アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
「ペルソナァアアアアア────!! 《
感極まって恍惚と歓喜する七瀬ゆきかはスタンドを発現。それは一個のサイコロとリボルバー。ソウルジェムを装填し、サイコロを振って出た目の数だけトリガーが自動で引かれる。そして弾丸が射出されれば自動追尾で対象に必中する能力。
次の瞬間、硝子の結界が解かれた。七海やちよと由比鶴乃は羽根たちを牽制。
佐倉杏子が神速の勢いで飛び出し、環いろはたちも悪魔のもとに飛び込んだ。
サイコロが転がり《6》が出る。それが七瀬ゆきかの最後の幸運。
すると悪魔に不運が襲う。三十六度目の絶叫が上がる。脊髄が分断。悪魔の胴体が腰から二つに分かたれた。
「6ダァアアアア! ブッ飛びですよぉおおおお!」
トリガー1回目で発砲。迫り来る絶死の弾丸。されど悪魔は叛逆魔法を行使して、666のヘルリングの《幸運》は、まだ使う時ではないと押し留める。
刹那、佐倉杏子が悪魔の上半身を攫った。音速の弾丸より素早く大地空間を駆け回る。だが追い付かれるのも四秒後の問題だ。
「イチゾー!」
「キシィイイイイ!」
黒江、開匣。泥夜鷹は大翼を広げる。
「佐倉さんッ!!」
「────────!」
爆風。黒江とイチゾーの傍らを佐倉杏子が通過する。
「《時間停止》!」
時が止まる。暁美ほむらは黒江の肩に触れた。
「────っ! これは……!?」
「黒江さん! 何か考えがあるの!?」
「え、あ、はい! イチゾーは鈍化の性質を持っているので、それでなんとかソウルジェムの弾丸を受け止められないかと……でも、や、やっぱりスタンド相手じゃ無理ですかね……?」
「それは────分からないけど……でも、やってみよう! 弾丸になったソウルジェム自体はスタンドじゃないし! それじゃあ時間を止めている今のうちに! イチゾーに触れて、完璧な位置に……!」
「はいっ!」
暁美ほむらと連れ立ってイチゾーに触れた黒江は、イチゾーが振りまく泥にまみれながらも位置を修正。佐倉杏子が抱える悪魔と、七瀬ゆきかのソウルジェムの弾丸、その間の位置に立つ。
「イチゾー、頼むよ! 私たちは離れましょう!」
「うん!」
そして時は動き出す。
音速の弾丸は障害物の泥夜鷹を躱そうとしたが、ギリギリ避けきれず泥夜鷹の右翼に激突。鈍化の性質で急速的に失速していき、泥の粘りがクッションにもなったのか、ソウルジェムは急速的に停止に近付く。
「な────なにしてんだテメェえええええええ!」
超興奮状態の七瀬ゆきかの怒号。
それに負けじと黒江は毅然と言い放つ。
「悪魔さんは殺させないし、あなたも死なせない……っ!」
なぜならそのために、悪魔は痛覚の地獄を経験してまで、みんなの命を守ったのだから。
その思いを無駄にするようなことは、絶対にできない。
「最優先で七瀬ゆきかを叩きなさい! 弾丸のソウルジェムはあくまで減速しただけよ! きっとすぐにまた動き出す!」
羽根たちと戦闘する七海やちよの指示。実際、泥夜鷹の右翼を徐々に貫通しかかる弾丸は、泥の翼を抜け出た後、再び音速で悪魔の頭蓋を追尾しそうな気配がある。
四度の連射。暁美ほむらの銃弾が七瀬ゆきかの四肢を撃ち抜く。
「まどか!」
「オーケー! 《
それは魔力の出力を“星空レベル”まで高めた一射。
星空の輝きを放つ光矢は七瀬ゆきかの胴体をめり込ませて突き飛ばす。
「カハッ────!!?」
壁に激突した七瀬ゆきかは衝撃のあまり失神────しない。痛覚遮断していないにも関わらず、アドレナリン全開なためか超覚醒状態を維持している。スタンドが消滅せず、ペルソナカードも排出しない。
「アヒャひゃひゃひゃ!」
「こいつ、興奮しすぎてイカれてやがる!」佐倉杏子の狼狽。
「逆境に陥るほど強くなるのは伊達じゃないわね!」七海やちよの感心。
「逆境ほど狂気に陥るの間違いじゃないかなコレは!?」由比鶴乃の仰天。
その時、ウワサ空間全体に異変が生じた。
全体の速度が引き上がる。
森林が生えて視界と経路が封鎖される。
さらに猛禽類の鳴き声により失明────各自スタンドを発現する。
「
「
「
「
「
「
「
「
「チィッ! 何も見えねぇ! おい、誰でもいい! 悪魔を受け取れ! すぐに治癒させろ!」
「いま下半身を持って行きます!」環いろはの声。
「そんでなぎさ! ガキどもはしっかり守ってるんだろうな!?」
「遮断魔力で覆っているのです! 窒息しないように空気穴は開けているのですよ!」
フゥ太、千歳ゆま、ランボ、イーピン、リリス、Dキュゥべえは絶対的遮断力の球体で覆っている。その近くにはナッツ、チーズ、武蔵、万年桜、深月フェリシア、千秋理子、マメジ、アシュリー・テイラーが佇立していた。
「ガフッ!?」「キュー!」「ピィ!」
「……!」凪
「│何も見えない│」
「くそ、なんだこれ!」深月フェリシア
「マメジ! アシュお姉さん!」
「ワフ!」
「理子! 私はここにイマス!」
佐倉杏子のもとに環いろはが駆けつける。
「あ────悪魔さんッ!! こんな……うっ……!?」
「い、ろは……さす、がに……治癒……たの……」
「あ、当たり前ですっ! 《治癒》────!」
桜色の治癒魔法が発動。悪魔の上半身と下半身を魔力が包み込み、
(────! 悪魔の大幅に削れたはずの
Dキュゥべえの困惑。
次の瞬間、悪魔の心臓に孔が空いた。まるで
「悪魔さん!」
「おい、悪魔! しっかりしやがれ!」
周囲から激しい戦闘音。
佐倉杏子は分析魔力を走らせて木陰に退避。悪魔の体を下ろす。
「……マミ……なぜ、だ……」
(────)
佐倉杏子は目を見張る。なぜそこで巴マミの名前が出てくるのかと。
悪魔は夢を見ているのか、うわごとのように口をパクパクとさせる。
「こんな……こと、を……」
「────っ!? おい……ふざけんなよ……! 寝言言ってんじゃねぇ! マミがこんなことするはずが……!」
「き、杏子さん!?」
佐倉杏子は見えない目で悪魔の胸ぐらを掴み取る。その手は震えていた。
「たす……ける……ぜった……いに……」
「────っ!」
「あや……つら……れ……きに……する……な……、────わら……て……ほし……」
「────────」
見ていられない。色のない世界の中で、佐倉杏子はギュッと瞑った目を逸らす。
(チクショウ……! あたし、こんな時に何を考えてんだ……!)
乙女心はかなぐり捨てる。今は
「いろは。このバカを任せたぜ」
「杏子さんは!? スタンドがないと見えないんじゃ……!」
「ばーか。ベテランを舐めるなよ!」
目を閉じて精神を集中。魔力パターンで敵味方識別。
秒間放出する分析魔力の走査によって地形情報と物体の位置を把握。
「すみません! 誰かぁ! もう弾丸を止めておけません!」「キシィ!」
佐倉杏子は疾走。木々の合間を縫い、水平面に埋め込まれた地雷を飛び越え、七瀬ゆきかに接近する。
分解魔力で一撃。ソウルジェムに魔力を当てることで意識を分解し、強引に失神させる。
すると魂を精神を司るソウルジェムから光属性のペルソナカードが排出された。
「ぁ────」
「佐倉さん! ソウルジェムの弾丸が止まりました!」暁美ほむらの声。
「イチゾーちょうだい! ソウルジェムは私が持っておきます! ペルソナカードも!」黒江の声。
「あたしが一気にケリをつけてやる!」佐倉杏子の疾走。
直後、ウワサ空間が轟々と響き渡る。
「ホッホー! わたくし暇なので実況解説でもしましょうかねぇ! 現在、確殺賭博場ミネルヴァのウワサ本体が鳴動を始めました! あちらさん本気ですよぉ! ミザリーオウル数千匹が総動員で向かってきています! ──あとわたくしまで失明のスタンド能力に巻き込むのはやめてくれませんかねぇ!? これでもわたくしルールに守られていないと意外と脆いのでございますよぉ!? 第三ゲームとは言いましたが、実のところカウントダウンしているだけなので! 無防備な事この上ありません! 誰か守ってー!」
「全員! スタンド能力は視界確保以外で使わないように! 長期戦が想定されるわ!」
「やちよー! なんかウワサ空間の奥からすっごい数の使い魔がいっぱい来てるよー!?」
「なら役割を分けるわ! 私と鶴乃は羽根たちを! 佐倉さんは雑魚散らしを頼めるかしら!」
「どっちもやってやるよ!」
立会人は戦闘状況のMAP情報を脳内で
北側、
北西側、七海やちよ、由比鶴乃vs
西側、環うい。非スタンド使いの凪、万年桜、千秋理子、マメジ、アシュリー、深月フェリシア。ナッツ、チーズ、武蔵。
南西側、百江なぎさと遮断結界内の非戦闘員。
中央、鹿目まどか。
中央やや南、
中央やや西、
不明位置、鼓星かずみ、美国織莉子と呉キリカ、悪魔暗殺強襲部隊(
(ふむぅ? 羽根たちの狙いは、あくまで悪魔サマを殺すこと……彼が居る限り、マギウスに敵対する魔法少女たちは絶対守護のもと守られてしまう。現にカスタム幸運水による
「やちよ! なぎさは非戦闘員を連れて撤退するのです!」
「待ちなさい! ここで離れ離れになるのは得策ではないわ! せめて
「それならわたしがやりますっ!」環ういの立候補。
「うい!? そんなのダメ! それなら私が……!」
「お姉ちゃんは悪魔さんを守っていて! わたしだって戦えるんだから!」
「それなら気をつけて! さっきから四名の羽根が見当たらないわ! どこかに隠れ潜んでいるはず! 奇襲に注意して!」七海やちよの忠告。
「暁美さん! 私を百江さんの所まで連れて行ってください!」黒江の懇願。
「え────わ、わかった! ……まどかは!?」
「私は一人でも大丈夫! 黒江ちゃんを頼んだよ!」
鹿目まどかは上空に浮かぶ数十のパラソルを次々と光矢で撃ち落とす。しかし続々とパラソルは復活して増えていく。あれはいったいなんだろう。まさかダミーデコイだろうか。もしかしたら自分は意味のないことをしているのでは? そんな疑問が湧いて仕方ないが、きっと巴マミなら見過ごさない。鹿目まどかの直感も
「チッ! 誰だ私のパラソルビットを撃ち落としているのは! これでは包囲殲滅作戦が出来ない! こうなったら────」
白赤羽根は念話で命令する。
(黒羽根たちよ! お前たちの魔法使用を命ずる! ここで確実に悪魔を仕留めるんだっ!)
(了解っ!!!!)
北西の激戦区では槍の雨と火の嵐が舞い、七名の魔法少女を押している。
しかし固有魔法解禁により趨勢は逆転する。
南西では百江なぎさの遮断結界がシャボン玉の中に入って浮遊し運搬を安易にさせている。それの護衛に当たる環うい。非スタンド使いたちも百江なぎさに誘導されて避難する。
次の瞬間、浅層へ続くゲートから大量のミザリーオウルが飛び出てきた。
「なっ!? こ、この数はさすがにまずいのですー!!?」
「さ、下がろう! なぎさちゃん!」
ミザリーオウルの群れに呑み込まれそうになる多数の魔法少女。
そこに黒江と暁美ほむらが駆けつける。
(どうする……!? 私の《
「《風魔術》────《
それは烈風の杖による風の魔術。騒然の覇者が高位の攻撃術なら、これは中位の攻撃術と言ったところか。
それは烈風の杖を中心に交差する二つの嵐を呼び起こす攻撃術。それは嵐の防壁ともなり、ミザリーオウルの大群の一部を嵐に巻き込ませて四方八方に吹き飛ばす。
「すごい! すごいよ、黒江さん!」
暁美ほむらは目を見張る。大空ゲーム・2ターン目のバトルでもそうだったが、魔法少女でもないのにここまで戦えるのかと。そして黒江の背中に悪魔と同じ力強さを感じる。
「ありがとうございます! ところで光属性の魔法少女はいませんか!? ペルソナカードをゲットしました! スタンドを発現すれば失明が解除できるそうです! その代わり穢れが溜まりやすくなりますが……だれか、一緒に戦ってくれる人はいませんか!?」
「モッキュ! モキュー!」遮断結界の中からリリスの鳴き声が上がる。その声の方向は千秋理子に向いていた。
「え……リリス? ────もしかして、あなたが光属性の魔法少女ですか?」
「え!? あ、あの……私、なにがなんだか……」
属性や性質の相性など、一切の魔法知識を持たない千秋理子は困惑している。見た目も小学生。こんな小さな子供に、たとえ魔法少女といえど危険なペルソナカードを託していいものか。黒江は考えるも、そろそろ雲の炎が尽きてくる。
「っ……そろそろ私の嵐が解かれます! あの、お名前を聞いてもいいですか!? 私は黒江です!」
「ち────千秋理子と言います!」
「このカードを使ってペルソナと叫んでください! 変な能力が使えても気にせず、なんとか私たちを守ってください! どうかお願いします! ──暁美さん! これ、カード!」
「わかった、渡すね!」
盲目の黒江からペルソナカードを受け取った暁美ほむらは、盲目の千秋理子に手渡す。
「こ、これでお姉さんたちみたいに戦えるんですね!? ペ────ペルソナァ!」
千秋理子の傍らに星の意匠のスタンドが現れる。
その名を魂で理解した千秋理子は、心の眼で戦場を俯瞰。
「っ! 見えるようになりました! みなさんの役に立つため、これより戦闘に参加します!
しかしスタンド能力はなるべく使用しない。スタンドを発現しているだけでも穢れの蓄積が著しい。スタンドの視覚を借りて戦場を把握した千秋理子は跳躍し、武器の先端から大規模な魔力を爆発させて、ミザリーオウルの群れに大ダメージを与える。
「っ……!? あの子、あんなに強かったの……!? 私の嵐までいとも容易く吹き飛ばされた……!」
黒江の驚愕。それも当然だ。
千秋理子は魔法少女の素質において、鹿目まどかほどではないにしろ、かなり高い魔力係数を持っている。本人はそのことに無自覚だが、もし本格的に鍛えれば一騎当千の実力を持つことは明らかだ。
「なぎさちゃん! 今のうちに撤退を!」環うい
「いくら理子でも、あの大群を前に浅層の突破は不可能なのです! やちよたちがいる東に戻るか……空白地帯の西に行くか……東は激戦区で危険なのですが、やちよたちが助けに来れやすい! 西は何もないのですが、何もないからこそ何かあった時に自分たちで対処しなければいけないのです! あー! もう! クマ吉が共感覚のスタンドを使えれば、こんなに足でまといは増えないのにぃー!」
百江なぎさは判断に迷う。
直後、白青羽根が叫んだ。
「セットが完了した? よし、よくやった! これで貴様らは終わりだ!」
「っ!? どういうこと!?」七海やちよ
「いま強襲部隊から連絡が入った! 天井を爆破して大量のカスタム幸運水とミザリーリュトンの不運水を降らせてやる! 幸運と不運の相殺で一気に死ねぇええ!」
「なんてこと────集団自殺でもする気!? それだとあなたたちまで────!」
「言っただろ!? 私たちは
「頭おかしいんじゃないの!? マギウスは魔法少女の救済を目的としているはずでしょ!? それなのに救済するべき魔法少女に神風特攻させるって? ふざけた話も大概にしなさい!」
「正義の前に多少の犠牲は是非もなし! 我々は全てが救われるなどという幻想に酔いしれているわけではないのだ!」
「バカ言わないで! ソウルジェムが妖しく光っているくせに! それは幻惑に掛けられている証左よ! 目を覚ましなさい! あなたの決意は覚悟でも何でもない! ただ洗脳されているだけだわっ!」
「うるさい! 黒羽根ぇ! スイッチを押せぇえええええ!」
どこからか“カチリ”と音が鳴る。それはなんの葛藤もない音色だった。
『────ッッッ!!?』
頭上から大爆発が起きる。大きく翻る火炎と爆煙。ウワサ空間の天井が崩壊して落石が降る。それと同時に大量の幸運水と、泥水のように濁った不運水が降ってきた。
「《時間停止》っ!」
黒江から指示を受けた暁美ほむらが固有魔法を行使する。
「で、でも────黒江さん! いったい何を────!」
「っ────暁美さん! 闇属性の魔力をください!」
「え……で、でも! 人の体に魔力は毒じゃ────!」
「いいからっ! 早く!! 人体に有害な魔力と、致死性の毒水……どっちを浴びるかなんて決まっていますっ!」
「っ! わかった────《
それは物体に魔力を浸透させる魔力操作。耐久力と攻撃力の向上が見込める。もっぱら銃器や弾丸に使用していたが、他人の体に使用したのはこれが初めてだ。
「行けます! あとは方向を教えてください! 《
烈風の杖を足元に突き刺した黒江の背後に二メートル前後の風の妖精が出現。みるみる翠緑の体が引き裂かれていき烈風となる。しかし全てを切り裂く烈風は、絶死の大水を巻き上げるどころか切り裂いて、四方八方に雨のように散らせてしまうだろう。それでは意味がない。だからこそ────
「もっと左側! もう少し前!」
「っぅううう! お願い! 力を貸して! 《
片手で冬狼剣を振るった黒江の眼前に氷雪の巨狼が出現。その氷雪の体躯は烈風により細かく引き裂かれていき、多量の雪の結晶が烈風と交わって吹雪となる。烈風の中に氷結の牙を残す猛烈な吹雪は、決壊した天井に向かって竜巻となり激突。
「っ────もう限界です! 時が、動き出します!!」
刹那、決壊した天井から降り注ぐ大水は、猛烈な吹雪によって全面凍結した。
「な────なにぃいいいいい!?」白青羽根の動揺と絶叫。
「あれは────最初に悪魔さんと出会った時に見た……そう、たしか────《死ぬ気の零地点突破・
直後、佐倉杏子は大きく跳躍して中空で後転するように翻り、巨大化した朱槍を標的・北側の白青羽根に向ける。
「よくやった錬金術士! あんた今日のMVPだよ! さぁて、分解と
マッハ2でカッ飛ぶ投槍は途中で柄が分裂し、無数に枝分かれして地上を無作為に突き穿つ。それに巻き込まれた
『ぐわぁあああああ?!』
群体傘槍連鎖爆発、失明一時解除、森林増殖停止、加速向上停止。四人の羽根たちは失神していないためペルソナカードは保持したまま。このままでは再び猛禽類型スタンドが鳴いて暗闇が訪れ、森林の範囲が拡大し、二倍速の世界が三倍速の世界に突入するだろう。猶予はない。
「っ! 視力が戻ったデース!」「ガオッ!」「キュー!」「ピィ!」「ワン!」
「はぁ、はぁ……っ! 私っ、やればできるのかも……!」
黒江は息も絶え絶えで、魔力毒素の苦痛に顔を歪める。
頭上では魔力爆発。千秋理子が数千匹のミザリーオウルを相手にし、環ういが残党を処理する。
一方、中央地帯では鹿目まどかが目を見張る。爆発して消滅したパラソルは再び出現して無数に増殖。中空に浮遊している状態から、それぞれ四つの形態に変化する。自律行動する傘の群れは、閉じれば槍、開けば盾、先端から光線を撃ち始め、触れれば爆発して他の傘にも起爆信号が電波して誘爆する
鹿目まどかは跳躍して傘槍の突撃と傘銃の光線を躱し、ほかの傘槍と傘銃を撃ち落とそうとするも傘盾に防がれて傘爆弾が迫る。
一方、北西側では。集まれない能力により七海やちよと由比鶴乃は共闘できず局地戦を強いられていた。地下貯水槽のウワサ空間のため、中央地帯を除き、東西南北の床には水が浸っており、そこから大量の霊魂が出現。煮詰めることで自動人形が数百体生まれる。雑魚とは言え数が多ければそれだけ厄介。軽く蹴散らすも攻撃の間隙を突かれて三つに増えた双剣のうち二つが投擲され、回避しても着弾後爆発。玩具に命を宿す能力で首狩り族も飛びかかってソウルジェムを狙いに来る。右を左にする能力で時たま攻撃があらぬ方向に向かうが、二人は素早い切り返しで左右逆転を物ともしない。なぜなら右に行く時だけ左に変更される可能性を常に考慮しておけば瞬時の対応は可能だ。戦い慣れている七海やちよと由比鶴乃にとって、戦場のマルチタスクは造作もない。
その時、中央やや西の木陰に位置する環いろはは魔力パターンを感知。悪魔を守るためナイフとクロスボウを構える。
(────敵は四人……姿が見えなかったのは橙羽根A、赤羽根AB、緑羽根B……固有魔法は不明。スタンド能力は“地雷”“スタンド合体”“隠しものを見つける?”“不明”……白青羽根が言っていたけど、悪魔さんが狙いなら……私一人じゃ分が悪い……)
そこで環いろははハッとして勘付く。
(まって────そういえば、かずみさんは……?)
戦場のどこにも鼓星かずみの姿が見えない。
「喰らえ! 頭頂の水平面に地雷を仕込んでやる!」
「っ!?」
突として木陰から飛び出てきた橙羽根Aのスタンド攻撃。鏡のマントを翻してスタンドのパンチを反射。地雷が暴発して橙羽根Aは悲鳴を上げながら吹き飛ばされる。
「今だ! 飛びかかれ!」「とりゃあ!」「うぉお!」
赤羽根AとB、緑羽根Bの決死の突撃。やぶれかぶれの体当たりが環いろはに差し迫る。赤羽根Aのスタンド能力により合体した三体のスタンドは、かつてのパーフェクト・マスィーンを思わせるステータスの暴力で木々を薙ぎ倒し地面を抉り、その豪腕を地面に伏せる悪魔に繰り出す。
「させない!」
その破壊力を鏡のマントで跳ね返せるだろうか。やるしかないと覚悟を決めた瞬間。
「グルメカーだぁあああああ!!」
突如、鼓星かずみはキャンピングカーのようなモノを担いで投擲。三体合体のスタンドに命中し、二倍以上の物量差で豪快に突き飛ばした。
『きゃあああああ!?』
敵が悲鳴を上げて吹き飛ばされていく中、環いろはと鼓星かずみは声を掛け合う。
「かずみさん!」
「いろはちゃん! 遅くなってごめん! 森林伐採して大きなものを加工するの、思ったより時間かかっちゃって! さぁ、わたしのグルメカーに乗って! なぎさたちも回収して、こっから脱出するよ!」
「────! この短時間でそこまで考えて……!」
悪魔を背負った環いろはは、先行く鼓星かずみとグルメカーに向かう。が、そこに数百体のミザリーオウルが襲いかかる。
真紅一閃。続いて百閃。佐倉杏子の朱槍によりフクロウの羽が舞い散る。
「急げ!
「はいっ! でも────杏子さんや、やちよさんたちは!?」
「ベテラン舐めんじゃねぇって言っただろ! あたしらだけでも対処可能だ! さっさと弱い奴らは避難してな!」
「っ……!」
「そっちの方があたしらも全力で暴れられるんだ! 迷うな! 行け!」
「────はい!」
再び猛禽類が鳴く。ウワサ空間に存在する者すべてが光を失う。
グルメカーの屋根に飛び乗った鼓星かずみと、車内に飛び込んだ環いろは。その背には悪魔。
「しっかり掴まってて! 噴射魔力────っ!」
魔力操作でグルメカーを操り、爆発的な噴射力で初速は亜音速に到達する。
直後、悪魔の体が何かに引き寄せられて、環いろはの背中を離れ車外に飛び出した。
「えっ! 悪魔さ────!?」
南側にて、グルメカーは高速回転するタイヤで水を跳ねながらタイヤ痕を残して急停止。
「みんな、乗り込んで! ここから脱出するよ!」
「!」
百江なぎさはグルメカーの開かれた窓に遮断結界をブチ込む。続々と結界から放出されるフゥ太、ランボ、イーピン、リリス、Dキュゥべえ、千歳ゆま。さらにナッツは独自判断で鼓星かずみの肩に飛び乗り、チーズと武蔵は自分と子供たちの安全を優先してグルメカーに乗り込む。百江なぎさも中に飛び乗って遮断魔力を張り巡らし、車内を要塞化。暁美ほむらに連れられて黒江も乗り込む。環ういの誘導で万年桜も乗り込むが、入れ違いに環いろはが慌てて外に出た。
「え、お姉ちゃん!?」
(────《賦活》っ!)
してやられた。きっと何かの魔法だろう。悪魔の身柄を奪われてしまった。音の壁を越えた環いろはは最初のポイントに駆け戻る。が、その途中で悪魔が倒れていた。
「っ! 悪魔さん!?」
悪魔の体は地を転がって水を浴びた程度で、特に外傷はない。
(羽根たちの魔法で引き寄せられたわけじゃない……? まさか私が凡ミスして悪魔さんを落としちゃったなんてことは……でも、たしかに何かに引っ張られた感じがしたんだけど……)
周囲に敵影・魔力反応なし。環いろはは両腕で悪魔を持ち上げ、今度はしっかり抱え込む。すると舞い戻ってくるグルメカー。中にはアシュリー・テイラーと深月フェリシア、(アシュリーによって無理やり運ばれた)マメジも乗車している。
そして南側では千秋理子が奮闘し、徐々に北側に押し切られながら数千体のミザリーオウルと戦っていた。このままでは浅層に向かって脱出することは不可能である。
「どうしたのいろはちゃん!」
「ごめんなさい! なんでか悪魔さんが離れてしまって……!」
環いろはは車内に飛び乗る。が、再び────悪魔の体が不思議な力で引っ張られて、環いろはの手をするすると落ちて床に着水した。
「え────」
なにかがおかしい。まさかスタンド攻撃を受けている? あるいはやはり魔法なのか。だが近くで魔力反応はない。
「何してるの! 早く悪魔を!」鼓星かずみの焦った声。
「悪魔さ────!」
悪魔と環いろはの間に膨大なミザリーオウルが通過する。
そこに真紅一閃。使い魔の大群を切り飛ばした佐倉杏子は、悪魔暗殺強襲部隊を蹴散らして戻ってきた。
「なにしてやがる! 悪魔をさっさと────!」
佐倉杏子は悪魔の首根っこを掴んでグルメカーに放り投げる。が、その手は不思議と滑り、佐倉杏子が投げた方向とは逆方向に転がって着水した。
『────────』
その光景を目撃した佐倉杏子、環いろは、鼓星かずみは、強烈な違和感を総身に抱く。
「────なんだ……? 今、あたしは確実に……前に投げたはずだ。なんで手が滑る。そんな失敗、
佐倉杏子は確かめるため再び悪魔の体を掴む。そしてグルメカーに直進してミザリーオウルの行列を切り飛ばし、車内に入ろうとするが────悪魔の体は佐倉杏子の手から離れて、地を転がっていった。
「っ! まさか────
「────!? そんなことって……!」
「じゃあどうすれば!?」
環いろはと鼓星かずみの動揺を佐倉杏子は一喝する。
「どのみちミザリーオウルの大群が浅層へのゲートを塞いでいる! 撤退は不可能だ! だからって諦めたわけじゃねぇ。逃げ道はほかにもある!
『────!?』
「悪魔も賭けただろ! ウワサの本体を倒すしかねぇ! 少なくともあたしはそうするが、それは悪魔にとって
そこで千秋理子が吹き飛ばされてきた。
「きゃあ!」
そこで均衡が崩れた。千秋理子という強大な壁をなんとか押し切ったミザリーオウルの全軍が床を抉りながら水を逆巻いて津波を発生させ、一瞬でグルメカー含む佐倉杏子、環いろは、鼓星かずみを攫っていく。
『きゃあああああああああ────!!』
ボコボコに壊れて二転三転と転がるグルメカー。佐倉杏子は鎖状の結界で猛撃を防ぎ、環いろはは鏡のマントで反射して防いだが、鼓星かずみとナッツは満身創痍で起き上がる。環いろはは鼓星かずみとナッツに《
「くそっ! 何もかもが悪い方向に転がりやがる……!
水泳の魔女は大空ゲームで力を使い果たして休眠している。そのせいで悪魔の不運水が本領を発揮したのか。魔法少女たちは一向に悪魔に近付けない。だが、そのすぐ近くに千秋理子が倒れていた。
「うっ……。────! 悪魔お兄さん……!?」
目の前で倒れている悪魔。うつ伏せで水に浸かっているため、そのままでは溺死してしまう。
「っ……! わたしが、助けないと……!」
ほかの魔法少女は数千体のフクロウに襲われて近付ける雰囲気ではない。
──ガラガラ────ゴロ……ゴロ──
不意に岩石が崩れるような音が頭上から聴こえる。咄嗟に面を上げた千秋理子は、天井爆発のとき亀裂が入った部分から落石が発生していることを目撃。もし崩れかかっている岩盤が落ちれば、その真下にいる悪魔が潰されてしまうと推測する。
巨大な岩石が砂礫を落としながら崩落。一個の
「たいへん! 悪魔お兄さん!」
反射的に走った千秋理子は悪魔の体を持ち上げ、力を込めて跳躍。が、水に滑って転んでしまう。
「あっ……!?」
岩塊との激突、二秒前。悪魔の体を抱いて少しでも移動するため走る。走るが、不運にも上ばかり見ていたせいで足元の小石につまづいて転んでしまう。
「あっ……! そんな────」
頭上に差し迫る大岩の塊。
「────ヴァ゛ン゛ッ!」
次の瞬間、悪魔の体を抱えていた千秋理子は、ミザリーオウルの大群の中を駆け抜けて血だらけになったマメジを目撃する。必死の形相で地を駆けるマメジは悪魔の背中に体当たり。悪魔を抱く千秋理子の体を突き飛ばした。
「マメ────」
千秋理子の眼前からマメジが消えて、いきなり岩塊が現れる。
跳ね散った真っ赤な液体は千秋理子の頬に鋭く浴びせかかり、意識が、曲がって 暗黒に
「────────」
茫然自失となる千秋理子の足元に亀裂が迸る。激震するウワサ空間。
不意に浮遊感を覚えた千秋理子は、崩落する床から確殺地下空間の深淵に落下していった。
「悪魔さんっ!」
「理子────ッ!」
環いろはと、マメジを追って車外に飛び出していたアシュリーの絶叫。
「────、──おい……なんなんだよ、あれは────っッ!?」
そこで佐倉杏子は信じられない光景を目にした。不運にしたって次元が違いすぎる。
深淵に落下する千秋理子と悪魔。
それと入れ違いになるように、
南側の床は完全崩落し、その勢いは中央地帯まで到達。みるみると北側の床まで崩落していく。それを知っていたかのように、羽根たちは蜘蛛の子を散らすように深層ゲートへ総撤退。射程距離から脱したことで視力が元に戻る。
「ッ……!? 全員! 深層ゲートへ避難よ!」七海やちよの号令。
「でもどう見ても罠だよ! 深層に行っても挟み撃ちにされる!」由比鶴乃の叫び。
「それでもやるしかないわ! 向こうが総力戦をお望みならこっちも乗るしかない! 私が白青羽根を殺して失明されないようにする! 鶴乃は無茶だろうけど全スタンド使いを牽制! 残りの魔法少女は魔女の群れを相手にしなさい!」
佐倉杏子は茫然自失とする環いろはの肩を掴んで怒号を張り上げ、正気を取り戻させる。
「生きろ! 北だ! 北に逃げろ! 深層ゲートへ急げ! このままだと全滅だ! 死ぬぞッ!!」
「お姉ちゃん!!」
「────ッ!」
環ういの声を聞いて我に帰った環いろはは、足元まで迫る崩落床から逃げて、深淵の闇に消えていく千秋理子と悪魔に背を向ける。
「で、でも────私のキモチを使えば────二人を……っ! あのワンちゃんだって……!」
「じゃあなんですぐ使わなかった! どうせ
「っ……! ど、動揺したのか……な、なぜか、魔力が、うまく、まわらなくて……」
「それも不運水のせいだ! アンタのせいじゃないっ! いいか、悪魔が目覚めて不運水に対処しない限り、あたしらじゃもう悪魔に関することはどうにもならないんだ! 今は自分が生き残ることだけを考えろ! あいつは平気だから、今だけは悪魔を見捨てるんだ!! だって死んだらそこでおしまいなんだぞっ!」
中層の床が完全崩落する。少なくとも二十体はいるだろう魔女の群れは、悠然と深層ゲートに向かう。
そして七海やちよたち魔法少女とグルメカー、七瀬ゆきかを回収した立会人は深層ゲートに飛び込み、次なる戦場に赴いた。
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