アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
夕暮れの参京区。中華飯店“万々歳”にて。ガラガラと勢いよく引き戸が開かれる。
「ハイらっしゃーい!」
看板娘たる由比鶴乃の明朗な掛け声。
それに応えるは夏目かこ。背後には千秋理子とアシュリー・テイラーを連れている。
「鶴乃さん、お邪魔します! あの、鼓星かずみさんという方は、こちらにいらっしゃいますでしょうか!?」
「お、かこちゃん! 久しぶりー! かずみなら……もうバイト上がっちゃったかな?」
「え……それじゃあ、どこに行ったのかは……」
「うーん。また河川敷で草木や岩石でも食べてるんじゃないかなぁ~」
「草木や岩石!?」
「お腹壊すからやめなーって注意してるんだけどね? いかんせん大食いで……かずみがお腹いっぱいになるまでまかないを食べさせていたら、このお店潰れちゃうからさ~。かずみも掛け持ちバイトしてるみたいだけど全然お金が足りないみたいだし……今それがみかづき荘の中でもホットな問題になっていて、みんなでどうしたものかと悩んでるんだよぉ……」
「みかづき荘……えっ。かずみさん、みかづき荘と関係が……?」
「関係もなにも、一緒に住んでるよ?」
そこで夏目かこは確信した。悪魔がちょっと意地悪してきたことに。さすが悪魔と名乗るだけある。魔性の雰囲気で意地が悪い。
以前の夏目かこなら、どうしてこのような婉曲的なことをするのか理解できず、少し頭を悩ませただろう。しかし常盤ななかとの一件で成長した夏目かこは、人のちょっとした悪意に気付けるようになっていた。
「そ、そうですか……教えてくれてありがとうございます! このお礼はのちほど! また50点ラーメン食べに来ますから!」
「うちのラーメンはそんな名前じゃないよー!」
夏目かこはペコリと頭を下げると河川敷方面に駆け出す。
追いかける千秋理子とアシュリー・テイラーの掛け合い。
「たしか、かずみお姉さんって、ミネルヴァのウワサの時に一緒に戦った方ですよね?」
「とってもカワイイ容姿だったのでよく覚えてますよー。アホ毛、ロングヘア、紅い瞳、あどけなさの残る風貌、中学生とは思えないとってもベイビーキュートなフェイスでしたー!」
「つまり二人は顔を見たことがあるんだね。私は顔を知らないけど、二人が知ってるなら見つけられそう……!」
そうして河川敷に到着。そこで三人はよくわからないものを目撃した。土手と河川の間に立つ黒髪赤眼の少女は包丁を手に持ち、切り株の上で雑草と小石を切り刻んでいた。するとそれはみるみると麺類や野菜に変わっていき、川から汲み上げた水に《破壊魔法》を掛けることで、どうやってかスープに加工。巨大な器の上にスープを注いで麺類と野菜をぶち込み、なんと百人分のラーメンを完成させた。おかげで周囲に生えていた雑草や砂利が根こそぎ無くなっている。
「スタンド《
腕力で包丁を破壊して箸に変えた鼓星かずみは、一息で一杯分のラーメンを呑み込み、ズルズルと麺をすすって食べていく。
(く────クレイジー……!!)
夏目かこの第一印象は、そのような感想だった。
(でも……かずみさんは、ラーメン好きなのかな……私もラーメン好きだから……話せば仲良くなれるよね……?)
かくして夏目かこは勇気を出して声をかける。持ち前のコミュ力を使い、悪魔の名前を出して信用を得て、ラーメンの話題で盛り上がり、マヨナカテレビのウワサについて共闘したいと告げ、悪魔の作戦に参加する条件を満たす必要があることを説明。結果、意気投合した四人は、薄暗くなる空のもと、一路みかづき荘へ向かった。
†
深夜。みかづき荘に戻ってきた悪魔は、リビングのテレビを点けてチャンネルを切り替え、画面を砂嵐で固定。作戦会議を開く。
「まずは聞こう。やちよとフェリシアの救出作戦に参加したい者は挙手してくれ」
環いろは、環うい、由比鶴乃、暁美ほむらが手を挙げる。そして彼女たちが手を挙げるならと、万年桜、リリス、百江なぎさが手を挙げた。黒江は戦力外であることを自覚しているため黙って見守る。倉庫ではフゥ太とイーピンが眠っており、ジュリー凪は外敵が来た時に対応するため、あらかじめ悪魔から言われて子供たちの護衛に当たっている。
「質問を変えよう。マヨナカテレビに入りたい者は挙手してくれ」
『……?』
「今回のウワサは罠である可能性が高い。全員で入ると致命的な失策となる気がする。全員で突入するとしても、途中で脱出するチームを用意しておきたい。何かしらの理由で片方のチームが罠に掛かった時に、一足先に脱出したもう片方のチームが救出できるようにするためだ。そしてウワサの中は死闘が予想される」
故に悪魔は、自らの案を提出する。
「みかづき荘の中でマヨナカテレビの中に入っていい魔法少女は、環いろは・暁美ほむら……この二名のみとする」
「えっ! 最強の魔法少女は連れて行かないの!?」自分で言う由比鶴乃。
「鶴乃は救出チームの方に当たってほしい。ういも同様だ。万年桜はウワサについて詳しいだろうから、何かあった時のために準備しておいてほしい」
そこで百江なぎさが提案する。
「鶴乃となぎさは連れて行くべきなのです。クマ吉はおそらく、やちよとフェリシアを救助したら、いろはとほむらにその二人を任せて、四人で脱出させるつもりなのです。つまり、そのあとはクマ吉がひとりで戦うつもりなのです」
『……!』
悪魔は苦々しい面持ちで銀髪少女を見つめる。
対する百江なぎさは「クマ吉の考えることはお見通しなのです」と、どこか不機嫌そうにプイッと顔を逸らした。
「悪魔さん。もしそれが本当なら見過ごせません。私たちも一緒に戦います」
「無茶は……よくないです。目の下のクマもひどいし……それじゃあミネルヴァの時と……」
環いろはと暁美ほむらの苦言。そう来ることは予想済み。故に百江なぎさの提案を許可する。
「分かった。鶴乃となぎさの同行も許可する。やちよとフェリシアを救出したら、その二人を脱出ゲートまで移動させる役目はその二人だ。いろはとほむらはオレに付いてこい。マヨナカテレビのウワサからウェーブロードを経由して孤独塔のウワサに乗り込む」
『……孤独塔?』
「孤独塔のウワサの入口は電波塔の屋上から飛び降りることだが、ひとり入るとひとり抜けるというルールがある。だが出口にそのようなルールはない。出口は神浜セントラルタワーの屋上ヘリポートから飛び上がることだ。つまり
突入チームをAチームとし、何かあった時のためのチームをBチームとする。
Aチームは、悪魔、環いろは、暁美ほむら、由比鶴乃、百江なぎさの五名。
Bチームは、(救助した)七海やちよと深月フェリシア、(脱出した)由比鶴乃と百江なぎさ、そして環うい、万年桜、黒江の七名となる。リリスも入れれば八名だ。
といっても、この人選にはあまりこだわらないようにする。情報が少ない上、戦局は常に変化するため、臨機応変な対応が求められる。
(おそらく、やちよは言うことを聞かない……だがそれでいい。無理に人を押さえつけたところで連携力が低下するだけだ。なるようになった方が、かえって事がうまく回る。だがBチームにういと万年桜は必須だ。直感するに、心配はあるが特に不満は無さそうだし……ういは言うことを聞いてくれるだろう)
「お姉ちゃん……気をつけてね」
「うい……大丈夫だよ。絶対無事に、やちよさんとフェリシアちゃんを助けてくるから。そんなに心配しないで」
「黒江。ロープは持ってきたか?」
「あ、はい……でも、これで何を……?」
悪魔は長く丈夫なロープを柱に括りつけると、それを伸ばし、平然と環ういの体を縛り始めた。
『!?』
「みんなマヨナカテレビを観たいだろう。だが観た者はとんでもない吸引力でテレビの中に吸い込まれる。ういと万年桜だけはBチームに必須だから、もしものことがないようロープで縛り付けておく。黒江も同様だ。離れて見ていても万が一ということがある。だが体がちぎれそうになった時のために、ロープを切るナイフは持たせておくから安心しろ」
そんな目に遭うなら観たくない、という思いが黒江の中に湧いてくる。
そうして悪魔は環ういに引き続き、万年桜とリリスと黒江を縛った。
「オレたちが吸い込まれたあとは、凪でも呼んでロープをほどいてもらえ」
そのとき玄関の鍵がガチャリと開く。鼓星かずみが帰ってくると、その後ろからぞろぞろと魔法少女が入ってきた。
「ただいまー! 強力な助っ人がいっぱい来たよー!」
約束通りやってきた綾野梨花と入名クシュ。
条件を満たして現れた夏目かこと千秋理子とアシュリー・テイラー。
そして竜城明日香がやる気に満ちあふれて、ふんすと鼻を鳴らし入ってくる。
「来たか。こいつらがさっき話した外部の協力者だ」
「かこちゃん!」「いろはさん!」
環いろはと夏目かこの再会。キリサキ事件の時は、互いに復讐心に囚われて周りが見えていなかったが、終わってみれば抜群のコンビネーション能力を発揮していたことを思い出して、ふたりともどこか波長が合うと感じていた。
そこで暁美ほむらが問いかける。
「あの……悪魔さん。彼女たちは……どっちのチームに入るんですか?」
「どちらでもない。彼女たちはCチームだ。Aチームと共にマヨナカテレビのウワサに突入するが、基本的に別の部隊として行動する。理由は前もって知らせた通り、今回は三つ巴以上の戦いが想定されるからだ。敵は、マギウスとマヨナカテレビのウワサだけではなく、孤独塔のウワサや、徒党を組んでいる複製魔法少女の存在も示唆されている。ウワサ内部では共同戦線を張るが、必要があれば別々の場所で戦うこともあるだろう」
「でね! そのリーダーが、なぜか! わたしなんだって! ねぇなんで?」
鼓星かずみは理由を尋ねる。
「それなら明日香に聞け。理由は既に説明した。アドバイザーはかこ、補佐は明日香に任せる。ほかは戦闘員だ」
「ふーん。じゃあチーム名はどうする? チームCじゃ寂しいよー!」
「知るか。勝手に決めろ」
鼓星かずみは腕を組んで喉を唸らせ俯き悩み込む。
そこで残るCチームが順々に提案した。
「チーム……“チュロス”? Cから始まるし……」綾野梨花が言う。
「チーム“悪魔お助け隊”あるいは“悪魔殿騎士団”というのは!?」
「チーム“ラーメン”とか……あ、いえ、やっぱりなんでもないです……」
「わたしは……チーム“デパプリ”……? アシュお姉さんは?」
「そうデスねー……チーム“まじかるー”とか“ハピツリ”とか“でんでん”とか、どうでしょー?」
「“暗黒の帳”────あるいは“異端審問機関・闇色の七王権”」
「お前ら趣味全開が過ぎるだろ。まともなのは梨花と理子だけか」
「そういう悪魔はどうなの? 勝手に決めろって言ったじゃん!」
鼓星かずみの尤もな指摘。悪魔に視線が集まる。
「……かずみはオレの
「?」
「チーム“ベナンダンティ”……これでいいだろ」
アシュリー・テイラーは「ベナンダンティ……? どういう意味ですか?」と問いかける。それに悪魔は「知らない方がいい」と返した。
────ひとりの男に群れなす魔女たち。
本来はそのような意味を持たない。ベナンダンティにそのような意味はない。だが悪魔は、あえてその意味をつけて、自らの妹の性質を皮肉りながら命名した。
「さて、そろそろ深夜零時だ。各チーム、準備はいいな?」
悪魔はテレビの最前線に座る。その後ろ右半分にAチーム“みかづき荘”が座り、後ろ左半分にCチーム“ベナンダンティ”が集まる。
「映像が流れると、番組の主役となった人物の心情がダイレクトに流れ込んでくる。ソウルジェムが濁ることが予想されるため、ウワサ空間に到着したら、各自すぐにグリーフシードで浄化するように」
『……!』
深夜零時となり、古時計が時報を知らせる。砂嵐は徐々に消えて、海のように青い映像が流れ始めた。青髪青目の少女の影。その傍らには黒い雪の死体。割れた宝石は何を意味する。増えゆく仲間。緑のタロットから怪物が浮き出る。退治した怪物の正体はなんなのか。閉まる扉。追放された仲間たち。幼馴染のお姫様と金髪の処刑人は、三日月形の下宿屋を離れてひとりぼっち────
爆風が生じると同時に飛び込んだ悪魔。ほかの者は反射的にこらえるが、圧倒的な吸引力の前に次々と画面の奥に吸い込まれていく。後方で縄に縛られる環うい達は浮かび上がり、あたふたと慌てて爆風が収まるのを待ち続ける。やがて風が収まると、環うい達は尻餅をついた。家具は何一つ動いていない。生命体だけが影響を受けていた。テレビの前にあれだけいた人の数は今や影も形もなく、裏庭倉庫から来た凪によって、環うい達は縄から解放された。
†