※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【叛逆魔法と恋愛性質は表裏一体かー】鼓星かずみ

 

「なぁ、いろは。まさかオ(・)レ(・)の(・)こ(・)と(・)が(・)好(・)き(・)なのか?」

「────へ……?」

 

 悪魔は人の心が読める。故に彼の発言は、常に真実のものとして語られる。しかし留意せねばならない事がある。あまりに堂々とした物言いのため、その勢いのままに受け入れてしまいがちだが……その実、悪魔の言葉が本当なのかどうかは、相手の反応に委ねられる。故に一同の視線が環いろはに集まり、事の真偽を確かめようと純粋な関心、そして俗っぽい好奇心が向く。

 

「どうなんだ? オレに気があると思ったんだが」

 

 悪魔は真顔で問いただす。

 

「な────ななな、何を急に、言い出すんですかぁ……!?」

「そうか。別にそうでもないのか」

 

 悪魔は表情を変えず、特に残念そうでもなく環いろはから視線を外すと、一同が環いろはを見守る流れで、そそくさと自室へ避難しようと歩き出す。

 

「はい~止まるのですぅ~。なぎさはその手口に慣れているので、しっかりとクマ吉を通せんぼなのです~」

「────チッ」

 

 悪魔のナチュラルな舌打ち。

 彼の切り札を見事に躱して足止めしたのは、この中で最も悪魔と付き合いが長い百江なぎさだった。

 

「あれ……? でも……私は別に、そんな……だって恋とか、よくわからないし……悪魔さんを気にするのは、そういうんじゃなくて、純粋に仲間として心配して……」

「────ハッ! 環さん! 騙されないで! たぶんそれも悪魔さんの罠だ!」

 

 黒江の声にハッとした環いろはは、悪魔が目の前から忽然と消えている事に気が付く。急いで周りを見渡せば、悪魔は窓際に立っており、両手を広げる百江なぎさに通せんぼされれていた。

 

(……私もなぎさ同様、気付いていたことにしましょう)

 

 窓辺に腰掛ける七海やちよは、実のところ悪魔の発言に驚いており、ほんの一瞬、悪魔から視線を外してしまった。まんまと悪魔の罠にハマってしまった羞恥心を抑えて、何事もなかったように目付きをキリッと言わせつつ、クールに佇む。

 

 次いで百江なぎさの深々とした嘆息が庭の空気を沈めた。

 

「ハァ……それにしてもクマ吉は、元々そんなチャラい男ではなかったのです……いつから今みたいな言い回しが出来るようになったのです……?」

 

 昔はもっとダメダメなところが残っていて可愛かった。それが今では、生死の修羅場と大人の修羅場、二つの修羅場を何度もくぐり抜けたことで、恥ずかしいセリフを真顔で言えるようなキザな男になってしまった。

 

「でも安心するのです。クマ吉がクマ吉らしかった昔のクマ吉のことは、なぎさが一番よく覚えているのです」

「いいから退いてくれ。不毛な論争だ。どちらも譲る気がない。口論する暇があるなら、その暇を修行に費やしたらどうだ。それならオレも少しは休憩を取ると約束しよう」

 

 悪魔は押しのけるように前に進み、百江なぎさの頭を掴んで端にどかすと、リビングに上がって観衆の中を突っ切ろうとする。

 

「あぁところでクマ吉。まさかとは思うのですが────もしかしてな(・)ぎ(・)さ(・)の(・)こ(・)と(・)も、その魔法のせいだと思っているのです?」

「────」

 

 悪魔の足が止まる。百江なぎさの心を直感するまでもない。今しがた自分が仕掛けた罠を、そっくりそのまま返された。しかし真っ赤な嘘というわけではない。今の百江なぎさの言葉は、決して逃げることが許されない、一つの由々しき問題だ。

 

「……悪魔さん?」

 

 悪魔の悩ましい顔色を見上げた千秋理子が心配そうに首をかしげる。ほかの者も、急に悪魔の表情がおかしくなったことが気になり、これはどういうことかと百江なぎさを見つめた。

 

「やちよも昨日、愚痴っていたのです。も(・)う(・)ち(・)ょ(・)っ(・)と(・)手(・)の(・)内(・)を(・)明(・)か(・)し(・)て(・)も(・)い(・)い(・)ん(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)か(・)って。それでもクマ吉の事情を知るなぎさは、当然、クマ吉が手の内を明かすはずがない事を知っているのです。だから────クマ吉が言わないのなら、なぎさがくっちゃべっておくのです」

「なぎさ」

「手の内の全てを明かすわけではないのです。ただひとつだけ────ずっと昔からクマ吉が懸念していること。嘘か本当かクマ吉にも分からない“悩み事”を、ここにいる魔法少女たちに相談して情報を共有しても良いと思っただけなのです」

「恥ずかしいからやめろ」

「それは不当な要求なのです。さっきはいろはに“オレのこと好きなのか”と真顔で聞いたくせに。恥ずかしいのはこちらもなのです」

「……」

「それでも嫌なら、逃げるなぎさを捕まえてみろなのです!」

 

 それは難しい。百江なぎさも強者だ。本気の追いかけっこを始めれば、それはただの遊びでは済まない。百江なぎさと本気の殺し合いをする労力と、同じ労力が必要になる。この程度の馬鹿げた“悩み”で、そこまでの労力を費やすのは、それはそれで滑稽な話だ。一時の羞恥心を取るか、一時の多大な労力を取るか。どちらを選ぶかなぞ、合理的で無駄を嫌う悪魔からすれば、考えるまでもないことだった。

 

「……好きにしろ」

「クマ吉ならそう言うと思ったのです。なぎさの勝ちなので、なんで負けたのか明日まで考えてチーズを献上するのです!」

 

 百江なぎさは勝ち誇った顔で胸を張る。悪魔は(やっぱこいつウザイな……)と心底呆れつつ、背を向けたまま台所のカウンター席に落ち着いた。頬杖を突いて流れを見守るようだ。

 

「さて、いろは。お前はクマ吉のことを、もっと知りたいのですね?」

「う、うん……でも、悪魔さんが嫌なら……あまり無理には……話すと言っても、もっとこう、好きなものとか、嫌いなものとか、そのくらいで……」

「いろはは奥手なのです。さっきのガンガンした勢いはどこへ行ったのです!」

 

 百江なぎさに発破をかけられた環いろはは、ならばと負けん気を発して問いかける。

 

「それじゃあ……なぎさちゃん。何を話してくれるつもりなの? それが悪魔さんのことを深く知ることになるのなら、私はやっぱり聞きたいな」

「その願いは叶うのです。というのも────全ての魔法少女はクマ吉を好いてしまう、という話なのです」

 

 これまた突拍子のない話が出てきたが、百江なぎさは当然のごとく真剣に話を続ける。

 

「クマ吉の妹である青音すずは──誤解を恐れずに言えば──恋(・)愛(・)魔(・)法(・)の(・)持(・)ち(・)主(・)なのです。本当はア(・)レ(・)に(・)な(・)っ(・)た(・)こ(・)と(・)で(・)手(・)に(・)入(・)れ(・)た(・)性(・)質(・)なのですが」

『────ッ!!』

 

 ア(・)レ(・)の(・)性(・)質(・)とは、すなわち魔(・)女(・)の(・)性(・)質(・)のことだろう。魔女化を知る魔法少女たちは、百江なぎさがぼかした部分にいち早く気が付いた。

 

「その性質が宿るモ(・)ノ(・)を所持するクマ吉は、前提と結論から言えば────叛逆魔法で繋がった女性から好かれてしまうのです」

 

 モ(・)ノ(・)とは、グ(・)リ(・)ー(・)フ(・)シ(・)ー(・)ド(・)のことだろう。厳密には、その中に封印された水泳の魔女のことだが、そこまでは明かせない。魔女化について知らない者も居るからだ。

 

 そして恋愛性質。その名称はつい昨日、電波塔のウワサ事件で耳にした者たちがいる。

 それは《恋をしないと出られない部屋》にて、悪魔が口に出していたセリフだ。

 

 ────『脱出方法ふたつ目。一時的に修得魔法《悪魔の口づけ》を付けて全員に恋(・)愛(・)性(・)質(・)を付与し、脱出する』────

 

「そういえば……」と、綾野梨花が思い出す。

 

「まったく男心は分からないのです。自分のことが好きなのかと聞いたくせに、いざ自分が魔法でみんなから好かれているかもしれないと疑うと急に逃げ出すのです。まったく弱虫でダメダメすぎて、やれやれなのです」

 

(そこまで言うか?)聞き耳を立てる悪魔は、百江なぎさの容赦ない言葉に若干のダメージを受ける。

 

 そこで環いろはがフォローした。

 

「それは……逃げても仕方ないんじゃないかな? 恥ずかしかったり、気まずかったり……」

「いろはは優しいのですね」

「……それより、その話は本当なの?」

「分からないのです」

 

 話が曖昧模糊としてきた。しかし悪魔の悩ましい表情を目撃した直後とあれば、荒唐無稽な話として聞き流すわけには行かない。仲間の悩みは、一緒に乗り越えるのが仲間である。

 

「わからないって?」

「ただの気のせいかも知れない、という話なのです」

「でも……悪魔さんが悩んでいるってことは、恋愛性質は確かに存在するってことでしょ?」

「当然なのです。でなければ悪魔契約魔法は開発できなかったのです。────ちなみになぎさは、絶交ルールの時に言ったかもしれないのですが、その悪魔契約魔法を受けた事があるのです」

 

 黒江は驚いた顔をする。環いろは・鹿目まどか・暁美ほむら・七海やちよは当時のことを思い出しており、一方のチームももこは気恥ずかしそうに互いの顔を見合わせた。十咎ももこは頬をポリポリと掻いており、水波レナは赤らみながら腕を組んで泰然と振る舞おうとし、秋野かえでは赤くなる頬を手のひらで覆い隠して深く俯く。

 

 特にチームももこは、この話にや(・)っ(・)ぱ(・)り(・)そ(・)う(・)い(・)う(・)こ(・)と(・)だ(・)っ(・)た(・)の(・)か(・)と思っていることだろう。肉体関係を結んだのだから意識するなという方がおかしいが、その理由が恋愛性質にあるとすれば、納得できるような……いや納得するようなことでもないような、という気がしなくもない。つまり分からない。自分たちは悪魔に恋を抱いているのか。まだよく分からない。

 

「じゃあ……なぎさちゃんは、悪魔さんのことをどう思っているの? もしかして……恋愛的な意味で好きなの? でも、だとしたら……それは、悪魔さんが持つ恋愛性質のせいで好きだと……そう思っているの?」

「逆になんでそうじゃないと思うのです? なぎさはチーズさえあれば、ほかはどうでも良いのです。もし恋愛性質がなければ、なぎさはクマ吉のことを友達として好きな程度で、きっと恋慕や愛情を感じることは、きっと絶対に無かったのです」

 

 環いろはは予想外の答えに驚いた。というのも環いろはは、特に純愛が好みなわけではないが、たとえ魔法の力だとしても、百江なぎさの悪魔への思いは本物だと……そんなような答えが返ってくると予想していた。

 

 しかし百江なぎさはキッパリと、悪魔のことは魔法のせいで好きなのだと言い切った。初めて悪魔に連れてこられた日から、ずっと悪魔に懐いており、悪魔のことが大好きだと公言していたのに……。とても合理的で冷め切った返答に、どうしても動揺を隠せない。

 

「それじゃあ……魔法のせいで悪魔さんのことが好きで、それを自覚しているのに……なんでなぎさちゃんは、悪魔さんと一緒にいるの?」

「その質問は……この恋心が魔法の仕業だと分かった上で、どうしてクマ吉と交際を続けていられるのか、という意味合いなのです?」

「え? あ、う、うん……?」

 

 さりげなく百江なぎさは、悪魔と恋愛関係にあることを公言した。

 

「そんな事実はない」

 

 悪魔は声を大にして否定する。継続的な肉体関係を持っていることは事実だが、それはあくまで魔力発作の毒素を抜き取ってもらい、魔力補給をするためだ。……と言いたいが、互いに体を許す理由は、ほかに二つある。一つ目は、お互いに一番の理解者であるという点。二つ目は、悪魔自身、百江なぎさの謎めいた魅力と相手の高い性欲に負けてしまう点だ。そこを突かれると、この関係が傷の舐め合いと性欲でしかない点は、何も否定できない。

 

「いろはの疑問は尤もなのですが、それはも(・)ち(・)ろ(・)ん(・)だ(・)と答えさせてもらうのです。────たとえ恋愛性質のせいで、なぎさがクマ吉のことを好きでも、そういうことならそういうことでいいのです。お互いにそれでいいと納得しているのですから、特に問題はないのです。お互いにそこらへんのことは淡白で冷めているとも言えるのです」

 

 なんだか百江なぎさが大人っぽく見える。いわば愛人関係に対する答えの一つのようなものか。このときばかりは多くの魔法少女にとって、不思議と百江なぎさが大人っぽく見えた。だが気を付けなければならない。こういう恋愛関係は、すべからくダーティー(女の秘密はアクセサリー)な映画でよくある、大人すぎる感性による回答だということを。

 

「それにクマ吉となぎさが今まで積み上げてきた関係値はバカにならないのです。もし今なぎさから恋愛性質の効果が消えて、なぎさからクマ吉への想いが消えても……クマ吉が困っていたら速攻で駆けつけるのです。これはクマ吉の恋愛性質に気付いた時から、自分自身に誓っていることなのです。────さて、これでいかに、なぎさが大人であるか、分かったと思うのです。えっへん!」

 

 悪魔は(話がズレてないか?)というツッコミ心を抑えて、場の流れを見守る。

 

「そうなんだ……たしかになんだか、映画でありそうな関係性だね?」

「そうなのです。だからもっとなぎさのことを尊敬の眼差しで見るのです! そしてチーズを献上するのです!! そうすれば対価として、ダメダメな男をあやす女の秘技を教えてやるのです!」

「まるでオレがお前にあやされてるみたいなことを言うなっ!? 変態だと思われるだろ! やめろっ!」

 

 やはり百江なぎさに調子づかせて語らせてはダメだと、悪魔はつくづく思う。だが小学校低学年の女子に手を出している事実は変わらない。罪深い悪魔は頭を抱えて席に戻る。

 

「クマ吉はそんなことで悩む必要はないのです! なぜならなぎさは大人なのです! クマ吉はロリコンではないのです!」

「もう黙ってくれ……お前の背伸びしたがりと承認欲求の高さはよく分かったから……」

 

 悪魔はよろよろと立ち上がり、どうしようかと右往左往と混乱状態にあり、この場から逃げ出すように階段を駆け上がって自室に避難した。

 

「なぎさの完・全・勝・利! なのです! 最後に勝つのは、男のプライドを抑えた女なのですっ!! Q.E.Dッッ!!」

 

 まさに公開処刑。最初は悪魔の恋愛相談だったはずが、いつの間にか悪魔の性癖暴露(?)になっていた。

 

「えっと……話を戻すけど……」

 

 環いろはは、もう少し悪魔さんにとってお手柔らかにと頼みつつ、恋愛性質について掘り下げようとする。

 

「例えば、その恋愛性質は……もしかして私たちにも、掛かっているの……?」

「それは分からないのです。叛逆魔法を掛けられたことがあるならもしかしたら、という程度なのです。なぜかというと、確実に確かめる方法がないのです。もしクマ吉に好意を抱いたとしても、それが魔法によるものか、自然によるものかは、クマ吉の読心術でもなかなか判断が付かないのです。そして、もし魔法によるものだったらと考えるクマ吉は、いつもそれで罪悪感を覚えているのです」

「…………」

「おかげでなぎさは悪魔契約したあと、しばらくクマ吉に距離を取られて傷ついたのです。クマ吉と一緒に暮らしていたマミや杏子も、なぜか壁を作るクマ吉には難儀したこと間違いなしなのです」

「……そう、だったんだ……」

 

 悪魔が壁を作る理由。深くかかわり合おうとしない理由。その一端が分かった気がして、環いろはは納得する。

 

「ただ……さっきは確(・)実(・)に(・)確(・)か(・)め(・)る(・)方(・)法(・)が(・)な(・)い(・)と言ったのですが、ある程度の見当をつけることはできるのです」

「見当?」

「恋愛性質の効果が効いている子は、ただの好意や恋慕にしては、やけに重すぎる愛情を持つことがあるのです」

「そうなの? あ……それが分かっているってことは……今までにそういうことがあったってこと?」

「何を言っているのです。今いろはの目の前に、その分かりやすいタイプの具体例が立っているのです」

 

 環いろはの眼前には、百江なぎさが胸を張っている。

 

「なぎさの一番好きなものはチーズなのです。それを超えるレベルでクマ吉のことが好きということは、つまりチーズより執着していることになるのです」

「確かになぎさのチーズ好きには参ったものよね。で、あれより激しく悪魔を追い求めるって考えると……なるほど。そりゃ悪魔も苦労して、なぎさを私に押し付けるわけだわ」

 

 腕を組む七海やちよは、合点が行ったように目を瞑る。

 

「まぁ要はそういうことなのです。……さて、話すだけ話したので、あとは質問を受け付けるのです。ただし一回の質問につきチーズ一個なのです! そしてゴルゴンゾーラを出してくれるなら、なぎさの観察眼で、みんながクマ吉のことをどう思っているように見えるのか、客観的に推理してあげるのですっ!」

 

「ダメ。話はここで終わりよ。悪魔からしたら気持ちのいい話じゃないでしょうし。あの子が降りてきたら、なるべく今まで通りに接してあげてね」

 

 一番の大人である七海やちよが話をまとめて打ち切らせる。

 対する百江なぎさはチーズを手に入れる算段が防がれたことに「チッ」と舌打ちした。

 

 そうして思わずセンシティブな話を立ち聞きする形になってしまったパーティー参加者たちは、それぞれの想いを抱いて静かにリビングへ戻っていった。

 

          †

 

 リビングのソファにて、チームももこが小声で話す。

 

「なぁ……レナ、かえで。さっきの話、どう思う?」

「レナに聞かないでよ。……れ、レナは別に、あいつのこと、特になんとも思ってないんだからね!」

「その言い方じゃあ、本当に好きみたいに聞こえるよ? レナちゃん」

「アタシは……やっぱ初恋の人が忘れられないかな。いや、失恋したからスッパリ切ろうとしてるんだけど……これがなかなか難しいっつーか。でも、だからって悪魔になびくほどではないかな……そう考えると、割と理性的だと、自己診断で思うんだけど……」

「いつもきちんとしているももこが自分でそう思うんなら、そうなんじゃない? レナは……よくわかんない。でも恋って、常にその人のことを考えちゃうような感じなんでしょ? それなら別に、レナはそういうことないから……たぶん違うと思う」

「私も。悪魔さんには感謝してるけど、いつも目の下にクマがある人はちょっとタイプじゃないかな」

「……結構バッサリ言うよな、かえでは」

「ほんと、“毒舌バッサリかえで”よね。悪魔契約の時は、あんなに顔を真っ赤にしてたくせに」

「わ、わっ! それはレナちゃんもでしょ! そ、それに、あんなの恥ずかしいのは当たり前だし! 急にそういうこと言わないでよー!!」

 

 言い出した水波レナも赤くなり、流れ弾を喰らった十咎ももこは目を覆って天井を仰ぐ。

 

 

 

 一方リビングの庭では、環姉妹と万年桜が立ち話をしており、テーブルの上にリリスがちょこんと座っていた。

 

「悪魔さん……そんなことを考えていたんだ……でも、私にはちょっぴり分からないことがあるな……」

「お姉ちゃん……例えば、何が分からないの?」

「えっと……みんなが悪魔さんのことを好きになってくれるなら、それでいいと思うんだけど……」

「え……で、でも、恋(・)愛(・)的(・)な(・)意(・)味(・)で(・)好(・)き(・)に(・)な(・)る(・)んだよ? そうなると恋のライバルがたくさんできて、大変なことになっちゃうよ」

「そうなの? お姉ちゃん、上手く想像できなくて……でも確かに、みんなが恋に真剣になったら、悪魔さんの奪い合いが始まって……なんだかすごいことになりそうだね? なぎさちゃんも、たまに愛が重い人が現れるって言ってたし……」

「……あと、もうひとつ思ったんだけど……」

 

 環ういは内緒話をするように、環いろはに耳打ちする。

 

「ねむちゃんに貸してもらった本で読んだんだけど、同じチームなのに恋愛関係で仲間意識が崩壊しちゃった話があって……そういう意味でも、悪魔さんは気を付けていたんじゃないかな?」

「────!」

 

 それは大変だ。もしみかづき荘がそんなことになったら目も当てられない。

 

「で、でも、みんなちゃんとした人だし……それに、恋愛性質に掛かっているかどうかも、まだ分からないわけだし……」

「そうだね……でもお姉ちゃんはみかづき荘のリーダーになったから、言っておこうと思って」

「そっか。ありがとう、うい」

 

 そこで万年桜が言った。

 

「│……私には、よく理解できない話。いろはが言うように、│

 │みんな悪魔が好きなら、それでいいと思う。私も悪魔が好き│」

『────えぇ!?』

 

 環姉妹はあたふたとして、それはどういう意味かと問いただす。思えば万年桜のウワサは、叛逆魔法によって無理やり本体から端末が分離された存在だ。叛逆魔法を色濃く受けた者として、恋愛性質が強く影響している可能性が高い。特に万年桜は他のウワサと異なり、感情があることが確認されている。故に、もし悪魔への好意に対してどうすればよいのか学習したら、とても破廉恥なことになるかもしれない。

 

「そ、それは……たぶん、ダメ!」

「│どうして?│」

「えっと、好きなのはいいんだよ? でも、万年桜さんにはまだ早すぎるというか……あの……その……」

「│何が早いの?│」

 

 見た目は女子中学生から女子高生。だが内面は四歳児と変わらない。そう悪魔が言っていた。日常生活の中でも万年桜の精神年齢は低いと環姉妹も感じてきた。そんな子に年相応の恋愛────例えば接吻────は早すぎる。と、環いろはは言いたくなる。だがそれは発想の飛躍だ。しかし環いろはの中では、恋愛とは手をつなぐことやハグの先にあるソレを象徴するものであった。

 

「……き、キス、とか……」

「│────キス:唇と唇を合わせる愛情の印│

 │それなら、もうし(・)た(・)こ(・)と(・)が(・)あ(・)る(・)│」

『────、えぇえええええええええ!?』

 

 話の流れで爆弾が投下されて、衝撃的な事実が判明した。これに環いろはは「ちょっと悪魔さんに聞いてくる!」と万年桜に対する保護者意識が発動し、環ういは「いま問い詰めたらオーバーキルになっちゃうよ!」と悪魔の気持ちを思い、一旦止めにかかる。

 

「…………?」

 

 その一部始終を眺めていたリリスは、首をこてんとかしげていた。

 

 

 

 一方リビングのテレビ台の真向かいにあるソファでは、深月フェリシアと夏目かこ、二葉さなと由比鶴乃がレースゲームに興じていた。二葉さなの背後にはアイが立っており、アドバイスを求められれば指示し、基本的にはチアリーダーのポンポンに見立てた色鮮やかなエメラルドの火花を散らして応援している。

 

「うぉおあっぶねぇえ! 甲羅に当たるところだったぜ! 今の誰だ!? かこか!?」

「……」

「……」

「かことさなが黙ってるってことは、鶴乃だな!?」

「ちがうよー。……いや~それにしても。悪魔ってあんな悩みがあったんだねぇ。みんなどう思う? フェリシアは?」

「あぁ? オレは別に────クソどうでもいい」

「口が汚いよ、フェリシアちゃん。あ……私は……本当に寝耳に水だったので、特にそういうことはないと思います」

「わ、私も……たぶん……あ、アイちゃんは……?」

「そうですね。悪魔は私の命の恩人ではありますが、私に人間の恋愛感情はまだ理解できません。なので恋愛性質の罹患者としては当て嵌らないかと」

「そっかー。なら悪魔の考え過ぎかもね。でも色々な人と出会って、結構色々なことがあったから、魔法少女を助けつつも距離を取っているわけなんだと思うし……もうこうなったら、悪魔はさっさと身を固めた方がいいんじゃないかなーなんて!」

 

 ゲームに頭の半分を使いながらの適当な発言だが、由比鶴乃のそれは的を射ていたように思う。

 だが、まだ中学生くらいの男子に身を固めろとは、少し早すぎる話なのでは? と、夏目かこは思った。

 

 

 

 一方リビングのカウンター席・左側では、鼓星かずみ、竜城明日香、千秋理子、アシュリー・テイラーが座っていた。

 

「叛逆魔法と恋愛性質は表裏一体かー」

「つまり私の悪魔殿への忠誠心は、純粋な忠誠心による感情ではなかった……!? そ、そんなバカな……!」

「……わ、私、もしかしたら……っ」

「明日香は違うと思いマスヨー。……それと理子。いま何か言いかけマシタかー?」

「私は悪魔に“お前の精神年齢はゼロ歳だ”って言われちゃったからさー。それでも悪魔のこと好きだよ! でもやっぱりそれって、ライクって感じなのかな? 確かに恋ってなんなんだろうね? どういう気持ちなら、それが恋って分かるんだろう? こう考える時点で、私は恋愛性質の影響を受けていないのかな」

「なるほど! 分からなければ恋ではない! となれば私の忠誠心は、やはり武士道に準じる忠誠心というわけですね! さすがはベナンダンティのリーダーたるかずみ殿です!」

「…………」

「ちなみに私は悪魔のこと好きデスヨー」

「え、そうなんだ! それってラブの意味で?」

「実はそういう恋バナには、意外とめちゃくちゃ興味があります!」

「ほ、ホント? アシュリーお姉さん……!」

「でも、悪い男に引っかかる女みたいな恋の仕方なので、反面教師にしてくださいネー。それに悪魔には、既に心に決めた人がいますので!」

「あ、そういえば悪魔は、初恋の女の子が居るって言ってた!」

「恋しないと出られない部屋の時ですね! ひとつお目にかかりたいものです! 名君のおそばに立つ人がどのような人なのか、右腕としてお守りしなければという想いが強まります!」

「……!」

「だから私はこの想いを、感謝すべき初恋として割り切りマース。ただ、この想いが恋愛性質によるものか、自然に恋したことなのかは、わかりません。なにせ恋の経験が少ないので。グロカワ系のグッズには、日常的に恋をしているんですけどね!」

 

 

 

 一方リビングのカウンター席・右側では、おかしを食べる御園かりんを挟んだ両側に、とても深刻そうな顔で俯いている綾野梨花と黒江が座っていた。

 

「さっきの話のせいで、ハーレムものの題材しか頭に浮かんでこなくなったの……これじゃあかりんの漫画が、なろう臭いご都合主義の権化になってしまうの! まだ悪役令嬢の方がマシなの。こうなったら悪魔を女体化させて……いや、これじゃあただの同人誌なの! かりんはハロウィンを騒がす怪盗漫画を書きたいの~!!」

 

 頭を抱えてネタ帳とにらめっこする御園かりん。

 その傍らでは、綾野梨花がテーブルと向き合っていた。

 

(……考えもしなかった。まさか悪魔が、あたしと似たような魔法を持っていたなんて……。あたしなら悪魔の気まずい気持ちが分かる……だって、人の心を魔法の力で変えてしまうなんて……そんなの罪悪感しか持てないよ。しかも悪魔の場合は、自分の意思とは関係なく、人の心を変えてしまう。────いや、叛逆魔法を使わなければいいんだ。でもそれがなければ、悪魔は誰かを見殺しにすることになっていた。だから使わざるを得なかった。あとは恋愛性質が発動しないよう適度に距離を保って……。……そうか。そういうことだったんだ。悪魔は長いあいだ、ずっとそのことに悩んできてたんだ……《心変わり》の魔法を持つ、あたしのように……)

 

 その同族意識は、虚空を見つめる黒江も同様だった。ともすれば恋愛性質の話で一番衝撃を受けていたのは、黒江かもしれない。

 

(悪魔さんは……私と似たような魔法を持っていた……。私の固有魔法は《自己肯定》……誰も彼もが私を受け入れてしまう。周りみんながイエスマン。おかげで正解が分からなくて、私がも(・)う(・)ダ(・)メ(・)だ(・)と落ち込むと、周りはそれにイエスマンとしてそ(・)う(・)だ(・)も(・)う(・)ダ(・)メ(・)な(・)ん(・)だ(・)か(・)ら(・)諦(・)め(・)ろ(・)とネガティブを後押ししてくる。それに薄々と気付いてきたらもう……何もかもがどうでもよくなった。そんな時に悪魔さんが助けてくれた。私は魔法少女を辞められた……。

 ────もし私が、自己肯定魔法の呪いについて、あんなふうにバラされたら……私だって逃げ出す。いや、もうここには居られないかも……それでも悪魔さんは、そんな深刻そうな顔はしていなかった。単に恥ずかしがっているだけだった。きっと時間が経ったら戻ってくるだろう。つまり慣れているんだ。自分から正直に打ち明けたこともあるんだろう。……私だったら耐えられない。私は悪魔さんやなぎさちゃんのようには割り切れない。まだ、そんなに大人じゃない……)

 

 

 

 一方、台所では七海やちよとジュリー凪、暁美ほむらがコップを洗っていた。そして洗ったコップの水を拭き取る手伝いをフゥ太とイーピンがしている。

 

「凪さんは、悪魔の悩みを知っていたの?」

「……うん」凪はこくんとうなずく。

「あの……凪さんは、悪魔さんのことをどう思っているんでしょうか……? あ、答えるのが嫌なら、その……」

 

 凪は手を止めて考える。

 

「…………私は、骸様が……」

「あら。悪魔より好きな人がいるのね? 素敵な人?」

「…………」

 

 凪は頬を赤らめる。素敵だが、同時に怖い人でもある。それでも────好きだ。

 そんな六道骸への想いを、凪は表情で物語っていた。

 

「でも……ボスも好き。ボスの命令なら、なんでもする。でもこれは、きっと魔法のせいじゃない。だからボスも、あまり気にする必要はないと思う」

「そう」

「……。……なんか、いいですね」

「?」

「恋している子は綺麗で可愛いって話よ。でも、そういうほむらは?」

「わ、私ですか? 私は────その、あの……」

 

 暁美ほむらの視線が、自然と鹿目まどかの横顔を見つめる。それだけで彼女の一途さを物語っていた。

 

「……やちよさんの言う通り。恋してる子は、きれいでかわいい」

「でしょ?」

「えっ!? な、なんですか!? やちよさん! 凪さん!?」

 

 

 

 一方リビングの真ん中のクッション広間では、鹿目まどかがランボの遊び相手になっていた。その傍らではクッションに体を沈める百江なぎさが心地よさそうに寝ていた。

 

「ねぇねぇ! さっきみんな、庭で何を話してたの?」

「それはね。えっと……恋バナ、かな?」

「バナナ? ランボさんはぶどうの方が好きだもんね!」

「ふふふ。そっか。あ、そうだ。ちょうど、ぶどう味の飴を持ってたんだ」

「ほんと!? ランボさんもアフロの中にぶどう味の飴があるよ!」

「あ、なら交換して食べ合いっこしよっか?」

「するする! ランボさんの飴の方が絶対に美味しいんだもんね!」

 

「あ、ほんとだ。おいしいね! ──なぎさちゃんも食べる?」

「チーズ味の飴なら喜んで食べるのです」

 

          †

 

 

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