アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
早朝。南凪区に建つ超高級高層ホテルの上階にて。強力な遮断魔力により完全密室と化した666号室。どんなに優れた分析魔力をもってしても辿り着けない絶対的安全地帯。その中で悪魔は、きっかり24時間ぶりに寝台から覚醒した。
「────────」
耳の奥がキーンと鳴り続ける。昏倒している間、まるで悶えるほどの激しい頭痛が起きていたかのように。
(なにか……とてもイヤな予感がする……)
悪魔は直感する。
もしかしたら自分は、また────
【時間は不明。場所は裏球針態の中。場面は天乃鈴音という少女が自害し、美琴椿という女性に後を託す光景】
(……それで
人の気配。廊下の方から冷蔵庫が閉まる音。両手に持つチーズと飲料水を置いて百江なぎさが駆け寄る。
「やっと起きたのですか、クマ吉。丸一日も眠っていたのですよ。いったい悪魔契約を何回したのです?」
起床した悪魔の額から熱い湿布が落ちる。それは十分前に貼った冷却ジェルシート。
「……20回」
「────死ぬ気なのです?」
「常にそうだが?」
悪魔契約は莫大な魔力を消費する。その魔力を相手からもらったところで、人体に有害な魔力を回すのは悪魔の役割だ。そうして魔力発作が起きると、身悶えするほどの激痛が襲いかかる。それは精神崩壊を起こすほどの激痛だ。すると脳は身を守るため強制的に意識をシャットダウンさせる。
「……クマ吉。とても悪い知らせがあるのです」
「? 、────」
悪魔は即座に直感した。それは誰かの死の知らせだと。それもひとりやふたりではない。どういうことだ。
「クマ吉のせいでは決してないのです。だからそんな顔をしないでほしいのです……」
悪魔が二十人の魔法少女を助けている間に、それを遥かに上回る魔法少女が殺されていた。
「あれはもはや災害なのです。人はいつか死ぬものなのです。クマ吉が責任を感じる必要はまったくないのです」
悪魔は焦ったように寝台から立ち上がるが、膝に力が入らず崩れ落ちる。「ハァ、ハァ……っッ!!」初めて口から吐き出した吐息は心の臓を震わせて熱した、口の中と唇がやけどするような息吹。焦燥ゆえの過呼吸も相まって地獄のような灼熱の息吹が喉を介して過ぎ去っては吐き出される。
「まともに動ける状態ではないのです。まずは呼吸を落ち着けてゆっくりするのです」
悪魔は何度も立ち上がろうとするが、肘に力が入らず体を持ち上げられない。
その背中を百江なぎさがさすり、腰を持ち上げて寝台の上に座らせた。
「……クマ吉。また無茶をするのですか?」
「そうしないと……誰も幸せにならないだろ……」
「それなら誰がクマ吉を幸せにするのですか? クマ吉は
「……」
「そんな在り方は認められないのです。クマ吉も“ひとりの人間”だということを忘れないでほしいのです」
百江なぎさは遠まわしにミネルヴァの件を責めていた。というより忠告していた。それを直感した悪魔は考える。
「ノブレス・オブリージュって言葉、知ってるか?」
「
「オレはいつだって義理で動いてる」
「その範囲が……なぎさにはどうしても、人間の在り方から逸脱しているようにしか見えないのです……」
悪魔は息も絶え絶えに肩で呼吸している。
「今のなぎさは、クマ吉の考えていることを当てられるのです」
「……」
「キリサキさんを助けようとしているのです。
「…………」
「それ自体は悪いことではないのです。ただ、なぎさが言いたいのは────」
悪魔は小さな頭に手を置いて撫でる。
「わかってる。(オレが休むための)時間稼ぎご苦労」
悪魔は、自分を引き止めようとする幼女に皮肉を吐いてスマホを取り出す。百江なぎさは朝方に悪魔を見つけてから遮断魔力で覆った密室で過ごしていたため、外部の情報をシャットアウトする形となり、現在の死者数が分からない。酸素の取り込み方も、遮断魔力の箱の中に酸素を取り込んだら外部に通じるハッチを閉じ、寝室に通じる内側のハッチを開けることで箱に溜めた空気を取り込みつつ、魔力パターンの感知を避けるという徹底ぶり。
「遮断魔力を解いてくれ。連絡を取りたい」
「……」
窓の外の黒い膜が消え去り朝の陽光がカーテンを透き通って射し込む。同時に一斉送信。ひと呼吸ついている間に五分経過。
佐倉杏子は未読。七海やちよも未読。環いろはは既読無視。暁美ほむらは返信あり。黒江からも返信が来る。返信内容は似たようなもの。七海やちよ含む猛者の魔法少女の多くが殺されたという報告だ。加えて環いろはの様子がおかしいという。
「生存者を捜そう。なぎさ、肩を貸してくれるか」
「……ハァ。まったく、仕方ないのですねぇ……」
悪魔の腰を百江なぎさが抱き締めるように支える。そうやってなんとか立つことができた悪魔は一歩一歩前進する。
†
一方その頃。早朝の大東区・まやかし町では、妖しい光を放つ日本刀に大空の炎を灯して亡霊の群れを斬り殺す和泉壮月の姿があった。
「ドラァッ!」
朝日を浴びて亡霊が消えていく。それでも日陰の薄暗がりでは、未だ足掻く亡霊が付け狙う。刀を持っているため人目を避けて行動する和泉壮月は必然、それら亡霊の生き残りと戦う事になるが、新しく手に入れた刀という武器のおかげで難なく大東区までたどり着けた。
(昨夜は一つの区を渡るだけで六時間も掛かったのに、爺さんに鍛ってもらった刀があれば一時間で神浜市を横断できちまった。晴の炎で体を活性化して自動車のように走ってきたのもあるが、これはなかなか爽快だぜ!)
だが油断できない。それでも敵は次元違いの強さを誇る。まず正面対決では勝ち目がない。奇襲も効果が薄い。和泉壮月に出来ることは、文字通り身を持って出来ることをただ為すだけである。
ふと頭上に人影。何かが屋上から屋上へ過ぎ去った気がする。最初は鳥かと思ったが、明らかに大きさが違った。和泉壮月は団地の階段を駆け上がって屋上に出る。すると目の前には、コスプレみたいな衣装を着た少女が立っていた。その横顔には見覚えが有る。
「────っ!? 相野じゃねぇか!」
「────! え、弟くん!?」
相野みと。同じ大東区の出身だが学校は別々。新西区の神浜市立大学附属学校に通っている後輩だ。壮月にとっては、姉と知り合いという程度の情報しか持ち得ない。
「だから“弟くん”ってのやめろ。こっちは先輩だぞ。……っていうか、なんだその、コスプレみたいな服は……」
「────! あ、いや、これはちょっと……」
相野みとは逃げ出そうとする。
「あ、ちょ、待ってくれ! 相野も超能力者なのか!?」
「────え?」
「さっき空を跳んでたの見たんだ。もう言い逃れできねぇぜ。オレは超能力者を知ってる。姉ちゃんもみたま姉さんもみかげもそうだった。姉ちゃんと知り合いなのは
「え、えっ!?」
「頼む。今なにをしようとしてんだ? もしかして────
「────────」
相野みとは目を見張る。
「……そういや、お前らいつも三人でつるんでたろ。……あいつらは、どう、したんだ……?」
そう和泉壮月が問いかけた直後、相野みとの両目から“ぶわっ”と大粒の涙がこぼれた。
「うぇっ!? お、おい、急になん────…………、……いや、まさか……」
和泉壮月は察した。眼前の後輩の泣き顔を見て、伊吹れいらと桑水せいかの末路を悟った。
「────付いてきてくれ。俺はみたま姉さんとみかげの仇を討つ。そのために今は姉ちゃんを探してる。俺なら姉ちゃんの居そうな場所に見当がつく」
「……弟くん。君は……」
「ぶっちゃけ俺の方が足でまといだけど、ここは任せてくれ。姉ちゃんを引っ張り出せるのは俺しか居ねぇはずだから」
和泉壮月は走り出すと、晴の炎で脚力を強化。屋上の端から跳躍し、ギリギリ隣の団地の屋上に着地した。
「っとぉっとぉ!? っぶねぇ……だ、だけど、ほら! 移動はなんとかなるからさ! 急ごうぜ。付いてこい、相野!」
「……!」
和泉壮月は大東区の廃遊園地に向かって駆け出す。無自覚天然厨二病の和泉十七夜なら、きっとそれっぽい場所をアジトにしているはずだ。
そうして和泉壮月と相野みとは廃遊園地が見える湖に辿り着いた。廃遊園地に行くには湖を迂回するしかないが、最初から迂回しないで湖に来たのには理由がある。
「廃遊園地を根城にしてそうだけど、それを眺める湖の方も根城にしてそうな確率が高いんだよな……そっちの方が、なんかそれっぽいし……」
その勘は当たった。相野みとが大量の魔力パターンを感知する。
「っ! 弟くん! ここ、魔法少女がいっぱいいる!!」
「は? 魔法少女……? ────っ!?」
木陰からゾロゾロと黒い仮面に黒いローブを羽織った仮面集団が現れる。和泉壮月は刀を構えて、相野みとは弓を構える。が、その警戒は杞憂に終わった。ナイトメア・モスカを引き連れたエッダが二人の前に姿を現す。石仮面を身につけたエッダのソウルジェムは欠けているが、今まで以上の風格を醸し出して湖を背景に佇んでいる。
「壮月……なんて無茶なことを」
「姉ちゃん!」
「……いや、誰がお前の姉ちゃんだ。我が名はエッダ。常闇騎士団の首魁である」
「ふざけたこと言ってねぇで、これからどうするか話し合おうぜ! もう知ってんだろ? ふたりが殺されたんだ! 相野の友達も殺られた! 超能力者はみんな次元違いの強さを持っているけど、それでも今回の敵はヤベェくらい強い! それくらい素人の俺でも見りゃわかる! このままじゃ全滅だ! どうする? 俺は仇を取りたいけど……勝てないと判断するなら逃げるのも手だ。姉ちゃんの考えを聞かせてくれ!」
和泉壮月は、姉に負けないカリスマ性のある言葉を発して啖呵を切る。魔法界のことなど何も知らない一般人だったはずが、なかなかどうして運命の荒波に揉まれて急成長した。元々その素養があったのかは定かではないが、和泉壮月は徹底抗戦か生存競争かの二択を迫る。
「────無論、徹底抗戦だ。仇討ち以外に生き残る道はないだろう。逃げたところで追われて殺されるだけだ」
「追われて殺される? やっぱ何かを知ってんだな、俺より……そりゃ当然か」
「奴の名は天乃鈴音。その名が知られる前はキリサキさんと呼ばれていた魔法少女の大量殺人鬼だ」
「魔法少女……? なんだ、超能力者ってそういう言い方もあるのか」
それなら自分は魔法使いになれるだろうかと和泉壮月は考える。
「……先ほど悪魔について聞いたな。……みかづき荘だ」
「え?」
「そこに悪魔はいる」
「────! じゃあ、悪魔と協力すれば……!」
「そうだな。勝ち目はあるだろう。だが昨日の時点で悪魔は現れなかった。もしや既に……」
和泉十七夜は最悪を想定する。
「いや、それは早計か。天乃鈴音は魔法少女のみに狙いを絞っていた。きっと悪魔の方も何かしらの事情があって助太刀できず、表に出てこられなかったのだろう。おそらく今のあいつは、一番手痛い失態を犯したと、自らを責めているはずだ」
「悪魔は何も悪くねぇだろ?」
「あぁ。だがあいつの心を読んだ私は……。……いや、今はそれより。天乃鈴音が徘徊する神浜市の安全圏は、もはや常闇騎士団か、みかづき荘か、マギウスのいずれかしかない。この三勢力が手を組まない限り、天乃鈴音を倒すことは難しいだろう。なぜなら奴はあまりにも魔法界と死炎界に精通しているからだ。おそらく
「んじゃあ今からみかづき荘とマギウスの所に行って共同戦線を打診しに行こう」
「マギウスは不可能だ。打診するなら、みかづき荘しかない」
「そうなのか? その理由を聞くのは……飛びながらでもいいだろ。姉ちゃんの力なら一瞬のはずだ。こっから一気にそこまで連れて行ってくれよ」
「その前に────人を待っていてな。だが今ちょうど来たようだ」
常闇騎士団の構成員が帰還する。その部隊の中には千秋理子とアシュリー・テイラーが連れてこられていた。
「……あんな小さな子まで超能力者なのか」
「ここを安全地帯として東側の生き残り魔法少女を集めている。戦闘に参加する者は作戦に同行し、戦闘を厭う者はここに残していくつもりだ。これより部隊編成に入る。壮月、相野みと、千秋理子、アシュリー・テイラー、諸君らの覚悟を問わせてもらおう」
エッダは問いかける。
「俺は行くぜ。仇を取る」
「私も……友達の仇を取りたいです」
「みんなの命が危ないんですよね……? なら、私も戦わせてください!」
「私も参加しマス。きっとお役に立てるはずデス」
かくしてエッダ率いる常闇騎士団とその協力者たちは遠征を始めた。目指すは西側。打倒、天乃鈴音のために────。
†
朝方。水名区の神浜現代美術館。悪魔と百江なぎさは霧の炎と構築魔力を使い、閉館中の美術館へ侵入。悪魔の手持ちにあるカモフラリングで監視カメラや警報センサーを誤魔化し、刀剣コーナーに到着する。大空の炎で強化ガラスを融かし、腕を伸ばして“妖刀・神切”を掴む。強化ガラスから腕を引っ込めると調和の力でガラスは元通り。故に盗難警報は鳴らず、フロアは静寂に包まれている。
「……夢を叶えたら返します」
自分勝手な事を言っているのは承知している。だが今は緊急事態ゆえ、なりふり構っていられない。力が欲しい。
「クマ吉。今の状態で戦闘は厳しいのです。悪魔契約の代償で、あまり魔力は使えないと見るべきなのです」
「分かっている。だからこうして死炎装備を盗んででも集めているんじゃないか」
今の悪魔は通常の力の半分も出せない状態にあるだろう。逆転勝利の呪いが発動すれば際限なくパワーは上昇するものの、既に満身創痍の状態でパワーが引き上がれば、その後の反動が怖すぎる。二日、三日、否、また大きな無茶をすれば一週間は死んだように眠ってしまってもおかしくはないだろう。
神浜現代美術館を後にする。
「ぐっ……」
「──クマ吉?」
悪魔は胸を抑えて両膝をつきうずくまる。魔力発作の前兆である。
「やっぱり無茶なのです……まともに歩けないのに戦闘なんか出来るわけないのです!」
「逆転勝利の呪いが発動すれば、少しは動けるようになる……」
「それは
「あぁ。だろうな。だが同じことを何回も言わせるな。
「動けないのに死炎装備を集めて何ができるのですか!」
「出来るさ。色々とな。例えば……晴の炎を解禁する」
「────!」
悪魔は寿命が縮むからという理由で、今まで頑なに晴の炎を使おうとはしてこなかった。
「……本気なのですか?」
「少なくとも、今は命を懸ける時だ。
「…………。それでも、なぎさがいるのです。無援ではないのです」
ふと百江なぎさは数人の魔力パターンを感知。上空から竜城明日香、美凪ささらが降ってくる。
「悪魔殿! ご無事で何よりです! しかしその青ざめた顔はいったい……!?」
「久しぶり。随分と体調が悪そうだけど大丈夫?」
「……自分の心配をしろ。今、命を狙われているのは魔法少女だろう……」
「二人とも。状況を教えてほしいのです。なぎさとクマ吉は昨日の出来事を朝方以降から何も知らないのです」
竜城明日香と美凪ささらは互いの顔を見合わせる。そういうことならと説明をはじめようとした途端、さらに複数の魔力パターンを感知した。四方八方から魔法少女が姿を現す。南側の栄区方面から木崎衣美里と御園かりん。東側の参京区方面から夏目かこが飛び降りてきた。
「おぉ! あすきゃんにささらん! クマ吉に謎の激カワ幼女じゃん!」
「なぎさは“百江なぎさ”なのです」
「んじゃナギーね! よろしくー! ……って言ってもさぁ。ちょっとカラ元気だよね。割と世界は残酷状態……」
「デビ太郎……私たちの目の前で友達が瞬殺されたのです……衣美里が助けてくれなかったら、今頃首なし魔法少女だったのです……」
「キャラ被りの予感がするのです」
「悪魔さん。ななかさんたちが……殺されたって話を聞いて……私……」
各々、気持ちを整理しきれていないのか動揺している。さらに続々と生き残りの魔法少女が集まってくる。頭上から阿見莉愛が飛び降りてきて、七瀬ゆきかとミザリー立会人のウワサも現れた。
「みなさん、こんなところに集まって何を? いえ、別に怖くて魔法少女の多そうな所に来たというわけでは、ありますけど……」
「莉愛様じゃん! 生きてて良かったー!」
「あの、悪魔さん……なんか、起きたら大変なことになってて……」
「わたくしは中立を宣言します。七瀬ゆきかサマを守るためなら全力を尽くしますが、やや厳しいものを感じますね」
全員、悪魔のハーフソウルリングの魔力パターンを感知して、急いで駆けつけてきたようだ。不安で不安でたまらないという心情を直感する。
「────(そうか……そういうことか……ではオレのやることは決まったも同然だな……)全員の気持ちを直感して、大体の状況は把握した。天乃鈴音によって、まとめてベテランと猛者、中堅以上の魔法少女が屠られたのは致命的だ。それでも勝ち目はある。戦いに参加したくない者は並盛町に逃げろ。オレの故郷だ。恭弥アーデルハイトのところに行け。あいつをうまく利用すれば天乃鈴音も敵ではない。──そして戦いに参加する者は付いてきてほしい。これよりみかづき荘に行って作戦会議を立てる」
いの一番にギザギザサングラスをかけ直した夏目かこが前に出る。続いて阿見莉愛が腕を組んで仁王立ちした。竜城明日香と美凪ささらも当然だと言いたげに頷く。木崎衣美里も「よっしゃー!」とガッツポーズを取って脚が震えながらも奮起。御園かりんは逃げたい気持ちと格闘しながら、アリナ・グレイが殺されたという事実から沸々と復讐心が煮えたぎる。七瀬ゆきかは今こそ恩を返す時と判断したのか、恐怖に負けじと頷いた。ならばとミザリー立会人も同行する。
「おそらく何人か死ぬ。敵が魔法少女だけを狙う以上、下手すればオレだけ生き残る結果になる。だが安心してくれ。必ず
「────クマ吉?」
悪魔の謎めいた言葉に首をかしげる一同は、新西区方面に歩き始めた悪魔の背中を追いかけて同行した。
†
朝方。見滝原市。
登校中の鹿目まどかと美樹さやかの前に、美国織莉子と呉キリカが現れる。
「……! 織莉子さん……」
「七海やちよが殺されたそうですよ」
「────え?」
「そしてこれより環いろはは復讐の決死行に臨みます。あなたはそれに同行しなくてもいいんですか?」
そうやってけしかけて鹿目まどかを天乃鈴音に殺させるつもりなのか。
鹿目まどかは警戒する。迂闊に動くべきではないが、美国織莉子の話が本当なら神浜市の現状は良くない。今すぐ環いろは達のもとへ駆けつけるべきだ。
美樹さやかは臨戦態勢。美国織莉子に関しては“鹿目まどかを付け狙う魔法少女”として話を聞いていた。それ以上の情報は知らない。呉キリカと視線が激突する。
「まどか。あんた最近、アタシに隠し事してるでしょ」
「────え?」
鹿目まどかは魔女化やソウルジェムの真実のことが脳裏をよぎる。
「まぁ向こうで友達できたってことでしょ。それでマミさん捜しが捗るなら何よりだ」
「さやかちゃん……」
「ここはアタシに任せて。急いで殺人鬼から友達を守って、そして絶対無事に帰ってきて」
「────うん。約束する。じゃあ、行くね!」
鹿目まどかは走り出す。残された美樹さやかは美国織莉子を睨んだ。
「私たちは何もしないわ。それより友達を死地に送り出すなんて、ひどいことをするのね」
「あんたの思い通りにはならない。あんたがまどかをどういう理由で狙っているのかは知らないけど、命を狙っていることは分かっている。まどかとほむらは隠してたけど、さすがに事の深刻さは理解できる」
「相変わらず察しの良さは無駄に高いのね。なら鹿目まどかとキリサキさんが戦ったらどうなるのかも察しがつかない? 一度剣を合わせたことがあるあなたなら理解できるでしょう?」
「っ……」
「私たちは死にたくないから家に帰るわ。監視したいならすればいい。その間にお友達が無慈悲に殺されているでしょうから。それこそ私の思うツボというものではなくて?」
美国織莉子と呉キリカは立ち去る。その後ろ姿を舌打ちしながら見切った美樹さやかは駆け出した。鹿目まどかを追いかけて神浜市に向かったのだ。
美国織莉子は未来を語る。
「ふたり……それ以外は全て死んだ。けれどその先が真っ暗……観測不能領域……つまり誰かが悪魔契約を交わした。生き残ったふたりのうち、誰が悪魔契約を交わして、どういう未来に落ち着くのか……先が読めないわね。どうか鹿目まどかが殺されたまま終わりますように……」
美国織莉子は祈り、嗤う。
「どうせ、その後の“
†
朝方。みかづき荘の門扉前にて。悪魔一行はチームももこと邂逅する。
「お、悪魔……!」「無事だったのね」「みんな集まってる……」
十咎ももこは語る。危険を承知で分析魔力を回し、新西区を走査した結果、魔法少女の数が激減していた早朝の恐怖を。それでみかづき荘の面々が心配になり急いで駆けつけてきたのだという。
「こっちも生き残りはこれだけだ。これから作戦会議を開いて────」
ふと、みかづき荘の玄関が開く。真っ黒な魔法衣装を身にまとう少女。一同はその見慣れぬ風貌にひどく驚いた。
「────いろは、ちゃん……?」
十咎ももこの困惑。悪魔は直感する。現在の環いろはは
「……ももこさん。悪魔さんも。みなさんおそろいで……みかづき荘を避難先として選んできたんですか? 実はそろそろ呼びかけようと思いまして。黒江さんに頼んで、もしもの時は篭城戦をするように伝えていたんです」
「いろは」
悪魔が名を呼ぶ。
すると環いろはは冷たい目で一蹴した。
「
「オレも行くぜ」
既に魔法衣装に変身している深月フェリシアが玄関より出てくる。魔法武具のハンマーを肩に担いで、無愛想な面でギラギラと鋭い目を光らせている。
「フェリシアちゃん……」
「よぉかこ。お前も来ないか? あいつら殺されたんだろ? 憎くないのか? オレは初めて魔女より憎い奴ができたぜ……いろはは話し合いをするって言ってるが、もし交渉が決裂すればブッ殺してもいいって
「……」
環いろはは黒いローブマントを翻して悪魔に背を向け、十咎ももこの傍らを通り過ぎる。
「お待ちください」「環いろはさん」
そこに天音姉妹が現れた。光と闇の双子魔法少女・天音月咲と天音月夜。
「私たちはみふゆさんの仇討ちを成します」「そのためにどうかお力添えを許してほしいのです」
「……いいですよ。私は環いろはです」
「天音月咲」「天音月夜」『と申します』
「あの……私は夏目かこと言います。同行させてください」
「……! あ、あの……私は御園かりんと言うの。アリナ先輩のことを聞いて……私、黙ってられないの!」
悪魔は直感する。環いろは、深月フェリシア、天音姉妹、夏目かこ、御園かりんの六人は、人間の感情の機微として不自然な情動の流れをしている。まるで復讐心を植え付けられたように。冷静ではない価値判断で衝動的に動いている。まさかキリサキさんになにかされたのか。
「待つんだ、いろは。魔法衣装の変化は無意識か? わざとか? そろそろ気付いているはずだ。その復讐衝動はおそらく敵に
「……わかっています。だからなるべく理性的に行動しているつもりです。あくまで話を聞きに行くだけですから。
悪魔は直感する。本来の環いろはは確かにまず対話を試みるだろう。だが内心では無理矢理な理屈の付け方で
「……だったら行ってこい。ここで説得に手をこまねいて後手に回る方が痛い」
「え、悪魔!?」十咎ももこは「止めないのか」と意外そうに驚く。
「…………」
かくして環いろは一行は立ち去った。キリサキさんを捜しに行ったのだ。それぞれの大切な人を奪われた復讐を果たすために。
「おい……どういうことだよ悪魔。なんで行かせたんだ!」
「さっき理由を説明したろ。いろはたちを先発隊とすれば、オレたちは後発隊……つまり
「お姉ちゃんっ!!」「モキュー!」
その時、体にロープが巻かれた環ういが涙ながらに飛び出してきた。その傍らにリリスと万年桜が寄り添う。
悪魔は直感した。環いろはは復讐に行くのをやめるよう妹から説得を受けており、とうとうそれに我慢ならず妹をロープで縛り付け、その隙に外に出てきたのだと。
環ういは遠くに行ってしまう姉の背中を見て崩れ落ちる。リリスは悲しそうな表情で俯く。震える体を抱きしめる万年桜。やがて、みかづき荘の面々がゾロゾロと玄関より現れた。
「ぐっ……まさか家の中でバトルになるとは思わなかったよ……フェリシアのハンマーのせいで床が粉々だ……」
「明らかにいろはさんは操られてますよね……だって、いきなり性格が変わりすぎて……」
埃だらけの由比鶴乃と暁美ほむらが出てくる。そこで二人は悪魔の姿を見つけて体を軽くさせた。
「うぉわ! 悪魔だー!」「悪魔さん!」
「……久しぶり。だが悠長に話している時間はない。いろはたちが先走ったことで作戦会議の時間がなくなった。あいつらを見捨てることはできない。これより最低限の会議で出立することにする。いろはたちがみすみす返り討ちに遭わないようカバーするためだ」
玄関から出てきてそれを聞いていた鼓星かずみと凪がうなずく。
しかし黒江は、どこか怖そうに魔法少女の面々を見つめていた。
「正直、敵は強い。このメンツでも敵わない可能性が高い。七海やちよ、佐倉杏子、都ひなの、梓みふゆ、アリナ・グレイ、そのほか中堅者を含めた猛者の軍団を倒した実績から想定できる。敵は正真正銘の
それは悪魔だけでキリサキさんと戦うという意思表示だった。しかし周囲は断固拒否する。まるで
悪魔は直感する。
(大小の差はあれ、全員から沸々と湧き上がる出処の知れない復讐心を感じる。だが黒江は正常だ。みんなの話を聞く限り、昨晩、キリサキさんから殺害予告の念話が届いたという。おそらく、その念話を聞いた者が復讐心に囚われている。黒江は魔法少女じゃないから念話をキャッチできない。だから黒江だけ精神汚染を受けていないんだ。オレとなぎさは遮断魔力結界の中に居たから、黒江と同様の理由で精神汚染を受けていない。……厄介だな。完全に敵によって状況を左右されている……)
ならば、その状況に乗った上で勝利するまでだ。
「────わかった。どうしても戦いたいと言うなら同行を許可する」
そこで悪魔は非常に良くない考えが脳裏をよぎる。それは究極超直感の弊害であり、恐ろしく合理に寄りすぎた最悪の思考だった。
(それにどうせ……キリサキさんを捕らえて
ただ問題は……もし自動浄化システムを超えて魔女化した場合、それはマギウスの翼にとって衝撃的な知らせとなる。絶対安全圏と思っていた神浜市に激震が走る展開になるはずだ。自動浄化システムが完璧ではないと思われれば必ず混乱が生まれる。できればそれは避けたいが、そのリスクを背負わないと全員を生き返らせることは叶わない。キリサキさんに殺された子達は、こんなところで死んでいい子達ではない。もっと普通に生きて普通に死ぬべきだ。何より生きてもらった方が、あとあと三人の蘇生を可能にする逸材が見つかるかもしれないし────)
悪魔は、最悪の中の最善を掴むため、その策を思考の片隅に置いておく。最初から最善の中の最善を捨てているわけではない。あくまで最後の手段として、
その考えを読まれていたのか、悪魔たちの前にエッダたちが現れる。
「なかなか外道なことを考えるな。神に近い能力を持つ者は難儀なものだ。生来の優しい顔付きが、今では下衆の顔付きになって台無しだぞ? 悪魔」
「……十七夜……」
「話は聞かせてもらった。
「ならば波状攻撃だ。包囲殲滅で確実に捕らえる」
「では共同戦線、成立だな。我らは次鋒を受け持とう。その方が収まりがいいだろう。常闇騎士団の数であれば
それは、みかづき荘の面々と、その他の魔法少女、そして悪魔のことだろう。
「ともあれ時間がない。我らは環いろは一行を追いかける。なに、我が瞳術があれば天乃鈴音なぞ目の敵ではない」
エッダは常闇騎士団を引き連れて閑静な住宅街を後にする。
取り残された和泉壮月と相野みと、千秋理子とアシュリー・テイラー。彼らは悪魔の前に立つ。
「よぉ、悪魔。随分と捜したぜ……」
「壮月。そうか……」
悪魔は顔を合わせることで、和泉壮月の気持ちを直感。懐から魔属性のペルソナカードを取り出す。
「これを使え。お前のその覚悟なら、妖刀よりは役に立つ」
「んあ? なんだこれ」
「詠唱は“ペルソナ”だ。それは自身の精神をスタンドという形で具現化する
「…………」
「どうした? 力が欲しいんじゃなかったのか?」
「え、あ、おう……でも、なんで分かったんだ?」
「オレは相手の心が読める。それと、ここまでくれば、もう話しても構わないだろう……」
「?」
「お前は深く関わりすぎた。この出来事を世間に公表しないと約束できるなら真実を教えよう」
悪魔は語る。
「まず超能力者とは
「……?」
「ともかく、魔法少女の存在はひた隠しにするべきなんだ。特に、誰かのために魔法少女の存在を公表しようとすれば、その周りは筆舌に尽くしがたい絶望を味わう事になる。過去も未来も滅茶苦茶になる。理由は明白だ。そうなれば
「…………よくわかんねぇけど、みんなの迷惑になるようなことはしねぇよ。死んでもしねぇ。誓ってもいい」
「だから教えた。さて、そろそろ本題に入ろうか」
悪魔は和泉壮月に知恵をさずける。
「この一夜で百名を超す魔法少女が殺されたらしい。敵はオレより上の災害だ。壮月は土砂崩れを相手に戦えるか? 津波に叫んで刀を振って、それに意味があると思うか? それでも役に立ちたいと意気込むなら……未確定だが有効と思われる作戦がある」
「なんだ?」
「敵は魔法少女だけを狙っている。それは裏を返せば一般人は狙わないという事になる。つまり、おそらく敵は一般人に手を出さない。なら、一般人である壮月が戦場に姿を表せば、敵はどういう行動を起こすと思う?」
「……あいつは、オレを殺さない程度に蹴っ飛ばした……おかげで半日ぶっ倒れちまったけど……」
「だが今は妖刀とスタンドがある。そんな壮月が敵の攻撃に耐え続ければ?」
「…………」
和泉壮月は勿体つけず結論を言ってほしそうに眉を釣り上げるが、同時にこれは自分で考えなければいけないことなのだろうと思って首をひねる。
「────そうだ壮月。その発想が正解だ。キリサキさん……天乃鈴音の心を読んだ
「……なるほど。オレが魔法少女の盾になることで、敵は攻撃を尻込みするってことか……つまり
「不服か?」
「いいや。女が命懸けてんだ。男がビビってどうするよ。だが敵が一般人に手を出さないってのはマジなのか? もし残虐非道な奴なら……」
「そこは十七夜の読心魔法の正確性を信じよう。……壮月、一撃で倒れてくれるなよ」
「おう」
悪魔は会話の中で考案した布陣を公表する。
「先鋒隊は環いろは一行。次鋒隊は常闇騎士団。中堅隊はみかづき荘。副将隊はチームももこ。ここまでは連携が取れやすい集まりで隊が構成されている。問題は大将隊だ。有象無象の集まりで統制が取りにくい。よって総大将たるオレの指示に従ってもらう。異論がある場合は独りで勝手に行動しろ。それすらも作戦に組み込むからオレは構わない」
静寂。一度のまぶたの開閉を済ませた悪魔は告げる。
「……異論は無いようだな。では直感だが大将隊の編成を取り決める。
次いで
最後に相野みと。その作戦は危険だと思うのは当然だ。そこで君の固有魔法を借りたい。全員と精神を接続することで一時的な戦線退避を促すんだ。おそらく先鋒隊は引き下がらず巻き込まれるだろうが自業自得だ。気にするな。七瀬ゆきかも運試しで必殺魔法の範囲に留まるだろうから、それも含めての尻拭いをミザリー立会人が単独で行なう」
「ホホッ!? わたくしも含まれているのですか!?」
七瀬ゆきかを守る使命があるのだから当然だろう。忽然と現れる能力を使えば瞬間的な連続救出は可能なはずだ。戦闘能力は持たないが移動能力が高い元ウワサさんだからこそ頼める役割である。故にミザリー立会人のツッコミを無視して悪魔は問いかけた。
「それで……中堅隊のみかづき荘と副将隊のチームももこ。策が欲しいなら知恵を授けるが……どうする?」
そこで黒江と和泉壮月が声を合わせた。
「あの、私はどうすれば……!」「オレは適当にやってもいいのか?」
「黒江と壮月は好きに動け。殺されそうな魔法少女を庇えば、それだけで盾として機能する」
しかし黒江は死にたくないから神浜市に来たのだ。命を捨てるような役回りはゴメンだろう。おそらく戦いに参加しても遠方からの援護に留まるはずだ。黒江はフゥ太にイーピンを任せて家の中に帰す。
対する和泉壮月は最前線で戦う気概を見せている。文字通り死ぬ気で挑むようだ。
「壮月。オレの仲間を預ける」
「え……?」
悪魔は天空ライオンのナッツ、雲ハリネズミのチーズ、雨燕の武蔵を一時的に預ける。
「おそらく敵の暗殺と遁走をどれだけ防げるかによって勝敗が決まってくる。その中で一般人による戦闘参加で敵の虚を突き、暗殺を防ぐ役割を持つ和泉壮月がキーマンになってくると思う。……そのために匣兵器について教えよう。壮月からは大空の炎を感じるからな。──オレの魔法系匣兵器は、大空の死ぬ気の炎で全ての
「でも……いいのか? 悪魔の武器が減るんじゃ……」
「オレは見ての通りこのザマだ。なぎさの肩を借りないとまともに歩けない。後ろから偉そうに指示する事になるが、必ず全員の命は保証すると誓う。たとえ(みんなが)殺されても────」
「なに言ってんだ。死んだらそこで終わりだろ……」
悪魔の言葉の意味を理解できたのは、悪魔契約による死者蘇生を知る者のみ。
そこで百江なぎさと十咎ももこが聞いた。
「クマ吉。いちおう聞いておくのです」
「アンタの策ってのが、アタシたちの作戦より優れているならね」
「話は簡単だ。包囲する。先鋒隊と次鋒隊の編み目を塞ぐように人数を拡散し、部隊を展開するだけ……とにかく天乃鈴音を逃がすな。おそらく敵は一撃離脱戦法の逃避行に長けている。分析魔力と発散魔力、対象感知魔法等に優れている魔法少女は、常に敵の位置を探って逃げる隙を与えるな。……加えて念話も隊内で固定しろ。別働隊の念話まで傍受しなくていい。戦場に念話が入り乱れることになって混乱することを避けるためだ。隊内の魔力パターンをよく覚えて、それ以外は捨て置け」
悪魔はしゃがみこんで小石を手に取り、アスファルトに白い線を切り込むように入れて図に起こす。
「包囲についてだが、要はドーナツ型……バームクーヘン型……樹木の年輪型だ。中心点を敵として、その周囲の小さな円が先鋒隊。それより一回り大きな円が次鋒隊。さらにそれより大きな円が中堅隊。さらにそれより大きな円が副将隊。さらにそれより大きな円が大将隊となる。このように五重の円を描いて敵を取り囲む。おそらく敵は三つか四つほど円を突破してくる。オレの超直感も合わせて大将隊の円の突破を絶対に防ぐ。すると先鋒隊が敵を追跡して円がごちゃまぜになるはずだ。そこで次鋒隊以降の部隊は冷静に理路整然と移動し、再びきれいな円を組み直す。これの繰り返しだ」
そこで暁美ほむらが聞いた。
「次鋒隊の人たちは、この作戦を知りませんけど……うまく五重の円で固めるという作戦を理解してくれるでしょうか?」
「十七夜は読心魔法が使える。仮に使わなくても奴の戦術眼ならひと目で看破する。特に問題はない。要は団体行動ができない先鋒隊に合わせて、ほか四部隊が動きを合わせるんだ。なりふり構わない奴らを相手にしつつ、整然とした隊列で包囲してくる秩序と混沌が入り乱れた陣形は、さぞ天乃鈴音に冷や汗を掻かせることだろう。戦場に二つ以上の意思が混在して全く息を合わせていないはずなのに、なぜか合っているわけだからな。しかしそれは昨晩の戦闘も同様だったはずだ。よって敵は確実に円を崩しに全力を出しに来る。それをどう防ぐかは敵の行動を見てみないことにはなんとも言えない。必要があればオレが出て全体の動きをオレが調整するから、そこらへんの小難しいことは考えなくていい」
悪魔はまとめる。とにかく天乃鈴音を逃がさないこと。その一点に尽きると。
「さて、そろそろ行くぞ。総員、覚悟を決めていけ。必ず成功して、殺人の連鎖を断ち切るんだ」
『────────』
かくして大勢の戦士と魔法少女は戦地に赴いた。復讐のため、殺人を止めるため、人を救うため。様々な思惑をひとつにまとめあげて魔法軍隊は移動する。それが潰走の始まりだと、悪魔は知りながら────
†
一方その頃。新西区の廃墟街にて。
遊佐葉月は電流操作魔法を行使。それにより透過魔法で透明化している加賀見まさらの存在を知覚する。
「……たしか、加賀見まさらさん、だっけ? あ、そのままでいいよ。今の
遊佐葉月は返答の是非に関わらず二重奇襲作戦を実行段階に移す。
「君が嫌だと思っても、私は利用させてもらうよ。誰が殺しても構わないけど、確実に殺りたいからね……」
†