アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
着想元:嘘喰い
【クフフ……】六道骸
「それでは第一ゲーム同様、イカサマも魔法も使用禁止! 常時発動型の魔法のみ例外的に認めます! なお外部からの魔法干渉にも私は関与しません! 干渉を嫌うならご自身の勢力を駆使して排除してください!」
ミザリー立会人はカードをシャッフルし、悪魔と七瀬ゆきかに五枚ずつ配る。
通常のポーカーと異なり、ベットもチェンジもない。ただディーラーから渡された五枚のカードで勝負する。つまり
「それでは1ターン目! オープン!」
手元で配役を作る必要はない。出せばそのまま配役が完成する。複数の配役を作れる場合は選択すればいい。相手に見られて困るものがないからこその、即時オープン。無論、すぐにオープンしなければいけないルールはない。単に立会人が興奮しているだけなので無視しても構わない。ただしすぐに出さないと遅延行為として怒られそうではある。
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悪魔の配役──「嵐・雲・雨・雷」「霧」──フォーカードの霧ウロボロス。
役名は疾風怒濤への“嘲笑”。獲得点数は4点。
七瀬ゆきかの配役──「雲・雨・霧」「晴・大空」──スリーカードとペア。
役名は凶兆と義兄弟。獲得点数は5点。
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「そんな……いきなりウロボロス……」黒江の悲嘆。
「で、でもまだ一点差だよ……全然挽回できる……」暁美ほむらの不安げな声。
「このゲームは6ターン目からが勝負……その時に引きの良さを見せるしか勝機がないゲームよ……ルールがシンプルゆえに、逆転は容易であり、同時に逆転しにくいシステムでもある……」伏せた目で七海やちよは考察する。
そこで立会人が愉快そうに進行していく。
「場に出したカードは回収し、捨て札として墓地に置きます。
それでは余興開始です。それぞれチョイスプレイヤーを決定してください!」
悪魔は霧属性の保有者1名しか選出できない。
対する七瀬ゆきかは5名もの魔法少女を選出できる。多勢に無勢だ。下手な奴を選べば殺される。
「────凪。いや……
「……! ボス……分かった。ボスの期待に応える……!」
「参京区担当のAチーム……紫羽根、青羽根、藍羽根、黄羽根、橙羽根の皆さん……よろしくお願いします」
『…………』
「さぁ! チョイスプレイヤーが選出されました! 舞台に転送します! ゴングが鳴ったら戦闘開始の合図! 暇な方は死闘を観覧して楽しみましょう!」
「そんな……ちょっと待ってください悪魔さん! どうして凪さんを……!? 無属性の魔法少女は戦闘能力を持たないって言ってたじゃないですか……!! こんなの無茶です!」
「悪魔! 今すぐあたしに変えろ! テメェ正気でこんなことしてんなら……っ!!」
「5対1なんて無茶ですよ! どうしてこんな、悪魔さん……!」
「……凪さん。あなた……行く気なのね?」
ガラスを叩く黒江と佐倉杏子、そして環いろは。
対する七海やちよは、静かに凪の覚悟を見て取った。
四角形の舞台に6名のチョイスプレイヤーが転送される。
同時に悪魔は、テーブルの下で
「……みんな、心配しないで……私は、たぶん大丈夫……」
「凪さん……でも!」
「黒江……私にはみんながいる……みかづき荘だけじゃなくて、黒曜のみんなが……!」
「だとしても……それでも一人で戦うことには変わらないじゃないですか!」
黒江の慟哭。それを一笑に付すかのような高笑いがこだまする。
「クフフ……まったくです。おかげで僕が出張る必要ができてしまった……」
「……え────?」
凪は目を見張る。特徴的な藍色の髪型。黒曜中の制服。もしやこれは幻なのかと目をこする。
「幻などではありませんよ……それより、これで幸運は一回というところでしょうか……」
「────骸、様……?」
凪だけではなく、ほかの者たちも謎の男の登場に驚いていた。
三叉の槍を手にし、右の瞳に六の文字を浮かべる中学生男子。
「まさか憑依先も無しに実体を持って現れることができるとは……術士として半人前のあなたでも《有幻覚》を使えるようになる最高ランクの霧系リング……もちろん僕の六道輪廻のスキルも合わさっての有幻覚ですが……それでも恐ろしいですね……どこでそんなものを……?」
「ちょっと不運と踊っちまってな」
「クフフ……普通に冗談が面白くないですね。ただしクロームを危険な目に合わせたことで差し引きはゼロです。感謝なんて死んでもしませんよ。むしろ
「あぁ……存分にやってくれ、骸……」
彼の名は六道骸。その姿は実体のある幻覚。
(クローム。沢田綱吉は皮肉を返せないほど疲弊しています。いつもなら“オレの心配より自分が二度死ぬことを心配した方がいいんじゃないか?”などと毒を吐いてくるでしょう……実に憎たらしいです。一発ぶちかましてやりたいところですが、僕も実体化こそ出来たものの戦闘力の点では大きく魔法少女に劣っている状態です)
(……! 骸様……!! やっぱり死んでな……)
(いいえ。ちゃんと死んでいますよ。……それより時間がありません。とにかくおまえの覚悟を見せてください。おまえの初めての
(で、でも……)
(何をいまさら臆しているのです。僕の教えたことを忘れましたか?)
(……! ……幻術の、リアリティ……)
(そうです)
(それは……術士の持つリアリティ。一番信じるものこそ……最も強い幻覚となる……)
戦いのゴングが鳴る。
「多勢に無勢でも容赦はしないぞ!」
「目をつむってる……!?
「諦めたか……」
「なら一撃で楽に終わらせてやる!」
「スタンドを使うまでもない!」
五人の黒羽根がジグザグに駆ける。
(私が────最も信じるもの────)
凪は霧系リングに炎を灯す。それは悪魔が流す霧系リングと共鳴し、六道骸の右目から地獄の力を引き出す。
凪の目の前に彩る藍色の炎。それは大いなる霧となって、六道骸の傍らに新たな幻影を生み出す。
それは三人の姿を伴う、城島犬、柿本千種、
(やはり……おまえの最も信じるものは、これなんですね……そろそろ独り立ちして欲しいと思っていましたが……既に新天地に発ち、そこで昔のことを少し懐かしむ程度なら……まぁ、いいでしょう……)
それは今は亡き仲間たち。骸の声で目を開けた凪は、現実として存在する郷愁の面々を見て涙を流す。
「……っ。犬、千種……!」
「ったくめんろくせーびょん。このくらいの人数、ひとりで倒せってーの」
「魔法少女5人だよ? こんな怪物相手に、ホントにひとりでやれるの? 犬」
「ってかちょっと待って。いま私の名前だけ呼ばなかったわよね、この小娘」
金髪ワイルドな少年。左頬にバーコードの少年。紅髪の少女。
突然の闖入者に驚いた黒羽根たちは立ち止まり、警戒する。
「犬、千種、M・M……戦闘時間は五分しかありません。この場に居る全員の幸運を消費させない限り、悪魔に勝ちはありません。故に速攻で行きますよ」
「りょーかいびょん!」
「めんどいけど、やるしかないよね」
「私お金もらわないとやってられないんだけど」
「クフフ……幻覚払いでいいですか? ────そしてクローム。分かっていますね? 全ては僕らの有幻覚を形成する、おまえのイメージに掛かっています。一瞬たりとも気を抜かず、さりとて余裕を持って……敵陣営を蹂躙しましょう」
「は、はい……!」
その時、待機所の黒青羽根が部下に指示を出す。
「よくわからんが、なにか危険だ! スタンドを使用しろ!」
『っ! 了解!!』
五体のスタンドが発現する。
次の瞬間、全体の速度が二倍に引き上がった。
「っ!?」
「クフフ……
「コングチャンネル!」
城島犬は牙状のカートリッジを口の中に装着すると、全身がゴリラのように巨大化。怪力を発揮。乱暴に腕を振り回すが、相手にとっては幸運にも攻撃が空振りに終わる。「おらぁ!」だが気合の一発がようやく命中。眼前のスタンドを殴り飛ばす。
「きゃあ!?」スタンドのダメージがフィードバックして吹き飛ばされる黄羽根。
「なに!? 人間が素手でスタンドを殴るだと……!? しかもなんだゴリラになったぁ!?」驚愕する白青羽根。
「ただの人間ではありませんよ……僕らは生命体でも精神体でもない……強いて言うなれば幻覚体……生と死、体と心、魂の境界線上にあるようで存在しない幻影……すなわち、
六道骸の体に青羽根のスタンドが叩き込まれる。それを三叉槍でガードし、右目からオーラを灯す。修羅のような格闘技で薙ぎ払い、凪を守るため後退しようとするが────不思議と体が動かない。
「────おやおや。これは……
「了解」
柿本千種はヨーヨーを飛ばすと、そこから無数の毒針が飛び出し、敵全体に攻撃を加える。五体のスタンドが毒針を叩き落とすが、幻覚体はスタンドにダメージを与えることができる。毒という概念が精神的に体を蝕ませるが────幸運にも誰も毒状態には陥らなかった。偶然すべての毒針にチクリとも刺さらず叩き落とすことができたようだ。
「いい調子です。残り四分……ところで先程から橙羽根のスタンドが地面を殴っているのが気になりますねぇ……地面に何かを仕込むスタンドでしょうか? M・M」
「まさか突っ込めって指示じゃないわよね? 骸様」
「クフフ……まさか。音響兵器で誘爆してほしいだけですよ……」
M・Mはクラリネットから音を出して音波を飛ばす。それが水平面に響いた途端、次々と目に見えない地雷が爆発した。
「くっ! せっかく仕掛けた水平面の罠が……! やはり障害物がないと使いにくい能力だ……!」
「だが味方にダメージはない! 幸運水のおかげだ!」
やがて黒羽根たちは幻覚体との戦い方が分かってきたのか。人間のように見える群体型のスタンドと敢えて解釈し、それを相手にするような戦法を取ってくる。
紫羽根が得物たる双剣をスタンドで殴る。すると双剣が三つに増えて六剣。そのうち四本を投擲した。
「躱すのです」
城島犬、柿本千種、M・Mは飛び退くが、六道骸は凪の前に立ち塞がり、自分の右目を抉ってひっくり返した。
「六道輪廻・人間道」
四本の双剣が六道骸の三叉槍に命中した瞬間、それは破裂した。爆発の煙が晴れる。全身が焦げ付いた六道骸は右目から黒いオーラを出しており、片膝をつく。
「クッフフ……なるほど……ひとつのものを三つに増やし、偽物の二つは触れると破裂……」
「うわぁああ! なんらこれー! 右に行きたいのに左に行くー!」
「犬。それはおそらく、右を左にする能力です。ややこしいので────奪ってしまいましょうか」
六道骸は餓鬼道のスキルを使用。一時的に藍羽根のスタンド能力を奪取して自分のものにした。
「えっ!? 私のスタンドが消えた!?」
「さてさて……戦力分析は済みました。残り三分……そちらの幸運を削らせてもらいますよ!」
六道骸は畜生道を発動。毒蛇の群れを召喚し、敵陣営に襲わせる。
払っても払っても毒の牙を尽きててくる毒蛇の群れ。それを黒羽根たちが幸運にも噛まれず、ことごとく蹴散らしている間に、六道骸は大技のタメに入る。
(さぁクローム。連携攻撃です)
(え……)
(クローム。この街に来て何を感じ、何を知り、何を得ましたか? そのリアリティを投影するのです。新たな覚悟はリングの炎を更に強める。幻術の強度も高める。さぁクローム────死屍累々の廃墟で独り、雲に拾われ嵐に見舞われ、雷雨に降られて晴れに照らされ、なおも寂しさを募らせたみなしごよ……新たに得た信じたいものを今度こそ守るべく、今こそ大空に羽ばたくことを恐れず覚醒する時です……!)
「────旅立つ覚悟は……黒江から教えてもらった……」
持って回った六道骸の助言を一瞬で解した凪は、その解析力で幻術の強度を高め、新たな仲間が居るという安心感が霧の炎の炎圧を引き上げる。
「これが私の────信じるもの!」
「刺し穿て、地獄の炎」
「ライオンチャンネル!」
「ダブルグラヴィディ」
「クレッシェンドワルツ!」
凪もといクローム髑髏は、三叉槍を地面に突き刺して幻術を使用する。見せる幻は噴火。敵陣営の足元から大地が炸裂し、そのリアリティに騙されるものは実際に火傷して大ダメージを受ける。……はずが、偶然にもガラスの反射が違和感を与えて、黒羽根たちはそれが幻であると看破した。幻覚は見破られるとダメージを与えることができない。故に黒羽根たちは無傷で済んだ。
六道骸は“集まれない呪い”により誰にも接近できないため、向上した身体能力を活かして地獄の炎を付与した三叉槍を投擲する。それは紫羽根に当たるはずだったが、偶然こけた紫羽根は奇跡的に一撃必殺の投擲を躱した。
城島犬はライオンの牙で突進し噛み付くが、偶然にも橙羽根の体の中にしまってある鎖が邪魔して噛み切れなかった。
柿本千種は二つのヨーヨーを振り回して回転させ、近づく者を圧倒する。本来はもっと命中してもいいはずだが、偶然にも黒羽根たちは間一髪で当たらないでいた。
M・Mは壮大なる音波を飛ばす。それは偶然にも先ほどの地雷誘爆の中で生き残っていた地雷に命中し、かき消されてしまう。
「そんな……! せっかくみんなが……」
「いいえ、クローム。これで良いのですよ。そして謝罪しなければなりません。そろそろ僕も力尽きる頃です。あとは自力でなんとかするように。そして生き残ってください。いいですね?」
「骸様……?」
「僕の次に大切な、信じたい男を守りたいのでしょう? ならば……考えている暇なんてありませんよ……また取り逃がしてしまうかもしれないんですから……」
「あ────ダメ! 骸様……!」
有幻覚で構築された六道骸たちの姿が徐々に掻き消える。
(大丈夫です……僕はずっと、あなたを見守っていますよ……力を使いすぎたので、しばらく眠ってしまいますが……)
(骸様……! 犬も、千種も……)
(そういうことら)
(じゃあね)
(だから私の名前は呼ばないの!? 別に呼んでほしくもないけど! もし呼んだらぶってやるし!)
(う、うん……だから、呼ばない……)
(クフフ……みんなは相変わらずですね……さて、残り二分……あと一分になってからが正念場ですよ、クローム……)
完全に六道骸の気配が消える。有幻覚も消失。凪は今度こそ一人になった。
「ぐっ……今の能力はなんだったんだ……」
「だが消えたぞ! あれだけ強力な能力だったんだ。魔力切れでもう使えないと見ていい!」
「ここで叩く!」
藍羽根にスタンドが戻る。凪は右に逃げようとするが、なぜか左に逃げてしまっていた。
「あれ!?」
すぐ左にあった壁に激突────するかと思いきや、不思議にも壁にはぶつからず、怪我なくステンと柔らかく転ぶ。
(これは……まさか……幸運水のおかげ……?)
「喰らえ! 殺しはしない! ただ痛い目に遭ってもらうだけだ!」
「────っ! 構築魔力────幻影・投射!」
刹那、透明な四角形の空間は、いつの間に密林だったのか。
『────ッッッ!!?』
「バカな! もう魔力切れのはずでは!?」黒青羽根の驚愕。
「今まで使っていたのは、魔力じゃない……今から使うのが、魔法少女としての力……《施術》!」
施術した樹木は中央から割れて、四本のしなるムチとなり、黒羽根たちを打擲する。しかしそれは偶然にも空振りに終わるが────ムチの連撃の最中、途中から黒羽根に攻撃が当たるようになった。
「ぐわ!?」「きゃ!」「ぐっ?!」「痛い!」「どぅわぁ!?」
次の瞬間────遠くから悪魔の絶叫がこだました。一度目の絶叫。
「ぐあぁあああああああああ……!!?」
「────っ!? ボス……!?」
凪の動揺が構築魔力による幻影を弱めてしまう。
「カハッ……な、凪……! 前を、見ろ……ッ!!」
「────っ!」
大量の血反吐を撒き散らす悪魔は、どうしてそんなことになっているのか。
二度目の絶叫。凪の頭は混乱する。わけがわからなくて耳を塞ぎたいくらいだった。
「な、なんだ……?」黒羽根たちも困惑する。
「敵に気を取られるな! 残り一分だ! 急いで再起不能にさせろ!」白青羽根の毅然とした指示。
凪は逃走を選ぶ。構築魔力を張り巡らして障害物を作成。
三度目の悪魔の絶叫。凪は気を強く持って、蜃気楼のように揺らぐ密林の中を駆け回る。
「ちょこまかと! だがそこには地雷がある!」
「────っ!」
凪の足元でカチッと音がする。そのまま走り去る凪は振り返り、冷や汗を流しながら爆発しない地雷を見送る。
「なに!?」
「幸運水が残っているんだ!」
「もっと攻撃しろ!」
四度目の絶叫。悪魔は椅子から崩れ落ちる。テーブルに頭を打ってもんどり打つ。何かの激痛に必死に耐え抜く姿は見るに堪えない。充血する眼は限界まで見開かれており、喉元からとめどなくあふれる血流は「ゴボッ!」泡状のものも混ざって床を汚す。
「ボス────!? どうなって……!」
悪魔の居る方向を向こうとした凪は、全く逆方向に向いてしまう。右を左にする能力だ。これにかかってしまう条件がわからない。だが振り向いた先には黄羽根がいた。全体の速度を上げるスタンドを伴って突っ込んでくる。さらに視界端には紫羽根。一つを三つにするスタンドを持つ。今度は鎖を増やして投擲し、巻きつけて破裂させるつもりらしい。
「あっ!」
凪は転ぶ。頭上を黄羽根が通過。偶然回避に成功した。
しかし二本の鎖が飛び込んできて凪の両腕に巻き付く。直後────それは破裂した。
「っ────!?」
五度目の絶叫。悪魔は自らの両腕を抱えている。一方、腕を爆破された凪は痛覚遮断しているため
「これでトドメだ! 顔面を殴れば戦意喪失!」
「────っ!」
青羽根のスタンドによる攻撃が飛び込む。それは凪の額に激突────するかと思いきや、見えない壁にようなものに阻まれた。
「なに!?」
「壁……そこには私が作った壁がある……」
凪はバックステップで後退。ほか四人が飛びかかるが、全員見えない壁に激突して進行を阻害される。
「ぐっ!」
「構築魔力で密林の幻影をつくるばかりか……」
「それに紛れてモノリスのような壁をいくつも作るとは……!」
「無属性は戦闘能力を持たないことが多いのに……侮ったか……!」
「もう時間が……」
悪魔による六度目の絶叫と大吐血が試合終了のゴングと重なった瞬間。
チョイスプレイヤーは戦闘フィールドから自陣営の空間に転送された。
「っ!」
「凪さん! お願い環さん、治癒魔法を……!」
「分かった! 任せて!」
環いろはが治癒魔法を掛ける。凪の両腕が復活。ほかの細かい傷跡は活性魔力を流して綺麗に治していく。
「……あり、がとう……。……でも、ボスが……」
そこで立会人が余興の終了を告げる。
「いやぁ凄まじい幻術でしたねぇ! 羽根たちの皆さんは完全に手玉に取られていました! さて、これにて1ターン目は終了となります! 次のターンに入る前に、損傷した結界を修復しますので、少々お待ちくださいませ!」
そんな立会人の声は、誰も聞こえていなかった。全員、ありえないくらいの血の量を流す悪魔に目を奪われ、ある者は震え、ある者は怯えていた。
「いったい……どういうこと……?」七海やちよが呟く。
テーブルの上に突っ伏す悪魔。痙攣する全身。悪魔側にあるテーブルの隅と衣服、ズボン、靴、半径2メートルの床は、黒々とした赤い血にまみれていた。あれほどの血を流すためには、内臓が幾つか潰れないといけないだろう。つまりそれほどの重傷を悪魔は負っていることになる。
一同の頭が疑問で覆い尽くされる。────なぜ? なぜ悪魔はあれほど苦しんでいるのか? 聞こうと思っても聞ける状態ではない。腹部が痛いのか座れないらしい。だが席には着いている。肘掛を左手で握り、壊しかねないほどの握力で握りつぶしている。痛みをこらえているのだろうか。ようやく面を上げた瞳はうつろで、片目は開かず、もう片方のまぶたがピクピクと跳ねていた。
惨たらしいものを見たことで、魔法少女たちのソウルジェムが明滅する。
「ゴボッ! ッ……に、2ターン……目、だ……ガハッ!! ……だ、だが……今ある、山札を────シャッフル、する……!」
「!?」
血まみれ悪魔はゲームの続行を宣言し、なぜか山札のシャッフルを希望する。
そこで立会人が具現魔法による修復を済ませて戻ってきた。
「シャッフルですか? 承知しました」
「────ま、待って、くだ、さい……」
「ハイ。七瀬ゆきかサマ。どうしました?」
「いえ……だって、この人……今にも、死にそうで……」
「そうですね。死んだ場合は敗北となります」
立会人はシャッフルを済ませる。
次の瞬間、悪魔の左目が肥大化した。
『ッ────!!!?』
咄嗟に悪魔は左目を押さえつける。まろびでそうになった眼球が飛び出ないように押さえつける。
「グッ……! ヅッ……さすがに、はやすぎ、だろ……せめて、3ターン目、くらいだと……思って、たんだけど、な……すず────ハァ、ハァ……ッッ!!」
血を吐き続ける悪魔は左手で椅子の肘掛を握り、持ち上げ、右手で左目を抑える。そして、もはや二本の足で立てないため、テーブルに倒れ込むように立ち続けている。
「ハ……はは……はあ……これが、7ターン……? いいぜ……やって、やるよ…ッ!!」
右目から血の涙を流す悪魔は、もはや正気には見えなかった。
ただただ見る者を恐れさせる伝承の悪魔にしか見えなかった。
「それでは2ターン目です!」
『────────────────』
誰も彼もが悪魔の異常に気付きながら、その理由が分からないまま。
騒然と絶句し、沈黙の愕然が場を包むウワサ空間で……立会人は、無情にも続行を宣言した。
†
【どうして人を助けることでッ! 罵られなきゃいけないんだッ!!】悪魔
「カードを配ります!」
体内の激痛で頭の中が痺れてきた悪魔は、されど朦朧としかかる意識の中で推理する。
(カスタム幸運水のウワサ……幸運水を飲んだ者は、次々と幸運が起きる……だが幸運は18回まで……幸運が尽きると18回分の幸運が圧縮された一回の不運が訪れる……やちよによれば、凪は景品を当てたと言っていた……加えてブラックジャックで最低0回から1回……そして1ゲーム目での戦闘……幸運と不運は比例するのか? いや……ちがうな……
そして悪魔は確信したことがある。
(1ゲーム目で黒羽根五人の幸運水が尽きた時の……オレの身に起きた現象……黒羽根たちは十中八九、
「────人は偶然の幸運に生かされている。そして人は偶然の不幸で死なされる。ならば、
もしその人が必然の幸運で生きているならば、その人は必然の不幸で死ななければならない」
By.ミザリー立会人のウワサ
ふとしたミザリー立会人の教訓めいた言葉と共に、悪魔と七瀬ゆきかに五枚ずつカードが配られる。
(それじゃあ……がんばらなくっちゃ、なぁ……)
悪魔は孤独の闘いを強いられる。
「2ターン目、オープン!」
吐血する悪魔は前がよく見えないのか、血まみれで手が滑りカードを上手く持てないのか、ひっくり返すのに手間取る。手間取る分だけカードは赤く赤く染まり、、サラサラな質感は粘ついたものとなって汚れていく。
その様子を七瀬ゆきかは驚愕の瞳で見つめていた。なぜいきなり吐血したのか、絶叫をあげるほど苦しんでいるのか、皆目見当がつかない。演技には見えない。いったい何が起きている。悪魔は────
「……悪魔サマ。ひっくり返すの、手伝いましょうか?」
「……やって、くれるのか……?」
「許可さえいただければ」
「…………いや、自分で、やる……これは、オレの、
悪魔は最後のカードをひっくり返す。
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悪魔の配役──「大空・嵐・雨・晴」「雲」──フォーカードの雲ウロボロス。
役名は仲間の“壊滅”。獲得点数は4点。合計点数は8点。
七瀬ゆきかの配役──「嵐・雨」「雲・霧」「雷」──ペア&ペア&ハイカード。
役名は相棒と静寂。獲得点数は5点。合計点数は10点。
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「そんな……! またウロボロス……!?」環いろはの驚愕。
「しかもお互いに属性のダブリなしとか、どういう確率なんだろう……? まさかカードの配り方を操れるわけないし……」首をかしげる由比鶴乃。
悪魔は極限まで思考する。どうすれば理想的な展開に持っていけるか。みんなのことを良く知るが故に、彼女たちならどういうふうに戦って生き延びるだろうかと考える。
「場に出したカードは回収し、捨て札として墓地に置きます。
それでは余興開始です。それぞれチョイスプレイヤーを決定してください!」
「────黒江」
「────え」絶句する黒江
「それに加えて武器の使用は《リング》《イチゾー》《大和》のみとする。黒江……死ぬ気で生き残れ」
「────────」
「悪魔さんっ! 無茶ですよ!! 相手は魔法少女四人で、しかもスタンド使いで……ッ!! 黒江さんを……黒江さんを死なせるつもりなんですか!?」環いろははガラスを壊しかねない勢いで叩き、恐怖に歪む喉を振り絞る。
悪魔は立会人に問いかける。
「立会人。黒江は、言うことを聞かないだろう……そこであんたが、《烈風の杖》と《冬狼剣》を没収してくれれば……助かるんだが……。どうせ、こっちに不利となる提案、だ……加えて、これは余興……このゲームには、なんら影響を与えない……」
「ふむ。たしかに。では、よろしいですか? 七瀬ゆきかサマ」
「え……だ、大丈夫、ですよ……だって、マギウスを邪魔する人たちを、ちょっと痛めつける、だけだし……」
そこで七海やちよが叫んだ。
「やめなさい! あなた、たしか水名女学園の七瀬ゆきかよね!? あなたは知らされていないかもしれないけど、彼らはこちらを殺すつもりよ! 今すぐ拒否して!」
「なっ────そ、そんなわけないじゃないですか……! 皆さんはとても優しくて……人殺しなんてしませんよ!」
「さっき立会人がルール説明で“殺害有り”って言ってたでしょう! その意味がまだわからないの!?」
「そ、それはそっちが殺してくるかもって話でしょう!? 私たちはマギウスに楯突くような野蛮な人じゃありません!!」
「くっ────やっぱり羽根たちの考え方では平行線……っ!」
七海やちよの説得は届かない。マギウスは巧妙に暗部を隠しており、自らを清廉潔白な組織だと末端に主張している。大抵の者は疑いを持たないよう何かしらの要素──おそらくウワサ──で操作されており、軽い洗脳を受けている。そのように悪魔は直感した。
「……では七瀬ゆきかサマがお認めになられたので、黒江サマの武装を没収いたします」
「────っ!」黒江の視界が“ざわざわ”と暗くなる。
「そして七瀬ゆきかサマ。そちらもチョイスプレイヤーの選出を……」
「……さっきの戦いで消耗しているだろうし、同じ人は出したくない……ならば。Aチームの赤羽根さんと、Bチームの青羽根、紫羽根、藍羽根さん。全員、黒羽根でお願いします」
立会人がパンパンと両手を叩くと、黒江の匣兵器《烈風の杖》《冬狼剣》が消滅。結界の外にある空き箱の中に転送される。
さらに黒江の体が陣営エリアから戦闘エリアへ転送され、同時に五名の黒羽根も転送された。
「そんな……なんで……嘘だと言ってください……悪魔さん……っ!」
黒江の声が掠れて消えゆく。震える瞳孔は開ききって悪魔を見据えるが、彼は見向きもしない。血だらけの体でフラフラと立っている。
「それではチョイス・ストゥルルルラァアアート!」
立会人の合図でゴングが鳴る。駆ける黒羽根が三名。うち一名は魔法少女ではない者を殴るのかと戸惑いつつ、しかしマギウスには逆らえないため突進する。
「黒江さん! 戦って! このままじゃやられちゃう!」
「っ!?」
環いろはの叫びで我に帰った黒江は泥の炎と雨の炎を灯して二重開匣。
「た、助けて! イチゾー! 大和……っ!!」
「キシィッ!」「ピィーッ!」
泥夜鷹は黒江を庇うように盾となり、雨燕は自在に空間を飛翔して鋼の翼で斬りつける。
「くっ! 小賢しいっ!」
青羽根Bがスタンドを使用。液状の人型が拳を振るう。その姿は黒江には見えない。ただ何かが轟音を立てて空を切っている。大和は風を呼んで幸運に頼ることなく躱していき、尾から鎮静魔力の軌跡を描いていくが────
「我がスタンドは、水を霊魂に変える能力! それは水属性の魔力でも同じことだ!」
「ピッ!?」
雨燕の体から発せられる鎮静魔力──その中に混じる開匣時の雨の炎──が殴られる。すると水属性の魔力と雨の炎は異形の精神体へと変わっていく。それは雨燕・大和の体にすがりつき、体を引っ掻いたり引っ張ったりして行動を阻害しダメージを与えてきた。
その時、藍羽根Bがスタンドを使用する。
「そして私のスタンドは、霊魂を煮詰めて自動人形を作る能力!」
釜のようなスタンドに霊魂が吸い寄せられる。グツグツと煮込み終わると、釜の中からドロリとしたオートマタが数体、現れた。それは自律的に動き始めて、カタカタと笑いながら走る。その走り方は奇異の一言で、黒江に力のこもっていない木製の腕を振るい抜く。
「ひっ!」
「キシッ!」
泥夜鷹が大きな翼を広げて自動人形の進路を塞ぎ、翼で打って吹き飛ばす。
怯んで立ち尽くす黒江。
鈍化の性質を持つ泥の炎を撒き散らす泥夜鷹・イチゾーは、数体の自動人形の動きを低下させ、黒江に攻撃が向かわないよう庇い守る。だがそこに藍羽根Bが参戦し、泥夜鷹は苦戦を強いられるが、幸運にも痛打は与えられていない。
雨燕・大和は加速して精神体を突き放すが、魔力を使えば使うほど精神体が増えていき、回避が難しくなる。しかし偶然に助けられて今はまだ捕まっていない。青羽根Bのスタンドも殴る蹴るで撃ち落とそうとするが、偶然にも攻撃は命中しない。
そして赤羽根Aと紫羽根Bは、後方でスタンドを発現。何かの準備に取り掛かっていた。二体のスタンドが合体していく。
「────残り四分!」立会人のカウントダウン。
「黒江……! 攻撃するんだ……! 倒すつもりで行かないと、一分後には、殺られるぞ……っ! 最低72回は──ぐっ──攻撃、するんだ……! 多段ヒットの攻撃方法を、模索しろ……!」悪魔の叫び。
「────っ!」
そんなことを言われても、多段攻撃に優れた武器は、その悪魔によって没収された。
「初心を────」「ピィッ!!」「────ガハッ!?」
悪魔が何かを言おうとした途端、今まで運良く攻撃を躱せていた大和が被弾。同時に悪魔が吐血した。七度目の絶叫。
「大和っ!?」
「────どういう、ことだ……? まさか、あいつ……っっ!!?」佐倉杏子は悪魔を凝視して鳥肌が立つ。
「ゴボッ……! や────大和を、仕舞え……! スタンド、相性が、悪い……っ! ──れ以上、霊を──やすな……っ!!」
「────! 戻って、大和!」
匣兵器に大和が収納される。これ以上スタンドに攻撃されて霊体を増やされるのは得策ではない。だが泥夜鷹の泥も広義で言えば水だろう。雨の炎を使っているのだから。
大和の相手をしていた黒羽根が標的を黒江に変更。直進してくる。
窮地に追い込まれた黒江は思考が淀み、考えが息詰まる。だが本能は自然と、次なる一手を生み出していた。
「開匣────! 雲の、炎────!?」
黒江自身、自分が何をしているのか分からない。とにかく
「うわぁあああああああ!!」
二本のクラブが数百本に増殖していく。バトルエリアを埋め尽くすクラブの波。しかしそれはスタンドのラッシュで容易く打ち砕かれていく。絶叫する黒江は駆け出し、クラブの山の中に紛れて霧の炎を使用。構築効果で保護色を作り出す。空間を乱舞する無数のクラブ。それが殴り壊されて飛ばされてきた破片は、幸運にも黒江の体に当たらず壁や床にぶつかって跳ね返る。
(開匣────《発火薬》……!)
イチゾーとスタンド使いが殴り合っている間に火薬を振りまいた黒江は、雲の炎で点火する。
「イチゾー! 舞い上がって!」「────! キシッ!」
直後、爆発。紫色の火炎を舞い上がらせて青羽根Bと藍羽根Bが吹き飛んだ。上昇気流に乗っかったイチゾーは屋根スレスレを旋回する。
「何をしやがる!」
「あなたのことが好きよ!」
突然告白してきた紫羽根Bは黒江の体に組み付く。スタンドで殴れば一撃で黒江は倒せる。だが彼女はそうしない。赤羽根Aがトドメをさせと叫ぶ。しかし紫羽根Bは迷っていた。
「は、離してっ!」
「────っ!」
黒江は紫羽根Bの顔にビンタするように突き飛ばした。直後、黒江は“浮かぶ部屋”に監禁される。それは黒い棺のような絶対遮断空間だった。
「っ!?」
「“好きになる・ビンタされる・フラれる”……その三つの条件を満たすと、対象を“浮かぶ部屋”に監禁する能力……それが私のスタンド……ここで五分間、おとなしくしていて……その代わり、私のどす黒いモノを見るでしょうけど────」
浮かぶ部屋の中に死体が降ってくる。毛皮が剥がれた死体。学校の人体模型で見たことがあるそれは、非常に生々しい質感を持って、ぎょろりと剥き出しの目玉を黒江に向ける。
「ひっ────!」
その毛皮なき死体は到底形容できない有様を示していた。男性だろうか。しかしあるものがないのである。浮かぶ部屋にはハサミが落ちている。死体は涙を流して金切り声を上げる。言葉になっていない叫びだが、浮かぶ部屋の中にいる黒江にだけは、彼の悲鳴が伝わってくる。彼は人間だ。浮かぶ部屋の犠牲者のひとりだ。浮気する気はなかった。ただ女の子が言い寄ってきた。そしたら君はどうした。誘ってきたと思ったら、
死体が動き出す。ハサミを持って襲って来る。不思議と殺意は感じられない。なぜなら眼前の死体からは劣情しか感じられないからだ。
「いゃあああああああああ────!!」
黒江は爆発的な雲の炎を灯してクラブに注入。死体にぶつけて爆破する。確実な殺意を持って行なった死体に対する再殺人は、しかし。ゾンビのように蘇ってきたことで殺意が恐れに覆る。
言語化できない恐怖。困惑する脳裏は正しい語句を並べられない。迷走する黒江の視線は絶望をあらわす。
「イチゾー!!」
「キシィイイイ!」
イチゾーは既に何度も、バトルエリアの上空に浮かぶ黒い部屋に攻撃していた。しかしビクともしない。条件を満たしたことで強固となっている。
「────残り三分! ……────?」
不意に立会人は耳を澄ます。なにかが遥かなる上空より迫っている。莫大な魔力を感知。これは口寄せ神社のウワサから報告を受けていたモノと同一の反応だ。
────環ういを守るため、真の守護者を見定めるソレは、流星のように守護者の窮地に馳せ参じた。
轟然と震撼するウワサ空間。隕石のごとし魔力の塊が天井を打ち破り、続けて透明なガラスでできた結界の天井をも打ち抜いて、“浮かぶ部屋”を一撃のもとに粉砕した。緑色に輝く極光に包まれて床に降り立った黒江は、ただただ呆然と、眼前に浮かぶ希望のアクセサリーに目を奪われていた。
「あれは────キモチ!?」環いろはの驚き。
それは“慎ましいオニキスの
しかし悪魔はテーブルの下から霧系リングの炎を灯し、キモチのブレスレットを幻影で隠した。
「えっ!?」
黒江は振り向く。ここは結界で覆われた空間だ。外部からの干渉は不可能。現に環いろはや鹿目まどかが壁越しに治癒魔法を黒江に掛けようとしてくれているが、まったく魔法は届いていない。では今の“霧の炎”は誰の炎なのか。黒羽根たちは死ぬ気の炎の概念を知らない。当然、凪でもない。干渉不可能の領域から霧の炎で手出しできる存在は一人のみ。────叛逆魔法を使える悪魔のみだ。
「どう、して────、……っ!」
信頼と疑問の思考をかなぐり捨てた黒江は、とにかく生存のためにひた走る。偶然にも近くに転がっていた一本のクラブに雲の炎を再点火して爆発的に増殖させ、再び無数のクラブが乱舞する空間を作り上げる。そして魔法少女の相手はイチゾーに任せ、黒江は身を隠し、どこかに隠されたはずのキモチを探し始める。
(開匣────《見透かすランタン》!)
それはありとあらゆる幻影を分解する赫々とした灯り。そしてあらゆる秘密を分析し、煌々と真実を照らし出す炎。魔力を死炎に変換する匣兵器により、あらかじめ由比鶴乃から魔力を貰っていたが、稼働時間はそんなに長くない。持って一分が限界だろう。しかも霧の幻覚は強力で、どこを照らしても幻影は分解されない。
(そんな────そこまで強力な霧の炎なの……!?)
「おい! なにか赤く光ってるぞ! ランタンだ! そこにいたのか!」
「っ!」
バトルエリアを埋め尽くし飛び跳ねるクラブの隙間を縫って赤羽根Aがスタンドを繰り出す。しかし黒江は間一髪、両者の間に飛び込んできたクラブによって偶然にも難を逃れた。
(諦めない……! 諦めたら死ぬ……! どうにかして探さないと────!)
「開匣────雨燕! 大和、もう少しだけ頑張って!」
「ピィッ!」
「勝負は一瞬! 一気に発散魔力を解き放って! そして何かわかったら教えて!」
雨燕は体内に圧縮した魔力を一気に放出する。全方位を見て回る黒江は目を凝らし────ふと、視界に違和感を覚えた。確証はない。なぜなら大和が鳴かない。幻影の位置を発覚できていない。
「直感を信じろ!」「っ!?」
突然の悪魔の大声。黒江は自身の直感を信じて駆け出す。だが無理だ。もし違和感を覚えた位置にキモチがあっても、幻影を解除しなければ手に取れない。このランタンでは幻影は解けない。
(────)
黒江の手は偶然にも無意識に動いていた。極まった生存本能が最適解を選ぶ。
「開匣! 《開けるゴマの実》────!」
それはゴマの実の折り紙。あらゆる鍵穴に合わせて変形し、あらゆる扉を開くアーティファクト。
一か八かで違和感のある位置に鍵穴を叩き込む。次の瞬間、何もない所から霧の炎が破裂し、何もなかった所からキモチのブレスレットが出現した。
「あった!」
それが黒江の最後の幸運だったのか。
テーブルの方から断末魔が上がる。八度目の絶叫。
「っ!?」
うろたえている暇はない。黒江が全身全霊を込めて注入した雲の炎も効力が尽きて、徐々にクラブの数が減っている。
「キシ────ッ!?」
「イチゾー!」
黒江がキモチを探すため長らく単独行動できていたのは、イチゾーが全てのヘイトを稼いでいたからだ。三人のスタンド使いを同時に相手して無事だったのは幸運だったからだ。しかしそれも尽きたのか、イチゾーはラッシュを決められて大きく吹き飛び、壁に激突してぐったりと床に倒れてしまう。
九度目の絶叫がテーブル席から上がる。もんどり打つ悪魔は絶叫を上げて何かにこらえている。
(い、いったい、なにが……もう嫌だ……こんなの────!)
黒江の絶望とキモチが共鳴する。
「────残り二分!」
黒江の首にキモチが装着する。キモチ自体が大地の七属性・山の波動を流しているのか、黒江の覚悟に合わせてオニキスから山の炎が灯る。
「怖かった────だから、今までの分を、きっちりお返しする!」
停止能力で四人の敵を硬直させる。直後、黒江は開匣。護石を雲の炎で増やし、山の炎を注入して投擲する。それは偶然にも敵の体に当たらず────ということはなく、きちんと命中した。
悪魔は考える。
(おそらく最初の時点で黒江が衝動的に起こした、あの雲の炎によるクラブの大増殖……! 空間の中を跳ね回るクラブが多段攻撃となり、黒羽根は幸運にもクラブにぶつからないで済んでいたんだ……だからあまりクラブに邪魔されず、イチゾーと戦えたり、ランタンでキモチを探索する黒江にも気付くことができた────となると……)
投石が敵の体に命中した途端──悪魔の断末魔が、さっきの四倍の声量でウワサ空間に響き渡る。十度目、十二度目、十三度目の絶叫──増殖効果が命中箇所に同調。部位が膨れ上がった黒羽根たちは体の一部が破裂した。停止能力が解かれる。
「ぐはっ!?」「ぐぅ!?」「こんなものすぐに治る!」「魔法少女を舐めるな!」
「イチゾー! 再起動っ!!」
頭の中に流れ込んでくるキモチの使い方。
黒江はキモチの能力を駆使して、満身創痍で気絶していたイチゾーを強制的に覚醒させる。
「キシィイイイイ!」
四人の魔法少女と自動人形に取り囲まれて、一秒後には袋叩きに遭っているであろう主人・黒江を守るべく。イチゾーは泥を振りまいて黒江に覆いかぶさる。そして黒江は山の炎で結界の強度とイチゾーを同調させ、泥夜鷹の防御力を飛躍的に高めた。
「ホッ! 私の具現魔法を借用しましたか! いくつか修羅場を潜っていないと、ここまでの閃きと活躍はできませんねぇ! 窮地に追い込まれての爆発力も素晴らしいです!」
四人のスタンド使いが四方よりラッシュを決める。しかし泥を硝子のように固めたイチゾーにはびくともせず────そのうち試合終了のゴングが鳴り響いた。
チョイスプレイヤーは各陣営の結界に転送される。
「っ……! い、イチゾー……大丈夫? ごめんね、無茶させて……」
「キシ!」
「黒江さん! 今すぐ治癒魔法を!」
「私の治癒魔法も、その鳥さんに!」
環いろはと鹿目まどかが駆けつけて治癒魔法を使用する。また、本来は後方支援役だった凪は、既に戦闘して疲弊しているため施術魔法を使わせることは酷だろう。
「黒江……」
「あ、凪さん……私、なんとか生き残ることが、できました……」
「うん……よかった……」
しかし黒江は俯く。
そして面を上げると、前方のテーブルの上では、もう死んでもおかしくないほどの血を流し、咳き込んで、血液を吐き出している悪魔がいた。
「あの……あれは、いったい……っ」
「────分からないわ」
黒江の疑問は、全員の疑問と困惑でもあった。
「なんで……悪魔さんは、あんなことになっているんですか……?」
青ざめる環いろはは、誰もが答えられないと知りつつ、どうしても聞いてしまう。
1ターン目でも、2ターン目でも。凪と黒江が戦闘している間、ずっと環いろはは悪魔に話し掛けていた。しかし悪魔は何も答えず、戦闘も佳境に差し掛かると急に苦しみだし、テーブルの上でもんどり打つ。それを驚きながら見つめる七瀬ゆきかと、他の羽根たち。
なぜ悪魔は何も言わないのか。言えば都合が悪いのか。だからって傷つくさまを見ているだけなんてつらすぎる。歯がゆい思いは全員同じ。どうにかして解明しなければ。だが手がかりがない。当の悪魔は何も言わず、ふとした彼の絶叫に気を取られて思考が阻害されてしまう。
「……あのさ……私、気付いちゃったかもしれないんだけど……」
「────鶴乃ちゃん?」
少々知識が足りなくても頭の回転が早いことで信頼されている由比鶴乃が、ついにあることを閃いてしまう。
「凪ちゃんも黒江ちゃんも、もう幸運が尽きてもいい頃だよね? 全部で24回の幸運……そのあとに来るのは24回の不運……でも今まで、二人に不運らしき不運が一つもなかった気がするんだけど……」
「────っ! まさか……!」
「そん、な────つまり、こういうことですか? 悪魔さんがどうにかして、私たちの
七海やちよと環いろはは眼を見開き、愕然とする。
そこで佐倉杏子が歯噛みして俯いた。
「────24回じゃなくて18回だ。その辺の説明は、あとであの
表情が読めない佐倉杏子の言葉。
だがそれに黒江が疑問を持つ。
「で、でも……幸運と不運は比例するんですよね? 仮に悪魔さんが、凪さんと私の不運を被ってくれているとしても────私たちは景品を当てた程度で……」
「でもさっきの戦闘で危険な場面は何度かあったわ。言ったでしょう。だから私は幸運水を飲んだ者に危険なことはしないよう伝えていた。だから第一ゲームのブラックジャックも私が出た。それにそもそもウワサさんは
「そんな……じゃあ、なんですか? 私たちに襲いかかるはずの不運は、何をどうしても
七海やちよの冷静な分析と、黒江の恐れるような狼狽。
「っ────やめてください! 悪魔さん! どうしてそんなことを……! 黒江さんは分かります。でも魔法少女の私たちなら不運に対処できます! 痛覚も遮断できるし、魔力を回せば肉体も再生できる……! 普通の人間と違ってゾンビのように戦えるって……そういうふうに教えてくれたのは、悪魔さんじゃないですか……!」
「……なにか……もしかしたらだけど……
「え……? ほむらちゃん……?」
そこで百江なぎさが口にする。
「マミが言っていたのです。いついかなる時も最悪の事態を想定しろと。そこでなぎさは思ったのです。みんなが飲んだ幸運水は、もしかしたら
『────』
────ソウルジェム。それ以外に魔法少女の急所があるだろうか。
「その方向性で行くと、クマ吉があんな無茶をしている理由が分かる気がするのです」
「ちょっと待て! だったらあたしに飲ませるわけがない! キュゥべえにもだ! あいつはとにかくこのキュゥべえを大切にしていた! それに幸運水ならアイツも飲んだじゃないか!」
「杏子。だからさっきほむらが言ったように、もしかしたら
そこで七海やちよが言った。
「その考え方でいくと、おそらく悪魔は幸運水を飲んだ者だけをチョイスプレイヤーに選出するつもりね……幸運を消費させて、不運を一手に引き受けるために……」
「────っ! おい、待てよ……それじゃあ、ゆまも出るって言うのか!?」
衝動的に跳躍した佐倉杏子はガラスを槍で突き刺す。
「ホッホー! いま天井を直したところです。これ以上結界を傷つけられると苦労が増えるからやめていただきたいのですが」
「だったらぶち壊して苦労させてやんよ!」
「どうぞご自由に。私が直すのに苦労するだけで、この結界自体は絶対に壊れませんので。────先ほどの隕石にはぶち破られましたが。仮に脱出できたとしても、私に勝てるとお思いで?」
「────ッ! おい悪魔! テメェ、もしゆまを出したらぶっ殺すぞ……!」
悪魔は答えない。否、答えられない。痙攣する血塗れの体は、机の上にしがみつくだけで精一杯だ。
「……あ、あとさ……ししょー……みんな……もう一個あるんだけど……」
「鶴乃? なに、まだあるの?」
「その……凪ちゃんが戦っている時、なんだか
場が静まり返る。それは言葉が出ない故の静寂だった。
「だ、だってさ! 悪魔が叫んだ回数を思い返すと……みんなの幸運が尽きてダメージを受けた辺りから、悪魔が叫びだしたのもあって……もしかしたら? って……」
「────なんて、こと……」
七海やちよは驚愕する。つまり悪魔は、
「あなた、どうしてそんなバカなことを……!!」
七海やちよの声がウワサ空間に響く。
その声にピクリと反応した悪魔は、頭部の左側に
「────バカだと? なんで……どうして人を助けることでッ! 罵られなきゃいけないんだッ!!」
『っっっ!!!』
怒号を張り上げた悪魔はテーブルに頭突きする。痛みを鈍らせるため別の痛みで相殺する。
やがて亀裂が迸り、悪魔の左目の虹彩がパックリと二つに割れた。
「ひっ!?」
それを目の前で見ていた七瀬ゆきかは動揺を隠せない。だが同時に紅潮もしていた。
そして────しばらくの沈黙が場を包み込んだ。
敵も味方も、誰もがその狂人に意識を専有されていた。
一人の男の執念の姿に目を奪われ、音を忘れ、呼吸を忘我していた。一人の男の気概に、全てを支配されていた。
直感する。感心は当然少ない。それより畏敬や畏怖、恐れや恐怖の度合いが強い。その善性は賞賛に値する
それは悪魔自身も含め、この場にいる
(……水のハーフソウルリングが明滅している……むくがオレの危機に気付いて、何度も助太刀魔法を使っているんだな……だけど今は白赤羽根の固有魔法《魔法封印》で助太刀魔法は封印されている……隼人のも光ってるな……助太刀魔法に相乗りしようとしているのか……すまないが、ワケはあとで話す……心配かけるだろうが、どうかソウルジェムをあまり濁らせることなく……オレを、オレが生きるのを、信じていてほしい……)
悪魔が死ねば、自動的に六人が死ぬ。それが悪魔契約・第二書の能力。並盛町で修得した真実の絆を試す魔法。
故に悪魔は死ねない。ほかにも死ねない理由はたくさんある。いちいち思い出すのは疲れる。膝をついた悪魔は、テーブルに引っかかったアゴで体を支えて、割かれた脇腹より引き裂かれてちぎれかかる胴体をなんとか持たせる。
魔法は使用禁止。故に施術魔法で縫合は不可能。今は何ターン目だったか。下半身を無くしてもゲームを続けてやる。どうせ逆転勝利の呪いは悪魔を死なせてくれない。死なせない。きっと悪魔は首だけになっても、どうにかしてゲームに臨んでいるだろう。
「……みんな。それほど動揺することじゃない。これは今に始まったことじゃないし、悪魔は同様の苦難を幾度も乗り越えてきた。だから安心していいよ。
Dキュゥべえの無機質なセリフ。その意味を問うため、悪魔陣営の者が全員、振り返る。
「どうして分かるの?」鼓星かずみの問いかけ。
「悪魔には勝利の女神がついている。その女神のおかげで彼は不死身なのさ。彼は決して負けることはない。自分の命が危険であればあるほど負ける要素はなくなるのさ。だから悪魔はああやって自分を追い込んでいる。半死半生の境どころか、九死に一生……いや、万死に一縷の活路を見極めて、その先にあるかぼそい一生を勝ち取ろうとしている。そうやって死ぬ気で探しているのさ。夢の叶え方を」
「……夢? なんなのキュゥべえ……その夢って……ああまでして悪魔さんは、いったい何を……まさか、生き返らせたい人がいるって言っていたけど……そのためなの?」
「それもあるだろうけど、どこまで本気かは分からないね。とにかく、いろは。君だって妹の環ういの命が掛かっているなら、あれくらいはするだろう? たかが個体のためにあれほどのことをするとは、本当に人間とは理解不能で恐ろしい生き物だ。といっても、まだまだ取るに足らない生き物だけど」
「……それは……きっと何かを見誤っているよ……キュゥべえ……」ふとした暁美ほむらの呟き。
「見誤っている? 彼はヘイトを稼げば稼ぐほど……自らを窮地に追い込む敵意や殺意を向けられるほど、逆転勝利の真価を発揮する超戦士だ。“不幸が確定された最強の超戦士”……そこはしっかりと理解しているよ」
そこで佐倉杏子が小さく舌打ちした。
「許せねぇ。一言くらい、相談しろっての……」
同時に千秋理子が、あることに気が付く。
「それじゃあ悪魔さんは、わたしたちにひどいことをしようと思って、賭けたんじゃない……ってことですよね?」
「それは……なんとなく分かりマシタが……それではなぜ、私たちは連れてこられたんデショーか? 私も理子も幸運水は飲んでいマセン……ただ巻き込まれたとも、悪魔さんを信じるからこそ、思えマセン……」
「それは……たぶん……」
千秋理子は、悪魔と初めて会った時のことを思い出す。
怖い魔法少女が襲ってきて、それを倒すために悪魔とアシュリー・テイラーと一緒に戦った。そのとき千秋理子は何もできなかった。だが悪魔は敵を殺すとき“
(さっきキュゥべえは言っていた。ヘイト……敵意……それって、誰かに恨まれるってことだよね? それなら悪魔さんは、わざと嫌われるようなことをして……自分に向けられる恨みを、力に変えようとした……? わたしたちを、助けるために……?)
それが本当なら、やはり悪魔には考えがあるのだ。幸運水を飲んでいない千秋理子とアシュリー・テイラーを連れてきた理由も、きっと今後の展開に必ず関わってくるのかもしれない。常に先を読み、先手という名の布石を積み上げる戦い方をする悪魔なら有り得ることだ。
「────ちがう。オレは……何も先を読めちゃいない……」
「────え?」
悪魔は千秋理子の思考を直感した。
「オレは……この先、どうなるか、わからない……それでも、絶対に、この
悪魔は途中から、誰かに向けて喋っているわけではないようだった。上の空で、自分がなすべきことを口に出している。まるで台本通り演じなければいけないように。そうしなければ
「────シャッフル」
「っ!?」
「シャッフルですね。了解しました」
立会人は山札を手に取る。そこで七瀬ゆきかが待ったをかけた。
「何か……何か怪しい!! シャッフルをやめてください!!」
「コイントスだ」
「!?」
「勝った方の、意見を……優先、する……表」
「っ! う、裏!」
「……コイントスをご希望の場合、受け手が裏表を先に決めるのが公正と思われますが?」
「っ! な、なら私は、やっぱり表!」
「裏……」
コイントス。机に音を鳴らして落ちて回るコインの上っ面は────裏だった。
その裏は、自動的に叛逆魔法が発動したがゆえの結果だった。それは悪魔の意思ではなく水泳の魔女の行動なので反則ではない。何より七瀬ゆきかが気付いてないため、立会人は何も言わない。そして悪魔は常時発動型魔法の代償として────「ゴプッ……っ!」胸元からせり上がる血液が喉に詰まり咳き込んだ。吐血。吐血。吐血。血の水を流す蛇口となった悪魔の口は、もはや栓として機能していない。
「悪魔サマの意見が優先されます。シャッフルです!」
「……っ……何か、意味が、あるんですか……? 山札をシャッフルすることに……どんな意味が……」
「…………────」
悪魔は著しく生命力を消耗している。意識を保つのもやっとだ。
左側の眼球に亀裂が入っている悪魔は、血涙を流して不敵に笑う。
「さて……どうだか、な……?」
†
【戦ってはならなかったんだ】悪魔
「カードを配りまぁす! 3ターン目です! オープン!」
────────────────────────────────
悪魔の配役──「雷・霧」「晴・大空」「雲」──ペア&ペア&ハイカード。
役名はイタリア語レッスンと義兄弟。獲得点数は8点。合計点数は16点。
七瀬ゆきかの配役──「晴・大空」「晴・嵐・雷」──ペア&スリーカード。
役名は義兄弟と嵐の前の静けさ。獲得点数は5点。合計点数は15点。
────────────────────────────────
「悪魔さんが上回った!」環いろはの歓声。
「でもまだ分からないわ」七海やちよの鋭い声。
「場に出したカードは回収し、捨て札として墓地に置きます。
それでは余興開始です。それぞれチョイスプレイヤーを決定してください!」
「────千歳ゆま、Dキュゥべえ、鹿目まどか、イーピン。加えて鹿目まどかからソウルジェムとペルソナカードを没収。没収したものは悪魔陣営エリアに置いてくれ」
『────っ!!』
「……ッ!! ────テメェッ!!」
佐倉杏子は魔力放出を繰り出して硝子に激突。今までにないほど結界を激震させる。
「ホホッ! くわばらくわばら……」
何度も何度も結界を殴るが、かすり傷がつく程度。やがてソウルジェムが魔力圧の臨界点に差し掛かり、七海やちよが制止しなければソウルジェムが砕け散るほどの激憤に佐倉杏子は駆られていた。
「佐倉さん!」
「ハァ……! ハァ……ッ!! クソッ! なんでだよ! もっとほかにやりようあっただろうがっ! テメェ自分で言ったんだぜ! あらゆる可能性を模索しているって! それがこれかよ! これがテメェの最適解なのか!? 理屈で分かってても……受け入れられるわけねぇだろうがっ……!!」
「…………」
悪魔は押し黙る。それは答えられないのではなく、答える必要がないからだった。
あらゆる可能性は模索した。時間が足りない中で導き出した回答がこれだった。それ以外は失敗の可能性が高かった。それだけだ。どれだけ辛くとも私情は排した。たとえ恨まれようとも────悪魔の最終目標はただ一つ。みんなを生きて家に帰すことである。
平和な日常を、取り戻すことである。
「……こちらは橙羽根A、黄羽根A、赤羽根B、緑羽根Aです。黄羽根さんは再びの出場となりますが……申し訳ございません」
「了解です! これにてチョイスプレイヤーが選出されました! 舞台に転送します! ゴングが鳴ったら戦闘開始の合図!」
バトルエリアに転送されるは、千歳ゆまとDキュゥべえ、鹿目まどかとイーピン。
同時に鹿目まどかのソウルジェムと法王のペルソナカードが陣営エリアにコロンと落ちて転がった。すかさず暁美ほむらが回収する。
「大丈夫。みんなは私が守る!」
「っ! アンタ……くっ。頼む……! ゆまを……ガキどもを……守ってやってくれ……!」
そこで悪魔は言った。
「まどか。前半はゆまを守る必要はない。Dキュゥべえがなんとかする。その代わりイーピンを守ってくれ」
「────ごめんなさい。なにか考えがあるんでしょうけど……そのお願いは、とても聞けそうにありません!」
それでいい。とにかく全員分の幸運を消費してくれれば、それでいい。
戦いのゴングが鳴る。
黒羽根四名がスタンドを発現。
緑羽根Aのスタンドによりバトルエリアに鬱蒼と生い茂る森が生える。
黄羽根Aのスタンドにより全体の速度向上。
橙羽根Bは懐から“首狩り族の人形”を取り出すと、スタンド・おもちゃに命を宿す能力で自律行動させる。葉っぱを纏うマサカリ蛮族の小人たちは『キシェエエエ!』と奇声を上げて草木に紛れる。
「ゆまちゃん! イーピンちゃん! 私の後ろに! 《
鹿目まどかは弓の上部先端から桃色の炎を盛らせながら、強大な一射を放つ。森林爆砕。桃炎竜巻。
「ガキは無視しろ! 魔法少女は一人だ! 袋叩きにしてマギウスの翼の力を思い知らせてやれ! ついでにキュゥべえも始末しろ! 確実にだ!」
七瀬ゆきかの陣営エリアから白青羽根の激励指示が飛ぶ。
「────ペルソナァ!」
そのとき、暁美ほむらがスタンドを発現し、バトルエリアを凝視した。
「まどか! 左右前方からスタンドが伸びてきている! どれも本体から離れて行動できるタイプみたい!」
「────っ! ありがとう、ほむらちゃん!」
なるほど。その支援の仕方があったか。考えてみれば簡単な助力方法だった。そう一同は気付く。しかしそれは裏を返せば、今まで冷静さを失い動揺していたことの露呈を意味する。そんな簡単な援護も思い付かず、凪と黒江を戦わせてしまったのだから。
(あまりにも突然で急展開の連続だったんだから仕方がない……だがその援護が
悪魔は来たる不運に備えて、カチカチと震える歯を食い縛る。
「《
鹿目まどかによる範囲攻撃。それは魔法の杖を横薙ぎに払い、魔力のキラメキでダメージを与える近接技。
不可視の存在に命中するが、スタンドはスタンドでしか倒せない。押し返すことはできたが、吹き飛ばされた黒羽根たちはすぐにまた向かってくる。
「ゆま。こっちだ。戦いに巻き込まれるといけない。まどかを邪魔しないためにも草木に隠れてやりすごそう」
「!」
千歳ゆまの肩に乗ってボソボソと呟くDキュゥべえ。直後、千歳ゆまは走り出し、草木の中に紛れ込んだ。
「なっ! 待て、ゆま!」佐倉杏子の制止の声は戦いの爆音で届かない。
「ゆまちゃん────!?」一拍遅れて気付いた鹿目まどかは、スタンドの猛攻を凌ぐのに精一杯で追いかけることができない。
「キュゥべえがそっちに行ったぞ!」
「任せろ! 私のスタンド能力は隠し事を見抜く! 森の中に隠れていても見つけ出せる! そこだぁ!!」
赤羽根Bのスタンドが草木の奥を殴りつける。が、偶然にも枝が邪魔してパンチの軌道が逸れたことで、千歳ゆまには当たらなかった。
「なに!? キュゥべえはどこだ!?」
「ゆまの後ろにいるけど」
「テメェ! キュゥべえっ!! ゆまを盾にしてんじゃねぇっ!!」佐倉杏子の怒号。
「くっ! やはりキュゥべえは殺す! ガキはどいてろ!」
「きゃあ!」
「そうはいかないよ」
スタンドに襟を掴まれて投げ飛ばされた千歳ゆま。それを素早く追いかけたDキュゥべえは千歳ゆまの体にまとわりつく。
「さぁ攻撃しなよ。どうせ幸運水が働いて千歳ゆまには命中しないんだ」
「────っ! だったら遠慮はしない!」
赤羽根Bは、それでも千歳ゆまに当たらないようラッシュを決める。千歳ゆまの両肩を這い回るDキュゥべえは、その攻撃の全てを幸運に頼らず躱していた。それはつまり千歳ゆまが盾に使われているということ。千歳ゆまは泣くような悲鳴を上げながら、背中を向けて逃げ出す。本来ならDキュゥべえのせいでラッシュ全弾を身に浴びているはずの千歳ゆまは、偶然にも命中しない。そして19発目のパンチが────千歳ゆまの背中を打った。
「────かはっ────!」
『────っ!!!!!!』
「ゆ────ゆまぁあああ!!」
「っ────《
鹿目まどかの《治癒》により千歳ゆまの体が白い光に包まれる。傷は完璧に癒して命に別状はないが、衝撃により気を失っている。目覚めないのは恐怖による精神的疲弊もあるだろう。
「キュゥべえ! もういい! ゆまから離れろ……! 羽根たちも無関係の子供は狙わない……! ────ッッッ!!!」
悪魔の十四度目の絶叫が上がる。千歳ゆまの不運をこうむったのだ。
「もちろんそうさせてもらうさ。せっかくの契約候補をみすみす殺す僕じゃない」
Dキュゥべえはすばしっこい動きで森の焼け跡を駆け抜けて赤羽根Bのスタンドラッシュを躱していく。だが拓けた場所に出たことで攻撃は当たりやすくなった。が、やはり奇跡的に攻撃は当たらない。
「ハイヤー!」
そのとき、戦場に飛び込んだイーピンが赤羽根Bを蹴り飛ばした。
「ガハッ!?」
「!」Dキュゥべえは予想外の事態に片前足を上げて固まる。
「女の子と動物いじめる! 許さない! ゆまのかたき! ハイヤー!!」
「イーピンちゃん! 私から離れちゃダメ……!」
イーピンは餃子拳で赤羽根Bの体を操り、床に頭突きさせる。
「がはっ……!? なんだ、こいつ……!? ただの赤ん坊じゃない……!?」
「イーピン! 殺し屋! おまえ! たおす!」
次の瞬間、イーピンの周囲を十八の連打が襲った。どれも床を撃砕するが、十九打目でイーピンの体は側面から打たれて吹き飛ばされる。きりもみ回転する体は壁に激突して床に落ち跳ね、気絶する。同時に悪魔、十五度目の絶叫。
「そうか。餃子拳で体は操れても、スタンドまで操ることはできない。イーピンはスタンドに殴られたんだ」
「っ……! 癒しの光よ、福音を呼び給え!
鹿目まどかの《治癒》により、強力な光に包まれたイーピンの傷は癒え、覚醒。戦闘不能状態から強制的に復活する。
「ハッ!」
「イーピンちゃん! お願いがあるの! 私の代わりにゆまちゃんを守って! キュゥべえは私が守るから!」
「────! りょうかい!」
イーピンは千歳ゆまの前に飛び込むと、拳法の構えを取って警戒する。
一方、Dキュゥべえは赤羽根Bによるスタンドラッシュを受けていた。
「────14、15、16……そろそろかな」
Dキュゥべえは身を翻し、鹿目まどかの下に走る。その隙を突いて二回の攻撃が迫るが、偶然にも戦闘による爆風が及んできたことでパンチの軌道が逸れて床に命中。Dキュゥべえは傷一つない。悪魔、十六度目の絶叫。Dキュゥべえは鹿目まどかの肩に飛び乗って安全圏に避難する。
「────残り四分!」
「まどか。そろそろ本気を出してもいいんじゃないかな? 子供たちはバトルエリアの端っこにいる。敵もわざわざ子供を狙うつもりはないようだし、今なら君がその才能の全てを発揮しても巻き込むことはないと思うよ?」
「────そのつもりだよ!」
背後に大小さまざまな桃色の魔法陣を大量展開。
「《
鹿目まどかが光矢を射ると同時、魔法陣からも光矢が一斉掃射される。大量の矢は絨毯爆撃のように羽根たちとスタンドを吹き飛ばす。荒々しく吹きすさぶ戦場の中心。しかし幸運にも黒羽根たちは、爆撃地帯から脱出して接近戦を仕掛けてくる。
「まどか! 前後左右、頭上からも!」
「オッケー!」
鹿目まどかの陣営の近くには森が残る。そこには首狩り族たちがほふく前進で潜入し、攻撃の機会を窺っていた。その潜伏に気付いていた暁美ほむらは、首狩り族が鹿目まどかの背後を狙っていることを知らせる。そして前後頭上からスタンドが迫っていることも知らせた。
「この突撃技、ちょっとかっこうがつかないけど────《
刹那、鹿目まどかの胴体が風船のように膨張し、スカートから白い煙を噴射して音速突破。Dキュゥべえは吹き飛ばされる。鹿目まどかは天井に激突してバウンドしつつ敵陣営のエリア近くに着地。ソウルジェムとの距離、10メートル。微量に低下した魔力性能だが、大規模な魔力係数を持つ鹿目まどかにとっては弱体化になりはしない。
「こっちだ! 掛かってこい!」
雄々しいセリフで挑発した鹿目まどかの狙いは、千歳ゆまとイーピンを戦闘圏外に出すこと。且つ対角線に位置しないよう矢を射出して敵の位置を誘導──というより吹き飛ばして──うまく立ち回る。一方、Dキュゥべえは透明化で姿を消していた。
「《
それは《
羽根たちには偶然にも命中せず、偶然にも爆風を喰らわない。しかし千歳ゆまとイーピンの衣服がたなびく。
(っ……私の矢の威力じゃ強すぎる……! これじゃあ《魔法の矢》でも変わらない……!)
仕方なく接近戦に切り替える。目に見えないスタンドを四体同時に相手取るのは危険だが、子供たちを巻き込まないためにはそうするしかない。手数の上では1対8……いや、首狩り族を含めれば多勢に無勢になるのだろうか。上等だ。
「────残り三分!」
鹿目まどかと四人の黒羽根、四体のスタンド、十数の首狩り族が正面切って激突する。魔法の弓は杖でもあり、巴マミから仕込まれた初級杖術で苦手な格闘戦に打って出る。
「《
『オラオラオラオラ────オラァ!!!!』
双剣と鎖、スタンドの拳、首狩り族の斧による猛撃。鹿目まどかは間一髪、怒濤の連続攻撃を躱しながら肉迫し、一撃一撃、確実に杖で打撃ダメージを与えていく。見える剣筋と見えない拳。常に魔力を感知しておおよその位置を特定し、考えるより先に直感に従って見えない攻撃を躱していく。そこで黄羽根Aのスタンドが更に全体の速度を引き上げた。全員の心拍数が急上昇する。大量の汗が流れて世界は加速し、二倍速の領域へ。動体視力でギリギリ捉えきれるかどうかの素早い攻撃。加速する世界に脳内処理が間に合わず脳に負荷がかかる。魔法少女の運動能力も合わせれば、その攻撃速度はもはや常に音速を超えていた。
殴る、蹴る、斬る、鎖を飛ばす、スタンドで殴る、移動する、足さばき、攻撃を躱す時の動作もろもろ、その全てが“思っていたより早く、思っていたより大きく”動いてしまう。何度も慣性に揺さぶられて足と体勢を踏み外し、ままならぬ格闘戦に歯噛みするが、それは
鹿目まどかの杖の先端が橙羽根Bの腹部を突く。それはマッハ3の突きとして腹を突き破り、橙羽根Bはソニックブームを放ちながら悪魔陣営エリアの結界壁に激突した。同時にスタンドが消滅し、首狩り族もただの人形として床に転がる。悪魔、十七度目の絶叫。
(っ! ちょっと振るっただけなのに、そんなに威力が……!?)
「よくも仲間を!」「許せん!」「喰らえ!」
加速は三倍速へ。全員が一ミリ身じろぎするだけで音の壁を突破する。鹿目まどかが
(キュゥべえとマミさん、それにやちよさんからも同じことを言われたけど……私はほかの魔法少女と違って高い才能があるみたい。私はそうは思わないし、そんなこと言われて褒められてもピンと来ないけど……それでもカンタンに相手を殺せてしまう力があることは、ここ最近の戦闘で理解してきた。だから────怖くても劣勢に応じよう。私は強いけど弱い。弱いことは力加減ができないということ。ただ力だけあっても強いことにはならない。だけど今は、それを嘆いている場合じゃない……!)
こっちも大人しくしていたら袋叩きに遭って下手すれば殺される。その方が美国織莉子は喜ぶだろうが、こっちだって黙って殺されたくない。自分の魔女化が世界を滅ぼす? そんなこと言われても困る。だけど、もしそれが本当なら……鹿目まどかには生き残る義務がある。もう誰も犠牲にならないように。もう誰も絶望して死なないように。
鹿目まどかはの思考は余裕を意味しない。周りには音速で戦っているように見えるが、バトルエリアで戦っている者たちは周囲が遅延して見えている。そのぶん思考時間も間延びしているのだ。そのため動体視力も向上しているが、やはり脳内処理が間に合わず残像が連なるように見えてしまう。
拳の初速マッハ5の世界。空間にヒビが入って音が割れる。視界が光に染まりつつあり、輝く世界に突入する。
突然、鹿目まどかの全身に不可視の殴打が叩き込まれ始めた。音速突破のラッシュは身を貫くかと思われたが、鹿目まどかの体は思ったより頑丈だった。打撲で青あざは残り、骨が軋んで砕かれかかるが、先ほどの橙羽根のように貫通されるほどではない。やはりそれも魔法少女の素質とやらに関係しているのだろうか。
悪魔、十八度目の絶叫。鹿目まどかが攻撃を受け始めたことから分かる通り、彼女の幸運が尽きたのだろう。
(まどか。そのまま三人の幸運を消費させるんだ)ふとしたDキュゥべえの念話。
(!? そんなことしたら悪魔さんが────)
(逆だよ。悪魔を追い詰めるんだ。でなければ悪魔は負けて、君たちも死ぬ)
(────っ!)
どのみち攻撃を躱すだけでは殺される。黒羽根たちには殺意がある。反撃せず命を守るのは、今の鹿目まどかの技量では難しい。いつもは魔女と戦っていた。人を相手に戦うなんて思っていなかった。経験不足の後悔は今更だ。とにかく再起不能にして生き残ることだけを考える。
「お────おらおらおらおらおらぁ!」
『────!?』
鹿目まどかのビンタラッシュ。それは偶然にも黒羽根に当たらず空を切る。ビンタなら当たっても致命傷にはなりえない。
「────顔には当てるなっ! 首が回るぞッ!!」
「っ!?」
悪魔の叫び。
そうだ。鹿目まどかは次元違いで強い。もし黒羽根の顔にビンタすれば、それだけで殺してしまう可能性が高い。
直後、緑羽根Aと黄羽根Aの胴体にビンタが命中した。マッハ5のビンタは空気を引き裂いて斬撃にも似たダメージを与え、二人の黒羽根を吹き飛ばし、壁に激突、意識を失う。森を生やす能力と全体の速度を上げる能力、二つのスタンドが解除される。
悪魔、十九度目の絶叫。
「はぁ、はぁ……!」
「っ……! なんだお前は……! 強すぎる……!?」
全身青あざだらけの鹿目まどか。途端、二人の体に揺り戻しが来た。加速した世界からいきなり等速の世界に戻されたのだ。血流は滞り、視界は明滅、鹿目まどかと赤羽根Bはストンと腰を落として両膝をつき、吐血した。
「うぶっ……!」
「かはっ……!」
「まどか!?」
赤羽根Bは魔力を回して内臓の混濁を治す。その魔力を感知した鹿目まどかは《治癒》を使うことで一手早く回復した。立ち上がり、手元に弓矢を生成。赤羽根の額に矢の先端を合わせて────警告する。
「降参して。じゃないと気絶させないといけない。でも私、どうやれば人が気絶するのかなんて知らないから……たぶん、かなり荒っぽやり方になると思う」
「────っ! ……そんな脅しに、屈すると思うのか……?」
「そう。じゃあね」
鹿目まどかは赤羽根Bの背後に回り、その両脇腹に両腕を回す。そしてガッチリホールドした状態で持ち上げ、そのまま海老反りとなり────
「テレビで見たチョークスリーパー!」
「それはジャーマンスープレックスだよ、まどか!?」
赤羽根Bの後頭部が床に激突。
「グハァ……ッ!?!?!?」
その一撃で赤羽根Bは失神。同時に悪魔の二十度目の絶叫が響き渡った。
試合終了のゴングが三回、甲高く鳴り響く。
「────まだ残り時間は二分ありますが! 七瀬ゆきか陣営の選手が全員戦闘不能となりましたので、悪魔陣営の勝利となります! 鹿目まどかサマ! ガッツポーズをお願いします!」
「…………」
到底上げる気にはなれない。それでも立会人は「ホッホー!」と喜んでいる。千歳ゆまとイーピンを傷付けてしまったことを考えると居た堪れない。すぐに駆け寄るが、立会人の手拍子により各自、陣営エリアに転送された。
「! ……あの、えっと、杏子ちゃん……ゆまちゃんを守りきれなくて、ごめんなさい……」
佐倉杏子は転送された千歳ゆまを抱き上げて膝枕している。
「……いや。アンタはよくやってくれたよ。あたしは何もできなかった。何もできなかった奴が責めることなんてできねぇよ。……それより、よく頑張った。ありがとな……」
「……! 杏子ちゃん……。あの、念のため、ゆまちゃんの体を見てもいいかな……?」
鹿目まどかは念のため、千歳ゆまの背中を診て、治癒魔法をかける。
環いろはもイーピンに治癒魔法をかけるが、イーピンは問題ないと笑みを見せていた。
「ぐっ────うわぁあああああああああ────ッッッ!!!」
『────っ!』
そのとき、悪魔の断末魔が上がった。右腕が肘から手首にかけて裂けていき破裂する。内臓がこねくり回されて大吐血。右脚も膝から上下に裂けて水鉄砲のように鮮血が飛び散る。
「そんな……」
「……っ……」
環いろはと七海やちよは、目を逸らしたくなる光景をこらえ、悪魔の姿を見据える。
「ふぅ、ふぅ……っ────シャッフル……」
「っ!」
七瀬ゆきかは目を見張る。
やはり悪魔は何かをしている。だがそれを知るすべを七瀬ゆきかは持ち得ない。
「こ、コイントスです! 裏!」
「表……」
立会人はコインを投げる。自動的に《叛逆魔法》が発動。悪魔は運には頼らない。
「がはっ……!!」
悪魔の吐血と同時にコインが翻り、裏になりかかったコインが表になる。
「ではシャッフルいたします」
「っ……! 何をした!? 二回連続勝利なんて……! 確率は低くはないけど、でも……! なにかがおかしいッ!!」
「────固有魔法《死中求活》……」
「!」
息も絶え絶えの悪魔は呼吸するだけで悶絶必至の激痛が起きる。
それに耐え抜く悪魔は、もはや性分なのか減らず口を叩く。
「お前は自覚がないだろうが……
「……マズイ……事態……?」
七瀬ゆきかの固有魔法《死中求活》に関しては、この計画の全容を知る白青羽根から直感した。激痛により直感が邪魔されていたが、時間をかけて超直感を働かせることで、ようやくその心を読むことができた。だからと言って、この知識は特に勝敗に直結しない。悪魔はただ、やるべきことをやるだけだ。ただ少し休憩時間が欲しい。既に二十人分の血を流しているんだ。あともう一山だからこそ、ちょっとだけ休憩させてほしい。どうせ多量出血で死ぬことはない。叛逆魔法が生命力や精神力・運命力や骨肉を血液に変換して、流した血を補充している。だから少し話をしよう。このあとの布石を積むためにも、悪魔は語る。
「確殺地下空間から戻ってきた時から、七瀬ゆきかは固有魔法《死中求活》により、オレの超直感を凌ぐほど概念的に強くなっていた。だからお前の心を直感して、その固有魔法に気付くことができなかったんだ……おかげでお前は、
立会人は素早い手さばきで空を切り、山札を“シュッシュッ”とシャッフルしている。
「おかげで見誤ったぜ……マズイ事態とはそれのことだ……このままだと七瀬ゆきかは、逆転勝利の作用を受け続けることで、逆境に陥り続け、永遠に、無限に、
「……………………!」
「だが何事にも永遠はない……ならば最後は尽き果てるのみ……まさに、
確殺賭博場ミネルヴァ。その名に偽りなし。
確実に悪魔の弱点を突いて殺害するウワサ。だが突破口はある。それは悪魔にあって七瀬ゆきかにないもの。
────あらゆるルールに逆らい続ける、《叛逆の理》────
「完全にハメられた……確殺と謳ったのは伊達ではない……だがこの計画の立案者は、オレを殺すというより、
立会人は疾うにシャッフルを終えているが、静かに佇立している。
七瀬ゆきかも、悪魔の話を理解するために頭を使っていた。
「────認めるぜ。七瀬ゆきか……お前はオレのライバルだ……互いに似た能力を持っている……そして教えておこう……オレたちのような者が、こうして向かい合った時、その勝負がなんと呼ばれるのか知ってるか? それは哀れみを込めて、こう呼ばれるのさ……」
────“終わらない逆転劇”と。
「……それは……なかなかにかっこいい称号ですねぇ……しかし、その劇はいかなる結末を迎えるのでしょうか……?」
「さぁな……“終わらない逆転劇”なんだから……やはり
何事にも永遠はないと、その口で言ったばかりなのに?
悪魔と七瀬ゆきかは、狂気と恍惚の笑みを浮かべて見つめ合う。
「まぁ……オレの
「ですが、私だって……その終わらない逆転劇を繰り返す中で、固有魔法《死中求活》が発動し続け、あなたの呪いを天元突破するほど
「
「つまり、これは……」
「あぁ。これは、どちらが先に一気にケリをつけるかの……超高速ゲームだ。長丁場になればオレは代価を支払いきれず死亡する。だがオレの逆転勝利の呪いの方が、お前の固有魔法より幾分か
「よって予断は許されない……いいですねぇ……そういうゲームだと分かると、なんだかゾクゾクしてきましたよぉ……このゲームが終わらなければ、どちらかが必ず死ぬ……! 死んで勝負が終わる……まさかそんな状況に追い込まれていたとは……聞いていませんよぉ……水属性の白羽根さん……!」
しかし七瀬ゆきかは怒るでもなく喜んでいる。
このような死地を自覚できたことが、なにより嬉しいようだ。
「だから早めにケリをつけよう。オレは死にたくないし、お前も殺したくない」
「……!」
「故にオレは宣言する」
悪魔はテーブルの上に身を乗り出す。
「7ターン目で決着をつける。これは
「…………では、私もそうしましょう……私もあなたを殺さず生け捕りにしたいので……なるべく早期の決着を誓わせていただきます……もちろん、私の勝利で……」
「そうか。せっかくの厚意に水を差すようで悪いが────オレも、負けるつもりは微塵もない」
そして悪魔は確信する。今の会話で思考に余裕が生まれ、突破口を閃いた。
(七瀬ゆきか……逆境に陥れば陥るほど強くなる能力……そんなお前には致命的な弱点がある……それは
†
【37×18=財布の中身】運命の獣
「カードを配りまぁす! 4ターン目です! オープン!」
────────────────────────────────
悪魔の配役──「大空・嵐・雨・晴」「雷」──フォーカード&ハイカード。
役名は仲間。獲得点数は5点。合計点数は21点。
七瀬ゆきかの配役──「大空・嵐・雨・晴」「大空」──フォーカード&ハイカード。
役名は仲間。獲得点数は9点。合計点数は24点。
────────────────────────────────
「突き放された……!」環いろはの不安げな声。
「ねぇ……やっぱりなんかおかしいよ……ここまで配役が揃うことってある? もっとブタが出てもいいと思うんだけど……」普段は楽観的な由比鶴乃の指摘。
「そうね……確実に幸運水を飲んだ者が選出されるような配役になっている……もしかしたらこれも、悪魔の
「場に出したカードは回収し、捨て札として墓地に置きます。
それでは余興開始です。それぞれチョイスプレイヤーを決定してください!」
「────鼓星かずみ、由比鶴乃、佐倉杏子、環いろは」
佐倉杏子は舌打ちする。
「第一ゲームで悪魔の口から、この【大空ゲーム】のルールを聞いた時は……てっきりあたしが一対多で戦うもんだと思っていたんだが……まさかこんなことになるなんて、完全にアテが外れたよ。思えばアイツは最初から、こうするつもりだったのか……」
佐倉杏子の声が結界内に静かに響く。
「────橙羽根A、白赤羽根、白青羽根、黄羽根Aで。……黄羽根さん。連戦となりますが、私の分まで、どうかよろしくお願いします」
「さぁ! チョイスプレイヤーが選出されました! 舞台に転送します! ゴングが鳴ったら戦闘開始の合図!」
転送されるは、ペルソナカードを備える環いろは、由比鶴乃、鼓星かずみ。そして槍を構える佐倉杏子。
対するは白羽根が二名。黒羽根が二名。ペルソナカードを取り出してスタンドを発現する。
「杏子さん! ペルソナカードは……!」環いろはが心配の声色で問いかける。
「要らないよ。そんなのなくても戦える。つーかもうなんかムシャクシャしてんだ。これ、あたし一人でやらせてくれない?」
「そうはいかないよ佐倉杏子。全員分の幸運を消費してほしいんだ。……君が環いろはたちも攻撃するというのなら、話は別だけど」
Dキュゥべえの提案を失笑して返す佐倉杏子。
ゴングが鳴る。
「クェー!」
不意に白青羽根の猛禽類型スタンドが鋭い鳴き声を上げた。
すると悪魔陣営の四名は視力を奪われる。
『────っ!?』
突然の暗闇。混乱の硬直。その間隙を突くように四名の羽根が走る。
「っ────悪魔ぁ!」分析魔力を走らせて敵の位置を感知。
「敵。跳躍後、頭上より遠隔攻撃」
佐倉杏子の要請に呼応した悪魔は超直感で敵の思考を読み取り、それを簡潔に伝える。
羽根たちは跳躍。そこにジグザグと伸びる多節棍の四節が、それぞれの羽根の胴体を捉えて突き飛ばした。
『なにぃ────!?』
「命令。中央で挟撃を誘発。全体攻撃。
「────」
佐倉杏子は疾走してバトルエリアの中央に陣取る。長大と伸びる多節棍は敵味方を問わず全てを薙ぎ払う。が、空間を踊り狂う多節棍の乱舞は、奇跡的に誰にも命中せず、ただただ空を切る。全体の速度を引き上げる敵スタンドの能力が加わり、さらに攻撃速度が上昇しても誰にも当たらない。
「方針命令。自陣三名被弾に加え、吐血後、後方待機。他三名にスタンド使用を指示。心の眼を使えと伝言。あとは適当に運を消費しろ」
「────ったく。なんだか懐かしいねぇ。アンタのその気持ち悪いくらい完璧な
「お前の判断力の高さがあってこそだ。通常、音速戦闘に口頭での命令は効率が悪い。だが命令者の先読みと簡潔な指示を理解できる戦闘員がいれば例外的に可能となる。────敵。挟撃。迎撃後、結界を押し出せ」
幸運に助けられて多節棍の乱舞の間隙を掻い潜ってきた白羽根が二名、佐倉杏子に肉薄する。分析魔力の走査で詳細な位置を特定。華麗に回転して手元の多節棍の一部を《変形》魔法で分銅鎖と鉄を砕く鞭に変え、投擲と打擲。「ぐっ!?」「なに!?」不可視の存在にガードはされたが、即座に《結界》魔法を展開。白羽根たちの双剣を食い止め、華麗な回転の終了と同時に鎖で縛り編んだ結界を蹴り飛ばす。『ぐわぁ!?』壁のような結界に押し出されて吹き飛ばされた白羽根たちだが、やはり空間を蹂躙する嵐のような多節棍には当たらず、奇跡的な回避の連続で地を転がる。
「きゃあ!!」
環いろはの右肩に多節棍が命中。速度向上も相まって火力が増大している。肩の肉片を抉り取るも、佐倉杏子は攻撃の嵐をやめない。
「どわぁ!?」
由比鶴乃の手首に多節棍が命中。分析魔力を走らせていたおかげで手首を切り飛ばされる前に回避できたようだ。
続けて環いろはも多節棍に何度か被弾しているが、《治癒》の魔法でダメージをカバーしている。
「うわぁ!?」
鼓星かずみの胴体に多節棍が命中。目が見えず攻撃が当たる中で、環いろは・由比鶴乃・鼓星かずみの三名は極度の恐怖と不安、緊張の色を表情に出し、何が起きているのか、どうすれば良いのか、困惑と思考を繰り返す。
「────残り四分!」
「────ッ! ガハッ!!! くわぁああああああああ!!」
悪魔、三度にわたり絶叫を上げ吐血する。二十一度目、二十二度目、二十三度目の絶叫。
瞬間、佐倉杏子は多節棍を仕舞って飛び退き、後方に待機した。
「お前ら何やってんだ! どうしてスタンドを出して身を守らなかった! 無駄にあたしの攻撃を喰らいやがって!」
「あ、そっか! スタンドにはスタンドでしかダメージが入らないんだもんね! だからスタンドを出していれば被弾しなかったのに……」由比鶴乃は得心がいく。
「あとスタンドを使って、心の眼とかを使いやがれ! たぶんそうすりゃ
『────ペルソナァ!』
環いろは・由比鶴乃・鼓星かずみはスタンドを使用する。
「
「
「
しかし心の眼とはどういうことだろうか。それはスタンドを発現させると同時に自然と理解できた。
「これは────スタンドの目? を通して、なんとか周囲を視認できます!」
「私もハッキリと見えるよ! わぁ、自分の顔が見える! なんか面白いね!」
「わたしも見えた! しかも空を飛べるよ! 近距離パワー型だからそんなに離れられないけど!」
「それじゃあこれで条件は対等に戻ったわけだ。目が見えないあたしはここで待機する。アンタたちで蹴散らしてやんな!」
佐倉杏子は懐からラムネを取り出す。それは桃色で丸いものだが、たまにハート型やスター型のレアラムネが入っている。さらにメロン味やオレンジ味などの種類がある中で、幻とされるチョコラーメン味が隠されているといううわさがある。目が見えない佐倉杏子はラムネの瓶を取り出し、口の中に放り込む。舌で確認。すると全てのラムネの形がハートやスター型で、濃厚なチョコとラーメンの味が口の中に芳醇と広がった。
「うわっ!? おいマジかよ! こんな機会は滅多にねぇぜ! おい悪魔! 叫んだってくれてやらないんだからな!」
悪魔、二十四度目の絶叫。おそらく佐倉杏子が18回の幸運を使いきり、その命を奪う最大の不運をこうむった。
両陣営のスタンド使いが激突する。
環いろははスタンド使用による穢れの蓄積が激しいため、なるべく使用せず中距離から光矢を連発。
由比鶴乃は火を巻いて鉄扇を振るい、自分と対象の“距離”を操作する。
鼓星かずみは能力発動の兆候が見えず、ただひたすらスタンドと共にラッシュを繰り出す。
「────残り三分!」
悪魔陣営の攻撃が命中しない。だがそれもこの一分で尽きた。
悪魔、立て続けに絶叫を上げる。二十五度目、二十六度目の絶叫。
「《破壊》!」
「ぐっ!?」
鼓星かずみが橙羽根Aの右腕に触れた途端、それは風化するように崩壊した。直後、その崩壊物を鼓星かずみのスタンドが殴る。すると崩壊物はみるみると形を変えていき、二本の出刃包丁とラーメンの麺に変化した。橙羽根は後退し、魔力再生で腕を生やす。
「これで分かった! わたしのスタンドは
そもそもグルメカーとはなんなのか。
一方、由比鶴乃と相対する白赤羽根と白青羽根は、分解魔力を炎に変えて攻撃する破壊力の高さから逃れるため後退。
「逃がさないよ! 私のスタンドは
由比鶴乃と白赤羽根、
「《
魔力の桜吹雪が空間の全体を覆う。すると桜吹雪に触れた地雷が誘爆。橙羽根Aが設置した水平面の地雷を片付け、味方の魔力走査を邪魔しないよう桜吹雪を解除した環いろはは黄羽根Aと肉薄。ナイフで双剣を捌き、胴体をクロスボウで殴って光矢を発射。パイルバンカーならぬアローバンカーをお見舞いする。
「クハッ!!」
炸裂した魔力爆発は黄羽根Aを突き飛ばし、結果の壁に背中を強打。気絶してスタンドが解かれる。全体の速度を引き上げる能力が解除された。
「っ!」「うおっと!?」「わぁ!」
いきなり重力が強まったように感じた環いろはたちはバランスを崩す。だがそれは敵も同じこと。
「────残り二分!」
やがて佐倉杏子は口の中に含んだ大量のラムネを食べ終えて舌なめずりした。
「さて、一進一退の攻防。これは引き分けで終わりそうだね。あたしが何かするまでもないか」
佐倉杏子の見立て通り、そのまま制限時間が訪れてゴングが鳴る。互いに痛み分けで勝負は幕を引き、陣営エリアに転送される。
「キョーコ!」
「! ゆま! 起きたのか……何か変な所はないか?」
「だいじょーぶ!」
「そうか……ごめんな、危ない目に遭わせて……」
「悪魔キライ!」
「あぁ。まったくだ。ゆまが死なないことを分かってたからって……痛かったのはマジだもんな? あたしが何発かぶん殴ってやる」
「思いっきり! でも殺しちゃダメ! ゆま泣かなかったから、悪魔が泣くまで殴るのをやめない!」
佐倉杏子は笑うと、千歳ゆまの頭を撫でる。
「環さん! 鶴乃! 鼓星さん! よくやったわ……疲れたでしょう。このあとの展開に備えてしっかり休んでちょうだい」
「はぁ、はぁ……このあと……?」
「ウワサの本体を倒す仕事が残ってるからね……!」
「あ、そっか。わたし全力で戦っちゃったよ……お腹すいた……栄養か魔力が欲しい……」
そこで佐倉杏子は懐から取り出したお菓子を鼓星かずみに振るまう。
「食うかい?」
「! ありがとう!」
一方、悪魔は痙攣しつつ両膝をついてうなだれていた。両手両足の筋肉と骨は裂かれ、足元には血の海が広がっている。地獄のような激痛は疾うに脳が拒否しており痛覚麻痺。自らの体の置き所を忘れてフラフラと覚束無い。既に倒れていてもおかしくないはずだが、悪魔は根性と死ぬ気で覚醒状態を維持している。パックリと割れた左瞳も双方激しく揺れ動いて光を失っており、右目から血を流していることから、失明している可能性が高い。耳の穴からも流血しているが聴覚は無事なのだろうか。仮に耳が聞こえずとも超直感で周囲を分析すれば状況は把握できるため問題はないだろう。また、胴体は衣服に隠れて見えないが、既に左胸は破裂して穴だらけの心臓が露出している。本来、頭部に来るはずの不運のダメージも全て一手に引き受けているため内臓はズタズタだ。肋骨の一部があらわになっている。腰の一部がちぎれかかっているが、まさに皮一枚で繋がっている状態といえる。呼吸一つで皮膚が“ずりずり”と軋みを上げているが、仮に敗れても脊髄が繋がっている限りそうそう容易く落ちることはない。人間の体は思いのほか頑丈だ。どこが壊れるかにもよるが。そんな悪魔は血混じりの赤い息を吐き出し、潰れた喉で声を吹く。
「────シャッ……フル……」
「っ……!」
「七瀬ゆきかサマ。よろしいですか? コイントス、します?」
ミザリー立会人の問いかけに、七瀬ゆきかは言葉を失うあまり答えられない。
「────本当に、何をしているんだ、あなたは……シャッフルしても特に何か大きく差を付けられるわけでもない……そ、そのグロテスクな状態も、もしかしたらこちらの精神を揺さぶるための罠……幻覚とかじゃないんですか!? だって……全員の不運を引き受けたからって、そんなことになるわけ……。……は、はは……さては勢いで怖気付かせようって魂胆ですか? その手には乗りませんよ……! どうぞ気が済むまでシャッフルしてください!」
「シャッフルいたしマース!」
そして戦いは次のターンへ……。
†
大量出血により意識が朦朧とする悪魔は、それでも思考を絶やさない。幸運と不運の釣り合いについて
(────今までのことを考えると、おそらく七瀬ゆきかは第一ゲームの終了時点まで、
頭蓋亀裂。眼球断割。四肢断絶直前。脊髄露出。血の海にプカプカと浮かぶ両膝。三ミリの浮遊感。
(推測に憶測を重ねるが……第一ゲームに負けた七瀬ゆきかは、気分が変わった立会人によって確殺地下空間に落とされた。本来ならそこで死ぬ運命だったのだろう。だがそこで七瀬ゆきかの固有魔法が幸運の使用を許したことで、死中求活による身体強化と度重なる幸運により、なんとか生還することができた。しかし全ての幸運を使ってはならない。18回の幸運を使い切った七瀬ゆきかに最大の不運が襲いかかってソウルジェムが砕かれる恐れがある。それを回避するため《死中求活》は幸運は小出しにしていると見た)
草臥れる悪魔の屍は首から上をテーブルに突っ伏し、うつろな瞳で幸福な未来と絶対としたがる勝利を見据える。
(第二ゲーム開始時点から《死中求活》は幸運の効果を的確なタイミングで発揮して、すずの叛逆魔法によるシャッフルのイカサマを
「カードを配りまぁす! 5ターン目! オープンッセサミッ!」
悪魔はテーブルに頭突きを入れる。
『────ッ!?』
もはや両手は動かない。頭突きの勢いでカードをメンコのようにひっくり返すしかない。頭突きのたび頭蓋の亀裂が開いて水鉄砲のように鮮血が飛ぶ。何度も何度も机に頭突きするたび、全身の神経が飽和するような未知の体験を得る。もはや痛みはない。痛覚は防衛本能が忘我させた。頭突きは十度目に突入。意外とひっくり返すのが難しい。体が壊れているため、うまく頭突きに力が入らないのも関係している。
ようやく一枚目がひっくり返る。しばらくして二枚目と三枚目がひっくり返る。やっと四枚目がひっくり返るが一枚目がまたひっくり返った。やがて五枚目がひっくり返るが三枚目がまたひっくり返った。
「全てのカードを確認しましたので、表だったカードが裏面に戻ってもオープンと見なします。それでよろしいですね? 七瀬ゆきかサマ」
「…………は……はい…………」
それは立会人の厚意だろうか。悪魔側・七瀬ゆきか側の幸運が消費された兆候はない。
────────────────────────────────
悪魔の配役──「雷・霧」「雲・霧」「亜種」──ペア&ペア&ハイカード。
役名はイタリア語レッスンと静寂。獲得点数は6点。合計点数は27点。
七瀬ゆきかの配役──「雷・霧」「嵐・雨」「雲」──ペア&ペア&ハイカード。
役名はイタリア語レッスンと相棒。獲得点数は8点。合計点数は32点。
────────────────────────────────
「……わけが、わからない……シャッフルで何かイカサマをしているんでしょうけど……せっかく亜種が来たのにペアとは……2点……晴と同じ点数……どんどん差は開くばかり……ゲームに勝つ気は、あるんですか……?」
「────、…………」
「場に出したカードは回収し、捨て札として墓地に置きます。
それでは余興開始です。それぞれチョイスプレイヤーを決定してください!」
悪魔は考える。それはチョイスプレイヤーのことではなく、今後の展開ついて。
(配役は理想通り……敵も“雷”が入る配役が出てくれた……死中求活も七瀬ゆきかを生かすために、1ターンずつ確実に一回の幸運が消費するこんな確殺ゲームは終わらせたいはず……だから次だ……次からだ……)
不意に悪魔は意識が明滅し、一瞬だけ記憶が逆行する。
(七瀬ゆきかと死中求活にとっては
悪魔は言葉を発しようとして吐血し咳き込む。
(しかしギリギリだった……まさか凪と黒江が一対多を迫られるとは……特に黒江には悪いことをした……烈風の杖や冬狼剣を使えば圧勝してしまう……それでは黒江・イチゾー・大和の合計54回の幸運を消費できない……だからギリギリの戦いを強要させた……だが勝算はあった。
悪魔はチョイスプレイヤーの名を挙げながら、おぼろげに思考する。
(この調子で行けるか? 行くしかない。迷ってはいない。ただ間違っているのが怖いんだ。たとえ間違っていても、それを正しくして見せるのが叛逆の理……黒を白と言い張り、本当にそうしてしまう情熱の力が……オレの両目にはあるんだから……。絶対に誰も死なせない……こんなクソみたいなウワサ、瞬殺でブッ潰してやる……。どんな絶望の中でも必ず逆転の機会はある──最初から詰んでいない限り──だからオレは可能な限りの布石を打ち続ける……すずたちが目の前で死んだ時のように、
ただし悪魔の計略は、仮痴不癲と言うにはあまりに“
「────────、……ランボ、環うい、暁美ほむら、深月フェリシア」
「緑羽根B、白青羽根、白赤羽根、青羽根Aでお願いします」
(緑羽根B……おそらくその選出で、七瀬ゆきかの幸運が一回消費された……あと何回残っているかは知らないが、おそらく死中求活は残り一回をセーブした状態でゲームを終了させ、その後に七瀬ゆきかの生存と勝利の望みを
「……ランボ。ひとつ頼みがある」
「ん? ランボさんは誰の頼みも聞かないのだーガハハ!」
「敵味方関係なく
「! これそういうゲームか! じゃあランボさんが優勝を飾っちゃうもんねー! ほむらー! ようしゃせんぞー!」
「え────ええぇっ!?」暁美ほむらの驚き。
「さぁ! チョイスプレイヤーが選出されました! 舞台に転送します! ゴングが鳴ったら戦闘開始の合図!」
転送完了。試合開始のゴングが鳴る。
その後はランボの絨毯“雷”爆撃が始まった。拳銃にミサイル、手榴弾に電撃魔法を十重二十重に打ち出し投げ込む。
「ちにさらせー!」笑顔のランボはお祭り気分で凶器をぶっぱなす。
環うい、暁美ほむら、深月フェリシア、緑羽根B、白赤羽根、白青羽根、青羽根Aは悲鳴を上げながら回避していくが、既に幸運水を消費していた者は電撃を浴びて昏倒。残るは環うい、暁美ほむら、深月フェリシア、緑羽根Bとなった。やがて四人の幸運も尽きたのか、一分と経たず電撃を浴びて全員の頭がアフロになる。「けほっ」と焦げた息を吐いた四人は気絶。
同時に悪魔が二十七度目、二十八度目、二十九度目、三十度目の絶叫を上げた。
「!? あくま、ちんだ? ちんだのか?」
ランボは鼻水を垂らし、もう片方の鼻をほじりながら聞く。一応マフィア出身者であるため、ある程度の残酷なモノは見慣れているようだ。どうやらランボは、血まみれの死体より、幽霊の方が怖いらしい。
「────残り四分ジャスト! まさかの早期決着で悪魔陣営の勝利! いやぁとっても強い五歳児でいらっしゃいますねぇ!」
「ランボさんちゃーんぴおーん! ガハハのハー!」
チョイスプレイヤーが陣営エリアに転送される。鹿目まどかと環いろはの治癒魔法によって全快。
「こ、怖かった……音がすごかった……」環ういはヘタリと座り込む。
「痛覚遮断していたとはいえ、生きた心地がしなかったよ、ランボちゃん……」暁美ほむらもヘタリと腰が抜ける。
「おいテメェなんのつもりだ! わけもわからねぇ場所に連れてこられてムシャクシャして、どうせなら戦って憂さ晴らししようと思ったら、なんだあの電撃は!?」深月フェリシアはランボに食ってかかる。
「あ、同じ牛柄だ」ランボは深月フェリシアの頭にある牛の角を指差す。
「! ……もしかしてお前も、牛、好きなのか?」
「んー…………牛丼は食べたい!」
「オレもだ!」
まさか牛柄同士、おバカな子供同士でシンパシーが合うのか。
そんなことを思いながら悪魔は笑う。激痛を誤魔化すためか、狂ったようにくつくつと笑う。
「それでは山札のカードが尽きましたので、捨て札から全て戻し、シャッフルいたします」
「……また、このシャッフルで何かするんですか……?」
「…………」
立会人が50枚のカードを丹念にシャッフルしている間。
悪魔は逆転勝利の呪いの酷使によるせいか、突として右目の眼球に亀裂が入り込む。亀裂から垣間見える藍色の宝石。それは結界の中で廻り続ける笹川京子のソウルジェム。
さらに水泳の魔女による叛逆魔法の酷使によるものか、とうとう悪魔の左目が肥大化して爆発した。
『────ッッッ!!!?』
悪魔は叫ばない。気絶している。だが今の爆発で覚醒した。
(──、……気を失うな。気を失えば誰かが死ぬ。絶交階段の時はオレが倒れたばっかりにももこが……二度と同じ失態は犯さない……頼む……もってくれ……オレの根性……覚悟だけあっても意味がない……気力・体力が揃ってこその……ぐっ……!)
悪魔の左目の奥底に回転する四角い結界。その中は瘴気で満ち満ちておりパンパンに膨れ上がっている。今にも破裂しそうだが、渦巻く瘴気の嵐の中でチラリと見えた黒々と光るソレは、未来永劫と悪魔の中で廻り続ける水泳の魔女のグリーフシード。
「……っ!? あなた……なぜ左目に……グリーフシードを……!?」
七瀬ゆきかの驚愕と困惑。
「ま、まさか……それが今までのイカサマの正体なのでは!? 立会人っ!!」
「だとしても、わたくしの力では“禁止できないので禁止されません”ので……悪しからず」
「っ……!」
「それに現在は七瀬ゆきかサマが勝っているのだから良いじゃありませんか」
そこで環いろはが目を逸らしてギュッと閉じ、下唇を噛み締めた。
その拳は強く握られ、両肩は震えている。
「も……もう無理、です……直視……できません……っ!」
無理もない。もっと前からグロテスクが過ぎて直視できない。中にはその目を覆い、直視させない者もいた。
そこでDキュゥべえが語り始める。
「魔法少女でもない人間の体で運命を操ろうとするからああなる。運命を操るにはそれ相応の対価が必要だ。ただし勘違いしてはいけないのは、とにかく自らの体を痛めつけるように拷問すれば運命が変わると……そう思い込むことだ。悪魔は肉体だけではなく精神も、その魂までもを削っている。
ヘルリング。さらりと登場した謎の名称に一同は首をかしげる。
「つまり悪魔は今、多くの運命力を消費している。自身の魔力係数を代償にして奇跡を得ているんだ。それにより悪魔の才能は加速度的に枯渇していき、どんどん弱くなっていっている。……ただし、彼が弱くなって負ける要素が増えれば増えるほど、それに反比例して逆転勝利の呪いが更に強まるわけだから……結果オーライなんだけどね。つまり彼は、ただ貪欲に勝つために最高効率を選んでいるのさ」
環いろはが問いかける。
「でも……でも……! 悪魔さんがあそこまで自分を傷付ける意味が、本当にあるんですか……!?」
「立会人のゲームなんて無視して強行突破した方が最良だったのでは? という意味かい?」
「そうだよ! こんなもの、馬鹿正直に付き合う必要はない!」
「────ならば環いろは。あなたは悪魔の思いを踏みにじって死になさい」
不意に涼やかな声がウワサ空間に響く。
それに聞き覚えがある鹿目まどかが、ウワサ空間に入場してきた人物の名を叫んだ。
「織莉子さん……!」
白い魔法少女・美国織莉子。その傍らには黒い魔法少女・呉キリカが仕えている。
「私は未来予知で何度も見たわ。その未来では、悪魔は迷うことなく佐倉杏子と共闘して立会人のウワサを倒した。でも、
『────!?!?』
「彼はそんな────
そこでDキュゥべえが反応を示す。
「光景の直感? 心情ではなくかい? まさか……」
「そう。悪魔はフクロウ幸運水のウワサから小瓶を受け取ろうとした瞬間“見透かす力”が発動した。でもそれはただの超直感ではない。逆転勝利の呪いが叛逆の性質を誘発させて生み出された
「またの名をラプラスの悪魔。この宇宙の真実を全て知る能力。そうか……悪魔の精神が不安定だった理由がこれで分かったよ。やけに苛立っているとは思っていたんだ」
「えぇ。悪魔は懊悩し、焦燥していたでしょうね。公園で佐倉杏子と口論が絶えなかったのが何よりの証拠。平静さを失っていたのよ。さすがの悪魔も人の子ね。数時間後に自分が
「神に近しい能力を手に入れると、人間はああなるのかもしれないね。代々マーレリングの持ち主も、似たようなものだったようだし」
環いろはが叫ぶ。
「あ、あの……つまり、どういうことなんですか!?」
「悪魔は私と同じく未来を予知したの。
「────そんっ……!?」
「見てしまったからには避けられない。彼の善良さが、その未来から逃げることを許さなかった。自分だけ助かって周りが死ぬ未来を黙って見過ごせない。自分が辛い目に遭って周りが助かる未来の方が絶対にいい。……──そんな優しすぎる安易な理由で、悪魔は今、必死に…………死ぬ気で“不幸”と戦っているのよ」
再び、誰もが言葉を失う。
突然の衝撃。轟音。佐倉杏子が結界のガラスを殴り付けた。結界の方が硬いため拳の皮膚が切れて出血する。
「どうして……だからって……ほかに何か、やりようが……っ! ────悪魔さんッ! 私たち仲間じゃなかったんですか!? 何か作戦があるなら、私は聞きます! だからもうやめてください! このままじゃ本当に死んじゃ……!」
「環いろは。
「っ……!!」
吐血。骨折。炸裂。爆裂。
尋常ではない運命叛逆の代償は、悪魔の心身を極限まで追い詰める。
「カードを配りまぁす! 6ターン目です! オーップンンンンンンンッ!!」
一方その頃。
立会人はシャッフルを済ませて、6ターン目の開始を告げていた。
「……ところでキュゥべえ。ヘルリングとはいったいなんなのです?」
ふとした百江なぎさの問い掛け。
Dキュゥべえは視線を悪魔から逸らさず、質問者に対して尻尾を振って答える。
「死炎界に伝わる、世界に六つしか存在しない幻の霧系リングさ。地獄との契約で、使用者の精神と引き換えに戦闘力を何倍にも引き上げる《戦力倍加》の能力を有する最高レア度の呪いのリング。しかし、それは全てのヘルリングに共通している能力だ。ヘルリングにはそれぞれ異なる能力があり、その中で悪魔が不運水を浴びて
「セーイ・セーイ・セーイ?」百江なぎさの首かしげ。
「イタリア語で“666”……それは獣の数字とも言われる、とても不吉な数字……」凪の解説。
「666のリングは別名“アンラッキーのリング”とも呼ばれている。その固有能力は“666回の不運の後に、それを覆す1回の幸運が訪れる”という代物だ。けれど未だに成功例の報告は無い。なぜ成功例がないのか、その理由は様々だけど、一説には666回の不運の中で不幸にも死んでしまうからだ、というのが有力とされる。そのため死炎界では眉唾の能力として語り草だ」
Dキュゥべえは解説中も、じっと悪魔を見つめていた。無機質な赤い瞳は、いま何を考えているのか。
「成功例がない……しかも眉唾って……」
「…………、────あぁ~~~~!!?」
環いろはの不安げな声の後、由比鶴乃が叫び声を上げた。突然の叫びに驚く一同。
ふと目を瞑って佇む美国織莉子は口の端を釣り上げる。
「あら、どうかしたかしら? まさか悪魔の狙いに気付いてしまったの? だとしたら小声でお願いね。敵に聞かれると悪魔の作戦がご破算になるかも知れないから」
「み、みんな! 円陣! 円陣を組もう! 内緒話っ!!」
由比鶴乃を中心に少女たちは円陣を組む。お姉さんたちの肩に届かないフゥ太や環うい、千秋理子やマメジ、ランボやイーピン、百江なぎさ等は、彼女たちの股の下を通って円陣の中心に入って座り込み、頭上に丸く並ぶ少女たちの顔を見上げる。
「みんなよく聞いて! えっと……私も考えをまとめたいから……まず、この中で幸運水を飲んだのは何人!?」
環いろは、環うい、由比鶴乃、鹿目まどか、暁美ほむら、黒江、イチゾー、大和、凪、イーピン、鼓星かずみ、千歳ゆま、深月フェリシアの13人。さらに悪魔とDキュゥべえ、佐倉杏子も飲んだので16人となる。
「えっと、それじゃあ向こうの羽根たち16人も幸運水を飲んでいるとして────合計32人! そして幸運水は一人につき24回の不運が起きるから────いま悪魔の身には768回に近い数の不運が起きている!」
「いや待て!」
佐倉杏子が情報を訂正する。
「あたしたちは第一ゲームの時《確殺賭博場ミネルヴァのウワサ》の全容を賭けてゲームに勝った! そんときに分かったことだが《フクロウ幸運水のウワサ》と《ミザリーウォーターのウワサ》はダミーだ! あたしたちは本当は《カスタム幸運水のウワサ》を飲まされていたらしい! それによると18回の幸運の後、それを圧縮した最大の不運が襲うっつー話だ!」
「……じゃあ、それが本当だとしたら────いま悪魔の身には576回の不運が起きている! これじゃあ666回まで足りないよぉ!」
「待ちなさい鶴乃。つまりあなたはこう言いたいの? 悪魔は私たちの不運を吸収することで、666のヘルリングの《幸運効果》の発動を狙っていると……」七海やちよの尖り声。
「じゃないとあんな無茶をする説明が付かないよ! 逆にそれ以外の何があるのさ!? もしあったら怖いよ!? だってもしそうだとしたら、悪魔は666のヘルリングを
そこで佐倉杏子はピンと閃く。
「そういや悪魔の奴……幸運水を両手の指輪に掛けていたよな……?」
「? 何か知っているのか杏子ちゃん!?」由比鶴乃は目を丸くして問い掛ける。
「悪魔の指輪の幾つかは赤の他人のソウルジェムを二つに分けたものだ。アイツが意味もなくソレに幸運水を掛けるとは思えねぇ。こぼした感じでも無かったしな」
「でも幸運水は飲まないと効果がないんじゃ?」
「忘れたか? アイツは
「……! つまり悪魔は、ういちゃんにほむらちゃん、フェリシアに緑羽根Bに幸運を消費させるためにランボちゃんをチョイスプレイヤーにしたんじゃなくて……ランボちゃんの幸運自体も消費させる狙いがあったってことだね!」
そこで七海やちよが指摘する。
「待ちなさい! どう見てもランボは幸運を消費しないでバトルが終わったわ! 悪魔の絶叫も三十回目で終わっている……」
「あれ!? ホントだ!? じゃあこのあとのターンで戦わせるつもりなのかな?」
「いや、あれはたぶん悪魔も想定外だ! ランボは電撃魔法をコントロールできず自分で喰らっちまう! だがランボは幸運水のおかげで自爆を免れていた! だが思ったよりほかのチョイスプレイヤーがすぐに倒れちまったから、ランボの幸運がまだ消費されてねぇんだ!」佐倉杏子の気付き。
「そういうことなら今ここで消費させればいい。誰か適当にランボとジャンケンでもしてくれないかな?」
Dキュゥべえの提案を聞いた環ういが、急いでランボとジャンケンに興じる。
その時、由比鶴乃たちは立会人の大声を聞いて、チラリとテーブルを見やった。
「カードを配りまぁあああああああああああすんっ!! 7ターン目ですッ!! オォオオオオオオプゥウウウウウウンッ! セサミイルゥウウウジョォオオオオオオオオンッ! ホワァアアアアア!!」
なぜかハイパーハイテンションのミザリー立会人はさておき。
6ターン目はチョイス不成立だったのか、喜々とした立会人の宣言により7ターン目に移っていた。
「あれ!? なんかよく分かんなくなってきたよ!? 6ターン目のチョイスで、悪魔は666回の不運を起こすんじゃなかったの!? 私の考察、外れちゃった!? それとも7ターン目のチョイスで666を発動させるのかなー!?」
「言っただろ。アイツは叛逆魔法を持っている。きっとほかの方法でその問題をクリアするつもりなんだ。それより、おい……アンタ頭の回転が早そうだから聞くが……666を割り切れる数はいくつだ?」
「えーと、えーと……2、3、6……9、18、37!」
「よしっ。ならこれで決まりだ。一人につき不運が18回! 666回に届くために必要な人数は37人! 悪魔は五つのハーフソウルリングの不運を、無理やり叛逆魔法で消費させて吸収するつもりだ!」
「五つ?」
「そこの凪って奴も、悪魔が持つハーフソウルリングの一人だ。悪魔は火・水・木・光・闇・無の、六つのハーフソウルリングを持っている。だがあたしの目には無属性のリングには掛けていないように見えた。それは
「それじゃあ数が合うね! 32人に5人を加えて37人! ────あ、でも忘れてた! 残り5人の幸運消費は悪魔が叛逆魔法でなんとかするとして、七瀬ゆきかは自分の幸運を使い切ったのかな!? 悪魔はあの状態だから、もう使い切っていると思うけど……っ!」
「それが問題ね────今のところ、七瀬ゆきかのカード運はまずまずって感じだけど……」七海やちよの不安げな声。
「こう、
そこで環いろはが疑問を投げかけた。
「あ、あの、ちょっと気になったんですけど……不運は一回に圧縮されているんですよね? だったら悪魔さんは、37回の不運しか貯蔵できないんじゃ……」
「あっ! たしかに! そういえばそうだった!」
先を読みすぎる思考回転力の高さがアダとなった由比鶴乃の天然が炸裂。
だがそれを佐倉杏子が冷静に補足する。
「よく見ろ。悪魔の奴、テーブルの下で嵐の炎を灯している。あれは分解魔力と同じ作用がある。きっとあれに叛逆魔法が加わって、一回の最大不運を18回の不運に戻しているんだ。確証はないがカスタム幸運水のウワサは元々、ほかの幸運水のウワサを改造したものみたいだからな……不可逆を可逆にする上では理論上可能かもしれねぇ。もちろん本来は分解できない効果を分解している以上、そのぶん大きめの不運を喰らっているだろうがな……だからあんなグロイ状態になってんのかも……ルールを破るには、それなりの対価が必要だからな」
そこで由比鶴乃たちは再び、チラリとテーブルを見やる。
次の瞬間、彼女たちは全てを察して愕然とした。
由比鶴乃の考察は外れていたが、由比鶴乃の
†
【《沢田奈々の命》を賭ける】悪魔
「カードを配りまぁす!」
(────このタイミングが、一番か……? 分からない……賭けだな……)
悪魔は火属性のハーフソウルリングに語りかける。
(────聞こえるか、隼人……今からむくと了子、恭弥を集めて、72回以上コイントスをしてくれ……でないとオレは死ぬかもしれねぇ……何を言っているのか分からないだろうが……できれば頼む……なるべく早く、そうだな……今から一時間以内に……)
シトピ隼人のソウルジェムが、その懇願に応えるように元気よく明滅する。
「6ターン目です! オーップンンンンンンンッ!!
そしてお忘れなきよう! このターンから“ハイカード宣言”のルールが適用されますんばっ!」
────────────────────────────────
悪魔の配役──「晴・大空」「大空」「嵐」「嵐」──ペア&ハイカード。
────────────────────────────────
「ハイカード宣言! 一枚目の“晴”を崩す!」悪魔が叫ぶ。
────────────────────────────────
悪魔の再配役──「大空」「大空」「嵐」「嵐」「晴」──ハイカード。
役名は無し。獲得点数は18点。合計点数は45点。
七瀬ゆきかの配役──「大空」「大空」「大空」「雲・霧」──ペア&ハイカード。
────────────────────────────────
「ハァ、ハァ……ッ!! キタァアアアアアアアアアッッ!! これは絶対にハイカード宣言ンッ! “雲”を崩します! 強制的にハイカードですッ! ペアは作らせませんッ!!」
七瀬ゆきかは素晴らしい手札が来て興奮する。
「──雲?」立会人が聞き返す。
「はいっ!」自信満々の七瀬ゆきか。
「四枚目のことだろう。きちんと言わないとダメだぞ」悪魔の忠告。
「──
「はいっ!」勝利に近付いていることを確信する七瀬ゆきか。
「承知しました」
────────────────────────────────
七瀬ゆきかの再配役──「大空」「大空」「大空」「雲」「霧」──ハイカード。
役名は無し。獲得点数は23点。合計点数は55点。
────────────────────────────────
「来たァ! 10点差ァッ! しかも仕切り直しのターンで大空が5枚! これはキテる! まだ巻き返しの可能性はあるけど、これは────行けるぞォッ!!」
「場に出したカードは回収し、捨て札として墓地に置きます! ですが
(まぁ立会人は公正を期すためにそうするよな……ゆきかは……いいカードが揃って興奮しているせいで、なぜ端っこに置くのか気にしていないようだ)
「なお
「超高速ゲーム……あなたはそう言いましたよね!? ならこれで一気に決着を付けさせていただきますっ!」
大空が3枚も出たことで、まるでスリーセブンが出たかのように絶頂する七瀬ゆきか。
「────シャッフル」
「まだやりますか!? ですがどうぞ! 私は負けません! あなたの行動の理由は分からなくても、私はあなたのその行動が、私を窮地に陥れるものと認識しています! だから固有魔法《死中求活》は、きっと私を助けて、あなたの策略を打ち崩す! 私はそれを信じています! だからあなたと違ってイカサマなんかせず! 正々堂々と勝ちに行きます────ッ!! よって、これは宣言です! 私はあなたに20点差を着けて勝利する……ッ!! これは確定事項だ────ァッ!!」
「シャッフルいたしまぁああああああああああああああすんボレロォオオオ!!!」
しかしてゲームは次のターンに移る。
「カードを配りまぁあああああああああああすんっ!!」
「────ガハッ!?」
その時、悪魔は三十一度目の絶叫を上げる。環ういとジャンケンしていたランボが18連勝して幸運を使い切ったようだ。
「ガ゛ッ゛……゛! ────グ゛ワ゛ア゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛ッ゛ッ゛!゛!゛!゛!゛」
さらに思いの外、シトピ隼人の仕事が早く、立て続けに幸運が消費されたらしい。
三十二度目、三十三度目、三十四度目、三十五度目の大絶叫が上がる。遠方に居る他者の不運を被る代償の高さから、今までより大きな絶叫と相成った。
(グガッ……! ヅッ……!! の、残るは……七瀬ゆきかの、不運を受ける、だけだ……ッ!!)
その時こそ三十六度目の絶叫となり、自分含む37人分の不運を全て受けたことになる。そうなれば666のヘルリングの《全てを覆す幸運》が発動するが────悪魔はそれを叛逆魔法で押しとどめるつもりだ。もっと効果的なタイミングで使うために。
ちなみに悪魔はゲーム開始時、自分の不運を喰らって心臓に孔が空いた際、絶叫を上げなかった。それは代償が心臓に孔が空く程度であり、絶叫するほどの激痛ではなかったからだ。せいぜい心臓から垂れる血流が内臓をシトシトと流れ落ちる怖気と気味の悪さを感じる程度だった。
しかし他者の不運を被るとなれば、そうもいかない。叛逆魔法により他者の不運を引き受ける以上、それ相応の代償を支払う必要がある。つまり心臓に孔が空く程度では済まない。頭蓋裂壊、眼球裂傷、
生き地獄とはまさにこのことか。
悪魔は死力を振り絞って意識を頑固に保つ。
一瞬でも意識を失えば、その時点で全てが終わる。
故に倒れてはならない。心が折れてはならない。確実に────勝利する為に。
「7ターン目ですッ!! オォオオオオオオプ────」
「レイズ」
「──── …………?」七瀬ゆきかは目を点にした。
互いのカードをオープンする前に。────ふと、悪魔が、言ったのだ。
「
「────、……なに、を……? ────」
まさか、と七瀬ゆきかは、希望と絶望の狭間の表情で揺れ動く。
「今から言うことを……“ただのハッタリ”と受け取ってもらっても構わない……その代わり最後まで言わせてもらうぜ……」
「……」
「このゲームには“降参”がある……つまり、テメェは降参しといた方が身の為だ、と、そう言っておこう……」
「…………あの……おい……賭けるものを、言ってください……さっさと……言え……言えよ……っ! あなたは何をッ! 今更!
七瀬ゆきかは呼吸困難に陥る。
悪魔の表情が見えない。血に濡れた髪が目元に覆い被さり表情が読めない。
「────《沢田奈々の命》を賭ける」
「!? だ、誰ですか、その人はっ!?」
「オレの母親だ」
「ダッ?!?!?!」
「当然……《オレの命》も賭ける」
「オッ!?」
「それはすなわち、オレと命を共有している六人……《獄寺シトピ隼人》《水野武薫》《
「な……なz、今sらそんにゃことを────!?」
「そして当然お前には、
「!?」
テーブルの上に乗る悪魔の首。
それはまるで首だけになっても勝利を諦めない姿勢として、七瀬ゆきかの赤い
「貴様に賭けてもらうものは────《自動浄化システム》だ」
「────ハ? な、なんですか、それ……?」
突として立会人が忠告する。
「悪魔サマ。ゲーム終盤での
「オレは
「!?」
悪魔は七瀬ゆきかを睨め上げる。
「あくまで
「…………ま、魔法少女を救済する、組織です……」
「つまり正義の組織ってわけだ。──で? 正義の組織が口約束を反故にするわけないよな? オレが今の口約束を守る保証は無いかもしれないが、もし────
「────ッ!! だ、だから……! あなたはいったい何を賭けろと! 私に言っているんだァアアアアっ!?」
悪魔は骨だけになった両足で立ち上がり、骨だけになった右手でテーブルを粉砕するほど強く打ち叩く。
「《マギウスの命》ッ!!」
「!?!?!?!?!??!!?」
「七瀬ゆきかッ! オレはここで全ての決着をつけるぞ! お前の命なんか欲しくないが! オレの大切な人たちの命を賭けたくなかったが! ──テメェが自分のソウルジェムを賭けたせいで──
「そ、れは────」
「さぁ選べ! 負ければ貴様のせいでマギウスは終わりだ! 全てを失うぞ! 降参するなら今のうちだ! オープンすればもう引き返せないぞォッ!!」
「ハァ、ハァ、ハァ……ッ!! ハ────
七瀬ゆきかは滝のような汗を流し、机を殴るように立ち上がって悪魔の額に頭突きする。
互いに両目が血走っている。悪魔に至っては片目が破裂して片方が裂けて割れ目から火花が散るように藍色の魔力が弾けている。それに臆することなく、机の上に身を乗り出した七瀬ゆきかは、悪魔とゼロ距離で対峙した。
「ならば賭けてもらおうかッ! 《マギウスの命》たる《自動浄化システム》をッ!!」
「はっ────ハッタリだァアアアアアアアアア!! かっ、かかかっ……か、かか、かっ! かけ……賭けてやるゥウウウウウウ────!!」
「待てェ!! 何を言っているゥウッ!? 七瀬ゆきかァアアアア────!!?!?」
白青羽根の絶叫は、もはや二人だけの賭博世界には届かない。
「勝手に他人の命を賭けるしかないゲームとか……
「それでは! 運命の7ターン目ェエエ! オォオオオオオオプゥウウウウウウンッ! セサミイルゥウウウジョォオオオオオオオオンッ! ホワァアアアアア!!」
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悪魔の配役──「雲」「雲」「雲」「雲」「雷」──ハイカード。
役名は無し。獲得点数は17点。合計点数は62点。
七瀬ゆきかの配役──「大空」「大空」「大空」「大空」「大空」──ファイブカード。
役名は包容。獲得点数は5点。合計点数は60点。
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「キ────キタキタキタキタキタァァアアア!!!!! “大空”が揃っていくぞボヘェエエエエ!! ぐわぁまさかのファイブカードだとぉおお!? 合計60点! 2点負けルゥううう!
「────七瀬ゆきかサマ────」
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悪魔の配役──「雲」「雲」「雲」「雲」「雷」──ハイカード。
役名は無し。獲得点数は17点。合計点数は62点。
七瀬ゆきかの配役──「大空」「大空」「大空」「大空」「“大空”」──ハイカード。
役名は包容。獲得点数は25点。合計点数は80点。
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「そら見ろ勝ったァアアアアア! 正義はかぁあああああつ! 私は80点ンンッ! あなたは62点ンンッ!! 圧倒的大差の勝利! しかぁも宣言通りの20点差じゃボケェエエエエエエエエ!! いや22点差じゃボケェエエエエエエエエ!! 第三章・完!」
七瀬ゆきかは、はしたなくも指をさす。
悪魔は立ち尽くしたまま俯いていた。完全敗北して何も言えないのだろう。
「ヒャアアアアアア! アーハハハハハハハハハ────、……ハ? ────は? は?」
七瀬ゆきかの勝利の高笑いが止まる。
(────まって……なにか……おかしい……ぞ……?)
七瀬ゆきかは勝利の涙で前が見えない。その目を違う違う違う違う違う違う違う違う違うと擦り擦って涙を引っ掻き取り、目を凝らして場に出ているカードを凝視する。
(────なんで……大空が……
「幸せな夢からは覚めたか?」
「!?」
「七瀬ゆきかサマ。ハイカード宣言はよろしいのですが、
「!?!?!?!」
七瀬ゆきかは首を否と振る。何を言っているんだ。大空のカードなら、ほら、ここに、目の前にあるじゃないか。確かに枚数は多い────なんで? 確かにおかしい────なぜ? 何が起きているのか理解が拒む脳を。
「自分のカードをよく見てみろ」
七瀬ゆきかの場に出ている五枚のカードから
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悪魔の配役──「雲」「雲」「雲」「雲」「晴」──ハイカード。
役名は無し。獲得点数は17点。合計点数は62点。
七瀬ゆきかの配役──「雲・雨・霧」「晴」「雷」──スリーカード&ハイカード。
役名は
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「!???!?!?!? わ────私は知らない! こんなカード出してない!」
「現在の七瀬ゆきかサマの合計点数は46点です」
「ハぁッ!?」
「今のままでは52点になりますが、ハイカード宣言しますか?」
「……ま、待て……前のターンは……わ、私の、合計点数は……55点、だった、はずだ……」
「いいえ。46点です」
「────────どぉおおゆぅうううことぉだよぉおおおおお!?」
七瀬ゆきかは「くぁwせdrftgyふじこlpコレハァアアアア!?」混迷の絶叫をブチ上げる。
「七瀬ゆきかサマ。ハイカード宣言しますか?」
「ッ……!?!?!? す、する……! して、みる……!」
七瀬ゆきかは自分の場に出ているカードを射殺すようにギロギロと充血凝視する。
「く、くそぉおおっ! チクショォオォオオ! わけがわかりません! わけがわがけでわけがまわがげぎギェエエエ!?!? 雲・雨・霧のスリーカード! 晴と雷のハイカード! 3と3点すなわち6点! ──げ、幻術を使ったのかぁああ!?──(幻術じゃない本当の)私の本当の本当の本当の点数は46点だからァ??! 合計52点ッ! 届かないィィッ!! あと10点ッ届かないィイイイ!! 雲か霧、どっちでもいいィイたとえば霧を宣言して崩したところで“雲雨霧晴雷”のハイカード! 14点! 合計60点っ! 2点ッ届かないッ! あと2点なのに……っ! あと1点ですらない……っ!! スリルが、あと1点、足りない……ぃっ! ウワァアアアアアアア────ッ!!」
七瀬ゆきかは鼻血を出して後ろ向きに倒れる。後頭部を床に打ち、全身が跳ねて大の字となりもんどり打つ。
「────七瀬ゆきかサマ?」
悪魔が手を挙げて制する。
「ゆきか……圧倒的大差で、勝てると思ったか……?」
「……っっっ!!?」
「オレは一人ではお前に及ばない……だがオレには多くの仲間がいる……みんなの力を合わせれば当然、一枚も二枚も……いや、一桁どころの騒ぎじゃないな……
「────」
七瀬ゆきかはむくりと立ち上がる。興奮する心境は絶頂と有頂天の境を右往左往している。
「幻術……そうだろ……! 幻術を……ォッ! 使ったんだろぉおおおおお!! なんで……なんで幻術で上げて落としたァ!!? そんなことしなくても点数的にあなたの勝ちだった……! 悪趣味だこんなの!」
「お前……本当に何も分かっていないな……
「────」
ただのスリルジャンキーは、ギャンブルの勝利を求めているわけではない。スリルに身を委ねることを本望とする。だが、それでも勝ちたかったのなら、スリルへの渇望と折り合いをつけて、貪欲に勝利を求めるべきだったのだ。慢心せず、油断なく、戦略を突き詰めるべきだったのだ。天運に身を委ねることなく、確実にそこにある勝利を掴み取る為に。
「オレは
「……」
「オレにとって、知力とは疑う力。財力とは仲間の力。暴力とは手段の数ッ! そしてお前は
「……────だったら、教えてくださいよォ……! もう、私は負けたんだから……! あなたはーっ! いったい私に何をしていたんだァアアアアア!!?」
「これで判明したッ! お前の固有魔法《逆境活路》はッ! “
「────っ!!」
「立会人! 6ターン目の七瀬ゆきかのカードを出してくれ!」
悪魔の要請に応じて、ミザリー立会人は
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《6ターン目の記録》
七瀬ゆきかの配役──「嵐・晴・雨・大空」「雲」──フォーカード&雲ウロボロス。
役名は仲間と“破壊”。獲得点数は4点。合計点数は36点。
↓左から四番目のカード「大空」を“ハイカード宣言”した。
七瀬ゆきかの再配役──「嵐・雨」「晴」「“大空”」「雲」──ペア&ハイカード。
役名は相棒。獲得点数は14点。合計点数は46点。
ちなみに幻覚で見せられていた七瀬ゆきかの配役はこちら「大空」「大空」「大空」「雲・霧」
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「そう。本当は“フォーカードの雲ウロボロス”だったんだ。しかし幻術に気付かないお前は《逆境活路》の魔法が発動しなかった。そして、この時のお前は“雲カードをハイカード宣言した”……しかし、もし(七瀬ゆきかの視点では2分の1の確率で)“霧カードをハイカード宣言する”と口に出していれば、必ず立会人は《七瀬ゆきかサマの場に霧カードはございません》と答えただろう。そうすればお前も、目の前にあるカードが全て幻術で作られた偽物だと気が付いたはずだ。ただし幻術を解く方法が分からないだろうから、やはり最後は運頼みで選んでいただろうがな……。
しかしそれでも結局は、一番得点が高い“
七瀬ゆきかは俯いて押し黙る。
人事を尽くして天命を待つ。そんなギャンブラーは二流だ。一流は
「ただし、その表情から察するに……お前はスリルを楽しみたいだけだから、駆け引きの上達を勧められても興味は無いだろうな……」
「…………いえ。あなたがプロにも引けを取らないギャンブラーであることは理解しました。私は目先のスリルに身を委ねるばかりで、完全に手のひらの上で踊らされていました……」
「よしてくれ。魔法と霧の炎を使ったイカサマだらけの男だ。真のギャンブラーには到底かなわない。そもそも真のギャンブラーとはイカサマせず、布石のみで勝つと聞く。叛逆魔法による後付けばかりのオレとは真逆の存在だ。雲泥の差と言える。もちろん泥がオレだ」
ミザリー立会人が問い掛ける。
「七瀬ゆきかサマ。ハイカード宣言しますか?」
「……しません……」
「……そうですか。では! 七瀬ゆきかサマの合計点数は52点となります! そして悪魔サマの点数は────」
悪魔は勝ち誇った笑みを浮かべて目を伏せる。
「────完敗です」
「──なんだって?」そう言うと直感していた悪魔の再確認。
「私の、負けです……」
スリル満点の賭け事が終わった七瀬ゆきかは、疾うに何もかもが燃え尽きていた。
「────……七瀬ゆきかサマ。
「
「────、…………、……。…………承知しました。七瀬ゆきかサマの降参を確認! これにより悪魔サマの
悪魔は赤い吐息を吐き出す。
「ふぅ……
その、
七瀬ゆきかは、無意識に、まさか、 と、思考が、硬直 する 。
「──── 。……は? え?
「ゆきか。オレのカードをよく見てみろ。
「────────────────」
悪魔の場の上から藍色の炎が燃え盛り、霧が晴れ渡る。
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悪魔の配役──「雷」「雷」「雷」「雷」「雷」──ファイブカード。
役名は避雷針。獲得点数は5点。合計点数は50点。
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「か、雷の……! ファイブカード、ダトォ゛オ゛オオオオ゛オオオオ゛オ゛!?゛!!?゛!?゛」
七瀬ゆきかの大絶叫がウワサ空間を轟かす。
悪魔の鼓膜が破裂。既に聴こえにくい両耳が更に壊れて“キーン”と響音が残留する。
「じゃあ、なんだ!? つまり、これって、要は、だって! おい────教えてくださいよぉ! あなたの本当の点数はっ!? なんなんだぁあああああああ!?」
「ご覧の通り、50点だ。
「────────────────」
「いやしかし、
「────────────────────────────────」
「改めて言わせてもらいますが、悪魔サマの合計点数は50点。七瀬ゆきかサマは
「ほう。となれば
「────────────────────────────────────────────────────────────」
七瀬ゆきかが優位だった点数差を、悪魔は
「立会人が余計なことを言わないように
悪魔は勝利の安堵で気が抜けたのか、文字通り満身創痍の体を後ろに倒す。尻餅を搗くと脊髄が折れて胸部と腰部がぶつかり“ベチャッ”と音を立てて、上半身が振り子のように揺れて揺れて揺れる揺れる。
「────ぃ……」
「?」
「────ひどい……ヒドィ……────わぁーん!
あまりのショックに号泣してしまった七瀬ゆきかは両膝を折り曲げて女の子座りで地に腰を落とす。
「おやおや、これは……負けたことが悔しくて泣いているわけではなさそうですねぇ……。……悪魔サマ? あまり女の子に
「……善処する……」
そこで悪魔は六道骸の気配を感じた。
(……。……オレはそこまで幻術が得意じゃない。ましてや
つまり。
(骸……お前が助けてくれたのか。ありがとう……)
(クフフ……あまりにも拙すぎる幻術が目も当てられなくて、つい術士のプライドゆえ補強してしまっただけですよ……それに何度も言いますが、僕は凪を助けに来ただけです……あなたが死ねば凪も死ぬ……まったく悪魔契約とは厄介ですね……実にいやらしく卑猥で低俗な能力だ)
(嫉妬か?)
(クフフ……悪魔、一足先に大人になっているからと言って調子に乗ってもらっては困りますねぇ……。ところで、僕の有幻覚であれば立会人も騙すことも可能でした。あくまで七瀬ゆきかの視界を歪ませる程度にした
(立会人に細工するなんて、そんなリスクは負いたくない。立会人を騙すことで、それが発覚した時のリスクが不明瞭である以上、ルールに従ってプレイヤー同士で騙し合いをするべきだと判断した)
(クフフ……まぁいいでしょう。僕ほどの有幻覚であれば、発覚する恐れはありませんがね……ヘルリングがあれば尚更です)
(そうやって驕っているから、
(おやおや……これは耳が痛いですねぇ────)
六道骸の気配が遠のく。無理をしすぎて精神世界を通しての念話も不可能になったのだろう。
その時、七瀬ゆきかが泣き喚きながら言い立てた。
「うっ……うぅぅ……! ふざるなぁ! ふざるなぁ……! ふざるなよぉ……! なんですかそれぇ! 幻術は魔法じゃないんですかぁ! それも常時発動型なんですかぁ!? もう何もかもがデタラメじゃないですかぁあああああ! こんなの公正じゃないいい! やり直しぃ! やり直しを求めますぅううう!」
「その必要はございません。今回の対戦は実に公正なゲームでした。たしかに
「だからその荒業が分からないんですよぉおおおお! いったいこの人は何をしていたんですかぁあああ!」
「叛逆魔法でございます。全ての条理を捻じ曲げる魔法。そして逆転勝利魔法でございます。劣勢であればあるほど概念や心身が強化される不敗神話の魔法。この二つの魔法の組み合わせは、ロイヤルストレートフラッシュ以上の化け物です。まさにカジノごと核爆弾で吹っ飛ばすレベルの、常識覆しの違法
「なぜそこで愛!? ふざるなぁあああ~! そういうのを禁止してくださいよぉ! 公正じゃないでしょうがぁああああ!」
「ですから、禁止したくても禁止できないのです。もしこれを禁止できる方が居るとしたら、その方は宇宙の常識を改変するほどの力をお持ちになっています。また、これはわたくしの沽券に係わることですので改めて訂正いたしますが、
「どこがですかぁああああ!」
七瀬ゆきかの号泣が轟く。
「公正です。ギャンブルに必要な能力は三つ。悪魔サマも申し上げましたが、一に知力・二に財力・三に暴力です。どんなに知略を巡らせて財宝をゲットしても、最後に通り魔に遭えば全てを失う。とどのつまり、この手の
結局は力が勝利する世界! もし、わたくしの言葉が適切ではないのなら、この世界はもっと平和になっているはずです! なぜならそれは暴力が公正ではない世界なのですから! そんな世界、平和に決まっています! ですが私たちの世界はどうでしょう? もうお分かりですよね?
────さぁ! 泣いている暇はございませんよ!
「だったらぁ……ここからは力尽くで勝利をもぎ取らせていただきますよぉおおおおおお!?!?!?!」
お目目ぐるぐるの七瀬ゆきかはペルソナカードを取り出す。
「悪魔ぁああああ! ロシアンルーレットだぁあああ! 自分のソウルジェムを弾丸に変えてぇ! お互いに交換して打ち合おぅおぅおぅおぅ! 引き金を引いた奴も引かれた奴も死ぬ! ソウルジェムの弾丸が頭を打ち抜いてェ! 着弾したソウルジェムは砕け散ってぇええええ! あぁでも相手がソウルジェム持ってない場合はサイコロあるよォオオオオオオオオ! 6が出たら必中必殺ぅうううう! もっとスリルを味わおうよぉおおお! ペルソナァアアアアア────!!」
†
何か計算ミスってたらゴメンさい。