※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【力なき者に大業は果たせない】天乃鈴音

 

 一方その頃。中堅隊、副将隊、大将隊は土砂崩れで塞がれたトンネルの前に到着する。危険だが崩れた山を越えて行かねばゴーストタウンに辿り着けない。山の向こう側で激しい戦闘音。環ういは姉を気にかけて急ぐ。それに続き中堅隊が山を跳躍して駆け登る。それを見届ける頃に副将隊が山を登る。最後に大将隊が、大将たる悪魔と遊撃隊(黒江と和泉壮月)を連れて山を登る。

 

 その遥か後方には、あぜ道をひた走る青年がいた。彼の名は伊勢崎隼人。調整屋で待機していたはずの彼は、やはり居ても立っても居られず、どうすれば良いのかも分からないまま廃屋に倒れていた自転車に跨って行動に移していた。そして今朝、偶然にも大勢の魔法少女が北に向かう場面を目撃。それは魔法少女の存在を捜そうと、建物の屋上ばかり見上げていた成果であった。慌てて追い掛けた伊勢崎隼人は、今こうして崩れた山の向こう側に渡る光景を目にした。

 

「あの先に……何(・)か(・)あ(・)る(・)んだ……」

 

 遠くから見た限りだが、全員険しい表情をしていた。まるでこれから死に赴くかのように。その想像力が正しければ、山の向こうには────あの殺人鬼がいるのだろう。江利あいみと粟根こころを殺害した、憎き悪人が。すぐそこに。

 

「────正直なにがなんだかまったく分からないけど……僕はこの一夜で覚悟が出来た気がする。もうこれ以上あいみやこころのような悲劇を増やしてはならない。だから僕は挑む……掛け替えのないモノを奪う奴を、敵わないから、怖いからって理由で見過ごすことは、どうしてもできなかった。きっとこんな馬鹿な考えを実行に移そうとする僕は当たり前のように殺されて死ぬんだろう。でも、ただ死ぬんじゃない。僕は僕の正義に殉じるんだ。そうすればきっと奇跡が起きるはずだと信じる。だってこの世界には、魔法少女がいるんだから────」

 

 たとえ、その魔法少女が大量殺人を為(な)しても。

 きっと、他の魔法少女が正義を齎(もたら)してくれる。

 

 汗ばむ手でハンドルレバーを握り締めた伊勢崎隼人は、笑い転げている両膝を奮わせて自転車をこいだ。

 

            †

 

 中堅隊(百江なぎさ、環うい、リリス、万年桜、暁美ほむら、鼓星かずみ、ジュリー凪、由比鶴乃の八名)は山を越えてゴーストタウンの手前に辿り着く。そこは森の出入り口。眼前に広がるは、現在進行形で数棟のビルが崩壊し、ガレキが落ちて粉塵が舞う光景。周辺の廃屋は燃え上がっており、ちらりと黒焦げの焼死体が目に映る。

 

 百江なぎさは修得魔法の《迷彩防護(イルーシブ)》を行使。構築と遮断を混ぜた魔力で姿と気配を消す。

 由比鶴乃は《幸運》を行使しつつ分析魔力を発して周囲を索敵。わずかな因果を操作して勝機を引き寄せ、敗因を遠ざける。

 

 ────揺らめく炎の影を感知。

 

「見つけた! 木の上だ!」

 

 数台のスマホが降ってくる。百江なぎさは攻撃と判断して後退。鼓星かずみは本能的に危険を察知して《破壊》を行使。近くを通過する一台のスマホを壊す。直後、まったく同時に全てのスマホが翠色に輝いて爆発した。

 

 爆煙の中、万年桜は環ういを抱き締めて爆発から庇っていた。しかし体は無傷に等しい。それは暁美ほむらやジュリー凪、由比鶴乃も同じことだった。全員の体表を覆う遮断魔力。それは百江なぎさが事前に付与していたもの。

 

「ぐっ……!」

 

 爆発の衝撃で吹き飛ばされて木の幹に背中を打っていた暁美ほむらは起き上がる。刹那、頭上から影なき影。分析魔力で位置を感知した由比鶴乃が体勢を崩しながらも鉄扇を投擲。炎の剣を打ち払う。が、天乃鈴音に武器は要らない。暁美ほむらに手を伸ばす。「炎想(ザバー)──ッ!?」時間停止。暁美ほむらは目を見開いて恐怖する。煙けぶる頭上に天乃鈴音の鋭い眼光と驚(・)き(・)に(・)満(・)ち(・)た(・)顔(・)が停止している。前転するように走って距離を取り拳銃を引き抜いて振り返り構える。照準を頭部に固定。ソウルジェムの破壊が確実だが、全身にソウルジェムのような反応が分散していてどれが本物か分からない。────まさか全て本物だとは暁美ほむらも思わない。それ以前に人の頭を撃てるのか? 撃たねば殺される。それは今までの被害を知れば克明と理解できる。殺るしかない。殺らねば殺られる。鹿目まどかを殺させはしない。彼女を守る為なら文字通り悪魔に魂を売り、なんでもする。それに人の頭なら、既に鹿目まどかで撃っている。

 

 発砲。時は動き出す。落下を開始した天乃鈴音の脳髄を弾丸が貫通する。天乃鈴音は体勢を崩しつつ着地、即座に体勢を調整し、弾痕から血をたなびかせながら疾走。晴の炎による活性で傷口を癒しながら突進してくる。明らかに暁美ほむらを狙っている。それは時間停止の魔法を持つことを看破したからである。インセインによる二丁拳銃の乱射と時間停止能力の封印。天乃鈴音を挟み込むように攻撃行動に出た由比鶴乃と鼓星かずみを牽制し、暁美ほむらは時間停止魔法が使えないことに困惑する。同時、天乃鈴音は上空に魔法武具の凧を感知。着地時に拾っていた小石に嵐と晴の炎を付与、親指の爪で弾き飛ばし、活性速射による早打ちで撃墜完了。渦の炎を灯しながら左手を伸ばして必殺魔法(マギア)を行使する。

 

「炎想(ザバー)────」

 

 天乃鈴音の左腕の中心が円形を象って回転するように炸裂。南側からの狙撃である。必殺魔法の伝播による一斉抹殺が防がれた天乃鈴音は、スナイパー(十咎ももこ)の存在を悟って瞬間跳躍後退。由比鶴乃と鼓星かずみが追跡。ジュリー凪は別方向(東回り)に走り出した。暁美ほむらは戦慄する。頼みの時間停止魔法が封印されているのだ。それは唯一の武器を失ったも同然。背筋に悪寒がおぞける。

 

「っ……やっぱり、強い……いや、強いなんてものじゃない……恐い……!」

 

 やはり身命を賭しての戦闘になる。暁美ほむらは振り返り、万年桜に守られる環ういを見つめる。

 

「──……ういちゃん。ういちゃんは、やっぱり今すぐ逃げた方がいい」

「──!」

「あなたが死んだら、私はいろはちゃんに顔向けできない……それに、正直なことを言うと、私はういちゃんを守れる自信がない」

「……っ……」

 

 それでも環ういは姉を追ってきたのだ。守られるのが当たり前とは思っていない。だが足でまといになっていることは承知している。皆、無意識に環ういを守るよう円陣を組んでいた。その中で彼女は何もできていない。

 

「│私はほむらに賛成。逃げよう、うい。ここは危険│」

「……ごめんなさい。私のことは気にしないでください。これ以上みなさんの足を引っ張ることはできません。万年桜さんもいるし、私は遠回りしてお姉ちゃんを捜します」

「……! そんな……」

 

 環ういは駆け出す。追いかける万年桜とリリス。残された暁美ほむら。その傍らで迷彩防護を纏う百江なぎさは、暁美ほむらと環うい。すなわち後輩と友人。どちらを守るか取捨選択する。

 

(さっきの狙撃……初めからほむらに照準を合わせていなければ間に合わなかったと思うのです……つまりももこは、おそらくクマ吉から指示を受けていたのです。“天乃鈴音は最初に暁美ほむらを狙うだろうから気をつけろ”と……それなら、なぎさは……)

 

 百江なぎさは友人を選んだ。自らの後輩を、強さでは頼りになる仲間に託し、友を追いかけて西回りに走る。

 それと入れ替わるように悪魔が現れた。

 

「能力封印のスタンドか……魔力節約のためギリギリまで発動しなかったのに加え、オレの《ミュージコロジー(共感覚)》で天乃鈴音の感覚をバグらせなければ、初手で殺られていたな」

「悪魔さん……!」

 

 暁美ほむらは合点がいく。確かに時間停止魔法を封印できるなら最初の時点で封印すれば良かったはずだ。そうしなかったのは、そ(・)れ(・)が(・)で(・)き(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)から。暁美ほむらは、天乃鈴音の驚(・)き(・)に(・)満(・)ち(・)た(・)顔(・)を思い出す。

 

「いくら痛覚を遮断しても、いきなり五感がバラバラになれば、誰でも一瞬は混乱する。だが次はないぞ。瞬時に対応・適応してくるはずだ。そうでなければ、やちよや佐倉、アリナやみふゆを同時に相手して殺せるものか……」

 

 悪魔は思う。

 

(それにしても恐ろしい能力の数だ。組み合わせ次第では、あらゆる状況に対応できる。武芸百般ならぬ魔法百般。性能の強さでゴリ押すのではなく、技の多様さで詰めに来るか……)

 

 死ぬ気の炎。魔力。魔法。スタンド能力。忍術。魔女の使い魔。それだけではない。ありったけの戦闘経験の豊富さが多勢に無勢の状況を互角にまで押し上げている。

 

(オレが魔法少女になれば、あんな感じなのかな……)

 

 つたないことを思う。思考を切り替えて戦術を練る。

 

(おそらくほむらを助けたことで、天乃鈴音の真名看破で逆転勝利の呪いがバレた可能性が高い。そうなれば天乃鈴音は、いよいよオレを狙わず殺さず、他(た)の魔法少女の殲滅に勤しむだろう。……命(・)の(・)取(・)捨(・)選(・)択(・)ほどツライものはないな……)

 

 悪魔は見殺しにするつもりだ。しかし見殺しにするつもりはない。

 

「────…………」

「……悪魔さん? 顔が青ざめてます……やっぱりすごく体調が悪いんじゃ……」

「気にするな。思う存分やってこい。これも修行だと思え」

「え……?」

 

 魔力発作を起こす悪魔は木立に寄りかかり、ズルズルと地に滑り落ちる。

 

(全員殺されても、必ず助けるから……)

 

 悪魔は時を待つ。全てを救える時を────

 

          †

 

 赤燈色の炎が翻る段平大剣は、赤色の炎が翻る鉄扇とモノクロに光り輝く杖との間で激しい剣戟を交わしていく。天乃鈴音は魔力パターンを感知して思う。

 

(包囲されている……? ここは窪地。山に囲まれたゴーストタウン。その外周に魔法少女が均等に配置されている。連携の取れた動きだ……おそらく誰かが指揮している。でも包囲を狭めてくる気配がない。つまりこれは……私(・)を(・)逃(・)が(・)さ(・)な(・)い(・)布(・)陣(・)か)

 

 全方位から遠距離支援攻撃が飛んでくる。十咎ももこの狙撃弾丸、相野みとの狙撃光矢。

 

「《翻る炎(パリィ)》」

 

 火炎で狙撃を撒き躱し、インセインの二丁拳銃乱射で牽制しつつ、炎の剣を翻して隙を探す。直後、最遠方にて巨大な魔力反応が現れては消えた。

 

『────!!』

 

 突として由比鶴乃と鼓星かずみが後退跳躍。何か念話でも受けたのか。ふと天乃鈴音の頭上に差し迫る薄紫色の莫大光矢。

 

(必殺魔法(マギア)────!?)

 

 インセインが能力を看破する。マギア名は《華美なる棘(ベラ・スピーナ)》────阿見莉愛による極大光矢の刺突爆発。それを固有魔法《隠蔽》で隠しながら射出していた。光矢の接近に気付いた時点で既に超近距離。疾うに回避は不可能。天乃鈴音は恒星の炎を使い、凪の炎を爆発させて停止効果の炎を噴き出す。しかし、その程度の死炎熱量では莫大な魔力を抑えきれない。時間稼ぎにはなるがそれでも足りない。後退直後、着弾。地面が爆砕して衝撃波が一帯を薙ぎ払う。轟々と燃え上がる薄紫色の魔力。爆風にさらわれる天乃鈴音は中空で身を翻し受け身に備える。殺気。神速のエッダが横合いから現れて天乃鈴音の肋骨を蹴り砕く。きりもみ回転してビルに激突した天乃鈴音は壁とフロアを貫通し、床に剣を突き立てて慣性を殺した。

 

 十咎ももこの魔力パターンを感知。分解活性魔力の狙撃を感知したが、迫り来る魔弾はビルの壁の手前で忽然と掻き消えた。刹那、天乃鈴音の頭部が弾け飛び鮮血が撒き散らされる。インセインが能力を看破。秋野かえでが魔弾に《一時消去》の魔法を掛けていた。それにより壁や柱という物理的障害物を飛び越えて“消える魔球(弾)”を浴びせてきたのだ。

 

(────、厄介だ)

 

 常に回している活性魔力で不足した脳漿を高速再生。狙撃を交わすため疾走、とにかく動き回り上階へ赴く。晴の炎を灯し、再生が遅れても構わない頭蓋骨や肋骨、肉片や皮膚を治癒。障害物に隠れて攻撃をやり過ごす戦術は《一時消去》により無力化された。これからは静と動の中でも動の戦いが重要になってくる。

 

 ────《魔力加速(アクセル)》《魔力強化(ブースト)》……ソウルジェムの魔力速と魔力圧を高める。それはスピードと攻撃力の強化。

 

 建設途中のビルであるため、ところどころ壁が建設されておらず野ざらし状態のフロアがある。そこに出た途端、増殖魔力で分裂した薄紫色の光矢が数百本着弾。木崎衣美里の増殖魔力もコネクトされて混ざっている。固有魔法《魅了》を派生させた《幻覚》効果で着弾時に爆散した魔力の残滓も触れれば感覚に害をなす。凪の炎を灯して熟練性質・無感を使い、幻覚効果を削減。本来なら無効化する効果だが、魔法が相手となれば死ぬ気の炎では削減が関の山だ。視界が酩酊したように霞んで揺れる。

 

「お覚悟を!」「神妙にしなさい!」

 

 竜城明日香の鎮静薙刀と美凪ささらの活性細剣が頭上より差し迫る。炎の剣で迎撃。響音がなり散らす剣戟が空間に破裂する。卓越した武技の薙刀術と秩序組織らしい真っ直ぐで愚直な細剣術の活人剣。対するは殺戮合理のみを追求した殺人剣。殺して活かすか、活かすべく殺すか。陰陽両儀は表裏一体。

 

「いいだろう。認める。昨夜の鏖殺を生き延びた貴方たちは確かに強(・)い(・)。故に出し惜しみ無しで行く」

 

 天乃鈴音の右手には火炎燃え盛る段平大剣。そして左手には白刃閃く二尺六寸(刃渡り約79cm)の大刀(だいとう)。それは美琴椿が使用していた魔法武具・日本刀。

 

『二刀流……!?』

「否、三刀流。西洋剣と日本刀の術理合一。とくと眼に焼きつけろ」

 

 両手に刀剣を備えた天乃鈴音は、さらに《燃焦る刃(バーンエッジ)》を付与した三本目の橙剣(とうけん)を作成した。

 

「《炎舞》」

 

 無数の炎刃が天乃鈴音の周囲に出現し無造作に飛び交う。さらに渦と銀河の炎を灯し、熟練性質の密集と分離を活用。三本目の剣が分離効果で本体から離れ、密集効果で本体に近付く。まるで本体の天乃鈴音を惑星とし、衛星たる剣が旋回するように。

 

 攻防一体の無数炎刃を前に竜城明日香と美凪ささらは近付けない。炎刃に気を取られれば空間を縦横無尽に旋回する橙剣に切られてしまう。ブーメランのような放物線の軌道を描くそれは、徐々に二人の行動範囲と選択肢を狭めていく。このままではジリ貧だ。

 

(時雨竜真流 攻式・七之型 変化────《降りしきる槍の雨》)

 

 竜城明日香の使う時雨竜真流は、もはや一般的な武術奥義から魔法奥義に我流昇華されている。本来の奥義とは掛け離れた、魔法少女だからこそ可能な変異奥義は、されど。竜城明日香の高い戦闘センスにより磨き抜かれて、魔法戦闘用の時雨竜真流として進化を遂げていた。

 

 頭上に溜めていた鎮静魔力を魔法武具・薙刀に錬成。降り注ぐ。

 

「《桜火》」

 

 天乃鈴音の頭上に魔法陣が出現し、結界から業火の炎を噴き出して薙刀の雨を焼き尽くす。

 

(時雨竜真流 守式・八之型────《破(やぶ)らずの雨》)

 

 竜城明日香はその場から一歩も動かず相手の一挙手一投足に全集中する。つと天乃鈴音は隙と見て駆け出した。剣戟。黄色と赤燈色の火花が散る。天乃鈴音に追随する無数の炎刃が美凪ささらの肉体を切り刻む。対する竜城明日香には傷一つない。相手の呼吸を読み切り、最低限の体捌きで躱している。

 

(時雨竜真流 守式・六之型 変化────《鞍置(くらお)け馬(うま)の朝雨(あさあめ)》)

 

 魔力で象った水馬が現れて主(あるじ)を……否、美凪ささらの後ろ襟を噛んで放り投げ、自らの背に乗せていななき走り去る。

 

(な──明日香!?)

「来なさい。受けて立ちます」

「……」

 

 竜城明日香が旋回する橙剣を躱した瞬間、天乃鈴音は踏み込んだ。音速剣戟。青と赤燈色の衝撃波が重なるように轟々と鳴り響く。刃を合わせる瞬間、竜城明日香は薙刀に流し込まれる分解効果を鎮静魔力で抑え刃こぼれを回避。天乃鈴音は刀剣に流し込まれる発散魔力で吹き飛ばされないよう晴の炎の転換効果で発散をいなす。返す二本目の刀で天乃鈴音は凪の炎を流し込む。「!」硬直(停止)した竜城明日香の首筋に白刃が迫る。固有魔法《規律順守》が発動。停止した肉体を規則正しい武術の型で強引に動かす。剣戟。今度は恒星の炎を流し込み爆散させるつもりが発散魔力で散らされた。

 

(炎舞を躱しつつ規律順守で停止効果を免れながら発散魔力でデバフを回避……かつ、一糸乱れぬ呼吸で二刀流の所作を初見で見切りながら適切な間合いを常に保ち、こちらの隙を見つけるまでは膠着状態を維持……旋回する橙剣も当然のように躱している。この人……)

 

「頭の悪さ以外は神懸かり的ね」

 

 インセインによる二丁拳銃が乱射される。非スタンド使いにスタンドは目視できない。強大な魔力反応は感知できても具体的な形までは魔力による分析が必要となる。連射音。が、眼前の竜城明日香は突然の銃声に目を見張りつつ無傷だった。

 

(な────)

 

 インセインは前方の竜城明日香ではなく、後方の美凪ささらに発砲していた。そして能力を看破する。固有魔法《挑発》……攻撃意思の矛先を強制的に変更させられた。

 

(今だ! 時雨竜真流 攻式・九之型────《垂れ穿つ石の雨》ッ!!)

 

 小さな努力も辛抱強く続けていれば、いつか必ず成功する。破らずの雨で我慢し続け、好機を見つけた時に刀を返す反撃奥義。それは必然、相手の隙を見つけて切り出す形となるため、必中必殺の一撃と相成る。

 

(《硬化可変結界》)

 

 天乃鈴音は竜城明日香との間に、シズクの硬化魔力を借りた可変結界を張り巡らす。直後、発散魔力を込めた薙刀により結界は脆くも貫かれた。最高峰の硬度を誇る硬化魔力すら貫く奥義の冴えと発散魔力の練度。薙刀の穂先は天乃鈴音のソウルジェムの一つを捉えて傷を付ける。次の瞬間、穂先から《燃焦る刃(バーンエッジ)》の火炎が奔放と伝って、竜城明日香の手元に引火、またたく間に全身を燃やし始めた。

 

「魂を斬らせて命を断つ……こちらの方が一枚上手だったわね」

「明日香ぁっ!?」

 

 発散魔力で火炎を払おうとしても取り除けない。払っても払っても体に吸着するように燃え尽きることのない火炎が燃え上がる。ならば、た(・)だ(・)で(・)は(・)死(・)な(・)な(・)い(・)。死を覚悟する事で次に繋がる好機もある。穂先の先端に残存していた発散魔力がソウルジェムに流れ込み、一拍遅れて天乃鈴音の六個目の分離ソウルジェムが音を立ててかち割れた。

 

「──っッ!?!?」

 

 魂の破損。意識が明滅する。全身銃痕だらけの白騎士が活性魔力の爆発で肉体を高速再生し、涙声で叫んで細剣を光らせながら突撃してくる。対応しなければ殺される。

 

「も……し、も、し……」

 

 各フロアの柱の陰に隠されたスマホが音声認証で起動する。黄金腕が突き出て柱を掴みスマホもろとも身を飛ばす。細剣が天乃鈴音の喉笛を貫いた直後、美凪ささらの側頭部に黄金腕の拳が貫かれた。脳漿を撒き散らしながら崩折れた美凪ささらはソウルジェムが“パリン”と割れる。天乃鈴音は晴の炎を灯して喉元を高速再生。直後、焦ったような狙撃が猛烈に飛び込んできた。近接戦闘の邪魔をしないため見守っていたスナイパー達は、動きがのろい天乃鈴音を追い立てるように魔弾や光矢を撃ち込み続ける。

 

(美凪ささらがソウルジェムの真実を知らない事が功を奏した。けれどそれは竜城明日香も同じはず……彼女のバトルセンスの高さが今際の際で研ぎ澄まされて本能的にソウルジェムを狙ったとしか思えない。ともあれ私のソウルジェムはこれで十分の四……まさかの手痛い出費ね)

 

 天乃鈴音は問題ないと戦闘を続行する。なぜなら元よりスペックで勝負はしておらず、常に戦術を駆使して暗殺してきた。たとえソウルジェムが十分の一になっても支障はない。故に彼女は文字通り、魂が砕かれるまで殺しをやめないだろう。

 

 階段フロアをぶち抜いて分解活性硬化魔弾と二重増殖光矢・硬化光矢が激発する。崩れた壁から望める景色。あえて外に出た天乃鈴音は壁面を駆け上がる。螺旋階段を登るより速く済む。中層の上部に到達。上層から屋上は完全に破壊されている。あちこちに焼死体。深月フェリシア、天音月咲、天音月夜の死体を確認した。

 

(ゴールドフィンガーの視界を借りれば戦況がどうなっているのか確認できるけど、それは狙撃手に隙を晒すことになる。そしてゴールドフィンガーが三人を殺したという情報が送られてきたから確認しに来たけど間違いなかった。残るは環いろは、夏目かこ、御園かりん……でも戻ってきて。先に邪魔な外(・)周(・)か(・)ら(・)片(・)付(・)け(・)た(・)い(・))

 

 今にも崩れそうな上層から天乃鈴音Aが降ってくる。先鋒隊が追跡してくる前に天乃鈴音は音速跳躍。副将隊(チームももこ)が潜む隣のビルに突撃して転がり込んだ。

 

「────」

 

 天乃鈴音と天乃鈴音Aの眼前には、千秋理子とアシュリー・テイラー、そして焼け焦げたアフロ頭の竜城明日香と、死んだと思っていたら生きていたことに驚いている美凪ささらの四人が立っていた。

 

 ────《ザ・キラー(殺人鬼は愛されない)》……真名看破。天乃鈴音が竜城明日香と美凪ささらの殺害を完了したと確信して目を離し、その場を離れた瞬間。どうやら千秋理子は固有魔法《召喚》で、竜城明日香と美凪ささらの死体を瞬間移動させていた。次いで強力な活性魔力で竜城明日香の燃え焦げる体と美凪ささらの頭部損傷を高速再生。さらに強力な発散魔力で竜城明日香の全身を焼き尽くす火炎を力業で除去した。そうして覚醒した竜城明日香は、自前の魔力を回して黒焦げの内臓を再生し、わざとなのか気付いていないのかアフロ頭は残したまま完全復活を果たし、同様に美凪ささらも完全蘇生を果たした。

 

 対するアシュリー・テイラーは固有魔法《スイッチ》で、事前に美凪ささらの“頭を貫かれて死んだ”という認識を“頭を貫かれたけど死んでいない”という認識に切(・)り(・)替(・)え(・)て(・)い(・)た(・)。おかげで美凪ささらはソウルジェムが割れずに済んだ。しかしソウルジェムが割れたのは事実のはず。確かに天乃鈴音は、その目でソウルジェムが割れる瞬間を見たのだから。しかし目に見えるものがすべて真実とは限らない。──アシュリー・テイラーは無属性の熟練性質・夢現を使えると看破。夢現とは、つまりは幻術。

 

 思えば天乃鈴音は六個目のソウルジェムを砕かれた時、意識が明滅していた。その時に夢現魔力を掛けられていたのだ。さらに言えば先ほどの戦場では、阿見莉愛の光矢に混ぜた木崎衣美里の幻覚作用が魔力の残滓として霧散していた。凪の炎の無感効果で幻覚作用を削減していたが、その幻覚作用に加えて夢現魔力まで加えられた上に、一瞬の意識の明滅を突かれたとあらば、その抵抗は非常に難しくなってくる。

 

(この人たち……ここまで先を読んで……? なんという連携……けれど彼女たちにこれほどの知恵が回るとは思えない……即興にしては出来すぎている……! この戦場、やはり魔法知識に詳しい指揮者がいる……っ!!)

 

 刹那の動揺硬直。その間隙を撃ち抜くように、十咎ももこの分解硬化誘導魔弾、相野みとの硬化光矢、阿見莉愛の分解増殖光矢が狙撃される。天乃鈴音は嵐と凪の炎を灯してシズクとコネクトし《分解停止硬化の可変結界》を行使、三方からの狙撃の雨を完全防御しようと展開される。同時、千秋理子の固有魔法《誘導》が発動。天乃鈴音と天乃鈴音Aの肉体が可変結界から引きずり出された。『!?』硬化光矢と分解増殖光矢は可変結界に激突して相殺。一方、分解硬化誘導魔弾は追尾性を持つため天乃鈴音の胴体に命中し爆裂。天乃鈴音は晴の炎の活性効果で引きちぎれる胴体を繋ぎ留め高速再生。同時、アシュリーの熊之介が増殖魔力で巨大化して走り出し、天乃鈴音の頭部を打ち据えた。

 

(《桜火》《翻る炎(パリィ)》)

(────《翻る炎(パリィ)《カメリア(愛の炎は永遠に)》)

 

 天乃鈴音Aが魔法陣を展開して火炎を噴き出す。燃え上がる熊之介の全身。天乃鈴音と天乃鈴音A(ゴールドフィンガー)は火炎の奔流に紛れて熊之介の攻撃を回避。熊之介のふわふわ鉄拳が鉄筋コンクリートの床を破砕する。天乃鈴音はザ・キラーをしまってカメリアを発現。一気に空間全体を燃焼させる。灼熱と燃え盛る戦闘空間。千秋理子が発散魔力を飛ばして周囲のスタンド製火炎を払い除けつつ後退。一定の距離を保ちながらアシュリーと手を合わせてコネクト。お弁当ピックを増殖させて一斉掃射。その両側を走る武人と白騎士は挟撃を狙っている。立て続けの遠方狙撃はカメリアの灼熱空間に防がれて戦闘空間まで侵入できないでいる。

 

 その中で天乃鈴音は銀河の炎を灯して混合効果を発揮、大空と嵐の炎を緻密な配分で合成し、手のひらの上に憤怒の炎の光球を作成。さらに渦の炎を灯して密集効果を光球に付与、光球が螺旋回転を始める。同時に天乃鈴音Aは構築魔力で光球内部にミリ単位の箱を作成。続けて天乃鈴音は霧の炎を灯して箱そのものに構築効果を付与し、強度を強化。すると霧の炎と無属性の魔力が合わさることで性質変化(チャクラ)・創造(隠遁)が発生。創造効果によって箱にタイマー機能が追加される。さらに恒星の炎を灯して箱の中に熱風と爆発の効果を宿した。最後に天乃鈴音Aが分解魔力を光球に付与。すると嵐の炎と火属性の魔力が合わさることで性質変化(チャクラ)・燃焼(火遁)が発生。火遁(かとん)と隠遁(いんとん)を組み合わせることで魔係限界(まけいげんかい)・炎遁(えんとん)に昇華。

 

(《炎遁・時限爆弾式螺旋丸(らせんがん)》)

 

 恒星の炎は灯しただけで爆発する。それでは自分もダメージを受けてしまうため、爆発までのタイムラグが欲しかった。故に時限式。

 

 投擲。螺旋渦巻く憤怒の光球は、敵陣の只中で極限の死炎魔力(チャクラ)を解き放つ。

 

 極光螺旋。轟々爆撃。高層ビルの中層から極大爆発が発生し、ゴーストタウン全体を熱風がさらい込む。全ての建物が風化して破壊の限りを尽くされる。一陣の熱風に触れた魔法少女は、その皮膚から筋肉、神経から骨までが石化してボロボロと崩壊していく。即座に障害物に飛び込んで熱風の直撃を回避。構築魔力の使い手は結界を張って死の熱風を凌ぎきる。

 

 そのさなかで剣戟が響き渡る。場所は爆心地。最もダメージが色濃いはずの戦闘空間では、《分解硬化活性停止の可変結界》で爆発の威力を削ぎつつ身を守っていた天乃鈴音・天乃鈴音Aが炎の剣を翻し、それと格闘する十咎ももこと水波レナが大剣と槍を持って走っていた。

 

(秋野かえでの固有魔法《一時消去》で、爆心地に居た全ての魔法少女を一時的に消し去り、螺旋丸の直撃を避けたのか────)

 

 炎の剣と大曲剣が鍔迫り合い、炎の剣と青槍が激突する。

 

 十咎ももこは活性魔力で身体強化し、分解魔力で武具補強。

 水波レナは発散魔力で瞬発力を高め、鎮静魔力で武具補強。

 秋野かえでは硬化魔力で二人の武具を補強し、固有魔法《結束》で二人の連携(コンビネーション)能力を高めている。

 

 不意に一時消去されていた千秋理子とアシュリー・テイラーと熊之介、竜城明日香と美凪ささらが出現。秋野かえでは全員に硬化魔力を付与して《結束》を行使。十咎ももこは自陣に固有魔法《激励》を行使。水波レナは固有魔法《成長変身》で水髪海眼の絶世美女に変身。さらに水波レナは二人の天乃鈴音に修得魔法《視線固定》を行使────秋野かえでの固有魔法《被虐体質》も合わさり、二人の天乃鈴音は秋野かえでの優先的殺害に思考が支配される。直後、竜城明日香と美凪ささらの刺突挟撃。背後から巨大ぬいぐるみの熊之介が剛腕を奮う。さらに頭上から七瀬ゆきかが登場。カメリアの火炎障壁を細剣で突き破り、全身が火炎にくるまれつつ恍惚とした笑みを浮かべて死線に躍り出てきた。

 

 まさに乱戦。四方を囲まれた天乃鈴音は絶体絶命に陥る────と、思っている弱者はどれほどいるだろうか。前後左右と頭上が封殺されても、依然として四方の斜め上と下方への逃げ道が残っている。だが逃げる必要はない。

 

 ────《ルーカ(沈黙は金なり)》……それは彼我の力量差のぶんだけ距離を離すスタンド能力。

 

 刹那、天乃鈴音Aの足元から硬化栞槍が突き出されて股間から下腹部を貫いた。『!?』天乃鈴音は気付く。ルーカが発動していない。つまり無効化されている。ゴールドフィンガーの今までの戦闘経験から推測。おそらく夏目かこのスタンドによるもの。そしてそのスタンド能力は、対(・)象(・)の(・)能(・)力(・)を(・)否(・)定(・)す(・)る(・)。つまりルーカの能力が封印・無効化された。

 

 下方が封じられた。目に映るは四方の斜め上に四つの逃げ道。同時、千秋理子が跳躍し、立会人が忽然と出現、さらに環いろはと御園かりんが火炎障壁を突き破って飛び込んできた。四つの逃げ道が封殺される。文字通り前後左右上下と四方の斜め上を塞がれた天乃鈴音は四面楚歌。

 

(────死────)

 

 翻る炎(パリィ)を使っても一撃目を免れるだけで二撃目以降は回避不可。ならば防御するしかあるまい。天乃鈴音は天乃鈴音Aからゴールドフィンガーを呼び戻す。崩折れる天乃鈴音A。次いで天乃鈴音は黄金両腕(ゴールドフィンガー)と包容両腕(カメリア)の四つの手で、分離した残る四個のソウルジェムを防御し、血涙人体(ルーカ)によって頭部を庇わせた。

 

 スタンドはスタンドでしか倒せない。ならばと千秋理子はスタンドと共に疾走。環いろははスタンドの像を持たないため、歯がゆい思いで唇を食む。直後、相野みとの固有魔法《感情共有》が発動。全員の感情に訴えかけることで悪魔の作戦指示が共有される。

 

「スターログ(星形の聖痕)」「ノゥ(恩讐)」

 

 星型のアザを持つ人型スタンドが拳を唸らせて黄金両腕の片腕を撃ち抜く。床をすり抜けて夏目かこのスタンドも現れて六法全書のような分厚い拳を切れ味よろしく包容両腕の片腕を刻み込む。十咎ももこの大剣と水波レナの青槍が胴体を袈裟斬りにしてすれ違うように疾走。その合間を縫って竜城明日香の薙刀と美凪ささらの細剣が交差して両脇を貫き心臓を破る。アシュリー・テイラーの固有魔法《スイッチ》により筋肉が裏返ってスタンドの四本両腕が天乃鈴音の体内にめり込む。スタンドの腕によって防御されていた四個のソウルジェムが露出。『────』環いろはの光矢が七個目のソウルジェムを撃ち抜いて砕き割る。七瀬ゆきかの細剣が左肩にある八個目のソウルジェムを刺突して砕き割る。千秋理子のお弁当ピックが一斉掃射されて胴体を刺し貫き、同時、熊之介の剛腕が背面を打ち砕いて脊髄を露出させた。すかさず熊之介は脊髄を引き抜かんと躍動。御園かりんは固有魔法《窃盗》で九個目のソウルジェムを奪い取る。

 

 刹那、天乃鈴音は意図してドッペルを発現させた。

 

 瘴気爆発。約束と仇討ちのドッペルが顕現。天乃鈴音の顔面片側に白仮面。蝶々炎蛇がとぐろを巻いて主を守る。鳥居顕現。赤椿の乱舞。直前、全魔法少女は跳躍後退していた。莫大な魔力反応が上空より接近。

 

 ────《華美なる棘(ベラ・スピーナ)》《槻刺さる緑薔薇の矢(ツキササルイバラノヤ)》

 

 ビルの上部に激突、全物質を粉砕してドッペルもろとも天乃鈴音を巻き込み貫通。十個目のソウルジェムが必殺魔法の圧力に負けて砕かれる。天乃鈴音の出力性能が一割まで低下。二体のドッペルが完膚なきまで射殺されて消滅する。

 

(────わたしは────ここでしぬのか────)

 

 ……。

 ────否、そ(・)ん(・)な(・)こ(・)と(・)美(・)琴(・)椿(・)が(・)許(・)さ(・)な(・)い(・)。本体たる天乃鈴音の意思を離れて自律行動を始めた《カメリア(愛の炎は永遠に)》は、まさしく絶体絶命の状況を切り抜けるため覚醒する。光り輝くスタンド・カメリアは、今に消し飛ばされる天乃鈴音の傍らに寄り添い、優しく微笑みかけた。

 

 ────大丈夫、見守っています────

 

 相思相炎。それは天乃鈴音と美琴椿、ふたりの愛が失われない限り、無限に燃え盛る炎を饒舌(じょうぜつ)に噴き上げる。それは一瞬の出来事だった。地下も地下。地殻の下部に流れるマントルからマグマが噴火する。ゴーストタウン全体の地盤が崩壊して幾本ものマグマの噴流が襲う。一変してゴーストタウンは地獄の景色もかくやの烈日業火に包まれた。全物質(大地建物)は消し炭と化し、赫々(かくかく)と紅蓮のごとく劫火と煌(きら)めく。

 

 しかしそれは《カメリア(愛の炎は永遠に)》の第一能力を完全出力したに過ぎない。昨夜までは数秒から数分で家屋を全焼させる程度の火力が、今では一瞬で周辺地域を全焼させる程度の火力になったに過ぎない。

 

 スタンド《カメリア(愛の炎は永遠に)》の第二能力が発現する。

 その現象を知覚できたのは、似たような能力を有する暁美ほむらだけだった。

 

 ────《バイツァ・ダスト(焼けて死ね)》……それは時(・)を(・)焼(・)却(・)す(・)る(・)能力。数(・)十(・)秒(・)間(・)の結果を焚書する(歴史を破壊する)事を意味するカメリア(愛の炎は永遠に)・第二の能力。──燃やした時間は戻って来ない。燃やした数十秒の間で起きた出来事は、本体を除く全ての記録・記憶から抹消(焼却)される。ただし“時”にまつわる力を持つ存在なら記録も記憶も可能である。

 

 轟々と世界が燃えていく。時空が灰と化していく。写真を火の中に葬った時のように、火が付いた部分から茶色く焦げ付いて黒ずみ、炭となって景色が消えていく。それと同じように、天乃鈴音が知覚した対象物が数十秒かけて燃えていく。

 

 環いろはの足から頭まで燃えていく。

 御園かりんも、夏目かこも燃えていく。

 

 エッダの日光を遮断する仮面と甲冑が燃えていく。

 常闇騎士団構成員・最後の生き残りも燃えていく。

 

 姉を探す環ういの足から頭まで燃えていく。

 万年桜も、リリスも燃えていく。

 

 暁美ほむらの指先から全身まで燃えていく。痛覚を遮断しているため痛みはない。だが、これから自分は焼かれに灼かれて殺されるのだという絶望が、恐怖として襲いかかる。

 

「嫌……イヤ……ッ! やめて……こんな……!!」

 

 すかさず時間停止。時を焼却する時が止まる。暁美ほむらは増殖魔力を両肩に集中させて爆破。火が燃え移った両腕を切り落とす。両腕を魔力で再生しつつ遁走。能力の発動条件を考察。天乃鈴音の目視範囲が対象なのかと考えるが、明らかに天乃鈴音の死角となっている場所も燃えている。となれば魔力パターン等で知覚されることがマズイのかもしれない。暁美ほむらは遮断魔力で全身を覆うと障害物の陰に隠れる。

 

 ────そして、時は動き出す。

 

 天乃鈴音の逃走経路を潰すように待ち構えていたジュリー凪が燃えていく。

 由比鶴乃も、鼓星かずみも燃えていく。

 

 十咎ももこ、水波レナも、秋野かえでも燃えていく。

 千秋理子も、アシュリー・テイラーも燃えていく。

 竜城明日香も、美凪ささらも燃えていく。

 七瀬ゆきかも、立会人も燃えていく。

 阿見莉愛も、木崎衣美里も、相野みとも燃えていく。

 

 それは悪魔も同様だった。悪魔の体には火を点けず、悪魔の両眼に宿る笹川京子のソウルジェムと水泳の魔女のグリーフシード、そして両手の指に装着しているハーフソウルリングが燃えていく。瞬間、逆転勝利の呪いが発現。悪魔は究極超直感を発動。暁美ほむら同様に焼却される時の中を知覚できるようになった。

 

(────冗談だろ?)

 

 即座に叛逆魔法を付与した雨の炎で、両眼と指輪に点火した業火を発散して除去。同時に雲の炎を灯して全身を遮断膜で覆う。

 

 ────そして、時(・)は(・)燃(・)え(・)尽(・)き(・)た(・)。

 

『────っッッ!!??』

 

 地獄の業火に包まれる魔法少女たちは断末魔を上げてソウルジェムが融かされる。

 次々と無惨無慈悲に斃(たお)れていく魔法少女たち。

 

「っ────《治癒》!」

 

 環いろはは、自分自身と近くにいた御園かりんに治癒魔法を行使。

 全身を包む業火を除去し、ソウルジェムの融解を回避する。

 

「ご、ごめんなの! 助かったなの!」

「かりんちゃん! そのソウルジェムを渡して!」

「────!?」

 

 御園かりんの手には、天乃鈴音のソウルジェムが握られている。

 

「……な、なんでなの……? このソウルジェムで、いろはちゃんは何をするつもりなの……?」

「…………いいから、渡して」

 

 環いろはは、まるで魂のない黒々とした瞳で手を差し出す。それを目にした御園かりんは戦慄(ぞっと)して、思わず天乃鈴音のソウルジェムを庇うように抱え込んだ。恐ろしくて一歩、足を引く。

 

「……こ、断るの……」

「……」

「私、ずっと疑問だったの……戦闘中、いろはちゃんやかこちゃんはずっと、天乃鈴音のソウルジェムを執拗に狙っていたの……月咲さんも、月夜さんも……」

「……」

「ねぇ、いろはちゃん……ソウルジェムを壊したら、どうなるなの……?」

 

 環いろはは答えに窮する。

 

「もしかして……死ぬの?」

「────」

 

 環いろはの微細な表情の変化。一刻前に知り合ったばかりでも、同じ復讐という目的を同じくする同志であるためか、御園かりんはその変化を推し量ることができた。

 

「……たしかに、天乃鈴音はアリナ先輩のカタキなの……でも────断るの」

「……」

「いろはちゃん。私が好きな漫画の主人公で、素晴らしいセリフがあるの。それは……『最も難しいことは、自分を乗り越える事』……復讐しても、やちよさんは戻ってこないの。アリナ先輩も戻ってこないの! だから……敵は、倒すだけでいいの!」

「ソウルジェムがある限り魔法少女は死なない。魔法少女はどれだけ体が壊れても魔力を回せばゾンビのように蘇ることができる。つまり天乃鈴音は止まらない。きっと今にソウルジェムを取り返しに来る。そして取り返されれば私たちは為すすべもなく殺される」

「っ……いろはちゃんの言っていることは、正(・)し(・)い(・)の(・)か(・)も(・)し(・)れ(・)な(・)い(・)……でも、やっぱり間(・)違(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)の……!」

 

 御園かりんは振り返ってビルから飛び降りる。

 

「かりんちゃん!」

 

 環いろはが手を伸ばして追い掛ける。次の瞬間、御園かりんの帽子が打ち抜かれた。“パリン”と黄色いソウルジェムが砕かれる。

 

「────え?」

 

 御園かりんの背中に取り付いていた使い魔・シズク。主たる天乃鈴音の唯一のソウルジェムを取り返しに来たのか。御園かりんの隙を突いて彼女のソウルジェムを破壊したシズクは、天乃鈴音のソウルジェムを取り返して姿を消す。

 

「待って!!」

 

 環いろはは光矢を連射する。そのどれもを躱され、ようやく命中した一射は硬化バリアで防がれた。

 

「っ!」

 

 環いろははビルから飛び降りて追跡する。一足先に地上に降りたシズクは、頭部だけとなった天乃鈴音にソウルジェムを当てる。瞬間、覚醒した天乃鈴音は活性魔力で肉体を高速再生。シズクはあちこちに散らばった天乃鈴音のリングを回収して手渡す。頭上から光矢。カメリアの両腕が弾き飛ばす。環いろは着地。睨み合う両者。

 

「……やはり貴方は生き残ったのね。環いろは……私と椿の火炎を打ち消す事ができる例外少女(イレギュラー)……」

「……」

 

 一方その頃。

 ゴーストタウンは溶岩が噴き出し、マグマが川のように流れる危険地帯となっていた。

 

「なんだよ……これ……まるで地獄じゃねぇか……」

 

 時の焼却の中で無事だったのは、魔法少女(抹殺対象)ではない一般人・和泉壮月。あまりの戦いの激しさについて行けないままだった和泉壮月は、ビルから落ちてくる環いろはを目撃して走り出す。大空の炎を灯して開匣。ナッツ、チーズ、武蔵が飛び出す。妖刀を抜刀。ペルソナカードを左手に持って駆けつける。

 

 剣戟の響音。光矢が炸裂し、炎の剣が翻る。エッダから知らされた情報によれば、炎の剣は触れただけで相手を死ぬまで燃やし続けるという。その火の手から魔法少女を守るため、和泉壮月は音速戦闘の真っ只中に無謀にも飛び込んだ。

 

「助太刀するぜ! 魔法少女!! 動物共も援護を頼む!」

「ガフッ!」「キュー!」「ピュー!」

 

 晴の炎で肉体を活性化。大空の炎を灯す妖刀で、無意識にも空気中の魔力残滓と調和。主に火と光の魔力と調和して分解活性効果を刀身に帯びる。ナッツの噴射魔力による超高速移動の突進。チーズは遮断魔力を付与して和泉壮月の肉体を守る。武蔵は固有魔法《進化》で自ら形態変化。以前、悪魔の雨刀と合体した時と同じ要領で、和泉壮月の妖刀と合体し、発散魔力で高速戦闘に追いつけるようサポートする。

 

「行くぞ! ────ためらうな、十六夜(いざよい)!!」

「っ!?」

 

 妖刀と炎の剣の高速剣戟。和泉壮月の両腕筋肉が悲鳴を上げて筋繊維が断絶し血管が破裂する。環いろはは後退。側面から光矢を射出。縦横無尽と駆け抜けるナッツは、和泉壮月の昏倒を狙う天乃鈴音の攻撃を阻止。チーズは針を飛ばして援護射撃する。天乃鈴音はカメリアの両腕で攻撃を防御。余ったゴールドフィンガーの両腕で吹き飛ばさんとする。

 

「づぉぁああああああ根性ぉおおお!!」

「邪魔だ! ゴールドフィンガー!!」

「危ない! スタンドが来ます!」

 

 両腕の激痛に耐えるためペルソナカードを口に咥えていた和泉壮月は、すかさず“ペルソナ”と叫ぼうとする。が、突として妖刀がひとりでに動き、ペルソナカードを切り裂いた。『!!?』ペルソナカードの魔力を喰らった妖刀が光り輝く。

 

「なんだ!? “十六夜”が……!?」

 

 和泉壮月は上桐氏から聞き及んでいた事がある。それは妖刀に自我がある事。例えば、悪魔の妖刀“閻切”は非常に食い意地が悪く、下手を打てば担い手を平気で殺す暴れガタナだと愚痴っていた。対する妖刀“神切”は泰然自若・沈着冷静を是とし、助けなければいけない存在の手元に収まるのだという。では和泉壮月の妖刀“十六夜(いざよい)”はどういう性格をしているのか。

 

 ────どうもなにも、テメェの覚悟(死ぬ気の炎)から鍛造したんだから、そいつぁテメェの水写し(鏡合わせ)だ。わざわざ聞かなくてもテメェが一番よく分かってんだろうよ。なぁ?

 

(じゃあつまり……“一緒に戦う”……そういうことなのか、十六夜!)

 

 和泉壮月の脳裏に十六夜の意思が流れ込んでくる。

 

「────卍解(ばんかい)! 壮士凌雲 一竿風月(そうしりょううん いっかんのふうげつ)っ!!」

 

 黒い和装束を身に纏った和泉壮月は、釣竿に変形した妖刀を手にする。その釣竿刀で何ができるのか。成長性の塊である主従(和泉壮月と十六夜)は、まだ知らない。ただ天乃鈴音の両側に黄金の両腕と橙色の両腕が浮かんでいるのを目撃した。

 

「オラァアアアア!!」

「────ッ! 全体的に性能が倍加した……!? しかもゴールドフィンガーの攻撃を完璧に捌いている! まさか、その刀(・)が(・)ス(・)タ(・)ン(・)ド(・)に(・)な(・)っ(・)た(・)のか!?」

 

 刹那、圧縮光矢が閃いた。超遠距離の狙撃。真名看破魔法で鹿目まどかと判明する。

 

(ここで増援……!)

 

 青い閃光。その魔力パターンには覚えがある。音速剣戟。衝撃波が発生して和泉壮月は吹き飛ばされる。だがそれは彼の戦いを邪魔したのではない。直前、天乃鈴音の左手に日本刀が出現していた。突然の二刀流に驚いて対応が遅れた和泉壮月は、危うく心臓を一突きされるところだった。

 

「正義の魔法少女、美樹さやか参上!」

 

 天乃鈴音の周囲から和泉壮月と武蔵、美樹さやか、ナッツ、チーズ、環いろは、鹿目まどかの波状攻撃が押し寄せる。

 

(────!)

 

 神速の魔力パターンを感知。音の衝撃波すら生み出さず、壊れた仮面の下で日光に灼かれて崩れ落ちる肉体で飛び込んできたエッダは、最期の蹴りを天乃鈴音の脇腹に命中させる。そして神速に耐え切れず燃え上がる仮面が割れる。日光を浴びたエッダは岩石となって崩壊。死亡した。神速の蹴りを入れられた天乃鈴音は勢いよく吹き飛ぶ。

 

「──姉ちゃんッッ!!」

 

 ビルから崩落した鉄筋コンクリートの床が斜めとなって地面に突き刺さっている。その壁面に激突した天乃鈴音は瞬目。眼前にて、自らに飛びかかってくる魔法少女と死炎闘士を目にした。

 

(ク(・)ー(・)ル(・)タ(・)イ(・)ム(・)終(・)了(・))

 

 天乃鈴音のスタンド《カメリア(愛の炎は永遠に)》の片腕には腕時計が巻かれている。その時計に天乃鈴音が火炎魔法を点火すれば、再び時は焼却される。

 

(そうはさせないのです)

 

 究極超直感で時の焼却(バイツァ・ダスト)の発動条件を知った悪魔。その悪魔からDキュゥべえを通して念話で知らされていた百江なぎさが《迷彩防護(イルーシブ)》による気配遮断で緊急接近。最後のソウルジェムを破壊しようと暗殺を決行する。その時、百江なぎさのスマホからコール音が鳴り響いた。

 

(!?)

「見つけた。百江なぎさ」

 

 昨夜の偵察時に真名看破で名前は割れている。ずっと百江なぎさの姿が見えない中、天乃鈴音は同じ暗殺者として殺(・)し(・)に(・)来(・)る(・)な(・)ら(・)今(・)こ(・)の(・)瞬(・)間(・)と本能が勘付いた。天乃鈴音の三歩先の距離でコール音が鳴り響く。天乃鈴音の目には何も見えないが、そこには確かに百江なぎさが走っているのだろう。《燃焦る刃(バーンエッジ)》を付与したカメリアの両腕を叩き込む。同時、シズクがスマホを放り投げた。コール音「もしもし」通話オン。黄金篭手の乱舞が、追撃してくる美樹さやかと和泉壮月、ナッツとチーズの突撃を弾き返す。虚空を殴りつけたカメリアの両腕に手応えあり。《迷彩防護(イルーシブ)》が解除された百江なぎさの胴体が燃え盛る。

 

(これで百江なぎさは死────)

「舐めるな! なのですっ!!」

 

 百江なぎさの顔面が、明らかに人(・)で(・)は(・)な(・)い(・)モ(・)ノ(・)に変わる。

 

 天乃鈴音は絶句した。魔女反応を感知したのだ。しかも百江なぎさの体内から感知されている。百江なぎさの人体からヌルリと脱皮した首の長い魔女。それは青い舌(ベロ)から唾液(だえき)を迸らせるカラフルな顔面。そして鋭い牙と大きな口が、天乃鈴音の頭部を覆う。首から丸かじりするように。最後にきらめく十分の一のソウルジェムを噛み砕くように。

 

(──死────)

 

 天乃鈴音の頭部をシズクが突き飛ばす。主の代わりにパクリと喰われたシズクは骨が噛み砕かれる音を響かせて魔女反応が途絶えた。九死に一生を得た天乃鈴音は、すかさず火炎魔法でカメリアの腕時計を点火する。

 

(やはり部下は有能に限る)

 

 ────そして、時は焼却する。

 

 百江なぎさの肉体が燃え尽きる。お菓子の魔女が燃えていく。

 和泉壮月が燃えていく。十六夜と武蔵が燃えていく。

 ナッツとチーズが燃えていく。美樹さやかと鹿目まどかが燃えていく。

 

 環いろはが燃えていく。だが自身の固有魔法で炎を後退させる。

 

 悪魔と暁美ほむらは遮断魔力で身を隠す。知覚されればあらゆる手段を用いても防御不可の焼却だが、知覚されなければ回避は容易だ。

 

 ────そして、時は燃え尽きた。

 

 ソウルジェムの九割が濁っている環いろはは余裕がなく、自らの体を治癒するので精一杯。周囲から阿鼻叫喚の断末魔が上がる。ひとり、またひとりと炎に包まれて斃(たお)れていく。黒焦げの焼死体が戦場に散乱する。

 

「っ────!!」

 

 環いろははドッペル発動を視野に入れて最後の魔力を振り絞り光矢を射る。カメリアが防御。天乃鈴音は《ゴールドフィンガー(超次元的盲目祭)》を解除して《インセイン(夢を食べて更生しろ)》を発動。暁美ほむらの時間停止魔法を封印する。

 

(残るは環いろは、暁美ほむら、そして七個のソウルジェムと一個のグリーフシードを有する沢田綱吉────)

 

 環いろはが半魔女化する。沈黙のドッペル。その姿は呼子鳥(よぶこどり)。環いろはは自らを情けなく思うがゆえ、当然の疑問を聞きたくないと耳を塞ぐ。

 

 ────どうして必殺魔法(マギア)を一度も使用しなかった? どうしてキモチを使わなかった? どうして修得魔法を使わない? どうして本気を出していない!

 

 ────それで本当に良いのかという思いがあったから。だがそのせいでみんな死んだ! 見殺しにしたも同然だ! 天乃鈴音と何も変わらない! 人を殺さねば誰も守れない! 天乃鈴音を殺すことに臆病なあまり、環いろはは人殺しとなんら変わらなくなった!

 

 力の限り暴れまくるドッペル。天乃鈴音は冷静にスタンドを使って防御する。スタンドはスタンドでしか傷付けられない。いかに凶暴な力でも、スタンドで防戦すればダメージは皆無に抑えられる。やがてドッペルの力を出し尽くした環いろはは息も絶え絶えに地に伏せる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」

「……環いろは。さようなら」

「アッアッアア、ッア!アアッアアア!ッアアッアア、ッア!アタタタタタタラッタ!」

 

 インセインの二丁拳銃乱射(トリガーハッピー)。環いろはは死を覚悟する。その眼前に暁美ほむらの背中が駆けつけた。小さな盾で弾丸をガードする。守りきれない脚が撃ち抜かれて体勢を崩しかかるが、すぐに手を地について肉体を再生。

 

「──ほむらちゃん……」

「逃げて! いろはちゃん! 私もすぐに飛(・)ぶ(・)から! 大丈夫! だから速く逃げ────うっ!」

「ほむらちゃん!」

 

 鹿目まどかは死んだ。暁美ほむらがこの世界にいる理由はない。それでも助けに来たのは、彼女がまだ頼(・)る(・)己(・)に(・)失(・)望(・)し(・)、(・)他(・)者(・)を(・)信(・)じ(・)る(・)こ(・)と(・)を(・)諦(・)め(・)て(・)い(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)からなのか。

 

「────っ!?」

 

 不意に天乃鈴音の足元がおぼつかなくなる。スタンドの長期使用が祟ったのか。ソウルジェムの濁りはそれほどでもないが、明らかに心身ともに満身創痍という体で片膝を突いた。天乃鈴音のソウルジェムから、二枚のペルソナカードが強制排出される。瞬間、炎の剣が投擲された。暁美ほむらは油断せず盾で打ち払う。

 

「っ────《燃焦る刃(バーンエッジ)》が発動しない……もうソウルジェムが限界か……」

 

 天乃鈴音は這うように進む。最後まで環いろはと暁美ほむらを殺すのを諦めないと言いたげに、もはや動かぬ下半身を引きずって地を這う。その執念に目を見張った環いろはは、どうしてそこまで頑張るのかと理解を拒んだ。

 

「もう……もうやめてよっ!! だって……命がっ! 命がもったいない……ッ!!」

「────いろはちゃん……」

「だからなに? その命を惜しむせいで、魔女が生まれて多くの命を奪う。そこに貴方の正義はあるの? 現実を見ろ、環いろは」

「分からないですっ! だからって殺すのは違うじゃないですか! きっとほかに方法があるはずですっ! だからもうやめてください! この神浜市では魔女化しないんです! その理由を突き止めれば、きっと魔女化の問題は解決できる────!」

「……」

「ならば貴方は、そ(・)の(・)方(・)法(・)を取り続ければいい。私はこ(・)の(・)方(・)法(・)を取り続ける。悔しかったら剣を執れ。そしてこの首を刎ねるがいい。力(・)な(・)き(・)者(・)に(・)大(・)業(・)は(・)果(・)た(・)せ(・)な(・)い(・)」

「っ────!」

 

 環いろはは地獄の炎のように熱い涙をこぼした。両眼が焼けるように熱い。熱の痛みのあまり眼球が痙攣する。

 

「わからない……なにもかもが……どうしてそんな理由で人の命を奪えるの……? もっと穏便な方法はなかったの……? どうして貴方みたいな人が、そんなにも強いの……? 理不尽だし、異常だよ……ずっと分かろうとしたけど、私には解らない……」

「それは貴方の頭が足りないから。そして貴方に力が足りないのは、貴方が魔法少女になるべき器ではなかったから」

 

 脚の再生が済んだ暁美ほむらは立ち上がり拳銃を構える。天乃鈴音の頭部に付いている小さなソウルジェムに照準を固定。あとは撃つだけ。その覚悟は出来ている。親友を撃ち殺したのだ。赤の他人を撃ち殺せずして何が魔法少女だ。

 

「あ、それやめときな?」

 

 不意に見ず知らずの声色が、暁美ほむらの耳元で囁かれた。拳銃を構える左手の甲にそっと添えられた見知らぬ少女の手。直後、暁美ほむらのソウルジェムに増殖魔力がダイレクトに注入されて破(・)裂(・)し(・)た(・)。叫ぶ間もなく、訳も分からず、暁美ほむらの瞳から光が失われる。糸の切れた人形のように倒れた友の死体を間近に見て、環いろはは茫然と絶句した。

 

「────ぇ?」

「あっはははははっ! とうとう私も殺(や)っちゃったー! いやぁホント、マッジでスズネちゃん強いつよーい! さっすが、私(・)よ(・)り(・)長(・)く(・)な(・)が(・)ぁ(・)く(・)ツ(・)バ(・)キ(・)と(・)一(・)緒(・)に(・)居(・)た(・)だ(・)け(・)あ(・)る(・)よねぇ……?」

 

 天乃鈴音も目を見張る。眼前に立つ紫髪紫眼の嘲笑少女は、いったいどこの誰なのか。

 

「あ、そっか。自己紹介が必要だよね。私は日向カガリ。スズネちゃんに嘘の記憶を植え付けて大量殺人者に仕立て上げた、いわゆる黒幕だよ?」

 

          †

 




天乃鈴音は黒幕に操られているのではなく、最初から最後まで魔法少女暗殺の信念を持っておりそれを貫いた、という設定に改変しようと初期案では考えていましたが……やめました。また別の機会でそういうの書いてみたいですね。


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