※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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講座内容
【武道:最終試練(VS悪魔)】
【本当の殺し合いとドッペルについて】①



【……まったく。女の子の陰部(ココロ)を抉るのは疲れるぜ】悪魔

 

 ~21:00~

 

 悪魔は、十五時限目。実戦【武道:最終試練(VS悪魔)】の授業開始を告げる。

 

「聞け。魔法少女ども。最終試練の時間だ」

『────!!』

「まず……お前らを殺す(ソウルジェムを回収する)かどうかは、最終試練の結果(実力順序)次第と言ったな。アレは嘘だ」

『!?』

「厳密に言うと嘘ではないが、急遽予定を早めたと言える。要は同時進行だ。結局お前らは下段の間の連中を見捨てることができない。最後に仲間を守るべくオレと戦闘に発展するなら、最(・)初(・)か(・)ら(・)戦(・)え(・)ば(・)い(・)い(・)だ(・)け(・)の(・)話(・)だ(・)」

「……!!」

 

 たとえば環ういは最終試練で実力順序を上げることはできないだろう。そもそも最終試練の内容である“悪魔との戦闘”で良い結果を残せる魔法少女はそう多くない。だが環いろはをはじめとする中堅上位者はなんとか食い下がることができるだろう。その結果、ギリギリで中断の間・四畳以上まで昇進し、ソウルジェムの回収を免れることが予想される。しかし環いろはは、愛する妹の環ういを見捨てるはずがない。必ず悪魔のソウルジェム回収を防ぐため正面対決に発展する。そのみかづき荘の動きに呼応するように、ほかの魔法少女も仲間を守るため、魔法少女のソウルジェムを奪おうとする悪魔を全力で潰しに掛かるだろう。そうなればた(・)だ(・)の(・)殺(・)し(・)合(・)い(・)だ。悪魔が望んでいた、本当の殺し合い(シナリオ)が始まる。

 

「だが、わ(・)ざ(・)わ(・)ざ(・)二(・)戦(・)す(・)る(・)必(・)要(・)は(・)な(・)い(・)。ということで、これからオレは、お前らのソウルジェムを奪いに行く。……言(・)う(・)こ(・)と(・)は(・)そ(・)れ(・)だ(・)け(・)だ(・)」

 

          ♪~MEGALOVANIA~♪

 

「オレ独りで60名以上の魔法少女を相手に必勝できる。そう豪語することは、はたして誇(・)大(・)妄(・)想(・)に当たるだろうか?」

 

 全てのハーフソウルジェムリングに死ぬ気の炎を灯す。

 左手の中指から右手の小指まで、雨霧嵐晴雲空雷雪の八色の炎が轟々と燃え盛る。

 

「希望を夢見て絶望から目をそらす。そんなお前らみたいな甘えた子供は……地獄の業火に焼かれてもらうぜ」

 

 刹那、悪魔の姿が忽然と消え去った。否、今の今まで悪魔が立っていた地点から音の衝撃波(ソニックブーム)が生じる。つまり死炎噴射の音速飛行。すかさず魔法少女は目に魔力を通す。目にも止まらぬ速さの機動は、脳を酷使する代わり、目に残像が映る程度の速さと変わる。

 

 悪魔の膝蹴りが環ういの側頭部に直撃。同時、首元のソウルジェムを奪って空高く急上昇。

 

「ういッ!!?」

「考えながら動いてたんじゃ、0.5秒の差を埋めることはできないぜ」

 

 人間は思考から動作へ移るために約0.5秒を費やす必要があるとされる。

 

(開匣────《天空氷蛾(てんくうひょうが)Ver.モスノウ》────ッ!!)

 

 肉体とソウルジェムの間隔距離99mギリギリの刹那、環ういはありったけの魔属性魔力を匣兵器に注入完了。それは悪魔が戦闘開始宣言をした直後に動いていたが故に間に合った動作。開匣されたモスノウは倒れゆく主のソウルジェムを取り戻すべく凍える風を羽ばたき起こす。

 

「開匣────《晴誇鳩(はれこばと)Ver.ケンホロウ》!!」

 

 環いろははケンホロウの背に飛び乗るとクロスボウを構えて悪魔を追跡。直後、悪魔は空中で静止すると両手を大きく前後に開いた。その構えは何度か見たことがある。

 

 空中死炎爆熱放射(X BURNER AIR)。ケンホロウは大きく翼を広げて躱し、対象に突貫する。同時、環いろはの目には、地上に落下する環(・)う(・)い(・)の(・)ソ(・)ウ(・)ル(・)ジ(・)ェ(・)ム(・)が目に映った。そのまま落下すればソウルジェムは地面に激突して砕かれる。

 

 ソウルジェムは人質。自分の判断に迷う時どうするか。優先順位。何を守り、何を切り捨てるか。誰を守り、誰を信じるか。

 環いろはは咄嗟の判断で、妹のソウルジェムを追いかけた。

 

「人質対策の仕方が弱点だ」

 

 悪魔の神切が二つの首を神速に刎ねる。死を思う間もなく墜落する環いろはとケンホロウの首と体。

 

「《雨海王竜(あめかいおうりゅう)Ver.ラプラス》!!」

「《嵐大炎豚(らんたいえんぶた)Ver.エンブオー》!!」

「《雷草猫(らいそうびょう)Ver.ニャオハ!》」

「《雲暴炎牛(うんぼうえんぎゅう)Ver.ブレイズケンタロス》!!」

 

 走り出す万年桜とアイは、環ういのソウルジェムと環いろはの体をキャッチ。リリスは滑り込みセーフで環いろはの首を背中にぶつけてクッションとした。刹那、悪魔の攻撃が万年桜に迫る。発散魔力で駆け飛んだ七海やちよが間に入り、刀と槍が火花を散らす。悪魔開匣、晴拳銃、射撃。活性された弾丸は七海やちよの両側を通過し、転換性質で方向転換。環いろはと環ういのソウルジェムを狙う。「あなたっ!!?」「魔女化するよりマシだろ」周囲の頭上に大影。津波の如し波に乗ったラプラスが戦場を攫い、悪魔も七海やちよも万年桜もアイも環姉妹の身柄も晴の弾丸も、一切合切を水に流す。

 

(命令されずとも波乗り技で戦局を初期化した……やはりラプラスは知能が高い。最初に潰すべきか)

 

 濁流の流れに揉まれながら悪魔は死炎噴射。水上に脱出した瞬間、四方八方から狙撃が飛んできた。グローブで鹿目まどかの光矢を掴み、暁美ほむらの弾丸を払い、水上を走る水の剣士・美樹さやかと刃を交わし、姿なき二葉さなと深月フェリシアの狙いを直感。前方から由比鶴乃の必殺魔法とエンブオーの火炎放射が飛来。頭上では二葉さなと深月フェリシアの合体魔法(コネクト)が発動しており、透明化した深月フェリシアは必殺魔法(マギア)を行使。透明な巨大ハンマーがすぐそこまで迫る。悪魔は美樹さやかを蹴り飛ばした勢いで逃げようとするが、ニャオハの必中マジカルリーフが逃げ先から飛来、C.A.I.のシールドで防ぐが、その一拍が致命的。

 

 轟然。深月フェリシアの巨大鉄槌とブレイズケンタロスの捨て身タックルが炸裂。地表を粉々に吹き飛ばす。だがどこにも悪魔の姿が見えない。彼は助太刀魔法で御園かりんの背後に出現していた。

 

『っ!?』

「遅い。なぜ初めから自分の身を守らなかった」

 

 悪魔は手を伸ばし、御園かりんのソウルジェムを奪い取る。瞬間、常盤ななかの剣閃が眼前に煌めく。悪魔の行動は先読みされていた。悪魔が奪ったソウルジェムは純美雨の偽装魔法により偽物だと直感。志伸あきらの豪腕が迫る。

 

『開匣────!!』それは常盤ななか・純美雨・志伸あきらの声。

「《嵐覇王花Ver.ラフレシア》!!」

「《雨災害獣Ver.アブソル》!!」

「《雨格闘獣Ver.ダゲキ》!!」

 

 瞬間、悪魔は一対六を強制される。常盤ななかの刀を左肩に受け、純美雨の鉤爪を腰の中央に受け、志伸あきらの拳打を右みぞおちに受け、ラフレシアのグラスフィールドが足から膝を切り刻み、アブソルの辻斬りが両目を切り裂き、ダゲキの瓦割りが左みぞおちに入る。だが悪魔は雷の炎により、全ての被弾箇所をピンポイントで硬化させていた。

 

 悪魔開匣。天空ライオン&雲ハリネズミ&雨燕。一斉形態変化。ナッツはガントレットに、チーズは球針態に、雨燕は刀の柄に。増殖する球針態の直撃を受けて常盤ななか達が突き飛ばされる。悪魔は膨れ上がる針の山に呑み込まれる前に急上昇。

 

「っ!? 違う! あの悪魔はにせも────」

 

 江利あいみが行動予測魔法を行使した時にはもう遅かった。彼女の眼前に現れた悪魔はなに食わぬ顔で晴拳銃のトリガーを引き、脳天を撃ち抜く。撃たれたことすら気付かぬまま倒れていく江利あいみの衣服からソウルジェムを奪い取った悪魔は直感。既に開匣されていた《嵐雛Ver.アチャモ》が体当たりを仕掛けてくる。その一撃は岩をも粉砕する威力。小さいからといって侮っては遅れを取る。たたらを踏んで躱した悪魔のもとに多数の魔法が絨毯爆撃の如く飛んできた。それは都ひなのの化学爆発魔法。それだけではない。「《雷ヘドロ獣Ver.アローラベトベター》……」化学爆発に毒ガスも混ざっている。その中を耐久魔法と透過魔法で猛毒爆撃のダメージを受けず突き進む粟根こころと加賀見まさらは同時攻撃を仕掛ける。

 

『開匣────』「《晴盾獣Ver.タテトプス》!!」「《静粛妖精Ver.ミブリム》」

 

 悪魔の体を狙うトンファーとダガーとタテトプスの突進。その猛攻を右手の刀だけで弾き捌く悪魔は左手で開匣────できない。ミブリムのサイコキネシスが悪魔の体を縛る。「今だ! 合わせてまさら! タテトプス!」「了解」「キュオオオオ!!」悪魔の胴体が貫かれる。鮮血が飛び散り、爆撃が止む。「下がれこころまさら! これで勝ったと思うな! 追撃だ!!」都ひなのの号令。呼応した桐野紗枝と由貴真里愛が開匣。「《雲尾長猿Ver.エイパム》!!」「《雨妖精Ver.ラッキー》!!」

 

 逆転勝利の呪いが発動。悪魔の体に叛逆魔法が自動行使される。強制解除されたサイコキネシス。すかさず悪魔は助太刀魔法で遁走。一方、協力(コネクト)して分析魔力を発散する十咎ももこと水波レナが悪魔の次点出現位置を捕捉した。

 

「後ろだ阿見莉愛(ドア様)!!」十咎ももこの雄叫び。次の瞬間、阿見莉愛は胴体が真っ二つに分かたれていた。落下する体からソウルジェムが奪われる。間髪を容れず悪魔は隠蔽魔法を行使。その姿と強奪したソウルジェムの行方をくらました。

 

『っ────!!!』

 

 阿見莉愛は上半身をズルズルと引きずり、断面を下半身と合わせて即時再生。直後、エッダが全体に指示を飛ばした。

 

「見ていられんな。──全員、魔法動物を開匣して円陣を組め! 死角のない陣形で迎撃態勢を取るんだ!」

 

 その声を聞いて、阿見莉愛、梢麻友、史乃沙優希が開匣する。

「《嵐豹Ver.レパルダス》!!」「《雨美獣Ver.Shi.ミロカロス》!!」「《晴風船妖精Ver.プリン》!!」

 

 胡桃まなか、若菜つむぎも開匣する。

「《嵐火炎獣Ver.リザードン》!!」「《雷大食獣Ver.ゴンベ》!!」

 

 相野みと、桑水せいか、伊吹れいらも開匣。

「《大地雷鬼蜻蛉Ver.メガヤンマ》!!」「《雨水鳥Ver.ペリッパー》!!」「《嵐雨ホイップ獣Ver.ペロリーム》!!」

 

 静海このは、遊佐葉月、三栗あやめ。

「《雲霧Ver.ガラルマタドガス》!!」「《晴嵐雲電獣Ver.ポリゴン》!!」「《嵐雷鉄槌獣Ver.デカヌチャン》!!」

 

 古町みくら、吉良てまり、三穂野せいら。

「《雨霧渦巻獣Ver.オムナイト》!!」「《雨霧魂顔(あめきりこんがん)獣Ver.デスマス》!!」「《晴雨雲変身獣Ver.メタモン》!!」

 

 ソロ組も近くにいる者同士で陣形を組む。

 七瀬ゆきか、水樹塁、美凪ささら、空穂夏希。

「《晴鼠Ver.ピカチュウ》!!」「《雷晴猫Ver.コリンク》!!」「《嵐従騎獣Ver.イエッサン》!!」「《雨応援獣Ver.マイナン》!!」

 

 五十鈴れん、木崎衣美里。

「《雨霧浮遊獣Ver.プルリル》!!」「《天空魔犬Ver.デルビル》!!」

 

 御園かりん、恵萌花。

「《嵐南瓜Ver.バケッチャ》!!」「《大地鼠Ver.サンド》!!」

 

 八雲みたまは自身が狙われないことを知っているが、大切な妹を守るべく八雲みかげと共に開匣。

「《霧封獣Ver.ミカルゲ》!!」「《霧雛鳥Ver.ヒラヒナ》!!」

 

 呉キリカ「《雨雲刃獣Ver.コマタナ》!」

 春名このみ「《雷蕾獣(らいらいじゅう)Ver.スボミー》!」

 毬子あやか「《雲音符鳥Ver.ペラップ》!」

 矢宵かのこ「《雲菌獣Ver.キノガッサ》!」

 眞尾ひみか「《嵐海狸Ver.ビーダル》!」

 枇々木めぐる「《嵐噴獣Ver.バクーダ》!」

 由良蛍「《雷雨夢現獣Ver.ネッコアラ》~」

 真井あかり「《天空嵐桜(らいおう)獣Ver.ポジチェリム》!」

 香春ゆうな「《天空雷果(らいか)獣Ver.トロピウス》」

 

 観鳥令「《電臭獣Ver.スカンプー》!」

 牧野郁美「《天空雲妖精Ver.ピィ》!」

 

 十咎ももこ、水波レナ、秋野かえで。

「《嵐土蛇Ver.ノコッチ》!!」「《雨海獣Ver.タマザラシ》!!」「《嵐馬陸Ver.ヤクデ》!!」

 

 鹿目まどか、暁美ほむら、美樹さやか。

「《天空水鳥Ver.コアルヒー》!!」

「《雲鼬Ver.オタチ》《雲鏡化狸Ver.ドーミラー》!!」

「《雨海驢(アシカ)Ver.アシマリ》!!」

 

 鼓星かずみ、綾野梨花、竜城明日香、夏目かこ、千秋理子、アシュリー・テイラー、入名クシュ。

「《天空氷珪藻(ひょうけいそう)Ver.バニプッチ》!!」

「《嵐心魚(らんしんぎょ)Ver.ラブカス》!!」

「《雨龍落胤(うりゅうらくいん)Ver.タッツー》!!」

「《幻錨電藻(げんびょうでんも)Ver.ダダリン》!!」

「《晴芋虫Ver.クルミル》!!」

「《雲未確認生物Ver.ミミッキュ》!!」

「《霧蝠竜(きりふくりゅう)Ver.オンバット》!!」

 

 最後に黒江も加勢するべく開匣。

「《泥夜鷹》《雨ペンギンVer.ポッチャマ》《幻雲群狼Ver.グラエナ》!!」

 

 勢ぞろいする魔法少女と魔法生物(ポケモン)の軍団。軽く百を越える魔法生物の数に、悪魔は単騎でどう対処するのか。

 

 不意に悪魔は戦場の中央に姿を現す。その全身からは瘴気を漂わせていた。

 

「恋は盲目と言う様に、恋愛性質には盲目作用がある。誰かに魅入られていた方が気が楽だよな。つらいことを考えず状況に流されるままでいいんだから。それが弱さだと知りながら抗えない魅力が、オレの目の中にはある」

 

 魔眼開放。水泳の魔女のグリーフシードが廻る片目の封印結界を限定解除。漏れ出る莫大な瘴気が悪魔の総身を包み、侵し、その姿を魔(・)人(・)の(・)如(・)く(・)塗(・)り(・)替(・)え(・)る(・)。

 

「半魔人化(デビルトリガー)・着装(オン)……通常形態(モード・ビランチャ)────

 瘴炎整合(ベルヴァ・クイント)・我は悪鬼を殺す挑戦者(ディアベル・スフィダンテ)────」

 

『────────』

 

 それは誰もが目を奪われる光景だった。

 青音すずの固有魔法(いのり)・叛逆と、水泳の魔女の性質(のろい)・恋愛は、表裏一体にして紙一重。

 

「迷惑な話だ。誰も頼んでいないのに教師だ生死だとほざいて身も心も拷問する。全てはお前らのためだとのたまって。……正(・)気(・)の(・)沙(・)汰(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)。そう思わない時点で、お前らは虜(・)にされているんだよ」

 

 悪魔は、なんの話をしているのか。

 

「そもそもだな。あまりオレに逆らおうとしない時点で恋愛性質の影響を色濃く受けていることを察してほしい。DVされて何もやり返さないのかお前らは。今までの間に身の危険を感じて殺す勢いで逆らってきたのは、ななかたちやつつじ三姉妹くらいか。てっきり途中で我慢できず、もっと大勢が叛旗を翻してくるものだとばかり思っていたが……意外と従順で不安だった。もしや自我を失っているのかと疑うくらいの沈黙ぶりだ。────哲学的ゾンビって知ってるか? だからオレは魔法が嫌いなんだ。大(・)切(・)な(・)人(・)を(・)お(・)か(・)し(・)く(・)さ(・)せ(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)から……」

 

 祈りの数だけ呪いがある。魔法少女の数だけ魔女がある。願いの数だけ苦労がある。

 

「ままならないよ」

 

 悪魔は地獄の灼熱もかくやの溜め息をつく。その口から漏れ出る息吹は炎の形をしている。もはや悪魔の姿は異形のソレへと変貌していた。

 

「今からドッペルの解禁を許す。だが使えば必ず負けると思え。制御できない力に頼るな。依存の先は破滅しかない。ベテランでさえ扱いづらい能力だ。身も心も半分は魔女になるのだから、必然、魔女化の際に味わう“絶望の半分”に耐え切れるだけの覚悟が必要となる」

 

 まさに悪鬼の如し風貌。黒角、魔貌、獅胴、逆関節の羊脚。死を醸す黒い瘴気の炎を背後に悠然と靡かせる鬼。その鉤爪は山々を裂き砕き、その歪んだ身は不死も同然で、その黒脚は音速三号(マッハ3)に至る。

 

 刹那、名前の通りの外見となった悪魔が歩く。一歩、大地を割り、指で人差し、黒死の光線(デスビーム)が七海やちよのソウルジェムを掠る。「ッッッ!!!」七海やちよは魂(いのち)を狙われたことに愕然としたのではない。悪魔の視線から攻撃の予備動作を見切って躱したと同時、なんの空間・魔力の揺らぎもなく、背(・)後(・)に(・)悪(・)魔(・)が(・)立(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)こ(・)と(・)に(・)恐(・)れ(・)お(・)の(・)の(・)い(・)た(・)。七海やちよは長い鉤爪で全身を横から六分割された瞬間、悪魔は叛逆魔法で“物理法則に逆らった”ことを悟る。音速三号のソニックブームを無かったことにしたのだ。故に音速接近に気付けなかった。分析魔力を張り巡らしていたのに、それすら無効化する叛逆魔法の無法ぶりに観念せざるを得ない。油断した。

 

「ひとつ」

 

 緑の芝生を赤く染めて散らばる微塵切りの人間の体と五臓六腑。隠蔽魔法で七海やちよのソウルジェムが隠される。直感。怒涛の絶望が広がる。神浜市の魔法少女の中で最強格といえる存在が無慈悲な形で瞬殺された。その事実を刮目した者ほど、逃れえぬ最期を予期してしまう。

 

 一歩、大地が陥没し、人差し────その指は誰を向くのか。身の毛がよだつほど滲み出るソウルジェムの穢れ。極限まで高まる“自分は嫌だ”という絶望。

 

「ふたつ」

 

 エッダの全身が血液も含めて跡形もなく消し飛ぶ。瞬間“自分じゃなくてよかった”という安堵を直感。それは現実逃避の希望。絶望から希望への相転移は、なんとも儚く哀れで短いエネルギーとして消費された。九割まで昇っていた穢れは一割ほど浄化され、再び悪魔が一歩を踏み出す頃には────皆、希望から絶望への相転移によってソウルジェムが真っ黒に染まり切る。東の代表者を失った絶望感、ほんのわずかでも安堵してしまった罪悪感、死にたくない恐怖。勝てるわけがない現実。

 

 魂魄爆発。約五十名もの魔法少女が一斉にドッペル化。制御できず暴走を始める。

 空間に溢れ出る瘴気を吸収して力に変える悪魔は、より簡単になった鏖殺を開始した。

 

 暴れ回り襲い来る半死半生の化身(ドッペル)。

 悪魔はそれと戦い数秒も掛からず鎮圧しながら、寄り添うような声で魂の奥に語りかける。

 

「不満・甘美な保存の仕方(コンポート)か。冷ややかな目で見ているのは周りの人間だろ。醜いのはお前の内面だ。自らの不満を認めない者に真の満足は訪れない。まず憧れるばかりで自(・)分(・)が(・)な(・)い(・)事実を認めろ。さもなくば真の満足を理解せず死ぬことになる」

 

「離散・絆か。……多くは言うまい。──ならば勝ち取れ。さもなくば、負けて死ね」

 

「癇癪・ヒナ鳥か。退行を付け狙うのは同族嫌悪か? ピーチクパーチクうるさいな。そんなに泣くのが好きならさ……。泣(・)か(・)せ(・)る(・)だ(・)け(・)泣(・)か(・)し(・)て(・)や(・)る(・)よ(・)」

 

「盲目・第三の目か。趣味で銃を集める奴が実際に戦争好きとは限らない。そいつは銃が好きなわけで戦争は好きじゃないからな。同様に──闇の業火、堕天せし剣──趣味でカッコイイ世界に身を浸らせる奴が実際に異世界転生好きとは限らない。お前は理想だけを詰め込んだファンタジーが好きなわけで血も涙もない現実(ゴブリンに犯されて喰われる)世界は好きじゃないからな。……もう分かるだろう? その姿は真実ではない。悦びに浸るべき化身ではない。眼(・)を(・)覚(・)ま(・)せ(・)。耳(・)を(・)貸(・)せ(・)。その姿は“お前の趣味を誤解される可能性が高い、最も忌避すべき絶望の化身”だ。同担拒否がどうたらは構わないが、同好の士を求めずして自らを省みることができると思うなよ」

 

「退行・遊園か。別にいいんじゃないか? 人間いつだって誰かにおんぶに抱っこさ。それを忌避する事こそ子供だと思う。退行は悪ではなく、誰にでも必要な休(・)息(・)として捉えてみろ。背伸びしたがるのは分かるが、ちょっと大袈裟に考えすぎじゃないか? そういう話じゃない? そうか、悪いな。しかし言わせてもらうぞ。小(・)学(・)生(・)に(・)告(・)白(・)さ(・)れ(・)た(・)中(・)学(・)生(・)ほ(・)ど(・)困(・)る(・)も(・)の(・)は(・)な(・)い(・)。し(・)か(・)も(・)義(・)妹(・)に(・)だ。どうしても早く大人になりたいなら、まず相手の気持ちを考えられるように────おっと、地雷を踏んだか。暴れ足りないなら癇癪と遊んでこい。相手の気持ちを考えなければ対策も練れない。加えて最後まで話を聞かず決めつけで怒り出す。そういうところが、お前の限界(幼さ)だ」

 

「枕探し・死体金庫(モートセーフ)か。それは誰にでもある欲深さ。世の中には勝ち取れないものがある。それは寿命。老いた者はいずれ死ぬ。それを恐れるならば、ひとつ知恵を貸そう。視点を変えてみろ。老婆そのものはいずれ消えてなくなるが、彼女から得てきたものは必ずどこかにあるはずだ。それを心の金庫にしまうといい。具体的に言うと、メモリアの入手をオススメする」

 

「自然体・笑い袋か。オレが不都合な存在だと? 勘違いするな。誰しも軽い二面性はある。大人しいお前も、強がって笑うお前も、どっちも本物のお前だろう。そこに差をつけて区別するのは危険だぞ。たとえるなら、こんな化物が現れてしまうくらいには大危険だ」

 

「鼓舞・身勝手拡声器(メガホン)か。時に応援は、人を傷付けることがあるそうだ。既に頑張っている相手には余計な一言になる場合があるらしい。だが応援の危険性はそれだけじゃない。応援に応えようと頑張りすぎて過労死する奴がいるそうだ。……お前はどうだ? そこまで考えて誰かを応援しているか? たとえば、最近ヴァイオリンを頑張りすぎて腕や手を痛めている、お(・)前(・)の(・)恋(・)人(・)と(・)か(・)」

 

「偏食・無限掃除機(バキュームクリーナー)か。呆れ果てているのはこちらの方だ。自らの暴食を上回る暴食に呆れている時点でおかしな話だ。上には上があるからといって、それが今の自分の免罪符にはならないのに。もう少し自覚したらどうだ? その化物はお前自身の鏡なのだと」

 

「集客・液体石油(プロパン)か。毒料理(ポイズンクッキング)に意思を持つ食材。まるで魔界の料理人になれそうな能力のオンパレードだな。だがそんなに落ち込むことはない。むしろこれは試練と確信しろ。お前は“料理人”なんだろう? ならば、この問題食材たちを捌いて見せろ。自らの内面を料理できない者が、相手の内面を感動させる料理を作れるはずがない」

 

「綻び・糸切りか。考え方を変えれば良さそうな話だな。お前は自分の仕事を“縫う事”だけと思っているようだが、深い意識の底では新たな可能性に気が付いているようだ。そうだな、たとえば────“アレンジ”を試すといい。既にあるものの綻びを見抜き、解いて、切って、縫い直せ。真逆の力を忌々しく感じる前に、マイナスをプラスに変えるポジティブな思考を鍛えてほしい。……おっと。これは人類どころか宇(・)宙(・)に(・)も(・)早(・)か(・)っ(・)た(・)デ(・)ザ(・)イ(・)ナ(・)ー(・)が覚醒しそうな勢いかな?」

 

「退屈・命知らず(デアデビル)か。一度やりあった手前、もう自覚はあるようだが……そ(・)ん(・)な(・)に(・)両(・)目(・)を(・)か(・)っ(・)ぴ(・)ら(・)い(・)て(・)どうした。やはり悪癖とは自覚していても治らんものだな。これは少々……手こずるようだ」

 

 悪魔は基本一撃でドッペルを打ち砕き、気絶した魔法少女からソウルジェムを回収する。

 その回収を防ごうと魔法生物が襲いかかるものの、そのことごとくが軽く一蹴された。といっても魔法生物は本気を出していない。主のソウルジェムが砕かれるなら自らも死ぬことになるため、そうはさせないと躊躇はない。だが悪魔はソウルジェムを破壊する気がない。なにより悪魔とは、既に圧倒的な格の違いを見せつけられて倒された経験がある。わざわざ命の危険を晒してまで、逢ったばかりの主に義理立てする必要はない。そう考える魔法動物は少なくなかった。

 

「緑化・腐葉土か。馬鹿と鋏は使いよう。巧く操れば社会に役立つが、悪く操れば遠隔殺人に役立つ。お前はこのドッペルが、本当に緑化の力を良いことのためにだけ使うと、そう本気で思っているのか? 見ろ、オレの腕を。腐って分解されて爛れている。目をそらすな。操れ。さもなくば全ての花と海(いのち)は腐り落ち、この惑星は焦げた茶緑の表面に覆われるだろう」

 

「電令・心電図か。オレの悪意を焼き尽くすには、少し覚悟が足りないようだ。特に言う事はない。お前は意外と出来る奴だ。何か言ってほしい? そうだな……力に溺れるな。手段は手段。悩めるうちが正道の証。悩むことがなくなれば、きっと友達が命懸けで止めてくれるさ」

 

「矜持・軍服首飾り(ゴルゲット)か。仲がいいようで何よりだ。特に言うことは何もない。あぁだが……類は友を呼ぶと言うのは確かだな。お前らの進撃邁進ぶり(主導権争い)は、竜城明日香の猪突猛進(バカっ)ぶりにそっくりだ」

 

「包括・外套か。人はなぜ楽しいことを忘れやすく、嫌なことを忘れにくいと思う? 心を守るためなんだとさ。美しい記憶を永遠に留めておきたいと思う気持ちは分かるが、やはり秘めておくだけにしておけ。常にそばにあるものほど、人は甘えて礼儀を忘れる。たまに写真を見て思い出すから、人は幸福ってものを感じるんじゃないか。……それとも、いつか友情が裏切られるのではないかと恐れているのかな? とりあえず、その結晶化された二人は返してもらうぞ」

 

「土葬・副葬品か。誰かの輝きを発掘したいのに自らの輝きを埋葬したいとは皮肉なものだな。純粋に制御できていないだけなら、特に言うことはないよ。大人しく眠れ。永遠にな」

 

「決闘・鉛か。……ノーコメント。これだからオレは“恋”とやらにトラウマを覚えてしまった。現在進行形で想い人がいるオレがそれを言うのかって話だけどな。ともあれ、完膚なきまで叩き潰す。太陽のように燃え上がる恋心で、お前の想い人が焼き尽くされないように」

 

「索漠・凪か。波だけでなく凪の生体波動まで持っているとか才能の塊だな。それとお前、本当はドッペルを制御できているだろ。暴れるふりは彼女を守るためか? いいぜ。ならば競争と行こう。オレもお前も魔法は封じられている。シンプルな決闘だ」

 

「我慢・殻か。どうやら決闘するまでもなかったようだぞ。中央区の連中は優秀な奴が多くて教導の手間が省ける。ありがたい」

 

 悪魔は、加賀見まさら・粟根こころのドッペルを打ち砕き、そのソウルジェムを回収しようと迫る。直後、加賀見まさらは発散魔力で粟根こころのソウルジェムを奪取すると、たちまち透明魔法で姿をくらました。悪魔は標的を変更する。

 

「成り上がり・最弱農民歩兵駒(ポーン)か。分かっているならいい。自己分析が出来ている奴はきちんと成り上がることができると太鼓判を押す」

 

「誘惑・ヘビイチゴか。善悪の概念がないのは危ういな。幼稚だと自覚しているならそれでいい。お前は知性も教養もある。安易な希望に囚われず、悪循環から生じる絶望も楽観思考(ポジティブシンキング)で乗り越える。そしてお前はそのことを“ただ自分は運に恵まれているだけ”と驕らない。そんな素晴らしい人間性を有している。南凪区に聖母がいるなら、中央方面には小悪魔のフリをしたギャル聖女がいるようだ。そんなおだてても何も出ないって? 唯一の弱点はそこだ。お前はしっかりしているから全肯定されても自分の価値基準が揺らぐことはない。だが大抵の人間は、全肯定されると躍起になって善も悪も過剰に犯す。その危険性については詳しく知るべきだ。肯定も否定も、時として麻薬になると思え。過ぎたるは猶及ばざるが如し────オレが忠告するべきは、ただそれだけだ」

 

「軽忽・煙霧(スモッグ)か。長い脚が手に入るなら化物になっても構わないと? 女性の美に対する執念は恐ろしいものがあるな。あぁそれと、なにやら珍しいものに目がないそうだが、高校生にもなってちんちくりんのお前の方がよっぽどめずら────悪かった。激憤しても暴走しないか試したんだ。悪かったって。ごめん」

 

 都ひなのはドッペル化しても暴走こそしなかったが、身体的コンプレックスを刺激されたことで激憤。煙霧を吹き出しすぎてしまい、自らの視界まで覆ってしまう。それが隙となり、一撃でドッペルを砕かれて胴体が貫かれる。その流れでソウルジェムを奪われた。

 

「突貫・引き金、返報・蔵、報復・狐……か。三位一体のドッペルとは珍しい。互いの腹を割って話すことが当たり前の家庭のようだ。いやいや悪く取るな。素直に赤裸々でいいと思う。ただ問題児だな。親の顔が見てみたい(育ちの悪さが露呈した)と言われたいか? 一心不乱に環境破壊、無理難題な強制契約、理性蒸発で本能跳躍。いずれも大惨事に繋がる暴れ方だ。赤裸々に話しすぎて互いの腹を突き刺すような一家心中は傍から見ていてもゴメンだぞ。もう少し、こらえ性というものを磨いてくれないか。特にヒステリックな長女と三女。次女に問題がないわけでもないぞ。人はパニックに陥っている奴を見ると冷静になれるそうだ。つまり二人がいなくなれば、次女も意外と……否定したいなら、オレを閉じ込めようとするその病んだ攻撃をやめてもらおうか」

 

 蔵の中に閉じ込められた悪魔はしかし、逆転勝利と叛逆魔法の一撃で粉砕し、引き金をひねり壊して狐を殴り殺す。

 

「ありのまま・巾着袋(ポーチ)か。可愛らしいじゃないか。だがアピールの仕方は弁えないと周囲は凍りつくぞ。ボーイッシュな奴がいきなりふわふわなかわいさに変わったら、熱を出して風邪を引いたのかと心配される。言葉を選ばないならドン引きする。あぁそうだ。お前の冷気を放つその攻撃は、将来カミングアウトすることで失敗しないための警告だったんだよ。ドッペルは自分でも気付かない深層意識の具現化。本能の警告には、素直に従っておくべきだ。聞き入れるかどうかは、ケースバイケースだが。嘘をつきたくない相手ができたら、正直に打ち明けてみてもいいんじゃないか?」

 

「安眠・毛巾(タオル)か。ペルソナ! スタンド《ゲットアップ(起きろ起きろ起きろ起きろ立ち上がれ!)》!! ……さて、これでオレは眠らない。狸寝入りで対話を拒否するなら、オレの言葉はただの寝言として処理しろ。それなら届くものもあるだろう。────さて、眠るのは良いことだ。なぜ憎からず思う? 人生の三分の一は睡眠に費やしている。お前の場合は努力の報奨が安眠というだけの話。蒼海幇のみんなは、お前が頑張りすぎで倒れないよう、枕やタオルをプレゼントしているだけなのかもしれないぞ。あるいは────……幼稚な自分を忌み嫌うなら、大人になるための余計な言葉をくれてやる。──タオルはともかく、枕をくれる意味を深(・)読(・)み(・)してみたらどうだ? ……オレは好かんがな」

 

「表裏・暖簾(のれん)か。きちんと本心を操れているようで何よりだ。ただドッペルとは深層感情の露出。花の要素がないことに罪悪感を抱く必要はない。お前の存在自体が“華”なのだと、かつて言ってくれる家族(父)がいたはずだ。…………待て。なぜ今の言葉で赤らむ? やめてくれ。もうトドメを刺すぞ」

 

 時雨蒼燕流とドッペル式時雨華心流の鍔迫り合い。機先を制したのは悪魔だったが、卓越した技量の前に刃が撃ち落とされる。直後、常盤ななかのドッペルが打ち砕かれた。いったいどんな攻撃を受けたのか知る由もなくソウルジェムを強奪される。意識を失う刹那に気付いた。悪(・)魔(・)が(・)二(・)人(・)い(・)る(・)。瘴気と構築の力で分身しており、背後から奇襲されたのだ。ドッペルは巨体ゆえ背後が死角となりやすい。新たな学びを得た常盤ななかだが、ソウルジェムを奪われた今となっては遅きに失した話だと自嘲して意識を失った。

 

「牽引的正魅力(カリスマ)・海の星(ヒトデ)か。誰しも承認欲求は持ち得るものだ。自らの顔かたちが変わることにアイデンティティの喪失を感じないのであれば良しとしよう。実際なんともないようだし、特に言うことはない。駆け上がることを期待している。……なにか一言欲しいようだが、その言葉は好きな子のために取っておいてあるんだ。悪いな。それにお前はその言葉より、美しいと言われるタイプだろ。こう……美少女と美女は違う的な────おっと癇に障ったか。暴走気味だな。可(・)愛(・)く(・)な(・)い(・)。倒させてもらう」

 

「職責・短刀か。思わぬアイドル活動は大変だな。同情するなら強い心をくれ? それは難しい。心を砕いて献上したところで、お前はそれに罪悪感を覚えて身を潰す。ならば、寄り添ってくれる相手を探してもいいんじゃないか? アイドルが恋人を作っちゃいけないなんて、そんなの可哀想だろ。そんなに恋がしたいのなら、という前提の憐憫(ハナシ)だが。────だからってオレにわずかでも矛先を向けるな、殺(・)す(・)ぞ(・)」

 

「寵愛・撫子(なでしこ)か。……これに同族嫌悪を感じることは筋違いだろうな……だが気持ちは分かる。何もしていないのに、結果的に相手をたぶらかすことになってしまい、告白されたり逆ギレされたりして戸惑う……罪な女とはよく言うが、罪な男もここにいる。そんな自分に酔っているわけじゃない。お互いに割と切実な悩みとして、是(・)が(・)非(・)で(・)も(・)解(・)決(・)し(・)た(・)い(・)問(・)題(・)だ。しかし自分の何かが原因なら、それから目を逸らすことは許されない。妄信的な虜を量産していくと、いずれ身を滅ぼす事になる。既に覚えがあるからな。忠告しておくぞ。加えて言っておくが、そ(・)ん(・)な(・)同(・)じ(・)悩(・)み(・)を(・)持(・)つ(・)男(・)女(・)が(・)一(・)緒(・)に(・)な(・)れ(・)ば(・)セ(・)ー(・)フ(・)な(・)の(・)で(・)は(・)?(・) とはなりにくい。むしろ大惨事に繋がる恐れがある。たとえばオレとお前が組めば、全ての異性を知らずして支配下におけるだろう。地球征服がしたいなら、世界の終わり頃にそれをやってみるのも悪くはないかもしれないな。色欲の宗教じみたことになって、抑止の守護者が信徒を鏖殺するかもしれないが。────もちろん冗談だ。似た者同士に出会えたことで、つ(・)い(・)漏(・)ら(・)し(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)弱(・)音(・)なんかじゃない。虜にされかかって(依存しかかって)いたのは、お互い様だけど」

 

「篭絡・針か。依存の先は破滅が多い。だが共依存の先は視点によるかもな。美国織莉子もそこまで心が強いわけではない。お前の高い忠誠心と危うい依存心に寄りかかることで、自らの心を守っている節がある。お前はいつか自分が裏切られるかもしれないことを考えもしないが、向こうもそれは承知している。あとは、どちらが早く依存を振り切るか。当然、織莉子の方が先だろうな。だがお前はきっと、いや必ず、それでも良いと言うのだろう。ならば何も言わない。傍から見たら破滅だが、自らが恩人にとっての駒でしかないと知っても、なお構わないと声高に叫べるなら……救(・)え(・)な(・)い(・)よ。勝手に満足して逝ってろ。おめでたい奴め。お前はどんな死に方をしても、必ず勝ち組でいられる。お前はそういう奴(精神性)だ」

 

「衆目集め・発条(ゼンマイ)人形か。相手に笑ってほしい。自分の存在を求めてほしい。この二つを僅かに同一視するとは、まぁ誰にでもよくある認識の誤解。事実解釈の不一致だ。メイド喫茶……それ以外の仕事に付けば自然と消える。だが長いこと続けるなら、その同一視は力を強めてしまうかもしれない。かといって治すために自覚させようとしても、かえって悪化する恐れがある。普通にカウンセラーをオススメしたいが、世の中のボケどもはた(・)か(・)が(・)風(・)邪(・)を(・)引(・)い(・)た(・)く(・)ら(・)い(・)で(・)病(・)院(・)に(・)は(・)行(・)か(・)な(・)い(・)とのたまう。まるで病院や診察所は“重症の奴だけが行く場所”と言いたげに。よって、そのボケであるお前にオススメしても軽く一蹴されるだろう。故に荒療治だ。軽い風邪も甘く見れば、喉を焼いて心を殺されてしまうこともあるんだぜ? つまり死ねってことだ。自らの病の将来的深刻さを認めない奴に、自らの将来が訪れるわけないからな」

 

「興味本位の噂話(ゴシップ)・二眼レフか。真実を求めるのはいいが、多少は平等であれよ。……なんて言われるまでもなかったか。暴かれた想いを撮影者と被写体で共有する能力か……それを使ってオレを撮影してみてどう思った? オレの真実はなかなかに醜いものだったろう。お前がドッペルを使い慣れていることは見て分かる。今ここで暴いたオレの真相情報をマギウスに持ち帰って調査するんだな。オレも電波塔の一件で気(・)に(・)な(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)こ(・)と(・)がある。はたしてオ(・)レ(・)の(・)過(・)去(・)は(・)ひ(・)と(・)つ(・)だ(・)け(・)な(・)の(・)か(・)とな────」

 

 悪魔は深刻な顔で考え込む。

 観鳥令が暴いた悪魔の真実。その情報を共有して得たことで、非常に今更な話だが、衝撃的な事実に気が付いた。

 

 い(・)つ(・)か(・)ら(・)“(・)笹(・)川(・)了(・)子(・)”(・)は(・)“(・)笹(・)川(・)了(・)子(・)”(・)だ(・)っ(・)た(・)…(・)…(・)…(・)…(・)?(・)

 

 この真相を突き止めなければ。

 さもなくば、なんらかの重大な見(・)落(・)と(・)し(・)によって、全てが台無しに終わる気がする。

 

 そう、悪魔は直感した。

 

「陣取り・敷地、変身・ガラス靴、自戒・可憐爪(ネイル)……か。なんとか制御は出来ているようだな。だが力は使いこなせていない。悪魔契約による副産物(魔力係数二乗)で、なんとか制御可能になっているに過ぎない。一喜一憂ご苦労様。戦闘に役立てないならドッペルを仕舞え。それができないなら────ただのハリボテ。ただ固いだけの動かない標的(マト)だ」

 

「垂涎(すいぜん)・蛾(ガ)か。光に群がる蟲……それは太陽を目指したイカロスとなんの違いがあるだろう。身を焼くほどの執念で朝の雲雀に焦がれるなら、いっそ死(・)ぬ(・)気(・)の(・)炎(・)で(・)焼(・)か(・)れ(・)て(・)み(・)る(・)か(・)? 安易な満足を得るために自傷行為へ走るなら、問答無用でそのソウルジェムを奪わせてもらう」

 

「信仰・いとおかし(Kawaii)か。まさか娯楽で新興宗教を立ち上げる勢いとは驚いた。デンキ街に革命を起こすか? その程度で済めばいいんだがな。洗脳的な趣味嗜好の改変はいただけない。オレは音ゲーと落ちゲーが好きなんだ。その趣味嗜好がダンスゲーとフライトゲーに変えられても困る。よってお前は虎の尾を踏んだ。布教もほどほどに、礼節をわきまえて。な?」

 

「手繰り・月下氷人か。久しぶりだな。まさか理子よりドッペルの方がオレに気を許しているとは思わなかった。まぁどちらも理子であることに変わりはないんだが……深層意識でオレの因果を手繰り寄せようとするのは構わないが、あまり依存させないよう気をつけることだ。……電車の使い方でも教えるかな。そうすればお姉さんと会えて寂しくはないだろう。家に押しかけるのは迷惑じゃないかって? 難しいな。まぁ一番の解決は、別の友達を作ることだ。お前、誰かに誘われても家族の手伝いを言い訳にして断るだろ。意外と人見知りなんだな」

 

「勇み足・裁断か。手繰りが怖がるわけだ。お前ら深層意識下では相性が悪いようだな。だが人間関係なんてそんなものだ。表向きは両方温和なんだから問題ない。サングラスを掛けたことで一皮むけたようだし、なんとかドッペルのコントロールも出来ているようだ。しかし完璧ではない。暴走させなきゃ戦えないっていうことなら、やはりお前は戦士にはなれない。ただ蹂躙されるだけ、搾取されるだけの、一般人ってことだ」

 

「猛進・陣太鼓か。お前が神浜全土を仕切る旗頭になれば、少年兵を勇猛果敢な一流戦士にしてやれるが……その粗忽さが発揮されると一転、少年兵は赤子もかくやの泣き喚きぶりに失墜する。その後、多くの死者を出したお前は自害して、まだ生き残っている者達を助けるという責任すら果たさず全滅と。時に自害は、責任を取る事ではなく逃避に繋がる事がある。自害しようと思ったら、それは責任か逃避か、よく考えて腹を切ることだ。良くも悪くも期待している。だからオレを嘆かせるな、竜城明日香」

 

 轟轟剣戟。死闘の末、悪魔はなんとか一本を取る。

 

「暴露・自白剤か。オレの本音を聞かせてほしい? 絶望した理由はそれか。だけどそれってオレを心配して聞いているわけじゃないんだよな? 人の心は秋の空。その現実に耐え切れず、他人に不信感を抱き、それが嫌で悩んで苦しんでいる。だからオレの本心を知ろうとした。結局お前は、オレが変わった理由じゃなくて、自分は他人に不信感を持ってもいいんだという証拠が欲しいだけだ。そうすれば不信感を抱くことを正当化できて悩み苦しむことがなくなるからな。酷い奴だ。偏見を嫌うくせに、オレのことは事実確認を取らず“もう変わってしまったもの”と見切りをつけている。それって偏見だろ。勝手な女だよお前は。そんな酷い奴の脅しなんて怖くない。ならば自白剤を使う? ────やってみろよ。人の心を暴くことは、人の心を殺すことだ。その覚悟がないのに、安易に人の本心を探ろうとするんじゃない。迷惑で失礼で陵辱だ。あとあとのケアを考えた上で探るなら、オレは許す。だがお前はそれが全く出来ていない。そんな奴を許すことはできない。来いよ、一撃で眠らせてやる」

 

 悪魔は、自白剤入りの巨大な注射針に刺し貫かれて胴体に風穴を開けられるが、眼光一閃。ただの気迫で眼前の障害物(ドッペル)を粉砕した。綾野梨花のソウルジェムを回収する。

 

「……まったく。女の子の陰部(ココロ)を抉るのは疲れるぜ」

 

 そして悪魔は────ドッペル化を免れた複数の集団に振り向いた。

 

 そこには、肉体を再生した環姉妹と、由比鶴乃、二葉さなとアイ、深月フェリシア、リリス、万年桜、鹿目まどか、暁美ほむら、美樹さやか、八雲みたまが揃っていた。彼女たちは周囲で暴れまわるドッペルから身を守るべく寄り集まっていたようだ。

 

 別のところでは、由良蛍の枕が落ちている。どうやら由良蛍は偶然近くにいた枇々木めぐる、恵萌花、由貴真里愛を強引に引っ張って、枕の中の夢世界に緊急避難したようだ。しかし枕の中でお菓子の魔女の波動を感じる。ドッペル化の際に放出される穢れも感知した。どうやら向こうは向こうでドッペル化の危険性を講(・)義(・)しているらしい。

 

 そして縁側では、呑気に茶を飲むピュエラケアと、非戦闘員のフゥ太、イーピン、千歳ゆま、ランボ、しれっと居座っているミザリー立会人を守るべく、シトピ隼人・水野むく・笹川了子・ジュリー凪が陣取っている。ただし恭弥アーデルハイトは屋根の上で寝そべり、つまらなさそうにあくびをしていた。さらに縁側の近くには黒江、和泉壮月、バジルが立っており、戦いの様子を驚愕の瞳で呆然と見つめている。

 

 不意に悪魔は、八雲みかげのソウルジェムを取り出す。「っッ!!」それを目にした八雲みたまは動揺。ソウルジェムの穢れが増していく。

 

「魔女化の抑制訓練を受けた調整屋も、さすがに家族を人質に取られては兆(・)し(・)が出るか。しかし多くの戦いを共にした強者が揃っているだけある。生半なやり方では、ドッペルを出してくれないようだ」

 

 瞬間、爆発的な瘴気が悪魔の全身から放出される。

 それを一身に受けた魔法少女のソウルジェムはみるみると濁っていき、すぐにドッペルを顕現させた。

 

「死を忘れる事なかれ(メメントモリ)・花弁か。神浜滅亡の願いを叶えた事、今では善人と出会うことで後悔しているようだが、それも口だけ。一皮剥けば過去の怨恨が表出する。ドッペル化したのだから当然だと? 甘えるな。その恨みを理性で抑えることができない時点で、お前はいつか必ず大罪を犯す。憤怒に穢れて魔女となる以外に、何か解決策を探りたいものだが────そこまで面倒を見る気はない。だが、この土地を離れる決断をせず、手段はともあれ変えることを望んだ志だけは……オレも、人のことを言えないな」

 

「恋慕・人魚か。既に忠告は済ませてあるから何も言うまい。それに何か言ったところで、答えはもう見つかっているだろう。人は相談する時、大抵の回答は無意識に用意しているものだからな。だがお前は感情に身を任せて誰かに相談することをしない。……結局一言用意したが、念を押して言うべきことはそれだけか」

 

「悪魔ぁ!!」鼓星かずみが叫ぶ。彼女は人造魔法少女であって、ソウルジェムを持つ通常の魔法少女ではないためドッペル化しない。過去、暴走したことはあるが、それは起動キーが原因。既に暴走を促す機能は解体しているため、瘴気を受けても具合を悪くする程度。そんな鼓星かずみは、なぜソウルジェムを奪うのか内心で問いかける。それを無視した悪魔は一蹴。その威力は途轍もなく、下半身がその場に残り、上半身だけがちぎれて吹き飛ばされた。

 

「モ────モキュ! モキュキューッ!!」

「下がってろ、リリス。耳を刎ねてもいいんだぞ」

 

 勇気か蛮勇か。仲間を守るため無謀にも突進したリリス。悪魔はその顔面真横に鋭い蹴りを掠めた。突風、乱気流の発生。逆巻く風に巻き込まれたリリスは悲鳴を上げる余裕もなく上空へ吹き飛ばされていく。

 

「無色透明・審問椅子か。その拷問への情熱は本心(憂さ晴らし)か趣味(性癖)か? それとも自らが受けた責め苦を体現しているのか。両方でもいいし、どちらでも構わない。趣味と実益が重なることは稀だ。その希少性を巧く利用しろ。まだコントロールは完璧ではないが、ほかのメンツと比べて遥かに筋がいい。絶望の中でも理性を保っていられるのは、そ(・)れ(・)が(・)日(・)常(・)だ(・)っ(・)た(・)からか……いいぞ。お前は魔法少女の中でも割り切りがいい。生き残るタイプだ。しかし圧倒的強者を前にして透明化して逃げることをせず、仲間を守るために立ち向かってくる優しさは────確実に命を落とす下策でしかない」

 

「攪拌・瞼か。既に両親の死の真相は知っている。だが知っている事と理解している事は別物だ。戦争を知っていても戦争を体験したことはないように。親殺しについて知っていても自責・罪悪の面から、どうしても受け入れたくない・認めたくない・理解したくない気持ちがあることは仕方がない。……いや? 無理に受け入れろなんて言わないさ。ただ思い出せ。魔女を憎んでいた頃を。その頃のお前はドッペルの力を借りていたはずだ。大量の血を流すたび、死や敗北という現実を踏み砕く力を必要としたはずだ。ならば今回もそうすればいい。────愛する親を自らの手で殺してしまった現実。それに目を瞑って逃避している惨めな自分の現実を、その圧倒的な力で打ち砕け!」

 

 目を覚ました攪拌のドッペルだが、次の瞬間、その眼球を破壊される。だが腕と体が残っている。圧倒的な膂力で悪魔の胴体を粉砕。瞬時に再生した悪魔は一撃、ドッペルの胴体を消し飛ばす。深月フェリシアは残る両腕で悪魔の五体を粉砕、ならばと悪魔もその両腕を轢断。不死身の怪物同士の戦いは、悪魔に軍配が上がった。同時、忘却魔法が行使される。悪魔にソウルジェムを奪う目的を忘れさせようとしたのだろう。それを叛逆魔法で無効化した悪魔は、深月フェリシアのソウルジェムを奪い去った。

 

「団欒・金華か。随分と自分のドッペルを嫌っているようだが、それは契約の際に生じた呪いによるものだ。お前の内面が俗悪というわけではない。大抵の魔法少女はドッペルに内面が反映されるようだが、自分の本心と切り離して叶えた願いほど、自分の本心とは掛け離れた形のドッペルになると見た。さて、そんな呪いとの付き合い方だが……俗悪な願いを叶えた事実は事実。まずはそれを認めて歩み寄り、飼い慣らさないと、いつか必ず破滅を招く。嫌うだけなら誰でも出来る。好きになることは難しい。ならばせめて利用しろ。もしかしたらお前は、やることなすこと全部が中途半端だから、いつまでも五十点のラーメンしか作れないんじゃないか? 少しは本音を表に出せ。オレからすればみかづき荘のみんなは素直で分かりやすいが、その中で面(・)倒(・)な(・)我(・)慢(・)屋(・)だと感じるのはお前くらいなもんだ」

 

 由比鶴乃のソウルジェムを回収した次の瞬間、鹿目まどかの必殺魔法が悪魔の全身に百億の穴を開ける。

 

「……慈悲・救済か。ドッペルを出しながらマギアを使うとか、どんな神経してるんだ。有り余る才能だけで感情の問題を解決するんじゃない。鋼メンタルにもほどが────」

 

 悪魔は首を傾げて弾丸を躱す。暁美ほむらの狙撃銃だ。直後、背後で“跳弾”の音色が聞こえた時には、悪魔の頭は後頭部から炸裂していた。しかしそのダメージも瞬時に再生する。黒い血しぶきを噴出させながら瘴気に満ちた肉塊が寄り集まり顔を形成する悪魔は、今の被弾理由を考察する。

 

「──……狙撃に使った弾丸を、霧の構築で隠密行動させていたドーミラーの鏡で跳ね返したのか。さっそく魔法動物を使って実戦レベルまで磨き上げているとは大したものだ。しかし狙撃銃の扱いは素人のはずだが? ……そうか、オタチを観測手(スポッター)にしたのか。発想はいいが、いかんせん火力に欠ける」

 

 音速接近。環姉妹のドッペルが道を塞ぐが、それを片手間に払い除けて暁美ほむらの首を絞め上げる。

 

「ッぅ……!?」

「閉鎖回路・彼岸か。堂々巡りの時間遡行。終わらない逆転劇。結局お前のやっていることはインキュベーターにとって得でしかない。死ぬ運命にある友人を助けるべく運命に身を委ねるなんて愚かな話だとは思わないか? その螺旋を回避すべく戦っているとのたまうなら、もっと欲張れ。徳を積んで変えられるものは人間関係だけだ。世界を変えたければ業(・)を積め。前世現世来世、あらゆる因果を支配してはじめて運(・)命(・)に(・)刃(・)向(・)か(・)え(・)る(・)。世界はそんなふうに出来ている。目には目、歯には歯と言うだろう。インキュベーターが用意した運命には、暁美ほむらが用意した運命で立ち向かえ」

 

 悪魔が口を開けている間、数々の光矢が肉体を消し飛ばした。されど悪魔の腕は暁美ほむらの首を掴んだまま離さない。そして語(えぐ)り終えれば用はない。暁美ほむらのソウルジェムを回収した悪魔は、鹿目まどかの光矢を利用してその肉体を消し飛ばした。

 

「────ッッ!!?」

「慈悲を与えてやったのか。救済を恵んでやったのか。全てを救う? 不可能だ。お前は世界を救うことはできても、たった一人の親友を助けることはできない。……今のようにな」

 

 鹿目まどかは目を見開く。そして殺意全開で必殺魔法を連続行使。

 

 ────時間停止。

 

 悪魔の手には暁美ほむらのソウルジェム。時が停止した中、悠然と歩き、鹿目まどかのソウルジェムを回収して遥か彼方に蹴り飛ばす。

 

「……この神浜に来て最初に出会った魔法少女はたしか、いろはだったか。期せずして最後となったが、この因果に免じて────妹より先に死ぬか、妹の次に死ぬか────選ばせてやる」

 

 環いろはと環ういは合体必殺魔法(マギアコネクト)を行使。環ういは魔力だけでなく、空間に充満する瘴気を回収して激痛の悲鳴を上げる。その代わり環いろはのクロスボウにはドス黒い極光が加速度的に蓄積していき、射出。大地を抉る一条の黒閃が修練場の端にて爆発し、キノコ雲を上げた。しかし悪魔には当たっていない。環いろはと悪魔は直線上に立っていたのに、環いろはは外してしまったのだ。

 

「答えは沈黙か。それがお前の情けない所だ」

「っ!!」

「そして姿は呼子鳥……なんだ、自覚あるんじゃないか。いつまでも子(妹)離れできない親(姉)は惨めなもんだぞ。そんな自分を直視できなくて目に包帯なんか巻いているから当たる攻撃も外してしまう。妹の悲鳴を聞く覚悟もなく、包帯を耳にまで巻いている所も嘆かわしい。そんなお前は、やはり戦士には向いていない」

 

 悪魔は一撃、環いろはの体を消し飛ばす。手元にぽとりと落ちたソウルジェム。

 眼下には環ういが苦悶の表情でうずくまっている。

 

「受難・幸福な彫像か。自分は姉と苦難を共にしたいと思っているのに、その姉が逃げ腰なのは失望しないか?」

「……っ!!」

「そうか、しないか。そしてイイ眼光をしている。やはり戦士に向いているのは、お前の方かもしれないな。……いや、自分の命を安く見ている時点で、兵士としては落第点か。幸運にも最後まで生き残った魔法少女として遺言を聞いてやる。何か言うことはないか?」

 

 環ういは回収の力が暴走している。回収魔法を中止したいが、瘴気に侵された体が激痛を引き起こして意識が明滅、魔力の通りも悪化して心身ともに解除が阻害される。そんな状態でも闘志を緩めない眼光を放つ環ういは、悪魔の異貌を見上げて苦痛の声を上げた。

 

「ま、まけて、ない……っ」

「なに?」

「わ……わたし、たち、は────あくま、さんに……ぜったい、勝つ!!」

 

 その根拠はどこから来るのか。まさかありもしない希望を信じているのか。

 

「戦闘中にオレの独り言をずっと許していた烏合の衆が何をどうして勝つと言うんだ? 魔法があるなら奇跡もあるだと? その魔法を現実にあるものとして認識した以上、奇跡は空想(本)の中に閉じて(消えて)しまうんだよ」

「消えない……! だって、も(・)う(・)ひ(・)と(・)り(・)の(・)私(・)が(・)い(・)る(・)……!」

「……? 受難のドッペルは戦闘を拒否している。それがお前の性格だ。なにより戦わずして勝てるわけがない。ましてや生き残ることなんて────」

 

 ────そういうことではない。

 環ういの狙いを直感した悪魔は過去の事例を思い出し、「まさか」と呟いて夜の星空を仰いだ。

 

          †

 

 

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