※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【ようこそ、漢の世界へ(マンハッタン・メロドラマ)】雪野カナエ〔闘争者〕

 

          ♪~back on the road again~♪

 

「《アンデッド・インディード・ライブ(活き活きとした不死者)》ッ!!」

 

 ロココのスタンドが発動する。それは周辺に存在する対象を、特殊空間に閉じ込める能力。発動時、近くにいた者は悪魔、アリナ・グレイ、御園かりん────そして雪野カナエ、ロココ、火神の六名だった。

 

『!?』

 

 そこは荒野の断崖。三歩下がれば崖際。崖下に蠢くは無数の亡霊。醜い骸骨が腕を伸ばし、飢えるように転落者を待ち望んでいる。

 

「三(・)歩(・)だ。三歩、後ろに下がった時点で、そ(・)い(・)つ(・)は(・)死(・)ぬ(・)。それが絶(・)対(・)の(・)ル(・)ー(・)ル(・)だッ!」

 

 カナエが能力を説明すると同時、荒野が崩れていく。やがて一人ひとりの左(・)右(・)が消失した。崩れゆく荒野は、次第に中央で交差する三本線────俯瞰視点で*(アスタリスク)のような地形となる。その地形の端っこに、六人はそれぞれ立っていた。悪魔の向かい側はカナエ、アリナの向かい側はロココ、御園かりんの向かい側は火神。

 

「横っ飛びに逃げることも転落を意味する。もし一歩下がってしまっても、再び前に一歩踏(・)む(・)ことができれば、即死へのスリーカウントは帳消しとなる。……つまり、このスタンド空間は、前(・)に(・)進(・)む(・)以(・)外(・)、(・)方(・)法(・)が(・)な(・)い(・)世(・)界(・)……」

 

 崖下の骸骨どもが呻く。

 

『一歩目ハ 警告ダ……!』

『二歩目ハ 窮地ダ……!!』

『三歩目ハ 死ヲ意味スル……!!』

 

『前進セヨ 覚悟セヨ……!』

『ソレ以外に“活KILL道”ハ無イ……!!』

『フタイテン フタイテン フタイテン……!!!』

 

 ────不退転。

 

「俺のスタンドも教えよう。我がスタンド名は「《トゥ・リブ・アゲイン(再び闘う為に)》……三秒だけ時を戻すことができる。だが巻き戻せない現象がある。それは“正当なるダメージ”だ。いくら時を巻き戻しても“記憶”までは巻き戻せない……」

 

 それは具体的にどういう意味か。それは戦えば分かる事だと言いたげに、カナエは語る。

 

「火神(かがみ)のスタンド名は《アイ・ウォーク・フォレヴァー(止まらない止まれない)》……火神自身を透き通る水の体に変える。もっぱら火神は、透明な水を他人の体に浸透させることで操り“永遠に歩行”させる。そうして大量の汗を流させ、脱水症状を引き起こし、死にながら歩き倒れる様を観察する事を好む。ちなみに水分補給すると“歩行速度が上がる”……」

 

 なぜ能力を明かすのか。悪魔の疑問を察したように、カナエは鉄パイプを構えた。

 

「俺は正当なる決闘を所望する。要は殺し合い……俺は、それを“愉しむ者”だ」

 

 なるほど、と悪魔は嘆息し、ファイティングポーズを取る。

 

「ならば、こちらの能力は割(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)……そう捉えるべきだろうな」

「当然だ。だ(・)か(・)ら(・)説(・)明(・)し(・)た(・)」

 

 悪魔の視界左端にはアリナ・グレイの姿があり、視界右端には怯える御園かりんの姿がある。

 

「かりん。絶対に崖下に落ちるな。箒で飛んで逃げるのも無しだ。前進以外は死を意味する。とにかく前に進み続けろ。たとえ相手を突き落としても……」

「……っ!」

「死にたくなければ、歩き続けろ」

 

 悪魔は疾走。カナエも走る。三本線の断崖が交わる中央地点、そこは一般家庭の食卓と変わらぬ足場の広さがあった。円形の合流地点で決闘者の拳が唸る。

 

「《装甲無視》ッ!!」

 

 悪魔とカナエの拳が激突。衝撃は悪魔の右手から右肩まで突き抜けて、右腕が木っ端微塵と砕け散った。

 

「────」

 

 直後、カナエの頭部がねじ切られて炸裂する。悪魔が使う青音すずのスタンド《パーフェクト(君はそれだけで)》により、体内水分の水圧操作で圧殺したのだ。

 

 ────そして、時は巻き戻る。

 

 悪魔とカナエは、三秒前まで立っていた崖際の初期位置まで巻き戻されていた。しかし悪魔の右腕は粉砕されており、カナエは首だけのまま立っている。が、みるみると霧の炎の構築によって悪魔の右腕が形作られていく。同時に、魔力による高速再生でカナエの頭部がみるみると直っていく。

 

「さあ。決闘を続けよう」

「戦闘狂だな……」

 

 真顔で告げるカナエに対し、悪魔はため息をつく。

 

「《アイ・ウォーク・フォレヴァー(止まらない止まれない)》」

 

 火神が動いた。透明な水の体となり姿を消す。直後、御園かりんが前(・)に(・)歩(・)き(・)出(・)し(・)た(・)。

 

「え、なんなの!? か、勝手に、足が……!?」

 

 次いで悪魔も、勝手に足が前に歩き出す。それはアリナ・グレイも同様だった。三人は中央の合流地点で交差し、悪(・)魔(・)は(・)カ(・)ナ(・)エ(・)と(・)対(・)面(・)、(・)ア(・)リ(・)ナ(・)は(・)ロ(・)コ(・)コ(・)と(・)対(・)面(・)す(・)る(・)。

 

『…………』

「先輩!? デビ太郎!? なんでそんな澄ました顔してるなの!? こ、このままじゃ……!」

 

 御園かりんの予想通り、悪魔とアリナは顔面を殴られた。

 

『っッ!!』

 

 その衝撃で二人の体が回り、悪魔とアリナは敵に背を向ける形となる。そして火神のスタンドにより歩かされて中央に戻ろうとしていた。一歩目を踏み、二歩目を踏むが、特に命の危機は感じない。どうやら振(・)り(・)返(・)っ(・)て(・)前(・)に(・)歩(・)い(・)て(・)も(・)、(・)そ(・)れ(・)は(・)後(・)退(・)に(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)ようだ。そして悪魔とアリナの先には崖が待ち構えている。だがその前に御園かりんが、先に崖際へ追いやられようとしていた。

 

「ええええええ!? こ、これヤバイの! 落ちたら死ぬの!! 本当に死ぬなの!?!? せ、せんぱ────っ!」

「《パーフェクト(君はそれだけで)》」

 

 悪魔は水を操るスタンド《パーフェクト(君はそれだけで)》を使うと、三人の歩行が停止する。

 それは火神のスタンドパワーを完全に抑え付けた事を意味していた。それはカナエ陣営にとってピンチを意味する。故に。

 

 ────時が巻き戻される。

 

 悪(・)魔(・)と(・)ア(・)リ(・)ナ(・)の(・)眼(・)前(・)に(・)は(・)、(・)カ(・)ナ(・)エ(・)と(・)ロ(・)コ(・)コ(・)が(・)立(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)。殴られる直前の時間まで巻き戻されたのだ。しかし二人の頬はジンジンと痛む。否、アリナ・グレイは痛覚を遮断しているため、ただ複製魔法少女に殴られたという怒りが湧いてくる。

 

「……チョット。使うの遅いんデスケド」

「悪い。このあとのことを考えていた」

 

 悪魔とアリナ、御園かりんは再び歩(・)か(・)さ(・)れ(・)る(・)。カナエとロココは前回と違い何もしなかった。

 

 ────すれ違う。悪魔とアリナと御園かりんは、平等に、同じ歩幅で、同一の死に向かっていた。

 

「で、デビ太郎────!?」

「《パーフェクト(君はそれだけで)》」

 

 悪魔が水を操るスタンド《パーフェクト(君はそれだけで)》を使った途端、三人の歩行が停止する。

 それは火神のスタンドを完全に抑え付けたことを意味していた。それはカナエ陣営にとってピンチであるが故に……

 

 ────時が巻き戻される。

 

 悪(・)魔(・)と(・)ア(・)リ(・)ナ(・)の(・)眼(・)前(・)に(・)は(・)、(・)カ(・)ナ(・)エ(・)と(・)ロ(・)コ(・)コ(・)が(・)立(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)。すれ違う直前の時間まで巻き戻されたのだ。

 カナエが文句を言う。

 

「どうする? 水掛け論は好きじゃあないぞ」

「思考時間を確保したいんだ。だってこれ、そ(・)も(・)そ(・)も(・)の(・)掛(・)け(・)合(・)わ(・)せ(・)が(・)最(・)初(・)か(・)ら(・)堂(・)々(・)巡(・)り(・)だろ」

 

 悪魔は水を操るスタンド《パーフェクト(君はそれだけで)》を発動し、カナエとロココの体内水分を操作して歩かせる。さながら火神のスタンドの真似事をするように、ふたりを後(・)ろ(・)向(・)き(・)に(・)歩(・)か(・)せ(・)る(・)。カナエとロココは一歩、二歩と後退していく。そして蠢く骸骨どもが『三歩目ダ!!』と歓喜の声を上げようとした直前。

 

「火神! 例の処理を済ませたらスタンドを解除しろ!」

 

 ────時が巻き戻された。

 

 火神は速やかに“例の処理”とやらを完遂する。結果、悪魔とカナエが見つめ合う。アリナとロココが睨み合う。御園かりんと火神が目を合わせる。どうやらカナエとロココが後ろに歩き出す直前まで巻き戻されたようだ。しかし前回と全く違う点があった。それはカナエとロココと火神の全身が干からびているのだ。まるで体内に水分が一滴もないかのように、彼女たちは脱水症状を起こしていた。

 

「な……何がどうなっているの!?」

「オレと火神のスタンドが無力化された」

 

 御園かりんの叫びに悪魔が答える。

 

「面白い。面白いぞ。ひしめき合うスタンドがぶつかり合うことで、両者のスタンドが無力化された。結果、ここから先はた(・)だ(・)の(・)殴(・)り(・)合(・)い(・)となる!」

 

 不意にカナエが歓喜の声を上げた。

 

「繰り返しを終わらせるためには我々が脱水症状となり、水を操る悪魔のスタンドを無力化するしかなかった。しかし火神のスタンドは水がなくても対象の体内に潜り込めば操ることができる。だが、そんなことをすれば水(・)で(・)出(・)来(・)て(・)い(・)る(・)火(・)神(・)の(・)ス(・)タ(・)ン(・)ド(・)は(・)、(・)パ(・)ー(・)フ(・)ェ(・)ク(・)ト(・)に(・)操(・)ら(・)れ(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)……故に火神のスタンドは解除する必要があった。

 ────さて、これで水掛け論の終了だ。堂々巡りは終わり……さあどうする?」

 

「普通に殴り合うしかないんじゃないか?」悪魔は淡々と返す。

 

 次の瞬間、装甲無視の打撃が悪魔の頬を貫き、悪魔の後方噴射による前進炎熱打撃がカナエの頬を撃ち抜いた。腕と腕が交差する激しいクロスカウンターは、互いに一歩のたたらを踏ませ、負けじと前進の一歩を踏ませる。

 

 幾度もの打撃音。何度も繰り返される打擲音。悪魔とカナエの殴り合いはヒートアップしていく。それを興味なしと気にしないアリナ・グレイと、青ざめた顔で見守る御園かりん。

 

 静かな決闘は、局所的に始まろうとしていた。

 

 ロココは両手にメカニカルなトンファーを構える。それは打撃モードと射撃モード、二つの変形機構を兼ね備えた魔法武具。アリナ・グレイは手のひらの上にキューブを廻し、互いにゼロ距離からキューブとトンファーを撃ち抜いた。互いに後方に吹き飛ばされて一歩のたたらを踏む。急ぎ前進の一歩を踏むと同時、ロココはトンファーから光弾を次々と射撃、アリナはキューブから結界を展開して弾幕から身を守る。

 

 肉弾戦と銃撃戦の攻防。ならば次はどのような攻防が行われるのか。御園かりんが震える首で火神を見つめる。

 

「殺す」

「ひっ!」

 

 火神の疾走。透き通るような蒼銀のダガーが敵の喉元を狙う。御園かりんは怯えるあまり一歩後退。直後、アリナ・グレイのキューブが御園かりんの背中に激突して無理やり前に押し出した。

 

「うわぁ!?」

 

 されど火神の狙いは正確無比に標的の喉元に射し込まれる。

 

「せ────《窃盗》ぉぅっ!!」

 

 刹那、火神のダガーは御園かりんの固有魔法により奪われた。よって刺突はただの手刀に。火神の打撃が御園かりんの首元に命中する。

 

「カハッ!?」

「……」

 

 そのまま火神は押し切ろうと連打を決める。すると特殊空間を旋回するアリナ・グレイのキューブが火神を攻撃し始めた。さらにキューブは二歩も下がっていた御園かりんの背中を攻撃し、無理やり前に二歩ぶん歩かせる。

 

「ガッ!? せ、せんぱ────」

「よそ見ばかりで舐めてるの?」

 

 ロココのトンファーがアリナ・グレイの顔面と腹部を穿つ。

 

「ハガッ!? ッ────!!」

 

 アリナ・グレイは、御園かりんを守りながらロココと殴り合う。自分と御園かりんの歩数を気にしながら戦う。その両立はあまりにも難易度の高い戦闘と言えた。極限の集中力と一手のミスも許されないプレッシャーが、アリナ・グレイを心身ともに追い込む。

 

「アリナ・グレイ。お前は覚悟が出来ていない。悪魔はこうなることを予想して、お前に考える時間を与えたんじゃないのか」

「……っ!? ……だったら、余計なお世話なんデスケド!!」

「きゃあ!!」

 

 御園かりんが殴られる。火神によって鼻っ柱をへし折られた。すかさずアリナ・グレイはキューブを向かわせてロココを捕らえようとする。横に逃げれば即死の空間。ロココは回避できず、まんまとキューブに捕獲された。

 

 ────時が巻き戻される。

 

「!?」

「ぎゃあ!!?」

 

 御園かりんが殴られて、既にへし折られた鼻っ柱がさらにへし曲がった。時が巻き戻されたことで余計なダメージが御園かりんに蓄積される。

 

「アリナ。その戦い方では、か(・)り(・)ん(・)の(・)気(・)力(・)が(・)持(・)た(・)な(・)い(・)」

「ッ────!!」

 

 悪魔の忠告を受けたアリナ・グレイは、わなわなと怒りに震える手のひらをググッ……と握り締める。どうしてこうもうまくいかないのか。ムカツキが頂点に達しつつある。環いろはに続き、スタンド使いの複製魔法少女、さらには御園かりん。どういつもこいつもアリナ・グレイをイラつかせる。

 

「アアアアアア! フールガール! 足を引っ張らないでほしいんデスケドォオオ!?」

「ご、ごめんなの! せんぱ────ぶへっ!?」

 

 火神の容赦ない攻撃を受け続ける御園かりんは、危うく三歩目を踏みそうになった途端、キューブに背中を攻撃されて前に押し出される。そして火神にぶつかり、なんとか三歩前進して即死を免れた。

 

 次の瞬間、アリナ・グレイの拳がロココの鼻っ柱を殴打する。たたらを踏んだロココは負けじとトンファーを奮う。アリナ・グレイは選択を迫られる。そして覚悟を決めた。結界魔法は全て御園かりんの援護に当てる。ならば自分は、生(・)身(・)で(・)ロ(・)コ(・)コ(・)を(・)倒(・)さ(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)。

 

「やってやるんデスケド!!」

「せ、せんぱい……」

 

 アリナ・グレイとロココの白兵戦。御園かりんと火神の一方的な戦いとキューブ乱舞。

 その一方で悪魔とカナエは、互いにノーガード戦法の激突を繰り返していた。

 

「《装甲無視》ッ!!」

 

 カナエの殴打は、それ一回で悪魔の体の部位を一つ軽々と吹き飛ばす。それは悪魔にとって死を意味するが故に、逆転勝利の呪いが発動、紙一重で急所を避ける“見切りの奥義”を一時的に体得させる。カナエの攻撃を捌く悪魔。だが攻撃を受けないということは、死ぬ心配が減るということで、逆転勝利の呪いの恩恵を受け取ることができなくなる。徐々に見切りの奥義はその冴えをなくしていき、再び悪魔の体が部位ごとに吹き飛ばされていく。繰り返し。全ては繰り返し。その堂々巡りを解決するため────

 

「《ビリーバー(超越者)》」

 

 それは、あらゆる“痛み”を“炎”に変えるスタンド。ムカツキを死ぬ気の炎に変える能力と言っても良い。悪魔は回避を捨てた。見切りによる受け流しの捌きを捨てた。逆転勝利の呪いには頼らない。自力で勝つ。そのためには敵の攻撃をノーガードで受けて、受けた痛みを死ぬ気の炎に変換する。そうして────

 

 悪魔は腰を屈めると両手を広げた。瞬間的なイクスバーナーが爆発する。大きく吹き飛ばされたカナエは崖を越えて下に落ちようとしていた。

 

 ────時が巻き戻される。

 

「ぎゃふ!? い、嫌なパンチを、またもらっちゃったのー!!」

「デビルボーイ! フールガールがキツそうなんですケド!?」

「悪い。今ので殺せたと思ったんだが……」

 

 悪魔は考察する。痛みを死炎に変えて、極限まで高めた必殺技で葬ったつもりだったが……カナエは即死せず、三秒の巻き戻しを成功させていた。

 

「……複製魔法少女はソウルジェムを本体としない。故に全身を一瞬で焼却した。それなのに生きている……なぜだ?」

「教えると思うか? 貴様が不死身なら、こちらも相応の不死身を用意するべきだろう」

「……そうだな。正々堂々とした決闘……だったな」

 

 悪魔とカナエのクロスカウンターが炎を噴き上げる。拳に死炎を灯して殴り合う両者は、拳が命中するたび爆発を発生させていた。殴打一発が手榴弾レベルの一撃。悪魔の五体は砕け、カナエの全身は灰と化す。それでも逆転勝利の呪いの所為で死ねない悪魔と、なんらかの手段で不死身を保っているカナエは、生死の境を競い合う殴り合いを延々と交差させていた。

 

 やがて悪魔は直感する。

 

「耐久系の魔法か?」

「見抜いたか!」

 

 おそらくロココの魔法だろう。ならばアリナ・グレイは極めて不利だ。耐久魔法はロココ自身にも掛けてあるはず。単純な殴打ではかすり傷も与えられないだろう。しかも長丁場になればなるほど御園かりんの気力が尽きていく。

 

(この勝負、どちらが先に精根尽き果てるか……そんな戦いになりそうだ)

 

 ならば最後は悪魔が勝つ。だがその頃にはアリナ・グレイも御園かりんも死んでいるだろう。それでは意味がない。正直なところ悪魔は、カナエからスタンド能力を説明された時、この状況に陥ることを直感していた。そして解決策を練るため、カナエに何度も繰り返させて思考時間を確保していた。しかしついぞ策は閃かず、こうした根性勝負に発展している。

 

 とても静かで、単調で、我に返ると自分はなぜこんなことをしているのかと天を仰いで問いたくなるような、不毛な戦闘が続く。カナエの趣味に付き合うつもりはない。だが突破口を見いだせない。数日眠っていない事もあり、悪魔の中で苛立ちが膨れ上がる。

 

「────自分を救えない者に、他者は救えない」

「!」

 

 殴り合いをしながら、ふとしたカナエの言葉が、悪魔の意識(みみ)を打つ。

 

「だから、あのマメジ(犬コロ)を救えなかった。油断して気絶して結局失敗した。自分の力を警戒していなかった何よりの証拠だ」

「……なぜ、それを知っている。────そうか。マギウスから情報を貰ったのか……」

「十咎ももこの時も同様だ。貴様は精神的に何も成長していない。環いろはに叱咤されたように、貴様は誰の力も信じていない」

「…………」

「強くなれば全てを変えられると? 驕るのも大概にしろ。正体不明の奴が、ろくな言葉も交わさず、不死身の体で無双する。そんな、た(・)だ(・)強(・)い(・)だ(・)け(・)の(・)奴(・)を……人は畏敬の念を込めて“怪物”と呼ぶ。怪物はその力で誰かを助けることはできても、自分を救うことはできない。表面上の救済を与えるだけで、真の救済を他者に与えることはできない」

 

 カナエは今の話をシンプルにまとめる。

 

「貴様は壊(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)。誰かの為に強くなることしか頭にない。そんな不心得者としのぎを削っても、全く愉しくない」

「自分の趣味(決闘)に付き合わせといてよく言うぜ……」

 

 カナエは、悪魔の本音を聞こうとする。

 

「貴様は“泥”を見ている。俺はそういう奴を叱咤激励する方法をずっと探していた。そうすれば命輪を救えたかもしれない……そう悩んでいた。改心させることができれば決別することもなかった。その迷いが試練として俺にのしかかり、さらなる道を照らしてくれるッ!!」

 

 カナエは、悪魔の本音を引きずり出す。悪魔の点火装置を探し、そのトリガーを引くべく言葉を選ぶ。

 

「貴様に真理を教えてやろう。十咎ももこの時も、マメジの時も……そうだったじゃないか」

「────」

「戦(・)い(・)の(・)犠(・)牲(・)が(・)出(・)る(・)か(・)ら(・)こ(・)そ(・)、(・)大(・)切(・)な(・)も(・)の(・)が(・)手(・)に(・)入(・)る(・)!!」

 

 瞬間、悪魔のムカツキが死ぬ気の炎となって噴流した。

 

「────ふざけるな」

 

 確かにそれは一理あるのだろう。だが認められない。悪魔は“最善”に挑み続ける。

 

「大切なものってなんだ? 怒って力が出ることか? そうじゃないだろ。みんなが生きて帰ること……それが大切なものだ。もし、お前の言うことが前者なら────オレは、大切なもの(怒りの力)なんて要らない!」

 

 しかし現に悪魔は、不眠不休の苛立ちと、トラウマ幻灯機のウワサにより過去をほじくり返された怒りと、核心を突かれたムカツキで、全身の細胞から死ぬ気の炎を噴出していた。

 

「────そのナ(・)リ(・)で、怒りの力を否定するのか?」

「っ……」

「やはり貴様は愚かだな。漢(ひと)の世界には相応しくない……」

 

 だからどうした。悪魔は裏社会なんて興味がない。関わりたくない。

 互いの拳が爆発を起こす。悪魔は無限に感じていた激痛の中、今までと比べて一番強く歯を食いしばって死ぬ気の炎を噴き出す。

 

「たしかにオレはダメダメだ。けどな……いくらダメツナでも、ダメツナでいられない時があるんだ! オレの大切なものを傷つけられて、また後悔なんてしてられないんだよ!」

 

 青音すず。笹川京子。三浦ハル────ほかにも多くの人たちの死を見てきた。それが許せなかった。だから強さを求めた。それだけじゃ足りないのは承知していた。だからこうやって、もっと前へ進もうとしている。

 

 悪魔の踏み込みが力を増す。一撃、胴体を砕き、一撃、たたらを踏ませる。

 カナエは返す拳で一撃、顔面を砕き、一撃、たたらを踏ませる。

 

『グハッ……!?』

 

 視界が明滅する。一瞬、走馬灯が見えた。

 

 家。食卓。母さんが笑って料理を出す。学校。笹川京子の微笑みが可愛いその横顔。休日はすずの水泳大会。夕方は三浦ハルの奇行に巻き込まれる。────そんないつもどおりの日常。

 

「オレは……」

 

 疲弊と焦燥。トラウマとジレンマ。

 それら負のエネルギーが“憤怒”となり、悪魔のテンションをマイナスからプラスへと引き上げる。さながら水害が起きてマンホールが吹き飛ぶように。爆撃の如し殴り合いの中で痛覚が麻痺していき、理性が蒸発していく。これは、それが故に起きた事。

 

「オレは……ァッ!!」

 

 超(ハイパー)化が解かれて、悪魔の目付きが四白眼となる。

 

「なっ!?」

 

 カナエは、悪魔の様子が様変わりしたことに驚いた次の瞬間。

 

「オレは────死ぬ気でアリナとかりんを守るぅううううっっ!!」

 

 悪魔の雄叫びと共に繰り出された拳の一撃に、一歩たたらを踏んだ。

 

「ぐっ────!?」

「オレはぁ! ただ飯を食ってグースカ寝て学校に行って友達とバカやって毎日普通に暮らしたいだけなのに! なんでここでこんなバカなことしてんだ! ふざけるなぁああ!」

 

 悪魔の咆哮に、アリナ・グレイと御園かりん、ロココと火神の注意が向く。

 

「戦って犯して女の子を泣かせて! それで救済の悪魔だと!? こっちは罪を犯す申し訳なさから悪魔と名乗ってんのに、なぜ崇拝する! なぜ感謝する! 揃いも揃ってバカなのか? だが一番のバカはぁあああああ!」

 

 悪魔の拳が唸る。

 

「たった一人の女の子すら満足に助けられない、オレのことだぁああああああ!!」

 

 悪魔の一撃が、カナエに二歩目のたたらを踏ませる。

 

「うおおおおお────《トゥ・リブ・アゲイン(再び闘う為に)》ッ!!」

「《叛逆》ぅううう!!」

 

 カナエのスタンドが、叛逆魔法によって無効化された。

 

「なっ────」

「ロココぉおお! スタンドを解除しろぉおおお! じゃないとカナエを殺すぅううう!!」

 

 悪魔の雄叫びがスタンド空間を震わせる。カナエは舌打ちした。

 

「だから貴様は────軟弱なのだっ!! そんな甘えた世界では、漢の世界に入門することはできないっ!!」

「うるさぁあああああい! オレは! お前みたいな奴でも、死んでほしくないんだああああ!」

「!?」

 

 悪魔は直感していた。カナエは、なぜマギウスを裏切ったのか。それは数多の死を見てきたからだ。多くの同胞の死を直視してきたからだ。その意味を考えることはなかった。思考を放棄していた。なぜならそれが世界の在り方だから。けれど少しだけ考えるキッカケがあった。それは自分と同じ顔をした複製魔法少女が死んだ時だ。そのとき無性に思考が止まらなかった。すると今まで許容していた出来事が、なぜか納得できなくなった。

 

 ────誰かの死に、納得できなくなった。

 

「オレはぁあっ! 死ぬ気で自分の日常を取りもどぉおおおおす!!」

「っ……!!」

 

 カナエは歯を食いしばり、一歩前に足を踏み込んで、悪魔の額と己が額をぶつけ合わせた。頭突きと頭突きは爆発を引き起こし、そのまま互いの体をめちゃくちゃに殴り合う。そこでカナエが吐血しながら叫んだ。

 

「ふざけるなぁああああ! 正義とか人権とか、相手にも何か想いがあるだとか……そんなことを考えながら決闘をするのは“非常に偽善的”で“くだらないこと”だッ! 今ここで行なわれている儀式は、どちらかが“先へ進むための工程”なのだッ! 敵は敵! それ以上の意味なし! 敵がいればぶっ飛ばす! それでスカッと晴れやかに次へ征く! その歩み方こそ“漢の世界”だ!」

 

 カナエの唸る拳が悪魔の顔面に炸裂し、一歩たたらを踏ませる。

 

「今や武士道は時代遅れ! 決闘の血湧き肉躍る“戦闘潮流”も反社会的で時代錯誤と捉えられる世の中になった……闘技場の頭には“地下”や“闇”が取って付けられたように命名され……互いに納得した上での決闘は“悪”と定義されてきた……フィクションにおいても、敵には“倒すべき道徳的理由”が周囲のモラルにより無意識的に義務付けられ……所詮主人公の利己的な闘争理由は“悪役の悲惨な過去”に覆い隠されて、闘争の本質が誤魔化されてきたッ! それはどうしようもない絆と愛の性(オキシトシン・サーガ)として、人の体は闘争を求めているというのに……ッ!!」

 

 カナエの装甲無視拳骨が爆発し、悪魔に二歩目のたたらを踏ませる。

 

「だが是非はない。時代は移り変わる。平和に越したことはない。それは俺の本音でもある。だが……いくら理性で押さえつけても、人の本質を綺麗事で誤魔化すのは正当(フェア)じゃあないッ! 闘いとは、己を前進させるために必要な行動だ。闘いとは、そういうことだッ! 闘いという概念にそれ以上の意味など要らない! あとから闘いに意味を付け足すのは、規範を作り流されるがままの衆愚を統制したがる為政者だけだ! ロックを叫べ! 貴様のポリシーを拳に乗せろ! 俺はそれが見たい!

 それが────“闘(・)い(・)の(・)全(・)て(・)”だッ!」

 

 カナエの蹴りが悪魔の胴体に入り、三歩目のたたらを踏ませようとした瞬間。

 

「まだ闘いは終わっていないぞッ! 《トゥ・リブ・アゲイン(再び闘う為に)》────ッッ!!」

 

 ────時は巻き戻り、悪魔は三歩目を踏まずに済んだ。

 

「ぐぅ……!」

「人を殺したくないだと!? 俺が優しい奴だから殺したくないだと!? 現実を舐めるなッ! 現状を甘い言葉で誤魔化すな! 俺は貴様を殺そうとしている! ならば貴様はただ黙って殺されるだけか? いいか、気を強く持て……生きる為には殺さねばならないッ! 守るためには殺さなければならないッ! それが現実の世界ッ! それが魔法少女の世界だッ!」

 

 カナエの拳が悪魔を貫くが、悪魔は死ぬ気で攻撃を耐えしのぐ。

 

「我々が普段口にする肉は元々どんな形をしていた? それがどのように調理されるのか想像したことはあるか? 共存なんて綺麗事で目を背けるな! 愛玩と家畜は別物だ。頭では理解していても、いざ直面すれば人は動揺する。そういった甘さを振り払え! 世界を直視しろ! お前たちのためにも、覚悟の用意をしておけ!」

「覚悟……?」

「そうだ! 覚悟とはッ! 極寒の雪原に、暖かな居場所を創ることだッ! 魔法少女なら魔法少女が生きられる世界を創るしかない! かつて人間がそうしたように! あらゆる生き物がそうするように! 縄張りを作るッ! それが進化の必然経路だ!」

 

 悪魔は“納得できない”と言いたげに前進する。

 

「私は成長した貴様を倒し(レッツ・ゴー)! 更に先へ進む(プルス・ウルトラ)ッ!」

 

 悪魔は二歩前進してスリーカウントを帳消しにし、カナエと正面激突した。

 

「さあボンゴレ10代目ボス候補! 貴様の覚悟を見せてみろッ!」

「オレはマフィアなんかにはならねぇえええええっ!!」

「ならばせめて男として、この俺と決闘しろ! 対応者ではなく、先駆者として! 自分の意志で俺をぶち殺しに来い! 選べ、さもなくば殺されるだけだ! 早くこの俺を成長させてくれ、沢田綱吉ッ!」

「うるせぇえええ! 地獄で勝手にやってろぉおおお!」

 

 拳と拳の交差爆撃。衣服ははだけて黒焦げの肌が露出。互いに死炎と魔法で殴り合っているだけなのに、音だけ聞けば絨毯爆撃の嵐が巻き起こっている。

 

「おまえ……雲の波動を感じるから……どうしても思い出すぅうう……!」

「……?」

「恭弥に似ているぅううう! オレは恭弥が苦手だ! あいつも闘いを趣味にしている! おかげで恭弥と会えばいつも喧嘩だ! 初めて会った時は“喧嘩で負けたら僕に食べられてよ”と口説かれた! オレはあいつが好かん! 要するに、どんな御託を並べたところで、おまえらみたいな奴はぁ────」

 

 悪魔は怒りを爆発させる。

 

「────た(・)だ(・)闘(・)い(・)た(・)い(・)だ(・)け(・)だろうがぁああああああっ!!」

 

 悪魔の拳が顔面にクリーンヒットする。突き飛ばされたカナエは崖際ギリギリで停止。向かってくる悪魔を目にし、ぎらつく笑顔で牙をむく。今の悪魔の突進力は誰にも受け止められない。当たれば押し出されて崖下に転落。デッドエンドだ。

 

「《トゥ・リブ・アゲイン(再び闘う為に)》ッ!!」

 

 ────時が巻き戻る。

 

 殴り飛ばそうとした刹那の間隙を狙われて時間が遡行した。悪魔の拳は空振りして体勢を崩す。そこを突かれて顔面を殴り抜かれた。互いに一歩も譲らない滅多打ちが始まる。

 

「きゃああ────!?」

「っ!?」

 

 不意に御園かりんの悲鳴が響く。崖っぷちまで追い込まれていた彼女は危うく三歩目を踏みそうだったが、幸か不幸か三歩目となる足を踏み外して転落。しかしギリギリのところで崖の淵を掴んでいた。宙ぶらりんとなる御園かりん。それを静かに見下ろす火神。その周りに浮いていた数百のキューブがふいに力を失って落下していく。

 

「アリナ!?」

 

 悪魔は叫びつつアリナ・グレイの方を見やると、そこには全身風穴だらけの彼女がかろうじて立っていた。その風穴はロココの武器たるトンファーの打撃と射撃によって出来た傷。結界魔法は御園かりんの援護に当てているため、アリナ・グレイは身を守る術がない。

 

「せ、せんぱ────たすけ……っ!!」

「…………」

 

 穴だらけの全身から流血するアリナ・グレイは立っているのもやっとで返答できない。だが負ける気はないようだ。意地で意識を保っている。あともう少し踏ん張れと激励する必要はない。彼女はキレ(激怒し)ている。その調子ならあと数秒は持つ。ならば声をかけるべき相手は────

 

「かりぃいいいいん!!」

「っ!?」

 

 悪魔の呼びかけに驚いた御園かりんは目を見張る。

 

「オレを信じろッ!!」

「?!」

「できるか!? チリの一片でも疑いがあれば、かりんは必ず死ぬ! 必ずだ! どうなんだッ!?」

「……ッ!!」

 

 悪魔とカナエのクロスカウンターが爆発。

 アリナ・グレイの顔面にロココのトンファーがヒットして弾丸をブチ込むが、彼女は硬化魔力をピンポイントで額に集中させたことで無傷。そしてギラギラと光る瞋恚の双眸が、静かに殺意を漲らせてロココを射抜いていた。「っ……!!」その眼光を前にしたロココは思わず武者震いする。

 

 そして火神が一歩、足を踏みしめたところに、御園かりんの手の甲があった。

 

「ぐっ……!!」

「答えろぉおおおお! かりん────!!」

 

 もう時間は秒単位すら残されていない。

 

「し────信じるッ!! デビ太郎を信じるのぉ────!!」

「何をされても疑うなッ! いいな!!」

 

 そう言った矢先、悪魔はアリナ・グレイに叫んだ。

 

「アリナ! かりんのソウルジェムを仕(・)舞(・)え(・)!!」

「────」

 

 目を見張ったアリナ・グレイは即座に御園かりんのソウルジェムをキューブで奪う。同時、悪魔は雲の炎の塊をリングから発射、御園かりんのソウルジェムを回収したキューブにぶつけて絶対的遮断力を持たせる。直後、魂と肉体の接続が遮断された御園かりんは目の光を失い、意識を喪失。崖を掴む握力が自然と抜けて、その肉体が落下していく。

 

「カナエ! 魔法少女の本体はソウルジェムだッ!! スタンドは意識の具現化! 精神の反映! スタンドのルールは絶対! ならば! 彼女はオレを信じた! 彼女は三歩目を踏んでいない! 魔法少女にとって体の消滅は死を意味しない! たとえ肉体が転落しても、魂さえ無事なら魔力で体を再生できるッ!!」

 

 その答え合わせをするように。御園かりんの肉体が下層の亡霊どもに貪り喰われて消滅した直後、キューブから雲の炎を晴らす。緑色の結界(キューブ)の中には、御園かりんのソウルジェムが悠然と廻っていた。

 

「自らに禁忌を犯したな」

「!!」

「あるいは一肌脱いだか。──恋は人を盲目にする。御(・)園(・)か(・)り(・)ん(・)に(・)恋(・)愛(・)魔(・)法(・)を(・)掛(・)け(・)た(・)な(・)?(・)」

 

 悪魔と御園かりんの関係値。あの状況で本当に赤の他人を心の底から信頼することはできるだろうか。それこそ魔法を掛けて暗示を掛けなければ不可能だ。でなければ御園かりんは意識を失った途端、自(・)分(・)は(・)き(・)っ(・)と(・)殺(・)ら(・)れ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)て(・)崖(・)か(・)ら(・)転(・)落(・)し(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)、と判断し、そのソウルジェムにはヒビが入って砕けていただろう。

 

「言い訳はしない」

 

 悪魔はケリをつける。カナエの顔面を抉り抜く死炎の豪腕。突き飛ばされたカナエは三歩目を踏むまでもなく崖の外に吹き飛ばされる。そのまま落下すれば死ぬはずだ。しかし当然、カナエは時(・)を(・)巻(・)き(・)戻(・)し(・)て(・)く(・)る(・)。故に────

 

「アリナ! かりんを蘇生しろ!」

「!」

 

 アリナ・グレイはソウルジェムをフル回転させて御園かりんの肉体を再構築する。

 同時に悪魔は叛逆魔法を行使。時(・)が(・)巻(・)き(・)戻(・)ら(・)な(・)い(・)。その時点で勝敗は確定した。

 

「────」

「オレはカナエを、死ぬ気で殺すぅうううう!!」

「────…………ようこそ、漢の世界へ(マンハッタン・メロドラマ)……ッ!!」

「修羅道(闘争世界)でよろしくやってろ、雪野カナエ────ッ!!」

 

 死ぬ気の炎の噴射で一気にカナエの頭上へ接近した悪魔は、トドメの一撃と言わんばかりに腕を振り抜く。容赦なくカナエの頬を殴り飛ばすと、その衝撃を利用して旋回着地。彼女が崖下に転落する姿を見届ける事もなく方向転換。振り返り、中央まで駆け戻る。そしてソウルジェムから離れた位置で肉体を再構成された御園かりんと火神の線上を走る。

 

「うおおおおお! かりんをいじめる奴は、死ぬ気で倒すぅうううう!」

「!!」

 

 悪魔の拳が火神の体を透過する。《透過魔法》によって、あらゆるものがすりぬける火神の体。

 

「かりん! 《窃盗魔法》で火神のソウルジェムを奪え!」

「えっ!?」

「早くしろぉおおおお!」

 

 御園かりんは混迷を極める。今まで崖際で死にかけていたのに、まばたきした間に状況が様変わりしていた。なぜ自分は崩れゆく荒野の上に立っているのか。否、今その疑問は問題ではない。悪魔の言葉を信じて実行するべきだ。

 

 御園かりんは慌てて窃盗魔法を行使。火神のソウルジェムを奪い去る。それを悪魔がひったくると崖下に投げ捨てた。複製魔法少女はソウルジェムが本体ではないため、ソウルジェムが壊れても死ぬことはない。百メートル以上離れても死ぬことはない。だがソウルジェムと離れることで魔法は使えなくなる。故に火神の透過が解除された。

 

 火神の目に見えぬほど早い手刀が悪魔の喉を貫通。

 

「デビ太郎!?」

「うおおおおおお! きかぁあああんっ!!」

 

 大量に吐血しながら火神の胸ぐらを掴んだ悪魔は一本背負い。崖横に突き倒し、火神を転落させた。

 

「────で、デビ太郎……」

「かりん救出完了! 次は……アリナぁあああああ!!」

 

 悪魔が駆けつけようとした直後、アリナは無数のキューブでロココの全身を穴だらけにした。御園かりんを援護していた全てのキューブを回収し終えた瞬間、必殺魔法を行使したのだ。

 

「ガハッ……!!」

「……ファック」

 

 ロココが崖下に転落していく。骸骨どもの拍手喝采。すぐに特殊空間は消滅して、悪魔たちは元いた空間に戻される。

 

 そこはウワサ空間。ひとりぼっちの最果て。

 あまりに長い殴り合い(対話)だったため、既にほかの戦いは終息を迎えつつあった。

 

          †

 

 

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