アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
夜。暇を持て余していた悪魔は、アリナ・グレイを尾行していた。警察署から解放されたアリナは帰路に着く。そこに悪魔は飛び降りる。
「ようやく出てきたか。なぁアリナ、お前さてはバカなのか?」
「なんでシャバに出たらいきなり罵倒されなきゃならないワケ? 警察署は色々な人が集まるから、長時間拘束されるのも時間の無駄にはならないんダヨネ」
「つまりお縄につくのもフィールドワークの一環だと言いたいわけか。マジでクレイジーだな……」
「それより暇なら付いてきてヨネ。アリナの家に招待するんデスケド」
「……なに? まさか寝床でも提供してくれるのか?」
「部屋は余ってるから好きにスレバ?」
何かアートの題材でも閃いたのか、アリナは鼻歌をしながら家路に着く。
†
栄区の住宅街。壮大な豪邸の表札にはアリナ・グレイと記されている。
「バカみたいに見上げてないでさっさと入るんデスケド。あ、門扉締めテネ」
悪魔は警戒しつつアリナ邸にお邪魔する。超直感でも捉えきれない情緒を持つ奇怪な人間だ。もし家への招待が罠だったとしても、アリナ自身はあくまで
アリナによって押し開かれる巨大な両扉。長く長く続く赤いカーペットの回廊は、真っ白な万里の長城とも言える長さを誇る。両側にはいくつもの扉が奥まで続いており、天井には
歩けども歩けども奥が見えない。とんでもない広さの豪邸である。やがてアリナは何番目かも分からない扉を開き、大広間のアトリエに帰還した。そこには一人の少女が立っており、物音に気付いて振り返る。
「アリナ。ようやく帰ってきたんですか。こんな遅い時間の外出は危な────」
悪魔と梓みふゆの視線が交差する。
「よぉ」
「!?」
「みふゆ。ご飯は用意してないワケ?」
そう言いながらアリナは、床に打ち捨てられたような塩梅でホコリをかぶる電子レンジに、先ほど買ってきたコンビニ弁当を投入。最大ワットで一瞬のうちにチンを済ませる。
「警察署でノイジーな注意を受けていたせいで今夜はクソマズ日本食なんデスケド。たまには適当なモノ食べたいヨネ。ただ今夜はジャパニーズデビルボーイとパーフェクトボディの合作だから、むしろコンビニ弁当くらいのカオスさがちょうどいいと思うワケ」
「いや、ちょ、アリナ……なんという人を連れてきてるんですか!?」
「みふゆ」
悪魔は梓みふゆの眼前まで足を運ぶと、アリナと繋がっていることについて「シィーッ」と口元に指を当てて、マギウスには秘密にしろと言いたげにジェスチャーで伝える。その押しの強さと
「そうそれ。デビルボーイは二重人格なワケ? それともワザと?」
「なにがだ?」
「テンションマイナス状態と一瞬のプレイボーイ状態な二面性について問いかけているワケ。一発で理解してヨネ」
「あぁ……それはたぶん妹のせいだ。オレは自覚がないんだが……たしかに普通に話しかけたつもりが、急に相手に“ドキッ”とされることが多い。超直感で分かる」
「難儀な性質だと思うワケ?」
「そうだな。これのせいで何度いきなり襲われたことか……」
悪魔は嫌な思い出を忘れようと振り払う。特に恭弥との思い出がトラウマに近い。
「────いや! ですから! そんな雑談に花を咲かされても困ります!」
「みふゆがヒステリー起こしたんデスケド。デビルボーイ責任取ってヨネ」
「オレのせいなのか? みふゆの混乱はどう考えてもお前の責任だろう」
「なんですか!? ワタシがおかしいんですか!? あれ? ワタシたち敵同士でしたよね? あれ……?」
アリナは食事を終えると両手に割り箸を持って、悪魔と梓みふゆを指差す
「それじゃあ二人にはモデルになってもらうんデスケド。そのために警察署の中でみふゆを呼んでおいたんダヨネ。デビルボーイはついでだけど、いつかは描こうと思っていたカラちょうどいいんデスケド」
割り箸を立たせたアリナは、それで画角を調整し、額縁に見立てているのか。悪魔と梓みふゆにあれこれ言って、どこそこに立てと指示する。
「デビルボーイは霜を食って生きる仙人みたいなイメージがあるんダヨネ」
「まぁ実際、何も食ってないからな」
「そんなの服の上からでも分かるガラガラな体を見ていれば分かるんデスケド。でも脱いだ方がよく分かるのも事実。というわけでデビルボーイ、脱いでそこに座って」
「イヤだと言ったら?」
「アリナに口答えできると思ってるワケ?」
「お前の結界から逃れられないとでも?」
悪魔とアリナの間に火花が散る。そこで梓みふゆが仲裁に入った。
「えっと、それでアリナ! ワタシはいったい何を……?」
「……みふゆは悪魔の横に居るだけで完璧だから何もしなくてイイ。なんたってデビルボーイは、みふゆのパーフェクトボディとは対極すぎて、逆に合わせて描きたいんダヨネ。対比で際立つ美は定番だけど、王道なのもそれなりに理由があるワケ。それにここまで対照的だと一周まわって感心しかナイ。
梓みふゆは硬直し、
「そして二人で裸になって、堂々と向き合ってほしいんデスケド」
「全力で」
「お断りします」
「ファック!!」
悪魔と梓みふゆが断ることは想定済みだったのか、アリナの反応は早かった。
しかし納得できないのか激昂する。
「目の前に文字通りの女神と悪魔がいるのにィイイイ!! それを合わせて描くチャンスをみすみす棒に振るアーティストはこの世に存在しないんデスケドォオオオ!? 仕方ない……裸はこっちで勝手に想像するカラ! せめて二人はそこに立って動かないデヨネ! 絶対ダカラ! 動いたらコロスッ!!」
「そんな……あのアリナがこんなに
「今のセリフが下手に聴こえるお前は相当に毒されてると思うぞ?」
かくして悪魔と梓みふゆは硬直状態を強いられた。おそらく一歩でも動いたり、よろけたりしたら、アリナの強烈な舌打ちとともに結界魔法が乱舞してくる。それを悪魔は強く直感していた。
「……あの、アリナ。ちょっとくらいなら、会話してもいいですよね……?」
「…………、……ちょっとだけならネ」
「やっぱり下手に出ている……」
梓みふゆは驚愕する。そして困惑する。このよくわからない状況に。
「大丈夫だ、みふゆ。オレも今日で、もうアリナの奇行には慣れた気がする」
「…………、────あの、悪魔さん」
「なんだ」
「本当に……ワタシをスパイとして使うつもりなんですか……?」
「そのつもりだが?」
「で、でも……ワタシは乗りませんからね……! ワタシには、守らなければならない子達がいるんです……!」
「知ってる。だから、もし発覚したり、疑われたりしたら、全部アリナのせいにすればいい。今夜のことを話すとかしてな。アリナもオレと繋がっていることをマギウスに秘匿していたんだから、なすりつけは充分に可能だ。実際みふゆも今の今まで、オレとアリナが悪友なのを知らなかったようだし」
「……」
「別にデビルボーイと悪友になった覚えはないんデスケド」
「そうか。それは残念。ただかりんからはそう見られているみたいだったんでな」
「フールガールが? あの子も見る目ないヨネ……どう考えても芸術家と題材の関係性なんデスケド」
「お前もブレないな……」
†
夜も更けてきて、そろそろ日を跨ぐ頃。深夜の眠気にうつらうつらとする梓みふゆは、魔力による生体調整をまったくしていないと悪魔は見て取った。
(やはり七年のベテランは伊達じゃないな……
悪魔も眠気のせいか思考の煩雑さが増してくる。
「ふわぁ……。なぁアリナ。まだ終わらないのか?」
「…………、……題材が急かしてくるなんて人生で初めてなんデスケド」
「お前なぁ……」
モデルとしてただひたすらに立ち続けて眠気をこらえるのは、ちょっとした拷問である。
ふと梓みふゆの体が眠りに落ちかかって崩れた。瞬間、アリナのキューブが手足を拘束し、強引に立たせる。それにより自分で立つ必要が無くなった梓みふゆは、とうとう寝息を立ててスヤスヤと眠ってしまった。
「……それでいいのか?」
「全然よくないんデスケド。脱力状態のポーズは肉付きが重力にやられるワケ。でもみふゆが寝落ちするのは織り込み済みで既に書き終えてるから問題ナイ」
「じゃあオレは?」
「これからなワケ」
悪魔は溜め息をつく。
†
そして草木も眠る丑三つ時。を既に回った明け方の五時頃。
「────フィニッシュ。とりあえず下書きはこれで終わり。あぁこれは超大作の予感なんデスケド……あ、みふゆとデビルボーイはお疲れ。もう帰ってイイヨ」
アリナ・グレイは恍惚と絵画を眺めると、悪魔と梓みふゆには冷たくあしらう。
「ハァ……ようやくの解放か……しかも十時間以上経って下書きだと? どんだけ書き込んだんだ……何か報酬が欲しいぜ……」
「ふかふかのベッドはあるけど、それアリナのだから貸すのは無理なワケ。そこらへんで寝てイレバ?」
「血も涙もないな……」
悪魔は思う。なぜ自分は正直にアリナの題材になったのだろうと。今更そんなことを考えても遅いが、次は耐えられそうにない。だが逃げれば確実にアリナと戦闘に発展するだろう。つまり戦闘を避けるために、題材にならざるを得なかったのだ。こんなくだらないことで死闘を演じたくはない。悪魔にとってはくだらなくても、アリナ・グレイにとっては命を懸けるほど重要なことなのだから。
「それを直感したから我慢して付き合ったが……もし次があった時のために、いかに完璧に逃げおおせるかを考えておこう……」
悪魔は回廊を戻りながら独りごちる。
やはり助太刀魔法による避難が最善だろうか。それが一番確実だと悟る。
赤いカーペットの回廊。前方に両扉。だが玄関扉とは違う模様であることに気付く。
「……? ────うわマジか。反対方向に来ちまった。戻ろう……」
振り返った次の瞬間、悪魔は突然の殺気を直感した。
前方に回廊。残る三方に両扉。開け放たれる扉の先から緑色の巨大キューブが三個、迫り来る。バトルグローブを開匣しつつ跳躍して回避。屋根が破壊されて四個目のキューブが急降下してくる。逆噴射で回廊をカッ飛び回避。遥か先に立つアリナ・グレイを捕捉。左手から一個のキューブが投擲され、それが細かく分解されて無数のキューブが襲い来る。
(みふゆのを見るに、触れた瞬間、接触箇所をロックされる仕組みか。かするだけでゲームオーバーだな……)
開匣・雨刀。正面には無数のキューブ。触れずに突破は不可能。後方からキューブの大群。同様に回避不可能。四方の壁・床・天井が破壊されて巨大キューブが迫り来る。次の瞬間、悪魔の姿が忽然と消えた。
「そう来るのは読めているんデスケド!」
アリナは周囲に無数のキューブを旋回させる。しかし何も捕まらない。悪魔は自分のもとに飛んできたのではないのか?
「────みふゆ!」
アリナは振り返る。その瞬間を直感された。再び助太刀魔法でアリナの背後に飛んだ悪魔は、刹那とも言えるアリナの隙を確実に突いて首を握り締め、床に押し倒す。
「ガッ!?」
悪魔を捕らえようと全てのキューブが差し迫る。が、その前に嵐の炎を頚椎に流し込まれたアリナ・グレイは失神した。ボトボトとキューブが落ちて魔力の残滓となり消えていく。それを確認した悪魔はアリナ・グレイのソウルジェムを抜き取り、霧の炎を灯して頚椎に注入。分解した意識を再構築して強制的に覚醒させた。
「ハッ!?」
「一瞬でも魔力を回したらソウルジェムを奪って逃げる。答えろ。
悪魔の声は殺気立っていた。このまま戦闘が継続されるなら悪魔は死ぬだろう。そのため殺される前にアリナを殺すしかなくなる。殺意を含む忠告はアリナの背筋をゾクゾクとさせて冷や汗を流させた。
「……腕試し。どうせいつかは戦うんダカラ。前もって実力を知っておこうと思って」
「それだけじゃないようだが」
「悪魔契約ってナニ? マミから説明されたけど、肝心の契約儀式を教えてくれなかったんダヨネ」
「…………知りたいか?」
そのくらい普通に質問しろ、と悪魔は内心ボヤきつつ、うつ伏せで首根っこを引っ掴まれたアリナの体をひっくり返す。
「!?」
強引に仰向けにされたアリナは、両腕を押さえつけられて目を見開く。異様に顔の距離が近い。鼻の先端同士が触れ合って吐息が掛かる。その上なぜか股を片足で圧迫される。初めて経験する不可思議な胸騒ぎ。これは悪魔の妹による魅了の効果か。
「こっちは眠くて苛立ってんだ。天才の遊びに付き合っている暇はない。少しはかわいげのあるところを見せたらどうだ? アリナ・グレイ────」
そうしてアリナ・グレイの唇は奪われた。接触時間は一秒にも満たない。
「────っ!?」
あまりにも突然の出来事にアリナは硬直する。直後、アリナの
アリナによるキューブの魔力操作。四角い結界はルービックキューブのように亀裂が入り、巨大化。そこからさらに無数の亀裂が入って分裂していき、フワフワと浮遊しながらスピードを上げて悪魔を追いかける。その全てを容易く躱す悪魔は、先程とは打って変わり余裕そうだった。
「っ────」
否、悪魔は何も変わっていない。アリナの動揺が精密な魔力操作を妨げている。つまり命中率が落ちているのだ。
「おや。さすがのマッドアーティストも、ほんの少しとはいえ乙女心があったようだ」
「アリナに何をしたワケ!」
「おやおや。さすがのジーニアスアーティストも知らないことがあるようだ。
「そのくらい知ってるんデスケド! あと生娘の何が悪いワケ! 純潔は題材において最も崇高なテーマのひとつなんデスケド!」
「ドロドロにただれたものもアリナ好みのテーマじゃないのか? ──まぁいい。分かった。説明しよう。あのまま互いの愛を誓って《悪魔契約魔法》を行使すれば、キュゥべえ契約が破棄されて魔法少女は元の人間に戻る。これはそういう魔法だ。しかし今のアリナは魔法が使えている。つまりオレは何もしていない。本当だ。信じてくれ」
「…………」
「いきなり襲われた仕返しだ。ここはお互い様ってことで手を打たないか?」
ふとアリナのキューブが鳴りを潜める。
悪魔は「ふぅ」と溜め息をついて着地。破壊された天井や床、扉や壁を見つめる。
「フツー自分の家だからってここまでやるか? 後先考えてなさすぎだろ……」
「黒藍羽根に修復作業を任せるから、どれだけ壊しても構わないんデスケド」
「構築魔力だけで修繕させるつもりか? せめて建築魔法がないとな……」
今の戦いで悪魔は二回も魔法を使ってしまった。しばらくすれば魔力発作が起きるだろう。
「じゃあな。アリナ」
「…………」
眉間にシワを寄せて考え込むアリナを置いて、悪魔は噴射飛行。素早く玄関に到着して、そのまま走って豪邸を後にする。
「まったく……アリナの隣は危険すぎる……命がいくつあっても足りない……」
悪魔は逃げるように栄区を後にする。霧の炎で迷彩を施し、大空を飛ぶ。
そしてアシュリー・テイラーのマンションの窓辺に着地した悪魔は、スマホを取り出して通話を掛ける。数コールのあと、通話は開かれた。
「────やちよ。報告くらいはいいよな?」
「……」
「まず共通認識から確かめていこう。マギウスの狙いは邪魔者の排除だ。その意味は分かるよな?」
「えぇ。ミネルヴァのウワサからの推測だけど、マギウスは私たちより、あなたを最優先に始末したがっているように感じたわ。でもそれはあくまで私たちを確実に始末するため」
「オレも似た考えだ。
「えぇ。あなたのその
「そう焦るなよ」
七海やちよは焦燥を感じさせる声色で言い放つ。
「こっちは夜通し戦って疲れているの」
「あいにく、こっちも似たような状態だ」
悪魔は笑を含んだ声で報告する。
「今しがたマギウスの三巨頭のひとりアリナ・グレイと、マギウスの翼の最高幹部たる梓みふゆと接触した。どちらも傑物だな」
『────』
「それでみふゆの心を直感したんだが、どうにも判断がつかない。ただのブラフでプレッシャーを与えに来ているだけだとは思うんだが、お前のメンタルなら耐えられそうだから報告しておく」
『……なに? もったいぶらないで早く────』
「
『────────』
「オレの安全を懸念・考慮して追放、同時にマギウスから狙われているオレを引き離すことでみかづき荘を安全地帯にさせたつもりだろうが……あちらさんはそもそも
悪魔は眠たい頭で考えをまとめる。
「確殺賭博場ミネルヴァのウワサの内容は、明らかにオレを仕留めるような罠だった。あれはオレのことを最もよく知る魔法少女・巴マミでなければ思い付かない計画だ。しかし
『……じゃあ、なに? みふゆは……本気で私たちのことを、殺そうとしていたとでも言うの……?』
「逆だよ。
『……』
「当然マミは反対しない。あいつはウワサに操られているとは言え、殺しは基本的に反対のようだ。そこまでイカレちゃいないのが分かっただけでもオレは嬉しい。つまり、みふゆは獅子身中の虫だよ。なぎさとういから報告されてないか?
『いえ……今日は一晩中、みたまの護衛をしていたから……』
七海やちよの声が震えている。
「ならあとで報告を受けるはずだ。おそらく間違いない。……つまりだな。みふゆはマミの話からオレの性格を推理し、オレが千秋理子と悪魔契約を交わすことを織り込み済みで、
『……それなら、みふゆは私たちを確殺するため……ではなく、
「家族が敵側に居ると怖いよな。文字通り何もかもが読まれている。母さんに隠し事が通じないのとおんなじだ。手のひらの上とは、まさにこのことだよ」
『……』
「話はそれだけだ。……みふゆは何も変わっていないよ。やちよが知る、昔のみふゆのままだ」
『────まさか、それを言うためだけに?』
「あぁ。これにて報告は終了。おやすみ、やちよ」
『────待って、悪魔────』
悪魔は通話を切る。
「まったく、ややこしいことをする。ちょっとだけ恨むぜ、みふゆ。要はみかづき荘を守るために、マミの
無論、梓みふゆがみかづき荘を守ろうとしていることは、マギウスにとって周知の事実だろう。それでも梓みふゆの提案を受け入れたのは、そちらの方がベストだと判断したからに過ぎない。
「オレたちはいつでも潰せるってか。そんな灯花とねむの慢心を突いたみふゆの作戦は成功だが……やれやれ。ここまで戦いの規模が大きくなるとは思わなかったな……
悪魔は頭が痛くなってくる。何が正解なのか分からない。どうすれば全てを救える?
「最悪、叛逆魔法をフル回転させてマミのもとに飛び……」
「またひとりで全てを解決しようとするのかい?」
ふとしたDキュゥべえの小言。
「君は不安になると独り言が多くなるよね。思いを言霊にすることで人間性を保っているんだ」
「なんだ。何もないと言わないくせに。また何か閃いたのか?」
「それでは二木市の二の舞になると言いたいんだ。ミネルヴァのウワサの時と同じくね」
「それの何が悪い?」
「分かっているくせに」
「そっちも誘導しようとしているくせに」
悪魔は理解している。だが、ひとりで解決しようとも、みんなで解決しようとも、それはどちらも延命措置に過ぎず、自然の均衡は保たれ、将来の魔法少女の首を絞めることに繋がる。長い目で見れば、どちらも変わらないのだ。ならば────
「魚を与えるか、魚の釣り方を教えるか……もう血の惨劇はイヤだ……どっちを選んでも
ふと背後からガラガラと音が鳴る。窓ガラスという背もたれをなくした悪魔はひっくり返り、窓辺のソファに頭を打って意識を落とした。
「ワッツ!? びっくりシマシタ! 窓辺に人影が見えてお化けかと思ったら、まさかの悪魔デシタ! ……? え────しかも爆睡してマース!? 寝床が見つからなかったんデスカ? それならそうと早く言ってくれれば良かったのに!」
アシュリー・テイラーは悪魔の体を運んでベッドに寝かせ、毛布を掛ける。
かくして、悩める悪魔は羊を数えることなく眠りに就いた。
†