※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【し、死ぬ気の炎の瞬間放出で、バク宙────!?】暁美ほむら

 

 やがて悪魔の話題は飽きが来て、世間話や雑談に花が咲く。そうしてほとぼりが冷めて、そろそろ悪魔が降りてくるだろうと思われた時────不意のインターホンのチャイムが、みかづき荘に鳴り渡った。

 

「はーい」

 

 七海やちよが応接に出る。扉を開けると誰もいない。否、死角となっていた眼下に────緑髪翠眼の少女・千歳ゆまが涙目でスカートをギュッと握り締めていた。

 

「────ゆまちゃん……?」

 

 七海やちよと千歳ゆまの目と目が合う。次の瞬間、千歳ゆまは頼りになる人を見つけて我慢できなくなったのか、こらえる顔が崩れていき、泣きながら七海やちよの体に飛び込んだ。

 

「うわぁああああああああ────ん!!」

「え……どうしたの? 佐倉さんは?」

「…………ッッ!! キ、キョ……コ……キョーコは……ゆま、キョーコ、に……うぅあああああああああん!!」

「────!」

 

 何やら只事ではない様子。ひとまず落ち着かせるため、千歳ゆまの体を決して離さず抱きしめて、頭を撫でて声をかけてあやす。

 

「いろは。ジュースとお菓子の準備をして」

「は、はい!」

 

 七海やちよは千歳ゆまを抱き上げると、ソファのあるテーブル席に連れて行って座り、膝の上に乗せて落ち着くのを待つ。お菓子とジュースを目の前にしても泣き止む気配がない。

 

「……おい!」

 

 そこで指を咥えるランボが声をかけた。泣きじゃくる千歳ゆまは、霞む視界でランボを見つめる。

 

「……ブロッコリー……」

「だれがブロッコリーだもんね! ……これ」

 

 ランボはぶどう味の飴を差し出す。だが千歳ゆまは、それをくれるとは思っていないようで、よくわからないと言いたげに首をひねる。するとランボは飴を投げつけた。それが千歳ゆまの頭に当たって、さらに号泣が続く。

 

「!? う、うるさいから食べるんだもんね! ランボさんの飴は笑顔になるんだもんね!」

「こらランボ。食べ物を投げない!」

 

 七海やちよが叱ると、今度はイーピンがギョウザまんじゅうを持ってくる。だが千歳ゆまは受け取らない。完全に心を閉ざしている。その時、泣き声を聞きつけて悪魔が下りてきた。

 

「誰の泣き声だ? ランボじゃないようだが……」

「────っ! あ、アクマ────ァッ!!」

 

 七海やちよの膝から飛び降りた千歳ゆまは、悪魔の下に一直線と駆け抜けて、その手前で転ぶ。号泣爆発。すかさず悪魔は千歳ゆまを抱き上げると────事の次第を直感した。

 

(ゆま────キョーコに捨てられたっっ!!!!)

 

 悪魔は目を見張る。厳密には、佐倉杏子に追い出されたようだ。その理由は分からない。ただ────

 

(もうゆまとは一緒にいられないって言ってた! ゆまは捨てられたんだ! 捨てないでってお願いしたのに……捨てないでって、なんでも言うことを聞くからって、お願いしたのに……っ! 追い出された……! みかづき荘の、やちよのところに行けって……アクマのところでもいいって……とにかく今は、ひとりで考えたいからって────)

 

 悪魔は言葉を選ぶ。唯一信頼していた相手に裏切られて、もう誰の声も届かない千歳ゆまの不信極まる心の奥に強く響くように、最適な言葉を直感していく。

 

「……ゆま。体が冷たいな。寒いんだろ? まずは暖かくなろう。みんな優しくしてくれる。それと佐倉は、ゆまを捨てていない。きっと何かあったんだ。佐倉も一人の人間なんだから、今はそっとしといてやれ。命の危険は感じないから、おそらくは心の問題なんだろう。安心していい。……魔女化(キケン)な兆候があったら、すぐにオレが駆けつけるから。そして話を聞いてきてやる。きっと佐倉は、ゆまの前ではカッコつけたいから、お前に弱いところを見せたくないんだ。それに佐倉も元気になれば、絶対にゆまを迎えに来る。だから今はちょっとだけ────遠(・)足(・)するんだ」

 

 泣きじゃくる千歳ゆまは、徐々に徐々に、悲鳴を上げる喉を嗚咽に変えていく。

 

「ひぐっ。うぐっ……えん、そく……?」

「そうだ。ゆまは悔しいんだろう? 佐倉は何かに困っているのに、お前になんの相談もしてくれなかった。それなら今は遠足して、ゆま自身が成長しよう。そうすれば佐倉もびっくりだ。そうすれば今度は、佐倉の悩み相談に乗れるかもしれない。お前は地頭は悪くないからな。佐倉のいい相棒になれると思うぜ」

「────ほんと?」

「あぁ」

「……ほんとにほんと?」

「ほんとにほんとのほんとだ。少なくともオレは、子供を泣き止ませるために嘘を付いたりはしないぜ。それはここにいる奴らもそうだ。────おや、いい匂いがする。なんの匂いだろうな?」

 

 千歳ゆまは匂いを嗅ぐ。おいしいお菓子とジュースの匂いだ。キョロキョロと辺りを見渡すと、七海やちよの姿を見つけた。とたとたと走って抱きつく。

 

「というわけだ、やちよ。しばらくゆまをよろしく頼む」

「言われなくても預かるわよ。……黒江さんも、私が居ない時はよろしく頼むわね」

「あ、はい!」

 

 黒江は年少組の面倒を見る役目を、七海やちよから任されている。

 

「それで? 悪魔はこれからどこに行くつもり?」

 

 七海やちよは気付いていた。悪魔の腰に見知らぬ匣兵器が提げられている。

 

「よく気付くな」

 

 それは保存用の魔法系匣兵器であり、悪魔が描いたキャンバスが収納されていた。

 

「これから栄総合学園に行ってくる。かりんも部活の時間だろ?」

「あ、ヤバイの! 楽しすぎて忘れていたの! でも今から行けば楽勝なの!」

 

 悪魔は玄関に向かう。そこで鹿目まどかの顔を見つめた。それに気付いた彼女は「?」と首をかしげる。

 

「まどか。先に謝っておく。オレは無差別に心が読めてしまうからな。勝手ながら助太刀してもいいか? できることなら協力したい」

「……! あ、はい! それは……ありがたい、です……」

「じゃ、また後でな」

 

 悪魔は扉の把手に手をかける。直後、ズボンが強く引っ張られた。足元を見やると、千歳ゆまが悪魔の脚に抱きついていた。握り締める力が強く、決して離さないという意思を感じる。

 

「……ゆま。お留守番は……できないか?」

 

 千歳ゆまは首を横に振る。どうやら今の精神状態では、とてもじゃないが寂しさのあまり死んでしまうようだ。

 

「仕方ない」

 

 悪魔は千歳ゆまを抱き上げて肩車すると、そのまま扉を開ける。そこで七海やちよが待ったをかけた。

 

「待ちなさい。栄総合学園って、アリナ・グレイがいる場所でしょ。どうしてそんなところに行くのかは聞かないけど、ゆまを連れて行くのは危険よ」

「別にあいつは何もしない。何かあってもオレが守る」

「少しでも危険があるなら許すわけには行かないわ」

 

 悪魔はため息をつく。

 

「だとさ、リーダー」

「え?」

「妥協案や折衷案を考えてくれ。役目だろ」

「あ────えっと……」

 

 悪魔と七海やちよに挟まれた環いろはは、千歳ゆまが悪魔以外に気を許さないことを念頭に、どうすればよいか考える。千歳ゆまを悪魔から引き剥がすのは可哀想だし、悪魔に栄総合学園に行くなというのも無理だろう。絶対に言うことを聞かない。ならば────

 

「……み、みんなで行くというのは、どうでしょうか? それなら何かあってもみんなで対処できますし……」

「なるほど素晴らしい妥協案だ。昨日殺し合いをしたばっかりなんだから、このくらいのイタズラ……いや、意地悪は許してくれるだろう。というわけで、出発だ」

「しゅっぱつ! みんなでいっしょに!」

 

 悪魔はこの展開を読んでいたようで、一同と目を合わせる。

 そこで十咎ももこが頭を掻きながら聞いた。

 

「えーっと……悪魔? その、みんなって言うのは……みかづき荘の人たちだけだよな?」

「何を言ってる? 戦力は多いに越したことはないってのがリーダーの意見だ。それにまだパーティーは終わってないだろ?」

「マジかー」

 

 そこで遊びに飢えている深月フェリシアがソファから飛び起きた。

 

「なんだ? お出かけか? 何か買うのか? 楽しいところか? そういや今日の夕食当番はいろはだから……もしかして外食か!?」

「それってどういう意味なのかな……フェリシアちゃん……」

 

 環いろはの料理は味が薄い。病気の妹に合わせた料理を作るうち、ヘルシーな料理が癖になってしまったのだ。そこで由比鶴乃が環いろはの肩に手を置き、ウインクして親指を立てる。

 

「さんじゅ……50点の人に慰められても……」

「ガーン!」

「はーい! 悪魔! ベナンダンティも行くんでしょーか!」鼓星かずみが手を挙げて問いかける。

「好きにしろ。だが言っとくと、栄区は楽しいぞ。パーティーの続きとしては充分な街だ」

 

 そうと聞けば好奇心が高まってくる。

 しかし御園かりんは怯えて言った。

 

「でも……こんな大所帯だと、先輩が怒って火を噴くの!」

「それが狙いなんだからむしろいいだろう」

「それだとかりんの命がないの!!」

「なら体験入部だとでも言えばいい」

 

 不意に御園かりんは、電撃が走ったように固まった。

 

「体験……入部……それは……初めての経験なの……ま、まさか、今回の体験で……漫研にも新たな入部希望者が!?」

 

 何やら一人で盛り上がる御園かりん。栄総合学園の生徒は、この場では御園かりんしかいない。そのため入部希望者がいても転校しなければそもそも入部できない。そのことを分かっているはずだが、もしやアリナ・グレイに怒られる現実逃避として、そう思い込んだのか。御園かりんは奮起して一同を招待する。

 

「そういうことならバッチコイなの! 正直、賑やかなのも楽しいの! 一日くらいはこういう日があってもいいの! さぁみんな行くなの! うちの母校の部室へ案内するの! 子供たちは好きにお絵かきしたい放題なの!」

「ランボさんぶどうの絵を描くー!」

「イーピンししょーの絵を描く!」

「……ゆま……ゆまも絵を描く!」

 

 そうと決まれば話は早い。一同はみかづき荘を後にして栄区を目指した。

 

          †

 

 日が暮れ始める頃。栄区の道路にて。大所帯で道を行く一行。

 

 そこで暁美ほむらが悪魔に聞いた。

 

「あの……佐倉さんの様子を見に行かなくてもいいんでしょうか……?」

「いま会いに行っても逆効果の可能性が高い。オレと今の佐倉は相性が悪いからな。顔を合わせたら即座に殺し合いだろう。それにあいつの精神力はそこまでヤワじゃない。しばらくは放っといても大丈夫さ」

「……そうですか……」

 

 一方、環いろはは御園かりんに質問する。

 

「かりんちゃん。アリナ・グレイってどんな人なの……? 何かひどい事とかされてないよね……?」

「ひどい事と言えば、よくジュースを横取りされるの。それ以外にも、確かに人としてヤバイと感じることはいっぱいあるけど……芸術家としては、とってもすっごく尊敬してるなの!」

 

 ふと悪魔のスマホから着信音が鳴る。

 

「クシュか。もしもし? いや、修行の日はまだだ。パーティー? 今は栄総合学園に向かっている。中央公園を通るところだ。来るか?」

 

 悪魔はスマホを切ってポケットにしまう。

 

「クシュも来るそうだ。かずみ、お菓子を欲しがってたぞ」

「それならちゃんと用意してあるよ! 実は持ってきてたんだ!」

 

 そうして悪魔たちが中央公園を通りかかった頃。北養区から猛ダッシュで直行してきたのか、寝起きの入名クシュが現れた。

 

「おはよう。それで悪魔。修行の日程はいつなの?」

「だからまだ未定だって。もう少しの辛抱だ」

「むぅ……希望が目の前にぶら下がっているのに“待て”をされている。こんなに辛いことはない」

 

 ならばと鼓星かずみはお菓子をプレゼントする。ムシャムシャと食べる入名クシュ。

 

「────そう言えば、そろそろだな」

 

 公園の時計塔が時報を知らせるため鳴り響く。それと同時に陽気な音楽が流れ出した。

 周囲の通行人が踊り始める。初対面の相手を誘って踊る人まで現れた。

 

          ♪~シュガーソングとビターステップ~♪

 

 栄区。芸術の街。街中の至る所に飾られた絵画や彫刻、工作といった作品ばかりが芸術ではない。音楽やダンスといった無形文化だって、れっきとした技前の芸術だ。

 

 走る千秋理子とアシュリー・テイラーが広場に飛び出して、互いに手をつないでステップを踏む。

 綾野梨花も鼓星かずみの手を取って踊り始めた。

 夏目かこは深月フェリシアの手を引き、アイも二葉さなの前に手のひらを差し出す。

 

 どうやら千秋理子とアシュリー・テイラー、綾野梨花と夏目かこ、アイたちは栄区の文化を知っていたようだ。

 

「ダンスはこの街の入場料のようなものだ。リズムに乗って思い思いに踊ればいい」

 

 そうと聞けば、環ういは姉と万年桜の手を取って駆け出した。笑顔で楽しそうにリズムに乗って身を揺らす。リリスも環ういの肩に飛び乗って、つないだ手から腕を伝い、環いろはや万年桜の肩まで登ってジャンプする。

 

 黒江もフゥ太の腕に引っ張られて、お尻を降るランボや四股を踏むように笑うイーピンと共に踊る。

 

 困惑する凪。そこへ由比鶴乃が手を差し伸べる。

 

 十咎ももこ、水波レナ、秋野かえでが“チャッチャ”と腕と腰を振る。

 

 そして誰に言われずとも、流行に沿った定番のダンスで踊る御園かりんと、腕を振ってリズムを取る鹿目まどかと、スカートのフリルをはためかせて踊り始めていた入名クシュと、盆踊りのように和のテイストで踊り明かす竜城明日香。

 

「ゆま。振り落とされるなよ」

「……!」

 

 悪魔は左腕に千歳ゆまを抱いた状態で広場の中央に向かう。どうせ下ろそうとしても嫌がると直感した。ならば死ぬ気でしがみついてもらう必要がある。そして暁美ほむらを呼びかけた。

 

「ほむら。まどかと踊りたそうなところ申し訳ないが、抜き打ちテストを始める」

「え……?」

「オレの動きを完コピしてみろ。魔力操作に熟練しつつあるなら出来るはずだ」

「で、でも……私、踊れないです……!」

「いいからやるんだ。じゃなきゃ修行をつけてやんないぞ」

「……!」

 

 それだけは避けなければ。暁美ほむらは不安いっぱいで悪魔について行く。

 

「やちよとなぎさは? お前らも魔力操作を極めてんだから出来るだろ」

「……そうね。ほむらの見本になれるなら、ちょっとやってみようかしら」

「なぎさはパスなのです。可愛い子には旅をさせよ、なのです」

 

 百江なぎさはスマホを取り出して録画を撮り始める。ピントを合わせた先は暁美ほむらだ。

 

 そうして広場の中央に、悪魔──に抱かれた千歳ゆま──と、暁美ほむら、七海やちよが三つ巴のように向かい合う。

 

「かなり激しい動きになる。コンマ数秒でも遅れたら失格だぜ。────行くぞ」

 

 悪魔は今日のために激しいダンスを覚えてきた。厳密に言えば半年前のゲーセンで佐倉杏子と遊んだダンスゲームを思い出して、先日ゲーセンに足を運び、ダンスを学び直したと言った方が正しい。悪魔はタップダンスを踏み始める。

 

 暁美ほむらと七海やちよは眼球に魔力を回して動体視力を強化。初めて見る動きに対して、完璧に同じタイミングで動きを合わせる。

 

 次の瞬間、悪魔は上半身の動きも取り入れた。激しい振り付け。暁美ほむらは冷や汗を流す。

 左腕を動かし、身を旋回。千歳ゆまの目はぐるぐると回る。

 

「いいぞ。ここからは三次元(立体機動)だ。死ぬ気で付いてこい」

 

 リズムに合わせて“タタッ”と地を蹴った瞬間、悪魔は後方宙返り(バク宙)を披露した。刹那、暁美ほむらと七海やちよも全く同じタイミングでバク宙する。千歳ゆまの視界はぐるぐると回るが、不思議と吐き気はしてこない。悪魔のリングから雨の炎が漂っており、鎮静の効果で千歳ゆまの感覚は鈍らされていた。

 

『WHOOOO────!!!!』

 

 高難易度の三人同時バク宙が出たことで、観衆が歓声を上げて拍手を送る。だが暁美ほむらは、その賞賛に気を取られている余裕はない。一瞬でも気を抜けば遅れを取る。足を踏み外して転んでしまう。さながら針の穴に糸を通すような作業を強いられている。もはやダンスを楽しむなんて次元にはいない。そんな状況ではない。悪魔のダンスはどんどんと難易度を上げていき、暁美ほむらは五感を忘我するほどの集中力を発揮して、ぎりぎりの瀬戸際の中を追いすがる。

 

 刹那、悪魔は何の予兆もなくバク宙した。バク宙するための準備運動さえしていなかった。それなのに七海やちよは同時バク宙を決めつつある。暁美ほむらは遅れを取るまいと勘が働くままに、リングから雲の炎を爆発させた。悪魔の背中に隠された左指から、橙色の炎が弾けたように見えたからだ。

 

『WHOOOO────!!!!』

 

「し、死ぬ気の炎の瞬間放出で、バク宙────!?」

「いいぞ。コンマ一秒遅れたが、まぁ及第点としてやる。雲の炎は噴射力が弱いからな」

「まったく。私はリングを持っていないのよ? 左手を後ろに隠す動作がなければ予測できなかったわ」

 

 七海やちよは悪魔の次の行動を見抜いていた。そしてすかさず発散魔力でバク宙して追い付いていた。やはり七海やちよは、巴マミに負けず劣らずの魔力操作技術(コントロール)を身に付けている。さらに洞察力も高い。なにより魔力で強化した動体視力の感度も、暁美ほむらより数段と高いようだ。そもそも悪魔の動きを完コピしながら会話できている時点でただものではない。

 

 暁美ほむらはどうしようもない力の差を見せ付けられるが、だからこそ負けるわけにはいかないと、必死になって悪魔の動きに追いすがる。

 

 横に、縦に、奥に、回転する。

 

「引き上げるぞ」

「っ────ッッ!!」

 

 縦横奥を合わせた半身ひねりの斜め回転(10回転コークスクリュー)。あまりの回転の速さに、一般人からは三回転くらいにしか見えていないだろう。この踊りの前にバク転やバク宙なんてもはや初級。アクロバットな超絶技巧のダンスは、既に広場の衆目を強奪していた。

 

『WHOOOOOOOO────────!!!!!!!!』 

 

 拍手喝采の大歓声。リズムに合わせて観衆が上下し、地震と間違うような振動が、波打つように広場を揺さぶる。

 

「地形条件が悪化したぞ。もちろん付いてこれるよな?」

 

 響く地面。微妙に上下に動くタイル。その中で超繊細な動きが要求される。悪魔は生身なので汗をかいているが、およそ常人を超える動きにしては、あまりに汗の数が少なすぎる。七海やちよは魔力に助けられているおかげもあるのか、一切汗をかいていない。しかし暁美ほむらは雨に打たれた後であるかのように大量の汗を全身にかいていた。服が背中に張り付いて仕方がない。だが飛び回ると衣服の間に風が入ってきて気持ちがいい。動きの激しさは、洗濯物を振って水を切るように、ものの一瞬で汗を吹き飛ばす。だが新たな動きによって汗をかき、極限の集中力と焦りによって汗の数は倍増する。

 

「──── ──── ────」

 

 息をする暇もない。というより、暁美ほむらは息をすることを忘れている。常人の身体活動を許していては、悪魔のダンスには追いつけない。とにかくがむしゃらに魔力をブン回して、動体視力や筋力、骨格の隙間、細胞、全身のありとあらゆる箇所を強化し、隙間を詰めていかないと、悪魔や七海やちよの次元に達する事は不可能だ。

 

 曲は続く。いつまで続く?

 

 刹那、またも人間には不可能なバク宙を決めた悪魔は、くるくると回転し────右手をガッツポーズすると、左手を天高く掲げてフィンガースナップを決めた。すなわち決めポーズだ。音楽が終了する。

 

『WHOOOOOOOOOOOO────────────!!!!!!!!!!!!』

 

 大歓声の大合唱。万雷の拍手喝采は栄区最大の盛り上がりを見せた。

 

「────合格だ。よくぞここまで魔力の基礎コントロールを極めた。巴マミなら手放しで誉めそやすぞ。そしてアドバイスだ。今回はテストだからそれをやったら一発アウトだったが、ミスった時は時間停止を織りまぜれば、さらに高度な戦いができるだろう」

「……しまった。普通に楽しんじゃってたけど、汗のひとつくらい掻けば良かったかしら。あなた割りととんでもない動きを要求してたわよね?」

「はぁ────ハァ────────っ、────────────は────────────、────、ッ、ァ……っ!!?」

 

 暁美ほむらは呼吸ができない、たすけて、と心の中で叫びつつ這いつくばる。しかし疑問が残る。悪魔は人間だ。どうして魔法少女でさえ追い付くのが困難な激しいダンスができるのか。あんなダンス、実現すれば常人なら腕の筋肉が張り裂けて、脚が股からちぎれて空高くまで飛んでいってしまう慣性が掛かっていた。

 

「ただの練度だ。雲の炎で筋力を倍加させ、雷の炎で骨を硬化させ、大空の炎でそれらを完璧に調和させた。その時だけは魔法少女の魔力に負けず劣らずの肉体を手に入れられるって寸法だ。いつもそうして戦っている。これを覚えれば魔力の節約になるぞ」

「っ────、はぁ────はぁ────あ、あり──う──ござ────ます……!」

「無理に言うな。まずは息を整えろ。────そうだ。なぎさ、録画したか?」

「バッチリなのです! 自分の魔力操作の練度を客観的に知るいい機会なのです。ほむらは自信を持つのです!」

 

 百江なぎさが録画したダンスを見せる。そこにはプロのダンサー顔負けのダンスを踊る悪魔と七海やちよ、そして暁美ほむらが映っていた。寸分の狂いなく全く同じタイミングで踊るさまは、きっとCGや機械か何かだと誤解されるだろう。だが真実だ。これは暁美ほむらが披露した、きちんとしたダンスなのだ。

 

「す、すごい……私、こんなダンスを踊っていたんだ……」

「すごかったよ、ほむらちゃん!」

 

 ふと鹿目まどかが水を持って駆けつける。ハンカチで暁美ほむらの顔の汗を拭く。

 

「じゃあ行くか。……なんか写真撮られてるぞ?」

「これでも神浜一のモデルですから。ただ……この件で事務所にダンスのオファーとか来ないといいんだけど……私ダンスとか、あまり踊ったことないし……」

「え、ちょ、もう行くんですか? も、もう少し休憩時間を……」

 

 暁美ほむらは今にも死にそうな顔で息も絶え絶えに懇願する。だが悪魔はスタスタと広場を去り始めた。暁美ほむらは息を整えながら歩き始める。確かに戦場では息切れしたからといって止まっている暇はない。そもそも息切れした時点で終わりだ。どこまでも悪魔はスパルタである。

 

「め……めが、まわる~……!」

 

 一方、鎮静効力で守られていた千歳ゆまはぐるぐると目と顔を回しながら、悪魔の頭頂に倒れ込んだ。

 

            †

 

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