※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【宇宙進出の楽しみは最後まで取っておくべきだヨネ】アリナ・グレイ

 

 夕方。栄総合学園・美術部G室。

 

 御園かりんは部室の扉を開けて、どうぞどうぞと悪魔たちを招待する。

 

「今日はすっごく邪魔するぞー」

「すっごく邪魔するなら帰ってなのー!」

 

 御園かりんはにっこにこの笑顔で、鼻の下を伸ばしつつ、いつものセリフを返す。

 ぞろぞろと大人数が部室に入る。

 

「────!? ……!!?」

 

 顔に出て困惑するアリナ・グレイは、筆を止めて振り返り、何が起きているのかと席を蹴り立って壁際に後退する。

 

「な、なんなワケ? まさか、みかづき荘総出でアリナを退治しに来たとか?」

「襲われる自覚はあるんだな」

 

 悪魔はいつもの席に座り、千歳ゆまを膝の上に載せる。

 

「おぉ……うちの部室に、こんなに人が……! あ、すぐに人数分の椅子を用意するの! 余っている画材も用意するから、どうか楽しんでいってなの! お茶を用意できないのが残念なの! ごめんなの!」

「ヘイッ! フールガール!」

「じゃそゆことで先輩のことはよろしくなのー!!」

 

 御園かりんは隣の空き教室に駆け込んで椅子を拝借してくる。

 

「……チッ。エスケープはうまいんダヨネ。────デビルボーイ。これはどういうことなワケ?」

「ただ会いに来ただけだが?」

「そうじゃなくて、後ろの連中は?」

「ただの意地悪だよ」

 

 不敵に笑う悪魔に対し、アリナ・グレイは側頭部の血管が浮き上がる。

 

「うるさくするなら追い出すって言ったヨネ?」

「今日だけだ。許せ」

 

 次の瞬間、アリナ・グレイは魂の咆哮(シャウト)を叫ぼうとした。自分だけのアトリエが欲しいと願ったアーティストだ。誰だって自分の仕事場が荒らされれば、腸が煮えくり返って怒り狂う。

 

「椅子、用意できたのー!」

 

 しかし御園かりんの笑顔を目にした途端、アリナ・グレイは全身を“ピクッ”と痙攣させて硬直した。

 

「…………」

「……」

「……。デビルボーイ。なんでフールガールはあんなに嬉しそうなワケ?」

「分からないか? いつもの二人きりもいいが、たまには賑やかなのもいいそうだ」

 

 しばらく御園かりんを見つめていたアリナ・グレイは、憤死する心地と妙な暖気の内心に掻き回されて、この鬱憤を作品にぶつけることにしたようだ。席に戻ってカンバスを目の前にする。

 

「我慢できなくなったらキューブで捕まえるから」

「サンキュ」

 

 そう言った直後、カンバスに絵の具でうんちを描いたランボが爆笑した。アリナ・グレイの筆が“バキィッ”と音を立てて折れる。それにビクついたランボは、アリナ・グレイから放たれる覇気に気圧されて小声になった。

 

「ハハ」

 

 悪魔は乾いた笑いを発する。

 一方、七海やちよは壁に腰掛けて、アリナ・グレイに妙な動きがないかどうか監視中。それ以外は御園かりんに配られた画材を使って、お絵描きを楽しんでいた。

 

「……悪魔。あなた時々ここに来ているのよね?」

「あぁ。それがどうした? やちよ。気になるか?」

「まぁね。あなたがマギウス側について寝返るとは思えないけど」

「割といい線行ってるぞ」

「冗談でしょ」

 

 ランボの笑い声が上がる。今度はイーピンが描いたカンバスにいたずら書きしたようだ。アリナ・グレイは白目を剥いている。

 

「……あなた、まさかアリナに会いに来ているの?」

「正解。なんでそう思った?」

「いえ……ただの勘よ」

 

 悪魔はずっとアリナ・グレイの背中を見つめていた。それにどういう感情があるのかは知らないが、少なくとも執着する感情があるのは読み取れる。

 

「アリナのソウルジェムは、オレの夢を叶える為の手段なんだ」

「……?」

「聞けば正気を疑われるから今は教えない。知りたければインキュベーターの真実を知ってからだ」

「……それは道場で教えてくれるの?」

「時間があれば、な。ただ魔法史の授業まで執り行っている暇はなさそうだが」

 

「デビルボーイ。うるさいんデスケド」

「悪い」

 

 その時、悪魔と七海やちよは目を疑った。アリナ・グレイの真横にはためくカーテンに人影が映る。ここは上階だ。しかし見間違いではない。

 

「アリナ。マギウスからのお達しです」

 

 それは梓みふゆの声だった。ふと風が吹いてカーテンが翻る。そして梓みふゆは、目を点にする悪魔・七海やちよと目が合った。

 

「────」

「よっ」

 

 悪魔は手を掲げて挨拶する。それはいい。もう悪魔は見慣れた。なぜかアリナ・グレイの近くに時々いる。それはいい。問題なのは────

 

「ガハハのハ! ランボさんの絵はイーピンより最強なんだもんね!」

「王冠最強じゃない! ランボのダメ! ししょーが最強!」

「あーほら絵の具が服についちゃう。色が落ちる錬金って出来るのかな……」

 

 この子供の楽園。そして魔法少女の数。なにより七海やちよの存在である。

 

「みふゆ……」

「やっちゃん……」

「────えっ!? あー! みふゆだー!」

 

 由比鶴乃は喜び勇んで駆け出して飛びつく。が、幻覚魔法により躱されて、梓みふゆの姿は消え去っていた。

 

「わーん! また逃がしたー! どうしてみふゆは逃げるのー!」

「馴れ合うわけには行かないのさ」

 

 悪魔が説明する。

 

「みふゆはその人望により、マギウスの翼の実権……その半分を握っている。つまりマギウスは、みふゆの離反を恐れていると見ていい。故にマギウスは、みふゆに関する多少のことは目を瞑るはずだが、やる気になればマミのようにウワサを着せて操ることができる。そうなったらみふゆは非人道的な命令を部下に下してしまい、みふゆ派の羽根たちを混乱させてしまうだろう。その時こそ、みふゆが守りたかったものは全て水の泡になってしまう」

 

「それを避けるためにも、私たちと馴れ合うわけにはいかない」

 

「悪の組織に仕えてしまった正義の心を持つ中間管理職なんてそんなもんさ」

 

          †

 

 部活動は続く。全員、絵を完成させて見せ合う。中には本気を入れて描いた子もいて、本職の人に意見を伺いたいが、アリナ・グレイは凄まじい“話しかけるなオーラ”を醸し出していた。そこで悪魔は前例を作ろうと立ち上がり、保存用匣兵器を開匣。カンバスを取り出す。

 

「アリナ。オレの絵を見てくれないか」

「────」

 

 アリナ・グレイは筆を離さないが、ある程度の見切りをつけると、無言で悪魔のカンバスを見やった。

 

「……………………」

 

 悪魔の描いた絵。それは網目状のモノクローム。幾何学模様の抽象的な絵画である。

 

「ピカソを見た目だけ真似したの丸分かりなんデスケド」

「数学的にも凝ったつもりなんだが……」

「四則演算は算数なワケ。あと、やっぱり三部作だったんデスケド」

「そうなのか」

「でもこれはまだ未完成」

「?」

 

 アリナ・グレイは悪魔のカンバスを持って立ち上がると、周囲の人間を見渡してキョロキョロと何かを捜す。

 

「……環いろは」

「え?」

「アナタ、ソウルジェムの色は? その色で、このカンバスに好きなだけ塗ってくれない?」

「え……でもそれは、悪魔さんの作品で……」

「いいから書くんデスケド!」

 

 悪魔は構わないと目配せする。環いろははピンク色の絵筆で、網目状の隙間をいくつか塗りつぶした。

 

「はい次、環うい。アナタも。そういえばエンブリオ・イブだったヨネ? 白い色も使ってネ」

「……!」

 

「次。七海やちよ」

「なんで私が……」

「デビルボーイの生きた証に着色しなくていいワケ?」

「……え? あなた、何を言って……」

 

 アリナ・グレイは青い絵筆を手渡す。おそるおそるそれを受け取った七海やちよは、白い隙間を塗りつぶしていく。

 

「次。由比鶴乃。その次はパツキン。その次は二葉さな……ついでに名無し人工知能のウワサ」

 

 そうやってアリナ・グレイは、結果的に全員の絵筆を借りてカンバスを塗りつぶさせた。結果、悪魔の作品はモノクロームから、とても色鮮やかな絵画となる。

 

「ついでにアリナの緑も足してやるんデスケド」

「……なぁ、アリナ。お前は何をしているんだ? 正直お前の考えは読みにくくてな……」

「ジーニアスアーティストの脳内を凡人が覗いても何もわからないのは宇宙の摂理なワケ」

「確かに宇宙を見ている気分だ。こんな人間は初めてだと会えば会うほど思うよ。次に何をしでかすかマジでわからないからな」

 

 アリナ・グレイは、悪魔にカラフルなカンバスを返す。

 

「それ、どこに捨てるつもり?」

「……────」

「どこに飾るか考えてなかった。チガウ?」

「……アリナ」

 

 悪魔は直感する。アリナ・グレイは、どうやってか悪魔の三部作から、彼の計画の最終段階を暴いてみせた。

 

「アリナはお口にチャックするカラ、心配しなくてイイヨ」

「……これは……驚いたな。いや……本当に……驚いた……」

 

 悪魔は驚愕するあまり、しばらく口元を手で覆ってモノが言えなくなる。

 

「……絵からオレの心理を……それどころか目的まで読めるものか? ────アリナ・グレイは天才なのか?」

「ハンッ! 初歩的な質問すぎて片原痛いんデスケド!」

 

 アリナ・グレイは解説する。

 

「明らかにデビルボーイの作品は、無意識に過去・現在・未来を象徴していたヨネ。

 一作目は、幼年期の復活(リ・ボーン)! 巨大ロボットはシステムのシンボル!

 二作目は、虎が煌々と燃え盛るように! 星の群れを航海(セイル)するように!

 三作目は、星を継ぐ魔神! 全てのミステリーにピリオドを打つジェノサイド!

 まぁ────陳腐なサイエンス・ファイトだよね。ファナティックでもあるワケ。俄然デビルボーイの計画に興味が沸いてきたんデスケド。ただ今のアリナはマギウスなワケ。それに宇宙進出の楽しみは最後まで取っておくべきだヨネ」

 

「オーケー。そこまでだ。キュゥべえが聞いている。加えて言っておくが、オレは宇宙を冒涜する気はさらさらない。アリナがそのつもりなら敵対は避けられない。ソウルジェムを奪っておさらばだ」

 

 アリナ・グレイは鼻を鳴らして、自分の作品に集中する。

 

 対する悪魔は熟考していた。アリナ・グレイは悪魔の目的を見抜いたようだが、悪魔は自分の将来を確定的に見据えているわけではない。美国織莉子は未来予知できるが、悪魔にはいくつもの選択肢があることを予知しているはずだ。その中のひとつが宇宙規模の革命(テロ)。アリナ・グレイもそれを読み取ったようだ。

 

 しかし悪魔は、それが本当に良いことかどうか依然として悩んでいる。ただ復讐心に突き動かされているわけではない。宇宙の秩序を考えた上で、宇宙に混沌をもたらそうとしている。安寧を求めて変化を求めることは、正しくはないが間違ってもいない。あるいは、正しいが間違っている。そんな矛盾。人はそれを永遠の命題と呼ぶらしい。

 

「……オレは……なるべく中立を取りたいものだ」

 

          †

 

 夕暮れ。部活動終了のチャイムが鳴り響く。

 

「みんな~! 入部体験ありがとうなの~! うちはいつでも入部を待っているの!」

「いや、あの、かりんちゃん……私たち、ここの生徒じゃないから入部できないよ?」

「そんな細かいことは気にしなくてもいいの~! 美術の楽しさの普及に栄光あれなの~!」

 

 御園かりんは目尻に涙を浮かべて感謝していた。よほど漫研の部員不足に思うところがあったのだろうか。やっていたことは美術部の真似事だが、そこは伏せておいた方が良いと一同は思うのだった。

 

 そして一同は御園かりんと別れを告げて、栄区の駅前に赴く。

 

「じゃ、チームももこはここでお別れだな」

「ベナンダンティも解散だー!」

 

 十咎ももこは手を振って、水波レナ・秋野かえでと駅構内に消えていく。

 鼓星かずみを除くベナンダンティの六人も、それぞれの路線に入っていった。

 

「それじゃあ、みかづき荘も帰りましょうか」

「今日は私、みかづき荘に泊まろっかなー!」

 

 由比鶴乃が七海やちよに抱きつく。そこで鹿目まどかも声を上げた。

 

「あの! それなら私も泊まっていいですか? ほむらちゃんとの時間が欲しくて……」

「あら、いいわよ。それじゃあ早く帰って夕飯の支度をしなくちゃね」

「えー! 外食じゃねーのー?」

 

 そこで深月フェリシアは「やべっ」と環いろはの姿を探す。だがどこにも見当たらない。ふと後方で悪魔と環いろはの口論が聞こえた。その間に挟まってしまった千歳ゆまは黙って見守り、環ういはわたわたと慌てている。

 

「オレは常にお(・)前(・)ら(・)の(・)最(・)善(・)を達成している。これ以上とやかく言われる筋合いはないはずだが」

「じゃあ悪魔さんは、悪(・)魔(・)さ(・)ん(・)の(・)最(・)善(・)を達成していますか?」

 

 環いろはは痛いところを突いてくる。だがそう返してくることも悪魔は想定済みだ。

 

「お前らの最善がオレの最善だ」

「そんな理屈は認められません」

 

 七海やちよは腰に手を当ててため息をつく。

 

「もう……また言い合いしてるの?」

「でも……お昼の時より険悪な感じじゃないように見えます……」二葉さなが気付く。

「喧嘩するほど仲がいいって?」由比鶴乃が補足を入れる。

「あのふたりは、お人好しってところは似た者同士だからね……悪魔! いろは! いい加減にして帰るわよ!」

 

          †

 

 夕日が眩しい車内。ガタンゴトンと音が鳴る中、不意に悪魔は直感した。

 

「ほむら」

「?」

 

 人混みの中、千歳ゆまを腕に抱えたままの悪魔は、暁美ほむらの手の甲に触れると、シルバーリング(ソウルジェム)から魔力を吸い上げて《助太刀魔法》を行使。どこかの魔女空間に降り立った。瞬間、悪魔は青い刀剣で魔女を斬り殺す。すぐそばには一人の黒羽根が血だらけで倒れていた。

 

『……!?』

 

 眠気でうとうとしていた千歳ゆまはびっくりし、暁美ほむらは咄嗟に臨戦態勢の構えを取る。

 

 魔女が消滅したことで結界が解かれる。空間位相が現実に引き戻されて、彼らは夕闇の路地に降り立った。

 

「っ……あ、悪魔様……!?」

「大丈夫か。穢れが溜まっているな。いま浄化するから五秒だけ耐えろ」

 

 悪魔は懐からグリーフシードを取り出すと、黒羽根の黒いソウルジェムを浄化した。

 

「魔女結界に引きずり込まれて仲間とはぐれたのか。魔力パターンを辿って見つけてくれるだろう」

「……あ、ありがとうございます……し、しかし、我々にはドッペルが……」

「あまりドッペルには頼るな。後遺症がある可能性が高い。深度の深い結界空間でドッペル化するのも御法度だ。なによりドッペル化するまでもなく死にそうだっただろ」

「…………」

 

 黒羽根は魔力を回して肉体を治癒する。悪魔は背を向けると立ち去り、暁美ほむらは慌てて追いかけた。そこで黒羽根が呼び止める。

 

「ま、待ってください! あ、悪魔契約の件は……」

「予約が詰まっているんだ。それにお前は契約内容を知れば断る可能性が高い。とにかく今は、なるべく魔力を温存しておけ」

 

 ふと悪魔は直感する。再び暁美ほむらの手を取ると助太刀魔法で空間転移。

 

 そうやって悪魔は、夜の帳が訪れても人助けを続けた。

 

          †

 

「…………」

 

 暁美ほむらは無言で悪魔に連れ回される。考えてみれば、放課後は多くの少女が学生の本分を終えて、魔法少女としての使命を優先する時間帯だ。そうなれば、あちこちで魔女との戦闘が起きる。その中には死にかける魔法少女も当然いるはずだ。特に黒羽根は魔法少女として弱い部類。単独で行動した日には、魔女が他市より強い神浜市において死は必定と言えるだろう。

 

「あの……いつもこんなことをしているんですか?」

「あぁ。余(・)裕(・)が(・)あ(・)れ(・)ば(・)な。いつもどこかで誰かが死にかける。おかげで毎日魔力発作だ。今は叛逆魔法で発作を抑えているが、いつ抑えきれず爆発するか分からない。初めていろはとほむらの家庭教師を務めた時のように」

 

 そこで暁美ほむらは、悪魔が魔力発作を起こしている時、とても恥ずかしい事をしてしまった黒歴史を思い出した。それを直感した悪魔は、耳を赤くして問い返す。

 

「……そんなことがあったのか」

「!? あ、えっと、あの……! す、すみません! 悪魔さんの体に触ったら、な、なんだか……あの……」

「いや。それが恋愛性質の効果でもある。悪かったな」

「いえ……悪魔さんは苦しんでいたんですから、何も悪くありませんよ……」

 

 悪魔は背中を向ける。そして腕の中で千歳ゆまが寝息を立てていることに気付くと「じゃあ帰るか」と呟いた。

 

          †

 

 夜。悪魔と千歳ゆまと暁美ほむらは、みかづき荘に帰宅する。玄関を開けて開口一番、七海やちよが出迎えた。

 

「あら。夜遊びとは野心的ね」

「もう門限に従うほど子供じゃないからな」

「ご、ごめんなさい……!」

「ほむらに言ったんじゃないわ。あなたは悪魔に連れ回されたんでしょ? 明日はいろはが監視当番だったかしら。まったく人助けの鬼も困りものね」

「さすがに死は見過ごせないんでな。超直感を恨むよ。時には選んで見捨てなきゃいけないからな」

「…………!」

 

 悪魔と七海やちよは、さらっと人の生き死にについて話をする。それは命の取捨選択に慣れきった熟練兵の会話を想起させた。

 

 こういう時は、やはり一般人と魔法少女は住む世界が違うのだと思い知らされる。暁美ほむらも多くの死に触れてきたが、それでもここまで他人と価値観を共有できることはなかった。なぜなら時間遡行で最初からやり直せば、そこには戦場なんて知らない普通の女の子たち(鹿目まどかや美樹さやか)が咲(わら)って暮らしているのだから。それが普通なのだ。でも、魔法少女にとっては、その普通を取り戻すことは難しい。なんなら不可能だとも言える。

 

「ところで、ひなのや十七夜から連絡はあった?」

「それはオレが聞きたいんだが。しかし問題はないだろう。たとえ却下されても死ぬ気で、かつ殺す気で敢行する」

「なんだか今までで一番、悪魔らしいことを企てているわね」

「当然だ。オレは悪魔だからな。目的の(生かす)為なら鬼にもなるさ」

 

 悪魔はソファに千歳ゆまを寝かせて毛布を掛けると、カウンター席に着いて差し出された水を飲む。

 

「────それより、やちよ。お前も西側の代表者として、道場で真実を知る奴を限定した方がいいんじゃないのか?」

「あなた今さっき、却下されても敢行するって言ったばかりじゃない」

「のっぴきならない事情があるなら考えるさ」

「……そうね。特にないわ。むしろ汚れ役を引き受けてくれるなら、こちらとしては願ったり叶ったりよ」

「そうか。恩に着る」

「皮肉のつもり?」

 

 少ない言葉で通じ合う悪魔と七海やちよ。ふと我に返った暁美ほむらは、そういえば鹿目まどかが待っていることを思い出し、手洗いうがいをするため洗面所に向かった。

 

「……なぁ、やちよ。鶴乃とフェリシアはどう思う?」

「鶴乃がどうかしたの? フェリシアは親殺しの件でしょ。かこさんが付いててくれてるわ」

 

 由比鶴乃はマヨナカテレビの件で魔女化に気付きつつある。そして安名メルの死が自分のせいではないかと考えている。

 深月フェリシアは親殺しの件で自らを責めていたが、夏目かこの必死の説得のおかげで一段階吹っ切れた様子。だがそこまで割り切りのいい奴じゃない。

 

(このふたりをどうするか……フェリシアはかこに全てを任せても大丈夫だと直感できる。鶴乃は……オレが行くべきか。やちよがあなたのせいじゃないと説得しても、鶴乃は巧妙に笑顔の裏で本心を隠すはずだ。赤の他人であるオレの方が、おそらくバイアスなしで聞いてくれるだろう)

 

「いや、なんでもない。おやすみ」

「ゆっくり休んでね。あなた前科があるから、ちゃんと寝ているか確認しに行くわ」

「それは構わないが起こすなよ。久々の睡眠なんだ」

 

          †

 

 

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