アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
カラフルに色づいた迷宮。緑色を下地とする背景に絵筆が着色したような壁。床には矢印が続いており、天井には抽象的でエキゾチックな色彩が描かれている。
不意に空間が歪む。中空に螺旋が渦巻いて何かが異空間より出現する。それは悪魔と入名クシュ。数メートルの高さを落下した悪魔は床に激突。背中を打ち付ける。入名クシュの体重も相まって呻き声が上がる。
「うっ……! っ……これまた、とんだ入場方法だな……」
「……? 悪魔……?」
鼻をすすって目元を拭った入名クシュが起き上がる。なぜ自分は泣いているのか首をかしげていると、悪魔は「早くどけ」と払い除けて起き上がった。
「おかしい」
「?」
「ウワサさんが現れない。こういう時は大抵“急造のウワサ”だ。もしかしたら狙い打たれたかもしれない」
つまりはマギウスの攻撃である。ともすれば、みかづき荘も狙われている可能性がある。
「攻略を始めるぞ。脱出優先で探索する」
悪魔はテキパキと行動する。そんなに急ぐことはないと思うが、入名クシュは置いていかれないようトコトコと後を追う。
「……ねぇ、悪魔。あの映像はなんだったんだろう?」
「オレを釣る餌だ。内容は二葉さなという少女の半生を映したもの。現在は“孤独塔のウワサ”の最上階に位置する“ひとりぼっちの最果てのウワサ”で過ごしているそうだ。しかし、ここはマヨナカテレビのウワサ空間……別のウワサだ。それでも関係は深い。テレビと電波塔……これは
「…………なんか、一を聞いたら二から八をすっとばされて九と十一だけを答えられた気分」
「すべてを説明している暇はない。中間は推測で補完しろ」
どうやら悪魔は映像を見ただけで、今回のウワサの全体像を直感したようだ。つまり見せられた映像には“感情”があったということになる。
(視聴者の感情に直接作用する精神干渉系タイプのウワサ……もしかしたら万年桜のウワサ同様、感情を有するウワサが背後にいるのかもしれない。そいつが二葉さなの映像を作って、なぜかオレたちに見せてきた……
悪魔と入名クシュは迷宮を探索する。クマのような着ぐるみを着たウワサの使い魔の群れと戦闘。迷宮を進んで行き止まりに会うたび進路を変えてマッピング。
悪魔が曲がり角を曲がろうとした時、入名クシュが呼び止めた。
「待って。魔法少女がいる」
「────」
悪魔は警戒しつつ十字路の中央に飛び出る。
「うわっ!?」
突然の悪魔の登場に驚いた赤い魔法少女は大声を出して硬直。その顔には見覚えがある。綾野梨花だ。
「梨花……お前もウワサに巻き込まれていたのか」
「悪魔……! ウワサって……もしかして、ここがソレなの?」
綾野梨花は説明を求める。深夜零時にテレビを見ていたら、いつの間にか見知らぬ空間に閉じ込められていた。長いこと迷宮を歩かされて、ウワサの使い魔に追われつつ、悪魔と合流したのだという。
「歩きながら話す。付いてこい」
悪魔は探索を続行しつつウワサについて説明。
「────というわけだ。まとめるとウワサは魔女と似た危険存在。そして直感するに、梨花はれんの映像を見たそうだな。となれば急いだ方がいい。手遅れになる前に」
「う、うん……!」
事態を把握した綾野梨花は落ち着きを取り戻したのか入名クシュと挨拶する。
「(なんか幻想的な雰囲気でめっちゃかわいい……)よろしくね!」
「うん。よろしく」
そして曲がり角を曲がろうとしたところで、再び入名クシュが呼び止めた。
「悪魔。今度は数が多い」
「……! 七人くらい走ってくる……!」
綾野梨花はソウルジェムから七人の魔力パターンを感知して悪魔に教える。
すると悪魔は十字路の中央に飛び出した。前方に見えるは黒羽根が7人。何かに怯え、逃げるように走ってくる。
「おい! どうした!」
『──っ!?』
悪魔の呼び声に驚いた黒羽根たちは、それでも逃げたい気持ちを優先して走り続け、たびたび後ろを振り返る。
(……
黒羽根たちの心境を直感した悪魔は大体の事情を把握。自らの後方に走り去る黒羽根を見逃して、彼女たちが逃げてきた方向に進み始めた。
「彼女たちは何者?」
「そうか。クシュは夜間活動で知らないのか。あいつらはマギウスの翼の黒羽根だ。ウワサを守っている。そしてこの先に複製魔法少女がいるようだ。知り合いの顔があっても偽物だから気にせず倒せ」
「でも……特に魔力パターンは感じないよ?」
綾野梨花の魔力感知が正常であれば、先ほどの黒羽根たちを撃退した複製魔法少女は行方をくらました事になる。
やがて悪魔、綾野梨花、入名クシュの三人は、マヨナカテレビのウワサ空間の奥地へ到着。広大な空間に三本の石柱がそびえ立っており、柱の上部に三人の魔法少女が
「かずみ! フェリシア! なんでこんなところに……!」
「れんちゃん!」
「──! 魔力反応を感知した。けど、魔法少女でも魔女でもない……! なにこれ……」
入名クシュがウワサの魔力に反応すると同時、五十鈴れんと深月フェリシアの柱の下部から“影”が起き上がる。それは人の形をしており、五十鈴れん・深月フェリシアと同じ顔をしていた。
「複製魔法少女……
悪魔たちの前に突然と現れた五十鈴れんと深月フェリシアの“影”は、言うなれば“
「仮に名を付けるなら“シャドウれん”と“シャドウフェリシア”か……」
「もうひとりの子は、なぜ影が出現しないの?」入名クシュの純朴な問いかけ。
「
五十鈴れんと深月フェリシアのペルソナが動き出す。シャドウれんは白い羽がふわりとなびく杖と振るって鎮静と構築の魔力を回し、追尾魔弾を撃ちだす。すかさず杖を大鎌に変形させて、足元からの発散魔力放出により急接近して息つく暇のない追撃を仕掛けてくる。シャドウフェリシアはハンマーに増殖魔力を回して巨大ハンマーを形成し跳躍、頭上からたたきつぶしにかかってくる。
次の瞬間、悪魔は腰を落として両手を開き、左手から柔の炎、右手から剛の炎を蓄積……迫る魔弾と併走するシャドウれん、そして頭上より迫るシャドウフェリシアが射程内に入った途端、圧倒的な死ぬ気の炎を一気に放出し、襲い来る全ての物事を一瞬で、轟々と消し飛ばした。
『────ッ!?』
乱暴に倒すなと言った矢先の瞬間的な《
「安心しろ。調和性質による攻撃だから精神的なダメージは皆無に等しい。むしろ心が温まることで精神的に立ち直ってくるまである」
今までの沢田綱吉は優柔不断という四字熟語がピタリと当てはまる少年だったが、今ではもはや勇猛果敢で剛毅果断、即断即決と合理主義がピタリと当てはまる男になっている。その苛烈にして寛大な振る舞いは、時に周囲から身の毛のよだつ
「ビビっている暇はないぞ。状況は
悪魔はため息をついて考える。
(ここまできて“ウワサさん”が出てこない……こちらにはルールを強要するくせに、そっちはルールを破ってくる……叛逆魔法の使い手であるオレが言えた義理じゃないが、相変わらずマギウスは自分たちで作ったルールの網目を掻い潜るのが好きだな……)
ウワサさんが出てきてウワサの内容を説明してくれなければ、情報がゼロであるため考察材料が足らず、何をどう攻略すればいいのか分からない。つまり全てが手探りの状態となる。暗中模索のウワサ探索は非常に危険だ。速やかに五名の魔法少女──入名クシュ、綾野梨花、五十鈴れん、深月フェリシア、鼓星かずみ──を脱出させる必要がある。
悪魔は死炎噴射で飛行し、鼓星かずみを縛る縄を死ぬ気の炎で焼き切って救出する。同様に入名クシュが縄を切って深月フェリシアを、綾野梨花が縄を腕力で引きちぎって五十鈴れんを救出した。
「起きろ、かずみ。まだ動けるだろ。ペルソナは魔力を奪われて出現するようだ。れんとフェリシアは大量の魔力を持っていかれて疲労困憊気味だが、ペルソナが出現しなかったお前は依然元気百倍のはずだ」
「────…………? あれ……あくま? おはよう……もう朝なの……?」
寝ぼけ眼の鼓星かずみは目をこすって朝の挨拶をする。かなり寝ぼけているようだ。
「ここはウワサ空間だ。深夜に台所へ忍び込んでおやつを盗み食いしてフェリシアと深夜のアニメ番組を見ようとしたら、マヨナカテレビを見てしまって引きずり込まれたのか? ともかくみかづき荘に帰るぞ。フェリシアをおんぶしてくれ」
事のあらましを思い出した鼓星かずみは事態を把握し、深月フェリシアをおぶさって悪魔の背後につく。
「梨花。ちょっとれんの容態を見させてくれ」
「え?」
仰向けに眠る五十鈴れん。その傍らに片膝を付いた悪魔は、彼女の耳に唇を近付けて小声で話しかける。
「れん……おまえ起きてるだろ」
「──っ!?」
「オレは心が読める。だから目を覚ましたかどうかはすぐに分かる。そしてれんが
「……!!」
「それで先に謝罪しておくが……れんの心を読んで“乙女の秘密”とやらを知ってしまった。それは決して梨花に知られたくない事だとも承知した。結果的にシャドウれんを一撃で倒したことで、シャドウれんが“乙女の秘密”を梨花にバラす事態は起こらなかったが……それはあくまで結果論だ。脅しと思われてほしくないから、こうして先んじて断っているが……いいか? このことは墓場まで持っていくと約束する。だから
“乙女の秘密”とは何か。それは五十鈴れんの秘め事。綾野梨花に対する重い想い。
どうやらマヨナカテレビのウワサは、捕らえた者の
五十鈴れんの場合。綾野梨花に対する独占欲が発揮されて、シャドウれんが綾野梨花を独り占めにしようと暴走するようだった。五十鈴れんの黒歴史である“綾野梨花観察日記”すら御開帳して、シャドウれんは自分がどれだけ綾野梨花を愛しているか力説する。そうなれば五十鈴れんは、知られたくなかった
その未来を、悪魔は瞬間イクスバーナーで結果的に防いだわけだが、それでも懸念材料が残っている。綾野梨花はマヨナカテレビで、五十鈴れんの抽象的な映像を視聴したはずだ。その時点で五十鈴れんの
「れんが考えている通り、梨花は
「!!?!?!?!?!!?」
「だが梨花はドン引きなんてしていないし、軽蔑もしていない。少なくとも悪感情は一切抱いていない。では今の梨花はどんな感情を抱いているのか? ……
悪魔は不敵に笑うと五十鈴れんの頭を撫でて、膝を立たせて立ち上がらせる。
「梨花、れんが起きた。彼女を背負ってほしい。──クシュは殿を任せた。オレが前に出る」
「れんちゃん! 大丈夫だった? どこか痛いところとかない?」
「…………う、うん……あ、あり……う……、その……」
五十鈴れんは動揺を隠せない。悪魔から“大丈夫だ”とお墨付きをもらったが、それでも受け入れがたい。そもそも悪魔は本当に心を読めるのか。たしかに自分の心は恐ろしいくらい見透かされたが、だからと言って絶対安全とは思えない。ふと綾野梨花は、五十鈴れんをおんぶして歩き始める。五十鈴れんは後ろ髪の良い匂いを嗅いでしまう。身体的な密着に驚いて混乱。鼻血が出そうな興奮を必死に押し隠す。
「ぁ、梨花ちゃ……」
「なに? どした? やっぱ具合悪い感じ? 一旦下ろそうか?」
「ぉ…………」
五十鈴れんは首を否と振る。そして言葉にならない羞恥心が五十鈴れんの心臓をバクバクと鼓動させて襲う。いっそ暴露された方が楽だったかもしれない。真っ赤な顔は熱を出していると誤解される。だが綾野梨花は、あえて「熱でもあるの?」とは聞かなかった。それは、どうして顔が赤いのか疑っているからである。疑いとは何もマイナス感情だけを意味しない。もっと知りたいから疑うのだ。五十鈴れんは綾野梨花をどう思っているのか。言葉のない駆け引きが沈黙の中でゆっくりと続いていく。
「敵の気配がする。関係の進展は現実世界に戻ってからにしろ」
『っッ!?』
明らかに綾野梨花と五十鈴れんの思考を見透かした上での注意。
悪魔の
「悪魔! なんかいっぱい来る! 百とか二百のレベルじゃない!」入名クシュは臨戦態勢に入る。
「おそらくウワサの手下の群れだ。人質を柱から救出したら襲ってくるシステムなのかもしれない。クシュは四人の護衛を任せた! オレが前線で焼き払う!」
前方よりクマ型の使い魔の集団が土煙を上げて爆走してくる。閉鎖空間の回廊では逃げ道はなく、それは逆も然り。悪魔は腰を落として両手を広げ、再び圧倒的な死ぬ気の炎を前方に放射した。橙色の死炎放射は天井と床を破砕し壁を爆砕しつつ直線上の敵軍を文字通り焼き尽くして消し飛ばす。剛の炎を浴びた数百体のクマ型の使い魔は跡形もなくなり、柔の炎を浴びた五名の魔法少女は優しさに満ちあふれた死ぬ気の炎の
(今回は急造の使い魔と空間構成のせいか、直線的な敵と構造が多いな……おかげでイクスバーナーを使いやすいが……それだけマギウスは切羽詰っているってことか? あるいは……
なんのために時間を稼ぐのか。それはおそらく
(マジで何を考えてる……マギウス……確殺賭博場ミネルヴァの次は、何をしでかすつもりだ……)
「──! 悪魔、近くにひとり魔法少女がいる。向こうもこっちに気付いてる」
悪魔は死炎噴射で飛び立ち、十字路の中央に滑り込む。そして前方から走ってくる青い魔法少女を見て警戒心を解いた。
「やちよか」
「…………」
七海やちよ。彼女もマヨナカテレビのウワサの調査をしていたのか。ばったり再会する。
「そう不機嫌になるな。こちらのメンバーはオレ含めて六名だ。まずはウワサの退治より、こいつらの脱出を急ぎたい」
「……それは賢明ね。ここのウワサは囚われてから六時間が経過して朝になると
「梨花も同様だ。オレとクシュは二葉さなの映像を見た」
悪魔と七海やちよは情報を共有する。悪魔は、先ほど柱に磔にされていた五十鈴れん・深月フェリシア・鼓星かずみの話をした。すると七海やちよの顔色が険しくなる。
「それはおかしいわね……私が集めたウワサの情報では、朝になって脱出不可能になったら
「オレはマギウスの工作が理由だと推測する。あいつらはみかづき荘を徹底的に目の敵にしているからな。梨花は放置しているのに、フェリシアとかずみだけ迷宮を攻略させず捕らえて磔にした。そう考えれば、梨花と二人の差異に理由が付けられる気がする」
「だとしても、マギウスでさえウワサのルールには逆らえないはずよ?」
「製作者だからこそ抜け道を用意しているのは道理だろう?」
「なら私は、まだ見ぬ敵が原因と推察するわ。言わなくても分かっているでしょうけど、とにかく気をつけて」
七海やちよはメモを取り出すと、インク替わりに魔力を流して地図を作製する。
「ずっと分析魔力を発散魔力で流して迷宮の構造をマッピングしていたの。既に脱出ゲートはいくつか見つけたから、さっさと脱出しなさい」
「その地図二枚に複製できるか? オレがまとめた地図情報も書き加えて複製したい。奥地に行けば三本の石柱が立っている。そこからさらに奥へ進めば孤独塔のウワサに繋がるゲートが見つかるはずだ」
「孤独塔?」
「名称以外は情報がない。とりあえず孤独塔に乗り込む時は戦力を整えろ。複製魔法少女が徒党を組んでいる情報も入手した。ウワサの守護者である黒羽根たちが逃げてきたんだ。つまり乱戦が予想される」
「……私たちと、マギウス&ウワサ、そして複製魔法少女の三つ巴……ということね」
「──四つ巴だ」
「え?」
「オレたちと、マギウス&ウワサ、そして孤独塔のウワサと、複製魔法少女……」
「どうしてそう思うの?」
「話せば長くなるが、二葉さなの映像を見た時、明らかに孤独塔のウワサが、マヨナカテレビのウワサのルールを破ってきていた。ウワサはルールを破られると怒って襲って来るだろう? つまりマヨナカテレビのウワサと孤独塔のウワサが相争う可能性が高い。共倒れになってくれたら攻略は楽だが、孤独塔のウワサには二葉さなという魔法少女が囚われている」
「共倒れを狙っていたら、二葉さなという子がそれに巻き込まれて命を落とすかもしれない……」
「そういうことだ。なかなか複雑化してきたな」
地図の共有を済ませて増殖魔力で二枚に複製。一枚を悪魔に手渡した七海やちよは、単身奥地へ進み出す。
「また個人プレーか?」
「その言葉、そっくりそのまま返すわ」
「オレは誰かの協力を拒まない。だがやちよは頑なに拒み始めている。この差だけはオレに
「……」
「ビビってんのらしくないぞ」
「
七海やちよの覇気が空間をピリピリと痺れさせる。
対する悪魔はため息をついて背を向けた。
「行くぞ。攻略はやちよに任せる。オレたちは脱出だ」
悪魔と七海やちよは背を向け合って駆け出す。
────その時、深月フェリシアの全身からドス黒いオーラが立ちのぼり始めた。
『────!?』
悪魔と七海やちよは、突として放たれた刺々しい気配に驚き、何事かと足を止めて振り返る。
一方の鼓星かずみは嫌な気配を感じて、背におぶっている深月フェリシアに首だけ振り返る。
「……? フェリシア……? ──うわぁ!?」
直後、深月フェリシアの周囲が爆発した。全身から勢いよく放出される黒混じりの魔力が、他者をハッキリと拒むように遮断する。
「フェリシア────!?」
「っ……!!」
突然の事態に困惑する七海やちよ。
対する悪魔は直感した。深月フェリシアが覚醒した事で、その心の中を読み取った。
「まさか────フェリシアのシャドウが出ていた時点で
「なに? どういうこと!? 説明して、悪魔っ!」
「っ……!」
五十鈴れんはマヨナカテレビに囚われて六時間迷宮を探索したが脱出できず、柱に磔にされてシャドウが出現した。そのシャドウを見た時、自分の
では深月フェリシアはどうか。彼女は数刻前の零時にマヨナカテレビのウワサに囚われて、六時間の迷宮探索をする前にいきなり柱に磔にされてシャドウが出現した。多少ルールが破られているとは言え、深月フェリシアは自分のシャドウを見た時、どう思っただろうか? おそらく自分の
「やちよ! マヨナカテレビのウワサは、捕らえた者の過去の
「────っ!?」
「だとしたら……まずいぞ! フェリシアは────!!」
────深月フェリシアは両親をその手で殺している。
深夜の火遊びにより家が全焼。睡眠中だった両親は焼け死に、ひとりで焦って泣いて消火活動をしていた深月フェリシアだけが生き残った。そこにキュゥべえが現れた。この受け入れがたい現実を《なんとかしてくれ》と願った結果、深月フェリシアは
(マヨナカテレビのウワサの
「うわぁあああああああああああ────!!」
深月フェリシアは苦しそうに自らの首を絞める。こんな事実は認められない。受け入れられない。拒絶したい。でも事実なら、こんな人殺しの自分は死んだ方がいい。愛する両親を殺したのは魔女ではなく自分自身だった。自業自得。最低の人間。罰を受けるべきだ。明日のマヨナカテレビの深夜零時の放送で、もしこの事実をみんなが知ったら、もう自分はひとりぼっちだ。こんな人殺しとは誰も友達になってくれない。こんな馬鹿な奴とは一生口をきいてくれない。思い返せば復讐のため、魔女を倒すため、そう言って乱暴な戦いを続けていながら、それで味方を危ない目に遭わせたことはいくらでもあった。何も学んでいない。頭の悪い奴だ。このままじゃいつか自分はみかづき荘のみんなを殺してしまうかもしれない。────愛している父ちゃんと母ちゃんを、この手で殺してしまったように。
「くぅ……ぅうう……っ────ッ!!」
深月フェリシアのソウルジェムが激しく明滅し、紫色の宝石は黒ずんで瘴気を放出する。そしてソウルジェムから爆発するように飛び出てくるは
「フェリシア!!
このままでは深月フェリシアはドッペルに呑み込まれてドッペル症を起こしてしまう。それを避けるため深月フェリシアが惹かれそうな情報を提示したが、効果は薄い。
両親が生き返った所で罪の意識は消えない。やったことはなかったことにならない。問題なのは────
「
「ちょ、悪魔────何を言って……!?」
最近の七海やちよは、みかづき荘をほったらかしにしてウワサの調査を続けていた。そのことに深月フェリシアは不満を感じていたようだ。自分を受け入れてくれた環いろはが落ち込んでいる様子を見ていると、さらにムカついてきた。最近のみかづき荘の雰囲気を悪くしているのは明らかに七海やちよだ。
(────よし。フェリシアが自己否定するベクトルから、なんとかやちよへの不満にベクトルを逸らすことができた。フェリシアの身勝手な性格が幸いしたな。これで攪拌のドッペルがしばらく暴れて落ち着けば、自動浄化システムにより穢れが回収されて元に戻るはず。その後はやちよに任せよう。さすがにドッペルを全開にして満身創痍になったフェリシアを連れて、孤独塔へ殴り込むことはしないだろう……)
悪魔は実に合理的だった。深月フェリシアの心が負のスパイラルに陥らないよう、その負の矛先を七海やちよに切り替えてみせた。そうすることで悪魔の言うことを聞かず、無謀にも単身で孤独塔のウワサに乗り込もうとしていた七海やちよを食い止める状況に持ち込んだ。
「梨花! かずみ! クシュ! 走れ! 付いてこい! 脱出するぞ!」
『────っっ!!?』
「やちよはフェリシアを任せた! しばらくドッペルに乗っ取られて本気で殺しにかかってくるだろうから気をつけろ!」
「
七海やちよの実力なら、万が一にも深月フェリシアのドッペルにやられることはない。反対にやりすぎて深月フェリシアを殺すこともない。双方の点から安心して任せることができる。
悪魔は死炎噴射で高速飛行。綾野梨花は五十鈴れんを背負って必死に追いすがり、鼓星かずみに肩を貸した入名クシュも全力疾走して追いつく。後方で激しい戦闘音。迷宮の天井や床、何枚もの壁が打ち砕かれる爆発音。轟々と震撼する迷宮を走り続けていると、クマ型の使い魔が大量に────今度は数千体の規模で襲ってくる。使い魔の遠隔攻撃。魔力の光弾を射出してくる。
悪魔は光弾を躱すため中空で身をひねり、一見無理な体勢から両手を開いて構えを取る。
刹那、莫大な死ぬ気の炎が一瞬で蓄積・収束した。
「《
そして大空の炎を噴出。爆発的な死炎噴射で、雑魚の軍勢を一撃のもとに葬り去る。
その後も地図の通りに走っていると、マヨナカテレビのウワサ迷宮から外に出る脱出ゲートに辿り着いた。
「ゲートだ! 飛び込め! 現在時刻は午前三時! 今の季節ならあと二時間で朝焼けの時刻だ! やちよは
その話を聞いた綾野梨花は五十鈴れんをおぶさったまま脱出ゲートに飛び込む。鼓星かずみと入名クシュも飛び込む。それを確認した悪魔は一時停止。振り返り、七海やちよと深月フェリシアの気配を直感する。
「まだ戦いが終わっていない……加勢するべきか? いや────」
今ここで助けに戻れば、深月フェリシアのドッペル化が解除される。すると七海やちよは
「……」
ところでマヨナカテレビのウワサの性質は暴露であることが、五十鈴れんと深月フェリシアの様子を見て推察できる。ならば七海やちよは? 彼女は常に心の中で“安名メル”“雪野かなえ”という魔法少女の思い出を大切にしている。そのことを出会った時から直感していた悪魔は、ふと悪い考えが脳裏をよぎる。
七海やちよが悪魔を追い出したのは、安名メルのことを強く思い出したからだ。ふたりの仲間を失ったトラウマが、再び七海やちよの心を閉ざそうとしている。環いろはによって開き始めた心の扉が、悪魔のせいでまた強く閉じようとしている。
その責任を果たすため。
みかづき荘の
悪魔は気軽に汚名を被る。
「悪いな、やちよ。だからオレは
合理と狂気と平和を優先する悪魔は、故にこそ。
†