アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
深夜。みかづき荘の屋根にて。由比鶴乃が体育座りして月夜の星空を眺めていた。
「メルが死んだのは鶴乃のせいじゃない」
そこへ悪魔が現れて、いきなり切り出す。
「安名メルが死んだ時、ちょうど鶴乃は用事があって戦闘に同行しなかったそうだな。マヨナカテレビからの推察だが」
「……」
「だとしても安名メルは納得して死んだ。《未来誘導》の魔法で、七海やちよを守るために犠牲になることを選んだ。彼女は相当覚悟のある奴だよ」
「それでも、私がいればメルが死ぬことはなかったかもしれない」
悪魔は人ひとりぶんの距離を開けて、由比鶴乃の隣に座る。
「やはり何かしらの正論を言っても、相手の心を動かす事は難しい。正解のない悩みに正論は逆効果な時がある。相手は正論ビンタで頬をひっぱたかれたように嫌悪感を滲ませる痛い思いをする……しかし、この口は安易な同情をすることも、わかったような口を利くこともない。ではなんのために来たのかって? 別になんでもない。お前の気が晴れるまで、根気強くそばに居るだけさ」
由比鶴乃は悪魔の横顔を見やる。
「……そっかー。そうだよね……悪魔には、わかっちゃうよね……」
「……」
「ねぇ……心が読めるって大変じゃない?」
「それなりにな。元々はただ勘がいいだけの血筋だったんだが……逆転勝利の呪いによって、
善意も悪意もその肉体をすり抜けて、悪魔の肉体に直接衝突してくる。背後からの怨嗟は包丁で刺されたように、横からの怒号は脇腹を抉られたように、眼前からの嗚咽は目潰しをされたように。敵意は、顔を殴られたように。殺意は、全身を貫かれたように。
例えば今は、由比鶴乃の表裏一体な感情──“感謝と邪魔”──を面食らっている。踏み込んできてほしくない領域に土足でズカズカ入っていけば、どんな能天気で天然な女の子だって悪感情くらいは当たり前のように芽生えてくるものだ。
「悪魔は……なんでそこまでしてくれるの?」
「オレの姉に似てるんだ。名前だけだが」
「どういう人だったの?」
「底抜けに明るくて能天気。……それだけ言えば鶴乃にも似ているか。最強にこだわるところも……あれ? 思えば意外と似ているな……」
「最強……その人は強いの?」
「あぁ。オレとは性格も出来も何もかもが正反対だ」
それから悪魔は、姉の最強武勇伝を語り聞かせる。人の心を開かせる為には自らの心を明かしてから。特にどうでもいい雑談で、由比鶴乃の心の隙間に入り込む。
「姉さんは、オレが苦手とする
「お父さん……嫌いなの?」
「あぁ。ろくでなしだ。家族を置いて何年も帰ってこないんだ。今頃どこで何をしているのやら。反社会的な商売をしていても疑わないよ」
悪魔はうそぶく。実父たる沢田家光の正体には、ある程度の見当をつけているのだ。
「父さんは酒好きなんだ。それに似て、姉さんも小学生の頃に酒豪対決で町内会のおっさんたちに連勝を決めた。……まだ九歳のガキが酒を飲むなって話だよ」
月光を浴びた二つの人影が、口を開けて笑い合う。
「なんかものすごい人だね! ……名前はなんて言うの?」
「────
鶴乃と鶴姫。たしかに鶴の部分は名前が似ている。破天荒で能天気で、最強の存在である事も似ている。
「ただ決定的に違うのは、鶴乃みたいな乙女心は皆無ってところかな」
「……」
「小難しいこと考えるだけじゃ大業は果たせない。焦るなら焦るだけじゃなくて、きちんと焦らなきゃな。オレの姉は父と同じように、オレたち家族をほっぽり出して、より強い奴に会うため大陸へ渡ったが……鶴乃は何を目指して、きちんと焦る?」
「わたしは────」
由比鶴乃は口ではなく、心で答えた。
────もう自分の知らないところで誰かが居なくならないように頑張る、かな?
由比鶴乃は、こてんと首をかしげて微笑んだ。
「ならば道場に来い。最強とはどういう意味か。ただの火力馬鹿か? 攻守速索を取り揃えた万能型か? 《幸運魔法》から《助太刀魔法》に似た派生魔法を開発したいなら、道場に来る“水野むく”という奴から技を盗め」
「────!」
「後悔は次に進む為の準備期間だ。何も悪いことじゃない。心の夜が明けそうだったら、焦る思いをオレたちにぶつけろ。オレが呼んだ家庭教師たちは、全員それをきっちり受け止めてくれる」
悪魔は立ち去る。その背中に向かって、由比鶴乃は呼びかけた。
「悪魔! あ……ありがとね! 悪魔のお姉さんの面白い話を聞いていたら、なんか元気が出てきたよ!」
その湧き出た元気は、まだ空回りしているようだが……明日には肩の荷が軽くなっているはずだと、悪魔は直感した。
†
一方その頃。環姉妹の寝室から女子会を終えて出てきた鹿目まどかは、暁美ほむらと共に彼女の寝室に戻る。
「はぁ楽しかった。またみんなとこうしておしゃべりができて嬉しいね!」
「そうだね、まどか」
暁美ほむらの寝室。机の上には銃火器や爆弾類、砲弾やミサイルの軌道計算に必要な学術系の書物がどっさり積み上げられており、ほかにも宝石のカケラやガスバーナー、耐火レンガや金属製の指輪などが散見される。
「あ、ご、ごめん! すぐ片付けるから……!」
まるで戦いに備える兵士の部屋だ。鹿目まどかは、見えないところで頑張っている暁美ほむらに感心する。
片付けが終わり、暁美ほむらは敷布団を二枚床に敷く。最初は鹿目まどかにベッドを譲ったのだが、それは悪いと断られて、一緒に床で寝ることになったのだ。
「……………………」
そして暁美ほむらは考える。昼間から悩んでいる事があるのだ。それは────
「ねぇ、まどか」
「うん?」
もしかしたら良くない流れになるかもしれない。それでもこれが最善だと、暁美ほむらは“悪魔プロデュース作戦”を決行した。
「まどかは────悪魔さんについて、どう思う?」
「え? なんで急に……?」
「その、お昼、悪魔さんは恋愛性質を持っているって聞いたから……」
「あぁ。私はなんともないかな? ほむらちゃんは? 修行に付き合ってくれたり、今日だって夕方、急に二人でどこかに行っちゃったでしょ? もしかして……」
鹿目まどかは赤らみつつ聞く。どうやらただの恋バナと思っているようだ。
「私はそういう目で、悪魔さんを見たことはない」
鹿目まどかしか見えない。と言った方が正しいが、引かれるかもしれないので余計な一言は内に秘めておく。
「そっかぁ。でも悪魔さんはいい人だよね!」
「そうだね。色々あってひねくれて、悪態つく時もあるけど……根はとことん優しい人なんだってことは、すぐに分かるし」
暁美ほむらは本題を切り出す。
「ねぇ、まどか。私、あなたに嫌われてもいい」
「────え?」
「だから、正直に言うね。……悪魔契約、する気はない?」
鹿目まどかは魔法少女になってはいけない。今回のループでは、鹿目まどかは最初から契約していた。捨て回にして次のループに備える、という良くない案も浮かんだが、秒で切り捨てた。魔が差したアイデアだ。たとえ魔法少女になっても最善を尽くせることはあるはず。それに今回は、今までのどのループよりも味方が多い。だが、同時に敵も多い。
「ほ、ほむらちゃん……どうしてそんな……悪魔契約って、魔法少女を辞めるってことでしょ……?」
「美国織莉子と戦った時から、ずっと考えていたの。悪魔さんはいつでも受け付けるって言ってる。だからあとは、まどかの思いだけなの」
「……ほむらちゃん……」
鹿目まどかは目が泳ぐ。まさかの提案に状況を受けきれていない。なぜ暁美ほむらは、鹿目まどかを元の人間に戻したいのか? それを考えて────きっと暁美ほむらは、鹿目まどかを守りたいと考えているのだと気付く。
「────ほむらちゃん。腹を割って話そう」
「……!」
「ごめんね。私やっぱり、悪魔契約は受けたくない」
「どうして?」
鹿目まどかは手持ち無沙汰に俯く。
「これは……ただのワガママなの。私、何もできなくて……誰かの役に立てたらいいなって……そう思って魔法少女になったの」
「でも魔法少女は、そんな甘い世界じゃ……!」
「うん。魔女とは殺し合いだし、魔法少女とも殺し合いをしなきゃいけない時もあるし、全然思ってた世界と違ったよね。でも私たち魔法少女がいることで世界を守れている事実は本当だし……まぁ、その魔法少女も、いつかは魔女になっちゃうんだけど……」
鹿目まどかは思い出す。美国織莉子との出来事を。
「それで織莉子さんから、私のせいで世界が滅ぶって言われた時は……とても信じられなかったけど……悪魔さんもほむらちゃんも、なぜかそれに同意していて……あぁ、ふたりがそう言うなら、やっぱり嘘じゃないんだな……きっと本当のことなんだろうな……って、前から思ってる。────それでも私は、魔法少女を辞める気はないや。ごめんね?」
「まどか! 世界が滅ぶとかはどうでもいいの。ただ魔法少女のままだと、いつ魔女化するか分からない。私は、まどかに……これからも長く生きていてほしいの。笑顔で、幸せで……当たり前の日常に戻れるように……!」
「うん……ありがとう。でも、どうでもよくないよ。ちゃんと考えないと」
鹿目まどかは、暁美ほむらの瞳を見据える。
「私ね。実感がないわけじゃないんだ。自分の強すぎる力は、なんとなくだけど感じていた。魔法少女になって、初めてマミさんに魔法の使い方を教えてもらった時も……楽に魔女を倒した時に、息も絶え絶えなさやかちゃんと感想が違った時も……
「……」
「それにね。ほむらちゃんと会う前に、こんな夢を見たんだ」
────大きな山のような怪物になる夢を。
「……っ!?」
「ほむらちゃんは、過去に戻ることができるんだよね? もしかして……その怪物が、私の────私が、
「っ……」
それは初めてのループの時だったか。初めて魔法少女が魔女になると知って、みんなインキュベーターに騙されていると悟った。
「でも安心して」
「え?」
「私、もし魔女化しそうになったら……考えがあるの。だって世界を滅ぼしたくないから」
「っ!」
暁美ほむらは、その覚悟を決めた目付きを知っている。苦しみながら選んだ苦渋の答えを見たことがある。
脳裏によぎるは、鹿目まどかの額を撃ち抜いた絶望。
彼女の懇願を聞き入れて、鹿目まどかを射殺した時と────全く同じ目をしていた。
「……自決するつもり?」
「……! ほむらちゃん、なんで……」
なぜ分かったのか? 暁美ほむらが過去に戻れることを知っているなら、聞くまでもないことだろう。
トラウマとも呼べる記憶を思い出した暁美ほむらは、胸の奥からこみ上げる吐き気を必死に抑える。
「っ……いやだよ、もう……そんな選択をするまどかを見たくないから……私は……」
「ほむらちゃん……どうしたの? 急に顔色が悪く……」
よろよろと歩く暁美ほむらは、鹿目まどかの両肩を掴んで懇願する。
「じゃあ、せめて……その時に悪魔契約を受けてよ……なにも死ぬことないじゃない……」
「ほむらちゃん……ごめん……でも、悪魔契約がどういうものかも、よくわからないし……」
それは鹿目まどかの言う通りだ。自決するタイミングを逃せば、魔女化して世界が滅んでしまう。一縷の希望に掛けて生き足掻けば、それこそ今までの苦労が台無しになる。守ってきた世界を、自ら壊すことになる。救いを恵んできた世界が、呪いに侵されてしまう。
暁美ほむらは、親友の頭を撃ち抜いた光景がフラッシュバックして、とうとう吐き気をこらえきれなくなった。寝室を飛び出して洗面所に駆け込む。
「ほむらちゃん!」
暁美ほむらは確信する。やはり鹿目まどかは魔法少女を辞める気がない。それに鹿目まどかの言う通り、確かに悪魔契約の儀式内容も分からない。悪魔が言うには、儀式の内容を知れば、鹿目まどかは断るはずだと言っていた。かと言って悪魔から具体的な内容を聞き出そうにも、うまく躱されて逃げられてしまう。せめて鹿目まどかが悪魔契約を受ける気になれば、悪魔も内容を話してくれて、それから考えることも可能なはずなのに。どうにもうまくいかない。
(私は……まどかに生きていてほしい。それなのにまどかは、いつも自分のことは二の次で、世界を救うために自分を犠牲にしようとする……)
暁美ほむらは泣き出す。その背中を、追いかけてきた鹿目まどかが優しくさする。
「ごめんね、ほむらちゃん……」
「ううん……私も、いきなりこんなこと聞いてごめん……」
暁美ほむらは、最後に問いただす。
「ねぇ、まどか。あなたは本当にそれでいいの? 自決すれば解決だと、本気で思ってるの?」
「……うん。ほむらちゃんなら、分かってくれると思ってる。じゃなきゃ言わないよ、こんなこと」
「っ────なら、本心を教えて。怖くないの? 自分が死ぬのが正しいって言ってるんだよ? おかしいとは思わないの?」
「それは……当然、辛いよ」
「なら……!」
「でも────
鹿目まどかの決意は固い。自己犠牲ぶりが目に余るのは、はたしてどちらか。どちらもか。
「っ…………わかった。つまりまどかは“本当は死ぬのが辛いし怖い”のに……それでも“世界を救うため自決する”と言うのね……」
「うん。そういうことに、なるのかな? それにもし自決できなくても、織莉子さんが来るだろうし……悪魔さんだって、私の心を読んで手を下してくれるだろうし……もちろん、ふたりを人殺しにしたくはないから、自分で頑張るつもりだけど」
それはなんて残酷なセリフだろう。
暁美ほむらは今までのループで、鹿目まどかの魔女化を知っているから……美国織莉子の未来予知と、それが嘘ではないという悪魔の超直感の話とを合わせて、世界が滅ぶ可能性があることを推測できる。しかし鹿目まどかは、何を根拠に世界が滅ぶことを確信しているのだろう。自分が魔女になった夢を見たから? 美国織莉子と悪魔が“事実だ”と譲らないから? 暁美ほむらの言うことを証拠もなく鵜呑みにするワケは? お人好しな鹿目まどかなら、きっとこう言うだろう。
────織莉子さんはどうか知らないけど、ほむらちゃんと悪魔さんが嘘をつくとは思えないから。
そんな確信は、絶対に叶えてはならない。
「まどかの考えは分かった。私は、まどかのことを一番大切にする」
ただし、その思いを大切にしたいとは思わない。尊い自己犠牲の精神なんてくそくらえだ。
「ほんと? ありがとう。……辛いこと話しちゃってごめんね? このことは織莉子さんと戦ったあと、見滝原市でキュゥべえと話して決めたことなんだ」
(────キュゥべえ!)
暁美ほむらは失敗したと絶望する。既に鹿目まどかは魔法少女になっているため、インキュベーターは彼女に用はないと思っていた。しかし美国織莉子との出来事で、自分が世界を滅ぼす存在だと自覚してきた鹿目まどかは、きっとインキュベーターに聞いたのだ。自分が魔女化したらどうなるかを。
悪魔によれば、インキュベーターは嘘はつかない。質問すれば、都合の悪いことは隠して曖昧に答える。そこで鹿目まどかは、とことん突き詰めて聞き出したのだろう。たとえば鹿目まどかの魔力係数であれば、魔女化した時に周りはどうなるのか。その答えは、きっと────“地球は数週間かそこいらで滅ぶだろう”という返答だったに違いない。
「……勝手な事を言うけど、このことをほむらちゃんに話すことができて良かった。少し楽になったかも……やっぱり一人で思い悩むといいことないよね。────あ、もちろんこのことは、さやかちゃんには内緒ね?」
「……うん。約束する。私も、そんな厄介なことは望んでないから……」
暁美ほむらは先ほどの会話を何度も何度も反芻する。鹿目まどかは確かに言った。死ぬのは嫌だ、死ぬのは辛い、死ぬのは怖いと。暁美ほむらの願い事は、鹿目まどかを守ることだ。ワルプルギスの夜だろうと、鹿目まどかの魔女化だろうと、美国織莉子だろうと、マギウスだろうと、その全てから親友を守る。そのためなら手段を厭わない事も必要だろう。時には、互いを思いやるが故に喧嘩する悪魔と環いろはのように────鹿目まどかと喧嘩してしまう時もあるかもしれない。
「あ……そうだ。暖かい飲み物でも飲んで寝ようか? 吐いちゃったから、喉を痛める前にうがいした方がいいよ」
「うん。そうだね……」
暁美ほむらは、鹿目まどかに支えられて一階のリビングに降りる。台所に行くと、カウンター席には悪魔が座っていた。牛乳パックをがぶ飲みしている。
「……。やちよから“賞味期限が近いから処分してくれない?”って言われたんだ。もうひとパックあるから飲むか?」
「あ、いただきます」
鹿目まどかはコップに牛乳を注ぐと電子レンジで加熱する。
そのあいだ暁美ほむらは、悪魔の隣に座って俯いていた。
「……あの、悪魔さん……」
「どうせ織莉子の手のひらの上だ。好きにしろ。当然オレも協力する。まず具体策を講じよう」
「……ワルプルギスの夜を倒して、マギウスの自動浄化システムに頼る……」
「そのためには、まずマギウスを潰さなきゃな。だがその力はまだお前らにない。ならばどうするか?」
修行。それしかない。
「はい、ほむらちゃん、ホットミルクできたよ!」
暁美ほむらは温かいミルクを飲んで一息つく。
「悪魔さん。私への修行は、スパルタでお願いします」
「焦ってもいいことはないが……言われるまでもないぞ」
鹿目まどかもミルクを飲んで一息つく。だが悪魔は、その一息がため息のように聞こえた。少なくともそう直感した。もしや自決について悩んでいるのかと思いきや、どうやら他人のことで悩んでいるようだった。
「まどか。オレはいつも聞いていないフリをしているんだが……その悩みは見過ごせないな」
「……? ────あっ。そ、そうでしたね……!」
悪魔は心が読める。主語のない話に付いていけるようになった鹿目まどかは、心を読まれることに一抹の気恥ずかしさを感じていた。
「────美樹さやか。魔女化の兆候があるかもしれないことに悩んでいるのか。なにかオレに手伝えることはないか?」
「……!」
暁美ほむらが反応する。悪魔はその心を直感した。
「ループ経験者のほむらは、思い当たるフシがあるようだ。────上条恭介……なるほど。
悪魔は重そうなため息をつく。恋愛がらみで大変な目に遭った経験があるのだろうか。
「……よし。まどか、ほむら。さやかの様子を見に行こう。もちろん人の恋路の邪魔にならない範囲で手を貸すさ」
「で、でも……いいのかなぁ……そこまで首を突っ込んで……」
「確かに褒められた事じゃないが、こっちもあっちも命が懸かってるんだ。出歯亀上等。終わり生きてりゃ全て良しだ」
悪魔は牛乳パックを飲み干すと、階段をのぼって自室に去っていった。
「私たちも、そろそろ寝ようか」
「そうだね、ほむらちゃん」
かくして悪魔たちは明日に備える。
とある人魚の恋路の結末が、水の泡となって深海の闇に消えてしまわないように。
完