アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
※ダイジェスト※
一方その頃。参京区の地下貯水槽にて。
環姉妹リリス、やちよ鶴乃、まどほむ、黒江凪イーピン。なぎさ。
立会人は万年桜。手が足りないためミザリー立会人から応援を要請されたとのこと。以前からの友達であるため助けたいという。ただし立会人と取引して、環姉妹の安全だけは既に“議論ではなく戦って勝利し”取り立てた。意外と好戦的な万年桜である。
七海やちよ(百江なぎさも可能だが護衛に徹する)がゲームに参加。ブラックジャック。観客たるいろはたちの幸運をもらって21を出しまくり全戦全勝。勝負後、羽根たちは撤退。
万年桜に勧められて奥に進む。明らかに罠だが手がかりが欲しいため進むしかない。全てのウワサを倒せばマギウスもしびれを切らしてしっぽどころか顔を出してくるかもしれないから。
幸運水を使って勝利後、羽根たちと戦うかと思いきや。突然ミザリー立会人が現れて「あなた方の存在が賭けられました」と取り立て準備を始める。次々と神隠しに会い、七海やちよが抵抗するが、無害ゆえに無敵。羽根たちも困惑しており、共に押収される。最後に七海やちよが押収されて────そして誰もいなくなった。
轟然と震撼するウワサ空間。
「なんだ!?」
佐倉杏子は右の壁の下方から迫り来る魔力反応を感知。直後、ウワサ空間・中層の壁が撃砕されて、血みどろの七瀬ゆきかが滑り込んできた。
「ハァ、ハァッ、ハァアッ……!!」
「なんだ……あんた、どっから来た……その傷は……」
「七瀬ゆきかサマ。ウワサ空間の
「確殺地下施設だって? おい立会人! あんたさっき、ここのウワサの全容は悪魔に明かしたんじゃないのかよ!?」
「もちろん明かしました。悪魔サマがご要望になられたのは、
「じゃあ確殺地下施設ってのはなんなんだ!」
「教える必要はございません。知りたければ、それをゲームの報酬としてください」
そこで七瀬ゆきかが言った。
「ただの……結界ですよぉ……数あるウワサ空間のひとつ……でもまさか、あんなことになっているなんて……」
「……っ! いったい……何があったんだ……?」
「ふふ……
立会人が具現魔法で壁を修復する。
「確殺地下空間から繋がっていると、
「スゥ……ハァ、ハァ……悪魔……さぁ……続けましょう……ゲームを……!」
「…………」
七瀬ゆきかはテーブルに着く。魔力による肉体再生を行わず席に着いた。
「おい……死ぬぞ」
「いいじゃないですかぁ……お互いにボロボロの状態で、それでもまたボロボロになるかもしれない……そのスリル……! 格別ですよぉ……?」
「────お前……最初と全然キャラ違うな……」
七瀬ゆきかは興奮状態にある。貞淑な令嬢はどこへやら。今やもうただのスリルジャンキーである。
その時、遠巻きに見守る火属性の白羽根、白赤羽根が聞いた。
「七瀬ゆきか……行けるか?」
「はい……余裕ですよぉ……」
悪魔の匣兵器がガタッと揺れる。
「どうした、キュゥべえ」
「とんでもない魔力係数を検知した。やはり僕の予想通りなら────君はここで死ぬかもしれないね」
それを耳にした佐倉杏子は目を見張る。
「おい、キュゥべえ……そりゃあいったいどういう……!!」
「────そうか。まぁ……
「……っ! 悪魔……?」
悪魔は考える。七瀬ゆきかの固有魔法のことではない。先ほど被った大量の不運水のことだ。
(不運水を被ったまま先に進むのは得策ではない……だが不運水を被った状態でゲームに参加するのは愚の骨頂だ。はたして不運水の効力はいつまで続くのか……時間? 不運が起きた回数? 仮にそうだとして、大量の不運水を浴びたのはマズイ。ウワサは多くの人を巻き込んでいる。参京区と工匠区に幸運水のウワサが存在し、数ヶ月活動していたとしたら────どれだけの不運を吸い上げた?)
幸運水の原理を考える。幸運水を飲むと、対象の不運をミザリーリュトンが吸い取るシステムなのかもしれない。そして不運を吸い取った分、等価交換として幸運と不運を同時に与える。24回の幸運の後に、同じ回数の不運を与える。
(一人あたり24回分の不運を吸い取るとして、参京区と工匠区の学生と新米職人の数は……データがないから当てずっぽうで当てるしかないな。……ミザリーリュトンは
どのみち襲い来る不運に耐え切るしかない。悪魔は
(ただ問題なのは、
「それでは質問です。互いに何を賭け、何を所望しますか?」
ミザリー立会人の質問。
そこで七瀬ゆきかは、なんのためらいもなく自らのソウルジェムを取り出した。
「私は……
「────!」
悪魔と佐倉杏子は驚愕の顔色を見せる。それは後方の羽根たちもそうだった。
「……それで? 所望するものは?」
「……えぇーっと……ウワサの地下は……さすがに死んでしまいますので……どうしましょう……?」
にやける七瀬ゆきかは、特に欲しいモノが思い付かないと言う。
そこで白赤羽根が叫んだ。
「何を言っている! マギウスの命令通り悪魔を地下に落とせ!」
「で、でも……あんなところに落としたら、この人、死んじゃうじゃないですかぁ……わたし、こんなこと聞いてませんよぉ……マギウスに楯突く人は捕らえるだけって言ってたじゃないですかぁ……ふへ……」
白赤羽根は歯噛みする。今の七瀬ゆきかは意識が朦朧としている。血を流しすぎているのだ。
そこで立会人が指を鳴らす。
「ではこうしましょう。何を取り立てるかは私の一存ということで」
「あ、はい……それでいいです……私、これさえ賭けられれば、もう別に……ふへほほ……」
「イカレテやがる……意味わかって言ってんのかアイツは……」佐倉杏子の呆れを通り越した恐怖の呟き。
悪魔は挙手する。
「不要だ。こいつのソウルジェムなんてオレは欲しくない」
「却下します。私は七瀬ゆきかサマの賭物を許可しました。なぜなら私が知る限りの情報では、彼女の
────さて、そうなると悪魔サマは、彼女の
「はぁ!? なんだそりゃ! 勝手に高額賭けられて、今度はこっちがそれに見合うものを払えだと!? そんな手前勝手な基準が認められるか! やっぱ立会人もグルだ! こんなのに付き合ってられっか!」
佐倉杏子は一人でも先に行く意思を持ち、ゲームの決着が着く前にウワサ本体を倒すべきと判断。腰を屈めて跳躍準備する。
「佐倉。……ちょっと黙って見ていてくれ……」
「────っ!?」
佐倉杏子は動揺する。悪魔の考えが読めない。悪魔の言うことなんて無視して先に進めばいい。それがいつも通りの自分だ。しかし、なにかひどい警鐘が、体の中で鳴り響いている。それから少し考えて、佐倉杏子は槍を下げた。それは悪魔を心配するからか、悪魔を理解しようとする葛藤からか、あるいは単に悪魔の言葉の圧に気圧されたからか。
立会人は話を続ける。
「悪魔サマ。賭けるものとご所望のものをお教えください」
「……っ……分からない……こればかりは……どうしようもない……」
「──は? おい悪魔、何を言って……お前マジで何を考え────」
佐倉杏子の困惑。
対する悪魔は、もうどうにかなってしまいそうだと、何かに苦しめられている。
「そうですか! では私がお決めになっても構いませんか?」
悪魔は辛そうな顔で頷いた。佐倉杏子は考えるより前に駆け出す。
「ではこうしましょう! 七瀬ゆきかサマは自らの魂を賭けました! ならば悪魔サマもご自身の魂を賭けていただきましょう! でなければ不釣り合いです! 価値が見合いません!」
佐倉杏子は慌てて、悪魔の肩を掴み、引き寄せ、その顔を覗き込む。それは腐るほど見慣れた、ナイフのように研ぎ澄まされた真剣な表情。シワ寄る眉。不屈の意志を燃やす瞳は、恐怖と覚悟が綯い交ぜとなって揺れている。まるでこれから先、何が起きるのか、予想が付いているように。
悪魔の肩は、怯えるように震えていたのだ。さながら教会で懺悔する罪人のように……。
「────────悪魔────」
「しかし私の力では、形のない魂の取り立ては不可能です! なので代替案として《命》としましょう! それがいい! 魔法少女のソウルジェムは魂でもありますが命そのもの! ……はて? しかし悪魔サマの心臓や脳みそを取り立てたところで、《魂と命を宿すソウルジェム》には遠く及びませんねぇ……たとえ悪魔サマの全身を取り立てても……全く価値が見合いません」
ミザリー立会人はアゴに手を当てて悩み込む……フリをする。
「つまるところ、魔法少女の魂は人間の命より重い、ということですね。インキュベーターとの契約によりエントロピーを凌駕したのですから、その分も乗っかって、もはや比べくもない価値の差が存在いたします。となると悪魔サマの命を取り立てても全然足りません。どうしたものか……簡単に悪魔サマの貯金を取り立てようにも、私は神浜市の中にあるモノしか取り立てることができませんので……財布の中身もたかがしれているでしょうし……はてさて、これは困りましたねぇ……」
ふとミザリー立会人は名案閃いたりと、わざとらしく手を叩く。
「あぁそうだ! うっかり忘れていましたが、そういえば悪魔サマは
「────!」
悪魔の目が動揺の色を浮かべる。
しかしすぐに落ち着いた。まるで(やはりか)と得心したように。
「ソウルジェムにはソウルジェムを。魂には魂と同じくらい大切なモノを。────というわけで、悪魔サマはご自身の魂と同じくらい大切なモノ……ないし、ご自身の魂より大切なモノを賭けていただきます。それでやっと魔法少女のソウルジェムという、エントロピーを凌駕した産物と対等! 同価値になりますっ!」
「断る」
「ほほう。そうですか。では代わりの品物をご提示ください。悪魔サマにとって魂とも言えるものを教えて下さい。でなければ自動的に負けと見なします」
現時点での負けは、悪魔の命と笹川京子のソウルジェム、水泳の魔女のグリーフシードを取り立てられることになる。
それだけは避けなくてはならない。悪魔が死ねば、悪魔契約・第二書を交わした
悪魔の額に苦い汗が滲み、背中に冷め切った汗が一滴、滑り落ちる。
「……………………、…………オレの両目にある三つの遺品は、何があっても手放せない大切な代物だ。これを賭けることはできない。絶対に。宇宙がひっくり返ってもだ。加えてオレの命も賭けることはできない。……であれば何かほかのモノを
「五分です。制限時間は五分。それまでに賭けるものを決めて下さい」
「────────」
悪魔の鼻息が荒くなる。それは
その様子をすぐそばで見つめる佐倉杏子は、悪魔が動揺する姿を網膜に焼き付ける。悪魔の考えが全く読めず、無意識に……彼の肩を握る手に力を込めていた。悪魔の肩に引っかき傷ができる。悪魔の肩の骨にヒビが入る。それを自分への罰として受け入れる悪魔は抵抗しない。
そして悪魔は、とても
「言い訳無用。オレは────
「──── ……は?」
理解が追いつかない佐倉杏子は愕然と佇む。
「詳細を告げる。魔法少女はソウルジェムの身柄を。ソウルジェムを持たない者はその身柄を」
(七瀬ゆきかはソウルジェムを賭けただけで
だがその前に立会人はどう判断している? 先ほどの口振りでは
だから
悪魔の心境は暴れていたが、悪魔の表情は
「続けて具体的な名前を列挙する。
佐倉杏子は悪魔の胸ぐらを掴み取る。次の瞬間、立会人が佐倉杏子の右腕を手刀で切り飛ばしていた。されど佐倉杏子は動じず、痛覚遮断しているとはいえ肉体的、さらには精神的な苦痛に顔を歪めることもなく、じっと悪魔の横顔を見下ろしていた。
「────」
「佐倉。立会人は無害ゆえに無敵だ。その概念強度は破れない。殺されるぞ。大人しく後ろに居てくれ。そして早く肉体を再生しろ。これから絶対に負けられない戦いが待っている」
「血迷ったか。それともなんかの魔法を掛けられて操られているのか? スタンド攻撃でも受けているのか?」
「オレは最初から血迷っているよ。……それに佐倉の分析魔力で暴けないなら、それは魔法でもスタンド攻撃でもなく、根っからのオレの意志ってことさ」
「なぜ……ッ!」
「だから言ったろ。ちょっと黙っててくれ……考えなきゃ、考え続けなきゃ、いけないんだ……
悪魔と佐倉杏子の右肩から
悪魔は、本当に悪魔のような口を開く。
「続けて、一般人は────リリス、万年桜のウワサの端末体、黒江、フゥ太、イーピン、千歳ゆま、鼓星かずみ、マメジ、Dキュゥべえだ」
佐倉杏子は殺意を発して、眼前の素首を刈り取ろうとした。直後、立会人による震脚の地鳴り。発勁の空砲。額と腹部を刹那のうちに打たれた佐倉杏子は、遥か後方の石柱に激突。激震と亀裂が走る。パラパラと砕かれた石柱の破片がボトボトと水面に落ちる。
「ワフッ!?」マメジの驚愕。警戒。
「既に佐倉杏子サマは取り立ての対象になる可能性がございますので命までは取りません。ご容赦をば」
「立会人。リリスとDキュゥべえ、万年桜のウワサの端末体と鼓星かずみは特殊な存在だが、大丈夫か?」
「何も問題はありません」
佐倉杏子は石柱の窪みにハマった状態で歯茎を噛み締める。なぜだ、と叫ぶように、爪が食い込み血が流れるほど手のひらを握り締める。発勁の衝撃で口の中を切ったのか、あるいは自ら唇を噛み切ったのか、口の端から血を流し、その両目を前髪で覆い隠している。明滅する真紅のソウルジェム。
「いやしかし……ンンンなるほど! 悪魔サマにとって、おつらいものを賭けたのでございますね? しかし他人の命を賭けるのは、悪魔サマがどれだけツライかという精神的な話になりますので、対価としては曖昧な計算になりますが……」
(他人の
「えぇ、いいでしょう! それだけのソウルジェムがあれば充分な対価になります! しかし幾つか問題が。
まず一つ目。七瀬ゆきかサマはご自身を賭けに出しました。しかし悪魔サマはご自身の命を差し出さず、赤の他人の命を賭けた。つまり、そのぶん等価交換としての
加えて二つ目。ぶっちゃけ私は、悪魔サマが
(────既に手元にある信憑性の高いデータ……? それはいったいどこから仕入れた? 立会人がオレの両目を知っている理由と何か関係があるのか……? ────いや、まさかとは思うが……オレの両目と、オレの大切な物のデータを知っているマギウス側の人間なんて……まさか────!)
「さて、そのためにはどうすれば────っと、これまたうっかり忘れていましたが、そういえば悪魔サマはインキュベーターをお連れになられておりますよね? では、なんでも知っておられるキュゥべえサマ、何か名案はございますでしょうか? 三百万年の生き字引なのですから、思いつかないことはないでしょう?」
「僕はなんでもは知らないよ。知っていることだけなら、教えることはできるけど」
「では!」
「ランキングフゥ太を使えばいいんじゃないかな。彼のランキングは宇宙一だ。僕のお墨付きだよ」
「なるほど。そんなものがあるとは世の中は広いですね。では────」
刹那、立会人が姿を消し、再び姿を現した。立会人の前には呆然と立つフゥ太が立っており、立会人の白い手袋がフゥ太の両肩をモミモミと揉む。
「あれ? ここどこ? 僕、ランボを寝かしつけて、おやつ食べながらテレビを見ていたのに……」
「フゥ太サマ。ランキングなるものをお願いできますか? わたくし、よく仕様が分からないのですが」
「あ、ツナ兄! えっと……この人は誰?」
「フゥ太。黙って立会人の言うことを聞いてくれ。お願いだ」
「フゥ太サマ。《悪魔サマの大切な者ランキング》をお願いできますか? ただしランキングに乗るのは、これから私が述べ上げる人物のみでお願いいたします。可能ですか?」
「う、うん……わかった……そのくらいお安い御用だよ……」
フゥ太は目を伏せる。ランキング星と交信開始。その証としてフゥ太の周囲に無重力の空間が発生する。
そしてフゥ太は《悪魔の大切な者ランキング・限定版》を発表した。
「ツナ兄の大切な者ランキング・限定版は────」
1位:Dキュゥべえ
:鼓星かずみ
:万年桜のウワサの端末体
:リリス
5位:武蔵
:チーズ
:ナッツ
:マメジ
:イーピン
10位:ランボ
:千歳ゆま
:フゥ太
:千秋理子
:環うい
15位:百江なぎさ
:深月フェリシア
:ジュリー凪
:佐倉杏子
:暁美ほむら
20位:鹿目まどか
:巴マミ
:黒江
:環いろは
:七瀬ゆきか
25位:由比鶴乃
:アシュリー・テイラー
27位:七海やちよ
(────なぜマミの名前が入っている? 立会人、まさか……やはり、そうなのか……?
それに七瀬ゆきかもなぜ……いや、それはオレの心理をより深く探るために入れたのか……)
「ふぅむ……これ、ほぼ年齢順ですよね? 公私混同せず立派ですが、少々人情味に欠けますねぇ……と、普通の人なら思うでしょう。ですが私は自前のデータと照らし合わせることで……ホーホー、なるほど?
私の性格診断を発表します。要するに悪魔サマは、
「わーい!」
「では二つのデータを編纂しますので、少々お待ちをば」
状況が分かっておらず、褒められて喜ぶフゥ太。
そこで悪魔は、今までにないほど苦渋に満ちた顔立ちで、テーブルの上に乗せる両手を握り締めていた。
(────立会人が保有するデータでは、1位が佐倉……そうか……じゃあもうこれで完全に……決まりだな、マミ────)
悪魔は直感せずとも確信した。
この
(もしオレが魔法少女だったら……ここで絶望していたんだろうな……はは……ドッペルは何かな? 自己犠牲のドッペルか? 笑えないな……)
俯く。だが嘆いている暇はない。巴マミはウワサによって操られている。でなければこんなことはしない。
悲嘆を死ぬ気の力に変えるべく、悪魔は勝利と叛逆の意志を極めんばかりに裡に燃やして高めていく。
その時、七瀬ゆきかが視線鋭く、悪魔を睨みつける。
「あなた────ひどい人ですね……」
「……」
「私は自分のソウルジェムを賭けたのに、あなたは自分の命は惜しいと言う……そして仲間の命を賭けた……やはりマギウスの言う通り、あなたは魔法少女の解放を邪魔する“敵”なんですね……」
「…………」
「わたしが穴に落ちた時、あなたは最後まで助けようとしてくれました。あれはなんだったんですか? 偽善ですか? 偽物の善。あなたの善性は誰かの借り物でしたか?」
七瀬ゆきかは問い詰める。
「人間は追い詰められると本性をあらわにすると言います。自分が助かるために他人を蹴落としたり、見捨てたり。一方、脳医学や心理学の世界では、他人を蹴落としたり見捨てたりするのは、あくまで防衛本能の発露で理性を失い狂気に走るからであり、本性をあらわにしているわけではない。それは野性的な根源的本能が覚醒しているだけで、誰もが追い詰められれば同じ行動を取ってしまうはずだと、そう言われています。……仮にそれが正しいとして、
「……………………」
悪魔は思う。その話が本当だとしたら。
「はたしてオレはどっちなんだろうな」
「……?」
「オレの行動は理性によるものなのか。そのつもりだが、他者から見たら狂気そのものだろう。オレも気付かないうちに狂気に走っているのかもしれない。となると、こういうこともありえるんじゃないか?」
「何を……」
「
不敵に笑う悪魔は、どこか乾いて疲れていた。
まるでこれからの未来を諦観しているように。
もう、何もかもが痛くても、絶対に耐え抜くしかないという……幸福な未来が約束された、壮絶な地獄を受け入れているかのように。
「もし、後になって敬意を表してくれるなら──こんなのに敬意を表する奴はいないだろうが──……どうか思い返してほしい。
この時のオレが、何を思っていたのかを────」
助けを求めるように薄く笑う悪魔は、
†