※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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第4.2章 青人魚悲恋譚

クロスオーバー先:神名あすみ



第4.2章 青人魚悲恋譚 ソステーニョ・アッラモーレ ‐恋のプリテンダー‐
5月13日(土曜)【ほんっと哀れで愚かね】神名あすみ


 

 夜の帳が降りる。静謐の見滝原市。

 正義の魔法少女・美樹さやかは、日課のパトロールで建物の屋根という屋根を飛び回り、人間に仇なす怪物“魔女”を探す。だが見滝原市には魔女の影(シルエット)も音もない。

 

「今日も魔女反応はゼロ……と。感知範囲の取りこぼしもない。うんうん。平和なのはいいことだ!」

 

 腰に手を当てて伸びをした美樹さやかは夜景を眺める。一瞬、手持ち無沙汰な思いを自覚するが、それは正しくないと振り払い、手元にソウルジェムを顕す。青い宝石はその半分が黒ずんでおり、魔力の通りが悪いことを美樹さやかは自覚していた。

 

「しかし困ったな……グリーフシードがないと、ソウルジェムの濁りを浄化できない……こうなりゃ街の外に出て魔女を探すしかないのかなぁ……」

 

 半年前から急速にその数を減らしていく魔女。街から姿を消した魔女は一体どこへ行ったのか。友人であり戦友の鹿目まどかの報告によれば、なぜか神浜市という街に大量の魔女が集まっているという。

 

「でもマミさん。魔法少女には魔法少女の縄張りがあって、そこを侵すと魔法少女同士で喧嘩になるって言ってたし……あたし、そういうのはなちょっとなぁ……でもこっちとしても死活問題だから……どうか話せば分かってくれる、そんなご近所さんだと嬉しいんだけど……」

 

 巴マミ。そこからの連想で、美樹さやかは暗い顔をする。

 

「ハァ……二か月前までは、マミさんとまどかとあたしの三人組で魔女退治してたのに……あの転入生が現れてからマミさんが失踪して、まどかもマミさん捜しで神浜市に入り浸るようになって、あの転入生……ほむらも、不登校のまま神浜市に住み着くし……あーあ。なんかさやかちゃん仲間はずれって感じぃ。……みんな今頃なにしてんのかなー……」

 

 美樹さやかは正義の魔法少女として街を守る使命がある。そのため巴マミの捜索は鹿目まどかと暁美ほむらに任せて、この二ヶ月間はほとんど一人で魔女退治に明け暮れていた。

 

 そして魔女退治。それはキュゥべえに願い事を叶ってもらった対価として提供しなければならない義務。しかし、たとえこれが対価として払うべきものではなくとも、美樹さやかは誰かの為に戦うことを当然の事として受け入れていた。それ以外に理由があるとすれば、誰かの為に命懸けで魔女を倒す巴マミの後ろ姿を見て、それに憧れたという理由も少しはあるだろう。

 

「とりあえず今日は、最後にもう一周して帰りますか。魔女はすっかり消えても、たまに魔女からはぐれて迷子になってる使い魔がうろついてる時があるし……そういうのは見過ごせないよね!」

 

 噂をする前に影がよぎる。さっそく一匹の微弱な魔女反応を感知。淡い青髪青眼の少女は跳躍し、白いマントをたなびかせて着地態勢を取りつつ腰のサーベルを引き抜いた。

 

「とりゃあ!」

 

 ビルとビルの間。明かりのない闇の路地裏。その空中を漂っていた使い魔を一刀両断。害をなす魔女の手下は魔力の残滓となって消滅する。変身解除。魔力を節約するため、ここからは徒歩で帰る。暗い夜道に女子中学生ひとりは治安の問題で危険だが、魔力の力を借りれば悪漢なんてちぎっては投げちぎっては投げで撃退できる。

 

「やはりさやかちゃんは可愛い上に最強なのでは?」

 

 美樹さやかは暇すぎて独りごちる。直後、前方に気配。小さな人影が佇立している。こちらと向き合っており、美樹さやかは闇の路地というシチュエーションと合わせて、何とも言えない不気味さと悪寒を感じた。

 

(え? なに? まさか幽霊とかじゃ……)

 

「人殺しのくせに、正義の魔法少女を名乗るの?」

「……え?」

「この意味が分からないなら、あなたもたいしたことない魔法少女なのね」

 

 声は思ったより幼かった。目を凝らせば、そこには銀髪銀目の少女。朱色のランドセルを背負った小学校高学年くらいの女の子が立っている。セリフから察するに、同じ魔法少女なのか。だとするなら、なぜそう喧嘩腰なのか。

 

「ちょっとあんた。(幽霊じゃなくて良かったけど……)年上相手に口の利き方がなってないんじゃないの?」

「魔法少女としてはこっちが先輩なんだよバーカ」

「なっ……! (くっ……お姉さんとしてガマンガマン……)っ……さてはあんた、なぎさと同じクソガキだな!?」

「あいつと同じにすんじゃねぇ!!」

「っ!? あいつって……もしかして、あんた……なぎさと知り合い?」

「そんなのテメェには関係ねぇ。とりあえずさぁ────ムカついたから死んでよ」

「──!?」

 

 美樹さやかは変身して臨戦態勢を取る。“キリサキさん事件”からちょうど一週間。どうして魔法少女の中には、こうもヤバイ奴が多いのか。サーベルの柄に手を当てて腰を屈める。だが────いつになっても銀髪少女は動く気配を見せない。次の瞬間、銀髪少女は目を覆って腹を抑えて狂ったように嘲った。

 

「アーッハハハハハッ! 滑稽ね! こっちは殺気の一つも出してないのに変身するとか、ちょ~っと年下相手にビビリすぎなんじゃないのぉ? お姉さぁん!」

「なっ────!」

 

 つまり銀髪少女は、最初から戦闘するつもりなんて無かったという事か。

 

「あ、あんた……このあたしをおちょくったわけ!?」

「バカをおちょくると楽しいからねぇ!」

「こ……このクソガキゃあ……どうやら、なぎさ以上の傑物が現れたようね……どう落とし前をつけさせるべきか……お尻ペンペンじゃ足りないわこりゃ……」

「そんな古典的なお仕置きで私が反省するわけないじゃん? 屈辱なんてもう麻痺って感じることはないし、むしろ当てつけにあんたの幸せを奪っちゃう」

 

 美樹さやかは(相手のペースに呑まれるな……)と平常心を心掛ける。まともに会話していては、沸点が低い美樹さやかには分が悪い。その点、百江なぎさの生意気な性格と相手していた経験が功を奏した。巴マミの友人というからどんな子かと期待してみれば、お高く止まって先輩ヅラしてチーズの献上を命令するとんだクソガキだった。その態度を真面目に叱っても巧みに躱されてしまう。魔法少女として自分より強いのもしゃくにさわった。巴マミと鹿目まどかによれば「真面目に相手するだけ、こっちが損をする。美樹さやかには相性最悪」というお墨付きをもらった。そのアドバイスに従い、話半分に相手する。

 

「はぁ……これだからおこちゃまは」

「上条恭介(かみじょうきょうすけ)への思いにウソ吐いてる時点でそっちがお子ちゃまだろ」

 

 ────美樹さやかの心の器に小さな小さなヒビが入る。

 

「は……は? あんた、なに……なんで恭介の……いや、あたしのことを……」

「鹿目まどかも最悪よね。あんたより才能あるし、そりゃ嫉妬するでしょ」

「────」

「あぁ図星だった? いやぁ隠してた気持ちを暴かれた時の人の顔ってホンっト────悪(・)魔(・)的(・)に(・)最(・)高(・)だ(・)わ(・)」

 

 美樹さやかは目を見張って瞬きせず、路地に足音を反響させて銀髪少女に近付いていく。

 

「あの巨乳から言われなかった? 上条恭介の夢を叶えたいのか、それとも上条恭介の恩人になりたいのか。そりゃあどっちもだよねぇ? ならさ。なんで告白しないわけ? 怖いの? まさかそこまで尽くしてんのに好きじゃないとかふざけたこと言わ────」

「ちょっと黙りなよ」

 

 美樹さやかは銀髪少女の胸ぐらを掴む。

 

「あたしたちの周りを嗅ぎまわってるわけ? 趣味悪いよ」

「自分のこと棚に上げんなよ生娘。自分は正義の味方で見返りなんて求めませんって? めっさ求めてんじゃねぇか。核心突かれてキレてんのがその証拠だろうがよ。偽善ぶるのも大概にしろよクソが」

「あんた……! マジでそのへんにしとかないとブン殴るよ!? 人を馬鹿にするのがそんなに楽しいか!」

「あらまぁお優しい。真面目に相手して私に説教してくれるのね。でも残念。自(・)分(・)の(・)心(・)に(・)嘘(・)つ(・)い(・)て(・)る(・)奴(・)の(・)言(・)葉(・)な(・)ん(・)か(・)、(・)ま(・)っ(・)た(・)く(・)心(・)に(・)響(・)か(・)な(・)い(・)……! なんでだろねぇ……?」

「っ……!」

「あ、わかった! もしかしてあなた、正直者じゃなくて、嘘つきの狼さんなんだ……!」

 

 美樹さやかは片手を掲げて“打(ぶ)つ”仕草を見せる。対する銀髪少女の顔は無聊をかこつように、美樹さやかの潤んで揺れる瞳をただひたすらにじっとずっと見つめていた。その心の隙間を探るように、その心の裏側を突き刺して楊枝(ようじ)で抉り返すように。そうすればたこ焼き(悪魔の料理)の完成だ。簡単に潰れる、哀れで惨めであっつあつな絶望を芳醇に味わえる。

 

「殴れよ。それで気が晴れるんだろ? ん? あぁでも正義の味方が八つ当たりなんかしていいのかなぁ? まぁでも別に正義の味方なんかもうとっくに失(・)格(・)だから殴ってもいいんだよ?」

「……は?」

「魔(・)女(・)が(・)い(・)な(・)く(・)て(・)平(・)和(・)で(・)な(・)に(・)よ(・)り(・)だって? 本当は退(・)屈(・)だと思ってたくせに」

「!」

「三人で魔法少女らしく、ヒロイックに物語の主人公のように魔女退治を楽しみたかったんでしょ?」

 

 次の瞬間、風船が割れたような音が路地に反響した。

 

「あんた……魔女って人を殺すんだよ? それに魔法少女だって気を抜けば魔女に殺される。それなのに魔女退治を楽しむなんて、不謹慎すぎるでしょ……バッカじゃないの?」

「あーあ。ビンタしちゃったね。しかも図星を突かれてビンタした。言い逃れのしようもないねぇ?」

「違う。あんたの心がドス黒く見えたから殴った」

「ホントかなぁ? 言葉っていいものだよね。正論はもっといい! うまいこと言えば本心を隠すことができる。違(・)う(・)な(・)ら(・)何(・)が(・)違(・)う(・)の(・)か(・)も(・)っ(・)と(・)ハ(・)ッ(・)キ(・)リ(・)言(・)え(・)よ(・)、正直者(クソ人間)」

「────っ」

「ドス黒いとか話をずらしてる時点であんたの負けー。ほら言いなよ。あんた本当は見返り求めてて退屈してんでしょ?」

「違うって言ってんでしょっ!! 正義の味方は見返りを求めない! 私は魔女退治で自惚れたりなんかしない!」

「はいどっちも半分ウソ。あのさぁ……日本語わかります? 私が聞きたいのは本(・)心(・)に(・)し(・)た(・)い(・)本(・)心(・)じゃなくて、あんたの醜(・)い(・)腐(・)っ(・)た(・)本(・)心(・)なんだよ。ハナシ聞いてたァ?」

「────っ!」

 

 美樹さやかは胸ぐらを掴む力を強める。そして壁に叩きつけてやろうかと思った瞬間。

 不意に銀髪少女は霧のように消えた。

 

「えっ!?」

「それ構築魔力で作った分身。ハリボテ相手に意気軒昂ご苦労様。惨めで哀れなさやかちゃんは雨の夜に泣いて帰るのでした。完」

 

 声は上から。本体は屋上に居たのか。銀髪少女は鉄柵に頬杖を突き、相手を舐め腐った笑顔で嘲笑する。

 

「ちなみに私、そんな強くないの。だからあなたに掴まれた時は振りほどけなくてヤバかった。でも最後に私は幻覚で逃げ延びて、しかもあなたを完膚なきまで言い負かした。これってなんて言うか知ってる? ────圧倒的なサ(・)ヨ(・)ナ(・)ラ(・)勝(・)ち(・)よ」

 

 不敵な笑みをこぼして背を向ける銀髪少女は藍色の魔力を纏って立ち去る。

 

「待て! あんた何者!?」

「────神名(かんな)あすみ。魔女と違って呪いを振りまく怪物ではなく、周りに不幸を振り撒く悪魔だよ。どこぞの悪魔と違ってね?」

 

 ────悪魔。最近それと同じ人名を聞いたことがある。先週の“キリサキさん事件”で多くの魔法少女が殺された時、その犠牲者すべてを蘇らせたという“救世の悪魔のうわさ”……鹿目まどかと暁美ほむらの仲間であり、美樹さやかも知らないうちにキリサキさんに殺されたが、その悪魔のおかげで生き返っていたという。しかし、その話がどうにも信じられなくて戸惑っているうちに一週間が過ぎた。おかげでその悪魔とやらには、言うべきかどうか分からない礼を言いそびれてしまったが……まさか、神名あすみはその悪魔と何か関係があるのか。

 

「っ……なんなのさ、あいつ……」

 

 美樹さやかは、心の中がポッカリ空いたような空虚な気分に嫌気が差す。

 

「私は恭介のことを……魔法少女のことだって……別に……ッ……」

 

 多感な時期の子供は言葉に酔う。善かれ悪しかれ強い言葉に影響を受けてしまい、形成中の誇り・信念・矜持(アイデンティティ)が変形しやすくなる。それでも美樹さやかは気を強く保って迷いを秘める。……秘めるだけではどうにもならないというのに。

 

          †

 

 夜の街を歩く神名あすみは持論を唱える。

 

「大人ってなに? 法的に成人すれば大人? だとしたら片腹痛いわ。年齢に関わらず人格が出来ている奴が大人。そうじゃない奴はみんな子供(ガキ)」

 

 神名あすみは、己が魂たるソウルジェムを指の上で回転させて、なんとも危険な遊びに興じる。もし落として割ってしまえば死んでしまう。スリルを楽しんでいるのか。それとも世の無常さを体感しているのか。

 

 これを落とせば死ぬ。簡単に魔法少女(ひと)は死ぬ。

 その無常を味わうことで、自らの住む理不尽な世界を物語(さと)っているのか。

 

「私の《精神攻撃魔法》は、いつでもその子(・)供(・)をあぶりだして来た」

 

 精神攻撃魔法。それは“対象にとって最も言われたくない言葉を神名あすみが思い付く”という能力。相手の心が分かるわけではないため、たまに相手の地雷を踏んでしまい、落ち込ませるどころか激昂されて殺されかかるのが玉に瑕。

 

 しかしその弱点を覆すほどのメリットが、この魔法にはある。というのもインキュベーターが契約する少女は、基本的に感情が揺らぎやすい子が多い。つまり魔法少女は、総じて(おしなべて)精神攻撃が効きやすい。そして気持ちが落ち込んで絶望した果てには魔女化が待っている。そうなれば後は勝手に自滅するだけ。神名あすみが直接手を下すまでもなく、体ではなく心を殺すことで、対象とそ(・)の(・)周(・)囲(・)の不幸が確定する。

 

 なぜなら魔女は最初に身(・)内(・)を(・)襲(・)う(・)。生前の行動を反復しやすい怪物は、当然(すべからく)自宅に帰る事が多い。そして家族の魂を喰らって使い魔を孕み、魔女の源であるグリーフシードを成長させて強くなっていく。

 

 しかしながらその行為は今できない。例の悪魔の接吻(口づけ)によって、魔女化を促すほどの過度な《精神攻撃魔法》は封印されているからだ。そこから連想した神名あすみは、例の少年を思い出す。

 

「チッ……そう言えば、この魔法で精神をあぶられても堂々としていたのは、おでこから炎を灯す変態だけだった。でもあいつは例外。なぜならあいつは大人でも子供でもない。ただの狂人。人間じゃない。機械よ」

 

 神名あすみは“お人好し”を憎む。

 それは自分が契約するまで終(つい)ぞ手に入らなかった、自らの幸せへと繋がる人格だから。

 

「人格者(真の大人)と比べて、そこらへんの中学生は圧倒的に社会的情報量と経験不足、そして想像力の欠如が散見される。そう思えば、黄色学帽上がりのお子ちゃまが、とある白い悪徳業者に利用されて家畜のように搾取されるのも当然の話よね。自然の摂理だわ」

 

 強い奴が弱い奴の肉を喰らう。弱肉強食。生態系のピラミッドは、技術難度のピラミッドでもある。

 

「高(・)度(・)に(・)発(・)達(・)し(・)た(・)科(・)学(・)は(・)魔(・)法(・)と(・)見(・)分(・)け(・)が(・)つ(・)か(・)な(・)い(・)って誰の言葉だったかしら? 稚拙な定理をこねくり回して地球の支配者気取りでいる人間様は、いま宇宙の原理を暴こうとしているけど……そもそも自分たちが白い宇宙生物の家畜であることを知らないのかしら? ほんっと哀れで愚かね」

 

 話がズレてきた。とにかく神名あすみは世界を呪いたいようだ。

 お人好しを、人間を、インキュベーターを────なにより、幸福を。

 

「私は自分が人格者(真の大人)とは絶対に思わない。けど、少なくとも平穏の中で生きてきた美樹さやか(甘ったれ)と、地獄の中で生きてきた私(餓鬼)とでは、情報・経験・想像力……どれを取っても差がありすぎる。もちろん、私の方が上という意味でね」

 

 神名あすみは、純粋で可愛らしい笑顔を咲かせる。

 今回は面白そうな遊び相手を見つけたと微笑んで。

 

          †

 

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