アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
【武道:ランク戦(タクティカルチームバトルロイヤル)】
※略叙形式
~15:00~
八時限目。実戦【武道:ランク戦(タクティカルチームバトルロイヤル)】
「全員起きたな。では表に出ろ。殺し合いだ」
教師と生徒は座敷から縁側を下りて外に出る。そこには地平線の代わりに土塀が見える広大な修練場。
「今からチームを作れ。一人から四人のチームだ。ただしチームを組めるのは“同じ段”にいる魔法少女のみ。下段の間にいる者は下段の間にいる者としか組めないわけだ。そして同じ段のチーム同士で戦い、総合順位を争う。無様な姿を見せれば畳を下がり、下の段に落ちる。立派な姿を見せれば畳を上がり、上の段に上がる。しかし上がるか下がるかの基準はオレの価値観。オレがルールだ。そして言うまでもないだろうが、オレは心が読めるから八百長は意味がないと思え」
悪魔はジュリー凪に目配せする。ふと彼女が三叉槍を地に突き立てると、霧の炎と幻術の融合・有幻覚によって戦闘フィールドが構築された。一面の芝生の景色はがらりと様相を変え、なんと“どこにでもありそうな日本の市街地”が現れる。どうやら幻術で戦闘フィールドを作成し、その中で戦わせるようだ。
「それでは五分やる。自らの“肩書き”を武器に声を掛けて仲間を集めろ。チームを組んだら観察眼と諜報・偵察を駆使して地形と敵チームの情報を揃え対策を立てろ。ちなみに戦闘開始時、助太刀魔法によって参加者は全員バラバラの位置に転送される。戦闘前に念話の波長合わせをしておけ。──なお、これより下段の間の戦いをCランク戦、中段の間の戦いをBランク戦、上段の間の戦いをAランク戦と呼称する」
そう言って悪魔は姿を霧にくらませた。
†
悪魔が消えた。一時的に独裁者から解放された魔法少女たちは、されど極まった緊張を訴える鼓動を感じて震えていた。
魔女化。ソウルジェムが魂で本体。そんなことキュゥべえは教えてくれなかった。
生か死か。悪魔契約。弱者だとソウルジェムを奪われる。弱肉強食。ランク戦。チーム、仲間。
交錯する感情は混乱恐怖悲嘆、嫌悪と怒り。警戒すべき許すまじキュゥべえ。魔法少女となってしまった後悔と絶望。そこから力ずくですくい上げようとする悪魔への畏敬の念。元々悪魔には命を救われた借りがある。授業内容も全て聞き入ってしまうほどには有益だった。悪魔に対する思いは個々人によって程度の差はあれ、容認・信頼・崇拝があり、それは畏敬の念と合わせて服従の意思を沸き上がらせていた。
故に授業中、魔法少女の暴動が少なかった。否、授業中に悪魔へ攻撃した魔法少女も、心の中では悪魔を認めているからこそ、弱肉強食の教えに従い、自らは強者だと立証するべく奇襲を仕掛けた側面がある。不思議と道場からの脱出を企てても試みた者は少ない。それは心の中が読まれているという恐れから、そういった計画は全て徒労に終わると諦めていた側面もあるだろう。
さらに反逆した中堅魔法少女は完膚なきまでたたきのめされていた。悪魔から提示された未来の選択。絶望が魔女化を意味するというのなら、今は状況に流されていた方が怖いことを深く考えなくて済む。……ほとんどの者がそういった思考から抵抗を諦め、安らぎを求めて服従していた。それは自らに力があると分かればすぐにでも攻撃へと転じる感情であるが、むしろ悪魔はそれを勧めている。
五分経過。ともあれ魔法少女は選択を迫られた。弱いままでは逃げることも生き残ることも許されない。ならば教えを受けたことを実践して強くなる必要がある。
「やろう」相野みとが震える声で、しかし喉の奥に力を込めた事がありありとわかる筋肉で呟いた。「確かに私は、ここにいるみんなと比べると、下段の間の上位くらいの力量なんだろう。その程度の強さで“怖がっているみんなを助けたい。道場から脱出させたい。悪魔の蛮行を止めたい”なんて考えを持っていた。実際は何もできなかったくせに。それからこうして
「この私が下段……Cランクですって……?」阿見莉愛はプライドを打ち砕かれて肩を震わす。「麻友さんと沙優希さんもCランク……つまりこのままでは、悪魔契約で魔法少女をやめるか、運命共同体になるか、ソウルジェムを奪われて恐ろしいことになるか、そのいずれかになるということ……!? そんなのはいやだ……」悪魔が居なくなって冷静さを取り戻した途端、阿見莉愛は過呼吸を起こして目を回す。賢くて事態の深刻さが理解できる故に、外見と比べてまだわずかに未成熟な精神が、心身のズレとなって焦らせる。……その右耳に悪魔の吐息が囁いた。「そういう時は
「……申し訳ないけど、断らせてもらいます。チームは四人まで。まなかが阿見先輩のチームに入れば、
かくして各自、着々と仲間を見つけてチームを組んでいく。
相野隊。編成は、相野みと・伊吹れいら・桑水せいか。
阿見隊。編成は、阿見莉愛・梢麻友・史乃沙優希。
胡桃隊。編成は、胡桃まなか・若菜つむぎ。
観鳥隊。編成は、観鳥令・牧野郁美。
真井隊。編成は、真井あかり・由良蛍。
古町隊。編成は、古町みくら・吉良てまり・三穂野せいら。
彼女たちは元からチームで行動する事が主な魔法少女。ソロ組は未だチーム作りに苦心する。
「私は由貴真里愛。水の
「わ、私は、春名このみ……木の
「ど、ど、どうしよう……」売れ残り寸前の七瀬ゆきかが右往左往とキョロキョロする。「適当に声を掛けてみればいいじゃありませんか」ミザリー立会人の助言。しかし七瀬ゆきかは勇気が出ないらしい。そこに一人の魔法少女が現れた。「────失礼。貴公の肩書きを教えてもらえないか」「貴公!?」それは水樹塁。凝ったポーズを決めて登場した少女は、なぜか片目を隠して若干の距離を取る。「僕はフォートレス・ザ・ウィザード。仮の名を水樹塁。闇の
「ミィは八雲みかげ! 肩書きは闇の
由貴隊。編成は、由貴真里愛・眞尾ひみか・枇々木めぐる。
春名隊。編成は、春名このみ・矢宵かのこ・空穂夏希・毬子あやか。
七瀬隊。編成は、七瀬ゆきか・水樹塁。
八雲隊。編成は、八雲みかげ・環うい・御園かりん・恵萌花。
チームは編成された。悪魔は幻術を駆使して、一度に全員の目の前に現れる。しかし傍から見れば悪魔の姿はどこにもない。Cランクの魔法少女の全てが見えない誰かに話しかけているような構図になる。そして誰もが目を見張り、瞠目し、覚悟の火を灯した。未だリングに死ぬ気の炎を灯せない魔法少女たちが、何を言われたのか次々と覚悟を灯していく。
超直感。恋愛性質。それらを駆使すれば、人の心なぞ傀儡も同然。故に忌避していた能力だが、モノは使いよう。悪魔は一人ひとりに適切な助言を授け、殺し文句で勇気を与える。
「────うい」「え、悪魔さん……?」「うい。お前がみんなに隠れて魔力の特訓をしていた事をオレは知っている」嘘である。環ういは今、不安の渦中にあった。(特訓したけどうまくいくかな……)と不安がっていた心を直感して、あたかも自分がその頑張りを見てきたかのように語っているのだ。「大丈夫。ういならできる。それでも自分に自信が持てないなら……どうしても自分の力を信じられないなら……
疑問の余地を挟ませない死ぬ気の肯定。悪魔のクールな微笑みにほだされた魔法少女たちは、心を巧みに掻き乱されて、やがて決意を固める。
全員の情動的蛮勇と闘争心を直感。本来の勇気とは異なるが、心技体は後から付いてくる。出だしがイビツで、どうであれ、終わり良ければすべて良し。今は(たぶらかされている気がする)という気持ち悪さがあっても、終わり際にあとを引く爽快感さえあれば気分は良くなるはずだと、悪魔は希う。
幻術が解けて、幻想の悪魔が消える。
ふと全員の前に現れた本物の悪魔は、唐突にランク戦の開始を告げた。
「役割・武具・性質・魔法・リング。中には例外──キモチ・スタンド──を持っている者もいるだろう。あらゆるものを駆使して戦い抜くことを願う。ただし
不意に数百を超える青い刀剣が雨のように降り注ぐ。それに切り刻まれたCランクの魔法少女たちは、一斉に《助太刀魔法》によって戦闘フィールドのどこかにランダムで飛ばされた。
†
♪~Force~♪
~15:15~ 道場の縁側では、解説席が設けられていた。解説役の悪魔と、実況役のシトピ隼人が座っている。さらに青空と道場を隔てる遮断結界の表面には、大きなスクリーンが映し出されており、大規模な画面分割によってランク戦参加者の人数分の視点が用意されている。しかしそのスクリーンは、観戦者にしか見えないよう幻術が施されている。
「さぁCランク戦が始まったぜぇ! 実況はこのシトピ隼人と! 解説役の十代目がお送りする! てめーら耳の穴かっぽじってよーく聞けよ! タメになる話しかしてやらねーからな!」
「十代目じゃない。悪魔だ」
「戦闘は常に流動的! 魔女の鈍重な初撃で吹き飛ばされてチームがいきなりバラバラに! なんてことはそう珍しいことではないぜ!」
「だが今回は魔法少女同士の戦い。わざわざ魔女の戦闘スタイルを再現する必要があるか? と思っている奴は気を引き締め直せ。戦場は常に混沌的だ。
「おおっと市街地北部に
「その前に魔力で肉体を再生しないことには身動きが取れない。現に、刀剣の雨で傷ついた魔法少女の多くがその場でうずくまっている。さて、奴らが回復している間に、今回用意した魔女について説明しようか。あれは先ほど皆が目にした
「悪魔様の悪魔的な発言が出たぜ! そこに痺れる憧れるぅ!」
「なお魔女の出現位置はオレでも予測がつかない。何匹増えているのかもわからん。いきなり解説席の後ろに現れるかもしれない。観戦している奴らも注意は怠るな」
「見ている方も命懸けだぜ! おおっと由貴真里愛の
「だがそのぶん肉体再生が早かった魔法少女が合流しようと近付いている。互いの弱点を補ってこそのチームプレーだ。主に伊吹れいら、史乃沙優希、七瀬ゆきか、環ういが率先して合流を目指しているようだな。こいつらは治癒系魔法、または活性の性質を持つ奴らだ」
「最初に合流したチームは相野隊! 続いて七瀬隊! 阿見隊も合流! 八雲隊は、恵萌花が少し足を引っ張っているか!? 三人が合流して恵萌花を迎えに行っている! 全員フィールドの中央に集中しているぜ! これはさっそく────」
「遭遇戦だ」
「御園かりんと阿見莉愛がT字路の曲がり角で出会い頭! 全員驚いて硬直している!? まさか魔力パターンの感知を怠ったか!」
「いや、梢麻友が周囲に鎮静魔力を発散していた。そのせいで八雲隊は正確な位置情報を取得できなかったんだ」
「ではこれは阿見隊の作戦であると?」
「だったら阿見隊も驚いて固まらない。きっと鎮静魔力のせいで、阿見隊も魔力感知が惑わされたんだ」
「なんと策士策に溺れる結果に! 戦闘開始! 御園かりんが窃盗魔法を行使! しかし阿見莉愛は隠蔽魔法で自らのソウルジェムを隠した! これは奪えない! 窃盗魔法は不発に終わる!!」
「素晴らしい機転だ」
「またまたそう言って! 悪魔様の入れ知恵なんすよね?」
「助言したところですぐに実践できる奴は少ない。あの二人は相当覚悟が決まっているようだ」
「八雲みかげは
「八雲みかげが崩壊魔法を使った」
「おぉっと史乃沙優希の両腕が絵の具のようになって腐り落ちた! ソウルジェムが穢れている! すかさず環ういが回収魔法で、史乃沙優希の穢れを奪った!?」
「少なくとも相手に魔女化・ドッペル化をさせないためだろう。あるいは自分がドッペル化するためか」
「自己犠牲では勝てないぞ!? 史乃沙優希、後退しつつ魔力提供魔法で仲間を支援! 阿見莉愛の
「大空の炎は属性の中で随一の推進力を誇る。加えて大空の炎の中に黒い炎が混じっていた。おそらく回収した穢れをブーストに使ったんだろう。魔法少女は契約による“魂改造の呪い”で等しく無属性を有している。故に死ぬ気の炎の中に呪いを混ぜ込むことも可能だ。死ぬ気の炎を灯すためには“死ぬ気の覚悟”が必要だが、それは“祈り”と言い換えることもできる。そして祈りと呪いは表裏一体。祈りによって生まれた魔法少女が呪いを扱えるのは、なんら不思議なことではない」
「自らの皮肉な在り方を効果的に使った環ういは、八雲みかげを連れて空を飛び、阿見隊から距離を取る! このまま逃げるつもりか!」
「恵萌花との合流を優先するつもりなんだろう。だが────」
「!? 八雲隊の動きが空中で停止した!? まさかこれは……梢麻友の一時停止魔法か!!」
「阿見莉愛の指示だろう。どうやら阿見隊は、とことんやり合うつもりのようだ」
「これは好戦的なチームと温情的なチームの戦いとなってきた! ────おっと別のところでも動きが! 先ほど阿見莉愛が放った嵐の矢を目撃した相野隊と七瀬隊が接近! しかしその移動ルートでは双方が会敵しちまうぜ!」
「観鳥隊と真井隊、春名隊も距離が近い。互いの距離を窺って牽制している。普通、戦いは避けたいものだ。しかし良い結果を残さなければ生死に関わるとなれば、戦いは避けて通れない。そんな心境で及び腰だと────」
「遠方、古町隊に注目! ────
「とある魔法界では“神秘は古い方が強い”という法則がある。神秘とはこの場合、なんらかの強力なエネルギーと思えばいい。そして世の中には“失われた言語”というものがある。たとえばバベルの塔。それが建つ前、人類はどんな
「なんと古町隊!
「……なるほど。全員、解説席から離れろ」
「発射! ────って、チクショウが!? そのルートは────開匣っ! 瓜ィ!!」
轟音。発光。悲鳴。市街地の西部から解き放たれた破壊的エネルギーは市街地の中央を貫き、大地を切削する。しかし大規模な赤色のビームは東端まで行かず、不意に
解説席の手前でビームが激突する。鼓膜を破る轟音と爆発。衝撃波が道場の瓦を跳ね飛ばす。やがて閃光が静まる。解説席とその後ろにある道場は跡形もなく吹き飛んでしまった────誰もがそう思っていたが、現実は
「
「ぎゃあああ────!! かっこよく決めたと思ったらさっそく反抗してんじゃねー!」
「
「ヤロー! よくも悪魔様を狙いやがったな! だが今の砲撃で市街地の東部から中部、中部から南部は一切の障害物が消滅! とんでもない破壊力だぜ! その代わり古町隊、動けない! 大きく魔力を消耗してソウルジェムも六割は濁っている!」
「さて、脱落者は……いないか。相野隊は相野みとの硬化魔力と桑水せいかの鎮静魔力で遺失言霊砲撃を防御。七瀬隊は逆境魔法と直死の魔眼で砲撃の一部を相殺し回避。八雲隊は被弾ギリギリで一時停止が解けて射程圏外の大空に離脱。真井隊・観鳥隊・春名隊も、由良蛍・観鳥令・春名このみの硬化魔力、さらに空穂夏希の鎮静魔力でなんとか凌いだようだ。もっと言えば観鳥隊は合体魔法でうまく凌いだのがいいな。これは全員に評価点だ」
「一方、由貴隊の眞尾ひみか、枇々木めぐるは、敵の多い中西部を避けて東回りで北上、由貴真里愛との合流を急いでいる! そして胡桃隊は転移地点がどちらも南部だったため早くに合流し傍観に徹する構え!」
「今の狙撃で全員、疑心暗鬼に陥っているはずだ。胡桃隊にも同様の狙いがあると疑ってかかるのは当然。胡桃隊に変なヘイトが向かないといいがな」
「八雲隊! 孤立していた恵萌花と合流! 同時に由貴真里愛の魔力パターンが復活! どうやらゲートから脱出したようだ!」
「パペットが欠けているな。だがすぐに生成した。おそらくパペットを
「由貴隊も合流! さぁようやく全部隊、本格的な布陣となった! 悪魔様、次は誰と誰がかち合いますかね?」
「やはり好戦的な阿見隊が誰かを狙うだろう。胡桃隊も虎視眈眈と様子を窺っている嫌らしい気配だ。両部隊のリーダーは先輩後輩の間柄と聞く。もしかすると面白いものが見られるかもしれない」
「悪魔様の推測通り、阿見隊と胡桃隊が動いた! 胡桃まなかの分析魔力が伝播魔法によって市街地全土に広がる!」
「これで市街地に居る全ての物質と位置の情報が
「阿見莉愛、必殺魔法を行使!」
「魔力パターンは対象の大まかな位置しか把握できない。二次元的な位置は把握できるが、そこに高度が加わると難しい。しかし分析魔力なら敵の高度も把握可能。それを伝播魔法によって、わざわざ全員に伝えた意味。それは見ての通り、
「史乃沙優希の魔力提供魔法と、阿見莉愛本人の雲の炎の増殖によって、爆発的に矢が巨大化! 射出! 市街地中部の大空から花火のように矢が炸裂して、矢が分裂! 市街地全土を覆い尽くすように、嵐の雨が増し増しで降り注ぐ────!!」
「守るものがない戦い方だな。市街地に人がいる場合、同じような戦法は取れない。だが人がいないなら、絨毯爆撃できる方が戦闘の主導権を握りやすい。制圧射撃ってやつだな。だが主導権を握ると言っても……敵に防御手段があれば、反対に握り返される」
「観鳥隊! 合体魔法を行使! 観鳥隊の上空で大量の分裂矢が停止している!」
「確実撮影魔法と萎縮魔法のコネクトだ。撮影された対象は魔力が衰えて行動を阻害される。本来は隙を作る使い方がセオリーだが、このような絨毯爆撃に対しては、避難までの時間を作る防御策として使える。自分たちの魔法の性質をよく理解している使い方だ」
「市街地が消滅! 戦闘フィールドの全てが更地と化した! まさか障害物なしでガチンコ勝負を挑む気か!?」
「といってもガレキが多い。市街地はそもそもビルがないため障害物としての高度を期待できない。ならば壊してもそれほど変化はないだろう。室内という狭い空間での戦闘は見たかったが、自らの有利地形を作るという意味では正しい判断だ」
「しかし悪魔様。フィールドを比較的平坦にすることで、阿見隊になんのメリットが?」
「そうだな。阿見隊の魔法武具は弓矢・絵筆・マイクと、近距離・中距離がバランスよく揃っている。固有魔法も隠蔽・一時停止・魔力提供とサポートに向いている。このカードでの戦い方は色々とあるが、定石としては阿見莉愛をアタッカーとして残り二人が支援する中距離戦法だろう。そして、その戦法は地形が複雑なほど効果的。つまり阿見隊は、かなり異色の作戦を持ち出してきている可能性がある」
「というと?」
「オレなら、胡桃隊との共闘を視野に入れていると判断する。途中で裏切られたり、早くに胡桃隊が離脱したら破綻する作戦だろうとも予測する。まぁ見てのお楽しみだ」
「なるほど。ここで八雲隊に動きが! 環ういが仲間の背中に凧を備え付けています! 悪魔様、あれはいったい?」
「……ほう。考えたな。おそらく
「仲間の生存を優先した策っすね。しかし避難地点を読まれていれば“詰み”が発生します。八雲隊はいざという時、どこに逃げるつもりなのか! そして八雲隊、胡桃隊と激突! 魔力の火花が散る────!!」
(まぁ逃げる先は場外だろう。場外に出るのは禁止とは一言も言っていない。そもそも勝敗条件も不明瞭だ。つまり何をやってもいい。なぜならオレがルールだから。しかし場外に出たことでペナルティがないとも言っていない。さて、その思い切りが吉と出るか凶と出るか。まず間違いないのは、そのベイルアウトの策は高い評価点、ということくらいか)
「おっとここで、観鳥隊、真井隊、春名隊が互いの姿を目視! 更地になったことで互いに丸見えだ! しかし三部隊とも下手に動かない!」
「そうなるか。お楽しみが消えたな……では語ろう。阿見隊の作戦が、古町隊の砲撃に潰されたんだ」
「それはどういうことっすか!?」
「阿見隊の目的は漁夫の利だ。ここで三部隊が争ったところを梢麻友の一時停止魔法で捕まえれば阿見莉愛の狙撃で倒せる。史乃沙優希の魔力提供魔法も合わされば狙撃距離も伸びる。雲の炎や増殖魔力を使えば一度に複数を倒すことも可能だ。無論、丸見えなのは阿見隊も同じため、全く同じ策をやり返される恐れもある。それでも阿見隊は賭けたんだ。一気に得点を稼げるやり方に」
「なるほど……たしかに阿見隊、先程までの威勢の良さが鳴りを潜めています! まるで誰かが争い出すのを待つようにガレキの陰に隠れている! その静けさに違和感を覚えたほかの部隊も気付いてきたか!? 先程までの応酬は嘘のように、一転して膠着状態です!」
「しかし、その膠着を崩すために共闘したんだ」
「!! 胡桃隊、再び伝播魔法と分析魔力の合わせ技で阿見隊を援護! 赤い魔力がフィールドの地面に浸透していく! そこを観鳥令がバズーカ砲で狙う! しかし若菜つむぎの硬化魔力で防がれた! 一方中部では七瀬ゆきか飛び出す! 牧野郁美の萎縮魔法で脱力し、戦場のど真ん中で膝を屈した! これはいいマトだ! 相野隊の狙撃! 七瀬ゆきか、かろうじて剣で弾く!」
「七瀬ゆきかは逆境魔法を持つ。自ら死地にダイブすることで一騎当千の力量を獲得するつもりだ。あの狂気的な笑顔からも、かなりの博打だとは理解しているらしい」
「そんな七瀬ゆきかを置いて、水樹塁が南下! これは……敵と出会わないよう迂回しているが、このルートはまさか!」
「胡桃隊を狙いに行ったな。遺失言霊砲撃を防いだ時点で、七瀬ゆきかと水樹塁は互いの力量を把握したんだろう。そこで作戦を立てた。互いに一人の方が強い。故にソロで行動した方が高い戦果を挙げられると」
「有り合わせのチームのためチームプレーは難しいと思われたが、そもそも無理に合わせる必要がないと判断した。そういうことっすね!」
「あぁ。まずまず合理的な判断だ。ただ注意点は、胡桃隊が潰されると七瀬ゆきかが
「!? 八雲隊、突然ベイルアウト! 勢いよく空に弧を描いて南下! さらに真井隊、突然反応が消滅!」
「どちらも偶然、胡桃隊に矛先を向けたか。しかし環ういと七瀬ゆきかは知り合いだ。念話で何かを示し合わせた可能性もある。それより真井隊は、おそらく由良蛍の入眠魔法で夢の世界に入ったんだろう。遺失言霊砲撃の際、由良蛍が複製した
「阿見隊と胡桃隊が共闘していることがバレましたからね。そりゃあ強い駒を浮かしておくわけにはいきません。さぁどうする、胡桃隊!」
「さて、影の薄かった由貴隊が、それを利用するようだ」
「!! 由貴隊、春名隊と合流!? 戦闘に発展しない! 眞尾ひみかが火花の魔力を散らして、枇々木めぐるが爆音の魔力を爆発させている! これはまさか、戦闘に見せかけるためか!? その様子を観鳥令が激写! 観鳥隊には両隊の共闘がバレたようだが────」
「戦局が変わってきたな。このあたりで状況をまとめよう。中部では相野隊・阿見隊・七瀬ゆきか・観鳥隊・由貴隊と春名隊が睨み合う構図。南部では胡桃隊が阿見隊に援護射撃しており、それを潰すため水樹塁・八雲隊・真井隊が接近。西部では古町隊が手持ちのグリーフシードで魔力を回復している」
「なお魔女反応も北部から南下して中部に合流しつつある! これは魔法少女と魔女が入り乱れるか!? 戦闘は第二フェーズに以降! 呆けた口で天を仰いでいる者共! てめぇら、戦いの続きを刮目しやがれ!」
†
~15:33~
「おっとここで魔女反応が急増!
「魔女に殺られるより、敵対する魔法少女を強化してでも一時共闘を打診する。そんな無言の抗議だな。徹底して相野隊は平和主義だ」
「それに乗っかるのは阿見隊・観鳥隊・七瀬ゆきか・由貴隊と春名隊! つまり全隊が十数体の魔女に一斉攻撃を仕掛ける! 一方南部では胡桃隊と八雲隊が激突! 数の差で押し切れそうなものだが押しきれない! それとも押し切らないのか!? 八雲隊はあくまで牽制の構えなのか!! 胡桃まなかと御園かりんの赤色魔力が炎を巻く! そして若菜つむぎの硬化魔力が八雲みかげの攻撃を阻み、環ういと恵萌花の援護を鋭く突き刺す! そこに水樹塁の姿が! 三つ巴だ!」
「水樹塁は対象の死相が見える魔法を持つ。本人は“天門眼”と名付けているそうだが、TP魔法界ではその神秘を“直死の魔眼”と呼ぶ。およそ常人の精神性では扱いきれず発狂する能力だ。彼女が意識的に“自分は厨二病だからむしろ平気だ”とだましだまし精神安定を図っていなければとうの昔に自殺している。なんせ対象の死が見えて、さらにそれに
「だがその水樹塁、殺意は皆無! 地面をなぞって地割れを起こした!」
「この場合の“死”とは生命活動の終了を意味しない。諸行無常。経年劣化の果て。物体存在の限界。無機物であろうといつかは朽ちる。そういった
「地割れによって胡桃隊と八雲隊が引き剥がされる! そこに真井隊の反応が! ガレキの下に枕が合って出られなかったようだが、地割れの影響でガレキが移動! 枕から脱出した! これで、よつどもえ! 真井あかりが若菜つむぎを狙う!」
「真井あかりは理想変身の魔法を持つ。使いこなせればその時々の戦局に最適な成長パラメーターの変身が可能だろう」
「中部でも変化が! それに合わせて胡桃まなかが再び分析伝播を使う────が! なんと不発! いや、発動したが突然伝播が消滅した!?」
「水樹塁だ。
「中部では魔女狩りが終了! 一時共闘が無くなり戦闘再開! なのに援護射撃が貰えず阿見隊ピーンチ! そこで由貴隊・春名隊が動いた! 眞尾ひみかの注意魔法が炸裂! つるべ撃ちにされたコイン弾が阿見隊の注意を奪う! その隙に由貴真里愛と矢宵かのこが躍り出た!
「しかし豪華絢爛魔法が一拍遅かった。一時停止魔法が怖くて梢麻友を縛ったんだろうが、そこは安牌を取らず、史乃沙優希の方をまず最初に縛るべきだった」
「なんと阿見隊の魔力パターンが中部に留まっている! 隠蔽魔法だ! だがいつどのタイミングで使用したのか!? 束縛縫合魔法に掛かる前から隠蔽魔法を行使していなければ今の連携攻撃は絶対に躱せないはずだ!」
「魔力提供魔法程度では何もできないと思ったんだろう。阿見莉愛は嵐の炎と分解魔力を使って、束縛縫合魔法に
「ブースト要員として優秀な光属性の魔法少女を最後に残してしまったのが痛恨のミスってことっすね! だが毬子あやか、ただでは転ばない! いや滑らない!
「心境改変。阿見莉愛の反撃の意思を、本人に“冗談”と思わせることで思考を混乱させた。今頃阿見莉愛は「なぜ反撃を冗談だと思ったのか? 本当に反撃が冗談なら、今の自分は
「これは嫌らしい! 阿見莉愛完全に動きが止まった! そこに枇々木めぐるの分解魔力を込めた魔法武具が迫る! これは会心の一撃! 阿見莉愛吹っ飛ばされた────! 立て続けに数の差で梢麻友、史乃沙優希も攻撃されて吹き飛ばされる!」
「吹き飛ばすのは減点だな。目の前で殴り倒して戦闘不能を確認する意思が欠落している。あるいは人を傷つけることから目を背けている。吹き飛ばせば目標を見失いやすく、倒しきれていなければ次の奇襲に繋げてしまう。チームをピンチに追いやる甘えた攻撃だ」
「ここで七瀬ゆきかが由貴隊に突っ込む! そして相野隊の矢の雨! 分解鎮静硬化の三種魔力を調和付与した死炎矢が戦場を襲う!」
「大地の炎も混じっている。打ち上げは緩やかだが、落下するときは一瞬だ」
「おーっとこれは串刺しの雨!? 突然降って沸いたかのように降り注いだ重力矢が魔法少女たちの体を串刺しにしていく────!」
「ソウルジェムに当たるかどうかの懸念は……なるほど。転移か」
「どういうことっすか?」
「あの矢には全て桑水せいかの水転移魔法が込められている。もしソウルジェムに当たりそうならその矢を転移させている。だがそれだけじゃない。転移させた矢は手元に戻し、使いまわすつもりだ。一瞬配慮のためとは言え魔力の無駄遣いと思ったが、敵の命を配慮した上に効率的だったので、これは評価点とする」
「しかし阿見莉愛の増殖矢と比べれば矢の数が少ない! 硬化性質で一撃の威力は高くても当たらなければ意味がない!」
「下手な必殺も数撃ちゃ当たる……をやりたいなら、相野隊に闇属性の魔法少女が欲しいところだ」
「ところで枇々木めぐるは、あまり固有魔法を使う気が窺えないですね」
「彼女の固有魔法は実況。展開を実況することで現象を強化するが、それは敵味方を問わないため使いづらいんだろう。だがそれも味方が優勢の時だけ実況すれば済む話だ。しかしそうしないのは、ひとえにMC魂の問題……つまりプライドだな」
「資料によると、枇々木めぐるは人気MCを目指しているようです。その誇りに懸けて、実況する相手を選ぶなんてMC魂が許さない! 実況するなら全員する。実況しないなら全員しない。そういうことでしょうか!? 筋金入りのバカっすね! そういう暑苦しいのはどこかのバカを思い出すから癪だが、正直なところ一本筋が通ってて嫌いじゃねぇっす!」
水野むくは「もしかしてそのバカってオレのことか?」と満面の笑顔で返す。
「さて、そろそろ全員魔力が尽きてくる頃だ。グリーフシードで回復するため徹底するか、それを防ぐため追い立てるか。それとも魔力以外のエネルギーで戦い出すか」
「相野みと、阿見莉愛、七瀬ゆきか、観鳥令、由貴真里愛、リングに死ぬ気の炎を点火! ソウルジェムの濁り具合は平均六割! 魔力を用いた運動性能は60%近く低下中! その中でピンチをチャンスに変えるため白兵戦を挑む気か!? 阿見莉愛、嵐と雲の炎を
「阿見莉愛は、死ぬ気の炎を灯せる且つ強い奴をあえて狙ったな。下剋上で活躍するところを見せて評価点を稼ぐためだろう。動機は企画の趣旨に沿うから良いとして、そうでなくてもやる気があるのはいいことだ」
「由貴真里愛、雨の炎の鎮静を両手のパペットにまとわせて白羽取り!? 魔法少女の動体視力じゃないとできない芸当だ! 悪魔様、俺の目から見ても由貴真里愛の実力はBランクなんですが、どうしてCランクなんです?」
「ぶっちゃけて言えば、周りを引き上げるためだ。そのため由貴真里愛には悪いが
「なんと由貴真里愛は悪魔様に差し向けられた尖兵だった! これを知らないCランクの魔法少女だが、どうやら阿見莉愛は戦闘中に練度の差に気付いたのか、果敢に格上相手に挑みかかる! チームメンバーの梢麻友と史乃沙優希は、なんと撤退! 阿見莉愛に命令されたのか! それを追いかける春名隊! が────それらすべてを巻き込む逆境が光る!」
「七瀬ゆきかはその魔法の特性上、無視されてきた。先ほどの魔女狩りで脅威的な力を見せすぎて後回しにされたな。だから自分から虎口に飛び込むほかない」
「七瀬ゆきか! 梢麻友と史乃沙優希に背中を晒して春名隊と戦闘! 阿見隊は混乱しています!」
「これで七瀬ゆきかが阿見隊の味方をしたと誤解する奴は、もう少し“人の打算”というものに意識を向けた方がいい。もし梢麻友と史乃沙優希が後一歩でも七瀬ゆきかに近付けば、その首を跳ねられるぞ」
「七瀬ゆきかにとっては、自分の味方をする奴は逆に邪魔っすからね! おーっとここで阿見莉愛と由貴真里愛の殴り合いに眞尾ひみかが援護射撃! 枇々木めぐるが加勢する!」
「阿見莉愛は火と闇の属性を持つ。由貴真里愛は水属性だ。魔力には少なからず相性がある。しかしそれは神秘ゆえの概念的な話であり、死ぬ気の炎に相性はない。故に今の二人は、純粋な技量で勝負している。そこで三対一となれば、勝負は決したようなものだ。無謀だったな」
「────いえ。そうでもないようです。阿見莉愛! 魔力を急速に浪費していく!」
「っ!?」
「ソウルジェムがみるみると濁っていく! まさか阿見莉愛────ドッペル化するつもりか────!?」
「……功を焦りすぎだ」
「が、そこにお菓子の魔女が襲来────!! 阿見莉愛が喰われた────!?」
次の瞬間、解説席の前に青い閃光がまたたいて、お菓子の魔女に全身を丸呑みにされたはずの阿見莉愛が現れた。人の頭の高さほどから落ちて尻餅を搗く。
「きゃっ!?」
「最初のリタイアは、阿見莉愛だ────!!」
「敗因は、味方の援護なしでソウルジェムに濁りを溜めすぎたことだ。ソウルジェムは濁りが溜まるほど性能が落ちる。ソウルジェムが九割濁った時点で、どれだけ動いているつもりでも、傍から見れば止まって見える。そこをお菓子の魔女に喰われた。まぁ狙撃で殺られたと思えばいい。全身を喰われたからソウルジェムも粉々になるところだった」
「っ……! ……けれど、どうして私は助かって……?」
「試合開始前に青い刀で全身を貫かれたろ。その時に青い刀のカケラを全員の体内に残留させていた。純度100%の雨の炎で出来た死炎物質だから透明度はマックス。肉体を再生する時でも破片に気付かない透明さだったはずだ。その破片はお前らが死にかけた時、救出するための布石。助太刀魔法の応用だ」
「そうですか……それでは私は、無様に負けたから、失格……」
「評価は最後にまとめて行なう。それまで試合を見て、学べるところは学び取れ」
次の瞬間、阿見莉愛の上に胡桃まなか、若菜つむぎが落ちてきた。
「うわぁ!」「きゃあ!?」「ぎゃぷっ!?」 二人の重さに阿見莉愛は潰される。
「胡桃まなか! 若菜つむぎも立て続けにリタイアだ────!! 決め手は八雲みかげの増殖ジャマダハル百本投擲攻撃と、御園かりんと環ういの
「あー負けた! 阿見先輩のせいっすよ! 最初にこれでもかと共闘して威圧したから、一気にヘイト向けられちゃったじゃないですかー! 先輩はバトロワものに不向きっすよー!」
「わ、私のせい!? それでもあなたは共闘に乗ってくれたじゃない!!」
「まぁそりゃ先輩の言うことですから。乗ってあげるのが後輩ってものでしょ」
「ぐっ……相変わらず上からなのがムカつく……」
「────っと、ここで古町隊に動きが!! どうやら再び、遺失言霊砲撃をぶちかますみたいだ────!!」
「あれは必殺魔法に比肩する。次は捌ききれないぞ。状況的に古町隊の放置は仕方ないとして、野放しにし続けるのは得策ではない。七瀬ゆきかの狙いは透けて見えるが、ほかの部隊はどうするつもりなのか」
「西部に極大の魔力反応! また今度こっちに向けてきたら容赦しねーかんな! ──っと、その魔力反応を受けて七瀬ゆきかがいきなり飛び出した! 晴の炎と活性魔力を組み合わせた爆走で瞬く間にウルトラ急接近────!!」
「背後には守るべき魔法少女たちがいる。目標を守護に設定。背水の陣を敷く。その意志が打算あっても本物ならば、逆境魔法は祈りのように、または呪いのように応えてくれる」
「遺失言霊砲撃、発射────!! 迎え討つは単身生身の七瀬ゆきかぁ────!! 直撃すれば流石に死ぬぞ────!?」
「八雲隊に注目」
「っ!? 八雲隊、また背中に凧を付けて空を飛んだだと!? 方向は西部! 八雲みかげ、自身に肉体崩壊魔法を行使! 環うい、空中で回収魔法を行使! 八雲みかげの崩壊した肉体の
「やはり七瀬隊が別れて八雲隊が南下した直前で結託していたか。合わせて胡桃隊を攻撃しようとすれば三つ巴になる。わざわざ片方が狙い、必ず胡桃隊を抑えてくれると判断したなら、それに任せてもいいはずだ。しかし両部隊は獲物の取り合いとなるべきところを、全然そうはならず総攻撃した。偶然でもあり得る話だが、今回はたまたま意図的だったという話か」
「七瀬ゆきかの肉体! 砲撃により消滅! しかし環ういが回収したリソースを用いて、七瀬ゆきかの肉体がソウルジェムから復活! 八雲隊と七瀬ゆきか、古町隊の背後に降り立った────! 七瀬ゆきか肉薄! 環うい、八雲みかげのソウルジェムに活性魔力を回す!」
「通常、魔力で全身を再生する場合、九割の魔力を消費する。肉体的に一度死んだことに絶望を味わって、さらにソウルジェムを濁らせるなら、魔女化まっしぐらだ。しかし活性魔力なら、その九割が五割で済む。さらに環ういは晴の炎も使った。必要魔力は三割から二割まで節約できたはず。このように活性の補助があれば、文字通り捨て身の作戦が可能となる」
「七瀬ゆきか、古町隊を次々と切り捨てる! 腕、脚! 胴体! ソウルジェムは狙わない! 古町みくら、復元魔法を行使! 落ちた部位を即座に直す!」
「魔法少女の肉体を壊すことの意味は薄い。こうして簡単に回復されてしまうからだ。故に狙うはソウルジェム。しかし相手を殺したくない場合、一気に目的達成の難易度は跳ね上がる。殺すより生け捕りの方が難しい。意識を失わせるほどの衝撃を与える必要がある。だが魔法少女は痛覚遮断を有する。痛みで気絶は不可能。ならばどうするか。やはり猫だましでもいいから、痛覚以外の感覚に訴えかけるしかないだろう」
「八雲みかげ蘇生! しかしまだ体が治っていない!? 全身の皮膚が再生されていない! グロイ! あまりにもグロテスク! まるでゾンビのような────あ、それを見た古町みくらがショックで気絶した!? 理科室で人体模型を直視できないタイプか! 吉良てまりが介抱する! 三穂野せいらが七瀬ゆきかと戦うが、これは数的に不利! 恵萌花が硬化魔力を仲間に付与! しかし三穂野せいらにはバックアップがない!」
「みかげの奴、にやけてるな。まるでイタズラが成功した子供の笑みだ。小さい子の方が、案外こういうグロテスクなものに耐性があるんだろうか。あるいは単純に、自分の姿を頭の中の鏡で見ることができないほどに、まだ子供なのか。想像はしても、お化け屋敷のゾンビ程度には、かなりデフォルメされているのかもしれない。かなり子供だましだが、今回は運良くハマったようだ。眼球から手のひら大の白い幼虫が飛び出す腐乱死体を見慣れている少女なんて少ないからな」
「七瀬ゆきか! 三穂野せいらの両耳を峰で打つ! 吐血! 脳震盪を起こしたか!? 打ったと同時に活性魔力を流し込んだようだ! 三穂野せいらの動きがおかしい! 痛覚遮断しているはずだが苦しんでいる! めまいを起こしているのか!?」
「魔法少女を気絶させたいなら、物理的な場合、脳を攻撃するしかない。それも“死んだと思わせないように攻撃あるいは破壊”する必要がある。魔法少女は自分が死んだと強く意識するだけでもソウルジェムにヒビが入って最悪死に至る。気持ちの弱さは魂の弱さに直結するんだ。経験則から言わせてもらえば、案外考えなしだったり意固地な奴の方が長生きする。……そして先程は視覚的・精神的ショックで古町みくらを気絶に追い込んだが、ほかにも聴覚的・嗅覚的・味覚的ショックがある。また、痛覚遮断はあくまで触覚限定。訓練すれば他の感覚も遮断できるが、戦闘効率と熟練効率が落ちるため、あまりオススメしない。しかし遮断の有無を完璧にコントロールできるなら試してみるのも一興だろう。だがもっと言えば、魔法の力を使えば痛覚遮断を無効化することも可能だ。たとえば八雲みかげの肉体崩壊魔法に鋭性魔力を持たせれば、崩壊した部位に痛みを走らせることも可能だ。まぁそのやり方は“死ぬほど痛い”ため、相手のソウルジェムにヒビを入れたくない場合、オススメはしないが」
「御園かりん、グリーフシードで魔力を回復して窃盗魔法を行使! 古町みくら、吉良てまり、三穂野せいらのソウルジェムを奪って、箒に跨り空に離脱! 百メートル圏外に出て古町隊の肉体は機能停止! 七瀬ゆきか、八雲みかげと鍔迫り合うが、再び環ういの凧型ベイルアウトで戦線を離脱! どうやら両者の共闘関係はここで終わったようです!」
「七瀬ゆきかは死が迫らなければ実力を発揮できない。相手が逃げる以上、深追いしても相手の攻撃の意思が感じられない場合、ただの徒労に終わる。それが嫌なら標的を好戦的な相手に変更した方が魔力の節約になるだろう」
「悪魔様! これは古町隊、脱落ということでよろしいですか!?」
「いや、トドメを刺されていないから放っておけ。奪ったソウルジェムで魔法を駆使する算段も当然あるだろう。こちらが回収するのは
「了解しました! 八雲隊、ぐんぐんと北東に上がる! 七瀬ゆきかはグリーフシードで休息に! 一方、中央では遺失言霊砲撃をかろうじて躱した阿見隊の梢麻友、史乃沙優希が瀕死状態! 観鳥隊・相野隊・由貴隊・春名隊もかなりの負傷だ!」
「そろそろグリーフシードの手持ちも尽きてくるはずだ。魔女化の兆候があれば回収しろ」
「ミスんなよ、むく! ────おっと南部では真井隊が水樹塁を追い立てる流れ! しかし様子がおかしい! 戦闘をやめて何やら話し合っている!」
「交渉もまた戦いの一つ。戦闘したくないなら和平を求めるのも良いだろう。生存のための交渉であるなら尚更だ」
「ここで中央に戻ります! グリーフシードが枯渇して限界が来ている魔法少女が数名! 伊吹れいら、梢麻友、史乃沙優希、観鳥令、牧野郁美、由貴真里愛、春名このみ、矢宵かのこ、空穂夏希、毬子あやかです!」
次の瞬間、解説席の前に春名隊が続々と現れた。全員尻餅を搗く。同時にスタンバイしていた黒江からグリーフシードでソウルジェムを浄化される。
「あと数秒で魔女化していたため脱落だ。あわよくばドッペル化を狙っていたのもある。阿見莉愛もそうだが、ここは結界で囲まれているからドッペル化は難しいという話を忘れたのか? 最悪、本当に魔女化していた。練度が足りない。このぶんでは悪魔契約しても生存率は低いな。ソウルジェムを回収した方が世のため人のためになる」
「春名隊リタイア!」
さらに伊吹れいら、梢麻友、史乃沙優希、観鳥令、牧野郁美、由貴真里愛も解説席の前で尻餅を搗いた。
「魔力切れで魔女化寸前。死亡判定だ。惜しかったな。得点稼ぎという側面もあったとはいえ、最後は撤退する魔力や気力すら残っていなかったのは如何なものか。普通、魔女化やドッペル化を予測するなら、誰にも迷惑をかけない場所まで退避して死ぬのが魔法少女としての筋じゃあないか? Cランク戦は泥沼の戦いとなる予想が当たったな。互いに自滅とは情けない」
悪魔の容赦ない言葉の一刺し、いや、ふた刺しに、魔法少女たちは顔を曇らせる。
「残るは相野隊の相野みと・桑水せいか! 七瀬隊の七瀬ゆきか・水樹塁! 八雲隊! 真井隊! 由貴隊の眞尾ひみか・枇々木めぐる! 古町隊です!」
「相野隊に注目」
「相野みと、必殺魔法を充填! 桑水せいか、水転移魔法を行使! 相野隊が瞬間移動! そこには────真井隊と水樹塁がいるぅ────!! 極矢一閃! 大規模な爆発です! ここで水樹塁の反応が微弱に!?」
解説席の前に水樹塁が現れて尻餅を搗く。
「先ほど相野隊は、水転移魔法が込められている硬化矢を大量に降らせたな。その矢自体が水属性の魔力であるため、水判定になっていたんだ。周囲の地面に突き刺さる折れ矢が、まさかテレポーテーションに必要な道具とは思うまい。意想外の奇襲だ。これは巧い」
「なんとなんと、相野隊は布石に布石を打って、完璧な奇襲で水樹塁を落としていた────! しかしその完璧な奇襲から生き延びた奴らがいる! 硬化魔力の結界で身を守った真井隊だ────!!」
「互いに連戦で疲弊している。しかし互いに撤退の二文字はない。とにかく畳の段位を上げるために相手を倒すつもりのようだ」
「激突! 魔力を節約して死ぬ気の炎を使い、相野みとと由良蛍の雷の炎が緑の火花を散らす! 真井あかりは格闘戦を挑む! 桑水せいかと肉弾戦! おっと由良蛍、大量の枕を降らせた!? それに当たった桑水せいかと真井あかりの反応が消滅!」
「入眠魔法で枕の中の夢世界に引きずり込んだな。由良蛍は一番懐に飛び込んではいけない相手だ。アリナ・グレイのように結界魔法の使い手は接近戦を挑むと、こうして無力化される恐れがある。気をつけることだ」
「奇襲の作戦は良かったが、真井隊には相性が悪かったか────! 由良蛍、自らも枕の中に入って消滅!」
「桑水せいかの死は直感していないため無事だが、二対一だ。真井あかりの格闘能力も高い。組み伏せられてソウルジェムを没収されて決着だろう。そして魔力に余裕のある真井あかりが水転移魔法を使えば脅威になる」
「相野みと、枕を探しています! 見つけた! 手を伸ばして中に入ろうとする! 相野みと、反応消滅! ────あっ! し、しかし! 同時に由良蛍と真井あかりが別の枕から出現! 全ての枕を消し去った!?」
「なるほど。敵のソウルジェムを奪う欲を見せず、助けに来ると踏んで相野隊を閉じ込めたか。だがその代わり自分たちは枕の中に入りづらくなった。入れば相野隊と戦うことになる。それともこのまま隠れ潜んで相野隊の魔力切れを待つ算段か」
「なにやら真井あかりと由良蛍が口論しています! ちょうどカメラが口元を捉えていますが────悪魔様、読唇術はできますでしょうか?」
「真井あかりは、相野隊の魔女化を心配している。だが由良蛍は、こと殺し合いなら妥協しないと覚悟を表明している。それに真井あかりは気圧されている。由良蛍を褒めたいところだが、真井あかりの心境を思うと、二人の仲が心配になるな」
「なるほど。命が懸かっていると必然、価値観の激突が生まれますからね。そこでどういう折り合いをつけるかが仲間との大事なコミュニケーションだ!」
「口数は多いほど良いと思っている。相手に話を遮られない話術(早口と思われない早口術も含めて)が前提だが。また、一気に大量の情報を与えて思考をパンク寸前まで追い込み──眠くなった脳のせいで──判断力が鈍ったところを押し切る話術としても有効だ。現にフェリシアが実況の情報量にパンクしてウトウトしている」
「おおっと、ここで八雲隊が場外に撤退!? 七瀬ゆきかも場外に出た!」
「賢い判断だ。むく。回収しろ」
八雲隊と七瀬ゆきかが解説席の前で尻餅を搗く。
「お疲れ。両隊、自分の役割をよく分かっている戦い方だった。特に八雲隊。敵のソウルジェムを奪ったことで戦略の幅も広がる。蘇生させて拷問して情報を引き出すもよし、仲間になるよう交渉するもよし、叛逆や逃亡のリスクを考えてソウルジェムのまま飼い殺しにして固有魔法を使わせてもらうもよし。いずれにせよ次の戦いに備えた良い撤退だった」
「では悪魔様! 戦闘フィールドには、もう真井隊しか残っていませんが……夢世界の中では、一応相野隊がいます。どうしますか?」
「……由良蛍の枕の中でドッペル化した場合、どうなるか不明だ。それで相野隊に逆転の芽があるなら評価が少し変動する」
「────っと、噂をすれば影が! 由良蛍の様子がおかしい! 枕が暴れている!? 中から何かが出ようとしているような────で、出たぁ! あれは、お菓子の魔女だ!! 由良蛍、お菓子の魔女に喰われた! 真井あかり、ソウルジェムが一気に濁っていく────!」
次の瞬間、由良蛍と真井あかり、相野みとと桑水せいかが解説席の前で尻餅を搗く。
「おめでとう。引き分けだ。最後は魔女が漁夫の利したな。枕を広範囲にばら撒いたからお菓子の魔女に侵入されていたんだ。相野隊も枕の中に入る前より傷ついていることから、枕の中の世界で、複数のお菓子の魔女と戦闘していたんだろう。真井隊はすぐに枕から出てきたから魔女の侵入に気付かなかったんだ。入眠魔法────睡眠の概念を持つその魔法は、まどろむことで夢の世界に誰かが侵入しても気付きにくい特性があるのかもな。良い策だったが、自分の魔法の特性について未理解だったことで失敗に終わった。だが筋は悪くない。次は同じ失敗をせず、逆にそのデメリットを利用することを期待している」
「Cランク戦、試合終了ぉ────!! 結果は魔女の一人勝ちに終わったが、まぁそれなりにイイ経験を積めたんじゃねぇーか? てめぇら次はもっと精進しろよ! まぁ生死を賭けた戦いに“次”なんてねーがな! 死ぬ気で今を勝ち取れ! 以上! 実況役のシトピ隼人でしたっ!」
「解説役の悪魔だ。次は感想戦と行こう。上段の間から一人、中段の間から二人くらい、何か言ってもらいたい」
悪魔は視線を向ける。そこで上段の間から七海やちよが進み出た。中段の間からは、色々と考察している常盤ななか・桐野紗枝を直感する。
「では、七海やちよ、常盤ななか、桐野紗枝。助言でもなんでもどうぞ」
「そうね。みんな必死で全力を尽くした良い戦いだったと思うわ」
「しかし結果は死亡者だらけです。生存者は八雲隊と七瀬ゆきかのみ。これはいかがなものかと」
「でもそれは得点稼ぎに必死だったから仕方ないんじゃない? 趣旨が違えばみんな死に急ぐことはなかったよ」
「そうね。それはななかさんも承知しているはず。その上で言っているのよ。“生きるつもりで勝ちを拾う”のと、“死ぬつもりで勝ちを拾う”のは全く違う」
「えぇ。私たちは生きなければならない。悪魔はそのためにこの道場を開いた。だというのにあなたたちは“死ぬ前提で勝ちを拾う”経験を積んでしまった。ハッキリ言ってなんの意味もありません。真に経験を積むべきは“生きる前提で勝ちを拾う”ことです」
「……! ……それはたしかに……ならその趣旨を初めから言えって話だけど、だったらそもそも言われる前にこっちが気付かなきゃダメだよね。じゃなきゃ考えなしの能無しだ。そんな愚鈍な奴なら、この結果は残念ながら当然のこと────ってことかな?」
悪魔は目を伏せる。
「八雲隊と七瀬ゆきかは生き残った。結果はこれが全てだ。実力順序の更新を発表する」
ジュリー凪がホワイトボードを持ってくる。悪魔は霧の炎で図の内容を変化させた。
◆────────【中段の間】────────◆
8畳│
7畳│
6畳│
5畳│
4畳│由貴真里愛↑
3畳│
2畳│
1畳│環うい↑ 八雲みかげ↑ 御園かりん↑ 七瀬ゆきか↑
◆────────【下段の間】────────◆
8畳│阿見莉愛↑ 古町みくら↑ 吉良てまり↑ 三穂野せいら↑
7畳│水樹塁↑ 観鳥令↑ 相野みと↓ 伊吹れいら↓ 桑水せいか↓
6畳│牧野郁美↑ 由良蛍↑ 胡桃まなか↑
5畳│梢麻友↑ 史乃沙優希↑ 若菜つむぎ↑ 毬子あやか↑
4畳│真井あかり← 香春ゆうな(未参加)
3畳│眞尾ひみか← 枇々木めぐる←
2畳│春名このみ← 矢宵かのこ← 空穂夏希←
1畳│恵萌花← 八雲みたま(不参加)
悪魔は直感する。
「あまりに理不尽だと?
場に悪感情が募る。弱肉強食という側面から見れば正論だが、それゆえに彼女たちの心を深く痛めつける。
────ただの女の子が殺し合いとかできるわけないじゃん。
「だったらキュゥべえと契約するな。悪いのはたしかに詐欺師のキュゥべえだが、生き残る意志がないなら魔女化する前に自害しろ。状況に流されるな。理不尽だと思うなら、その原因であるオレを殺しに来い。それができないから今のお前らは文句タラタラなんだ。
まさに
「ところで隼人。香春ゆうなはどこ行った?」
「あいつなら“わたくしはソロで強くなりたいので辞退します”と言って縁側で観戦していました」
「よし。そういうバカな奴の為に、ソロでも段位を上げられる授業を用意してある。だが段位を上げるチャンスを一つ自ら棒に振ったことは意識しておけよ、香春ゆうな」
「はいっ!」返事は素晴らしい香春ゆうな。
「ちなみに八雲みたまが不参加の理由は、調整屋の時点で利用価値があるからだ。弱いからといってソウルジェムを奪うメリットがない。調整屋の時点で多くの魔法少女に守られるため死ぬ心配が少ないからだ」
「戦いは苦手だから参加しなくてよかったわぁ~」
悪魔は「抜かせ。裏で鍛えているくせに」と失笑する。
「それではどんどん行くぞ。次はBランク戦だ。ルールは同じ。二人から四人まで仲間を集めて即興で作戦を立てろ。生きるも死ぬも好きに選べ。どちらであろうと中段の間の上位に上がらなければ、オレがその魂を奪うまでだ」
†