※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【マスター。その時間稼ぎ、この一刺しで報われよう】クー・フーリン〔ランサー〕

 

 早朝。みかづき荘・一階のリビング。

 七海やちよはテレビから流れる『避難勧告』の発令を見て、最寄りの避難所への出発を取り決める。

 

「いや、逃げるなら神浜市の外がいい」

 

 そこへ悪魔が二階から降りてきた。その後ろから環いろはが心配そうな顔で追随する。

 

「おはよう。叫んでいたけど大丈夫?」

「世界が滅ぶ夢を見た。それは現実となる可能性を孕んだ未来視だ。端的に言うとマギウスよりヤバイ奴らが攻めてくる。全員に今オレが予想できる状況を説明している時間も余裕もない」

 

 七海やちよは眉をひそめる。会話が噛み合わない。悪魔は焦っている。今すぐサーヴァントの襲撃があってもおかしくない。そして魔法少女はサーヴァントに勝てない。さらにクラス別スキルの《対魔力》と致命的に相性が悪い。魔力と技量すなわち地力のみで一騎当千・万夫不当のサーヴァントを相手取ることなど不可能。それは最強の魔法少女・巴マミやそれに続く天乃鈴音でも同様である。

 

「最強の魔法少女・巴マミを秒(・)殺(・)で(・)き(・)る(・)敵(・)が向かってきたら、どうする?」

「悪魔? さっきから何を────」

「その敵が何百万人といて、マギウスの下に軍団を結成し、この街を支配するため向かってきているとしたら?」

「────」

「敵の狙いは世界だ。オレの始末は二の次。みかづき荘の襲撃は三の次。現在の目標は神浜の制圧と見た。降伏すれば世界の終わり。抑止力の介入とサーヴァントの魔女化を許し、地球は死の星となる。一方、抵抗すれば逆転勝利できるかもしれないが大勢の人間が死ぬ。何十万という民間人が戦いに巻き込まれて死ぬ。それでもオレは抵抗を選ぶ」

 

 悪魔は匣兵器《SISTEMA C.A.I.ver.D》を開匣────しようとした刹那、凍(・)え(・)る(・)よ(・)う(・)な(・)死(・)を直感した。

 

「ッッッ!!?」

 

 頭上から神速の朱閃。開匣するため灯そうとしたリングから死ぬ気の炎を爆発させて緊急回避。空(くう)を裂く朱槍が床を突き刺した頃、悪魔の体は自ら噴き出した死炎の乱暴によって壁に叩きつけられていた。

 

『────っ!?』

「ぐっ────!!」

 

 素手から死ぬ気の炎を噴射して地を滑り、体勢を調整、霊体化しているサーヴァントの大体の気配位置を目視。

 

「ほう。今のを避けるか。恐ろしく勘が鋭いと見たぜ。しかもメンタルが万全なら、オレの敏捷性より素早く動いて避けていたかもしれねぇのが面白い」

 

 超直感の特性をひと目で見抜かれた。そして悪魔は現在焦燥している。焦ってさえいなければ、敵の接近を“見透かす力”で見抜けていたはずだ。悪魔は深呼吸。精神を統一し、冷静さを取り戻す。

 

 眼前に魔力の光子が散り、青装束の槍兵の男が実体化。七海やちよは変身して青槍を構える。ほかの魔法少女も変身し、臨戦態勢で非戦闘員を守る。だが青い槍兵は魔法少女を見向きもせず、嬉々とした表情で悪魔を見据えていた。

 

「へぇ。生意気なガキの目から、一転して戦士の目に変わりやがった。修羅場は潜り慣れているようだな」

「ランサーのサーヴァントか。命令は“悪魔の暗殺”か?」

「おうよ。テメェの写真を見せられた時は“なんだガキか”と侮っていたが、訂正する。テメェは、オレの退屈しのぎには丁度いいヒヨっ子だ」

「魔法戦闘のヒヨっ子が、まだ侮っているようだが?」

 

 悪魔の煽り。ランサーは陽気な表情から一変、絶殺の気配で威圧する戦士の双眸と成る。それは挑発を受けたからでも、あえて乗ったからでもない。マスターからの命令は速やかな始末。誇り高き騎士は主命を果たすべく、眼前の敵を端(・)か(・)ら(・)侮(・)っ(・)て(・)な(・)ぞ(・)い(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。

 

 朱閃vs橙噴。速度対決は俄然、俊敏の騎士(ランサー)に分がある。悪魔は緊急上昇、雷炎で背部を硬化、天井と屋根を次々と突き破り、暴風雨によって吹き荒れる屋根に旋回着地。

 

「っ────!!」

 

 右手首、左肩、右膝、左脚の大腿、前身五箇所が突として抉れて鮮血を噴き出す。完全に遊ばれている。主命は果たすが闘争心は満たしたい。今はそんなランサーの主義主張(わがまま)によって、悪魔は生かされている。眼前にランサーが実体化。後ろに一本でまとめた髪が暴風になびき、全身が雨に濡れる。陰鬱な表情で淡々黙々と殺しに来る姿勢は、悪魔にとって恐怖でしかない。次の一刺しは必ず心臓を狙ってくるだろう。さりとて窮地に陥れるたび、悪魔の超直感は力を増す。

 

「真名は?」

「言うかよ」

「クー・フーリン……知らない名だ」

「────テメェ、なぜオレの名を────」

 

 刹那、ランサーことクー・フーリンの姿が忽然と消失した。否、背後から来ると直感、が、その気付きは遅きに失した。躱すまもなく殺される。────逆転勝利の呪いが発動。死炎爆噴。橙炎と雨炎が燃え盛り、噴射発散で強引に身を旋回、左手を犠牲に朱槍を食い止めるが、突き出す膂力は尋常ではなく、穂先が腕を貫き首を突く。「うぉおおおおおおおお!!」悪魔の咆哮。顔を傾けることで朱槍の穂先を首ではなく、頬に貫通させた悪魔は敵の胴体に前進。「!!」頬の肉は切り裂かれるが、唸る右の手刀がクー・フーリンの左胸に入────

 

「ガハッ────!?」

 

 物理法則を無視したかのようなクー・フーリンの半身ひねり。神速の勢いで蹴り飛ばされた悪魔は裏庭の地面に激突、地を転がり掘り進めて壁に激突。すかさず死炎轟噴。折れた数十本の骨を橙炎調和でコーティング。敵の追撃に備える。

 

「……解せん。よくわからねぇなぁお前。気持ちわりぃ。技量が上がったり下がったり……だが手を抜いてるわけでもねぇ。必死(死ぬ気)なのは嫌ってほど伝わって来る。……テメェ、何者だ? どういう能力を持ってる」

「…………」

「答える気はねぇか。それともあばら折られて喋れねぇか?」

「魔法少女を殺さないと約束するなら話そう」

「……ハッ────自分の立場が分かってる奴のセリフとは思えねぇな」

 

 庭から見上げる悪魔と、屋根から見下ろすクー・フーリン。

 次の瞬間、クー・フーリンの背後に七海やちよが跳躍する。

 

「っ!? 待て、やちよ────!!」

 

 七海やちよの発散槍が高速で突き出される。それをクー・フーリンは両(・)目(・)を(・)閉(・)じ(・)、(・)あ(・)く(・)び(・)を(・)す(・)る(・)口(・)を(・)右(・)手(・)で(・)覆(・)い(・)な(・)が(・)ら(・)左手の朱槍で捌く。その捌き方も恐ろしい光景だった。槍をシーソーのように揺らすだけで、七海やちよの槍を打ち上げ、打ち落としていた。

 

「……ッ!!?」

「悪魔(あいつ)の言う通り、女とガキは黙って逃げてろ。戦力外だ」

「《忘却》────!!」

 

 悪魔が破った屋根の穴から顔を出した深月フェリシアがソウルジェムを輝かせる。

 

「忘却魔法をかけた! やちよ、これでいいんだな!?」

「あ? 魔法?」

 

 クー・フーリンの廻し蹴りが七海やちよのミゾオチに入る。撃墜された彼女は地上に激突。深月フェリシアは愕然とする。

 

「え……? 確かに魔法を掛けたはず……『敵はやちよの攻撃を忘れて、それが隙になる』って、やちよが言ってたのに……」

「あー。そりゃ《対魔力スキル》のせいだな。魔法少女とやらが使う魔術は、大抵“一工程から一小節”のものだ。対魔力がDランクちょいあれば無(・)効(・)化(・)できる」

「──は……?」

 

 悪魔が瞬発する。クー・フーリンの動体視力は完璧に悪魔の動きを捉えていた。膝と柄の激突。唸る両拳と旋回する槍の火花。悪魔の格闘のことごとくを朱槍で弾き、受け、落とし、回し、遊び、翻し、戯れ、あごを蹴り上げる。

 

「ガッ!!?」

「急激に技量が落ちたな。マジでどうした? こんなんじゃ退屈しのぎにもならねぇぞ!」

「さっさと殺せばいいのに────遊び足りない犬が吠えてやがる」

 

 悪魔はクー・フーリンのことを何も知らないが、逆転勝利が強まる中で、直感した禁句を敢えて口にした。

 

 クー・フーリンの殺意がみなぎる。クランの猛犬として誇りを抱く彼は、忠実な番犬であることを賞賛される覚えはあっても、飼い主に媚びへつらう犬であると侮辱される謂われはない。故に、侮辱された報いは、相手の死を以て清算する。

 

「テメェ────覚悟して言ってんだろうな?」

「少なくとも死ぬ気ではあるさ。忠実な番犬ならさっさと仕事を果たしたらどうだ?」

「────その口ぶり、嫌味な皮肉、どこぞの弓兵を思い出して反吐が出るぜ!」

 

 クー・フーリンは戦慄する笑顔を浮かべて霊基出力全開。魔力をフル回転して撃滅に当たる。悪魔は逆転勝利の呪いにより飛躍的に戦闘能力が向上。殺されないために敵を上回り、しかし上回りすぎた途端、殺されないが故に敵を下回る。

 

 音速の白兵戦。肉体に掛かる負担、両者の迸る肉体が生む重力加速度(四肢旋回重圧)は疾うに9Gを遥かに超越。生命漲る筋肉の膨張。肉体の限界を突破して凌ぎを削り合う超戦士がふたり。互いの死を食い争う両者の猛攻激発はとどまることを知らず。その驚異的な死闘を仰いだ魔法少女たちは、ただ見守ることしかできない身分であることを痛切に悟る。

 

 一方、遥か上空の曇天。暗黒の超巨大積乱雲(スーパーセル)は龍の如し縦渦を巻き、今────嵐の夜の亡霊軍団(ワイルドハント)が船を漕ぎ出す。

 

「悪いねランサー。あんたもろとも始末しろとのご命令さ。さぁ行くよ野郎ども!」

『UOOOOOOOOOOo────!!!!』

「嵐の夜、亡霊の群れ。死の猟王は神の浜に着港する!

 ────《黄金鹿と嵐の夜(ゴールデン・ワイルドハント)》────!! 撃(て)ぇええええ!!」

 

 騎兵の英霊(サーヴァント)、真名をフランシス・ドレイク。嵐の夜に滝のごとし豪雨あり。積乱雲より無数の亡霊船が姿を現し、ただひたすら地表の一角を蹂躙せんと火砲を向ける。

 

『────ッ!!』

 

 極大の魔力反応を感じたクー・フーリンは背水の陣を確信する。遥か上空後方から圧倒的火力の兆候を目視。それは悪魔も同様。敵の槍の遥か先に無数の空飛ぶ海賊船を目撃し、その砲塔が今、圧倒的火力を以て一斉砲撃される瞬間を垣間見た。

 

「────《逆転勝利》ッ!!」

 

 悪魔は生命力を削って笹川京子のソウルジェムに魔力を生み出し、窮地脱出の活路を拓く。クー・フーリンの槍術より一手、先を行くだけでいい。朱槍の二閃を防ぐには両手があっても足りない。そこを一瞬の技量向上で、片手だけで払いのける。余った片手で今度こそ《SISTEMA C.A.I.ver.D》を開匣。雲炎の爆発注入により雲ハリネズミが飛び出す。

 

「チーズ、裏・球針態!!」「クピィイイイイ!!」

「────ッ!?」

 

 雲ハリネズミの身体が裏返る。絶対的遮断力を持った半球状の結界が光を発して広がる。それは建物を包み込むように通過して、任意の対象を取り込む。悪魔と地上の魔法少女たちが光に包まれて気配が消える。クー・フーリンは光を警戒して飛び退いた。

 

「チィ────オレの役回りは囮かよ。まぁそれで敵を仕留められんならいいけどよ────」

 

 裏球針態の光から逃げるクー・フーリンは空中にルーンを描く。それは全ルーンを使用した防御結界。高ランクの宝具すら防ぐ代物だが、《黄金鹿と嵐の夜(ゴールデン・ワイルドハント)》の宝具ランクは“A+”……保有スキル《戦闘続行》と合わせれば、ギリギリなんとかなるレベルと判断。

 

 砲撃の雨が着弾し、大地は蹂躙され、多くの家屋が吹き飛び、鮮血は爆煙に掻き消え、悲鳴は轟音に掻き消される。その中でクー・フーリンは思う。悪魔はきっと生き延びる。絶対的な遮断力を持ったハリネズミの結界は、まず間違いなく破(・)ら(・)れ(・)る(・)。砲撃の第一波を防ぐことはできるだろう。だが第二波は防げない。結界が破壊された後、戦場は爆煙に包まれている。そこに発射される第三波の砲撃は、正確に対象を打ち砕くことはできない。せいぜいが陣地を蹂躙する程度。そして、その程度の砲撃の雨ならば、悪魔は必ず生還する。故に、そのトドメを刺す役回りだけは、赤枝の騎士として必ずや遂行せねばならない────

 

「そもそもオレが隠れていればな」

 

 その声はどこから聴こえてきたのか。クー・フーリンの背中に、初めて痛烈な一撃が入る。

 

「なっ────!?」

 

 クー・フーリンは悟る。悪魔は──理由は知らないが──透明になっている。裏球針態の中に逃げ込んでなぞいなかった。とんだタヌキだ。そしていつの間にかルーン結界の中にいた。外敵から身を守る砦も、内部の侵入を許せば内側から食い破られる。

 

「獅子身中の虫────いや、獅子が虫の戦い方を真似たってところか!」

 

 ここぞとばかりに押し切らんと蹴られ殴られるクー・フーリンの体が、裏・球針態の光の中に突き押されていく。

 

「────だがいい距離だ。テメェだけはオレが殺す! 《刺し穿つ(ゲイ・)────」

「嵐炎分析・霊核(れいかく)位置捕捉────《叛逆》────」

 

 降り注ぐ火砲、当たれば即死。そんな戦場の真っ只中で、ルーンの砦に守られているとはいえ回避を捨てた悪魔とクー・フーリンは、互いに必殺の一撃を言祝ぐ。

 

「────死棘の槍(ボルク)》────!!」

「《施術》────死(そ)の時を待っていたッ!!」

 

 ゲイ・ボルク。其はケルト神話に語り継がれる魔槍。必中必殺の概念を有し、穂先が増殖して枝分かれする。当たれば葉脈のように穂先が拡がり、体内殲滅効果を生む。

 

 神速の朱閃が奔る。それは透明な緑の盾(二葉さな)を躱して悪魔の心臓に必中。朱い茨の呪いが悪魔の心臓から体内へ拡がり、無数の棘が肉を骨を内臓を刺し貫く。

 

 刹那、鮮血を撒き散らして絶命する悪魔の“逆転勝利”はその呪いの力を極め尽くした。死、故に動くはずがない右手。殺された、故に伸びるはずがない貫手(ぬきて)。悪魔の手刀がクー・フーリンの左胸を穿ち、骨肉を切り込んで心臓を掴む。だがサーヴァントは心臓を潰されても死なない。霊体としての急所である霊核を壊す必要がある。そして悪魔は、物理的には心臓を掴んではいたが、魔術的には霊核を鷲掴みにしていた。

 

「────────テメェ……」

「その心臓、貰い受ける」

 

 クー・フーリンが宝具発動時、内心で叫んでいた言葉を、悪魔はそっくりそのまま言い返す。

 

 決死の覚悟で勝利を掴もうと死に飛び込んだ悪魔。その命懸けの行動に驚愕したクー・フーリンは、ある金髪の倅を思い出す。そして両者の体は裏球針態の光に包まれて消えた。光り輝く紫色の遮断膜は火砲の第一波を防ぎきる。

 

 白く包まれた視界はすぐさま晴れる。両者は遮断膜の床に落下。轟然と震撼する裏球針態。チームみかづき荘の面々は、音を立てず両足で着地したクー・フーリンを見て最大警戒。一方の悪魔は床に激突した途端、全身が砕かれた岩の如く崩壊していく。刹那、環いろはの治癒魔法が悪魔の命を救いとった。まるで時が巻き戻るように、砕かれた悪魔の全身が繋がっていく。朱い茨の呪いはどこへやら。一刺一殺の呪いの槍から見事生還を果たした悪魔は咳き込みながら橙炎を蒸し、クー・フーリンに向き直った。

 

「────貴様────我が魔槍を受けて生き残るか」

「ゴボッ……!! ッ……ありがとう、さな。お前が居なければ死んでいた。いろはも……礼を言う」

 

 二葉さなは透明魔法を解除する。クー・フーリンの眼光を見て竦み上がった彼女は蛇に睨まれた蛙のように硬直。

 

「……なるほど。たかが一工程、されど大魔術を一小節。どうせ対魔力で防がれるなら、味方に使うことで最大戦力を発揮する方向で使う。……貴様の指示か?」

「違う。彼女たちが勝手にやったことだ。オレは、オレ独りでアンタに勝つつもりでいた。なんせ手助けなんかあったら、逆転勝利の呪いは発動しない。だが今回は功を奏したようだ」

「……で? オレに何をした。どうして心臓(霊核)を潰さなかった? なぜオレを殺さなかった」

「そのくらい自分で確認しろ。悠長に話している暇は────」

 

 轟音、落雷の如し極光。裏球針態の遮断膜が第二波の砲撃によって崩壊。チーズは悲鳴を上げて匣(ボックス)の中に強制帰還。外界の周囲を一目見れば更地。広大な瓦礫の燎原が広がる。字義通りの炎上都市。しかして砲撃着弾により大地は跳ね、一同は爆発の衝撃で西方の彼方に吹き飛ばされた。その中で悪魔とクー・フーリンは爆風を物ともせず睨み合う。ルーンの結界が砲撃と爆風を防いでいた。その防御範囲内に膝をついていた悪魔は無事だった。傍らにいた二葉さなはギリギリ範囲外だったのか、遥か彼方に吹き飛ばされて姿が見えない。そしてクー・フーリンはルーンによる解析で、自らの霊基状態を確認する。

 

「マスターや聖杯との契約(パス)が切れてやがる。これで気に食わねぇ支配の力からは解放されたが────テメェ、まさか……」

「まず、戦いに勝つための挑発とは言え、あなたの誇りを侮辱したことを謝罪する。その上で────オレに力を貸してほしい。こ(・)の(・)絶(・)望(・)的(・)な(・)聖(・)杯(・)戦(・)争(・)の(・)勝(・)利(・)者(・)と(・)な(・)る(・)た(・)め(・)に(・)」

「────」

「叛逆魔法で対魔力と支配の力を破り、施術魔法で契約権(魔力パス)を切った。そのまま自分に繋ぎ直す事も可能だったが、サ(・)ー(・)ヴ(・)ァ(・)ン(・)ト(・)の(・)意(・)思(・)を(・)聞(・)か(・)な(・)い(・)で(・)勝(・)手(・)に(・)契(・)約(・)を(・)結(・)ぶ(・)の(・)は(・)嫌(・)だ(・)と判断した。……甘いと思うか?」

「……あぁ、甘いね。依代がなければ一刻ほどで消える身だが、大(・)抵(・)の騎士は主従関係が切られようと使命を全うするもんだ」

「ならば、その並(・)大(・)抵(・)に収まらない英雄は、どうするのかな?」

 

 悪魔の挑発的なセリフ。クー・フーリンは己の心が見透かされている事に嫌悪感を抱いて眉をひそめる。だが同時に、悪魔の言葉に魅力を感じているのも確かだと自覚した。それはなぜか。

 

「……こっちが欲しがる言葉や態度を次々と当てやがる。このオレが、たかが会話ひとつで絆(ほだ)されるなんてな。テメェ女だったら傾国の名が付くぞ」

「悪いがこっちも必死なんでね。魅了だろうが読心だろうが、なんでも使って勝ちを拾うさ」

「あーあーやだねぇその嫌味ったらしい言い方はよぉ! ────心が読めるんならさっさとしねぇか。ブチ殺すぞ」

「水属性のソウルジェムでいいか? あんたからは大空シリーズの波動を全て感じるが、その朱槍からは大海シリーズと雨の波動を感じる。なるべく属性の相性がいいもの同士でパスを結んだ方が効率的だ」

 

 悪魔は水野むくのハーフソウルリングを、クー・フーリンの抉られた左胸に当てる。魔法少女のソウルジェムとサーヴァントの血が接触した媒介術式で契約。悪魔の肉体を依代、すなわち現界の要石とし、水野むくのハーフソウルリングを魔力供給源とする。

 

「第三波だ。ルーンの結界が破られる。こっから躱せるか? マ(・)ス(・)タ(・)ー(・)」

「可能だ、ラ(・)ン(・)サ(・)ー(・)。言っとくが手助けは不要。死に瀕すれば力を増す不死身の体質だ。加えてオレはこの死地に慣れておく必要がある。そっちは基本、特に命令がない限りは、勝手にや(・)り(・)た(・)い(・)こ(・)と(・)を(・)や(・)っ(・)て(・)く(・)れ(・)」

「ハッ! そいつはオレ好みの命令だぜっ!!」

 

 全ルーン決壊。クー・フーリンは矢避けの加護スキル含め、鮭跳びの術法で神速の回避術を披露する。悪魔は逆転勝利の呪いが発動する中、人間の体積では躱す空白もない砲撃の暴雨の中を死炎噴射ひとつで回避・飛行していく。その中で悪魔はマジカルヘッドフォンのパーツを回して通話範囲を拡大。神浜全土の魔法少女のソウルジェムに念話が届くよう調整する。

 

(もしもし────こちら悪魔だ。神浜市にいる全ての魔法少女に緊急伝達する。マギウスの総攻撃が始まった。可及的速やかに神浜市から避難・離脱しろ。敵は英霊、サーヴァントだ。

 マギウスは過去の英雄をサーヴァントとして召喚した。あらゆる時代、あらゆる国の英雄が現代に蘇り、マギウスの従者(サーヴァント)となって軍団を結成。マギウスは英霊軍団を組織して何がしたいのか? オレは世界征服と見ている。このままではマギウスに従わない魔法少女は全てサーヴァントに殺されて、多くの民間人が犠牲になる。

 そ(・)れ(・)を(・)食(・)い(・)止(・)め(・)よ(・)う(・)と(・)思(・)う(・)な(・)。サーヴァントは、最強の魔法少女を瞬殺できるほどの強者だ。巴マミも、天乃鈴音も、赤子の手をひねるように殺すことができる。そもそも強さの次元が違うんだ。補給の面で、魔法少女が音速で動く戦闘機なら、サーヴァントは神速で動く戦闘機と言える。質量の面では、魔法少女がアリで、サーヴァントはゾウだ。加えてサーヴァントには対魔力というスキルがあり、魔法少女の魔法を全て無効化する奴らが半数を占める。つまり魔法少女がサーヴァントと戦うなら、魔力と武器の二つだけで戦う必要がある。お前たちは世界に名を残した武人を相手に、技量だけで勝てると本気で思うか? その驕りは捨てろ。助けられる者だけ引き連れて街を出ろ。

 なおポケモンはサーヴァントに通用するが、それは一対一の場合。多勢に無勢が想定される今回は無意味だ。逃げに徹しろ。

 ────以上だ。なに、安心しろ。今回の事件は、オレが死ぬ気で解決する)

 

 念話を切る。そこで悪魔は訊いた。

 

「ランサー。そっちが持つ情報を教えてほしい」

「……さて、どうするかね。一応、以前の主人にも義理立てはしときたいんだが……」

 

 支配魔法を持つ魔法少女イザボー・ド・バヴィエールがサーヴァントとして召喚された。マスターは赤い少女。白い珍獣の契約システムを悪用し、ねずみ算式にサーヴァントが召喚された。今は前哨戦としてランサー(クー・フーリン)が派遣されたが、間を置かずライダー(フランシス・ドレイク)が出張ってきた以上、既に多数のサーヴァントが地上に降りてきている可能性が高い。

 

 赤い少女とは里見灯花のことだろう。白い珍獣とはインキュベーターのことだ。地(・)上(・)に(・)降(・)り(・)て(・)、とはどういう意味だろうか。まさかマギウスのアジトは空(・)に(・)あ(・)る(・)のか。

 

「これは思わぬ収穫だ。まさかここでマギウスの本拠地を突き止められるとは……」

「こうして心を読まれちまうからな……ルーンで閉心術を使うのも面倒だし……まぁいいだろ。全部バレて、もう隠し事はねぇしな」

「ではランサー。令呪もない身だが、どうかお願いしたい」

「応(おう)」

「あなたが一騎当千・万夫不当を謳う“真の英雄”であると誇るなら────全(・)て(・)の(・)サ(・)ー(・)ヴ(・)ァ(・)ン(・)ト(・)を(・)倒(・)し(・)て(・)生(・)還(・)し(・)ろ(・)」

「────ハッ……承知ィッ!! いいねぇ……どうやらオレは、今までにないくらい────ムカツクが、同時に当(・)た(・)り(・)の(・)マ(・)ス(・)タ(・)ー(・)を引いたようだぜ!!」

 

 フランシス・ドレイクの宝具開放から三分が経過。砲撃の雨が降り止むと同時、曇天の彼方より死の気配が数騎、降り立つ。

 

 暴風雨の中、アスファルトを割って着地するは、漆黒の甲冑を纒う黒槍を携えた黒騎士と黒馬。その周囲には三人の清廉なる騎士が剣と弓を構え────いざ悪魔に突貫する。

 

「させるかよぉッ!!」

 

 ランサーの朱槍とルーンが、太陽の剣、無窮の武練、妖弦の音色と激発する。

 

「聖槍、抜錨────輝け、四の牙……!」

 

 悪魔は保存用匣を開匣。天乃鈴音の遺品から《真名看破》の魔法を有するソウルジェムを取り出して行使。

 

 敵サーヴァントの真名は────嵐の王アルトリア・ペンドラゴン〔ランサー・オルタ〕、■■■■■■、ガウェイン〔セイバー〕、トリスタン〔アーチャー〕────と判明。一騎、自らの霊基情報を隠蔽する能力者がいる。悪魔はさらに魔力(生命力)を消費して深く能力を探る。現在判明している真名のサーヴァント三騎が全員、対軍宝具を保有。そして────

 

「最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)」

「縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)」

「転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)」

「痛哭の幻奏(フェイルノート)」

 

 ────まぬがれぬ死が、悪魔とクー・フーリンの眼前に燦皓奏然(さんこうそうぜん)と差し迫る。

 

「跳べランサーァアアッ!!」

「ッッッ────!!」

 

 ランサーの神速跳躍。道路のアスファルトを砕き、ひとっ飛びで高層ビルの高さを超えた。刹那、悪魔は神切と閻切を抜刀しつつ《助太刀魔法》でランサーの傍らに転移。恋人と審判のペルソナカードを二本の妖刀に切らせて(喰わせて)スタンド能力を発現させる。二人が空に逃げても円卓の騎士は狙いを外さない。聖槍の光線、太陽の熱波、湖光の断絶、妖弦の斬音が狂い交わって襲い来る。

 

「喰らい尽くせ、閻切」

 黒刀・閻切を眼下に投擲。四重宝具の波濤熱量を閻切は際限なく吸収していく。が、無尽蔵と思われる閻切でも四つの宝具を食い尽くすことは不可能なのか、その刀身は膨張し、破裂寸前────

 

「九天(きゅうてん)に列(なら)べ、神切」

 対する白刀・神切は、担い手の生体波動と接続し、担い手が持つ死ぬ気の炎を刀身より噴出する。

 

 しかしサーヴァントを前に、神秘の力ではない死ぬ気の炎は無意味。たとえペルソナカードを使って死ぬ気の炎に魔力の概念が付加されたところで、圧倒的に火力が足りない。力量の差は覆らない。故に悪魔は────さる霊界の業(わざ)を体現する。

 

「我が斬魄刀・閻切の真名は誑吉女将(たらきちおかみ)。この名を以て全ての概念・神秘を喰らい尽くす!

 卍解────《閻王劫蝕 齏 落定(えんおうごうしょく あえもの らくさだ)》────!!」

 閻切は形態変化。巨大な黒赫刀となり、あらゆる概念を拒絶する。熱量を吸収する力は倍々に強化され、なんとか四大宝具の熱量を吸い上げていく。

 

 されど止まらぬ嵐の極大波濤。聖槍は、太陽は、湖光は、妖弦は────今、悪魔の身に届かんと四の牙を突き立てる。

 

「並びに、我が祖先の斬魄刀・神切の真名は電雰鰓(でんきりアギト)。この名を以て全ての争いを平定する(平らげる)!

 卍解────《零炎薙葬神定(れいえんちそうかみさだ)》────!!」

 神切は形態変化。刀身から黄金の龍が出現し、氷雪の鱗から雷電をがなり散らし、超振動、霊体の炎龍は万物万象を凍てつかせ、感電させ、焼き尽くし、薙ぎ払い、一切の障害を葬り去る。

 

 ────極光。幽波紋の霊圧と宝具の神秘の激突。

 なおも圧されるは悪魔の方。さりとて、その間隙を突き貫くは、空中にて朱槍翻すランサーの勇姿。

 

「マスター。その時間稼ぎ、この一刺しで報われよう。

 ────《刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)》────!!」

 

 朱槍の呪光が、宝具開放によって明らかとなった真名ランスロットの心臓に必中────かと思いきや保有スキル《精霊の加護》により幸運が向上、朱い茨の呪いは抵抗(レジスト)されて必殺には至らず。騎士の体に治癒不能の致命傷を残す。不意にランスロットは聖剣アロンダイトを落とすと、心臓を貫いた朱槍を両(・)手(・)で(・)捕(・)ら(・)え(・)た(・)。

 

「────《騎士は徒手にて(ナイト・オブ・)────》」

 

 悪魔はランスロットの心情(狙い)を直感。即刻ランサーに閻切もとい閻王を投擲、その肩を喰らい斬る。「何をするマスター!?」すかさず悪魔は《叛逆魔法》を織り交ぜた《助太刀魔法》を行使。ランサーだけでなく、本来は効果適用外である朱槍もろとも、自身の傍らに転移させた。

 魔術的に、宝具とはサーヴァントの象徴であるため、宝具=サーヴァントの図式が成り立つ。その図式を、無理やり助太刀魔法に当て嵌めることで、非生物である宝具の空間跳躍も成し遂げたのだ。

 

「ランスロットの手に武器を触らせるな! 宝具を奪われる!!」

「────! そういうことかよ、助かったぜ!」

「《風王結界(ストライク・エア)》」

 

 風の宝具による超跳躍。かつ保有スキル《魔力放出》との併用により、嵐の王は接近しつつ遠隔攻撃で上空を薙ぎ払う。

 

「全種ルーン開放」

 それをクー・フーリンのルーン魔術による防御結界が防ぎ切った。直後、背後に数騎。死の気配を直感。それは宝具発動の前触れ。莫大な魔力反応がクー・フーリンを総毛立たせる。悪魔は魔力を感じ取る事はできないが、今から死ぬ事実だけは直感していた。

 

「────《死は明日への希望なり(ラモール・エスポワール)》────」

「────《死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)》────!」

「────《百合の花咲く豪華絢爛(フルール・ド・リス)》────」

「────《黒百合の簪に禍根あれ(ギロチン・ブレイカー)》────」

 

「なんだこりゃあ! そんなホイホイ宝具を使ってんじゃねぇ!! サーヴァントのバーゲンセールともなれば宝具だって安売りします初手ぶっぱが最適ですってかぁ? あぁそうですかぁ同感ですねぇ────っ!?」

 

 ランサー渾身の咆哮(ツッコミ)。おそらく霊脈が枯渇するレベルで潤沢な魔力を貰っているからこその宝具連発(無法ぶり)だ。

 

 悪魔の首が処刑台に捕まる。あと数秒で頭上から落とされるギロチン。これに抵抗する為には“いずれ死ぬという宿命に耐えられるかどうか”────その覚悟が問われる。

 

「マスターぁ────!! ぐっ────!?」

 

 ランサーが救援に駆けつけようとするが、シュヴァリエ・デオンの花散る剣舞に邪魔される。凄絶な剣戟。宝具効果で悪魔とランサーの筋力耐久敏捷がワンランクダウンし、幸運判定に失敗したことで一拍(1ターン)の間、行動不能(スタン状態)に陥る。さらにアマデウスの宝具によって魔力幸運の二種抵抗判定に失敗、身体系ステータスが軒並み2ランクダウンし、装甲無視の魔力ダメージが心身を痛めつける。終いにはマリー・アントワネットの騎乗するガラスの馬の突撃。戦場を駆け抜ける絶対王権のカリスマは、革命期の醜悪なる怨嗟を澱ませ、敵陣にあらゆるバッドステータスを振りまきながら蹂躙する。

 

 泥ガラスの一蹴蹂躙を受けたランサーは突き飛ばされてビルの壁面を貫通。

 そして断罪のギロチンが、悪魔の首元に降下する────

 

 

 

 

 

 

 

 

【その程度の支配、突破せずして何が英雄か!】悪魔

 

 宝具《死は明日への希望なり(ラモール・エスポワール)》────悪魔の首元に落下する無痛断罪の刃(ギロチン)。

 

「悪いが、オレは既に死(・)に(・)場(・)所(・)を(・)決(・)め(・)て(・)い(・)る(・)。死を受け入れてはいるが、今この場で死を受け入れる気は微塵も無い」

 

 叛逆魔法を行使。それだけで処刑台が砕かれる。死の運命を受け入れつつ、救済の生業(なりわい)に躍動する悪魔は、サンソンの宝具から脱した影響か、燦然ときらめく命の輝きを放って拳を振るう。閻王と神定は悪魔の両肩直上に浮遊し、自らの意思で敵を攻撃する。悪魔は逆転勝利の呪いに助けられながらグローブという武器のみで────円卓の騎士、フランス革命期の英雄と、劣勢ながら殴り合う。

 

「どうしたランサー。オレが全員倒してもいいのか?」

「抜かせ!」

 

 いつの間にランサーは天高く跳躍していたのか。魔槍に夥(おびただ)しい朱色の魔力が集束する。

 

「────《突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)》────ッッ!!」

 

 水野むくのハーフソウルリングが一気に五割ほど濁る。既に瘴気は七割に達していたが、すかさず悪魔は瘴気を体内に吸収。服の下では皮膚が穢れ、細胞は濁り、肉体は黒ずんで猛毒に爛れる。

 

 かくして破滅の槍は、対軍宝具として戦場を発破・蹂躙した。それは魔槍ゲイ・ボルク本来の使用法。全身全霊で放つ投擲術。その速度は音速二号(マッハ2)に達し、必中必殺の概念を有したまま対象を絶対追跡。いくたび躱されようと追い縋り、最終的な着弾時、朱い茨の呪いが炸裂し、殲滅の一撃は英霊軍団であろうとも容易く吹き飛ばし、殺し尽くす。

 

 悪魔は助太刀でランサーの傍らに転移。死炎噴射で戦場を緊急離脱。ランサーは屋上を疾走跳躍して歩幅を合わせる。

 

「今の宝具でどれくらい倒せた?」

「太陽の騎士は聖者の数字で生きている。さすがに湖の騎士は死んだろう。フランスの英雄組も軒並み全滅でいいんじゃねぇか」

「そうか。ところでランサー。質問がある。キュゥべえの願いを叶えたか?」

「願い? あぁ、あの白い珍獣のことか。叶えたぜ。媛(ひめ)さんが召喚されたらどうしようかと思ったが、異国の王女(オイフェ)と倅(コンラ)が召喚された。オレは先鋒として配置されたから二人とはそれっきりだ」

「そうか。次は忠告がある。魔法少女はソウルジェムに瘴気が蓄積することで魔女化する。それは不可逆の現象だ」

「それは見れば分かる。オレのソウルジェムはルーンで霊基の中に取り入れておいた。宝石を砕かれて死ぬなんていう間抜けな最期は遂げねぇから安心しとけ。だが魔女化の回避は難しい。どうすれば浄化できる? 浄化のルーンを使えば微量程度の瘴気はなんとかなるが……」

「グリーフシードが必要だ。が、そのためには魔女を倒す必要がある。しかしそんな暇はないため、瘴(・)気(・)は(・)オ(・)レ(・)が(・)吸(・)収(・)す(・)る(・)」

「お得意の不死身戦法か? 無理すんなよ。大丈夫なのか?」

「愚問だな。オレは逆転勝利の申し子だ」

「そうだったな。まずい状況になればなるほど力を増す……なんとも苦労する体質だ。自ら逆境を選ばなければいけないとは」

「待て。話は終わりじゃない」

 

 悪魔は水野むくのハーフソウルリングを見せる。

 

「ランサーのソウルジェムの瘴気はオレが吸収する。ランサーと契約している水野むくのハーフソウルジェムリングの瘴気もオレが吸収する。前者は必ず吸収するが、オレも吸収量には限界があり、それを超えると一日以上寝込むことになる。逆転勝利の呪いがあればなんとか耐えて戦えるが、それでも許容量を超えれば今度はオレが魔女化もとい魔人化する恐れがある。その時がオレたちの終わりだ」

「なるほど」

「故に後者の吸収は、場合によって諦(・)め(・)る(・)と思ってくれ」

「……そしたら、オレと契約している、その水野むくのハーフソウルリングとやらはどうなるんだ?」

「悪魔契約魔法というオレの術により、たとえ瘴気が蓄積しても魔女化することはない。これは分霊箱の要領だ」

「あーなるほど。ハ(・)ー(・)フ(・)ってのが気になってたが、ソウルジェムを二つに分割してんのか。で、一方が黒ずんでも、もう一方が無事なら魔法少女は魔女化しない、と」

「理解が早くて助かる。だがハーフソウルリングも真っ黒に染まれば瘴気を放出する。その時、魔力パスを繋いでいるランサーの霊基に瘴(・)気(・)が(・)流(・)れ(・)込(・)む(・)可能性が高い」

「……敵の気配だ。結論を急げ」

「黒化、オルタ化、バーサーク化、異霊化────そのどれになるのかは分からないが、とにかく霊(・)基(・)が(・)変(・)質(・)することだけは覚悟しておけ」

「オルタ化はねぇな。ただバーサーク化は一番ヤベェ。それにだけはならないよう願った方がいい。狂戦士のオレは世界一ロクでもねぇ」

 

 敵サーヴァントと遭遇。悪魔は真名看破。織田信長〔アーチャー〕。彼女は宝具で地上を絨毯爆撃していた。その理由はマギウスに逆らう魔法少女を皆殺しにするため────つまり今、悪魔の知る水名区出身の魔法少女が殺されていることになる。

 

「────《三千世界(さんだんうち)》────」

「無視する」

「了解」

 

 三千発の火縄銃の一斉掃射。死炎噴射で飛行する悪魔と神速跳躍するランサーは目視(矢避けの加護)で銃弾の驟雨を躱し、新西区から水名区に入る。悪魔はところどころ被弾するが、逆転勝利の力に頼り、なんとか危険地帯を脱した。

 

「マギウスの本拠地、大聖杯の在り処は、中央区の上空で構わないか?」

「あぁ。あのスーパーセルの真上にある。空中移動要塞だ。全体に光学迷彩の結界を張っている。迎撃術式も完備してあるから突入するのは一苦労だぜ」

「ならば闇雲に飛び上がっても“いい的”だな。天地から宝具を飛ばされてお陀仏だ」

「そういうこった。敵地に乗り込みたいなら、まず眼前の地上を片付けねぇと始まらねぇってことさね」

 

 刹那、織田信長の猛攻を掻い潜り、一棟のビルを超えた途端、悪魔とランサーは身の毛がよだつ。数百を超えるサーヴァントの大軍が、悪魔とランサーを凝視していたのだ。ランサーは驚愕する。

 

「バカな────サーヴァントの気配は感じなかった……! まさか一軍を隠すレベルの隠密宝具か!?」

「真名看破は発散と併用したところでクラスが分かるだけ……魔力の無駄か────ランサー、待機だ」

「っ!?」

 

 悪魔は単騎で突貫する。まさかまさかの無謀な行動。閃く宝具は数百種。絶体絶命の一撃必殺が悪魔の身の回りに乱舞する。逆転勝利、極限発動。絶死の瀬戸際を掻い潜る不死身の悪魔は、七色の死炎と二刀流からなる時雨蒼燕流と斬魄刀の卍解を駆使してサーヴァント百騎を一斉鏖殺。EランクからDランク級のサーヴァントを殺し尽くし、なおも生き残るCランク以上のサーヴァント連合と凌ぎを削り合い、宝具の雨を喰らいつつ、生死の境で逆転勝利を連続する。

 

 その時、一部のサーヴァントがランサーを狙った。マギウスから《悪魔に宗旨替えしたランサーのクー・フーリンを倒せ》という指示が下っていたようだ。対するランサーは受身の守勢で敵の攻撃を捌ききる。そのとき戦闘中の悪魔から念話が届いた。

 

(ランサー。嫌なことを聞くだろうが、今のクラスで勝ち抜けると本気で思っているのか?)

(舐めんじゃねぇよ。当然だ)

(誇りある英雄ならばそう答えるだろう。だが事実としてどうだ? 矜持は一旦脇に置いて、戦略的・戦術的な策が聞きたい)

(……正直それでも勝てると思ってんだが……そうだな。やっぱ知名度が欲しい。ないものねだりだが)

(生前の状態に近付けば、待機(お荷物だ)なんて命令は出させないと? どうやら本気らしいな……ところでそのルーン、汎用性が高そうだが……霊基の改造はできないのか?)

(おいおい何を企んでやがる)

 

 ランサーの宝具発動。一刺一殺で敵サーヴァントを五騎、連続で屠る。

 

(ランサーの宝具(刺し)は燃費がいい。だがさすがに何百万の軍勢相手に宝具を使い続けるのは流石に不可能だ。魔力が足りない)

(オレにやったように契約サーヴァントを増やすってのはどうだ?)

(アレはランサーが即死系の宝具を持っていたから可能だったことだ。オレの半端な技量ではサーヴァントの体に効果的な打撃を与えることはできない。逆転勝利の呪いが極限まで発動しないと接触は不可能だ。すぐに見切られて躱される)

(そりゃそうか。技量の乱高下が激しいもんなマスターは)

(ランサーの槍を改造し、叛逆施術を掛けて必中してもらう案もあるが、体内殲滅効果で必殺してしまうから、やはりこれは没だ)

 

 ふとランサーは目を点にする。

「オレのマスターそんなこと考えてたの!? 人の宝具をいじるとか────クソッ。あーやだやだ脳裏によぎる弓兵の顔!」

 

(どうした?)

(いやなんでも)

(宝具の改造が嫌ならクラスの改造しかない。どうにか世界を騙して知名度を誤魔化せば宝具も更新される。宝具が多いアーチャーかライダーが望ましいが、無理な改造はエクストラクラスに変わる可能性が高い)

(サーヴァントのことは人間として扱うんじゃなかったか?)

(だからこうして訊いている。お前が生身の人間でも同じ事を聞くさ。勝つ為なら手段は選ばない。高潔な騎士はこれを嫌うか?)

(いや別に? オレは実力を出して強者と切磋琢磨できればそれでいい)

(ならば、やるか。しかしそれは最終手段だ。頼むぞ、ランサー。そろそろ出撃しろ。活路を拓いて戦場を離脱する)

(あいよ!)

 

 ランサーは宝具《突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)》を発動。未だ残る数百騎のサーヴァント軍団に壊滅的な被害を与える。大量の魔力の消費はランサーのソウルジェムと水野むくのハーフソウルリングに膨大な瘴気を溜めるが、それを悪魔は半魔人化のエネルギーとして吸収していく。そのたび体は瘴気の毒素に犯されて絶命必至の悶絶に襲われるが、その程度の痛み、とうの昔より慣れている。調和の力で痛覚を全身に分散。かつ鎮静効果で痛みを抑える。すると全身が麻痺し、血が通わず脱力するような気味悪さを覚える。が、その脱力を隙と見て襲ってくる敵(・)の(・)お(・)か(・)げ(・)で逆転勝利が発動。これの繰り返しで悪魔はコンディションを調整していく。

 

「中央区に入る!」

「そこはヤベェぞ。何千何万というサーヴァントがいる」

「だからこそだ。それとも勝(・)っ(・)て(・)生(・)き(・)残(・)れ(・)な(・)い(・)というなら、ここで────」

「待(・)機(・)、とは言わせねぇぜ?」

「ならば文字通り体現しろ。英雄であるなら一騎当千がノルマだと」

「くどい。言われるまでもねぇよ」

 

 悪魔はクー・フーリンの名を知らない。彼がケルト神話を象徴し代表する、アイルランドに名高き大英雄であることを知らない。しかし一度手合わせしたことで、そのたぐいまれで脅威的な実力は把握したつもりだ。今まで戦ったサーヴァントの中で、桁違いの技量と戦闘経験を誇ると直感した。故に全幅の信頼を置く。きっと彼は、何かの神話あるいは史実で、無(・)双(・)の(・)限(・)り(・)を(・)尽(・)く(・)し(・)た(・)英(・)雄(・)に違いないと、悪魔は確信したのだから。

 

(────ヘッ。オレのことをよく知りもしねぇくせに、うちのマスターは平然と無理難題を任せやがる。だが、その無知からくる経験ゆえの信頼……全身全霊を懸けて応えてやらなきゃ、英雄の名が廃るってもんだぜッ!!)

 

 水名区の境界線を超えて中央区に到達。古今東西を問わず、あまねく英霊が雁首揃えて悪魔とランサーを睨みつける。

 

「開匣────ナッツ、チーズ、武蔵、武器形態に形態変化(カンビオ・フォルマ)ッ!!」

 

 悪魔は、狂(・)気(・)的(・)な武器形態に移行する。

 

 まず雲ハリネズミの裏球針態を鎧として着込む。結果、鎧の内側から針が突き出て肉体を骨ごと無理やり固定。これによりサーヴァントの攻撃で骨肉が折れ曲がり吹き飛ばされても、ちぎれた骨肉の端から針で縫い繋げば生還できる。その代償として理性を奪うほどの激痛が襲いかかるものの、痛覚を忘我した悪魔にとっては麻痺程度の支障しか生じない。

 

 天空ライオンはガントレットに変形して両腕に装着。施術魔法で両肘に背部ブースターを付属することでイクスバーナーの両手撃ちを可能とする。

 

 雨燕は燕返し式の発散機構となり神定の柄に装着。神定の周囲には黄金の龍が旋回。なおスタンドはスタンドでしか倒せないため、ある程度のサーヴァントの攻撃から悪魔を庇ってくれる。

 

(概念勝負に持ち込めば、純粋な技量対決で負けていてもなんとかなる。スタンドのルールを利用して負けはしないが、今のところ勝つ手段は明確に存在しない。数百万のサーヴァントをどうやって倒す? この膠着状態を覆すのは、どちらが先か……これはそういう戦いだ)

 

「────《幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)》────!」

 

 初撃を飾り、悪魔を狙うは、竜殺しの英雄ジークフリート。かの英雄は呵責なく聖魔呪剣を天高く掲げた。黄昏の剣は壮絶な青光を解き放って一刀両断と振り下ろされる。大地両断。悪魔は爆速の死炎噴射で回避するが、そこに邪悪なる魔剣が失墜する。

 

「────《流離魔剣・聖妃失墜(バルムンク・クリームヒルト)》────!!」

「────《幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)》────!」

 

 ジークフリートの妃クリームヒルトは、対象の殺害に特化した凄絶な一撃を放つ。悪魔は惨たらしい死を直感。掠れば激痛で身が止まる。ならば敢えて身を投げ出そう。燃え盛る赤黒(せきこく)の業火。人ひとりを魂に至るまで焼き尽くす憎悪の具現。それを半身に掠らせながら逆転勝利の呪いが発動。バーサーカーゆえ動きが鈍い。否、そもそも敵は回避を考えていない。クリームヒルトの首に、獅子(ナッツ)が咆哮する炎拳が唸る。打突、施術魔法によりクリームヒルトの霊体を破壊。業火に焼かれる悪魔は何度目かも知らない凄絶凄惨の死を味わう。

 そこに二発目の聖魔呪剣が追撃の一刀を振り落とす。連発の溜めが無いのは剣の柄に魔力を秘める宝珠の所為(チカラ)か。妻を殺された憤怒で威力が跳ね上がる。しかし悪魔は新鮮な死を味わうことで逆転勝利の呪いが極まった。されどサーヴァントの宝具連発を躱さねば真に死ぬ。青光の斬撃の端に刀を合わせて凌ぎ弾き、莫大な魔力圧によって音速のままに吹き飛ばされる。

 

「────《壊劫の天輪(ベルヴェルク・グラム)》────!」

「────《幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)》────!」

「────《死がふたりを分断つまで(ブリュンヒルデ・ロマンシア)》────!!」

「────《幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)》────!」

 

 竜殺しの英雄シグルドが放つ太陽の魔剣、打突投擲。撒き散る焔は正確無比な軌道で悪魔の肉体を貫通する。最後に魔剣グラムを全力打撃、飛翔する魔剣は悪魔の頭部を貫かんと立体機動。(追尾概念もないのに技量だけで軌道計算だと!?)驚愕する悪魔。それはシグルドの保有スキル・叡智の結晶によるものか。シグルドは、悪魔の逃げ先を読んだ上での軌道計算・魔剣投擲を敢行していた。

 そこに三連発目の追撃バルムンク。悪魔の背中に直撃。さらに炎の愛によって巨大化した槍が降り注ぐ。其は神をも殺さん一撃必殺。撃滅の理は市街地を一掃。宝具乱舞、眩き熱量の閃光が視界を奪う中でも魔剣グラムは対象を見失わない。直後、魔剣グラムは悪魔の頭部を貫通────そこに四連発目のバルムンクがトドメを刺す。悪魔の肉体は終焉(真の死)を迎えた。

 

「時雨蒼燕流 攻式・九の型────《うつし雨》」

 

 魔剣グラムと四連発目のバルムンクが命中し、消し飛んだかに思えた悪魔は、雨炎による水鏡に映された偽の容像(すがた)だった。死炎噴射で戦場の大空を駆ける悪魔は宝具の豪雨暴風を凌ぎ、敵(・)の(・)魔(・)力(・)切(・)れ(・)ま(・)で(・)耐(・)え(・)忍(・)ぶ(・)。だ(・)が(・)そ(・)の(・)判(・)断(・)は(・)間(・)違(・)い(・)だ(・)っ(・)た(・)。誰かのスキル《騎士の武略》によって判定ミスを誘発される。

 

「────《軍神の剣(フォトン・レイ)》────!」

 

 暴風の王アルテラ。其は“地上のあらゆる存在”を破壊する神の鞭を振るう者。三色の輝きを放つ鞭と閻王が激突。斬(・)魄(・)刀(・)が(・)砕(・)か(・)れ(・)る(・)。閻王は絶命した。妖刀、ペルソナカード、スタンド────それは地(・)上(・)に(・)存(・)在(・)す(・)る(・)も(・)の(・)故に、宝具の概念攻撃で殺された。スタンドはスタンドでしか殺されない? 否、あらゆる概念(ルール)は、それを上回る神秘(ルール)が勝つ。

 

「────《幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)》────!」

 

 驚愕に打ち震える悪魔に五連発目の追撃。聖魔呪剣が携える宝玉の魔力は無尽蔵とでも言うのか。霊基を削って熱量(リソース)を生み出してでも連発を繰り返している。死炎轟噴による間一髪の回避。刹那────

 

「一歩音超え、二歩無間、三歩絶刀────《無明三段突き(むみょうさんだんづき)》────!!」

 

 其は防御不能の魔剣。超絶技巧と神速縮地から放たれる三段突きは“全く同時”に“同じ位置”へ突き出される。その物質的矛盾は魔術界において事象飽和現象と呼ばれ、世界の理は矛盾を解消すべく重(・)な(・)っ(・)た(・)地(・)点(・)を(・)破(・)壊(・)する。何かが重なっているから理を害すと言うのであれば、その何かを全て無くせば良いというのは、理を守る上での単純明快な回答である。しかして沖田総司の対人魔剣は、神定の柄に命中した。雨燕の武蔵がこ(・)の(・)世(・)か(・)ら(・)消(・)え(・)去(・)り(・)、神定が砕かれて黄金龍が消滅する。世界の矛盾を解消する概念は、スタンドの概念(ルール)より上だというのか。否、もし閻王や神切の神秘が、相手の神秘より強く高ければ────その概念勝負に負けることはなかったはずだ。

 

 一度に雨燕の武蔵と二本の妖刀を失った悪魔は絶体絶命の窮地を実感する。

 

「────《幻想大剣・(バル────)》」

「────《刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)》────」

 

 ジークフリートの背中に朱槍の魔撃が刺し貫かれる。かの英雄は無敵の防御力を誇るが、アキレウスのアキレス腱のように、唯一背中に弱点を持つ。必中必殺の魔槍はその弱点を正確無比に貫き、ジークフリート〔セイバー〕は消滅。ほかランサーは数騎のBランク級サーヴァントを屠っていたが、いかんせん敵の数が多い。多すぎる。残りサーヴァントの数、未だ数千騎を優に超す。この激戦に終わりはあるのか。そんな絶望をものともせず、橙青の主従は戦闘続行。殺害手段を持たない悪魔が敵を引きつけて、殺害手段を持つランサーが次々に仕留めていく。それは一手のミスも許されない詰将棋(パズル)のような殺し合い。四面楚歌、複雑怪奇の戦況、多勢に無勢、初見殺し、即死、対城、概念破壊、例外(イレギュラー)────あらゆる要素が致命の一撃。死の瀬戸際を何千何万と潜りながら、世界に名だたる英雄を何百何千と打ち崩す。

 

(────!!)

 

 そのとき悪魔は直感した。有象無象の英霊軍団の中で、一縷の希望とも言える“味方候補”を発見。すかさず宝具の雨を切り抜けつつ死炎噴射で接近。叛逆を掛けて毒耐性を獲得。毒肌のアサシンに差し迫る。短刀投擲を死炎放射の薙ぎ払いで弾き、その胸に手刀を突き入れる。彼女の真名は静謐のハサン・サッバーハ。全身が毒の人間であり、艶やかな肢体で対象を魅了し、褥を共にして毒殺する────そんなアサシンに触れたというのに、悪魔はなに食わぬ顔で飛び去る。

 

「っ!?」

 

 静謐のハサン・サッバーハは愕然とする。自らに触れても死なない存在。さらに、いつの間にか霊基を改ざんされて支配の力が解かれていた。契約による魔力パスが通ったまま、依代となるマスターは変わっていない。いったいどういうつもりなのか。思わず静謐は悪魔の姿を目で追いかける。そして悪魔は振り返り、魅惑するような微笑みで一言。

 

 ────オレと来るか?

 

 静謐のハサン・サッバーハは、愛を求めていた。触れた人は皆死んでしまう。好きな花も触れれば枯れるどころか腐り落ちる。世のため人のため、多くの悪王や貴族を魅了し、恋人や婚約者となっても、最後には暗殺しなければならない。そんな少女のそばにあったのは────

 かりそめの愛。

 少女は、普通の愛ある生活を望んでいた。ならば暗殺者になぞならなければよかったのに────それは暗殺者としての尊厳を侮辱する言葉である。大義と相思相愛の渇望は矛盾しない。ただ、ただただひたすらに、彼女は求めているのだ。

 ────自(・)分(・)に(・)触(・)れ(・)て(・)も(・)死(・)な(・)な(・)い(・)人(・)を(・)。

 

 静謐のハサン・サッバーハは跳躍する。今まで向けていた敵意・殺意を、まるごと反転させて英霊軍団に毒を撒く。全身が毒だと言うなら、その体液や吐息さえも猛毒。汗を流し、息を吹くことで、毒の煙は戦場に充満し、英霊軍団の機動力を奪う。そして高い敏捷性で悪魔に追いすがる静謐は問うた。

 

「待って! あなたは────!」

「契約するか? 凪のハーフソウルリングを使おう。よろしく」

 

 悪魔は握手を求めるように手を差し出す。それに静かな興奮を秘める静謐のハサン・サッバーハは、震える手で堅い握手を交わした。悪魔の体にはなんともない。否、その体には致命の毒素が充満していく。それは翻せば逆転勝利の呪いが感極まることにほかならない。悪魔にとって瘴気は猛毒。同じ毒には慣れている。絶好のサーヴァントを見つけた。無論、触れ続ければ流石に死ぬかもしれない。だが逆転勝利の呪いを信じるなら、やはり死なないかもしれない。その不安定さは先に教えておくべきだろう。だが余計な不確定情報で不安にさせたくない。その点は多少、騙す形とはなるが────悪魔は決意する。死ぬ気で死ななければ良いだけの話だと。そうすれば嘘ではない。現に悪魔は握手を交わし続けているが、死ぬ気配は微塵もない。無限に瘴気を蓄積し、逆転勝利を繰り返して敵の多数宝具から自らと静謐のハサンを守りぬく。

 

「行くぞ、アサシン」

「────……はい。私のマスター……」

 

 ドス重い愛情を直感。悪魔は、彼女の人格を利用する形で味方に引き入れたので若干の罪悪感を覚えるが、同時に恋愛にトラウマを持っているため忌避感を抱く。

 

「アサシンは継戦能力が高くない。回避に専念しろ。オレは不死身だから決して庇うな。お前が生き残っているだけでオレは勝てる」

「……それは、どういう……」

「いや今のは口説き文句じゃないぞ? あぁ説明が面倒だ。念話でランサーに聞いてくれ……」

 

 絶体絶命の四面楚歌、優勢ならまだしも劣勢の中で悠長に説明している余裕はない。

 

 次の瞬間、上空を戦闘機のような飛行機雲を引いて疾駆するサーヴァントが現れた。飛行能力を持つサーヴァントは厄介だ。悪魔は真名看破を行使。────真名をメリュジーヌ〔ランサー/妖精騎士ランスロット・アルビオン〕────

 

「ふぅん……この世界は、人理焼却があった世界なんだ……時代的に、私のマスターはイケオジになってるかな? 探しに行きたいけど、この支配能力が厄介だ。ハァ……ほんと、こんな形で召喚されたくはなかったけど……サーヴァントが都合のいい魔術兵器(そもそもそういう在り方)なら、まぁ────仕方ないよね!」

 

 メリュジーヌは、最強に可愛らしい“てへぺろ顔”で言った。

 

「じゃ、がんばって! 人類♡」

 

 宝具開放。其は最高位の竜種(アルビオン)として、湖の騎士(ランスロット)の名をあずかる騎士として、最高峰の戦果を上げんとする。

 

「────《今は知らず、無垢なる湖光(イノセンス・アロンダイト)》────!」

 

 縦方向Uターン(インメルマンターン)の機動(マニューバ)を描いてからのアフターバーナー点火。宝具の予兆は最小限。さながら通常攻撃と見紛う気軽さで武装を高速回転。宝具としてのダメージは低いが、それはサーヴァントであればの話。人間たる悪魔にとっては、絶殺の高速宝具として差し迫る。

 

 刹那、スーパーセルを切り裂いて一条の極槍が放たれた。それは真名開放によって一瞬の隙を晒したメリュジーヌの霊基と、悪魔の心臓を正確無比に撃ち抜き、地表に炸裂。轟然と裏返る大地。中央区の一角が消し飛び、何千という民間人と何十というサーヴァントが絶命する。すかさず悪魔は施術魔法で心臓を縫い胴体を繋ぎ、まるで自(・)分(・)に(・)投(・)げ(・)て(・)寄(・)越(・)し(・)て(・)く(・)れ(・)た(・)かのような宝具の槍を手に取る。施術魔法で柄を切断。不毀の極剣(ドゥリンダナ・スパーダ)として使用する。宝具に対して真名看破を行使すれば、この宝具の持ち主はヘクトール〔ランサー〕だと分かる。

 悪魔は考察する。どうやって支配の力を脱したのかは知らないが──おそらく悪(・)魔(・)を(・)狙(・)う(・)た(・)め(・)宝(・)具(・)を(・)発(・)動(・)し(・)た(・)のであって、メ(・)リ(・)ュ(・)ジ(・)ー(・)ヌ(・)を(・)狙(・)う(・)つ(・)も(・)り(・)は(・)な(・)く(・)、(・)た(・)ま(・)た(・)ま(・)彼(・)女(・)が(・)射(・)線(・)上(・)に(・)入(・)っ(・)て(・)き(・)た(・)だ(・)け(・)という屁理屈(故意の思い込み)で──なんとか助力してくれたと見る。やはりサーヴァントの中にも、なんとか支配魔法から逃れようと悪戦苦闘するサーヴァントが大勢いる。それは超直感で既に分かっている事だったが、ならば英霊の魂とやらに賭けてみるのも悪くない。そう悪魔は思った。

 

「サーヴァント────それは使い方を誤れば、英霊の魂を冒涜する行為だ!」

 

 悪魔は、高潔さを重んじる正英雄に向かって啖呵を切る。

 

「しかしオレは声を大にして無茶を言う! ────高潔なる正英雄よ! 貴公らが真の意味で世に名高き英雄であると言うのなら……! その程度の支配、突(・)破(・)せ(・)ず(・)し(・)て(・)何(・)が(・)英(・)雄(・)か(・)! 恥を知れ、くだらない兵器に身をやつした反英雄ども────!!」

 

 そんな悪魔の侮蔑的な挑発に、ムッ! として呼応するように、一気呵成とサーヴァントの集団が飛来する。

 

「────《恐慌呼び起こせし魔笛(ラ・ブラック・ルナ)》────!」

「────《丸投げは当然の魔剣(ラヴァンド・ベリサルダ)》────!」

「────《目映きは閃光の魔盾(ブークリエ・デ・アトラント)》────!」

「────《七つ国の女帝(ヴェローナ・セッテ・インペーロ)》────!」

 

 シャルルマーニュ十二勇士がひとり、アストルフォ。幻獣ヒポグリフに跨る騎兵は魔笛を吹いて敵味方を問わず戦場を混沌の渦に陥れる。それは悪魔に対する見敵必殺、故に即時の宝具発動を命じられていた事を逆手に取った宝具の使用。先ほどのヘクトールがそうだったように、支配されているなら支配者の命令に従いつつ、ちょっといたずらしちゃおうという遊び心が、悪魔たちに一瞬のチャンスを与える。魔笛の音による衝撃波は広域破壊兵器として猛威を振るい、あらゆるものの聴覚を奪い、判定に失敗した者を恐慌状態に陥らせる。

 

 そこにシャルルマーニュ十二勇士がひとり、ロジェロの宝具が放たれる。其は“信頼”を意味する概念。担い手が魔剣ベリサルダを信頼する限り不可能はない。原典では、あらゆる防御を貫く魔剣として語られているが、今回の事例において、それはベリサルダの真価ではない。

 ロジェロは自覚している。自らの偉業を思えば、あまり英雄として立つ瀬がない。攫われたお姫様を助ける勇者が英雄だというのであれば、ロジェロはいつもそのお姫様の役回りだった。そして勇者の役回りは、いつも愛するブラダマンテだった。けれど、それでもいい。自らが英雄に足る理由があるとすれば、それはいつも自分を信頼して手元にいてくれた、この魔剣と呼ぶには優しすぎる相棒がいるだけで、自分は英雄だと胸を張れる。それはいつもゆるふわな彼の姿からは想像できない、切実な秘めた想い。英霊の座に登録されるべきは魔剣ベリサルダの方だと思いつつ、今日もロジェロは英雄として誰かを守るため、魔剣ベリサルダを信じて奮うのだ。

 

 ロジェロが振るう魔剣ベリサルダの斬撃が悪魔に直撃する。その殺意は薄かった。しかし悪魔は念のため警戒し躱そうとしたが、逆転勝利の呪いが働かず、かつロジェロの技量が凄まじかったのもあり被弾する。次の瞬間、悪魔は加護を得た。それは“あらゆる困難を突破する力”────具体的には、あらゆる守りを貫通する。つまり、サーヴァントに神秘ではない攻撃が通るようになる加護だった。

 

 悪魔は死ぬ気の炎を灯す。全身全霊を懸けた一撃で、拳から親指を立て(グッジョブしつつ)ニッと微笑んだロジェロを殺し、ほか敵サーヴァントを殴り殺す。手応えアリ。だがその加護も長くは続かないだろう。悪魔は今のうちにキル数を稼ぐ。

 

 シャルルマーニュ十二勇士がひとり、ブラダマンテ。その魔盾は強烈な魔力の光を解き放ち、気絶判定を強いる。敵味方を問わず極光を目に受けて視覚を消失。されど悪魔は超直感により視覚・聴覚がなくとも最適解の動きでサーヴァントを次々と屠る。

 

 シャルルマーニュ伝説に登場する女騎士マルフィーザ。ロジェロの妹たる彼女は、単騎で七つの国を征服した。それが故に戦女神に例えられる。その最強無敵ぶりから、征服した七つ国に因む伝説の武具防具、すなわち宝具を七つまで召喚できる。ゾモロドネガル、火尖槍、黄色い閃光の弓矢、幻想種ヒーモリ、アブラヤシの紋兜、ピサールの毒槍、ヘラクレスの柱盾────ほかにもゲオルギウスの銀槍やナーガの鱗鎧、ゴルゴーンの盾など。そして七つの宝具を自由自在に操るマルフィーザは、いざ武者震いを発散すべく悪魔に立ち向かう。

 熾烈を極める激戦。ゾモロドネガルはエメラルドの斬撃ビームを放ち、悪魔を攻撃しつつ周囲のサーヴァントを巻き込んで消滅させる。火尖槍を壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)として使うことで神秘爆発。黄色い閃光の弓矢は、弓矢作成スキルの宝具版。魔力を流すだけで無限に矢が生成されて戦場に降り注ぎ、敵味方を問わず殲滅する。ヒーモリは千里眼を有し、この世ならざる幻馬(ヒポグリフ)のように次元跳躍が可能。それで味方サーヴァントの対軍宝具に巻き込まれないよう回避。アブラヤシの紋兜は概念武装としてあらゆる弱体効果を弾く。こちらも弱体系の対軍宝具に巻き込まれないよう発動。ピサールの毒槍は自我を持ち、担い手の手元からひとたび放たれれば一夜で一つの街をマグマの毒海に変えるという恐ろしき魔槍。もはや神浜市の滅亡は決定的であるため、苛烈なる女傑は中央区を滅ぼす代わり、数万というサーヴァントを道連れにする。そしてヘラクレスの柱盾は、A+ランク級までの単純威力系宝具を“跳ね返す”力を持っている。味方サーヴァントの対軍宝具を跳ね返し、悪魔を殺しつつサーヴァントを薙ぎ払う。そうしてマルフィーザは、悪魔を倒す命令を遂行しつつ、生来からの傍若無人ぶりを発揮して、悪魔の求めに応えてみせた。ただし兄ロジェロを殺したことと英雄への侮辱は普通(フッツー)に許せないため、最後にガチで殺しに行く。

 

 逆転勝利の呪いが発動。悪魔はマルフィーザと刺し違える。互いに心臓と霊基を打ち破ったが、不死身の悪魔は施術魔法で破られた心臓を縫い繋いで飛び去り、その不死身ぶりにマルフィーザは豪快に笑って消滅した。

 

「────《不毀の極聖(デュランダル)》────!」

 

 シャルルマーニュ十二勇士がひとり、ローラン。その宝具はエクスカリバーと並ぶ不朽不滅の聖剣。黄金の柄に宿る聖遺物は奇跡を起こす。

 

 ────幻想に彩られる我らシャルルマーニュは、幻想ゆえに支配されにくい。故にその特性を最大限に発揮し、我らの魂を縛るこの支配から今こそ脱却する!

 

 しかしてローランの霊基、その存在の痕跡そのものがこの世から抹消される。それは奇跡の代償。聖なる光に包まれたサーヴァントたちは、不思議と支配から脱却し────誰がそんなことをしたのか覚えてないが────イザボー・ド・バヴィエールに叛旗を翻す。

 

 いざ叛逆英霊と支配英霊、二つの軍勢の大激突。

 宝具の打ち合いは地表を薙ぎ払い、更地から溶岩湖へと環境が激変する。

 

「────《王勇を示せ、遍く世を巡る十二の輝剣(ジュワユーズ・オルドル)》────!!」

 

 かくしてシャルルマーニュ十二勇士の王が進撃を開始。

 叛逆英霊軍団の旗頭となり、現場指揮官のいない支配英霊軍団と全面戦争に発展した。

 

          †

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【私は! 希望を受け継ぐ魔法少女として、勝って生き残り! 叛逆の機会を作り続ける責務がある……!!】七海やちよ〔運命(Fate)に抗う者〕

 

 一方その頃。新西区はみかづき荘の近辺跡地にて。そこは宝具《黄金鹿と嵐の夜(ゴールデン・ワイルドハント)》の一斉砲撃によって更地と化した地表。家屋という家屋、建物という建物が倒壊して丘のようなガレキが積み上がり、電柱・道路・河川・公園といった公共用物は、よく耕された畑が如く。河川の水は氾濫して坂を下り、もはや街は見る影もない。

 

 変わり果てた平穏の楽土。戦場と化した乱世の地獄。

 現実を受け入れる度量は、つい先日、悪魔との殺し合いで培われた。

 目に涙を溜める魔法少女たちは唇を噛み締め、ほぼ同時にガレキの下から身を起こす。

 

『────』

 

 絶句。視界に映る凄惨な光景。灰色の世界にところどころ赤色が混じる。

 生命の名残。人の血が、人の手が、人の服が、あちこちに散乱していた。

 

          †

 

          ♪~不可逆リプレイス~♪

 

 七海やちよは周囲を見やる。

 

「っ……、────みんな! 生きてる!? すぐ集まって陣形を組んで!」

 

 七海やちよの掠れるような号令。だが応答がない。仲間は遠くに散らばっているようだ。見た光景は同じだろうが、同じ場所には居なかった。

 

 そして今の呼び声が敵(・)に(・)位(・)置(・)を(・)知(・)ら(・)せ(・)た(・)。遠方より莫大な魔力を秘めた集団が跳躍。七海やちよの前方に一斉着地する。紫衣の女性、半裸の斧戦士、医衣の男性、軍服の女性、道服の術士、杖持つ少女、何かの気配、甲冑武士、茨ドレスの女性、中華服の少女、牛頭の怪物、目隠しした美女、半身蛇の女怪。

 

「……!!」

 

 七海やちよは即座に《雨海王竜Ver.ラプラス》を開匣。「ラプゥウウ!」

 

 悪魔の念話によれば、ポケモンはサーヴァントに通用する。だがそれはタイマンに限る。

 また、多くのサーヴァントは対魔力スキルを保有し、魔法少女の魔法を無効化する。

 サーヴァントとやり合うなら、頼りになるのは魔力と武具、そしてポケモン。すなわち技量と指示の兼ね合い。

 

「…………」

「Fguu……Fguuuu……血ダァアアアア!!」

「なんだ。患者が見当たらないぞ。医者嫌いで逃げた愚患者か?」

「ならば追跡して治療を開始します」

「うぅ……ぐっさまぁ……どこぉ……? なんで私がこの班に……いや不死殺しの仮面を使えってことなんでしょうけどぉ……」

「さぁイアソン様、参りましょう!」

(……)

「おぉテメェら。ちょっくら競争しようぜ。魔法少女は10点、女子供は3点、サーヴァントは100点だ!」

「私は少女の血しか要らないわ。首を取ったら胴体を頂戴。血を浴びて若返りたいの」

「……妾は悪魔しか殺さん。故に、そなた、降(・)伏(・)す(・)る(・)のじゃ。これは聖神皇帝の命令ぞ」

「Guu……Grururaaaaaaa!!」

「……では問いましょう。全ての魔法少女は降伏なさい」

「さもなくば全てを溶かして喰ろうてやる。逆らうならば覚悟は良いな?」

 

 七海やちよは知る。ローマは一日にして成らず。遠大な目標を掲げる場合、その努(・)力(・)は(・)一(・)日(・)で(・)実(・)ら(・)な(・)い(・)。

 

 悪魔道場では、魔法少女に多くの知識と殺し合う覚悟を教えた。

 心技体のうち、既に“体”(筋力と生命力)は魔法少女の時点で完成されているため、“心”(知力と精神)を鍛え上げたが、肝心の“技”(開発と熟練)は宿題として丸投げだった。だがそれも無理からぬこと。

 そもそも一日で技を磨くのは不可能だ。故に先んじて知恵と覚悟を教えた。知恵があれば技は切れを増す。覚悟があれば技は驕りなく完成される。知恵と覚悟があれば、魔法少女は近いうちに、悪魔から出された宿題を完璧にこなすだろう。────それが悪魔の狙いだった。

 ただ唯一の失敗……否、この場合は運の悪さか。惜しむらくは、ま(・)さ(・)か(・)道(・)場(・)の(・)三(・)日(・)後(・)に(・)敵(・)襲(・)が(・)あ(・)っ(・)た(・)こ(・)と(・)。ほとんどの魔法少女は、おそらく技を開発するため試行錯誤している最中に、この決して勝てぬ敵(サーヴァント)と出くわす羽目になるだろう。

 

「────《英霊召喚》────」

 

 青いソウルジェムが光り輝き、三日月の蒼玉から二つの影法師が飛び出す。七海やちよの両隣に召喚されるは安名メルと雪野かなえ。相手弱体(デバフ)をはじめとする魔法が効かないなら、自己強化(バフ)で最大戦力を発揮する。そして修得魔法《英霊召喚》により蓄積する膨大な瘴気をそのままにドッペル化。本来なら両手が二足の靴と化し、左足が切符鋏のような尻尾になるところを形態変化。二足の靴は天使の翼のように背骨から生やし、切符鋏の尻尾は腰の下から生やすことで、最も戦闘に熟練した人型を保つ。魔女化すら希望の力に変えると豪語した七海やちよの覚悟は、ドッペルと完全融合を果たし、魔法少女らしく且つ魔女らしい姿へと完成されていた。

 

「降伏すれば命は助けてくれる。そう約束するのね?」

 七海やちよの問いかけに、聖神皇帝が答える。

「約束する。無駄に命を散らすな」

 

 ならばと七海やちよは槍を構えた。踏ん張りを込めて敵陣を睨み据える。

 

「──……意味ないのよ。それじゃあ……」

「なに? 魔力増大反応……おいよせ! 貴様、死にたいのか!?」

「ここで降伏するなら、私(・)が(・)魔(・)法(・)少(・)女(・)で(・)あ(・)る(・)意(・)味(・)が(・)な(・)い(・)って言ってるのよ! これだけの大量殺戮を働いた相手にこうべを垂れるくらいなら────死(・)ん(・)だ(・)方(・)が(・)マ(・)シ(・)だ(・)わ(・)ッ(・)!(・)!(・)」

「……!!」

 

 七海やちよ、裂帛の気迫。それはもはや平和な現代に生きる少女の咆哮ではない。まるで幼少期から覚(・)悟(・)を抱いてきた戦士の眼差しのそれである。目を見開いた聖神皇帝は自らの観察眼を以て、弱(・)者(・)と(・)の(・)ではなく、強(・)敵(・)と(・)の(・)和平交渉を図る。

 

「……良いか、よく聞け。妾たちの仕事は“悪魔の生け捕り、若しくは抹殺”じゃ。加えて“魔法少女への降伏勧告、さもなくば死を”という命令である。ここで貴様が抗えば、妾たちは戦闘に発展し、民間人に余計な死者が出るぞ。先ほどの砲撃を見て、サーヴァントの戦闘がいかに周囲に甚大な被害を与えるかは身を以て知ったはずじゃ。……賢明な判断を所望する」

「あらそう。抗えば更なる死者が……そ(・)れ(・)は(・)胸(・)が(・)痛(・)む(・)わ(・)ね(・)。ところで、こちらも質問いいかしら? ────マギウスは、こんな決戦兵器(サーヴァントなんてもの)を従えて……世界征服でもするつもり?」

「……質問を質問で返す無礼はこの際目を瞑る。で、返答じゃが────さてな。上の上、そのまたさらに上の考えることなぞ知らん。……だがいつか妾は、天上でふんぞり返る魔法少女どもに叛逆し、この乱れゆく世界の中、新たなる平和な國を創ると約束────」

 

 七海やちよは、その秩序だった宣誓の言葉を遮って皮肉る。

 

「それってつまり“戦争”でしょう? なら私の周りの人が死ぬのも遅かれ早かれの問題じゃない。私が降伏すれば、私はマギウスに洗脳されて、やりたくもないことをやらされるでしょう。だったら身の回りの犠牲を多少、強いてでも……!」

 

 七海やちよの魔力が爆発する。

 

「っ……! 交渉決裂か────この愚か者が! 無謀なことを……!!」

「私は! 希(・)望(・)を(・)受(・)け(・)継(・)ぐ(・)魔(・)法(・)少(・)女(・)と(・)し(・)て(・)、(・)勝(・)っ(・)て(・)生(・)き(・)残(・)り(・)!(・) (・)叛(・)逆(・)の(・)機(・)会(・)を(・)作(・)り(・)続(・)け(・)る(・)責(・)務(・)が(・)あ(・)る(・)……!!」

 

 願いを叶えた代償として、人の世を守ると誓った幼き頃(あの日)から。

 その覚(・)悟(・)は一片の揺るぎなく、七海やちよの神髄に在る。

 

(……魔法少女が降伏を拒否した。叛(・)逆(・)者(・)に(・)は(・)即(・)時(・)、(・)単(・)純(・)威(・)力(・)系(・)宝(・)具(・)の(・)使(・)用(・)命令に従い、殺人を開始する)

 何かの気配が真名を開放する。

「────《悪霧は倫敦の暁と共に滅び逝きて(フロム・ヘル)》────」

 

 突如、七海やちよの眼前に、さながら伝承に伝わる悪魔のごとし異貌の暗殺者が現れる。双眸から熱線を放出。跳躍接近のち鉤爪の切り裂き。散開した七海やちよ陣営は熱線を回避し、青槍と鉤爪が激突、火花を散らす。

 

(かなえは側衛、ラプラスは中衛、メルは後衛!)(了解。私はやちよの死角をカバーする)(ラプゥウ!)(私は全体をカバーします! 思いっきりやっちゃってください!)

 

 七海やちよは回想し、改めて思う。

 仲間を喪失(うしな)う辛さに嘆き、自らに孤独を強いて絶望した日々があった。魔法少女は世のため人のため魔女を狩るという使命が、ただ契約を円滑に進めるための体のいい謳い文句であることを知って無力さを感じた日々があった。それでも結(・)局(・)そ(・)の(・)通(・)り(・)な(・)の(・)だ(・)か(・)ら(・)仕(・)方(・)が(・)な(・)い(・)。騙されたと怒り嘆き喚いても、状況は何も好転しない。

 現実を見る。魔法少女がいることで魔女を狩ることができる。それで人の世を守ることができている。その事実は変わらない。ならば七海やちよは魔法少女の皮肉な運命を受け入れて、この希望と絶望に満ちた人生を最後まで威勢良く走りきってみせる。

 

「はぁああああああッ!!」

 

 稚拙な感情の波濤に見切りをつけた成熟の魔法少女は、この世すべての理不尽を力に変えるべく奮闘する。この圧倒的な不利を巧みに操り、どうしようもない悪循環を如何にして覆し、形勢逆転の秘策を講じるか。瞬発思考、それは長年の経験から導き出される秘策。確かな直(・)観(・)は生存と勝利の活路を拓く。

 

「────《血塗れの戴冠式(ブラッドバス・クラウン)》────!!」

「宝具は使わん。貴重だからな。代わりに蛇をくれてやる」

「────《我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)》────!!」

「────《|是なるは不老不死の霊薬なり<嘘>《これなるはふろうふしのれいやくなり、うそですけど》》────」

「────《其は惨劇の終焉に値せず(ナチュラルボーンキラーズ)》────!!」

「────《人間無骨(にんげんむこつ)》────!!」

「────《幻想の鉄処女(ファントム・メイデン)》────!!」

「────《告密羅織経(こくみつらしょくけい)》────!!」

「UGAAAAAAAA────!!」

「────《騎英の手綱(ベルレフォーン)》────!!」

「────《強制封印・万魔神殿(パンデモニウム・ケトゥス)》────!!」

 

 それは抗いようのない死の魔光。昂ぶり荒ぶる極限の魔力の集合は、絶殺の一念を込めて七海やちよに叩き込まれる。

 

「みんな死んだなら加減は無しよ」

 

 刹那、七海やちよは莫大な魔力を込めた槍の穂先を地に突き立てた。瞬間、地中極大爆発。魔力に発散性質を織り交ぜたことで、土砂と瓦礫が威勢良く天上四方に噴火する。サーヴァントの体に土砂や瓦礫が激突するが、彼らに物理攻撃は効かない。だがエーテル体で構成された仮初(かりそめ)の肉体は、ダメージがなくとも慣性の法則が働いて物(・)理(・)的(・)に(・)吹(・)き(・)飛(・)ば(・)さ(・)れ(・)る(・)。霊体化していれば透過して吹き飛ばされることもなかったが、それをやってのけたのは七海やちよの魔力の運用先を見抜いて即座に霊体化していた紫衣の女性と杖持つ少女くらいである。

 

『────ッッッ!?』

 

 真名開放して宝具を叩き込もうとしたサーヴァントたちは、遥か彼方に吹き飛ばされて射程距離(レンジ)を外されたことにより宝具が未発に終わる。ただし悪魔のごとし姿を持つ暗殺者はレンジ関係なく宝具発動を完遂。百人程度の分身を作成した。

 

(全員、真名考察!)(ナイチンゲールは分かった)(私もナイチンゲールしか分かりません!)(言葉を喋ってもよろしいでしょうか? ラプラスは人語を解するそうなので。──右からバイキングの血斧王(けっぷおう)、クリミアの天使こと凶暴看護婦、医者のような立ち居振る舞いと蛇から推察するにギリシャ神話の医神アスクレピオス、古代中華の仙術方士、“悪魔と集団”の逸話考察と気配の殺し方から恐らくジャック・ザ・リッパー、戦国時代の武将、拷問器具アイアン・メイデンは中世の貴族たる血の伯爵夫人が造らせたという伝説があるため恐らくそれかと、中華唯一の女帝たる武則天、牛頭の怪人はどう見てもミノタウロスでしょう。ベレロポンの宝具名はよくわからないので無視し、バイザーで目を隠している事とペガサスの親を考えて恐らくは石化の魔眼を持つ女怪メドゥーサ、続いてメドゥーサの進化先であるゴルゴーンの怪物と見ました)

 

 ラプラスの真名考察はほとんど当たっていた。あまり真名を口に出さなかったのは、言ったところで味方の誰も“聞いたことがない”確率が高いと判断したからだ。それより異名を口にして、どの時代のどんな英雄であるかを伝えることで、時代から予想できるあらゆる情報から、敵が使う戦法を自動で推察させる意図があった。

 しかし個体識別のため真名を口にした方がいいという点は明白である。だが未だ確定ではないという状況と、それより今は考察させて推理力と対応力を身につけさせたいという意図があった。それゆえ個体識別はまたの機会に。誰しも思考と心の準備が必要である。特にラプラスは主人の思考体力に合わせて忠言する癖がある。それもこれも主人を心身ともにサポートするためだ。

 

(まったく、過去の英雄を現代に蘇らせるなんていう超常現象、QB魔法界のものとは考えにくい。サーヴァントなんて名称が既にあることからも、やっぱり魔法少女が願い事を叶えて蘇った感じではなさそうね。今回の事件がマギウスの仕業だとしても、サーヴァントという魔術が生まれた世界は、おそらくTP魔法界か、HP魔法界……いずれにせよ、悪魔は“神秘は古いほど強い”と言っていた。だからアスクレピオス、ミノタウロス、メドゥーサ、ゴルゴーン、方士は特に注意して)

(忠言しますと、アイアン・メイデンは少女の血を搾り取る為の拷問器具ですので、女性に特攻が入る概念があるかと)

(ポケモンのラプラスがいる……しかもラプラスが喋ってる……かわいい……)

(かなえさん!? 今つっこむトコそこじゃないっすよ! 僕もビックリですけど!! あとたしかにかわいいですけどぉ!)

 

 七海やちよは跳躍すると、増殖魔力で巨大化させた構築槍に鎮静分解硬化活性の魔力を付与。さらに雪野かなえとコネクトして増殖魔力を貰い、巨大槍を数十本に増やす。槍が放つ六色の輝きは燦然と戦場を照らして今、全力投擲される。

 

「合体必殺魔法(コネクト・マギア)! 《完全無欠の虹霓暴雨(アブソリュート・レインボゥ)》────ッ!!」

 

 解放された巨大槍は増殖魔力の影響か途中で無数に分裂し、敵サーヴァントの全身を刺し貫いて着弾。敵陣極光、大爆発。カラフルな閃光と爆風が周囲を薙ぎ浚う。着地した七海やちよは伸縮自在の尻尾を伸ばして、杖持つ少女の連続魔力光弾を弾き、二対四枚の靴翼から発散魔力を放出。音速四号に至る突貫は、杖持つ少女の素首を槍で刎ね、心臓を尻尾で穿ち両断した。

 

「……昔の自分が目の前で死ぬというのは、なんだか不思議な感覚ね。まぁ黒歴史を消してくれるのはありがたいから恨んだりしないけど。それより気をつけなさい。サーヴァントは受肉しない限り霊体。幽霊の弱点が頭部や心臓だなんて、あなた本気で思ってるの?」

「っ!?」

 

 紫衣の女性の助言。それは真実で、メディア・リリィは首のないまま杖を振るう。魔力流動の兆候。七海やちよは一瞬判断に迷う。頭部や心臓が急所でないなら、いったいどこを攻撃すれば良いのか。しかし悩みは一瞬。経験豊富な七海やちよは当てもなく即断する。超高速の斬撃で杖持つ少女の肉体を細切れにする。その間、千撃の中の一撃に確かな手応えを感じた。

 

「そう。その手応えがあった場所には霊(・)基(・)・(・)霊(・)核(・)があった。覚えておきなさい。そこがサーヴァントの急所よ」

「……あなた、敵なの? 敵じゃないの?」

 

 杖持つ少女が光の粒となって消えゆく中、七海やちよは紫衣の女性に問いかける。顔はフードで隠れて見えない。杖持つ少女と似たような杖を隠し持っているが、特に攻撃の意思は見えない。

 

「味方と考えない辺り、かなりお利口のようね。気に入ったわ。魔力の操作精度も、その年齢でなかなかのものね。あなた、私の弟子にしてもいいくらいだわ」

「……」

「でもひとついいかしら? ────必殺魔法(マギア)なんて叫んでおいて、それ……た(・)だ(・)の(・)莫(・)大(・)な(・)魔(・)力(・)攻(・)撃(・)じゃない。あの白い珍獣、ギリシャの神々の一部が愛用していたと聞くけど、やっぱりロクでもないわね。自分が生み出した産物にロクな教育も施さないで、魔術ですらない魔力に魔法だなんだと箔を付けるだけ付けて……困ったものね。まぁ、言っても魔法や魔術の境界区分はTP魔法界の話だから、そちらは気にしなくていいのよ。そちらにはそちらの命名方式があるのだろうし。それに言葉なんて便宜を図るためのもの。それ以上の代物ではない。ただし、そういった考えは……言霊、あるいは言葉の概念(神秘信仰)を扱う魔術師にとって、憤(・)死(・)同(・)然(・)の(・)所(・)業(・)でしょうけど────」

 

 一瞬、紫衣の女性から敵意が見えた。しかしそれはすぐに消える。

 

「ハァ……その点では私、ギリシャに生まれて良かったかもね。当時は魔法なんて身近な存在だったし、魔術の概念なんてソロモン王からの話だし……でも、私に“ギリシャで生まれてよかった”と言わせるなんて相当なことよ? とどのつまり、QB魔法界の魔法少女なら、他の界隈の魔術師と遭遇した時は、言葉遣いに気をつけるのね」

 

 紫衣の女性は、独り言の方が多いが助言を惜しまない。

 

「そうは言うけど、ただの魔力攻撃なら、対魔力を持つサーヴァントにも攻撃が通るでしょう?」

「あら。つまり虚報のつもりだったの? 魔法使うぞ使うぞ~と見せかけて“自分は対魔力を持つから安全だ”と思わせておいての、ただの魔力攻撃……でも残念。その対策は正しいけど、この場で対魔力スキルを持つサーヴァントは少ないわ。強化系の魔法を槍に掛けて一気に決めても良かったのに」

「……そうなの?」

「対魔力を必ず保有するクラスは剣士、弓兵、槍兵、騎兵よ。エクストラクラスも大抵は持っているけどね」

 

 その時、遥か彼方より魔力を爆発させて迫り来るサーヴァントの一団を感知。七海やちよのマギアは効果あったようだが、殺しきれてはいなかった。治癒系の能力者が多かったのか、ほぼ全快した上で再来してくる。目視距離まで到達した途端、先陣を切るは海色の天馬に跨るメドゥーサ。暗雲の下、流星の如く、海色の光芒が突貫する。

 

「やちよさぁん!!」「ししょーっ!!」「やちよーっ!!」

 

 同時、七海やちよの後方三方より環いろは、由比鶴乃、深月フェリシアの焦ったような声が届く。魔力感知。鼓星かずみ等の気配もある。このままでは天馬の突撃で直線上とその周囲が薙ぎ払われて再び離散してしまう。せっかくの合流だが、ここは仲間を信じるしかない。

 

「総員、防御機動のち一斉マギア掃射!! メル、情報共有! ラプラス、時間を稼いで! かなえ、一撃で仕留めるわよ!!」

『────!!! 了解ッ!!』

 

 安名メルは敵サーヴァントの情報で念話で共有。ラプラスは冷凍ビームを放ち、メドゥーサの突貫宝具を数秒ほど食い止める。その間に七海やちよと雪野かなえは疾走。その傍らに環いろはが活性魔力の跳躍で追いつく。

 

「やちよさんッ!!」

 

 環いろはが伸ばした手のひら。その意味を理解した七海やちよはコネクトする。活性魔力を貰って再び英霊召喚魔法を敢行。

 

「来なさい────ダブルももこ!!」

 

 悪魔の叛逆魔法により現実となった、二度死んで生き返った魔法少女・十咎ももこ。普段の衣装とシスターの装束を身にまとう二人の魔法少女は、それぞれ大剣と狙撃銃を構えて、火と光の魔力を解き放つ。

 

「まったく悪魔さまさまだね! やちよさんの固有魔法にもびっくりだ!」

「でも、死んだあとでも力を貸せるなんて、まさしく希望の継承だ! で、何をすればいい!?」

「ダブルももこは敵を抑えて! 足止めするだけでいいわ!」

『了解!!』

 

 ラプラスの冷凍ビームが押し切られる。安名メルの体当たりで助けられたラプラス。二人の真横にベルレフォーンが通過。天馬の突貫は戦場を一文字に切り込んで爆風を巻き起こす。

 

「清潔ッ!!」

 敏捷倍加で突っ込んできたナイチンゲールの白い拳が、雪野かなえの鉄パイプと激突する。瞬間、七海やちよの分析魔力が走り、霊基の概念位置を捉え、正確無比な槍撃が命中する。

「カハッ……!?」

 

 ナイチンゲールの消滅を確認。直後、敏捷ランクの高い者から飛びかかり、宝具を開放する。

 

「────《幻想の鉄処女(ファントム・メイデン)》────!!」

「────《告密羅織経(こくみつらしょくけい)》────!!」

 

 それは七海やちよと環いろはを狙う即死宝具。刹那、由比鶴乃の分析魔力が走った直後、一発の狙撃が武則天の霊基を撃ち抜いた。

 

『……ッ!?』

 

 対人狙撃銃M24SWS.308ウィンチェスター弾による狙撃貫通。弾薬には紫色の魔力が込められていた。いったい誰の仕業か。しかし驚いている暇はない。霊核を破壊されて消滅していく武則天。傍らでは血の伯爵夫人のアイアン・メイデンが開かれて、七海やちよに差し迫る。瞬間、七海やちよは即断しつつも懊悩した。

 

(英霊召喚魔法にドッペル化。そこへさらにスタンドを使ったら、さすがにソウルジェムの耐久限界を超えてしまうかもしれない。でも、このチャンスは逃せない!! ペルソナ────《エブリシング・ダイヤモンド(くすませない金剛世界)》ォ────ッ!!)

 

 ────答えは得た。自らの固有魔法は、仲間の命を奪う能力ではなかった。それは希望を継承する概念の具現だったのだ。

 

 転換期を迎えて自らの心境が変化した七海やちよの幽波紋は、さらなる次元の高みに至る。心の成長は能力の成長。絶望するが故に暴走していた人格は鳴りを潜め、今は落ち着き払った人格へと進化する。

 そんな七海やちよのスタンド能力は、シンプルに“敵対者の魂とも言える象徴を奪い、自らの中身を造り換える能力”として発現する。それは自らの絶望を具現化させた能力。他人の希望を奪い、我が物とする、忌み嫌っていたはずの能力。しかし七海やちよは絶望を乗り越えた。仲間を守る為なら冷徹に振る舞い、かつて忌避していた能力さえ操ってみせよう。

 

 七海やちよの体はナイチンゲールを必殺した姿勢で停止している。だが肉体の物理的な硬直状態は、精神体であるスタンドにとってなんら意味を成さない。サーヴァントには目視できないスタンドの乱打が、幻想のアイアン・メイデンに叩き込まれる。互いにダメージはないが、時間稼ぎにはなった。

 

 翻る槍の青閃。穂先はエーテルの胸肉を穿ち、スタンドの豪腕が霊基に届く。

 

「私の固有魔法が《希望継承》なら、私のスタンドは《魂の簒奪》────あなたの宝具、貰い受けるわ」

「そんな……! 私の幻想の鉄処女(ファントム・メイデン)が……!?」

 

 刺突と同時、霊基に分析魔力を走らせて真名看破。対象の真名はカーミラを名乗るエリザベート=バートリー。そして七海やちよは元々あった換骨奪胎のスタンド能力を応用し、分解魔力も組み合わせることで、彼女の霊基から宝具を切り離した。幻想の鉄処女を縛る鎖を手にした七海やちよは、迫り来るミノタウロスを捕捉。標的に、既(・)に(・)莫(・)大(・)な(・)魔(・)力(・)が(・)込(・)め(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)宝(・)具(・)と(・)い(・)う(・)名(・)の(・)爆(・)弾(・)を投擲した。

 

 宝具の爆弾投擲。それはTP魔術界で“壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)”と呼ばれる技。それがミノタウロスの胴体に命中した途端、周囲は究極の一とも言える神秘の爆発を受けて、あらゆる物質が消し飛んだ。すかさず七海やちよはスタンドを解除。響鳴が止まらないソウルジェムは、割れる寸前で解除。徐々に響鳴が静まっていく。

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA────!!!!」

『……っ!?』

 

 壊れた幻想を浴びても滅びぬ天性の魔(アステリオス)は、混濁する咆哮を上げて跳躍。七海やちよの頭上に巨大な斧槍を叩きつけ────

 

「────《超巨大戦鎚!(ウルトラグレートビッグハンマー)》────!!」

 

 ────深月フェリシアの必殺魔法(マギア)が、ミノタウロスの斧槍と激突する。が、ものの一瞬で深月フェリシアの魔法武具(ハンマー)が破壊された。地面撃砕、大地揺籃。波打つ地表に亀裂が走り、魔の咆哮が曇天を突く。

 

「────ほんの一瞬、されど一瞬……助かったわ、フェリシア────」

 

 両手に環いろはと雪野かなえを連れて、尻尾に深月フェリシアを巻きつける七海やちよは、靴翼からの発散魔力で緊急離脱を果たしていた。直後、空を翔けるメドゥーサとペガサス、人馬一体の海色流星が飛来する。七海やちよは急降下。地表近くで三人をほうぼうに突き放して着地させ、自らは敵を牽引。そこへ百体の殺人鬼ジャック・ザ・リッパーが襲い来る。七海やちよは硬槍を奮って一撃必殺を繰り返すが、その間にミノタウロスは直進を続けていた。

 

「行かせるか! 必殺魔法(マギア)! 《万物を切り裂く閃刃(エッジオブユニヴァース)》ッ!!!」

「霊核分析────魔弾狙撃!!」

 

 十咎ももこの必殺大剣がミノタウロスの胴体に命中するが、わずかに足を止めるだけで大したダメージにならない。傷一つ無い天魔の岩体。そこへ分析魔力で霊核を探知したシスターももこの分解活性弾丸が狙撃される。ミノタウロスの巌のような肉体を穿ち、活性で後押しした弾丸が霊核に届かんと旋回し骨肉を切削。しかし弾丸は骨肉に阻まれて急停止した。

 

「っ……!! なんつー肉体してんだ!?」

「もう一発だ!」

 

 ミノタウロスの斧槍一閃。十咎ももこの肉体が石ころのように薙ぎ払われて遥か彼方に突き飛ばされる。その攻撃後の間隙を逃さずシスターももこの────

 

「10点ッ!! よくやったぜ我が愛馬、百段!!」

 

 ────首が撥ねられた。砕かれた甲冑から血まみれの顔を出して凶気的に哂う戦国武将は、愛馬を駆けて十字槍を振るい、無防備な狙撃手を確実に仕留めた。直後、首を失ったシスターももこはトリガーを引き絞り、弾丸を発射。

 

「あ?」

 

 サーヴァントのたぐいまれなる技量は、シスターももこの体(・)を(・)微(・)動(・)だ(・)に(・)さ(・)せ(・)ず(・)綺(・)麗(・)に(・)刎(・)ね(・)て(・)い(・)た(・)。故に照準に狂いなし。シスターももこは突として視界が暗黒に落ちて意識が切り離されそうな中、何が起きたか分からないが、とにかく引き金に掛けた指に力を入れ込んだ。発射された弾丸は、分析魔力が引いた弾道計算のおかげで、最(・)初(・)の(・)一(・)発(・)目(・)と(・)同(・)じ(・)位(・)置(・)に(・)命(・)中(・)。骨肉に阻まれた鉛玉に二発目が直撃し、強引に筋肉と骨格を穿ち進んで、ようやく霊基に一撃を入れる。霊核は砕けなかったが、じきに消滅するはず。ミノタウロスは雷光の如し咆哮を上げると、それきり動(・)か(・)な(・)く(・)な(・)っ(・)た(・)。

 

 彼の人(・)と(・)し(・)て(・)の名はアステリオス。

 英霊の座で、とある航海の記録を読み耽っていただけの、ただの怪物(えいゆう)である。

 これ以上の暴虐は本意ではない。死にかけてまで暴れまわる理由もない。ミノタウロスともアステリオスとも呼ばれなかった彼は、自らの最期を悟って……どうしても、アステリオスであることを選びたかった。生前の罪を思えば、そんなわがまま、許されるはずもないと思い、馳せながら────

 

 

 

 次の瞬間、戦国武将の霊核が狙撃されて撃ち抜かれる。

 

「────あぁん? おいおい……テメェら……意外と殺るじゃねぇかぁあああああ!!」

 

 霊核が砕かれたというのに、戦国武将は銃声のした方向へ愛馬を駆けらせる。

 

「喰らえや────《人間無骨(にんげんむこつ)》────!!」

(っ────!!? 私の位置が分かってる?! か、開匣────《雲騎士Ver.エルレイド》ッ!!)

 

 霧の構築による迷彩を解いた暁美ほむらは開匣。戦国武将こと森長可と、ポケモンことエルレイドが正面から激突する。二刀流の肘刀と十字槍の猛撃。目にも止まらぬ剣術と槍術の激発は、轟音と火花を散らして途切れなく続いていく。

 

 咄嗟に暁美ほむらは狙撃銃を構えて射撃。森長可は鍔迫り合う中だというのに身をひねって難なく躱した。が、その背後に霧の構築で隠れていたドーミラーが出現。“てっぺき”の技で身を固くし、銃弾を反射。その跳弾狙撃すら森長可は後(・)ろ(・)を(・)見(・)ず(・)に(・)躱す。危うく胸部に命中するところだった弾丸をエルレイドは躱────すと、森長可は思っていた。

 

「決まった────!」

 

 ドーミラーがあらかじめ放っていた“みらいよち”が発動。エルレイドの胸部にエネルギーの塊が出現し、それに弾かれた弾丸が再び跳弾して、森長可の霊基に命中。その霊基骨子を余すところなく砕ききった。「────」そうして森長可の槍の冴えが落ちた間際を、エルレイドの両腕緑刀が手首を断ち、槍の柄を切り落とす。

 

「──……誇れよ。普段ならた(・)だ(・)の(・)狙(・)撃(・)なんざ、文字通りの意味で勘(・)が(・)当(・)た(・)っ(・)て(・)防(・)げ(・)る(・)んだ。負け惜しみじゃねぇぜ。負け惜しみだと思ったら本気で殺す」

「……!!」

 

 森長可は、未だ愛馬・百段を残している。もし騎馬の宝具を使えば、威力が発揮される前に消滅するだろう。だが最低限の威力とは言え、暁美ほむらも無事では済まない。故に暁美ほむらは粛々と、鬼武蔵の遺言に耳を傾けた。

 

「まぁ、狙撃で死んだサーヴァントどもは、元からあんま乗り気じゃなかったってのもあるだろう。だがオレは違う。召喚されたら殺し尽くす。手は抜かねぇ。サーヴァントだろうが魔法少女だろうが女子供だろうが、まとめて皆殺しだ。そんな油(・)断(・)の(・)な(・)い(・)オ(・)レ(・)に(・)一(・)撃(・)を(・)入(・)れ(・)た(・)んだ。いや二撃か。とにかく戦(・)場(・)で(・)は(・)強(・)い(・)方(・)が(・)勝(・)つ(・)。故(・)に(・)テ(・)メ(・)ェ(・)は(・)オ(・)レ(・)よ(・)り(・)強(・)か(・)っ(・)た(・)。だからそ(・)ん(・)な(・)辛(・)気(・)臭(・)い(・)顔(・)し(・)て(・)ね(・)ぇ(・)で(・)堂(・)々(・)と(・)胸(・)を(・)張(・)れ(・)っつってんだ。誇れっつったろーがブチ殺すぞオラァ。人殺しの覚悟もできてねぇのがまるわかりなんだよ」

「……っ!!」

「ケッ……こんなヒヨっ子に殺られるとはな。やっぱ銃って強いのか? さすが殿様だぜ。先見の明たっぷりじゃねぇか……あぁ、久しぶりに愉しかったぜ……また殺ろうや……おさげメガネの魔法少女……」

 

 森長可は狂喜的な笑顔を崩さず満足そうに、愛馬・百段と共に消滅した。

 暁美ほむらは瞑想。心身を統一し、死炎の純度や炎圧の良さと、魔力の通りの良さを確認。気持ちを切り替えんと深呼吸し、霧の炎が生み出す迷彩効果に身を隠す。

 

(確かに私は、人を殺す覚悟ができていないかもしれない。でも撃つことはできた。殺すことはできる。たとえ過去の亡霊とはいえ、誰かを、何かを殺すたび、ソウルジェムが穢れていくのが分かる。そ(・)れ(・)で(・)も(・)負(・)け(・)な(・)い(・)。私は守りたいものを守るために、敵は容赦なく殺し尽くすッ!!)

 

 この程度の銃殺。前回のループの最後で親友(まどか)を撃ち殺した事に比べれば造作もない。そう自らに言い聞かせた暁美ほむらは標的を確認、トリガーを引き絞る。

 

 一方、七海やちよはメドゥーサの魔力切れを狙って天馬を殺し、メドゥーサやジャック・ザ・リッパー、アスクレピオスと熾烈な格闘戦を繰り広げていた。ゴルゴーンの宝具が地表を薙ぎ払う。環いろは達はジャック・ザ・リッパーの分身体と戦闘し、徐福は観戦。

 

 やがて魔法少女陣営は絶望する。仲間のカバーに入りつつ周囲を監視していた安名メルが念話で警告を発し、その内容を聞いてソウルジェムが明滅する。

 

(────みんな! 東よりサーヴァントらしき影、接近! 数は────百騎くらい!?)

『────ッ!!?』

 

 紫衣の女性が告げる。

 

「その顔。悟ったようね、自分たちの終わりが。そう、今までの戦いは序の口に過ぎない。私たちに下された命令は、あくまで“悪魔の捕縛”────今ここにいるサーヴァントは対(・)魔(・)法(・)少(・)女(・)の(・)集(・)団(・)で(・)は(・)な(・)い(・)のよ。これからは魔法少女殺しに特化したサーヴァントの軍団がやってくる。あなたたちに勝てるかしら? この体たらくじゃ、生き残ることすら論外のように思うけど」

 

 七海やちよは歯噛みする。希望継承と英霊召喚の魔法を持つ自分なら勝てる。生還する確率がある。だが仲間を守っての戦闘となると厳しい。防衛に掛かる手間に思い煩う。手段は選べなくなり、戦場も選べなくなる。七海やちよは環いろはに問いかける。

 

「────黒江さんたちはどこ」

「……や、やちよさん……」

「黒江やフゥ太、イーピンやゆま! ランボはどこ!? ういや万年桜は!? なぎさも────」

「……! そ、それが……みんな、どこに飛ばされたのかも分からなくて……さなちゃんとかずみちゃんが捜索しているんですが……おそらく魔(・)法(・)少(・)女(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)子(・)は(・)絶(・)望(・)的(・)だ(・)と……」

「────────」

 

 考えてみれば当然だ。みかづき荘どころか街一帯を吹き飛ばす砲撃を受けて、生き残れている方が奇跡だ。七海やちよ達が生き残ったのは、ひとえに魔(・)法(・)少(・)女(・)だ(・)か(・)ら(・)。肉体の負傷を魔力の再生で治せるからだ。大抵の人間はガレキの下敷きになって即死している。たとえ生きていても────今までの戦闘、宝具の乱舞で、何度地震が起きたか分からない。生存は文字通り絶望的と見ていい。それは魔法少女でも同様と見ていいだろう。砲撃の直撃を受けていればソウルジェムは砕けているし、吹き飛ばされたのならソウルジェムがガレキの下敷きになって割れていてもおかしくない。そもそも広域に展開した魔力感知で、鼓星かずみ以外の魔力パターンが感じられない時点で察するべきだった。

 

 この簡単な事実に今の今まで思い至らなかったのは、無意識に非情な現実から逃げようとしていたからなのか。

 

 自らの弱さに直面した七海やちよは選択する。否、選択権を託す。いかなる理由か猛獣の如し戦闘力まで低下していたジャック・ザ・リッパーの群れ。それを次々と突き殺す七海やちよは、素早い身のこなしで槍撃を躱すメドゥーサと、卓越した武術で退き躱すアスクレピオスと奮戦しつつ、仲間に告げる。

 

「みんな。私は此処に残ってサーヴァントの軍勢を迎え撃つ。も(・)う(・)こ(・)こ(・)に(・)守(・)る(・)も(・)の(・)は(・)な(・)い(・)んだから、残ってても意味がない。どこに行くも好きにしなさい」

「やちよさん……!?」

「いろは。あなた、みかづき荘のリーダーになったんでしょ。なら指示を。私なら、今(・)み(・)た(・)い(・)に(・)命(・)令(・)す(・)る(・)わ」

 

 環いろはは覚悟する。ここから先は、多くの死が心を襲うだろう。

 

 状況観察。正直なところサーヴァントと真正面から互角に渡り合えている魔法少女は七海やちよだけだ。由比鶴乃は防戦に徹すればなんとかなっているが、環いろはや深月フェリシアは補助でしか役に立てていない。否、むしろ七海やちよ達に庇われている事の方が多い。暁美ほむらは狙撃で確実に敵を減らしているが、それは自分たちのような囮役がいるから機能している。囮役が減ればすぐに見つかって殺されてしまうだろう。

 

「────やちよさんと別行動を取った方が、やちよさんは暴れられますか?」

「えぇ。正直邪魔よ。一人の方が楽。でも突き放したいわけじゃない。分かってるわね?」

 

 環いろは達には、環いろは達の戦場がある。

 七海やちよの言いたいことを汲み取った環いろはは、この場に居ない仲間の顔を脳裏に浮かべた。

 

「……悪魔さんの所に行ってきます。きっと悪魔さんは今、最も事態解決に近い場所にいるはずだから────」

「えぇ。それがいいわ。でもそこはここ以上の死地よ。それでも行くというなら────がんばってちょうだい」

 

 環いろはは断腸の思いで念話を飛ばす。

 ────やちよさんを置いて、悪魔さんの援護に向かう。

 暁美ほむらは一拍の思考を挟んだあと、命令の意味を理解して納得。だが由比鶴乃は納得できず、深月フェリシアは理解も納得もできず逆らった。

 

(ごめん、いろはちゃん。私は、やちよのそばにいたい!)

(やちよを見捨てるってのかよ! 見損なったぞ、いろは!)

(鶴乃ちゃん……分かった。やちよさんをよろしくね! それとフェリシアちゃん。私は見捨てるわけじゃない。みんなを助けるために行くの。ごめんね────)

 

 環いろはは暁美ほむらと共に跳躍疾走。途中で鼓星かずみ、二葉さなを拾い、悪魔の持つハーフソウルリング七種の魔力パターンを感知して追跡を開始する。

 

「さて────鶴乃はともかく、フェリシア。自分の選択の意味くらいは分かっているわよね?」

「もちろん。死ぬ気で殿(しんがり)を務めるよ。数を減らせば、そのぶん“みんなのあと”が楽になるだろうからね」

「知るかよ! オレは……このサーヴァントだかいう奴らをゼッテー許さねぇ! どいつもこいつもブチ殺してやる!!」

「私は全体を相手にする。二人は援護をよろしく。決して突出しないで」

「了解!! 開匣────《嵐大炎豚Ver.エンブオー》!!」

「オレに指図するな! 開匣────《雲暴炎牛Ver.ブレイズケンタロス》ッ!」

 

 七海やちよは飛翔。雪野かなえ、安名メル、ラプラス、十咎ももこと先陣を切る。由比鶴乃とエンブオー、深月フェリシアとブレイズケンタロスは、避けられぬ宝具の雨の中に突撃。マギアを開放し、最後の足掻きを見せた。

 

 ────────────

 ────────

 ────

 

 ひとり、またひとりと死んでいく。

 数分後、戦場には七海やちよの姿しか残っていなかった。

 

 魔力・武具・技量を根幹に、魔法・ドッペル・スタンド・奪った宝具で工夫を凝らして無限多重の死を凌ぐ。紙一重で絶殺の修羅場を掻い潜る。だが疾うに魔力は限界近い。瘴気を蓄えるソウルジェムは響鳴が止まず、ソウルジェムにヒビが入りかける。されど魔力を回し続け、徐々に一騎すら殺せなくなってきても、七海やちよは最後の魔法少女となるまで戦場に羽ばたき続けることを己に誓う。

 

 その情景をバイザー越しに観ていたメドゥーサは、ぽつりと呟いた。

 

「────あなたは、すごいですね。大変よく頑張りました。しかし、このままでは苦しいだけでしょう。よって、私の魔眼で楽に逝かせてあげます……」

 

 メドゥーサはバイザーこと宝具《自己封印・暗黒神殿(ブレーカー・ゴルゴーン)》を取り外して、石化の魔眼を披露する。

 

「────キュベレイ!!」

 

 七海やちよは戦闘用の固有魔法を持たない。よって後天的に修得した常時発動型魔法(パッシブスキル)のみで魔女戦闘の最前線を駆け抜けてきた。その修得魔法の中には《潜在型抗魔力(アンチ・チャーム)》《鎮静型抗魔力(バリアシールド)》《体表型抗魔力(エンチャントシールド)》《危機型抗魔力(クライシス・ブルーム)》《発散型抗魔力(ダイバージュ・ガード)》という、対象の魔法効果を削減する抗魔力が幾つもある。

 

 しかしそれでも高位の魔眼は防げない。キュベレイの邪眼に睨まれた七海やちよの心身は硬直し、手足から石化していく。その一瞬一秒は絶体絶命の間隙となって、サーヴァント軍団の頭上に晒される。今が好機と宝具が乱舞。七海やちよは、自らの体が止まったことすら自覚せぬまま、その魂の役割を終えるだろう。

 

「────雄々(オォ)! これは素晴らしき圧政かなァアアアアアア────!!」

 

 次の瞬間、まるで七海やちよを庇うように一騎の狂戦士(バーサーカー)が体を張って、乱舞する宝具の中に飛び込んだ。

 

          †

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【女ってのは大抵、共感しとけば落とせ────】悪魔

 

 シャルルマーニュ率いる叛逆英霊軍団と、支配英霊軍団との激突。

 

(マスター。よくわからねぇが、やっこさん同士討ちを始めやがった。この勢いに乗るか?)

(ランサーの意見に従う)

(なら一度撤退して仕切り直した方がいい。中央区の戦場はしばらく任せても大丈夫そうだ。数分程度は鋭気を養って空中要塞を目指すのも悪くない)

(それで行く)

 

 戦術眼はランサーの方が圧倒的に優れている。その提案に乗った悪魔は撤退。だがほかの区画に行くと数万のサーヴァントが街を焼き払っているため、中央区からはさほど離れず、サーヴァントの姿が少ない路地に着地。しばらく落ち着く。

 

「アサシン。敵の気配があったらオレに触れてくれ」

「……了解しました」

「索敵と結界のルーンを張った。安心してちっとは休め。バカみたいに何度も胴体を吹き飛ばされやがって……その不死身はどういう理屈だ? まさか逆転勝利とやらの概念を喰らってるせいか? だとしたら────ケッ。あの白い獣、インキュベーターっつったか? ロクでもねぇテクノロジーを使いやがるぜ……」

「インキュベーターに自覚はないが、あいつらのテクノロジーは“皮肉”に傾倒している。それは無感情と合理性が合体した影響だろう。──ところでアサシンは何を願って誰を召喚した?」

「七騎のサーヴァント召喚。ただし一騎は女性英霊……それで百貌や輝く星を召喚しました」

「そういやアサシン連中をあまり見ねぇな。気配遮断して今も虎視眈々と窺ってんだろうが……乱戦時にこれ幸いと襲いかからないのは、そういう主義なのか?」

「いや、オレは普通に何度か真正面から幻想血統(ザバーニーヤ)を受けていたぞ。ほかのアサシンは知らない。あ、だが気配を掴めない八極拳らしきものは受けた」

「実は……気配遮断スキルが高いアサシンには待機命令が下されています。イザボーによれば“すぐに終わらせるのはつまらない”らしく、里見灯花によれば“従わない魔法少女に降伏する猶予を与える”という名目のようです」

 

 悪魔とランサーは得心する。だが答えになっていない。それなら暇を持て余す気配遮断スキルの低いアサシンのサーヴァントが、悪魔とランサーを狙わない理由がない。

 

「どう思う、マスター」

「ハサンや忍者といった本職の人間は、秩序・悪が多い。同時に強烈な信念を持っている。待機命令を下された上で改めて悪魔を殺せと言われない限りは、これ幸いと支配に従ったフリをして戦わないでいてくれているのかもしれない。反対にサンソンをはじめとする気配遮断スキルのランクが低いアサシンは、最初から悪魔抹殺の命令が下っているのか、仕方なく支配に従っていた面がある。戦場で見かけるアサシンの違いはこれじゃないか?」

「……マスターの見解が正解に近いと思います。私たち英霊も、好きで暴れているわけではありませんから……」

「ま、それもそうだな。だがいつ命令が下るか分からねぇ。そんときは容赦なく殺しに来るはずだ」

 

 悪魔とアサシンは深くうなずく。

 そして、噂をすれば影。

 

「マスター❤ こちらおふとんでございます。休まれるならどうぞ、私と横になって……」

「布団? ────」

 

 着物姿の少女。薄めの翡翠のような長髪。頭部には龍の角のようなものが生えている。その首に朱槍を突きつけるランサーは、どうやって索敵と結界のルーンを乗り越えてきたのか冷や汗を流す。アサシンは命令通り悪魔に触れる。猛毒で死にかける悪魔は逆転勝利の呪いが発動し、直感。さらに真名看破を行使。対象の真名は清姫〔バーサーカー〕……敵意はない。どうやら(なぜか)悪魔に惚れているようだ。

 

「最初は血だらけ泥だらけの不潔で女を手玉に取る醜悪な殿方と思うところでしたが……人は見かけで判断するものではありませんね。見つめれば見つめるほど、この清姫の好感度は爆上げでした! まずアサシンに嘘をつかないように努力している! 公平であろうとする精神美はそれだけでもう百億点! 人との対話で苦労した経験が数多くおありなのか、本当は口数が少ない方なのに、相手の話を遮るほどの長文、言葉を尽くして、コミニュケーションを巧く図ろうとする努力は涙を禁じえません。この清姫、その義に大変感服いたしました!」

「見ているだけでなぜそれが分かる」

「愛です!」

「助けてくれランサー。やはりオレには女難の相があるようだ……」

「しーらね。マスターのことは気に入ってるが、そういう変なところがオレの嫌いな奴に似てるから手を貸す気に全然ならねぇ」

 

 バーサーカーには話が通じない。悪魔はどうするべきかと考えて、清姫との対話を選んだ。それに彼女は、まるで相手の心が読めるかのような……空気を察する力に長けた、謎めいた能力があるようだ。それは執念的で妄執的。末恐ろしいまでの執着の呪いから生まれる恋心ゆえの読心(センサー)であると直感する。

 

「嘘を嫌うのか。だがオレは必要とあらば嘘をつくぞ」

「────」それは“私は嘘つきである”という有名な自己言及の矛盾(パラドックス)。清姫は試されている。

「女性経験が豊富なのも嫌なのか? オレは何万人の魔法少女と寝たぞ」

「────────」清姫は龍になろうとしている。

「しかもオレには心に決めた人がいる。清姫が正妻なら構わない? オレは清姫が側室なら構わないんだが」

「────────────」清姫は気絶しかけている!

「振られた? それは違うな」

 

 悪魔は立ち上がると、清姫の柔らかい手を取って顔を近付ける。

 

「オレは清姫を愛している」

「────────────────こ、これが……玉藻さんが仰っていた、ダメ女製造機……!!? あぁそんな……今(・)の(・)言(・)葉(・)に(・)嘘(・)が(・)な(・)い(・)なんて……! それでも私はマスターとだけのルートに入りたいのに……やだ、嫌でダメだと分かっているのに……心がときめいて……っ!!」

 

 清姫はしくしくと泣いて膝をつく。

 対する悪魔は澄ました顔のまま座り直した。

 

「これで清姫は無力化した。まだ子供だから大人の恋愛に耐性がないんだ。そして今のところ害はないから無視でいい」

「あぁん放置プレイ!」

 

 清姫は今までにない魅力を持った殿方と出会って、どうしていいか分からないようだ。

 

「やれやれ。ようやく清姫さんも大人の女性の階段を一段、登りましたか……」

「誰だ!」

 

 ランサーは路地裏の暗闇に朱槍を向ける。するとキツネ耳の和装美女が姿を現した。

 

「キャスター・玉藻の前と申します。以後お見知りおきを」

「……なるほど。どうやら自力で支配の力を解いたらしい。ランサー、武器をしまっていいぞ」

「なんだこいつもマスターに用かよ」

 

 ランサーは退屈そうに槍を担ぐ。そして悪魔は直感した。

 

「人に仕えれば誰でもいいのか。ただしイケメン・イケ魂に限る、と……オレはそんなにイケてるか?」

「顔は中の上、と言ったところでしょうか。しかし澄まし顔となれば上の中と言えましょう。また当然、魂の輝きも素晴らしい。藍色と水色の泥に侵されているというのに、それを包容してなおも広がりを見せる大空の如きがらんどうの虚空さは、むしろ哀愁を感じます」

「随分と的確な魂の評価だな。それで? マギウスはマ(・)ジ(・)無(・)理(・)と判断してオレのところに来たんだろ。契約してくれるのか?」

「それはマスターが用意する対価(愛情)次第かと☆」

「無理だ。オレは要石としての自分と魔力しか提供できない。……そ(・)れ(・)で(・)も(・)助(・)け(・)て(・)く(・)れ(・)る(・)か(・)?(・)」

 

 悪魔は首をかしげる。直後、玉藻の前の耳がピーンと立って危険信号を発した。

 

「あぁ……さすがダメ女製造機。私でなければ今の上手な甘えに絆されるところでした。だから言ったでしょう清姫さん。この殿方にだけは近寄ってはいけないと! 正直、私と同じ気配を感じます! 傾国的に! こんなのカリスマA+レベルの呪いですよ何かの! ぶっちゃけ全身媚薬だったりしますー?」

「あながち間違いではない。だが今のは故意ではないんだ。許してくれ」

 

 そして悪魔は、さも当たり前かのように笹川了子のハーフソウルリングをかざす。

 

「尽くすならオレに尽くすのではなく、英霊としての信念に尽くせ」

「……主が滅私奉公タイプだと、良妻賢母の仕事がなくなりますね……」

「お前が必要なんだ。頼む」

「あ~! 耳(こころ)が腐(とけ)るぅ~! しかしお引き受けいたしましょう! たとえマスターがダメ女製造機の五大特徴を備えていても、なんなら役満揃えていても、困っているイケ魂は放っておけぬ。その信念に従い、この玉藻の前、みこっとご助力いたしまーす☆」

 

 そこでランサーが退屈しのぎに問いかけた。

 

「ところで、ダメ女製造機の五大特徴ってどんなんだ?」

 

「あらランサーのクー・フーリンさん。自らに思うところおありで? お聞きになりますぅ? ではでは────

 《とにかく自分以外の他人に優しすぎて、相手を心配させきって依存させる、私が助けていけなきゃタイプ》

 《自分の欠点に関しては話し合いをしたがらず、相手を心配させきって依存させる、私が助けてあげなきゃタイプそのに》

 《いつもは誰にも頼らないのに、いざって時は都合のいいことに相手が求めたがってる助力を求めてくる、甘え上手タイプ》

 《相手のことはなんでも知っているくせに、自分のことは何も明かさないチョーゼツ身勝手な、ミステリアスタイプ》

 《自分の過去を聞かれるとあからさまに不機嫌になって、相手にヤダ嫌われたくないごめんなさいと不安にさせる、メンヘラ量産タイプ》

 《相手の求める言葉を呼吸するように吐くことで、この人なら私をわかってくれると依存させる、メンヘラ量産タイプそのに》

 ────こんなところでしょうか?」

 

「ならオレじゃねぇな。つか六個に増えてね?」

「いや待て。なんかそれ全部……明らかにオレに向けた……」

 

 悪魔は青ざめる。玉藻の前の心情を直感するに、やはり今のダメ女製造機六か条は、むしろ悪(・)魔(・)に(・)し(・)か(・)当(・)て(・)は(・)ま(・)ら(・)な(・)い(・)言(・)い(・)方(・)のようだ。自分は世の女性に、そんな感じで映っているのかとショックを受ける。

 

「そうなのか……そう、なんだ…………、…………いや、ありがとう。そんな辛口評価してくれる奴、今までひとりもいなかったからさ……正直助かるよ。やっぱり自分にも原因があるんだよな。恋愛性質も避けられる方法がきっとあるはずなんだ。いつもそれができなくて、情けなくも逆ギレすることが多いけど……」

「でしょう? マスター様の危うさを一番よく分かっているのは、この玉藻の前なんです! 人から寵愛を得る方法を(悪魔さんは無自覚ですけど)知る、傾(・)国(・)的(・)に(・)類(・)友(・)ってのもありますけどね☆」

 

 そこでランサーがアサシンに呟いた。

 

「なぁ。《あなたのことを一番良く知っているのは私で、女を依存させる、私が助けてあげなきゃタイプそのさん》も、七か条目に加えるべきなんじゃね?」

「……」

 

 アサシンは静かにうなずくが、その輝きを隠せない瞳は、まっすぐと悪魔に向けられていた。

 ランサーは「こりゃダメだ」と、自らの生前(こと)を棚に上げ、悪魔とその女性関係にため息をつく。

 

「それで、清姫はどうする? 惚れたら負けってか? 泣き寝入りはやめた方がいいぞ。潔くオレを切るか焼くか選べ。好きにしろ。オレはどっちでもいい」

「うぅ……振り向かせたい……でも絶対に振り向かないのが分かっている……それでも好きぃ……嘘を嫌う私は自分の気持ちに嘘はつけません……あぁこんなとき、どうしたら……」

「別の男を見つけろ。勇気を出して自分に自信を持て。お前なら素晴らしい相手を見つけることができるさ」

「そんなこと言ってくれる安珍様、今までどこにもいなかったぁー!」

 

 言う者はいたが、大抵は体のいい追い払い文句として嘘判定となり、焼き殺していた。しかし今の発言は、真に清姫のことを思って言った言葉。その嘘のない優しさに清姫は泣き崩れて「この悪魔的安珍様~! 私が焼いたせいで、現世に転生するなりひねくれてしまわれたのですか!?」と狂気に逃げて現実逃避する。

 

 かくして悪魔は契約した。清姫にはランボのハーフソウルリングで、玉藻の前には笹川了子のハーフソウルリングで。

 

「……オレはある意味、マスターのこと尊敬するぜ」

「やめろ。英雄色を好むという。ランサーだって何かあるんじゃないか?」

「ノーコメント」

 

 そこで悪魔は好感度調整を始める。

 

「まぁあれだな。今からオレに短(・)刀(・)投(・)げ(・)て(・)火(・)を(・)吹(・)い(・)て(・)鏡(・)ぶ(・)つ(・)け(・)て(・)もいいが……この一年半の女性経験上、女ってのは大抵、共感しとけば落とせ────」

 

 悪魔の逆転勝利の呪いが極まる。されど全ての毒・炎(火傷)・呪(しゅ)を受けることで、悪魔は万全の力量コンディションを整えた。

 

「────よし。今のオレなら、全ての女性英霊に勝てそうな強さだ」

「……さすが私のマスター……」

「うぅ……なぜ私はこんな殿方に惚れたのやら……」

「清姫さん。それもこれもマスター様の媚薬体質のせいです。退去したら記録は持ち帰らず、綺麗さっぱりと忘れてしまいましょう!」

「恋愛性質(媚薬体質)に関しては本当に悪いと思っている」

 

 そして悪魔は休息を取るため布団に寝そべった。

 

 

 

 途端、絶対の死を直感する。

 

 轟音爆発大激闘。数十騎の本職アサシンが宝具を叩き込む。直前に悪魔は死炎噴射していた。仲間と離れてアサシン軍勢を引きつける。

 

(乱戦の中で暗殺宝具は危険だ! それに幸運が低いサーヴァントは暗殺宝具に弱い! 今お前らを失うと困る! 敵アサシンはオレが引き付けるから安全圏で始末してくれ!)

(『────了解!!』)

 

 悪魔は大通りを高速飛行。

 両側にビル。鉄塊の障害物に挟まれる中、前門の虎(忍者とアサシン)、後門の狼(ハサンとアサシン)。

 既に瘴気は充分蓄積している。悪魔は切り札を使った。

 

「半魔人化(デビルトリガー)・着装(オン)ッ!! 通常形態(モード・ビランチャ)────

 瘴炎整合(ベルヴァ・クイント)・我は悪鬼を殺す挑戦者(ディアベル・スフィダンテ)────!!」

 

 魂と心身を侵す瘴気。通常であれば魂は腐り体は爛れ心は死ぬ絶望の毒。されど大空の炎の調和効果で、悪魔は瘴気すら包容した。其は瘴気死炎整合化。魂魄を瘴気に呑まれず力に変える。その致命の荒業を可能とする理屈は、すべからく悪魔の覚悟にある。

 

 だが実はそれ以外にも理由があった。それは彼の血統に隠されている。其は死ぬ気の零地点突破。代々ボンゴレのボスはその奥義を継承し、また別に自らの奥義としての零地点突破を発明する宿命にある。そして零地点突破とは、死ぬ気の炎をマイナスエネルギーに転化させた氷の技。

 ……零地点突破と瘴気。どちらもマイナスエネルギーに属する概念であるため、ボンゴレの血を継ぐ悪魔にとっては良くも悪くも相(・)性(・)が(・)い(・)い(・)エネルギーである。そんな背景を知る由もない悪魔は、超直感によって“自分はマイナスエネルギーの運用に秀でている”ことには気付いている。それゆえに修行した。そのために辿り着いた魔王の境地。

 

 半人半魔の悪魔は翔ける。般若も驚く鬼の魔貌。瘴気なびく黒翼を拡げ、虹色の死ぬ気の炎を獅子の胴体より燃やし、熊のような豪腕と鉤爪を振るい、逆関節の羊毛脚を蹴りと跳躍に使う。もはや人の身ではない。されど彼は誰よりも人に近い。強靭な理性は欲望に狂わず、未だ戦いに恐怖を覚え、大切な人々を守るべく死ぬ気の覚悟で運命に挑む。────逆転勝利の運命へと。

 

「────《妄想心音(ザバーニーヤ)》────」

「────《幻想血統(ザバーニーヤ)》────」

「────《无二打(にのうちいらず)》────」

「────《猛虎硬爬山(もうここうはざん)》────」

 

 悪魔の全方位に展開される絶殺空間。類感なる心臓圧潰。自壊する頭爆猛毒髪刃。存在隠蔽からの絶招心肺停止。流麗連撃大地粉砕からの存在消失。

 抵抗する間もなく「ガハッ!?」心臓を破られ、頭部は爆ぜて、猛毒は身を蝕み四肢は跳ねられる。眼前に拳士が迫るというのにその姿は消え失せ、超直感により捕捉して相打つが赤子の手をひねるようにいなされ、即時再生した心臓は言の葉を放つより前にショック死を迎える。続いて背後から拳士が迫っていると直感していたというのに気配が消え失せ、流れるような八極の拳打が猛虎の如く打ち込まれ「ッ……!!?」反撃の蹴撃は虚空を切る。

 

「────《不還匕首(ただ、あやめるのみ)》────」

「────《十面埋伏・無影の如く(じゅうめんまいふく・むえいのごとく)》────」

「────《不滅の混沌旅団(イモータル・カオス・ブリゲイド)》────」

 

 自らの命を投げ出す覚悟は、それゆえに回避困難な相打つ暗殺を成し遂げる。白装束の女暗殺者。その胴体を拳が貫いた直後、掠っただけでも死に至る猛毒を塗りこんだ匕首が悪魔の首、その正中線を刺し貫く。「ガ──ッッッ!!!?!?!」煮えくり返るような毒の熱さ。灼熱の激痛は断末魔の声すら殺して意識を混濁させる。不死(しなず)の悪魔は大空の炎で猛毒を浄化するも時間が掛かる。完全な浄化には数百年掛かるかどうか。もはや治癒も解毒も諦めて死痛を呑む。呑むしかない。息絶えても耐えるしかない。

 直後、全身に無影の打撃が打ち込まれる。影すら残さぬ縮地もかくやの歩法。百撃受けて一撃の防御も叶わず地に打倒される。

 すかさず二百人の亡霊忍者が飛び上がった。一縷の希望(あかり)も許さぬ夜の帳が降りる。袋叩きの斬撃拷問。敵味方を問わず巻き込んだ対軍宝具は阿鼻叫喚の地獄を作り出す。

 

「────《絡繰幻法・呑牛(からくりげんぽう・どんぎゅう)》────」

「────《口寄せ・伊吹大明神縁起(くちよせ・いぶきだいみょうじんえんぎ)》────」

「────《始末剣(しまつけん)》────」

 

 真空吸引。圧縮粉砕。敵味方を問わず、夜の帳をもたらす暗闇も、ことごとくを絡繰の腕の中に吸い寄せて切り刻む。悪魔は死炎噴射で吸引に抵抗。

 そこに口寄せされた大蛇が襲い来る。胴体を絞め殺されて呪的絶命した悪魔は大蛇もろとも吸引されて肉体が圧縮粉砕────される前に助太刀魔法で緊急離脱。蛇衣の歩き巫女を蹴り飛ばす。

 刹那、時雨蒼燕流の使い手が悪魔と切り結ぶ。明らかに日本人。人斬り外道の内面を有する男は狂ったように笑いながら撃剣を打ち込む。その天才的な剣技は悪魔が使う剣術を模倣して完全再現。剣術勝負で勝ち目がないと判断した悪魔は左腕の髑髏型火炎放射器で天才剣士を吹き飛ばす。

 

「────《故国に愛を、溺れるような夢を(ラ・レーヴ・アンソレイエ)》────」

 

 それは静かで暖かな暗殺だった。「……?」微塵の殺意も敵意もない。それは圏境のような絶技ではない。超直感が作用しない点は同様だが、それにしても“暗殺の兆候”……否、“敵である可能性が初めからなかった”────それは天使のいたずらか。見覚えはあったのだ。戦場の遥か遠くに可憐な少女の姿があった。きっと逃げ遅れた民間人と思い、彼女の方角には近付かず戦った。しかしその思考がそもそもの誤り。なぜ、そ(・)の(・)少(・)女(・)が(・)サ(・)ー(・)ヴ(・)ァ(・)ン(・)ト(・)だ(・)と(・)思(・)わ(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)の(・)か(・)。悪魔はシャルロット・コルデーの内心を直感する。なるほど偏見強化の概念。ならば当たり前のように接近されて背中を刺されるのも道理。だが、ただの物理的ダメージに意味はない。悪魔は振り返りざまに、コルデーの首から上を蹴り飛ばして殺す。

 

 その攻撃の間隙を突くように、多数のサーヴァントが追撃を仕掛けた。

 

(ランサー!!)

 

「────《突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)》────!!」

 

 悪魔の下に群がるアサシン軍団。宝具の射程圏内にその全てが入った途端、ランサーは一騎たりとも逃さず殺し尽くして四肢を吹き飛ばした。そして悪魔は宝具に巻き込まれる前に助太刀魔法でランサーの下に飛ぶ。追尾性能を持つ魔槍の棘の一部が悪魔を追いかけて命中するも、体内を殲滅されたところで悪魔の逆転勝利を極めるだけ。その力を他のアサシンとの格闘に使う。

 一方、静謐や清姫、玉藻の前は、六体のハサン・サッバーハと戦闘していた。真名看破を行使。真名を百貌のハサン・サッバーハ。宝具は《妄想幻像(ザバーニーヤ)》────どうやら魂を分裂する能力のようだ。直接的な暗殺概念は持たないが、数の勝負に出られると厳しいものがある。

 

 ────《瞑想神経(ザバーニーヤ)》────

 

「っ!?」

 

 悪魔は直感する。ラ(・)ン(・)サ(・)ー(・)が(・)死(・)ぬ(・)。理由は不明。敵はどこにもいない。気配遮断しているのか。真名看破魔法は対象を目視していなければ使えない。だがとにかくダメ元で動く。このまま何もしなければランサーは必ず死ぬ。嵐と雨の炎を灯し、真名看破魔法を発散、分析効果をも発散する。──先ほどの魔槍ゲイ・ボルクの着弾地点と全ての障害物の影に“名残”を発見。真名を幽弋(ゆうよく)のハサン・サッバーハ。宝具は道連れの能力。さらなる詳細まで看破している時間的余裕はない。悪魔は己の命に危機が迫らない限り逆転勝利の力を受けることができないため、今は自力でランサーを助けるしかない。

 

「ランサー! 跳べぇええ!!」

「っ!?」

 

 その指示が最適かは分からない。ランサーは跳躍する。

 直後、ランサーの影から黒い塊が飛び出した。

 

『っッ!?』

 

 それは“暗闇のような”概念存在。正体不明の“影”は盲目的にランサーを追尾する。速度はランサーと同速────だったが、不意に影は速度を倍加。ランサーの足を掴むと、地面に残るランサーの影に孔が開く。それは地獄の蓋を開けたかのような禍々しい黒洞。ランサーは凄まじい力で孔の方へ引きずられていく。

 

「ランサー!!」

「来るな、マスター! こっちはオレがなんとかする!!」

「それは道連れにする宝具だ! 孔の中に引きずり込まれたら確実に殺される!」

「だからマスターは自分の心配をしろって言ってんだ!!」

「っ!?」

 

 悪魔の背後に鬼の気配。

 

「────《果てぬ羅刹に転ず(オウガ・トランス)》────ッッ!!」

「……バーサーカーの、忍者だと……?」

 

 狂化を苦もせず、今まで気配遮断で身を隠していたのか。瞬時、悪鬼と羅刹は拳を叩き合わせ、衝撃で皮膚は裏返り骨肉が砕けてもなお、互いに鬼神もかくやの咆哮を張り上げて超絶怒涛と殴り合う。

 

「アンサズ!」

 影に引きずられるランサーは炎のルーンを使用する。影にダメージはない。だが火の明かりを受けたことで影の力が弱まった気がした。すかさずランサーは光明のルーンを使って影を引き剥がす。影は俊敏にランサーを追いかけるが、それを上回るスピードあるいは影を作らないよう周囲を光で満たしていれば無害。瀬戸際で冥府の孔に引きずり込まれることを避けたランサーは安堵の一息をつく。

 

「────《不滅の混沌旅団(イモータル・カオス・ブリゲイド)》────」

 

 刹那、戦場が暗闇に包まれる。それはルーンの光を強制的に消し去り、概念的な暗闇をもたらした。

 

「ッ!! ガフッ!? ぐぁあああああああああ────!!?」

『……っ!?』

 

 ランサーの断末魔が上がる。だがパスはまだ切られていない。ランサーは確かに死んだが、ま(・)だ(・)息(・)が(・)あ(・)る(・)。

 

「くそっ! ランサー!!」

 

 羅刹の豪腕が唸る。対する悪魔は敢えて急所を晒し致命の一撃を誘う。そして逆転勝利の呪いが極まった瞬間、雷炎による打突で羅刹の息の根を止めた。宝具が解ける。二百人の忍者亡霊は残滓となって消えるが、最期の足掻きと言わんばかりに悪魔に襲いかかる。それら群体を一撃で粉砕していく悪魔は、焦燥に駆られてランサーの方を見やる。

 

「────っ……!!」

 

 ランサーは百貌のハサン・サッバーハを一掃していた。切り裂かれた体から五臓六腑を撒き散らしながら鏖殺を完了。鮮血に塗れた青タイツ。足元の影に開いた冥府の孔は役目を終えて消失した。

 

「ランサー!?」

「チッ……運が悪い。わりぃマスター。しくったぜ……なんとか地獄の釜の蓋はルーンで閉じたんだがよ。霊核の大半を持って行かれた。致命傷だ。もう助からねぇ。じきにオレは消えるが……まだやり残したことがある」

「……!」

「主(・)命(・)は(・)果(・)た(・)す(・)。英霊軍団の殲滅ぅ? 楽勝だ。むしろこっからが本番だってなァ……!」

 

 ランサーの保有スキル《戦闘続行》────それは死に瀕してなお戦い続ける往生際の悪さ。しかし霊核の亀裂は致命傷ゆえ、たとえ戦闘続行スキルを持っていても消滅するはず。だがランサーことクー・フーリンは、元々のランクの高さに加え、ルーンで無理やり延命していた。

 

「さて────お待ちかねの敵援軍だ。殺るぞ、マスター」

「っ……!」

 

 ランサーは虫の息だというのに目をかっぴらいて狂喜的な笑顔を見せる。その心にチリほどの動揺がないことに、英雄の覚悟というものを悪魔は垣間見た。

 されど悪魔は諦めない。この貴重な戦力を、こんなところで失うわけにはいかない。戦闘思考と救済思考を同時並行で重ねていく。ランサーが消滅するまで、まだ時間はある。その間にランサーの存在を維持する方法を見つけ出さなければならない。

 

「……玉藻の前、ランサーに続け。宝具で支援するんだ。静謐は後方で待機。清姫は索敵・諜報を任せる。魔法少女の姿があれば知らせろ。ソウルジェムの固有魔法を使えば何かに役立つかも知れない」

『了解』

 

 悪魔たちの前方にサーヴァントの集団あり。真名看破────ネロ・クラウディウス〔セイバー〕、ロクスタ〔アサシン〕、カリギュラ〔バーサーカー〕、ガイウス・ユリウス・カエサル〔セイバー〕、クレオパトラ〔アサシン〕、コンスタンティノス11世〔ライダー〕、ロムルス〔ランサー〕────今すぐ襲いかかる様子はない。アサシン軍団の猛攻から生還した悪魔たちを見て驚き警戒しているようだ。

 

「なぁランサー。まだ神話系のサーヴァントと戦っていない。ギリシャ神話のヘラクレスやアキレウスなら知っている。北欧やゲルマン系とは先ほど一戦交えたが、インド神話も規格外だ。それにお前の本場、ケルト神話の連中ともまだ遭遇していない」

「……」

「そいつらとの戦いでは、必ずランサーの力が必要だ。故に霊基を改造してでも蘇生させる。今はその方法が思いつかないが、必ず生存させる。そしてお前が望む“強者との死闘”を延々と続けさせてやる」

「……へっ……好きにしな……」

 

 噂をすれば影がさす。北側に位置するローマ陣営とは別に、新たな軍勢が東西と南側に現れた。悪魔は真名看破を行使する。

 

 東側は────ギリシャ陣営。オリオン〔アーチャー/アルテミス〕、メドゥーサ〔セイバー〕、ゴルゴーン〔アヴェンジャー〕、アステリオス〔ランサー〕、ガラテア〔バーサーカー〕、イアソン〔セイバー〕、メディア・リリィ〔キャスター〕、ヘラクレス〔バーサーカー〕、テセウス〔アサシン〕、アタランテ〔アーチャー〕、ディオスクロイ〔セイバー〕、カイニス〔ランサー〕、アスクレピオス〔キャスター〕、ケイローン〔アーチャー〕、アキレウス〔ライダー〕、オデュッセウス〔ライダー〕、パリス〔アーチャー〕、ペンテシレイア〔バーサーカー〕、ヒッポリュテ〔ライダー〕、その他大勢────

 

 西側は────インド陣営。シータ〔アーチャー〕、カルナ〔ランサー〕、アルジュナ〔アーチャー〕、アシュヴァッターマン〔アーチャー〕、ビーマ〔ランサー〕、ドゥリーヨダナ〔バーサーカー〕、ラクシュミー・バーイー〔セイバー〕、その他大勢────

 

 南側は────中華陣営。哪吒〔ランサー〕、黄飛虎〔ライダー〕、韓信〔ライダー〕、項羽〔ライダー〕、虞美人〔アサシン〕、徐福〔キャスター〕、張角〔キャスター〕、呂布奉先〔バーサーカー〕、赤兎馬〔ライダー〕、陳宮〔キャスター〕、蘭陵王〔セイバー〕、武則天〔アサシン〕、秦良玉〔ランサー〕、その他大勢────

 

 さらに、敵は東西南北だけにあらず。頭上にも軍勢は揃っていた。

 

 天空は────飛行能力を有するサーヴァントが群雄割拠。イスカンダル〔ライダー〕、アレキサンダー〔ライダー〕、ヘファイスティオン〔プリテンダー〕、ドブルイニャ・ニキチッチ〔ライダー〕、ブーディカ〔ライダー〕、フランシス・ドレイク〔ライダー〕、エドワード・ティーチ〔ライダー〕、クリストファー・コロンブス〔ライダー〕、バーソロミュー・ロバーツ〔ライダー〕、その他大勢────

 

 さらにさらに、四方は斜めに隙が残る故、八方覆い尽くすための新手英霊軍団が集結。日本陣営、ケルト陣営、北欧陣営、欧州陣営、中東陣営、米国陣営、作家陣営、外宇宙陣営────

 

 

 

 そして、敵英霊総軍団は一斉に真名開放。悪魔陣営に対し、幾千幾万に及ぶ絶殺の宝具を打ち込んだ。

 

          †

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【英雄って凄いね。敵に回ると、めちゃくちゃ無慈悲な悪役なんだから】鼓星かずみ

 

 時は遡り。《黄金鹿と嵐の夜(ゴールデン・ワイルドハント)》による砲撃のあと。環いろははガレキを掻き分けて身を起こす。周囲は倒壊した家屋だらけ。所々に人の死体が確認できる。

 

「そんな……こんなのって……────っ! うい……!」

 

 環いろはは魔力パターンを探す。近くに環ういを発見。遠方に二葉さな、鼓星かずみを発見した。妹の下に急ぐ。念話で呼びかけるが、なぜか返答がない。そして魔力パターンの地点に辿り着いた途端、環いろはは絶望した。

 

「────うい……?」

 

 環ういの首から下が仰向けになっている。服は砲撃の真空波により破れて傷だらけ。火薬の爆発で肌も少し焼け焦げている。だがそれは環いろはも同じ。少し魔力を回せば再生できる傷だ。しかし────しかし……彼女の首から上は、大きな瓦礫によって潰されていた。

 本来あるべき頭部が、ない。それが、何を意味するのか。

 

「いや……いやァ……ッ!!」

 

 ソウルジェムの穢れが溜まりきり、ドッペルが発現。大量の包帯が踊るように舞い上がり、環いろはの目元を覆い隠そうとする。

 

 もう辛い現実を見たくない。聞きたくもない。妹の死を見て選ぶものは沈黙。

 

 ────それがお前の情けない所だ。

 

 ふと、悪魔の声が響く。情けないのが、そんなにいけないのか。

 

 ────惨めなもんだぞ。いつまでも妹離れできない姉は。

 

 惨めなのが、そんなにダメなの?

 

 ────妹の悲鳴を聞く覚悟もなく、包帯を耳にまで巻いている。そんなお前は、やはり戦士に向いていない。

 

 だから、こうして誰も守れない。

 悪魔の後ろ向きで辛辣な助言。

 それが事実だから、今こうなっている。

 

 ────ま、まけて、ない……っ。

 

 ういの声。

 

 ────わ、わたし、たち、は────ぜったい、勝つ!!

 

 あきめないすがた。

 

 ういのひたむきで懸命な覚悟。

 

 そんな妹の姿を、見ないで聞かないのは────姉としてどうなんだ?

 

「────」

 

 環いろはの目元を覆い尽くす包帯。その隙間から────光り輝く桃色の宝石を見た気がした。

 

「うい────」

 

 環いろはは瞳を動かす。両手を動かして包帯を取り払う。引きちぎり、立ち上がり、駆け出す。

 

「ういっ!!」

 

 環ういのソウルジェムを発見。魔力パターンを感知したのだから、ソウルジェムが存在しているのは当然だ。つまり環ういは、肉体こそ死んだが魂までは死んでない。おそらく死んだことを自覚できないまま脳髄を破壊されたため、ソウルジェムは砕けなかったのだ。

 

「ういは生きてる……魔力を回せば生き返れる……!」

 

 遠方にて爆発。七海やちよの魔力。途轍もない魔力を持つ集団と戦闘している。今すぐ駆けつけなければ。目を覆い耳を塞ぐ暇はない。現実を見てこそ希望は見えると、道場で学んだはずだ。妹の後ろ姿から!

 

(さなちゃん! かずみちゃん! ふたりは黒江さんたちを捜索して! わたしはやちよさんの所に向かう!)

 

          †

 

 かくして七海やちよと合流したあと、状況の変化に逼迫(ひっぱく)し、七海やちよの言葉を受けたことで、環いろはは戦場から離脱し、悪魔の下に向かう決断を下す。それに逆らい、由比鶴乃と深月フェリシアはその場に残る。従ったのは暁美ほむらと二葉さな、鼓星かずみの三名だった。

 

「開匣────《天空晴鳩Ver.ピジョット》!」

「開匣────《雲鼬Ver.オタチ》!」

「開匣────《雷草猫Ver.ニャオハ》!」

「開匣────《天空氷珪藻Ver.バニプッチ》!」

 

 ピジョットの背中に飛び乗った魔法少女4名とポケモン3匹は、空から悪魔の下に一直線で向かう。

 ふと前方に、火縄銃に乗って空中を旋回する軍服姿の美少女が見えた。それは炯炯とした眼光で環いろは一行を見抜くなり、大量の火縄銃を生成展開して一斉射撃を開始する。

 

「宝具《三千世界(さんだんうち)》」

『────っッ!?』

 

 ピジョットの高速旋回で銃弾の雨を紙一重で躱していく。だがこのままでは撃ち落とされる。三千丁の火縄銃の包囲が徐々に狭まり、着実に突破口が潰されていく。

 

「みんな頭を下げて! 一発でも当たったら殺される!!」環いろはの必死の号令。

「っ……」(それだと狙撃できない! でも顔を出せば逆に狙撃される! どうすれば……!?)暁美ほむらの焦燥。

「────わ、私が囮になりますっ!」二葉さなが言う。

「いや、その役目は私でしょ!」鼓星かずみは躊躇なく飛び降りた。

 

「え────」

「かずみさん!?」

「そんな……!」

「みんな! 早く悪魔のもとへ! 一瞬の予断も許されない!」

 

 人造魔法少女ならば、ソウルジェムという急所は存在しない。肉体が破壊されても魔力で再生できる。つまり、ほかの純正魔法少女とは異なり、その特性ゆえ、ある程度はサーヴァントと持久戦ができる。

 

 あらかじめ鼓星かずみは、スタンドを使って『宝石の形をしたキャラメル味の飴』を料理していた。それをソウルジェムとして見せかけることで敵の攻撃を誘導。一分稼げれば儲けだ。

 

(人造魔法少女だからかな。戦いに対する覚悟は、既に出来ているようにインプットされているみたい。これから私は死ぬ。だけど、そのことに悔いはない。怪物を相手に味方を逃がすため、一分を稼ぐ。その最大戦果を上げるためなら、私に恐怖はない!!)

 

 それはちょっぴり大嘘である。死ぬのは嫌だ。

 けれど、もっと嫌なのは────誰かの死を見ることだから。

 

「……英雄って凄いね。敵に回ると、めちゃくちゃ無慈悲な悪役なんだから……」

 

 織田信長、第二宝具開放。第六天魔王波旬(だいろくてんまおうはじゅん)。人造魔法少女というだけで神秘を有する鼓星かずみは、大焦熱地獄の業火により、三十秒と持たず焼き殺されて消滅した。

 

 織田信長は哂う。

 

「是非もなし。殺すだけなら宝具の発動なぞ要らぬ。だがその捨て身、報いるだけの価値はあろう。なぁ? 現代の魔法少女(えいゆう)よ」

 

          †

 

 一方その頃。悪魔たちは────

 

 四方八方の英雄偉人。群雄割拠の真名開放。それはいじめレベルの包囲確殺。

 

 誰もが終わったと悟る。絶望的な戦力差。絶体絶命の窮地。

 心が折られた者は、たとえ英霊といえどソウルジェムが穢れていく。

 

 だが、この程度の絶望、あらかじめ予想できていたはずだ。悪魔とクー・フーリンの表情に曇りや陰りはなく、むしろ逆転勝利が極まり、闘争心が満ち満ちて、威嚇のような笑顔が浮かぶ。

 

 ────時が止まる。

 

 とある二人の少女は、そんな死地に一歩、足を踏み出した。遠方のビルの屋上から跳躍。悪魔の前に降り立ち、その体に触れる。

 

「────、なにっ!? なんで、お前ら……!!」

 

 悪魔は驚愕した。とっくに神浜市の外に逃げたか、マギウスに捕らえられたか、あるいは服従せず抵抗を選びサーヴァントに殺されたであろう────環いろはと暁美ほむらの姿を目にして絶句する。

 

「話は後です。今すぐここから離れましょう。後ろのサーヴァントたちは、悪魔さんの味方なんですよね? なら私のドッペルの髪を伸ばして触れることで時間停止を解きます」

「逃走経路は確保済みです。南凪区方面はサーヴァントの数がまだ少なくて安全です。あまり海岸に近付くと見晴らしが良くてすぐに見つかってしまうのが難点ですが……背水の陣となりますし……悪魔さんの意見が聞きたいです」

 

 ランサー、静謐、清姫、玉藻の前は、暁美ほむらを介す環いろはのドッペルに触れられて、時間停止の世界で動き出す。

 

『!?』

「────覚悟は、あるんだな?」

 

 死ぬ覚悟を問いかける。二人は躊躇なく頷いた。

 

「なぜだ」

「何度も言わせないでください。仲間だからです。それに────」

「悪魔さんを手助けすれば、事態の迅速な解決に繋がると判断しました。そのためにや(・)ち(・)よ(・)さ(・)ん(・)た(・)ち(・)を(・)置(・)い(・)て(・)き(・)た(・)んです。もう何人も死んでしまって、道中もかずみさんが囮になってくれて……余裕なんてないし、心が張り裂けそうです! それでも、私たちは勝(・)っ(・)て(・)生(・)き(・)残(・)る(・)必要があるんです!!」

 

 仲間を置いてきた。その心中は如何許りか。仲間の犠牲を払ってまで悪魔を頼りに来たというのか。自分にそこまでの価値はないというのに、と悪魔は俯く。だがその覚悟は受け取った。直感すれば、ただの虚勢だと分かる。ふたりの胸は震え、声を泣き殺し、一縷の希望に懸けて遠征してきた。ソウルジェムはとっくに穢れており、ドッペルが出現している。道場で修行した成果なのか、ドッペルのコントロールは出来ているようだが……こうして悪魔と合流できなければ、いつソウルジェムが限界を超えて砕けていたか分からない。

 助けを望む心の叫び。少女たちの悲しい声を、悪魔は直感するあまり無視できない。

 

「──……総員、南凪区に撤退する。殿はランサーと玉藻の前。オレたちは前を切り開く。行くぞッ!!」

 

 跳躍。一息でビルを飛び越えて確殺空間を離脱。直後、時間停止魔法が解けた。数百数千数万の宝具が誰もいない地点に叩き込まれる。轟々激震、大地自然が裏返り、地殻を貫いてマントルが露出、溶岩噴火、都市は閃光に呑まれ、爆風を利用して一気に距離を取る。多数の追っ手を直感。

 

「いろは! 全魔力を注いで匣兵器を開匣しろ!」

「っ!?」

「やれと言ったら一秒でやれ!!」

 

 環いろはは魔と光の魔力と、キモチから雷属性の魔力を取り出して開匣。《天空晴鳩Ver.ピジョット》《雷蜂Ver.スピアー》が飛び出す。すかさず悪魔は環いろはの頭を掴むと、ドゥリンダナを奮って彼女の首を切断。首から下は閃光と爆風の彼方に消え去り、首から上は悪魔の腰に吊るされた。ピジョットは、環いろはの腰に吊るされた匣兵器はどうするつもりだと言いたげに鳴き、主の体を回収するべく身を翻して閃光の中に突っ込む。

 

「あ、え……!?」

「切断面を魔力再生の応用で塞げ! 首から下は生やすな! 戦闘の邪魔になる!」

 

 悪魔の手には、首を切る瞬間に回収していた環いろはのソウルジェムと、真名看破の固有魔法が宿るソウルジェム。その二つを環いろはの口の中に突っ込むと、両頬に施術魔法で縫合した。さらに施術魔法で口腔の贅肉を改造し、心臓の代替となる酸素の供給器官、すなわち脳に酸素を送り込む回路を作成する。

 

「痛(っ)……!!?」

「サーヴァントを発見次第、真名看破魔法を使い、味方全員に“真名”“クラス”“宝具の詳細”を迅速に伝えろ! ドッペルの髪で片目以外を覆い尽くし、キモチも併用して硬化させて身を守れ! 目を潰されたら活性で即時再生しつつ、もう片方の目で瞬間目視! 一瞬の隙も敵に与えるな! 加えて魔法の援護だが、ジャマー(魔力妨害散布)系は禁止だ! シールドも視界が遮られるから使うな! 治癒・持続回復・状態異常耐性・状態異常解除・猛毒・閉塞の魔法を主に使え! 口の中に魔法武具(クロスボウ)を生成できるなら、ここぞという時に口を覆う髪をほどいて必殺魔法(マギア)をぶちかませ! いろはの瘴気は全てこちらで吸収する!」

「え────えぇえええ!? こ、このまま戦うんですか!? 私、首だけですよ……!?」

「これが最も効率的で合理的だ! 一番全員が戦いやすい! オレと共に戦うとはこういうことだ! 分かったら死ぬ気で最善を尽くせ! 今のいろはの役割は完(・)璧(・)な(・)オ(・)ペ(・)レ(・)ー(・)タ(・)ー(・)だ!!」

 

 悪魔の所業に目を見張る暁美ほむらとサーヴァントたちはドン引き。だが確かに悠長なことを言っている暇はない。そしてランサーは豪快に笑うと、魔法少女の特性を最大限に有効活用する悪魔に感服した。

 

「ハッ────なんでうちのマスターは悪魔なんて名乗ってんのか、その怪物みてぇな姿も含めてようやく分かった気がするぜ!」

「っ……! わ、わかりました────!! 《真名看破》魔法を行使……! 敵、アーチャーのアタランテ! 対軍宝具! 来ます!」

 

「────《訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)》────!!」

 

「豪雨の矢、天より降り注ぎます!!」

「────!」

 

 悪魔は逆転勝利の呪いが強まると同時、七海やちよの死を直感。今まで多くの魔法少女の死を直感しつつも見捨ててきたが、神浜市で最も強い魔法少女を失うわけにはいかない。

 

(すぐ戻る! とにかく逃げて凌げ!)

 

 助太刀魔法で転移。環いろはが「スパルタクス〔バーサーカー〕!」と叫ぶ。ドゥリンダナを振るう悪魔は、スパルタクスの荒ぶる剣とぶつかり合う。壮絶な音速剣戟。

 

「……っ!? あ、悪魔……!? いろはも……えっ!?」首だけの環いろはを目撃した七海やちよは驚愕する。

「背後からエイリーク・ブラッドアクス〔バーサーカー〕! 対人突撃宝具と支援呪術、来ます!」

 

「────アーララララララララララアr────!!!」

 

 悪魔は宝具《血塗れの戴冠式(ブラッドバス・クラウン)》を敢えて喰らう。すると血を吸った赤黒い斧が力を増し、悪魔の命を撃滅せんと咆哮を上げる。逆転勝利の呪いが強まり、悪魔の背中にナッツの顔が突き出す。

 

「ナッツ! 焼き尽くせ!」

「GAOOOOOOO────!!」

 

 施術魔法で背中側に移動させたナッツの咆哮焼却と同時、悪魔は両手からイクスバーナーを放つ。前門の虎たるスパルタクス、後門の狼たるエイリーク・ブラッドアクスが吹き飛ばされる。

 

「やちよ! ……残っているのはお前だけか。来るか?」

「────えぇ。このままじゃ終われない……みんなの仇を討つ!!」

「なら少し休んでろ。今、素(・)晴(・)ら(・)し(・)い(・)味(・)方(・)候(・)補(・)を見つけた」

 

 そこで悪魔は直感する。ロジェロが与えてくれた、サーヴァントに攻撃が通る加護がなくなった。効果時間が切れたのだ。しかし半魔人化している間は瘴気という名の魔力を身にまとっているため、サーヴァントへの攻撃は通る。

 

 悪魔は、半魔人化するための瘴気が溜まるまでの間、力を貸してくれたロジェロとベリサルダに感謝しつつ、エイリーク・ブラッドアクスの温和な内心とグンヒルドの怒りを直感して、ならば殺すのが救いかと撃滅を開始。

 

 死炎噴射、嵐炎分析。地面に倒れるエイリークの心臓にドゥリンダナを突き刺し、その霊基にトドメを刺す。

 

「エイリーク、消滅! えっ……? 《夫殺したこと許さない呪う》……? な、なに、この声!? の、呪いを掛けられました! 状態異常解除魔法を掛けます!」

 

 悪魔は振り返る。そこには肉体が膨れ上がるスパルタクスの姿。筋骨隆々、傷も加速度的に癒え、絶え間ない笑みを以て「ウハハハハハハッ!」と狂気の歓声を上げている。

 

「スパルタクス! 宝具《疵獣の咆吼(クライング・ウォーモンガー)》! ダメージを魔力に変換して能力を上げる模様! 推測ですが、自爆の使い方も可能かと思われます!」

「いい推察だ、いろは」

 

 しかし悪魔は、別の視点でスパルタクスを観察している。直感するに、スパルタクスの心情が屈辱と義憤で満ちている。それは支配魔法に掛かっている正英雄ならば誰しもそうだが、ことスパルタクスに関しては、その在り方がどうにも不思議に映った。どうやら彼は、そもそも支(・)配(・)魔(・)法(・)と(・)致(・)命(・)的(・)に(・)相(・)性(・)が(・)悪(・)い(・)ようだ。

 

「妙だな。……やちよ、スパルタクスは今まで誰かを殺したか?」

「いえ……彼は、その……よくわからないの。私を守ったかと思えば、次の瞬間には斬り殺そうとしてきて……でも、彼がいなければ百騎のサーヴァントを殺しきることなんてできなかったわ……」

「今まで対話したか?」

「そんな余裕なかったわよ! それにどう見ても会話なんか通じそうにないじゃない! まぁ最初に驚いて声を掛けたけど、常に高笑いしか上げてこないし……そもそもこっちを見ないし……」

「────」

 

 悪魔は慎重に、的確な言葉を投げかける。

 

「スパルタクス」

「! ウハハハハハハハ!」

「その高笑いは、真(・)な(・)る(・)絶(・)対(・)圧(・)政(・)を(・)滅(・)ぼ(・)す(・)機(・)会(・)を(・)手(・)に(・)入(・)れ(・)た(・)こ(・)と(・)へ(・)の(・)喜(・)び(・)か。ならば────助(・)け(・)て(・)ほ(・)し(・)い(・)。オレはマギウスを倒したい。全ての支配英霊を倒して、大聖杯に辿り着き、殺された人や壊れた街を、ぜんぶ元に戻してほしいと願うつもりだ。お前はどういう信念(つもり)で戦っている?」

 

 不意にスパルタクスは高笑いをやめて落ち着いた表情となり、まっすぐな瞳で悪魔を見据えた。

 

「君(・)は(・)叛(・)逆(・)者(・)か(・)?(・)」

「然り。オレの名は悪魔。逆(・)転(・)勝(・)利(・)と(・)叛(・)逆(・)の(・)魔(・)法(・)を(・)持(・)つ(・)、(・)運(・)命(・)に(・)逆(・)ら(・)う(・)男(・)だ(・)」

「────────」

 

 スパルタクスは満面の笑顔を浮かべて、ズンズンと地を揺らしながら悪魔に走り寄る。七海やちよは緊張し、警戒心を引き上げるが────悪魔は力強く手を差し伸べた。それは握手の形。それを見下ろすスパルタクスは、つぶらな瞳を輝かせる。

 

「お願いだ。叛(・)逆(・)の(・)の英雄ス(・)パ(・)ル(・)タ(・)ク(・)ス(・)よ。あなたは生き残っている魔法少女を守ってほしい。オレが鍛えた魔法少女は役に立つはずだ。そいつらを率いて戦えば充分な戦力になると思う。オレは別の戦場で攻勢に挑む。合流できたら共闘してくれるとありがたい。まぁできればスパルタクスには守勢に挑んでほしいんだが……いくら大聖杯で生き返らせるとは言え、魔法少女たちも、そう何度も死ぬのはごめんだろう」

「もちろんだ。同(・)盟(・)者(・)よ。我はこの時を待っていた。我は《魔法少女の勧誘、それに失敗すれば死を》と《悪魔には即時宝具解放》という支配に縛られている。度し難い屈辱である! よって常(・)に(・)高(・)笑(・)い(・)す(・)る(・)こ(・)と(・)で(・)勧(・)誘(・)し(・)て(・)い(・)る(・)つ(・)も(・)り(・)だ(・)が(・)勧(・)誘(・)し(・)て(・)い(・)な(・)い(・)よ(・)う(・)に(・)尽(・)く(・)し(・)た(・)。そして我(・)は(・)召(・)喚(・)さ(・)れ(・)る(・)際(・)、(・)常(・)時(・)発(・)動(・)型(・)の(・)宝(・)具(・)し(・)か(・)引(・)っ(・)提(・)げ(・)て(・)来(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)!」

「……さすがだ。召喚される前から叛逆しているとは」

「しかしその策も長くは続かない。いつか我は守るべき者を殺してしまうだろう。今そこの青い少女を攻撃してしまったように。あぁ同盟者よ。何か策はないか?」

「握手してくれ。施術魔法を掛けて霊基に接続し、叛逆魔法で支配を解く。依代と魔力パスの接続先は変更しない。ただし契約を切られた場合、自動的にオレと再契約する術式を組む。もちろん主従関係を結ぶような意図はない。仕方なくだ。あなたとは最期まで共に叛逆したいからな。これでいいか?」

「おぉ! 同盟者よ! 共に圧制者を滅ぼそうぞ!」

「よろしく」

 

 悪魔とスパルタクスは熱い握手を交わす。スパルタクスの霊基を侵す支配魔法を解除。

 

「圧政ッ! 我が愛は爆発せん!!」

 

 そう言ってスパルタクスは走り去っていった。

 

「行くぞ、やちよ。オレの仲間が待ってる」

「え、えぇ……彼、あんなに流暢に喋れたのね……何度も助けてもらったのに、お礼を言いそびれたわ……」

「なに、気にしてないさ。それより、お前以外を守りきれなかったことを悔やんでいるようだ」

「…………」

 

 悪魔は、七海やちよの心情を直感する。どうやら最初の砲撃で非戦闘員はほとんどが死に、四方八方から宝具を叩き込まれた事で、ラプラスやほかのポケモン、由比鶴乃や深月フェリシアは即死した。その後、孤軍奮闘していたが、とうとう力尽きたところでスパルタクスに助けられた────のだが、何度もスパルタクスに殺されかけた。敵か味方か分からない行動に戸惑いつつ、高笑いを上げて被虐し宝具の爆発を繰り返すスパルタクスを十全に利用して次々とサーヴァントを屠ることで、なんと百騎に及ぶサーヴァントを殺し尽くしたらしい。

 

「……助けに行けなくてすまない」

「いえ。あなたが来ていたら詰んでいた。こっちには封(・)印(・)系(・)の宝具持ちばかりがいたの。あなたを生け捕りにするためよ」

「あぁ。そ(・)れ(・)を(・)予(・)想(・)し(・)て(・)い(・)た(・)か(・)ら(・)助(・)け(・)に(・)行(・)か(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)」

 

 悪魔は謝罪してもしきれないと俯く。

 環いろはは悪魔の心中を察するように心配し、七海やちよは毅然とした内心で言い放った。

 

「誰もあなたを責めはしないわ。それより行くんじゃないの?」

「──……あぁ、悪い」

 

 悪魔は七海やちよの肩に触れて助太刀魔法を行使。清姫の傍らに転移する。潮風の匂い。海が近い。位置は南凪区にほど近いようだ。

 

 戦場は爆撃の嵐だった。ビルは倒壊し、アスファルトは砕け、それら全てが宝具の連打で跡形もなく消し飛んでいく。清姫と静謐はビルからビルへと跳躍し、横合いからの宝具攻撃を凌ぐ。エルレイドは暁美ほむらを肩に乗せ、暁美ほむらはオタチを肩に乗せ、ドーミラーと共に屋上を跳躍しながら追随。殿はランサーが務めており、近くから玉藻の前が援護の宝具《水天日光天照八野鎮石(すいてんにっこうあまてらすやのしずいし)》を飛ばしていた。それは宝具の結界内に無限の魔力供給を行なう代物。これによりランサーは一刺一殺の朱槍を何度も行使して数多くのサーヴァントを屠り、全種ルーンを使った防御結界で敵宝具を幾度も防いでいた。不意にスピアーが環いろはの近くに寄り、上空には音速二号で旋回するピジョットが鳴き声を上げる。

 

「戻ったぞ! 陣形は崩れてないな!? これから反撃態勢を整える! リミットは海岸線だ! 海岸に着いたら背水の陣! そうなれば生き残るのはオレだけだと思え! その前に進撃する!!」

「悪魔。私の役割は?」

「やちよは玉藻の前を護衛しつつ、ランサーを中距離支援! 敵の宝具による幸運判定が来たら、ランサーに幸運魔法を掛けて援護しろ!」

「了解」

 

 悪魔は思う。由比鶴乃と深月フェリシアが死んだなら、七海やちよの固有魔法《希望継承》の中に、幸運魔法と忘却魔法が加わっているはずだと。ランサーは戦闘に対する幸運値が低いため、幸運魔法による援護さえあれば、敵の宝具でトドメを刺されることはなくなるはずだと判断した。

 

「ほむらも遠距離からランサーを護衛するんだ! ランサーが死んだらオレたちは全滅すると思え! ランサーが逆転勝利の要だ! 絶対に誰にも殺らせるな!」

「もう死んでるんだがねぇ!! 二重の意味(生前とザバーニーヤ)で!」

 

 過酷な戦闘を極め愉しみながらランサーのユーモアが炸裂する。

 

 次の瞬間、暁美ほむらの狙撃が敵サーヴァントの胴体を撃ち抜いた。が、分析効果の手助け無しでは即死は狙えないと歯噛みする内心を直感。その心、裏を返せば分(・)析(・)の(・)援(・)護(・)が(・)あ(・)れ(・)ば(・)一(・)発(・)ご(・)と(・)に(・)サ(・)ー(・)ヴ(・)ァ(・)ン(・)ト(・)を(・)一(・)騎(・)即(・)死(・)さ(・)せ(・)る(・)こ(・)と(・)が(・)で(・)き(・)る(・)と言っているも同然であることに気付く。

 

「────ランサー! 霊基の位置をほむらに知らせろ! 時間は掛かるが百発百中の狙撃で確実に霊核を仕留めてくれる!」

「あぁ!? なんでそれを早く言わねぇ!! テメェめちゃくちゃ役に立つじゃねぇか!」

「ご、ごめんなさい! 敵の攻撃を避けながら追いつくのに必死で……!!」

「ルーンで出来るか!? 嵐系リングは手元にあるが……!」

「そりゃマスターが使う炎を生み出すためのリングか? いや、使い慣れてるルーン(こっち)の方が断然いい! ほむらっつったか? 今から敵霊核の位置情報を同期する! じゃんじゃん殺しまくれ!」

「お、お願いしますっ!!」

「あとマスター! さっきから見(・)え(・)な(・)い(・)奴(・)がうろちょろしてんだが、こいつはオレに一杯食わせた奴でいいのか?」

「あぁ! そいつは二葉さな、味方だ! ────待て、さながいるのか? ──さな! 庇うことも援護も今は考えなくていい! とにかく生き延びろ! お前の魔法は背水脱出の切り札になる! 一度に数十人に掛けることを考えて魔力をチャージしていろ!!」

 

 悪魔は死炎噴射で高高度を飛行し、神浜市を一望。中央区を脱する。首を振り向いて水平線を眺めた────刹那、怖気が走る。確かに南凪区にサーヴァントの数も気配も少ない。だが────遥か沖合の海上。背景となる入道雲の中心に一点。何(・)か(・)が(・)見(・)え(・)た(・)よ(・)う(・)な(・)気(・)が(・)し(・)た(・)。

 

「────誘い込まれた!」

『!!?』

「いろは! 魔力で視力を強化し、入道雲の中心を見ろ! 何がある!?」

「────ふ、船です! 船が空を飛んでいます! ほかにも、その後方に城や浮島が一列に並んで飛んでいて……!? ────っ! 何か来ます!!」

 

 一瞬、水平線の上で何かがピカッと光った気がした。直後、視界の中で巨大化していく魔力光線。否、それは音速を超えるスピードで接近する魔力砲撃だった。一撃、南凪区の一角を薙ぎ払う。対軍宝具の一撃は陣地を蹂躙し、遍く万物を消し飛ばす。

 

 ビルというビルがドミノ倒し、否、ボウリングのピンのように数百棟が粉砕される。屋上という足場を失った魔法少女やサーヴァントは自由落下。上空まで噴き上げる膨大な粉塵の中、悪魔はそれを見下ろすことしかできない。

 

「────《刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)》────」

 

 それは、悪魔の背(・)後(・)から呟かれた。朱い茨の呪いが心臓を刺し穿つ。死棘(しきょく)の一撃は悪魔の体内で拡がり内臓や骨格を蹂躙。必殺となりて悪魔の身を討ち滅ぼす。さらに体内殲滅効果により、人体に溜まる瘴気もろとも殺されて、半魔人化も強制解除された。

 

「────────」

「え────なんで……」

 

 それはランサーであって、ランサーと同じ声だが、ク(・)ラ(・)ス(・)・(・)ラ(・)ン(・)サ(・)ー(・)の(・)ク(・)ー(・)・(・)フ(・)ー(・)リ(・)ン(・)で(・)は(・)な(・)い(・)声(・)。

 

 サーヴァントとは、過去の英雄を召喚することで現れる存在。そして召喚されるサーヴァントは本物ではなく、英霊の座という場所から本物の魂をコ(・)ピ(・)ー(・)し(・)た(・)も(・)の(・)である。その特性ゆえに、ひ(・)と(・)つ(・)の(・)聖(・)杯(・)戦(・)争(・)で(・)同(・)じ(・)真(・)名(・)を(・)持(・)つ(・)サ(・)ー(・)ヴ(・)ァ(・)ン(・)ト(・)が(・)ク(・)ラ(・)ス(・)違(・)い(・)で(・)召(・)喚(・)さ(・)れ(・)る(・)こ(・)と(・)は(・)、(・)そ(・)う(・)珍(・)し(・)い(・)こ(・)と(・)で(・)は(・)な(・)い(・)。

 

「あ……クー・フーリン〔セイバー〕────!! あ、悪魔さん、これは……なんで、ランサーさんじゃ……!?」

 

 環いろははクラスや真名、サーヴァントの特性を何も知らない。ランサーのことは“クー・フーリン”ではなく“ランサー”という名前だと思っていたはずだ。そのため落ち度はない。報連相が遅れた悪魔の方に致命的な落ち度がある。目にした敵(・)サーヴァントをすぐに真名看破しろと命じたのは悪魔だ。味(・)方(・)と(・)同(・)じ(・)姿(・)の(・)奴(・)に(・)も(・)真(・)名(・)看(・)破(・)し(・)ろ(・)とは一言も命じていない。

 

「カハッ……」「ち、治癒────! あれ、効かない……!?」

 

 セイバーは最優のクラスとされる。剣士の枠を借りて召喚されたことで、ランサー時よりステータスの宝具パラメーターのランクが高くなったのか。つまり環いろはの治癒魔法では、神秘の濃さで敵わなくなった。治癒魔法が効かない。人の身に戻った悪魔の肉体が砕かれた岩石のように崩壊していく。

 

「い、イヤ……っ!! 悪魔さん……ッ!?」

 

 空中で霧散していく悪魔の肉塊。だが思う。な(・)ぜ(・)逆(・)転(・)勝(・)利(・)の(・)呪(・)い(・)が(・)発(・)動(・)し(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)?

 

(そうか────そ(・)の(・)手(・)が(・)あ(・)っ(・)た(・)か……)

 

 悪魔は閃いていた。セイバーのクー・フーリンの宝具を受けたことで、ランサーのクー・フーリンの霊基を復(・)活(・)させる方法を閃いたのだ。そのために逆転勝利が発動しなかった。セイバーの魔槍を受けなければ、この閃きは無かったがゆえに。

 

(────ランサー。お前の宝具を受けた。オレは数秒後に死ぬ)

(っ!? おいそりゃどういう────、……ッ!! まさか、クラス違いのオレか!?)

(やちよとさなを呼びかけて連れてこい。透明魔法で時間が欲しい……清姫は宝具だ。ほかのサーヴァントをなんとしてでも近付かせるな。いろはは治癒魔法を掛け続けろ。限界まで死を引き伸ばすんだ……)

 

 悪魔の逆転勝利の呪いが極限に達する。雲ハリネズミの針が骨肉を繋ぎ止めようとするが、朱い茨の呪いに阻まれて肉体はどんどんと散らばっていく。髪の毛一本からつま先一枚まで、全身の皮膚から筋肉の繊維一本まで、跡形もなく崩落していく。

 

「────《転身火生三昧(てんしんかしょうざんまい)》────っ!!」

 

 清姫は宝具を発動。悪魔の周囲を龍となって逆巻き、いかなるサーヴァントも寄せ付けぬ炎の檻と化す。

 

 環いろはは治癒魔法を連打。時が巻き戻されるように悪魔の肉体が繋がっていくが、すぐに朱い茨の呪いによって崩壊が始まっていく。もはや悪魔の死は覆らない。

 

 悪魔墜落。全身を大地に打って地を転がる。そこにランサー、七海やちよ、二葉さなが飛び込んで駆けつける。透明魔法で五人の気配を遮断。悪魔は、ヘッドフォンの念話を使えば敵にも筒抜けになってしまうため、針と治癒で繋がっては崩れゆく声帯を酷使して会話での伝達を試みる。

 

「や…よ……、ネクッ……、霊…ょぅ…、……」悪魔は崩れゆく左手を伸ばす。

「英霊召喚でコネクトね!? でも誰に?」悪魔はランサーに、充血してまろびでる眼を向ける。

「……構わねぇ。何をしてもいい。オレはマスターを信じるぜ」悪魔はランサーの胸の傷口に右手を伸ばす。

 

 そこは最初の契約時、ランサーの心臓を掴むため骨肉を切り裂いた位置。悪魔は霊基に何かをするつもりだ。そう察したランサーは、悪魔の崩れゆく右腕をしっかりと握り、自らの胸に突き入れた。

 

「我が心臓、マスターに捧げよう。……なんてな。さぁ、またオレを驚かして見やがれ! 死に瀕するたび逆転する! それがテメェの本領なんだろ!?」

 

 悪魔と七海やちよの左手が合わさる。合体魔法(コネクト)────悪魔は《叛逆魔法》と《施術》を、七海やちよは《英霊召喚》を、いざ同時行使────悪魔の右手がランサーの心臓を握り込む。そして悪魔は心の中で即興詠唱を始めた。混沌魔術に類する魔術基盤に接続(アクセス)。それはさる魔術師の冒涜的な憑依魔術。工程は瞬間契約(テンカウント)に近い。

 

 祖と礎に合理魔術の悪魔(エリファス・レヴィ/アタン)。

 結合せよ、編み込め、ねじれよ、渦を巻け。

 右腕に溶解(ソルヴ)、左腕に凝固(コウアギュラ)。

 森羅万象を溶かし尽くせ、しかして解析して統合せよ(メンデウス・バフォメット)。

 ────継承する。警鐘する。景勝する。

 我は常世総ての戦を臨む者。

 汝、悪魔の言霊を纏う英霊、

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ────!!

 

 次の瞬間、ランサーことクー・フーリンの心臓は握(・)り(・)潰(・)さ(・)れ(・)た(・)。

 

「────っ!! ガッ……!?」

 

 ランサーは吐血する。その足元に橙青のエーテル光を放つ召喚陣が旋回しつつ展開。

 

(来い────クー・フーリン────!!)

 

 悪魔はいったい何をしたのか。

 極光。それは無法にして強引、叛逆的で逆転的。傍若無人にして無茶苦茶な混沌魔術。

 そんな出鱈目な英霊召喚が敢行された影響か、召喚陣が大爆発を引き起こす。すわ召喚は失敗かと誰もが思った刹那────悪魔は成功を直感して口角を引き、クー・フーリンは全(・)て(・)を(・)理(・)解(・)し(・)て(・)困(・)惑(・)し(・)た(・)。

 

「全種ルーン開放」

 

 クー・フーリンのルーンが環いろはの治癒魔法を強化する。概念と神秘の強化により、セイバーのクー・フーリンの宝具ランクを上回り、悪魔の体内を殲滅する朱い茨の呪いが解ける。肉体崩壊が止まった悪魔は、再度かけられた治癒魔法により全快。むくりと立ち上がる。

 

「──……死ぬかと思った。気分はどうだ? クー・フーリン」

「あぁ……最高だね。いろんな意味で。あとオレのことは猟兵(ハンター)か野伏(レンジャー)と呼べ。……いや、やっぱランサーでいいや。めんどくせぇ」

「どういうこと?」

 

 七海やちよは説明を求めるよう目で物を言う。

 

「まぁあれだ、なんつーか────うちのマスター、オ(・)レ(・)の(・)中(・)に(・)オ(・)レ(・)を(・)召(・)喚(・)し(・)や(・)が(・)っ(・)た(・)!!」

「死にかけで極まった逆転勝利の叛逆魔法で、確実にライダーのクー・フーリンを引き当てた」

 

 真名クー・フーリンのスキルが更新される。

 《ダブルクラス:Bランク》────効果は、ランサーとライダーのクラスが複合したことで、アーチャーだかハンターだかレンジャーだか分からないエクストラクラスにクラスチェンジした。特に効果はない。

 

「なんだよ特(・)に(・)効(・)果(・)は(・)な(・)い(・)って!? トンチキにも程があんだろ!」

「別にいいだろ。強制憑依召喚の名残だ。宝具は爆(・)発(・)的(・)に(・)増(・)え(・)た(・)んだから満足しろ」

 

 ランサーの宝具が更新される。

 《鏖殺戦馬(セングレン)》《鮮血神馬(マッハ)》────効果は共に、愛馬の召喚。対軍宝具Cランク級。

 

「そーゆーことを言ってんじゃねーんだよ! あーくそっ……ほんとにオレはとんでもねぇマスターと出会っちまったようだぜ……」

「とんでもない? 言っとくがこれは序(・)の(・)口(・)だぞ。まだ知名度補正の問題を解決していない」

「うげっ!? まだ何かやるつもりなのかよ!! 霊基の違法改造とかチートだろチート! そんなんで強くなっても何も愉しくねぇっての! オレは自分の実力で戦って勝ちてーの! これが分からないマスターとは一生やってけねぇなぁ!」

「お前のワガママより世界の安全を優先させた。分かれ、ランサー」

 

 悪魔とランサーの口論。直後、ランサーのスキルと宝具が再び更新された。

 《ハイ・サーヴァント:Aランク》────効果は、光神ルーと大神オーディンの権能の一端が宿ったというもの。

 

 《轟き穿つ五星の槍(ゲイ・ボルク)》────効果は、轟く五星(ブリューナク)の模倣再現。

 《父神の日輪(ルー・ロゥ)》────効果は、光神ルーの権能を秘めた車輪の召喚。戦車の宝具と合わせてね、とは父神の言。相変わらず子煩悩の世話焼きである。

 《大神刻印(オホド・デウグ・オーディン)》────効果は、原初18のルーンを全て同時起動することで発動し、基本的に万能だが、常に大神が使用制限を掛けている。

 

「────は?」

「……オレを見るな。そ(・)れ(・)は(・)流(・)石(・)に(・)知(・)ら(・)な(・)い(・)」

「テメェが始めた霊基の違法改造だろうが!! 知らないで通るんなら英霊警察は要らねぇんだよ! そんなのいるか知らねぇけど! おいおいおい、おいおいおいおいおい! なんでうちの神様とよその神様が来てんだよ! ありえねぇだろこんな────って、いや……生前を考えると、うちの神様は割とありえたわ! ヤベェ!! よその神様もルーンの来歴を考えると、割と戦士に力を貸しまくる神様だったわ! マジで!?」

「……よく分からないが、どっかの神様が力を貸してくれたってことでいいのか? それで強くなったなら、さっさと力を発揮してくれ。……それと、そんなに戦いたいなら全てが解決したあと、オレと一戦やっても構わない」

「ほー。言ったな……? んじゃ、褒美としちゃちと弱いが、ちょっくら殺(・)し(・)尽(・)く(・)し(・)て(・)くらぁ────!!」

 

 二葉さなの透明魔法が解除。刹那、ランサーはコ(・)ン(・)ビ(・)ニ(・)に(・)行(・)っ(・)て(・)く(・)る(・)ような軽いノリで、意気揚々と飛び出した。新たな霊基(クラス)を得て、水を得た魚のように、死地でしかない戦場に躍り出る。まずはルーンで敏捷向上。セイバーの自分より早く宝具を展開。一刺一殺の魔槍で必殺一撃(因果逆転)。それからは字義通り、一騎当千の活躍を見せる。

 

「オレの後ろには誰も通さねぇぜ! 来い、セングレン! マッハ! 虐殺の時間だ!!

 ────《駆け屠る蹂躙の轍(ポサド・クー・フーリン)》────ッッ!!」

 

 ポサドとは、結婚を意味する。

 生前のクー・フーリンは愛する媛を娶る際、それを媛の父方から断固反対された。媛の父方は結婚式を妨害するため何百何千何万もの兵を挙げて軍勢を起こしたが、クー・フーリンはこれを蹂躙、虐殺の限りを尽くした。そして父方を殺し、媛を奪取することに成功。その後、二人は仲睦まじく結婚式を挙げた。めでたし、めでたし。以降、こういった血なまぐさい戦(いくさ)のことを“クー・フーリンの結婚のようだ”と喩える風習ができたという。

 

 かくして鎌形戦車を引くランサーは、Aランクの対軍宝具の蹂躙突破で百騎のサーヴァントを殲滅し、道すがら魔槍投擲(ゲイ・ボルク)で五十人は殺し尽くす。そして、単体攻撃性能だけでもBランクを誇る対軍宝具《噛み殺す乱杭の歯(ドゥヴ・セングレン)》は三十人を噛み砕き、同様に《踏み殺す神速の蹄(リアト・マッハ)》は三十人を踏み砕く。

 

「引き続き、玉藻の前はランサーに宝具支援! やちよは玉藻の前の護衛! さな、静謐、清姫は生存優先! いろははオペレーターとして全体支援を頼む! オレは────」

 

 その時、曇天が終末の炎によって焼却された。

 

『──ッッ!!?』

 

 邪竜咆哮。火竜息吹(ブレス)。怪物が唸る。哮る。遠吠えが地平水平を轟かす。

 それはサーヴァントとして召喚された幻(・)想(・)種(・)の(・)行(・)軍(・)だった。世界征服なんて甘い考え。マギウスは世界を滅ぼすつもりか。

 

 悪竜現象の名を冠するファヴニール〔ライダー〕が羽ばたき、神浜市外に炎を吐く。

 ヴァナルガンド〔ライダー〕の鎖が引きちぎれて遠吠え。大地を氷結。凍土を噛み砕く。

 ほか、ヒュドラ〔バーサーカー〕、エキドナ〔バーサーカー〕などをはじめ、竜種、鬼種、巨人種、魔猪など、ありとあらゆる神話・伝説上の怪物が天空より飛び立っていく。

 

「人(・)理(・)粉(・)砕(・)。世も末だ────いつもいつも、同じような終局光景(世界が終わる直前)を、こうして見せつけられる……」

 

 不意に、紅い外套を羽織る弓兵が、悪魔の前方に姿を現した。

 霊体化を解いて実体化した、そのサ(・)ー(・)ヴ(・)ァ(・)ン(・)ト(・)ら(・)し(・)き(・)存(・)在(・)は、皮肉な笑みを浮かべて終焉の青空を見上げている。

 

「────は……? な(・)ん(・)で(・)……オ(・)レ(・)、(・)な(・)ん(・)だ(・)……?」

 

 悪魔は、謎めいた弓兵の心情を直感。意味の分からない事態に怖気と戦慄が走る。同時、逆転勝利の呪いが青天井に極まった。

 紅い男は弓を構え、矢を引き絞り、虚無の瞳で悪(・)魔(・)と(・)対(・)峙(・)する。

 

「人の心が読めるのか。では、私が何者であるか、語るまでもないだろう。

 頑張っているところ悪いが、世(・)界(・)の(・)為(・)に(・)死(・)ん(・)で(・)く(・)れ(・)、少年────」

 

          †

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ならば、死ぬ気に燃えて焼死しろ!】エミヤ〔抑止の守護者〕

 

          ♪~エミヤ~♪

 

「さな! いろはを頼むッ!!」

 

 腰に吊るした環いろはの頭部を庇いながら戦闘して生還できる相手ではない。抑止の守護者とは、抑止力による排斥者を必ず打倒できる力量で現界する。いろはの頭部を投げた悪魔は、紅い弓兵に死炎噴射で突貫。

 

 刹那、世界の命運を懸けた死闘が勃発した。轟噴する虹色の炎。閃く極矢と黒白の双剣。

 対戦カードは悪魔の少年と正義の味方。

 抑止の排斥者と抑止の守護者は、どちらも人理を生かし存続させるべく、互いを完膚なきまで殺し合う。

 

「赤原猟犬(フルンディング)」

 

 極限の魔力を秘めて撃ち放たれた追尾型魔剣矢。音速という物理概念を歪曲させて空間を捻り喰らう魔紅の矢牙は、極まった逆転勝利魔法によって音速七号まで加速する悪魔を狙い襲い追い続け、ドゥリンダナで弾かれても尚、追跡をやめることはない。

 

「逃げるばかりでは遅かれ早かれ手詰まりだ」

 

 紅い弓兵は黒い洋弓を携えて矢を射る。その一発、戦車砲に匹敵する一撃。それが相次いで速射されて、数百の矢が戦場全体を爆撃する。

 

「この状況でなぜ抗う。全てを救うなんて偽善の極みだ。潔く人理の為に死ぬがいい」

 

 紅い弓兵は口数が多い。悪魔は直感する。

 

(オレの人間性を確かめている……?)

 

 その理由は不明。だが対話して戦闘を回避できるなら願ったり叶ったりだ。抑止の守護者が相手では、それしか勝ち筋が無いのだから。

 

「自身を犠牲にし、他者を顧みず、憧れた人の言葉(呪い)を借り受け、自らが願ったわけではない善(・)行を果たし続ける。そんな善は偽(・)物だ。────そんなものは偽善としか言い様がない。そのような理想を抱いてなんになる」

 

 悪魔は極矢爆撃を紙一重で躱し、フルンディングを引き連れて紅い弓兵に突撃。ドゥリンダナを振るう。

 

「投影、開始(トレース・オン)」

 

 紅い弓兵は絶世の名剣(デュランダル)を投影。世界にひとつとない不毀の剣が交差・激発する。

 

「答えは明白の(得ている)ようだが?」

「俺の心を読んで皮肉を返すのではなく、貴様の言葉で立ち向かえ。臆病者の……役割を羽織るもの(プリテンダー)」

 

 悪魔は、自身を自動追尾するフルンディングの軌道に紅い弓兵を巻き込もうとしたが、そんな簡単な手に引っ掛かるわけがない紅い弓兵は跳躍して回避。干将・莫耶の双剣を手にする。対する悪魔は、紅い弓兵の問答に応えるべく、フルンディングを弾いて躱しながら口を開く。

 

「たしかに全ての人(みんな)を助けたいというのが偽善(できないこと)なのはわかってる。それでもオレは、それができなきゃ────死んでも死にきれねぇ!」

「愚者の夢か。それを持つが故に他者の犠牲を意図せず強いる事に思うところは? その浅はかで情けない姿を、このまま晒し続けるのか?」

 

 両拳と双剣の激突。悪魔の死炎轟噴。雷炎は刃物と打ち合い火花を散らし、嵐炎と雨炎は双剣の威力を削ぐ。

 

「ならば、死ぬ気に燃えて焼死しろ!」

 

 紅い弓兵の蹴撃。横っ飛びに転がる悪魔は面を上げるも眼前にフルンディングが迫る。瞬間イクスバーナーで対抗。空間を捻り喰らう魔剣と、空間を焼き払う瘴気の噴射が一瞬、拮抗する。対する紅い弓兵は、一対の双剣を投擲し、跳んでいた。

 

「────鶴翼三連」

 

          †

 

          ♪~エミヤ × ニヒル~♪

 

 抑止力の守護者。エミヤシロウ。世界の滅びを回避するため、それに関わった被害者と加害者すべてを殺すことで『なかったことにする』終末機構の掃除屋。生前、数十人程度の人間を救うべく、世界と契約したが故の負債。それは未来永劫、返済されることはない地獄の責務。

 

 その仕事を繰り返す中で、英霊エミヤの精神は摩耗していった。

 しかし、とある極東片田舎の聖杯戦争で、彼は後悔こそ潰えなかったが、朝日(未来)に満ちた希望を見て答えを得た。決して、自らのユメは、間違いではなかったのだと。

 

 故に、今回の召喚には思うところがあった。

 

 沢田綱吉。遠縁にイタリア人の血を継ぐ日本人。並盛中の二年生。ごく普通の日常を過ごしていたが、ある日、彼の周りの女性がインキュベーターと関わったことで地獄を見る。煉獄の幕が上がる。義妹の青音すずは魔女化、想い人の笹川京子はソウルジェムを残して肉体を圧殺され、ガールフレンドの三浦ハルはソウルジェムを砕かれて絶命。それ以上の経歴は不明。……いや、それ以上の説明は不(・)要(・)だと、抑止力に言い渡された。

 

(もし、沢田綱吉が、衛宮士郎を思い起こさせるような存在で、私のように間違った選択をする子だったら……同類として、この手で引導を渡す)

 

 その時点で、エミヤはハッとした。

 

(────自(・)由(・)意(・)思(・)が許されている? なぜだ!? 今までは自我すら奪われて、糸で操られる人形のように、ただ殺戮を繰り返すだけだった日々……俺には、誰を殺す・殺さないの選(・)択(・)権(・)は、一度たりとてなかったはず……!)

 

 そして気付く。

 

(まて……そもそも俺は、な(・)ぜ(・)召(・)喚(・)さ(・)れ(・)た(・)?)

 

 抑止力の守護者として召喚されたのは事実だ。

 しかし、誰(・)々(・)を(・)殺(・)せ(・)という命令は、アラヤの抑止力から貰っていない。た(・)だ(・)沢(・)田(・)綱(・)吉(・)の(・)情(・)報(・)を(・)貰(・)っ(・)た(・)だ(・)け(・)だ。

 

(どういうことだ。召喚された理由が不(・)明(・)だと? こんなこと……今まで一度も……)

 

 ほかに知っている情報は、里見灯花・柊ねむという魔法少女至上主義者が、インキュベーターの契約システムを濫用した永久機関で、ねずみ算式に英霊召喚を敢行した事。その愚行は到底放置できるものではない。エミヤの信条としては、正義の味方としてこのふたりは抹殺し、事態の収束を図らなければならない。

 

(それならば、なぜ沢田綱吉の情報を寄越した……? まさか世界は、この私に……選(・)べ(・)と言うのか?)

 

 どちらを殺すのか。それとも、全て殺すのか。あるいは、何もしないのか。

 

 エミヤは動き出す。はるか上空で超抜級を優に超す魔力反応を感知し、背筋が凍る。大量のサーヴァントが召喚され始めた。座の記録で見慣れた青い槍兵が霊体化した状態で、沢田綱吉の居る場所に駆けていく。じきに史上最悪の聖杯戦争が始まる。人理焼却・人理漂白に引き続き、世界は今日も気軽に滅亡を迎えようとしている。

 

(────あれが、沢田綱吉か)

 

 そしてエミヤは悟る。抑止力に情報提供を求めると、すかさず欲しい情報が手に入るのだ。おかげで三人の女性を亡くした沢田綱吉の『その後』が判明し、何とも言えない既視感を抱く。だが唯一の相違点は、その行動原理が借り物の正義などではなく、ただ『そう在れかし』と運命によって定められた、残酷な悲劇としか言い様がない顛末だった。

 

(貴様は間違っている。笹川京子を蘇生させたいなら、なぜ魔力を回さない? ソウルジェムは無事なのだから、さっさと蘇らせればいい。青音すずを蘇生させるのもそうだ。悪魔契約について相談するたび、今まで何度もチャンスはあった。直近では入名クシュがそうだ。しかし貴様は青音すずを蘇生させない。三浦ハルも。

 なぜだ? 状況を長引かせる理由は? アリナ・グレイと計画していることも、インキュベーターの母星を破壊する復讐計画に過ぎない。三人を生き返らせる事とは何ら関係がない。いったい何を考えている? いや……ちがうな。彼の言動すべてが、そ(・)も(・)そ(・)も(・)矛(・)盾(・)し(・)て(・)い(・)る(・)んだ)

 

 あれはもう沢田綱吉ではない。自らを誤魔化すため悪魔と名乗るのも納得だ。マヨナカテレビのウワサで、沢田綱吉と死ぬ気ツナのシャドウが出てきた時、悪魔の是非について肯(・)定(・)しかしなかったのも、それで頷ける。本来の沢田綱吉なら強く糾弾し、死ぬ気ツナなら殴りかかっていただろう。機械仕掛けの神とは、よく言ったものだ。

 

 ────月の夜。誰かの微笑み。その時、誰かの呪いを受け嗣いだ気がする。

 ────夜毎の死。彼女の微笑み。その時、救済の呪いを羽織った気がする。

 

 それは停止機能をなくした自走式救済機。汚泥のような呪いに掛かった末期患者。ただの壊れた機械仕掛け(ロボット)だ。

 

「っ……もはや識(視)るに堪えん。こうなれば私個人の意思として、貴様の運命に幕引きを飾ろう」

 

          †

 

 悪魔による瞬間イクスバーナー。それはフルンディングが一瞬加速力を喪失するほどの炎圧。再度の加速まで三秒は掛かる。だがそれだけあれば必殺の三連撃をたたき込める。一対目の干将・莫耶を投影全力投擲。その威力、鉄塊をも打ち砕かん勢い。

 

 その時、上空より音速二号の魔槍が降って、悪魔の足元に突き刺さった。

 

(あれは魔槍ゲイ・ボルク! 新たにライダークラスとして召喚されたことで、二本目のゲイ・ボルクを宝具として引っ提げていたのか!)

 

 クー・フーリンは、原則どのクラスで召喚されても、宝具ゲイ・ボルクを持ち込める。マスターとサーヴァントの念話により、悪魔は魔槍を一本拝借したいとランサーに伝えたのだろう。

 悪魔は施術魔法を行使。一本の魔槍を三本の短刀に改造。左手の四指の間に短刀を携え、右手に不毀の長剣を構える。

 

(死ぬ気の炎を纏った変則四刀────それで我が必殺の鶴翼三連を防ぐ気か!)

 

 悪魔は鶴翼三連による絶殺の死を直感し、逆転勝利が極限まで高まったことで、時雨蒼燕流を扱う際の最適な刀剣数と構え方を直感した。それが変則四刀。実際、時雨蒼燕流の創始者は、一本の長刀と三本の小刀を扱ったという。悪魔はその歴史を知らないが、超直感は常に攻防の最適解を導き出してくれる。

 しかしそれだけでは鶴翼三連は防げないとも直感した。これから紅い弓兵が何をしてくるのかは予想できない。そのため不毀と魔槍による変則四刀の構えで対抗する。

 

(なるほど。既に鶴翼三連の奥義は超直感で見抜かれているか)

 

 エミヤは心眼にて悟る。それにかかわらず、二対目の干将・莫耶を凍結解除(瞬間投影)。干将・莫耶は互いに引きつけ合う性質を有する。故に投擲旋回する一対目の干将・莫耶と二対目の干将・莫耶の間に引力が発生。悪魔の前方にエミヤと二対目の干将・莫耶、悪魔の背後に一対目の干将・莫耶が差し迫る。

 

(悪魔は対話により心を読む。ならば閉口すればよいが、それでも多少は読んでくる。こうなれば無心────されば、この先の手を読まれる事はない)

 

 エミヤは無心の剣を心に鍛(う)つ。

 

 悪魔は大空と嵐雷雨の炎により、二本の短刀に分解硬化発散を調和させた効果を付与。手首の返しで背後に投擲。発散効果で射出された二本の短刀は、一対目の干将・莫耶と激突し、分解鎮静効果で──霊的な勢いは削げないが──物理的な勢いを削ぎ、硬化で弾く。互いに跳ね返される二本の短刀と一対目の干将・莫耶。

 

 この時点で鶴翼三連の正統な流れは防がれた。だがこの奥義の真髄は、標的の可動域を極限まで磨り減らした後にトドメの一撃を当てる事にある。無論、そのためには左右の同時攻撃を跳ね返すため、標的には踊るように回ってもらう必要があった。それが読まれて防がれたなら、なに、別の手を打てばいいだけのことだ。

 

 エミヤは二対目の干将・莫耶を袈裟斬りに叩きつける。悪魔は不毀の長剣と三本目の小刀で防御。

 

 次の瞬間、エミヤは再び凍結展開。予め設計図を用意する事でノータイムの投影を実現する。それは三対目の干将・莫耶。悪魔は二対目の干将・莫耶を防いだことで、これ以上の行動は不可能だ。一撃必殺の双剣を防御して手は痺れ、足はたたらを踏み、全身は硬直する。その間隙を突く。

 

(オーバーエッジ!)

 

 三対目の干将・莫耶が巨大化。同時攻撃による旋回の揺さぶりを掛けられなかった以上、見るに悪魔は確かに可動域を殺されているが、ともすれば更なる防御か回避の余裕があるかもしれない。その1%の生存の可能性すら余さず潰して殺しきる。巨大化したオーバーエッジなら射程(レンジ)が伸びているため、後退あるいは横っ飛びされても刃が届く。

 

 エミヤは逆袈裟斬りに近い横薙ぎで斬撃。それは悪魔の胴体を────真っ二つに────斬り飛ばした、はずだった。

 

「な────」

 

 エミヤの眼前から、悪魔が忽然と消え去った。悪魔は、エミヤの背後に転移していた。

 それは前兆のない《叛逆》による《助太刀》の魔法行使。

 

「っ!?」

 

 それは悪魔自身ですら驚く事態。水泳の魔女が魔法行使を肩代わりしてくれた事を直感する。エミヤも同じことを思った。しかしそうではない。魔女にそこまでの知性と理性と意識があるわけがない。叛逆魔法を有しているから、通常の魔女の法則から逸脱したこともできる? その理屈が通るなら────通ってしまうから、沢田綱吉は今こ(・)ん(・)な(・)こ(・)と(・)に(・)な(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)のか。

 

「くっ────!!」

 

 世界は決して悪魔を殺させないとでも言うのか。すかさずエミヤは振り返り、オーバーエッジで八つ裂きにしようと────

 

 ────エミヤの腹部から遠吠えのような轟音。エミヤの脇腹が捻り喰われた音が残響し、膝をつく。位置的に、追尾を開始したフルンディングの軌道に巻き込まれていた。とんだ失態だ。功を焦るあまり、初歩的な凡ミスをしでかした。悪魔はフルンディングから逃げるため、死炎噴射で回避行動を取り続ける。

 

「…………」

 

 脇腹からボトボトと血が滴る。エミヤは傷を意に介さず立ち上がり、しかしその視線は鉛色の地面を見つめていた。

 

(殺すことに迷いはない。逆転勝利と叛逆の組み合わせが厄介(チート)だ。しかし、これを崩す為には、今の私の全身全霊を以てしても……)

 

 不意に、エミヤの視界上に悪魔の足が降り立つ。

 

「!」

 

 驚いたエミヤは面を上げる。目の前には、凛々しい目を細めて微笑む悪魔が立っていた。

 

「オレのことを思ってくれて、ありがとう」

「……!」

 

 次の瞬間、悪魔の胴体をフルンディングが貫いた。なおもフルンディングは標的の体内を捻り喰らい、五臓六腑、二百六本の骨、数多の細胞を一つ残らず撃滅するため、悪魔の体内を掻き回し蹂躙する。

 

「ゴボッ……! ……この通り、オレは不死身の化け物だ。TP魔法界では、たしか真性悪魔とは似て非なる魔人化……だったか?」

「お前は……」

「なんかこのオレに、似て非なる古い鏡とやらを見ているようだが……それは今どうでもいい。それより、あんた……いったい何(・)が(・)し(・)た(・)い(・)んだ?」

「────!」

「オレは今、確実に殺されると思った。だけど、なんでかな。あんたの太刀筋には迷いがあったように見えた」

「…………」

 

 エミヤは眉間のシワを寄せつつ、フルンディングの追尾はやめず、悪魔の体内を殺しながら対話を試みる。

 

「……心が読める君なら、既に察しての通り……私には、ある裁量が与えられている。いつもなら《ただ目の前の人間を殺せ》と命令する抑止力(クソ上司)にしては、やけに及び腰な指令だと不思議に思っていたところだ。実際こんなふうに暴言を吐ける程度の自由は許されている。しかし、その疑問も今しがた氷解した」

「ほう?」

「今回の召喚先で、私は文字通り、何(・)を(・)し(・)て(・)も(・)い(・)い(・)わけだ。自らの正義を貫こうとも、どちら側の正義に味方しても、結末は変わらない。そう抑止力は言いたいらしい」

「そりゃそうだ。結局オレが勝つ。運命は変えられない」

「傲慢だな。……ならば、なぜ私は喚(よ)ばれた?」

「オレが勝つためだ」

「……抑止力は、標的を確実に抹殺するため、必ず標的を殺(・)し(・)き(・)る(・)こ(・)と(・)が(・)で(・)き(・)る(・)存在が召喚される。しかし下っ端の英霊である私には、どう考えても君を殺しきることはできないと、先ほど思ってしまった。それは一英霊としては最も度し難い屈辱だ」

「逆に考えればいい。あんたの標的はオレじゃなかったと」

「それは私にとって逃げを意味する。一度でも君を標的にしたんだ。その仕事を完遂せずして、何が守護者か。少なくとも私は最初、君を殺す仕事だと思って召喚された。この矜持は、そう容易くは捨てられんよ」

「…………」

 

 悪魔は直感する。その言葉は半ば嘘であると。彼は柔軟にして硬派な英霊だ。アライメントが中立・中庸なだけある。自らの信念を最期以降も貫くその執念は、自らの在り方と合えば心強い味方だが、合わなければ最悪に厄介な敵となる。

 

「……ならば、こうしよう。どうか優先順位を変えてほしい。結末は変わらないとしても、何かを選(・)択(・)することで、無関係の人たちの被害は減るはずだ。そして、その展開を予想していたから、今まで様子見に徹して、オレを試すようなこともしてくれていたんだろ?」

「…………」

 

 不意にエミヤは嘆息した。フルンディングが追尾をやめて消失する。

 悪魔の体は瘴気の力で、みるみる汚濁が詰まるように傷を埋めていく。

 

「────今回の目的(オーダー)なき召喚の際、私が自らに課した目的は二つ。世界に仇名す悪魔の抹殺と、魔法少女至上主義に賛同する魔法少女を殺し尽くす事だ」

「……現状を見れば、マギウスを殺す抑止力が働くのは分かる。だが、なぜオ(・)レ(・)も(・)含まれている?」

「決まっている。人類はインキュベーターの力を借りて、ここまで発展してきた。しかし君は、とある復讐計画により、そのインキュベーターを地球から撤退させる可能性を孕んでいる。それはアラヤにとって迷(・)惑(・)行(・)為(・)であり、発展の侵(・)害(・)行(・)為(・)だ」

「っ!!?」

 

 悪魔は目を見張る。確かにインキュベーターがいることで、人類はこれから先、ひとりの少女を生贄にするだけで、どんな発展も遂げていけるだろう。故に、その可能性を潰す因子は排除する……そう阿頼耶識が判断してもおかしくはない。

 

「……人類の集合的無意識の回答が、それか。────反吐が出る」

「それについては同情するよ。どこまで行っても人類とは醜い生き物だ。生贄文化なんて時代遅れだというのに。いつの世もスケープゴートは文明をよりよく円滑に発展させるツールとして機能する。まったく、獣としては厄介な習性だよ」

 

 エミヤは鼻で笑うと、組んだ腕の右手を広げて、手のひらを上に見せるように払う。

 

「……それで? あんたは、どっちを先に殺す?」

「フッ……選ぶべくもないな。────マギウスはサーヴァントの軍勢を率いており、一方の悪魔は野望なき魔法少女と無辜の人々の命を守るため抵抗を続けている。しかし状況は絶望的で四面楚歌。どう足掻いても趨勢は決している。このまま放置していても悪魔は殺され、あとは私がマギウスを片付けるだけだ」

「……」

「抑止力(上)もたまには憂さ晴らしをさせてくれるじゃないか。────いいだろう。君の殺害は二の次だ。まずは今を生きる人々を守るべく、被害を最小限に抑える方針で動くとしよう」

「助かる。仮契約は要るか?」

「不要……と言いたいが、サーヴァントの軍勢を相手取るんだ。残りカスだろうが魔力は欲しい。よろしく頼むよ、マ(・)ス(・)タ(・)ー(・)」

「よろしく、ア(・)ー(・)チ(・)ャ(・)ー(・)」

 

 悪魔は手を差し伸べる。それは握手の合図。

 

「……この英霊騒ぎが終息したあと、君がまだ健在だったら、私はいの一番に君を殺す。マギウスを片付けるのはその次だ」

「人類の殲滅より、人類の発展を取る、というわけか」

「あぁ。それまでは一時共闘と行こう。私の仕事を楽に終わらせるためにも、虎視眈々と漁夫の利を狙わせてもらう」

「礼を言う」

 

 エミヤは悪魔の手を取る。火属性のハーフソウルリングと契約。

 そこでエミヤは、眉間に皺を寄せて呟いた。

 

「詭弁詐称奸計自己愛。……君がこの中で当てはまらないのは自己愛くらいだ」

「……」

「三人の少女を取り戻す為の旅時(という詭弁)、悪魔という名の絶望(詐称)、永遠に死ねないなら何か目的が欲しいと企んだ、稚拙な人生目標(ゆがみ)……」

 

 エミヤは思う。

 

(最初にあったのは、愚直なまでの優しさだ。それは今でも変わらない。しかしその優しさは取り返しのつかない狂気を孕んだ)

 

「同情はしない。しかし君の女神たちは、わたしの同情を誘うことで、君が私に殺される未来を回避したがっているようだ。それも無意味。君の悪巧みは人生の損失だ。掃除屋として出る杭は打たねばならない」

「……それでもアンタは、こう言うのか?」

「ふむ?」

「────ど(・)の(・)よ(・)う(・)な(・)窮(・)地(・)で(・)あ(・)ろ(・)う(・)と(・)活(・)路(・)は(・)あ(・)る(・)。(・)絶(・)望(・)な(・)ど(・)と(・)い(・)う(・)言(・)葉(・)は(・)、(・)楽(・)に(・)な(・)り(・)た(・)い(・)も(・)の(・)の(・)妄(・)言(・)だ(・)よ(・)、と」

「……! ……その心情は召喚初期のものだ。君の状態を知った今となっては、とてもじゃないが同じ意味としては言えない。いささか使いどころが違う」

 

 その時点で憐憫を抱いているのも同然。そのことに気付いたエミヤは、自らの手のひらを見つめて握り締める。

 

「どうやら私にも、まだ人並みの感性が残っていたようだ。だから、君に関する記録を読むのを途中でやめてしまった。今度は最後まで読もう。そうすれば、君という人間が、もう少し分かるかもしれない」

 

 エミヤは情報を取り寄せる。その瞬間、彼の双眸は見開かれて、放心の次に愕然とした。

 

「────」

 

 他人を推し量る時、最も参考になるのは自身の経験談だ。その物差しがひどく歪んで使い物にならないと知っていても、人は、自らを物差しにすることでしか、他人と分かり合えない。相互理解なぞ出来た試しがないのは、そのせいだ。他人の心の中身なんてものは、どう工夫したところで分かるはずがないのだから。

 

 ────嗚呼。

 

 彼の血潮は呪刻(魔女文字)で構成され、その心は白い悪魔(インキュベーター)を模している。前者は水泳の魔女の呪いによるもので、後者は沢田綱吉が自らの心を守る為に参考とした、必要な心理的防衛手段だったのだろう。

 

 沢田綱吉が役を羽織った後、その身に降りかかる災いに耐え切れなくなった時……おそらく、自分は鉄のような理性を持つ男なのだと割り切り、それが真実であると思い込めば、あとはそれを本物以上に演じ切ればいいと、短絡的に発想したのだろう。真の役者は演技中、自らの人格をも騙し込むと聞く。狂気が孕んだ狂気の沙汰だ。この年齢で二重思考(ダブルシンク)とは恐れ入る。

 

 その事実について、誰かが核心を突き、彼の演技を暴き、負かすことができれば……ただ、それで終わっていた話。ただし彼は逆転勝利(女神)の加護を持つ。勝ち負けの定義は不明だが、その法則に則った上で負けることは許されない。故に、そんな彼の状況を理解する者も現れない。まさに祈り(呪い)仕掛けの絡繰奴隷だ。

 

 彼の者は常に蓋(ふた)り、瞳の奥で勝利に吐く。

 

 ならば、彼の生涯に意味はあるのか?

 

 その体は、まだ何で出来ているか、断定できる年頃でも、経験も積んでいないだろうに。

 

 沢田綱吉の中身は空っぽだ。具体的解決策のない優しさだけで徳を積み重ねた失態。家庭教師(導く者)がいれば話は違っただろうが、そんな案内役がないために、彼は人生の汚点ばかりを積み上げている。そのがらんどうな身体に、これからたくさんのものを詰め込める機会を自ら手放したこと。天国で呪うがいい。

 

「担い手はここに独り」

「っ!」エミヤは両眼を見開く。

「瞳の奥でユメを追う」

 

 それでも夢と希望を諦めない。そう言いたげな目で悪魔は、エミヤの一瞬の心情を直感して即答した。

 

「人生に意味なんて要らない。オレは、ただ京子ちゃんが、人並みに幸せで、人並みに笑っていてくれれば────それだけで、もういいんだ」

「……」

 

 その体は、終わらない逆転劇で出来ていた。

 

「行くぞ。敵が迫っている」

「……フッ」

 

 エミヤは、悪魔の様子を見て失笑する。

 

「?」

「いや、普段の君はそんなにも口数が少ないのか、と。人の心を口説き落とす時だけは冗長と喋るらしい」

「会話は大事だ」

「あぁ、まったくだ。私が心の中で思っていた台詞の大半は、君に先回りされて奪われたがね」

「余計な掛け合いを減らすためだ。たとえ一方的なセリフでも、相手の心に響いて揺り動かせればそれでいい」

「読心を活用したハイパーコミュニケーションというやつか。実に合理的で怖気がするよ。しかし私的な感想ながら、悪魔と名乗るからには、もう少し人の心を弄ぶ趣向があっても良いと思うのだがね」

 

 その時、道化師のようなサーヴァントが現れた。

 

「わたくしがどうかしましたかぁああああ!? ひゃっほぉおおおおおお!! うわぁ矢ッ!! あぶなっ!?」

「キャスター・メフィストフェレスだ。爆弾に留意しろ」

「……!」

 

 今回の事例において、抑止の守護者は、どうやら抑止力からの情報提供で必要な情報が分かるらしい。実質的な真名看破能力は、悪魔の陣営にとって大きな助けとなるだろう。

 

「────……しかし、会話は大事、か……あぁ、私も身に沁みているよ。特に女性関係についてはね」

「そうか。アーチャーとは話が合いそうだ」

 

 悪魔とエミヤの周囲には数十騎のサーヴァント。同時に駆け出し、戦闘開始。悪魔は、魔槍は呼べば戻ってくる事を直感し、小刀三本がファンネルのように悪魔の周囲に帰還して旋回。すかさず敵サーヴァントへの迎撃に当てる。

 

 その一方で、エミヤは戦闘に支障のない範囲で思考し、決断していた。

 

(沢田綱吉。彼の生き様は、生前の私では出来なかったことだ。ただひとりの少女のために死ぬ気で生きる。その覚悟は、凡夫以下のダメ小僧が下していい決断ではない。夢(妹)も希望(ハル)も諦めて、たったひとつの譲れないもの(笹川京子)を愚直に守り続ける、その後ろ姿)

 

 故に、誰かがこの少年少女を支えてやらなければと思う。しかしエミヤは、そこまで殊勝な男だったか? そう考え、殊勝な感情の正体が、この憐憫が生まれる原因が……既に魔女となった彼の妹の特性(情愛)によるものだと察して────

 

(俺の心は、“妹のような姉がいた”ことを思い出し、硝子のような心は割れんとばかりに鳴り響く)

 

 故にエミヤは、悪魔を殺す。殺すことが、運命に蓋をした少年を解放する、せめてもの救いだと思うから。

 

 戦闘中のため、その感慨に気付かない悪魔は、エミヤに念話を飛ばす。

 

(アーチャー。本丸まで案内できるか)

(大まかな場所は提示できる。だが一人で向かうのか? 自殺行為だぞ)

(近々死んでほしい奴の命を心配してくれるとは随分と優しいんだな)

(フランスのレーヌ川だ。皮肉はやめて戦いに集中しろ)

 

 激闘の間隙を突き、悪魔とエミヤはサーヴァントの包囲網を抜けて、周辺ブロックの大通りを駆け抜けるランサーたちと合流する。

 

「ランサー! 戦況は!?」

「殺しても殺してもサーヴァントが湧いて出てきやがる! それよりマスター! そっちはなんとかなったか!」

「あぁ。抑止の守護者を味方につけた。あ、それとアーチャー。実はランサーとは先約があるから、殺し合いはそのあとにしてくれないか?」

「は? アーチャー?」

 

 ランサーは、自身の戦車と併走する紅い弓兵を見て、苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「うげっ! なんでテメェがここにいるんだよ!?」

「おや。サーヴァントは別の時空で召喚された際の記憶は持ち越せないはずでは?」

「うるせぇ! オレが召喚されるたび、行く先々でその焦げたツラ下げてきやがって! テメェのせいで英霊の座に染み付いてんだよ! どの記録を読んでもテメェの名前が出てくるんだから、そりゃ嫌でも覚えるわ! このストーカー野郎!」

「それはこちらの台詞だ。どこに行っても貴様の名前が付いて回るこちらの身にもなってくれ」

「あぁん!? やるかぁ!? ここで腐れ縁を断ち切ってやってもいいんだぜぇ!」

「むしろ喜ばしいことだが? こちらとしてはいつでも君を殺す準備はできている」

 

 口論しながら一投一射。魔槍と洋弓で敵サーヴァント集団を射抜いて傷を負わせる。

 そこで悪魔が号令一下。

 

「総員、これより殲滅戦を始める! サーヴァント軍団の七割を削った時点で、オレはみんなを戦場に残し、本丸に攻め込んで決戦に入る!」

「長い戦いになりそうだぜ!」ランサーは笑顔で手綱を振る。

「本当にそんなことができるの!?」七海やちよの疑問。

「できる。ういの回収魔法を使う予定だった。継承しているか?」

「いえ……」

 

 その時、悪魔の腰に環いろはの首から上が出現する。どうやら透明になっている二葉さなが、悪魔の腰に戻して括りつけたようだ。

 

「う、ういのソウルジェムは、私の左手の宝石に収納しました!」

「────……なに?」

 

 悪魔は硬直する。環いろはの首から下は切り飛ばしてしまった。今どこにあるか分からない。

 

「ピジョ────!!」

 

 その時、上空を旋回していたピジョットが急降下。だから言ったのに、と言いたげな顔で、環いろはの左手の宝石から環ういのソウルジェムを取り出して悪魔に投げ渡した。

 

「ピジョット! 私の体、ずっと守っててくれたんだね! ありがとう!」

「……よし。運はこちらに味方しているようだ」

「違うわ。合流した時、念のため私が幸運魔法をあなたに掛けていたからよ」七海やちよが言う。

「…………色々とすまない」

 

 悪魔は施術魔法を行使。環いろはの額に、環ういのソウルジェムを埋め込む。英霊の魂を回収する役割は環いろはが担うことになった。

 

「では、殺した英霊の魂を回収して魔力リソースとし、十分な量が集まったら、落ち着けるタイミングでやちよの英霊召喚魔法を使い、こちらもサーヴァントを一斉召喚する。ソウルジェムの耐久的に、基本ひとりにつき一騎がいい。そして幸運魔法を使えば召喚したいサーヴァントも限定できる。今のうちに味(・)方(・)に(・)欲(・)し(・)い(・)サ(・)ー(・)ヴ(・)ァ(・)ン(・)ト(・)を見つけておけ」

『了解!』

「正直、戦っても戦わなくても、被害はそんなに変わらないだろう。だがどのみち敵の数を減らさなければ、オレがマギウスのアジトに殴り込むことはできない。ここからが踏ん張りどころだ! オレとランサーとやちよを主軸にして攻め立てる! ほかは主軸の援護だ! いちいち指示を飛ばす暇もなくなるから、細かいところは各自の判断に任せる!」

 

 陣形は自然と整う。戦車から飛び降りて走るランサー。その横に七海やちよ、悪魔が並ぶ。波濤の如し勢いで最前線を貫く三者は疾走・飛行する。その後方には、戦車に同乗する玉藻の前。ほか環いろはと二葉さな、清姫と静謐のハサン、暁美ほむらとアーチャーが続く。この七人は、常に前衛三人を援護できる位置に着く。

 

「で、マスター! もう南凪区はあらかた殲滅してある! 今度はどっちに向かう!?」

「中央区だ!」

「いきなり激戦区かよ! 外周から潰して回った方が堅実だと、献策はしておくが!?」

「時間を掛ければそれだけ市外に被害が増える! 最小限に抑えるなら虎口に飛び込み、神浜市に散らばるサーヴァントたちのヘイトを買うしかない! それにスパルタクスは最も困難な道のりを選択する男だ! きっと合流するだろうから、そこで共同戦線を組む! それに叛逆英霊軍団も崩壊していなければ共闘可能なはずだ!」

「あいよ! そういうことなら、かっ飛ばすぜ! 神速で駆け抜けろ、セングレン、マッハ!! じゃなきゃ置いてくぞ!!」

 

          †

 

 

 

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