アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
夜。夕飯時のみかづき荘。ソファでだらしなく寝転ぶ深月フェリシアは、番組の合間に挟まれた緊急速報を目にする。
『ニュースです。十分前、中央区郊外で建設途中のビル工事現場が倒壊しました。これにより二名の少女が全身を強く打って死亡。死体の身元は判明していません。事故の原因も未だ分かっておらず、光と爆発のようなものが数回起きたという証言から、警察はテロを視野に入れて捜査を────』
深月フェリシアはあくびする。
「なぁいろは~。夕飯はまだなのかぁ?」
「あ、ごめんね……フェリシアちゃん」
「やちよが帰ったら飯なんだよな? まだ帰ってこないのかぁ?」
「う、うん。帰りは遅くならないって言ってたけど、連絡が取れなくて……」
台所に立つエプロン姿の環いろはは、スマホを手に持って七海やちよからの連絡をひたすら待っている。既に夕飯は出来上がっているため、いつでも食卓に運んで食べられる状態にある。ほかの魔法少女もなるべくリビングに集まっており、静かに七海やちよの帰りを待っていた。
その時、通話が掛かってきた。相手は七海やちよ。環いろはは即座にスマホを耳に当てる。
「! やちよさん! 今どこにいるんですか? 帰りが遅くて心配────」
『七海やちよは殺した』
スマホの奥から響いてきた少女の声は、七海やちよとは全く違う鋭い声色。その意味を考えて総毛立った環いろはは、次いで言葉の意味を悟って目を見開く。
「──……あ、あなたは……だれ、ですか……?」
『魔法少女』
「!」
『……。ところで貴方、環いろはって言うのよね? 貴方も魔法少女? それなら今から殺しに行くから居場所を教えて』
「な、何を────」
『状況の主導権を握っているのは私よ。質問に答えなければスタンド攻撃を差し向ける』
「っ!!」
『……。やっぱり、その反応……魔法少女とスタンドを知っていると見ていいのね?』
リビングに集う魔法少女たちが、環いろはの異変を察して続々と立ち上がる。
数秒の沈黙。環いろはは耳朶に直接響く鼓動を必死に押さえ付けながら生唾を呑み込み毅然と問い返す。
「────やちよさんに、何をしたんですか……」
『だから殺したと言っている。そして貴方は魔法少女なのかと訊いている』
「────だとしたら、どうだって言うんですか?」
次の瞬間、環いろはの右耳から左耳へと風穴が突き抜けて、壁と床に赤と白の血まみれ脳漿が撒き散らされた。一拍遅れて頭部破壊の衝撃音が轟く。直立不動の状態で左方向に吹き飛んだ環いろはは白目を剥いてキッチンの向こう側に消えた。バタンと倒れる音。ツー、ツー、と通話が途絶した音が、静寂の中を突き刺すように響き続ける。
「────おねえ、ちゃん────?」
直後、環ういが絶叫を上げる。見間違いでなければ、今たしかに環いろはが死んだ。およそ普通の死に方ではない方法で、おそらく殺された。一同が呼吸という日常を忘れた刹那、暁美ほむらがソファの上を飛び越えて走り出した。
「ッ!」
キッチンの中。横向きに倒れる友の死体。側頭部貫通。死体がビクビクと痙攣している。そのせいか喉の器官を遡って吐瀉物が風穴からドクドク、コポコポと音を立てて泡立ちあふれて流れ出す。グロテスクな死体を目にした暁美ほむらは吐き気を抑えて、涙目になりながら希望を探す。見たくないモノを見てしまう心理を押さえつけ、見るべきモノを探さなければならない理性を働かせる。
環いろはの指に嵌められているシルバーリング。エプロンの陰に隠れて見えない。近付く必要がある。大量の血液と吐瀉物の異臭に鼻を押さえながらエプロンを巻き上げた暁美ほむらは目を見張り、安堵した。シルバーリングは無事だ。つまりソウルジェムは
(これなら────まだ間に合う!)
肉体は死んでも魔力を流せば復活する。それが魔法少女の長所だと悪魔から教えを受けた。その経験が生きた。ソウルジェムは魔法少女の魂。いわば本体。それが無事なら蘇生は利く。環いろはのシルバーリングを取り外して魔力を回し、ソウルジェムに変形させた暁美ほむらは、一気に魔力を流し込んで頭部を蘇生させていく。脳をやられて意識不明に陥っているなら、蘇生の途中で覚醒して錯乱することもないだろう。そう祈りながら暁美ほむらは三割の魔力を消費した。そのぶん穢れが溜まる。衝撃的な光景を目にしたことでソウルジェムの半分が濁った。
ジワジワと頭部を再生。まるで九相図の逆を見ているかのようだ。
「い……いろはちゃん!」
「来ないでください! 大丈夫です! いろはさんは治ります!」
茫然自失状態から立ち直った由比鶴乃が駆け付けようとする。それを暁美ほむらが掠れた大声で制した。台所は立ち入り禁止にした方がいい。あまりにも良くないものが垂れ流されすぎている。やがて頭部が完全に再生する。汚れた血の海に眠る環いろはは健やかな寝息を立て始めた。魔力で探る限り外傷も内傷もない。
「起きて! いろはさん!」
「────ぅっ……ほむら、ちゃん……?」
「良かった! ういちゃん! いろはさんは生きてるよ!」
暁美ほむらの報告を聞いた環ういは、安堵のあまりくらりと尻餅を搗く。それを支える万年桜。
「私……どうして……うわ、なんかベタベタする……これ、なに……?」
「敵の攻撃を受けたんです! 目に見えなかったから、おそらくスタンド攻撃……でも敵の攻撃スピードが早すぎたせいか、いろはさんは自分が死んだと自覚できなかった……だからソウルジェムは割れずに残っていた。そこで魔力を回して頭部を再生したんです」
「……、……えっと……じゃあ、これって……まさか、私の……血……?」
味噌のような臭いのする灰色っぽいモノの正体は考えたくない。環いろはは頭痛がするのか頭を抱えて困惑している。突然の失神に驚き、血と吐瀉物の異臭に嗚咽する。壁と床の赤と灰色の汚れが気になり、料理がダメになっちゃったと呑気なことも考える。そして七海やちよの死を告げられた事を思い出した。
「────そうだ、やちよさん……やちよさんが……っ!」
その時、神浜全土に声が響き渡った。一同は魔力パターンを感知。中央区の電波塔の屋上から広域の念話が発されている。
(────よく聞きなさい。神浜に集う魔法少女たちよ。私は晩鐘を告げる者。七海やちよ、梓みふゆ、アリナ・グレイ、佐倉杏子、都ひなの、常盤ななか、純美雨、志伸あきらは殺害した。ほかにも五十鈴れん、江利あいみ、粟根こころを殺害した。ほかにも50名以上の魔法少女を殺してきたけど、ちゃんと全員の名前は覚えているから安心して)
天乃鈴音のスタンド《
(私が憎い? 私を殺したい? 私に復讐したい? ならばくれぐれも絶望しないように。もし私に復讐せず絶望して落ち込むようなら……彼女たちの死体をいたぶって弄んで犯し、それから貴方たちを殺しに行くから……そのつもりで。それが嫌なら殺しに来なさい。私への復讐を果たす以外に、貴方たちが生き残る道なんてあるわけないんだから)
念話が切れる。そして一同の心中にくすぶる
────
かくして全員、暗殺の恐怖に怯えながら一夜を過ごすことになった。勝負は明日だ。作戦を練って殺しに行く。そのためには一夜という時間が必要だった。各々準備を進める。それはみかづき荘だけではなかった。
†
一方その頃。水名区にて。和泉壮月と嵐虎は路地裏を駆け抜けて亡霊を薙ぎ払い、満身創痍の体で通りに出て転がり込んだ。人気はない。嵐虎はエネルギーが尽きて匣兵器に戻る。亡霊が憑依したゴミ袋の中身が襲い来る。爆発する生ゴミ、弾丸のように飛んでくる空き缶、叫んで引っ掻いてくるぬいぐるみや人形、首を絞めてくるローブ、切り裂いてくるプラスチック容器。
「オラァ!!」
それらを大空の炎を宿した右手と、晴の炎を宿した左手で殴り飛ばす。不意に首筋の生贄の烙印が疼き、血が流れる。強い亡霊の気配だ。ふと軽トラのエンジン音がいななく。閃光。暗がりの中、強烈なライトを照らされて視界が痛んだ和泉壮月は硬直する。その隙を突くように無人の軽トラに憑依していた亡霊は、和泉壮月を殺そうと嘲笑いながらアクセルを踏み込んだ。
「まず──っ!」
次の瞬間、軽トラは文字通り一刀両断された。真一文字に切り裂かれた亡霊は断末魔の叫びを上げて永劫に消え去る。突として現れた和装を翻す老人の右手には妖しい光を放つ骨太の太刀。
「────ったく。こりゃあいったいどういう事態だ。おどろおどろしい気配に
呆然と尻餅を搗いていた和泉壮月は、袖から抜きん出た筋骨隆々の老人の片腕に担がれて屋敷の塀を飛び越える。そして乱暴に地へ放り投げられた。
「だっ!? な、なんだ爺さん……!?」
「おれぁ刀工上桐。ただの鍛冶屋だ。────が、裏の顔は死ぬ気の炎で妖刀を鍛つ裏鍛冶屋でもある」
「────! し、死ぬ気の炎って……なんでそれを知って……!」
「坊主、おおかた悪魔の仲間かなんかだろ?」
和泉壮月は目を見張る。悪魔と死ぬ気の炎を知る人物。生命の危機を助けてくれた事すら忘れて、和泉壮月は必死に食らいつく。
「じ、爺さん、悪魔を知ってんのか!?」
「あぁ。あいつの死ぬ気の炎で刀を鍛造した」
「か、刀を……?」
和泉壮月は蝕の時を思い出す。あの時たしかに悪魔は青い刀を持っていた。もしかしたら悪魔は刀を持っているから強いのではないかと和泉壮月は考える。しかし、それは刀剣作成魔法により作り出した魔力の刀剣である。だがその誤解が、なんの因果であろうか、和泉壮月の成長を手助けした。
「もしかして……悪魔が超能力者と戦えるのは、爺さんが刀を作っているおかげなのか?」
「あぁ? 悪魔にとって刀はただのサブウェポンだろ」
「さ、サブ……そうか……で、でも、さっきの亡霊を斬った刀は……?」
「これか? これは妖刀のまがいものさ。ま、死ぬ気の炎を炉にくべれば、本物の妖刀ができるがな」
その言葉を聞いて和泉壮月は確信した。少なくとも今やるべきことが決まったことで、和泉壮月は周りが見えるようになる。
「────そういや、静かだ……ひっきりなしに何百何千と亡霊が追いかけてきていたのに……」
「あぁ。そりゃそこの蔵で死んでる贋作妖刀の妖力のせいだろ。それでこの屋敷全体が結界みたいになってんだ。よほどの大妖怪じゃねぇと、この屋敷には入ってこれねぇよ」
「……」
しばらくの沈黙のあと、和泉壮月は土下座した。
「……あ? どういう了見だ」
「その……挨拶が遅れました。俺、和泉壮月って言います。助けてくれてありがとうございます。爺さんは命の恩人です。その上で、どうしても頼みたいことがあります。────どうか俺に、妖刀を作ってください!!」
「……」
「今! 超能力者たちがやべぇ奴と戦ってて! 人の命をなんとも思わねぇ奴と死に物狂いで戦ってて! なのに俺は何もできねぇで……夜は結界の中に閉じこもって亡霊から身を守らなきゃいけないのに、どうにかして力を手に入れて加勢したくて走ってたんです! だから、お願いします! 俺に────俺に、みんなを守る力をください!! そのために必要なことはなんでもしますっ! もう一度、俺を助けてくださいッ!!」
上桐氏は歩き出す。無言で和泉壮月の傍らを通り過ぎると、贋作妖刀を死蔵してある蔵を開けて刀を放り込む。そしてきびすを返し再び和泉壮月の傍らを通り過ぎると、炉のある処へ向かいながらポツリと呟いた。
「そもそもこっちは閻切のリベンジがしたくてテメェを拾ったんだ。あたま下げられなくても作るつもりだったよ。むしろ坊主を脅してでもな」
「────!」
「妖刀鍛造のコツは掴んだ。何が出来るかは坊主の死ぬ気の炎の純度次第だ。悪魔はどす黒くて適わなかったが、坊主なら平凡そうだがその愚直さが善かれ悪しかれ真っ直ぐな妖刀が鍛てるだろう。さっさと炉に死炎をくべろ、青二才」
「っ────! ありがとうございます!!」
代々上桐は早業を得手とする。品質は落さず
†
一方その頃。深夜の大東区。八人家族が川の字で雑魚寝している。貧しいながらも倹約して懸命に生きる大家族。そのうちの一人がパチパチと火花を散らして真っ黒な焼死体と成り果てていく。その体に抱きつく弟妹たち。魔法少女を燃やす魔力の炎は、通常の炎とは異なり、一般人を傷付けることはない。そのように改良してある。
「姉の最期の体温よ。存分にカイロ替わりにして骨の髄まで刻んでおきなさい」
燃え上がる姉。温かい焼死体を抱き枕替わりにする弟妹たちは健やかな寝息を立てて熟睡する。燃えている体の持ち主は眞尾ひみか。翌朝家族が目覚めた時には、もうそこに姉の姿は塵一つ残っていないだろう。天乃鈴音は陽炎で姿を消し、夜の街を跳んでいく。
†
深夜。大東区の団地にて。相野みと、伊吹れいら、桑水せいかは、キリサキさんの念話を受けて集合し、同じ寝室で一夜を過ごそうとしていた。全員熟睡している。
それを遠巻きに観察する天乃鈴音は考える。先刻の大戦闘で受けたダメージが深い。魔力を回して完全に肉体は回復したが、精神的疲労が芳しくない。その状態で戦闘するのは得策ではない。だが一人くらいなら一撃離脱戦法で持っていける。
暗殺行動開始。陽炎で姿も魔力パターンも消した天乃鈴音は一閃。伊吹れいらのソウルジェムを切り壊す。直後、相野みとと桑水せいかが覚醒。侵入者に驚いている隙に桑水せいかの首が飛んでソウルジェムが割れる。相野みとが絶叫を上げて変身、弓を引く。(《陽炎》)姿をかき消した天乃鈴音は撤退。相野みとは窓から外に飛び出して追跡するが、魔力パターンを感知できない。夜の空に泣き叫ぶような声が響き渡り、天乃鈴音は次の標的を探し求めた。
†
深夜。大東区の廃墟街にて。天乃鈴音は、智珠らんか率いる二木市の魔法少女グループを発見。常に警戒態勢であり奇襲による暗殺は一人でも難しく、囲まれて離脱困難な戦闘に発展する可能性が高い。故に天乃鈴音は撤退した。
†
深夜の工匠区。天乃鈴音は千秋屋から二名の魔力パターンを感知。千秋理子とアシュリー・テイラーが同じ部屋で寝ている。一方の魔力係数が高いため先にそちらを殺したいが、不意にマメジが吠え声を上げた。鋭敏な野性の勘が危険を知らせたのだろう。
(飼い犬なのに勘が鋭い……野性を忘れていないのね。それとも最近、野性を思い出すほどの激動を経験して気性が荒っぽくなったのかしら)
動物は厄介だ。姿も気配も消しているのに、どういう原理なのか説明が付かない方法で魔法少女や魔女の存在に勘付く。
(いわゆる第六感。キツネは地磁気を感覚として捉えて獲物を捕まえる。ゾウは地面の本当に微弱な振動を、鋭敏な足裏から感じ取って仲間とコミュニケーションを取る。……つまり動物には、私たち人間にはない
千秋屋の両親がパジャマ姿で起きてきて、夜空に吠えたてるマメジを宥めに来た。近所迷惑だから辞めなさいと落ち着かせる。遅れて千秋理子が寝ぼけ眼で降りてきた。賢いマメジが意味もなく吠えることはない。それを知る千秋理子は、まさかと思い────陽炎で姿が見えないはずの天乃鈴音の方角を見た。
(────)
目と目が合った気がしたのは錯覚だろう。だが冷や汗をかいた天乃鈴音は即座の撤退を決め込む。千秋理子は、明らかにマメジから敵の居る方向を教えてもらっていた。彼女たちの絆の力を正面から攻略するのは難しい。故に彼女たちは万全の状態で殺そうと、天乃鈴音は次の標的を探し求める。
†
深夜。工匠区の各家庭にて。寝室で熟睡していたはずの魔法少女は焼死体と化して跡形もなくちりと消え去る。
「矢宵かのこ、水樹塁、暗殺完了」
†
深夜。北養区の各家庭にて。同様。
「キャンプファイヤーの季節には、まだ早いんだけど……胡桃まなか、若菜つむぎ。香春ゆうな、暗殺完了」
†
深夜。北養区の山中にて。天乃鈴音は入名クシュを発見。魔女退治をしているようだが、今の天乃鈴音は戦闘を避けている。助けるフリをして接近して奇襲しても防がれる可能性が高い。それほどの強者と見抜いた。撤退を決め込む。
†
深夜の水名区。史乃沙優希の自宅寝室に梢麻友と阿見莉愛が寝泊まりしている。一撃離脱戦法で二名殺害。撤退。天乃鈴音を追い掛けた阿見莉愛は、陽炎で姿を消した殺人鬼に対し、恨み骨髄の絶叫をあげる。
「梢麻友、史乃沙優希、暗殺完了」
†
深夜の水名区。調整屋襲撃を聞いてパトロール中の竜城明日香と美凪ささら。どちらも強く手堅い魔法少女であるため、警戒態勢では奇襲は通用しない。天乃鈴音は撤退する。
†
深夜の水名区。七瀬ゆきかの邸宅にて。ミザリー立会人のウワサが屋根の上に佇む。
「昨日から物騒ですね……この現状を知った悪魔サマは、またとんでもない無茶をなされるのでしょうか……」
真名看破魔法で対象が“ウワサ”なる存在だと判明。不可思議な相手と戦う余裕はない。天乃鈴音は撤退を決め込む。
†
深夜の新西区。いつも通りの手口で。
「春名このみ、暗殺完了」
†
深夜の新西区。秋野かえでの自宅寝室にて、水波レナと十咎ももこが寝泊まりしている。真名看破した結果、一撃離脱戦法でも逆に返り討ちに遭う可能性が濃厚と判明。高い魔力係数から強敵だと判断し、天乃鈴音は撤退を決め込む。
†
深夜の新西区。みかづき荘。護石による紫色の結界が張られている。これに気取られず網を掻い潜るのは難しい。大勢の魔法少女が集まることからも奇襲は困難だ。襲撃しても返り討ちに遭う。天乃鈴音は撤退を決め込む。
†
深夜の参京区。同様の手口で。
「空穂夏希、保澄雫、暗殺完了」
†
深夜の参京区。平凡な家屋。静海このはは起き続けて常時警戒。遊佐葉月と持ち回りで警戒役を交代しており、三栗あやめが奥の部屋で眠っている。その布陣を見た天乃鈴音は一撃離脱戦法を開始。
「警戒した所で、見張り役が一人なら刹那の間も要らないのよ」
静海このはの背後に降り立った時には、既に静海このはの首が飛んでいた。陽炎。消失した魔力パターンを感知した遊佐葉月が起床。静海このはの死体を見て驚愕。犯人はどこだと見渡すと、三栗あやめの寝室に続く扉が音もなく開いていた。慌てて駆けつけると、そこには轟々と燃え盛る真っ黒な焼死体。遊佐葉月は尻餅を搗いて絶叫を上げる。
とっくに撤退していた天乃鈴音は、次の標的を探し求める。
(この街は便利ね。一人だけ死ねなくて絶望してもドッペル化するだけで魔女化しない。殺しそこねて取り残しが出てもドッペル化して自宅を粉砕するだけだから非常に楽。一般人の家族が居る場合、せめてもの情けでシズクが外に運び込んでいるから安心して殺し損ねることができる。……神浜市。数が多い割に、実に殺りやすい街だわ)
†
深夜の参京区。夏目かこは眠らない。常盤ななかを殺された復讐心がオーラとして恐ろしく感じ取れる。背後から奇襲したところで、ソウルジェムの真実を知っているか否かに関わらず、致命傷を与えても最後の抵抗でダメージを受ける可能性が高い。怒らせると執拗で怖いタイプである。今は回復に専念したい天乃鈴音は撤退を決め込む。
(脳髄や心臓を貫かれても数秒は戦い続けられるタイプの生き汚い戦士は相手にしたくない)
†
深夜の中央区。普段の手口で。警戒して起きていた魔法少女たちだが、独りなら造作もない。
「鞠子あやか、綾野梨花、三輪みつね、暗殺完了」
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深夜の栄区。普段の手口で。
「牧野郁実。由良蛍と真井あかり、暗殺完了」
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深夜の栄区。御園かりん宅にて。木崎衣美里と恵萌花が寝泊まりしている。警戒するため起き続けており、アリナ・グレイと都ひなのが殺された件について相談している。一撃離脱戦法可能と判断。陽炎で明かりの点いた寝室に潜入。一閃。恵萌花の首を飛ばす。直後、木崎衣美里は幻惑魔法を使い、御園かりんを連れて行方をくらませた。魔力パターンでも感知できない強力な幻惑魔法である。一瞬の後手により追跡は不可能となった。
「……驚いた。見た目で人を判断してはダメね。都ひなのは中央区代表。その隣に長く居た子なら、それだけ判断力も高く早いと想定しておくべきだった」
天乃鈴音は陽炎で姿と気配を消し、撤退を決め込んだ。
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深夜の南凪区。同様の手口で。
「桐野紗枝と由貴真里愛。枇々木めぐる、観鳥令、暗殺完了」
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深夜の南凪区。高級ホテルの屋上にて。一陣の風の中、紅晴結菜が佇立する。
(……かなり強い。一切警戒を崩さないばかりか、これ以上近付けば勘付かれるような嫌な予感がする……野性の勘? まるで鬼のようなオーラね。今は相手しない方が得策……でもいずれ、また殺しに行くから)
必ず。そう誓って天乃鈴音は撤退を決め込んだ。
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かくして天乃鈴音は、たった一夜で百名以上の魔法少女を掃討した。南凪区の海辺より望む水平線から陽が昇る。夜が明けんとしている。明日は熾烈な復讐合戦となるだろう。その激闘に備えて天乃鈴音は身を休ませる。次に目覚めた時が万全のコンディションだ。
†