アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
夜の中央区。電波塔の屋上にて。
天乃鈴音は連戦の疲弊を取るため休憩を取る。
「佐倉杏子からエッダまでの戦闘で生体熱量を大きく消耗した。平穏環境で戦闘する兵士が一日に消費する平均カロリーは3000カロリーという。私は死ぬ気の炎を使った分そこから更に大きく消耗して、大雑把に4000カロリー強を消費したと見積もる。コンビニ弁当から摂取できる生体熱量は平均700カロリーだから、数の上では六箱食べれば4200カロリー摂取できる。だけどきちんと栄養バランスを考えないと代謝がうまく働かず栄養吸収率が下がって
天乃鈴音は三つの異なる弁当箱と数種類の果物を幾つも平らげ、大量の水を飲み干す。タンパク質、あらゆるビタミン、カルシウム、鉄分等の摂取を済ませる。
「プロの選手は試合前に、特大タッパの梅干しおじやとバナナひと房を平らげ、炭酸抜きコーラを飲み干し、栄養バランスを整えた速効性のあるエネルギー食で効率の良い補給を済ませるという。でも私は消化に時間が掛かる弁当箱を三箱と果物をいっぱい食べた。摂取カロリーは同一でも超人的な消化力がない限り、このままでは
屈伸体操を始めた天乃鈴音は、腸内に活性魔力を回して即消化。運動で代謝を上げつつ、摂取したモノを余さず栄養に変えて体内に循環させる。それから五十鈴れんを殺して奪ったグリーフシードを使い、ソウルジェムに蓄積した穢れを完全に浄化した。
「これで心身同調率は90%を超えるレベルでシンクロした。心身のズレは穢れの蓄積を早める。この健康法を知らない魔法少女はその日なにもしなくてもソウルジェムの穢れが5%蓄積するのに対し、私は1%しか蓄積しない。これを心身相互という。塵も積もれば山となる事を知らない魔法少女たちは、無駄に穢れを蓄積して魔女化しやすい。非常に愚かなことだ。知らなかったで呪いを振り撒かれては傍迷惑。彼女たちの為にも魔女退治を頑張ったご褒美として、魔女化する前に天に召す必要がある」
天乃鈴音は仰向けに寝そべり、両手をへその下に結んで目を閉じる。
「次は五分寝る。昼寝は十五分から三十分がベストという。ただし意識分解睡眠法を使えば、睡眠時間の約四倍の効果が得られる」
分解魔力を脳髄に流して意識を分解。五分後、あらかじめソウルジェムに設定しておいた構築魔力を脳髄に流して意識を再構築。覚醒、起床する。夜景がきれいだ。立ち上がる。
「さて、皆殺しだ」
嵐と大空の炎を精密な配分で混ぜ合わせた天乃鈴音は、赤燈色の光球を手のひらの上に浮かばせて夜空に投げ打った。それは
「空虚の炎。それは死ぬ気の炎の中でも抜群の照射力を誇る。いわば灯台。
その炎は敵を集める。その炎は己を追い込む。
さらに天乃鈴音は神浜市の隅々まで届く光球の照射に分析魔力を注入した。照らし出す光に分析効果が混じり、神浜全土の魔法少女の総数と詳細な位置を把握する。しかしそれは裏を返せば、照射した分析魔力を辿られることで、自らの位置を神浜全土に知らせることになる。
新西区より廃墟ビルの屋上を砕き割って跳躍した七海やちよは、音速を凌駕して中央区電波塔の屋上に到着する。
「こんな目立つ場所で魔力を散らすなんて愚かね。それとも誘っているのかしら?」
「私が賢く見えるなら、きっとそうなんじゃない?」
北西方向の上空より地を蹴って飛び降りた二名の魔法少女。真名看破魔法で梓みふゆ、アリナ・グレイと名前が分かる。闇属性と木属性の魔法少女だ。二人は七海やちよの近くに降り立つ。
「やっちゃん」
「……! みふゆ……」
「今は一旦休戦です。既にマギウスの翼は多くの羽根たちを失いました。この恐ろしい大量殺戮者だけは……絶対に生かしておいてはならないんです……」
「アリナはみふゆのパーフェクトボディを失いたくないカラ同行したダケ。危険と判断したら、すぐにみふゆを連れて撤退するんデスケド」
工匠区より跳躍し音速突破して、七海やちよたちの対角線に降り立つは佐倉杏子。同時に真下からも電波塔を駆け上ってきた魔法少女が着地する。真名看破魔法で都ひなのと判明。
「おいテメェ……ゆまの仇だ……覚悟はできてんだろうなァ……」
「七海やちよ。今まさらから連絡があった。……こころとあいみが殺られた……もうアタシは爆発しそうだ……コイツは……コイツだけは……許しちゃおけない……!」
激憤を目力で吐き出す赤と緑の魔法少女。
「佐倉さん……都さん……。激怒する気持ちは痛いほど分かるけど、怒りに我を忘れて足並みを崩すことがないように。それだけはお願いね。こうして実力者が一堂に会した今が最大のチャンスよ。ここで────確実に叩き潰す」
参京区から空を切って駆け付けてきた三名の魔法少女が到着する。
「その包囲網、私たちも参加させていただきます。彼女の存在は、私たちにとっても脅威ですので」
「邪魔にはならないから安心するネ。助太刀アルヨ」
「ボクも戦う。二人は黙って行くつもりだったみたいだけど、ボクだって戦いたいんだ。危ないからって知らせなかった、かこには悪いけどね」
天乃鈴音は真名看破魔法で、常盤ななか、純美雨、志伸あきらと名前が分かる。どれも水属性の魔法少女である。
「水、闇、木、火、木、水、水、水……計八名。バランスが悪いね。本気で勝ちに来る布陣じゃない」
しかし天乃鈴音は想定する。
おそらく透明化した光属性の加賀見まさらが、今もどこかに潜伏しているはずだと。
「この数的不利を、魔力色の相性で覆せるとでも?」七海やちよが首をかしげる。
「石を積み上げるのは得意なの。たかが砂粒でも積むのをやめると痛い目を見る」
「これだけの魔法少女に囲まれて随分と余裕そうですね……」梓みふゆの問いかけ。
「当然。
天乃鈴音、活性魔力で跳躍。一キロ先にある建設途中の高層ビルの最上階に飛び移る。鉄筋コンクリートが剥き出しの戦場。人気がないため大暴れできる。直後、後方から佐倉杏子が突貫。炎の剣を翻して朱槍の柄と激突。鍔迫り合いから押し合って距離を取り豪快に地を滑る。かくして神浜陣営と天乃鈴音の激闘が幕を開けた。
────戦闘開始。
「《
天乃鈴音の両側に発現した二体のスタンド。それは黄金篭手と死神大鎌。直後、神浜陣営のスマホから着信音が鳴り響く。戦闘中に通話する愚者はいない。八台のスマホはワンコールで着信が途絶。続々と戦場に着地する神浜陣営。天乃鈴音は後退しつつ、殺した魔法少女から奪った十数台のスマホを──まきびしのように──放り捨てた。カラコロと音を立てて散らばったスマホからコール音が鳴り続ける。天乃鈴音は懐から自分のスマホを取り出すと通話履歴に残る佐倉杏子の電話番号からメッセージを送信。佐倉杏子の懐からデフォルト設定の着信音が鳴った。当然、佐倉杏子は既読無視する。まきびしのように散らばったスマホは何かの罠だと疑い、容易に近付けない。直後、黒いボロ切れを纏う両腕しかない死神が大鎌を振り回して口汚く佐倉杏子を罵った。スタンド使いではない佐倉杏子にその声は届かない。
「オイ! キドクムシスンナヨッ! ソリャア……フェアジャネェンジャネェノ? アタッテクダケロヨ! モットストレートニイキヨウゼ! バリゾウゴンデ……ヘンシンダッ!」
自動追跡型の死神は佐倉杏子を追跡。射程距離内に入った瞬間、乱暴に大鎌を振るう。分析魔力でスタンドの輪郭を把握した佐倉杏子は槍を合わせて迎撃。スタンドはスタンドでしかダメージが入らないため防戦一方を強いられる。
「クソッ! こりゃあ、あたしもスタンドを使うしかないってのか!? 一応ペルソナカードは持ってるけどさ……急速的に穢れが蓄積するみたいだし、能力にも当たり外れがあるみたいだから、あんま信用できないんだよね……! どうせ本体を倒せば終わりなんだしさ……!」
七海やちよが先陣を切る。「やっちゃん!?」散らばるスマホとの距離が2mを切った途端、天乃鈴音が「もしもし」と呟いた。天乃鈴音は事前にスマホの設定を変更しており、天乃鈴音の声紋認証で通話がオンになるよう細工していた。そのため天乃鈴音の声を認識したスマホは通話を繋ぐ。直後、スマホ画面から黄金篭手が突き出された。「っ!」発散魔力で断続的に探知していた七海やちよは、不可視の攻撃を槍で防御。思いのほかパワーが強く押し出されてたたらを踏む。すると別のスマホとの距離が2mを切り、瞬間、二本目の黄金篭手が突き出された。七海やちよはまきびしスマホの位置をひと目で記憶しており2mという射程距離も見切った為、後ろを見ずに槍の回しだけで弾いて後退する。
「《
「モシモシ? ボク耳串焼きがスキぃ……」
了解という意味らしい。遠隔操作型のゴールドフィンガーは本体から離れ、チームななかのもとへ向かう。どうやらスマホ画面から突き出してくる黄金の篭手は、ゴールドフィンガー自身の両腕とは関係ない。スマホの数だけ黄金篭手が突き出てくると見ていいだろう。
「やっちゃん! スタンドを使ってください! ────ペルソナァ!」
「ハァ……めんどくさいヨネ……無駄に白羽根を向かわせなければ、ペルソナカードを奪われてこんなスタンドバトルにはならなかったのに……ペルソナァ!」
梓みふゆとアリナ・グレイはスタンドを発現する。
「《
「《
そして梓みふゆは目を疑った。最初からおかしいとは思っていた。佐倉杏子が現在戦闘しているスタンドと、七海やちよを攻撃したスタンド。それは同一のスタンドであるはずだが、明らかに
「アー……みふゆ。一人の人間が発現できるスタンドの数は、一体までじゃなかったワケ?」
「はい、そのはずです……この状況について考えられる可能性があるとすれば、天乃鈴音は二つの精神を持っているか、なんらかの魔法で二体同時使用を可能にしたか、です……!」
都ひなのが複数のフラスコを投げる。それは化学爆発魔法を付与したフラスコ爆弾。まきびしスマホを片付ける為に投擲した。直後、天乃鈴音は疾走し《可変結界》をスマホの上に敷きつつ《桜火》を行使。火炎の奔流がフラスコ爆弾を巻き込んで空中で爆発する。その炎の中を掻い潜って梓みふゆ、アリナ・グレイに接敵した。
「スタンドなしで来るとは正気ですか!?」
「それだけ実力に自信があるってことダヨネ!」
天乃鈴音は五枚のスマホを投擲。コール音「もしもし」通話オン。五本の黄金篭手が突き出されて梓みふゆとアリナにラッシュを決める。直前、緑色と藍色の閃光。都ひなのが全体に硬化魔力を付与して全体防御力を底上げした。梓みふゆは幻覚魔法で回避。アリナは結界魔法で防御。天乃鈴音の背後に七海やちよが回る。心臓を抉らんとする音速の刺突。「《
一方、ゴールドフィンガーの猛撃を受けるチームななかは防戦一方。スタンド使いではない三人は魔力を感知して大雑把な位置と攻撃方向を常に模索する必要がある。透明の相手との戦闘は思ったよりハードだ。「あきらさん!」「《弱点看破》ッ!」志伸あきらの固有魔法で判明したゴールドフィンガーの弱点は、単に火属性のスタンドの攻撃に弱い事と、持続力がEランクである事。
「この見えない敵、赤い魔力に弱い! あとそんなに長続きはしないみたいだ!」
「美雨さん! 呼吸を合わせてください!」
「時雨華心流と蒼碧拳の合わせ技ネ!」
常盤ななかは分解魔力を使える。二刀流に分解コーティングを施して時雨華心流の奥義を放ち、そこに純美雨が呼吸を合わせてゴールドフィンガーを挟撃する。だが手応えがない。スタンドはスタンドでしか倒せない。「ムダ……ムイミ……オロカァ……クシヤキぃ!」『────ッ!!?』ゴールドフィンガーのラッシュが三人の体を滅多打ちにする。だが硬化魔力による体表コーティングで、致命傷になるはずのところを重傷で済んだ。ふと佐倉杏子が常盤ななかに向かって赤色のペルソナカードを投擲する。「受け取れ!」「っ!?」「スタンドはスタンドでしか倒せない! あんた赤色の魔力が使えるんなら、その赤色のカードで“ペルソナ”と叫んでみな! 蛇が出るか鬼が出るか、それはあんたの精神次第だ!」「────要はこの私を実験台に使おうというわけですね?」「ま、そうとも言う!」「いいでしょう。それ以外に活路はないようですし……ペルソナァ!」
常盤ななかはスタンドを発現する。それは赤と青が混じった万能型のスタンド。
「《
その能力は、目的に応じてパラメータをいじれる。成長性以外の任意のパラメータにA・B・C・D・Eをひとつずつ割り振ることができる。
「破壊力B スピードC 射程距離E 持続力D 精密動作性A……設定完了」
ゴールドフィンガーとユーガラ・ビィの殴り合いが始まる。どちらも精密動作性はAランクなのか、正確無比な一撃は爆音のごとし打撃音とともに相殺される。
「《
一方、天乃鈴音は魔力速・魔力圧を強化し、赤い鈍性魔力を魔法武具に付与。カッターナイフ型の段平大剣がアリナの結界魔法を打つ。同時、硬化魔力により作られたキューブ型の結界が粉砕され、アリナの胴体に亀裂が迸った。攻撃直後の隙を突いて七海やちよと梓みふゆが挟撃。青槍とチャクラムの刺突斬撃が、天乃鈴音の後ろ首に差し迫る。
「
一同は微弱な魔女反応を感知。突として天乃鈴音の後ろ首に現れたソレは、硬化魔力で形成した涙型の盾で攻撃を防いだ。そうやって天乃鈴音を守護したのは、魔女の使い魔と似た存在だった。「!?」「これは……!?」シズクと呼ばれた使い魔の姿は全体的に若草色。額に灰皿。カマキリのような顔。緑色の雫で構成された痩せぎすで華奢な体躯。硬化魔力による貫通力が高い雫を乱れ打つように飛ばして攻撃する。七海やちよは槍を回転させて数滴の雫を弾き、梓みふゆはチャクラムを増殖させて周囲に投擲旋回、数滴の雫を打ち落とす。
「やっちゃんばりに引き出しが多いですね……」
「さすがの私も魔女の手下までは扱わないわよ」
七海やちよは構築魔力で
「《
ガスマスクを装着した都ひなのは試験管を床に叩きつけて後退する。割れた試験管から毒々しい煙が一気に発生。直径四メートルを包み込む。天乃鈴音は躊躇なく毒煙の中に飛び込んだ。
「なっ────」
「粉塵爆発を恐れて火炎を使わないとでも?」
都ひなのの額に迫る炎の剣。刹那、毒ガスが爆発した。「みふゆ!」「っ……」梓みふゆは幻覚魔法が
「……なるほど。騙されたわ。まずは貴方から消す。純美雨」
「殺れるものならやってみるネ。我が蒼碧拳が相手になるヨ」
轟然、天井が撃砕される。天乃鈴音の頭上に緑色の大型キューブが急降下。「さっきのお返しなんデスケド」仰いだ天乃鈴音は違和感に気付く。(ここは屋上……
(さっき私が毒ガスの中に飛び込んだ時、誰かが構築魔力を持つ魔法を使って嘘の天井を作り上げていた。おそらく具現か
天乃鈴音は、江利あいみを殺して奪ったグリーフシードを使ってソウルジェムを浄化する。
同じ頃。梓みふゆが問いかけた。
「やっちゃん。彼女が使う不思議な炎について、悪魔から何か聞いていないんですか……?」
「火炎魔法のことではなく、死ぬ気の炎のこと? 一応質問したことはあるけど……。死炎と魔力の違いは、生命力と精神力どちらを消費するかの違いでしかないと、悪魔は話していた」
そこで亀裂の入った肉体を魔力で再生したアリナ・グレイが閃く。
「ちょっとマッテ。魔法少女は魔力だけを使って戦うワケ。生命力を代償にして戦うことは、そういう魔法じゃない限りアリエナイ。つまり天乃鈴音は生命力と精神力をバランスよく使って戦っている。それって、かなりの長期戦に優れるってことにならナイ?」
「そうね。例えばの話、全ての魔法少女は生命力を100ポイント持っていて、精神力も100ポイント持っているとする。普通魔法少女は精神力だけを消費して戦い、消費した分だけ穢れが溜まるから、必然ゼロになれば……(魔女化する)。けれど彼女は違う。仮に私たちの精神力が底を尽きかかっても、天乃鈴音は死ぬ気の炎を使って、残る生命力100ポイントを消費しながら戦えばいい。つまり彼女は通常の魔法少女より二倍近く戦闘継続が可能となる」
「厄介ですね……ですが我々にはドッペルがあります。最悪、不意打ちの切り札として使えます。実質(ドッペルのおかげで)魔力は無限みたいなものですし……」
「それは天乃鈴音にも同じことが言えるわ。だから極力ドッペルには頼らない。暴走かつ乱戦なんて事になったら連携なんて取れなくなるわ。よって彼我ともにドッペルを出す前に決着を付けるのが理想よ」
七海やちよ、梓みふゆ、アリナ・グレイはグリーフシードを使ってソウルジェムを浄化する。
「……佐倉さん。常盤さん。そっちのスタンドは任せられるかしら?」
「楽勝だよ。ガキと遊んでるようなもんさ」
「っ……防戦一方なら、なんとか……」
常盤ななかは苦汁を舐めるように呟く。ゴールドフィンガーはシンプルに強い。スタンドに与えたダメージは本体にフィードバックされるため、なんとかダメージを与えようとしているが、常盤ななかのスタンド攻撃が全て相殺されている。単純なスペック差で圧倒されている。正直なところ、時雨華心流の併用と志伸あきらの援護のおかげで、現在ゴールドフィンガーに押し切られる事態をギリギリ凌いでいる状態である。
対する佐倉杏子は、お菓子を口に咥えながら自動追跡型の死神大鎌ガソリンと剣戟を交わし続けている。ガソリンのスペックはゴールドフィンガーより高いが、そのぶん精密動作性が極めて低いため楽に対処できている。その片手間に佐倉杏子は、天乃鈴音の戦闘を観察していた。
「それでいいわ。無理に倒そうと思わないで。刺し違えるなんて以ての外よ。天乃鈴音は二体のスタンドを出している。いくら私たちより二倍近い戦闘継続が可能でも、それだけスタンドを使えばプラマイゼロでイーブン。長期戦に持ち込めば、逆にこちらが有利となって形勢は逆転する」
「でもやっちゃん。それを一番理解しているのは天乃鈴音です。おそらく下層に降りたら短期決戦を挑みに来るはずです」
「必然だけど、死ぬ気の炎の使用頻度も高くなるヨネ。まだ魔力を使ってもらった方が危険が少ない……未知の能力の正体を暴く方が先決だと思うんデスケド」
「そのために虎口に飛び込むのよ。誰かが死ぬ気の炎や
「……でも、それは……」
「誰が殺られても恨みっこなしってヤツ? アリナは別にイイケド。どうせ七海やちよを生贄にするつもりダカラ」
「それはお互い様ね」
七海やちよは下層に飛び降りようとする。
「ま、待ってください、やっちゃん! ひとつ気になっていたんですけど、どうしてスタンドを使わないんですか?」
「舐めプ?」
「……危険なのよ。味方もろとも殺してしまいかねないほど強力なの」
「……! で、では、サブ属性のペルソナカードは……? 無いのなら貸しますが……」
「でもサブは性能が下がるワケ。あと自動操縦型以外のスタンドが受けたダメージは本体にフィードバックされるから、むしろ不利になるヨネ。本体以外にスタンドがいることで被弾率が上がるカラ」
「そういうことなら生身でいいわ」
七海やちよは下層に飛び降りる。
「やっちゃん!」
「みふゆはここに残るべきダヨネ。みふゆのスタンドの本領を発揮するチャンス、みすみす逃すつもりなワケ?」
アリナ・グレイも下層に飛び降りる。
「っ……ごめんなさい……」
梓みふゆは、何かを犠牲にしなければ生きていけない自らの弱さを憂い、ソウルジェムを明滅させた。
†