アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
正午。北養区の山中に隠れたゴーストタウンにて。線を引けば六角形となる高層ビルが六棟。地上には屋根に穴の空いた古民家が多数。過去に大雨の土砂で崩れ落ちて塞がれた坑道の隙間からは黄色いガスが今もなお噴出している。南側の視界を塞ぐいくつかの山に孔を
「その景色が楽しみだわ」
これから起きる戦闘は、文字通り地平線を吹き飛ばす苛烈なる死闘となるだろう。
天乃鈴音は六人の魔力パターンを感知する。分析魔力を流し、属性を確認。
「光、闇、光、闇、火、木……。水がいない……だからと言って魔力の属性相性はあくまで低倍率の問題。どれも魔力練度はそれほどでもない。光と木は支援型が多く、火と闇は攻撃型が多い。傾向からして守備が不足気味と目算」
ただし問題は後発隊である。百数名の魔力パターンを感知。分析魔力を発散させて属性を知る。そして真名看破魔法を用い、無数の無数の魔法少女の名前を知る。
「……常闇騎士団。ようやく本気を出してくるのね。和泉十七夜は真の力を隠している。理由は知らないけど日光を極端に嫌うため、緒戦は無理が利かなかったようだけど……今回は日光を浴びてでも私を殺しに来るつもりね。部下たちは頭を潰せば敗走する気概だと考えると……やはり頭は最後まで残しておくべきか」
さらに後方、八名の魔力パターンを感知。属性を分析し、真名を看破する。
「
さらに後方の陣営は、既に真名看破で名前を知っている者ばかり。中には不思議な存在や一般人も混じっている。
「どうということはない。たとえ一般人であれ、邪魔するなら排除するしかない」
分析魔力を流し続けたことで先鋒隊に魔力を気取られた。魔力パターンの位置が急速的に移動する。六人の復讐者は新西区のオフィスビルを抜けて、北養区の自然地形に到着。河川や山岳といった自然的障害物を難なく飛び越えて迷いなく突き進んでくる。
そして天乃鈴音は、ふと環いろはからの念話をキャッチした。
(…………)
(────)
天乃鈴音は無言で待ち構える。環いろはは念話を繋いだは良いものの言葉に迷っているようだった。
(…………)
(──……なんで、こんなひどいことをするんですか?)
(知らない方がいい)
(教えてください。私には用意ができています。だからあなたも用意してください)
(……? 用意? なにを?)
魔力パターンが渦巻く。それは怨嗟の波動。
(あなたがこの世に残す最期の言葉……遺言をです)
天乃鈴音のスタンド《
(いいでしょう。では冥土の土産に教えてあげる。これは特別よ。ここが特異な街だからこそ教えられる禁断の秘密。──私が魔法少女を殺すのは、魔法少女の最期をキレイに飾るため)
(……?)
(魔法少女はいずれ
(、────)
念話の奥で絶句している環いろはは事の次第を察したようだ。
(では、あなたは……キリサキさんは……
(魔法少女は自分で自分の責任を取れない。自分勝手な願いを叶えた後は、勝手に絶望して身勝手に呪いを振り撒く。人々に害をなし、アダをなす。その前に自害すれば尊敬に値するが、多くの魔法少女は『自害なんて出来ない!』と言って泣き出す。故に私が引導を渡す。死すべき時に死ねない迷い子の首を切り落とす。それが私の仕事。魔法少女を殺す魔法少女。殺し屋・天乃鈴音の使命である)
ただの殺人鬼ではなく、信念ある大敵となれば、もはや余計な問答は不要。説得・交渉は望み薄なのだから。それでも諦めないのが環いろはだ。されど復讐心にやつれて
(わかりました。私はあなたを止めなければいけません)
あぜ道を走ってきた先鋒隊がトンネルを抜けてゴーストタウンに到着する。人の気配は皆無。大いに暴れられる空間だ。
環いろは達は田舎町の奥にそびえるビル群を仰ぎ、その頂上に立つ天乃鈴音を見つめる。直後、頭上から大量のスマホが降り注ぎ、プルルルルルと鳴り響くコール音。ドラム缶の上に置かれたラジオがコール音に反応して魔力により稼動、天乃鈴音が録音したテープから『もしもし?』というボイスが流れる。そのボイスを感知した全てのスマホが通話をオンにした。
────《
百本の黄金腕がスマホ画面から突き出て乱舞する。中には、或る黄金腕がほかのスマホを殴り飛ばし、環いろは達に近付ける個体もあった。
(走り抜けて!)
環いろはの号令一下。夏目かこの硬化魔力を付与された一行は駆け出し、全身に黄金乱打を受けつつ地面に当たって跳ね返る大量のスマホから距離を取る。
────《
装甲貫通概念を黄金腕に付与。硬化魔力を突き抜けた黄金腕が一行の胴体を抉り抜く。痛覚遮断により痛みはない。復讐心により恐怖はない。片腕がちぎれ飛び、片脚がちぎれ飛び、胴体に風穴が開こうが、先発隊は前進をやめない。
(月咲さん!)(!)
両手を合わせて
直後、天乃鈴音の首を光矢が貫いた。
「っ!?」
炸裂した喉元。頭と胴体が切り離された。衝撃で頭部が飛ばないよう咄嗟に手で押さえる。魔力の高速再生で喉を修復。
(しまった。格下と侮っていた。おそらく増殖か再現か、何かの魔法……! 一の矢の影に、再現した二の矢を忍ばせていた……! あの中に一人だけ、油断ならない奴がいる……!)
直前、天乃鈴音の首がはじけ飛ぶさまを見ていた深月フェリシアは、今が好機と地面を割って跳躍していた。咄嗟に夏目かこが彼女の全身に硬化魔力を付与。音速に至る深月フェリシアはハンマーを振り上げて憎しみを叫ぶ。
「やちよのカタキだぁああああ!!」
────《
天乃鈴音は後退跳躍。空振りしたハンマーは屋上を叩き割り、ビル一棟の上半分を瓦解させた。
(突出しないで、フェリシアちゃん!)
(うるせぇいろは! こいつを見るとムカッ腹が立つんだよッ!! 人の命をどうとも思わねぇ奴だ!! こんな奴はぶっ殺せばいい!!)
追いつくため環いろは達も音速跳躍。崩れたビルの上に先鋒隊が集う。天乃鈴音は真名看破で治癒・共鳴・窃盗・再現の魔法を知る。
(────御園かりん。あなたはその窃盗魔法で私に何をするつもり?)
(えっ!?)
天乃鈴音は問い掛ける。突然の念話に驚く御園かりん。その中で天乃鈴音は、特に危惧するべき反応はないと判断し、その愚かさに独りごちる。
(そう……知らないの。百メートル圏外から窃盗魔法で私のソウルジェムを奪われると困る……と思っていたけど、ソウルジェムが魂であることを知らないなら形無しね。ただ念を入れて、いつでも《
『笛花共鳴────!!』
共鳴魔法による横笛の魔力。それは聴きし者の脳を揺さぶり、内臓を破壊するハイパー音響。魔力による
「音を出せばみんなに迷惑がかかる……」「そう思って音を使わず戦おうと覚悟していましたが……」
(私の
「音は消さない!」「音を出す!」「このくらいの痛みでうろたえるほど」「我らの復讐心は甘くない!」
天音姉妹の合体魔法・笛花共鳴。続いて環いろはと夏目かこが手を合わせる。敵はベテランを鏖殺した化け物だ。迂闊な接近は死を意味する。故に近付かず敵を倒す。環いろはは一回の賦活魔法で自分と夏目かこに賦活効果を付与。コネクトは一回の魔法行使で二回分の利益が得られるため魔力節約に最適である。それをあらかじめ環いろはに伝えていた夏目かこは、再現魔法で賦活効果を再現。二重賦活効果を得た二人は、かたや光矢をつがえ、かたや栞槍を走らせる。
天乃鈴音は迎撃のため、自身の魔法武具・大剣を生成する。瞬間、それが忽然と消え去った。
「窃盗魔法なの!」
が、それは窃盗させるために生成した大剣である。しかも《
天乃鈴音は首をひねって光矢を躱し、硬化魔力で貫通力を増した栞槍の刺突を横に跳んで躱す。ふと頭上より影。深月フェリシアのハンマーが迫る。一方、環いろはの治癒魔法で御園かりんの全身を包む恒久火炎が消え去った。(っ!?!?)天乃鈴音は激しく動揺する。それは理屈が通らない。ただの治癒魔法では《
「《
────《
深月フェリシアが二つの
(
────《
どれだけ火力が高くても速度が足りなければ回避は用意。身を炎に変えて揺らめき、打ち抜かれたハンマーがビルの地下まで砕いたあと、ゆらゆらと身を寄せ合った火炎が天乃鈴音の体を形作る。そっと深月フェリシアの肩に触れた天乃鈴音は強制コネクト。分析魔力で魔力血管を探し、深月フェリシアの抗魔力を分解、強引に深月フェリシアの増殖魔力を奪い取る。
「ぐあっ!? なんだ、力が……ぬけ……?!」
「猪突猛進の威を借りる」
天乃鈴音はソウルジェムに増殖魔力を回し、自身の肉体を“もうひとつ”高速再生する。
『────っっッ!?!?!?』
どの属性でもない無色透明な魔力で人間の体を丸々一体再生する場合、それに掛かる魔力は膨大にして甚大だ。平均的な魔法少女であればソウルジェムの八割から十割が濁ってしまう。故にグリーフシードは必須だ。でなければ肉体を完全再生しても、すぐに魔女化する危険性が高い。しかし活性魔力や増殖魔力の助けを借りれば消費魔力を節約できる。つまり濁りが減る。平均的な光や闇の魔法少女であればソウルジェムの五割までは濁りを抑えられるだろう。
天乃鈴音のソウルジェムが三割濁る。その傍らには魂なき天乃鈴音Aの死体が倒れている。天乃鈴音は死体に触れてソウルジェムを光らせる。次の瞬間、天乃鈴音Aが起き上がった。
しかしソウルジェムが魂であることを知る環いろはや天音姉妹は思った。
一つの魂で二つの体を操れるものか? 一つの意思で二つの肉体を操るのは、右を見ている時に左も見るような難しい事ではないのか。そんなことをすれば、すぐに二つの体は知覚が交錯して混乱し、いま自分はAとB、どちらの体の手足を操っているのか混乱するのではないか?
その疑問は正しい。そしてその疑問の解決方法のひとつに“並列思考”の魔法魔術が存在する。だが天乃鈴音はそのような魔法魔術を修得していない。であれば、いかようにして天乃鈴音は、天乃鈴音Aの体を動かすのか? その離れ業は今、彼女たちの眼前で明らかにされる。
────《
天乃鈴音Aの肉体に憑依した
「じゃあね」
天乃鈴音は跳躍してビルから飛び降りる。どうやらトンネルの奥より田んぼを通って迫り来る次鋒隊の大軍・常闇騎士団を相手取るためにこの場を離れたようだ。そして環いろは一行の前に佇む天乃鈴音Aは、クールな表情から一変、幼い感じを残す不気味な笑顔で自己紹介した。
「モシモシ? ボク耳串焼きがスキぃ……」
『ッ────っっ!!!?』
スタンドを使ったまさかの離れ業。
それを目にした天音姉妹は戦慄し、環いろはと夏目かこは歴然とした経験の差を思い知る。
†
一方その頃。常闇騎士団はトンネルを行軍していた。前方の逆光に人影。天乃鈴音が仁王立つ。疾走、迫り来る。エッダは読心魔法で狙いを見破り、殺気立って怒号のような号令を発した。
「トンネルを分解して崩す気だ! 総員、脱出しろォ!!」
天乃鈴音の足元から圧倒的な分解魔力が流される。あらかじめ分析魔力によってトンネルの急所を把握していた。急所とはいわば死の線。その線に沿って分解魔力を流せば、いかに堅牢なトンネルでも一瞬にして崩れ去る。轟音。分析によりトンネルの崩れ方も把握していた天乃鈴音は、絶対ガレキに当たらないよう演算した脱出ルートを通って後退。それを読心したエッダは同様のルートを通って追いかける。ほとんどの常闇騎士団は動揺してガレキに押し潰され、生き残りは混乱と恐怖が伝播し、ソウルジェムが急速的に濁っていく。そして大量のドッペルが発現。トンネル上部の山岳が、複数のドッペルの暴力により粉々に吹き飛ばされる。土砂崩れの轟音。爆発の轟音。ドッペルの悲鳴絶叫咆哮による轟音。その度重なる轟々響音は、神浜全土の人々に“遠雷”として認識された事だろう。
「────来い、和泉十七夜。これで一対一だ」
「その戦術眼だけは優れていると────褒めておこう!」
轟音を立てて崩れていくトンネルの中、降り注ぐガレキの雨の合間を縫って、天乃鈴音とエッダが激突する。
分解魔力でコーティングした炎の剣。活性魔力でコーティングした閃光の
「此度は日陰。亡霊巣食う
(……! 詠唱……!?)
「生贄を求めたくば永遠に付け狙い、喰らわんが為に集うがいい。我、その
それはあまりにも不意のことだった。エッダと天乃鈴音の間に、不気味な老婆が立っていた。
「オッパイ吸わせてやるからよお。あんたの
「ターボばあちゃんか、久しいな」
「────!?」
悪霊。ターボばあちゃん。音速で走るターボばあちゃんに背を向けて、かけっこで負けたら呪われてしまう。という
────《冥暗の断罪》……エッダの必殺魔法が炸裂する。一撃で消し飛ばされたターボばあちゃんは断末魔を上げる。その悪霊の力を取り込んだエッダは、本来の移動速度が一時的に
吹き飛ばされた天乃鈴音はトンネルを抜けて、軒を連ねる家屋を数軒倒壊させながら地を転がり、起き上がるも勢いに負けて地を滑り続ける。頭上に影。魔力パターンは和泉十七夜のそれ。ソウルジェムは一割の穢れ具合。
(ありえない。人間の限界を超越した身体操作……活性魔力と必殺魔法を駆使して魔力の消費量が一割? つまり超人的な身体能力は
剣戟。超常的な膂力に蹴り飛ばされた天乃鈴音は石壁を砕き割り、ビル一階のホールに転がる。
「教えてやろう。我が力は石仮面により授かった。我は吸血鬼……歯は猛獣の牙のような犬歯と化し、爪は鋭く伸び、日光を浴びるだけで死ぬようになった。その代わり不老長寿となり、超常的な身体能力を手に入れ、肉体の再生能力も得た。つまり運動においては、魔力を使わずとも音速を凌駕し、魔法少女の世界に追いつける! ──では! その上で魔力を使えばどうなるか!?」
「──神速」
「然り!」
エッダは活性魔力を放出する。音速を超えて神速に至り、音の壁という概念を無効化して、空気という障壁を物ともせず天乃鈴音に追い付いて猛攻を加える。それは物理現象、慣性の法則、あらゆる物質世界の基準を無視した“ありえない”動き。
「化け物。和泉十七夜が魔女化すれば超大型魔女を超える……」
「安心しろ。その前に自害する」
「そのつもりでも、どうせインキュベーターの手のひらの上で踊らされて魔女化してしまう。それが魔法少女の運命だ!」
────《
「貴様を確殺する……吸血鬼と化したことで新たに得た、我が新境地の力を見るがいい!」
────《
(雨の炎と嵐の炎……!?)
万華鏡写輪眼は能力の解析と模倣を可能とする。代償として失明があるが、魔法少女であれば魔力による視力再生で代償を無効化できる。仮面越しでも使える魔眼ゆえ、こちらは警戒するべき能力だ。
一方、絶対遵守誓約は、目を合わせた相手に絶対服従の命令を与える魔眼である。それは仮面越しでは使えない奥義。現在、天乃鈴音とエッダは陽の下にいる。もしエッダが仮面を外した途端、その頭部が陽に灼かれて二度と再生できなくなるだろう。故にこちらは日陰に誘導されない限り警戒する必要がない能力だ。
「
魔双眸融合────三女神顕現。《
ふとした場面転換。いつの間にか天乃鈴音は
景色は田舎風景。眼前にエッダの頭髪。茫然自失とほうけていた天乃鈴音は、懐に潜られて腹部に一撃。拳を貫かれていた。
「《
「長期の幻術────カハッ……!」
仮面越しからの幻術瞳術。もう二度と目を合わせない。天乃鈴音は視界からエッダの黒い仮面を完全に外し、幻術を警戒、エッダの足元だけを見て剣戟を交わす。が、なぜか天乃鈴音は上手く体が動かず、エッダのムチが全身の肉を徐々に抉り散らす。
(幻術を掛けられてから一秒も過ぎていない……なんて強力な幻術……こっちは三日も拷問され続けたというのに……)
(あの地獄の中で正確に“三日”と時を刻み続けていたのか……それもこれも幻術による魔力消費量を換算するため……天乃鈴音、その精神力までも強靭か……)
幻術の拷問により多大な精神的ダメージ。天乃鈴音のソウルジェムは急速的に濁っており9割まで達していた。が、それがみるみると浄化されていく。天乃鈴音の傍らに姿を隠している存在がいる。ようやくエッダは微弱な魔女反応を感知した。
(シズクにグリーフシードを持たせておいて良かった……)
(使い魔にソウルジェムを浄化させているのか……使い魔は基本能力として姿を消す力を持つ。さらに霧の炎で覆って存在を隠蔽していたか……魔力を使わず死ぬ気の炎を使ったのは、我々魔法少女の魔力感知に引っ掛からないため……やはり戦いなれている……こちらの認識の虚を突いてくる……)
不意に天乃鈴音は、二枚目の木属性ペルソナカードをシズクに手渡す。
────《
「なに!?」
“ブゥウウウウン”という重低音が響き、シズクとエッダの距離が遥か遠く離される。
(一旦距離を取る。内臓再生が間に合っていない。和泉十七夜に胴体を貫かれた時、構築魔力を混ざられて体内に不純物を生成された。これを分解しない限り身体活動に支障が出る……)
────《
エッダの肉体が左眼から螺旋を描くように虚空へ収束し、吸い込まれていく。直後、異空間へソウルジェムを置いてきたエッダは、異空間へ繋がる孔を常に開きつつ、その孔から天乃鈴音の傍らに出現した。
「────」
剣戟。炎の剣が翻り、神速のムチが肉片を散らす。
(シズクのスタンド能力が適応されていない……!? しかも和泉十七夜の体のどこにもソウルジェムが付いてない……! 読心魔法でシズクのスタンド能力の詳細を読んだとした場合、それの攻略法を思いついたということか!)
(然り。《
(それでも瞳術の持続行使で膨大な魔力を消費しているはず……そう長くは保たないと見た)
凪の炎を剣に灯す。剣戟。ムチの動きが突如停止する。「!?」疾走。恒星の炎を灯して足元を爆破させ、爆走。エッダは危険と判断し回避しようとするが、鞭を伝って流れ込んできた停止効果が肉体の動作を阻む。
(ソウルジェムは異空間にある。つまり破壊できない。となれば魔法少女は実質無敵。肉体を破壊しても活性魔力の使い手なら安価で肉体を高速再生可能。ならば攻略方法のひとつとして《再生させなければいい》)
「無限の業火に焼かれて死ね────《
「そう来ると思っていた────《
天乃鈴音の炎の剣が、突としてエッダの周りに出現した炎の鎧に防がれる。
「!?」
須佐能乎────それは
対象が死ぬまで燃え尽きない燃焦る刃を受けても、炎鎧骸骨は非生物ゆえ効果がない。その中で仁王立つエッダは、骸骨の炎鎧を動かす。右手に備えるは嵐の炎と分解魔力を混ぜ合わせた火遁の大刀、左手に備えるは雨の炎と鎮静魔力を混ぜ合わせた水遁の大盾。
(死炎と魔力を掛け合わせた忍術……!)
(最近、時女一族とやらが神浜市に侵入してきてな……その相手をしているうちに気付いた。
須佐能乎が大刀を奮う。身動ぎするだけでホールの天井に激突し崩壊、幾本の柱を斬り飛ばし、一棟のビルを倒壊させる。
天乃鈴音はシズクのスタンドを解除して全力撤退。無論エッダは逃がさないと言わんばかりに追跡。神威が切れる前に異空間からソウルジェムを回収。両者、ビルの外に出て隣のビルの壁面を風のように駆け上がる。
(あの鎧の防御力を突破する火力を、こちらは持ち得ない……私は死炎と魔法と忍術で技の多様性には富むが、欠点は一撃必殺と言えるほどのパワーを持たないこと……ああいうシンプルに強い敵は厄介だ……)
(────と、思わせるように仕向けているな……読心魔法で心が読めるからといって、それを鵜呑みにするのは愚か者のすることだ。時に実力者は自らをも騙して秘策を練る。その一意専心ぶりには感心するほかない。故に慢心も油断もせず打ちのめす!)
天乃鈴音は足を止めて壁面を蹴り飛ばし、自由落下。エッダは大刀を突き出して果敢に飛び込む。
(《
(装甲無視概念で須佐能乎を飛び越え私のソウルジェムを貫くつもりか────ならば転換魔力で矛先を変えるだけだ!)
(《
(────)
エッダは神威を使ってソウルジェムを異空間に連れて行こうとする。しかし体が動かない。神威が発動しない。足元が
(────そうか。凪の炎の停止効果を────)
(渦の炎の密集効果で、壁面の裏側に集めていた。ちょうどエッダが立っている足元の地点に)
(それを無意識で────)
(咄嗟の
エッダの須佐能乎は上半身まで顕現していた。足元までは覆っていない。故に下からの攻撃に弱い。そこを突かれた。
しかし、
(須佐能乎、解除)
(! 須佐能乎が動いた!? まさか壁面に触れていなかったのか! 停止効果が働いていない!)
(しかし須佐能乎で迎撃すれば装甲無視の概念攻撃を喰らってしまう。たとえ動けても仕舞うほかあるまい……)
それだけではない。天乃鈴音は長期戦に備えて、常に必要な熱量の死炎や魔力しか使用していない。その倹約家がアダとなった。エッダと須佐能乎の距離は三メートルあった。たった三メートルだが、天乃鈴音の炎の剣が到達する距離をそのぶんだけ稼げた。
既に天乃鈴音の剣先は須佐能乎が居た地点を通過。凪の炎が徐々に弱まり、エッダの体の停止効果が解かれていく。倹約せず多めに注入していれば、停止効果は持続されていたろうに。加えて天乃鈴音は、現在エッダによって体内に構築された不純物により身体操作が難しくなっている。
両者接近。エッダは停止効果が弱まり、なんとかギリギリ首をひねる。するとエッダの側頭部を、天乃鈴音の震える剣先が横切っていく。視線交差。エッダの横を通過して落下していく天乃鈴音は、すかさず剣を翻してエッダの背中を攻撃。
「エッダ様!」「いま援護を!」
そこへトンネル崩落から生き延びた常闇騎士団構成員の
天乃鈴音が地上に着地。その間隙を突いて二名の構成員が遠隔攻撃を浴びせる。それは火縄銃と吹き矢による分解魔力と硬化魔力の二射。それを打ち払いながら天乃鈴音はスタンドを切り替える。ザ・キラーの真名看破で、二名の固有魔法が《旋風》《土石操作》と判明。さらに魔力パターンで索敵する限り、旋風と土石操作により崩落から救出された構成員が数名、近くに潜んでいる様子だった。
恒星の炎を灯した天乃鈴音は爆走。すれ違いざまに《
天乃鈴音は嵐の炎の分析効果で不純物の位置を特定。銀河の炎の熟練性質たる分離効果で肉を引き裂きながら不純物を取り除き、仕返しにエッダに向かって吹き飛ばす。その不純物はあっさり鞭で打ち落とされたが、不純物に付与されていた《可変結界》が発動した。不純物は構築魔力により作られた物質であるため、同じく構築魔力に秀でる魔女結界とはすこぶる相性がいい。その性質の相性を天乃鈴音は利用した。
デタラメな構築結界が縦横無尽に展開されて両者の戦場を一時的に切り離す。
(《陽炎》)
「────逃げられたか。総員! 生き残っている者は我の近くに集まれ! 各個撃破を避けるんだ!」
時既に逸した。あちこちから断末魔と火の手が上がる。一瞬で各地に潜む数名の構成員の所在を分析して突き止めた天乃鈴音は、その息の根を止めたと同時、再び陽炎で行方をくらます。
「────ッ……!」
なんたる早業か。あくまで強者は後に残し、先んじて雑魚の群れを一掃する……戦場の暗殺者とは、こうも恐ろしいものなのか。
(くっ……こちらの連携の弱点を突かれた……! 私と構成員とでは力の差がありすぎる。故に構成員は私の戦闘についてこられず援護射撃が関の山。反対に私が構成員の戦闘に合わせれば、私は周りを巻き込まないように力を抑えて戦うしかない。つまり私は低レベルの力しか発揮できず、構成員と共倒れになりやすい。──天乃鈴音は私としばらく戦闘することで、構成員の加勢が遠方しかない事からその弱点を見抜き、すぐに戦闘方法を切り替えた……! 判断が早い……!)
あちこちから絶叫と火の手が上がる中、エッダは努めて冷静に魔力パターンを探り、一人の構成員に目をつける。彼女は固有魔法《吸収》を持つ。その魔法は
「……っ! エッダ様……!?」
「──命の取捨選択ほどツライものはないな。……お前の固有魔法が必要だ。隙を見つけたらお前の魔法で奴のソウルジェムを奪い取れ」
常闇騎士団は残り二名。エッダと吸収使いの構成員のみとなった。田舎町に束の間の静寂が訪れる。
「そろそろ後発隊が到着する頃か……その渦中に便乗させてもらうとしよう。部下よ、準備はいいな?」
「は、はい……! あ、いえ! イエス・マイロード!」
†