブルを強く叩いて悪魔を睨む。

 

「どうした? 席を立つってことは、ゲームを降りるって解釈でいいのか?」

「────っ!?」

 

 七瀬ゆきかの瞳が揺れる。こいつは何を言っているのかと。こんな横暴、認められるわけがない。立会人の方を見やると、彼女はテーブルを見つめているようで、実際は虚空の一点を見つめているようだった。

 

「七瀬ゆきかサマ。お席にお戻りください。もうゲームは始まっています。それとも悪魔サマの言う通り、まさか本当にゲームを降りるつもりで? 棄権する場合、敗北となって取り立てが始まりますが……よろしいですか?」

「な……! ふ、ふざけないでください! 私はゲームから降りません! ただ……今のは明らかなルール違反です!」

「ハイ? 何か問題でも?」

「……え?」

「……なるほど。何か勘違いをなされているようですが、七瀬ゆきかサマ。場外の乱闘は、私の管(・)轄(・)外(・)です」

「────っっ!?」

 

 七瀬ゆきかは信じられないと言いたげな顔でうろたえる。同時に震(・)え(・)上(・)が(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)。

 

「ですがご安心ください。このテーブルに着いた二名のプレイヤーの安全は保証します。たとえ核ミサイルの雨が降ってきたとしても、このゲームは確実に遂行すると────立会人の誇りに懸けて、お約束いたしましょう……」

「……そん、な……ことって……」

 

 言葉とは裏腹に笑(・)み(・)を(・)浮(・)か(・)べ(・)る(・)七瀬ゆきかは、まだ眼前の理不尽な状況が受け入れられないようだ。悪魔は、彼女が立ち直るまで時間を要すると判断し、白羽根──佐倉杏子の攻撃を躱して冷や汗を流している彼女──に質問する。

 

「おい、そこのお前。マメジを知らないか?」

「────!」

「そうか……知っているのか」

 

 悪魔は直感する。どうやら白羽根はマメジを誘拐したあと、確殺賭博ミネルヴァのウワサの最奥に閉じ込めたそうだ。ちなみに白羽根は《動物は人間と同価値の存在だから、魔法少女の私は見下してもいい》という独特な価値観を持っていた。さらに魔法少女至上主義という単語も直感する。

 

「立会人。勝利の際に取り立てるモノは、その時に決めても構わないか?」

「ハイ。ただし査定に時間が掛かるため、大きな変更は承諾しかねます」

「知りたいウワサの内容の個数や、マメジの取り扱いに関して内容を調整するだけだ。いきなり違うものが欲しいと言うつもりはない。それに言ったところで無駄だろう」

「それならば可能でございます。どこかのプレイヤーさんとは異なり、一を聞いて十を理解する力に、ミザリー感動」

 

「……っ! ────すぅぅぅ……」

 

 七瀬ゆきかは深呼吸すると、冷静さを取り戻したのか目付きをキリッとさせて席に座り直す。

 

「悪魔。白羽根は倒さなくてもいいのかい?」

「そいつは対象の固有魔法を封印する力を持っている。今はオレの助太刀魔法が封印されている状態だ。放置しておけ」

「そーかい」

 

 佐倉杏子はつまんなそうにあくびする。

 助太刀魔法が使えなくても叛逆魔法で突破可能。そして叛逆魔法で寿命が削れれば死に瀕する事で逆転勝利の呪いが発動する。そういう目算だろうか。あるいは別の目的があるのか。

 

「それでは互いのペルソナカードをテーブルにセットしてください。もちろん絵柄は隠した状態で」

 

 七瀬ゆきかは七枚のペルソナカードをセットする。

 悪魔は五枚のペルソナカードしか持っておらず、それをセットした。

 ふと佐倉杏子は訝しむ。

 

「────って、おいおい。ちょっと待てよ。これ、そういうことか。このゲーム、そもそもカードを持っていない奴の方が最初から不利だ。つーか相性判定でドローの場合は捨て札になるんだから、こんなの枚数が少ない方が負けやすいゲームじゃねぇか」

「その通りでございます、佐倉杏子サマ。つまり悪魔サマは“五ターン以内に3勝”しないと、手札が尽きて敗北するということです」

「……不憫ですねぇ……」

 

 七瀬ゆきかが嘲るように言う。悪意はない。ただ無意識のうちに、ノリノリでギャンブルに興じているだけのようだ。

 

「私はこのゲームに自信があります。そこで親切心から言わせてもらいますが、互(・)い(・)の(・)セ(・)ッ(・)ト(・)カ(・)ー(・)ド(・)を交換しても構いませんよ?」

「断る」

 

 佐倉杏子は眉をひそめる。悪魔と同様、交換は罠だと判断したからだ。しかし悪魔には超直感がある。ここまで即答するということは、何かを見抜いたということだ。

 

「……そうですか。ではまだゲームは始まっていないので、セットカードを変更させてもらいます」

 

 そう言って七瀬ゆきかは、セットした七枚のペルソナカードを全て引っ下げると、懐から新たなペルソナカードを七枚取り出した。つまり七瀬ゆきかは十四枚のペルソナカードを保有している。マギウスから貰ったようだ。そして新たな七枚をテーブルにセットする。

 

「これで私のセットカードは決まりです。もう変更はありません」

「では……ゲームを始めても構いませんか?」

 

 そこで佐倉杏子が問いかけた。

 

「おい。悪魔。今のあいつの行動はなんだ」

「さっき親切心からオレに回そうとした七枚のペルソナカードは、全て無(・)属(・)性(・)の(・)ペ(・)ル(・)ソ(・)ナ(・)カ(・)ー(・)ド(・)だ」

「────ハッ! まぁそんなこったろうと思ってたよ」

 

 既に心理戦は始まっている。だがその全てが悪魔の前では茶番となる。それを七瀬ゆきかは知らないのだろうか? マギウスの翼に所属しているなら、悪魔が心を読めると知っていてもおかしくないはず。まさか敢えて知らされていないのか。先ほどの白羽根はマメジのことをなんとか隠そうと、心を鉄のように覆ったというのに。

 

「……あなた、さっきから色々と鋭いですね。まさか属性まで当てられるとは思いませんでした」

 

 悪魔は直感する。どうやら七瀬ゆきかは、本当に悪魔が超直感(読心術)を持っていることを知らないようだ。しかし油断はできない。なぜなら何(・)か(・)が(・)お(・)か(・)し(・)い(・)。彼女が悪魔のことを知らされていないという状況が、既に何かの罠のような気がしてならない。白羽根の心を読んでも、悪魔が読心術を使えることは黙っているように気を付けているようだ。それはいったいなぜだろうと疑問ばかりが募る。

 

「さぁ立会人。早くゲームを────」

 

 不意に悪魔はテ(・)ー(・)ブ(・)ル(・)の(・)下(・)か(・)ら(・)出(・)し(・)た(・)手(・)で(・)二(・)枚(・)の(・)ペ(・)ル(・)ソ(・)ナ(・)カ(・)ー(・)ド(・)を(・)セ(・)ッ(・)ト(・)す(・)る(・)。

 

「────は?」

「悪魔サマ、合計七枚のペルソナカードのセットを確認。最(・)初(・)は(・)五(・)枚(・)だ(・)っ(・)た(・)の(・)に(・)、(・)な(・)ぜ(・)後(・)に(・)な(・)っ(・)て(・)二(・)枚(・)取(・)り(・)出(・)し(・)た(・)の(・)か(・)は(・)特(・)に(・)追(・)求(・)し(・)ま(・)せ(・)ん(・)。それに私はプレイヤーの手持ちペルソナカードの枚数までは完全に把握しておりませんので、追求しようがありません」

「そんっ……! ふ、ふざけ────イカサマだァッ! こいつはイカサマをしているぞッ! だっておかしいじゃないですか! 七枚持っているなら、最初からそれを出せば良かったのに! どうして今更になって!」

「それブーメランじゃないか?」

「私のはブラフだからいいんです! 現にほら、十四枚のカードがあります! 私はカードをそ(・)の(・)場(・)で(・)捏(・)造(・)す(・)る(・)ような行為はしていません! この枚数が証拠です! ですがあなたは!? 机の下で……何をしたッ!? 魔法は使用禁止のはずだッ!」

 

 七瀬ゆきかはテーブルの下を覗くが、特に何もない。悪魔の下半身が椅子に座っているだけである。

 

「っ────イカサマだ……絶対にイカサマをしたはずなのに……」

「そうだな」

「っ!?」

「オレはイカサマをしている……」

「み、認めるんですか!?」

「……かもな?」

「っ!」

 

 七瀬ゆきかは遊ばれていることを察する。

 

「くっ────冷静になれ────そうだ。教官の神楽燦が教えてくれた……きっと無属性の構築魔力だ……ルールでは魔力を回すだけでも禁止なんですよね……じゃあこの人はイカサマだ!」

 

 悪魔とミザリー立会人は目を閉じて俯いている。

 

「……申し訳ございません。耳障りでしょうが、あいにくハエたたきを切らしておりまして」

「構わない。悪魔の証明という単語すら知らない箱入り娘だ。大目に見てやれ。それにおっちょこちょいで可愛いらしいじゃないか」

「っ! わ、分かりましたよ……証明……すればいいんですよね……! バカにしないでください……! ちょっと動揺してルールが頭からすっぽ抜けただけです……! プレイヤーがイカサマを証明しなければ、立会人はイカサマを認識しない……んですよね!?」

 

 しかし七瀬ゆきかは、頼みの綱である火属性の魔法少女を失ってしまった。仲間の黒赤羽根は佐倉杏子の攻撃によって気絶している。

 

(私は光属性……活性魔力しか使えない……そもそも魔力を使えばルール違反……くそっ……)

 

 そこで白羽根が手を挙げた。

 

「私は火属性の白羽根だ。分析魔力を駆使した結果、悪魔の左目から魔力が迸ったのを検知した。……ゲーム外は管轄外なんだろ? なら私が魔力を使っても不問とするはずだ。違うか?」

「いいえ、ちがいません」

 

 七瀬ゆきかの瞳に希望の輝きが灯る。

 

「それなら……立会人さん!」

「なるほど。確かに私も常(・)に(・)周(・)囲(・)に(・)発(・)し(・)て(・)い(・)る(・)魔(・)力(・)で、同様の魔力反応を検知しましたが……残念です」

「────!」

 

 七瀬ゆきかは勝ちを確信する。正々堂々と戦わずにイカサマをするからこんなことになるんだと。

 

「今の“発覚届け”は論拠が成り立たず、た(・)だ(・)の(・)言(・)い(・)が(・)か(・)り(・)として処理します」

「────」

「白羽根サマが検知した魔力は、悪(・)魔(・)サ(・)マ(・)が(・)意(・)図(・)的(・)に(・)発(・)し(・)た(・)魔(・)力(・)で(・)は(・)な(・)い(・)ため、ルール違反には成りえません」

「────、……ハァ!?」

「詳細を告げることはできません。悪魔サマだけが一方的に不利になる情報は、中立存在である私には明かせませんので。ただ悪魔サマの両目から感じられる二種類の魔力反応につきましては、全て常時発動型の魔法・魔力として処理します。────納得いただけますよね?」

 

 つまり悪魔が取り出した二枚のペルソナカードは、イカサマではなく魔法であり、魔法であっても禁(・)止(・)で(・)き(・)な(・)い(・)の(・)で(・)禁(・)止(・)さ(・)れ(・)な(・)い(・)魔法だった。

 

 実は悪魔はテーブルの下で、霧の構築により二枚のペルソナカードを偽(・)造(・)していた。しかし偽造したカードは時間が経てば消えてしまう。その消滅の瞬間を立会人に目撃されれば、すぐにイカサマだとバレて反則負けだ。そのため悪魔は霧の熟練性質・夢現によって、なんとか長時間カードが形を保つように工夫を施したが────そこで悪魔の左目に宿る水泳の魔女が力を発揮した。叛逆の性質により構築効果を具現効果と変え、現実に存在する物質として具現化したのである。それは水泳の魔女の魔力だけで成り立った魔法であるため、悪魔が意図的に行なったわけではない。現に悪魔も(何を勝手なことを……)と内心ヒヤヒヤしていた。

 

 そんなことがあったために、そこから誤解されて立会人に“悪魔サマの体内から魔力が検知されたので反則負けとします”となったらどうしようかと悪魔は思っていたところだ。しかし、そうはならなかった。

 

「……立会人。あんた、オレの両目の中にある二つの存在(笹川京子と青音すず)の特性を知っているのか……?」

「……ハイ」

 

 悪魔はミザリー立会人の心を読もうとする。しかし“ウワサさん”と似たようなタイプなのか、人の言葉を喋るというのに、万年桜とは違い、まったく心が読めなかった。もしくは万年桜の方が異質であり、どれだけ人間味があるように見えても、本来ウワサとは心を持たない存在なのかもしれない。

 

「さて、七瀬ゆきかサマ。これ以上、確実な証拠を提示できず駄々を捏ねるようなら……ゲームの遅延行為として処理いたしますが」

「……っ!」

「何もイカサマの証拠は今すぐ見つけなくてもよろしいでしょう。せめて1ターンは済ませようではありませんか」

「っ────」

 

 歯噛みする七瀬ゆきかは席に戻る。

 

「ではゲームを再開します。というか、ようやく1ターン目です。────互いに一枚のカードを選択してください」

 

 七瀬ゆきかはカードを選ぶ。何を選んだか直感した上で、悪魔もカードを選ぶ。

 

 魔法少女が知る由もない超直感と死ぬ気の炎。それを用いてのイカサマなぞ、一介の魔法少女に見抜けるはずがない。なぜならどちらも魔法や魔力ではないのだから。それは全く別のスキルとエネルギー。ボンゴレの血筋が持つ見透かす力と、地球生物が持つ七色の生命力なのだから。

 

 ふと悪魔は直感する。七瀬ゆきかは、絶交ルールのウワサや口寄せ神社のウワサで奪われたペルソナカードの中で、悪魔はどのカードを所有しているのか考察している。そして悪魔はあらゆる属性に精通しており、魔・水・闇・無を多様し、次点で木を使用しているが、光に至っては全く使用していないと報告書に書いてあった。それに加えて悪魔は最初五枚しか取り出さなかったことから、七瀬ゆきかの予想内訳は「魔・火・水・闇・無」となった。その後二枚のカードを取り出したので、バランスよく属性を取り揃えるなら「木・光」を追加したのだろうかと推理したようだ。

 

「それでは私が“オープン”と口にしたら、互いに一枚のカードを場に出してください。────オープン!」

 

 七瀬ゆきかは“光”を場に出す。悪魔は“光”を場に出す。

 

「相性が成り立ちませんので引き分けです。スタンドは無し。場に出したカードは、私が一時的に預からせていただきます」

 

 スタンド。敗者は一回だけとはいえ、スタンド攻撃を受ける。そういえばスタンド攻撃の詳細を聞いていなかった。スタンドで殴るのか、スタンドの能力を使うのか。前者の場合、破壊力の高いスタンドは危険だ。しかも魔力は使用禁止であるため、魔力で肉体を守ったり、負傷した肉体を再生することも不可能だ。それは、よくよく考えればとんでもないことなんじゃないかと、分かっていたのに分かっていなかったと思い直す七瀬ゆきかであった。

 

「では2ターン目────オープン!」

「ハァ……ハァ……!」

 

 どこか恍惚とした表情で滝のような汗を流す七瀬ゆきかは“闇”を場に出す。悪魔も“闇”を場に出した。

 

「またもドローです。二枚とも回収します」

「────ぐ、偶然ですね……それとも、まさかこれも読んでいたとか……ありませんよね?」

 

 悪魔は悩んでいた。勝(・)つ(・)た(・)め(・)に(・)は(・)1(・)勝(・)だ(・)け(・)で(・)い(・)い(・)。ただし死(・)ぬ(・)危(・)険(・)性(・)の(・)無(・)い(・)1(・)勝(・)が(・)欲(・)し(・)い(・)。こればかりは賭けだ。悪魔の力ではどうしようもない。スタンドを使用するのは立会人。立会人がどのようなスタンドを発現するのか分からない以上、悪魔にできることは破(・)壊(・)力(・)の(・)高(・)い(・)属(・)性(・)は(・)ド(・)ロ(・)ー(・)に(・)す(・)る(・)ことだけだった。

 

(活性・増殖の性質は、七属性の中でバフとしては最上級の性質だ。故に光と闇の属性スタンドは破壊力が高い傾向にあると見た。よってこの二枚はドローにするべきだろう。────それにそもそも、この連続するターンで出した光と闇のカードは二枚とも“ペルソナカードの効力を持たない偽造カード”だ。もしまかり間違ってオレが勝ってしまい、立会人がスタンドを発現しようとしたら、当然ただのカードなんだからスタンドは発現しない。その瞬間“このカードは偽物だと判明したので悪魔サマのイカサマが発覚しました。反則負けです”となる)

 

 偽造カードをドローで使い切った悪魔の残り内訳は「魔・火・水・木・無」である。

 

「では3ターン目────オープン!」

「ハァ! ハァァ……ッ!」

 

 七瀬ゆきかは“木”を場に出す。悪魔も“木”を場に出す。

 

「────ちょ……ちょっと待ってください! これ……なんか……おかしくないですか……?」

「硬化性質も七属性中、最も攻撃力が高い性質だ。避けるのは無難だろう」

「そ、うじゃなくて……なんで引き分けばっかり……こ、こんなのおかしいですよね!?」

「それはオレのセリフだ。まさかこっちの手の内を読んでいるんじゃあるまいな?」

「そっ……! そんなすごいこと、私ができるわけ────」

 

 七瀬ゆきかはハッとする。

 

(いや待て────そんなすごいこと……まさか、この人なら、できるのか……?)

 

 流石に三回連続ドローは考えにくい。それに悪魔を観察していれば、最初から妙に余裕の態度だ。カード選びにも一切の迷いがない。

 

(────そうだ。そうだよ。そういえばこの人は、私(・)が(・)カ(・)ー(・)ド(・)を(・)選(・)ん(・)だ(・)あ(・)と(・)に(・)、(・)迷(・)い(・)な(・)く(・)自(・)分(・)の(・)カ(・)ー(・)ド(・)を(・)選(・)ん(・)で(・)い(・)た(・)……!)

 

 だがそれはおかしい。本当に心を読めるなら、容赦なく勝ちに行けばいいはずだ。なぜ引き分けで終わらせる必要がある? 七瀬ゆきかは混乱して、まさか自(・)分(・)が(・)守(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)とは気付かない。

 

「……ド……ドローばっかじゃ、勝てないですよ……?」

「…………」

 

 七瀬ゆきかは高速思考する。背後の白羽根に振り返っても、魔法・魔力を使用した痕跡は無いと首を横に振られる。

 

(なんだ……どうやって? まさか普通の読心術?! だとするなら……読まれないためにはどうすれば……!)

(……ようやく気付いたか……)

(む、無心になるしかない……! 無心になれ────無心に────無……)

 

「では4ターン目────オープン!」

「うっ……うぉおおおおっ!」

「────っ」

 

 七瀬ゆきかは“無”を場に出す。悪魔は“魔”を場に出す。

 

「バッ────!!?」

「魔は無に一番強い。よって悪魔サマの勝利です。ペルソナカードを回収します。七瀬ゆきかサマ、歯を食いしばって、ご待機ください。────ペルソナァ!」

 

 立会人は魔属性のペルソナカードを使用。背後に人型のエネルギー体が出現し、七瀬ゆきかの顔面に拳を叩き込んだ。

 

「ブボッ────!!?」

 

 椅子を倒してきりもみ回転した七瀬ゆきかはコンクリートの地面に激突。鮮血を撒き散らして地を転がる。

 

「っ────」

「スタンド攻撃終了。七瀬ゆきかサマ、ゲームを続行しますか?」

 

 魔属性は七属性の中でも随一の推進力を誇る。初速を見切れなかった七瀬ゆきかは充分な防御態勢が取れる前に殴られてしまった。ボクシング等の競技者が語るには、どんなに弱い攻撃でも不意の一撃が最もダメージが高いという。

 

(最善は水属性のペルソナカードで勝利することだった。しかし3ゲーム目で傷を与えるには早すぎる……スタンドを使って普通に殴るのか能力を発動するのか分からない以上、破壊力の高い分解性質の火属性や、呪い系の能力が多い無属性はドローにするべきだ。となると残るは魔属性……後々の勝ちを見越す上でも、ここはスピードが早いだけで来ると分かっていれば充分に防げる魔属性のカードを切るしかないと判断した。しかし見当違いだったか……?)

 

 地面に仰向けとなって倒れる七瀬ゆきかはピクピクと痙攣している。

 

「……ところで悪魔サマ、カウントダウンはどのくらいにしましょうか? 流石にテンカウントは酷だと思うので、五分程度か妥当かと思われますが……」

「起きるまで待つ」

 

 一分後。七瀬ゆきかは地面を這い蹲って身を起こす。額の皮膚が切れて血が流れる。まかり間違っても魔力で治してはならない。

 

(────こいつ……なぜ痛覚遮断を使わない……)

 

 痛覚遮断は魔力を使用する。故に反則負けを回避するため我(・)慢(・)し(・)て(・)使わないのは分かる。だがそういうことではないのだ。七瀬ゆきかは我(・)慢(・)す(・)る(・)気(・)が(・)な(・)い(・)のである。使う気がない。むしろ痛覚遮断を嫌っている。それも無意識で。

 

 悪魔は直感した。以前のターンの恍惚とした表情から薄々と感じてはいたが、自覚意識が薄かったようで明確に見透かすことができなかった。しかし今なら分かる。──七瀬ゆきかは悦(・)ん(・)で(・)い(・)る(・)。これは、とんだスリル狂だ。

 

 二分後。ボタボタと血を垂らす七瀬ゆきかはガクブルと震える体で、ようやく席に手を着けた。崩れ落ちるように椅子に座ると、ニヤリと口糸を引いて息も絶え絶えに宣言する。

 

「続けましょう────」

「ではカードを選択してください」

 

 七瀬ゆきかは血まみれの手で一枚のカードをじろりと睨み、選び取る。

 

「では5ターン目────オープン!」

 

 七瀬ゆきかは“火”を場に出した。悪魔も“火”を場に出す。

 

「引き分けです。カードを回収します」

「……悪魔は残り無と水だ……きっとそうだ……今までダブりがない……ブラフ……? だったら完敗だな……でも信じる……私は■と■……そしたら引き分け……もう勝てる見込みはない……せめて引き分けに……」

「……」

 

 悪魔は直感する。七瀬ゆきかは各色バランスよくペルソナカードを揃えたカードをセットしていた。つまり悪魔と全く同じ内訳である。よって現在の七瀬ゆきかの内訳は「魔・水」となる。無論、これから悪魔は、相手の水に無を出して、相手の魔には水を出す。

 

「では6ターン目────オープン!」

 

 七瀬ゆきかは“水”を場に出した。悪魔は“無”を場に出す。

 

「っ────! クソォオオオオオッ!! クソガヨォオオオオッッ!!! 魔を……! 魔を出していれば……っ! このまま消化試合で終わるのか……!? づぁああああ……!」

 

 七瀬ゆきかの“せめて引き分けに”という活路は完全に途絶えた。

 立会人は相性を判定する。

 

「ドローです。ペルソナカードを回収します。悪魔サマ、七瀬ゆきかサマ、歯を食いしばって、ご待機ください」

『────!?』

「はぁ!? どういうことだ!? 今のは引き分けだろ!?」佐倉杏子の狼狽。

「────ペルソナァ!」

 

 不意にミザリー立会人は水属性のペルソナカードを使用。発現させたスタンドの拳で、悪魔の顔面に殴り込む。

 

 咄嗟に雷の炎の放射バリアでガードした悪魔だが、スタンドパワーは強大であり、衝撃のあまり自らの手の甲が鼻にぶつかり突き飛ばされる。

 

「ガハッ────!?」

 

 背中を強打して地面を転がる。鼻の骨が折れた。額の皮膚が切れて、七瀬ゆきかほどではないが血が垂れる。

 

「────ペルソナァ!」

「……っ!?」

 

 今度は無属性のペルソナカードを使用した立会人は、容赦なく七瀬ゆきかの顔面を殴り飛ばした。が、咄嗟に両腕でガードしていた七瀬ゆきかは、腕の骨が粉々に砕けながら吹っ飛び、地面に背中を強打して何度も転がる。

 

「ガッ!? ぐぅぅっ……?! っぃぃ……ッ!?」

「なっ……! おい立会人! こりゃあいったいどういうことだ!? 説明しやがれ!」

 

 佐倉杏子の声に耳を傾けた立会人は、呆けた顔でスタンドを解除する。

 

「既に大雑把な説明はいたしておりますが?」

「────は?」

「……魔は火に一(・)番(・)強く、火は水に一(・)番(・)強く……そのように説明したはずです。つまり今回は水と無の対決でした。水と無は木(・)か(・)ら(・)数(・)え(・)て(・)四(・)番(・)目(・)に(・)遠(・)い(・)ため、相性で勝てるものの、強(・)さ(・)は(・)小(・)さ(・)い(・)のです。そして無と水は、《魔から三番目に遠い》ため、相性では勝てるものの、強(・)さ(・)は(・)そ(・)れ(・)な(・)り(・)に(・)小(・)さ(・)い(・)のです。よって水のカードを出した七瀬ゆきかサマには、四番目に遠い程度の強さのパンチを……無のペルソナカードを出した悪魔サマには、三番目に遠い程度の強さのパンチを……それぞれ繰り出しました」

「────んだそれ……そんなの初耳だぞ! 説明してねぇじゃんか!」

「相性の図解に詳細が記されていないからと気を抜いたそちらの落ち度では? 質(・)問(・)す(・)れ(・)ば(・)答(・)え(・)た(・)の(・)に(・)……同時に私はこうも申し上げたはずです。完(・)全(・)に(・)引き分けの場合はスタンド無しだ、と……」

「っ────! たしかに……一(・)番(・)強(・)い(・)だとか、完(・)全(・)に(・)引(・)き(・)分(・)け(・)だとか、気になるワードはあったが……」

 

 佐倉杏子は悪魔の横顔を見やる。鼻の骨を曲げ直す悪魔は鼻を吹いて血を出す。特に驚いている様子はない。となると、まさか悪魔はこの展開を予想していたのか。

 

「ゆきか。立てるか。ゲームを続けるぞ。まさか消化試合でゲームがつまらなく終わると本気で思っていたのか? 少々認識が甘かったようだな。ここは確(・)殺(・)賭(・)博(・)場(・)だぞ。それはお前たちが一番よく知っていると思っていたんだがな」

 

 あるいは黒羽根でさえ、名前が物騒なだけで、本当に殺すつもりはないのかもしれない。実際、白羽根に殺意はあるが、七瀬ゆきかに殺意はない。ウワサ空間の地下に落とすというのも、それはあくまで悪魔を封じ込めるという認識で、まさか殺すとは思っていないのかもしれない。

 

(末端には悪事を隠す組織か……でなければ、ここまでの魔法少女が集まるわけもないしな……ウワサという存在も、悪事を隠すには打って付けの場所だ。マギウス……どこまで計算尽くなんだ……)

 

「ちなみに申し上げると、このゲームはロシアンルーレットを元ネタにしております。だって楽しいじゃないですか、アレ。スリル満点です。しかし絶望エネルギーを効率的に集めたいなら、一発で死なれると困るのです。というわけで何発か喰らっても死にはしない程度のシステムを構築しました。それが相性表の秘密です。そう、この【ペルソナ相性当て】ゲームは本来、痛(・)み(・)を(・)最(・)小(・)限(・)に(・)抑(・)え(・)る(・)た(・)め(・)の(・)ゲ(・)ー(・)ム(・)なのです……」

 

 悪魔は黙って席に着く。

 

「ゆきか。オレは水のカードを持っている。そっちは魔属性だろう。オレは三番目に強いパンチを喰らうが、そっちは五番目に強いパンチだ。きちんとガードすれば、オレよりは軽傷で済む。最後の一枚だ。踏ん張ってくれ」

「────…………」

 

 両足で立ち上がった七瀬ゆきかは、フラフラと席に着く。もはや意識は朦朧としている。痛みを忘れようとして防衛本能が思考をカットしたようだ。このままではスタンド攻撃をガードすることもできない。

 

「では7ターン目。最終ラウンド────オープン!」

 

 悪魔は“水”を場に出す。七瀬ゆきかは震える手で“魔”を場に出した。

 

(さっき雷の炎でガードしたが、立会人は何も言わなかった……つまり死ぬ気の炎の使用はルール違反にならない……見ていられなくて賭けに出たが、どうやら正解だったようだ────)

 

 悪魔は晴の炎を七瀬ゆきかに放射する。キラキラと輝いて治っていく傷。

 

「────ペルソナァ!」

 

 立会人の攻撃方向はランダムなのか。今度は七瀬ゆきかを先に攻撃する。が、水属性のスタンドは動きが遅く、傷が治って意識を取り戻した七瀬ゆきかは、本能的な反射行動で躱そうとする。活性効果の助けもあって、いつもより二倍速で動いて完全回避。勢い余って席から転げ落ちる。

 

 続けて魔属性のスタンドが発現、悪魔の顔面に拳が唸る。バトルグローブは魔法製の匣兵器であるため使用すれば魔法扱いとなり反則負けになる可能性が高い。よって雷の炎でガード。雨の炎でコーティングして勢いを弱めたが、悪魔は再び椅子ごと突き飛ばされた。

 

「ぐぅっ────!?」

 

 背中を強打。一回転して着地。コンクリートを滑って靴底が磨り減り、頬に擦り傷ができてじんわりと血が滲む。

 

「────スタンド攻撃終了。悪魔サマ1勝、七瀬ゆきかサマ0勝。よって勝者、悪魔サマでございます!」

 

 立会人は拍手し、観戦していたミザリーオウルはホーホーと鳴いて歓声を浴びせる。

 

「……。一応聞いておくが、悪魔が3勝で、そいつが2勝じゃないのか?」

「ハイ。佐倉杏子サマ。勝(・)利(・)条(・)件(・)を(・)図(・)解(・)に(・)と……申し上げたはずですが?」

「……なるほどね……そいつはとんだ屁理屈だ」

「えぇ。なんせ私がルールですので。それに、今言ったようにきちんとヒントは出していましたよ? それにほら、世の中には便利な言葉があるじゃないか。騙(・)さ(・)れ(・)る(・)方(・)が(・)悪(・)い(・)の(・)だ(・)と。力のない者は騙される。力のある者は騙されない。力とは賢さも意味します。実に現実的な話じゃありませんか。どこも何も間違ってはおりません。違いますか?」

「────いいや。ぜんぜん?」

 

 佐倉杏子は槍を構える。

 悪魔も匣兵器に死炎を注入して開匣。ずぶ濡れのバトルグローブを装着して臨戦態勢を整える。

 

「立会人。取り立てを依頼したんだが」

「あぁそうでした。すみません楽しくて。ついうっかり疎かに。たしか七瀬ゆきかサマは、悪魔サマをこのウワサ空間の地下に落とすのが狙いでございましたね。では私の基準で、それと同じ値の取り立てを行いましょう」

「最初に言った通り、今オレたちが倒そうとしているウワサの本体と、それに連なるウワサの手下の内容を聞かせてほしい。こっちが知っているウワサの内容は必要ない。そしてま(・)だ(・)価(・)値(・)が(・)余(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)なら……マメジの救出。価値が足りなかったら、せめてマメジの居場所を教えてほしい」

 

 立会人は指を鳴らすと、複数のウワサさんを召喚する。

 

《アラもう聞いた? 誰から聞いた? カスタム幸運水のそのウワサ

 幸運をもたらす美味なる名酒 ひとたび飲めばタチマチ幸せ

 ウップン苛立ちどこへやら でもねだけどもご用心!

 18回の幸運のあとに、圧縮された最大の不運が起きるって

 賭博場・酸凶幸少死圏じゃもっぱらのウワサ!

 シネーッ! クレッシェンテー!》

 

《アラもう聞いた? 誰から聞いた? ミザリーリュトンのそのウワサ

 文武両道の参京院 工芸百般の工匠学舎

 受験生と新米職人が本番に強いそのワケは 地下に潜む巨大な角杯!

 彼らの不幸を吸い取って 腹痛も事故も緊張も なんでもゼンブなくしちゃう!

 だけど角杯はもうイッパイ! 中身はチャプチャプ溢れてしまい

 こうなったらばリュトンは幸福ではなく不幸を配ることにしたって

 フクロウ幸運水とミザリーウォーターのウワサの間じゃもっぱらのウワサ!

 ナンテコトー!》

 

《アラもう聞いた? 誰から聞いた? ミザリーオウルのそのウワサ

 ミンナお疲れ夕暮れどき カラカラ喉が鳴る頃に 突と現る給水所

 だれどそれは要注意 不幸をミンナに配るため オウルが作った幻ダ!

 しかもアフターケアは万全デ 肩乗りオウルは曇らぬマナコで

 不幸までのカウントダウンをホーホー教えてくれるって

 賭博場・酸凶幸少死圏じゃもっぱらのウワサ!

 チョーメイワク!!》

 

「────カスタム幸運水……だと……?」

「それではマメジサマの取り立てを開始します」

 

 ミザリー立会人は、ウワサさんと共に忽然と消える。直後、神隠しのように再び現れた。その腕の中にはマメジを抱いている。

 

「ワンッ!?」

「どうぞ悪魔サマ。これにて取り立ては完了しました。また遊びに来てください。────あ、ちなみにその衣装は記念品としてお持ち帰りいただけます。どれも私が手ずから織った渾身の作ですので、もしよろしければ受け取ってくださると幸いです」

「ありがとう。恩に着る」

 

 立会人はマメジを優しく下ろして、丁寧にお辞儀する。

 

「マメジ。大丈夫だったか? 助けに来たぞ」

「……ワンッ!」

「あぁ。理子もお前を捜している。だがすぐには届けてやれない。すまないな。もう少し我慢してくれ。……そして危険だから、なるべく離れていろ」

 

 ミザリー立会人とミザリーオウルは道を開ける。悪魔と佐倉杏子の目指す先には、ウワサの中層へと続くゲートがある。その手前には白羽根が立ち塞がっており、七瀬ゆきかも立ち上がる。そして壁に叩き付けられていた六人の黒羽根たちも目を覚まし、急いでゲートの前に集合した。全員ペルソナカードを持っている。

 

「いいねぇ。やっぱりこういう分かりやすいのが一番だ」

「佐倉。なぜオレがゲームをしている間に先に行かなかった。白羽根を倒さずとも強行突破はできたはずだろう」

「あぁ? あぁ……あたしにはあたしのやり方があんだよ」

「そうか。心配どうも」

「誰が!」

 

 佐倉杏子は二種類(安堵と好戦)の笑みをこぼして跳躍疾走。

 

 悪魔はその戦闘を見守りながら考察する。

 

(やはり、何かがおかしい……オレは不運水を被ったはずだ……なのに幸(・)運(・)す(・)ぎ(・)る(・)……最初に偽造カードである光と闇のペルソナカードを使い切れた時は運(・)が(・)い(・)い(・)と思った……ミザリー立会人もスタンドを発現した時、ただの打撃ではなく能力を使用すれば、もっとオレたちを苦しめるような攻撃ができたはずだ。それで絶望エネルギーも集まるわけだし……打撃と能力、どちらを使うかが立会人の気分次第である場合、やはりそれも運(・)が(・)い(・)い(・)となる……極めつけは死ぬ気の炎だ。このゲームで魔法や魔力の使用が禁止されているのは、おそらく真正面からの心理戦を立会人が楽しむために設けたルールだ。イカサマ上等とは言え、禁止されているからこそ、その網をどう掻い潜るかがスリルとなる。単に死ぬ気の炎を知らなかっただけという可能性も捨てがたいが……もし死ぬ気の炎の存在が気に食わない場合、そもそもあ(・)ら(・)ゆ(・)る(・)エ(・)ネ(・)ル(・)ギ(・)ー(・)を(・)禁(・)止(・)す(・)る(・)というルールを設けていれば良かったはずだ。それをしなかったとなると、単にそこまで想定していなかったのか……? ……なんだか、そういうことを幾つも考えていくと……やはりオレは運(・)が(・)い(・)い(・)ということになるんじゃないか……?)

 

 物事が順調に進みすぎている。まるで嵐の前の静けさのように。

 

(────もしかしたらオレは既に何かとんでもない失態を犯している可能性が……? いや、今ある情報だけで考えると……まさか、遠くにいても……? ……かずみ……)

 

 佐倉杏子と八人の羽根たちの乱戦。その中を悠然と歩くミザリー立会人は、戦いに巻き込まれないよう気を付けながら、地面に円を描いていた。

 

「……立会人、何を……」

「あぁ悪魔サマ。今から最(・)後(・)の(・)取(・)り(・)立(・)て(・)を(・)行(・)な(・)う(・)ので、少々お待ちください」

「────なん、だと? 先ほど取り立ては完了したはずだと……」

「実は再度計算してみたところ、やはり帳尻が合わないと判断いたしました。ですので────七瀬ゆきかサマを地下に落とします」

 

 悪魔は目を見張る。なぜ今更そんなことを?

 

「待て! そんなことやらなくていい!」

「悪魔サマ。あなたサマの意思は関係ないのです。私は立会人。職務は取(・)り(・)立(・)て(・)。きちんと帳尻を合わせるのが私の役割。ですので邪魔するようなら、排除する必要が出てきます」

 

 悪魔は逆噴射で背後に回る。攻撃。立会人は片手で軽々と防ぐ。

 

「っ────!?」

「無駄だと分かっているはずです。私はルールの上では無敵。取り立ては必ず遂行いたします」

「では答えろ! 地下には何がある!? その情報量で手を打て! 七瀬ゆきかを落とす必要はない!」

「後になって別のものが欲しいという要求は飲めないと忠告したはずです。悪魔サマも了承したはずでは?」

 

 悪魔は雨刀の時雨蒼燕流で斬りつけるが、繰り出す奥義の全てを完璧に捌かれてしまう。

 

 立会人は跳躍。宙を飛んでいた七瀬ゆきかの首根っこを掴むと急直下。円を描いたコンクリートを靴で蹴り砕くと、底の見えない地下に七瀬ゆきかを放り投げた。

 

「────えっ?」

 

 深淵に落下する七瀬ゆきか。

 悪魔は逆噴射で助けに向かうが、突然顔面が地面に激突した。

 

「ガッ────ハッ……!?」

「悪魔!?」

「おぉ痛い。申し訳ございません。具現魔法で穴を閉じたのですが……バ(・)ッ(・)ド(・)タ(・)イ(・)ミ(・)ン(・)グ(・)でしたね?」

「ぐっ……!?」

 

 悪魔は頭が回る中、白羽根に呼びかける。

 

「おい! この下には何がある!? 仲間が落ちたぞ!! オレが《助太刀》魔法で助けに行く! 魔法封印を解いてくれ!」

「…………っ」

 

 白羽根は撤退を選び、六人の黒羽根を率いてゲートの奥に退散した。

 

「────くっ!」

「おい悪魔! 待て!」

 

 死炎噴射による音速突破。緑色に光り輝くワームホールのようなゲートを通過すると、目前に貯水槽が広がる場所に到着した。

 

「さっきと同じ場所!? いや違う……見かけは似ているが、先には進んでいる……!」

 

 等間隔に並ぶサイケデリックな着色の柱の間を縫っていき、音速で跳躍して地を駆ける羽根たちに追いすがる。

 

 直後、悪魔の超直感が明滅した。

 

「────ッ!?」

 

 七瀬ゆきかの身に何かがあった。本来なら《助太刀》魔法を行使するが、今は封印されていて使えない。

 

(クソッ……! 賭けの勝利を盤石にするためとは言え、情報を多く持っているであろう白羽根を自由にさせておいたのが完全に裏目に出た……っ!)

 

 悪魔の噴射が途切れ途切れとなる。頭痛のあまりまっすぐ飛行していられない。墜落する戦闘機のように回転しながら降下する悪魔は深さ数ミリの水面に着水。地面を転がって全身に水を浴びる。

 

(ぐぅっ……! なんだ、これは……! 超直感が収まらない……! いつもより長く暴走している……!? 何度死に目に遭っているんだ……!! 十七夜が巻き込まれたウワサに引けを取らないおぞましさだ……っ!!)

 

 そこに佐倉杏子とマメジが駆けつけてくる。

 

「悪魔! お前こんなところでなにぼーっと寝てやがる! 殺されたいのか!」

「っ……! 超直感の暴走が、止まらない……!」

「……! ……ちょっとは落ち着け……別に悪魔は悪くないだろ……」

 

 悪魔は、佐倉杏子の心を読む。

 

「────第二ゲームだと?」

「…………あぁ。立会人が言ってた。ここ中層で第二ゲームを執り行うんだってさ。だがその様子じゃあ続投は無理そうだな。次はあたしがやるしかないか……まぁゲームは得意な方だし、なんとかなるかもしれないね。もちろんゲームっていうのは────」

 

 立会人を介さないペルソナカード強奪ゲームのことだが。

 佐倉杏子は、悪魔を捨て置いて先に行こうとする。が、歯を食いしばって立ち上がった悪魔はその肩を掴んで離さない。

 

「────なんだよ」

「っ……オレが……出る……その方が、最効率だ……」

「…………ったく。ならもっとシャキっとしな!」

 

 佐倉杏子は悪魔の背中を叩いて肩を持つ。もはや一人で歩けない悪魔は、激しい頭痛に見舞われながらも佐倉杏子の肩を借りて中層最奥に辿り着いた。

 

 そこにはミザリー立会人と、数体のミザリーオウル。そして白羽根と黒羽根が合わせて七人いた。七瀬ゆきかの姿はどこにもない。

 

「お待ちしておりました。これより第二ゲームを執り行います。どちらがテーブルに着きますか?」

「こいつだってさ。言うこと聞かないからどうしようもないよ」

 

 頭を抑える悪魔は席に着く。

 しかし羽根たちの方は誰も席に近付かない。

 

「あん? なんだあんたら。戦意喪失かい?」

 

 佐倉杏子が語りかける。すると黒羽根たちは次々と語りだした。

 

「違う」

「ちがう」

「必要ない」

「あの子が鍵」

「これで勝った」

「あなたは終わり」

 

「……? いったいどういう……、────っ!?」

「キャンキャン!!」

 

 突然マメジが激しく吠えたてる。

 次の瞬間、ウワサ空間が轟然と激震した。

 

          †

 

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