※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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第4.5章 仏国聖杯戦争 ミレニアム・エンパイア ‐戦場用神浜特区、其は悲嘆の罪恋者‐

またの名を「英霊戦乱魔界 神浜 ‐救世の魔法少女‐」



第4.5章 仏国聖杯戦争 ミレニアム・エンパイア ‐戦場用神浜特区、其は悲嘆の罪恋者‐
5月20日(土曜)【────やりやがった……やりやがったな……ッ!! 里見灯花、柊ねむ……ッッ!!】悪魔


 

 悪魔道場閉館から三日が過ぎた。

 

 早朝。時刻は六時頃。灰色の曇天。鳴り止まぬ轟雷と洪水を生む豪雨の大嵐が神浜市を襲う。

 テレビをつければどのチャンネルも【大雨・暴風の特別警報】を発表し、土砂災害や浸水の恐れを警告。波浪や高潮など様々な災害を予告する。

 

 外出は死に瀕する危険を伴う。学校も休校。魔女も結界に引きこもるため、魔法少女も例外なく家に閉じこもる。

 

 それはみかづき荘も同様。裏庭倉庫のアトリエに住む黒江一行も避難のため本邸に上がり、七海やちよは停電に備えてリビングに懐中電灯や乾パンなど防災用品を用意する。

 

 窓を叩きつける大粒の水滴。環いろはは結露した窓の内側を指でなぞり、不安そうに黒い嵐を見守る。

 

 二階の寝室では悪魔が寝ている。三日間、何をされても目を覚ますことなく、昏睡状態が続いている。可能な看病は全て施した。否、治癒魔法はまだ使っていない。理由は七海やちよから止められたからだ。曰く「それで目を覚ましてもまた無茶をするだけだから、今はおとなしく寝かせておきなさい」とのこと。確かに道場が終わって疲弊しきった心身で、また悪魔と口論する体力はない。

 

 しかし三日も経てば体力は元に戻る。そろそろ悪魔を起こしても良いだろう。環いろはは決心すると階段に向かう。そして彼女が手すりに触れた時、異変は起きた。

 

「ァ゛ア゛アアアアアアアアアアアアアアアア────!!!?!?」

 

 それは断末魔だった。悪魔の絶叫。苦痛を叫ぶ声は家中に響き渡り、邸内に居た全員の肩が驚きと共に飛び上がる。息を飲んだ環いろはは、すぐに階段を二段飛びで駆けつける。

 

「悪魔さん!?」

 

 扉を叩き開けた環いろはは、ベッドから転げ落ちて床にうずくまり、頭を抱えて目が血走る悪魔を見て、その憤怒の形相に戦慄(ゾッと)する。

 

「────や(・)り(・)や(・)が(・)っ(・)た(・)……や(・)り(・)や(・)が(・)っ(・)た(・)な(・)……ッ!! 里見灯花、柊ねむ……ッッ!!」

「……え────?」

 

 なぜ、その二人の名前が今、悪魔の口から殺意をみなぎらせて飛び出てくるのか。まさかマギウスの三巨頭である二人が、悪魔に何か仕掛けてきたのか。

 

「ど、どういうことですか? 悪魔さん!!」

 

 悪魔は激しい頭痛に見舞われて苦痛の叫びを上げる。

 それは超直感の暴走。すなわち究(・)極(・)超(・)直(・)感(・)の発動を意味していた。

 

 悪魔は脳内に極光する景色を観る。

 それは自らの死を報せる究極光景。運命の警鐘。ある意味では英(・)雄(・)の(・)成(・)り(・)立(・)ち(・)。

 

 ────魔翼移動要塞の大聖杯展示場。フランス・レーヌ川。リンゴの着ぐるみを被った少年。ゲッコウガ。嵐の波動を感じる最強の赤ん坊(アルコバレーノ)。紅い外套を羽織った弓兵────

 

「ッ……!!? わけが、わからない……だがオレは、こ(・)の(・)未(・)来(・)に(・)た(・)ど(・)り(・)着(・)か(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)い(・)け(・)な(・)い(・)……ッ!! じゃないとオレは死ぬ! そして、おそらく────人(・)類(・)の(・)過(・)半(・)数(・)は(・)殺(・)さ(・)れ(・)て(・)支(・)配(・)さ(・)れ(・)、全(・)て(・)の(・)魔(・)法(・)少(・)女(・)は(・)殺(・)さ(・)れ(・)る(・)……ッッ!!!」

 

 究極超直感とは、約束された勝利の幕引きの場(・)面(・)だ(・)け(・)を観せる能力。

 そこに至るまでの詳細な道筋(ルート)は一切不明。目撃した究極光景(場面)から最悪のシナリオを想定しなければいけない。

 

 悪魔は被害を最小限に抑えたい。だがそもそも究極光景にたどり着かなければ、人類の半数と全ての魔法少女が滅ぶときた。

 

 選(・)ぶ(・)必(・)要(・)が(・)あ(・)る(・)。この絶体絶命の状況から逆転勝利するために、戦い方を選ぶ必要が……。

 

「せっかくみんなで修行したのに……その努力が全部、無駄に終わるなんて……そんなのダメだ────死んでも死にきれねぇ……ッ!!」

 

 悪魔は、壮絶な死闘の幕開けを予感した。

 ────聖杯戦争。それに参加するのは、これで二(・)度(・)目(・)である。

 

          †

 

          ♪~英雄 運命の詩~♪

 

 少し時は遡り。

 

 魔翼移動要塞の大広間にて。

 

 マギウスの三巨頭たる里見灯花、柊ねむ、アリナ・グレイが横一列に並んで佇立する。

 その後方には、巨大な何かの物体が、大きな布に覆われて隠されていた。

 

 マギウスの前方にひざまずくは、マギウスの翼の幹部と白羽根、そして調整屋。

 巴マミ、梓みふゆ。天音月咲、天音月夜。八雲みたまが横一列にこうべを垂れる。

 

 そして里見灯花は古ぼけた書物を取り出し、ペラペラとめくりながら里見家の由来を語る。

 

「我が里見家は、かつて魔(・)術(・)師(・)の(・)家(・)系(・)だった。それを示す記述と証拠が、この魔導書には克明に刻まれている。民俗学をやっていたわたくしの叔父は、この魔導書を倉庫から見つけたことで魔法界の存在を知り、魔法少女の研究を始めた。昔のわたくしは魔法少女の存在なんて信じていなかったから、そんな変な研究をしている叔父様に『民俗学者ってマンガを読みすぎてる人のこと?』って言ってしまったけど、今なら叔父様の話を“全て”信じることができる」

 

 里見灯花はパタンと魔導書を閉じると、傘を差して飛び上がり、浮かぶように空を歩く。

 

「TP魔法界・QB魔法界・HP魔法界。きっと世界には、もっと多くの魔法界が存在する。でもわたくしはTP魔法界の一部地域に目をつけた。理由はもちろん魔法少女救済のため。そして魔法少女至上主義を磐石なものにするため」

 

 救済。それだけならば眉をひそめる幹部はいない。

 魔法少女至上主義。それはすなわち世界征服ということでは?

 

 白羽根はそこまで考えが及ばないのか。それとも思考を放棄しているのか。あるいは洗脳の影響か。

 差別、迫害からなる憎悪、報復、悪心。そのためならば意趣返し。搾取される側から搾取する側へ。躊躇はない。

 

「ねむはよく言ってたよね~? 全ての魔法少女を救い、魔法少女が宇宙のてっぺんを取るためには、さながら“万能の願望機”が必要だって。それはね。あ(・)っ(・)た(・)ん(・)だ(・)よ(・)。叔父様は魔法少女の存在を広めることの是非を調べる中で、魔術界の絶対原則“神秘の秘匿”について知った。もし魔法少女の存在を世間に公表すれば、魔術界との全面戦争は避けられない。叔父様は泣く泣く断念しようか迷っていたみたいだけど────湯(・)国(・)市(・)。そこでね。叔父様、聖(・)杯(・)戦(・)争(・)に(・)巻(・)き(・)込(・)ま(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)みたい。しかもその場には、あのにっくき悪魔もいたんだって!」

「灯花。僕は一次資料を要求する」

「わたくしが半年かけて調べ上げたんだよ! しかも全部、自分の手で! つまりわたくしが一次資料! これで文句はない? ──それでね? 聖杯戦争ってなんだろーって思って調査を続けていたら、冬(・)木(・)市(・)という地名がヒットした。その地では神域の偉業が五度も達成されていたの。直近では三十年前のことで、もうとっくに冬木市の聖杯は魔術協会によって解体されていたんだけど────後年、アメリカはスノーフィールドで冬木市の聖杯戦争を模した大戦儀式が勃発したことも確認が取れた」

 

 里見灯花は花咲く笑顔で、何かを覆い隠す布を手に取る。

 

「わたくしたち魔法少女は不(・)可(・)能(・)を(・)可(・)能(・)に(・)す(・)る(・)希(・)望(・)の(・)象(・)徴(・)。不可逆を可逆に変え、絶望と呪いの代わり、希望と祈りを実現させる……まさに“やろうと思えば神にもなれる存在”なの! わたくしは忠実なる羽根のしもべを使って、過去視・読心・解析といった魔法を駆使して、ついに聖杯戦争の全貌と仕組みを解き明かした! そして設計図を描いてねむに頼んで、具現魔法で────」

 

 里見灯花は大きな布を取り払う。現れたものは、黄金に輝く大聖杯。

 

「────聖杯、作れちゃった! 決戦魔術《降霊儀式・英霊召喚》の機構も完璧! でも当然、予備機能は外してあるよ! 神浜市にある全霊脈との接続も完了している。つまり────いつでもサーヴァントを召喚できちゃうんだにゃ~ん」

 

 里見灯花の話に付いていける者は、柊ねむしか居ない。

 アリナ・グレイをはじめ、幹部も白羽根も困惑している。

 

 そもそも聖杯とは何か? 聖杯戦争とは? サーヴァントとはなんだ?

 その説明を一切せず、里見灯花は速やかなる計画の成就を命令する。

 

「英霊召喚は莫大な魔力を消費するから、下手するとドッペル化するけど、幹部と白羽根なら暴走する危険性はないよね? というわけでさっそく始めちゃおー! ねむ! ほ(・)か(・)の(・)町(・)で(・)捕(・)ま(・)え(・)た(・)キ(・)ュ(・)ゥ(・)べ(・)え(・)を(・)こ(・)こ(・)に(・)!(・)」

 

 柊ねむは本を開く。すると中からインキュベーターが飛び出した。しかしインキュベーターは神浜市で活動できない。死体のように床にパタリと倒れる。柊ねむは具現魔法で、インキュベーター用の宇宙服のような結界膜を作成。すると回収の力が阻害されて、インキュベーターは目を覚ました。ここはどこだと辺りを見渡し、里見灯花とその背後にある大聖杯を目にしたインキュベーターは────これから起きる惨劇を予測して、不思議と身震いした。

 

「……里見灯花。これが僕の考えすぎだったらいいんだけど……もしかして君は、や(・)っ(・)て(・)は(・)い(・)け(・)な(・)い(・)永(・)久(・)機(・)関(・)をやってしまうつもりかい?」

「そうだにゃ~ん。むしろなんでインキュベーターはこれをやらなかったの?」

「そんなの、いま君たちに滅んでもらっては困るからさ」

「なら大丈夫だね! わたくしの計画にミスはない────」

「……里見灯花……君はまだ子供だ。その驕りは、本当に世界を────」

「大嫌いなキュゥべえの言うことなんてきかなーい! さて、それじゃあ……聖杯戦争のことやサーヴァントのことを一から十まで説明していたら日が暮れちゃうから、これから何をするかだけ簡単に一言で片付けちゃうね~」

 

 里見灯花は、頭の悪いみんなにも分かるように、端的に計画の全容を発表する。

 

「これよりマギウスは、魔法少女至上主義に則り、英(・)霊(・)軍(・)団(・)を(・)支(・)配(・)下(・)に(・)置(・)く(・)!」

 

 柊ねむは難しい顔をしつつ、里見灯花の目配せに応えて、一枚のメモを全員に配る。

 

「今から“呪文”を唱えてサーヴァントを召喚する。成功したら体のどこかに“令呪”と呼ばれる魔力の模様が浮かび上がるから、それが出たら教えてね! それじゃあ、みんなで触媒“フランスを売った売国妃の化粧水”を持って、いざ召喚斉唱!」

 

 里見灯花はお遊びのつもりか、指揮棒を取り出してリズムを取る。

 

『素に銀と鉄。礎に孵卵器と契約の少女。

 降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 開闢(みたせ)。制定(みたせ)。違反(みたせ)。火災(みたせ)。決戦(みたせ)。

 繰り返すつどに五度の前例。

 酒宴(みたせ)。落涙(みたせ)。

 其は銀世界と畜生塚。躍進の連綿は今を以て七度へ至る。

 破却するべきは運命にあり。ただ満たされる絶望を転覆せよ。

 ────告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!

 祈りと呪いの誓いを此処に。

 我は常世総ての善と成る者、

 我は常世総ての悪を敷く者。

 汝、三大の言霊を纒う七天、

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ────!』

 

 巴マミ、八雲みたま、梓みふゆ……三人の前方に五つの魔法陣が展開。

 五つの光と旋風がエーテルを収束させて、魔法陣の上に五人のサーヴァントが召喚される。

 

「サーヴァント・アーチャー。エリザ・ツェリスカ。聖女の呼び声に応じ参上した」

「サーヴァント・ランサー。メリッサ・ド・ヴィニョル。魔法少女の呼び声に応じ参上した」

「サーヴァント・アサシン。リズ・ホークウッド。救いを求める声に応じ参上した」

 

 柊ねむとアリナ・グレイ、天音姉妹の四人は召喚に失敗したのか。令呪が発現しない。

 だというのに────ふ(・)た(・)り(・)多(・)い(・)。召喚されたサーヴァントが、ふたり多いのだ。

 

「サーヴァント・セイバー。ジャンヌ・ラ・ピュセル────もしくは、タルトとお呼び下さい。幸(・)福(・)を(・)願(・)う(・)魔(・)女(・)の(・)呼(・)び(・)声(・)に(・)応(・)じ(・)参(・)上(・)し(・)ま(・)し(・)た(・)。我が剣は光をもたらすために……いかなる敵であろうと、世界を救うため、どんな死地をも駆け抜けましょう」

「サーヴァント・キャスター。ペレネル・フラメル。抑(・)止(・)力(・)の(・)呼(・)び(・)声(・)に(・)従(・)い(・)召(・)喚(・)さ(・)れ(・)た(・)」

 

 次の瞬間、閃光と爆発が大広間を蹂躙する。

 

『……っッ!?』

 

 爆風に視界が奪われる魔法少女たち。かすかに見える剣戟と魔弾と爆撃。

 

 アーチャーの射撃。ランサーの鉄槌。アサシンの死角攻撃。その全てを光の剣で凌ぐセイバーと、結界で身を守るキャスター。

 いったい何が起きているのか。里見灯花は歓喜の声を上げる。

 

「飛んで火に入る夏の虫とは、このことかにゃ~?」

「くっ……! エリザ! メリッサ! リズまで……どうして!? 私たちは同じ陣営で召喚されたサーヴァントのはず……! 聖杯という奇跡に導かれた、とても久しぶりな再会だというのに……!」

「……」ペレネル・フラメルは笑顔を崩さず戦闘する。

「まだ分からないのかにゃー? 説明は面倒だから、一目瞭然の回答を見せてあげようね。来て! わたくしのサーヴァント!」

 

 大聖杯の中から一つの影が飛び上がる。彼女は大聖杯という器の中で、今までまどろんでいたのか。着地。金髪赤眼の黒い魔法衣装をまとう美女が、忌々しそうにタルトを一瞥する。

 

「っ……! あなたは────イザボー・ド・バヴィエール!?」

「そうだ。私はサーヴァント・アルターエゴ。騎士(ライダー)の枠を借り、先駆けて召喚を果たした。世界支配の声に応じてな。私は世界の女王となる存在。この大聖杯には、既に私の《支配魔法》を存分に浸らせてある。つまり、この大聖杯を通して召喚されたサーヴァントは、全(・)て(・)私(・)の(・)支(・)配(・)下(・)に(・)置(・)か(・)れ(・)る(・)ということだ……!」

「……っ!!?」

「かつての仲間を殺せるものなら殺してみろ。お前なら容易いことだろう。──しかしサーヴァントとは度し難いものだな。英霊の座に登録された魂の記録、その一側面のみを切り取って召喚する術式。それゆえか我が性格も、生前と比べてあ(・)ま(・)り(・)正(・)確(・)で(・)は(・)な(・)い(・)。だが構うものか。たとえサーヴァントが本人の複製品(レプリカ)であろうとも、このイザボー・ド・バヴィエールの正体はなんら変わることはない。私は私だ」

 

 自らの体を構成するエーテル体を興味深そうに眺めるイザボーは、「さて」と一息ついて支配魔法を行使する。

 

「タルトよ。貴様は“幸福の魔女(エンブリオ・イブ)”の呼び声に応えて召喚された。かの魔女はこの場に居ないのに、なぜ貴様が召喚されたのか? それは抑止力による影響だ」

「イザボーの言う通りだにゃー。そして抑止力の介入は狙い通り。イブは以前から反抗的で、三日前もイブの破片たるキモチとやらが、また悪魔たちに力を貸した。だからどうせ今回も邪魔すると思って、あらかじめイザボーを召喚して、マギウスのカウンターとしてイブや抑止力が召喚するであろうサーヴァントを待ち受けていたんだにゃー」

「そんな……ぐっ!?」

 

 タルトとキャスターの動きが止まる。単に支配魔法を受けただけなら、光魔法で強引に破ればいいだけの話。しかしサーヴァントは大聖杯の力を借りて現界し、サーヴァントであるからには従(・)者(・)としての概念が強く働く。つまり大聖杯を介して支配魔法を掛けられると、さすがのタルトでも逆らえない。

 

「さぁ────貴様を私好みの姿に変えてやろう。ジャンヌ・ラ・ピュセル〔タルト・オルタ〕なんかどうだ……? その白い光は反転し、黒い光でも出すのか? ふふ……貴様を陵辱するのが楽しみだ」

「っ……ぐぁ……アァアアアアアアアアアアアアアア────!!!?」

 

 思考が汚染される。自我が喪失する。頭がおかしくなる。心がどこかに飛ばされる。もうどうしようもない。ぐったりとうなだれるタルトは、キャスターのペレネル・フラメルとともに目から光を失い、エリザ、メリッサ、リズと共に、イザボーに向かってひざまずき、こうべを垂れた。

 

 その一部始終を眺めていたインキュベーターは、抑止力に関する話に内心反論する。

 

(抑止力を未然に防いだだって? そ(・)ん(・)な(・)こ(・)と(・)は(・)あ(・)り(・)え(・)な(・)い(・)。確かにタルトの召喚は不可解だったけど、抑止力はタルトやペレネル・フラメルが支配されるのも織り込み済みで策を打っていたはずだ。そして、その策とは────やはり悪(・)魔(・)しか考えられない。この絶望的な人類終焉シナリオを覆せる身近な存在は、それこそ逆転勝利の呪いを持つ悪魔をおいて、ほかにはいないのだから)

 

「さーて、これで英霊軍団の計画は、第一段階がしゅーりょー! まだバーサーカーが召喚されていないのが気になるけど、どうせ抑止力がバーサーカーを召喚しても支配の力で簡単に従えられる! というわけで、どんどん行くよー!」

 

 里見灯花はインキュベーターを天高く抱き上げる。

 

「さぁインキュベーター。────サ(・)ー(・)ヴ(・)ァ(・)ン(・)ト(・)と(・)契(・)約(・)を(・)交(・)わ(・)し(・)な(・)さ(・)い(・)!」

「…………やはり、それが狙いだったんだね。君は、それがどれほど恐ろしいことか……きちんと理解して言っているのかい?」

「もっちろん!」

 

 里見灯花は、英霊召喚を利用した“QB契約の永久機関”について語りだす。

 

「原則として、既にQB契約を交わしている魔法少女を相手に、さらなるQB契約を交わすことは理論上不可能。だけどサーヴァントとして召喚される英霊は、あくまで本(・)人(・)の(・)複(・)製(・)品(・)。レ(・)プ(・)リ(・)カ(・)。似(・)て(・)非(・)な(・)る(・)同(・)一(・)人(・)物(・)。限(・)り(・)な(・)く(・)同(・)一(・)に(・)近(・)い(・)別(・)人(・)。サーヴァントとは、そ(・)う(・)い(・)う(・)在(・)り(・)方(・)なの。

 つまり、そこにいるセイバーもアーチャーもランサーもアルターエゴもキャスターもアサシンも、魔(・)法(・)少(・)女(・)で(・)あ(・)っ(・)て(・)魔(・)法(・)少(・)女(・)で(・)は(・)な(・)い(・)。彼女たちは単なるサ(・)ー(・)ヴ(・)ァ(・)ン(・)ト(・)で(・)し(・)か(・)な(・)い(・)。そしてサ(・)ー(・)ヴ(・)ァ(・)ン(・)ト(・)が(・)魔(・)法(・)少(・)女(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)な(・)ら(・)、(・)Q(・)B(・)契(・)約(・)を(・)交(・)わ(・)す(・)こ(・)と(・)は(・)可(・)能(・)……そうだよね? インキュベーター」

「概ねその認識で間違いはないよ。でも今まで、そうやって僕らの技術を利用しようとし、似たようなことを考えた魔術師はごまんといる。けれどその全ての企みは例外なく、抑止力によって阻止されてきた。君は、その前例を覆すことができるのかい?」

「当然でしょ! 魔法少女に不可能はない! 抑止力だって、奇跡と魔法のチカラでね(・)じ(・)伏(・)せ(・)る(・)から、なーんにも問題ないんだにゃー!」

「……愚か者は経験から学び、賢者は歴史に学ぶという。どうしたんだい、里見灯花? 君ほどの天才が、こんな負けの決まっている博打に出るなんて」

 

 インキュベーターは人の心が分からない。里見灯花は焦っているのだ。全ての魔法少女を救う為には何をしたらいいのか。つまるところ里見灯花は暴走している。それは半年前から、ずっと。しかしそれだけではない。魔法少女至上主義という野望は、単に自分の欲望を叶えるための布石でしかないが、魔法少女の支配下に英霊軍団を置くことができれば、実質的に世界は征服したようなものだ。マギウスは誰にも負けない戦力を備え、魔法少女の楽園が到来する。その夢を、理想郷を、里見灯花は脳内に描いている。

 

 里見灯花は指を鳴らす。イザボー・ド・バヴィエールが勅命する。

 

 セイバー、アーチャー、ランサー、キャスター、アサシンが命令を受諾する。

 

『承知。我が願いは《七騎のサーヴァントを召喚する。ただし最低一騎は女性である》────』

 

 里見灯花は、暗鬱と眩んだ双眸を近付け、キュゥべえの無機質な赤い瞳を睨む。

 

「さぁ、叶えてよ。インキュベーター」

「…………基本的にサーヴァントは全盛期の姿で召喚される。すなわち“感情の振れ幅が最も高い頃の姿”で召喚されることが多い。ならば、そんなサーヴァントが魔女化した時の相転移エネルギーは、それなりに高いものだろう。しかし英霊とは時代の荒波を駆け抜けた猛者たちだ。やたらめったなことでは絶望しないし、姿が若くても先の歴史を知るが故に精神的に成熟していたり、ある程度は割り切っている者が多い。故にどうしても現代の少女と比べると、回収できるエネルギーが少なくなる傾向にある。だから僕としては────」

「能書きはいい。叶えるの? 叶えないの? ほかにもたくさんインキュベーターは捕まえているから、別に願いを叶えてもらう個体はあなたじゃなくてもいいんだよね。どうする? 殺されたい?」

「……わかったよ。でもこれは君たちの選択だ。僕は責任を持てない」

「最初から責任なんて持つ気はないくせに!」

 

 インキュベーターは目を瞑る。魔法少女システムを起動。五人の願望を叶える代わり、魂を固形化して魔女化サイクルに組み込む。だが、そこでひとつのエラーが発生した。

 

(……? キ(・)ャ(・)ス(・)タ(・)ー(・)の(・)ペ(・)レ(・)ネ(・)ル(・)・(・)フ(・)ラ(・)メ(・)ル(・)と(・)契(・)約(・)で(・)き(・)な(・)い(・)……? ────そうか。そういうことか……! 君はそもそも……サ(・)ー(・)ヴ(・)ァ(・)ン(・)ト(・)で(・)は(・)────)

 

 ふとインキュベーターとペレネル・フラメルの視線が合う。ペレネル・フラメルは誰にもバレないよう、インキュベーターに向かってウインクした。

 

 かくて空間を白い光が覆い尽くす。

 そして莫大な魔力反応が続々と出現。多数のサーヴァントが召喚された。

 

 

 

 セイバーの前方には、その魔力係数の高さ故か、七騎のサーヴァントが勢ぞろいする。

 しかしアーチャー、ランサー、キャスター、アサシンの前方には、様々な要因──支配魔法の抵抗からなる願い事への本気度、魔力係数の不足等──により、一騎から数騎のサーヴァントしか召喚されなかった。

 

 召喚者たるタルトに傅きながら、支配者たるイザボー・ド・バヴィエールにこうべを垂れる七騎のサーヴァント。

「サーヴァント・セイバー。真名を微姉妹」

「サーヴァント・アーチャー。真名をラクシュミー・バーイー」

「サーヴァント・ランサー。真名を鶴姫」

「サーヴァント・ライダー。真名をブーディカ」

「サーヴァント・キャスター。真名をジル・ド・レェ。──おぉジャンヌ! 姿は違えど魂は同じ! 女性英霊をご希望のようでしたが、不肖このジル・ド・レェ……聖処女の魂を神の炎から死守すべく召喚を果たしました! お仕えすることをお許し下さい……! おぉ……!!」

「サーヴァント・アヴェンジャー。真名をマリー・アントワネット。ルイはどこかしら?」

「サーヴァント・バーサーカー。真名をフランチェスカ・プレラーティ。────って、おぅふ……こ(・)れ(・)は(・)さ(・)す(・)が(・)に(・)プ(・)レ(・)ラ(・)ー(・)テ(・)ィ(・)で(・)も(・)引(・)く(・)ド(・)ン(・)引(・)き(・)案(・)件(・)……! こりゃあ、どっかのバカがや(・)り(・)や(・)が(・)っ(・)た(・)なぁ……? まぁ私も昔、似たようなことを考えたけどさ!」

 

 召喚者たるエリザ・ツェリスカの下には次の通り。

「サーヴァント・セイバー。真名をフニャディ・ヤーノシュ。民草を救済する光は、我が手に……」

「サーヴァント・ドラゴンライダー。真名をバルバラ・ツェリスカ」

「サーヴァント・アサシン。真名をカーミラ」

「サーヴァント・キャスター。真名をラドカーン!」

「サーヴァント・プリテンダー。真名をマーチャーシュ一世。この大剣は何かって? 知らんなぁ……」

 

 召喚者たるメリッサ・ド・ヴィニョルの下には次の通り。

「サーヴァント・セイバー。真名をローラン」

「サーヴァント・ランサー。真名をブラダマンテ」

「A────urrrrrrッ!!」黒騎士ランスロットの咆哮。

 

 召喚者たるペレネル・フラメルの下には次の通り。

「サーヴァント・キャスター。真名をニコラス・フラメル。……久しいな、妻よ。ところでダンブルドアは元気かな?」

「サーヴァント・キャスター。真名をメディア。……で、この支配魔術、いったい誰の仕業? こんなの簡単に解けちゃうわよ。まぁ裏切ったら袋叩きに遭いそうだからおとなしくしてるけど……」

 

 召喚者たるリズ・ホークウッドの下には次の通り。

「サーヴァント・ライダー。真名をジョン・ホークウッド」

「サーヴァント・キャスター。真名をレオナルド・ダ・ヴィンチ」

「サーヴァント・アヴェンジャー。真名をアントニオ・サリエリ」

 

 第一陣、第二陣の英霊召喚は完了した。

 

 

 

 里見灯花は第三陣の英霊召喚をイザボーに命令する。

 

『我らが願いは《七騎のサーヴァント召喚。されど最低一騎の女性英霊を求む》……!!!!!!!』

 

 召喚者たる微姉妹の下には。

「サーヴァント・セイバー。真名を黎利」

「サーヴァント・ライダー。真名を赤兎馬(呂布)と申しますヒヒーン!」

「サーヴァント・キャスター。真名を陳宮」

「サーヴァント・アサシン。真名を荊軻」

「■■■■────!!!!」呂布奉先の咆哮。

 

 召喚者たるラクシュミー・バーイーの下には。

「サーヴァント・アーチャー。真名をシータ」

「サーヴァント・キャスター。真名をハンス・クリスチャン・アンデルセン」

「サーヴァント・アサシン。真名を沖田総司」

 

 召喚者たる鶴姫の下には。

「サーヴァント・セイバー。真名をディルムッド・オディナ」

「サーヴァント・アーチャー。真名を巴御前」

「サーヴァント・ランサー。真名をカイニス」

「サーヴァント・ライダー。真名を織田信長」

「サーヴァント・キャスター。真名を卑弥呼」

「サーヴァント・バーサーカー。真名を茨木童子」

 

 召喚者たるブーディカの下には。

「サーヴァント・セイバー。真名をネロ・クラウディウス」

「サーヴァント・アーチャー。真名をゼノビア」

「サーヴァント・ランサー。真名を“嵐の王”アルトリア・ペンドラゴン」

「サーヴァント・ライダー。真名をウェルキンゲトリクス」

「サーヴァント・アサシン。真名をサロメ」

 

 召喚者たるジル・ド・レェの下には。

「サーヴァント・セイバー。真名をジル・ド・レェ」

「サーヴァント・キャスター。真名を青髭」

 

 召喚者たるマリー・アントワネットの下には。

「サーヴァント・セイバー。真名をシュヴァリエ・デオン」

「サーヴァント・アーチャー。真名を“希望の虹”ナポレオン」

「サーヴァント・アヴェンジャー。真名をルイ十七世」

「サーヴァント・キャスター。真名をヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト」

「サーヴァント・アサシン。真名をシャルル=アンリ・サンソン」

 

 召喚者たるフランチェスカ・プレラーティの下には。

「サーヴァント・セイバー。真名をジル・ド・レェ」

「サーヴァント・ライダー。真名をサンジェルマン。英霊の座まで支配の力を及ばせて強制降霊とか、ちょっと横暴すぎないかな? あ、この一言を言うために召喚されたフリをしただけだから、バイバイ!」

「サーヴァント・キャスター。真名をモルガン。……なんですか。あまりに不敬すぎるため、支配の力は解除させてもらいました。しかし、この永久機関は便利ですね。破滅は確定的ですが、それは首謀者の身に降りかかること。召喚された身としては、この件のおこぼれにあずかることくらいは可能でしょう」

 

 フニャディ・ヤーノシュは────ランサーのヴラド三世など。

 バルバラ・ツェリスカは────ドラゴン関係の数騎のサーヴァント。

 カーミラは────ランサーのエリザベート=バートリー、ライダーのナーダシュディ・フェレンツ二世。

 イシュトヴァーン一世は────祖国にまつわる数騎のサーヴァント。

 マーチャーシュ一世は────剣士系の数騎のサーヴァント。

 

 ローランは────美女関係の数騎のサーヴァント。

 ブラダマンテは────セイバーのロジェロ、アーチャーのマルフィーザなど、数騎のサーヴァント。

 オジェ・ル・ダノワは────騎士系の数騎のサーヴァント。

 ランスロットは────ランサーのメリュジーヌなど。

 

 ニコラス・フラメルは────錬金術師系の数騎のサーヴァント。

 メディアは────イアソンなど、数騎のサーヴァント。

 

 ジョン・ホークウッドは────傭兵系の数騎のサーヴァント。

 レオナルド・ダ・ヴィンチは────ライダーのクリストファー・コロンブスなど、数騎のサーヴァント。

 アントニオ・サリエリは────音楽系の数騎のサーヴァント。

 

 

 

 しかして里見灯花は、第四陣の英霊召喚を敢行する。

 

 男性陣は一騎から二騎のサーヴァントしか召喚できないが、女性陣は三騎以上のサーヴァントを召喚していく。

 

 荊軻は────セイバーの蘭陵王、アーチャーの始皇帝、ランサーの哪吒、ライダーの韓信、キャスターの徐福、アサシンの武則天、バーサーカーの項羽。

 沖田総司は────セイバーの斎藤一、アーチャーの高杉晋作、ライダーの坂本龍馬、アサシンの岡田以蔵、バーサーカーの土方歳三。

 シータは────セイバーのラーマ・オルタ〔ラーヴァナ〕、アーチャーのアルジュナ、ランサーのカルナ、ライダーのビーマ、アサシンの二十代目ジャナカ王、バーサーカーのドゥリーヨダナ。

 巴御前は────セイバーの木曽義仲、アーチャーの源為朝、ランサーの武蔵坊弁慶〔常陸坊海尊〕、ライダーの牛若丸、バーサーカーの朝比奈義秀。

 カイニスは────セイバーのヘラクレス、アーチャーのアタランテ、ライダーのエウロペ、アサシンのテセウス。

 織田信長は────セイバーの森蘭丸、アーチャーの石田三成、ランサーの長尾景虎、ライダーの森可成、バーサーカーの茶々。

 卑弥呼は────キャスターの張角、アサシンの壱与など。

 茨木童子は────セイバーの渡辺綱、キャスターの清少納言、アサシンの酒呑童子。

 ネロ・クラウディウスは────セイバーのガイウス・ユリウス・カエサル、ランサーのロムルス、アサシンのロクスタ、バーサーカーのカリギュラ。

 嵐の王アルトリア・ペンドラゴンは────ライダーのフランシス・ドレイク、ほか著名な円卓の騎士。

 サロメは────アーチャーのダビデ、キャスターのシヴァの女王、アサシンのセミラミス。

 シュヴァリエ・デオンは────セイバーのジャック・ド・モレー、ランサーのマクシミリアン・ロベスピエールなど。

 モルガンは────セイバーのガウェイン、ランサーのガレス、ライダーのガヘリス、アサシンのアグラヴェイン、バーサーカーのモードレッド。

 

 

 

 里見灯花は永久機関を回し続ける。第五陣、第六陣、第七陣────とうとう神浜市の霊脈が枯渇する。されどインキュベーターの願望成就システムがあれば、心(・)を(・)持(・)つ(・)者(・)が(・)召(・)喚(・)さ(・)れ(・)続(・)け(・)る(・)限(・)り(・)、理論上サーヴァントの無限召喚が可能である。

 

 第八陣、第九陣、第十陣────やがて、総勢10万を超えるサーヴァントが召喚され、なおもその数は飽きることなく、ね(・)ず(・)み(・)算(・)式(・)に(・)増(・)え(・)て(・)い(・)く(・)。

 

 

 

 ちなみに霊脈とは、その土地を守るエネルギーそのもの。

 故に霊脈の枯渇は風水で言う運気の喪失を意味し、枯れた土地に“最悪の大災害”をもたらす原因となりうる。

 

 神浜市の上空が曇りかかる。暗黒の曇天。轟然とした雷が落ち止まず鳴り止まぬ。篠突くような豪雨はアスファルトを穿つ。暴風は木々を薙ぎ倒し、一軒家の屋根や軽自動車を吹き飛ばす。その嵐は、まさに大乱の予兆。

 

 

 

 ────悪魔が究極超直感による、悶絶必至の激しい頭痛で転げ起きるのは、この直後の出来事だった。

 

          †

 

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