アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
時はひと月ほど遡る。
某月A日。
それは美樹さやかが《上条恭介の腕を治してほしい》という願いを叶えて魔法少女となり、上条恭介が長いリハビリの末に退院・通学し、名のある音楽家から神浜市のコンクールに誘われて、しばらく経った頃。
神浜市の参京区。
人気のない開発放棄された廃墟ビルの中で、上条恭介は目をつむりヴァイオリンを首に挟んでいた。
「…………」
あと一時間でコンクールが始まる。今頃、多くの奏者は楽屋の中で集中しているはずだ。それなのに上条恭介は、その場から逃げ出してきた。初めての大都会での大舞台。緊張していない訳が無い。退院したばかりで満足に演奏できるかも分からない。いや、腕が治った時からヴァイオリンの調子は絶好調だった。しばらく弾けなかったから鈍っている部分はあったが、それも今では完璧に修正できている。だが、それでも怖い。
(はたして僕の演奏が通用する世界なのか……)
未知の世界。同じヴァイオリンを弾く世界なのに、上条恭介は遠い世界に入り込むようなワクワクと恐怖の板挟みとなっていた。臆病な自分が情けないと思う反面、これから何があっても“しばらく入院してコンディションが万全ではなかったのだから仕方ない”と、自らに甘えるような気持ちにはならないと誓う。そして、その誓いを実行するためにも、上条恭介は今ここで限界を超えなければならない。弱い気持ちに走らないためにも、今までの自分を超える演奏を披露しなければならない。そう思い込んで自分を追い込んでいた。
(僕を誘ってくれた人は、力まず自然に心の赴くままに弾けばいいと言っていた。だけど、僕はこれでも男だ。どうしても……僕の演奏で、みんなをあっと言わせてみたい。ずっと、ただ大好きなヴァイオリンを弾くだけでいいと思っていた僕だけど、周りの人達の演奏を聴いてからというものの、どうしてもみなさんに負けたくないと思ったんだ)
やる気充填。自分に発破を掛けるための言葉は尽くした。あとは心の声より心の音が物を言う。言葉に酔う暇があるなら、演奏で周りを酔わせなければ。
(……震える腕が収まってきた……今なら、行ける────よしっ!)
精神統一を済ませて、一気に走るようにヴァイオリンを弾き語る。
(まだ硬い……だが、いきなりの大舞台。緊張するのは当然だ。上手く演奏できるか分からない。悩むのも当然だ。ならば馴染め。ここは敵陣。僕は完全アウェーの田舎者。郷に入っては郷に従う精神だ)
上条恭介にとって乱れていた演奏が、徐々に徐々に廃ビルの雑多な反響と馴染んでいく。
(神浜市は参京区……逃げたというか、気持ちを切り替えるため散歩してみたけど、周りの建物を見ていて伝統と格式のある町並みだと分かった。お寺に商店街、中華飯店に銭湯、古書店に喫茶店、駄菓子屋に樹齢百年の大木……香る材木と色あせた石材。昭和の懐かしい装いを感じさせる和のテイスト……新興都市だというのに見滝原市と比べて昭和の名残が香るのはなぜだろう? 古きを残して新しきを興した理由は?)
上条恭介は自分なりの考えで和に成らんとする。そして彼の演奏は、廃ビルの反響音とよく馴染んだ。
(僕は一度音楽家として死んだも同然だった。それでも奇跡が起きた。さらにチャンスがやってきた。これはどう解釈すればいい? 前の自分は昔で、今の自分が新しい? いいや、それもありだが、それじゃあ陳腐だ。生まれ変わったなんて烏滸がましい。僕は僕だ。何も変わらない。ではその中で何を変えられる?)
弾く勢いを強める。それは弾き方を変えたわけじゃない。観客を惹かせて変えるための転調だ。
(僕を誘ってくれた人は、ありのままの僕をスカウトしてくれた。なら、無理に自分を変える必要はない。僕は見滝原市で育った。ならば見滝原市の奏者として、地元の意地を通す。この街の伝統と格式の重さに気圧されるな。潰れるな。弱気になるな。僕の腕を信じろ。自分の才能を、努力を、奇跡を信じろ。魔法を掛けたように、聴いてくれた人たちが見滝原市に観光してくるレベルで、僕のヴァイオリンに惹きつけさせる。もちろん僕が得意とする落ち着いた音色で……興奮は緊張の表れだ。静まれ……そして水のように馴染め……頼むから、馴染んでくれ……)
元の調子を取り戻した上条恭介は、小鳥やネズミさえ立ち止まって耳を立てる演奏を弾き終える。
「────ふぅ────」
ついぞ緊張は取れなかった。演奏は普段通りだが、見る人から見れば緊張がバレてしまう。それでは万全なパフォーマンスを実演したとはとてもじゃないが言えない。心身のコンディションは、体が万全で心が不完全だ。どうしたものか。
「すごい! もしかしてプロのヴァイオリニスト!?」
「っ……!?」
その時、活発な少女の声が廃墟のある路地裏に響いた。上条恭介は驚いて振り返る。そこには水髪翠眼の少女が拍手していた。
「……えっと……」
「あ、ごめんなさい! もしかして集中してましたか……?」
「……うん。まぁね。でも気にしないで。いい気晴らしになる。むしろ礼を言うよ。ちょうど誰かと話したいと思っていたんだ」
「?」
上条恭介はヴァイオリンをしまいながら話しかける。
「君は……この街の人?」
「あ、はい! 参京院の学園に通ってます!」
「そっか。実は僕、見滝原市から来たんだけど……」
「見滝原市?」
「知らないよね。で、これからコンクールに出るんだ」
「え、すごい!」
しかし上条恭介の顔色は優れない。それを見て察した少女は心配そうに問いかける。
「もしかして具合が悪いんですか?」
「そう見えるかい? でも大丈夫。ちょっと緊張しているだけだから」
上条恭介は深呼吸する。深く考えすぎてはドツボにはまる。何より今すぐ会場に戻らなければ。沢山の人に怒られるだろうが、時間ギリギリで入場すれば、そのぶん準備期間がなくて自分を追い込むことになる。そうなれば緊張どころじゃない。あとは演奏するだけだ。これはかなり無茶苦茶な蛮勇計画だが、無謀ではないはず。周囲の猛者と期待、それからくる圧倒的な緊張を取り除く手段として有効な戦術だと思っている。……その代わり、多くの人に心配かけて迷惑をかけてしまうが。一人になりたかったから誰にも連絡のひとつも入れず会場を出てしまった。警察とか呼ばれていたらどうしよう。
「ゴー! ファイト! ウィン!」
「……!?」
突として少女は応援の言葉を贈る。そして、いつの間に着替えていたのか。
チアガールの姿でボンボンを振り、胸とスカートをはためかせて、脚を振り上げる少女は《激励》する。
「ウィキャンドゥーイッ! 心は1つ!」
「────」
「通りすがりのチアガールだけど、応援する気持ちは本当だよ! 私、誰かを応援するのが好きなんだ! だって頑張っている人が好きだから! そして一緒に頑張りたい! ただ見守るだけじゃ……じっとしてるだけじゃ我慢できない! だから応援するの!」
「…………」
上条恭介は、通りすがりのチアガールを見て失笑する。
「……ふふっ」
「?」
「あ、ごめん! 今のは……いや、応援ありがとう。ちょっといきなりすぎてビックリしただけなんだ。でも……なんだか不思議と勇気が湧いてきたよ」
「……でも、まだ何か不安そうだけど……」
「あれ、バレちゃうか。……あ、僕のためにぴょんぴょんと跳んで疲れたろ? 水、要るかい?」
†
上条恭介とチアガールは並んで座る。チアガールが貰った水を飲んでいると、上条恭介は静かにヴァイオリンを弾き始めた。それは先程の興奮するような音色とは全く異なる印象を与えた。
「……静かで
「これが本来の僕なんだ。内側に熱いものを秘めているのもいい武器だ、とスカウトマンに言われたけど、僕としてはこっちの方がしっくり来るんだよね。この伝統と格式ある落ち着いた町とも馴染むと思うし」
「うん! 私もそう思う! でも熱い方もカッコイイよ! なんかクールって感じ!」
「熱いのにクールかい? パッションじゃなくて?」
話のおかしさに笑い合う。そこで上条恭介は腕時計を見やると、チアガールに振り向いた。
「まだ時間はあるか……ねぇ君。名前は? 僕は上条恭介」
「私は
「夏希。ちょっとだけ僕の話……聞いてくれるかい?」
「いいよ。暇で散歩してたら綺麗な音が聴こえて来てみたんだ。だから私のことは気にしなくて大丈夫! 悩み事なら解決するまでいつまでも聴き続けるよ!」
「ははっ。君は面白い人だね」
そうして上条恭介は簡潔に語った。怪我して腕が動かなくなりヴァイオリンを弾けなくなったこと。治療は絶望的で夢を諦めようとしていたこと。でも奇跡が起きて、ある日突然、腕が治り、スカウトマンに誘われてコンクールに出ることになったこと。
「そんなことが……また演奏できるようになってよかったね!」
「ありがとう。でもね」
上条恭介は右腕を見る。
「そんなことがあったから、僕……
「……!」
それは薬にもならない応援は好きじゃない、という意味合いとして空穂夏希は受け取った。
実際に上条恭介も、遠まわしにそのようなニュアンスで告げている。
「でも奇跡が起きた。このチャンスを
「……!」
「ありがとう。君のおかげで、根本的に大切なものを掴めた気がするよ」
上条恭介は立ち上がってヴァイオリンを構える。
「みんなと心を1つに。僕には応援してくれている人がいる。その人たちの為と思えば、そこが地獄だろうが気圧されず演奏できる。なぜなら僕は一人で戦うわけじゃない。みんながいる。そして僕は敵を見誤っていた。僕は見えない
上条恭介はヴァイオリンを奏でる。その音色は空間を震撼させた。力強い響き。静かに奥まで染み渡るような残響。緩急のついたよどみのない演奏技術は、聴く者の心をも震わせる。建物の振動が肉体に伝わり、魂まで共鳴し、精神が揺さぶられる。
「────ふぅ────。……今の、どうだった?」
「……!」
空穂夏希は、知らず目尻に涙を溜めていた。ハンカチで拭い取って、にっこり笑顔でグッジョブと親指を立てる。
「だと思った。さて……君のおかげで勇気と感動をもらった。だから僕も君に感動を与えたい」
「……?」
「ぜひコンクールに来てくれないかな。きっと君を感動させてみせるから」
上条恭介はチケットを渡す。それは色々あって美樹さやかに渡せなかったチケットだった。
「退院してから時間がなくてね。友人やファンの子が詰めかけてきて、友達に渡すことができなかったんだ。──ちょうど日が空いた時も、忙しそうに“パトロールするから後で”とか言って居なくなっちゃったし……」
「え! それを……私に?」
「さやかなら分かってくれるさ」
空穂夏希は、上条恭介に差し出されたチケット……ではなく白い手を見て、ぽっと頬が火照る。
「……でも、そんなこと言われると受け取りづらいような……」
「あ、そうか。しまったな……。そうだ! 僕の口添えがあれば特等席で見られるはずだ。スカウトマンの人もきっと許してくれるはず。さぁ行こう! 実はコンクール開始時間まであと三十分もないんだ!」
「えぇ!?」
「もし見に来てくれなくても、できれば迷子にならないよう、会場まで案内してもらいたいんだけど……」
「────わ、わかった! そういうことなら急がなきゃ!」
二人は走る。そして会場の出入り口付近では、大勢の大人たちと警備員が上条恭介を捜していた。そこで一分間こってりと絞られた上条恭介は、急ぎ会場の中まで連れ戻される。そして上条恭介の口添えでスカウトマンに案内された空穂夏希もまた、一般席ではない、斜め横から奏者を鑑賞できる特等席に通された。
────ひとりひとり順番に演奏が始まる。みな素晴らしい演奏を披露して拍手喝采。
やがて上条恭介の番が来た。彼の演奏は、最後に空穂夏希が聴いた時より洗練されていた。本番に強いタイプなのだろうか。それとも空穂夏希の激励が後押ししたおかげか。いずれにせよ美しい音色が奏で終わる頃には、上条恭介はスタンディングオベーションで迎え入れられた。
「ブラボー! ようこそ、神浜市の芸術へ! ブラボー! 上条恭介!」
†
全ての演奏が終了した。奏者は舞台の上に集められて入賞者がスポットライトを浴びる。順々にスポットライトを浴びていく奏者たち。細かい賞状のスポットライトのどれもが上条恭介を避けていく。その中で確かな手応えを信じる上条恭介は、毅然と目を開けて観客を見据えていた。そして────最優秀入賞者にスポットライトが浴びる。上条恭介の目の前が突然明るくなり、再びのスタンディングオベーションで迎えられた。
────余韻に浸る間もなく、上条恭介はトロフィーを貰って、何を語ったか覚えていないインタビューを終えて、気付けば楽屋の中にいた。と思えば、すぐに呼ばれて駐車場に向かうと、リムジンに乗せられそうになる。
「────って、ちょっと待った!?」
コンクールは完全に終わったというのに、なぜか緊張のあまり意識が遠のいていた。空穂夏希はどこにいるのだろうか。彼女にもう一度お礼を言わなければ。そうして振り返ると、彼女はそこに立っていた。慎ましやかに佇立して、彼女も放心しているのか、そのまま上条恭介を見届けてしまう様子だった。
「……ありがとう」
「!? う、ううん! えっと、すごかったよ! 本当にすごかった!」
「ふふっ」
「! あ、私、音楽とか全然わかんなくて、野球部のチアガールだから運動系なんだけど、それでもものすごくすごいってのはすごく分かった!」
「本当にありがとう。君の応援には本物の力があるね。もし君と出会わなかったら、僕の結果は暗澹たるものだっただろう」
「……っ!」
上条恭介は握手を求める。空穂夏希は一瞬ドキリとして頬を赤らめると、意を決して進み出た。ぐっと手のひら同士をつなぎ合わせる。
「それじゃあ、また」
上条恭介はリムジンに乗って見滝原市へ帰宅する。
それをぼーっと見届けた空穂夏希は、リムジンが見えなくなったところで思った。
「……
それと同じ頃。リムジンの後部座席に乗る上条恭介は、窓の外をぼーっと眺めてぽつりと言った。
「あ……連絡先くらい、聞いておけば良かったかな……」
しかし、その軟派な考えをすぐに切り捨てる。
「いや……僕は音楽一筋だ。だから、きっと女の子を悲しませてしまう。だから……」
それでも、という気持ちが沸いてくる。まさかの感情に戸惑う上条恭介は、俄然将来が楽しみになってきた。
†
それから時はひと月ほど進み、上条恭介は見滝原市における最後の登校日を迎えていた。今日のテストを終えて昼に下校すれば、あとはリムジンで神浜市中央区の高層マンションで独り暮らし。生活面では家政婦さんを雇うつもりだが、家族とは離れ離れになる。それでもこれはヴァイオリニストとして大切な一歩だ。どれだけ苦しかろうと夢を成就してみせる。大好きなヴァイオリンを、もっともっと楽しむ為に。
そうして玄関から外に出ると、黒いリムジンと運転手が待っていた。
「おはようございます。上条恭介さま」
「あ……運転手さん。来てくれたんだ……せっかくで悪いけど、最後の登校日だから、自分の足で地元の足を踏みしめたいんだ」
「もちろんでございます。差し出がましいことをして申し訳ございません」
「あ、そ、そんな謝らないで。敬語もいいよ……慣れないし。帰りは乗っていくから、その時はよろしくお願いします」
「かしこまりました」
リムジンとその運転手さん。彼とその車はスカウトマンから贈られたプレゼントだそうだ。これだけでスカウトマンがとんでもない富豪であることが分かる。まさに破格の待遇だ。身の丈に合わないとつくづく思う。故にこそ、最初は何かに騙されているのではないかと勘ぐったこともあり強く断った。しかしスカウトマンも天才的な音楽家で、その演奏を聴いて──こんな音楽を奏でられる人は悪人じゃない──と信じることにした。
「…………」
早朝。見滝原市の通学路。よく見た光景だが、こことも今日でお別れだ。それなのに彼の首は、なぜか上を向く。雲漂う青空なんてどこに行っても同じはず。それでも空の景色を目に焼き付けようとするのは、やはりどこに行っても空とは違うものなのだろうか。意識的に考えると違いがよく分からないが、それでも見上げてしまうということは、やはり無意識的に違いがあることを分かっているのだろう。なんとも不思議なものだ。それがなぜなのか気付くことができれば、また演奏の幅も広がるだろうか。
「────上条恭介だな」
「え?」
不意に名前を呼ばれた上条恭介は、目の前に立つ少年を見据える。知らない子だ。眉間にシワを寄せており、目の下に若干のクマがある。ちょっと顔に貫禄があって怖い。
そして、ゆるゆるで年季の入ったパーカーを着ている。よく洗ってあるようだが、日頃から飲み物をこぼしたり破れたりしているのだろうか。赤っぽく濡れた跡は血を連想させ、破れた跡は無理やり引き剥がされた感じがするため、まさか刃物の跡? そういった点が散見される。まさか喧嘩の跡だろうか? となると不良? 上条恭介は良くない考えが浮上して一歩身を引く。
「……しまった。服を着替えてくれば良かったな。怖がらせてすまない。ただ急ぎ忠告しておこうと思って」
「ち……忠告だって?」
「あぁ。実はな────オレは悪魔なんだ」
「えぇええええええええ!?」
一瞬で信じた上条恭介。彼は最初スカウトマンに対して騙されているのではないかと怪訝になっていたはずだ。そう考えると、もしや彼は音楽以外のことになると、やや天然になる悪癖があるのだろうか?
「悪魔は契約書の端っこにある小さな文字すら隅々と読まないバカと契約して色々とむしり取る。その代わり契約書の内容には非常に厳格なので決して嘘はつかない。悪魔とはそういう生き物だ」
「そ、そうなんだ……」
「ところで、そんな悪魔がお前の前に現れた理由は……なに。お前が奇跡を授かったからだ」
「奇跡……授かった? まさか……僕の腕のことかい?」
「察しがいいな。話が早くて済む」
悪魔は壮大な話であるかのように両手を広げて熱弁する。
「そう、とある女神様が自分を犠牲にして、お前に奇跡を与えたんだ。その代わりその女神様は今、死にかけているが」
「そんな……! ど、どういうことなんだ!? なんでそんなことに……!」
「等価交換。物事には代償がつきものなんだ。あんたの将来に希望が見えた代わり、女神様の将来は絶望的でお先真っ暗になったのさ」
「……っ!?」
「おいおい、そこで自分のせいだと思う価値観が人間の良いところでもあり悪いところだぜ。加えて言うが、オレはこのことでお前を叱りに来たわけでもない。勘違いするなよ」
悪魔は誤解を解いて話を続ける。
「自己責任。これは女神様が勝手にやったことだ。お前が責任を感じる必要は世界中どこを探してもどこにもない。ただ……お前にとっての女神様が、このまま不幸せになるっていうのは、ちょっとイヤだよなぁ……?」
「それは……まぁ……引け目を感じるというか、負い目に思うっていうか……でも、こんな僕にどうすれば……」
悪魔はニヤつく。
「そこでだ。女神様のために、ちょっとやってほしいことがあるんだ」
「……それは……?」
「お前の親友の為にも、一歩……いや
「……え? 親友って……女神様の為に何かをするんじゃ……」
「女神様は一貫して、お前の幸せを願っている。つまり、お前がそれをすることが、お前と……ひいては女神様の幸せに繋がるんだ。女神様のご好意、無下にするんじゃないぜ。じゃあな」
悪魔の体は霧となって消え去る。
「え────き、消えた!? ど、どこに……!? えぇええええええええ!?」
なんとも可愛い反応をする上条恭介は、先程まで悪魔が立っていた地点をペタペタとさわって目をこすり、白昼夢を見ていたのではないかとオロオロする。そこに学友の男子が現れて、倒れていると誤解された上条恭介は助け起こされた。誤解を解き、そのまま学校に向かう。
†