※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【神浜ミレナ座っていう調整屋さん!!】水波レナ&秋野かえで

 

 砂場の魔女との戦闘。

 

「おりゃあああああ!!」

 水波レナはトライデント(三叉槍)を奮って魔女の体を斬りつける。

 

「ジャギギ▲◇◎◎◇▼☆☆ー!!!!」

 砂遊びを邪魔された魔女は泣き喚いて地団駄を踏み、その大暴れは結界を覆うほどの砂嵐を発生させ、数本もの竜巻を巻き起こす。その竜巻が巻き上げているものは主に砂で構成されていたが、その中に火属性の魔力が混じっており、砂の竜巻は熱砂の竜巻と化して猛威を振るっていた。

 

「て、てりゃぁああああああ!」

 秋野かえでは杖を振るい、魔力弾を発射して砂場の魔女を攻撃。レナに攻撃が向かわないよう魔女の注意を引く。

 

「はぁああああ!」

 環いろははクロスボウの照準を砂場の魔女の腕に捉え、光の矢を射出する。そこで熱砂の竜巻が差し迫り、回避が間に合わず吹き飛ばされてしまった。

 

「きゃあああああ!」

 巻き上げられた環いろはは落下する。そして地面に激突する直前、悪魔が滑り込んでいろはの体を抱きかかえるようにキャッチした。

 

「ぐっ────いろは、大丈夫か!?」

「きゃっ! っ……あ、悪魔さん!」

 

 すぐに悪魔は、いろはを地面に立たせるように下ろし、その背中を“大丈夫だ”と言うように軽く叩く。

 

「行け! 謝罪もお礼も後だ! 今はレナをフォローしろ!」

「は、はい!」

 

 いろはは戦線に復帰する。その間いろはが捌くはずの魔女の攻撃は全てレナが捌いていた。

 

「ちょっとアンタ! 加勢しに来たのか邪魔しに来たのかハッキリしなさいよ! これじゃレナ攻撃できないじゃない!」

「ご、ごめんなさい!」

「レナちゃん! 本当のことでもそういう言い方はどうかと思うよ!」

 

 砂場の魔女は両腕を振るう。それはどちらも秋野かえでを捉えていた。それを見て悪魔は思う。

 

(やはり“没頭”の性質の影響によるものか……この魔女は攻撃対象を一人に絞る傾向にあるようだ。今は環いろはを戦場たる砂場の外に吹き飛ばしたから意識を外して、未だ砂場の上に残り続ける秋野かえでにターゲットを絞った。すぐに環いろはが戦場に戻ってきても、そのターゲットの絞り方に変化はない。攻撃対象の選定にも何か強いこだわりがあり、あらゆる例外はお構いなし……か)

 

 ならばと悪魔は砂場の魔女の真下に駆け込む。

 

「時雨蒼燕流 攻式・八之型────《篠突(しのつ)く雨》」

 

 そして跳躍。敵の懐に飛び込み鋭い斬撃で突き上げる刺突攻撃を仕掛ける。悪魔に奮われた刀身には青い炎が宿っており、それは水属性(アクア)────否、雨属性(ピオッジャ)の鎮静効果を備えて、砂場の魔女の下腹部を突き刺した。

 

「ズシャアア▲◇◎◎◇▼☆☆ー!!!?」

 

 砂場の魔女の絶叫。それから体勢が崩れ、魔女の体が硬直し、攻撃の手が止む。

 

「魔女の動きが止まった!」

「今だよ、レナちゃん!」

「分かってるわよ! あぁもうやればいいんでしょ!? なんかものすっごく癪だけど……こんな簡単に勝てそうなの初めてだから正直気分爽快よ! このぅ────《海鏡・わだつみの大海嘯(インフィニット・ポセイドン)》ッ!!」

 

 砂場の魔女を囲うように数十枚もの水鏡が並列して浮遊する。その水鏡すべてに水波レナの姿が映った次の瞬間、水鏡から閃光のごとく飛び出した水(・)波(・)レ(・)ナ(・)達(・)は目で捉えきれない圧倒的なスピードで敵を突き刺し水鏡の中に戻り、再び飛び出しては斬りつける怒涛の連続攻撃を一秒の間に何百回と繰り返す。やがて全ての水鏡が超高速の連撃に耐え切れずパリンと音を立てて断ち割れた。

 

「────喰らえッ!!」

 

 そ(・)れ(・)を(・)見(・)届(・)け(・)た(・)本(・)体(・)の(・)水(・)波(・)レ(・)ナ(・)は跳躍。手持ちのトライデントを巨大化させ、砂場の魔女めがけて投擲した。それは魔女の頭部に命中し、巨大な水柱を立ち上げながら青い爆発を引き起こす。

 

「ズシャアア▲◇◎◎◇▼☆☆ー!!!?」

 

 断末魔を上げた砂場の魔女は消滅。魔女結界は泡沫のごとく消え去り、悪魔と魔法少女たちは現実世界の路地裏に帰還した。

 

 悪魔は真っ先にキュゥべえの容態を確認する。するとキュゥべえは死んだように横になって倒れていた。それを拾った悪魔はキュゥべえの耳を結んでマフラーのように首に巻く。

 かたや環いろはは戦闘終了を喜ぶ安堵の溜息をついており、かたや水波レナと秋野かえではそれぞれ立ち尽くすか尻餅を搗くかして唖然としていた。

 

「……勝てちゃった……」

「うん……レナちゃん……ホントに勝てちゃったね……」

「あんなに苦戦したのに……ここの魔女って、こんなにあっさり倒せるものだったっけ?」

「それは……ベテランの人なら楽勝だろうけど……たとえばやちよさんとか……」

「それはそうかもだけど……じゃあなに? 誰のおかげで勝てたって言うの?」

「そ、そんなの分かりきってることじゃん! レナちゃんだってホントは分かってるくせに!」

「むぅ……それは……」

 

 レナとかえでが悪魔の背中を見やると、その視線を遮るように一個のグリーフシードが舞い降りる。それを手に取ったレナは横からかえでに抱きつかれる。そうして二人は強敵との戦いを制した勝利の喜びを分かちあった。

 

 その様子を見ていた環いろはも笑顔になり、傍らの悪魔に微笑みかける。

 

「やりましたね、悪魔さん!」

「────ッ」

 

 不意に悪魔の体がふらついて片膝を突く。今にも意識を失って倒れそうな様子を見て、そこにいた全員が背筋を凍らせた。

 

「えっ……悪魔さん?」

 

 慌てて駆け付けた環いろはは、どこかケガしたのかと治癒魔法を準備する。

 それを片手で制した悪魔は、よろめきながらも立ち上がった。

 

「少し……疲れただけだ。しばらく休んでいれば回復する……」

「で、でも、顔が青ざめてますよ!? まるで生気がないっていうか……」

 

 そこでいろはは思い出す。悪魔は生命力を代価に魔力を生成している事を。先ほどの戦闘で悪魔は刀剣を作成した。あれは死ぬ気の炎で作られたものではなく、魔力で作られたもの。つまり紛れもない魔法である。悪魔の体に戦闘による外傷は一つもない。よってこの極度の疲弊は、生命力の著しい消耗のせいであると、いろはは判断する。

 

(生命力が低下している……それじゃあ治癒魔法でも治らない……?)

 

 この状態の悪魔に治癒魔法を掛けようものなら、それはトドメを刺すようなものである。体力を回復する治癒魔法は、その前提として強制的な治癒の速成を成り立たせるエネルギーが必要であり、そのエネルギーが足りない場合は自力での自然治癒を待つしかない。

 たとえるなら一週間ほど何も食べていない餓死寸前の人間に、いきなり大量の食べ物を与えて死なせてしまうようなものである。食べ物の消化にはエネルギーを使う。そのエネルギーが足りないと食べ物が消化されず体内を壊して死亡する。それと同様に治癒にもエネルギーを使う。もし生命力が低下している悪魔に治癒魔法を掛けたら、その時点で肉体が壊死して風化した岩石のように崩れ去ってしまうかもしれない。

 

 その現象を完全に理解していたわけではないが、こと病気や食事制限に関して詳細な知識を有していた環いろはは、今の悪魔に治癒魔法を使うのは危険と判断した。

 

「どうしよう……えっと、ねぇ、レナちゃん。かえでちゃん。近くに休める場所とかないかな……? できれば魔女とか出てこない場所がいいんだけど……」

「あ……それなら……ここ廃墟街から近いから、あそこがいいんじゃない?」

「っていうか、あそこしかないよね!」

 

 レナとかえでは互いの顔を見合わせると、うんと頷いて同時に“あそこ”の名前を言った。

 

『神浜ミレナ座っていう調整屋さん!!』

 

 次の瞬間、悪魔は頭から崩れ落ちて気絶した。

 

「え────えぇえええええええ!?」

「ちょ、ちょっと! 今の倒れ方やばくなかった!?」

「あ、頭から豪快に行ったよ!? ゴンッって鈍い音がしたよぉ!?」

 

 わたわたと慌てふためく三人の魔法少女。

 やがて、そこに金髪の魔法少女が到着した。

 

   †

 

 薄暗い広間。壁一面のステンドグラスが陽の光を通し、白く青いほのかな明かりを広間にもたらしている。だが広間を覆う影も多く、それは広間を区切る幾本もの柱、保健室にあるような白いベッド、いくつかの植木鉢に、謎のオブジェクト、木製のベンチ、消灯されたスタンドランプ、ヴィンテージものの高級ソファ三席、やはり謎めいた複数のオブジェクト、ほかテーブルや冷蔵庫など、まるで人が住んでいるような内装になっている。

 

 そこに担ぎ込まれてからしばらく。

 長いようで短い眠りから目覚めた悪魔は、白いベッドの上から飛び起きる。

 

「────よっ!」

 

 そして周囲を見渡そうと思った矢先、ふと目が合った金髪の女性から軽快な挨拶をされた。それは敬礼した手を額から弾くような挨拶だった。

 

「……えーっと、えへへ。本当に大丈夫だよね? 一応普通の人間みたいだからさ、やっぱ病院行っとく?」

「……いや……もう回復した。問題はない。それより順を追って説明してほしい。ここはどこで、君は誰だ?」

 

 回復したといっても突然起き上がったことでめまいがするのか、悪魔は目元を抑える。

 

「あー……ここは調整屋さ。そして悪魔なんて変な名前を名乗るアンタをここまで運んだアタシは十咎(とがめ)ももこ! 魔法少女さ」

「……そうか。助けてくれてありがとう」

「なんのなんの! ……で、経緯の説明とかいる? アンタが倒れた後にアタシが遅れて到着してさ。レナとかえで、あといろはちゃんから詳しい話を聞いて、アンタをここに運ぶことにしたんだ。最初は病院に連れていこうと思ったんだけど、なんかこっち(魔法少女)側で、すっごくワケアリっぽかったからさ。ここは魔女も滅多に来ないし、毎日魔女と戦う奴にとって休憩には最適の場所だ。そういうわけでアタシがおぶって速攻で連れてきたってわけ」

「……なるほど。重ねて礼を言う」

「いやいや。助けられたのはこっちさ。レナとかえではアタシの大切な後輩なんだ。もし君といろはちゃんが助けてくれなかったら今頃どうなっていたことか……考えるだけで恐ろしいよ。だから、こっちこそありがとう……」

 

 十咎ももこは感謝の微笑を投げかける。

 それを黙って受け取った悪魔は、改めて周囲を見渡した。

 

「……いろはたちは、どこにいる?」

「あぁ。それならもうすぐ……」

 

 ももこは出入り口の方を見やると、ちょうどそこからいろはたちが歩いてくる。

 

「あ、悪魔さん! 目を覚ましたんですね! 頭は痛くないですか? 大丈夫ですか?」

 

 いろはは悪魔の額に手を当てる。

 

「……熱は引いたみたいですね。よかったです!」

 

 いろはの手元には絞った濡れタオルがある。どうやらそれを交換しに行っていたようだ。悪魔も飛び起きた時は気付かなかったが、足元に乾きつつあるタオルが落ちているのを発見。それを拾い上げて、いろはに看病の礼を言いつつ返した。

 

「はぁ……急に倒れた時は口から心臓が飛び出しちゃうくらいびっくりしたわよ。はい、これ。なんというか……色々と助けられたお礼のオレンジジュース」

「こ、コーヒーもあるよ! 好きな方を飲んでね!」

 

 一方、レナとかえでは全員分の飲み物を買い出しに行っていたのか、悪魔だけではなく、いろはやももこにも飲み物を渡して回る。

 

「どっちもいただこう。……それで、あ(・)ん(・)た(・)が調整屋(ここ)の主人か?」

 

 十咎ももこ、環いろは、水波(みなみ)レナ、秋野かえで。それとは別にもうひとり、見知らぬ女性が立っていた。彼女は銀髪の魔法少女。燕尾服を想起させる白黒のドレスを身に付けている。

 

「はぁい、八雲みたまでぇす! 男性のお客さんなんて初めてだから緊張するわぁ」

「……急な商談で悪いが、しばらくここを活動拠点にさせてもらっても構わないか?」

「あら。本当に急ね? えーっと……そうねぇ……それなら家賃はぁ……。一泊につきグリーフシード一個で!」

「いやがめついな!? それ今決めたろ!」

 

 悪魔の手馴れたツッコミ。それが意外だったのか、キャラではないと勝手に思い込んでいたのか、みたま以外の全員が驚く。

 

「だってここは私の家でもあるのよぉ? ひとつ屋根の下に男女が二人きりなんて……そんなの不純異性交遊を誘発するようなものじゃな~い」

「つまり“嫌だお断り”ってことか。だが食い下がるぞ。こっちも宿に関しては死活問題なんだ。グリーフシードという物自体は用意できないが、その代わり“一泊につき八雲みたまのソウルジェムを完全浄化する”という支払い契約なら可能だ。これならどうだ? ちなみに浄化方法は企業秘密とする」

「あらぁお上手。こっちのグリーフシードを欲しがる理由がソウルジェムの浄化にあると見越した上での申し出ね。でも残念……実はソウルジェムの浄化についてはそれほど悩んでいないの。それよりグリーフシードの実物の方が、今は欲しいかなぁ? なんて!」

 

 ソウルジェムを浄化するより、グリーフシードの実物が欲しい。

 その理由が分からない悪魔は、妙な不快感を直感する。

 

「……なぜグリーフシードを欲しがる?」

「それは秘密でぇす」

「…………じゃあ、これはどうだ?」

 

 まだ食い下がる悪魔に対し、みたまは目を丸くする。

 

「魔法少女をやめられるってうわさ、知ってるか?」

 

 瞬間、場が静まった。その意味の重要性を知る八雲みたまと十咎ももこは顔を強ばらせて、その意味の重要性を知らない環いろははポカンとした顔で佇み、そのうわさを知る水波レナと秋野かえでは思い出したように手を打った。

 

「え、待って? それってもしかして……」

「れ、レナちゃん! そういえばこの人、悪魔って名前だよ! しかもキュゥべえを連れてる!」

「そ、そうよ、かえで! これって“キュゥべえを連れた男の子のうわさ”そのまんまだわ! なんですぐに気付かなかったんだろ!」

 

 妙なところで盛り上がるレナとかえでに、悪魔が疑問を呈する。

 

「なんの話をしているんだ?」

「キュゥべえを連れた男の子のうわさってのがあったのよ! そいつは魔法少女を普通の人間に戻しちゃう悪魔なんだってうわさ!」

「……それは……どう考えてもオレの話だな」

「えっ! まさかあのうわさホントなの!?」

 

 レナの追求。それから逃れるべく悪魔は話をはぐらかす。

 

「いや……そんなことはない。それより、そのうわさに関しては他言無用で頼む」

 

 悪魔は白いベッドから降りて立てるかどうか確かめる。

 

(そうか……もうここまでうわさが広まっているのか……)

 

 そして充分に体を動かせることを確認すると出口に向かって歩き出した。

 

「邪魔したな。用があったらまた来る」

 

 悪魔は調整屋を後にする。そのとき思い出していたことは魔(・)法(・)少(・)女(・)を(・)や(・)め(・)ら(・)れ(・)る(・)う(・)わ(・)さ(・)について話した時の全員の顔色だった。そこから全員の魔法少女をや(・)め(・)た(・)い(・)度(・)を考える。

 

(みたまとももこは明らかに魔法少女の真実を知っている。反対にいろは、レナ、かえでの三人は知らない。そして、みたまは魔法少女をやめることに関してそれほど執着していないようだった。おそらく魔法少女でなければいけない理由や目的があるのだろう。それはいろはも同じようだった。たしか小さなキュゥべえ……だったか。それを見つけるまではやめられないのだろう。さほど興味を示していなかった。一方、ももこは魔法少女をやめたい気持ちが半分、周りの人を守らなければならないからやめられない義務感が半分ってところか……正義感や責任感の強いリーダーによくある葛藤だ。レナとかえでも興味津々って感じで、できればやめたいという気持ちが心のどこかにあるのだろう。そうなると悪魔契約を持ち掛けるべきは十咎ももこ、水波レナ、秋野かえでの三名ってことになる。それでも一応、八雲みたまにも持ち掛けてみるか……彼女は何か不審な点が目立つ。だけど調整屋なんて大体そんなもんか……基本的に調整屋の魔法少女はキュゥべえに呪いを願った少女たちだ。そのせいで彼女たちは呪いの魔力を意味する無属性……または霧属性を有するに至る。彼女たちの心にどれだけの闇があるのか……深入りしない方が身の為だとは頭で理解しているが、それでも────)

 

 ────救えるものは救うべきだ。

 

 自らの悲願達成に執着しつつ、どうしても周りの不幸を見過ごせず、寄り道してでも周りの幸福を願い実現させる。そんな甘さを捨てきれない少年の信念は、それに触れた者を心の底から暖めるほど優しいが、同時にあまりにも厳しい信念であることを鋭く示していた。

 

   †

 

 悪魔は廃墟街の路地裏を歩く。すると後方から環いろはが追ってきた。

 

「あ、あの! 悪魔さん!」

「……?」

 

 いったい何しに来たのかと言うように悪魔は首をひねる。

 

「その……ちょっと心配で。もう動いて平気なんですか?」

「あぁ。おかげさまでな。それで、どうした?」

「いえ……そういえばまだ、ちゃんとしたお礼を言っていないなと思いまして。────悪魔さん。魔女との戦いでは本当に助かりました。ありがとうございます」

「……律儀な奴だな。それじゃあ今日最後のアドバイスだ。この神浜市の魔女は異常なほど強い。よって単独行動は禁物だ。今のいろはの実力では確実に死ぬ。だから水波レナと秋野かえでを救った恩を着せて十咎ももこに小さなキュゥべえ探しを依頼するのも手だろう。まぁ、あの感じだと普通に頼んでも引き受けてくれそうだけど」

「はい。ももこさんはとても優しい人なんです! それに小さなキュゥべえ探しは、既に話してあって、協力してくれるそうです!」

「……そうか。なら要らない助言だったな。それなら調整も受けたのか?」

「はい。調整ってすごいですね! 初めて知りました。グリーフシードと交換条件なのが新米魔法少女にとっては厳しいものがありますけど、魔法少女のソウルジェムを強化してくれたり、チームを組むための魔法少女を紹介してくれたりと、とても便利な施設なんです!」

「そうだな。それで、魔力が強化された実感はどうだった?」

「えっと……それが、なんだかすごく力が湧き上がるような感じがして、体の中が熱くて……体の芯からあたたかくなるような感じがしました! それと不思議なんですが、列車の時に悪魔さんが使っていた魔法と似たような感じがして……」

「死ぬ気の零地点突破(ディアヴォロ・ディ・マクスウェル)のことか。あれはいろはのソウルジェムに高温(プラス)エネルギーを集めて、一時的とはいえ魔力を増大させたからな。ソウルジェムを直接いじって魔力量を底上げする調整と似ているのは当然だろう。ちなみに調整とは、本来ソウルジェムの潜在魔力を引きずり出す技術だ。その点、調整後はしばらくすると息苦しくなったり、魔力の制御が一時的に難しくなったりするが、じきに慣れる」

「そうみたいですね。そうなった時の対処法としては、しばらく魔力を使わずにいると慣れる時間が早くなる人もいれば、試しに一発大技(マギア)を使った方が喉に詰まったタンが取れるような快感がして晴れ晴れとするらしいです。私やかえでちゃんは前者でしたけど、レナちゃんやももこさんは後者だったそうです」

「それは完全に性格の問題だろうな」

「性格……そうですね。たしかにそんな感じがします」

 

 談笑。やがて環いろはは、自分が悪魔を引き止めてしまっていることに気付く。

 

「あ、ごめんなさい。急いでいるんですよね? たしか人探しで……」

「あぁ。そっちも小さなキュゥべえ探し、頑張れよ」

「…………はい」

 

 ふとした環いろはの異変。それを悪魔は見逃さなかった。

 

「……どうした? 何かあったみたいだが」

「あ、えっと……それが……調整を受けた時に、少し変な夢を見て……」

「夢……そうか。それで?」

 

 調整とは、魔法少女の魂と言えるソウルジェムを施術することである。だれかの魂に触れれば、それがなんらかの反応を示すこともあるだろう。環いろはの場合は、八雲みたまの調整によって、その魂に影響が生じたのだ。

 

「それが……私、妹(・)が(・)い(・)た(・)み(・)た(・)い(・)な(・)ん(・)で(・)す(・)」

「────い(・)た(・)み(・)た(・)い(・)?」

「あの……変に思われるかもしれませんが……なぜかみたまさんの調整を受けるまで、そのことをすっかり忘れてて……とても大事な家族との思い出なのに……なんで忘れちゃってたんだろうって、そう思って……」

 

 目に見えて落ち込むいろは。

 その出来事を聞いた悪魔は、環いろはに起きた事象について一つの仮説を直感する。

 

「────歴史の改竄か?」

 

 脳裏によぎるは悪魔契約。それは願い事を無かったことにする摂理への叛逆魔法。

 

「……えっと、今なんて? 歴史の……かいざん?」

「いや、あくまでひとつの可能性の話だ。記憶の植え付けといったほかの可能性もある。空想上の存在とかな」

「それは……みたまさんにも言われました。でも……」

「本当にいると信じているんだろ? その直感は正しいと思う。だから真実が分かるまで妹さんを探すといい。オレの直感は当たるからな。心配するな」

「……! 悪魔さん……はい。私、諦めないで絶対う(・)い(・)を見つけ出します!」

 

 正直なところ悪魔も環いろはの話には半信半疑である。しかし周りが既に否定したことを、あえてまた否定することもないだろうという考えから(気休めでしかないけど)励ますことにした。それは環いろはも見抜いているだろう。その上で環いろはは希望を探すのだ。それができる女の子だから気休めの発言をした。そのため悪魔は、この時点で直感するまでもなく、彼女が芯のある人間だと見抜いていた。

 

 悪魔は背を向けて歩き出す。環いろはも踵を返して調整屋に戻る。

 いつか二人の探し物が交差する時────また共闘できる日が来るだろう。

 なぜかは知らないがそんな感覚を抱いた二人は、迷いなく己の道を踏み締めていった。

 

   †

 

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