アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
夕方。新西区の廃墟街。その屋上にて。由比鶴乃に指示する魔法少女の面々──環いろは、暁美ほむら、鹿目まどか──が集い、いざ修行に入る。
「試合は私バーサス弟子たち! スタンドもキモチも無し! 元のスペックを上げるためにはスペックだけで戦うこと! ひとしきり戦いまくったら熱が冷めないうちに調整! 調整が終了したらその熱が冷めないうちに戦闘! そして調整! 戦闘! 調整! これを死ぬまで繰り返す! そうして由比鶴乃は最強の魔法少女になったのだー!」
「い、意外とスパルタなんですね……!」
「でも、分かりやすくていいかも……?」
「あの、本当に3対1でいいんですか?」
「構わん! 遠慮なく鶴乃お姉さんに掛かってこーい! 弟子たちの強くなりたいという思いを、ドーンと受け止めてみせよう!」
そうして魔法戦闘の修行が始まった。三人の弟子は全員遠隔攻撃の使い手だが、それを物ともせず光矢や銃弾を打ち落とす由比鶴乃は楽々と接近。魔法少女の身体能力のみで三人の弟子を叩きつけ蹴り飛ばす。
『きゃあ────!!?』
「どうしたー弱いぞー! もっと腰を入れるんだー! 手加減は無しと言ったはずだぞー!」
屋上に寝そべる深月フェリシアは、鼻をほじりながら彼女たちの修行を見届ける。
「鶴乃の奴、ホントに強いんだな。いろはとほむらの攻撃は打ち落として、まどかのヤベェ一撃は確実に躱してやがる」
由比鶴乃の前に小手先の技は通用しない。常に距離を保ちながら攻撃を加えていく弟子たちだが、一気に詰め寄る由比鶴乃の猛進を防げず懐への侵入を毎回許してしまう。しかし常に一辺倒なその戦い方は、繰り返していれば光明が見えてくる。弟子たちは無意識に連携を意識して由比鶴乃を包囲。彼女が三人のどちらかに偏って攻撃すれば、残り二人が迎撃するような布陣を完成させていく。
「むっ! スペック不足を連携で補ったか……ダメダメー! 連携も禁止ー! たとえばこんなことされたら、どうするのかなー!?」
由比鶴乃は
「くっ……まさか発動まで時間が掛かる必殺魔法を置き技のように利用して、畳み掛けるように通常攻撃で倒しに来るなんて……」
「一人なのに二人分の攻撃……しかも私たちより二倍は早いから、実質一瞬で四回攻撃……」
「猛撃ってこういうことを言うんだ……それにまだ余裕があるし……」
「はっはっはー! どうだ! 由比鶴乃は強いんだぞー! パッとしないなんて誰にも言わせない!」
†
一方その頃。廃墟街の地上では。神浜ミレナ座から出てきた和泉壮月は、屋上の上で火炎を逆巻いて光矢銃弾を撃ち合う魔法少女たちの修行を観戦していた。
「すげぇ……やっぱ次元が違う……
生贄の烙印を受けた和泉壮月は、同様に生贄の烙印を受けた八雲姉妹に保護される形で、
「壮月くん? そろそろ日が暮れるから中に入ってらっしゃい」
そこで八雲みたまは答えた。悪魔とリヴィア・メディロスの《魔法少女の存在は明るみに出てはならない》という教え通り、自分たちのことを《超能力者》だと言うことにしたのだ。
「あ、はい……」
それにより和泉壮月は魔法少女のことを、
「ただ、あの人たちには一言でもいいからお礼を言いたくて……」
「あら? 彼女たちは今日の護衛役ではないわよ?」
「いや、そうじゃなくて……」
和泉壮月は思う。(俺も何かできれば)と。
「すみませーん。黒江ですが……」
「あら、黒江ちゃん! いらっしゃーい!」
「あ! ども……」
先日の神浜抗争で面識がある黒江と和泉壮月。互いに会釈して調整屋に入る。
「どうも。──前回の護石はどうでしたか?」
「バッチリ守ってくれたわよぉ。悪霊さんたち、結界の中に入ってこられなくて落ち込んでたわぁ!」
「ヒビの具合は?」
「三割ってところかしら?」
「ちょっと不安ですね。こちら改良品です。たぶん損害を二割までには抑え込めると思います」
「いつもありがとう~。お礼に私の料理を振る舞うわぁ!」
「あ! それはまた今度で!? それでその、急かすようで悪いんですがグリーフシードを……」
「あぁはいはい。鶴乃ちゃんたちの修行に必要だものね! はい、どーぞ!」
強化護石と引き換えに数個のグリーフシードを受け取った黒江は会釈して調整屋を出て行く。
「……なぁ、みたま姉さん。あの黒江さんも超能力者なんだよな?」
「えぇそうよぉ。でも
「基本的に元・超能力者はいないって言ってたよな? つまり何かあって力を無くしたってことか? それなのに今度は
「そうねぇ。……でも残念ながら、壮月くんは祓魔師にはなれないからね?」
「あぁ。それでも守られてばかりなのはやっぱイヤだ……俺も何か手伝いたい……」
和泉壮月は知っている。姉・和泉十七夜も超能力者であると。そして八雲みたまから聞かされた話では、東の代表者でもあったと。自分の姉がそんなスゴイ人だとは思わず、誇らしい気持ちと、それを知らなかった申し訳なさで複雑な気持ちになる。そして当の姉は、今や超能力者同士で敵対する別勢力に襲われてしまい深手を負って行方をくらましたという。そんなの心配にならない訳が無い。
(両親は死んだ。姉ちゃんは一人で、きっとまだ
和泉壮月は悪魔を捜している。あの時、蝕から救ってくれた悪魔を。彼は超能力者とは別の存在だと八雲みたまは言っていた。ならば本物の“悪魔”なのかと聞いたが、八雲みたまも分からないそうだ。しかし和泉壮月は確信していた。超能力者には少年もいるのだ。なぜ超能力者は女の子ばかりなのだろうと思っていたが、男でも超能力者になれるなら、和泉壮月がやることはただひとつ。どうすれば自分も超能力者の仲間入りを果たせるのかを、悪魔に聞くつもりなのだ。
「……壮月くん。くれぐれも無茶したらダメだからね。もしあなたに何かあったら、わたしは十七夜に顔向けできないわ」
「……わかってます。恩を仇で返すような真似はしません。ただ日中は駆け回って、悪魔の奴を捜してもいいですよね?」
「それは……えぇ。見つかると……いいわね?」
その言葉が本心からのものではないことを和泉壮月は分かっていた。八雲みたまは極力この世界に巻き込みたくないのだ。それでもと和泉壮月は火中に飛び込もうとする。
その時、八雲みかげが帰ってきた。
「ただいまー! 姉ちゃと壮月くん!」
「おかえり、みかげ」
「駄菓子屋とかに寄り道してないよな?」
「もちろんソッコーで帰ってきたよ! 夕暮れになるとお化けがたくさん出てくるからね!」
「あら。ならその口の端にある青いのはなにかしら?」
「アイスだな」
「バレた!」
八雲みかげは怒られないうちに、調整屋の奥にある座敷に駆け込んでランドセルを置きに行く。
「この生活、いつまで続くのかしらね……」
「……みたま姉さん」
「悪霊を引き寄せる首筋の烙印……どの魔法でも取り除くことができないって話だから……やっぱり十七夜に任せるしかないのかしら……」
「…………」
日が暮れる。調整屋の周囲に群がる悪霊たち。日の出とともに消える悪霊どものは、日の入りとともに有象無象と湧き出してくる。
ふと開かれる扉。陽光とともに七海やちよが入ってきた。
「みたま。無事かしら。少し遅くなってごめんなさい」
「あら。やちよさん。ギリギリセーフよ。今晩はよろしくお願いね?」
「えぇ。今日はぐっすりと寝て、その目の下のクマを取りなさい。ろくに夜、眠れてないんでしょ?」
七海やちよ。どこかで見たことがあると和泉壮月は思う。そこで以前クラスメイトたちの話題に上がっていたモデルの話を思い出す。その手の話にはとんと興味がないため忘れていたが、まさか芸能人の中にも超能力者がいるとは……そう和泉壮月は驚いていた。
「あの、ありがとうございます……」
「あなたは……たしか十七夜の……えぇ。今夜は安心して。黒江さんが防音結界も完備したから、そこまで戦闘音もうるさくないはずよ」
優しげな微笑み。しかし和泉壮月は気になった。まさか一人で守るのかと。
「あの……失礼かも知れないんですが……今まで俺たちを守ってくれた人たちは、チームを組んでいたんですが……」
「……あぁ。そういうこと。自慢じゃないけど、これでも私は西の代表者なの。一人で数人分以上の実力はあるから、どうか信用してくれるとありがたいわ」
「え、西の代表者……!? じゃあ、姉ちゃんとは……。──あ、信用については、もちろん心配してないです!」
「そうね。良きライバルよ。たまに情報交換もしているし……じゃあいいかしら? 早くも出てくるのね、その悪霊とやらは」
変身した七海やちよは青い槍を携える。ドアの隙間から入り込んできた悪霊が、瞬速の一突きで切り裂かれた。
「……!」
「それじゃあわたしたちは結界の中でゆっくりしてるわね」
「えぇ。おやすみなさい」
これから七海やちよは、朝焼けまで悪霊と戦い続ける。
それに感謝することしかできない和泉壮月は、己の無力さを呪うことしかできなかった。
†