※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【《星霜を切り拓く未来への道(ストラーダ・フトゥーロ)》/《絶望を射ち救う希望への道(プルウィア☆マギカ)》】魔法少女〔コネクト〕

 

 時は遡り。確殺賭博場ミネルヴァのウワサ空間・深層にて。

 

 いの一番に深層へ乗り込んだ七海やちよは、一瞬だけの一対多の状況を最大限に活用する。前方には白羽根率いる黒羽根とスタンド、さらにはスタンドにより作り出された大量の水霊魂やパラソルビットなどが待ち構える。最奥にはウワサの本体が屹立し、巨大なスロットが苦い死(4+9=13)を告げている。

 

 七海やちよの必殺魔法(マギア)は範囲攻撃のため、周囲の味方が巻き込まれることを憂いで中層では使えないでいた。理由はそれだけではない。敵はスタンドを使うため、相手が防御に周りこちらが手加減していては、スタンドに槍が命中しても一切のダメージを与えられず倒せない。ならば全力を出せばいいが、それはつまりスタンドを躱して羽根たちの胴体を射抜くことを意味する。つまり事故率が上がる。事故率とはすなわち敵の死亡確率である。

 

 ────なんで人を助けるのに罵られなきゃいけない。

 

 あの言葉に当てられたのだろうか。いつもなら容赦なく攻撃を加えて、敵を殺さずさりとて生かさず強者の余裕を保ったまま完膚なきまで叩き潰すというのに、今は完(・)璧(・)に(・)勝(・)つ(・)ことにこだわってしまっている。完璧とは言わずもがな、事故率をゼロパーセントに維持した状態で、敵を武装解除させることである。

 

(まったく……面倒ったらありゃしない。それでこちらが全滅したら意味がない。でも……)

 

 それは七海やちよの理想でもある。敵は生粋の悪人ばかりではない。殺し合いとは言え、洗脳されて操られている者を殺すことほど後味の悪い結末はない。強者(ベテラン)の称号を預かるのであれば、この難しい局面をどうにかしてこそ、真の先輩(ベテラン)魔法少女であると胸を張れるはずだ。

 

(……私のスタンドは危険すぎる。でも今この一瞬──仲(・)間(・)が(・)居(・)な(・)い(・)状(・)況(・)──なら使える。最低限のコストで最大限のベストを。今まで通り、やらせてもらうわ────!)

 

 七海やちよのソウルジェムに大きな魔力圧が掛かる。ソウルジェムの内部で四種属性(青・黄・紫・赤)の魔力を高速回転。増殖魔力で大量の槍を安価に生成し、その全てに分解魔力と硬化魔力をコーティング。羽根たちのスタンドも撃墜して押さえ込むため、鎮静魔力も混入。数千を超える数万の槍を一斉掃射。さらに発散魔力を込めることで槍の初速を著しく高めた。

 

「必殺魔法(マギア)────《完全無欠の疾風槍雷(アブソリュート・ラピッズ)》」

 

 一騎当千。大量の超高速槍降らしは敵陣営を絨毯爆撃する。だが数千数万と膨れ上がっていた水霊魂やパラソルビットが盾となり、ギリギリの淵で耐え忍んでいる者もいる。そこで七海やちよはスタンド能力を発動した。

 

(私のスタンドは────エブリシング・ダイヤモンド(くすんだ金剛世界)……! その外見は青く美しき死神。水面のように波打つ鎌は、私の意思に反して他者の命を容易に奪う! だからこの力を使うのは私ひとりの時がいい! このスタンドは周囲のスタンドパワーあるいは固有魔法を“無差別に襲い”吸収して換(・)骨(・)奪(・)胎(・)するッ! ただし何を吸収するかは大雑把に指定可能! 狙うは無数に浮遊する水霊魂よ!)

 

 遠隔自動操縦型のエブリシング・ダイヤモンドは、七海やちよの最低限の命令を受けて単独行動を開始する。

「一番が好きだ! ナンバーワンだ! 頂点に立って夢を叶える! 託された夢を! 代わりに魅せる!」

 

 遠隔自動操縦型のエブリシング・ダイヤモンドは、単独行動を開始して敵陣に乗り込む。近距離パワー型に匹敵する圧倒的な破壊力とスピードで敵陣を蹂躙し、鎌を巨大化させて中空を埋め尽くす水霊魂を薙ぎ払い殲滅。水霊魂のスタンドパワーを吸収し、スタンドのサイズが十メートルほど巨大化する。さらに遠隔自動操縦型にありがちな最高峰の射程距離と持久力を以て、他のスタンドパワーの吸収も勝手に始めた。

 

 同時、エブリシング・ダイヤモンドによって水霊魂のバリアフィールドが消失し、七海やちよの無尽槍が今度こそ完璧に全体を叩き潰す。全員が仰け反った刹那の間隙を突いて七海やちよは発散魔力放出。加えて、未だ使い慣れていない木属性の熟練性質・誘導魔力を投槍の中に紛れ込ませており、それが白青羽根に命中。後方部隊として待機していた白青羽根は不意に体が引き寄せられて前衛に躍り出る。かくして敵陣営のど真ん中に飛び込んだ七海やちよは、手元の槍に込めた分解魔力で打撃。注入。白青羽根の意識を奪う……が、その直前。いつの間にか白青羽根の背後を取っていた青く美しい死神が鎌で背面を袈裟斬りし、そのスタンドパワーを吸収して更に巨大化した。それは十数メートルほどの巨人となり、既に七海やちよの制御下から外れかかっている。

 

「戻りなさい! エブリシング・ダイヤモンド(くすんだ金剛世界)……!」

「一位になりたくはないのか!? 私はスタンドをやめるぞぉおおお! やちよぉおおおお!」

「っ────黙って戻りなさい! 私の精神なんでしょう!? ──待って、その口ぶり……まさかスタンドって、魔法少女の願い事を擬人化させたものなんじゃあないでしょうねっ!?」

 

 一斉掃射の中には、自らのスタンドを攻撃するため温存していた槍もあった。鎮静魔力を込めた槍でエブリシング・ダイヤモンドを撃ち抜いた七海やちよは、自らのスタンドを鎮静化させて強引に能力を解除。最後に死神は大暴れして意識の乗っ取りを掛けた綱引きを始める。七海やちよは分析魔力を走らせて、自らのソウルジェムとペルソナカードを繋ぐ魔力回路を特定し、未だ使い慣れていない遮断魔力で回路を強制切断。さらに発散魔力でペルソナカードを強制排出し、事なきを得た。

 

(くっ……やっぱりスタンドは危険ね。一か八かの賭けだったけど、なんとか制御できた。でも次は更に敵のスタンドパワーを吸収して巨大化し、強くなるはず。その上で換骨奪胎すれば、サイズは縮小してもパワーはむしろ巨大化状態より飛躍的に高まることになる。……使えば使うほど強くなるけど、その代わり一切の制御が利かなくなって本体の意思を無視し暴れまわるスタンド……こんなのが私のスタンドなんて、なんて皮肉なのかしら……)

 

 しかし七海やちよは宣言通り、白青羽根を倒して水属性のペルソナカードを回収した。その間、深層に足を踏み込んでから十秒にも満たない超速の攻略であった。

 

 かくして続々と深層エリアに飛び込んでくる由比鶴乃、グルメカー、佐倉杏子や環いろはたち。

 一方、七海やちよは、このまま敵陣にいれば袋叩きに遭うと判断。よって槍の雨が降り終わる前に跳躍後退し敵陣を離脱。後方の味方に号令を飛ばす。

 

「視力を奪うスタンド使いは潰したわ! 私と鶴乃で残るスタンド使いを牽制する! ほかは残りの魔女を倒して!」

『了解っ!』

 

 それから魔法少女たちは、過酷な長期戦を強いられた。

 

          †

 

 大空ゲームが終了してから三十分が経過した頃。

 

 佐倉杏子は、とっくに悪魔暗殺強襲部隊を壊滅させており、魔・火・火・木のペルソナカードを回収していた。

 

 一方、グルメカーを護衛しつつ二十体以上の魔女と戦って魔法少女たちが手間取る中、深月フェリシアは一人で既に五体もの魔女を倒していた。その戦いぶりは狂戦士のようで、猛り吼えながら憎悪と殺意をぶつけている。

 

「おい! どういうことだよ! なんで魔女がこんなにいるんだ! あのローブ連中の仲間なのか!? なんで魔法少女が魔女と一緒に戦ってんだよ! わけがわからねぇ! あぁでもそれは今どうでもいい! おらぁあああ魔女は駆逐してやるぅうううう!!」

 

 深月フェリシアは状況を一切理解していないにも関わらず、魔女となると切れ散らかして大活躍。それを傍から見ている由比鶴乃と七海やちよは若干の頼もしさを感じていた。

 

「やちよ! フェリシアがいて助かったね! 今まで傭兵フェリシアじゃなくて、置いてけぼりフェリシアだったけど!」

「そうね。あの暴走機関車がいなければ、もっと苦戦していたでしょう。それでもかなりジリ貧なことには変わりないけど……」

 

 白赤羽根を筆頭に守備隊列を組む黒羽根たちと、そのスタンド。

 対する七海やちよ&由比鶴乃ペアとは異なり、単独で戦場を駆け抜ける佐倉杏子は舌打ちする。

 

「あいつら……マミみてぇに兵法をかじってやがる。ああも防戦に回られると付け入る隙が全然ねぇ! 時間稼ぎしやがって……あっちだってこのままじゃジリ貧なくせによ……」

「消耗戦を望んでいるのよ。結界の深層で穢れが満タンになれば、私たちはドッペルが出るのではなく、そのまま魔女化する。きっとそれが狙いなのよ。────全員! ソウルジェムの穢れを気に掛けながら戦いなさい! 穢れが溜まっていたら交代制で浄化を援護するの!」

『はいっ!!』

 

 次の瞬間、空間に共鳴する笛の音が、七海やちよ陣営の概念聴覚を襲った。

 

「っ!?」

「うわぁ頭がぁ!?」

「んなっ!? 聴覚遮断────!」

 

 七海やちよは耳から頭に入る激痛に顔を歪ませ、由比鶴乃たち魔法少女は思わず耳を抑える。

 一方、佐倉杏子は聴覚遮断を誘う罠である可能性も考えつつ、分析魔力を走らせて周囲を警戒、聴覚を切るが、頭痛が収まらない。となれば聴覚を切る意味がない。すぐに聴覚遮断を解いて、分析魔力が捉えた敵の位置を捕捉、見上げる。

 

「くそっ! 魔法か! これじゃあ聴覚を遮断しても関係ねぇ……しかも新手と来た……っ!」

 

 皆が見上げる先には、新たな白羽根が二名。フードを脱いだ顔は瓜二つ。双子の魔法少女は自己紹介のため笛をしまい、互いに手を繋いで戯れるように身を明かす。

 

「私は天音月夜」「ウチは天音月咲」「マギウスの白羽根」「下級幹部」『これから私(ウチ)たちの笛で、魔法少女の解放を邪魔する敵を排除するよ』

 

「ざけんな! まとめて潰してやるよ……!」

「待ちなさい! 佐倉さん……!」

 

 佐倉杏子は魔力を込めた脚力で床を砕き音速跳躍。真紅の閃光が自動人形や首狩り族を物ともせず貫通し、水霊魂を切り裂き、パラソルビットの堅実な布陣を突破、地下貯水槽の立て坑(あな)の上方に仁王立つ天音姉妹に急接近する。

 

「愚かだね」「残念です」「仕方ない」「あれをやろうか」『神浜が解放の場である証拠を』「それを見れば」「分かるはず」「あなたたちが」「いかに悪辣なる選択を」『しているのかを』

 

 天音姉妹のソウルジェムが黒く濁り切る。それを目にした七海やちよは「まさか」と目を見張る。佐倉杏子の穂先が天音姉妹に届く瞬間、七海やちよの危惧は現実になった。瘴気の爆発。「づわぁあああ!」佐倉杏子は吹き飛ばされる。

 

「ドッペル……ですって!?」

 

 七海やちよは推理する。ウワサ空間の深層とは言え、ここはまだ魔女化するほど深い領域ではないのかと。ならばこちらもドッペル化すれば打開のチャンスがある。でなければ、このまま魔法少女(白羽根・黒羽根)・スタンド・ドッペル・魔女・ウワサ・ウワサの使い魔の軍団によって、確実に殺されてしまう。

 

(私は一度ドッペルを試してみたことで知っている……ドッペルには強い依存性がある! 自らの根源的感情に深く囚われてしまい、一度振りほどけなければそのまま闇に引きずり落とされる……! その恐怖を、私は初めてのドッペル使用で感じた……)

 

 つまり強い精神力がなければドッペルの使用は危険となる。ここは経験者である七海やちよだけドッペル化するのが良いだろう。それで多勢に無勢の状況を打破する。七海やちよのソウルジェムが明滅し、高速で魔力を無駄に回転させて消耗。穢れが著しく溜まっていく。

 

「さらに私は」「ウチたちは」「ペルソナカードを」「持ってるよ」「これを使えば」「私たちの世界」「あなたたちは誰?」「ウチたちは幸せ」「そして歌うよ」「二人だけの世界を」「音で満たし」「他を排する」

 

(そんな────ドッペルの上に、スタンドですって……!? それに加えて断続的麻痺効果のある笛の共鳴……! これは、さすがにまずい……! どんどん私たちは窮地に追い込まれている……っ!!)

 

 敗色濃厚。確殺とはまさにこのこと。あちらは命を惜しまず全ての手札を使って殺しに来ている。ならばこちらも手段は選べない。七海やちよは味方を守る責任があると自己を鼓舞してペルソナカードを取り出す。それに環いろはが気付いた。

 

「やちよさん!? まさかドッペルとスタンドを同時に使用するんじゃ……そんなの無茶です! 死んじゃいます!」

「だとしても誰かがやらなければいけないわ! ここは私に任せて! 必ずあなたたちを生きて返す!」

 

 七海やちよの穢れが九割に達する。

 次の瞬間、轟然とウワサ空間が震撼し、中層ゲートの真下から極光が爆発した。

 

『────っッッ!!?』

 

 ウワサ空間の次元に亀裂を入れて深淵から脱出してきた純白の魔法少女が、神々しい光を放ちながら戦場に姿を現す。

 

「やはりとんでもない才能だ」神々しい魔法少女の近くを飛ぶDキュゥべえの呟き。

 

 その魔法少女こそ、悪魔契約を交わし、インキュベーターと再契約したことで、運命が再誕した極光の魔法少女。

 

「千秋理子! ただいま戻りましたっ!」

「ワン!」

 

 その肩の上にマメジを装着(浮遊)させる千秋理子は、身の丈を越す魔法武具(お弁当ピック)に活性魔力と鎮静魔力を注入。着地と同時に床に突き刺し、青いソウルジェムを明滅させて、発散魔力により空間全体に魔力爆発を引き起こす。それは通常なら敵味方を問わず、全てを巻き込む大規模な範囲攻撃となるだろう。だが光属性の熟練性質・転換魔力を使うことで、味方に発散させた活性をバフ(魔力増幅)に転換し、敵方に発散させた活性をデバフ──魔力を狂わせる効果──に転換。自陣への強化と敵陣への攻撃を同時にこなす。さらに鎮静効果は、敵陣の意識を鎮めて眠らせ、意識不明状態に陥らせることでペルソナカードを排出させる。自陣への影響としては転換効果で焦燥を抑えソウルジェムの穢れの蓄積を鎮めていた。最後に固有魔法《誘導》で床に散らばった敵のペルソナカードを全て回収した。かくして悪魔の指示通り、完璧に任務をこなした千秋理子は、ふんすと鼻を鳴らして雄々しく仁王立つ。

 

 同時、悪魔は七海やちよの傍らに着地すると、大空の炎の調和効果を用い、七海やちよのソウルジェムを握り締めて穢れを浄化させた。

 

「────っ! 悪魔……!」

「罠だ。あの双子は通常の幸運水を飲んでいる。それで一時的に魔女化を免れてドッペル化を可能としている。そうだろ、織莉子」

 

 ふと悪魔に呼ばれた美国織莉子は、しれっと頷いて目を瞑る。

 

「そういえば予知した未来では、七海やちよがドッペル化するつもりで魔女化してしまう未来が幾つかありましたね」

「────っ!?」七海やちよは睨みつける。

「おや。まさか私を味方だとお思いで? あなたが死ねば鹿目まどかも死ぬ未来が見えたんです。その先はそれなりの未来が待っていました。となれば、わざわざ生かす理由はないでしょう?」

「そんなお人好しな誤解はしてないわ。ただ、簡単に人を見殺しにするその外道さに吐き気を催していただけよ」

 

 七海やちよと美国織莉子の視線に火花が散る。かたや鋭く睨み、かたや薄く微笑んでいる。

 一方、主を敵意から守るため威嚇する呉キリカ。

 

(開匣────《霧バイク(モトチクレッタ・ディ・ネッビア)》)

 

 藍色の炎を灯す黒いバイクを開匣した悪魔は騎乗。エンジンを豪快に蒸かして爆音を上げる。

 

「無駄だよ」「ただの爆音で」「私たちの」「ウチたちの」『共鳴は』『破れない』

 

「アシュリー! 物理音響を概念音響に《スイッチ》だ!」

「────!」

 

 グルメカーの屋根の上で戦闘していたアシュリーは、悪魔の呼び声を聞いて固有魔法《スイッチ》を行使する。結果、霧バイクのエンジンが蒸かす爆音は、ただの音色ではなくなり、魔法が宿る魔力爆音となって、天音姉妹の修得魔法《笛花共鳴》の音波を相殺。悪魔陣営を断続的に襲っていた麻痺効果を完全に無力化した。

 

「そんな!」「秒速で?」『攻略された────!?』

「理子! スタンドを使わせるな! 知り合いでも容赦するんじゃないぞ! 手を抜いた瞬間こっちがやられる!」

「はいっ! そういうことなのでごめんなさい、月咲お姉さん! 固有魔法《召喚》────!!」

 

 それは既知の対象を自らのもとへ強制転移させる魔法。距離が遠いほど莫大な魔力を消費するが、目視距離ならそれほどでもない。

 

 ふと千秋理子の眼前に転移された天音姉妹は「ヴァンッ!!」『ひぃ!?』マメジの吠え声に萎縮。

 

「《天を裂く解炎(フレイムバーン)》!」

 

 悪魔はその隙を突いて嵐の炎によるパンチと蹴りを見舞う。打撃自体は天音姉妹のドッペルの水晶体によって防がれたが、ドッペルの内部空間と調和して流れ込んだ分解魔力により、天音姉妹は一瞬意識が明滅し、ソウルジェムから半分だけペルソナカードが排出される。その隙を逃さず千秋理子の《誘導魔法》により魔力の綱引きが始まるが、圧倒的なパワーに引き負けた天音姉妹はペルソナカードを奪われてしまう。

 

「ぐっ……!?」「そんな……!!」『せっかく出てきたのに!』『活躍の場すら与えられない……!?』

 

 悪魔は直感する。

 天音月夜(天音月咲)の隔絶(無縁)のドッペル。その姿はテラリウム(アクアリウム)。互いが互いに依存し(溺れて)、全てが二人だけの世界で完結する。そのため外界からの言葉は何も届かない(攻撃は全て無効化する)。あらゆる物理現象・空間・時間・説得も、二人だけの完成された世界では無意味。故に二人に関すること以外の記憶も無価値。二人の世界が社会であるため、それ以外の社会は存在しないものとして扱う。故に二人の倫理観も滅びを迎え、二人は二人が感じることしか信じ(感じ)られなくなる。どれだけ他者が痛みを叫ぼうとも、二人の内どちらかが痛みを感じない限り、二人は他者の痛みが分からない。なぜなら二人だけの世界に他者は存在せず、二人だけの世界に他者が付け入る隙は無いのだから。

 

 ────調和(大空)の炎、以外は。

 

「他人を犠牲にしてまで、自分が救われたいとは思わない」

 

 それは悪魔陣営の共通理念。信念と言って懸けてもいい。

 

「そう思う羽根たちも多いことだろう。だがそういった者たちには真実を伝えず、一方で他者犠牲自己保身を受け入れる者には真実を伝え、より動かしやすい駒を作る。それがマギウスのやり方だと分かった」

 

 実際、大空ゲームのチョイスでも、黒江を攻撃することで悩んでいる紫羽根Bがいた。マギウスがどれだけ残酷なことをやっているのか、その真実を知らされていない七瀬ゆきかも同様である。

 

 しかし真実とはそれほど容易に隠し通せるものなのか。おそらく情報漏洩を防ぐためのウワサがあるはずだ。悪魔は救済と解放を謳うマギウスを見て悪徳宗教を連想した。

 

 戦いの運命から、死の運命から、なにより魔女化の運命から救われたいと願う気持ち。その気持ちを持つ限り、その気持ちに付け込んで、マギウスに疑念を抱くことができないウワサがあるのではないか。軽い洗脳。それは思い込みの助長。自分たちを救ってくれるマギウスが、そんなひどいことするはずがない、という固定観念の補強。

 

 悪魔は究極直感していたシーンから、なんとなく推察していた。戦場の端では立会人が観戦しており、気絶した七瀬ゆきかを抱えている。白羽根も黒羽根も胸元にマギウスの組織に入っていることを象徴するようなペンダントを付けていた。しかし七瀬ゆきかと紫羽根Bは、今やそれが黒ずんで崩壊している。どうやらマギウスに強い疑問を抱き、他者犠牲自己保身を許容せず、確固たる意思で打ち払うと、ペンダントによる軽い洗脳から解き放たれるようだ。それでも紫羽根Bはマギウスに残るだろう。やはり救われたい気持ちが強いのだ。七瀬ゆきかは分からない。彼女は道徳とスリルの天秤で常に揺れ動いているからだ。

 

「それならそれでいい。それでも救われたいならマギウスに残ればいい。オレたちはお前たちの居場所を奪いたいわけじゃない。だが必ずオレたちはマギウスの敵に回る。無辜の民を犠牲にして私腹を肥やす腐敗組織はぶっ潰す。だから覚悟しておけ。オレはいずれ────マ(・)ギ(・)ウ(・)ス(・)を(・)変(・)革(・)す(・)る(・)つもりだ」

 

「何を!」「世迷い言を!」

 

 天音姉妹のドッペルが合体する。無縁隔絶のドッペル。その姿は溶けた時計(コスモリウム)。完成された二人だけの世界は無敵の概念防御を誇る。

 

「呪印制御(モード・テルツォ)・瘴炎支配(ディアベル・エローエ)────」

 

 悪魔は今回、多くの瘴気を蓄積したことで、呪印化(半魔人化)は第三段階に至り、より洗練された黒混じりの橙炎を身に纏う。それは英雄(エローエ)の名に相応しい神々しい姿。蓬髪や眼窩隆起が無くなり、普段と変わらない見た目のまま、茶髪や衣服から黒橙の死ぬ気の炎がなびいている。外見の貫禄は消え去ったが、その華奢な佇まいから放たれる覇気は見る物を本能的に震え上がらせる。

 

 その荘厳な姿を目にした深月フェリシアは思わず呟いた。「フリーザ最終形態みてぇ!」

 

 外見で実力を判断してはならない。悪魔の周囲から焚き火の音がパチパチと鳴る。開匣・雨刀。

 

「雨燕(武蔵)・形態変化(カンビオ・フォルマ)────

 近接攻撃形態(モード・アタッコ)────《宙を返す燕刀(カプリオーラ・ディ・ローンディネ)》」

 

「ピィーッ!!」

 

 雨燕・武蔵は施術魔法により肉体が変形していき、悪魔の雨刀と合体する。柄の部分に翼を広げる燕の意匠として装着。発散魔力を瞬間的に放出する機構を備えることで、非常に切り返しの速い剣の振り方を可能とする雨刀が完成する。

 

「この一撃で終わらせる。遠慮はしないぞ、覚悟しろ」

 

 悪魔は刀を構える。調和の力を持つ瘴炎を刀に込めて、いざ疾走。

 

(時雨蒼燕流 刃(じん)式・呪印型秘奥義・三番目────《無塵(むじん)を衝(つ)く斬空(ざんくう)の雨》ッ!)

 

 跳躍。無敵の守りを誇るドッペルの突撃を蹴りで跳ね返し、一瞬にして間合いを詰めて毎秒数百数千を越える音速突破の超々高速斬撃を繰り出す。

 

「そんなの!」「効かない!」

 

 隔絶無縁のドッペルを通過した悪魔は着地し、刀を柄に収める。────キンッ。と音が鳴った、次の瞬間。

 

「いくら死ぬ気の炎の中で随一の推進力を誇る大空の炎でも……このスピードの斬撃から調和の力が流れ込むには────少し時間が要る」

 

 隔絶無縁のドッペルは爆発四散した。合体が解かれてドッペルはソウルジェムに返り、天音姉妹は地に倒れ伏す。

 

「そ、そんな……」「まさか、こんな……」『一瞬で、羽根が全滅するなんて……!』

 

 悪魔の傍らに千秋理子が並ぶ。その肩の上には浮遊するマメジ。悪魔契約により新たなに手に入れた固有魔法《装着(フローティング)》は、本人が守るべき対象を傍らに浮遊させて常に護衛する。それは佩帯魔法とも言えるかも知れない。

 

「悪魔お兄さん。回収したペルソナカードですっ!」「ワン!」

「ありがとう。あとは魔女とウワサを倒すだけだ」

「任せてください! 遅れた分、わたしが取り戻します!」

「無理はするなよ」

 

 千秋理子は後方に飛び立ち、一撃で魔女やミザリーオウルを粉砕していく。

 悪魔は天音姉妹のもとに歩み寄る。ふと頭上を見上げると、確殺賭博場ミネルヴァのウワサの本体であるスロットには《666(スリーシックス)》の出目が映し出されていた。

 

「このウワサ本体も、もはや無用の長物だな。もしオレたちが第二ゲームを生き残った場合、このスロットを第三ゲームに使うつもりだったんだろう。スロットの出目で敵味方にバフやデバフがランダムで掛かるシステムで、不運水を被ったオレの存在のせいで味方にはデバフばかりが振りまかれ、通常の幸運水を飲んでいるお前たちにはバフばかりが振りまかれる。そして最後は666……最悪の数字で、オレたちを確殺しようと、マギウスは企てていた」

 

 しかしそれもご破算である。

 

「随分と洒落たことをしてきたが、それがアダとなった。マギウスがオレに浴びせた不運水のせいかおかげか、オレは666のヘルリングを偶然不運(幸運)にも入手した。それは多くの不運の後、それを覆す幸運が訪れるアイテムらしい」

 

 悪魔の傍らに佐倉杏子が飛び降りる。

 

「悪魔。ここで勝ち宣言は、ちと慢心しすぎじゃないかい?」

 

 そう忠告する佐倉杏子も、お菓子の袋を開けており、丸かじりしてみると、なんと当たり棒が出てきた。

 

「この通り。いつも金欠のオレでは手が出しようがない代物が出てきた。その当たり棒はオレの実力(財力)では勝ち取れないものだ。オレは何千回、何万回、食事を我慢してきたか分からない。そう考えれば、その当たり棒は……オレにとって666回の不運を覆す幸(・)運(・)なのかもしれないな」

「いるかい?」

「もらおう」

 

 佐倉杏子から当たり棒を受け取った悪魔。

 そこで天音姉妹が不敵な笑みを浮かべる。

 

「それがどうかしたの?」「それが本当なら、つまらないことで幸運を使っちゃったね」

「それはどうかな? オレはそもそも幸運なんかに期待しちゃいない。今までのゲームは全て実力でもぎ取ってきた。そして実力が足りないから一度マメジを死なせてしまった」

 

 悪魔は俯く。だがすぐに前を向く。

 

「さらに言わせてもらえば、今のオレの財布の中身は────日(・)本(・)円(・)の(・)全(・)硬(・)貨(・)が(・)一(・)枚(・)ず(・)つ(・)しかない」

 

 全ての魔女を一撃で粉砕して戻ってきた千秋理子が、指折り数える。

 

「えーっと……666円!」

「なんと!」「不吉な!」「やはり不運水が!」「働いているのでございます!」「でも、だったら……」「なんでウチたち、負けてるの!?」

 

 悪魔は首を否と振る。

 

「本当にそう思うか? 今までのオレの戦いを見て……本当にオレに不(・)運(・)が(・)効(・)い(・)て(・)い(・)る(・)と……本(・)気(・)で(・)そ(・)う(・)思(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)の(・)か(・)?」

『────!?』

「だとしたら節穴なんていうレベルじゃない。運に頼る奴は早死する。不運を不運と片付ける奴も早死する。心を守るために行なう現実逃避も時には必要だろう。だが……オレの勝利はオレたちの実力だ。マメジの死もオレの実力不足が原因だ。それを悪運だ不運だと言(・)い(・)訳(・)はしない。心が弱いお前たちとは違ってな」

『っ!!』

 

 佐倉杏子は思う。なぜ悪魔はそこまで煽り倒すのだろうと。そして簡単なことに気付いた。

 

(まだ相手に切り札があると疑ってんのか……だからここで確実に精神を叩き潰して戦意を喪失させるつもりなんだ。はぁ……これだから悪魔(コイツ)と正面切って戦うのは苦手なんだよな。悪魔が口を解禁したら、マミはいつもやられっぱなしだったし……あたしは苦手なだけで、別に勝敗は五分だったけど)

 

 佐倉杏子は懐かしき修行時代の戦績を思い返す。

 

「いいか。大切なのは不運を力に変えて、幸運を物質として引きずり出すことを諦めないことだ。どんなに難しくても、そうしていればいつかは逆転できる。目指す場所に向かっているなら、いつかは辿り着くはずだからな。奇跡も魔法も目に見えないからこそ、向かい続ける意志が大切だとは、思えないのか?」

 

「意気軒昂なご高説どうも!」「それでも勝つのはウチたちだよ!」

 

 天音姉妹はボロボロの体で立ち上がる。

 その気概が本物であると見抜いた悪魔は、後方で魔女の使い魔と勘違いしてウワサの使い魔・ミザリーオウルを潰して回る深月フェリシアに呼びかける。

 

「フェリシア! オレの有り金を全部やる! それでこの一戦、雇われてくれ!」

 

 悪魔は財布を放り投げる。跳躍し、それを受け取った深月フェリシアは「げっ!」と驚きの声を上げた。

 

「はした金しかねぇじゃん! でも……いっか! これで今夜も飯が食える! それに魔女を飼っているあいつらが気に食わねぇ! その横笛で魔女を操ってんのも、見抜いてねぇわけじゃねぇんだからな!」

「契約成立だな」

 

 悪魔の目の前に深月フェリシアが降り立つ。その手には魔法武具の巨大ハンマーを携えて、怨嗟の瞳を天音姉妹に向けていた。

 

「ふ……ふふ……」「実は……ウチたち……」『スペアのペルソナカードを持っているんだよね!!』

「あぁ。知ってる」

 

 口惜しそうに呟いた(千秋理子とマメジのことを思う)悪魔は、あの究極光景(シーン)に近付いている事を予感する。

 

 かくして天音姉妹は光と闇のペルソナカードを同時に使用した。

 

『────ペルソナァ!』

 

          †

 

「《ララジョーネ・イルトート(理由と間違いの迷宮)》!」

「《パーペ・サナータレッペ(堕法王の古城)》!」

 

 それは“迷宮を作り”、“建物の構造を鬼畜にする”スタンド能力。二つの能力を組み合わせることで、ウワサ空間内部に魔王城のようなダンジョンが生成される。その場にいる者たちはダンジョン内のフロアに強制転移され、悪魔や魔法少女たちは挑戦者として各初期フロアにバラバラに分断配置され、ウワサやその使い魔はエネミーとして各フロアやボス部屋に配置される。

 

 その古城迷宮の攻略は至難の業だろう。一朝一夕でクリアできる難易度ではない。既に長期戦を強いられて魔法少女たちは疲労困憊。復活した悪魔と千秋理子が迷宮を攻略しようにも、悪魔は不運水を被っているため即死トラップは必中する。天音姉妹も幸運水がまだ残っているため千秋理子や他の魔法少女たちも危ない。叛逆魔法を使えばトラップを回避できるが、そのぶん悪魔の負担が増えてまた気絶するかもしれない。それに悪魔は立会人との取り立て条件として、あと二十分以内にウワサの本体を倒したい。馬鹿正直に迷宮を攻略している場合ではない。故にあらゆる手を尽くして攻略しようと意気込んだ────次の瞬間。

 

 悪魔のヘルリングから直感する。どうやら既に発動していた幸運が、ようやく悪魔の身に降りかかるらしい。本来はマメジの生還のために使いたかった幸運は、いったいどういう形で発動するのか。まさか佐倉杏子の当たり棒で終わりなわけがないとは思っていたが、悪魔はそ(・)れ(・)す(・)ら(・)も(・)不(・)運(・)に(・)働(・)く(・)と考えて最悪の状況に備える。

 

 そして直感。頼もしい三人が助けに駆けつけてくれた。

 

 新たにウワサ空間に入場したことで古城迷宮のスタンド能力に巻き込まれた三人が、幸(・)運(・)に(・)も(・)悪魔と同じ初期フロアに転送されてくる。

 

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

「ふゆぅ!!」

 

 突然のテレポートに驚いた三人は団子になって尻餅を搗く。

 

「ももこ、レナ、かえで……なぜここに?」

『────っ! 悪魔(悪魔さん)!!!』

 

 チームももこの助太刀。その経緯と理由を問いかける。

 

「なぜって……聞くまでもないだろ」

「なら、どうやってここに?」

「やちよさんがアタシたちを心配してウワサの調査に連れて行ってくれないことは予想が付いてた。でもいつ出発するのか分からないからSNSを見ていたんだ。そしたらこんなコメントを見つけてね」

 

 ────《リア:参京区で七海やちよを発見!》────

 

「やちよさん。自分が有名人だってこと、ちょっと忘れてやしないかな?」

「それでレナたちも参京区に来た、はいいものの……全然魔力パターンを探れなくて、またももこのバッドタイミングが発動したのかと思ったんだけど……」

 

「アタシのバッドタイミングを能力みたいに言うなよ!? これは体質だ!」

「じゃあバッドタイミングはももこちゃんの魔法だね!」

「フォローになってないぞかえで!? むしろそっちの方がなんかヤダ!」

 

「こほん。でもウワサには普通に遭遇したのよ。水を配るおじさんを見たももこが、そのおじさんと水に魔力が宿っていることに気付いたの。それでもレナは、あえて飲んでみようと思ったんだけど……おじさんから《全てのカスタム幸運水は使ってしまったからもうない》って言われて……また立ち往生。振り出しに戻ったってわけ」水波レナはやれやれと両手を挙げる。

「売り切れとかバッドタイミングだよねぇ……」秋野かえでは苦笑い。

「あれアタシのせいか!? いや! あれは飲まなくて正解だったとアタシは思うね! ぜったいに! ほんとに!」十咎ももこは自信を込めて言い切る。

「そしたらウワサさんが現れて、ウワサ空間への入場には招待状が必要だって分かったんだけど……その招待状は幸運水ってやつを飲まないと手に入らないっていう水掛け論」

「でもそこで偶然! フクロウみたいな使い魔がマンホールの中に入っていくのを目撃したの!」

「そんで地下に降りて駆けつけてみれば、中層から床が完全に崩落してて、なんとかそこを飛び越えて深層に入ったら、なんかもう最終決戦って感じ! とんでもない城が立ち上がってて、近付いたら急にここに飛ばされて……。なんか、ちょっと来るのが遅かった気がしなくもないけど……これはバッドタイミングか?」

 

 悪魔は微笑む。

 

「いや。グッドタイミングだ。恐ろしいくらいにな……今から指揮する。この古城迷宮のスタンド、五分で攻略するぞ。手伝ってくれるか?」

『もちろん!!!』

 

 悪魔は走る。それに付いていくチームももこ。

 

「ももこは分析魔力を走らせて細部感知。それで最短ルートを行く!

 レナは発散魔力を常に放って危険感知。トラップを発見次第、かえでに報告!

 かえでは誘導魔力を張ってトラップを無効化。ただしオレに対するトラップは、ある事情(不運水)で無効化できないだろう。その場合はオレを《一時消去》してもらう。そうすればオレが逐一叛逆魔法を使わなくても、一時的にオレの不運水の効果を消してトラップを回避することができる。一時消去している間もオレは先を走っているから一歩も止まらず走り続けろ!

 最短で攻略するぞ。今もどこかで誰かが死に掛けているかもしれない!」

 

 悪魔がボス含むエネミーを瞬殺し、十咎ももこがルートを調べて案内し、水波レナが索敵、秋野かえでがチームと悪魔を守護する。それは熟練性質を使いこなせるまで成長した魔法少女のチームだからこそ可能な正面攻略。

 

 宣言通り五分で最上階の玉座の間に到着した悪魔とチームももこは、二つの玉座に座る天音姉妹と再会する。

 

「こんなのウソでございます!」「リアルタイムアタックがすぎるよ!」「せっかくたくさん面白いギミックを用意したのに!」「そのほとんどを無視してくるなんて!」「この悪魔!」「残虐非道!」

 

「悪魔? 違うな。オレはこれからこの城を乗っ取る────魔(・)王(・)だ」

 

 死炎噴射により背後に回り、意識外からの一撃で昏倒させる。直後、天音姉妹のソウルジェムからペルソナカードが排出され、古城迷宮のスタンドが解除された。それを悪魔は回収。一同、ウワサ空間の深層に帰還する。

 

 そこで七海やちよはチームももこの存在に驚いた。

 

「え────ももこ!?」

「やちよさん!」

 

 十咎ももこは複雑そうな表情で俯くと、手のひらを握り締めて声を振り絞る。

 

「やちよさん……アタシらは、仲間だろ!」

「!」

「たとえ……たとえ、やちよさんが……そう思っていなくても……アタシたちは、いろはちゃんや悪魔たちの仲間でもある! だから来た! やちよさんにあれこれ言われる筋合いはない! ここは是が非でも……助太刀させてもらう!」

「────っ」

 

 悪魔は誰よりも前に立ち、歯を食い縛る七海やちよに声をかける。

 

「大丈夫だ。やちよ」

「────! ……まさか、ももこたちが来たのは……666回の不運を覆す幸運の効果?」

「さてな。だがやちよからしたら不運だろう。でも大丈夫だ。誰も死なせない。今度は、必ずだ」

 

 なぜなら分かっている。

 

 悪魔の後方に、い(・)ま(・)集(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)メ(・)ン(・)バ(・)ー(・)こそ……

 悪魔の前方に、い(・)ま(・)待(・)ち(・)構(・)え(・)て(・)い(・)る(・)ウ(・)ワ(・)サ(・)の(・)本(・)体(・)こそ……

 

 カスタム幸運水の小瓶を手に取る瞬間、究極超直感が発動して見えたシ(・)ー(・)ン(・)であるのだから。

 

「いいか。ミネルヴァ。運命とは、自分の手で切り開くものだ。オレは多くの不運をこの手でねじ伏せてきた。それは今回も同じだ。オレの前に立ちはだかる邪魔者という名の不運は……このオレが、直々にぶちのめす」

 

 悪魔は直感する。

 今ここに集う全ての魔法少女たちが感じている訴(・)え(・)を。

 

 たしかに悪魔はなんでもかんでも一人でやろうとする。全ての問題を一人で解決したがる悪癖がある。だが悪魔は今まで自(・)分(・)の(・)力(・)だ(・)け(・)で(・)問(・)題(・)を(・)ク(・)リ(・)ア(・)で(・)き(・)た(・)と思ったことは一度もない。それを恥辱と感じる時もあるが、同時に安らぎと頼もしさを与えてくれる。悪魔は常に誰かに助けられてきた。いつもみんなと協力して問題をクリアしてきた。それでも一人で解決しようと挑むのは、それが理想だからだろう。

 

 誰かと一緒に問題をクリアしても、仲間が傷ついたり、もう二度と会えなくなる人もいる。それが嫌だから、なるべく一人でなんとかできるように、理想に向かって挑戦しているのだろう。たとえ、それと全く同じことをほかの誰かが思っていることを直感しても、悪魔はその理想を諦め切れない。運命に向かって挑戦を続ける。

 

(オレは理想を掲げるが、現実を見ていないわけじゃない。現に今回も、オレの力が至らないばかりに、多くの仲間の命を文字通り懸ける(賭ける)羽目になってしまった。ならばオレは理想を志す者として責任がある)

 

 誰(・)も(・)死(・)な(・)せ(・)な(・)い(・)。仲間も、敵も。全てこの手で勝ち取る。不運を力に変えてこそ真の強者。自らの敗北と恥辱を不運のせいにはしない。今ここにある全ての命との出会いが、悪魔にとっての幸運であるが故に。

 

「昔のオレは、なんでもかんでも不運だと片付けていた。ダメダメっぷりに拍車が掛かって、自分が幸運だと思ったことは一度もない。だが多くの人と触れ合って、多くの命を目の前で失ったことで、ひとつ分かったことがある。オレは幸運だった。誰よりも。争いがない少年時代を送れたことが。オレは不運なんかじゃなかった。弱かっただけなんだ。弱いとは物理的なことじゃない。心の弱さでもない。弱さとは挑戦しないことだ。何もしないで逃げて後悔したあと、死ぬ気で頑張らないことだ。オレはそれを妹(すず)に教えられた。恥ずかしい話だが、今回のことでまた一歩、オレは成長できたと思う」

 

 しかし、悪魔の背後に勢揃いする魔法少女一同にとっては、何を言っているのか(ふざけるな)という話である。独りで勝手に全てを背負って戦う姿を、仲間として誰が見たいというのか。

 

「全員。合体魔法(コネクト)を使え」

『────!?』

 

 七海やちよは驚愕する。合体魔法(コネクト)の概念は知っている。だが────

 

「いきなりそんなことできるわけ────!」

「こっちが確殺するためには必要だ。合体魔法(コネクト)までの道のりは《魔法陣形》の魔法で指示を出す! オ(・)レ(・)の(・)隣(・)に(・)並(・)び(・)た(・)け(・)れ(・)ば(・)や(・)っ(・)て(・)み(・)せ(・)ろ(・)!」

『────っッ!!』

 

 その言葉は、たしかな士気向上へと繋がった。

 悪魔は《魔法陣形》を行使。

 

「無害ゆえに無敵。その特性は《確殺賭博場ミネルヴァのウワサ》本体も同様だ! ……スロットの出目でバフ・デバフがある以上、全然無害じゃないとは思うだろうが……スロットの出目を回しているのはあくまでミザリーオウル! 本体自身は何もしていない! 故に、その屁理屈で無敵の特性を保っている! ────そしてオレは、その無敵の特性を叛逆魔法で一瞬だけ覆す! その隙に撃ちこめ! 三発の合体魔法を!」

 

 十咎ももこが先陣を切ってセンターに立つ。その両側には水波レナと秋野かえで。まず十咎ももこが狙撃銃を用意。莫大な魔力を込めて魔法武具を巨大化し、大砲のような口径を持つ狙撃銃を作り上げる。次いで水波レナは同様の魔力操作で自身の槍を巨大化させ、狙撃銃に装填。しかしこの状態で射出すれば、いくら発散魔力があっても、鎮静効果によって速度が減衰しやすくなる。おそらく射出後、被距離が伸びれば伸びるほど速度と威力が減衰される。ならば着弾までの間、一(・)時(・)的(・)に(・)慣(・)性(・)を(・)消(・)せ(・)ば(・)い(・)い(・)とのことで、最後に秋野かえでが仕上げをする。発射の瞬間、弾丸のように打ち出された槍を《一時消去》し、標的に着弾する瞬間、《一時消去》を解除する。

 

「これが魔法のゼロ距離射撃だ! 名付けて狙撃銃のパイルバンカー!」

「ホントに見たまんまじゃない!」

「いっけぇー!」

 

 発射。忽然と消えた巨槍弾丸は刹那、ウワサ本体の中心を刳り貫いて風穴を開けた。その遥か後方の壁に巨槍弾丸が激突し、極大の魔力爆発が発生する。無敵の特性を破られたミネルヴァのウワサは轟々と震撼し、ルールを破った者たちに怒りを向けて襲いかかる。それはつまり無害ではなくなり、無敵の特性が消えたということ。悪魔は叛逆魔法を解除して、絶対の勝利を見届ける。

 

「っ────! これは……!」

「すごい……! 凄まじいっ!」

 

 続いて環いろはと鹿目まどかの魔法武具を中心とした陣形が東西に集まる。他の魔法少女が最適な魔力属性をクロスボウとステッキボウに付与することで超強化。また、七つの属性を繋げて加速させることで、無限に加速が維持されるエネルギーの性質を利用。極めて高まったエネルギーを抑えきれない環いろはは、魔力操作に最も長けた七海やちよの手を借りて熱量抑制・照準維持。単独でも抑えきれる代わり経験不足で照準がままらない鹿目まどかは、同じく魔力操作に長けた暁美ほむらの手を借りて照準維持。狙撃手(環いろは/鹿目まどか)と観測手(七海やちよ/暁美ほむら)の連携により、いよいよ極限まで高まった七色の極光が炸裂する。

 

「成長の時だ! 出し惜しみはしないッ! 総員! 確殺魔法、発射────ッ!!」

 

 悪魔の号令一下が合図となり、魔法陣形が活性化。環いろはと鹿目まどかは、この弓を引けば文字通り全(・)て(・)の(・)争(・)い(・)が(・)終(・)熄(・)す(・)る(・)と本能的に察知する。それほど合体魔法という代物は────あまりにも────計り知れない────絶大な力を秘めていた。

 

『いっけぇええええええええええええ────!!』

 

「《星霜を切り拓く未来への道(ストラーダ・フトゥーロ)》!」

「《絶望を射ち救う希望への道(プルウィア☆マギカ)》!」

 

 全ての魔法少女の魔力を組み合わせた合体魔法の必殺技により、虹色の魔力が最強の難敵を一撃のもとに討ち滅ぼす。

 

 轟然一瞬と崩壊するウワサ空間。かくして空間位相は、無傷の地下貯水槽に戻された。

 

          †

 

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