※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【みんな殺しちゃえばいいんだよ】天乃鈴音〔■■◆◆◆〕

 

 朝と昼の間。北養区の入名邸・寝室にて。

 

「入名クシュ、暗殺完了」

 

 天乃鈴音は塵(チリ)ひとつ残さず死体を焼却して窓辺から飛び立つ。

 

「多くの魔力パターンがこちらに向かっている……そろそろ大戦争になりそうだ。場所を整えた方がいい……」

 

 北養区の中腹にはゴーストタウン化した鉱山集落が存在する。鉱物の採掘中に毒ガスが噴出して立ち入り禁止となった町があるのだ。そこには工事途中の歴史化石展示館や温泉施設、別荘地のビル群が乱立している。

 

 山間部にビル群とは珍しいが、訳を知ればどうということはない。どうやら一昔前、神浜市が新興都市として始まった頃。さるベンチャー企業が北養区の地域活性化のため、若者による田舎暮らしを推奨した。しかし田舎暮らしは毎日欠かさず田畑の面倒を見る必要があるため、オフィス街で仕事してきたサラリーマンにとっては過酷すぎる毎日となる。これでは田舎暮らしを始めようとした若者が、その地獄のような忙しさに根を上げて、まだ都市部の生活の方が楽だと逃げるように帰ってしまう。そこで企業は考えた。む(・)し(・)ろ(・)田(・)舎(・)暮(・)ら(・)し(・)を(・)都(・)市(・)化(・)す(・)れ(・)ば(・)い(・)い(・)のだと。

 

 あぜ道。前後左右を見れば広大な田んぼが山の麓まで続く。北西側の山脈に隠れるように建ち並ぶビル群。南東側の水平線の上には青空と入道雲。とても郷愁的で、ノスタルジックな心を刺激される風景だ。

 

 二輪自動車での移動を推奨された田舎町からトンネルを越えて北西側に赴けば、そこには歴史ある古民家の背景に高層ビル群が密集する。一階部分のフロアは全て店舗になっており、その並びは都市部の駅地下を連想させる。一棟目のビルには生活必需品が揃った大型店舗。二棟目のビルには家具店舗。三棟目のビルには病院と薬局といった複合施設。ほかにもビルごとに一階フロアの店舗ジャンルが異なり、ビルごとにエレベーター式の空中回廊で繋がって、途中でロープウェーのゴンドラもあるなど、移動のバリアフリーが整っている。

 

 まるで理想を煮詰めたような都市と田舎の同居。しかし事業は失敗した。あぜ道を中心とする窪地から見た四方の景色を阻害しないよう山脈の裏手にビル群を隠したのは良案だった。そのせいで古民家の景観が割を食ったが、それは必要な犠牲だと社長は言った。ビ(・)ル(・)か(・)ら(・)外(・)に(・)出(・)れ(・)ば(・)田舎の空気が色濃く残る風景で、自転車でトンネルを超えればあぜ道を中心とした田んぼが広がり、そこから南西側の温泉街や神浜モーモーファーム、展示館や娯楽施設にアクセスして、都市と田舎の行き来を楽しませる作りだったのだろう。いわば大規模な田(・)舎(・)暮(・)ら(・)し(・)遊(・)園(・)地(・)のようなものだ。

 

 しかし。しかしだ。ビルから出ずに生活できるなら、誰もビルから出ないだろう。隣の部屋の番号さえろくに覚えず、隣人との挨拶もなく、多くのビル住民は起床時、一階に降りて買い物を済ませるとエレベーターで空中回廊に上がり、ロープウェーのゴンドラに乗って新西区や参京区の都市部に降りていく。誰も自転車を使って古民家を通らないし、あぜ道を通らないし、誰も温泉街には行かないし、誰も展示館など興味ない。

 

 やがて採掘場から毒ガスが噴出したニュースが流れると、住民の中で不安が広がり次々と離れていった。かくして事業は赤字を貫いて倒産破産。見た目と理想が立派な、もぬけの殻が残された。

 

「────まるでスズネちゃんみたいだね」

 

 ふと、だれかの声が風に乗って届いた気がした。天乃鈴音は気のせいだと思って廃ビルの屋上に佇む。

 

「ここならどれだけ暴れても人命に被害は出ない。おそらくゴーストタウン一帯が消し飛ぶ大激闘になる……臨むところだ」

 

 天乃鈴音は刻々と敵を待つ。自らに怨嗟を燃やし尽くす復讐者を待ち侘びる。

 そのことごとくを殺して救うため、天乃鈴音はいっときの休息時に想いを馳せた。

 

          †

 

 美琴椿。濡鴉(ぬれがらす)の長髪を結び、赤燈色の瞳を秘める美女。中一の頃に魔法少女となり、享年は成人後。最低10年は魔法少女として生き抜いた大ベテランである。

 

 幼い頃に家族を魔女に殺され、その報復を誓ってキュゥべえに仇討ちを願った。願い事は《魔女を倒す力が欲しい》というもの。それにより固有魔法《強化》を獲得。さらに願い事の影響か、魔女文字から魔女の弱点を探る方法を見つけ、魔力の属性を知り、より深い魔力の性質を理解する機会に恵まれ、願い事から因果を分岐して獲得する派生魔法を(家族を焼き殺された)潜在意識から獲得し火炎魔法を得て、固有魔法から因果を派生させて開発する修得魔法も多く手に入れる。そうやって得た知恵と力で、幾多数多の魔女を屠ってきた。

 

 やがて美琴椿は二人目の母を得る。義母の名は柳頼子。剣道家の一般人。最初は二人目の母を受け入れられずにいたが、厳しくも優しい指導に心を鍛えられ、心を許し、師匠(せんせい)と呼び慕うようになる。だがある日、美琴椿は仇の魔女を見つけたことで焦燥し周りが見えず、魔女結界のゲートに飛び込む場面を柳頼子に見られてしまう。娘(・)が魔法少女であることを知らず、助けるため魔女結界に飛び込んだ柳頼子は、使い魔に殺されて死んでしまった。それに気付いたのは、美琴椿が仇の魔女を倒して仇討ちを為したあとだった。

 

 ようやく手に入れた新しい家族。それを仇討ちにより失った美琴椿は、この過ちを二度と繰り返さないため、より一層と鍛錬に打ち込んだ。そして運命と出会う。自分と同じ境遇を持つ幼女。魔女に家族を殺された天乃鈴音である。天涯孤独となった天乃鈴音を見た時、美琴椿は母(・)の顔を思い出した。身寄りのない自分を真剣に育ててくれた大恩ある人物。そして自らの過ちにより死なせてしまった大切な家族。天乃鈴音を自らの境遇と重ね合わせた美琴椿は、二人目の母である柳頼子のように上手く面倒を見られるか不安だったが、見過ごしてはおけないため、身寄りのない幼女を引き取ることにした。

 

          †

 

 魔女により家族を殺された天乃鈴音は、天涯孤独の身の上となったが、美琴椿に拾(すく)われた。歳はそれほど遠くなく、故に姉のような……しかし、その包容力は母のような。ただひとつだけ不思議なことは、時折どこかに出掛けて、何かと戦ったあとのように、顔色ひとつ変えず心配かけまいと夕食を作るエプロンの後ろ姿。

 

 天乃鈴音は幼いながらに気付いていた。きっと美琴椿は、自分の家族を殺したような悪い魔女たちを倒すために出かけているのだと。故にキュゥべえと接触し、契約して魔法少女となるのに時間は要らなかった。願い事は、幼いあまり記憶が曖昧。憧れであり理想である美琴椿のような魔法少女になりたい、といった内容の願い事だったと、天乃鈴音はおぼろげに記憶している。しかし手に入れた固有魔法が《魔女の能力をひとつだけコピーする》という能力なので、おそらく記憶とは違った言い回しで契約してしまったのだろうと天乃鈴音は考える。

 

 ともあれ美琴椿の顛末を想起する。

 

 美琴椿は、まだ幼く未熟な魔法少女である天乃鈴音のために、自らのグリーフシードを譲渡して使っていた。そのために美琴椿は、自らのソウルジェムを浄化することができず魔(・)女(・)化(・)した。多くの魔法知識を有し、その全てを天乃鈴音に叩き込み、ソウルジェムが魂であるという真実さえ知っていたのに……魔法少女がいずれ魔女になるという真実を十年間、知らなかったのは、何かの宿命なのだろうか。

 

 ────きっとソウルジェムが濁りきれば、私は魔法が使えなくなります。これで私は魔法少女を引退することになるでしょうね。

 ────それならこんどは、わたしがツバキをまもる!

 ────ふふ。それは頼もしいですね……。……っ! うっ……!?

 ────……ツバキ?

 

 かくして美琴椿は、天乃鈴音の目の前で悪(・)い(・)魔(・)女(・)になった。そして天乃鈴音は生き残るため、彼女から教え込まれた熟練の知恵と確かな力と不動の心をフル活用し、仇討ちの魔女の能力をコピー。即座に修得魔法を開発して使い魔を一匹たりとも生み出さず、美琴椿だった魔女を完膚なきまでに焼き滅ぼした。

 

 それ以降、天乃鈴音は絶望して塞ぎ込んだ。恩人である美琴椿を喪い、生きる気力は尽き果て、魔女退治にも出かけず引きこもり、毎日じわじわとソウルジェムが濁っていく。魔女化するつもりは無いが、絶望のあまり思考は停止して、ただひたすら食べなくても死ぬことのない体に甘んじて石像のように座って過ごした。何日も、何日も、何週間も、何ヶ月も。

 

 魔法少女は何もしなくても、ただ生命活動を行なっているだけでソウルジェムは濁っていく。精神状態にも大きく左右されるが、まっさらな状態で数ヶ月も経てば、ほぼ確実に魔女化する。しかし天乃鈴音はソウルジェムの輝きを常に半分ほど保っていた。その理由は友の存在にあった。

 

 日向茉莉。美琴椿が住み込みで働く家庭の子供であり、母親のいない日向家にとっては、第二の母のような存在だった。時折、美琴椿によって連れられて遊びに行く。その時は両目が見えない少女だったはずの日向茉莉は、なんとキュゥべえと契約して視力を回復し、魔法少女になっていた。

 

 日向茉莉は美琴椿の死後、声も届かなくなった天乃鈴音の様子を気にして、ひたすら魔女を倒し、グリーフシードを使って、健気に声を掛け続けた。が、それは天乃鈴音にとってトラウマである。だがそのトラウマが天乃鈴音の意識を呼び起こした。

 

 ────ダメ。それ以上やったら、今度はあなたが……。

 ────……やっと応えてくれたね。さぁ、外に出よう?

 

 なぜ助けるのか。それは友だから。

 なぜそこまでするのか。それに理由がいるのか。

 

 日向茉莉は大空を照らす日輪のように暖かかった。

 

 かくして天乃鈴音は友の助けを得て心に活力を取り戻し、日向茉莉と同じ茜ヶ咲中学校に通い始める。そこで同じ魔法少女の成見亜里紗、詩音千里、奏遥香といった仲間と知り合い、もう二度と魔女を生まないため、みんなと協力して生きていくことにした。

 

 ────■■■■■■(ちがうよスズネちゃん。)■■■■■■■■(もう二度と魔女を生まないため、)■■■■■■■(みんな殺しちゃえばいいんだよ)

 

 突として思考が変わった天乃鈴音は、その日の夜、日向茉莉を含む仲間たちを次々と暗殺して火炎の中に葬った。隣町の魔法少女も全て殺害し、きれいになった夜の街を独り眺める。どうしてそのような考えに至ったのか、天乃鈴音は疑問に思えなかった。

 

 なぜならそのように考えて今そうなっているのだから。と(・)、(・)思(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)。

 

          †

 

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