※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【こんなのが天乃鈴音と美琴椿の救いであってたまるか】悪魔〔無力の少年〕

 

 悪魔は、どう返答するのか直感しておきながら訊く。「本当にそれで良いのか」

 天乃鈴音は答えた。「そんなおいしい話があるなら騙されてでも縋りたい」

 

 その一言を待っていた。自らの罪を懺悔するキッカケとしては充分な言葉である。

 

「より多くを殺せば、それだけ鈴音の絶望が深まり、再契約時の魔力係数が増大する。つまりこれだけの数を手に掛けないと、全員を生き返らせることは不可能だと判断した」

 

 天乃鈴音は目を見張る。全知の力。それを活かす悪魔的な合理性。

 しかし彼の体は微弱に震えている。

 

「……じゃあ、私が最初に殺したマツリすら生き返らせるために……あなたは神浜市の魔法少女たちを見殺しにしたの……?」

「そういうことに……なる」

 

 少なくともゴーストタウンの時点では。

 

「貴方は……間違っているようで、全ての命を救っているのね」

 

 なんたる皮肉か。そう天乃鈴音はひとりごちる。

 

 もしも悪魔が魔法少女軍団を本気で勝利させようと動けば、少数の犠牲で天乃鈴音を制圧できただろう。だがその場合、天乃鈴音のスタンドによって魔法少女軍団には復讐心が芽吹いている。天乃鈴音は容赦なく殺されるだろう。そうなれば悪魔契約を交わす相手が居なくなり、七海やちよ達は死んだままとなる。仮に、ほかの魔法少女が悪魔契約を嘆願しても、悪魔は断る確率が高い。悪魔の契約対象は、あくまで“魔法少女をやめたい人”であり、“再契約したい人”ではないのだから。無論、今までの悪魔の動向を見る限り、情に流されるが故の例外──チームももこ、千秋理子、アシュリー・テイラー等──は多けれど、美国織莉子の未来予知を直感した件も含めて、例外にもまた合理的な狙(・)い(・)があるのだろう。

 

「皮肉には慣れている。願望と契約は、とかく皮肉が付いて回るものだ」

 

          †

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          †

 

 天乃鈴音は心身の底が尽きたのか、悪魔の上から寝転がって腕の上に添い寝し、ぐったりと倒れる。

 悪魔は小休憩を取らせるため質問。天乃鈴音が死ぬ気の炎を知った経緯について問いかける。

 

 それは日向茉莉(マツリ)のソウルジェムを破壊した時だった。偶然ソウルジェムのカケラに触れたら不思議な色の炎が灯った。インキュベーターに聞けば、それは超高密度エネルギーの塊たる死ぬ気の炎であり、知られざる未知の力にして裏社会の深淵でしか使われない力、そしてマフィア界では基本的にソウルジェムのカケラをリングに加工して死炎を灯し、武器にまとわせて兵器として使用するのだという。

 やがて天乃鈴音は、各色の魔力すなわち精神力を使って暗殺しグリーフシードを消費するより、時折死炎も混ぜて生体波動と生命力を消費した方がグリーフシードの運用効率が良い事に気付いた。人間は心身を両方消費して活動するが、魔法少女は精神のみ消費して活動するようになる。それではもったいない。魔法少女も身体を使ってこそ、余さず力を発揮できるはずだと。

 天乃鈴音はグリーフシードを節約することで、以前より長期に強靭に戦えるようになった。その代わり体調管理は必須。消耗した体力を魔力で補填したら元の木阿弥。消費した生命力はよく食べてよく寝ることで回復させる。運動は毎日殺っているので無問題。そうして穢れの蓄積を数パーセント抑えてきた。塵も積もれば山となる。かくて天乃鈴音は誰よりも長く戦えるようになり、誰よりも大量に魔力を消費して、誰よりも強く戦える魔法少女となった。

 

 今度は天乃鈴音が質問する。悪魔はどうやって天乃鈴音が日向カガリに操られていることに気付いたのか。

 

「貴方はどうやって、私が日向カガリに操られていることに気がついたの?」

 

 究極超直感で未来を観たと言っても、それはほんのワンシーン。しかも天乃鈴音が美琴椿の前で自害する瞬間だという。悪魔はどうやってその未来に持っていこうと考えていたのか。なぜならその光景に日向カガリは登場しない。どうやって日向カガリの存在に気が付いたのか。なんの情報も無かったはずだ。天乃鈴音との敵対関係状態から悪魔契約に漕ぎ着けるためには、相当の悩みがあったはずだ。

 

 悪魔は「その通りだ」と頷く。そして日向カガリの存在に気が付き、天乃鈴音を説得して交渉する隙を見つけたキッカケは、天乃鈴音と初めて接触した時……天乃鈴音が暁美ほむらを殺そうとした瞬間だと答えた。

 

「確固たる信念がある……と(・)、(・)思(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)。自分は魔法少女が魔女化する前に殺されなければならない……と(・)、(・)思(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)。────なぜ天乃鈴音の心の中には、常に“と、思っている”という感想がつくのか? なぜそれに天乃鈴音は疑問を抱かないのか? 単に自分に主張がないだけか……それとも誰かにそ(・)う(・)思(・)わ(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)の(・)か(・)。ならばオレは黒幕が出てくるまで身を潜めればいい。どうせ魔法少女たちは見殺しにするつもりだった。すると日向カガリが出てきて、ほむらを転移前に殺し、洗いざらい打ち明けた。そこで記憶操作と思想改竄という暗躍があったと知った。あとは鈴音が絶望する前に希望を提示すればいい。比較的……簡単な作(・)業(・)だった」

 

 まるで機械がひと(人)仕事を終えたかのような感想。

 

「悲しい人ね」

 

 そうして全てを承知した天乃鈴音は、Dキュゥべえに願い出る。

 

「キュゥべえ。お願いがあるの。《ツバキを魔法少女のまま生き返らせて。そしてツバキに、私にまつわる因果を全て託して》……」

「……お安い御用さ」

 

 天乃鈴音の魂が固形化して体外に摘出される。そして大きな光が人の形を象り、天乃鈴音の背後に“美琴椿”が再誕した。

 

「────────」

「よく……がんばりましたね。そしてもう……おやすみなさい。鈴音」

「────ツバキ……」

「ずっと後ろで見守っていました。鈴音の写宝剣にコピーされた時、残留思念として、ずっと背後霊のように力を貸していたんです。なので、やるべきことはわかっています。私もすぐに地獄(そちら)へ行きますから、鈴音はちょっとだけ待っていてくださいね」

 

 希望と絶望の極致に至った天乃鈴音は、ソウルジェムが臨界点に達して破損した。赤い宝石が砕け散る。穢れが満タンになったのに魔女化もといドッペル化する気配も無かった。Dキュゥべえは珍しい現象に興味を示す。

 

 かくして天乃鈴音は息を引き取った。地獄の中で、安らかに幸福そうな寝顔で。

 

「鈴音から受け継ぎました。私は彼女と同じ罪を背負って地獄に落ちます。当然ですよね。彼女がピンチに陥るたび、私が力を貸していたのですから同罪です。共犯者です。故に覚悟は既にあります。鈴音の罪を雪ぐためなら、私は悪魔に魂も操も売りましょう」

「……」

「既に死した私に出来ることは、鈴音の罪を共に背負うことくらいですから」

 

 天乃鈴音の死体の傍らに仰向ける悪魔の上に美琴椿が覆いかぶさる。

 その、罪悪背徳光景。悪魔の心は金切り声を上げるように磨り減り、ただ目的を遂げるための機構へと成り果てる。

 

          †

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          †

 

 悪魔は憮然たる面持ちで問いかける。

 

「なぁ椿。鈴音は……お前が生き返った最上級の希望と、自らが犯した罪の重さに耐えかね、それを椿に見られて助けられていたという最上級の絶望を同時に味わったことで、その魂が引き裂かれた。だから、このままだと椿、お前も……」

 

「……忠告感謝します。ですがとっくに承知の上です。神が手を差し伸べてくれぬのなら、たとえこのような……はしたないやり方であっても。全てに決着をつけて、終わらせるしかないじゃないですか……」

 

 悪魔の右腕には少女の死体。地獄の中で冷たく融けていく焼死体。

 悪魔の左腕には美女の生体。地獄の中で温かく赦していく赤襦袢。

 

 かくて美琴椿は願い出る。

 

「キュゥべえ。お願いがあります。どうか────《鈴音とカガリが奪った人の命を、全て蘇らせてください》────」

「お安い御用さ。さようなら、美琴椿」

 

 世界が白い光で満たされる。その只中で悪魔の右腕から悠然と、天乃鈴音が起き上がった。

 

「……!」

 

 なぜ天乃鈴音が蘇るのか。驚いた美琴椿は、天乃鈴音の死に彼女自身と日向カガリが関係しているため、願いの中に含まれて反映されたのだろうと悟る。そして天乃鈴音が生き返る事に喜び、されど我ら二人は生き続ける事を許されない大罪を犯した身である事を思い出す。そして最上級の希望と絶望の極致とは、な(・)る(・)ほ(・)ど(・)こ(・)う(・)い(・)う(・)こ(・)と(・)か(・)と……天乃鈴音と美琴椿は得心した。

 

「椿……!」

「鈴音……!」

 

 少女ふたりは呼びかけ合う。最後の逢瀬となることを確信して親愛なる名を呼んだ。

 Dキュゥべえは感心する。

 

「す……凄まじい瘴気の力が渦巻き始めている……この因果の量から見た限り、天乃鈴音と美琴椿の感情から生み出される相転移エネルギーをは、とてもじゃないが自動浄化システムとやらでは回収できない呪いを帯びて顕現するだろう……そして二人のソウルジェムは臨界点に達し、とうとう零地点を突破する……!」

 

 悪魔の上で涙を流し抱き合うふたり。輝ける赤と橙のソウルジェムは接吻して溶け合い、今までそうだったように融合した。そっと天乃鈴音が大剣を取り出して二つのソウルジェムを割ろうと動く。それを知りながら美琴椿は黙って抱き寄せる。自害したくとも二人の体はもう動かない。莫大な穢れがソウルジェムに満ちて肉体は言うことを聞かず、魂は引き裂かれる運命への断末魔を上げて黒ずみ破裂した。

 

 赤燈色のソウルジェムが砕け散り、穢れの骸(グリーフシード)から生まれ出(い)でるはワルプルギスの夜にも匹敵する存在。

 

 ────超大型魔女アンチェロス。

 

 腹の上での魔女化。当然、圧倒的な瘴気を身に浴びた悪魔は本来即死するはずだが、逆転勝利の呪いが身を守り、受けた瘴気を全て水泳の魔女が吸い取った。それにより悪魔の片眼が黒く染まる。そこから全身に瘴気の刻印が紐で結ばれたように連なって────肉体は穢れを帯び、半魔人化した。

 

「呪印調和(モード・クアルト)・瘴炎噴射(ディアベル・オルトス)」

 

 頭部に獅子の両耳を生やし、半人半獣のような姿に変貌した悪魔は、黒混じりの死炎を意のままに操る。

 

 開匣。《SISTEMA C.A.I.ver.D》を装備。

 

「オペレーションXX(ダブルイクス)────」

 

 髑髏型死炎放射器を左腕に装着するが、向きが逆。髑髏の顔部分を手の甲ではなく肘に取り付け、姿勢制御用死炎放射器(カウンターバーナー)として機能させる。そして放射器と全く同じ機構を霧の炎の構築で再現し、雷と雲の炎で硬化と遮断の補強を施して、右腕に取り付ける。それから悪魔は両手を十字に(クロス)し、莫大な死炎を蓄積・収束、ディスプレイコンタクトに表示される炎圧と照準の確認声音をヘッドフォンから聞き取り、準備完了と同時、一気にグローブの手のひらから全てを滅ぼす瘴炎を放出した。

 

「これで……呪いの連鎖を終わらせる────《XX BURNER(ダブルイクスバーナー)》」

 

 悪魔は魔女を攻撃する時、いつも以上に眉間にシワを寄せて拳を振るう。魔女を倒すことがツライと言いたげな顔で、容赦なく消し飛ばす。

 

 ふと悪魔の背後に広がる地面が大きく抉れた。柔性死炎たる柔の炎は直接の破壊力を持たないが、瘴気が混ざれば大地一帯を容易く吹き飛ばしてしまう。直後、上空にたゆたう脅威の災厄(アンチェロス)は、跡形もなく焼き尽くされた。

 

 次の瞬間、悪魔の右腕に装着された偽・髑髏型死炎放射器が耐久限界を迎えて破損。死炎放射の反動で左腕が消し飛んだ悪魔だが、瘴炎の力によって急速的に再生していく。呪いの痕跡を塵一つ残さないためにも、悪魔は右手から死炎放射を続ける。やがて天を突く瘴炎が空を蒼黒く染めた時には────悪魔は全てを出し尽くして膝を折り、半魔人化も解除されて、その場にうずくまった。

 

 空からポツポツと雨が降る。不意に“カラン”と音が鳴って悪魔の傍らに転がったのは、赤燈色のソウルジェムのカケラ。悪魔の周囲に漏れ出る生体波動に反応したのか、赤燈色の死ぬ気の炎を灯す。それは、どの属性ともつかない炎色反応を示しており、悪魔は亜種の属性であると直感。そこでDキュゥべえが呟いた。

 

「それは────憤怒の炎と対をなす空(・)虚(・)の(・)炎(・)だ。魔女化した魔法少女のソウルジェムのカケラは瘴気に侵されて精製度が落ちて失敗しやすいけど、君ほどの高度な大空の炎があれば浄化可能だ。きっと精製度Aランク並みの“亜種系リング天空嵐”が精製できるはずだ」

 

 悪魔はカケラを拾うと、保存用匣(ボックス)の中に収納する。その匣は、今まで悪魔が助けられなかった魔法少女のソウルジェムのカケラが遺品として保管されている匣だった。

 

「しまっちゃうのかい? 日向カガリのソウルジェムと混ぜ合わせれば、第八のヘルリングを作ることも可能なのに」

「精神を食わせる気はない。それと勝手にオレの魂を第七のヘルリングに定めるな」

 

 悪魔は息も絶え絶えに這いつくばる。二度の悪魔契約と一度の即死(瘴気浴び)、そして半魔人化と最大出力のダブルイクスバーナーで死力を尽くしきった。そして、その努力を褒めているのか感謝しているのか、Dキュゥべえは感嘆する。

 

「ありがとう、悪魔。君のおかげで良質なエネルギーをゲットできた。純度の高い最高級の希望から急転直下で絶望まで移行できたのは、君の悪魔契約のおかげだ」

 

「ちがう。鈴音と椿、ふたりの愛が希望と絶望の相転移を生み出したんだ。悪魔契約による絶望はあくまで二の次でしかない。彼女たちにとって最も残酷だったことは、互いが蘇りながら互いの幸せと死を望み、共に心中したことだ」

 

「……そうなのかい? ともあれ君の後押しがあったことは間違いないだろう。大抵の子は魔法少女から解放される最高の希望の代わり、初めて会った男に体を許さなければならない最高の絶望に苦しむ。そのあとボクと再契約して魔女化してくれるとありがたいんだけど、君はそうさせないからね。でも今回は結果が変わった。君の言う通り彼女たちは彼女たちで完結していたのかもしれない。だからソウルジェム同士の融合なんていう珍しい現象を起こして超大型魔女アンチェロスと化した。確かに天乃鈴音を中心とした美琴椿と日向カガリの関係は、君たち外野が手を出してどうにかなった問題ではない。だけど、そう気に病むことはないよ。それでも彼女たちが救われる道があるはずだと手を出した君だからこそ、ボクの予想を遥かに上回るエネルギーを宇宙に放出できたんだから。礼を言うよ、悪魔」

 

 ────君は、魔法少女たちの願いも僕らの願いも、一挙両得で叶えてくれたんだ。

 

 悪魔は大地を殴りつける。……その無関心な称賛に苛立ち、こ(・)ん(・)な(・)の(・)が(・)天(・)乃(・)鈴(・)音(・)と(・)美(・)琴(・)椿(・)の(・)救(・)い(・)で(・)あ(・)っ(・)て(・)た(・)ま(・)る(・)か(・)と憤り、大地に額を打ち付ける。こぼれ落ちる涙は黒い雨と混ざり、土砂崩れの音に馴染むように嘔吐(えづ)く声がかき消された。

 

          †

 

 

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