アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
5月5日【貴方が幼年期の終わりを迎える時、私が晩鐘を告げに来る】天乃鈴音
深夜の見滝原市。廃墟街の一角には不法投棄されたゴミが山積みされており、積み上がったゴミの頂上には魔女結界のゲートが開いていた。その傍らで砂嵐の音を立てる壊れたラジオが、深夜のニュースを放送する。
『ジ…ジジッ…ジッ────ニュース■す。謎の少女連続殺人事件は被害範囲を広げており、今まで■市で2名、■市で1名、先日あすなろ市で3名、ホオズキ市で4名となり、計10人の尊い命が焼死体となって無慈悲に奪われました。警察は同一手口の犯行と見て調査を────』
魔女結界が青い光を発する。続けて赤い光がそれを助けるように輝き、魔女結界のゲートはひび割れて消滅した。空間位相が現実空間に戻り、ゴミ山の冷蔵庫の上に青い魔法少女が降り立ち、大型テレビの上に灰色のコートを着た銀の魔法少女が降り立つ。
「……貴方、名前を聞かせてくれる?」灰色の魔法少女が問い掛ける。
「……名前を聞くなら、自分から名乗るのが筋じゃないの?」青い魔法少女が無愛想な面持ちで返す。
「……」
「助太刀してくれたのは感謝するけどさ。充分あたし一人でも勝てる相手だったし……もしかしてグリーフシードのおこぼれに預かろうって魂胆?」
「……私は
天乃鈴音。銀髪橙眼の魔法少女は灰色のコートを風になびかせ、さぁ次は貴方が名乗る番だと言いたげに佇む。
対する青い魔法少女は警戒心を崩さず相対した。なんとなく生ずる違和感は女の勘とでも言うのか。剣の柄の握りを緩めない。
「ごめん。やっぱり答えられない。マミさんからよそ者には気を付けろって言われてるし……それにやっぱ、あんた怪しいよ」
「……そう。なら仕方ない。グリーフシードの無駄遣いなんだけど……」
天乃鈴音は懐から、明らかに
「固有魔法《真名看破》────対象の名は
「え──、っ!?」
天乃鈴音の跳躍が音を置き去りにした刹那、空気の衝撃波を伴う鍔迫り合いが勃発する。
青い水の剣がしぶきを上げ、逆巻く炎の剣が燃え盛って翻る。
「なっ……き、急に何さ……っ!! まさか、あたしを殺そうって言うの……!?」
「……これでおしまい」
次の瞬間、美樹さやかの両腕が爆発した。鍔迫り合いの時、大量の分解魔力を流し込まれていたのだ。崩壊する両手は剣を手放し、炎の剣が首を狙う。刹那、有り得るはずがない剣戟が起こる。
「!? まさか、治癒魔法……!」
「っ────おりゃああああ!!」
一瞬で両腕を超速再生した美樹さやかは落としかかった剣を拾い、自らの首を狙う炎の剣をうわてに弾いた。そうしてギリギリ命を拾った美樹さやかは撤退の二字が脳裏に浮かぶ。それは生存本能の叫び。しかし同時に本能は、
「
それは美樹さやかの前方視界範囲すべてを横一文字に切り裂く攻撃魔法。対する天乃鈴音は分解魔力でコーティングした炎の剣を縦に構えてその水平切りを防ぐが、剣圧に押し出されて背中を連続強打。水平切りされたゴミ山の奥深くを掘り進めながら吹き飛ばされていく。
「はぁ、はぁ……、──っ!?」
美樹さやかは、天乃鈴音の気配が消えた事を察する。魔力パターンを探っても感知できない。まさか姿を隠す魔法を持っているのかと跳躍。四方が見渡せる頂きに立ち、天地左右どこから攻撃が来ても対応できるよう準備する。大量の刀剣を作成。半分を空中に浮かせ、半分を地面に突き立て、完璧な攻防布陣を用意する。
(これはマミさんの背中を見て学んだ布陣だ。来るなら、来い……!)
────────。
────。
……。
しかし敵に動きがない。まさか我慢比べか。美樹さやかは精神を磨り減らしながら構えを
「────この街を守る魔法少女は、貴方だけ?」
「っ!?」
天乃鈴音の声は聴こえるが、まったく気配が掴めない。
「────もし仲間を増やせば、より弱い子を殺しに来る」
「……! ちょっと、待ってよ……なんなんだ、あんたは……!?」
「貴方は強い。優秀な教師が居たのね。その布陣を攻略するのは骨が折れそうだわ。──せいぜい一人で頑張りなさい。そして貴方が幼年期の終わりを迎える時、私が
「────」
天乃鈴音の声が止む。
「……本当に……居なく、なったの……?」
しかし美樹さやかは、闇よりいづる絶殺の奇襲を恐れるあまり、朝日が昇るまでゴミ山の上から動けないでいた。
†
見滝原市・郊外。日を跨ごうとする頃。
(美樹さやかは強い。撤退する)
天乃鈴音は高層ビル群の屋上から屋上へと飛び移り、広範囲の魔力パターンを感知する。
(それにしても……魔法少女が少ない。北関東一帯を回ったけど、どの街にも魔法少女が少なすぎる。……!)
天乃鈴音は足を止める。
強風に耳と尻尾を取られる白い珍獣が、無機質な赤い瞳でこちらを見つめていたからだ。
「キュゥべえ。何しに現れたの?」
「美樹さやかの暗殺には失敗したようだね」
「見逃したのよ。絶望しやすい子みたいだから、近々また殺しに行くわ。もう名前は知っているから、今度は闇に乗じて確実に……ね」
「それはそうと、天乃鈴音。君は気になっているんじゃないかな? 北関東の魔法少女が少ない理由について」
「……」
「実は南関東一帯も同様でね。どうやら関東地方の魔法少女のほとんどが神浜市に集まっているようなんだ。しかも奇妙なことに、その街に僕らは入れない。つまり神浜市は僕らにとって不観測地帯。そこで君に調査を頼みたい」
「……調査、ね。多くの魔法少女が居るという情報で私を釣って、その街で返り討ちに遭えばいいと思っているんでしょう?」
「さぁね。
インキュベーターは期待していた。魔法少女を殺す魔法少女たる天乃鈴音が、神浜市の魔法少女を全滅させる未来に大きく期待していた。それはなぜか。魔法少女の魔女化を目論むインキュベーターにとって、魔女化する前に魔法少女が死んでしまうのは効率が悪いはず。採算はゼロではないが、なるべく魔女化した方が大きなエネルギーを獲得できる。冷めゆく宇宙に、ほんの少しの暖が取れる。ではなぜか。
インキュベーターの思考には“悪魔”の二字が浮かんでいた。彼ならきっと死んでいった魔法少女を生き返らせる。妹の青音すずを、初恋の笹川京子を、友達の三浦ハルを、生き返らせようと足掻く彼なら、
「ぷぎゅ!」
カマキリの足をもぐように、眼前のインキュベーターを殺害した天乃鈴音は、いざ神浜市へと赴く。
全ての魔法少女を、魔女化の運命から救わんが為に。
†