※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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講座内容
【魔法学:魔力属性と性質・変色実験】
【魔法学:意識分解睡眠法】



【意識分解睡眠法の利点は十二分にわかってもらえたと思う】悪魔

 

 時刻は朝の八時頃。長大な座敷。全24畳の畳が横一線と敷かれ並列し、8畳ごとに段差があって長机が置かれている。全ての机の上にはペン付きノートと水入りコップ。それらは助手たるシトピ隼人が用意したもの。

 

 座敷の入口手前は縁側。奥には教壇とホワイトボード。袴姿で外帯に閻切と神切を帯刀する悪魔は仁王立ち、机の前に座る魔法少女たちを見下ろす。席順は今のところ特になく自由。悪魔は深呼吸すると、横手の縁側に立つ祭り衣装の竜城明日香に視線を配る。直後、竜城明日香は大きな和太鼓を叩いた。それは学校のチャイム替わりであり、規律順守の魔法が掛けられた気付用の音色である。五臓六腑に沁みわたる和太鼓の響きを聴いた魔法少女たちは自然と気が引き締められて背筋が伸びる。和太鼓の響きが終わると同時、悪魔は大口を開けて朝のホームルームを始めた。

 

「おはよう。今日はよく来てくれた。さて、時間がないから能書きは飛ばす。──宣言しよう。オレはここに集った魔法少女を、今回の道場で一気に強化する。無論、このごく短時間で基本と応用を覚え、実践と経験を積ませて強化するというのは、生半可な教導では不可能だ。故に最高効率のスパルタ教育を実施する。それにより君たちは、今(・)日(・)こ(・)こ(・)に(・)来(・)た(・)こ(・)と(・)を(・)絶(・)対(・)に(・)後(・)悔(・)す(・)る(・)だろうが、近(・)い(・)将(・)来(・)、(・)今(・)日(・)こ(・)こ(・)に(・)来(・)た(・)こ(・)と(・)を(・)絶(・)対(・)に(・)感(・)謝(・)す(・)る(・)。そう断言させてもらう。

 ────それではさっそく授業を執り行う。一限目は座学と実践の併用【魔法学:魔力属性と性質・変色実験】だ」

 

          †

 

 ~08:04~ 一時限目。魔力属性と性質。その変色実験。

 

 悪魔はホワイトボードにポップな図を貼り付ける。それはシトピ隼人とジュリー凪に製作してもらった簡易的な属性説明図である。構成はシトピ隼人が、デザインはジュリー凪が担当した。

 

────────────────────────

 魔力の属性:基本性質:熟練性質(発展性質とも)

  魔属性   調和   噴射/爆発的推進力

  火属性   分解   分析/瞬間的分析力

  水属性   鎮静   発散/圧倒的発散力

  木属性   硬化   誘導/電磁的誘導力

  光属性   活性   転換/驚異的転換力

  闇属性   増殖   遮断/絶対的遮断力

  無属性   構築   夢現/想像的夢現力

────────────────────────

 

「……」

 ふと悪魔は中堅魔法少女の内心を直感する。

 

「先に言っておくが、オレは人の心が読める。で────中堅レベルの奴は既にこれを知っているから確かに退屈だろう。だが大事な部分だ。ここに誤解があると、あとでうまくいかない。だから、しっかりと再学習してほしい。上級レベルの奴も、この一限目は初心者に合わせてやってくれ。二限目からは誰もが思いもよらない手法を教えてやる。ぶっちゃけ、この道場のお楽しみはそこからだ」

 

 悪魔は解説を始める。

 

「基本的に魔力とは七つの属性に分かれている。属性の名称は地域ごとに異なる。今回は見滝原市や神浜市で使われる名称を用いて説明する。それは魔属性・火属性・水属性・木属性・光属性・闇属性・無属性だ」

 

 悪魔は霧の炎でチョークを構築すると指で弾き、机にうつ伏せた深月フェリシアの額を打つ。

 

「いてぇ!?」

「こんな初歩の座学で眠くなるな。ノートにメモを取るのが面倒ならスマホで説明(この)図の写真でも撮ってから寝ろ」

「え……授業中にスマホ使ってもいいのか?」

「学ぶ意欲があるならなんでもありだ」

 

 パシャパシャとシャッター音が続く。それを気にせず悪魔は話を続ける。

 

「魔力属性には、いくつか見分け方がある。性質から判断するのもそうだが、最も簡単な見分け方がある。────答えたそうだな、美凪ささら。言ってみろ」

「え……あ、えっと……」美凪ささらは姿勢よく立ち上がる。「魔力の色(・)です。それが最も簡単な見分け方だと思います」

「及第点だ。魔属性の魔力は橙色(オレンジ)をしている。火属性は赤色(レッド)。水属性は青色(ブルー)。木属性は緑色(グリーン)。光属性は黄色(イエロー)。闇属性は紫色(ヴァイオレット)。無属性は藍色(インディゴ)だ」

 

 悪魔は真面目な顔つきで魔法少女(生徒)を見やる。

 

「では実践的な質問を行なう。──敵は同じ魔法少女で、変身前と変身後の両方を想定。敵の魔力属性を確認する為の最短の方法を答えろ。時間制限は七秒」

 

 一、二、三、常盤ななかが手を挙げて答える。

 

「ソウルジェムの色です。変身後の場合は、ソウルジェムの色で属性を判別可能です。そして変身前の場合は、シルバーリングに光る宝石部分の色を見れば、同様に判別可能です。ただし判別可能な属性は、多くの場合、一種類のみ。敵の最も得意とする属性が、ひとつだけ判別できます」

「正解だ。まとめると、魔法少女のソウルジェムは、自分自身が最も得意とする属性の色で表されている。実戦的な話で言うなら、いちいち敵の魔力を確認してから把握するのでは後手に回る。先手を取る為にも、魔力の光の色ではなく、まずソウルジェムを確認するべきだ。────加えて、魔女戦闘の場合は、結界の着色具合で大体の属性傾向を判別できる。ここ、メモしておけ」

 

 そこで悪魔は、環いろはや相野みと達の疑問を直感する。

 

「そうだな。中にはこ(・)の(・)七(・)色(・)に(・)含(・)ま(・)れ(・)な(・)い(・)ソ(・)ウ(・)ル(・)ジ(・)ェ(・)ム(・)の(・)色(・)を(・)持(・)つ(・)魔(・)法(・)少(・)女(・)がいる。そういった場合は、主に三通りの考察ができる。いち、複(・)合(・)属(・)性(・)の(・)可(・)能(・)性(・)。に、亜(・)種(・)属(・)性(・)の(・)可(・)能(・)性(・)。さん、全(・)く(・)新(・)し(・)い(・)特(・)殊(・)属(・)性(・)の(・)可(・)能(・)性(・)だ。

 複合属性とは、たとえば黄緑色のソウルジェムなら、木属性(グリーン)と光属性(イエロー)を併せ持つ二重属性と言える。

 亜種属性とは、たとえばピンク色のソウルジェムなら、闇属性が薄まった脆弱属性と言える。その代わり火属性も少し使えるかもしれない。

 特殊属性とは、たとえば茶色のソウルジェムなら、七色のいくつかが混ざった色なのではなく、全く新しい属性なのかもしれない」

 

 悪魔はコップを教壇の上に叩きつけるようにして置く。

 

「それでは、今までの話を踏まえた上で実践練習を行なう。目の前にある水入りのコップに魔力を注いでみろ。すると水が変色する。そうして現れた色が、本人が使える魔力属性だと分かる。──ただの飲み水だと思って飲んだ奴は安心しろ。ただの水だ。特殊な液体は入れていない。帰ったら家でも試してみろ」

 

 さっそく魔法少女たちはコップに魔力を注ぐ。すると様々な反応がコップの中で生じた。

 

 水がコップと調和して石化したり、爆発するように噴き上げる者。

 水が分解されて純水となったことが分かり、水の味が辛(から)くなる者。

 水が鎮静されて水面が立たなくなり、断続的にしぶきを上げる者。

 水が硬化されて固形物のように固くなり、触れてもいないのにコップが机の上を滑る者。

 水が活性されて激しく波打ち、水の全てを魔力に換える者。

 水が増殖されて溢れ出て、その勢いにコップが微動だにしない者。

 水が構築されて不純物を作り、怪しい光を放つ者。

 

「これを水見式と言う。属性によって変色するだけではなく、属性の性質によって水の状態も変化する。そして変化の仕方は無限にある。自分の魔力で具体的に何をしたいかイメージできれば、まず水見式で練習してみろ。──ちなみに、とある魔法少女は、転換魔力で水を魔力に変えてリボンとし、硬化魔力でリボンの強度を上げ、構築魔力でリボンをマスケット銃に変え、噴射魔力で弾丸を発射した。そういうアクロバティックな使い方も可能だ。想像しだいでなんでもできる。基本、魔力の扱い方に限界はないものと思え」

 

 悪魔は一同の疑問を直感する。

 

「あぁ……《○○魔力》という呼び方についてだが、これはオレの勝手な名付けだ。地域によって属性の名称が違う以上、たとえば“火属性の熟練性質・分析”のことを分析魔力とは呼ばず、“解析魔力”と呼んでいる魔法少女がいるかもしれない。あくまで便宜上の名称だということを心得ろ」

 

 さらに悪魔は一同の疑問を直感する。

 

「どうやら全員のコップの中に不純物が構築されていることが気になっているようだな。理由はすっとばすが、実は全ての魔法少女は無属性の性質を保有しているんだ。魔法武具だって、お前らが無意識で構築したものだ。これ豆知識な」

 

 そうして悪魔は魔法少女たちの水見式を見守る。

 

「基本七種の属性に当てはまらない魔法少女は、この水見式で生じた水やコップの状態変化から考察し、自分の魔力の性質を把握するといい」

 

 やがて半数が水見式を終えたところで、ヒマそうにしている生徒に余談を話す。

 

「既に水見式を終えているということは、自らの魔力操作スタイルに自負があるということだな。そんな生徒に告げる。これは女子ウケを狙って考えてみたんだが、属性による恋愛や性格の相性診断表を作ってみた。一年半の長旅で数千を超える魔法少女と会ってきた経験からの偏見だが、面白そうだと思うならこれで暇を潰してほしい」

 

 すると、まだ水見式をやりたいと思いつつ、そういう恋愛診断ものに興味津々の女子達が集まってくる。悪魔は別のホワイトボードに図を貼る。それを見つめる綾野梨花、木崎衣美里、粟根こころと加賀見まさら、都ひなの、などなど。会話が盛り上がり、顔に花が咲いたり、意気消沈したりする。

 

【雲属性(闇属性)と霧属性(無属性)は相性がよく、恋愛面でカップルになりやすい】

【両親がそれぞれ雲属性(闇属性)と霧属性(無属性)の生体波動(精神波動=魔力)を持っており、それが子に受け継がれて雲と霧(闇と無)の二重属性になる子供が多い】

【例:恭弥アーデルハイト(両親が雲と霧(闇と無))、ジュリー凪(両親が雲と霧(闇と無))、黒江(両親が雲と霧(闇と無))が当てはまる】

 

【大空属性(魔属性)と雨属性(水属性)は相性がいい】

【特に雨属性(水属性)は湿度が高い傾向があり、隠れヤンデレや隠れメンヘラが他属性と比べて多く、それを黙って受け止められる度量が大空属性(魔属性)に多い】

【例:悪魔と青音すず、悪魔と水野むく、(単純に相性がいいという意味で)環いろはと七海やちよ(他意はない)】

 

【嵐属性(火属性)と雷属性(木属性)は相性がいい。兄弟面でも恋愛面でも強い絆で結ばれやすい】

【嵐属性(火属性)は姐御肌が多い】

【雷属性(木属性)は成長の振り幅が広く、初期は草食系でも、後期は雑食系になりがち】

【嵐属性(火属性)は、そんな雷属性(木属性)と一緒に居るとマンネリ化せずに済む。嵐(火)は雷(木)にトキメキ続けて、雷(木)は嵐(火)に助けられるばかりではなく、時に嵐(火)を支える方向性にシフトする傾向にある】

【例:巴マミと佐倉杏子、シトピ隼人と三浦ハル(他意はない)、常盤ななかと夏目かこ】

 

【晴属性(光属性)は、相手がオープンな性格なら誰とでも相性がいい】

【晴属性(光属性)と晴属性(光属性)は、互いに照らし合うため末永く対等でいられる】

【実は晴属性(光属性)と霧属性(無属性)は相性がいい。ただし霧(無)は晴(光)を敬遠しがち】

【例:笹川了子と黒川花(他意はない)、環いろはと黒江(他意はない)】

 

 ちなみに眉唾だが、とある場所で伝わる天候の恋愛相性図がある。どう考えても言葉遊びの範疇であり「最後は~~のため相性が良いとされる」の「最後」が、どうにも納得しがたいが、一応紹介しておく。

 大空は全ての天候を包容するため、全ての属性と相性が良いとされる。具体例は存在しない。

 嵐は雲を呼び、雨を降らし、雷を落とし、最後は晴れるため、嵐はこれら四属性と相性が良いとされる。具体例はシトピ隼人。

 雨は降ったあと霧を生み、最後は晴れをもたらすため、これと相性が良いとされる。

 雷は特にない。

 晴は雲に遮られるため相性が悪いとされるが、雲でも陽は透けるため問題ないとされる。

 雲は雨を降らし、最後は晴れるため、相性が良いとされる。

 霧は特にない。

 このように、基本的に仲の悪い天候が存在しない。重ねて言うが、こちらは信ぴょう性が低いため留意されたし、と悪魔は述べる。

 

 

 

 それから悪魔のもとに次々と質問が来る。主に魔力属性における相談を受けるが、天候属性の相談は受け付けてないとも言える。

 

「あの……」五十鈴れんはモジモジとしている。「火属性と……水・闇・無は……ど、どうなんでしょう……? 相性は……」

「火と水は反目しあいがちだが」「!?」「互いを認める器があるなら末永い」「……!」「火と闇は相容れない」「!!」「火と無も同様だ」「……!!!」「総合的に見て相性がいいとは言えないが、実は綾野梨花は火属性ではない可能性がある」「?!」「まぁそんなわけで例外扱いだ。良いか悪いかは、この診断表では判断がつかない」「……そう、ですか……」「しかしオレの経験則で助言するなら、湿度の高さは割(・)と(・)お(・)互(・)い(・)様(・)だ。どちらも乾燥する(相手を引っ張り支える)ことを覚えれば、うまくいくこと間違いなしだと保証しよう」「────!!」五十鈴れんはお辞儀して、いそいそと席に戻った。

 

「なぁ悪魔」都ひなのが問いかける。「この、大空とか雨とか、天候っぽい表現はなんだ?」「あとで教える」「そうか。別の地域の名称かと思ったんだが……なんか独特だと思ってな」「まぁな。だがこれは別の地域ではない。別の界隈の名称だ」「……別の、界隈……?」

 

 やがて大半の生徒が水見式を終える頃。悪魔は生徒に声を掛ける。

 

「さて、今の話が完璧に頭に入って、すぐに実戦で使えると思った者は手を上げろ」

 

 その声を聞いて手を挙げる者は、中堅者から上級者だけだった。

 

「だろうな。人間は学習したことを実戦レベルで身につけるためには三年も掛かると言われている。大袈裟な気はするが、これは学んだことをすぐ活かせるわけではないという現実を表している。──だがオレは宣言した。今回の道場で全員を強化すると。……というわけで、一限目は終了! 三分間の休憩を挟んだあとは、二限目の座学と実践の併用【魔法学:意識分解睡眠法】を始める!」

 

 和太鼓が一発、大きく響き渡る。

 

「お手洗い等を済ませたい者は魔力を使って超スピードで終わらせてこい。二限目で確実に身に付かせてやる」

 

          †

 

 ~08:33~ 二時限目。意識分解睡眠法。

 

「それでは二限目を始める。意識分解睡眠法とは、魔法少女にとって最も効率的な休息方法であり、非常に優れた睡眠学習の方法である。簡潔に言えば、魔力で自身の意識を分解する。メリットは通常睡眠時間の4倍の睡眠効果が得られる点。デメリットは何が起きても目を覚まさないため完全無防備になる点だ」

 

 メリットについて。通常より四倍の睡眠効果を得られる。つまり15分寝るだけで1時間の身体休息が取れる。

 

 デメリットについて。意識を分解すると夢を見ることがなくなり“記憶の整理”が行なわれなくなる。すると起床後、脳の休息が取れていないため頭の中がパンパンとなり、睡眠学習が行われていないため何も身に付かず、精神的な休息も取れていないため、いずれ身体にも不調をきたす。

 しかし対策は簡単。結論から言えば、特定の意識を分解するだけでいい。

 

 意識とは一口に言っても多様な種類が存在する。意識とはカテゴリ。その中に全体意識、魂魄意識、精神(霊的・心的)意識、細胞(身体的)意識、自己意識、認知意識(メタ認知)、現象意識(クオリア)、浅層意識、中層意識、深層意識など多種多様な意識を知的生命体は保有する。

 野菜というカテゴリの中にトマト、ニンジン、キャベツ等があるように、実は意識とは数多くあるのだ。

 

「そして特(・)定(・)の(・)意(・)識(・)とは、すなわち魂(・)魄(・)意(・)識(・)・(・)精(・)神(・)意(・)識(・)だ。霊的意識・心的意識とも言う。とどのつまり脳髄の意識を分解(シャットダウン)すると記憶整理不可となるため、肉体の意識ではなく、魂あるいは精神の意識を落とせばいい(シャットダウンすれば)いい、という話だ。

 そうすれば魂レベルで意識を落としていても、肉体レベルで意識は動いており記憶は整理されるため、睡眠学習を阻害することはない、という理屈だな」

 

 しかし、自分の魂や精神をシャットダウンなんて、どうすればそんなことができるのか。

 その疑問を直感した悪魔は、なんてことのないように言う。

 

「疑問は尤もだが、詳細は省いて簡単に説明する。自(・)分(・)の(・)ソ(・)ウ(・)ル(・)ジ(・)ェ(・)ム(・)に(・)魔(・)力(・)を(・)流(・)し(・)て(・)、(・)そ(・)の(・)中(・)に(・)あ(・)る(・)意(・)識(・)を(・)全(・)て(・)分(・)解(・)す(・)る(・)────それだけで先に述べたデメリットは全て帳消しとなる。理由は聞くな。学術論文を読み上げるレベルで長くなる。あと難しすぎて理解できない奴が大半だ。かくいうオレも理解できてない。本気で知りたい奴は隼人に聞け」

 

 都ひなのが眉をひそめる。七海やちよは目をつむって俯く。エッダは腕を組んでおり、仮面の下の顔色が窺えない。

 今の悪魔の発言は、よくよく考えればソ(・)ウ(・)ル(・)ジ(・)ェ(・)ム(・)の(・)中(・)に(・)魂(・)や(・)意(・)識(・)が(・)あ(・)る(・)と言っているも同然だ。しかし魔法少女たちの中で、それに気付いて深く掘り下げようとする者は少なかった。中堅者あたりは疑問に思っているが、悪魔は考察する隙を与えず、話を続ける。

 

「おっと実践練習はまだだぞ。寝たあとはどうやって起きるんだ? ──そうだ。今ひやりとしたせっかちな生徒は優秀だが、少し物を考えるように。……さて、起きる方法は────そうだな。答えてみろ、いろは。ヒントは魔力性質の中にある」

「えっ……えっと────」環いろははホワイトボードの図を見て答える。「……無属性の基本性質の構築、ですか?」

「及第点だ。分解した意識を構築して覚醒する。──では胡桃まなか。いま疑問に思ったことを口に出してみろ」

「! ……その、自分は分解魔力を持っているからいいんですけど、分解魔力を持っていない魔法少女は、どうやって意識を分解するんですか? 構築魔力に関しては、魔法少女なら誰もが持っているみたいなのでいいとして……」

「いい質問だ。話は逸れるが、どうせ睡眠学習でしっかりと頭の中に入るんだから、ここで話がゴチャゴチャしても構わないだろう。説明する」

 

 悪魔は意識分解睡眠法と、これから話す豆知識の区別を付けさせるため、声色を少し低く変えて解説する。

 

「結論から言えば、何も問題はない。通常魔力は純粋にして万能なエネルギーだ。それひとつで基本性質から熟練性質、全ての性質が扱える。そう、通常魔力とは、いわば万能魔力なんだ。通常魔力は無色だ。透明ではないが、光そのもののように見える。

 ──では、通(・)常(・)魔(・)力(・)と(・)属(・)性(・)魔(・)力(・)の(・)違(・)い(・)とは何か? 無論、性(・)質(・)特(・)化(・)と(・)魔(・)力(・)節(・)約(・)にある。

 たとえば通常魔力で、とある物質を分解したい場合、それにかかる魔力が10ポイント掛かるとしよう。そこを分解魔力なら5ポイントで済む。しかも分解力と分解速度も著しく強くなり速くなる。分解魔力に熟練して分析魔力を使えるレベルになれば、分解魔力が1ポイントで済む場合もあるぞ」

 

 一同から『へぇ~』と感心の声が出る。目を見張る生徒もいた。すぐにメモを取る生徒もいる。全く耳に入らず、よくわからないと言いたげな生徒もいる。悪魔は声色を戻す。

 

「まぁ意識分解睡眠法を使えば嫌でも覚えてしまう。──では全員、実践練習に入る。自分のソウルジェムに魔力を流してみろ。《十五分だけ意識を分解したい。そのあとは意識を構築したい》……そう思うか、願うか祈るか。何をどう考えて実践するかは各々の自由、やり方は任せるが……ともかく通常魔力を流せ。そして当然、分解魔力と構築魔力を持つ者なら、そっちを使った方が効率がいい。あと、もし起きることに失敗しても時間になったら起こすから心配するな。他人が構築魔力をソウルジェムに流せば覚醒させることができる。

 ちなみに暗殺対策で、緊急時に覚醒する方法も教える。あらかじめ大(・)き(・)な(・)音(・)や(・)特(・)定(・)の(・)気(・)配(・)を(・)感(・)じ(・)た(・)ら(・)覚(・)醒(・)し(・)た(・)い(・)などとソウルジェムに魔力で入力しておけば、無防備な意識分解状態でも、すぐに覚醒することができる。

 というわけで、まずはオレを信じて挑戦してみてほしい。それと言い忘れたが、魔力を流す前に机の上にうつぶせになっとけ」

 

 ドサドサドサ、と……少なくない魔法少女の肉体が机の上に倒れる。

 

「悪い。テンポを意識しすぎて言うのが遅すぎた。ほかのやつらは気にせず続けてくれ。──隼人、みんな、頼む」

 

 教室の端っこで待機していた家庭教師や助手たちが、倒れた魔法少女の体を抱き起こし、キレイに机の上にうつ伏せで寝かせる。

 

「それと体が無防備になることを恐れて警戒している生徒は、かわりばんこと行こう。これから寝る奴が起きたら、交代制で寝てもらう。その三十分の間、起きている十五分間は暇だから────そうだな。二限目の拡張版と行こう」

 

 悪魔はテンポよく教えを授ける。

 

「これより2.5限目【魔法少女健康法】を始める」

 

          †

 

 ~8.41~ 2.5時限目。魔法少女健康法。

 

「さて、意識分解睡眠法を使えば、どんなに授業内容がごちゃっとしていても、頭のいい脳みそ様が綺麗に情報を整理整頓してくれる。そういう意味では、この意識分解睡眠法……情報の整理や推理に関して非常に便利な技術と言える。

 なお記憶整理に必要な睡眠時間は約六時間(360分)とされる。つまり意識分解睡眠法で1時間半(90分)眠れば、4倍の恩恵により、実質的に六時間(90×4=360)の睡眠が取れる。だが一限目の情報量なら、15分の睡眠すなわち60分程度の実質睡眠時間で、睡眠学習としての記憶定着は充分だと判断した。というのも記憶定着のために叛逆魔法を使っている。本来なら一時間半の睡眠が必要だということを覚えておけ」

 

 悪魔は余談を話し続ける。

 

「ついでにソウルジェムの濁りと穢れの違いについて教えておこう。濁りとは魔力の消費で溜まる黒ずみを意味しており、穢れとは精神の動揺で溜まる黒ずみも(・)意味している。そして濁りや穢れが放つ不思議な力を“瘴気”と総称する。魔女が放つ黒いオーラのような力も、同様に“瘴気”とまとめて呼ぶ。その理由については、いずれ分かる」

 

 悪魔は生徒にソウルジェムの真実について考えさせないために話を続ける。

 

「今度はソウルジェムの濁り・穢れによる魔力の低純度化について教えよう。以降、濁りを含めた意味で穢れと省略する。

 さて、ソウルジェムの穢れが溜まるほど、魔力の性能は低下する。魔力の圧力・速力・燃費。すなわち火力や回転効率。たとえばソウルジェムが20%濁っていると、攻撃力も防御力もスピードも20%低下する」

 

 そこで水波レナが驚いた。

 

「えっ……それじゃあソウルジェムが半分穢れていると、いつもより半分の力で戦わなきゃいけなくなるの?」

「そうなる。よってソウルジェムに穢れを溜めることは、かなり危険で致命的だ。それでも君たちはソウルジェムを半分ほど穢した状態で魔女戦闘を行なったことが多くあるだろう。よく生き残れたな。チーム行動のおかげか? まぁ、なんとなくこのことを察している奴は多いだろうが、実は意外とこの事実を知らない魔法少女は多い。なんでだろうな? どう思うキュゥべえ」

 

 悪魔はわざとらしく首をかしげると、匣兵器を開匣。結界魔法でDキュゥべえを覆い、教壇の上に置く。

 

「……僕に聞かれても困るよ」

「そうだな。オレたちは魔法少女じゃない」

「きっと深く考えなかったんじゃないかな?」

「オレはそこまで彼女たちが愚かだとは思えないんだが」

 

 悪魔は、そうとも思っていなさそうな傲慢な目つきで、生徒たちを見やる。

 その掛け合いに少しばかりの嫌悪感を覚えた常盤ななかは、キッと一人と一匹を見据えた。

 

「──では本題に入ろう。魔法少女は魔力で生体活動を補助している。そのため魔法少女は心身の調子に齟齬が生まれやすい」

 

 悪魔はホワイトボードに図を貼る。

 

 たとえば一般人Aと魔法少女Bがいるとする。二人はHP(体力ポイント)とSP(スタミナポイント)のパラメータを持ち、どちらも100ポイントずつ保有している。ただしBだけは魔法少女であるため、ここでさらにMP(マジックポイント)を100ポイント保有している。

 

 では、AとBは一日の生活でSPを30消費する。ただしBは魔女退治の仕事があるため、その戦いでHP・SP・MPを50消費した。

 

 さて、魔法少女は、魔力を使うだけで簡単に肉体の負傷(イノチ)と肉体の疲弊(スタミナ)を回復できるが、精神(メンタル)は回復しない。つまりMPを使えばHPとSPが回復するが、MP(メンタルポイント)は回復しない。そこで、もしBがHPとSPを回復させたら、この一日でBはどれだけのMPを消費しただろうか。

 

「MP180です」常盤ななかが即答した。「魔女退治で50、魔女から受けたダメージを回復するのに50、その一日で受けた生活面と戦闘面で疲弊したスタミナを回復するのに80。合計180の魔力を消費しました」

「正解だ。そしてソウルジェムは魔力を使うほど濁る。さらに精神が摩耗するたび穢れる。BはMPを180消費したが、実際のソウルジェムはそれ以上の穢れを溜め込んでいる可能性がある。どれだけ肉体の怪我(HP)と疲弊(SP)を回復させても、心の負担までは回復しないように……目には見えない疲労が蓄積している」

 

 ではどうするか。例を続ける。

 Aは一日の終わりに、今日の疲れを癒すため、よく食べてよく寝ることで、翌朝にはSPが全快する。

 Bも一日の終わりに、今日の疲れを癒すため、普段通りよく食べて寝るが、不思議とSPは回復しない。

 

 な(・)ぜ(・)な(・)ら(・)B(・)の(・)S(・)P(・)は(・)、(・)既(・)に(・)魔(・)力(・)に(・)よ(・)っ(・)て(・)全(・)快(・)し(・)て(・)い(・)る(・)か(・)ら(・)。

 

 翌朝。Aは気力充分で目を覚ましたが、Bはどこか調子が優れない。それはなぜか?

 

「…………」回答者が現れない。そこで神名あすみが手を挙げた。

 

「あすみか。いいぞ」

「正解は、心身にズレが生じているからです。AさんとBさんは決定的に違う所がある。それは生きるか死ぬかの日常を送っているかどうかの違い。魔法少女になる前と生活習慣が変わったことも大きい。本来の人間的な生活の中で養うはずのSPを魔力で回復させてしまった事が最大の要因。つまりBさんは、Aさんと比べて精神的な消耗が激しくなっているんです。言うなれば、心のSPの問題。ソウルジェムのMP(マジックポイント)と、心のMP(メンタルポイント)は、表裏一体どころか渾然一体なのです」

「よくできた。そういうわけで今回教えることは、スタミナ回復に使う魔力のコストカットと、心身のズレによる不調を把握して、きちんと自己管理をする方法だ」

 

 そこで冒頭に戻る。魔法少女は日常的な生体活動を魔力で補助している。だがそれはも(・)っ(・)た(・)い(・)な(・)い(・)とは思わないのか。

 

 HPは適切な治療と自然治癒で回復できるが、全治一ヶ月やら一年やらと治るまで時間が掛かるため、こちらは魔力による回復の方が遥かに効率的だ。むしろHPの回復をケチってはいけない。それは遠からず、戦闘中であれば一秒後の死を意味する。

 

 よって削減するべき魔力は、SPの回復。SPはよく食べてよく運動しよく寝ることで、HPと比べて速やかに回復する。しかし大半の魔法少女は、無意識にHPを回復する時、ついでにSPも回復させてしまっている子が多い。そういう魔法少女は、負傷と疲弊の区別を把握し、魔力に頼らなかった人間時代のことをよく思い出してほしい。

 

「つまりお前たちは魔力の無駄遣いをしているんだ。SPまで魔力で回復させる必要はない。加えて、ぶっちゃけ魔法少女になってから、魔女戦闘のあとで摂取した食べ物の栄養は全て無駄になっていると断言していい。魔力によって栄養充分の体の中に、噛み砕いた食べ物を通したところで、栄養過剰となり毒となる。そして毒を無毒化するため無意識に魔力を使い、さらに魔力を無駄遣いをしている。……あまりピンと来ないだろうが、ここにいるほとんどの魔法少女が、この無駄遣いに当てはまっているのが現状だ」

 

 ではどうするか。悪魔は簡潔に話す。

 

「こればかりは各々の生活スタイルに関わることだから、あれこれどうしろと強制しても難しい。各自、生活態度の側面からも魔力を節約したいなら、怪我と疲弊の区別を意識的に見分けて、魔力を回し治癒することだ。そして魔女戦闘後は、普段の二倍……いや三倍増しで栄養摂取をすること。コンビニ弁当なら一度に三箱以上は食べろ。なに、太ることはない。そのぶんのカロリーを消費したんだ。太るとは余計なものを摂取したから。元を取って太ることはありえない。で、ここまで説明したならカロリーの消費計算も教えるべきなんだろうが、オレはそれについて専門外だ。なにより年頃で体重に気を遣う君たちなら、わざわざオレに言われるまでもないだろう。きちんと自己管理してソウルジェムの濁りと穢れを抑えるように」

 

 ジャスト15分。構築効果で続々と意識分解睡眠法で眠っていた魔法少女が覚醒する。

 

「それでは代わりばんこだ。今まで起きていた奴は寝て、今まで寝ていた奴は【魔法少女健康法】について解説する」

 

          †

 

 ~09:00~ 二時限目が終了し、三分の休憩終了後。

 

「三限目を始める前にお知らせだ。これから休憩時間は全て、合計30分の意識分解睡眠法に当てる。そこで一つ聞きたいが、深月フェリシアと三栗あやめ。一限目と二限目の内容をまとめてみろ」

 

「えーっと、魔力の属性が七種類あって、一種類につき二つの性質があった! 調和分解鎮静硬化活性増殖構築と、噴射分析発散誘導転換遮断夢現! うぉおおおすげぇええオレ全部言えたぁああ!? なんかきっちり覚えてるぞ!? ……あ、あと! 通常魔力より属性魔力の方が、性質について特化している! 水見式を使えば魔力を操る練習ができる! そして全ての魔法少女は無属性でもある! こんなところか?」

 

「次はあたしの番な! ソウルジェムに分解と構築の魔力を流せば、意識分解睡眠法で効率よく睡眠学習ができる! あと短い睡眠で休息が取れるけど、だからって夜遅く活動してはいけない! 魔法少女健康法を駆使して、魔力で治すのは命に関わるケガだけ! 体の疲れは緊急時でない限り、食べて運動して寝て、普通に元気になること! すると魔力やグリーフシードの節約になるし、生理習慣も崩れにくい!」

 

 完璧な回答である。

 七海やちよと静海このはは、うちの子がこんなにも聡明になったなんて、と感動の涙を流す。

 

「この中で一番のバカ二人がここまで答えられるんだ。意識分解睡眠法の利点は十二分にわかってもらえたと思う」

「おい悪魔いまなんつった!」

「やるか! やんのかオラ!?」

「そういうわけで、もうひとつ。紹介が遅れたが、横手の縁側に待機しているのが、今回の道場でお前らを教え導く教師と、その助手だ」

 

 竜城明日香によって障子が開かれる。

 

「十代目もとい悪魔様。任せてください! もし生徒の中で十代目に舐めた口を利くよーな奴がいたら、十代目の右腕たるこの俺がシメてやりますよ!」悪魔は冷静に言い含める。「そういうのいいから自己紹介してくれ」「すみません十代目! 俺は火属性の家庭教師(かてきょー)! シトピ隼人! 腕が鳴るぜ……てめーらビシバシ鍛えてやるからな!」銀髪にワルの服装。いかにもな不良に怯える魔法少女が多数。しかし理知的なメガネが、ほんの少しだけシトピ隼人への恐怖を和らげていた。

 

「俺は水野むく! 水属性の先生だ! よろしくな!」

 

「ガハハー! 悪魔! よーやくランボさんの実力を認めたなー! 木属性のセンセーとして、ランボさんがいっちばんってことを教えてやるもんねー!」悪魔は淡々と命じる。「隼人。あとで十年バズーカを当ててくれ。叛逆魔法で大人ランボを滞在させる」「了解です!」「ぐぴゃ!?」

 

「極限!! 俺は並盛中のボクシング部主将! ライオンパンチニストの笹川了子だぁあああ! 光属性の先輩として、とことん殴り合おうぞ!」

 

「え、えっと……闇属性の教師代理の黒江です……本来はただの助手なのですが、よろしくお願いします……!」悪魔が補足する。「闇属性の教師は少し遅れている。なに、必ず連れてくるから心配するな。教師としては一番の奴だ。短い時間でも、きっちり君たちを成長させてくれるだろう」

 

「……ジュリー凪。無属性の家庭教師(かてきょー)……よろしく……」

 

 続いて助手の挨拶。

 

「助手の百江なぎさなのです。闇と無が専門なのです」

「神名あすみです。無属性が専門です」

「拙者はバジルと申します! お見知りおきを! 雨……いえ、水の属性や性質に関することなら、お気軽になんでも相談してください!」

「みんなご存知の愛され系調整屋・八雲みたまでーす! まだ活躍の場面じゃないから、またあとで会いましょうねぇ~」

「い、和泉壮月です。場違いだとは思いますが、雑用係として頑張ります。あ、でも、大空……じゃねぇ。魔属性と光属性の性質についての相談なら乗れるかもしれません。よろしくお願いします!」

 

 教師と助手の紹介が終わる。かくして悪魔は授業を始めた。

 

          †

 

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