※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【マギウスは、法政科や魔法省と並び立てる政治力を発揮しつつある】雪野カナエ〔複製魔法少女〕

 

 環いろはとアリナ・グレイは、太陽と恋人のペルソナカードを取り出して、覚悟の雄叫びを上げる。

 

『────ペルソナァ!』

 

「レットミィ・ラブユゥ(あなたを守らせて)!!」

 

 環いろはの背中に反射マントが翻る。だがその形状は、いつもと少し違っていた。アリナ・グレイは報告にあった姿と異なっていることに気付く。それは桃色の人型。鏡のマントを背中にまとう、ヒーローのような人型スタンド。最初はマントだけだったスタンドに、とうとう“命の形”が発現した。

 

「ヘビィィ(首を傾げるばかり)!!」

 

 アリナ・グレイのスタンドは戦闘タイプではない。故に環いろはのスタンドを認識するためだけに発現させた。直後、キューブから無数のレーザー光線が射出される。

 

 疾走する環いろは。「ラブ! マントを盾にして跳ね返して!」ラブと呼ばれた環いろはのスタンドは、マタドールのようにマントを翻すと、襲い来る緑閃の雨(キューブレーザー)を四方八方へと散らすように反射した。反射音色は“カキンカキン”と無数に奏でられる。

 

「バカ正直に突撃するとこうなるワケ!」

 

 アリナ・グレイの手元に巨大なキューブが展開する。その中から解放された三体の魔女は瘴気を放出し、幻惑で操られているのかアリナ・グレイの指示に従って環いろはを迎え撃つ。

 

「っ! ────キモチよ昂ぶれ! 桜宝石の髪飾り(モルガナイト・バレッタ)!」

 

 環いろはの髪飾り(キモチ)から紫と緑の魔力が奔流する。それは自己頭髪の増殖硬化を発揮し、またたく間に三体の魔女をがんじがらめに縛り付けた。環いろはの動きを阻害しないよう、キモチの方から膨張した髪の毛と頭髪が切り離される。そして環いろはは「過剰治癒────《猛毒矢》」の魔法を行使し、三体の魔女に一本ずつ毒矢を命中させる。これで拘束されている間、魔女は持続的に毒ダメージを受け続けて、やがて苦しみながら消滅するだろう。

 

 このような残酷なやり方を認めなければ、アリナ・グレイには絶対に勝てない。歯を食い縛る環いろはは、桃色の瞳に炎を宿す。

 

「真上」

「────?」

「人間って頭上がお留守になる生き物なんダヨネ」

 

 天井に緑色のキューブが廻る。瞬間、弾くように分かれて広がった数千個のキューブは制空権を獲得。直後、地上に向けて数千本のレーザーが一斉掃射された。「っ!?」すかさずマントを頭上に広げて防御する環いろは。反射マントがレーザーを跳ね返して“カキン”という多重音が無限に響き渡る。

 

「まあそうくるヨネ」

 

 無聊をかこつアリナ・グレイは手のひらを前に押し出すと、掌の前で廻るキューブから極太の光線を発射した。

 

「っ!!」

 

 頭上から無数の光線。一本一本は低威力だが繊細な手数で体中を穴だらけにされる代物。一発でもソウルジェムにヒットすれば絶命は必至。対するは前方から巨大な光線。それは全てを焼き尽くす一撃必殺の破壊力。環いろはの選択肢は限られていた。

 

「ラブ!」叫ぶ環いろははスタンド・ラブを前方2メートル付近まで進ませて床にマントを敷かせる。刹那、環いろはは反射マントを踏むことで大跳躍した。「!?」通常より二倍となる跳躍力を得て跳んだ環いろはは、無防備な空中でレーザーの雨を受け続ける。光線が右肩を貫通し、心臓より少し下と右腰、左かかとも貫通した。左側頭部も抉られる中、流血をものともしない環いろはは痛覚遮断。ソウルジェムの命運は、自らの因果に託す。(ここで死ぬならそこまでの魔法少女だ!)照準を常に固定。極限の集中力でアリナ・グレイの頭部を捉える。

 

「捉えた! ────発射っ!!」

 

 三本の光矢速射。対するアリナ・グレイは最小限の身の揺らし方で、一歩も動くことなく全てを躱してみせた。アリナの足元に着弾。爆煙が広がる。煙の中に着地した環いろははナイフを取り出して活性魔力を充填(チャージ)。空を切るようにナイフを振るうことで、鋭性魔力による光の刃を飛ばす。が、その水平切りの閃光は、緑色の結界によって防がれた。光刃と結界の接触衝撃で爆風が発生。煙が晴れる。

 

「……で? あのキリサキさんに比べれば、跳ぶなんてお遊戯レベルの小細工ダヨネ」

「っ……」

 

 互いに睨み合う。環いろはの下げた左腕にはクロスボウ。アリナ・グレイの泳がす右手にはキューブ。風は凪(な)い。転がる枯れ草もない。両者のスタンドは傍らに寄り添い、グッと拳を握り締める。

 

「────“魔海眇める鶴翼の星(チートゥラ・ディ・オリオーネ)”────」

「!」

 

 ふとした環いろはの呟き。それは何らかの魔法詠唱か、はたまた何らかの術技か。刹那、一本の光矢がアリナの脳天を狙って射出される。それに対しアリナは、わざわざ早撃ち勝負に応じるまでもないと判断した。キューブで相殺せずとも首のひねりだけで躱せる。光矢は標的に命中せず通過、狙いを外して後方にて着弾────する音が響くはずだった。

 

 “カキン”

 

 それは反射マントの音色。ア(・)リ(・)ナ(・)・(・)グ(・)レ(・)イ(・)の(・)後(・)方(・)か(・)ら(・)反(・)射(・)の(・)音(・)色(・)が(・)響(・)い(・)た(・)事(・)実(・)。

 

「なにッ!?」

 

 振り返るアリナ・グレイと同時に疾走を始めていた環いろはと《レットミィ・ラブユゥ(あなたを守らせて)》。環いろはは時計回りで、ラブユゥは反時計回りで、アリナ・グレイを挟み込むように速く駆ける。一方、アリナの視界には、壁に立てかけられた反射マントと、それに命中して跳ね返ってくる一本の光矢が映っていた。

 

『────────』

 

 誰もが環いろはの奇策に目を奪われる。おそらく先ほどの爆煙の中で、既に状況は用意(セット)されていた。環いろはが反射マントを踏んで空高く跳び上がり、アリナ・グレイの意識が上空に向かい、煙が戦場を覆い尽くしている間に……遠隔操作型のスタンドは遠く後方の壁に拳を穿ち、あらゆるものを反射するマントを壁にめり込ませていた。

 

「シット────!!」

 

 アリナ・グレイの前方より光矢。左後方より環いろは。右後方よりラブユゥ。それは三方からの同時攻撃。

 環いろははクロスボウに据え付けられた矢が破裂するほどの活性魔力を充填して右手を握り締める。殴る矛先はアリナ・グレイの胴体。殴打と同時に発射すれば、それはパイルバンカーの要領で敵を串刺しにする。だが環いろはの武器は杭(パイル)ではない。矢(アロー)だ。故に────

 

「アローバンカー────ッ!!」

「ラァブラブラブラブラブラブラブラブユゥ────ッ!!」

 

 激突。アリナ・グレイの背中にアローバンカーとスタンドのラッシュが叩き込まれる。

 

「ガッ────!?」

 

 爆発。吹き飛ぶ内臓。赤く蒸発する血しぶきの気体。アリナ・グレイの怒りは有頂天の外に至った。

 

「ブチ殺すッ!!」

 

 魔力の怒れるまま無数のキューブを展開して乱舞させる。対象に命中すれば、命中部位を結界で拘束できる。手足のひとつでも捕まえてしまえば、機動力は四分の一から半分までに低下し、あとは鈍足な全身を捕まえるだけで封印は完了する。しかしアリナ・グレイは強烈な違和感を覚えた。怒り狂って振り返ったのはいい。だがなぜ、目の前に、もうひとりの自分(アリナ・グレイ)が立っている?

 

「感覚の暴走」

「!!」

「アローバンカーには《賦活魔法》を掛けていました。それも過剰なほどの活性魔力を添えて……そのせいで今あなたは、制御不可の感覚暴走が起きている。魔法は精神の表れ。スタンドも同じ。あなたの精神は逸るあまり肉体から抜け出て、まだ怒り狂って振り返る前の肉体のアリナ・グレイを、怒り狂って振り返った後のアリナ・グレイが見ている形となる」

「────今アリナに語りかけているアナタは、ダレなワケ?」

「────《レットミィ・ラブユゥ(あなたを守らせて)》────私のあるじである環いろはは、いま反射マントを拾いに行っている」

 

 肉体のアリナ・グレイは、内蔵が飛び散ったままうなだれて固まっている。観戦者は、なぜアリナが動かないのかと困惑。御園かりんは、突然勃発した戦闘に仰天し、あまりにもグロテスクなアリナ・グレイの姿を見て口をパクパクとさせている。一方、悪魔は超直感によりアリナ・グレイの精神体が、環いろはのスタンドと対話している状況を把握。

 

「……成長したな、いろは」

 

 必死に駆け抜ける環いろはは、拘束されている三体の魔女の真下、そして御園かりんの傍らを過ぎ去って、壁に穿った反射マントを回収。標的たるアリナ・グレイに振り返りながら、反射マントをく(・)る(・)め(・)る(・)。さながら巻棒のように。トイレットペーパーやサランラップの筒のように、くるめる。そして環いろはは────恐ろしい相乗効果を生み出した。

 

 くるめた反射マントの中に光矢を撃ち込む。刹那、鏡合わせとなった反射マントの中で無限反射が発生し、一本の光矢の威力が倍々に高められていく。その急速的な火力倍加は限界があり、ひとつ間違えればスタンドパワーを超えた時点で反射マントは極大の爆発を引き起こす。故に環いろははギリギリを見極めて、自爆する前に反射マントを解き放った。

 

 小さなエネルギーが大規模な極太光線へと一瞬のうちに膨れ上がり、閃光の奔流が戦場を一閃する。

 

「あ……アリナ先輩────っ!?」

 

 轟々と震撼するウワサ空間。一条の焼け跡が残る戦場の只中には、全身を焦がしたアリナ・グレイが立っていた。緑色の結界のほとんどが欠けているが、どうやら硬化魔力で全身をコーティングすることでギリギリ耐え抜いたらしい。それでもダメージは著しいのか、吐息に炭を混じらせながら、アリナ・グレイは髪をかきあげる。

 

「……感覚暴走していても、それで不利益を被るのは肉体だけ。魔法は意識だけあれば発動できるんダカラ、当然、迎え撃つ準備は万全だったヨネ。まぁそれでも無限反射エネルギーは反則(チート)なんデスケド!?」

「────っ! そんな……これでも倒せないなんて……!」

「そんなの当たり前なワケ。アナタのスタンドパワーじゃ必殺魔法(マギア)一歩手前レベルのパワーまでしか無限反射で引き上げられない。まぁ一本の光矢と強い精神力だけであの威力なら、確かにお釣りが来るコストだけど……ただ、それでアリナを倒そうだなんてのは百年早いってコト。ドュー・ユー・アンダスタン?」

「全身焦げてる人がなんかイキってるの……」

 

 どう考えても負けているアリナ・グレイが、なぜか勝ち誇っている姿を見て、御園かりんは彼女が生きていたことに安堵する。無論、環いろはも殺すつもりで撃ったわけではないため威力は抑え目だったが、それでも気絶していておかしくない威力だったはずだ。かといって手加減をやめていたら殺していた可能性があるのも事実。そのことはアリナ・グレイも薄々気付いているのか、先程とは一変、警戒心を濃くする。

 

「そうそう。アナタはもうひとつ失策を犯している」

「……え?」

「感覚暴走させたことで、アリナは通常より二倍近く速く魔法を行使できたワケ。つまり二回行動。今の結界防御で一回。なら残り一回は?」

「────っ!?」

 

 環いろはの揺んだ髪がほつれる。なんと後ろ髪を緑色のキューブが捕らえていた。

 

「あとは指慣らし一回(フィンガースナップ)でキューブが巨大化(ヒュージ)してアナタを取り込み封印(シール)する。そういうワケで、サヨーナラ」

 

 刹那、環いろははナイフを取り出し、キューブに絡め取られている後ろ髪を切り飛ばした。

 

『!?』

 

 躊躇なく、長年かけて伸ばしてきた髪を切り飛ばして疾走した環いろはは、まだ諦めていない。

 

「諦めが悪いんデスケド!」

「《閉塞》────《未来への道(ストラーダ・フトゥーロ)》!!」

 

 閉塞魔法。それは傷を塞ぐイメージから派生した、何かを閉じて塞ぐ魔法。傷といえば一条の焼け跡が残る戦場。

 一方、《未来への道(ストラーダ・フトゥーロ)》は、収束した魔力を光の矢の形で発射し、途中で拡散して無数に分裂した光の矢が対象を攻め立てる必殺魔法。

 この二つを組み合わせると、どうなるか。

 

 アリナ・グレイは、直線上に収束したままの極大光線を目視する。さらにアリナ・グレイの両側に黄色い魔力が迸り、それが結界のように立ち上がる。それが意味することは左右への回避の妨害。閉塞魔法により封じられた空間の中では、行き来できる方向は前後のみに絞られる。つまり強制的な正面衝突。

 

「────…………」

 

 つまらなさそうにキューブを巨大展開したアリナ・グレイは、直後、眼前より差し迫る極大光矢をキューブの中に吸い込ませた。吸収しきれない光の風が後方へ過ぎ去り、緑の髪が激しくなびく。

 

「惜しいことしたよね。ソウルジェムの出力はアリナの方が明らかに上。正面からぶつかれば必然、アリナが勝つに決まってる。まだ拡散分裂する光矢を放っていた方が、アリナも無数のキューブで対応せざるを得ないから、ワンチャン一発程度の被弾はありえたワケ……」

 

 環いろは渾身の必殺魔法が、全てアリナ・グレイの結界魔法の中に封印されてしまった。直後、アリナ・グレイの傍らに立つスタンド《ヘビィィ(首を傾げるばかり)》が、あるじの寿命を表す秒数を急速的に減らしていく。

 

「────ハ?」

 

 その意味を考察したアリナ・グレイは、秒速で自らの失態に気付いた。警戒心を色濃く持とうと決めたばかりなのに、再び迷惑なだけの小細工を前にして侮ってしまった。閉塞魔法は左右を塞ぎ、前後を強制する。だがそれだけではない。その盲点を、先ほどアリナは自分自身で告げていたではないか。

 

「真上────!!」

 

 直角に後ろ首を曲げて天井を仰いだアリナ・グレイは、スタンドによって空中に運ばれていた環いろはの姿を目撃した。その右腕には膨大な魔力を充填したクロスボウがピンク色に光り輝いており、今度こそ本命の必殺魔法を放つ。

 

「渾身の小細工────そのあとは、本命の必殺技!」

「ッ────」

 

 アリナ・グレイは歯噛みする。迎撃は間に合う。防御も間に合う。しかしパワーが足りないため押(・)し(・)負(・)け(・)る(・)。おそらく今しがた吸収した《未来への道(ストラーダ・フトゥーロ)》は、通常より威力を控え目に撃ったはずだ。だが今度はそれと比較にならない規模の必殺魔法が撃ち出されるはず。吸収した必殺魔法に硬化魔力でコーティングして環いろはに返しても、おそらく拮抗するほどのパワーが足りない。アリナ・グレイは攻撃型の魔法少女ではなく、結界魔法の保有者であることから分かる通り防御型・支援型の魔法少女だ。

 

 もちろん普通に結界魔法で身を覆いガードする方法もある。だが今度は地面と挟まれての攻撃。さらに先ほど、反射マントによる無限エネルギーの一撃は、結界魔法が八割以上割られてしまった。その事を考えると、普通に防御しても耐えきれるかどうか。もし防げなければ必殺魔法と地面に挟まれてお陀仏だ。

 

 環いろはから殺意は感じない。殺気もない。とんだあまちゃんだ。しかし未熟であるが故に、“そんなつもりはなく殺してしまう”可能性が高い。舐めていい相手ではない。遊んでいる暇もない。だが対抗手段がない。────奥の手以外は。

 

「アリナにこれを使わせるとか、マジでムカつくんデスケド! ────必殺魔法(マギア)ッ!!」

「っ!!」

 

 ようやく使わせた。ようやくアリナに本気を出させた。

 しかし、それが環いろはの敗北を確定付ける結果になることは、誰の目から見ても明らかだった。

 

「────いろは! 逃げろ!」

 

 悪魔の叫び。それが届くと同時、環いろはとアリナ・グレイの必殺魔法が激突した。光とオーロラの魔力が混ざり合い、黄緑の爆風がウワサ空間を縦軸に襲う。閉塞魔法によりエネルギーの逃げ道が限られており、やがて閉塞結界の耐久値を超えて轟音を立てながら黄色い結界が破砕されていく。ウワサ空間の地面が穿たれ、轟々たる熱波が中空にて炸裂。全員、明滅する光景にまぶたを細くし、圧倒的な大風を身に浴びて、たたらを踏んでいた。

 

 やがて極光は収まり、勝敗が目に映る。

 

 “ドサッ”……という二(・)つ(・)の(・)音(・)と共に倒れた体。焼け焦げた地面に寝そべる両者は、ソウルジェムからペルソナカードを排出して、その意識を失っていた。

 

「────引き分けか。いつの間にか、随分とオレの予想を超えてきたな、いろは……」

 

 アリナ・グレイは生きている。奥の手を使ったことでギリギリ、彼女の寿命は秒数を増やしたようだ。

 対する環いろはは、全てを出し切ったためソウルジェムの九割が濁っていた。急ぎグリーフシードで浄化しなければドッペル化、否、このウワサ空間が自動浄化システムの届かない場所であれば魔女化してしまう。

 

 悪魔と暁美ほむらは、倒れ伏す環いろはのもとに駆けつけた。

 

「いろはちゃん!」

 

 悪魔より先に、暁美ほむらがグリーフシードで環いろはの濁りを浄化する。というより悪魔にグリーフシードを使わせなかった、という方が正しい。おそらく悪魔の半魔人化を憂いでいるのだろう。ここにも悪魔の無茶を許さない少女がいた。それを直感した悪魔は内心複雑となる。

 

「先輩! 生きてるの……? ねえデビ太郎、なんでいろはちゃんと先輩が戦うの!?」

「かりん。……とりあえず二人とも無事だ。状況が理解できないならあとで説明する。それより今は警戒しろ」

 

 環いろはが気絶したことで、キモチの束縛能力により拘束されていた三体の魔女が解放される。

 

「あれはオレが倒す。だが……ほむら、かりん。残り二体を頼む。ほかは待機だ」

「はい!」

「えぇ!? で、でも……っ。……わ、わかったの! こうなったらかりんは、このストレスを魔女にぶつけてやるの! やってやるなの! 特にあの緑っぽい魔女は先輩に似てるから、あれを横暴な先輩に見立ててぶん殴ってやるの!! 串刺しのわら人形なの!」

 

 しかし次の瞬間、真紅の閃光がまたたく間に、三体の魔女はみじん切りのごとく切り刻まれて消滅した。

 

『っっっ!!??』

 

 その紅い光の戦士には見覚えがある。佐倉杏子だ。しかし悪魔は(ちがうッ!!)と直感した。心の有り様が異常なほど異なる。そして知識はあるが経験がない、まるで嬰児のような思考回路に覚える違和感も、よく知っている。

 

「────複製魔法少女か」

 

 不意打ちとは言え、一瞬で三体の魔女を倒した複製魔法少女は、佐倉杏子が生涯するはずがないであろう邪悪な笑みを浮かべて悪魔たちの前に降り立った。

 

「俺の名前は宇木倉サヨコ。今からテメェらを拷問して嬲り殺す奴さ」

 

 悪鬼羅刹のような刺々しく禍々しい殺気が放たれる。剥き出しの刃のような気配だ。相対する魔法少女たちは戦慄(ゾッと)して身の毛がよだつ。

 

「あんな絵画趣味の下級養殖魔女じゃ拷問にならないから始末させてもらった。あーあと……なんか言うことあったんだけど忘れちまったな。まぁいいか」

 

 宇木倉サヨコは朱槍を下に構える。身構える悪魔たち。そこへ新たな複製魔法少女が姿を現した。

 

「────全員、死闘を覚悟しろ」

 

 不意に悪魔が、額に汗をにじませて忠告した。

 降り立つ足音の数は六名。すなわち七人の複製魔法少女が、悪魔たちの前にそろい踏みした。その中の一人が堂々たる振る舞いで悪魔を一瞥する。

 

「貴様か……イ(・)レ(・)ギ(・)ュ(・)ラ(・)ー(・)とは。────我が名は雪野カナエ。マンドムファミリーの大空のボス」

「……ファミリー? 大空だと……?」

 

 疑問符に満ちた悪魔の問い。

 それに誰かが答えることはなく、一人ひとり律儀に自己紹介していく。

 

「同じくマンドムファミリーの右腕(カポ)たる“雷の守護者”ロココ」

「構成員(ソルジャー)たる“雲の守護者”アスカ」

「同じく“雨の守護者”火神」

「“晴の守護者”ナホ=キッツー」

「“嵐の守護者”真燃ミト」

 

 悪魔は、わけがわからないと言いたげに冷や汗を流す。なぜ彼女たちは死炎界の用語を知っている。天乃鈴音も死ぬ気の炎について発見していたが、守護者という名称までは知らないだろう。まさかどこかで死炎界と接触したのか。だとするなら、なぜ彼女たちは死炎界における名乗りを挙げてきたのか。全てが謎に包まれている。

 

「我らマンドムファミリーは、元マギウス直属の独立暗殺部隊。今は叛旗を翻して自由を謳歌しているが……先日、あくまで対等関係の傭兵部隊として、直々にマギウスから要請が届いた。それは報酬と引き換えに“悪魔を暗殺せよ”という依頼だ……」

「オレを?」

「貴様には嫌疑が掛かっている。指名手配犯・沢田綱吉。神浜市内でキリサキさんの絶望値を振り切れさせて魔女化させた張本人として、お前を排除するように言われている」

「──……なるほど。マギウスは自動浄化システムの不備を翼に突かれたくないから、そこんところを全てオレのせいにしたってわけか。まさか魔法少女救済システムが万全じゃないと分かれば、羽根たちの混乱や反乱は免れないからな」

「実に政治的なプロパガンダだ。マギウスは、法政科や魔法省と並び立てる政治力を発揮しつつある」

「っッ!!?」

 

 法政科。魔法省。なぜ、その名称まで知っているのか。

 まさか彼女たちは、世界中の魔法界に詳しいのか。

 

「恐ろしいな、里見灯花は。元々血族がTP魔法界寄りだったとはいえ」

「────お前……」

「このように、本件は正統な主張からなる暗殺依頼ではない。キリサキさんこと天乃鈴音による被害はマギウスの翼でも甚大だった。その被害額を全て救済した悪魔は、むしろマギウスの恩人として丁重に扱われるべきだ。しかしそんなことはマギウスにとって関係ないし、男の世界的(我々)にも関係ない」

「!」

 

 雪野カナエは殺意を漲らせる。威圧は鋭性魔力となって隅々まで行き渡り、殺し合いに慣れていない魔法少女たちを震え上がらせる。

 

「貴様は、安名メルの複製魔法少女である命輪(めいりん)の仇(かたき)でもある。彼女とはその残虐性から袂を分かったとは言え、共にマギウスの要塞監獄から脱獄した同志でもあった。────だが、依頼者の意向には、ある程度従う必要がある。仕事を始める前に小手調べだ。我々を失望させるなよ、男の世界的に」

 

 雪野カナエは、一見なんの変哲もない鞄を取り出す。

 

「闇の傷を開け────《トラウマ幻灯機のウワサ》────」

 

 しかしその鞄は、地獄の蓋を開ける代物であると同時。蓋を開けることで放たれた灯り……その灯りに触れた者に、文字通りの“地獄を演(み)せる”投影機でもあった。

 

          †

 

 時は一分遡り。

 マンドムファミリーの登場により、構築魔力で姿を隠していた七海やちよはうろたえていた。

 

(あれは……か(・)な(・)え(・)……!?)

 

 否、雪野かなえは疾うに死んでいる。目の前でその死を確認した。では雪野カナエと名乗った彼女の存在はどう説明づける。当然、彼女はいわゆる複製魔法少女だ。悪魔の報告にあり、七海やちよも幾度か戦闘したことがある。知り合いの風貌にそっくりであることが多いが、その人格や趣向は真逆。ペルソナカードを内蔵されているのか、魔力属性がオリジナルから変化しているケースも確認されている。ウワサとは異なる、マギウスの産物。いずれにせよスタンドバトルは避けられない。

 

(悪魔と何を話しているの……? 鞄……? いえ、待って────あの魔力の気配は────いけないっ!!)

 

 あの鞄はウワサだ。そう直感した七海やちよの行動は早かった。迅速に駆け抜けて、開かれる鞄から漏れる灯りが、悪魔たちを照らさないように────誰よりも前に躍り出る。

 

「やちよ!? ひとりじゃ無理だっ!!」

 

 七海やちよの接近を直感していた悪魔は、急ぎ彼女の傍らに並び立ち、自らの体を盾にして、灯りが後方を照らすことを防ぐ。

 

 そして雪野カナエの心情を直感。どうやら《トラウマ幻灯機のウワサ》は、対象にスポットライトを当てることで、対象の一番から三番までのトラウマを掘り起こす代物のようだ。さらに、そのトラウマ体験を“闇”という形で実体化させて地獄を再現する。加えて、七海やちよが現れたことで雪野カナエから直感できたことは、対象は複数でも可能ということ。

 

 かくして幻灯機の灯りに照らされた者は二名。悪魔と七海やちよ。ふたりのトラウマが闇となって顕現する。

 

《アラもう聞いた? 誰から聞いた? トラウマ幻灯機のそのウワサ!

 ねえねえ沢田綱吉のトラウマは?

 第一位! それは三人の女の子を一度に喪った最悪の夜!

 第二位! 湯国市の聖杯戦争で“畜生塚 駒姫”を殺すしかなかった夜!

 第三位! 青音すずから「○だと○ったことは○○もない」と言われた夜!

 それじゃあ七海やちよのトラウマは?

 第一位! みかづき荘の仲間である雪野かなえが死亡した夜!

 第二位! みかづき荘の仲間である安名メルが魔女化した夜!

 第三位! 自分の魔法が他者を犠牲にするものだと知った夜!

 サイゲンカイシー!》

 

          †

 

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