アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
天乃鈴音はコンクリートの床を切りつける。
「《
建設途中である高層ビルの99階が激しく燃え上がる。
そんな火災現場の只中に降り立った七海やちよとアリナ・グレイ。
「さて、人数が減ったわね……これで心置きなく暴れられるわ……」
「アリナは巻き込まれないように後ろでスタンばってるんデスケド」
そこで七海やちよが質問した。
「いくつか聞きたいんだけど。貴方の固有魔法は、強化と火炎、どっちなの?」
「……火炎魔法に紛れさせた強化魔法を見抜くなんて、さすがベテランね。でも答えはこうよ。
「大剣の峰に付いている青い円盤……それが怪しいわね」
「冥土の土産に語りましょうか? 私の魔法武具の名前は
「……!」
天乃鈴音はペラペラと喋る。長期戦はかえって不利となり、悠長に話している暇はないはずだ。
「そして今の私は鳥居の魔女の能力をコピーしている。生前の固有魔法は《強化》と《火炎》……魔女になってから得た能力もコピーできるため《魔女文字/魔法文字》《魔女結界》《使い魔作成》も使用可能」
「……なるほど。道理で。固有魔法でもないのに、あれだけ大きな結界魔法を駆使できるはずがないと思っていたけど……魔女が隠れ潜むための大規模結界をコピーしているなら説明がつく。あの使い魔もね」
「使い魔作成魔法は、
「……?」
「滴の使い魔。その役割は守護。素材となった魂の持ち主の名は
────下層まで張り巡らせていた分析魔力が、瞬間、途切れた。爆発的な魔力が屋上で昂ぶる。
「……あなた……」
「そして、この街で最も強い貴方は……ここで死んでもらう」
天乃鈴音は懐から赤の他人のソウルジェムを取り出す。
「《類感》────七海やちよ」
直後、超人的な握力を込めて
「────────」
類感魔術という概念がある。それは、ひとつのものがほかのものと相互に影響する呪術。日本で有名なものは丑の刻参りだろう。殺したい相手の髪の毛を藁人形の中に入れて釘で打ち付ける。すると相手は呪われて釘で打ち付けられたように心臓に穴が空いたりして死亡する。そして今回、魔術的な照応はソウルジェムに対応させた。ソウルジェムが割れたから、ソウルジェムも割れる。
故に七海やちよは
「────……ハ?」
「もったいないから使いたくなかったんだけど、スロースターターな彼女を怒らせると後が怖いから、出し惜しみはナシで殺したわ。さぁ次は貴方よ。アリナ・グレイ」
天乃鈴音は炎の剣を翻して歩み寄る。
「冥土の土産に属性別性格診断でもしてあげましょうか? 水属性の魔法少女はね、内在する鎮静効果のせいか、出足が鈍るのが欠点なのよ。そして木属性の魔法少女は硬化性質のせいで思考が凝り固まったり、今の貴方のように驚くあまり硬直しやすくなる」
「ふざけたこと抜かしてないで、さっさと殺せばよくナイ?」
「この部屋を包む灼熱に紛れ込ませた凪の炎に気付いたの? アーティストなだけあって
「ファックユー。罠だって分かってたのに……」
天乃鈴音は大剣を突き刺す。アリナ・グレイの胸元に光るソウルジェムが砕け散った。そのまま灼熱に巻かれて燃えていく。
「さらに闇属性の魔法少女は増殖効果のせいか、悩み事が増えすぎて考えなければいけないことが多くなり、やがて身動きが取れなくなる。一緒に下に降りてきていれば、
「────《Nine Phases》────」
突として灼熱空間の四方に緑色のキューブが生成展開。極太の魔力ビームを照射する。天乃鈴音はバク転で回避しつつ、恒星の炎の熱風に嵐の炎を紛れ込ませて、部屋全体に掛けられた《幻覚魔法》を分解して打ち消す。左手に憤怒の炎の光球を灯し、床に押し当てて破壊。98階に落下する。七海やちよの死体が地面に激突して転がり、死体のフリした状態から起床したアリナはキューブに飛び乗って落下を免れた。
その直前の話をする。天乃鈴音が下層に降りたのは、頭上から不可視のフラスコが大量に降ってきたからだ。熱風で部屋全体を旋回した嵐の炎の分析効果でフラスコを感知した天乃鈴音は下層に回避。同時、床に流した破壊効果を渦の炎で伝播させてフラスコを破壊した。99階で大爆発が起きる。上階に残ったアリナはその爆発に巻き込まれたはずだが、魔力パターンを感知する限り結界で身を守りながら浮上してダメージを軽減したようだ。
「逃げるつもり? 逃がさない。《
ガソリンを解除してステラーを発現。
一方その頃。爆風を利用して屋上に舞い上がったアリナ・グレイは梓みふゆを結界の中に閉じ込めて撤退を決め込む。
「あのベテランを瞬殺するとか有り得ないんデスケド! とんでもない切り札を隠し持ってたヨネ! みふゆの枯渇魔力でアリナに掛けられた停止効果を除去し、幻覚魔法でアリナの偽物が代わりに殺されてなかったら、本物のアリナが殺されてたワケ!」
「っ────やっ、ちゃん……」
不意にアリナのスマホに通話が掛かってくる。
「ちょっと! 我が身かわいさで巴マミを専属護衛にしてる場合じゃないワケ! あんなのアリナでも苦戦するに決まってるんデ────」
アリナ・グレイの頭部が貫通炸裂する。ゴールドフィンガーの黄金の篭手が顔面から後頭部を突き抜けた。死んだことすら自覚できなかったためソウルジェムは割れなかったが、頭部を失って意識が事切れたアリナ・グレイは地上に落下していく。結界魔法が解除。上空に放り出された梓みふゆは急な落下に驚く。捕まえた鳥を操るスタンド能力により上空を飛んでいた鳥の群れを従えていた梓みふゆは、衣服を掴んで羽ばたいてもらうことで屋上に連れて行ってもらう。そうして98階まで上昇した時、その階の端に立つ天乃鈴音と目が合った。
「始末しろ────《
「アッアッアア、ッア! アアッアアア! ッアアッアア、ッア! アタタタタタタラッタ!」
ステラーを解除。発現したトリガーハッピーのインセインは、その鳴き声の数だけ両腕の二丁拳銃を乱発連射し、小鳥たちと梓みふゆの肉体を穴だらけにする。精密動作性はフツウだが、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。紫色のソウルジェムに一発だけ命中し、パリンと音を立てた。無残な死体は散り散りに地上へ落下していく。
「《
真紅の閃光の絶殺を紙一重で回避。
「幻惑、眩惑、結界、変化、ジャンバラヤ、ドレヲ封印スル? ジャンバラヤは封印シナイデホシイナ?」
「変化」
対象の能力をひとつ封印する。変化魔法を封印された佐倉杏子は、これで手数を七つは封印された。
「これでもう《
天乃鈴音は二丁拳銃の弾幕を張る。スタンドで急所をガードすれば、非スタンド使いである佐倉杏子の攻撃はほぼ無効化できる。
「────ペルソナ」
「!」
佐倉杏子は呟いた。火属性のペルソナカード。その象徴は死刑囚。スタンド名は────
「《
赤色の人型、両耳の形が紫色の瞳。近距離パワー型なのか凄まじいオーラを漂わせる。圧倒的な破壊力とスピードの猛ラッシュは、瞬く間にインセインの弾丸を全て指で掴みとり、同時に天乃鈴音の肉体を蹴りで滅多打ちにした。
「カハッ────!?」
天乃鈴音はビルの外側に吹き飛ばされる。落下。爆発音。恒星の炎の熟練性質・爆発で強引に自らを吹き飛ばしたのか、天乃鈴音は80階あたりの部屋に転がり込んだ。佐倉杏子は追撃するため走って飛び降りようとする。直後、アニマ・マーラは佐倉杏子の耳元に囁きかけた。
「自分のやりたいようにやったところで無駄なんだよ、どっちみち……」
「────!?」
「何をやってもしくじる奴はしくじるんだ……そうだろ? それはあたしであるお前が一番わかっていることなんじゃないのか……?」
「……なんだ、お前……お前はあたしの精神なんだろ? ゴチャゴチャとご主人様に抜かしてんじゃねぇよ……」
「自分を知れ……自分をあざむいて明日があるだと? そんなオイシイ話が……あると思うのか?
「ッ────!!」
佐倉杏子はアニマ・マーラが何を言いたいのか悟って絶句した。
反射的に自らのスタンドを傷付けてでも黙らせようと槍を振るう。
「無駄ァ! 今まで喰わせたパンの枚数を覚えているのか?」
「ハァ、ハァ……ッ! 何が……言いたい……ッッ!!」
「11歳の少女。
「────」
「なぁ。今まで、何人を喰わせた? 子供から大人。男から女。人間から動物。全ての命は等価値だ。だから喰わせてきた。で? それなのに千歳ゆまの死には怒るのか? 憤るのか? なぁ。おかしいだろ? おかしいだろ」
佐倉杏子は、その言葉を聞きたくないと、ゆっくりと首を振る。
「逃げるなよ。甘えるなよ。あたしが手を貸すと思うか? そんな
「……お、おまえは……」
「あたしはおまえで、おまえはあたしだ。それがスタンド。精神の反映。わかっていたくせに。だから佐倉杏子はスタンドを使いたがらなかったんだ。でも使った。だから今こうなってる。自分で自分に説教するとか、聖職者の娘としてはおしまいだよなぁ!?」
「黙れェエエエエエエエエ────ッッ!!!!」
佐倉杏子のソウルジェムが急速的に穢れていく。
今までの悪事の罪悪感が、かえって絶望を深ませる。
どんなに強く耳を塞いでも、罪を告げる鐘は鳴り続ける。
「
「黙れって言ってんのがわからねぇのかァアアアアアア────ッッ!!??」
轟然と響鳴する真紅のソウルジェム。佐倉杏子は、言われなくてもとっくに好きに生きていると言いたげに絶叫し、コンクリートの床に槍を突き立てた。極光。高層ビルの98階から1階までが貫かれて大爆発を引き起こす。
「ぁあ゛あああ゛ああああ゛あああああ゛!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!」
崩落する大量のガレキの中、佐倉杏子は自らのスタンドの全身を分解魔力の刺突斬撃で抹消し続ける。対するアニマ・マーラは自らの本体の全身に猛ラッシュを決めるが、そのことごとくを電光石火のように素早い朱槍で撃墜される。
「《
灼熱に燃え焦る大剣によって、佐倉杏子の胸元が刺し貫かれる。真紅のソウルジェムは決壊し、膨大な魔力を爆発させて自らを分解し雲散霧消した。スタンドたるアニマ・マーラも本体の絶命と昇天に合わせて驚いたように消滅していく。
「スタンドを出して自滅するなんて愚かね……愚か愚か」
天乃鈴音は魔力パターンを感知。頭上から都ひなのとチームななかが落下してくる。天乃鈴音は浮遊する可変結界を足場にして降り注ぐガレキを俊敏に躱し、純美雨の背後に躍り出る。純美雨は拳に鎮静コーティングを施して蒼碧拳を繰り出す。互いの拳が激突。直後、純美雨の拳が爆発した。天乃鈴音のリングには恒星の炎が灯っている。鎮静効果で火力は削減されたが、元々の炎圧が強力であるため無力化まではできなかった。
(時雨華心流 攻式・八之型────《
魔力で生成した水を二刀流の刀身が
「────!?」
そこは砂漠の海。崩落するビルから一転、満月が光り輝く砂漠のど真ん中に立っていた天乃鈴音は動揺する。スタンドが強制解除されてペルソナカードが排出される。いつの間にか絶体絶命の状況が丁寧に用意された。そう直感した天乃鈴音は
(幻覚魔法を使う梓みふゆは確かに死んだはず! まさか────
梓みふゆは殺される瞬間、もしもの備えとして
「同時に殺るぞッ! 梓みふゆが遺したチャンスを無駄にするな!
砂漠の周囲に敵影なし。ただ神浜陣営の雄叫びが残響する。
「
「この策は秘蔵の隠し玉! 時雨華心流
「助け合うのが組織の掟ヨ! 《
「ボクと拳を重ねて! 《
天乃鈴音は渦の炎と銀河の炎を灯し、銀河の炎の熟練性質・分離を駆使して、自らのソウルジェムを火力範囲外に弾き飛ばす。
轟然と爆撃。天乃鈴音の肉体は猛毒に侵されて五体が両断され切り裂かれ打ち抜かれた。最後に試験管が大いなる爆発を引き起こし、キノコ雲を天高く昇らせる。砂漠の海は掻き消えると、舞台は崩壊するガレキの中空に視点が移る。
「殺ったか!?」
「油断なさらぬよう! 直前にソウルジェムを投げていました!」
「それがなんだってんだ!?」
「ソウルジェムは────」
魂。そう告げようとしたた常盤ななかの左側頭部が斜めに抉り取られる。花の髪飾りとして赤く煌めいていたソウルジェムは真っ二つに割れた。常盤ななかが絶命する。スタンドたるユーガラ・ビィも消滅するように昇天した。
「渦の炎の熟練性質は密集。あらかじめソウルジェムに魔力を回すと同時、渦の炎を注入することで、空気中の魔力を集めて肉体再生の速度を飛躍的に高めた」
天乃鈴音は、目の前で落下する自らの死体を意に介さず、空虚の炎を灯す。伽藍の性質は要約すれば吸収。空っぽだからこそなんでも詰め込める。自らの死体から持ち物を吸収して回収。その中にはペルソナカードが含まれていた。
「ペルソナ────《
『────ッ!!?』
もはや神浜陣営の中にスタンド使いは居ない。全て殺された。このままでは不可視の存在に為す術もなく殺される。
「数的不利は手数の差で覆せる」
崩壊するビルのガレキがこのまま地表に激突すれば、周辺一帯数キロは砂塵で覆われる。その前に全てを燃やし尽くそうと天乃鈴音はスタンドのパワーを全開にした。
「それと忘れてない? 《
潜伏していたシズクが姿を現し、純美雨の背中に体当りする。天乃鈴音は炎の剣をただ眼前に置いておくだけで、純美雨は勝手に突き飛ばされてきて刃に髪を掠らせる。直後、貫通概念が髪から流れ、硬化コーティングされた体表が貫かれて、純美雨の胸元に光るソウルジェムが“バリン”と砕け散った。志伸あきらと都ひなのが眼球を震わす。
「事実偽装魔法は
都ひなのと志伸あきらのソウルジェムに亀裂が入る。割れるまでには至らないが、魂の傷は悶絶を孕む。激痛により断末魔の叫びを上げた都ひなのと志伸あきらは、もはや行動不能。天乃鈴音はガレキを蹴って跳躍接近し、二人の衣服に優しく切り傷を刻み込んだ。
「《
轟々と燃え盛る黒焦げの焼死体が二名、力なくうなだれて死亡する。
カメリアの愛ある炎で全焼する建設途中のビル。大量のガレキは燃やし尽くされて、初めからそこにビルなんて建っていなかったかのように、その建造物を焼却した。
バタバタと衣服をはためかせて上空から落下する天乃鈴音は、炎に巻かれるタワーを突っ切って地上に着地。すると天乃鈴音の傍らに天乃鈴音の死体が落ちてきてアスファルトに激突。頭部と全身を強く打って複雑骨折し、鮮血が勢いよく弾け飛んだ。自らの返り血を気にも留めない天乃鈴音は警戒態勢を崩さない。
(加賀見まさら。透明化の使い手。おそらく川の炎の才能がある。……いつ出てくるかと危惧していたけど、ここまで仲間が殺られても出てこないとなると、相当の慎重派か……あるいは、ここには来ていないのか……)
「WRYYYYYY────! 私はスタンドをやめるぞォオオやちよォオオオ!」
「ッ!?」
突として上空から降ってきた巨大なスタンドは、青く美しき人型。全長十数メートルは超えるサイズは、魔女と同規模の威圧感を誇る。真名看破魔法でスタンド名が《
(こいつ……何か危険だ……!!)
膨大な魔力を消費する代わり、エブリシング・ダイヤモンドの経緯と能力を詳細に看破する。それで分かったことは、七海やちよは死ぬ間際にこのスタンドを発現させており、今まで姿を隠しながら暗躍していたこと。そしてアリナ・グレイの気絶時にそのスタンドを吸収し、梓みふゆの死亡時にそのスタンドも吸収、さらには佐倉杏子の死亡時にそのスタンドを吸収し、常盤ななかの死亡時にそのスタンドを吸収することで、とてつもない急激な成長を遂げた。そして今、エブリシング・ダイヤモンドの真の能力が発動する。
「
吸収したスタンドパワーを効率的に取り込むことで超進化。パラメータの限界値を突破した最強のスタンドが、見目麗しい風貌で月夜のもとに降り立つ。
(本体の死亡後に独り歩きするスタンド……! そういうモノもあるのか……っ!)
スタンドのタイプ・外見・性格・能力までもが新たな形へ生まれ変わり、虹色に光り輝く人型スタンドは
「────…………」
「七海、やちよ……」
否、それは
「……結局、私がナンバーワンになってしまうのね」
「!?」
いつの間に極彩やちよは、天乃鈴音の背後に立っていたのか。背中合わせとなっているのに、天乃鈴音は動けない。
「誰かを蹴落として、命を奪って、今の私は最強の位置付けに収まっている。こんなこと許されるはずがない。私は
「……ッ!!?」
まるで光のような速さ。目に見えぬ斬撃。天乃鈴音のソウルジェムの一部が破壊される。
「ガ……《
「……あら? 殺したと思っていたんだけど……」
天乃鈴音は、極彩やちよが目にも止まらぬほど速いと悟った瞬間、事前に銀河の炎の分離効果で、自らのソウルジェムを十個に分けて体のあちこちに配置していた。そのうちの一つが光速斬撃で破壊されたが、残り九つが破壊されない限り死ぬことはない。ただしソウルジェムの一割が恒久的に欠けたことで、天乃鈴音の全体性能が10%ほど低下してしまう。
そしてカメリアとインセインを解除。本体へのダメージフィードバックがない遠隔自動操縦型のガソリンを発現し、極小サイズのため姿が見えない遠隔操作型の
極光。二つ目のソウルジェムが破壊される。視界が眩むほどの激しい光の次の瞬間、同時に三つ目のソウルジェムが破壊された。
「う────ウォオオオオオオオオ!!?」
まさに次元違いの強さと速さを誇る極彩やちよに対し、天乃鈴音は恐怖と激昂が入り混じった雄叫びを上げる。急速的に穢れを溜めていくソウルジェム。その一秒後、天乃鈴音は四つ目のソウルジェムが破壊された。一秒につき一個のソウルジェムのカケラが破壊されていく。このまま行けばあと六秒で────天乃鈴音は絶命する。その絶望がソウルジェムを極限まで震わせて、魂の咆哮が夜空にぶち上がった。
「ここでッ! 死ねないッ!! 私はッ! 私はァアアア────ッッッ!!!!」
五つ目のソウルジェムが破壊される。同時、ソウルジェムに穢れが溜まりきった。自らの魔女化を嫌う天乃鈴音は、もし自分が魔女化しそうになったら自害する覚悟を決めていた。しかし、あまりの衝撃と驚愕と絶望に、ほんの一瞬、自らの穢れの蓄積具合を完全に忘我してしまっていた。
天乃鈴音の左目から魔力とも死ぬ気の炎とも付かない
極彩やちよは動じず、天乃鈴音を切り伏せる。が、突として頭上から降ってきた鳥居に光速の攻撃が阻まれた。天乃鈴音の顔右半分に般若の面が取り憑き、その背中に羽衣が結ばれる。赤い鳥居の頂上に飾られた
「これは────まさか、二体のドッペル……?」
天乃鈴音は魔女の能力をコピーする魔法を有している。名を《写宝剣》────であれば、それは魔女の穢れた魂もコピーして保存しているという事にはならないのか? つまり天乃鈴音は、自分とコピー元の、二つの魂を有している。故にスタンドを二体同時発現可能で、ドッペルもまた二体同時発動可能というわけだ。これなら説明が付くと極彩やちよは合点がいった。
そして天乃鈴音も合点がいく。真名看破魔法を使うまでもない。鍛錬された判断力と洞察力が瞬間的に真実を見抜く。これは魔女化ではなく、半魔女化と呼ぶに相応しき謎めいた現象。そして
「シズク!」
「っ!? まさか!」
天乃鈴音の傍らに滴の使い魔が出現。木属性のペルソナカード“戦車”を与えられたシズクは、主を守るため
「!?」
“ブゥゥゥゥゥン”と間延びするような鈍重音が響き、シズクと極彩やちよの距離が開く。その距離、約500メートル。それ以上の差は開かないようだ。そして極彩やちよは前に進もうとしても499メートルの地点に足を踏み込めない。すぐに500メートルの地点まで“空間に”押し戻される。
『────』
天乃鈴音と極彩やちよは同時に魔力を高速回転。これより遠距離攻撃で勝敗を決すると覚悟した。
「
「
天乃鈴音の蝶々炎蛇。真名を約束のドッペル。その姿はカゲロウ。内なる炎は恩讐を示し、鈴から響き渡る玲瓏とした音色は聴く者の魂を震わせる。全ての魔女を焼き滅ぼし鎮魂の鈴を鳴らすこのドッペルは、同時に、苛烈なる運命を背負う
無限の槍製。橙・赤・青・緑・紫・藍の六色槍。極彩色の槍が億を超えて生成され、極光。またたき、一斉掃射しつつ更に億の槍を生成し続ける。その魔力に限りはないのか。天乃鈴音の眼前に
(シズク!
天乃鈴音の胴体に触れたシズクは穢れが混じる硬化魔力を譲渡する。
(凪・晴・渦・銀河の
天乃鈴音を守る赤椿。真名を仇討ちのドッペル。その姿は鳥居。このドッペルは並々ならぬ憎しみを魔女に向けており、
天乃鈴音の前方地面から可変結界と鳥居で作った二つの巨大な門が急速出現。無数の極彩槍の第一フェーズを受けきること
(修得魔法《口寄せ・二重羅生門》!)
二度目の魔法行使ともなれば、それは即興ではなく開発した魔法として一瞬で行使できる。前方地面から二重の大門が出現。休む暇もない連続魔法行使のせいか、最初より門の
(
二重大門は急速変形し、天乃鈴音の周囲を取り囲むように壁を伸ばす。
本来なら鈍性魔力を使用して弾力を持たせることで、柔和ゆえの金剛不壊たる城塞を作るのが最適である。しかし鈍性魔力は速度が遅いという欠点がある。音速を超える戦闘に間に合わせる為には置き技のような使用法が前提となる。が、今回は光のような速さが相手だ。当然、鋭性魔力を使うしかない。それでも間に合わない。だからDIDで魔力速を含むソウルジェムの性能をワンランクアップさせた。それでも間に合いそうにないのだから、さてどうしたものか。天乃鈴音は死を覚悟した恐怖によって口の端を釣り上げる。
今回もまた無数の極彩槍の第二フェーズを受けきること能わず、二重の円形城壁は粉々に撃砕された。(《
同時、高速飛翔していた蝶々炎蛇が、極彩やちよに差し迫る。一閃。呆気なく切り裂かれた蝶々炎蛇こと約束のドッペルは消滅する。しかし次の瞬間、蝶々炎蛇の体内に隠されていた天乃鈴音の魔法武具・火炎渦巻く
(いくら光速で動けても思考回転力は人並み。突然の事態の変化には光の速さでも対応できない。それが人間の限界!)
かくて旋回する炎の剣は、極彩やちよの頬を掠め切った。
「《
天乃鈴音は
「何をしているの? 無駄よ。私はスタンドそのものになった。スタンドはスタンドでしか倒せない。ただの魔力では衝撃こそ届いてもダメージにはならないわ」
「いいやッ! エブリシング・ダイヤモンドは確かに言っていた!
「────、……」
「詰めを誤ったな! 七海やちよ────ォッ!!」
極彩やちよの全身が轟々と燃え上がる。それは美琴椿から受け継がれし炎。自由の名のもとに
「貴方は強い……本当に強かった……最初は無敵だと思った……絶対に敵わないと思った……でも、あまりにも強くなりすぎたせいで、貴方はスタンドという概念から逸脱してしまった……貴方はスタンドでありながら
天乃鈴音のドッペルが消滅する。ソウルジェムの穢れはいずこかへ回収されて、綺麗な輝きを取り戻した。
「私の魔法は、対象が
「……、────敵ながら天晴れね。でも、私は許さない。これからあなたがすることを、絶対に死んでも許さない」
極彩やちよの玉体が融けていく。やがて液状と化した極彩やちよは、虹色の極光と共に消滅し、その魂が天に昇った。
黄金の風が吹き上がる。廃墟の荒原に突き立つ無数の霊槍は、極彩色の光を放って粒子となり風に攫われて消えていく。
かくして八名の魔法少女の殺害を完了した壮絶辣腕の暗殺者は、吹き
「……終わっ、た────勝ったよ、ツバキ……」
活性魔力で肉体を高速治癒する。刹那、天乃鈴音の素首が切り落とされた。傍らに寄り添っていたシズクは驚愕し、動転する。
「こころの仇よ」
次の瞬間、加賀見まさらは爆撃を受けて吹き飛ばされた。
「なっ!?」
加賀見まさらの目には見えない存在たるスタンド《
(……ソウルジェムではなく首を攻撃した。彼女はソウルジェムが魔法少女の急所である事を知らない……けど、今も遠くから私の動向を窺っているはず。今の一撃で死ななかった私を見て、そろそろソウルジェムが急所である事に気付いてもおかしくない。となると今すぐ殺さなければ脅威になる。おそらく次はない……次はソウルジェムを狙われて確実に殺される。けど透明化されると追跡は不可能。やはり厄介な相手ね……)
天乃鈴音は息つく暇もないとため息をつく。
(それにしても、まさか全員殺されるまで隠れているとは……ここまで来て姿を現さないとなると、さすがに確信が揺らぐところだったわ……この時を想定して恒系リングをガソリンに持たせておいてよかった……独り歩きするスタンドが存在するなら、遠隔自動操縦型だって、私の意識が断たれても行動できるはず。といっても、ほんの数秒で消えてしまったけど……でもその数秒しか持たない反撃装置で、加賀見まさらを撃退することができた)
天乃鈴音は恒系リングを指に嵌め直して荒れた呼吸を整える。
「シズク。アリナ・グレイのソウルジェムを割ってきて」
パトカーのサイレンが遠くより響く中、シズクは姿を消す。高所から落下した無残な少女の死体が二名。梓みふゆとアリナ・グレイ。人だかりを抜けたシズクは緑色のソウルジェムを砕き割ると、天乃鈴音のところに戻って任務完了を知らせる。
パトカーのサイレンが近付いてくる。天乃鈴音は撤退しようと跳躍。ビルの屋上に避難する。そこでシズクが命令していないのに姿を現した。その頭の上には数台のスマホを乗せている。
「……本当にシズクは有能ね。彼女たちのスマホを回収していたの?」
七海やちよ、梓みふゆ、アリナ・グレイのスマホを受け取った天乃鈴音は、魔力を流して画面上の指紋を分析。よく押すパスコードの位置と順番を割り出し、入力、解除。全員のパスコードを覚えた天乃鈴音は、さてこれを使って何をしようかと考えて「そうだ。いい考えがある」と呟いた。
†