※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【────────ゆま……?】佐倉杏子

 

 朝と昼の間。マギウスのアジトにて。

 

 調整屋が襲撃されたという衝撃的な情報は、一気に神浜魔法少女SNSで拡散した。マギウスも黒羽根が多数殺害された情報を偵察用のウワサから入手。里見灯花と柊ねむは非常事態宣言を発令し、キリサキさんと呼ばれる殺人鬼を排除するか追放するか捕縛するか、いずれにせよ返り討ちにするための行動を取り始める。

 

 加えてペンダントのウワサから“黒羽根が10名脱退した”という情報が入る。これに里見灯花は憤る。

 

「魔法少女至上主義を実現したら、魔法少女を辞めた子達は“第二位”になっちゃうのに! その罪深さを悪魔は分かっていないの!?」

「まぁまぁ灯花。その時はキュゥべえと引き合わせて再契約させよう。二度目のQB契約は魔力係数が二乗されて以前より強化されるという。これで将来的に白羽根や幹部が増えると思えば、それほど悪くない敵対活動だ。いずれ我々の利になる。あとで全てを取り返そうじゃないか」

 

 そうして里見灯花と柊ねむは、自分たちの計画成功を前提に会話していた。

 

          †

 

 昼前。中央区の神浜市駅。

 

 天乃鈴音は魔力パターンを探り、手頃な魔法少女を捜す。

 

(日中は多くの魔法少女が学校に通っていて手が出せない。なら不登校の魔法少女を狙うまで)

 

 ゲームセンターに一種類の魔力パターンを感知。目視で確認すると、赤髪赤眼の少女と緑髪緑眼の幼女がダンスゲームで踊っていた。前者が魔法少女で後者は一般人。天乃鈴音は先ほどリヴィア・メディロスとの戦闘で思わぬ反撃を受けたため、念には念を入れて真名看破魔法を行使。対象は佐倉杏子と千歳ゆま。かたやソウルジェムが鍛(・)錬(・)されており、かたや魔法少女になりたい気持ちがあることが判明した。

 

(多くの情報を仕入れるほど魔力を大量に消費する。濁りと穢れの残滓は大空の死ぬ気の炎で微量だけ浄化可能。残る濁りと穢れのかたまりはグリーフシードで吸い取る)

 

 倹約家の天乃鈴音は効率的にソウルジェムを浄化し、グリーフシードを温存。殺害した魔法少女から盗んだ財布で買った栄養弁当を三個も食べつつ、三本の異なる栄養ドリンクを飲み干す。

 

(心身のズレは穢れの増殖を助長する。この街に来たとき意識分解睡眠法で充分な休息は取った。いま食べたものは晴の炎の活性で消化を早め代謝を上げ、効率よく栄養を吸収する。これで心身は万全。ベストコンディション。いつでも行ける)

 

 佐倉杏子と千歳ゆまは談笑しながらゲームセンターを出て路地裏に回る。天乃鈴音は今が狙い目だとチャンスを見計らうが、なかなか奇襲できない。

 

(……隙がない。一切油断していない。これでは不意打ちしても効果が薄い……無駄な争いはしない。仕方ないから最低限の戦果を挙げて撤退する)

 

 天乃鈴音は陽炎状態から攻撃に移行。佐倉杏子に殺意を向けて飛びかかる。

 

「────ッ!?」

 

 突然の殺気に反応した佐倉杏子は瞬時に朱槍を生成し頭上の不意打ちを相殺。その一合で並々ならぬ強者だと見抜く。

 身を翻して着地した天乃鈴音はカッターナイフのような段平大剣を振るい、刀身から赤燈色の火炎を巻いて歩み寄る。

 

「ゆま、下がってろ! ──っ……いきなりなんだ、テメェ……」

「《可変結界》」

 

 地面に手を就いた天乃鈴音は、地面という足場の上に長方形の結界足場を敷く。その範囲には千歳ゆまのつま先が入っていた。

 

「何を────」

「《装甲貫通刺突(クリティカル・エストック)》」

 

 天乃鈴音は足元の結界足場に大剣を突き入れる。刹那、結界足場は破壊された。同時、佐倉杏子の背中に生暖かい液体が飛び散る。

 

「────は?」

 

 佐倉杏子は何事かと振り返る。

 立ち尽くしたままの千歳ゆまは、まるで体が固定されたように動かず、一瞬の激痛で眼球は裏返り絶命していた。彼女の洋服の隙間からボトボトと鮮血が滴り腸のようなものがスルスルと落ちて巻かれていく。まるで体内が破裂して臓物がこぼれ出たように。

 

「強化した鋭性魔力を付与した魔法武具は装甲貫通概念を有する。結界は装甲判定になるからこんな使い方もできる。股関節から心臓までを一突き。むごいとは思うけど……でも彼女、貴方を助けるためなら魔法少女になる覚悟を持っていた。その覚悟は見過ごせない。災害の芽は摘んでおかなきゃ」

 

 千歳ゆまの体内を貫通する鋭性魔力がほどけたのか、ぐらりふらりと仰向けに倒れる。幼女一人分の鮮血が背中側から“ベチャッ”と生々しい音を立てて飛び散り、辺り一帯を血の海に変えた。

 

「────────ゆま……?」

 

 可愛らしい緑の服が、大量の血に汚れて黒ずんでいく。白目を剥いたまま血涙を流すおぞましい頬に手を伸ばす。直後、天乃鈴音は足音を立てず飛びかかり、《燃焦る刃(バーンエッジ)》を行使。刹那、忽然と佐倉杏子の姿が消え去った。

 

(────っ!? 《炎舞》ッ!!)

(《疾風迅雷(テンペスタ・ディ・フールミニ)》)

 

 それは真紅の閃光。ソウルジェムの魔力速の臨界点に達した事で可能となる、超高速移動による連続刺突斬撃。横幅が狭い路地裏で四方八方・縦横無尽と螺旋状に駆け巡る佐倉杏子は、誰の目にも止まらない怒涛の猛攻を繰り返す。

 

 対するは攻防一体の炎刃を纏う天乃鈴音。

 朱槍と炎刃が毎秒千合交錯し、無数の剣戟をがなり散らす。

 

(っ……!? このままだとパワーでもスピードでも押し負ける……! 欲を掻いて背後を狙ったのは失策だった……! どうにかして逃げないと……!!)

 

 天乃鈴音は冷や汗を流す。

 

(早すぎて触れるのは不可能、つまり必殺魔法は当たらない。《桜火》を使おうにもこの速さでは結界を展開した瞬間破壊されるのは目に見えている。────必殺も相殺も不可能。まさか、このまま打つ手なしで殺される……?)

 

 天乃鈴音の周囲に展開する無数の炎刃がその数を減らしていく。このままではジリ貧だ。あと十数の炎刃が減った瞬間、佐倉杏子の朱槍が首筋に届く。それまで五秒も掛からない。

 

(────そうだ。路地から出れば人通りが多い。そこまで移動できれば逃げ切れる。さすがに衆人環視の中で暴れるほど愚かじゃないはず……《翻る炎(パリィ)》で攻撃を流しつつ大通りまで全力疾走! 全ては躱せず深手を負うだろうけど、ダメージ覚悟なら突破できる手段がある!)

 

「《翻る炎(パリィ)》ッ!!」

「させねぇよクソヤロウ」

 

 翻る炎の中に紛れて疾風迅雷の如し朱槍を回避しようと振り返り駆け出した天乃鈴音は、突として顔面に鉄槌を受けてたたらを踏む。

 

「っ!?」

「《反撃鉄槌(アンチ・カウンター)》だ。テメェだけは逃がさねぇ。ここで肉片一つ残らず殺してやんよ……ッ!!」

 

 それは対象の反撃に自動反応する魔法武具・鉄槌を作成し、指定箇所に設置する迎撃魔法。変化魔法と結界魔法を掛け合わせた応用であり、鉄槌は朱槍を変化させた魔法武具である。佐倉杏子は天乃鈴音が路地の外に撤退すると踏んで、あらかじめ逃げ道にこのような罠を仕掛けていた。

 

 天乃鈴音の首筋に真紅の閃光が迫り掠る。傷口がパックリと開く音が、とてもとても遅れて聴こえる。音速凌駕の衝撃波が天乃鈴音の姿勢を崩す。轟然とした爆風が周囲を逆巻く。どうやら佐倉杏子は未だ加速を続けているようだ。このままでは音速二号(マッハ2)にすら至り、天乃鈴音は自らの死を認識することすら間に合わず突き殺されるだろう。

 

「────《燃焦る刃(バーンエッジ)》」

 

 天乃鈴音は両側の壁を斬りつける。強化した鈍性魔力の火炎は、対象を黒く焼き焦がすまで燃え尽きない。破竹の勢いで燃え広がる灼熱は、ほんの数秒で二棟の建物から火の手を上げた。それを目撃した大通りの通行人が「家事だ!」と警告の悲鳴を上げる。

 

「っ! テメェ────!?」

 

 壁を蹴って止むことのない攻撃を仕掛けていた佐倉杏子は、足裏に燃え移った魔力の火炎を危険と判断し、即座に両足を切り飛ばす。刹那、天乃鈴音は《陽炎》によって気配を遮断。その行方をくらました。同時に《燃焦る刃(バーンエッジ)》を解除したのか、轟々と音を立ててパチパチと燃え上がる建物は、普通の水を掛けても消火できると佐倉杏子は見て取る。

 

「チィッ……!」

 

 だからと言って足を切り落とす行為が無駄だったわけではない。もし無駄と判断して足裏の炎を残していれば、あっという間に佐倉杏子の全身は燃え上がり、視界は炎に遮られていただろう。そうなれば鎮火は不可能であり、さらに視界不良の中、その隙を突かれて殺されていた可能性が高い。

 

「────っ! ゆま……!!」

 

 佐倉杏子は振り返る。

 壁から延焼して血の海に燃え移った灼熱は、疾うに千歳ゆまの死体を真っ黒に焼き焦がしていた。

 

「────────────────」

 

 佐倉杏子のかんばせに闇より深い影が堕ちる。サイレンの音が遠くより響き渡る。佐倉杏子は燃え上がる黒焦げの体を抱き起こして慈しむように抱擁する。

 

「…………じゃあな。ちょっくら仇、取ってくるからよ。あたしが教えたことはあたしの罪だ。ゆまはあたしの悪事に利用されただけ。だからあたしのことは全部忘れて、天国(あっち)で慎ましやかに笑ってろよな」

 

 非業の死とは、最期の声すら奪ってゆくのか。声もなく殺された千歳ゆまの額と頬に口づけした佐倉杏子は立ち上がり、黒く焦げ付いた皮膚の味と、人が焼かれる本能的厭悪の異臭を鼻で笑い、左肩に槍の柄を置いて斜め上の薄暗闇を仰いだ。

 

 明滅する真紅のソウルジェム。みるみると穢れが溜まっていく。同時に激憤の感情はソウルジェムを鳴り響かせていた。佐倉杏子は振り返る。なびくポニーテールの奥には復讐心を宿す炯眼(けいがん)。まぶたを限界まで開いた双眸(そうぼう)は鋭くギラギラと光っていた。

 

          †

 

 正午の工匠区。デンキ街の路地裏。

 

 天乃鈴音の周囲には、ウワサを守っていた黒羽根7人の焼死体が転がっている。ソウルジェムのカケラを回収し、時間と魔力に余裕があるため再び《燃焦る刃(バーンエッジ)》で死体を切りつけて焼却。跡形もなく燃やし尽くし、燃えかすの粉塵や骨粉は風にさらわれていく。

 

「……新手」

 

 天乃鈴音が振り返ると、そこにマギウスからの刺客たる白羽根7人が降り立つ。手元にはペルソナカード。同時に『ペルソナァ!』と叫び、スタンドを発現する。スタンドが目に見えない天乃鈴音は、分析魔力を走らせることで目に見えない何かが白羽根の傍らに浮かんでいる事を感知する。

 

(得体の知れない能力。それを複数人が有している状況。おそらく個人の魔法少女が作り出した、なんらかのアーティファクト。魔術基盤は降霊術・召喚術・タルパ・守護霊などが予想される。いずれにせよ、こういうのは本体を倒せばいいと相場が決まっている)

 

 戦闘開始。炎が翻る。一分経過。天乃鈴音の周囲には白羽根7人の焼死体が転がっていた。ソウルジェムのカケラを回収し、割れたソウルジェムの中から排出された七枚のペルソナカードを拾う。分析魔力を走らせて自分が使用しても害はないと判断。

 

「試しに使ってみる? ペルソナカードの絵柄から見るにタロットを基盤にしている。色合いも大空の七属性と一致している。白羽根が使用していたソウルジェムの色とも一致していることから、おそらく同一属性ではないとスタンドとやらを発現できない。ただし、こういうのは属性が一致していなくても発現できる場合がある。その代わり全般的な性能は下がる制約が存在するのが魔術世界の世の常」

 

 魔属性のペルソナカード。その象徴は節制。発現、スタンド名は《カメリア(愛の炎は永遠に)》────属性が一致しているため100%の性能を発揮できる。姿は包容両腕。胴体や下半身を持たない近距離パワー型。能力は“炎を出す”……。

 

(ツバキの火炎魔法と被っている……まさかハズレを引いた……? せっかくツバキと同じ属性なのに……仕方ない。次を試そう)

 

 火属性のペルソナカード。その象徴は塔。発現、スタンド名は《ザ・キラー(殺人鬼は愛されない)》────属性一致。100%の性能。姿は抱擁両腕。カメリアと同じく胴体や下半身を持たない近距離パワー型。カメリアと似ている理由は不明。能力は“真名看破”……初見能力を瞬時に理解する。

 

(────当たりを引いた。どうやらカメリアの能力は“相思相炎”……ツバキへの愛が失われない限り、永遠に燃え上がる炎を生み出す。今の私なら一つの家屋を数秒から数分で全焼させる火力を出せる。やっぱりツバキの属性は強いんだね……よかった……)

 

 天乃鈴音は残る五枚のペルソナカードを見やる。それだけで自分が使用した場合、どんなスタンドが発現するのか看破した。

 

 水属性のペルソナカード。その象徴は死神。スタンド名は《インセイン(夢を食べて更生しろ)》────属性不一致につき25%の性能。姿は二丁拳銃を持った両手のみ。なぜことごとく胴体が存在しないのか。遠隔操作型で本体から離れて狙撃可能。ちなみにジャンバラヤを作るのが得意。(なんだそれは……)能力は“能力封印”……対象一体につき指定の能力を一つだけ封印する。

 

 木属性のペルソナカード。その象徴は戦車。スタンド名は《ゴールドフィンガー(超次元的盲目祭)》────属性不一致につき30%の性能。姿は黄金篭手。こちらも両手のみ。遠隔操作型。能力は“黄金暗殺”……対象の携帯に電話を掛ける。電話が取られると受話器から黄金のガントレットが飛び出す。連絡先は知らなくても掛ける事ができる。

 

 光属性のペルソナカード。その象徴は審判。スタンド名は《ステラー(危機意識抹消)》────属性不一致につき25%の性能。姿は極光双剣。こちらも両手のみ。遠隔操作型。能力は“注意固定”……対象の意識を特定のものに固定する。

 

 闇属性のペルソナカード。その象徴は皇帝。スタンド名は《ガソリン(命を刈り取る君の瞳)》────属性不一致につき75%の性能。姿は死神大鎌。こちらはローブのボロい布切れを両腕に掛けている。自動追跡型。能力は“無視追跡”……対象の携帯にメッセージを送信。対象が一度でも既読無視するとスタンドが追跡を始める。返信すればスタンドは追跡を停止。再び送信して既読無視すると追跡が再開される。迷惑メールに入れても既読無視扱いで同様。また、返信しても会話が成り立たない場合“まともに相手しない=既読無視”扱いとなり追跡は止まらない。なお対象の連絡先を知らないと、当然ながらメッセージを送信できず、スタンド能力は発動しない。

 

(……これ、使いようによってはハメ技ができる……)

 

 無属性のペルソナカード。その象徴は愚者。スタンド名は《ダメージ・イズ・ドーン(さよなら後の祭り)》────属性不一致につき50%の性能。姿は般若円盤。細胞レベルの小ささ。分類はその他。能力は“復讐虜囚”……対象の復讐心を刺激する。対象は復讐することに命を懸けて執着し、復讐対象への殺害に囚われる。そうして対象の自由を心理的に奪うが、その代わり対象の波動が全細胞を突き抜けて噴出する。

 

(これもかなりイイ……手っ取り早い能力だ。リスクは高いが、まとめて一網打尽にできる。乱戦の中の各個撃破ほど、慣れ親しんだ暗殺方法はない……)

 

 その時、天乃鈴音を取り囲むようにローブを着た魔法少女7人が降り立った。黒羽根とも白羽根とも違うようだが、全員スタンドを発現している。魔力パターンを感知すると、魔女の使い魔のような反応を感知。分析魔力は使わずスタンド能力で理由を看破。

 

(複製魔法少女……魔女の力すら利用して手駒にしている……けれど戦力の逐次投入は愚策。ただし手駒がほかにも大量に残っており、こちらの消耗を見越した投入であるのなら……それは計画的な波状攻撃となる。故にこちらは消耗を防ぐため、これより魔(・)力(・)を(・)使(・)わ(・)ず(・)勝(・)利(・)す(・)る(・))

 

 天乃鈴音はスタンドを解除。右上腕に巻いた赤銅色のバングルには七個の宝石があしらわれており、その宝石から七色の死ぬ気の炎が灯る。嵐の炎が最も強く、次点で晴の炎が強く、ほかの五属性はどれも微弱ながら揺らめいている。さらに左手の第二関節には四個のリングが嵌められており、それぞれ翠色(すいいろ)・天色(あまいろ)の炎を灯していた。それは嵐の炎の赤色と晴の炎の黄色とは補色関係にあるカラーリング。魔法少女たちにとって未知のエネルギーであるそれは、大海と宇宙に関する死ぬ気の炎。

 

「俺が一番乗りダァッ!!」

 

 複製魔法少女Aが飛びかかる。刹那、大空と嵐の炎を混ぜ合わせた天乃鈴音は、超精密な死炎配分コントロールで、赤燈色の光球を生成。魔法武具の段平(大剣)に付与。攻撃。敵スタンドに防がれるが問題ない。スタンドはスタンドでしか倒せないが、エネルギーは伝播する。ふと複製魔法少女Aの肉体とソウルジェムが石化し、粉々に破(・)壊(・)された。

 

『────────』

 

「何が起きたのか分からないという顔ね。地面のアスファルトと物体を調和させて石化させたあと、それを分解したのよ。ご覧の通り粉々に。──ただし、それは通常のやり方の話。死炎界では“憤怒の炎”と呼ばれる死ぬ気の炎の亜種が存在する。その憤怒の炎は、ただ当てるだけで、いま説明したことを一瞬で済ませてしまう上に、炎圧が規格外に高い、破壊力抜群の死ぬ気の炎なの。そ(・)し(・)て(・)私(・)は(・)憤(・)怒(・)の(・)炎(・)が(・)使(・)え(・)る(・)」

 

 複製魔法少女6人が黙り込み、微動だにしないのは、ただ驚いているからではない。

 

「加えて私は大海シリーズの凪(・)の(・)炎(・)を有している。それは嵐の炎に対応し、翠色の炎を灯す。基本性質は停止。熟練性質は無感。動けないまま痛みも感じず死になさい」

 

 しかし天乃鈴音は、いったいい(・)つ(・)ど(・)の(・)タ(・)イ(・)ミ(・)ン(・)グ(・)で、凪の炎を六人の敵に当てたのか。

 

「大海シリーズの渦(・)の(・)炎(・)。それは晴の炎に対応し、天色の炎を灯す。基本性質は伝(・)播(・)」

 

 天乃鈴音は振り返る。

 

「そして宇宙シリーズの恒(・)星(・)の(・)炎(・)。それは嵐の炎に対応し、翠色の炎を灯す。基本性質は熱風。熟練性質は────」

 

 天乃鈴音が飛び去ると同時、場に熱風が吹き荒れる。燃えていく肉体。熱さも痛みも感じず、逃げたいと思っても肉体が動かない。思考まで停止したように感じるのは何かの錯覚だろうか。そして五体が爆(・)発(・)した。散り散りになった肉片は熱風にさらわれて燃え尽きていく。

 

 熱風の影響か上昇気流が発生して上空に雨雲が発生。局地的なゲリラ豪雨を降らせた。むなしい雷が鳴り響く。

 

          †

 

 昼過ぎ。工匠学者の歴史研究部にて。文系の部活動は人気のない旧校舎に部室がある。その一角に存在する部室の中では、三人の焼死体が塵一つ残さず焼却されていた。

 

「古町みくら。吉良てまり。三穂野せいら。魔法少女なんかにならなければ、もっと長く生きられたかもしれないのに」

 

 天乃鈴音は椅子に座り、背もたれに寄りかかる。

 

「休もうと思っていたけど、あんまりにも絶好の機会だったから殺っちゃった。二秒で片付いたからそれほど疲れなかったし、一度の魔法行使(バーンエッジ)で殺せたから損失は無いに等しい。それにしても数が多いだけというのも考えものね。いつもより大変だわ。そ(・)ろ(・)そ(・)ろ(・)一(・)日(・)の(・)暗(・)殺(・)最(・)高(・)記(・)録(・)を(・)塗(・)り(・)替(・)え(・)た(・)か(・)も(・)し(・)れ(・)な(・)い(・)」

 

 既に77人を殺した。

 

「殺した人数を指折り数えるなんて、悪趣味で反吐が出るから考えたこともないけど……思い返せば一日で百人の名前を覚えたことがあるから、きっと最高記録はそのくらいね。じゃあ、まだまだ足りないんだ。もっと魔女の芽を摘み取らないと……」

 

 休んでいる暇はない。小休憩を済ませた天乃鈴音は《陽炎》で気配を遮断し、その姿も行方もくらました。

 

          †

 

 夕方。大東区の西町。通称まやかし町にて。天乃鈴音は団地の屋上から屋上へと飛び移る。

 

「こういう団地が立ち並ぶ古い町並みは、治安や貧困の問題で魔法少女が多く、それだけ魔女になりやすい弱小も多いと踏んでいたんだけど……当てが外れたわ。思いのほか空っぽなのね。あるいはローブを着た集団がそれなのかしら。となると彼女たちのアジトがあるはず。そこに乗り込めば記録は四桁に登りそう……《桜火(おうか)》」

 

 それは空中に魔法陣を描き、火炎の奔流を吐き出す修得魔法(火炎魔法の派生)。突として空を跳ぶ天乃鈴音の背後から奇襲を仕掛けたナイトメア・モスカ──ガスマスクを付けた人型戦闘兵器──に搭乗する和泉十七夜(エッダ)は集中砲火を浴びせる。

 

「友の仇だ。その死で償ってもらう。常闇騎士団が騎士団長エッダ、参る!」

 

 両手指から五連装機関銃(マシンガン)の連射。腹部から圧縮粒子砲を発射。肩部から追尾弾頭(ホーミングミサイル)を射出。対する天乃鈴音は、その一斉掃射を炎の剣で翻すように受け流した。

 

「こんな街中でそんなロボットって正気?」

「仲間に術士がいてな。構築魔力で音は響けど姿は一般人に見えん。故に気にするな。全力で殺しに来い。こちらも加減はせん。もとよりするつもりもないがな」

 

 両名着地。ランドスピナーが回転しアスファルトにタイヤ痕を残しながら機動力を上げて急接近。背部の噴射口から蒸気を噴出してスピードを上げる。右腰部から巨大アサルトライフルを取り出して射撃。天乃鈴音は疾走し炎の剣で弾丸を弾く。続けてナイトメア・モスカは両腕部に装備されているスタントンファを起動して近接攻撃。それはスタンガンのような高圧電流を流しつつ、古武術を元にした関節の動きで打突する。それを天乃鈴音は後転して躱すと、不意に左腰部に帯刀された廻転刃刀が抜刀された。チェーンソーのように刀身外周が高速回転する。天乃鈴音が大剣をかざして防いだ瞬間、その鍔迫り合いは凄まじい金属音を発した。

 

「トンファーをスタンガンにしたり、カタナをチェーンソーにしたり、色々と盛り沢山すぎない?」

「全載せはロマンらしいからな」

 

 鍔迫り合いは互角。直後、ナイトメア・モスカの胸部ハッチが開いてロケット砲を発射。《翻る炎(パリィ)》で即時離脱した天乃鈴音だが、その片足にワイヤーが絡まる。

 

「!?」

 

 スラッシュハーケン。それはナイトメア・モスカの両脇に搭載されたアンカー射出装置。そこから撃ち出された全八本のワイヤーのうち一本が天乃鈴音の片足を捕らえて絡まり、一気に巻き上げて戻すことで地に叩きつける。アサルトライフルを構えて射撃。刹那、片足を斬り飛ばした天乃鈴音は横に転がり弾丸を回避。活性魔力と晴の炎により片足を高速再生して物陰に疾走する。

 

「逃がさん! ……む?」

 

 ナイトメア・モスカの稼動が突然停(・)止(・)した。さらに廻転刃刀が風(・)化(・)する。

 

「《一瀉千里(フルドライブ)》」

 

 それは強化した魔力放出により驀進(ばくしん)の勢いで突っ込む攻撃魔法。物陰から音速を凌駕して突進した天乃鈴音の斬撃はナイトメア・モスカを袈裟斬りにして、右腰部のアサルトライフルを取り出そうとした左腕を肩口から斬り飛ばした。同時に嵐の炎を流して精密機器を分解。ナイトメア・モスカのファクトスフィア(メインカメラやセンサー)が砂嵐を起こす。さらに火炎魔法(赤色の魔力)と嵐の炎が混ざった影響か、ナイトメア・モスカの切り傷が燃(・)焼(・)────魔力の火炎とは別に、通常の火災も発生して燃え上がった。

 

「ぐっ……! これは……」

 

 かくして数千層からなるナノコンポジットアーマーを停止分解され、大ダメージを負ったナイトメア・モスカは膝をつく。その隙に天乃鈴音は撤退。戦闘兵器はそれだけで要塞だ。それに搭乗する者を引きずり出すには、それ相応のリスクがいるだろう。さらに周辺から大勢の魔力パターンを感知。多勢に無勢は好むところだが、エッダという強者がいる以上、さすがに包囲網からは抜け出た方が賢明だ。

 

「待て! 逃がさない!」

「この好機を逃してなるものか!」

「仇討ちさせてもらう!」

 

 突如、横合いから飛び出してきた仮面の魔法少女の小隊(スリーマンセル)を流れるように斬り殺した天乃鈴音は、跳躍して全力遁走を続けた。

 

「愚かね。貴方たちでは私に敵わないから、エッダは単身で挑んできたというのに……」

 

          †

 

 

 

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