アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
【魔法少女の真実(魔女化と魂の宝石化)】
【啓蒙・魔法少女の救済のひとつ】
~12:59~ やや時は遡り。
悪魔は寝室に使っていた座敷で、簡易的なスケジュール表を作っていた。
ふと縁側に人の気配。霧・雲・嵐の柔和で剛健な波動を感じることから、それが佐倉杏子だと分かる。
「どうやってなぎさの遮断結界を抜けてきた?」
「分解魔力を使えばお茶の子さいさいだよ」
「結界を破壊したなら、すぐになぎさから報告が入るはずだ。どうしてバレていない?」
「鋭性と鈍性の魔力を使いこなせば、鍵開けの要領でセンサーに引っかからず開けられるだろ?」
悪魔はなるほどと頷く。それは緻密な魔力コントロールがないとできない芸当だ。
しかし、そうまでして道場に訪れた理由はなにか。なぜ人目につかないよう悪魔の前に現れたのか。
悪魔は直感する。今の佐倉杏子は、非常に不安定な精神状態にある。
咀嚼音。
どうやら揺れる心を、とにかく何かを食べることで紛らわしている様子。下手な刺激は避けたい。
「……しっかし、魔法少女を集めて何をしているのかと思いきや、まさか魔法少女に健康の秘訣を教えているとはね。自分のことを棚に上げるのがそんなに好きかい?」
「……」
障子のシルエットが縮む。縁側に座ったのだ。肩に乗せた槍が一定間隔で影を躍らせる。
「授業中、悪魔を見て誰も思わなかったのかね。
「半年以上前だ。
笹川京子の願い事を無かったことにした時、だろうか。あるいは、逆転勝利と叛逆魔法で先延ばしにした寿命さえ尽きて肉体が崩壊し、精神も摩耗して自我を失い、魂が腐り落ちて灰燼と化した時、だろうか。
しかし、そんなことを考えても詮無いことだ。悪魔は無駄話を終えて、佐倉杏子にとって必要な言葉を直感する。
「オレは好きに生きている。その結果が現状だ。望んだ結末にとやかく述べることはない」
それでも胸の内で思うこと。
────最後に一人くらいは、本当の意味で救ってやりたい。
そんな赤い想いを、悪魔は直感した。
「好きに生きる……結局、そーゆーふーに落ち着いちまうんだね」
佐倉杏子は縁側から飛び降りると、その横顔が障子に影を作る。
「あんたさ。この道場が終わったら、完全に神浜の魔法少女と手を切ろうとしてるんだろうけど……ぶっちゃけそれは逆効果だと思うよ」
「なぜそう思う」
「情けは人の為ならず、巡り巡って己が為。要は、あんたの教えはあいつらの為になる。すると、あいつらは恩を返す為、あんたを追いかける」
善因善果。他人に施した優しさは、いずれ自分に返ってくる。施される優しさとして返ってくる。
「予言してやるよ。あんたはこれであいつらを突き放すつもりだろうけど、逆に追いかけてきたあいつらに助けられるってね。あんたはいつもそういう星の巡りにある。因果応報ってやつさ。どんなに孤独になりたくても、周りがそれを許しちゃくれない。まるで愛と希望の物語の主人公だ」
「それが“悪魔”を名乗っているとは、とんだ皮肉だな」
「むしろ
「──……なに? 佐倉────」
悪魔は、突然の真っ赤な思いを直感して戸惑う。今まで表に出そうとしなかった気持ちを、突然素直に向けられた。障子に目をやるが、既にそこに影はない。だが声だけは魔力に乗って遠くから響いてくる。
「邪魔したね。あんたと話すと心が落ち着くから寄らせてもらったよ。これであたしなりの答えも出せそうだ。まぁもう少し時間は掛かるだろうけどね────」
悪魔は障子を開ける。陽の光を身に浴びて思うことは、佐倉杏子の熱い魂。
やはり彼女は強靭な精神力を持っている。
いかなる苦境。たとえ霧の中、闇に包まれて不安に苛まれて孤独に悩み、雲が全てを覆い尽くしたとしても。この世は無常。常に嵐は吹き荒れる。ならば、その嵐に自ら飛び込んで希望の火を熾す。自ら嵐に立ち向かうなど自暴自棄の極致だが、むしろそれが彼女の生存につながるのなら言うことはない。
「オレが何かするまでもなく、あと一歩ってところか。さすがだな、佐倉……」
最も親しい戦友の回復を願い、悪魔は生徒たちの待つ教室に戻った。
†
~13:15~ 四時限目。魔法学:魔法少女の真実(魔女化と魂の宝石化)。
「さて、朝のホームルームでオレが言ったことを覚えているか? 改めて言い直そう。──君たちは、すぐここに来たことを後悔する。だが近い将来、ここに来たことを必ず感謝して誇りに思う。そんな道場にしたいと思っている」
つまり今から地獄の
「悪魔!」都ひなのが静止の大声を上げて立ち上がる。次の瞬間、水野むくから借りた《助太刀魔法》で瞬間移動したシトピ隼人は、都ひなのの背後から現れ、その首根っこを抑えて地面に叩きつけた。「ぐあっ!?」そしてシトピ隼人が言う。「悪いが大人しくしててくれ。こっからは一度のミスも許されねぇ大事な話があるんだ」
一同に動揺が広がる。魔法少女の真実を知っている者はまさかと思い、知らない者はこれから何が始まるのかとソウルジェムを明滅させる。
「みんな落ち着いて~」場の状況に似合わぬ、八雲みたまの笑顔と柔和な声。神浜市の魔法少女にとって大切な存在である彼女がそう言うなら、きっと何かワケがあるのだろう。そう考える者は少なくないようで、なんとか次の悪魔の言葉を聞き入れられる瞬間があった。その隙を逃さず直感した悪魔は口を開く。
「問題だ。魔女はどこから生まれる?」悪魔は直感する。「グリーフシードから? 不正解だ。木崎衣美里、加賀見まさら」「うっそー!」「……」
多くの魔法少女もそうだと思っていた。では魔女はどこから生まれるのか。悪魔に視線が集まる。
「結論から言おう。魔法少女はソウルジェムに濁りと穢れが満タンになることで魔女となる」
『────────』
時に、あまりに常識はずれの突飛な発言は、いかなる理屈をこねても一笑に付される。だがそれは裏を返せば、認めたくないが故の意地っ張り。その意地を崩す方法は簡単だ。
「証拠を見せなければ信じてもらえない。ならば証拠を見せよう。だがそのためには誰かが死ぬ必要がある。魔女になるということは、魂が穢れて自我を失い、呪いを振り撒く怪物になることを意味するからだ」
悪魔は、神名あすみの方を見る。
「あすみ。悪いが、お前には死んでもらう」
「────……は?」
「美樹さやかは、あすみがここにいることに何も言わないが、お前は以前《精神攻撃魔法》を使って、彼女を魔女化に追い込もうとした。以前からそういった悪行を何度か止めてきたが、もう面倒を見切れない」
「……え。ちょっと、まってよ……」
悪魔は開匣。晴拳銃を取り出す。
「お前は死んだ方が衆生のためだ」
「待てって言ってんだろうがぁああああ!?」
「じゃあな、あすみ」
照準を額に固定。神名あすみは、まさか悪魔に銃口を向けられるとは露ほども思っていなかったようで、飛び退こうとするタイミングが大きく遅れてしまう。刹那、奥の机が爆発。先ほど学んだ発散魔力で高速移動する美樹さやかが飛び込み、悪魔に剣を突き立てた。青い閃光と剣戟。教壇の前に水野むくがいつの間にか立ちはだかり、美樹さやかと鍔迫り合う。
「さっそく発散魔力を使いこなしてるな。もしかして前から知ってて力を隠してた感じ?」
「なんとも信用ならない感じがしたんでね」
「そっか。ま、嘘つきは泥棒の始まりって言うしな! わりぃ!」
撃鉄が落とされる。「!!」美樹さやかは水野むくを退けようとするが間に合わない。
発砲。神名あすみの眼前に光り輝く弾丸が迫る。直後、彼女の肩を突き飛ばして庇った存在がいた。
「へ────?」
それは百江なぎさ。仇敵であるはずの神名あすみを突き飛ばした彼女は、額に風穴を開けられて真っ赤な血しぶきが障子に飛び散る。
『────ッッ!!?』
誰かがヒステリックな悲鳴を上げようとした時。
「このように、百江なぎさは
『……?!』
「ソウルジェムの輝きを見ろ。まだ光っている。魔法少女は脳天を打ち抜かれても、首を切り落とされても、心臓を破られても、まず死ぬことはない。肉体的には死を迎えるだろうが、そんなもの
百江なぎさの右手の中にはソウルジェムが光り輝いている。だがそれはみるみると黒ずんでいた。
「ソウルジェムとは、願いの対価に少女の魂を物質化したものだ。つまり魔法少女は、ソウルジェムを破壊されると死に至る。なぜなら魂が破壊されるわけだからな。そうなっては、いかにソウルジェムの破片を拾い集めてくっつけても無駄だ。違うか? キュゥべえ」
発砲。神名あすみの手に持っていたソウルジェムが撃ち抜かれる。瞬間、彼女の目から光が失われて床に倒れ込んだ。
『────ッ!!?』
教卓の上に座り尻尾を振るDキュゥべえは、無機質な赤い目で魔法少女たちを観察しながら答える。
「正解だよ、悪魔。魔法少女にとって肉体はただの入れ物。本体はソウルジェムだ」
「────なにを、言って……キュゥべえ────」
美樹さやかの狼狽。それは以前聞かされたことだが、やはり考えすぎないようにしていたようだ。恋愛ごとにうつつを抜かして後回しにしていた疑問が今、克明に思い返されたとも言える。
そして鹿目まどかと暁美ほむらが、これはまずいと立ち上がった。
「お前らは自分が本当に愚かだと思わないか? 聞けば分かることを問わず、願いが叶ったことに浮かれ、あるいは叶わなかったことに絶望し、その上で心のどこかでは魔法少女であることをのんきに楽しんでいた。滑稽だな。あまり笑わせてくれるな。古傷が痛む」
美樹さやかの
「あ────あんたの言ってることは、信じない……!」
「割と信じているじゃないか。オレが心を読めること、言ってなかったか?」
直後、笹川了子の拳が光線となって、美樹さやかの横っ腹を撃ち抜いた。吹き飛ばされた美樹さやかは力なく襖を突き破り壁に激突して砕き割り外に転がる。
『っ!?』
続々と立ち上がる中堅魔法少女。悪魔の蛮行を見て全員が放心状態の中、咄嗟に動き出した冷徹者は常盤ななかだった。
「悪魔ッ!」
轟音。常盤ななかは水野むくと剣戟を交わす。
その時、百江なぎさがむくりと起き上がった。
『────?!』
「起きたか。額に孔が空いた感想はどうだ? なぎさ」
「……クマ吉。なぜ、あすみを殺したのですか」
「聞いていなかったのか? 人の心をイタズラにいじめて魔女化を促していたからだ」
「────それでも……それでも、なぎさにとっては────」
百江なぎさは落涙し、悪魔を睨んで啖呵を切る。
「あすみは、なぎさの気の置けない友達だったのです────!!」
百江なぎさのソウルジェムが真っ黒に染まる。そして溢れ出す濁りや穢れは瘴気となって────
「うそ……魔女反応!?」それは誰が言ったか。
────百江なぎさのソウルジェムが黒い雷電を発してくるくると浮かび上がる。
瘴気の爆風。勢いのあまり机は吹き飛び、畳は引き剥がされ、近くにいた魔法少女は吹き飛ばされる。
「百江なぎさは、唯一の相互理解可能な親友を殺されたことで絶望した。精神的な動揺はソウルジェムに濁りを作る。そして、それが満タンになったから────
『────ッッッ!!!』
「刮目しろ。これが魔女化だ。これが魔法少女の死だ。希望を祈って生まれた君たちは、絶望を振り撒いて死ぬ。そういう運命なんだよ」
教室の一角を吹き飛ばして、お菓子の魔女が顕現する。桃色の人形。その性質は執着。
「どうした? 目の前に魔女がいるのに、どうして倒そうとしない? 魔法少女!」
悪魔は生気のない瞳で見据える。まるで屍人のような目付き。
何もかもを割り切っている、合理の悪魔のように。
「仕方ない」
刹那、悪魔は死炎噴射でお菓子の魔女の背後に回り、神切を抜刀してその首を落とす。戦いは終わった。刀を鞘に収めて教壇に戻る。が────悪魔の背後でモゾモゾと蠢くピンク色の人形。その中から脱皮するように、大蛇のような魔女が大口開けて飛び出した。舌舐りして青いヨダレを撒き散らしながら、悪魔の頭部へかぶりつかんと────
「十代目!?」
────シトピ隼人が叫んだ刹那、青い槍がお菓子の魔女の頭部を貫いた。魔女反応が消滅する。
「……やちよか。助かった」
「礼は不要よ。私はあなたと、魔法少女の真実を伝えようとした共犯者なんだもの」
悪魔は教壇の上に立つと、いつもの調子で授業を再開する。
「では、魔女化についてのみ知っていた者は、教室の右側の壁に並ぶこと」
「…………、おらぁ! 十代目のお言葉だぞ! さっさと動かねぇかぁ!!」
シトピ隼人の怒号に驚いた魔法少女たち──彼女たちは和太鼓による発散型の規律遵守魔法が微量に掛かっているのか、体が言うことを聞いてしまい、まず──加賀見まさら、遊佐葉月が右側の壁に並ぶ。二人は“キリサキさん事件”の一件で疑惑程度に思っていたが、百江なぎさの魔女化を見て確信したようだ。
「次はソウルジェムが魂だと知っていた者のみ、教室の左側の壁に並ぶこと」
夏目かこ、純美雨、志伸あきら、空穂夏希が並ぶ。
「ななかは────かことの一件で、疑惑程度には魔女化について考えていたか。ならば良し。
────では最後に、両方を知る者。つまり全てを知っていた者は、その場で立ち上がること」
その悪魔の声に応えて────鹿目まどか、暁美ほむら、黒江、環いろは、環うい、七海やちよ、十咎ももこ、水波レナ、秋野かえで、八雲みたま、呉キリカ、千歳ゆま、千秋理子、アシュリー・テイラーが立つ。
また、疑惑程度なら、電波塔の一件で、由比鶴乃や綾野梨花、五十鈴れんも想定していた。
「それではキュゥべえ。改めてソウルジェムの事、魔女化の事を、簡潔に一言で説明してほしい」
「君は難しいことを頼むね」
Dキュゥべえはしっぽを回す。
「ソウルジェムを魂にした理由の一つは、君たちの体が魔女との戦いに耐えられるようにするためだ。だって人間は痛みに弱いし、ちょっとのケガで死んでしまう脆弱な生き物だからね。そんな生物として物理的に弱い君たちに魔女を倒せなんて、とてもじゃないがお願いできないよ。そこで魂をソウルジェムという形に変えることで、君たちがどんなケガをしても魔力で肉体を再生できるようにしたんだ。画期的な発明だろう?
そして────魔女化については“簡潔に”とのお願いだから、エントロピーの話はやめておこう。どうせ理解は得られないだろうし。その代わり……そうだね。これだけは言っておこうかな」
悪魔は直感する。次に続くその
「この国では成長途中の女性のことを“少女”と呼ぶんだろう? なら、やがて魔女になる君たちのことは“魔法少女”と呼ぶべきだよね」
魔法少女たちの張り裂けそうな
驚愕と拒絶、破裂と悲嘆、瞋恚と怨嗟。渦巻く波濤の如し激情が悪魔の
「────四限目終了。三分間の休憩を挟んだのち、五限目・座学【啓蒙・魔法少女の救済のひとつ】を開始する。……隼人、むく。死体は見せしめだ。縁側に二つの首を吊るしとけ」
†
~13:22~ 五限目。啓蒙・魔法少女の救済のひとつ。
縁側では、首に縄を括られた百江なぎさと神名あすみの死体が宙吊りにされている。
「────《規律順守》────」
「くっ!」
道場からの脱走や奇襲を企てようとした魔法少女──静海このは、都ひなの・美凪ささら・美樹さやか等──を、竜城明日香が魔法で縛り付ける。彼女たちは無理やり座らされて、反抗したくても動けない。
それを見ていた悪魔は、竜城明日香は内心魔女化について動揺しているものの、その忠誠心によって悪魔を信じようとしていることを直感する。しかし悪魔は百江なぎさと神名あすみを殺した。それについてはどう考えているのか。
「さて、全員のソウルジェムの具合はどうかな。この道場は遮断魔力で覆われている。ドッペル化はできないぞ。──あぁ、そもそもドッペル化を知らない者もいるか。それについてはあとで教える。……さて、ソウルジェムが真っ黒に染まれば、すぐに魔女化する。黒江が届けたグリーフシードを使って浄化するんだ。こちらとしては、お前らを死なせないために、こんな道場を開いたんだからな」
────ふたりの少女を殺しといて何を。
そんな声を直感する。
「必要な犠牲だ。あれなくして信じる奴はいない。内心でどれだけ罵倒しても、こうして悪魔に嘲笑される。むなしいだけだ。やめておけ」
竜城明日香は和太鼓を叩く。その音はかぼそかった。
「それでは五限目を始める。結論から言おう。オレは叛逆魔法を保有する。それを応用した性交魔術によって、魔法少女を元の人間に戻すことができる。これを《悪魔契約・第二書》と言う。──あぁ。第二書というからには第一書があるはずだな。それは性交魔術によって、魔法少女のソウルジェムを半分に分割することで、魔女化のリスクを減らすという代物だ。その代わりオレが死んだら契約者たる魔法少女も死ぬ。その反対はない。そういう契約だ」
一同は目を見張る。
「オレはこの悪魔契約で、何百という魔法少女を元の人間に
六人。すなわちシトピ隼人、水野むく、ランボ、笹川了子、恭弥アーデルハイト、ジュリー凪のこと。そのうち一人はここにいないが、残る五人はハーフソウルリングを見せつける。
「そこで君たちに四つの選択肢を与える。いち、悪魔契約・第一書を結ぶ。に、悪魔契約・第二書を結ぶ。さん、肉体を殺されてソウルジェムを奪われる。よん、一人前の魔法少女と認められることで爽やかに道場を出る」
『────────』
「選べ。お前たちの将来は、お前たちの実力で掴み取ってみせろ」
悪魔の炯眼。そのギラギラと燃え上がる銀炎の如し相貌から、魔法少女たちは目が離せない。
「……具体的に、私たち魔法少女に何をさせようというのですか」常盤ななかが問いかける。
「無論、戦わせる。戦士として戦場に立ち、簡単には死なず、自らは生き残れると証明した者は、この道場を卒業できる」
「では、仮に卒業できない弱者が現れたとしたら?」
「オレがそいつのソウルジェムを奪う。肉体は殺し、魔女化を防ぐ。そしてソウルジェムの中に宿る固有魔法を有効活用させてもらう。それなら死んだ方がマシだと? そうかもな。だが、
自らを弱者と自覚する魔法少女たちは、その容赦ない台詞に鳥肌が立つ。身の毛がよだつ。
そこで環いろはが物申した。教室の中央に走り、悪魔に面と向かって睨み据える。
「悪魔さん! どうして、こんな────」
「いろは。オレの心配より、自分の妹を心配した方がいいんじゃないか?」
「……!」
悪魔は悠然と歩き出す。環いろはと向き合い、その潤みつつも闘志絶えない瞳を睨み返す。
「いろはが守ってばっかりで、ういは戦闘経験を詰めていない。これでは卒業は絶望的だな」
「……っ!? う、ういはまだ小さいんです! 戦士なんて……戦わせることなんてできませんっ!!」
「ういも魔法少女だ。戦えなければ意味がない。それともいろはが常にお守りをするのか? ういは確かに子供だが、赤子ではないんだぞ」
「でも……!」
「生意気だ」
悪魔の両手から死ぬ気の炎が噴射される。
突として、環いろはの
「がっ!?」
『────っっ!!?』
「いろは!?」七海やちよの動揺。
「お姉ちゃん!?」環ういの驚愕。
悪魔が、環いろはの顔を蹴り飛ばした。手加減もなしに、思いっきり。
彼の内面、その優しさを知る者からしたら、それは衝撃的な光景として映っただろう。しかし並盛中の魔法少女たちは、眉をひそめつつも黙って佇立していた。
「家庭教師様に生徒ごときが楯突くな。お前らは黙って言うことを聞いてヘコヘコしていればそれでいいんだ」
「……っ!?」
顔の下を腫らす環いろはの体は、訳が分からないと言いたげに恐怖で震えていた。
悔しさを滲ませる涙が一粒、大粒としてこぼれ出る。
一方。その様子を教室後方の縁側から見守るピュエラケアがいた。ピクニック気分で陽射しの中おにぎりを食べていた佐和月出里は、悪魔の変貌に驚いて体は震え上がり、食べる手が永遠に止まっている。そこで至極冷静な篠目ヨヅルが聞いた。
「あれが沢田綱吉の正体ですか?」
「いんや。あれは毎晩必死こいて考えに考え抜いた“世界で一番ムカつく家庭教師”を心痛めながら演じてるんや」
「なるほど。そうだったんですか。てっきり生徒の体たらくに逆ギレして癇癪を起こしたのかと」
「あっはははは! まぁそれもあるかもな? あれでも十四。まだまだ子供や。リミッター外して暴れたい時もあるやろ。……いやはやしかし、まったく健気すぎて可愛い子やで。あのボサボサ頭がすり潰れるまで撫で回してやりたいわ」
「そうですか。しかし彼は、なぜわざわざこんな真似を?」
「悪役が一番修行に効率的と判断したんやろなぁ。だが中途半端やと結局甘やかすことになる。つまり
リヴィア・メディロスは笑い転げる。
そして、そっとチーズ入りのおにぎりと、しし唐辛子入りのおにぎりを、縁側にお供えした。
舞台は教室に戻り、悪魔は傲岸不遜に言い放つ。
「この中で最も強い戦士はオレだ。文句があるなら下剋上のつもりで殺しに来い。オレを殺せたら、みんなをこの
嫌味を言った悪魔は教壇に戻る。そして一枚の図をホワイトボードに貼り付けた。
◆────────【上段の間】────────◆
8畳│悪魔将軍 (水泳の魔女)
7畳│恭弥アーデルハイト (巴マミ)
6畳│七海やちよ エッダ (リヴィア・メディロス)(美琴椿 天乃鈴音)(ホーリーマミ)
5畳│百江なぎさ (佐倉杏子)(アリナ・グレイ)(紅晴結菜)(日向カガリ)
4畳│ジュリー凪&六道骸 (梓みふゆ)
3畳│シトピ隼人 水野むく 竜城明日香 (柊ねむ)
2畳│笹川了子 ランボ 鹿目まどか (里見灯花)
1畳│十咎ももこ 水波レナ 秋野かえで 千秋理子
◆────────【中段の間】────────◆
8畳│由比鶴乃 鼓星かずみ 都ひなの 呉キリカ (篠目ヨヅル)
7畳│暁美ほむら 常盤ななか 純美雨 (遊狩ミユリ)(氷室ラビ)
6畳│入名クシュ 加賀見まさら アシュリー・テイラー(三浦旭)
5畳│環いろは 夏目かこ 桐野紗枝 (雪野かなえ)(美国織莉子)
4畳│二葉さな&アイ 五十鈴れん (神楽燦)(藍家ひめな)(煌里ひかる 大庭樹里 笠音アオ)
3畳│美凪ささら 志伸あきら 粟根こころ 遊佐葉月 (天音月咲 天音月夜)
2畳│美樹さやか 綾野梨花 江利あいみ 静海このは (智珠らんか)
1畳│黒江 万年桜 深月フェリシア 三栗あやめ
◆────────【下段の間】────────◆
8畳│相野みと 伊吹れいら 桑水せいか (安名メル)
7畳│神名あすみ 阿見莉愛
6畳│七瀬ゆきか 水樹塁
5畳│八雲みかげ 観鳥令 (鈴鹿さくや)(有愛うらら)
4畳│真井あかり 香春ゆうな 牧野郁美 (栗栖アレクサンドラ)
3畳│梢麻友 史乃沙優希 由貴真里愛 由良蛍 眞尾ひみか 枇々木めぐる (三輪みつね)(里見那由他)
2畳│春名このみ 矢宵かのこ 空穂夏希 毬子あやか 胡桃まなか 若菜つむぎ (安積はぐむ 宮尾時雨)(三浦ハル)
1畳│環うい 八雲みたま 御園かりん 恵萌花 古町みくら 吉良てまり 三穂野せいら (佐和月出里)(笹川京子)
◆────────【底段の間】────────◆ ※非魔法少女。死炎闘士・一般人・その他。
縁側│イーピン バジル 和泉壮月 ミザリー立会人
縁側│リリス フゥ太 千歳ゆま (佐鳥かごめ)
それはひと目で教室の席順だと見て取れる。だが、どうにも席順の規則が分からない。五十音順でもなければ、得意属性順でもない。やがて最初に席順の
「──それ、もしかして強さ順?」
「然り。これは《実力順序》だ。なぎさの魔女化の余波で机もきれいに吹き飛んだことだし、この図の通りに正座してもらおうか」
そこで竜城明日香が閃いた。
「畳……上段から下段……それで地位を表すとなれば、これはもしや────生類憐れみの令で有名な五代将軍・徳川綱吉が始めた、江戸城は本丸御殿の大広間で催されし
戦乱の時代では、大将・足軽といった役職や領地・茶器といった褒美などの格差によって地位を表したとされる。しかし江戸幕府が開かれて戦いがなくなった平和な時代では、新たな方法で諸大名の地位を表す必要があった。そこで開発された一つの手段が、平安時代より名残を残す、畳による番付である。
時代の変化と共に政治の仕組みを変える必要があった徳川綱吉は、戦に参加することが奉公だった大名たちに、参勤交代等で幕府の行事に参加させることを奉公とした。それと似たような形で、畳による番付があったとされる。
「先ほど四つの選択肢を提示したが、同時に、弱者には生死を選ぶ力がないとも言った。故に道場終了時、
『────ッッ!!』
「だからと言って上段の間、中段の間の上位に居る者は安心だと思わない方がいい。オレは最初、この道場の門を叩いた魔法少女を必ず強化すると宣言した。そして一枚の畳に座して並べる人数には限りがある。もし満杯になれば、その中で最も弱い者が一枚下の畳に落とされる。そうやってお前たちには切磋琢磨と強引に成長してもらう。さぁ図の通り座して平伏しろ。オレはお前らの生存のためなら悪魔の名を捨て、
規律順守魔法。従わない者はそれにより図の通り正座して並ぶ。ちなみに下段近くは将軍の顔を見ることを許されないため、常に俯く必要があった。それすらも再現しようというのか、竜城明日香の魔法が下段の間の魔法少女たちに土下座を強要する。
『ッ────!!』
「ちなみに、これは卒業した者だけが知ることになるだろうが、五つ目の救済もある。それはマギウスが作り出した自動浄化システムだ。それがあれば魔法少女は魔女化の運命を避けられる。だがマギウスは欲を出して一般人を殺し、そのエネルギーを回収して、自らの欲望を叶えようとしている。オレは自動浄化システムを正しいことのために使いたい。そのためにはマギウスの首をすげ替える必要がある。だがそんなことをしようとすれば、きっとマギウスは弱いお前たちを人質に取ってくるだろう。人質は邪魔だ。故に、お前らを人質なんかにさせないため、マギウスに負けないくらい強くする。……これでオレの目的は分かったな? では五限目を終了する」
ジュリー凪が施術魔法で教卓を玉座に改造する。それに鎮座した悪魔は、さながら魔王のような貫禄で頬杖をつき、尊大な態度で魔法少女たちを見下ろした。
「三十分の休憩を取る。意識分解睡眠法を使い、次の授業に備えろ。また、家庭教師の
†