アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
昼間。蒼海幇が貸し出す調理場にて、チームななかと夏目かこが揃う。
志伸あきらと純美雨は普段通り。
しかし夏目かこはギザギザのサングラスを掛けており、それに常盤ななかはやや萎縮しているようだった。一夜明けたことで我がふりを見直し、とうとう罪悪感が芽生えてきたのだろうか。あるいは単に夏目かこの変化に驚いているだけか。サングラスなら決闘中にも掛けていたので、もう見慣れているはずだが、常盤ななかの言動はなぜかぎこちない。気まずさでも感じているのだろうか。
ともあれ昨晩、何が起きたのか話をまとめる。
「なるほど……そうだったんですか……私が騙されたばっかりに、ななかさんを殺してしまう所だったなんて……本当にごめんなさい……」
「いえ。かこさんが謝ることはありません。全ては更紗帆奈が悪いのですから。もちろん私にも非はあります」
「当然ネ。かこを騙した話が本当なら、大概ななかの自業自得アルよ」
「でも、ななかはボクの命の恩人でもあるわけだ。一長一短って感じだね」
常盤ななかは「この際ですから」と全てを打ち明けていた。
ソウルジェムの
「しかしひとつだけ言わせてもらうネ。ななかのやり方は、本人の抜け目のなさと、周りの優しさで成り立っているアル。もし相手がかこじゃなかったら、もっと悲惨なことになっていたかもしれないネ。最悪、殺し合いヨ。こんなの」
「そうだね……そこは否めないかな……考えるだけで恐ろしいけど、もしかこじゃなかったら、ここまで穏便に済まなかったと思うよ……? こうやって昨日の今日で手打ち麺を打つ約束を守るなんてことも、ありえない気がする」
純美雨と志伸あきらの苦言。それを真摯に受け止める常盤ななか。
対する夏目かこは、過去は過去と割り切っているのか、座布団から立ち上がる。
「それじゃあ話もまとまったので、予定通り手打ち麺を作りましょうか」
「さすが、かこアル!」
「複雑な気分をラーメンの美味さで吹き飛ばそうってことだね!」
「そういうことでしたら、私も手伝えるかと」
そうして四人は手を洗い、エプロンを着て、調理場に立った。
夏目かこは調理場の邪魔にならない所に、夏目漱石の小説《こころ》を置いておく。
「ところで、ななかさん」
「はい」
「イギリスにこんなことわざがあるんですが」
「はい」
「“恋と戦争は何をしても公平”という」
「……、……はい……」
今のは皮肉だろうか。いや、明らかに皮肉である。どう考えても小説《こころ》と絡めての皮肉である。
常盤ななかの胸裡にチクリと一刺しのダメージ。
「ななかさん」
「は、はい」
「こちら愛情いっぱいに育てた麺生地ファミリーです。恩讐も赤色も入っていませんので安心してください」
「は……はい」
今のは自虐ジョークだろうか。いや、明らかに自虐ジョークである。どう考えても自虐ジョークである。あと昨日の決闘中、夏目かこの言葉から推察するに、小説《それから》と絡めての自虐ネタである。彼女の話を真摯に聞いていたからこそ、常盤ななかは赤い世界が云々と言っていたのを克明に覚えている。
常盤ななかの胸裡にチクリと一刺しのダメージ。
「……なんだか立場逆転してるね」
「身から出た錆ネ。かこの寛大な心に感謝ヨ。あれでは面の皮の千枚張りで有名なななかでも、さすがにアタマが上がらなくなるアル」
「それそんなに有名だったっけ? まぁでもみんな仲良しならそれでいいよね!」
そして麺生地には《あきら》《めいゆい》《ななこ》と名前が付けられていた。これを伸ばして畳んで伸ばして畳んでを繰り返し、最後には切るのだ。
「ななかさん」
「は、はい」
「こちら、ななかさんの妹のななこです。“ななか”は急遽とても個人的な諸事情で“ななこ”に変身しました」
「ななこ……」
夏目かこは伸ばして畳んで伸ばして畳んでを繰り返す。丁寧に丁寧に繰り返す。
一方、志伸あきらと純美雨は、既に包丁で“トントン”と麺生地を切っていた。
「いい塩梅になりましたね。それでは、ななかさん」
「はい」
「今から、ななかさんの妹さんを切り刻んでいきます」
ガッザッブチッ!!
「ななこ!」
「いいネかこ! もっと強く振り下ろすヨ! 粉みじんにするネ!」
「はは……まな板が割れんばかりの包丁の打撃音が、まさにかこの恩讐を表しているかのようだ……」
かくして夏目かこは、運命に操られた過去からの自立を果たす第一歩を踏みしめた。
第3.3章 終劇常盤計画 ななか☆マギカ ‐夏目恩讐帳‐ 完
あとがき
本話の元ネタは、マギレポの255話を参照。