※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【鹿目さんを守る! 必殺! 黒江アタック!】黒江

 

 神浜市の上空にて、悪魔は思索する。

 

 悪魔から見た大抵の魔法少女は、銃弾飛び交う戦場のど真ん中で生きているくせに、どうすれば自分が生き残れるか最低限の考えしか持たず、学校に行ったりオシャレしたり、恋愛にうつつを抜かしたり友人関係に悩んだり、なんとも危機感のない兵士として映って仕方がない。兵士の仕事は殺し合いであり、何としてでも生き残ることだ。その仕事すらこなさない兵士は次の瞬間、当たり前のように頭を打ち抜かれて殺される。それなのに魔法少女は、日常生活の傍ら、最低限の努力と修行で研鑽を終えてしまい、なんとも半端な力で日常との両立を目指そうとする。

 

 だがそれも致し方のないことだ。なぜなら彼女たちに兵士という自覚はない。インキュベーターから魔法少女としての使命──魔女と戦いこれを討ち滅ぼすこと──を告げられても、どうにもしっくりこないのだろう。実際に戦って命の危険を感じても、怖いことは考えたくないため、現実逃避するように日常に逃げ帰る。そうして深く考えず、現状維持を目指す。戦場のど真ん中で棒立ちになることを目指したところで、それは自殺行為でしかないのに。

 

「そう考えれば、巴マミ。後身を育成しようとしたお前は、紛れもなくベテランの先輩魔法少女だ。おかげで佐倉は傭兵気質が身に付いた。オレも合理的に物事を考えられるようになって、みんなを助けられるような方法を思いつくようになった」

 

 悪魔はひとりごちる。そんな二人は今、以前とは打って変わって別人のようになってしまった。

 巴マミはウワサに支配されているだけだが、佐倉杏子は家庭の問題で自暴自棄になっている。

 

「なんとかしなくちゃな」

 

 悪魔は中央学園の屋上に降り立つ。次の瞬間、遥か後方から猛接近する二つの気配を感じた。

 

「っ!?」

 

 一人は暁美ほむら。一人は竜城明日香。人目につかないよう跳躍し、悪魔の背後に降り立つ。

 まさか、みかづき荘からダッシュで追いかけてきたのか。その理由を問いかける。

 

「お前ら……」

「はぁ、はぁ、はぁ……っ! ふぅ……!」

 

 暁美ほむらは理由を述べようとするが、全力疾走によって呼吸を整えるのに時間が掛かる。

 だが悪魔は心の声を直感して納得した。

 

「……そうか。昨日いろはから言われていたのか。それで今(・)日(・)の(・)監(・)視(・)役(・)は(・)ほ(・)む(・)ら(・)だと」

「すー……はー……っ。そ、そうです! いきなり飛んでいっちゃうのでびっくりしました!」

「私は悪魔殿の右腕なれば、お役に立とうとするのは至極当然! それで、何かご命令はありますでしょうか!?」

 

「明日香は帰れ。できるだけみかづき荘に居てくれると助かる」

「なるほどつまり護衛ですね! 承知しました!」

「……やっぱり門限まででいいからな?」

 

 深夜まで警備しろという命令だと思い込んでいた竜城明日香に対し、改めて勤務時間を告げる。

 

「あ、あの……ところで、さっきの話、途中から聞いていたんですけど……“近々来る試練の時”って、もしかして私たちにしてくれる修行のことですか?」

 

 暁美ほむらは悪魔と竜城明日香、双方に問いかける。というのも暁美ほむらは、悪魔のスパルタ教育が軽くトラウマになっている。そのため前もってトレーニング方法を知っておきたいのは当然のことだ。そして悪魔が気絶している間、その修行について話題に昇ったところ、ふと竜城明日香が「あぁ。悪魔殿が『道場を貸してほしい』というのは、その修行のためでしたか」という発言が飛び出た。つまり竜城明日香は、悪魔が計画している修行について何か知っている。が、竜城明日香は「しまった! このことは内緒でした! 忘れてください!」と口を固く閉ざすばかり。そこで悪魔と竜城明日香の二人が揃っているタイミングで、暁美ほむらはそれとなく聞いてみた。

 

「まぁそうだな。しかし明日香、迂闊な発言は控えろ」

「申し訳ございませんでしたぁっ!! 切腹するのでお許しをば……!」

「しなくていい。お前の死は誰も望んでない。いいから行け」

「やはり名君ンンンンンンッ! 委細承知! みかづき荘の警護はお任せあれ!」

 

 竜城明日香は来た道を戻る。発散魔力で地区の半分をひとっ飛び。そのぶん魔力の消費は激しいはずだが、手持ちのグリーフシードに余裕はあるのだろうか。

 

「……ん?」

 

 ふと悪魔は、暁美ほむらの手指を見やる。そこには雲系リングと霧系リングが嵌められていた。

 

「ほむら……そのリング……」

「あ、はい。黒江さんの錬金術で作ってもらったんです」

「黒江……」

 

 死炎系リングの原材料はソウルジェムのカケラである。黒江は、黒曜ランドで手に入れたのか、調整屋と取引して手に入れたのか。どちらでも構わないが、あまり死炎界の物は作成しないでもらいたい。そう悪魔は思う。なぜならマフィアなんかと関わってもロクなことにならない。しかし生き残るために手段は選んでいられないという意見も尤もである。

 

「……」

 

 そして悪魔は、ついでのように思い出す。

 

「……そういえば忘れていたな」

「何をですか?」

「黒江の体から毒を抜き取るのを忘れていた。あいつ大丈夫なんだろうか」

「え……毒!?」

 

 毒というのは、魔力発作のことである。黒江から助けを求める電話が来てから、それなりの日数が経過したが……今も魔力発作に耐えているのだろうか。昨日久々にみかづき荘へ帰ったが、黒江は特に何も言ってこなかった。黒江なら錬金術で魔力発作を抑える薬くらいは作れていそうなものだが、もしかしたら今はそれで凌いでいるのだろうか。

 

「……だとしても、早めに治した方がいいだろう。ほむら、助太刀魔法に使う魔力を貸してくれ。二回分だ」

「あ、はい……って、ダメですよ!? 魔力は人体に有害って黒江さんが……!」

「だったらオレはとっくに死んでる。逆転勝利があるから問題ない。早くしろ」

「でも苦しいんじゃ……あっ」

 

 悪魔は暁美ほむらの手の甲に輝く紫色のソウルジェムに触れると、魔力を吸い取って二本の青い刀剣を作成する。

 

 次の瞬間、暁美ほむらを置いて《助太刀魔法》を行使。降り立った場所は────みかづき荘のトイレの中だった。

 

「────」

「すまん」

 

 目と目がしっかりと合う。悪魔は、突然の事態に完全硬直して呆然放心している黒江の頭を抱き寄せると、彼女の中でがん細胞のように蠢く悪玉魔力を吸い上げた。

 

「よし。これで魔力発作は起きないはずだ。じゃあな」

 

 再び《助太刀魔法》を行使。暁美ほむらの下に降り立つ。

 

「あ……早かったですね?」

「逃げてきたが正しい。まぁ一夜の仲だ。たぶん許してくれるだろう」

「?」

 

 悪魔は屋上階段に向かって進む。その後ろに暁美ほむらが追随。

 

「あ、あの、悪魔さん。もうひとつ……通学の件については、どうなったんですか?」

「……」

「最初はそれについて話していたんですよね? でも急にやちよさんが叫ぶから、どうしたんだろうと思ってゲームをやめて様子を見に行ったんです。あ……もしかして、ここの学園に通うことになったとか!?」

「違う。オレの母校は並中だ。特に思い入れのある学校じゃないが、そこ以外に通う気はないし、帰る気もない」

 

 悪魔は霧の炎で幻覚を作り、中央学園の制服を着込む。

 

「……!」

「真似してみろ」

「あ、はいっ! でも私まだ、構築で姿を隠すのもやっとで……」

「姿を隠すのも姿を変えるのも要領は変わらない。背景と同化させるか、脳内イメージを具象化するかの違いだ。カメラのピントを合わせるか、カメラの写真を現像するかの違いとも言える」

「全然違うように聞こえますけど……」

「あくまでカメラは例えだ。実際に使っているモノは死ぬ気の炎だろう。カメラから炎熱に置き換えて考えればいい。つまり現像とは、すなわち焼(・)き(・)付(・)け(・)る(・)こ(・)と(・)だ。死ぬ気の炎は、炎と呼ばれるだけあって超圧縮エネルギーと言える。レントゲン写真を撮るように、脳内イメージを自分の周囲に焼き付ければいい。霧の炎は砂粒上の炎だから、純度さえ高ければ容易に脳内イメージを透過して、対象(ピント)に構築物を焼き付けることが可能なはずだ」

 

 暁美ほむらの死ぬ気の炎は微弱である。雲属性の波動が一番高いはずだが、それでも中の下と言えた。それに比例して純度も低い。となれば、あとは練習あるのみ。悪魔は霧の炎で暁美ほむらの存在を周囲の目から隠すと、階段を降りて廊下を渡る。

 

 そして一般生徒に理科室の場所を聞き、都ひなのがどこにいるか質問。礼を言って一直線に向かう。

 

「ひなの。いるか」

 

 理科室の扉を開け放つ。すると大勢の子供たちの活発な声が広がった。今日は休日のため、どうやら近隣の小学生に理科の面白さを伝えるレクリエーションを行っていたようだ。その主催者が都ひなのであり、その手伝いとして木崎衣美里もいた。

 

「ん? おぉ、悪魔じゃないか!」

「デビ太郎じゃん! こんちゃー! なになにー? みゃーこ先輩の実験を見に来てくれた感じー?」

「ひなの。忙しそうだから手紙を渡す。急ぎ返事がほしい。できれば一日以内に。悩む部分は当日でも構わない」

「え? お、おう……」

「えー! なにそれー! もしかしてラブレター!?」

「お前らにとって悪くない申し出のはずだ。────邪魔したな」

 

 悪魔は理科室を後にする。

 

「……あの、悪魔さん。私、見向きもされなかったんですけど、もしかして霧の炎で私の姿を隠して……」

「藍色の霧を漂わせて男子生徒の後ろをついてくるヘンテコ制服の女子は、一般人からすればもはや妖怪だからな」

「すみません……あ、それと、さっきの手紙は……? もしかして修行関連でしょうか?」

「察しがいいな。中身を知りたいか?」

 

 暁美ほむらは頷く。

 

「まず家庭教師というより教官として、魔法少女を育成する道場を開きたい。そのための門下生を東西中央問わず、神浜中から集めたい。そのための許可を中央区の代表者・都ひなのから取りたい。というものだ。そして具体的な教育内容は未定だが、脱出デス・ゲームやトーナメント式の大会を考えている。少なくとも一度の合宿で確実に強くなり、QB魔法界における生存確率が飛躍的に向上する事を約束する旨を記してある。極めつけは、最後にソウルジェムの真実と魔女化の真実を告げる許可を得たいというものだ」

「────!」

「しかし、魔法少女の真実に関しては、たとえ許可が取れなくても強制的に実行する。止めたければオレを倒せ。さもなくば、どうせ遅かれ早かれ真実を知った時、都ひなのはそいつらを守れない。そういう旨を書いた」

「そ────それって! 要は宣戦布告ってことじゃないですか!? それに強制的に真実を教えるって……」

「無責任だと思うか? もし真実を知って、それを乗り越えることができない奴が現れたらどうするつもりだ? そう思うか?」

「……」

「安心しろ。その時はオレが責任を持って落第生とする」

「────落第生……?」

 

 暁美ほむらは首をひねる。

 

「魔法少女の現実を知り、なおも生き足掻く気概さえあれば、オレのスパルタ教育は必ずクリアできる難易度だ。裏を返せば落第生とは、そもそも生きる意思がない奴を指す。そんな奴に無理やり生きる方法を教えても、自殺志願者の将来にまでは責任を持てない。そういう落第生は、オレが真実を教えようが教えまいが、惨めに死ぬのが決まりきっているからだ。……ドライだと思うか?」

「……いえ。だって悪魔さんは、落第生なんか出さないはずですから」

「随分と知ったふうな口を利くじゃないか」

「これでも一番弟子ですから。マミさんの同輩でもありますし。今までのこともあるから、そんなひどい人には見えません」

 

 それはどうかな。スパルタ教育にトラウマを持つ暁美ほむらからしたら、今度の修行は真の恐怖を抱かせるだろう。なぜなら本気で魔法少女を殺しにかかってくる“最凶の風紀委員長”を呼ぶつもりなのだから。そう悪魔は思う。

 

「でも……都さんにそんな手紙を送って……中央区の魔法少女だけ道場に来なくなったらどうするんですか?」

 

「どうやらオレには、救世の悪魔だかなんだかという、ふざけた噂が流れている。キリサキさんの一件でも、オレの知名度は高いはずだ。かなり偏向的に広まっている事も確認が取れている。よって今回の道場は、そんな噂を信じる奴らからしたら“救世主サマが救いを与えてくださる”と触れ回るに違いない。要は、そういう偏見を利用して人を集めようって魂胆だ。といっても、そういう奴らはマギウスの翼に多いから、ほとんどはマギウスに止められて道場に来ることはないだろう。まぁオレの知識と技術を盗もうとスパイは送られてくるだろうが。その一方で、キリサキさんを倒すため共に戦った魔法少女たちは、オレの一声さえあれば、たとえ代表者が引き止めても“借りがあるから”と必ず来る。昨日、織莉子に会いに行って未来を確認(直感)したから間違いない」

 

「……っ!?」

 

 美国織莉子の名が出てきたことに、暁美ほむらは動揺を隠せない。

 

「ついでにオレの不眠不休も解消されるから安心しろ。織莉子の未来予知で、ある程度の安全は予想されている」

 

 つまり、ここしばらくスタンド《ゲットアップ(起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ)》を使うことはない。

 ただし、美国織莉子から言付けされた呉キリカから、“修行後、ある危険が神浜市を襲う。だがそれに合わせて悪魔は飛び起きるから問題ない”ということも言われている。

 

(“ある危険が神浜市を襲う”……か。その詳細を知りたいところだが、それを聞く前に美国織莉子は未来予知を駆使してオレから逃亡し、完全に姿を消した。まったく……もっと協力的だと嬉しいんだがな……)

 

 ふと悪魔は、人気のない廊下に出たところで、暁美ほむらの手を握る。

 

「えっ……」

 

 魔力を吸い取って《助太刀魔法》を行使。今度は暁美ほむらを連れて転移。降り立った場所は────どこかの家の中だった。

 

 眼前には和泉十七夜────もとい黒い仮面を被ったエッダがソファに座っている。その真向かいにはテーブルを挟んで、なぜか智珠らんかがソファでくつろいでいた。

 

「む……」

「うわ、びくった。と思ったら悪魔じゃん……あんたさぁ。そのいきなり現れるのやめにしない?」

「エッダ。手紙がある。やちよから既に連絡が届いていると思うが、念のため読んでくれ。読心が完了したら飛ぶ」

「一分待て」

「いや無視かい! こっちはあんたを追いかけて神浜市くんだりまで来たってのに……」

 

 なぜエッダと智珠らんかが面と向かい合っているのか。悪魔は直感する。特に介入しなくてもいい問題のようだ。後ろに気配を感じたので振り返ると、和泉壮月が腰を抜かしていた。台所では八雲みたまと八雲みかげが料理を作っている。

 

「あ、悪魔……!? 急になんだよ、ここ俺らの家だぞ……?」

「すまん。十七夜に用があってな」

「あぁ……姉ちゃんに……」

 

 次の瞬間、エッダが叫んだ。

 

「私は十七夜でもないし、貴様の姉でもない! 我が名はエッダだ!」

「はいはい。あ、智珠らんかさん。こちらクッキーです。みたま姉さんのじゃなくてみかげちゃんが作ったものなので安心してください」

「ちょっと壮月くぅん? それはどういう意味かしらぁ?」

「姉ちゃのクッキーは絵の具入りだからね!」

 

 八雲姉妹はわいのわいのと料理を楽しんでいる。

 対するエッダは腕を組んで悩み、そして誇らしげに胸を張った。

 

(くっ……壮月め。なぜ私が姉だと見抜ける? ……ハッ! そうか。さすがは我が弟。いつの間にか成長し、私のように読心術を身につけたのだな!)

「いやそんなわけないだろ」

 

 悪魔のツッコミ。

 そして智珠らんかは弁解を始めた。

 

「あー。話を戻すけど……こっちはグリーフシードの横取りなんてしてないから。むしろそういう争いを避けて、こっちからグリーフシードを恵んでやることが多いってのに……なに? よそ者だからって疑われるわけ? よそ者だから濡れ衣を着せやすいとか考えないの? あんた東側の代表者なら、このあたりの治安くらい知っておきなさいよね」

「耳に痛いな。嘘でもないようだ。君に濡れ衣を着せた真犯人は必ず捕まえてお仕置きしよう。それと謝罪は必要か?」

「別に。もうこっちに来て疑われることは慣れっこだし。あんたも疑うのが仕事でしょ? ……それより悪魔。あんた目の下のクマちょっと取れてんじゃん」

 

「お気遣いどうも」

 悪魔は皮肉として受け取り、エッダの方を見やる。

 

「あぁ。悪魔の心も読めたぞ。道場の件に関しては概ね賛成だ」

 

 その時、智珠らんかの眉間がピクリと反応する。

 

「……悪魔。あんた、何も変わってないんだね」

「……」

「そこの暁美ほむら(メガネ女)も気をつけた方がいいよ。そいつ、全部自力で解決しようとして、本当に解決できちゃう悪い癖、変わってないから。そのせいで二木市の連中は何も成長できなかった。……まぁ、そうなったのはうちらの自業自得でもあるんだけど」

「え……?」

 

 智珠らんかの意味深長な言葉に、暁美ほむらは首をかしげるばかり。

 

「魔法少女に生存のイロハを教えるのも、本当は自分の仕事に支障をきたさないため。自分が仕事している時に、仕事のできない誰かに泣きつかれても困るでしょ? だから、まずは部下を育成して、手のかからない部下にしてから、自分の仕事に打ち込む……悪魔はそういう上司(タイプ)なのよ。だから、あたかも対等な仲間であるかのように振舞って見えているようなら……その認識、マジで間違ってっから。……あー。胸糞悪い。そりゃ紅晴が鬼になってあんたを追いかけるはずだわ。まったく……」

「言いたいことはそれだけか」

「キリがないからこのへんにしとく。堂々巡りを終わらせたいのに、こっちがそれにハマってちゃ意味ないし……」

「半端な恋路なら潔く諦めろ」

 

 不意に悪魔は、よくわからないことを言った。それは智珠らんかも同様だったのか、しかし思い当たるフシがあるようにピクリと反応すると、不穏な気配をまとってキレ気味に返す。

 

「は?」

「オレを助けようとしてくれることはありがたい。だがまさかこんなところまで追いかけてくるとは思わなかった」

「ここに来たのはあんたもそうだけど……魔女が集まる場所だからってのもあるし……ちょっと自意識過剰じゃない?」

「そうだな。そうだったらいいんだが」

 

 悪魔は暁美ほむらの手を握ると、再び《助太刀魔法》で飛んだ。

 

 そうして降り立った場所は────みかづき荘のリビングだった。パーティーは続いており、今はツイスターゲームで遊んでいるようだ。それのプレイヤーである鹿目まどかは、環うい・リリス・七海やちよと絡み合い、一人だけ偶然セクシー的なポーズを取る形になっていた。

 

『────っ!?』

 

 鹿目まどかを対象に飛んだため、悪魔と暁美ほむらは、彼女の間近に忽然と立って現れた形となる。そして見ようによってはスカートの中が見えるかもしれない位置であり、かああっと赤くなる鹿目まどかの開脚から視線を外して、悪魔は謝罪した。

 

「悪い。今日は黒江も含めて厄日だな。……いや、暇になったから、次はまどかの悩みを解決しようと思って────」

「鹿目さんを守る! 必殺! 黒江アタック!」

 

 突如、ただの観戦者だった黒江がツイスターゲーム上に飛び込み、悪魔の脇腹に軽いゲンコツを入れて退治した。殴られた悪魔はおとなしく退散し、庭に出て揺り椅子に落ち着く。

 

「あれ……?」

 

 暁美ほむらは気付く。助太刀魔法の連発でかなり魔力を消費したはずだが、ソウルジェムは綺麗に浄化されていた。

 

「──っ! まさか……!」

 

 いつの間にか悪魔は、暁美ほむらのソウルジェムの穢れを吸収していた。となると半魔人化の危険性がある。悪魔は完全な制御下に置いたと言っており、現に最初のとき以外暴走したことはないが、それでも瘴気が即死級の猛毒で、人体に有害であることに変わりはない。

 

(いろはちゃんからソウルジェムの穢れも吸収させないよう頼まれていたのに……あ、もしかしてその心を読んで、私に気付かれないように吸収したのかな……?)

 

 暁美ほむらは庭に出る。揺り椅子の横に立ち、悪魔の顔を覗き込む。目をつむった寝顔。一瞬苦しそうな表情が垣間見えたが、暁美ほむらがやってきた途端、その苦痛を隠すように顔色を変えた。心地よい風を満喫するように、まるで老人のような冷静沈着さで休憩している。

 

「……ほむら」

「は、はい」

 

 悪魔は目をつむったまま問いかける。

 

「オレが学校に通う件について、どう思う?」

「え? えっと……少なくとも、悪くはないんじゃないかと思います」

「マギウスはオレを狙っている。オレが学校に通うことで学校が襲撃される危険性を含めてか?」

「それは……でも、すぐ近くにいろはちゃんとやちよさんがいますから。私もいますし、なぎさちゃんだって……」

 

 みんなと力を合わせれば、どんな問題も解決できる。

 ただ問題なのは、それぞれ自分の問題で手一杯で、力を合わせる前に全滅してしまう可能性が高い事。

 

「────そうか」

「……っ!」

 

 暁美ほむらは(しまった)と後悔する。今、前回のループのことを思い出してしまった。先ほど悪魔が“まどかの悩みを解決しようと思って”という発言から、時期的に美樹さやかの問題について鹿目まどかが悩んでいるのだと推測し、その流れで回想してしまったのだ。

 

 美樹さやかは色恋沙汰で絶望したあと魔女化する。そして魔女化の真実を知った巴マミが佐倉杏子を撃ち殺し、暁美ほむらを縛って、鹿目まどかに撃ち殺された出来事。そしてワルプルギスの夜をやっとの思いで倒すことができても、見滝原市はめちゃくちゃで、鹿目まどかの魔力は底を突き、魔女化する前に暁美ほむらが引導を渡した(撃ち殺した)出来事。

 

「なら、やっぱり急がなくちゃな」

 

 悪魔は揺り椅子から立ち上がろうとするが、膝が笑って転んでしまう。

 

「悪魔さん!」

 

 咄嗟に悪魔の体を支えようと肩に触れた暁美ほむらは、手のひらが焼けるような痛みに驚いて反射的にのけぞる。

 

「熱ッ……!? こ、この体温の高さ……異常ですよ! まるで焼いた鉄板……」

「っ……やはり、戦闘してないとガタがくるな……。火傷したなら、その箇所を雨の炎か鎮静魔力で癒せ。普通の水じゃ水ぶくれするぞ」

「……私の心配より、どうしてそんな高温に……」

「魔力発作を抑えることによる副作用だ。魔力を持った存在がオレの許可なしに触れるとそうなる。だが、割と前からこんなんだぞ」

 

 悪魔は揺り椅子に掴まって居間に戻ろうとする。そこへ環いろはが立ち塞がった。

 

「悪魔さん!」

「…………」

 

 悪魔は、また話が長くなりそうだと諦念する。環いろはの内心は、どこまで行っても譲る気は無さそうだった。

 

「先ほどの件は謝罪します。悪魔さんの気持ちも考えず、出過ぎた真似をしました。あんな喧嘩をしてしまったのは、私が悪魔さんのことをよく知らなかったからです。なので、もう一度話し合いましょう!」

「往生際が悪いな……」

 

 窓際に腰掛ける七海やちよは、苦笑しつつ様子を見守る。彼女からすれば、往生際が悪い子は二人いる。悪魔と環いろはだ。

 

「悪魔さんは昨日、ずっと自室に居たので知らないでしょうが……実は私、みかづき荘のリーダーになったんです! なので私には、同じみかづき荘のメンバーである悪魔さんを守る役目があります!」

「リーダーらしい責任感を持ってくれているのはイイことだがな。正直こればかりは空回りしているぞ。オレについては放っといてくれ」

「そうは問屋が卸しません。なにより私たちが、仲間である悪魔さんを放置すると、本気で思ってるんですか?」

 

 悪魔と環いろはの口論。その声が屋内まで響き、ちょうどゲームが終わったパーティーの参加者たちが様子を見に来る。

 

「はぁ……」

「……! あの、ため息をつきたいのはこっちの方です……!」

 

 その諦めない姿勢には感心するほかない。だが、やや強情が過ぎる。

 悪魔はそう言いたげにため息をつくと、強引に話題を変えようとして傍観者たる黒江を見つめた。

 

「黒江」

「……?」

 

 黒江は、環いろはがリーダーになったことについて、次のように思っていた。

 

(やっぱり環さんはすごいな。まぶしいや。──昨日やちよさんが自分の過去を打ち明けてくれた時、すぐに環さんは“それなら私が一位(リーダー)になります”と言い切った。インキュベーターとの契約で叶えた願い事は、客観的に見て皮肉の効いた末路に終わる事が多い。だから、悪魔さんと環さんのおかげで固有魔法の真実(希望継承)に気付けたやちよさんでも、まだ不安が残っていた。その不安を、環さんはあの一言(私がリーダーになる)で吹き飛ばしてしまった。

 ……もし私がやちよさんの立場だったら、そんなこと言われても余計に苦しくて泣いていたかもしれない。私はいつも後ろ向き。挑戦したくても、怖くて逃げたくて仕方がない。だからキュゥべえに願いを叶えてもらってしまった。──やちよさんは、環さんの前向きな言葉で立ち直れたけど……私は逃避しちゃうから、それじゃあ立ち直れない。でも、だからこそ、そんな私だからこそ……今までも、これからも、逃げずに立ち向かいたい。環さんのようになりたいけど、きっと環さんのようにはなれない。だからって腐らず、私は私にできること(錬金術)で、誰かの役に立つ。どんなに逃げたくても、逃げるだけじゃ何も変わらなかったことは、魔法少女を辞めたあとで、よくわかったから────)

 

 そんな決意が、昨夜あったらしい。だが悪魔は、暴走する超直感をなんとか制御し、もっと直近の、そして表面的な心情を読み取る。

 

 それは黒江の思い。環いろはへの憧れだった。(すごいなぁ……自分には真似できないや)────そんな気持ちを直感して、悪魔は反論する。

 

「そうか? 黒江も凪たちの良いリーダーじゃないか。フゥ太もイーピンもよく懐いている」

「えっ!? いや、私はそんな────って、また勝手に心を読まないでくださいよ!? あと話を変えないでください! 環さんの方を見て!」

「黒江さん……ありがとう! さぁ悪魔さん、黒江さんの言う通りです! 私の目を見てください!」

 

 悪魔は失笑する。

 

「もうこんな感じで、だまくらかすことはできないか」

 

 二人の成長は嬉しいが、同時にやりづらくなった。

 

「悪魔さんとも結構長い付き合いなので!」

「もうその手は食いません!」

 

 ならば仕方ない。悪魔は逃げの一手を打った。

 

「なぁ、いろは。なぜそこまでする?」

「それは仲間だから────」

「まさかとは思うが、オ(・)レ(・)の(・)こ(・)と(・)が(・)好(・)き(・)なのか?」

 

 突とした発言。悪魔の口から放たれた衝撃は、環いろはの口を半開きにし、先程まで真剣だった目から力を抜かせてぱちくりと言わせた。

 

「────へ……?」

 

          †

 

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