アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
魔女結界にて。命令が止まった魔女ガタリは動かず、疑似ソウルジェムに魔力を回して四肢を復活させた複製魔法少女ナナコも立ち上がるが命令がないため動かず、倒れ伏す常盤ななか、その手前に夏目かこが立っている。決闘は常盤ななかの完敗に終わり、夏目かこの辛勝によって決着がついた。
何が起きているのか分からない志伸あきらと純美雨。対する悪魔はバトルグローブを握り締めた。
「さて、ななかに騙されて操られた夏目かこは、再び更紗帆奈に騙されて操られた。常盤ななかに関する尻拭いは彼女本人が今、成し遂げたが……このまま連続して更紗帆奈に関する尻拭いをさせるのは酷だろう。というわけで残党処理だ。二人は魔女の方を頼む」
悪魔は死炎噴射で複製魔法少女ナナコの下に飛ぶ。
「えっと……とりあえずボクらもやるしかないよね! ななかもかこも動ける状態じゃないし!」
「まったく何がどうなってるネ! あとで二人を問いただすアルよ!」
志伸あきらと純美雨は魔女ガタリの下に向かい出す。
一方、夏目かこは、この決闘の真意を、常盤ななかに語り聞かせていた。
「私はこの決闘に勝つことで、ななかさんに対する想いを全て清算したつもりです。だから、これからは
「……!」
「ただ利用されていただけなのかと思うと悔しかったんです。だから私も役に立てるんだぞって、それを示すために独り立ちしたかった……ななかさんの背中を見て学んだ智謀の限りを尽くして、たとえ卑怯と言われようとも……」
「……卑怯とは、殺し合いの世界で使う場合、弱者のセリフとなります。私はかこさんの精神を揺さぶる目的で使いましたが……もしかしたら私は、本当に弱くなっていたのかもしれませんね……私は自分を殺す覚悟がありませんでしたが……かこさんにはそれがあった……えぇ。ですので、胸を張ってください。私から勝ちを拾ったのですから、それは誰もが認めるかこさんの実力であると」
そうして常盤ななかは思い知った。自らの罪が暴かれた時、皆からの信頼を失って、常盤計画が音を立てて瓦解する瞬間を幻視した。しかし現実は打って変わって、なんとも自分に都合の良すぎる展開となった。
夏目かこ。常盤ななかに復讐する権利がある魔法少女。そんな彼女が、真実を他者に言い触らすことなく、正々堂々と決着を付けに来た上、なんと許してくれた。常盤計画の屋台骨を、復讐する権利がある夏目かこが支えてくれたのだ。
「仲間の……女神のように慈悲深い優しさに、感謝を……かこさん……」
「やめてください。恨みや怒りより、ただひたすら恩義の方が強く多かっただけの話です。私は私の価値観で行動しました。ななかさんのように」
「……」
後方で爆発する。魔女ガタリが倒されたことで魔女結界は消滅。空間移送が現実に引き戻される。
悪魔も複製魔法少女ナナコを倒した。剣戟ごとに分解魔力を注入していき、徐々に意識を削いで気絶させた。今まで遭遇した複製魔法少女は凶悪だったが、暗示を受けているナナコは比較的おとなしめである。よって、あとで色々と聞くため肩の上に担いだ。
(……そう、私は弱くなっていた……というより、甘く見ていた……)
常盤ななかは今回の決闘を振り返る。
(固有魔法《真敵発覚》は、一度もかこさんに向かって発動しなかった。そこから本気で殺しに来ているわけではないと分かっていた。だからといって油断していたわけではありませんが……それは言い訳ですね。加えて、戦闘中に恨みはないとキッパリ言い切ったかこさんを見て、名実ともに殺意はないと判断した。しかし私はかこさんの覚悟を見誤った。彼女は本気で命を懸けていた。そんな彼女の覚悟を見誤った時点で、私の負けは決まっていたのかもしれない。あるいは、そうやって私が油断するのも、かこさんの作戦の内だったのかもしれない……あぁ、本当にいつの間にか、こんなに大きく成長していたんですね……こんなことなら、もっと早いうちに明かしていても良かったかもしれません……打たれて強くなるタイプには見えなかったというのも、私の目が節穴だった証拠ですね……であれば、やはりこの敗北は必然だったのでしょう……)
そのとき、夏目かこが常盤ななかの体を抱き起こした。
「!」
「……」
言葉はない。だが確かにそこには元仲間に対する労わりがあった。
「────はぁ? なに感動的な感じになってんの?」
『────!!』
不意に更紗帆奈の胴間声が響く。
「ねぇ復讐は? 常盤ななかを殺してスカッとするんじゃなかったの?」
「え? 悪魔……さん?」
夏目かこはドッペル化していたため、川尻浩作の本性を知らない。
「更紗……帆奈……!」
「え、ななかさん……? 更紗帆奈って……そんな……!」
そこで夏目かこは、まだ混乱しているものの事態の深刻さに気が付いた。
「あーあ。シラケた。かなりの特ダネだと思ったんだけどなぁ……君さ、ちょっといい子すぎるんだよねぇ~……まぁ殺させるならもっとヤバイ嘘情報を吹き込んだけどさ。いやぁ去年は常盤ななかにしてやられたからね。内心ビビってビースフルモードで行っちゃったかぁ~……イージーですらないとか、あたしも鈍ったなぁ~」
発砲音。悪魔は晴拳銃を開匣して脳天を狙った。しかしそれは構築魔力により半歩ズレた幻影だった。
「おぉ怖い怖い。んじゃ、あたしはここでおさらば。じゃあねぇ~」
「っ……!」
常盤ななかは殺意を漲らせて睨め上げるが、更紗帆奈はどこ吹く風と霧のように消えていった。
「ななか! あいつ追いかけるネ?」
「いえ、今は私もかこさんもボロボロなのでやめておきましょう。当然、罠も配置しているでしょうし……ただし明日からは捜索を開始し、私が直々にぶちのめします。かこさんを唆したのを見るように、どうやら前回と同じことを繰り返している様子……見過ごせません。最悪、殺害も視野に入れます」
「え……でも……
常盤ななかは当然だと言う。しかしあそこまで破綻している人間に説得は通用しない。戦っても無限に回復できる魔法少女だ。ゆく道は魔女化か、殺害かの二択に絞られる。その術があるなら封印もあるが、それも実質ソウルジェムの強奪となって殺すも同然だろう。
そこで悪魔は視線を感じた。夏目かこからジーッと見つめられている。
「あの……ところで、あなたは……? その、まさかとは思いますが……」
「あぁ。オレが悪魔だ。お前が更紗帆奈に騙されてドッペル化し、ななかを殺しかけたところに介入した」
「その件については感謝します、悪魔」
常盤ななかと悪魔は知り合いと言っていた。
どうやら目の前に居るのが本物の“悪魔”らしいと夏目かこは勘付く。
「それでは、この場は解散といたしましょう。誰か肩を貸してくれると嬉しいのですが。一人では立って歩けなくて……」
「ならボクが手伝うよ」
「それでかこ。いったいどうしてななかと戦っていたネ?」
「えっと……それは……ななかさんに聞いてください。私からは、何も……」
夏目かこはお辞儀すると、どこか逃げるように退散する。
しかし不意に立ち止まると、振り返って悪魔に呼びかけた。
「あ、そうだ! 悪魔、さん……? ちょっと話があるんですけど、いいですか……?」
「?」
†
常盤ななかは志伸あきらと純美雨に連れられて帰宅した。
対する夏目かこは帰路に就きながら悪魔に質問する。
「その……あなたは“魔法少女を助けてくれる悪魔のうわさ”の正体で、いいんですよね……?」
「……またそんなうわさが流れているのか。そうだ、と言っても証拠がない」
「えっと……キュゥべえは連れ歩いていますか?」
「僕はここにいるよ」
悪魔の腰に付いた匣がガタガタと震える。
「わ、キュゥべえの声……でも、なんでそんなところに?」
「なんでも快適だそうだ」
「まさか。窮屈でイヤになるよ」
その時、悪魔の肩に担ぐ複製魔法少女ナナコがピクリと反応した。
「──すまない。私用を優先させてもらう。質問はその後で構わないか?」
「あ、はい……」
悪魔は霧の炎で紐を作り、ナナコの四肢を拘束すると、意識を再構築させて覚醒させる。
「!?」
「暗示は解けたようだな。いくつか質問がある。というより尋問だ。使い魔とはいえ拷問はしたくない。大人しく答えてほしい」
「……」
「マギウスという組織を知ってるか? 本拠地への侵入経路について教えてほしい」
「……」
悪魔は直感する。ナナコはマギウスというワードを知らない。
「質問を急ぎすぎたな。時系列順に行こう。複製魔法少女とはなんだ?」
「……」
悪魔は直感する。鏡の魔女というワード。その使い魔が魔法少女の複製を作る能力を保有している。
「なるほど。魔女は使い魔が成長することで増殖できる。どうやらマギウスと更紗帆奈は、別個体の鏡の魔女を保有しており、その使い魔の使い魔である複製魔法少女を尖兵として利用しているのか」
「……!?」
「悪いな。オレは心が読めるんだ。人ってのは質問されると、どうしても質問された内容が脳裏によぎるもんなんだ。今さら何も考えないようにしても意味ないぞ。訓練しないとどうにもならない。聴覚遮断されたら困るが、その時は分かっているな?」
悪魔はバトルグローブから死炎を灯す。
「といっても質問は終了だ。お前は特に何も知らされていない、ただの小間使いだと分かった。しかし非常に危険で厄介だ。魔法少女の固有魔法までもをコピーしている。といってもオリジナルよりは劣化しているはずだ。というか、そうじゃないと破格の性能すぎる」
「……」
「そうか。
「……」
「なるほど。
ナナコは聴覚遮断した。直後、悪魔のバトルグローブが赤い炎を灯して頚椎に触れた。失神するナナコ。悪魔は疑似ソウルジェムを奪い、百メートル上空に放り投げる。魂との接続が切れて意識どころか精神すら離れてしまうナナコの体を雲の炎の遮断膜で覆う。その中に悪魔は嵐の炎を注入した。結果、遮断膜の中は火葬場の如き地獄となる。そうして死体は焼却されて、疑似ソウルジェムだけが残った。落下するナナコのソウルジェムをキャッチした悪魔は、保存用匣にそれを収納する。
(これでオレは固有魔法《真敵発覚》をゲットしたってワケか。しかしこれは……とんでもないことだぞ。もしマギウスがこうやって羽根たちに複製魔法少女のソウルジェムを配れば……場合によるが、とんでもない魔法のハメ技も可能になる。オレの叛逆魔法も大概だが、等価交換の法則の網を潜って好き放題できる……この街、自動浄化システムやドッペル、ウワサに続いて、ちょっと厄ネタが多すぎやしないか……? 過言ではなく、マジで世界の破滅を招くぞ、これは……)
悪魔は冷や汗を流す。この事の重大さに、どれだけの魔法少女が気付いているのだろうか。おそらく八雲みたま、七海やちよ、梓みふゆ、和泉十七夜、都ひなの程度だろう。鏡の魔女の無限迷宮こと“果てなしのミラーズ”の危険性については、彼女たちだけで会議したことが何回かあるはずだ。
その時、夏目かこが首をかしげて聞いた。
「あの……質問してもいいですか? マギウスって……」
「あぁ。マギウスは魔法少女が寄り集まった弱者の集団だ。救済に関する理念と技術は有益だが、解放の思想が過激で手段が間違っている。
「……それだけ聞くと、なんだか怖いですね……」
「だから手段を正すために戦う必要がある。心の弱い子達、心が折れてしまった子達、間違っていると承知でも耳障りのいい言葉に縋り付くしか将来の展望が持てない正真正銘のドン底にいる子達……そんな魔法少女を本当の意味で救い、助け、彼女たちに与えられなかった釣竿を与えるために……」
そのためにはどうすればいいのか。具体的にはマギウスの三巨頭を倒した上で、それに縋る羽根たちを救う方法である。まず一人で敵地に乗り込み、いつも通り逆転勝利と叛逆を使って全ての敵とケリを付け、悪魔契約を応用して自動浄化システムをあらゆる害から保護。その場合は幸福の魔女の本体である環ういとの
(まるで抑止力だな)
悪魔は不意に思い出す。その少女にとっては本気の本気の自殺だった。よくよく考えた上での自殺だった。その飛び降りを目撃した悪魔は助けることに成功した。すると、なぜ助けたと烈火のごとく怒られた。
(それでオレ自身わけもわからず、こう言い返したんだよな。“そんなのでキレる余裕があるなら、それを使って生きろよ”って)
そんなの。とは、おそらく。死ねなかったこと。助けられたことに怒ったこと。
それを使って。とは、おそらく。憤怒に使ったエネルギーのこと。
(あの時は究極超直感を使った後だったから、投げやりな感じで言葉にトゲがあった。けれどオレの一言で生きることを──逆ギレしながら──本気で決意してくれた。それでも今は何をしているんだろうか。やはり再び死を選んだのだろうか。普通に生きてて、やっぱり死ななくて良かったと思ったり、やっぱり死ねば良かったと現在進行形で後悔する日々を送ってるんだろうか。真実は藪の中だ)
悪魔は脱線した思考を振り払い、すっくと立ち上がる。
「────……すまない。それで、話とはなんだ?」
「あ……えっと……大丈夫ですか?」
「? なにがだ?」
「いえ……とても苦しそうに見えたので……」
苦しそう。
それは悪魔契約後の多くの少女から言われたことだ。
「気にするな。それで?」
「あ、えっと……その……私、今より強くなりたいんです! さっきの方たちは、私の目標で……でもちょっと事情があって、私はこれから一人で頑張ろうと思って……もちろんチームななかとは共闘関係を結ぶつもりなので、今までと比べてあまり関係は変わらないんですけど……基本的にチームは抜けたというスタンスは守りたいので、つまり三人に心配させないようにしたいんです! それで……何か強くなる方法を知っていたら、教えていただけると嬉しいんですが……」
ふと悪魔は思う。なぜそんな質問を自分にしてくるのだろうと。
そして直感した。
(なんだそれ……)
そこでDキュゥべえが答えた。
「悪魔契約したあと僕と再契約すればいい」
「黙れキュゥべえ」
「え? え?」
急にキレた悪魔に対し、夏目かこは困惑する。
「悪魔と同衾すれば魔力係数が二乗されて────」
開匣。Dキュゥべえは意識を失い、悪魔の手に提げられる。
「……」
「……同衾?」
本屋の娘である夏目かこは、その言葉の意味を知っていた。
それを直感した悪魔は観念して話す。
「手っ取り早い方法であることは確かだが、互いに身を切るような思いをしなければいけない。ヤルか?」
「────い、いえ、あ、あの、その……」
夏目かこは首を否と振る。ブンブンと振る。よくわからないが、強くなるために同衾とか意味がわからない。仮に事実だとしても、勇気がいるといかいう次元ではない。背に腹はかえられぬほどの切羽詰まった事情でなければ到底承服しかねる魔術儀式である。
「そういうことだ。オレは基本的に魔法少女の再契約は望んでいない。元の少女に戻る時のみ応じる。あとは例外として死人を生き返らせたいとか、その手の事情でないと悪魔契約は使わない事にしている」
例外がある理由は、悪魔自身、妹と初恋の人を生き返らせたいと思っているからだ。自分が大切な人の蘇生を望んでいるのに、誰かの大切な人の蘇生は望まないというのは、少しフェアではないと感じたからだ。無論、悪魔契約は負債というリスクが存在する。物事は等価交換。希望があれば、それに等しい絶望も生まれる。故に悪魔は、その絶望を全て排除する責任がある。もしかしたら確殺賭博場ミネルヴァで死に目に遭ったのも、今までの悪魔契約の負債を一手に引き受けすぎたからなのかも知れない。あるいは、これからその負債がやって来るのか。それは悪魔にもわからない運命だ。
「あと、真っ当に強くなる方法があるとすれば……やはり誰かに師事することだな」
「師事……」
「槍を使うなら、やちよか明日香か……明日香もアレで強いからな。魔力係数も実力も、ななかとはどっこいじゃないか?」
「竜真流ですね。梨花さんも習っているみたいですし、いいかもしれません。でも……」
夏目かこは思う。究極ハイパーダーリンという噂が事実であれば、悪魔の実力はどうなのかと。
「だからなんだそれは」
「え? えっと……悪魔さんは勝負事では負け知らずだと聞いたんですが……悪魔さんに師事することは、ダメでしょうか……? さっきの炎の使い方も、私たちが知らないものだったので……きっと多くを知っておられるのかなと……」
「……まぁ知識量では、オレの方が圧倒的に上だろう。実力も経験も上だ。だからって師匠に向いているかと聞かれると……」
「あ、あの! お願いします! 私、本気で強くなりたいんですっ!」
「それは心を読んで分かる。だが……今のオレはマギウスに狙われる身でもある。オレのそばは危険だ。一日だけスパルタで鍛え上げてもいいが、やはり長期的に師事できる奴を選んだ方がいいだろう」
「一日でも構いません! 教師は多くて困らないので!」
夏目かこは必死なのか食い下がる。
「……なら宿と交換でどうだ?」
「え……」
ふと夏目かこの脳裏によぎる同衾の単語。なんだか操の危機を感じる。
それを直感した悪魔は、確かに今の話の流れではそうなってもおかしくないと思い、手元のDキュゥべえを呪った。
「すまない。他意はなかったんだが……。オレは旅をしているんだ。常に金欠だから毎晩寝床に困ってる。野宿は慣れているから構わないが、やはり雨風は凌ぎたいからな……」
「……えっと……」
夏目かこは、もし何かあった時の対処法を考えている。仮に襲われたら、仮に自分が悪魔契約する気になったら。
(ちゃんと危機管理できて偉いと思ったが、悪魔契約についてはまだ諦めていなかったのか……)
ともあれ悪魔は帰るとする。
「やっぱり無しだ。今の交渉は忘れてくれ。じゃあな」
「あ────!」
悪魔は死炎噴射で飛び立ち、中央区方面に向かう。
「……あ、そうだ。お礼がしたいって言うの忘れてた……明日はみんなで手打ち麺を作る予定だったから、それに招待しようと思ったんだけど……悪魔さん。ありがとうございます。またいつかの時、必ず恩返しします」
夏目かこは夜空の星に紛れて消えていく悪魔を見送り、感謝した。
自分がドッペル化して常盤ななかを殺そうとした等、よく分からないことは多いが、助けられたことは会話の中で理解していた。詳しい話は明日、手打ち麺を作りながら常盤ななか本人に聞く予定だ。
そうして夏目かこは家路に就く。いつも通り、明日の約束を果たすために。
†