※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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第4.5章 仏国聖杯戦争 中盤戦 戦闘狂極楽界 神浜 ‐フェイト・ファイト・ファイト‐

FGOマテリアルとの戦い



【自分自身に礼なんてよせ。当然のことなんだから】笹川京子〔悪魔 沢田綱吉/プリテンダー〕

 

「あいよ! そういうことなら、かっ飛ばすぜ! 神速で駆け抜けろ、セングレン、マッハ!! じゃなきゃ置いてくぞ!!」

 

 

 

 

 

          †

 

 

 

 

 

 中央区の境界線、その手前。低級サーヴァントの複数部隊を蹴散らしつつ目的地へ進軍する中、悪魔は以前から疑問に思っていた事にアタリをつけた。その疑問とは、今も生存して一線級の活躍を見せる、七海やちよのことである。

 

 いくら七海やちよといえど、数百のサーヴァントを一度に相手取り、たとえスパルタクス一騎の助力があったとしても、勝利・生還できるわけがない。スパルタクスの宝具の特性を考えれば、立ち回り次第では可能かもしれないが……それでも勝率が極めて低すぎる。サーヴァントの大軍と、魔法少女とサーヴァントがふたり。普通なら囲まれて叩かれただけで絶命するほどの戦力差だ。ならば、それをひっくり返した要因は?

 

(まさか、やちよ────お前、無意識に……サーヴァントの希望を、継承させてもらっているのか?)

 

 悪魔は一つの仮説を立てた。マギウスは、サーヴァントにQB契約するよう命令した。つまり全てのサーヴァントは魔法少女──正確には魔法英霊──であるのだ。そして七海やちよの固有魔法は、魔法少女に類する者の希望を受け継ぎ、自身の魔力に変えること。

 

 つまり七海やちよはサーヴァントを倒すたび、倒したサーヴァントの希望を継承することでパワーアップしている。継承条件は、おそらく倒されたサーヴァントが七(・)海(・)や(・)ち(・)よ(・)の(・)事(・)を(・)認(・)め(・)た(・)場(・)合(・)だろう。

 

 悪魔は環いろはに指示を飛ばす。七海やちよに真名看破魔法を掛けろ、と。それで判明した内容は、恐るべき魔法の数だった。

 

 カーミラの《吸血魔法》や《(女性特攻の)拷問魔法》

 武則天の《密告魔法》や《猫避け魔法》

 ナイチンゲールの《治癒魔法》や《人体理解魔法》

 メドゥーサの《魔眼石化魔法》や《(不具合的)成長魔法》

 ゴルゴーンの《魔物召喚魔法》や《異形化魔法》

 

 上記はほんの一部に過ぎない。固有魔法以外にも、サーヴァントの魂そのものを、聖杯という濾過器すら通さず、無意識のうちに分解魔力で純粋な魔力に変換し、常に最大パワーを維持して戦っている。

 

 そのため今の彼女は、《七海やちよ 運命(Fate)Ver.》と言ったところか。しかし、いくら手札が増えても、すぐに使いこなせるわけではない。また、手札が増えると、いざというとき判断に迷う。そのため七海やちよは、半ば意識的に受け取った固有魔法は封印し、継承した魔力だけを使って戦闘している。慣れない魔法で戦うより、シンプルなパワーアップキットとして希望継承を使う。それは七年ものあいだ最前線を生き抜いているだけある、賢い選択だった。実際、七海やちよの武具や戦術(スタイル)は、既に申し分ない。継承した魔力によるブーストさえあれば、自然の猛威にも喩えられるサーヴァントの防御を貫き、致命打を与えることが可能だろう。

 

          ♪~聖者の行進~♪

 

 中央区に入る。悪魔一行の視界前方に敵サーヴァント軍団が一同に整列。が、その列の中から外れた一人の男が、誰よりも前に立って悪魔たちを待ち構えていた。騎士の甲冑を着込む男性は盾を持ち、まるで悪魔を試すかのような心情で死にに来た。

 

 環いろはの真名看破魔法が炸裂。対象はギャラハッド〔シールダー〕────その宝具は、無敵と称される信念の聖盾。円卓を象徴する理想の具現。

 

 すかさず悪魔は叛逆を織り交ぜた施術魔法を行使。ギャラハッドと激突。膝蹴りが盾で防がれるが、接触した時点で悪魔の勝利。叛逆魔法で対魔力を無効化し、施術魔法で霊基と宝具を切り離す。奪い取った宝具の名は《いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)》……それを《SISTEMA C.A.I Ver.D》のシールド一枚目に装着。単なる死炎の盾であったそれは、およそサーヴァント戦闘に耐えられないため、今まで未使用だったが────盾の宝具を手に入れた今なら、サーヴァントの宝具攻撃にすら耐えられる絶対の防御力を発揮する。

 かくして死炎魔力兵器とサーヴァントの宝具が融合した。仮に名付けるなら《SISTEMA C.A.I. Ver.D.N.P.》……(スィステーマ・シー・エー・アイ バージョン・ディアボリック・ノウブル・ファンタズム)……“瞬時武装換装システムの悪魔的宝具版”と言ったところだろう。

 

 悪魔の貫手。ギャラハッドは上体と首を逸らして躱す。敵意がないため逆転勝利が発動せず殺しきれない。刹那、悪魔はギャラハッドの後方に、御旗を振るう女騎士の姿を見た。環いろはが真名看破、対象の名はジャンヌ・ダルク〔ルーラー〕────マギウスによって召喚された全てのサーヴァントの旗頭として先頭に立つ救国の聖女は、今、人理の影法師として、英霊たる者たちがどのように立つべきか、その方針を指し示す。

 

「────聞け! この領域に集いし、一騎当千・万夫不当の英霊達よ! 本来相容れぬ敵同士、本来交わらぬ時代の者であっても、今は互いに背中を預けよ! 魔法少女(マギウス)を救済するためではなく、我らが契約者の未来を幸多きものへと繋ぐために! いざ翼のない悪魔を、大空へ射(い)届けん! 我が真名はジャンヌ・ダルク! 主の御名のもとに、貴公らの盾となろう!」

 

 人理焼却を乗り越え、編纂と再編を解決した人理継続保障機関カルデア。2017年における人類史上最大の聖杯探索と異聞帯との聖杯戦争、そして人類悪(ビースト)との戦いが無事見事解決に終わり、はや二十七年。カルデアの記録を持つ者も、持たざる者も、この大いなる次代の災厄に対し、英霊としての新たな在り方を強いられる。が、新たな在り方と言っても、それはいつの世も変わらぬ、新しくも古くもなんともないコト。

 それは、ただ己が信念を貫くためだけの殺し合い。それが────聖杯戦争(霊長の通過儀礼)だ。

 

「目標、悪魔! 弓兵(アーチャー)と魔術師(キャスター)の砲撃陣、撃(て)ぇ────!!」

 

 第一陣による瀑布もかくやな大砲撃が、波濤を凌ぐ勢いで絨毯爆撃と降り注ぐ。魔力の光矢と光線。爆破する大地。その真っ只中を飛び越える悪魔は────

 

「第二陣! 騎兵(ライダー)、突撃(チャージ)!!」

 

 ────音速で迫り来る騎兵軍団を真っ正面から迎え撃つ。

 

 極みに極まる逆転勝利。悪魔の奮う拳は、魔神が奮う豪腕となりて、打擲、地殻を貫き、マントル、轟々赫々(ごうごうかくかく)と噴き上げる。

 

「これで本気なのか? だとしたら英霊というのも底が知れるな」もっと逆転勝利を極めなければサーヴァントには勝てない。故に煽る。

「第三陣! 剣騎(セイバー)・槍兵(ランサー)・狂戦士(バーサーカー)・暗殺者(アサシン)、出陣(アタック)!」

 

 発散魔力とルーンによって噴き上げる溶岩に、槍の刺突で孔を開けた七海やちよとランサーは、最前線に躍り出て悪魔と肩を並べる。悪魔の腰に吊るされる環いろはの真名看破が念話で自陣に行き届く。

 

 かくして始まった。ここからは死に物狂いの激戦。永きに亘る熾烈な死闘と相成ろう。

 

 緒戦を飾るは白き花の姫騎士。アルトリア・ペンドラゴン・リリィ〔セイバー〕、略称セイバーリリィ。かのアーサー王伝説に伝わる騎士王その人……の若き頃の姿である。平行世界がどうであるかは定かではないが、少なくともこの世界では、アルトリア・ペンドラゴンは英霊として召喚されるはずがない特殊な守護者である。しかし、とあるIF(イフ)は例外らしい。

 義兄サー・ケイと、姿が見えぬお付きの魔術師マーリン、二人の援護を受けつつ、セイバーリリィの選定の剣(カリバーン)が、悪魔の覇者の剣(ドゥリンダナ)と相剋する。

 光芒激発。互いに直感持ちの剣士が刃で切り結ぶ。セイバーリリィは研ぎ澄まされた感性で、常に自らにとって最適な展開を感じ取り、悪魔は我が身に流れる血統で、常に自らにとって最適な状況を感じ取る。互いの能力は、既に未来視に至るレベル。一時的にだが究極超直感に至れる悪魔は、最高位の千里眼と同種の能力を獲得する。

 直感勝負では、僅差で悪魔に軍配が挙がる。ならば魔力放出だ。武器と肉体に魔力を帯びて瞬間放出。それは悪魔の死炎噴射闘法にも似ていた。互いに同じ戦術(スタイル)を有する。しかし放出量の面ではセイバーリリィが圧倒的に優勢。力任せの膂力に荒削りの技巧、そして生まれ持った才能(センス)の三種が合力し、悪魔にとって致命的な斬撃を放つ。

 それは逆転勝利の効果発動を意味する。極限の総合能力値向上は、既に定まった判定を因果逆転の如く覆し、拮抗。悪魔が瞬間的に勝り、貫手がセイバーリリィの胸元に差し込んで心臓ひいては霊核を穿たんと────

 ────花の旅路。それは少女騎士に向けられた祝福(ギフト)。サー・ケイの武器と火炎が悪魔の体を貫いて逆巻き、マーリンの幻術が悪魔の五感を狂わす。直感ならば視覚・聴覚に干渉する妨害を半減するが、悪魔の超直感は対生物限定。姿も見えず、そこに心が存在しない置き弾のような幻術攻撃を防ぐ術は持っていない。悪魔の動きが迷走する。それを隙と見て攻撃するセイバーリリィは悪魔の首を断ち斬らんとする。が、再び逆転勝利により幻術を脱した悪魔は、サー・ケイの火炎すらも抜け出して、貫手の絶技でセイバーリリィの霊核を打ち砕く。

 同時、環いろはは口を開けて、口腔内に生成したクロスボウから圧縮光矢を発射。悪魔の嵐炎から分析効果を貰っていた環いろはは、サー・ケイの霊核を確実に撃ち抜く。

 そこが最大の間隙となる。セイバーリリィは、自らが殺されること前提で宝具を開封していた。

「選定の剣よ、力を! 邪悪を断ち、少女を悩ませる悪魔を撃ち殺せ!

 《勝利すべき黄金の剣(カリバーン)》────!!」

 かの宝具はその名の通り、確定した勝利の布石を敷いて黄金の輝きを解き放つ。誰しも行動直後は隙が生じる。悪魔ならサーヴァントを殺した瞬間。それを首だけの魔法少女や青色の魔法少女、アイルランドの光の御子や紅い弓兵がサポートしていた。しかし総勢百万のサーヴァントが集うこの戦場。たった十数人で立ち向かうには、孫の手があってもサポートの手は不足する。

 星の聖剣には劣るが、光の熱量が悪魔の胴体めがけて飛来し、その五体を打ち砕くであろう────と思われた。悪魔の姿が忽然と消える。それが悪魔による助太刀魔法であることをセイバーリリィは知らない。ただ魔術のたぐいで空間転移したことだけは直感した。そんなのずるいと叫びたいが、それは騎士としてあるまじき醜態思考。

 というより、そもそも────これは、正しい戦いだったのだろうか?

 そのようなことを直感し、そんな迷いが生じた時点で、姫騎士の敗北は確定していた。否、正しいに決まっている。マギウスの魔法少女は、みんな魔女化を怖がって泣いていた。そんな人たちを救うことが、正しくないはずがない。間違っているはずがない。だがそこで、戦場を飛ぶ悪魔を見、泣きたくなるような心を直感する。悪魔は、マギウスを助けようとしている。だったら、そもそもこの戦いに勝者はなく、敗者もない。ただお互いに気持ちが噛み合わないだけで、一方が肩肘張って、喧嘩が長引いて拗れて、まったく変なことになって参っちゃう……そんな、村の子供たちの間でよくある痴話喧嘩に似ているなと、拙い経験ながら、セイバーリリィは不謹慎だと知りつつ咲い、黄金の粒子を立ちのぼらせて消滅した。

 

「我が才を見よ! 万雷の喝采を聞け! しかして称えるが良い、黄金の劇場を! 《招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)》と────!!」

 固有結界と似て非なる大建築大魔術。絶対皇帝圏の宝具が長期展開する。対象は悪魔のみ。彼を閉じ込めている間、他の魔法少女やサーヴァントを殺戮せんと画策する。

「毒を射出器に流し込みましょう。悪食こそがローマの美食。食べて吐いてが美食の流儀。哀れな生贄、聖なる御食を、陛下に捧げます」

 さらに黄金劇場の改築(カスタマイズ)により一部機能変装。部下ロクスタの宝具「《茸、聖なる御撰なれば(フィニス・フングス)》!!」と合体することで、毒きのこシチューを射出器より発射。その水圧は金剛石(ダイヤモンド)を断ち切り、その猛毒は即死級。触れるだけで魂が爛れる毒薬とならん。

 環いろはが真名看破。ロクスタ〔アサシン〕の宝具にこそ勝機有り。だがそれはローマ皇帝ネロ・クラウディウスが一番よく理解している。故にギャラハッドの盾のように取らせはせん。悪魔は円卓の盾で、黄金劇場の全方位から撃ち込まれる猛毒狙撃を防ぎつつ、炎を帯びるネロの剣と火花を散らす。

「女神が……女神が見える……!! 勝利の女神こそ、狂気の象徴!! 《我が心を喰らえ、月の光(フルクティクルス・ディアーナ)》!!」

 一方、黄金劇場の外では、ネロの伯父たる暴虐皇帝カリギュラ〔バーサーカー〕が宝具を開放。上空に投影された月の光は、カリギュラ自身の狂気を拡散伝播させる。光線感染する狂気は広範囲型の精神汚染攻撃として機能し、敵味方を問わず、瞳の色が狂気の赤黒い光彩に滲み、さながら屍人(ゾンビ)の如くよだれを撒き散らして隣の奴を咬み食い殺す。

 多重抗魔力と多種ルーン結界によって狂気から逃れた七海やちよとランサー。躍り出る百のサーヴァントをランサーが相手取り、セイバーリリィから継承した固有魔法(きぼう)《心的前進魔法》により包囲網を掻い潜った七海やちよが一刺。カリギュラの霊核を貫いて離脱する。

「《童女謳う華の帝政(ラウス・セント・クラウディアス)》!!」

 舞台は戻り、黄金劇場。ネロによる大火の剣技が放たれる。が、それを受けて流され、返す刀で霊基を切られる。既に頭と心臓は壊された。されど三度、落陽を迎えても、ネロは死なず、皇帝特権を存分に奮う。剣術・軍略・神性。悪魔を打倒する為のスキルを全て身に付け、ロクスタの援護射撃も加わり、ここに幕引きを飾る。

「星馳せる(ファクス)────」

 刹那、環いろはの口腔から極大光矢が炸裂した。三十秒(3ターン)に及ぶ蓄積(チャージ)からの必殺(マギア)。それは嵐炎の分析効果を受けて的確に急所の霊核を射抜いていた。小刀三本がファンネルのように飛び交ってロクスタに突き刺さると同時、助太刀魔法で彼女の背後に転移した悪魔はトドメを刺さず急上昇。振り返ったロクスタは即死級の猛毒液を射出するが、それを敢えて受けた悪魔は逆転勝利が極まる。死炎轟噴。黄金劇場の天井を破壊して瓦礫を蹴り飛ばす。黄金劇場という建造物は魔力で編まれているため、その瓦礫はサーヴァントに直撃すればダメージとなる。瞬く間に全壊崩壊していく黄金劇場。見るも無残な黄金の瓦礫に埋もれたロクスタは圧死。悪魔は黄金劇場からの脱出に成功する。

 

「《幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)》!!」

「っ!!」

 ジークフリート〔アサシン〕。姿を隠す外套(タルンカッペ)を羽織った隠密暗殺連発魔剣。真エーテルも開放して黄昏色の剣気が昇る。極まる逆転勝利が叛逆施術のランクを引き上げる。悪竜の血鎧(アーマー・オブ・ファヴニール)はBランク相当の攻撃および魔術を無効化する防御宝具だ。その装甲をぶち抜いた悪魔の貫手は、黄昏の聖魔呪剣によって半身を斬り飛ばされながら環いろはの治癒魔法で再生しつつ、ジークフリートの霊基にかすり傷を入れる。本来なら霊核に届いて砕けている必殺攻撃のはずだったが、かの防御宝具はAランク以上のダメージもBランク分の数値を差し引くことで合計ダメージを削減する。つまり悪魔の貫手はAランク(50ポイント)相当であったため、Bランク(40ポイント)相当を差し引き、ジークフリートに与えたダメージはEランク(10ポイント)相当となった。

「《幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)》!!」

「──っ!!?」

 間髪を入れず二発目の宝具が発動し迫る。悪魔の攻撃は削減されてかすり傷にしかならない。だが悪魔の周囲に群がり隙あらば必殺しようとするサーヴァント達が、バルムンクの宝具に巻き込まれて吹き飛ばされて消滅している。

「それがあんたの正義か」

「すまない。俺には、こんなことでしか────」

「いいや足りない。も(・)っ(・)と(・)本(・)気(・)で(・)殺(・)し(・)に(・)来(・)い(・)、(・)竜(・)殺(・)し(・)の(・)英(・)雄(・)ジ(・)ー(・)ク(・)フ(・)リ(・)ー(・)ト(・)」

「……!?」

 既に本気で殺しにかかっている。普段の十二倍増しの膂力で戦っているというのに、なおもまだ不足しているとのたまうのか。何か狙いがあるのか定かではない。だがこの無価値な争いに決着をもたらしてくれるなら────その煽りに全身全霊で応えよう。ジークフリートは距離を取る。真エーテル解放、臨界点突破、宝玉爆裂、霊基自壊、霊核破損、まだ足りぬ。もっとだ。生前、自らを願望機とした以上……今回の召喚で正義の味方をまっとうできないと悟った以上……せめて何か出来ることを、魂の咆哮で成すしかない。──そうだ。真名解放と同時に壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)もぶちかまそう。さらにタルンカッペも上乗せだ。連鎖召喚された宝具《ラインの黄金》も処分するついでにくれてやろう(ブロークン・ファンタズムだ)!

「これが俺の全身全霊だ! 行くぞ! 邪悪なる竜は失墜し、世界は今、落陽に至る! しかして黄金の夢から醒め、揺籃から解き放たれよ! 悪魔、滅ぶべし! ────《極大幻想聖魔呪剣・大空天魔祖竜失墜(ハイパー・オブ・バルムンク)》!!」

 大空(だいくう)の極剣が迸った。一方、極大の逆転勝利が、悪魔に究極的な直感を授ける。それは限定的な未来視の形ではなく、自らにとって最適な武器の使い方を閃く形で発動した。

(時雨蒼燕流 槍式・三の型・改────《刺し穿つ死散(しさん)の雨》!!)

 それはクー・フーリンの神髄たる奥義《刺し穿つ死棘(しきょく)の槍》と、時雨蒼燕流は攻式・三の型《遣らずの雨》を組み合わせた、新たなる必殺奥義。

 死炎轟爆の蹴撃(しゅうげき)によって蹴り飛ばされた真紅の小刀三本は、それが持つ因果逆転(朱い茨)の呪いを発揮し、必中の概念を事前に有する。すなわち“蹴り飛ばしたから急所に当たる”のではない。“急所に当たる結果を構築してから蹴り飛ばす”のだ。ジークフリートの戦闘的幸運値はEランク相当。すべからく判定は失敗。回避は不可能。概念防御も持ちえないため、抗いようのない絶対の死が襲来する。

 赤雷の如く不規則な軌道を描いて飛び交う小刀三本は、ジークフリートの頭も首も心臓も股間も狙わない。既にジークフリートの急所は貫いているのだから、悪竜の血鎧を避けて通れる道を概念的に(分からずとも)見つけ出し、唯一防御宝具に覆われていない背中に突き刺さって貫き、霊核を三枚に下ろすように打ち砕いた。そしてゲイボルクが持つ体内殲滅効果が発揮。霊核を貫かれてなお霊基・体内を蹂躙する死の棘の増殖。朱い茨の三雷呪は、まさしく鉄壁だった竜殺しの大英雄を体内から撃滅し尽くした。ジークフリートは瞼を伏せ、瞬く間に黄金の粒子となって消え去った。

 同時、黄昏の剣気が戦場を呑む。体内殲滅効果で全身の筋肉をズタボロに引き裂かれたジークフリートは手元が狂う。それでも悪魔の希望通り(悪魔はそこまでするとは思っていなかったが)、強引に体勢を切り返して悪魔の片腕を持っていく。滅却される左腕。すかさず環いろはの治癒魔法で瞬間再生。かくして中央区から南凪区を越えて大海から遠洋へと、縦一文字に斬り拓かれた黄昏の橋が、地表に燦然と架かる。そしてバルムンクの軌跡は幸か不幸か、遠洋上空に待機していた高機動型大広間エハングウェンに命中し、その大広間を海中に撃ち落とした。

「あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! よくもぉっ! よくもジークフリートをぉお! 悪魔(ハーゲン)ッッッ!!! 邪悪なる竜は地を這いずり回り、我が憎悪は炎の如く! アハハハハ! なんて言うと思った? ────《我が声を聞け、灼熱にして復讐の神々よ(ヘールト・グルート・ラッヘゲッター)》ァアアアアッ!!!」

「……ッ!?」

 英雄ジークフリートの妻たる王妃クリームヒルト〔アヴェンジャー〕の絶叫怨嗟。流離魔剣(バルムンク)より邪悪なる火が逆巻き、悪魔を魂に至るまで焼却しようと奮われる。環いろはの真名看破。その宝具は奸計や騙し討ちなど、およそ英雄の誇りとは言い難い攻撃方法であれば威力が高まる代物。現にクリームヒルトは、夫を殺された怒りに身を任せて悪魔を討とうと見(・)せ(・)か(・)け(・)て(・)い(・)る(・)。真の狙いは、悪魔を援護する環いろはの焼却。それを超直感で看破すれば、もはや恐るるに足らぬ。逆巻く火炎が赤黒く迸る。それは悪魔を狙うと見せかけて環いろはを襲った。直後、小刀三本がクリームヒルトの右肩・左脇腹・右足を突き刺す。特に右足は靴と骨肉を貫いて地面に突き刺さり、クリームヒルトをつなぎ止めて行動を制限。悪魔は宝具の回避と必殺の一撃を叩き込むため、助太刀魔法でクリームヒルトの背後に転移────しようと思ったが、横合いからハーゲン〔ランサー〕やヒルデブラント〔セイバー〕等、数騎のサーヴァントを屠ってきた七海やちよがクリームヒルトの霊核を貫く。すかさず悪魔は死炎爆噴で宝具を躱し超接近、嵐炎で霊基位置捕捉、叛逆と施術による貫手でクリームヒルトの霊基を撃ち抜き、砕かれた霊基から宝具バルムンクを切り離して奪い取った。

 

『UOOOOOOOOO────!!!!』

 突としてローマ兵の剣槍弓を取り揃えた三部隊が悪魔に突撃。それを通りすがりのランサーが蹴散らし首を撥ねる最中、悪魔は施術魔法を行使した。聖魔呪剣(バルムンク)から青い宝玉(真エーテルの塊)を抜き取り、不毀の剣(ドゥリンダナ)の柄に埋め込む。これにより不毀の剣はビーム兵器となり、より覇者の剣らしい光輝と貫禄を兼ね備える。また、宝玉なき聖魔呪剣は施術魔法で三つに分割し、三本の小刀(ゲイ・ボルク)の外骨格として装着した。

「私は来た! 私は見た! ならば次は勝つだけのこと! 《黄の死(クロケア・モース)》!!」

 真名看破。ガイウス・ユリウス・カエサル〔セイバー〕。宝具は見敵必殺の黄金連撃。幸運判定に失敗するまで連続攻撃を仕掛ける能力。対する悪魔は、我が覇道を蒼金(荘厳)に照らす不毀の聖剣を抜き放つ。それは悪魔の死角から同系色の輝きと炎を放つ大蛇に向けた聖剣斬撃。カエサルに向ける得物は、C.A.Iの円卓シールドで十分だ。

「其はエジプトの落陽、終焉を示す時の蛇。最後のファラオとして命じます。《暁の時を終える蛇よ、此処に(ウラエウス・アストラペ)》!」

 真名、クレオパトラ〔アサシン〕。荘厳なりし青金(暁の輝き)の縞模様を有する大蛇は、全身に炎を纏った状態で召喚され、敵味方を問わず周囲を破壊する。クレオパトラが騎乗スキルを保有していないため、大蛇を操ることができないための暴走だと看破。悪魔は暴走大蛇を一刀両断。すかさずアーチャーの矢がクレオパトラの全身を射抜き、霊基を稼働不可状態となるまで損壊させた。

 一方、カエサルは詰んでいた。円卓の盾に対して幸運判定は自動成功を続ける。そして円卓の盾は使用者の信念が折れなければ決して破壊されない概念防御を誇る。そして悪魔の信念は《笹川京子を守ること》────それが揺るがない限り、円卓の盾は度重なる超絶怒涛の攻撃で、耐久値が減ることはない。故にカエサルは自らの息が切れても宝具の超(ハイパー)連続攻撃が止まらず、止められず、円卓の盾に阻まれ続け、どんどん脂肪が燃焼し、息も上がって、やせ細り減量していく。そこへ暁美ほむらの狙撃。解析のルーンの助けを得ることで霊核を確実に撃ち抜いた。

 

「目標捕捉、前提条件:霊基自壊、宝具解放。命は壊さない。その文明を焼き滅ぼす。《涙の星、軍神の剣(ティアードロップ・フォトン・レイ)》!」

 環いろはの真名看破。アルテラ〔セイバー〕。空中に展開した魔法陣は軍神マルスと接続して旭光、尋常でない魔力の柱を敵陣に照射。落涙が地に落ち跳ねるが如き大地爆撃。地表転覆。熱量の水没と陥没。戦場は空中に移り、なおも巨いなる旭光の剣が宙(ソラ)より奮われる。それは中央区どころか隣接する他区の半分以上を撃滅せしめる厄災の一撃。悪魔は死炎の瞬間噴射で天高く舞い上がり、円卓のシールドを宙(ソラ)に掲げる。全ハーフソウルリングの魔力をフル回転。

「《いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)》!!」

 空中に円卓の城(キャメロット)が展開。彗星の如し一撃と相殺。下方、彼女を脅威と見做したランサーと七海やちよがアルテラを起点に交差。ふたりの青い槍兵は、アルテラの霊核と霊基を貫いて即時離脱。流れるように他の敵との戦闘に移る。

 

「敵は遥かな空! 今こそ進軍の時! 《神聖たる旗に集いて吼えよ(セイント・ウォーオーダー)》!!」

 真名看破、ジル・ド・レェ〔セイバー〕。宝具は、狂化に匹敵するステータスのランクアップのほか、目標の完全沈黙まで自動攻撃を行う能力。平均Bランク以上のステータスを誇るセイバージルは跳躍。防御を捨てて攻撃にのみ専心する。

 悪魔は数瞬ほど思案。伝承系の宝具は霊基を切り離して奪えない。奪ったところで使用条件を満たせないため使えない。叛逆施術で改造することで、自らに似た伝承があるなら宝具のダウングレード版として模倣再現することは可能だろう。殊にセイバージルの宝具は、自らが最も輝いていた頃の在り方を再現する能力だ。そして悪魔 沢田綱吉が最も輝いていた頃といえば────そんなもの、今までの人生のどこを探しても見当たらない。

「それは決して繋がってはいけない極上の狂気。好奇心は猫をも殺すと言いますが、さすがに領域外の無秩序に好奇心を持っちゃあ終わりなんじゃーないかなー!? 《螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)》! この宴を、白痴の魔王が目醒めることで終わるのだけは厭だなー!」

 真名看破、フランソワ・プレラーティー〔キャスター〕。セイバージルから魔道書の宝具《螺湮城教本》を返却されたことで発動可能となった宝具。

「────────」

 刹那、悪魔の逆転勝利が青天井を踰越(ゆえつ)し、外宇宙の彼方まで昇り、文字通り際限なく極限を超えた無限へと高騰(インフレ)。この宇宙の世界観が侵され、犯され、乱されていく。もはや神浜市を守るとかいう話の範疇には収まらない。これは宇宙を懸けた戦いとなる。

「そのようなことにはならん。儂がいるからな。死溢るる魔境への門(ゲート・オブ・スカイ)!」

 真名看破、スカサハ。彼女はサーヴァントの身ではなく、しかして現世に存在する者でもない。この世界とは断絶された異境にて、ただ神霊を殺し、邪神を屠り、人類にはまだ荷が重すぎるモノを相手取ってきた、影の国の女王。それゆえ死からも忘れられてしまった槍の女戦士は、何処からともなく当たり前のように戦場のど真ん中へ姿を現し、ゲイ・ボルクと似た魔槍を奮う。斯くてその妙技、神速を逸脱する早業。フランソワ・プレラーティーを細切れにして完膚なきまで殺した直後、魔道書を孔として抜け出てきた領域外の生命(邪神たち)を、スカサハは影の国の門へ全て招き寄せる。結果、全ての邪神は影の国へと送還された。

「邪神なりし奴輩(やつばら)どもは、この儂に任せよ。お主たちは自らの目的を果たすが良い」

「────あぁ!? なんで師匠がこんなところにいるんだよ!! マスター! 敵ならヤベェぞ!」ランサーの絶叫。

「いや、スカサハは味方だ! 気まぐれだが助太刀に来てくれた! 心強い、助かる!!」

 悪魔とセイバージルの激突。超絶怒涛の猛烈剣撃を両手で捌きつつ、機械的な自動攻撃の動作の間隙を突いて叛逆貫手。対魔力を貫通して霊核を貫き殺す。

 

「王家の百合、永遠なれ────《百合の花散る剣の舞踏(フルール・ド・リス)》!」

 真名、シュヴァリエ・デオン〔セイバー〕。悪魔の周囲に百合の大輪が舞い散り、それを足場にして空を駆け翔ぶデオンが美しき剣舞を披露する。それは幻惑効果として悪魔の膂力と頑健さ、そして機動力を奪った。瞬間、その間隙を突くように一閃。極まる逆転勝利の中、サーベルとドゥリンダナが激発する。が、悪魔の技量ではデオンの心眼に敵わない。互いに互いを殺しきれない剣戟が続く。

 つと地上より悪魔を狙うマクシミリアン・ロベスピエール〔ランサー〕の投槍。それをエミヤの魔剣矢が撃ち落とし、続く連射矢をデオンが捌く。悪魔はその隙を突くが、デオンの卓越した戦術眼は容易に隙を晒さない。

「────っ!? 誰だ……?」

 不意に悪魔は、千(・)里(・)先(・)に(・)あ(・)る(・)よ(・)う(・)な(・)意(・)識(・)の(・)気(・)配(・)を直感し、何もない蒼穹の彼方に振り返る。

「悪魔さん!?」

 それは戦闘放棄にも等しい所業。敵の眼前で無防備となった悪魔の振る舞いに対し、環いろはは驚愕する。それはデオンも同様だった。が、驚いて腕が止まることはない。片手剣(サーベル)の刺突は冷徹に、悪魔の喉笛を刺し貫いた。

「ゴブッ……最古の英雄王、ギルガメッシュ……?」

 悪魔は喉を貫通したサーベルをわしづかみにする。直後、エミヤの狙撃がデオンの霊基を撃ち抜いた。回避のためには武器を手放さなければならなかったが、手放しても暁美ほむらの狙撃で殺られていた。デオンは黄金の粒子となって消滅。環いろはの治癒魔法で首の穴を塞いだ悪魔は、なおも千里先を見通すような目で呆然と佇んでいる。

(なんだ? この気配は……花の魔術師マーリン……あともうひとりも、い(・)た(・)ようだが……)

 

 最高位の千里眼を有する者は、過去未来現在ひいては平行世界すら見渡す力を持つ。その規模は個々人によってまちまちだが、共通する点は“世界を俯瞰する者”としての立(・)場(・)である。故に彼らは直接の面識がなくとも、共通の立場を持つが故に、互いを強く意識する。

 例えるなら、自分がいつどこで誰に何をやろうとも、同じ千里眼を持つほかの者が、それに感想を出したり批評したり、何かと突っかかってくる。自分のやることなすことを、まるで画面の向こうにいる役者の醜態を見て嘲笑い、時に役者に同情して伝わらないと知っていても有益な助言を授けたりするように、自らの人生を俯(・)瞰(・)してくる。そして、それは逆もまた然り。つまり悪魔もまた、ほかの千里眼持ちの人生を視(・)た(・)のである。

「…………」

 未来の世界を見通す目。過去の世界を見通す目。現在の世界を見通す目。隣り合う世界を見通す目。いずれにせよ、世界を見通す目であることに変わりはない。故に、千里眼持ちに新(・)参(・)・(・)先(・)達(・)という概念は希薄。つまり時間軸の概念が存在しない。悪魔は未来の世界を断片的に識る千里眼を有するが、それを視てしまった以上、遅かれ早かれ、俯瞰する者として仲間入りすることは避けられなかった。

「……傲慢、慢心。度し難い奴だな、おまえは。何もしてくれないなら引っ込んでろ。これ以上その嗤いを続けるようなら、あんたの霊核を引っこ抜くぞ。────わかってる。オレはやるべきことをやってるさ! あんただってそうだろう! ウルクの王よ!」

「あ、悪魔さん? 誰に話しかけているんですか……?」

「オレもダメダメだが、あんたも相当なろくでなしだ。普段からそんな思考で人間を見ているのか? 人間じゃない。実際に人じゃなくて夢魔のたぐい? なら尚更エイリアンじゃないか! 見滝原市の病院の頃から、ずっとオレのことを見守ってくれていたのは……まぁ、なんか、恥ずかしいけど……ありがとう。それより助力を請いたい。助けてくれ。────死ね。あぁ、よろしく頼む」

 花の魔術師マーリンは死人ではない。今もまだ、この世から切り離された理想郷(アヴァロン)の塔の上で、我々の世界を俯瞰している。その向こう側の世界から、こちら側の世界に来ることは容易ではないだろう。なら一回死ねばいい。死ねばサーヴァントとして召喚される。もちろん本当に死ぬ必要はない。マーリンは強力な幻術の使い手だ。世界を相手に自らの生存を偽装することなんて造作もないはず。故に悪魔は「死ね」と言った。そこに言外の意味はない。たぶん、ない。

「魔術王。いや、魔神王? それとも人王……いや、どんなものでも構わない。あなたさえ召喚されれば、この聖杯戦争は一小節で終わるんだが……そんな到達点に至ったのであれば、これ以上のタスクを背負わせるのは酷か。任せろ。あなたたちカルデアが守ったこの世界は、次の世代の人類が守る」

 魔術王ソロモン。彼はもはや英霊の座には存在せず、この宇宙で成すべきタスクを全て終えている。故にこれ以上、彼が出張る必要はない。また、ほかに魔術王を模した存在はいるようだが……それもまた、過剰戦力が過ぎて必要のない助力だと、悪魔は判断した。心強い味方が増えすぎると逆転勝利の切れ味が落ちる。

 

「────いろは。全方位に真名看破」

 悪魔は逆転勝利が極まる中、雨炎の発散効果を付与。環いろはは周囲百メートルに真名看破魔法を走らせる。その中で一騎、厄介なサーヴァントを発見。ロビンフッド〔アーチャー〕。宝具は《顔のない王(ノーフェイス・メイキング)》と《祈りの弓(イー・バウ)》。前者は光学迷彩と熱迷彩の宝具、後者は接触しただけで体内の不浄を増殖し爆発させる即死級の宝具。悪魔の体内には瘴気という毒素が蓄積している。その量は既に致命量。それを倍増させれば悪魔は瞬間的に絶命する。故に宝具発動前に逆転勝利による超直感が働いた。しかし熱迷彩を有するため死ぬ気の炎のエネルギーでは探知に難アリ。ロビンフッドは電子迷彩を持たないため、雷炎を雨炎で発散させる。悪魔は敵の位置を捕捉。

「弔いの木よ、牙を研げ────《祈りの弓(イー・バウ)》!」

 同時に猛毒を帯びた矢が射られる。あえてそれを受けようとした瞬間、水泳の魔女が助太刀魔法を代替行使。ロビンフッドの背後に転移した瞬間、悪魔は叛逆施術で霊核を貫き、霊基から伝承防御の魔術品《顔のない王(ノーフェイス・メイキング)》を奪い取った。

 悪魔は地上へ急降下。暁美ほむらにその魔術品を手渡し、身に付けるよう指示。これで敵サーヴァント集団から逃げ回りつつ、エルレイドや味方サーヴァントに護衛されながら狙撃する必要性は減少した。暁美ほむらは緑の外套を羽織って透明化。大量に魔力を消費するものの、命には代えられない。

 

 次の瞬間、悪魔はイチイの木で出来たワイヤーのようなものに引っかかり、毒矢を射掛けられる。ほかにも多種多様なトラップが仕掛けられており、七海やちよとランサーは機動力を六割も削がれていた。それはロビンフッドの置き土産。破壊工作による戦力削減効果だった。

「大跳躍で戦いの舞台を移せ! それまで空中戦だ!」

 総員跳躍。当然、大抵の戦士は空中で無防備になる。

「二大神に奉る……《訴状の矢文(ボイポス・カタストロフェ)》!!」

 真名看破、アタランテ〔アーチャー〕。追い込みの美学により、悪魔たちに跳躍させ、それを先回りするかのような宝具を浴びせてきた。上空から無数の極矢が降り注ぐ。回避は難しい。防御は可能だがそれに徹すれば地上に押し返される。そうすれば今度こそトラップと軍団の板挟みで磨り潰される。ならば────押し返すしかないだろう。

「総員、第二跳躍!!」

『っ!?』

 悪魔は七色に輝く死ぬ気の炎を轟かせて、豪雨の極矢に吶喊。円卓シールドを展開する。

「さぁダーリン! 愛を放つわよ! 《月女神の愛矢恋矢(トライスター・アモーレ・ミオ)》!」

「いや神霊召喚は御法度だろ!? お相手さんの身にもなってやれよ!! さすがにこれはクマでも引く!!」

 真名、オリオン〔アルテミス/アーチャー〕。その正体は、オリオンの霊基に介入した神霊アルテミス。宝具はA++ランクの絶大ダメージを引き起こし、溢れんばかりのオリオンへの愛によって対象は極度の混乱を引き起こす。これをまともに受ければ、カリギュラの宝具《我が心を喰らえ、月の光(フルクティクルス・ディアーナ)》と似たような狂気に呑まれて惨事に陥る。円卓シールドで防げるのは物理的ダメージのみ。精神干渉系効果までは防げない。つまりアルテミスの宝具を防御してはいけない。回避する必要がある。だが防御を捨てればアタランテの宝具によって押し返される。二つの宝具により防御も回避も不可。瀑布の如き矢が迫るたび、悪魔の逆転勝利が刻一刻と極め尽くす。

 悪魔はそっと環いろはの額に手を触れた。悪魔の指示を受けた小刀一本が音速二号でかっ飛び七海やちよの胸元に突き刺さる。瞬間、叛逆魔法を行使。七海やちよのソウルジェムに接続、英霊召喚を代替行使、円卓の盾を触媒(えにし)とし、一小節でサーヴァントを召喚する。空中、悪魔の傍らに展開する魔法陣。赤き魔力の螺旋はエーテルを逆巻き、降霊した英霊の魂に仮初の肉体を与えて、極光────

「この灯りは星の希望。地を照らす命の証」

 ────かくして、蒼銀の騎士が躍り出た。

「誰でもいい! この絶望を焼き払え!」悪魔の咆哮。闇属性のハーフソウルリングが鳴動する。

「承った! 《約束された(エクス)────」

 眼前には、もはや手遅れと言える至近距離・総量の矢が差し迫る。それでも意気軒昂と叫ぶ蒼銀の騎士に、極大の魔力が収束する。手元に携えるは透明の剣。その正体を隠す風が紐解かれ、星の輝きを解放する。

「────勝利の剣(カリバー)》ァアアアアアッ!!」

 真名、アルトリア・ペンドラゴン〔セイバー〕────悪魔の呼び声に応えた彼女は、抑止力の守護者として馳せ参じた。一方のエミヤは、彼女の姿に思わず目を奪われて一切の事象を忘我する。蒼銀の騎士が解き放つ黄金の聖剣。極光の帯びは太陽神アポロンと月女神アルテミスの轟矢を薙ぎ払い、極光の先端はオリオン〔アルテミス〕の宝具と激突、狂気を撒き散らす月光を、燦然たる光輝で灰燼も残さず焼き払う。

 しかし宝具使用後は硬直の隙が生じる。悪魔は不毀の剣を奮い、真エーテルの魔力を借りて、地表に光線を斬り放つ。悪魔たちを追撃しようと跳躍してきたサーヴァント集団を次々と撃墜。覇者の剣気は黄昏の気配を伴い、連発されるビームはしばしの間、何者をも寄せ付けない。

 

 着地。戦場の移動完了。中央区南端からやや北上し、現在地は中央区の南東方面。ちょうど神浜市駅とTV神浜を三角形で繋いだ位置に到着した。無論そこにも大量のサーヴァント軍勢。敵陣のど真ん中に降り立った悪魔たちは、決死と必死の応酬で殺戮されかかり、鏖殺しにかかる。

「セイバーを第四の主軸とする! ほかは援護を続行しろ!」

 悪魔、七海やちよ、ランサーことクー・フーリン、セイバーことアルトリア・ペンドラゴン。最前線を駆け抜ける四者は幾千幾億の死線を掻い潜り、それを支える後衛は物量による包囲殲滅を避けるため常に雑魚散らしと包囲網迎撃体勢を取り続けている。

 

 一方その頃。北養区の山頂にて。最高位というほどではないが、Aランクを誇る千里眼を以て神浜市の惨状を見渡す弓兵がいた。

「……よし。決めた。俺は、あれだ。やっぱ、戦いを終わらせる英霊だからな」

 その弓兵は、人の心が読める。故に召喚直後、多くのサーヴァントの我欲を読んだし、イザボー・ド・バヴィエールの支配欲も読んだ。マスターのマスターたる里見灯花の、曲がりなりにも切実な希望も読んだ。マギウスの翼に所属する、多くの魔法少女の願いも知った。────だが、この戦いは善(・)ではあるが、限りなく善(・)と(・)は(・)言(・)い(・)切(・)れ(・)な(・)い(・)ものだった。

「一から十まで、徹頭徹尾、善の為に動ける奴なんて、まぁ少ないさ。里見灯花やイザボー・ド・バヴィエールにも、我欲がある。マギウスに属する多くの羽根たちにも、まぁまぁの欲望がある。今まで弱小として虐げられてきたんだ。大きな力を持てば優越感に浸りたくなる気持ちも、まぁ、わからんでもない」

 弓兵は温かい目で見守るように笑って、強弓を引き絞る。

「だが悪魔って奴は……心配になるな。あそこまで自分を度外視して他人の為に動けるってのは、人として破綻している。……それを俺が言うのかって、いま誰かに言われた気がするけど、仕方ねぇさ。英雄ってのは、もとよりそういうもんだろ?」

 弓兵は勘弁してくれと笑って、標的に狙いを定める。

「だからさ。このあとのことは全部、悪魔……おまえに任せたぜ。俺は、みんなに……希望となるかはわからねぇが、まぁ────流星を、見せてやるぜ」

 弓兵は天を仰ぐ。目つき鋭く覚悟を込めて、いざ詠唱を開始する。

 この戦いを終熄させるための援(たす)けとなるべく。

「陽のいと聖なる主よ。あらゆる叡知、尊厳、力をあたえたもう輝きの主よ。我が心を、我が考えを、我が成しうることをご照覧あれ。さぁ、月と星を創りしものよ。我が行い、我が最期、我が成しうる聖なる献身(スプンタ・アールマティ)を見よ。この渾身の一射を放しち後に、我が強靭の五体、即座に砕け散るであろう!」

 其は六十年に亘る戦争を終結させ、両国の民に平和をもたらした、救世の勇者。

「────《流星一条(ステラ)》ァアアアアアアアアアアア────ッ!!」

 真名をアーラシュ。星に希望を、その代わり、己に最期を。砕け散った五体は爆発し、黄金の粒子となり一瞬で消滅。斯くて撃ち放たれし《流星》は曇天を射(さ)し貫き、天空を斬り裂き、中央区は南端方面に着弾。大地は爆砕し、九百騎に及ぶサーヴァントの軍勢が死滅した。

 しかし依然として98万のサーヴァントが残る神浜市。救世の勇者であったとしても、この戦いを終わらせるには足りないと言うのか。

『だから、俺たちがいる』

 神浜市の各地に点在する百数騎のアーラシュ〔アーチャー〕が同時に呟く。大規模な聖杯戦争においては当然、同名かつ同クラスのサーヴァントが召喚される例は数多くある。頑健スキルを駆使し、自らの霊基を傷付けることで支配魔法から脱したアーラシュたちは、単独行動スキルで長期生存し、虎視眈々と真名解放の隙を窺う。

「俺たちは今、裏切り者として追われているからな。まずは身を隠さなきゃ、おいそれと宝具が使えない。詠唱中にガツンと殺られちまう」

「この自慢の頑健さも、既に自ら傷付けちまった以上、さすがに宝具の直撃は避けたい。射る前に消えたら敵わんからな」

「つーわけで悪魔よ。俺の援護射撃が敵軍を一掃するには、まだまだ時間が掛かりそうだ。なんせ一度に射殺せるのは九百人が限度で、敵はまだその1000倍はいるときた」

「俺たち(アーラシュ)は百騎くらい召喚されたか? ハハ! さすがに全部は無理そうか! だがな(・)ん(・)と(・)か(・)す(・)る(・)さ」

「無理でも敵軍の半分は削りきってやる。残りの半分はおまえらが削れ。できるだろ? 今なお敵サーヴァントはねずみ算式に増えており、とうとう魔物から神霊まで召喚され始めたが……まぁ、大丈夫だろ。悪魔、お前なら出来る。信じてるぜ」

 とある一騎のアーラシュが真名解放し、宝具を発動する。中央区は南東方面の大地が爆砕。九百騎のサーヴァントが極限の流星に巻き込まれて消滅する。

 

 悪魔たちの前方で大地爆砕。誰か知らないが宝具で援護射撃してくれるサーヴァントがいる。その一射で連隊規模の軍勢が消し飛ぶため、まさに千人力の働きだ。

 

「《突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)》」

「──っ!!」

 それは悪魔と契約しているランサー、クー・フーリンの声ではない。真名看破、クー・フーリン〔アサシン〕。因果逆転の概念こそ有していないが、いくたび躱されようと対象を狙い続ける特性は健在。たとえ地球の裏側に逃げても追尾してくる。当たれば治癒阻害の呪詛が肉体を蝕む。だが環いろはの治癒魔法の回復があれば────

(────……?)

 悪魔は疑問に思う。魔(・)槍(・)ゲ(・)イ(・)・(・)ボ(・)ル(・)ク(・)に(・)は(・)治(・)癒(・)阻(・)害(・)の(・)呪(・)詛(・)が(・)あ(・)る(・)。ならば治癒魔法を使っても悪魔の肉体は再生しなかったはずだ。

(いろは……? お前の魔法は……)

 しかし今、その疑問を考察している余裕はない。二度目の魔槍直撃では、ランサーのルーンで強化された治癒魔法が無ければ死んでいた。敵軍も学習している。再び喰らえば治癒の隙を突かれて悪魔以外の者が死ぬ。三度も喰らうわけにはいかない。だがルーンで強化された気配遮断スキルにより接近を許し、宝具発動レンジ40を切った地点で発動されてしまった。

 音速二号の魔槍炸裂弾は飛翔。一撃で一軍を吹き飛ばす魔槍は分裂を繰り返しながら、ただ一人の人間を突き滅ぼすため空間を引き裂き轟然と響鳴、朱い光を不気味に放ちながら悪魔を喰らわんと駆け翔び追う。対する悪魔も逆転勝利が極まり、音速二号をわずかに上回る速度で死炎轟噴飛行。さながら戦闘機の格闘戦(ドッグファイト)の軌道を描いて戦場の頭上を飛び回る。断続的な音の衝撃波(ソニックブーム)が総身を圧す。0.1秒の狭間にUターン、ジグザグ飛行、旋回、切返、急旋回交差────音速の世界の只中で逃げ回る悪魔の骨肉は軋みを上げ、空気の壁に圧迫される神経は異常を叫ぶ。

 

「飛ばしていくわ! ミュウミュウ無様に鳴きなさい! 《鮮血魔嬢(バートリ・エルジェーベト)》!」

 真名、エリザベート=バートリー〔ランサー〕。監獄城チェイテを召喚し、陣地作成によってアイドルの舞台(ステージ)とした宝具。宝具《竜鳴雷声(キレンツ・サカーニィ)》によって音と振動が9の9倍にまで増幅した音波兵器が迫り来る。それは永続的な熱唱音響の衝撃波地獄(スーパーソニックブレス)。悪魔の全身は音速飛行に耐えるため大空の炎によって調和コーティングされている。しかし空気の層が81倍となったことで鼓膜が破裂。五臓六腑は掻き乱されて骨肉が引き裂かれ神経が断絶する。

 環いろはの治癒魔法。さらに賦活魔法で耐久力を上げる。だが厚みを増した空気の壁に、悪魔の逃げ先が阻まれる。速度が音速二号より低下。背後に朱く迸る魔槍が迫る。

 七海やちよの虹槍一閃。悪魔を執拗に付け狙う魔槍を叩き落とし、少しでも命中する時間を稼ごうとする。その間にランサーは、魔槍を投擲して得物を失ったアサシンの自分自身(クー・フーリン)と肉薄。瞬く間に首を刎ねて殺した。

「地獄の具現こそ、不徳の報いに相応しい! 《串刺城塞(カズィクル・ベイ)》!」

「既に神浜は我が国土となりて、我が領域を踏み荒らす蛮族は極刑に値する。灼熱の懲罰により流れる鮮血で、己が喉を潤すがいい! 《極刑王(カズィクル・ベイ)》!」

「血に塗れた我が人生をここに捧げようぞ。《血塗れ王鬼(カズィクル・ベイ)》!」

 真名看破。串刺王 ヴラド三世〔ランサー〕、極刑王 ヴラド三世〔ランサー〕、吸血鬼 ヴラド三世〔バーサーカー〕。解放された宝具は、二万のオスマン帝国兵を串刺しにした伝説の具現。串刺王は呪鉄の魔槍なる拷問魔城(ドラクリヤ)より放たれる粛清の無限鎚にて。極刑王は護国の鬼将スキルによる領土範囲内の無限界大粛清にて。吸血鬼は宝具《鮮血の伝承(レジェンド・オブ・ドラキュリア)》による変幻自在の対象一体、確殺杭にて。無数の杭は竜巻のように大空を飛翔し、地上に存在する敵のみを正確無比に刺し貫かんと降り注ぎ、薙ぎ払い、果ては地中から狙撃するかの如く突き出し、悪魔たちを貫く。

 回避不可能。エリザベートの超音波に足止めされ、敵軍に包囲されている状態では後退も難しい。広範囲型の単純威力系宝具ならば、防御のしようもあろう。だが杭の一本一本が正確に対象を追尾する宝具は、まさに四面楚歌の状況で最も喰らいたくない能力に分類される。

 悪魔陣営壊滅。魔法少女はソウルジェム以外の骨肉が破壊され、サーヴァントは霊核こそ死守したものの体内を孔だらけになるまで引き裂かれる。被弾による硬直。一瞬一秒の間隙すら命取りとなる悪魔陣営は、まさにその間隙を許してしまった。

 

 環いろはの多対象治癒魔法が怨霊調伏スキルによって封じ込められる。

「大曼荼羅を此処に示す。かなたの海まで向かうが良い! 《五百羅漢補陀落渡海(ごひゃくらかんふだらくとかい)》!」

 真名看破魔法は行使可能。武蔵坊弁慶、もとい常陸坊海尊〔ランサー〕。宝具は特殊判定失敗のたび強制移動を強いられ、棺桶の舟に封じ込められたが最期、浄土へ連れて行かれて成仏する能力。強引に戦場から後退させられる悪魔陣営。南東方面から、さらに東へ流される。

「遮那王流離譚が四景。我が肉体は鳥の如く水面を舞う。《壇ノ浦・八艘跳(だんのうら・はっそうとび)》!!」

 棺桶舟の上を身軽に飛び跳ねるは真名、牛若丸〔ライダー〕。閃く白刃は悪魔の素首めがけて斬り払われる。同時、悪魔は晴拳銃を開匣しており瞬間連射。爆発的な活性効果を込めた弾丸を味方全員に命中させて、肉体の負傷を瞬時に回復。自陣全快。刎ねられた首は半魔人化で繋げばいい。

「半魔人化(デビルトリガー)・着装(オン)ッ!! 機動形態(モード・ベロチタ)────」

 武蔵坊弁慶の白紙の勧進帳スキルが発動。宝具等の切り札を封印させる命令を強制執行。彼は武蔵坊弁慶その人ではないため成功率は低いが、悪魔も対魔力といった抵抗能力を持たないため判定するまでもなくヒット。半魔人化が強引に封印される。宙を舞う悪魔の首。血走る眼球だけがぎょろりと動き、感極まる逆転勝利が活路を見出す。

 牛若丸は、武蔵坊弁慶のくろがねの博スキルによって耐久力が向上している。生半ばな攻撃では倒れまい。仁王立ちスキルも厄介だ。必殺の一撃を叩き込んでも、それは牛若丸ではなく武蔵坊弁慶に因果逆転と似て非なる原理で命中を逸らされる恐れがある。ならば先に厄介な方から倒す。

 悪魔の首なし胴体は身をひねり、自身の頭部を蹴撃。飛頭蛮となった悪魔は武蔵坊弁慶に噛み付いて叛逆魔法を行使。

「遮那王流離譚が一景。《自在天眼・六韜看破(じざいてんげん・りくとうかんぱ)》!」

 その宝具は、範囲内すべてのユニットを任意の地点に強制転移させる能力。当然、牛若丸は自陣を圧倒的有利な位置に配置し直し、敵陣たる悪魔陣営をバラバラに切り離す位置に転送した。武蔵坊弁慶に噛み付いたはずの悪魔も、魔法行使発動直前で遥かな上空に打ち上げられていた。

 悪魔の首なし胴体が、腰に紐付けた環いろはの額に手を添える。環ういのソウルジェムを使い、回収魔法を駆使して匣兵器に回収・蓄積した英霊の魂を取り出し、嵐炎の分解効果で魔力リソースに変換。即座に施術魔法を駆使して二十画以上の令呪を瞬間作成。

「遮那王流離譚が二景。《薄緑・天刃縮歩(うすみどり・てんじんしゅくほ)》!」

 牛若丸が抜き放つ名刀・薄緑。天狗の歩法による縮地は、転移魔法の如し瞬間移動を成し遂げる。悪魔の首の前に忽然と現れた牛若丸は、煌く光の白刃を斬り放った。同時、アサシンのクー・フーリンが投げ放った暗殺魔槍も迫り来る。

(────令呪を以て命じる。《総員、中央区の東方より仕切り直せ》────!!)

 

 視界歪曲、場面転換。魔法級の莫大魔力が解き放たれた刹那、悪魔たちは別の戦場に降り立っていた。さらに仕切り直しスキルと同等の効果が発動し、封じられた魔法や切り札が解放。あらゆるバッドステータスが初期化された。

 次の瞬間、別のサーヴァントに向かって使おうとしていたセイバーの宝具が、先ほど悪魔陣営が苦境に立たされた地点、南東方面に対象を変更し、振り抜かれる。黄金の奔流は攻撃地点より爆発、轟然と光の柱を立ち上らせて曇天を貫き、あらゆる敵を切り払った。悪魔以外の魔法少女とサーヴァントは、一千に及ぶサーヴァントの魔力反応・霊基反応の消滅を確認。それを悪魔は直感する。

「逃がすと思うてか?」

 牛若丸の呼び声。宝具連発によって再び、悪魔の頭部めがけて縮地斬撃を仕掛けてきた。暗殺魔槍は悪魔の胴体に迫り来る。逆転勝利が極まる今、時雨蒼燕流で迎え撃てば殺せる。だがひとたび剣戟を交せば直後、暗殺魔槍によって射殺される。味方に助力を請いたいが、既に全員、圧倒的多数の敵サーヴァント軍勢を相手取ることで精一杯。

 刹那、悪魔の体なき首から胴体が生えた。同時、悪魔の首なし胴体から頭が生える。それが幻術であると看破した牛若丸は、悪魔の瞳の中にあるソウルジェムを狙い、瞬時に使用宝具を換装。

「《吼丸・蜘蛛殺(ほえまる・くもころし)》」

 その宝具は、薄緑本来の性能を発揮する。周囲の魔を打ち払った直後、残響する刀身の音色は更なる追加攻撃となって徹底的に魔を討ち滅ぼす能力。それは悪魔にとって特攻となる必殺奥義。

 悪魔は思う。エリザベートとヴラド三世に敏捷性を殺され、武蔵坊弁慶に切り札を封じられ、牛若丸の恐るべき敏捷性によって常に後手に回り続けていた。しかし、その度重なる苦境の中で、すぐに逆転勝利が発動しなかったワケは、今この瞬間のために必要なことだったのだと理解する。

 悪魔の額から不規則な炎が灯る。悪魔の両手は薄緑を受け入れるような形を作る。

 今まで魔女と戦い、魔法少女と戦い、湯国市では聖杯戦争から生還し、神浜市ではウワサと戦い、幾度となく死地という死地を乗り越えてきたが……さすがに万を越すサーヴァントの軍勢を相手取ったことは初めてだ。見ずとも分かる絶望的な戦力差。その中で悪魔の死ぬ気の炎は、いざ零地点を突破する。

(マクスウェルの悪魔の理論を学び、叛逆魔法で再現した、死炎マイナスエネルギーの活用。それが今、魔法の助けを借りず、自分の技量だけで、零地点突破の奥義を成し得ようとしている……ッ!)

 逆転勝利がなければ、一般人の不良相手にも勝てない悪魔は、常に自分の力で勝利を得てきたわけではない。そのため技量は一生向上しないものと思っていた。だが度重なる屍山血河の死闘の末に、とうとう彼は零の地点に到達した。それは拙い努力の報い。もっと良い導き手がいれば、もう少し早く発明できていた代物だが、悪魔は逆転勝利の助けを借りて編み出した。

(────《死ぬ気の零地点突破・凍結エディション・白刃取り》────)

 悪魔の両手が薄緑を挟むと同時、両手から断続的に噴き出す死炎が凍結。自らの剣技を目(・)で(・)視(・)て(・)止(・)め(・)ら(・)れ(・)た(・)技(・)量(・)に目を見開く牛若丸は、すかさず反撃の歩を踏み出す。

「遮那王流離譚が五景外伝。《喜見城・氷柱削り(きけんじょう・つららけずり)》!」

 悪魔の肩を駆け上がり駒のように回転、凍った薄緑でも斬ることは可能と言いたげに、悪魔の後頭部から眼球を狙って刺突。常に笹川京子のソウルジェムを狙うことで、悪魔はなるほどと悟る。逆転勝利は悪魔が殺されることで発動する。後手に回っていたのは、敵サーヴァントが笹川京子のソウルジェムを狙っていたから。つまり、一見矛盾する言葉のように聞こえるが────悪(・)魔(・)を(・)真(・)剣(・)に(・)殺(・)し(・)に(・)来(・)て(・)い(・)る(・)か(・)ら(・)、(・)逆(・)転(・)勝(・)利(・)が(・)発(・)動(・)し(・)に(・)く(・)か(・)っ(・)た(・)のだと気付く。なぜなら逆転勝利の呪護は、悪魔に限定して発動し、笹川京子本人を守るために発動する事はない(場合がある)からだ。

 たとえ主人が悪性に近かろうとも忠義を全うする。武士道や騎士道、それに王道や覇道は、かくも敵に回ると厄介な信念、または誇りか。

 死炎轟爆噴射。瞬間イクスバーナーで牛若丸を吹き飛ばす。同時、環いろはを頭部を吊るす首なしだった悪魔の周囲に七人の牛若丸が宝具《壇ノ浦・八艘跳》を仕掛けてきていた。その全ての斬撃を両手で捌く。直後、二人の悪魔のうちどちらに当たるか、二択を迫られた暗殺魔槍は分裂を開始。二人とも突き穿たんと朱い光を増殖・分散させる。

 一方、環いろはを持たない悪魔と、イクスバーナーで吹き飛ばされたものの縮地で切り返してきた牛若丸の激発。そこに七海やちよが割り込んだ。音速十号を優に超す虹槍が牛若丸の霊核を狙う。

「《弁慶・不動立地(べんけい・ふどうりっち)》」

 刹那、七海やちよと牛若丸の中間に、武蔵坊弁慶を模した肉体が疑似再現された。それは肉壁の盾として機能し、七海やちよの刺突が防がれる。

「凍結解除。《熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)》ッ!!」

 令呪による転移直後、一息つく間に準備していたエミヤの瞬間投影。七枚の花弁は分裂する魔槍を囲み、覆い、塞ぎ込むように展開される。悪魔の逆転勝利が発動し、その助けを得ることで魔力がフル回転。倍増強化された花弁の守護は魔槍を防ぎきり、封殺した。暁美ほむらの狙撃が牛若丸の残像を一体、撃ち殺す。残り七体。

(さな! 一瞬を稼げ!)

 透明化していた二葉さなが跳躍。悪魔の眼球を狙う牛若丸の一閃が不可視の盾に弾かれる。すかさず悪魔は小刀三本を蹴撃。時雨蒼燕流の必中必殺刀法は、眼前の牛若丸ひとりと、ほか残像二体を刺し殺す。残り四体。

(セイバー! オレごとたたっきれ!)

 悪魔の念話。セイバーの直感が冴え渡る。悪魔は二人いるが、おそらく環いろはの首を吊るした方を殺せと言うことだと認識。なぜそうしなければならないのか言語化できないが、それはいつものこと。セイバーは己が直感を信じて、一瞬の迷いも見せず宝具発動。出力を抑えたことで詠唱は要らず、発動時間も0.1秒を切った。聖剣一閃。悪魔を殺そうとしていた分身四体を、悪魔や環いろはごと切り払う。直前、首だけだった悪魔は、助太刀魔法で環いろはを自らの腰に転移させた。

 マーリンの幻術が解ける。悪魔の胴体が消失。傍らに仁王立つ弁慶の疑似肉体も消滅。すかさず環いろはは治癒魔法を行使して、悪魔の胴体を瞬間再生。なんとか仕切り直しが完了した。

 

「穿て。抉れ。ブチ拔け! 《穿ちの朱槍(ゲイ・ボルク)》!!」

「くっ!!」

 真名、クランの猛犬 クー・フーリン〔ランサー〕。悪魔と契約するクー・フーリンより十代ほど若い姿での召喚か。技量は荒削りだが一線級、肉体性能は全盛期。心技体のうち、より“体”に特化したクー・フーリンと看破。悪魔の身に対軍投擲が迫る。さらにそこへ、セイバーの宝具を受けても戦闘続行で生還していたエリザベート=バートリーと、吸血鬼ヴラド三世が、コウモリの羽を生やして飛来。悪魔は時雨蒼燕流による必中必殺を使って敵サーヴァント三騎を撃滅したいが、再び魔槍に追われることで、大技を使えば必ず追いつかれて殺される宿命を背負うことになる。

 この三者を殺せる七海やちよ、ランサー、セイバー、暁美ほむら、エミヤは、ほかの敵と凌ぎを削り合っている。誰ひとりとして余裕はない。たまたま移動先のレンジ内に、その三騎がいれば、ついでと言わんばかりに奇襲して霊核を貫く事はあるだろう。それは今までもそうだった。クリームヒルト然り、カエサル然り。しかし、その可能性は極めて低い。常に浴びせかかる危機的状況。その総てを自らの力で踏破せねば、この先に希望の未来は拓かない。

 悪魔、死炎轟噴、音速二号を突破。ちなみに戦闘機乗りの特徴として、長時間の音速戦闘を行うと、鬱血して顔に痣が出来るという。悪魔の顔面に、雷が迸ったような形の赤黒い痣が浮かび上がる。

 流星一条。音速戦闘中に自陣から離れていた悪魔の傍らに流星が墜落。エリザベート=バートリーと吸血鬼ヴラド三世が今度こそ消滅する。若いクー・フーリンは矢避けの加護スキルにより、視界内の投擲物は全て自然とむこうから躱していくため無傷。だが着弾による爆風は加護の範囲外。風圧で機動力が削がれたところに瓦礫が吹っ飛んでくる。その一瞬の間隙を突いて悪魔の貫手が若いクー・フーリンの霊核を貫いた。叛逆施術魔法を行使。魔槍宝具を簒奪する(奪い取る)。

 

 戦士の雄叫び。殿の矜持。敵陣の士気が向上し、防衛戦において効果を発揮。今しがた回収した若いクー・フーリンの魂を嵐炎分解して魔力に換え、宝具解放。魔槍投擲。

「これが……スパルタだぁああ!! 《炎門の守護者(テルモピュライ・エノモタイア)》ァアアッ!!!」

 真名、レオニダス一世〔ランサー〕。十万人のペルシャ軍に対して、わずか三百人で立ち向かった守勢の英雄。その逸話を再現し、三百人のスパルタ兵が召喚され、対軍投擲の分裂魔槍を防御。そしてレオニダスの額から燃え盛る炎は、なんと死ぬ気の炎。大空と嵐と晴の炎を調和させたそれは、大空嵐晴の三炎として、三百人のスパルタ兵を包容し、敵の攻撃を分解作用でダメージ削減、分析効果で戦闘情報を計算し、活性効果で戦士の雄叫びと戦闘続行スキルを補強、噴射効果で一気呵成に押し返す(カウンター狙い)。そして魔槍により、ことごとく三百人が殺し尽くされていく中、他のサーヴァントを守りきったレオニダスは、心臓が破られてもなお雄叫びを上げて自らの槍を投擲。戦闘続行スキルからのカウンター宝具。大空嵐晴の死炎噴射投槍は、必殺の威力を備えて神速の域にまで届き、逆転勝利が発動するより早く、悪魔の腹部を貫通していた。

「……っ!?」

 環いろはの治癒魔法で瞬時再生。刹那、悪魔の逆転勝利が飛躍的に極まる。

 

「すべて、すべて、我が槍にこそ通ず。《すべては我が槍に通ずる(マグナ・ウォルイッセ・マグヌム)》!」

 真名、ロムルス〔ランサー〕。かのローマ帝国を建国した父なる神祖。その宝具はローマそのものを象徴する太樹の槍で、樹木操作能力を有する。大地に突き立つ太樹の槍は拡大し、帝都ローマの過去・現在・未来、その総てを模したような造形に変容。中央区の一角にローマ帝国が爆誕。さらに樹木帝都は、まるで荒(・)波(・)の(・)如(・)く(・)移(・)動(・)を(・)開(・)始(・)。樹で出来た建物を枝とし、木で出来た電線を葉とするなら、万物流転の移動要塞は怒涛の奔流となりて、無数の樹枝の津波が神浜市にあふれこぼれ流れ出す。

「────し、質量兵器ローマ、来ますっ!!」

 環いろはの驚愕混じりの警告。それは無理もない。樹木が帝都を形成したかと思えば、次の瞬間、その帝都が固形か液体かも分からない形状に変わって押し寄せてきたのだ。それに巻き込まれてレオニダス一世と数千数万のサーヴァントは今度こそ消滅する。

(太樹を登れ! 高所を取るんだ!!)

『────っ!!』

 悪魔の念話による号令一下。宝具の乱発によって更地と化した戦場は、どこまで行っても掘り返された土、瓦礫の山という名の平面だった。しかしロムルスの宝具によって、中央区は太樹の大海に呑まれた。天地左右どこを見ても、高層ビル群に匹敵する太樹の枝葉が縦横無尽に拡散分裂して伸びている。立体的な地形、三次元的な足場、視界が遮られる戦場。可も不可もないが、立ち回りによっては大軍より少数精鋭(ゲリラ)部隊が活きるかもしれない。悪魔はその機を逃さず、いざ地形戦に挑む。

 キャタピラのように蠢く太樹の迷宮。悪魔は死炎噴射飛行。七海やちよも背部の靴翼で魔力発散飛翔。アルトリアは水の上を走る加護を持っているが、それを応用して太樹の奔流に負けじと疾走。敏捷性に勝るランサーも鮭跳びの術で踏破。二頭立ての鎌形戦車も難なく悪路を走行し、その上には玉藻の前と暁美ほむらが搭乗している。敏捷の高い静謐のハサンと清姫も悪魔に追随しており、エミヤは脚に鞭を打って跳躍疾走。透明の二葉さなは後方を警戒しつつ一行に追い縋る。

「ローマを越えようというのか。それもまたローマ! 《すべては我が愛に通ずる(モレス・ネチェサーリエ)》!」

 ロムルスは第二宝具を展開。血塗られた愛の城壁を召喚。それは本来、壁の内側を守る結界宝具として機能するが、今回の用途としては悪魔たちの道行を阻む障害物として喚び出した。悪魔の眼下より急速にせり上がる城壁。激突した悪魔は、なおもせり上がる城壁と共に急上昇。天井の太樹と激突。城壁の屋上と太樹の底面に挟まれてギロチン刑に処された悪魔だが、ふと太樹が燃え上がり爆発、燃え盛る炎の中、焼き払われた太樹に孔が開く。瞬間イクスバーナーで挟撃を回避していた悪魔は飛び立ち、ロムルスめがけて死炎爆噴。早くロムルスを倒して城壁の宝具を破壊しなければ、後方から迫り来る敵サーヴァントの軍勢と挟まれて逃げ場を失ってしまう。傍らに七海やちよの虹影。

 刹那、悪魔と七海やちよの眼前に瞋恚と戦神が迫り来る。

「《我が瞋恚にて果てよ英雄(アウトレイジ・アマゾーン)》ッ!!」

 真名、ペンテシレイア〔バーサーカー〕。宝具は狂った獣の如く対象(アキレウス)を喰らう究極殺害戦技と看破。

「《戦神の軍帯(ゴッデス・オブ・ウォー)》!」

 真名、ヒッポリュテ〔ライダー〕。音速二十号に迫る七海やちよは、ペンテシレイアとヒッポリュテの間に並んでいたアンティオペ〔アーチャー〕を神速殺害。のち悪魔の念話を受けて互いに標的を切り替える。ペンテシレイアの宝具に背を向けた悪魔は絶対の死を直感して逆転勝利が極まる中、ヒッポリュテの霊核を穿ち抜いて叛逆施術。宝具《戦神の軍帯》を簒奪。対する七海やちよは、悪魔しか狙わないペンテシレイアの背後に回り霊核を一閃。されど愛する姉妹を殺された怒りは、たかが霊核を砕かれた程度では容易に止まらない。

「ウォオオオオオ!! 《我が鯨波にて駆けよ精兵(トロイアン・リーンフォース)》ゥウウウ!!」

 ペンテシレイアの霊基崩壊消滅と同時、彼女の部下たる十二人のアマゾネス軍団を召喚。その全てが一騎当千の実力を有しており、今際の際に叫んだ軍神咆哮スキルによって強化。悪魔と七海やちよを包囲確殺せんと襲い来る。だが、かのアマゾネスの女王を瞬殺した七海やちよにとって、たかが一騎当千の精兵を捌けぬ道理はない。

 虹槍鏖殺。周囲に極彩色の虹が架かり、血しぶきが上がる中、悪魔は宝具《戦神の軍帯》を、七海やちよに装着させる。それは使用者の神性を引き上げ、筋力耐久敏捷魔力の四つを大きく向上させる能力を持つ。神性こそないものの、七海やちよの固有魔法《希望継承》と合わせ、さながら鬼に金棒の強さとなる。

 

 悪魔と七海やちよは突貫。標的は太樹の頂きに君臨するロムルス。

「絶望の侵略数あれど、我らの信仰は無敵なり! 《祈誓たるは三重の貴壁(テオドシウス・コンスタンティノス)》! 我らは決して屈さぬ! この身が滅びようとも、我が祖国は永遠なり!」

 真名看破、コンスタンティノス11世。最後のローマ皇帝である彼は、難攻不落の砦コンスタンティノープルの三重防壁を疑似降臨。最大捕捉7000人を誇る防御範囲だが、数が増えるほど壁の防御が薄くなる弱点がある。翻せば防御対象を一人に絞れば、それは文字通り落城することなき無敵の防御宝具となる。無論、その一人とはロムルス。鉄壁の三重防壁は悪魔と七海やちよを阻み、横合いから伏兵の敵サーヴァント、さらには有象無象のローマ兵が飛びかかる。

「くそっ────!」

 このままでは時間を稼がれて、後方の自陣が崩壊する。いや、既に愛の壁と敵軍に挟まれて壊滅寸前かもしれない。襲い来る敵軍は全て七海やちよを狙う。誰も悪魔を狙わない。逆転勝利が発動しない。超直感も閃かない。他人の為に動く時こそ真価を発揮する少年は、他人の為に動かなければならない時のみ真価を発揮できない。そんな泥沼のような呪いに冒されている。その呪縛を打破することができるのは、それこそ女神のような力を持つ存在の加護しかないだろう。

 

 突如、後方より大爆撃。ロムルスの第二宝具たる城壁が打ち砕かれる。その事実に目を見開いたコンスタンティノス11世が驚愕の叫びを上げた。

「なに!? 神祖の壁が破られるだと!!」

 桃色の光輝。大小異なる無限多層の魔法陣が広域展開。いかなる無敵であろうとも、現実は残酷だ。たったひとりの天(・)才(・)さえ在れば、あらゆる絶望は熱く燃えて跳ね除けられる。

「《打ち砕け、希望の矢(プルウィア☆マギカ)》」

 必殺魔法(マギア)、燦然光輝と射抜かれる。三重防壁のうち二枚が打ち砕かれた刹那、分析魔力を発散していた七海やちよは、防壁の中に欠陥を発見。それは針の穴を通すような狭い道ではあったが、虹槍を疾駆。唯一、鍵(・)を(・)掛(・)け(・)忘(・)れ(・)た(・)扉(・)を見つけて突破した。三重防壁、完全陥落。すかさず悪魔は小刀三本を蹴り放ち、コンスタンティノス11世とロムルスの霊核を必中必殺する。

 幾重もの城壁は消滅した。悪魔陣営、進軍開始。そこで緑色の外套を解いた暁美ほむらが絶叫する。

「まどか!? なんで────!!」

「遅れてごめん! ほむらちゃん! みんな! 助けに来たよ!」

 鹿目まどかの助太刀。彼女がいなければ城壁と敵軍に磨り潰されてランサーたちは死んでいた。

 悪魔は直感。既に見滝原市にまでマギウスの魔手(サーヴァント)は届いていた。美樹さやかはサーヴァントにソウルジェムを砕かれて死亡。神浜市に原因があると察した鹿目まどかは急行したが、疾うに神浜市は更地となっており、サーヴァント含む魔力反応が多すぎて悪魔たちの姿が見つからなかった。しかし中央区にいきなり、歴史の教科書で見たローマ帝国が出現。もしかしたら悪魔たちがそこにいるかもと思い、虎口に飛び込んだら僥倖にも邂逅できた、とのこと。

「やちよ! 戦神の軍帯をまどかに!」

「了解!」

 環いろはは念のための真名看破魔法を行使。鹿目まどか、魔法少女。本人だ。誰かが偽装宝具で成り済ましているわけではない。そして判明した情報に悪魔たちは驚いた。なぜか彼女には神性の萌芽が宿っている。その理由を考える余裕はない。とにかく七海やちよは宝具を移譲。鹿目まどかは立派な軍章旗を──運動会の帯のように──額に巻いて、覚悟を決めた顔をする。

(主軸に鹿目まどかを加える! 後衛はやちよとまどかを守れ! このふたりが逆転の切り札だ!)

(『了解!!』)

 

 刹那、悪魔陣営の動きが硬直(石化)。悪魔は逆転勝利が極まる中、叛逆魔法で石化を脱し、七海やちよは希望継承で極まった抗魔力により、二度も喰らわないと石化判定を突破。

「私の陣地に入りましたね? 優しく蕩かしてあげましょう。《他者封印・鮮血神殿(ブラッドフォート・アンドロメダ)》!」

「ならば私は優しく蹴散らしてあげましょう。《騎英の手綱(ベルレフォーン)》!」

 真名看破、メドゥーサ〔ライダー〕が二騎。魔眼拡大投射による結界形成。結界内部に存在する者は、メドゥーサに生命力を吸い尽くされる。同時、天馬による白い彗星が駆け翔ぶ。悪魔は正面衝突を臨んで突貫。彗星と隕石の激突。白と橙の火花散る中、悪魔の両側からメドゥーサ〔ランサー〕が二騎、不死殺しの鎌を携えて挟撃する。さらに悪魔の背後からメドゥーサ〔セイバー〕が接近。三種宝具を同時解放する。

「我が死の傍らに神の鎌あり。蠢動(しゅんどう)するは不死を殺す天の災禍(さいか)。瞋恚(しんい)解放、キュベレイ! 惨めにくびり殺せ、《不死殺しの鎌(ハルペー)》!」

「その指は鉄、その髪は檻、その囁きは甘き毒。これが私! 限定(未来)解放、キュベレイ! 手酷く殺します、《女神の抱擁(カレス・オブ・ザ・メドゥーサ)》!」

「我が死の先に異形の剣あり。脈動(みゃくどう)するは黄金を孕む魔の坩堝(るつぼ)。極限解放、キュベレイ! 消し飛ばしなさい、《怪物の黄金剣(クリューサーオール)》!」

 悪魔の蹴撃。小刀三本は、二本の不死殺しの鎌と黄金剣をすり抜けて必中必殺。両側と背後のメドゥーサを殺害し、眼前にて鍔迫り合う天馬(ペガサス)に叛逆施術。アーマークラスを突破、霊基改竄、宝具《騎英の手綱》を簒奪。悪魔にもアーマークラスが適用され、味方には効かない白い彗星の衝撃波が悪魔に効かなくなる。そして天馬の頭上に躍り出た悪魔は、両手の貫手でバイザーを貫き、メドゥーサの両眼球を抜き取った。

「ッ!?」

 メドゥーサの驚愕と同時、身を旋回した悪魔の蹴りが、彼女の首を回し折る。頭部一回転。霊基破損。エーテル体から黄金の粒子が弾け、立ちのぼり、消滅していく。

「メドゥーサ!!」エウリュアレの悲鳴。

「エミヤ、お前の体を投影しろ!!」

 指示を受けたエミヤは放心しつつ、火属性のハーフソウルリングから流れ込んでくる魔力を受けて投影開始(トレース・オン)。自身の体内構造は、自身が一番よく理解している。構造解析等の工程を踏むまでもなく、エミヤは摩耗する記憶の中では恐らく初めてとなる人(・)体(・)を(・)錬(・)成(・)し(・)た(・)。刀剣属性の投影に特化しているエミヤは、それ以外の投影では莫大な魔力を消費する。しかしエミヤの魔術属性は《剣》である。つまりエミヤの肉体の投影は、人ではなく剣を投影することと同義と解釈し、故に魔力消費量は少なく済むと悪魔は判断した。そうして投影されたものは、ホムンクルスのような褐色肌の人形。

 すかさず悪魔は天馬を駆り、消滅寸前のメドゥーサ〔セイバー〕とすれ違いざまに貫手、叛逆施術で霊基から宝具《怪物の黄金剣》を簒奪し、そのまま駆け抜けて人形の前で急停止。飛びかかってくる敵サーヴァントは味方に任せ、宝具のアーマークラスに助けられつつ、“魂なき人形の剣”の霊基を魔改造する。

 叛逆施術魔法を同時行使。石化の魔眼(キュベレイ)を両眼球として挿入。宝具《怪物の黄金剣》を霊基炉心として挿入。これにより彼の体から産まれてくる怪物は、全て刀剣の形に鍛(う)ち直されて召喚される。そして黄金剣の怪物は、母たる怪物ゴルゴーンを由来とするため、肉体が概念的に鍛造し直されて性転換。どこかの平行世界で居そうな白い少女の姉(クロエ・フォン・アインツベルン)と似た姿に変化する。そこでエウリュアレとエミヤが叫ぶ。

「ちょっとあなた! 私のメドゥーサに何してくれてんのよ! 女神さまを怒らせたいわけ!?」

「マスター!? 私より違法改造が得意なのは流石にどうかと思うがね!?」

「テメェが言えた義理かアーチャー!! だがよくやったぜマスター! こいつの素っ頓狂な顔が見られただけで気分爽快だ! ハッハッハァ!」

 エミヤの驚愕とクー・フーリンの爆笑。対する悪魔は澄まし顔で、エウリュアレの非難抗議も無視し、霊基の違法改造を推し進めるつもりでいた。

「さな! 人形を持ち運べ!」

 剣人形が透明化。悪魔は手頃なソウルジェムを見つけ次第、自我を持たぬ剣人形に宝魂を挿れる予定である。

 

「これこそがアスカロンの真実! 汝は竜! 罪ありき! 《力屠る祝福の剣(アスカロン)》!」

 真名、ゲオルギウス〔ライダー〕。宝具は合力(コンボ)型。汝は竜なり(アヴィスス・ドラコーニス)により対象を一時的に竜種へと変化させ、竜殺し(インテルフェクトゥム・ドラーコーネース)により竜種特攻の特大ダメージを与える。近接の際は剣が竜種を斬り滅ぼし、遠隔の際は剣の弾いた光が槍となって竜種を貫き滅ぼす。

 竜種と化した悪魔は角・鱗・翼・尾が生える。迫り来るは竜種断罪の極光投槍。極まる逆転勝利。宝具発動直後は隙が生じる。その隙を突いて悪魔は晴拳銃を抜き放つ。早撃ち五射。ゲオルギウスの鎧に一発目が命中するが貫通せず。同じ箇所に二発目が叩き込まれることで鎧を貫通。されど骨肉に阻まれて霊核に届かず。ならば三発目。そこで宝具《幻影戦馬(ベイヤード)》が発動。能力は致命傷となる攻撃を一度だけ無効化すると看破。さらば四発目。されどアスカロンは無敵の力を有する。それは敵を倒す意味に非ず、いかなる敵からも身を守る意味での無敵。守護の力は、弾丸が霊核寸前に届く所で弾き飛ばす。故の五発目。それもまたアスカロンの無敵の加護によって防がれる運命────だったが────

 竜殺しの光槍が、不意に悪魔の頭部から逸れて左肩に着弾。半身を切り裂く。その理由は、悪魔が死(・)に(・)に(・)行(・)っ(・)た(・)か(・)ら(・)だった。対するゲオルギウスは、アスカロンの加護を抜けた五発目の弾丸により霊核を貫かれていた。守護騎士スキルをもってしても貫かれた防御概念。いかなる理由で我が無敵の防御を突破したのか、ゲオルギウスは悟る。

 悪魔は受け入れたのだ。裁かれる事を。悪魔の如し振る舞いを為す自らの悪性(ファヴニール)を意識し、敢えて竜殺しの剣を受けようとした。しかしそれは悪魔の死刑を意味するため、当然、逆転勝利の女神が許すはずがない。故に逆転勝利の力が極限まで高まり、ついに光槍が命中するギリギリの瀬戸際で、アスカロンの無敵の力を突破するほどの神秘を後天的に獲得した。

(誰しも、自らの罪を指摘されることは恐(・)怖(・)である……できれば、その糾弾・断罪から逃れたいと思うのが人情。しかし彼は……その恐怖から目を逸らすのではなく、自暴自棄になって受け入れるでもなく、まっすぐと正面から呑み込んで、受け入れた。これにはアスカロンも、最後には彼の善性を認めざるを得ない。最終的に槍の狙いが外れるのは当然か……しかしそれだけで私の霊核は砕かれない。何をした?)

 単純なことだ。そもそも今回の召喚で、聖人ゲオルギウスが守るべき者なぞいなかった。故に守護騎士スキルは発動せず、且つ、最後の五発目には嵐・雨・雷の炎が調和されていた。さらに叛逆魔法を付与し、対魔力を突破。

(なるほど……つまり、それは純(・)粋(・)な(・)沢(・)田(・)綱(・)吉(・)の(・)強(・)さ(・)、ということですね。この短時間の超(ハイパー)戦闘の中で、彼はぐんぐんと成長している……やはり若者というのは、伸び代の塊ですね……あぁ、もし、私があなたに召喚されていれば……ぜひ、よき指導者として、振る舞いたいものです……)

 ゲオルギウスの戦闘続行スキルが発動。それは大地の祝福による不屈の力。霊核が砕かれてもなお、彼は殉教者の魂を以て、今度こそ守(・)る(・)べ(・)き(・)者(・)た(・)ち(・)の(・)た(・)め(・)に(・)奮(・)戦(・)す(・)る(・)。

「────サーヴァント・ライダー。真名をゲオルギウス。虫の息ですが、霊核を砕かれたことで支配魔法から脱しました。どうか、あなた方への力添えをお許し願いたい」

「ベイヤードのソウルジェムを貸せ。そして誰も死なせるな」

「……了解です」

 ゲオルギウスは召喚時、自身だけではなくベイヤードまでQB契約をさせられた。ベイヤードは既に一度限りの無敵能力を使っているため、もはや宝具としては役に立たない。だがそのソウルジェムに宿る固有魔法は《無敵》であり、元は魔女が所有していた魔法の白馬だとしても、その性根はゲオルギウスと似て善良だ。悪魔はベイヤードのソウルジェムを貰い、施術魔法で剣人形の霊基に埋め込む。

「ベイヤードの身体も勿体無い。上手くつなげて半人半馬にするか?」

「勘弁してくれ!」エミヤの絶叫。

「ギャハハハ!」ランサーの嗤笑。

「ベイヤードもその方が動きやすいだろう」

 いきなり人の体を操作して慣れるとは思えない。せめて下半身は馬にすることで機動力を損なわないよう配慮したい。施術魔法を行使。ベイヤードの下半身と剣人形の上半身を繋いで人馬一体と化す。

「エミヤとベイヤードの合体、故に改めてベミヤと呼ぶ! ベミヤは怪物の父たる黄金剣で、刀剣となった怪物を多数召喚し、その全てを操って自陣の守護に当てろ! 騎英の手綱はベミヤ自身に使い、アーマークラスを獲得! 無敵魔法も組み合わせて、絶対に倒されるな! お前が健在であれば、それだけで守りは堅くなる!」

「────承知しました。我が主人(ゲオルギウス卿)のマスターよ」

 宝具《怪物の黄金剣》の真価は、その斬撃自体が怪物を産む概念と化すところにある。要はベミヤが黄金剣を振るうたび、ただそれだけでエキドナ、ゲリュオン、ケルベロス、オルトロス、ヒュドラ、キマイラ、スピンクス、ネメアー等の魔獣────もとい現在はエミヤの属性・剣によって、その魔獣の特性を有する刀剣を召喚する能力になっている。

 石化の魔眼で敵を止め、斬撃。斬撃から刀剣が産まれ、敵を斬り喰らう。敵の攻撃は産んだ子等によって防御し、宝具を叩き込まれた場合は、子等を壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)で爆発させることで相殺する。それでも純粋な火力勝負で負けたり、何かしらの能力で相殺できずとも、騎英の手綱と無敵魔法によって得られる防御数値で、決して倒されない駆け抜ける要塞となる。それが悪魔の命令。

 ゲオルギウスは鮮血神殿を築く騎兵のメドゥーサの居場所を知るため、彼女を見つけ出して斬り殺す。虫の息であろうとも、誰かを守るという信念には負けられない。その信念が大地と共に続く限り、決してゲオルギウスは僵(たお)れないだろう。

 

「それでも拙者には敵わんもんねー! 《アン女王の復讐(クイーン・アンズ・リベンジ)》! ニョホホ!」

 真名、エドワード・ティーチ〔ライダー〕。黒ひげの異名を取る、黒髭海賊団の船長。宝具は海賊船。低速度だが高耐久。四十門の大砲を備え、低霊級の名も無き部下たちを扱き使う。そして最大の特徴は、黒髭艦隊の旗艦《女王アンの復讐号》に搭乗する者が精鋭ぞろいであればあるほど、船自体の性能が強化される点にある。これはつまり、現(・)在(・)三(・)百(・)人(・)ほ(・)ど(・)の(・)サ(・)ー(・)ヴ(・)ァ(・)ン(・)ト(・)を(・)搭(・)乗(・)さ(・)せ(・)て(・)い(・)る(・)黒(・)髭(・)の(・)海(・)賊(・)船(・)は、まず間違いなく史(・)上(・)最(・)強(・)の(・)海(・)賊(・)船(・)となっていた。

「こうなったらば、我が黒髭海賊団は最強無敵・完全無欠! これは一方的な虐殺ですぞぉ! ヘイ! クラッカーヴォレイ! 吹き飛びなぁ!!」

 黒ひげの宝具は陸上で展開すると大量の魔力を消費する。だが搭乗サーヴァントの魔力を分け与えてもらうことで、常時発動型宝具としての現界を可能とした。高速度・超絶高耐久。しかし攻略できぬほどではない。

 四十門の大砲が一斉掃射。ベミヤの無数怪物刀剣が上空を覆い尽くして相殺を狙うが、砲撃の威力はC++ランクを遥かに凌ぐため軽々と突破される。セイバーの宝具を使えば全砲撃を焼き払うことは可能だが、敵サーヴァント集団の邪魔が入り宝具発動に持ち込めない。このままでは自軍は一瞬で壊滅する。

(ほむら!)

 悪魔の念話。それが時間停止の合図だと気付いた暁美ほむらは時を止める。すかさず暁美ほむらは跳躍し、悪魔に触れた。環いろはも止まった時の世界を動けるようになり、髪を伸ばして七海やちよに接続。次の瞬間、音速二十号を優に超す虹霓の雨は、海賊船に乗るサーヴァント三百騎を瞬く間に殺し尽くした。時が動き出す。

「ぐわっはっはっは────グハッ!? あれぇ? 拙者の霊核、かなり正確に貫かれてますぞぉ? おかしいなぁ……時間停止とかチートすぎるでしょ! もういやーん!」

 直後、黒髭は自らの宝具を壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)で爆破させた。

『っッッ!!?』

 それは太樹迷宮の一角を吹き飛ばすB+++ランク以上の自爆攻撃。情け容赦ない海賊の誉れによる最期の足掻きは、敵味方を問わず甚大な被害をもたらした。

「チィ────!」

 精神汚染を有する海賊の意想外の行動は、さすがのランサーも面喰らい、ルーンによる結界防御がギリギリだった。タイツの手足が焦げ付く。これは防御が得意ではない味方が何人か死んだと悟る。

「くっ!」

 エミヤは着地と同時に分析を走らせる。走査の結果、どこにも静謐のハサン、清姫、玉藻の前、セングレンとマッハの姿が見当たらない。ほかは無事。敵軍も壊滅状態で混乱し、散り散りになっているが、一分も経てば再び包囲殲滅が始まるだろう。

「マスター! 無事ですか!?」

 アルトリアは魔力放出で駆け抜ける。天上を爆煙が覆う中、悪魔が煙から抜け出て墜落。地上に激突する前に受け止める。

「ガハッ!!」

「っ────《治癒》!」

 環いろはの治癒魔法が、生存している者たちの負傷を癒す。が、味方の数が三人と二頭、少ない。

「悪魔!」

 七海やちよが降り立つ。ソウルジェムの魔力をフル回転。これから彼女は何をするつもりなのか。悪魔は直感し、確かにそろそろ頃合だと思っていた。アルトリアの腕から起き上がり、号令を発する。

「これより英霊召喚を執り行う! 具体的な真名が思い浮かばなくても、必要だと思う役割(クラス)を念じろ!」

『……っ!!』

 悪魔は回収した英霊の魂を使い、莫大な魔力リソースを獲得。七海やちよは《幸運》と《英霊召喚》の魔法を同時行使。それらを合体(コネクト)。そこへエミヤの声。

「全方位より敵が接近している! 猶予は三十秒もないと思え!」

「なーに、殺しまくればいいだけの話だろうが!」

「みなさん、ご武運を!」

 エミヤはアイアスの盾を投影準備。他の武器に関しても、いつでも凍結解除可能な状態まで準備しておく。すかさずランサーは南側にルーンの結界を張り、東側から北川に回り込むように突貫して敵軍の波を押し返す。アルトリアは西側を受け持ち、宝具《風王鉄鎚(ストライク・エア)》の薙ぎ払いで敵サーヴァント集団を蹴散らす。

 悪魔は、召喚者全員に叛逆魔法を掛けて詠唱破棄。いざ魔法少女は、自らの祈りを誓い、TP魔術界の決戦兵器(サーヴァント)を降霊する。

 

          ♪~oblivious~♪

 

 全員、円環の如く輪を成して立ち並び、向かい合う。

 

 不意に悪魔は、七海やちよに《忘却魔法》を所望する。それで何をするつもりなのか。七海やちよのソウルジェムに触れて叛逆魔法を行使。忘却魔法の使用権限を獲得。

 加えて悪魔は、笹川京子のソウルジェムと青音すずのグリーフシードを使って、新たに二騎のサーヴァントを召喚しようと考えていた。そのため悪魔は、自らに《逆転勝利魔法》を付与。あとは己の運命に託して賭ける。

 

 環いろはには考えがあった。真名看破するたび、全てのサーヴァントはソウルジェムを有していた。それを砕けば、霊核を狙わずともサーヴァントを殺すことができる。ならば、と閃いたのだ。そして、自分が知る最強の存在といえば、直近ではあ(・)の(・)人(・)しか思いつかない。あの戦いを最後まで生き残った魔法少女として、あの鮮烈な姿は時々悪夢として見るほどに強烈だった。故に、もし味方となってくれたら、それはどれほど心強い事だろうか。しかし、死人を蘇らせるなんて、それは死者への冒涜かもしれない。それでも今を生きる大切な人たちを守る為に、どうか力を貸してほしいと────祈り、願い、希望する。

 

 二葉さなは迷っていた。サーヴァントは怖い存在。この状況では、もうそうとしか思えない。だがクー・フーリン、エミヤ、アルトリア、清姫や静謐のハサン、玉藻の前、ゲオルギウスなど────まともに話したことは一度もないが、誰もが頼りになる存在だった。そのうちの何人かが呆気なく死んだ。この恐ろしい戦いに終止符は打てるのか。否、打つために、その恐怖を頼らなければならないんだ。二葉さなは勇気を振り絞り、どうかみんなの助けになれるようなサーヴァントを希望する。

 

 七海やちよは、そろそろ気が付きつつあった。自分がここまで強いはずがない。幾千幾万のサーヴァントの軍勢と戦って、殺し尽くし、生き残れているのは、倒したサーヴァントの中に七海やちよを認めてくれた者がいて、自らの希望を七海やちよに託してくれたのだと。ほんの数秒とはいえ落ち着ける余裕が出来たことで、七海やちよはソウルジェムの中に蓄積した膨大な固有魔法と魔力属性の数、そして総魔力量に気付いて戦慄する。そして思う。驕るわけではない。慢心は油断に繋がり、油断は死を意味する。だが事実として────今の自分は、おそらく人類最強であると自覚した。

 

 実際のところ七海やちよは、既にグランドランサーの冠位資格を得ている。グランドサーヴァントとは、その時代最強の七人が選ばれる。ちなみに一時代前は、選ばれし7人(イ・プレシェルティ・セッテ)が冠位資格を得ていた。しかし彼ら7人が古代種オルツォによって呪われた赤ん坊(アルコバレーノ)とされてからは、冠位資格の可能性を保持しつつも落第、冠位の席からは現在進行形で外されたままである。

 そのアルコバレーノこそ、基本ラインナップとしては────

   グランドセイバー:‐

  グランドアーチャー:ラル・ミルチ、コロネロ

   グランドランサー:スカル、風

   グランドライダー:ヴェルデ、バイパー

  グランドキャスター:ルーチェ、アリア、ユニ

   グランドアサシン:リボーン

 グランドバーサーカー:風

 ────であるが、それはこの中では誰も知らないコト。……否、この中ではDキュゥべえしか知らない事柄である。

 

 かくして七海やちよは無意識に、いつの時代も変わらぬ最強の七人を希望した。

 

 暁美ほむらは沢山の書物を読んだ。その中には物語も多少は含まれている。英霊の仕組みは知らないが、神話なんて本当にあったか分からない。つまり実在・不実在を問わず、歴史上・神話上・伝説上、なんなら物語上の存在でも、サーヴァントが召喚できるとしたら────機械仕掛けの神を喚ぶべきだろうか。当然、七海やちよの幸運魔法があっても、確実に狙ったサーヴァントを召喚できるかは分からない。むしろ、希望したサーヴァントが却ってデメリットとなり、それゆえに別のサーヴァントが召喚されるかもしれない。────考えてもらちがあかない。人事を尽くして天命を待つ。そんな言葉があるように。暁美ほむらは少ない情報の中で、やるべき想いを告げ、鹿目まどかを守れるサーヴァントを希望した。

 

 鹿目まどかは意志を託す。どうか全ての人を救う為に────そのために力を貸してくれる存在なら、誰でもいい。

 

 かくして少女の願いは天を超え、時間軸のない英霊の座に届けられる。

 悪魔は叫ぶ。魔法少女たちも渾身の祈りを叫ぶ。

 

「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ────!!」

『────おねがい! 来て! 私たちの同胞よ!』

 

 魔法少女とは、歴史の陰に埋もれた英雄群像である。歴史に名を残す英雄とは異なり、彼女たち魔法少女の活躍は、宇宙の意思によって死後、跡形もなく抹消される。そのことを知って憤った英雄がいた。そのことを知って運命を覆そうとした英雄がいた。そして、そのことを知って魔法少女を利用した反英雄がいた。その全ての事象が人理の総決算。

 マギウスに仕えるサーヴァントも、悪魔たちに仕えるサーヴァントも、どちらも大差ない。

 

 ただ、ど(・)ち(・)ら(・)側(・)に憐憫したか。それだけの理由で、人は敵味方に分かれる。

 

 極大の魔法陣が大地天空に展開する。爆発的な旋風。虹のように煌めくエーテル粒子の閃光。回転する運命は世界の危機に際し、世界に対する決戦魔術兵器の使用、すなわち降霊儀式・英霊召喚の許可を下す。

 

 極光。各々の眼前にサーヴァントが召喚された。

 

「サーヴァント・■■■■■■(オブリビアス)。個体識別としての真名は《血塗れの悪魔 ジェロニモ》だ。……しかし、おかしいな。私のクラスは、本当にこれだったか? キャスターだったような、アサシンだったような、それかバーサーカーだったような……。……────いや、そうだ。思い出したぞ。なるほど……どうやら私のマスターは恐れ知らずで、とんだ食わせ者のようだ。よろしい。改めて名乗ろう。

 ────サーヴァント・デモンズソウル。これは私(・)た(・)ち(・)の(・)真(・)名(・)でもある。悪魔と呼ばれるのは癪だが、君も好き好んで名乗っているわけではないと見た。ならば良いだろう。私たち“悪魔の軍勢”の力でよければ貸し与えよう。よろしく、マスター」

 

 クラス・オブリビアス(忘却者)。それは規格外(エクストラ)というレベルではない。本来ならありえべからざる例外(イレギュラー)のクラス。悪魔は忘却魔法によって“世界”と“英霊”を欺いた。召喚されるクラスを世界に忘れさせ、召喚されたクラスを英霊に忘れさせる事で、神秘の曖昧性を獲得。そうしてど(・)の(・)ク(・)ラ(・)ス(・)で(・)召(・)喚(・)さ(・)れ(・)た(・)か(・)不(・)明(・)な(・)状(・)況(・)を作り出すことで、ど(・)の(・)ク(・)ラ(・)ス(・)で(・)も(・)召(・)喚(・)さ(・)れ(・)た(・)という状況を作り出した。故に本来ならキャスターとして召喚されるはずだったジェロニモは、アサシン等のスキルや宝具を引っ提げて召喚された。

 

 それだけではない。悪(・)魔(・)と(・)い(・)う(・)異(・)名(・)も、英霊の座を欺く際に大きく影響したようだ。忘却の悪魔によって召喚されたサーヴァントは、その性質に引っ張られて悪魔(デモンズ)のクラスを獲得。さらに召喚された英霊の魂は一騎分だけに飽き足らず、人類史において《悪魔》という称号が付けられた、ほとんどの英霊を、ひとつの霊基の中に押し込む形で強引に呼び出されたようだ。故に、その規格外(エクストラ)なクラス名を悪魔の魂たち(デモンズソウル)と呼称する。

 

 悪魔の眼前には、少なくともインディアンの戦士(ジェロニモ)、人を憎む狼(狼王ロボ)、奇天烈な道化師(メフィストフェレス)、黒い刺繍が蠢く少年(アンリマユ)────ほか幻霊級・低霊級の域だが、一つ目の怪物(ゲイザー)、嗤う鰐(カリ)、地獄の番犬(ヘルハウンド)、サングラスを掛けたスーツ姿の紳士(マックスウェルの悪魔)、厳つい拳銃を持った子鬼(ザミエル)、青空と同化するほど巨大な透明の神鯨(リヴァイアサン)などの個体が確認できる。

 これらサーヴァントの現界維持を、悪魔は笹川京子のソウルジェムから出力される魔力と、英霊の魂を回収して分解した魔力リソースで賄う。

 

 そして笹川京子のソウルジェムが明滅した。

「サーヴァント・ライダー。ブーディカだよ。これ以上の逆転勝利を望まない、そんな優しい女の子に召喚されちゃった! でも勝たなきゃいけないんでしょう? それと私、戦うのは割と好きだから、遠慮なく使ってね!」

 悪魔はブーディカの霊基を視認し、飛行能力を有する戦車型の宝具があると知る。

「防御宝具を常時展開。空中で援護中心に動け。空中戦に発展した時、誰かの足場になれるよう留意しろ」

「了解!」

 

 青音すず、そして水泳の魔女のグリーフシードが鳴動する。

「サーヴァント・アーチャー。アタランテ。子供の泣き声を聞いて駆けつけた。どうやら貴様を守ればいいらしい。守勢は得手ではないが……よろしく頼む」

「同じくアーチャー。エウリュアレ! そう、私は『女神さま』よ。短い一生だろうけど、せいいっぱい楽しませて頂戴ね?」

 叛逆魔法により神霊召喚を成し遂げた。おそらく青音すず(陽の魂)によって召喚されたサーヴァントがアタランテで、水泳の魔女(陰の魂)によって召喚されたサーヴァントがエウリュアレなのだろう。悪魔は二騎の霊基を確認し、即座に指示を出す。

「アタランテの宝具《天穹の弓(タウロポロス)》とエウリュアレの宝具《愛の弓矢(クピド)》を施術魔法で合体させる。英霊には男性が多い。男性特攻の広範囲爆撃であらかた片付けることができるはずだ。二葉さなの透明魔法に隠れて魔力が溜まり次第、合体宝具を速射しろ。これで百万のサーヴァント軍勢の過半数を掃討するぞ」

『────────』

 アタランテとエウリュアレは絶句していた。エウリュアレはともかく、英雄にとって魂の誇りとも言える武具を容易く、得体の知れない他人の武具と合体させるなんて、聞いたこともない。しかし事態は一刻を争う。

「それと、その毛皮はオレが貰う。半魔人化の恰好の材料だ。叛逆と逆転勝利があれば狂気に呑まれる事もない」

 

 環いろはのソウルジェムが明滅する。

「────サーヴァント・セイバー。天乃鈴音。……名誉挽回の機会をくれたこと、感謝する。環いろは。いえ、私のマスター」

「鈴音さん……!」

 百を越える魔法少女を暗殺してきた、対魔法少女戦闘の暗殺者(プロフェッショナル)・天乃鈴音。今回の聖杯戦争では、ほぼ全てのサーヴァントがソウルジェムを有する魔法英霊だ。彼女の手にかかれば、ただ触れるだけで殺せるに違いない。これは強力な切り札が手に入った。

 

 そして二葉さなは、召喚の際、恐怖のあまり環いろはの髪を握り締めていた影響か。縁召喚が成立してしまったらしい。そして魔力の大量消費で濁りが溜まりドッペル化。されど修行の成果によるものか、意識は明瞭。気を抜けば暴走する危険はあるが、なんとかコントロール下に置く。

「サーヴァント・セイバー。美琴椿。……あら? 私のマスターはどこかしら?」

 二葉さなは透明化している。そこで恐る恐る念話を送った。

(ど、どうか私のことは気にせず、悪魔さんといろはさんのことを、守ってあげてください……!)

「……! ……承知。────それにしても、まさか英霊として登録されちゃうなんてね。魔法少女は歴史に名を残さないとばかり思っていたのに……これも叛逆魔法のおかげかしら?」

「オレは関係ない。英霊の座は使えそうな駒はなんでも使う。ただ知名度補正は得られない点に気を付けろ」

 

 七海やちよのソウルジェムが明滅する。

「サーヴァント・キャスター! 花の魔術師、マーリンお兄さんだよ! やぁやぁ、どうやって死のうかと悩んだ末、塔の上からダイブしてみたんだけど、なんと楽園の力で回復してしまってね! これはどうしたものかとあぐらをかいてうたた寝をしていたら、なんとキング君が来てくれた! いやぁ、死ぬってこういう気持ちなんだね!」

「サーヴァント・アサシン。召喚に応じ姿を晒した。────怯えるな、契約者よ。我に名はない。呼びやすい名で呼ぶがよい。このように、キングハサンと呼んでもよい……」

「────魔法少女よ、願え。お前たちに不可能は無い。何故ならば……俺がいる。逆転勝利の呪い? 勝利は前進するもんだ。今が茨の道でも、いつかきっと真の勝利が手に入る! それを俺が証明してやる。────サーヴァント・アーチャー。真名を《希望の英雄 ナポレオン》だ。……ただまぁ、ひとつだけ突っ込んでいいか? 俺の横にいるこのふたり……明らかにサーヴァントじゃないだろ! 召(・)喚(・)さ(・)れ(・)た(・)フ(・)リ(・)を(・)し(・)て(・)徒(・)歩(・)で(・)や(・)っ(・)て(・)来(・)た(・)奴(・)ら(・)じゃねぇか! まぁ、いいんだけどな! 細かいことは!」

 七海やちよは三騎の霊基を分析。

「マーリンは後方支援、山の翁は前衛、ナポレオンは生存優先。……サーヴァントたちの希望を継承する中でマギウスの本拠地を教えてくれる英霊がいたの。そこは中央区の真上。不可視の空中要塞にある。そこには強力な結界が貼られていて、きっと数百万に及ぶサーヴァントの控(・)え(・)が待ち構えている。だから────あなたの虹の宝具は、悪魔を空中要塞まで送り届ける為に使う。それまで死んじゃダメだからね」

 

 暁美ほむらのソウルジェムが明滅する。魔力の大量消費でソウルジェムが濁りきりドッペル化。しかし道場で修行した成果かコントロール可能。覚悟ある者として、そう簡単に暗黒面へと呑まれはしない。むしろ七海やちよを見習い、絶望を希望に変えてやる気概で意気込む。

「────クフフ。よもやサーヴァントとして召喚されるとは……叛逆魔法でも使いましたか? 沢田綱吉」

「骸……!?」

「えぇ。サーヴァント・キャスター。六道骸……呼び声に応じ、こうして召喚されました。しかし勝ちの決まった戦いに参加するほど僕は暇じゃありません。この霊基の身体、どうにかして受肉させ、現世で彷徨う僕の魂の器にならないものか……」

 そう言って六道骸は霧となって姿を消した。

「っ!?」

 幻術による気配遮断。まさかの非協力的なサーヴァントを引いてしまい、暁美ほむらは焦る。

「気にするな、ほむら。お前がピンチの時は、なんだかんだ言って助けに来る。お前が死ねば依代を失って消滅するからな」

「で、でも……」

 これでは魔力を失っただけだ。暁美ほむらは歯噛みして俯く。

「────待て、しかして希望せよ」

「え……!?」

 不意に黒き影が現れる。それは毒炎の魔力を漂わせながら実体化した。

「我が共犯者以外に召喚される気はなかったが……アイツなら『さっさと助けに行け』と言うと思った。故に────復讐の化身、黒き怨念。この俺を呼べば代わりは要らん。さぁ往くぞ、恩讐の彼方へ。貴様が持つ鋼鉄の決意は、この程度の不幸とも呼べない躓(つまず)きで屈するものなのか?」

「……!!」

 暁美ほむらは、自らの決意を思い出す。それは友を助けること。言われるまでもなく、その想いを遂げることが絶望的であろうと、決して心の膝を屈することはない。

「それでいい。俺は影となり援護する」

 黒き影は霊体化。否、どこかの時空へと潜り込んで反応が消失。悪魔は直感。暁美ほむらの精神世界に入り込んだ。ドッペル化による暴走を防ぐべく、瘴気を毒炎で浄化する腹積もりのようだ。

 

 鹿目まどかのソウルジェムが明滅。魔力を大量に消費するが、ドッペル化には至らない。

「サーヴァント・バーサーカー。ナイチンゲール。私が来たからには、どうか安心なさい。全ての命を救いましょう」

「……!」

「たとえ、全ての命を奪ってでも────私は必ずそうします」

「!?」

 そしてナイチンゲールは、悪魔を見た途端────

 悪魔もまた、ナイチンゲールの狂気に満ちた心情を直感した瞬間────

「精神に腫瘍のある患者を発見! 緊急治療を開始します!」

 ナイチンゲールの拳銃から弾丸が発砲される。対する悪魔は死炎噴射で上空に逃亡。

「えぇ!? ちょ、ちょっとまって! なんでいきなり────!」

 困惑する鹿目まどか。しかしそれがバーサーカーというものである。

 

 なんにせよサーヴァント召喚は成功した。悪魔は指示を下す。

「総員、戦闘開始! 太樹の頂きを目指しつつ、手当たり次第に殺しまくれッ!!」

『了解ッ!!』

 

          ♪~怪物~♪

 

 悪魔陣営は進軍開始。三十秒どころか三分間、敵を足止めしていた三騎士(アルトリア、エミヤ、クー・フーリン)は、これで魔法少女も十分な休息が取れただろうと考える。無論、英霊召喚で莫大な魔力を消費し、精神も疲弊しているだろうが、今回ばかりは甘えたことは言っていられない。

 悪魔、七海やちよ、ランサー、セイバーは進軍方向の前衛を務める。山の翁、マーリンは挟撃を防ぐため側面からの敵軍を次々と殺す。ほかは陣形中心にて全方位を援護。

「勝利の女王の名の下に、その首を晒すがいい……! 《約束されざる勝利の剣(ソード・オブ・ブディカ)》!」

 真名看破、ブーディカ〔アヴェンジャー〕。悪魔と笹川京子のソウルジェムが召喚したブーディカではない。マギウスの大聖杯が召喚した別側面のブーディカである。宝具は魔力塊の一斉連射。悪魔たちにBランク級の光弾が爆撃する。

「あーあーもう! 自分との戦いとか燃えてくるね! あなたは私だから気持ちは分かるけど、今回ばかりは私が勝利の名を冠するよ! かわいいかわいいマスターのためにね! 《約束されざる守護の車輪(チャリオット・オブ・ブディカ)》!」

 さらにブーディカのスキル・アンドラスタの加護が発動。それは集団戦闘において自陣全体の全判定にプラス補正を掛け、且つ、それが守勢であれば最大効果を発揮する、防御陣形に特化した能力。さらに仲間を守る盾としての宝具が組み合わさることで、ブーディカが守護する陣営は鉄壁の守りを誇る。空中にて回転する複数の車輪がシールドとなり爆撃の雨を防ぐ。かくて砲煙弾雨を掻い潜る悪魔は豪腕一撃、敵ブーディカの飛行戦車を破壊。七海やちよが虹槍一閃、敵ブーディカの霊核を砕く。さらに天乃鈴音が宝具《炎想継承(ザバーニーヤ)》を発動。ウェルキンゲトリクス〔アヴェンジャー〕のソウルジェムを焼き尽くした。魂を破壊すると魔力として回収できないが、まだまだサーヴァントはごまんといる。目に映る者すべてを殺し尽くしても、羽虫のように有象無象のサーヴァントどもが湧いて出てくるだろう。故に効率を気にする必要はない。気にするべき効率は、囲まれて叩かれる前にどれだけ素早く殺せるか、だ。

 

「空に輝きを。地に恵みを。民に幸せを。そして星は輝きを与え、無限の希望は回転する。フランス万歳(ヴィヴ・ラ・フランス)! みんな大好きよ! 《愛すべき輝きは永遠に(クリスタル・パレス)》!」

 真名看破。マリー・アントワネット〔ライダー〕。結界宝具展開。王妃の信念、新時代の象徴、歴代フランス王家の威光。その三種概念が組み合わさる事で、巨いなる優美な宮殿が透き通る光を沸き立たせながら降臨。自陣営のステータスを一時的に強化する。

 そして麗しの姫君スキルにより、マリーの周囲には彼女を守る騎士が自然と集う。その中の一騎が、マリーの騎士ではなく、マリーと並び立ち、さらに遥か先へ向かわんとする気勢を発しながら、覇王はカリスマの兆しを見せる。

「今が勝機、かな。さぁ、いずれ彼方に至るため────《始まりの蹂躙制覇(ブケファラス)》!」

 真名、アレキサンダー〔ライダー〕。宝具は英霊黒馬ブケファラスによる蹂躙走破と、雷帝ゼウスの雷を撒き散らしながら片手剣(スパタ)で一閃する猛攻撃と看破。轟々落雷、太樹爆砕。敵味方を問わず蹂躙していく。機動性が高く小回りが効く宝具は、神雷が邪魔するのもあり容易に近付いて殺しきれない。

「あら、私を置いて先走るなんて、やんちゃな子ね! でも、それでいいの。子供は元気であるべきだわ。そう、まるで────さんざめく花のように、陽のように。咲き誇るのよ、踊り続けるの! 《百合の王冠に栄光あれ(ギロチン・ブレイカー)》!」

 旧名フルール・ド・リスの宝具。ガラスの馬に跨るマリー・アントワネットは悪魔陣営へと突撃。輝ける光の粒子を撒き散らしながら戦場を駆け抜ける。その輝きに触れた者が王権(マリー)の敵対者であれば炸裂し、王権(マリー)の味方であればあらゆるバッドステータスを解除して体力や魔力を回復する。

 黒馬とガラス馬による蹂躙走法。そこに赤黒い鎧を着た音楽騎士が現れ、戦場を燎原の火の如く焼き払う。

「《至高の神よ、(ディオ・サンティシモ・)我を憐れみたまえ(ミゼルコディア・ディ・ミ)》!」

 真名、アントニオ・サリエリ〔アヴェンジャー〕。宝具は心身を蝕む破滅の曲の演奏と看破。無辜の怪物によって彼にはあらゆる人々の悪意・中傷・流言飛語・デマゴーグといった、おぞましき囁きが集い、それを燎原の火スキルにって自らの力へと変える。宝具によって一個の生物が秘めるには重すぎる殺意を圧縮し、魔力を混ぜ込み凝縮。対象となる集団精神を攻撃・弱体化、時には自死を促すほどの猛威を振るう。

 悪魔陣営の耳元あるいは直接脳内に働きかける、自身の半生についての誹謗中傷。魔法少女たちのソウルジェムが燎原の火の如き勢いで穢れていき、魔力の流れに支障が生じる。唯一十全に動けているのは悪魔と七海やちよ、ほか味方サーヴァントたち。エミヤがアイアスの盾を張り、ランサーが全種ルーンの防壁を作ることで、戦闘の手が鈍った者を守りぬく。

「病原体を発見! 殺菌!」

 ナイチンゲールの拳銃連射。弾丸はサリエリが纏う自動殺戮装置たる慟哭外装に弾かれるが、次の瞬間、手榴弾のピンを抜いて飛びかかった彼女は、そのままサリエリの頭部を殴り抜いて爆発。

「ゥゥゥゥゥ……!」

「消毒!」

 サリエリの長剣がナイチンゲールの全身を斬り裂く。その負傷と痛覚を物ともしない狂戦士は「清潔!」その一言で宝具の簡易展開を完了した。彼女の背後に白衣の女神が降臨。巨大なメスが戦場を薙ぎ払うが、それ自体にダメージはない。メスが切り取るべき患部は、人の心身を蝕む“言葉の病気”────いくたあまたの中傷を切り払ったことで、魂に囁き続ける悪意の言葉の数々は爆裂し、魔法少女たちのソウルジェムから穢れが引いていく。

 しかし悪魔陣営の半数の動きが一時停止していたのは致命的。敵陣より宝具が叩き込まれる。

「オレの辞書に“不可能”の文字はない。《凱旋を高らかに(アルク・ドゥ・トリオンフ)告げる虹弓(・ドゥ・レトワール)》!」

 真名看破、希望の虹 ナポレオン〔アーチャー〕。宝具は霊長(ひと)の持つ可能性を砲弾へと換え、その火砲、虹の如く空を飛び、無限に続く橋を架ける対軍砲撃。

「“虹”対決で、私が負けるわけにはいかないのよ!」

 七海やちよの突貫。動きの止まった自陣を守るため数百のサーヴァントを鏖殺し、それに勝るとも劣らない希望を継承した彼女の音速は三十号へと至りつつある。極超音速を遥かに超えた人体は虹の如し残像を作り、轟然と撃ち放たれた虹霓砲撃を一閃、虹槍斬撃で真一文字に薙ぎ払った。中空にて爆発、極大魔力同士の衝突は戦場を、すなわち太樹の一角を吹き飛ばす。されど敵陣にダメージはない。

 

「《刃を通さぬ竜の盾よ(タラスク)》、ナイス!」

 真名、マルタ〔ライダー〕。宝具はリヴァイアサンの息子たる怪獣タラスクを召喚し防壁として用いる代物。続けてマルタは大鉄甲竜・灼熱大回転撃によって悪魔陣営を討ち滅ぼす。

「“悪魔”だぁ!? 舐めた名前名乗っ(マネし)てんじゃないわよ! 喧嘩売ってんなら買ってやろうじゃない! 《愛知らぬ哀しき竜よ(タラスク)》!」(姐さん! 分かってるとは思いますが、もうちょっと落ち着いて! マギウスの所業に怒り狂っての八つ当たりとかキツいっすよ! そりゃ自分も黒髭海賊団の一員にはなりたくなかったっすけど!)

 マルタ渾身の必殺攻撃は、悪魔の眼球ではなく、悪魔の全身めがけて放たれる。お(・)か(・)げ(・)で(・)逆転勝利が十全に極まった。そして彼女の心情を直感し、この攻撃を“試練”と受け取った悪魔は、嫌々ながらも正面突破を挑む。真エーテル解放、不毀の剣を振り抜くと同時、黄金の極光が伸びて斬撃、神域の魔獣たるタラスクの無敵針山甲羅を斬り裂き、悪魔は死炎轟噴、一直線、すれ違いざまに貫手を放ち、マルタの霊核を穿ち抜いた。次の瞬間、信仰の加護スキルによってマルタの心身は誰に傷付けられても万全に動く。

「ステゴロの喧嘩も買ったァ!」(姐さーん!)

 空中にて爆撃する悪魔とマルタの拳打蹴撃超乱打。一方マルタの背後で浮遊する聖杖は、敵味方を問わず、他のサーヴァントの集中砲火を秘蹟で防ぎきる。そして天使すら殴り殺す体技を目の当たりにした悪魔は直感。その体術の間隙を見抜いてマルタの顔面を殴り抜いた。と同時、打突交差(クロスカウンター)を貰う。

『ぐっ……!!』

 刹那、魔力が尽きて秘蹟が途絶えた隙間を抜い、暁美ほむらの狙撃がマルタの霊基を撃ち抜く。ボロボロとなった彼女は落下。半身を切り裂かれたタラスクが受け止めに走る。墜落、激震。

(姐さん! さすがに無茶しすぎっすよ!)

「ゴホッ……いいえ、私の拳を、授けたから……“悪魔”に今後のことを任せるとか、教義的に癪が過ぎて憤死も同然だけど……えぇ。やるべきことはやったのだから、今は祈りましょう。彼が更生する未来が、必ず来ることを……」

(姐さん……)

 マルタ、タラスクと共に消滅。その魂を回収した悪魔は敵陣に突貫。相も変わらず雁首揃える数百数千のサーヴァントと激突する。

 

 轟く雷鳴、煌く威光。馬に乗って戦場を蹂躙するアレキサンダーとマリー・アントワネットが対話する。

「僕は《神の祝福(ゼウス・ファンダー)》を受けている。君は神の寵愛を受けている。同じ神ではないけど、似たようなものだ。そんな似たもの同士が集まれたことは、もう運命としか言い様がない! 僕の軍勢に加わって、共に覇道を目指そうよ!」

 要はパトロンになれと言っている。黄金律があれば、軍備についてもう少し贅沢できたのだが。

「あら、お上手ね! でも覇道に興味はないの。ごめんなさい。でも────」

 紅顔の美少年。覇王の兆し。精神賦活により各種判定にプラス補正が掛かり、既に交渉には成功している。故に共に並び立っている。

 魅惑の美声。麗しの姫君。それは騎士たる人物を引き寄せる。あくまでマリー・アントワネットの騎士であるが、それはアレキサンダーのカリスマ性で従え直せばいいだけのこと。

 世界崩壊の危機であるが、野心に燃えるアレキサンダー少年は、肉体的には少し年上の王妃を口説かんとする。刹那、サンソン〔セイバー〕とアマデウス〔キャスター〕が、悪魔を狙う手が滑ったなどと言いつつアレキサンダーを攻撃した。

「おっと!」

「こら、二人とも! ごめんなさい、アレキサンダー! 話を続けるわね! ────でも、あなたの野心はキラキラしてるわ! こうして召喚されて、支配されて、やりたくもないこと(人類虐殺)をやらされている。なら、せっかくだもの! 私もキラキラしたいわ! あなたの覇道に付き合うことで、この支配から逃れることができるなら────よくってよ!」

「それはよかった! では蹂躙と行こう! 僕らを縛る全ての障害を跳ね除けるんだ!」

 交渉判定成功。やはりアレキサンダーは神の子である。その自己認識と自負が、彼の肉体と神性を強化し、代わりに紅顔の美少年スキルがランクダウン。少し身の丈が増した少年は青年となり、マリー・アントワネットと同い年くらいの肉体年齢を得た。そうやって着実に、彼は豪快な偉丈夫へと成長していく。

 アレキサンダーの強化に伴い、神雷の威力も強まる。次々と戦場に降り注ぐ爆雷。カリスマスキルも向上し、今回の聖杯戦争限定の《王の軍勢》が出来上がりつつある。

「キャスター!」

「ハァ……顔のいい男は信用しないのだけれど、こうして誰かに守ってもらわなければ、宝具で支配魔法を解いた瞬間、ほかの支配英霊に殺されていたのも事実。背に腹は代えられないわ。坊やに守ってもらう代わり、私は宝具で支配英霊を解放する。その約束は果たします。────《破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)》!」

 真名、メディア〔ライダー〕。宝具はあらゆる魔術を破戒する短刀。それをマリーに刺した瞬間、マリーは支配魔法から脱却した。そしてマリーの命令により、彼女に付き従う騎士たちも短刀を大人しく刺されて支配から解かれていく。そしてアレキサンダーは大声を張り上げる。その声の向かう先は悪魔。上空にて太樹の幹を刳り貫き死闘を演じる悪魔に向かって、大王の卵は交渉する。

「悪魔! 君たちも僕の傘下に加わらないかい?」

「断る!」

 世界征服を志すものが二つ。マギウスと征服王。後顧の憂いを断つ為に、どちらも叩き潰すに決まっている。

「なら仕方ない。蹂躙しようか!」

「一時共闘はダメなのか? 太樹を突破するまで2対1でいた方が互いに有利だろう!」

「うーん。それもそうか! 君はいい軍師になれるね! やはり僕のところに来なよ!」

「目的が世界救済ならば付き合ってやる! 中立でな!」

「アハハ! 僕は救済者ではなく征服王となる者だ! 残念だけど、この戦いが終わったあとは殺し合いだね!」

 主にフランス陣営を抱えるアレキサンダー軍勢、方向転換。蹂躙する先は今、悪魔陣営にあらず。マギウス陣営にあり。

「全軍反転! 行くぞ! AAAaLaLaLaLaLaLaie(アアアァララララララーイ)!!」

 

「おぉジャンヌ! そして並行にても輝きしタルトなる聖処女よ! 今こそ! 今こそ淫乱妃イザボーを誅し、お救いしましょうぞ! オォォォォォォォォ!! 《螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)》ゥウウウ!!」

 真名、ジル・ド・レェ〔キャスター〕。宝具は魔導書による大海魔の召喚。巨大質量の降臨によって太樹の一角が圧迫破砕。巨大にして無数の触手が、大量の太樹の幹を捻り切り踏み砕き叩き折る。制御不可の大海魔はジルを体内に埋め込み、そして味方であるはずのマギウス陣営を蹂躙、悪魔陣営とアレキサンダー陣営に対しても見境なく猛撃する。さらに大海魔を中心に、使い魔たる海魔を数十体、連鎖召喚。海魔の軍勢が怒涛のごとく押し寄せる。

「恐怖を! 恐怖を与えよ! 聖処女を冒涜した魔法少女どもに恐怖を! 絶望を! おぉ……神(・)の浜ァ……? なんたる名を持つ聖浄都市か! ならば神よ! これより神の浜辺を涜(けが)し犯す我が悪徳を罰したまえ! さもなくば……さもなくばァ゛ア゛ア゛ア゛!!」

 神の不在証明を成し得よう。それが魔法少女たちにとっての新鮮な恐怖と相成らん。

「悪(・)魔(・)が(・)神(・)に(・)な(・)る(・)のは無しか?」

「……ハ?」

 キャスターのジル・ド・レェは高ランクの精神汚染スキルを有する。同等の精神汚染がなければ基本的に意思疎通は不可能。故に悪魔は、彼の心情を直感し、お(・)そ(・)ら(・)く(・)精(・)神(・)汚(・)染(・)を(・)突(・)破(・)す(・)る(・)で(・)あ(・)ろ(・)う(・)妄(・)言(・)で相対した。そして悪魔の言葉の意味を、すなわち意思を疎通して受け取ったジルは、その言葉の馬鹿馬鹿しさに一瞬、放心した。

 悪魔の魔槍蹴撃。小刀三本が大海魔の肉塊を穿ち、ジルの霊核を貫き、魔導書の端を傷つける。魔槍には叛逆施術魔法を込めてある。大海魔を召喚している要素は魔導書であるため、叛逆施術でパスが切られた海魔の軍勢は一瞬にして消滅。

 悪魔はジルの手元から離れた魔導書を回収し、円卓シールドの裏側に施術魔法で設置。魔力炉を有し、魔術刻印と同様の機能を持つ魔導書は、それ自体が優秀な魔術師となる。起動に必要な魔力さえ流せば、所有者が魔術師ではなくとも、あとは魔導書が勝手に水魔召喚魔術を行使。数十体の海魔を召喚し、使役権利を所有者に譲渡する。そして海魔は倒されても、自身の死体を触媒にして新たな海魔を召喚するため、半永久的に海魔の連鎖召喚が可能と看破。その特性を最大限に活かすべく、悪魔は海魔の軍勢に指示を出す。

「自軍全体の肉壁になれ!」

 

「両目☆ 脇腹☆ 膝☆ 脊髄☆ 設置完了ォ……《微睡む爆弾(チクタク・ボム)》☆ッ!! アヒャヒャハハァアア!!」

 真名、メフィストフェレス〔キャスター〕。宝具開放と同時、呪いの爆弾が三十個生成され、呪術耐性判定に失敗した標的の体内に爆弾が設置される。一人あたりの個数は最大五つ。悪魔の両目、ほかは悪魔陣営の者たち全ての体内箇所に設置完了していた。

 悪魔は思考する。やはり真(・)剣(・)に(・)悪(・)魔(・)を(・)殺(・)そ(・)う(・)と(・)す(・)る(・)者(・)は、的確に悪魔の目の中にある笹川京子のソウルジェムを狙っている。両目の中にソウルジェムとグリーフシードを隠し持っていることがマギウスに漏れているのは織り込み済みだったが、さすがにサーヴァントに狙われると回避が難しい。目的は破壊か奪取か。いずれにせよ黙ってやられるわけにはいかない。

 メフィストフェレスの呪術により、悪魔の脳裏に爆弾のイメージが浮かび上がる。眼球の奥に結界魔法で守られた笹川京子のソウルジェムが回転している。その結界の側面に蜘蛛型爆弾が設置し、ピ・ピ・ピ、と赤く点滅。そんな映像を見せることで恐怖を煽っているつもりなのか、メフィストフェレスは(さぁ怖がれ)と言いたげに哂っていることを直感する。

 しかし道化師の期待に反して泰然自若の悪魔は魔槍蹴撃。爆弾が怖くないのか道化師を殺しにかかる。叛逆を込めた小刀三本がメフィストフェレスの霊核を貫いた瞬間、道(・)化(・)師(・)の(・)意(・)思(・)に(・)反(・)し(・)て(・)宝(・)具(・)の(・)爆(・)弾(・)が(・)一(・)部(・)起(・)爆(・)した。

「ヘェ?」

 悪魔の両目の奥に設置された二つの爆弾だけが起爆。両眼球爆裂。頭蓋骨が割れて脳漿が跳ね散り鮮血が迸る。

「ぐぅ……!!」

 即座に環いろはの治癒魔法が走る。負傷箇所瞬間再生。そして瞳奥(どうおう)結界は無傷。悪魔が魔槍を放つ直前、悪魔の軍勢(デモンズソウル)の複合術式(魔術と呪術の組み合せ)によって、瞳奥結界を強固にさせていた。そのおかげで爆弾の爆発に耐え、笹川京子のソウルジェムは健在。しかし、悪魔の片眼に封じられたグリーフシードを守る瞳奥結界は、そうはいかなかった。

 爆弾の爆発を受けても水泳の魔女のグリーフシードは傷一つない。そして絶対零度の空間から解放された水泳の魔女は、悪魔を守るべく魔手を伸ばす。

「ガァッ!!」

 悪魔の左目を突き破る魔女の触手。その気配はサーヴァントでさえ寒気がする。極超音速で伸びる触手はメフィストフェレスの心臓を貫き、鞭のようにしなり狂う触手は咆哮を上げて太樹の幹に叩きつけた。

「ガ……ハ……なんと、もはや……目の中に、魔女を、飼っているなんて……同じ《悪魔》を名乗る者として、実に面白い上っ面な兄妹愛……ですねぇ?」

 次の瞬間、暴れ狂う触手によって八つ裂きにされたメフィストフェレスは挽肉と化した。

「ぐぁ……戻れ! すず!!」

 悪魔の叫び。水泳の魔女の触手は言われた通り、悪魔の目の中に引っ込む。即座に結界魔法を行使。水泳の魔女を閉じ込め、死ぬ気の零地点突破で結界内外の熱量温度(エネルギー)を仕分ける。水泳の魔女は凍結封印しなければ、またいつ勝手に動き出すか分からない。

 一方、悪魔の右目から飛び出した魔女の腕。その圧倒的な莫大魔力と瘴気の放出を垣間見た暁美ほむらは絶句していた。

(今のは、ワルプルギスの夜……!? ううん、ちがう……それと似ているくらい超強力な魔女の気配……! 悪魔さんはワルプルギスの夜に匹敵するほどの魔女を、片眼の中に封じ込めているの……!?)

 しかし、そのことばかりに驚愕している余裕はない。

 悪魔の片眼が爆発したことで動きが硬直。その間隙を逃さんと十数のサーヴァントが特攻。すかさず金と青と紅の三騎士(アルトリアとクー・フーリンとエミヤ)が聖剣・魔槍・双剣を振り抜き、悪魔の五体を守りぬく。さらに虹槍疾走。希望の虹ナポレオンを殺した七海やちよは音速三十号をかっ飛ばす虹の軌跡を描いて視界に映る数千のサーヴァントを殺し尽くす。

 

「少年大王のために働くのは癪だ。故に同盟者の悪魔(死神)へと、この曲を贈ろう。楽しみたまえ、公演の時間だ! 聴くがいい! 魔の響きを! 《死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)》!」

 アレキサンダー陣営のアマデウスが宝具解放で援護。戦闘を再開した悪魔がぶつかろうとする五百人の支配英霊に多重のバッドステータスを掛ける。

「敵悪頂阻方殲叛陣(敗走前提の包囲殲滅で悪魔の進軍を阻め)。《石兵八陣(かえらずのじん)》」

 真名看破、諸葛孔明。パソコンの圧縮言語のような喋り方でも、しっかりと言葉として聞き取れる不思議。宝具は敵陣を巨岩迷宮に放り込む大魔術。悪魔とアレキサンダーの両陣営は、巨岩が乱立し霧が立ち込める摩訶不思議な領域へと閉じ込められた。霧は濃厚な魔力濃度を有し、その霧に身を晒している間は持続的に瘴気が蓄積。心身が蝕まれて死へと追いやられる。

(ランサー!)

「あいよ! 大神よ、我が手に力を! 《大神刻印(オホド・デウグ・オーディン)》!!」

 原初十八のルーンを一斉励起。刹那、十八色の極光が戦場を包み込む。巨岩迷宮が濃霧ごと爆発四散。両陣営は一息で脱出を完了した。

「然応世詐(ならば与えよう)。《出師表(すいしのひょう)》────水魚混交(コンビネーション)」

 全容解明不可の宝具が発動。諸葛孔明が率いる百騎のサーヴァントに、Aランク相当のコンビネーションスキルが付与される。水魚の交わり、魚群の如く。共闘する百騎は阿吽の呼吸で一糸乱れず侵攻開始。その様はさながら一個の生物。さらに軍師の指揮スキルも相まり、死を恐れぬ長蛇の軍勢が武器(牙)を突き立て襲い来る。

 極まる逆転勝利。悪魔は瞬間ダブルイクスバーナーを放つ。その間、約一秒。両腕交差、仔獅手甲(ガントレット)の肘排気孔(ニースパーツ)から体勢補正用の死炎平衡圧(アフターバーナー)を点火、両手より七色の死ぬ気の炎を圧縮した極大の炎圧を解き放つ。太樹帝都一射両断、轟々と咆哮する猛炎は百騎の軍勢を焼き尽くした。

 七海やちよの虹槍一閃。マギウス陣営の一部を指揮して超強化させていた諸葛孔明の霊核を貫く。

「おまえが囮で、俺が決め手とはな。不要な奇計に巻き込みおって。勝負にそのようなものは要らぬ。ただ十全に整え、当然に勝つのみ。《混元一陣(かたらずのじん)》……破れるものか!」

 真名、司馬懿。宝具は敵陣営の得手を潰し弱点を露わとする幻陽月輪。地平線より幻の日輪と月輪が浮上。陰陽合一。幻光は、かたや悪魔の逆転勝利の加護を潰し、かたや悪魔が秘める水泳の魔女を溢れ零させ露わとする。それは切り札(ジョーカー)殺しの整然宝具。

「なにっ……!?」

 悪魔の超(ハイパー)化が解かれて、額から燃え盛る死ぬ気の炎が消失する。両手より噴き出す死炎浮力を失った悪魔は当然のように墜落。

「わ、わぁあああああ!? 落ちるぅううう!! だれかたすけてぇええええ!!! この高さは死ぬってぇええ!!!」

『っっ!!?!!????』

 まるで人が変わったかのような情けない悲鳴が戦場にこだまする。それが悪魔もとい沢田綱吉の声であると気付くまで、敵味方すべてが一拍遅れた。故に沢田綱吉を受け止める者がいない。数百メートルの高さから自由落下する沢田綱吉は、墜落の恐怖のあまりC.A.I.の浮遊シールドの存在を忘れ、そのまま太樹の枝に激突して死亡する運命にあった。

 

          ♪~The Beginning × 非lie心~♪

 

「チッ────懐かしい(情けねぇ)声を出しやがって!」

 刹那、真紅迅雷。無属性魔力の迷彩を解き、朱い魔力を迸らせて赤雷の如く戦場を駆け抜けた真紅の魔法少女は、落下する沢田綱吉を寸前のところで抱きとめた。滑走する靴底は、アスファルトのように堅い太樹の枝に焦げ付いた靴跡を刻み込む。

「うぐッ……!? ────あ、あれ? 痛くない……?」

 恐怖に竦んで両眼を固く閉じていた沢田綱吉は、面を上げるなり目に入ってきた顔に驚いた。

「さ、佐倉……!? なんで……!!」

「なんでじゃねぇ! ッ! 来るぞ────!!」

 風のように薙ぐ長刀一閃。雷のように弾く朱槍。翻る雅な陣羽織。風流な男は口角を引き、どこか遊ぶように殺しに来る。

「いでっ!?」

 槍を奮うため佐倉杏子に手放された沢田綱吉は落下、腰を打つ。刹那、風神と雷神を想起させる刀と槍が激発した。

「ひぃいいい!!」

 頭上で自らを殺す刀と、それを跳ね返す槍が幾度となく躱される恐怖に、沢田綱吉は血相青ざめて絶叫する。腰に吊るされた環いろはは、悪魔の豹変に驚いて放心、真名看破を忘れていた。

「いろは! なにボーッとしてやがる! 死にてぇのか!!」

「っ!」

 焦燥する佐倉杏子の怒号を受けて我に帰った環いろはは真名看破魔法を行使。

 真名、佐々木小次郎。宝具は────存在しない。その念話を受けて佐倉杏子は愕然とする。

「なんだって!?」

「ふふ。その種明かしはすぐにしてやろう。しかし……なるほど。将を射んとせば先ず馬を射よ。逆転勝利と叛逆の加護を取り払った刹那、世にも稀な悪魔は、どこにでもいる小童に成り下がる。されば単なる一刀で仕留めればよいだけのこと。たかが小童ひとりを殺すのに、どうして大量の英霊を使う必要がある? そんなもの、無駄の極みだ。小童の首なんぞ、この亡霊のひと振りで十分だと────そう、司馬懿どのは言いたいそうだ」

 佐々木小次郎は剣戟の最中だというのに、どこか歌うように語る。

「いや、実に淡々、真(まこと)に流麗。農民程度に軍師の脳内なぞ推し量るべくもないが、素敵なものに敬意を評し、戦働きでお返しすることはできる。では────いざ」

 不意に佐々木小次郎は刀を引くと、独特な構えを取った。

(っ! なんの構えだ? 何か来る……!!)

 佐倉杏子は身の毛が弥立つ。脳裏によぎるは後悔の一念。どうして悪魔を助けに飛び出した。どうしてこんな、姿を晒せば殺されると分かってる戦場から、すぐ逃げ出さなかった。佐倉杏子は佐倉杏子のために生きる。そのために千歳ゆまを手放し、これからは初心にかえって、魔法少女としての人生を走りきって、どっかできっと野垂れ死ぬんだと────そう、思っていたのに。

「雑念あらば、このひと振りで四人は殺せよう。死が救済とまでは言わないが……場合によっては、死んだ方がマシなこともあるだろう。────秘剣・燕返し」

『マスター!!』

 その秘剣の神髄を知るアルトリアとエミヤが、敵軍勢を吹き飛ばし、鍔迫り合いながら叫ぶ。しかし叫んだところで助けられるはずもなし。既に佐倉杏子と沢田綱吉、そして笹川京子のソウルジェムと水泳の魔女のグリーフシードは、もはや死んだも同然である。

(────────)

 斯くて秘剣が閃く刹那、佐倉杏子は分析魔力を迸らせて戦慄(ゾッと)した。佐々木小次郎といえば、たしかに燕返しが有名だ。しかし、どんな絶技であろうと、魔法の力があれば捌ききれると自(・)惚(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)。分析の結果、秘剣・燕返しの初(・)動(・)は、縦(・)軸(・)と(・)両(・)横(・)軸(・)の(・)三(・)軸(・)か(・)ら(・)織(・)り(・)成(・)さ(・)れ(・)る(・)真(・)円(・)で(・)対(・)象(・)を(・)逃(・)さ(・)ず(・)斬(・)り(・)伏(・)せ(・)る(・)ことにある。

 その初(・)動(・)というのが肝だ。まず彼の秘剣は超高速の三連斬撃などという次元には存在していない。物理法則上、一の太刀は頭上から股下を断つ一刀、すなわち縦の線にある。普通そこから二の太刀と三の太刀が続(・)く(・)と思われるのだが……かの秘剣は、そ(・)も(・)そ(・)も(・)考(・)え(・)方(・)の(・)根(・)本(・)か(・)ら(・)狂(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)。普通そんなこと思い付きもしないし、試してみようとも思わない方法で、彼は燕返しという絶技を完成させてしまっていた。

 佐々木小次郎の対燕想定上、二の太刀は流れを読ませぬ敵を囲む一刀、すなわち円を描く線にある。そして三の太刀は左右に逃げる敵を捉える一刀、すなわち横の線にある。問題なのは、これを全(・)く(・)同(・)時(・)に放っていることだ。

 三つの斬撃を全く同時に放つ。それは一本の刀で可能な剣術ではない。発想の前提として三本の刀が必要となる。しかし彼は一本の長刀しか持たない。すなわち燕返しという技は、たった一本の刀で三本分の働きをし、尚且つ、どこから燕が飛んできても必ず斬り殺せるよう、無限の軌道を再現しようという試み。──佐々木小次郎は不敵な笑みを浮かべている。まるで、たまさか燕を斬ろうと思い行ったら、刀を三本に増やす必要が生じた、しかし人の腕は二本しかない、ならば同時に三つの斬撃を放てば済(・)む(・)話(・)だと閃いた。そして、ただのその絶技を編み出すためだけに生涯を費やした。狂気の沙汰だ。

 真実、佐倉杏子の分析魔力は、佐々木小次郎の傍らに三本の刀を認識していた。眼前の剣士は一本の長刀しか備えていないというのに、確かにそこには三つの刀が実在しており、三つの斬撃が迫り来る。回避は不可。守勢を苦手とする佐倉杏子に有効な防御方法は皆無。結界魔法の展開も時既に逸した。このまま何もしなければ佐倉杏子の胴体とソウルジェムは十字に斬り裂かれ、沢田綱吉の頭部は縦一文字に割れるだろう。仮に前後左右天地一方へ躱せば当然、神速の太刀筋に速度で敵うはずもなく、また真円の牢獄から逃れるべくもなく、二の太刀が佐倉杏子の胴と魂を薙ぎ、三の太刀が沢田綱吉の胴体を輪切りにする。

 佐倉杏子のソウルジェムが激しく明滅する。分析魔力によって絶対の死を自覚した。その絶望が濁りと穢れとなってソウルジェムを歪(ひず)ませる。だが何から何かで諦めたわけではない。回避も防御も不可能ならば、佐倉杏子が最も得意とする速攻戦術(スタイル)で、とにかく我武者羅に、この窮地を脱するしかない。

(弾性魔力励起(マナスプリングオーラ)、宝魂魔力全速回転(ソウルジェム・フルスロットル)ッ!!!)

 ソウルジェムの“ひずみ”を弾性魔力で強引に強制し、濁りや穢れによる魔力圧・魔力速などの性能低下を強制解除。それは仕切り直しスキルと同種の効果をもたらし、佐倉杏子は燕返しスキルの発動と同時、死に立ち向かう雄叫びを上げる。

「あぁああああああ゛あ゛あ゛っ!!」

 魔法《疾風迅雷(テンペスタ・ディ・フールミニ)》を行使。それは臨界点に達した魔力速による超高速移動からの連続刺突斬撃。殺られる前に殺るのではなく、殺られても殺る気概からなる真紅の閃光。されど燕返しの剣速は、それを遥かに凌駕する。

「なにっ────!?」

 しかし佐々木小次郎は驚愕。確かに眼前の朱い魔法少女から“死を前提とした吶喊攻撃”の気配を感じ取った。その予感と勘に間違いはない。だが実際に彼女が行ったことは、捨て身の攻撃などではなかった。刹那、佐倉杏子が三(・)体(・)に(・)分(・)身(・)する。同時、一の太刀が一人目の佐倉杏子の胴を薙ぎ、ソウルジェムを真っ二つに斬って、そのまま振り下ろされる一刀は、環いろはの頭部を守ろうと抱え込んだ沢田綱吉の頭蓋骨を一刀両断し絶命に至らしめた。二の太刀は二人目の佐倉杏子の首を薙ぐ。三の太刀は三人目の佐倉杏子の胴を薙ぐ。では────四人目、否、零人目、それもまた否、本(・)物(・)の(・)佐(・)倉(・)杏(・)子(・)は(・)ど(・)こ(・)へ(・)行(・)っ(・)た(・)?

 偽なる心眼。視覚妨害に対する耐性を得るスキルは、佐々木小次郎の両眼に真実を映し出す。

「────ゴフッ……。なるほど……我が秘剣は燕を一羽、斬るためだけに編み出したもの……だが、それも五羽と増えれば、さすがに全(・)て(・)は(・)仕(・)留(・)め(・)き(・)れ(・)な(・)い(・)、か……」

 沢田綱吉の姿が幻影の如く揺らぐ。藍色の魔力が弾けると、そこには頭蓋骨が割られて大量の血を流す佐倉杏子が息も絶え絶えに過呼吸を起こしていた。

「ハァ、ハァ、ハァ……ッッ!!」

「加えて後の先を取られたか……いやはや、魔法とは面白い。見事だ。さらには死の淵に立ったことで、己がトラウマすら乗り越えたように見える。しかし、それもまた無意識のこと。私の声も、今は聴こえてはいないだろう……」

 佐倉杏子の熟練魔法《先発制人(ファスト・マナアップ)》。能力効果は、初手から必殺魔法を可能とする魔力回転効率の飛躍的急上昇。これにより佐倉杏子は燕返しを放たれたと同時、熟練魔法《弾性魔力励起(マナスプリングオーラ)》と必殺魔法《紅霊幻分身(ロッソ・ファンタズマ)》を無意識に行使していた。それは現在、無意識に封印している《紅霊分身(ロッソ・ファンタズマ)》と異なり、固有魔法《幻惑》を用いた数体の分身の作成。増殖と構築の魔力こそ使用してないが、ほぼ本体に近い実体を伴う分身だ。

「さて、沢田綱吉は……後方に蹴り飛ばしたか。それでも我が長刀の射程があれば、沢田綱吉の首を掻き切ることも可能だった。それも分身を斬るたび微量なれど減速していき……とうとう五羽目の燕を逃してしまった」

 三つの斬撃で三体の分身を斬り殺し、一人の魔法少女の頭蓋骨を割ったはいいものの魔力で再生されていき、本命の沢田綱吉は「ぶへっ! いだっ! あだっ!?」と、佐倉杏子に容赦なく蹴り飛ばされた衝撃で地を転がって悲鳴を上げている。では、なぜ佐々木小次郎は血を吐いているのか。それは七海やちよの虹槍が、彼の背後より霊核を貫いていたからだった。

「一対一を邪魔するとは、無粋な娘だ……」

 とはいえ、身を貫かれたのは燕返しを放った直後のこと。つまり決着がついたあとの攻撃ゆえ、それは横槍とは言い難かった。裏を返せば、音速三十号を超えてきた虹の軌跡であっても、燕返しの速度はそれを超え、鬼神に迫っていたことを意味する。

「ふぅ……司馬懿どの。すまぬ。小童ひとりを斬り殺す仕事すら果たせなんだ。これは、我らの負けだなぁ」

「一兵士が何を勝手に悟ってるわけ? 将軍ってのは基本的に冷たいものよ。こういう時のために、私を寄越したんだろうから」

 佐々木小次郎は、彼女と死合たかったと言いたげに、苦々しく微笑んで消滅。その傍らに宮本武蔵〔セイバー〕が仁王立つ。敵の登場に反応して立ち上がる佐倉杏子は眼力を込めて敵を射抜く。

 

「……できれば退いてほしいな。私の宝具は、悪魔(彼)の宿業を断つことができる。そのついでに、支配魔法のせいで殺しちゃうかもしれないけど……魔法の力があるなら、治癒とかそんなので大丈夫でしょう?」

「ざけんな……ここから先は、一歩も通さねぇよ……」

「……そう。彼のこと、気に入っているのね」

「あぁ?」

「ならば退ける道理なんてあるわけないか。莫迦(バカ)なこと聞いてごめんね! じゃあ────覚悟は、いい?」

「────」

 佐倉杏子の思考は沸騰している。どうやって燕返しから生還したのか記憶にない。視界が真っ白になった刹那、頭が火傷しそうなくらいの熱さでふと我に帰った。普通なら死んでいる血の量がボトボトと頭から落ちる。目に血が入って邪魔だ。分解魔力の熱量で血液を気化させる。

 一方、佐倉杏子の後方では、沢田綱吉が頭を抱えて起き上がった。

「いだた……」

 そこへ多数の敵サーヴァント軍勢が飛びかかるが、瞬時にデモンズソウル(ジェロニモやメフィストフェレス)がマスターを守り、アルトリアが撃滅し、ランサーが鏖殺する。

「《六道五輪・倶利伽羅天象(りくどうごりん・くりからてんしょう)》────」

 宮本武蔵の宝具開封。二天一流の構えで剣轟抜刀。

「南無天満大自在天神。仁王倶利伽羅、少天象!!」

 剣気、敵陣の威勢を削ぐ。

「行くぞ……伊舎那・大天象!!」

 威圧の後、渾身の一刀を懸けて走る。剣圧、宮本武蔵の背後に地水火風の仁王を招来。其は空にして零の具現。あらゆる因果を両断する仏の大剣は、究極の斬撃となりて相対する者を撃滅せん。いざ大空より振り抜かれるは、大いなる五本の極刀斬撃。

 地の一刀、大地大陸を両断す。星を轟かし無に帰す爆雷。佐倉杏子の頭上を飛び越え、狙うは沢田綱吉ただひとり。アルトリアの聖剣抜刀。輝きの奔流は地の一刀を弾いて逸らし、沢田綱吉の真横に着弾。

 水の一刀、太樹大海を両断す。生を拐かし萬(よろず)に孕む瀑布。すかさずランサーはルーン起動、宝具ランクを一段階向上。海獣の骨で造られた魔槍により、真っ正面から水の一刀を受け流す。沢田綱吉の足元に轟撃。

 火の一刀、覚悟の炎を両断す。死を脅かし気を削ぐ爆灼。背後をマーリンに任せたエミヤの熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)。七枚の花弁は都合六回断割されたが、最後の一枚に莫大な魔力を注いでなんとかいなし、沢田綱吉の真横に着弾。

 風の一刀、天空世界を両断す。獣を唆かし季を廻す爆颱(ばくたい)。山の翁の大剣が難なく弾く。

 空の一刀。沢田綱吉を両断す。跳び駆ける宮本武蔵と鍔迫り合うは佐倉杏子の朱槍一閃。

「────みんな……!」

 その時、臆病者が立ち上がった。不毀の剣を抜刀。時雨蒼燕流の構えを取る。全身激痛で頭がおかしくなる。逆転勝利の呪いが無く、叛逆魔法も使えない。それでも沢田綱吉は五流剣法で相対する。

「時雨蒼燕流 両式────」

 瞬間、宮本武蔵は第二宝具を解禁した。その名も《魔剣破り、承る!(がんりゅうじま)》。

「この────ダメダメ小僧がァ!」

「……!?」

「まず構えがなっちゃいない! 素晴らしい剣法なのに、使い手がそんなんじゃド十流剣法に成り下がって羽虫さえ殺せやしない! 大切な女の子を守る為に継承したぁ? だったら完璧に継承しなさいよ! 呪いの加護にあぐらをかかず、魔女の力にも頼らず、自分だけの力で! それができないなら引っ込んでなさい! 周りを見ろ! 誰も彼もがあなたを守るために命を散らそうとしている! 全ての人を助けたいと思いつつ、全ての人を死なせようとしている時点で、矛盾の塊よ! さっさと本丸に突っ込んで事を成さない臆病さ! それがあなたの本性よ! 恥を知れ、この痴れ者がァ!!」

「っ……!!」

 沢田綱吉の両手が下がる。俯いたことで目元は髪に隠れて見えない。こんな簡単な罵倒で落ち込み、勇気を削がれる。それが沢田綱吉の本質だと、宮本武蔵は完膚なきまで侮辱し、罵倒し、心を叩きおって潰しきる。

「────だから、なんだよ」

「……!」

 しかし沢田綱吉は、震える喉で言い返した。

「自分がダメダメなんだってことは、オレが一番よく分かってる。あんたに言われるまでもない! オレの心を折ろうとしたって無駄だ。だってオレは最初から、折れるものがないんだから!」

「それはどういう了見か! 初めから何も背負っていないとでも言うつもり? ならばなおさら度し難い!」

「ちがう! オレは────オレは……!」

 沢田綱吉は走り出す。

「いけない! 敵の挑発に乗ってはいけません、マスター!」

 アルトリアの呼びかけ。それでも沢田綱吉は、今にも宮本武蔵に斬り殺されそうな佐倉杏子を助けるべく、サーヴァントでも魔法少女でもない身の上で、ただの最弱な人間として刀を振り上げた。刹那、踏み込んだ宮本武蔵は気迫のみで佐倉杏子を跳ね飛ばし、駆け込んでくる沢田綱吉を迎え撃つ。

「これにて魔剣破り、承った!」

「────十の型」

 水野むくのハーフソウルリングより雨の炎が燃え盛る。天候は暴風雨。太樹迷宮の中でさえ暴風は吹き荒れ暴雨が襲う。時雨蒼燕流は浅瀬に特化した殺人剣術だ。太樹の枝に少量の水面。加えてこの荒れ狂う雨があれば文句はない。いざ沢田綱吉は、乾坤一擲の勝負に臨む。

 対する宮本武蔵の天眼は“沢田綱吉を斬る”べく開眼。並行世界を含む無限の可能性を極限まで削ぎ落とし、つかむ未来をたった一つの勝ち筋に絞ることで、絶対の勝利を手繰り寄せる。

「《蛟竜雲雨(こうりゅううんう)》」

 不毀の剣が水面を切り飛ばす。豪雨の水滴を切り跳ねる。雨の炎が燃え盛り、斯くて雨水の龍が姿を現す。沢田綱吉は一刀一龍、宮本武蔵は二天一流。何もない少年は、二刀流の天元の花に同じ本数で挑みにかかった。

「舐めるな!!」

 宮本武蔵の一刀、水龍を斬り飛ばし、続く二刀目、沢田綱吉の首を薙ぐ。剣戟。悲鳴のち弾かれた沢田綱吉は転び、水龍は守勢に転じて主を守らんと雨の鱗を逆立たせる。二刀抜剣。十文字斬りによって竜の鱗を切り裂いた宮本武蔵は、今度こそ沢田綱吉にトドメを刺さんと刀を振り下ろす。

 刹那、黄色い銃声(悲鳴)。環いろはの死を覚悟した甲高い声と、沢田綱吉が開匣していた拳銃の響鳴。

「────カハッ……」

 嵐の炎で霊核の位置を分析し、刀を手放して開匣、晴の炎で弾丸の速度を活性化させ、霊核を狙い発砲した。それでも宮本武蔵の剣速には遠く及ばない。故に、雨(・)の(・)炎(・)で(・)出(・)来(・)た(・)水(・)龍(・)を(・)何(・)度(・)も(・)斬(・)ら(・)せ(・)た(・)のだ。雨の炎による鎮静作用で剣速が鈍っていた宮本武蔵は、沢田綱吉の首を刎ねるより先に霊核を射抜かれて硬直。しかし彼女なら、その上で刀を振り抜いて相討ちに持っていけただろう。だが霊核を射抜かれた時点で勝敗は決していた。支配魔法から解かれたのだ。これ以上、少年をいじめるのは主義に反する。どうしても命の取り合いをしなければならない状況だったゆえ容赦しなかったが、その状況も変わってきた。であれば、あとは好きに動く。それが女武蔵の考えだった。一方的な虐殺は気に食わないが、この少年を見ていれば……別にそうでもないことが視(・)え(・)て(・)しまった。故に修羅と化すこともないだろう。

「…………それと、私の天眼は視たわ。どうやってもあ(・)な(・)た(・)の(・)首(・)が(・)斬(・)れ(・)な(・)い(・)未(・)来(・)を」

「……!」

「それってつまり、なんていうのかな? 裏を返せば、死(・)ね(・)な(・)い(・)ってこと? それでもあなたは、どういう理由か知らないけど、零(そこ)に向かうのね?」

「……」

 沢田綱吉は堅くうなずく。

「その先は、私と違う感じの地獄よ? それでも……うん! 覚悟があるならば良し! じゃんじゃん行ってきなさい! もしかしたら地球が消えてなくなって、宇宙も六回くらい生まれては消えるのを繰り返すくらい、すごくすごーく、気の遠くなるような時間を過ごすかもしれないけど……」

 宮本武蔵は膝をつかない。地に両刀を突き刺して体を支える。それは剣士としての意地か。たかが少年、しかも半人前以下。されど、大好きな女の子のために死ぬ気で頑張る、とってもとってもイイ男だ。沢田綱吉と顔が近付いた宮本武蔵は、ニッと微笑む。

「がんばれ、少年! 君がどんな世界にいても、私は応援してるから!」

 宮本武蔵は花咲くような笑顔を見せると、黄金の粒子を立ちのぼらせて退去した。

 一方、虹槍蹂躙。七海やちよは、ただ疾走するだけで横に居たサーヴァントを串刺しするだけの単純戦法で、この数分間、都合五千騎のサーヴァントを殺していた。が、なおも敵は目に見える範囲で、その数十倍はある。そして見つけた。虹槍一閃。司馬懿の霊核を貫く。

「────……多くは語らん。ただ、準備が足りなかっただけのことだ」

 揃いも揃って最期には少年の味方をする。そのカリスマ性を視野に入れていなかった。敵の本質が分かった今、次はこうはいかない。しかし命に次はない。本来ならこの情報を別の司馬懿、ないし軍師系サーヴァントに渡すべきなのだろうが……どうにも度し難い心境が邪魔をする。

「孔明め。七面倒臭い役目を残して逝きおって……」

 情報共有拒否。司馬懿は自らの考えをひた隠し、ただ押し黙って消滅した。

 

 司馬懿の退去に伴い、彼の宝具が解除される。沢田綱吉の額に炎が灯り、超(ハイパー)化。眉間にシワを寄せ、テンションは零地点を突破し、いつもの悪魔の様子に戻る。

「────みんなすまない。戦線に復帰する。佐倉は下がれ。一旦後方で落ち着くんだ。のち主軸に加われ」

 死炎噴射。刹那、逆転勝利が極まる。

「苦悶をこぼせ────《妄想心音(ザバーニーヤ)》!」

 気配遮断しつつ砲煙弾雨の戦場を駆け抜けてきた凄腕の暗殺者、真名を呪腕のハサン・サッバーハによる類感呪術宝具が発動。

「いろは。オレが奴を殺すまで治癒は使うな」

 魔神(シャイターン)の赫腕(かくわん)が伸び、その指先が悪魔の胸元に触れた瞬間、鏡像となる心臓を形成。それは悪魔の心臓と瓜二つ。それを握り潰すことで悪魔の心臓も破裂。逆転勝利が極まった。死炎爆発。ハサンの背後に高速移動した悪魔は叛逆施術。彼の霊核を貫くと同時、霊基から自己改造スキルを奪い取った。しかし形のない神秘(スキル)は魔力となって霧散するのみ。そこで再びの叛逆施術により、ソウルジェムと似た概念結晶へと造形し直した。名付けるならば、概念魔法《自己改造》と言ったところか。環いろはの治癒魔法。悪魔の心臓は再生する。

 

「あら、私(エウリュアレ)、見えないけど、もしかしてそこにいるの? 敵同士に分かれてしまうなんて、聖杯戦争って残酷ね」

「あら、私(ステンノ)じゃない。ちょっと私のマスターに微笑んでくれないかしら? さっきからアタランテが射る矢に愛と魔力を込める作業ばっかりで疲れているの。アイドルがファンのために色紙を描き続けるのって、こういう気分なのかしら? ともあれ女神さまを奴隷のごとくこき使うなんて許せなくない? 許せないわよね? だからちょっと試練を与え(殺し)てちょうだい?」

「えぇ、そうね。────ねぇ、そこの勇者様。そういうわけで、私のために死んでくれないかしら? 《女神の微笑(スマイル・オブ・ザ・ステンノ)》!」

 真名、ステンノ。物憂げな視線は脳裏を劈く刃の如し、蕩けるほどの囁きは心を捩じ切る毒の如し。男であれば悩殺され、トドメのカワイイポーズで陥落す(落とされ)る。その誘惑に対し、水泳の魔女が怒り狂って叛逆魔法を行使した。一時的に女神の誘惑すら防ぐ精神干渉を獲得した悪魔は、内心そんな妹に苦笑いしつつ、容赦なくステンノの胸元に貫手。

「え────? っ……無粋な人ね……」

 魅了が効かなかった。そのくせ女性の胸に触れてきた。しかも貫いて女神の体(霊基)を滅茶苦茶にしてきた。それが魅了されたが故の行動なら良いだろう。だが、まるで(魅了が効かなかったことで怒らせると面倒だから胸くらいは触っておくか)と、そんな(仕方ない魅了されたフリをしてやろう)という態度で来られたことにステンノは憤慨する。対する悪魔は至極泰然とのたまった。

「いや流石にそこまでは思ってない。というか、お前ら姉妹なのか? 仲が良さそうだから殺さないでおく。その代わりエウリュアレに魔力を回してやれ。少し疲れているのか宝具発動の間隔が長くなっている」

「マスター! 私にも魔力を回してくれないか!? そもそも太陽神と月女神に対してクピドの矢を届けるなんて恐れ多すぎる!! このままでは私の心はやつれてしまいそうだ!」

 アタランテの切実な苦情が飛ぶが、悪魔は一切無視する。今はそんな悠長なことを言っている暇はない。とにかく宝具を回して一秒につき数百騎近く殺していかなければ、一瞬で包囲されて殲滅される。0.1秒でも付け入る隙を与えたら即死するゲームをやっているようなものだ。

 

 一方、悪魔たちの近くで太樹の枝上を疾走するアレキサンダー陣営。その若き征服王に暗殺者の魔手が迫る。荊軻の宝具《不還匕首(ただ、あやめるのみ)》が発動。直後、荊軻の首はギロチンによって刎ねられた。宝具《死は明日への希望なり(ラモール・エスポワール)》による処刑である。荊軻は、死を前提とした暗殺者ゆえ、いずれ死ぬ宿命に対する覚悟なぞ聞かれるまでもない。だが暗殺が失敗し、その場で処刑された逸話から、判定が不利に働いた。もしサンソンの宝具を事前に知っており、あ(・)れ(・)は(・)処(・)刑(・)で(・)は(・)な(・)く(・)戦(・)死(・)だ(・)と思っていれば、気の持ちようで回避率は上がっていたかもしれない。

 

「おぉ……《地獄にこそ響け我が愛の唄(クリスティーヌ・クリスティーヌ!)》」

 真名、ファントム・オブ・ジ・オペラ〔アサシン〕。宝具は、神浜市民の死体を掻き蒐めて造った、禍々しき巨大演奏装置(パイプオルガン)。演奏が始まるが、それは音波による攻撃ではない。純然たる瘴気を含んだ魔力投射攻撃だ。それに対するはアレキサンダー陣営のサーヴァント。マタ・ハリ〔アサシン〕である。宝具《陽の眼を持つ女(マタ・ハリ)》によって洗脳された支配英霊は、彼女の指示でファントムを殺害する。

「よくやった、マタ・ハリ!」

「恐縮です。アレキサンダー大王」

 マタ・ハリの洗脳宝具は一日中効果がある。換言すれば一日に一回、洗脳判定に成功する必要があるのだが、それに失敗してもアレキサンダーのカリスマ性で従えさせれば問題ない。洗脳は一時的なもの。配下に加わると約束するならメディアの宝具で支配を解く。そのやり方でアレキサンダーは配下を増やしてきた。それは生前と異なり、まったく自分らしくない王道だが、今は正道より邪道を優先して生き残り、味方を増やし、のちに活かす必要がある。緊急時ともなれば時に違う手法を採用する。それは若さゆえの柔軟性だった。……あるいは、ともすれば、アレキサンダー大王も洗脳されている可能性は、無きにしも非ず。

 

          †

 

 かくして悪魔陣営は敵軍を縦断突破。太樹の頂きに到着。その先は空中のため少し進めば落下する。背水の陣の形となるが、地表にも敵軍が待ち構えているため、あまり変わらない。背水の陣と言うのなら、それは常にそうだった。

 アレキサンダー陣営は、やや後方にてマギウス陣営と戦闘中。悪魔が次の指示を出す。

「総員、方向転換! 機を捉えるまで高台の有利を取りつつ敵軍を迎え撃つ! そしてエミヤ! 地表を探せ! マギウス陣営と敵対している軍勢はいるか!」

 エミヤは千里眼を駆使して神浜市の地表を一瞥する。そこでランサーが吼えた。

「よっしゃー! 要は殺しまくれってことだよなぁ、マスター!! で、おい、セイバー! 七海やちよ(そこの虹色)と鹿目まどか(ピンク大砲)も! 天乃鈴音と美琴椿(炎の剣士と侍)、ついでにナイチンゲール(バーサーカー)と山の翁(アサシン)もだ! 要は主軸どものことだよ! テメェら、オレとどっちが多く敵を殺せるか勝負しねぇか?」

「何を言うランサー。今そんなことに興じている暇は……!」

「数えてないわ。でも間違いなく私がトップよ。一秒につき七騎は殺しているわ」

「え、えっと……」困惑する鹿目まどか。一応、戦果としての二番手は彼女である。一秒につき一騎は殺している。

「私は一秒につき八騎殺せる」天乃鈴音の淡々とした口調。

「あら、鈴音? 珍しいわね。もしかして七海やちよさんと張り合ってるの?」美琴椿はそんな可愛らしい鈴音を愛でる。

「私は、命を救うためならなんでもするわッ!! えぇ、なんでもッッッ!!!!!」ナイチンゲールは狂化しているため基本的に意思疎通は難しい。

「……」山の翁は無言で敵の首を刎ねている。

「ハッハ! 確かに今んとこ虹色のが一番だな! 伯父貴も顔負けの殺しっぷりだ! 一方、騎士王様はお堅いようで。だが殺伐としすぎてても気が滅入るだろ! ここはパァーっと派手に楽しもうぜ!」

「ランサー……それは貴方なりの激励なのでしょうが、私は殺しを楽しむほど蛮族ではない。────ただし、マスターに捧げる戦果としては、最終的に間違いなく、私が一番になるでしょう」

 セイバーは負けず嫌いなのか満更でもなく張り合う。ランサーは「そう来なくっちゃ」と不敵に笑い、朱槍を下げて敵陣に吶喊した。主軸が敵陣を殺戮する。だが一方的な殺戮には至らない。都度Aランク級サーヴァントが姿を現し、五分五分の死闘が幕を開ける。

 それをサポートするのが後方組だ。二葉さなの透明魔法によって姿を隠すアタランテとエウリュアレの援護射撃。宝具連発で不足しがちな魔力をステンノが補填する。彼女らの合体宝具は、味方を巻き込む恐れがあるため、常にメインとなる戦場の外に向けられているが、それでも一射につき最大102騎の男性サーヴァントを屠っている。次いで暁美ほむらも伝承礼装《顔のない王》で姿を隠し、解析のルーンによる霊核位置捕捉情報によって、観測手(スポッター)オタチの助けを得た“照準・偏差計算・射撃”の三工程を踏み、三秒につき敵サーヴァント一騎を撃ち殺す。だが時に直感・心眼(偽)等の対視覚妨害スキルによって狙撃を回避されてしまい、潜伏位置を見抜かれて接近を許すことがある。そういった時はすかさず護衛騎士エルレイドが迎撃に当たり、暁美ほむらは透明化したまま移動。狙撃位置を変更し、今度は迷彩効果で戦場を漂う鉄壁ドーミラーに狙撃、対視覚妨害を攻略すべく、跳弾による霊核破壊を狙う。次いで希望の英雄ナポレオンも、基本待機を命じられているが、順次砲撃支援で天(・)空(・)の(・)味(・)方(・)を援護射撃していた。

 天空の味方というのは、環いろはのポケモンたるピジョットとスピアーである。空を飛べるタイプのサーヴァントを相手に空中戦闘(ドッグファイト)を挑み、一方的な爆撃を阻止すべく奮闘している。もしこの二匹(影の立役者)がいなければ、悪魔と七海やちよが代わりに空中戦を行うことになり、そのぶん地上が手薄になることで、太樹の頂きを背水の陣とする作戦は、即時崩壊していたと断言できる。

 守勢においては、ブーディカの飛行車輪宝具と、ゲオルギウスのヘイト稼ぎ、ベミヤによる刀剣の嵐が、効果的に働いていた。自陣の頭上周辺を走る特大の車輪は物理的な防壁となり、空中の広い範囲を無数に飛び交う魔獣刀剣は物理的・魔術的な断続結界となり、敵陣の弓兵・魔術師の断続的な砲撃を防いでいた。そしてAランク級の敵サーヴァントが気配遮断等の隠密スキルで前衛の壁を抜けてきた時、中衛のゲオルギウスが受けて立つことで、なんとか後衛の瓦解を避けるという陰ながらのフォローをし、後衛から前衛へのサポートが途絶することがないようカバーしていた。

 そして万能のサポーターとして、エミヤとマーリンがいる。エミヤは基本的に対軍クラスの援護射撃を行っているが、戦局を見て必要とあらば双剣を構え前衛の援護に向かい、時に盾の宝具を展開してブーディカやベミヤ、ゲオルギウスでも捌ききれない敵の特大宝具を防ぎ、いつでも対城級の火力が飛んできてもいいように固有結界《無限の剣製(アンリミテッド・ブレイド・ワークス)》の詠唱準備を執り行っている。一方マーリンは幻術を駆使して、前衛の誰かが殺される直前、敵に殺(・)さ(・)れ(・)た(・)姿(・)を見せることでヘイトを外し、殺されかかった味方が窮地を凌げるよう陰ながら手助けしている。しかし魔術は詠唱中に舌を噛むし、ぶっちゃけ殺した方が早いので、アルトリアの聖剣と似た黄金の剣をバンバン奮い、ビーム兵器として援護射撃。敵陣を壊滅させていた。

「……見つけた! マスター! 水名区の方面にスパルタクスの姿! 数名の魔法少女とポケモンを引き連れて、マギウス陣営と戦闘中!」

「魔法少女の名前と姿は分かるか!」

「抑止力からの情報提供を急ぐ。だが戦いが激しすぎて追いきれない。目に見える範囲で数える。────竜城明日香、入名クシュ、綾野梨花、千秋理子、アシュリー・テイラー! ……だが今しがたアシュリーが殺された! 綾野梨花もだ! 同時にラブカスとミミッキュも死んだぞ! 陣営は半壊状態だ! どうする!」

 そのふたりは、むしろ今までよく生き残っていた。竜城明日香と入名クシュは魔法少女として一線級だ。十本勝負なら、普段の七海やちよから一本程度は取れるだろう。千秋理子は才能の塊だが、まだまだ精神も経験も未熟。故に予想通りの結果だ。ほかに戦闘中の陣営はないか?」

「……驚くべきことだが、いくつか局地戦が起きている。参京区方面にて坂田金時が夏目かこ、常盤ななか、純美雨を引き連れて戦闘中! 南凪区方面でも太公望が加賀見まさら、都ひなの、桐野紗枝を率いて奮闘! 新西区方面では鬼一法眼が十咎ももこ、水波レナ、秋野かえでを連れて戦闘中! 大東区方面では玄奘三蔵が七瀬ゆきか、エッダ、五十鈴れんを連れて奮戦している! だがいま五十鈴れんが殺された! こちらもまずいぞ! 基本的にどの陣営も押されている!」

「それはオレたちも同じことだ! ────ランサー、オレを殺せ!」

「────《刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)》ッ!!」

 悪魔の要望に応えたランサーは躊躇なく宝具を発動した。それはランサーが魔槍を手放すことを意味しない。音速二号の魔槍が悪魔の心臓を狙うが、それは朱い茨の呪いが圧縮した死の棘。ランサーは一時的に魔力を失った魔槍を携えてルーンで補強。敵軍と戦闘再開する。しかして極まる逆転勝利。悪魔は助太刀魔法を行使した。

 

 エミヤは殺されたと言っていたが、ソウルジェムが破壊されたわけではないのなら、魔法少女は蘇生できる。道場での修行を忘れていなければ、たとえ頭部を爆破されようと心臓を串刺しにされようと五体を蹂躙されようと、魔力で瞬時に再生しているはずだ。

 死炎轟噴、極刀一閃。敵サーヴァントを斬り殺した悪魔は、頭部再生中にトドメ(ソウルジェム)を刺されそうだった綾野梨花を救出した。どうやら彼女のポケモン・ラブカスは、主の頭部が破壊された刹那、再生に必要な魔力を流し、その隙を突かれて殺されたらしい。

 竜城明日香は薙刀を奮って武士系サーヴァントと斬り合い、肩に乗せたタッツーの水遁砲撃(ハイドロポンプ)で霊基を貫通。

 入名クシュはオンバーンの背中に立って飛び跳ね空中戦闘。長短異なる双剣にて激発。

 千秋理子は堅牢なるアーマーガアに騎乗して杖を奮いヒット&アウェイ戦法。

 覚醒した綾野梨花は魔法武具からビームを発射。ラブカスを喪ったショックを隠しきれないが、スパルタクスの背後に付いて互いの死角をカバーする。

「スパルタクス! 即答しろ! 中央区の我が陣営、参京区の坂田金時、南凪区の太公望、新西区の鬼一法眼、大東区の玄奘三蔵、この五種陣営が味方であり、数名の魔法少女を率いている! どちらの戦場に向かう!?」

「────、……。」

「時間がない! 急げ!」

 魔槍が迫る。悪魔は小刀三本蹴撃。竜城明日香、入名クシュ、千秋理子を狙い、自らはスパルタクスと綾野梨花の下に飛ぶ。

「────無論、より過酷な陣営であるッ!!」

 叛逆の英雄スパルタクスは、常に最も困難な道を選択する。故に、他(・)陣(・)営(・)へ(・)の(・)加(・)勢(・)は(・)不(・)要(・)と断言した。当然そんな主張は跳ね除けたいが、圧政認定されて敵に回すことだけは避けたい。そのため僥倖にも、今の彼の言葉を曲解する事にした。悪魔はスパルタクスと綾野梨花の肩に触れる。小刀三本も魔法少女の体に突き刺さった。逆転勝利と叛逆魔法の力を借りて、助太刀魔法を転移魔法とし、全力同時行使。

 

 大東区に転移。そこでは玄奘三蔵、七瀬ゆきかとピカチュウ、エッダとダークポワルンが奮闘していた。悪魔とスパルタクスは飛びかかる敵を殴り斬り殺し、他の魔法少女も驚きつつ放心している暇はないと武器と魔法を振るう。

「────ここが、最も魔法少女が少ない、より過酷な陣営だ!」

「ヌッ……!?」

「なんだ、そういうことじゃなかったのか!? すまない! だが元の場所に戻すのは手間だ!」

「……圧政メーター27%向上」

「あんた狂戦士のくせに賢いな!?」

「……素直なので更に3%向上」

「そこは下降じゃないのか!?」

 スパルタクスとの駆け引きによって、故意に発言を曲解したことを見抜かれた悪魔だが、それも計算のうち。狂戦士だというのに、サーヴァントより遥かに弱い少数の魔法少女を率いて、ここまで生存していること自体が、既にスパルタクスの軍略と理性の高さを象徴している。こうも簡単な騙し討ちでは、すぐに見破られてしまうのは当然と言えた。

「戦場を俯瞰したところ、現状最もサーヴァントの数が多い場所は中央区の太樹迷宮(帝都ローマ)だ!」

「!?」

「来るか!? こちらは頂上の高台を取った! こちらに進軍するなら援護射撃を向かわせる!」

「……目的はマギウス陣営サーヴァントの鏖殺ではないのかね? わざわざ合流する必要もあるまい。ばらけていた方が全滅のリスクは避けられる」

「孤軍でも負ける気はないと?」

「無論であるとも」スパルタクスは爽やかなスマイルで答えた。

「ならば任せた。だがオレは、こ(・)の(・)ま(・)ま(・)で(・)は(・)ス(・)パ(・)ル(・)タ(・)ク(・)ス(・)陣(・)営(・)は(・)惨(・)敗(・)す(・)る(・)と判断したから援軍を寄越した」

「その配慮については感謝しよう。同盟者よ、貴様は自陣に戻るがいい。この場はスパルタクスに任せよ!」

「頼むぞ」

 悪魔は回収した英霊の魂を分解した魔力リソースをスパルタクスたちに分け与える。そして魔槍が背中を穿たんとする刹那、悪魔は魔法少女たちを激励して助太刀魔法を行使した。

「全て元に戻す! それまでオレを信じて殺し尽くせ!」

『────ッ!!』

 悪魔の姿が忽然と消える。竜城明日香は「押忍ッ!」と奮起。入名クシュもゼロに近かった気力が沸き上がってくる。

(私は、悪魔に大恩がある。道場の後、魔法を開発した。そのおかげで私はこうして日中に目を覚ますことができている。もうキリサキさん事件の時のように、眠っていたから殺された、なんて醜態は晒さない。────悪魔は、私に朝をくれた。朝は光だ。光は希望。私に希望をくれたその恩を返すためなら、この程度の死地、乗り越えてみせる!!)

 千秋理子も、戦っているのは自分たちだけではないと知り一念発起。ミネルヴァの時やキリサキさんの時のように、また悪魔が解決してくれる。そのための手伝いをするために、ソウルジェムから魔力をひねり出す。

「悪魔……!」

 綾野梨花は、ほかの魔法少女がどうなったのか聞きたかった。いや、聞くのはよそう。聞いて絶望するのが怖い。それでソウルジェムが濁り、戦闘に支障をきたすのが怖い。今は無心。そして悪魔たちを希望とする。ただ目の前の敵を殺す。覚悟を決めた顔付きとなった綾野梨花は、必殺魔法の特大ビームを発射、戦場の一角を吹き飛ばした。

 

 そのかたわらでは。

「アハハハハハハハハハハハハハ!!」

 逆境魔法、全身全霊・酷使稼働(フルスロットル・オーバーヒート)。常にスリル満点な死の淵に立つことで、七瀬ゆきかは文字通りの“無敵”となっていた。一秒につき数騎のサーヴァントと斬り合って生存している究極の死闘。ソウルジェムは常に臨界点を維持しており、いつ破裂してもおかしくない。そのため彼女をサポートするピカチュウが、七瀬ゆきかの逆境魔法が極まり過ぎないよう、サポートしていた。

「卑王鉄鎚。極光は反転する。光を呑め────ッ、なに!?」

 抑止の守護者たる黒騎士の黒き聖剣が極光する。その魔力の高まりこそが宝具発動の前兆だと玄奘三蔵に教えられていたピカチュウは、主人(あるじ)たる七瀬ゆきかを聖剣の魔光から守るためボルテッカーを発動。万雷の電光石火で霊核を穿ちにかかる。対する黒騎士は守勢に当たらなければ必殺されると直感して宝具開放を封じ、黒き聖剣を守りに当てた。瞬間、轟雷剣戟。ピカチュウによる光の速さのような爆雷突撃が繰り返される。サーヴァントの目にも止まらぬ早業。それを黒い騎士王は正確無比な直感で凌ぎきる。

 一方、吸血鬼として万能の身体能力を誇るエッダは、ダークポワルンの天候操作を利用して、常に有利な地形戦を展開していた。死牙、霊基を噛み砕き、鉤爪、霊核を穿ち抜く。

 しかし魔法少女たちの心身と魔力は疾うに限界を超えている。既にドッペル化しており、それをコントロールしているが、もはやいつ事切れてもおかしくない。それでも彼女たちを支えているのは何か。意地、信念、誇り、信頼など多種多様。ただ共通しているのは、悪魔の登場によって、彼女たちは希望があるのだと悟り、ソウルジェムが明滅する。

 

 一方その頃。悪魔は佐倉杏子の傍らに転移。ランサーは原初18のルーンを起動して、悪魔を狙う魔槍の宝具を解除する。宝具《大神刻印(オホド・デウグ・オーディン)》を使い、因果逆転の理を解除したのだ。

「佐倉。平気か」

「……はっ。あんたにだけは心配されたくないね……」

「さっきはサンキュ。本気で助かった。まさか一時的に京子とすずの魔法を無効化されるとは……」

「…………」

「佐倉。お前は佐(・)倉(・)杏(・)子(・)の(・)為(・)に(・)行(・)動(・)し(・)た(・)んだ」

「……っ!」

「オレのためじゃない。お前がやりたいことをやったんだ。そうだろ? ならそれでいいじゃないか」

「……っ……、────そういうの、詭弁って言うんだぜ」

「宗教ってのはどれもそうじゃないか?」

 悪魔の皮肉。佐倉杏子は精神的に落ち着くため咥えていたRockyを歯噛みして折ると、悪魔の胸ぐらを掴み上げた。

「はは! 思い出したよ……あんたってやつは、ほんと、なんでそんな平然としたツラで……赤の他人のために、そこまで……」

「…………無駄な時間だ。手を離せ」

 悪魔は、佐倉杏子の腕を払いのける。

「っ!」

「戦力にならないなら帰れ。憂さ晴らししたいなら好きにしろ。……互いに見滝原市を出たら勝手にする。たしかそういう約束だったろ?」

「……あぁ、そうだったな」

 佐倉杏子は槍を回して構える。

「だが今は、あんたの指揮を聞いてやる。どうにもむしゃくしゃしてっから、いちど頭の中を空っぽにしなきゃ……やってらんないんだよ……!」

「前に出て殺しまくれ」

 真紅迅雷。佐倉杏子は最前線に躍り出て、ランサーと並び敵を突き殺す。

 

          ♪~完全感覚Dreamer~♪

 

 彼らは轟音衝撃鳴り響く戦場にて、地獄もかくやの死闘を演じながら言葉を交わす。

 

「エミヤ。この直上にマギウスの本拠地があるのか」

「あぁ。飛行要塞の全方位に多重結界を張っているため、肉眼では見えないが。……衛星にも映らんよ。仮に飛行物体が通過したところで、置換魔法のようなもので空間の端と端を接続し、完全に内部へ侵入できない作りになっている。概念的な牢獄だよ」

「やはり保澄雫の空間結合魔法か。その理論だと外部への出撃もできないはずだが、やはり北養区と大東区のどこかに専用のゲートを用意していると見た。しかし隠蔽系の魔法で巧妙に隠されているだろう。一朝一夕では見つからない。何日も探したんだからな。探索系の宝具とかはないのか?」

「探偵系のサーヴァントを味方にできれば、よもやと言ったところか」

 そこで悪魔は思い出す。

「そういえば、上空からドゥリンダナが降ってきた。ヘクトールという英霊の宝具だ。これはどういう原理で降ってきた?」

「さて、見当もつかない。だが、それはいい発見かもしれんぞ、マスター。特定の宝具あるいはスキルによって、空間の概念を突破する能力があれば……」

 その話を聞いていた暁美ほむらは閃く。

「────あ、あの! それなら、私のサーヴァントが……!」

 巌窟王 エドモン・ダンテス。脱獄は不可能とされるシャトー・ディフの牢獄から脱獄した逸話から、それに類する宝具を有する。応用すれば、空間結合魔法によって概念的な牢獄となった本拠地への侵入も可能だろう。

「……策はある、か」

「え……?」

 しかし悪魔はすぐに決行しない。無言で前線を見つめ、敵サーヴァントの数が減っていくのを見守っている。だが、今も神浜市のどこかでは、本拠地で召喚され補充されたマギウス陣営のサーヴァントが続々と援軍に駆けつけている。正直この戦いの中で本丸を叩かない限り、神浜市のサーヴァント全てを皆殺しにするなんてことは不可能だと、誰もが思っていた。そこで環いろはが苦言を呈する。

「あ、悪魔さん! 行く方法があるなら、早くアジトを叩かないと……!」

「今はまだダメだ」

「どうして……!?」

「夕方なんだ」

 ふと、悪魔はよくわからないことを言う。

「え────?」

「究極超直感で見た光景は……夕(・)方(・)だったんだ」

 

 ────魔翼移動要塞の大聖杯展示場。フランス・レーヌ川。リンゴの着ぐるみを被った少年。ゲッコウガ。嵐の波動を感じる最強の赤ん坊(アルコバレーノ)。紅い外套を羽織った弓兵────

 

 そして現在時刻は、朝の七時頃。みかづき荘が吹き飛ばされてから、ま(・)だ(・)小(・)一(・)時(・)間(・)し(・)か(・)経(・)っ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)。

(加えてその夕方が、今(・)日(・)の(・)夕(・)方(・)なのかも分からない。明日以降の可能性もある。そもそもフランスに行っている時点で、数日経過していてもおかしくない。死ぬ気の炎で飛行しても何時間、いやサーヴァントに邪魔されながらだと何日かかる?)

 最初からフランスに飛ぶべきだったか。だがそれだと魔翼移動要塞なるマギウスの本拠地の大聖杯展示場には辿り着けないかもしれない。実際、本拠地は中央区の真上にある。抑止の守護者のお墨付きだ。まずはそこに突撃する必要がある。

(無論、突撃してからフランスに急いで、なんとか夕方に着けば問題ない。だが本当にそれでいいのか? 手順をひとつでも間違えれば詰みが発生する。なんとなくわかるんだ。オレが観ているものは、そういうたぐいの未来視だって……)

 悪魔は無数のルートを思い描き、その中で可能性の高いルートをいくつか絞る。

 その一。今すぐ突撃して英霊騒動を解決してからフランスに飛ぶルート。だがそもそも突撃したからと言って解決するとは限らない。

 その二。では夕方になるのを待ってから突撃し、無理矢理にでも英霊騒動を解決してからフランスに飛ぶルート。それだとフランスに到着するのは翌日以降の夕方になる。本当に翌(・)日(・)以(・)降(・)の(・)夕(・)方(・)でいいのか? 今(・)日(・)の(・)夕(・)方(・)じゃないとダメなのではないか?

 最低でも大別して、二つのルートが想起できる。無論、これとは全く異なるルートが正解なのかもしれない。

(いつもそうだ。究極光景への道のりについて何かを選ぶ時は慎重にならざるを得ない。一歩間違えただけで大きく未来が逸れるからだ。最終的なオ(・)レ(・)の(・)着(・)地(・)点(・)は変わらないが……周(・)囲(・)の(・)着(・)地(・)点(・)が大きく変わるのが問題だ。原則としてオレは死なない。逆転勝利の加護があるから、究極光景と全く違う未来が来ても生き残る。しかしそのせいで、死なないはずの奴が死んでしまうことが……よくある)

 故に悪魔は慎重を期する。情報がないため考えても詮無いことが多いものの、それでも最善を尽くすべく、時には立ち止まる重要性があることを知っていた。それは悪く言えば優柔不断とも取れる態度。周囲の士気は低下する。だからこそ悪魔は、最(・)終(・)的(・)に(・)総(・)取(・)り(・)で(・)き(・)る(・)方(・)法(・)を、常に思案している。それはまさに悪魔的発想と言えた。

(しかし今回は、どうせみんな死んでも大聖杯を使うことが出来れば蘇生できる。天乃鈴音の時と同様だ。天(・)乃(・)鈴(・)音(・)を(・)助(・)け(・)な(・)い(・)代(・)わ(・)り(・)、(・)確(・)実(・)に(・)ほ(・)か(・)の(・)み(・)ん(・)な(・)が(・)助(・)か(・)る(・)方(・)法(・)を(・)取(・)っ(・)た(・)。たとえ、それが未来視通りだとしても、オレはそ(・)う(・)い(・)う(・)こ(・)と(・)をする奴だ)

 故に悪魔は、いかにして大聖杯を手に入れるか考える。夕方の件はそのあとでいい。だができれば夕方の件も総取りしたい。結果、悪魔は決断した。

「────現在の方針を伝える! 午後三時になると同時、マギウスの本拠地に殴り込む! それまでオレたちは神浜市で戦闘を継続する! つまるところ、死ぬまで殺しまくれッ!!」

『……っ!?』

 環いろはと暁美ほむらは目を見開く。

「無論そうこうしている間にも、被害は世界中に広がっている。だが大聖杯を取れば全て無かったことにできる」

 エミヤが疑問を呈する。

「もし大聖杯が獲得できなければ? それだけで君の計画は御破産だが」

「そういったもしもの時に備えて、こうして新たな大聖杯を用意しているんじゃないか」

 悪魔は、英霊の魂を回収してある保存用匣兵器を叩く。

「……なるほど。用意周到だな。余念がない」

「優柔不断がオレの短所だ。故にすぐ決断できなくても、やるべきことはやっておくクセを身に付けた」

 そうすればいざという時、ああしておけばよかった、こうすればよかった、という後悔が減(・)る(・)。極端に減るのであって、無くなるわけではない。あらゆることをミスなくこなす人間なんてのは理想論だ。たとえ未来が見えていても、自身の能力不足で取りこぼすモノは数多い。その数とは、まさに星の如く。

「では、戦闘継続と行こうか、マスター」

「あぁ。────総員、常に死ぬ気の勢いで敵軍を蹂躙し殲滅しろ! 絶望したなら自害するがいい、あとはオレ独りで戦うだけだ! さぁ……悠久の逆転劇を始めようかッ!!」

 

 悪魔は思う。圧倒的劣勢の中、なんとか悪魔陣営が持ちこたえているのは、自分(マスター)からの魔力供給があるからだと。それ以外にも、世界からのバックアップを受けられる抑止の守護者の存在も大きいが、やはりマギウス陣営と比べると魔力量に歴然たる差がある。悪魔陣営の方が魔力補給に余裕があるのだ。

 まずマスターとサーヴァントにおける魔力の関係とは、車に例えるならマスターが鍵(キー)であり、サーヴァントは原動機(エンジン)だ。エンジンはキーなくして動かないように、サーヴァントはマスターなくして動けない。無論、召喚される際、ある程度の魔力を保有するサーヴァントも存在する。単独行動スキルなどがその例だ。しかし、自前で魔力を賄うとなると、低級宝具一発で枯渇し、高ランクの宝具は使用不可、または霊基瓦解前提でも全力に及ばない攻撃を一発撃てるかどうかだろう。それでも人間や魔法少女からしたら、絶対に敵わない脅威の威力であることに変わりはない。

 また、マギウス陣営のサーヴァントは男女関係なくそのほとんどがQB契約を交わしているためソウルジェムを得ている。ソウルジェムを回せば、ある程度の魔力を獲得することも可能だろう。こうなると高ランクの宝具も一発程度なら全力全開で使用可能だ。だがソウルジェムが濁りきれば魔女化する。神浜市ではドッペル化で済むとは言え、マギウスは神浜市外にも魔法英霊を差し向けた。故にマギウスは、おそらく英霊の魔女化を避けるため、ソウルジェムの一切の使用を禁じ、濁りが溜まり切るようなら即自害しろと命令しているに違いない。それだけ英霊が魔女化するというのは危険なことで、往々にして世界の危機に発展するからだ。

 なぜなら英霊とは、人々の信仰から成り立つ。知名度が高いほど、世界中の人々の意思が強固となる。そんな英霊が魔女化し、それを討伐するということは、すなわち世(・)界(・)を(・)相(・)手(・)取(・)る(・)ことに等しい。そして、そんな“世界”が乱立したら、いったいどうなるか。たった数騎のサーヴァントが魔女化しただけで、俗に言う最強の魔女ワルプルギスの夜に匹敵する、あるいはそれを遥かに上回る厄災となって、この地球を滅ぼすに違いない。

 サーヴァントは、そのキーとエンジンの性能として、よく燃料補給が必要な戦闘機に例えられるが────サーヴァントの魔女化とは、もはやなんの理屈も要らない。単なる起(・)爆(・)済(・)み(・)の(・)核(・)兵(・)器(・)に例えられる。サーヴァントが魔女化した時点で、核兵器はその地点に落とされているのだ。これがどういうことなのかは、もはや言わずとも知れたようなものだろう。

 つまるところ支配魔法英霊は、マスター不在・ソウルジェムの使用厳禁、この二つの縛りがあることで十全な魔力補給が難しい状態にある。宝具も二回使えば、もはやただの最強の歩兵に成り下がる。その点において悪魔陣営は有利だ。悪魔のハーフソウルリングや他の魔法少女と契約し、マスター有り・ソウルジェムの穢れも悪魔が吸収してくれる。マギウス陣営が被る、二つの縛りが解放されている時点で、魔力量の観点では極めて優位に立っていると断言していい。

 ちなみに恭弥アーデルハイトのハーフソウルリングは、魔法少女七人分以上の魔力量を誇るため、仮に七騎のサーヴァントと同時契約してもなお有り余る魔力を有する。その点においても魔力の心配は必要ないだろう。

 

 しかしそれでも“数百万騎 対 十数騎”というのは、その優位性を覆してあまりある戦力差だ。では、これを攻略している要因は何か。ひとえに多(・)す(・)ぎ(・)る(・)ことだろう。いかに大量の駒を用意し、包囲しても、空間的に一人を殺す際、その一人の前後左右そして頭上。稀に足元があったとしても、七方向および八方向しか囲めない。要は地形戦の妙である。多数を相手取る時、あえて一本道の袋小路に入ることで、強制的に一対一の状況を作り出す戦術がある。それと似たようなことを少(・)数(・)側(・)がしているのではなく、多(・)数(・)側(・)がしてしまっているのだ。

 そして名のある英雄、特に一対多の戦闘に長けている英雄、さらにはそれが神話・伝説における最高峰の大英雄ならば、八方向からの同時攻撃、捌けずして何が英雄か。故にケルト神話の大英雄クー・フーリンが最初に味方となったことは、悪魔陣営にとって最大の幸運と言えるだろう。彼は一人でコナハトの軍隊と戦った経験があることから、まさに多勢に無勢においては打って付けの超戦士だ。清姫、静謐のハサン、玉藻の前は、途中で敗退してしまったが、いずれも気迫で生存し、戦上手なエミヤとアーサー王伝説の騎士王アルトリア・ペンドラゴン、そして冠位級のマーリンや山の翁、ほかサーヴァントが加わるまでの、希望の繋ぎ手となってくれた。

 

          †

 

 かくして現在時刻、朝の八時頃。

「ぐっ……ここまでか……どうかマスター、ご無事で……」

 聖人ゲオルギウス、既に砕かれていた霊核が限界を迎えて消滅。そこでエミヤが叫ぶ。

「マスター! 鬼一法眼と坂田金時の両陣営が水名区で合流した! 十咎ももこや夏目かこをはじめとする魔法少女やポケモンも未だ健在!」

「よし! そのまま援護射撃を続けるんだ! こっちとの合流は強要しなくていい! とにかく好きに暴れさせろ!!」

「了解! 一方、スパルタクスと玄奘三蔵の陣営も工匠区に到着! 敵軍の荒波に揉まれる形だが、結果的にこちらへと接近している模様! 太公望と都ひなのの陣営は栄区に到着して陣を張っている! 陣地作成で守勢に入るようだ!」

「ランサー! セイバー! アレキサンダーの陣営は今どうなっている!?」

「やっこさん太樹迷宮の中腹くんだりまで降りてなんか企んでやがるぜ!」

「おそらくマギウス陣営のサーヴァントを引き抜いているものと思われます! 我々とは一時共闘していますが、勧誘に応じなかった敵サーヴァントはこちらに流している! これは戦場に姿を現して一攫千金を狙う山賊のやり口となんら変わらない! 随分と世渡り上手な若き征服王だ! これは裏で糸を引いている者がいるのでは!?」

 それはセイバーの直感か否か。

 直後、一個の部隊として統率が取れている強敵たちが現れた。

「ハンガリー同盟が参る」清廉潔白な騎士が剣が掲げる。真名、フニャディ・ヤーノシュ〔セイバー〕。

「我が罪を以て、自らを罰する傲慢の城を顕現する。《紫闥の鮮血魔城(バートリ・エルジェーベト)》!」

 真名、吸血竜 カーミラ〔ドラゴンライダー〕。宝具は、血の伯爵夫人 エリザベート=バートリーの居城・監獄城チェイテを心象風景(固有結界)として展開し、その中に最大捕捉数500人を飛んで1001人の対象を幽閉する能力と看破。

『────っッ!!?』

 悪魔陣営、強制転移。視界が歪み、黄金と真紅の城内回廊に落とされる。環いろはの真名看破魔法で緊急情報伝達共有。この魔城を脱出できた者は、1000人の乙女のうち、ただ一人だけと言われる。故に脱出の確率は千分の一。さらに“美しい少女”や“カーミラが憎む相手”に対しては、脱出を阻むための強力な呪縛が城全体に掛けられている。これは“美しい女性たるカーミラ”と“過去の許しがたいエリザベート=バートリーの所業”が相まって、真名解放したカーミラ自身も、この宝具の対象者に入ってしまうリスクを持つ。そして脱出に必要なことは、宝具の使用者であるカーミラを倒して心象風景の展開を止めるか、出入り口を見つけて外に出るか、その二つに絞られる。

 そこでエミヤが補足した。

「エリザベート=バートリー。実在する人物で、小説《吸血鬼カーミラ》のモデルとなった人物だ。中世ハンガリーの貴族で、美貌を求めるあまり、少女の血を浴びれば若返ると思い込んで、領地の娘をさらっては拷問と殺人を繰り返した。その残虐性から後年、血の伯爵夫人と渾名される。つまりサーヴァントとなったことで、女性特攻の神秘を備えているはずだ。魔法少女にとっては厄介極まりない宝具だぞ」

 事実、魔城は誰も脱出させないよう造られており、即死トラップのオンパレード。動揺した暁美ほむらが一歩、床を踏んだだけで仕掛けが作動し、多数のゴーレムとゴーストが出現する。サーヴァントと比べれば、さほど強くもない雑魚だが、環いろはの真名看破によれば、やはり女性に対して凄まじい特攻効果があると分かる。そこで悪魔の号令一下。

「女性陣は回避に専念! 男性陣は分担し、前衛は脱出攻略を優先、後衛は女性陣を守れ!」

『了解!!!!』

 ランサーは探索のルーンを使い、脱出ルートを走査。悪魔は環いろはの首をマーリンに投げ渡して死炎噴射。多数のゴーレムを破壊。何かしらの行動を起こすたび、次々と城内に仕掛けられた即死トラップが発動する。迫り来る壁の圧殺。降り注ぐトラバサミ。ゴーレムやゴーストの登場。それらトラップは、性別関係なく一般人が相手であれば、確かに即死と言えるだろう。だが男性の魔法生物や男性サーヴァントであれば、やはり雑魚の群れに等しい。

 不意に悪魔は直感する。他サーヴァントも敵の気配を感じた。悪魔はなるほどと合点が行き、敵の戦術に歯噛みする。────今、悪魔たちが居る場所はハ(・)ン(・)ガ(・)リ(・)ー(・)だ。地球の座標地点は間違いなく日本の神浜市に存在するが、それでも監(・)獄(・)城(・)チ(・)ェ(・)イ(・)テ(・)は(・)ハ(・)ン(・)ガ(・)リ(・)ー(・)に(・)居(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)お(・)か(・)し(・)い(・)という理屈により、今この城内はハンガリーとなっている。

「心象風景と解説された時点でまさかと思っていたが、魔術的な逆説論理に近いものか! まずいぞ、おそらくこの先にはハンガリー系の英霊が多数待ち構えている! “チェイテ城内はハンガリーである”という神秘的概念から、知名度補正も最大値になっているはずだ! ステータスによるゴリ押しに気を付けろ!」

 最前線を翔け抜ける悪魔が、広間へ通じる扉を蹴り開ける。次の瞬間、全身が凍える殺気を直感した。大広間の中央には漆黒の鎧を身にまとい、黒槍を携え黒馬に跨る厳粛の黒騎士が、高らかに開戦を告げる。

「我が憧憬(しょうけい)、我が極刑(きょっけい)、敬愛する串刺し公ヴラド・ツェペシュに捧げよう。《逆しまに劈く極刑の槍(エルーズ・フェケテ・ベェグ)》!」

 真名、黒騎士 ナーダシュディ・フェレンツ二世〔ランサー〕。拷問を趣味とする軍略家であり、彼の妻エリザベート=バートリーは、その影響で乙女の拷問に目覚めたと言われている。宝具は《極刑王(カズィクル・ベイ)》を模したBランクの単純威力系宝具。無数の槍が増殖・分裂して悪魔に降り注ぐ。轟轟爆撃。この程度なら極まる逆転勝利によって無数の槍を捌くことが可能だ。しかし黒騎士の狙いは別にあると直感。悪魔の真下をランサーが駆け抜けようとする。すかさず悪魔は、わざと槍の雨に負けて急降下。

「あえて掛かったか────《錻力の磔刑(キンチェム)》よ、拷問と処刑の時間だ! 女の血は我が妻バートリ・エルジェーベトに浴びせ、男の血は地にばら蒔き真紅の華を咲かせよ!」

 床に擬態していた宝具が姿を現す。それはブリキで出来た魔獣。真名解放により黒馬の形態を取る魔獣の胴体が展開。即席の拷問場となり、凄惨な処刑場として、悪魔の全身を串刺しにした。その傍らを駆け抜けるランサーは、自らの身代わりとなったマスターの死を一瞥もせず、ただ眼前の敵を屠るため、神速の跳躍で朱槍を翻す。

「シャアッ!!」

「むぅ……!!」

 青い槍兵と黒い騎士の音速激発。広間の後方では、それを見守る聖なる白騎士が佇立していた。

「これは魔法少女の未来を掴み取る戦いである。《全聖界の守護者(アレクス・フリストス)》!!」

 真名、フニャディ・ヤーノシュ〔セイバー〕。ハンガリーの国民的英雄の一人。宝具は、“諸王すら恐れた大貴族たるフニャディ・ヤーノシュこそ、全ヨーロッパと聖教世界を守り抜いた両世界の守護者である”と認められた逸話から昇華した伝承宝具。真名解放と共に白騎士の手のひらに光球が降臨し、彼が守ると定めた333人を必ず守り抜く防御宝具として機能する。しかしフニャディ・ヤーノシュの手のひらには光球が降臨していない。そのワケをフニャディ・ヤーノシュが説明する。

「悪魔よ。我の真名解放により、我が宝具を看破したはずだ。そして伝えよう。神浜市の栄区のみだが、神浜市の人間を光球の中に取り入れ、無敵の加護を与えてある。我が消えても光球は神浜市の人間を守り抜き、たとえマギウス陣営のなにものであろうと、我が聖域には手出しできない」

「それって……!」環いろはが驚く。清廉潔白の白騎士は、もしや味方になってくれるのかと。だが悪魔は一蹴する。

「神浜市から人間がひとり残らず居なくなれば、サーヴァントにとって重要な知名度補正が得られなくなる。助けたのは、そういうマギウスの打算もあってのことだ」

「然り。我は今回の召喚で卑しい殺人鬼に成り下がった。悪魔に頼むというのは憤死極まりないことである。だが……人間界と魔法界、双方の世界を守りたくば────悪魔よ、聖なる軍人(我)を殺せ」

「言われるまでもない」

 アルトリアの聖剣一閃。宝具《錻力の磔刑》を霊基を破壊。串刺し状態から逃れた悪魔は死炎轟噴。

「一撃で1000人を屠った、我が波濤の軍勢を見よ! 《濁流する城塞戦車(サキレヴァーラ)》!」

 その宝具は、機動力を損なわず火力と防御を両立させた、攻防速の三位一体陣形。配下がいなければ使えない指揮宝具だが、今回は城内に多数のゴーレムとゴーストが仕えている。ゴーレムを歩兵と騎兵にし、ゴーストを砲兵として、いざ支援砲撃による怒涛の蹂躙を開始する。具体的な戦法は、砲兵の砲撃支援、歩兵のマスケット銃&クロスボウ部隊、騎兵の側面攻撃支援と突撃戦による攻勢と看破。特に騎兵にはこだわっているのか、槍の重騎兵と、マジャール族を思わせる弓の軽騎兵による一斉攻撃。後年、フニャディ・ヤーノシュの軍隊は中世であるにも関わらず、近世の軍隊と遜色ない軍事力を備えると評価された実績がある。つまるところかの宝具は、脅威的な破壊力を持つ、シンプルイズベストな絨毯爆撃であった。

 大広間、極大粉砕。攻城兵器なぞ何一つ使っていないというのに、さながら要塞が猛進するかのような疾風怒濤の攻撃を受けて、悪魔陣営は元来た道への回廊へと後退を余儀なくされる。その中でも悪魔とランサーは突出し、爆砕する大広間の中で紙一重の死線を潜り抜ける。死炎爆発、朱槍轟閃。そのとき遠隔からマーリンの魔術援護が飛び、フニャディ・ヤーノシュを狙う。しかし彼は白騎士の時鐘スキルにより、時間帯によって対魔力のランクが変動する。昼間ならばAランク、朝夕ならばBランク、夜間ならばCランク────しかし知名度補正の恩恵もあり、その全てがワンランク向上していた。マーリンによる最高級の魔術が呆気なく打ち消される。

「ヴラドの若造を倒したというから、どんなものかと期待してみたが……存外に肩透かしか?」

 現在は朝方。フニャディ・ヤーノシュの対魔力ランクはAランク以上。叛逆施術で霊核を破壊したいが、宝具《濁流する城塞戦車(サキレヴァーラ)》によって容易に近付けない。ランサーはゴーレムとゴーストの兵士を鏖殺しつつ、黒騎士と凌ぎを削り合っている。あともうひとり戦力が欲しい。故に悪魔は、そ(・)ち(・)ら(・)は(・)任(・)せ(・)る(・)こ(・)と(・)に(・)し(・)た(・)。

「────《死告天使(アズライール)》」

 次の瞬間、フニャディ・ヤーノシュの首がズ(・)ル(・)リ(・)と斜めに滑り落ちる。

「────、ほう……」

「晩鐘は汝の名を指し示した。死すべき時を見誤った者よ、その支配から魂を解き放とう」

「……まさか、異教の者に借りを作るとはな……」

 通れる隙間のない絨毯爆撃の中、山の翁は虎視眈々と白騎士の背後に回り、その首を断ち切った。疾風怒濤の宝具が消滅した今、ランサーは黒騎士・歩兵騎兵の土塊人形・亡霊砲兵を一掃すべく、全身全霊の宝具を解き放つ。それは突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)。大広間の全てを範囲に収めた分裂する朱槍は、一切の敵生命を鏖殺し、轟然と震撼していた大広間の死闘に一件落着の静けさを取り戻させた。

 

「さすがはアイルランドの光の御子。ぜひ僕とも御手合わせ願いたい」

「誰だ!!」

 真名、ラドカーン〔キャスター〕。出典はハンガリー民話。地属性の英霊。人物は、ただの鍛冶屋の息子が、知恵と勇気と努力で竜殺しを成し遂げた救国の英雄。さらにこの世界において、その武練はギリシャ神話に伝わるヘラクレスの流儀《射殺す百頭(ナインライブズ)》を我流で受け継いでいると看破。

「第三宝具展開《星すくう袋(タシュカ・チッラグ)》。第二宝具展開《炎呑合口(ヤーノシュ・コヴァーチ)》。行くよ? 覚悟はいい? ────第一宝具展開《廿頭肆べる螺旋剣舞(フソンネージ・サカーニィ)》ッ!!」

 第一宝具は一言で言うなら四次元ポケット。月・太陽・明けの明星を収納できる魔法の袋。第二宝具は一言で言うなら灼熱の棍棒。王国都市を呑み込まんとした巨大な竜種の口へ投げ入れた魔剣。そして第三宝具は────24の頭を持つドラゴン三兄弟を殺すべく編み出した螺旋剣術の絶技。激しく旋回する剣閃は幾重にも重なり合い、無数のレーザー光線を生み出す高速の連撃と化す。ギリシャの大英雄の流派と比べれば、汎用性や威力等において足元にも及ばない剣術だが……ただ一点“多頭殺し”の技術ならば勝るとも劣らない、対多頭宝具としての優位性を誇る。そして出典が民話ゆえ、すなわち架空の英霊ゆえか、三つの宝具はどれも言葉遊びをふんだんに取り入れている。

 “すくう”には「国を救う・星を掬う」の両方の意味が込められており、それゆえに宝具の神秘性(ランク)が増している。“合口”も「匕首・口に合う大きさ」という意味が掛かっており、“廿”は「つづ、即ち、矢が全て的に当たること」を意味している。その言霊の神秘性が、最大値にまで高まった知名度補正の恩恵により昇華されて、多頭竜殺しの英雄ラドカーンの絶技には、なんと必中の概念が付与されていた。其は廿肆(24)に並ぶ頭を必ず斬り殺す絶剣。

 守勢に転じるランサーの朱槍と全種ルーンの結界。それはダブルクラススキルも相まり、Aランク以上の攻撃を凌ぐ堅牢さを有するはずだが……ラドカーンの必中螺旋剣舞は、ランサーの肉体に斬撃を掠らせて鮮血が迸り、着実にダメージを与えていた。

 一方の悪魔と山の翁は、ランサーの援護には向かわない。なぜ一斉に包囲殲滅しなかったのかが気がかりだが……大広間への突入時から、吹き抜け上階の東西南北に姿を隠す四騎のサーヴァントを警戒する。そして悪魔は直感。フニャディ・ヤーノシュは隙あらばマギウス陣営を巻き込む形での宝具展開を狙っていた為、それを避けるため戦闘に参加しなかったのだと分かる。

「大剣使いは任せた」

「承知」

 悪魔と山の翁の掛け合い。直後、両者は跳躍した。悪魔は死炎轟噴。山の翁は敵の首を獲りに赴く。身を隠していた四騎は、これで迎撃せざるを得なくなった。悪魔は嵐炎分析を走らせ、西に身を隠す老婆の魔女を殺害。霊核を貫くと同時、魔女は真名を解放した。

「じゃかあしい! だからこうなると言っとろうが! 仕方ない、置き土産を残してやろう! 《今も見果てぬ悪魔の呪宝(メドヴェドニツァ・ラインゴールド)》……!」

 真名、バルバラ・ツェリスカ〔キャスター〕。宝具は、キャスターの召喚時、聖杯戦争開催地の霊脈、且つ、そこが“山”である場合のみ、伝承に伝わる悪魔の呪われし財宝《ラインの黄金またはそれと似て非なる何か》が召喚される。その事実を召喚直後、キャスター本人は感知するが、いつどこで召喚される、または、召喚されたのかまでは分からない、という特殊な代物。なお霊脈と山が多く、条件が複数合致する場合、呪いの財宝は該当箇所に分散されて召喚される事もある。

 そしてキャスターの役目は、疾(・)う(・)に(・)終(・)わ(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)。悪魔は老婆の心情を直感。ラインの黄金は既に、若(・)い(・)頃(・)の(・)自(・)分(・)に(・)託(・)し(・)た(・)、と。

 南東にて極大の魔力反応。二騎のサーヴァントが一斉に真名を解放した。悪魔の逆転勝利が極限に達する。

「私がいなければドラゴン騎士団は創設しなかった。それを傲慢とそしられようと、事実は事実!」

「故にドラゴン騎士団は、我が手中に有り! 改造の果てに竜種すらも騎士団に迎えて従えよう!」

「────《戦乙女の竜騎士団(メッサリーナ・ロヴァグランド)》!!」

「────《戦王妃の邪竜騎士団(ボルバーラ・ロヴァグランド)》!!」

 真名、バルバラ・ツェリスカ〔ライダー〕、バルバラ・ツェリスカ〔ドラゴンライダー〕。両者の共通点は、見目麗しい美貌と研ぎ澄まされた知性。前者は無辜の怪物もあり淫乱な敏腕政治屋としての側面が色濃く強調され、後者は竜騎士団を創設した業績を高く評価されたことから前衛戦闘向きの霊基を与えられた戦乙女の側面として召喚された。

 宝具はクラスによって詳細が異なるが、共通している点は「バルバラ・ツェリスカがいなければドラゴン騎士団は創設できなかった」という一見傲慢にも思える動機から「バルバラ・ツェリスカはドラゴン騎士団を創設可能」という逆説論理(因果逆転じみた魔術理論)を引っ提げることで、彼女だけの騎士団を作り上げることが可能という点。そして騎士団へ加入させたい場合、その加入希望者に“ハンガリー王室の王権を守るため”“信仰の十字架を守るため”“その敵と戦うことを誓う”という三種誓約を結ばせることで騎士団に加え、構成員に様々な能力を与える。……が、後年、バルバラ・ツェリスカは化学やオカルト諸学の研究に費やした逸話から、魔女としての力を持つ。特に契約関連の悪魔学や錬金術に秀でているため、上記の三種誓約を自分の好きに書き換えることが可能。そうすることで全く別の方針を持った騎士団を作成する。たとえば、当時は悪魔と見なされて討伐対象だった竜種を構成員として迎えるなど……実際、バルバラ・ツェリスカは信仰心がなく野心に燃えた陰謀家と評されている。聖なる光の道なぞ信じず、我が道を征く女傑。それゆえ彼女は、本宝具を“ドラゴン騎士団の召喚宝具”として使用することが難しい。彼女が召喚された戦地で悪役のような振る舞いを見せれば、まず間違いなく召喚に応じない人物は、ヴラド三世であろう。吸血鬼という風評被害を払拭したい彼からしてみれば、悪役の騎士団として召喚されてしまえば、どう見ても吸血鬼として召喚されてしまうのは目に見えているからだ。

 そのため彼女は、もっぱら本宝具を“ドラゴン騎士団の創設宝具”として用いる。現にバルバラ・ツェリスカは、老婆の方の自分が遺したラインの黄金を発見しており、魔女の知恵スキルを駆使して悪竜現象(ファヴニール)を意図的に引き起こした。先刻、悪魔とエミヤの対決時、上空から多数の竜種や魔獣が召喚されて遥か彼方に飛び去ったのは、彼女が神浜市の霊脈地で悪竜現象を引き起こしたのも遠因である。

「さぁ行け者ども! 低級英霊だろうが、我がドラゴン騎士団に加入すれば、その霊基、Bランク・サーヴァントに匹敵する実力となるだろう!」

「さぁ行け邪竜ども! 目には目というように、悪魔には悪魔だ! 我が竜種の軍団は、大空にて無敵なり!」

 二つのドラゴン騎士団。かたや低級サーヴァントを従えた人間の一軍。かたや竜種を従えた邪竜の一軍。どちらも最強と無敵の名を冠するにあまりある強者ども。悪魔は咆哮を上げて死炎爆轟。大広間を打ち破り、回廊、広間、一室、回廊と壁という壁を破砕しながら激闘。即死トラップの豪雨を死炎爆発で跳ね返しながら、多数の英霊と邪竜を一気に相手取る。

 

 一方、山の翁は北に陣取る敵サーヴァント一騎の首を刎ねていた。が、先の先を取っていた大剣使いは、頚動脈を掠って血が噴き出しつつ、不敵な笑みを浮かべて全身の熱き血潮が沸騰していた。

「真名を晒せ、王の名を羽織る者(プリテンダー)よ」

「まじか……こいつぁ……冠位級か……!! 嬉しいねぇ……腕が鳴るぜぇ!! 《老獪水魔・平伏疾走(ホロフェルニゲシュ・スプリンタリス)》!」

 真名看破、マーチャーシュ一世〔セイバー? ライダー? バーサーカー?〕……なぜかクラスが判然としない。おそらくはクラスを偽装する能力を有しているのだろう。悪魔の叛逆魔法があれば、その偽装能力を突破できるが……いま悪魔はドラゴン騎士団と決死の戦闘中。そこでマーリンの魔術が力を貸す。神秘を底上げした魔法で再び真名看破、マーチャーシュ一世〔プリテンダー〕……“真名剥離”────またの真名(な)をキニジ・パール=マティアス・コルヴィヌス〔プリテンダー〕と看破した。

 宝具は、精霊級の妖精水馬との阿吽の呼吸により駆け抜ける戦闘術。妖精は妖精眼(グラムサイト)という魔眼を有しており、対象の心を読むことができる。そうして読んだ敵の思考感情を、水馬はアイコンタクトで相棒の大剣使いキニジ・パールと共有する。しかして山の翁の一撃死ともなる剛剣を、キニジ・パールは紙一重で凌いでいた。

「ぐぅうっ! こりゃキツい! 霊核射抜かれる前提で動かなきゃ、一矢報いることすらできねぇ! 第一宝具展開! 《水車大剣・覆竜不返(キニジパル)》!」

 霊基瓦解による魔力補給で全身全霊の宝具を放つキニジ・パール。豪傑の自在大剣使いとして知られる彼は、生前、身分を隠して国内を回る“正義の王”マーチャーシュ一世と水車小屋で知り合い、大きな岩を盆の代わりにして水を差し出した逸話を有する。それ以上の詳細は不明だが、この世界においてマーチャーシュ一世とキニジ・パールは“性格こそ正反対なものの顔や背格好が瓜二つ”であり、水車小屋で妖精の水魔に襲われた。上半身が老人で、下半身が水馬であり、黒いカラスの大翼を有する妖精。いかなる理由か妖精と一触即発してしまったキニジ・パールは、マーチャーシュ一世と協力して、この水魔を打倒した。その縁でキニジ・パールは水魔を愛馬とし、以降、マーチャーシュ一世に仕え、あらゆる戦場を駆け抜けた。さらに外見が瓜二つであることから、よくキニジ・パールは、マーチャーシュ一世のフリをして玉座に座ることが多かった。そして本物の王が決めるべき大事な案件を、どうしても自分が決めなければならない緊急事態に見舞われた時、キニジ・パールは意を決して、本物のマーチャーシュ一世が下すはずがない豪快な作戦を命令し、幸か不幸か本(・)物(・)の(・)マ(・)ー(・)チ(・)ャ(・)ー(・)シ(・)ュ(・)一(・)世(・)よ(・)り(・)、(・)王(・)と(・)し(・)て(・)高(・)い(・)業(・)績(・)を(・)上(・)げ(・)た(・)経(・)験(・)が(・)あ(・)る(・)。それゆえに彼は、役割を羽織る者(プリテンダー)のクラス適性条件に当てはまり、本クラスで召喚された経緯が存在する。無論、そんな逸話は史実に残されていないが、彼の過去ではそれが真実だったのだろう。

 かくして大剣は水車の如く回転し、水流を巻き上げて、剣も水も自在に操る。その一撃を、山の翁の不朽なる盾に防がれたキニジ・パールは死を覚悟した。同時、首が舞う。

 キニジ・パールは、先の先(偽)スキルを有する。それは重く振りが遅い大剣を使いこなすべく、後の先を取るために修行して編み出した、先読みに長けた戦闘術の心眼(真)と、水魔の妖精眼(グラムサイト)の合わせ技によって成立する特殊スキル。愛馬との阿吽の呼吸が前提だが、心眼(真)と妖精眼が組み合わさることで、疑似的な先の先を実行に移す、人馬一体の戦闘術となる。なお水魔には騎乗していなくとも、視界内に存在すれば本スキルは発動可能。しかしキニジ・パールは、宝具以外に用意した奥の手とも言える、この特殊スキルをもってしても敗北を喫した。強者との死闘に満足したキニジ・パールは、愉悦の笑みを浮かべて黄金の粒子を立ち上らせる。

「悪いな、王様。負けたことで、あんたの顔に泥を塗っちまったぜ……だが第三宝具の展開はやめとく。正義王のアンタが召喚を拒否して俺を寄越した罰と思え。そりゃあ水魔を黒竜フェルニゲシュに変化させれば、一騎くらいは打ち取れるだろうさ。しかしこの戦いは、あんたの“正義”には程遠いように思う。まぁ俺と王様の性格は正反対だから? “マギウスの魔法少女を守ることが不正義であるはずがなかろう!”とか言いそうだけどさ……それでも俺はこれ以上の戦いはゴメンだね。こんなガキどもの痴話喧嘩、長々と付き合ってられっかよ! なぁ? “山の翁”さんもそう思うだろ?」

「…………」

「あぁシカトですか、さいですか。へいへい大人しく退去しますよ。首と胴が離れてるんでね!」

 キニジ・パール=マティアス・コルヴィヌスは退去。ちなみにマティアス・コルヴィヌスとは、マーチャーシュ一世の別名であり、その意味はワタリガラス。そしてハンガリー民話に伝わる黒竜ホロフェルニゲシュの“ホロ”も、またワタリガラスを意味する。その因果から、水車小屋の逸話を応用し、水魔の中に含まれる黒竜の因子を励起させることで、水魔を黒竜に転身させる第三宝具が存在すると囁かれているが……キニジ・パールに幻獣召喚能力はないため、実際には召喚できないとされている。

 

 一方、ランサーとラドカーンの激発。宝具発動から一秒も過ぎていない刹那の間際、螺旋剣舞を攻略すべくランサーの朱槍が閃く。それは新しくもなんともない、ただの宝具発動だった。刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)。常にランサーの眼前で回転して超連撃の螺旋剣舞を披露していたラドカーンは、ランサーを殺しきる前に、朱い茨の呪いによって体内を殺し尽くされた。

「カハッ……!」

 霊基全損。霊核貫通。ラドカーンは一瞬の攻防の結末に納得し、その場に座り込む。

「……なる、ほど。僕は、無敵にも思える竜種を倒すため、勇気を振り絞って知恵と技巧を凝らした、けど……それを極限まで研ぎ澄ますと、そんな凶悪な宝具に化けるのか……ハハ、完敗だ! 知名度補正も、最大だったというのに……」

「テメェは弱くねぇ。ギリシャの大英雄に並ぶハンガリーの英雄なんざ稀に見る。本当はもっと凌ぎを削り合っていたかったが、こっちはマスターの命令で“とにかく殺しまくる”必要があるんでな」

「また次の機会があったら、僕が勝つよ……」

「どうだか。オレの全戦全勝だろ」

 ラドカーンは黄金の粒子を立ち上らせながら思案する。接近すれば一撃必殺のゲイ・ボルクで殺られる。かと言って遠距離から攻撃すれば、視界内の遠隔武器を逸らす矢避けの加護によって決定打にならない。故に倒すなら近接だろうが遠隔だろうが完全な不意打ちがいい。自分の技量的にそれしかない、とラドカーンは思うが……ふと閃く。星すくう袋から星々を取り出してぶつければ、それだけでゴリ押し戦法もできるのではないかと。

「あぁ……次は、どうやって倒そうかなぁ……?」

 強敵との次なる死闘を夢見て、ハンガリー民話の大英雄ラドカーンは満面の笑みで退去した。

 

 かくして城内を蹂躙する悪魔と両騎士団の激闘は、悪魔の逆転勝利で終わる。刺し穿つ死散の雨で、二人のバルバラ・ツェリスカの霊核を射抜き、強化されたファヴニールの心臓を穿つ。

「バカ、な……私は、こんなところで終わら……」

「貴様、まさか……ガフッ!」

 二騎のバルバラ・ツェリスカが退去。殺されたファヴニールはサーヴァントではない本物の魔獣であるため、その場で死骸となり、口腔から瀑布のごとく鮮血を吐き出す。それを浴びるまいと、悪魔はC.A.I.の未使用シールドを三枚、頭上に置く。斯くて悪竜の血を浴びた三枚のシールドは、宝具《悪竜の血鎧(アーマー・オブ・ファヴニール)》と同様の効果を手に入れた。

 

 悪魔は死炎爆発噴射。超特急で大広間に戻って降り立つ。

「しばし休憩を取る。────エミヤ、プリテンダーとはなんだ?」

「……私の記憶が正しければ、人理案件のさなかに確認されたエクストラクラスだ。通称、役割を羽織る者。“誰かのフリをすることで本物以上の業績を残したもの”あるいは“世界を相手に回して欺いたもの”が適合すると、どこかの誰かが言っていたな」

「では確認だ。俺は世界史に疎い。史実ではマーチャーシュ一世とキニジ・パールが互いに扮装していたという事実はないんだな?」

「あぁ。少なくとも私は聞いたことがない」

「しかし真名看破魔法による真名看破によると、実際のところマーチャーシュ一世とキニジ・パールは互いに互いのフリをしていた。これは“史実に残らなかった記録”だ。この時点で“世界を欺いている”と言えなくもない」

「確かに、その理屈は一応の筋が通っている」

「そしてマーチャーシュ一世に扮するキニジ・パールは、あるとき緊急の要件で“王としての決断”を迫られた。これは憶測だが、それはマーチャーシュ一世が決断すべき内容だったように思う。例えば“国の命運を左右する”ような決断……“国家の存亡に関わる重大な決断”だったに違いない。しかしキニジ・パールは、本物のマーチャーシュ一世なら思い付きもしない決断を下した。結果としてキニジ・パールの決断は功を奏した。そして、これも憶測だが……おそらくそれは裏を返せば、“もし本物のマーチャーシュ一世が決断を下していたら、絶望的な失敗を侵していた決断”だったのかもしれない。故に不幸中の幸い。これは“誰かのフリをすることで本物以上の業績を残したもの”に当てはまると思う」

「その理屈なら当てはまるだろうが、実際のところは分からない。その業績というのも存外、取るに足りない理由だったかもしれんぞ」

「実際にどうだったのかは然して問題じゃない。この理屈が通るんなら────ランサー」

「あ?」

 暇そうに槍を回していたランサーは、同じ槍使いである七海やちよと佐倉杏子にちょっかいをかけていた。

「神浜市には水名正綱(みずなまさつな)という戦国武将が存在する。もし召喚されれば知名度補正はマックスだろう。なんせご当地英霊なわけだからな」

「……おい。おいおい。おいおいおいおいおい?」

「やちよ。水名正綱の触媒になりそうなものはあるか? 水名区の神浜美術館の展示物とか……」

「……たしか、水名正綱が使っていたとされる兜とかは……見たことがある気がするわ」

「ランサー。それ被って栄区に走って自(・)分(・)は(・)水(・)名(・)正(・)綱(・)だと名乗ってこい」

「正気かマスター!?」

 ランサーの困惑絶叫。エミヤはなぜか嬉しそうに鼻を鳴らす。ランサーが困っているのがそんなに面白いのだろうか。

「ご当地英霊とはいえ、水名正綱を知らない神浜市民も多いだろう。そもそも神浜市民の九割は死んでいる。だが先ほどフニャディ・ヤーノシュが、栄区の人間はある程度宝具で守ってあると言っていた。栄区は芸術の街だ。当然芸術と歴史は切っても切り離せない関係にある。水名正綱を知ってる奴も多いだろう。知らない奴にも水名正綱とは何かを詳しく説明しだす者も出るはずだ。あそこは中央区や工匠区と同様、意識高い系のオタクの街でもあるからな」

「わりぃマスター。なに言ってんのか全然わかんねぇ」

「自らの栄誉を他者に奪われるのは、英雄の矜持が許さないか?」

 ランサーは眉をひそめる。だが色々と呑み込んでくれたようだ。

「……。マスターの命令とあらば従う。赤枝の騎士ってのはそういうもんだ。裏切り以外の命令なら令呪も要らねぇ。で、今からひとっぱしり行ってくればいいのか?」

「脱出したら栄区に走って水名正綱と名乗れ。敵を一騎くらい屠って本物だと証明するアピールも忘れずにな。そして余裕が有るなら探索のルーンで水名正綱の触媒を探して持って来い。仮に見つからなかったり、探す余裕がなかったりしても、オレとやちよのマギアコネクト(逆転勝利&叛逆幸運英霊召喚)で、無理やりランサーの霊基に水名正綱の霊基を降臨(ひきずりおろ)す」

「了解」

 そこでアルトリアが忠告する。

「しかしマスター。それはランサーをしばしの間、チームの前衛から外すということです。この城から脱出した瞬間、敵軍は必ず包囲を敷いている。四面楚歌の状況で一斉に宝具を放たれる可能性が高い。要するに、危険極まりない状況から脱する作戦を、まず考えるべきでは?」

「それなら既に考えてある。ランサー、お前の宝具なら一(・)回(・)は(・)行けるだろ」

「あ? あぁ……あの宝具か。バーサーカーで召喚されたら引っ提げてくるかもしれねぇ宝具なんだが、そういやなんでか持ってたな。エクストラクラスで召喚されたせいか?」

「この城は心象風景の具現化とはいえ、実際のところは固有結界と似て非なる建築魔術のはずだ。ランサーの切り札を使えば、包囲の一側面に穴を開けることができるかもしれない。その瞬間、セイバーの宝具を叩き込め。続いてランサーとは別行動を取る。ランサー、五分以内に戻ってこい」

「五分!? 一息もつけやしねぇじゃねぇか! ……いや、分かったよ。やるっきゃねぇんだもんな。なんせ、かの騎士王はオレがいなきゃ全滅必至とおっしゃられる。こりゃあ責任重大だな」

 ふとアルトリアがムッとした顔でランサーに向き直った。

「ランサー、私はそんなことは一度も言っていない。確かにあなたは頼りになる戦力だが、あくまでマスターたちの安否を考えた上での諫言だ。驕りは油断を生むぞ」

「はっ! ったく、王様ってのは冗談が通じねぇんだから、やりにくい!」

 豪快に笑うランサー。調子を崩されるセイバー。周囲を一瞥した悪魔は問いかける。

「休息は十分か? 依然陣形は崩さず、脱出するまで女性は突出するな。ランサー、脱出ルートの確保は?」

「探索のルーンを二つ走らせてるが、出入り口の城門に向かおうとすると空間が別の空間につながって邪魔される。だが城内の天辺までは比較的容易なルートを見つけた。その奥に主(ヌシ)がいる」

「誘導されているな。だが乗ってやろう。城のヌシであるカーミラを倒せば脱出できる。たとえ脱出できなくとも外壁を無理やり破壊することで強引に脱出する。みんな、行くぞ!」

 悪魔陣営は鳥より早く、風より早く、走って飛んで監獄城の頂きに到着する。玉座の間に繋がる両扉。悪魔が蹴破る。次の瞬間、竜の翼を生やすカーミラが音速でかっ飛び、空中戦闘を仕掛けてきた。

「ぐっ!?」

 真名、吸血竜 カーミラ〔ドラゴンライダー〕。エクストラクラスによるステータスの全般的向上と、怪力B・吸血A・変化Cの複合スキルたる吸血竜スキルにより、三騎士に匹敵する近接戦闘能力を有している。先ほどは一瞬の真名看破だったため、スキルの内容までは読み切れなかった。しかし技量は戦士見習いですらない。エミヤの跳躍。魔性特攻の干将・莫耶で斬撃。カーミラの翼を切り落とした直後、ランサーの朱槍が心臓を穿つ。

「カハッ────!」

 悪魔は直感。カーミラは第三宝具で竜(・)種(・)に(・)な(・)ろ(・)う(・)と(・)し(・)て(・)い(・)る(・)。

「やめろ。それ以上は自分を傷つけるだけだ」

「……っ!?」

「後悔するのはいい。諦念も構わない。だが自暴自棄になって一番迷惑をこうむるのはあんた自身だ。霊核を穿たれて支配からも解かれている。どうか……」

「……知ったふうな口を────! 全ては幻想の内、けれど少女はこの箱に────!」

 悪魔は死炎爆噴。カーミラの腕を取り、玉座の間のステンドグラスに突貫する。

「えっ!?」カーミラの驚き。

『マスター!!?』三騎士の叫び。

「総員! 脱出するぞ!!」

 監獄城の頂上にて、悪魔は荘厳華麗なステンドグラス叩き割り、幽閉されていたカーミラを解放させる。

「あんたの心は聴くに耐えない。最期くらいは楽に逝け」

「────私は悪人よ?」

「関係あるか?」

 お人よしね。そう言ってカーミラは黄金の粒子となり消滅した。悪魔、地上に着地。そこは大樹迷宮の頂き。空間の座標位置は変わってない。続いて七海やちよ、ランサーと佐倉杏子、アルトリアとエミヤなどが続々と着地する。

 

          ♪~REVIVER~♪

 

 刹那、悪魔の逆転勝利が────今までにないほど極まった。まだ敵意はない。殺気もない。周囲も異変に気付いていない。だが、これはまずい。何がまずいのか分からないが……悪魔は決死の覚悟を決める。予定に変更はない。ランサーが居なくても生き残る。そのために多少の犠牲を払うことになろうとも。

「総員、覚悟しろ。オレは多少の犠牲を容認した」

『────ッ!!』

 悪魔は大樹迷宮を昇ってくる一隻の船を睨み据える。船首には金髪の男。真名をイアソン〔セイバー〕。彼は世界一の──気持ち悪い──恍惚とした極楽の笑みを浮かべて、悪魔たちを徹底的に見下す。

「ふ。ふふふ。ふふふはハハハハハ! ハーッハッハッハッハッ! お前ら死んだぞ! 城から出れば包囲されていると思ったか? 残念だったな! 我がアルゴナウタイは完璧の船員を取り揃えた! どこのトップサーヴァントが束になって掛かってこようが、完(・)璧(・)な(・)ま(・)で(・)に(・)完(・)成(・)さ(・)れ(・)た(・)ア(・)ル(・)ゴ(・)ー(・)船(・)は誰にも破られない! 現にこうして包囲していた低級サーヴァントどもは皆殺しにした! それでもイザボーからのお咎めがないのは、まさに無敵! まさに最強! それを体現しているからだ! あぁ……俺の考えた最強のアルゴナウタイが、とうとう実現したぞぉおおおお!!」

 エミヤは目を見張る。そして、本当に子(・)供(・)じ(・)み(・)た(・)思(・)い(・)つ(・)き(・)の(・)実(・)現(・)を見て、苦虫を噛み潰したような顔をした。

「メディアも要らない。テセウスもアタランテも。カイニスもディオスクロイも邪魔だ! 呼んでも来ないんじゃない。俺が呼ばないんだ! なぜなら我が船には、九(・)人(・)の(・)怪(・)物(・)が(・)揃(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)からだァアアッッッ!!!」

 ランサーとセイバーは宝具開放の準備を整える。

「────殺せ。あいつらを9の9倍になるまで殺し尽くせ! 《天上引き裂きし煌々の船(アストラプスィテ・アルゴー)》────それに乗る、九人の怪物(ヘラクレス)ゥウウウウウッ!!!」

 イアソンを除き、アルゴー船に乗船する九騎の偉丈夫。その真名を、ヘラクレス〔セイバー〕、ヘラクレス〔アーチャー〕、ヘラクレス〔ランサー〕、ヘラクレス〔ライダー〕、ヘラクレス〔アサシン〕、ヘラクレス〔バーサーカー〕、ヘラクレス〔アヴェンジャー〕、ヘラクレス〔レンジャー〕、ヘラクレス〔ガンナー〕────すかさずランサーは念話を送る。

(マスター)

(作戦に変更は無い)

 悪魔の念話は発散型なので敵味方を問わず全体に伝わる。決死の覚悟を承知したランサーとセイバーは宝具解放。

「我がマスターの道を拓け! 《圧し拉ぐ投擲の城(ムルテムニ・オグマ)》ッ!! ォオオッ────ラァアアッッ!!!」

 その宝具は、複数の逸話を集合した伝承宝具。“クー・フーリンは城(・)を(・)押(・)し(・)合(・)う(・)角力(すもう)で勝利した”。“クー・フーリンはムルテムニ平原という場所を領地として有していた”。“クー・フーリンは魔術の腕も一人前”。以上の三種逸話が結集することで、サーヴァントの霊基では不可能と言える、対(・)・(・)対(・)城(・)宝(・)具(・)を実現させた。

 ルーン魔術による筋力強化と、オガム魔術による筋力倍加によって、一時的にA++ランク級の筋力を得たランサーは、監獄城チェイテを持(・)ち(・)上(・)げ(・)て(・)投(・)げ(・)飛(・)ば(・)し(・)た(・)。さらには他人の宝具ということもあり、遠慮なく壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)として投げつける。Aランク級の監獄城は、A+ランクを遥かに上回る威力となって、アルゴー船を圧し潰した。

「ギャアアアアアア────!? そんなのアリかぁああああ!?」

 イアソンの悲鳴。城を押すどころか投げたランサーは栄区に向かって跳躍し戦線離脱。

 次の瞬間、絶殺の神速(絶望の具現)が九百撃、悪魔陣営めがけて猛然と奮われた。

『言葉は不要。押し通れ。《射殺す百頭(ナインライブズ)》────!!!!!!!!』

 その宝具は、ギリシャ神話の大英雄ヘラクレスが“いくたび殺そうと蘇る怪物ども”を殺しきるべく編み出した必殺闘法。魔術以外、あらゆる武具を使いこなしたヘラクレスは、剣・弓・槍・鞭・棍棒・斧などにかかわらず、常にその武具を用いた最大手を一息のうちに百撃、神速を以て繰り出す。故に彼の闘法は、万能型戦闘術と称される。

 斯くて絶体絶命の九面楚歌。セイバーの宝具開放も間に合わない。刹那、九度にわたる熾烈な魔法攻防が行われた。暁美ほむらが《時間停止》を行使。されどセイバーヘラクレスの《魔法封印》で時間停止が阻害される。極まる逆転勝利の中、悪魔は《助太刀》を行使するが、アーチャーヘラクレスの《魔法封印》の行使を直感して取り止める。マーリンが幻術による無敵を張ろうとするが、ランサーヘラクレスの《幻術封印》により阻害される。九騎のヘラクレスの狙いが全て悪魔に向けられていると悟ったエミヤは熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)で宝具の余波から自陣を守ろうとするが、ライダーヘラクレスの《装甲貫通》により無駄打ちに終わる。ブーディカとベミヤも防御宝具を発動するが、同様にアサシンヘラクレスとバーサーカーヘラクレスの《防御無視》により意味を成さない。悪魔は円卓シールドから《いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)》を展開する。神秘の強さは円卓シールドの方が上だ。防御無視魔法も装甲貫通魔法も無効化できる。刹那、アヴェンジャーヘラクレスの《神秘簒奪》により円卓シールドが奪われる。宝具の撃ち合いとなれば、確実に円卓シールドが九百撃を防ぎきる。だが宝具を使う前なら、神代の人間と現代の人間、どちらの神秘性が上回っているかなぞ比べるべくもない。先手後手に関係なく、圧倒的な神秘の強さで悪魔は詰みに持っていかれる。ならば受けきろう。九連宝具の余波は、なんとか味方が凌ぐことを祈る。今は不死を殺す絶技を前に、如何にして生き残るか。悪魔は眼前に迫り来る絶対の死と相対する。レンジャーヘラクレスが《石化》を行使。悪魔の体が硬直する。ガンナーヘラクレスが《不蘇生》を行使。悪魔の再生能力が封じられる。────悪魔は思う。ヘラクレスには魔術師の適性がないと侮っていたわけじゃない。ただソウルジェムを手にして魔法が使えるようになれば、ここまで使いこなせるのかと絶句した。宝具を放ちつつ魔法を使う卓越した技量。悪魔の逆転勝利は極限に達しているというのに、もはや何もできず────

 

 ────粛然たる轟雷震撼。神速の闘法は、不死身の怪物(悪魔)を九百分割した。一拍、遅延しての爆発的余波で悪魔陣営は空の彼方に吹き飛ばされる。思考空白、意識明滅。大樹頂上の幹に九百の即死痕跡。悪(・)魔(・)だ(・)っ(・)た(・)極(・)小(・)の(・)モ(・)ノ(・)が散逸する挽肉(ひきにく)と血痕。そして砕かれた藍色のソウルジェム。割れて澱んだグリーフシード。擦り切れて砂粒となった緑色の宝魂破片(ソウルジェム)。

 されど逆転勝利の呪いは、悪(・)魔(・)が(・)死(・)ぬ(・)事(・)を(・)許(・)さ(・)な(・)い(・)。

「……逆転勝利なのに、負(・)け(・)る(・)事(・)を(・)許(・)さ(・)な(・)い(・)、というわけではないのか。それはたしかに“いびつ”だ。最初は純粋に、負けることがないよう逆転勝利を願ったのだろうが……これも神の悪戯か、徐(・)々(・)に(・)何(・)か(・)が(・)狂(・)っ(・)て(・)い(・)っ(・)た(・)のだろう。……いつの世も、神とは度し難い事をするものだ」

「クフフ……まったく、同感ですね」

 キャスターの六道骸が姿を現す。悪魔だった極小のモノたる挽肉や血痕は幻術によるもの。霧の炎が戦場全体から散っていく。

「完全に気配を絶っていたな。見事だ。気付いていれば幻術封印魔法で阻止できたが……さて、本物の悪魔は落下したか。どうやって助けた?」

「僕の幻術は、相手の脳に作用するタイプでしてね。魔力は一切使用してないため対魔力では防げません。TP魔法界における呪術と似たようなものですよ。そしてひとつ訂正を。僕は彼を助けてなどいません。暁美ほむら(マスター)を助けるために動いたのです」

「……時間稼ぎは無駄だ。幻術で我々の脳を操り、技の軌道を一ミリだけズラしたな。それで九ミリの間隙が発生した。悪魔はその隙間を見抜いて両眼球以外を削り切られながら脱出した……」

「その通りです。僕の幻術に捕まるということは、肉体の支配権を奪われることに値する。だというのに神性スキルの賜物でしょうか。まさか僕ほどの術士でも、たった一ミリしか操れないとは……幻術を掛けた刹那、気迫だけで幻術を打ち破られるとは思いませんでした」

「……では、死ぬ気はあるか」

「クフフ……」

 六道骸は霧炎の構築効果で迷彩を施し脱兎のごとく後退。刹那、その霊核は九分割された。黄金の粒子が立ち昇る。九騎のヘラクレスは太樹の頂きの先端に仁王立ち、地表を睥睨。高所から自由落下していく悪魔陣営を見つけて跳躍、躊躇なく追撃を開始した。

 

 斯くて悪魔は殺されていた。神速の九百撃のうち八百九十一(891)撃を総身に浴びた悪魔は、頭部のうち両眼球と鼻骨、右耳から左耳に伸びる三十センチ程度の皮一枚を残して、地表に向かい落下中。空気抵抗を受けて皮膚がタオルのようにバタバタとはためく。脳みそは吹き飛ばされたため思考する機能すらない。意識という機能すら殺されていた悪魔は、人の形を残さぬまま地表に激突。鼻骨は粉砕されて土に混ざり、皮膚はちぎれて風に吹かれ飛んでいき、右目はコロコロと東に転がり、左目はコロコロと西に転がる────が、不意に左目の中から魔女の手が伸びる。それは右目を掴んで近くに持ち寄り、叛逆魔法を行使。《不蘇生》を無効化し、瘴気を魔力がわりに放出することで悪魔の肉体を再生する。

 

 人の内臓は赤い。人の骨は白い。人の筋肉は赤い。人の皮膚は人種による。されど悪魔は、その全てが穢れ切った黒濁の色だった。魔女の瘴気で再生した人間は、もはや魔人となるほかない。叛逆魔法によって半魔人化に留まろうとしているが、悪魔の背後には魔女文字が浮かんでいる。

 

 ────Siegfried・Faust(Mephistopheles)────

 

 その傍らにはデモンズソウル。悪魔もとい魔人悪魔の傍らに降り立つ九騎のヘラクレスを前に姿を現す。

「今更なんの真似だ。先ほどは臆して姿を現さなかった悪魔の軍勢(デモンズソウル)ども」

「マスターからの命令だったのでね……」血塗れの悪魔ジェロニモが答える。

「こうやって挽肉同然に引き裂かれることは織り込み済みで、まさに今この瞬間を待っていたってことなんですねェエエエエ!!」道化師の悪魔 メフィストフェレスが甲高い声で語る。

「確かにヘラクレスが九人とか、地獄の王様でも逃げ出す戦力差だ。けどな。世の中には相性ってものがある。あんたらに悪魔の軍勢(マスターと俺ら)は殺せない」悪神の悪魔 アンリマユが嗤う。

『……やってみるか?』八騎のヘラクレスが声を揃える。

 刹那、両軍勢は駆けた。激突する。神速の武閃。悪徳の辣腕。血を肴に、筋肉を楽器に。魔人悪魔を中心に、熾烈な攻防が巻き起こる。趨勢は栄光(ヘラクレス)軍勢に有り。狡智の悪魔ロボを棍棒で叩き殺し、血塗れの悪魔ジェロニモも銃弾で射殺し、道化師の悪魔メフィストフェレスを槍で突き殺し、悪神の悪魔アンリマユを剣で斬り殺す。さらに躍り出る獄犬の悪魔ヘルハウンドを、鰐の悪魔カリを、眼球の悪魔ゲイザーを、射手の悪魔ザミエルを、熱力学の悪魔マックスウェルを、神鯨の悪魔リヴァイアサンを────さらにソロモン七十二柱に伝わる伝説上の悪魔も出てくる。だがそれは名前だけ。アスモデウスと名乗る何か。サタンと名乗る何か。ルシファーと名乗る何か。すなわち幻獣・魔獣のたぐいを、ひたすら九騎のヘラクレスは射殺す百頭(ナインライブズ)で殺し尽くしていく。やがて、デモンズソウルはそ(・)の(・)数(・)を(・)浪(・)費(・)し(・)尽(・)く(・)し(・)て(・)絶(・)命(・)した。すなわち大英雄ヘラクレスは、この世全ての悪魔を殺すという大偉業をサーヴァントの身で成し得たことになる。────否、そのためにはあと一匹の“魔人”を、殺したりていない。

【我は卂音を凌ぐ黒い鳥(ディアベル・オルトロス)】

 刹那、魔人悪魔が突発的に動いた。獣のような長い脚部を活かした姿は、半魔人化(デビルトリガー)の機動形態(モード・ベロチタ)。瘴炎直進(ベルヴァ・セースト)の特性を有する。死ぬ気の炎と瘴気による爆発的噴射。それは音速百号を容易く突破して九騎のヘラクレスと肉薄する。されど音速が神速を凌駕するはずもなく、魔人悪魔は絶技九百撃により地へと叩き潰される。

【我は不快極まる悪の王(ディアベル・キメーラ)】

 刹那、額に竜と山羊の角が一本ずつ生えていた魔人悪魔は、いつの間にか防御形態(モード・ディフェーザ)・瘴炎無敵(ベルヴァ・オータボ)に移行していた。能力は無敵化だが、逆転勝利が天元突破した今、それはただの無敵ではなくなっていた。今の魔人悪魔を守る概念防御は、神秘の濃さに関係なく、あらゆる概念を無力化する対粛清防御に類似する。

【我は不浄極まる大食漢(ディアベル・アルフィア)】

 刹那、魔人悪魔の背中に黒い大翼が二枚、生える。攻撃形態(モード・アタッコ)・瘴炎縛歌(ベルヴァ・セッチモ)に移行。その炯眼と咆哮はあまねく獲物を竦み上がらせて縛り付け、対象を生きたまま喰らい尽くす熊獣(きゅうじゅう)の摂理。ヘラクレスたちのはち切れんばかりの筋肉が少しずつ噛みちぎられていく。その牙は骨まで届き、ついに九騎のヘラクレスの片腕と片脚を噛み折り、首と心臓を咬み砕いた。しかし殺すには至らない。九騎のヘラクレスは宝具《十二の試練(ゴッド・ハンド)》を有する。それは十二回殺されても蘇生できる宝具だ。

 やがて魔人悪魔とヘラクレスが死合う戦場に、続々とマギウス陣営が集う。彼らは獣の如く猛り狂う死闘を見て思った事だろう。────いったい、ど(・)ち(・)ら(・)が(・)怪(・)物(・)な(・)の(・)か(・)と。サーヴァントとなったことで生前より弱体化しているとは言え、九人のヘラクレスが殺しても殺しきれない悪魔は何者か。そして全身の骨肉が食い破られても一切動じずただひたすら悪魔を殺して殺して殺し殺し殺し殺し殺殺殺殺し尽くす九人のヘラクレスは何者か。

「無論、ただの男達じゃよ」

 真名をニコラス・フラメル〔キャスター〕が現れる。

「さて────命令通り役目をこなすとしよう。……素に銀と鉄。礎に万華鏡の翁(キシュアの隣人)────」

 ふとニコラス・フラメルは英霊召喚の詠唱を堂々と始める。周囲に佇むマギウス陣営のサーヴァントは首をかしげるばかり。

「────昔のよしみで詠唱短縮。来たれ、天秤の守り手よ────!」

 

 

 

 その頃、魔翼移動要塞の大聖杯展示場では。地上のニコラス・フラメルの詠唱に合わせて大聖杯が鳴動する。

「なんだ!?」

 柊ねむの驚愕。すぐに魔力で走査すると、狂(・)戦(・)士(・)の(・)枠(・)を(・)使(・)っ(・)て(・)サ(・)ー(・)ヴ(・)ァ(・)ン(・)ト(・)召(・)喚(・)が(・)成(・)さ(・)れ(・)よ(・)う(・)と(・)し(・)て(・)い(・)た(・)。

「なに……? まさか、抑止力の介入か……!」

 

 

 

          ♪~アイのシナリオ~♪

 

 斯くて召喚は成った。ニコラス・フラメルの眼前に展開する魔法陣より現れるは────

「なるほど。そういうことか。助かった、ニコラス・フラメル」

「ほほほ。じゃあの」

 ────真名を笹川京子。だがその外見は、悪(・)魔(・)こ(・)と(・)沢(・)田(・)綱(・)吉(・)と(・)瓜(・)二(・)つ(・)だった。

 ニコラス・フラメルが、悪魔 沢田綱吉を召喚した。すなわちニコラス・フラメルがマギウスを裏切ったと看破した瞬間、マギウス陣営は一斉に飛びかかってニコラス・フラメルの肉体と霊基を木っ端微塵と打ち壊す。それを尻目に笹川京子は戦闘開始。サーヴァントになったことで、攻撃のたび叛逆魔法を行使して神秘を獲得する必要は皆無となった。

「さぁ────逆転勝利の時間だぜ」

 叛逆魔法を行使。サーヴァントの弱点は宝具の発動に詠唱が必要なことだ。しかし笹川京子は真名解放も宝具開放もせず、瞬間イクスバーナーを解き放つ。轟炎放射、燎原一掃。大地を灼熱と化す笹川京子は、すぐに敵サーヴァントから真名を見抜かれる。

 

 ────“真名逆転”────笹川京子〔悪魔 沢田綱吉〕 クラスはプリテンダー。

 

 刹那、悪魔 沢田綱吉は────絶大な(ハイパー・)壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)を大地に叩きつけた。

 真エーテルが秘められし(ドゥリンダナ・スパーダ/)宝玉を柄に取り付けた覇者の剣(エーテル・ハイパーファンタズム)。

 朱色の小刀三本(ゲイ・ボルク)。

 白き円卓の盾(ロード・キャメロット)。

 自律型の魔道書(プレラーティーズ・スペルブック)。

 呪われし獣化の毛皮(アグリオス・メタモローゼ)。

 その全てを賭した一撃はA+++ランクを遥かに超える光の一撃となり────中央区一帯が爆発した。一度に数万のサーヴァントが死に果てる。ヘラクレスといえども二十数回は殺されてお陀仏のはずだ。帝樹ローマが猛然と襲う風と光に浚われて消えゆく。

 

 されど九騎のヘラクレスは真偽それぞれの心眼にて致命傷を躱しており、十二の試練(ゴッド・ハンド)を破られて全壊したはずの霊基を戦闘続行で保たせて生還していた。対する魔人悪魔も同様。超直感で絶死の窮地を凌ぎ、鋼鉄の決意で戦い続ける。

 

 サーヴァントたる悪魔 沢田綱吉は、生前の自分と九人のヘラクレスの闘いをさておき、まずは大樹の頂きから吹き飛ばされた仲間たちを探すべく死炎爆噴、大空に飛翔。

 

 一方その頃。日本国の自衛隊は壊滅状態に陥っていた。それは他国も例外ではない。二機の戦闘機に乗る二人のパイロットは神浜市上空を飛んでおり、地上を俯瞰して見たままのことを、ただ司令室に報告する。

『じ……時代錯誤な人間たちが、大勢、殺し合っている……前方、五キロ先、ドラゴンのような生物の群れを確認……人間のような生物も飛行しており、今、こちらにウインクしてきた……メカ娘のコスプレをした、とてもかわいい女の子だ……』

『ッ……クソッ! どういうことだ!! 先刻から既に数百機の戦闘機が撃墜されている! 異常事態だ。我々はどこの国から攻撃を受けている!?』

 かたや仕事をこなし、かたや現実から目を逸らす。超音速を飛行する戦闘機。その傍らに人影が現れる。

「アラもう聞いた? 誰から聞いた? 魔法少女至上主義マギウスのそのウワサ!」

『っ!? な、なんだ!? 人型の生物がコックピットの外側に張り付いている! こちらに話しかけてきている!』

『────お、俺もだ……黒い、真っ黒な甲冑を着た、騎士が……俺の真上に、真上から見ている……』

 真名、ランスロット〔バーサーカー〕。宝具《騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)》により、武器たる戦闘機をDランク宝具と化すため、黒い魔力を葉脈のように巡らせる。刹那、その横っ腹を悪魔沢田綱吉が膝で打ち抜いた。

「Aaaaaaarrrrrr────!!」

「お前の相手はオレだ」

 戦闘機から転げ落ちたランスロットはただちに鉄翼を引っ掻き、飛行鉄塊物の胴体にしがみつく。瞬間、鉄板を引き剥がして弾頭(ミサイル)を手に取る。すかさず悪魔が追撃の拳を振るうが、戦闘機から跳躍したランスロットはミサイルを投擲。それはランスロットの宝具と化したことで追尾性能を自在に操れるようになった。悪魔沢田綱吉はミサイルと激突して戦闘機を守ろうとしたが、狂化した黒騎士の心中を読みきれず────ミサイルは有り得ない軌道を描いて大外を回り、悪魔沢田綱吉を避けて彼の背後を通過する戦闘機を貫通し爆発、『仰木三世ィイイイイイッ!!』パイロット仲間の絶叫のあと、彼の戦闘機も爆発に巻き込まれて木っ端微塵と砕かれながら墜落していく。

「……ッ!!?」

 全てが無駄のない動き。無窮の武練を有する殺戮技巧は、すぐさま無毀なる湖光(アロンダイト)を抜き放つ。真名看破魔法は環いろはが有している。悪魔は相対する者がランスロットと知らず──仮に名を教えられても、彼が何をした人なのかはまったく知らないが──聖剣のたぐいと予想して遠隔で仕留める。両手を交差した瞬間イクスバーナー。対するは黒塊魔力を圧縮した飛ぶ斬撃。死炎と湖光の魔力激突は、中空にて極光の大爆発を引き起こす。悪魔沢田綱吉は爆煙を貫いて叛逆施術による貫手を繰り出すが、ランスロットはいかなる技量か煙幕の中で迫り来る彼の手首を掴み捕らえ背負い投げ。触手のように揺らめく杭状の鞭を俊敏に奮い音速打突。全身に刺し孔を作られた悪魔沢田綱吉は死炎轟爆。敵は飛行能力を有さないため空中戦闘に不向きと考えたがそれは侮りだったと察する。そして地上に降りた瞬間、恐らく更に脅威度が増すと悟る。故に、地表激突まで目算、残り九秒。地表から向かってくる敵軍勢の追撃も考えると────

「三秒で仕留める」

「Aaaaaaaa────!!」

 一秒、悪魔沢田綱吉の抜刀時雨蒼燕流。煙幕を切り裂いてアロンダイトと音速激発。

 二秒、匣兵器の晴拳銃を開匣。右手に刀、左手に拳銃。活性連射が数本の鞭で切り落とされ、時雨蒼燕流の技が一目で看破されて対処される。

 三秒、超直感で心情を読みきった悪魔沢田綱吉は霧の構築効果でアルトリアに変身。「a────」ランスロットの挙動が一瞬停止する。その間隙を突いて霊核を穿たんと刀を打突するが、彼は知らなかった。無窮の武練スキル。其はいかなる精神的制約下にあっても十全の戦闘能力を発揮する。「urrrrrッ!!」ランスロットは偽装宝具《己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)》を解除。悪魔沢田綱吉はサーヴァントであるため真名看破、ランスロット〔バーサーカー〕。超絶技巧の武術により激発の瞬間、刀を折られた悪魔沢田綱吉は捨て身でなければ勝てぬ敵と知り虎口に飛び込む。

 死秒。地表から宝具《軍神五兵(ゴッド・フォース)》の射撃が音速を突破して飛んでくる。逆転勝利が極まった悪魔は一瞬だけランスロットの技量を上回り、折られた刃の破片をつま先で蹴り抜いた。さらに破片には嵐雷の炎を宿らせていた。硬化した破片は甲冑を分解し霊基を切り裂く。同時、悪魔沢田綱吉は死炎轟爆で緊急回避。

 

 地上に仁王立つ狂戦士は、宝具使用時の真名解放により呂布奉先〔バーサーカー〕と看破。超音速で軍神五兵を躱した悪魔沢田綱吉は彼の背後に回る。同時、どこからか環いろはの念話が飛んできた。呂布奉先の両隣に佇むサーヴァントの真名を看破。赤兎馬〔ライダー〕、陳宮〔キャスター〕。

「我が軍門に降れ。あんたが振り返ればオレは死ぬ。それってつまり、あんたらがオレに殺されるってことだろ?」

 呂布奉先は振り返りざまに切斬刺突打撃薙ぎ払い、一息で四撃を繰り出し悪魔沢田綱吉の四肢を断つ。さらに赤兎馬の長槍が頭を叩き斬らんと奮われる。発散激発。一息で一キロを駆け抜けて死地に飛び込んだ竜城明日香の薙刀が赤兎馬の武器を止める。肩武器タッツーの水遁砲撃は陳宮を狙うが、呂布奉先の背後に回られたことで躱される。水遁砲撃を呂布奉先が切り裂いた瞬間、死炎轟々爆発噴射。悪魔沢田綱吉は竜城明日香の背中を蹴り上げる。それはなぜか。墜落するランスロットが数十メートル先で地面に激突して転がった。霊核は貫いていないためまだ生きている。起き上がって向かってこられると面倒だ。つまり蹴り上げたのは、竜城明日香にランスロットを殺させるためである。

 赤兎馬の剛槍一閃。千里を駆けるベミヤが助太刀に現れ、無限の剣を頭上に舞わせながら干将・莫耶で激突。人馬同士の剛槍対双剣。音速の剣戟は衝撃波を発し、二頭は戦場を周回しながら武練を競う。後方では悪魔陣営とスパルタクス陣営&玄奘三蔵陣営が合流し、数万のマギウス陣営と戦闘中。そして睨み合うは悪魔沢田綱吉と呂布奉先。悪魔沢田綱吉が施術魔法を行使した瞬間、呂布奉先は魔力の流動を見逃さず方天画戟(ほうてんがげき)による六種攻撃が猛威を奮う。呂布奉先はバーサーカーで召喚された際、狂化の影響で刺突と射撃しか使えない。だが軍師の忠言によるものか、狂化状態でもフル性能を発揮できるようだ。斬撃、悪魔の胴体を袈裟斬りにした軍神五兵(方天画戟)。同時、悪魔沢田綱吉は施術魔法によって、嵐死炎放射器・雨刀・晴拳銃・雷電圧変換充電(魔力増幅)器・雲ハリネズミ(球針態)・霧バイク(柄)・七属性のバッテリー(補充魔力)匣の合成に成功、軍神五兵を参考にした複合兵装(マルチプルウェポン)を完成させていた。

 霧バイクのステルス効果が武器を透明化させる。それはまるで風王結界。雨刀で切斬・刺突・薙ぎ・払いを行えば、雲ハリネズミの針が伸びて鞭のようにしなり、威力と射程を底上げする。それはさながらインドの武器たる金属鞭剣(ウルミ)。晴拳銃の引き金を引けば七種バッテリー匣から七属性の死炎が流れ込み死炎放射器から虹色の弾丸が射出される。それはまるで凱旋を高らかに(アルク・ドゥ・トリオンフ・)告げる虹弓(ドゥ・レトワール)。雷電圧変換充電器は魔力回収&(兼)増幅器となり周囲の魔力を回収して七種バッテリー匣に流し込み蓄積する。それはさながらCランク相当のガルバニズムスキル。斯くて攻撃方法は、斬撃・刺突・打撃・薙ぎ・払い・射撃。機能は透明・回収と蓄積。周囲の余剰魔力を回収して晴炎に変換した悪魔沢田綱吉は肉体を活性し瞬間治癒。刹那、二つの大型両手武器が幾重にも旋回し激突、轟閃(ごうせん)、轟衝(ごうしょう)、轟擲(ごうちゃく)、轟崩(ごうほう)、轟殴(ごうおう)、轟射(ごうしゃ)。

「ほう……やはり生贄しかありますまい。《掎角一陣(きかくいちじん)》────まさかの陳宮が自爆!!」

 突として陳宮の霊基が爆砕する。軍師の本懐スキルにより即時消滅は免れた陳宮。彼は何をしたのか。無論、自らを触媒にして四騎の呂布奉先〔アーチャー・ランサー・ライダー・アサシン〕を召喚させたに決まっている。

「天下無双と謳われる豪傑英雄が五騎も我が陣営に!」

「陳宮どの! 六騎です! 私のことを忘れないでくださいヒヒーン!」

「……そうでしたね。実質ほぼ六騎! さぁ、笹川京子の役を羽織る悪魔 沢田綱吉よ! この絶望をどう凌ぐ!」

 壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)。悪魔沢田綱吉は自ら作成した複合兵装を破壊し、Aランク級の大量破壊兵器へと昇華させた。五騎の呂布奉先は耐久A+ランクを誇るが瀕死状態に追い込まれる。

「武器を……手放しましたか」

「オレは不利になるほど強くなる。強い武器も仲間も要らない。戦いにおいては、むしろ邪魔な要素だ」

 五騎の呂布奉先が勇猛果敢に吼えて飛びかかる。悪魔沢田綱吉の逆転勝利が極まり、全て徒手空拳で殺し尽くす。切斬してきたバーサーカーの霊核を砕き、刺突してきたランサーの霊核を貫き、打撃してきたライダーの霊核を壊し、薙ぎ払ってきたアサシンの霊核を打ち抜き、射撃してきたアーチャーとその背後に隠れていた陳宮の霊核を穿ち貫く。五度の死線を紙一重で掻い潜った悪魔沢田綱吉は次なる戦場に飛び立った。

「圧倒的、などという次元ではありませんね。その評価は生ぬるい。あれはもう神に祝福されしレベルの格(・)上(・)殺(・)し(・)です……いやはやしかし、今回の戦場もまた、それなりに楽しかったですねぇ……」

『…………』

 五騎の呂布奉先と陳宮が消滅。

 

 竜城明日香の薙刀がアロンダイトと激突して砕かれる。瞬時に魔力で再生するも魔力速に劣る水属性の魔力では再生が追いつかない。その間隙を幾度も突かれて殺されかかる間際、彼女の肩に座るタッツーが水遁砲撃を放つ。当たればランスロットといえども無事では済まない。緊急回避を選択したことで竜城明日香への攻撃は致命打とならない。一進一退の攻防。神浜の武士と円卓の騎士。無窮の武練の対決は、横槍が入る乱戦にて決着する。マギウス陣営の低級サーヴァント数騎が竜城明日香を襲う。次の瞬間、アーマーガアの電光石火で突貫した千秋理子が活性発散で敵軍を吹き飛ばす。瞬間《規律順守》行使。“騎士たるもの常に必殺を狙え”────そのような決まりごとはランスロットの騎士道にはないが、対魔力がEランクしかないゆえ無効化できず強制される。狙ってしまうは心臓。技量で数段劣る竜城明日香も次の一撃の狙いさえ絞ることができれば勝ち筋に光明が射す。肉(心臓)を切らせて骨(霊核)を断つ。聖剣と薙刀の交差激発。黒鎧を貫いて霊核を射抜く。されどランスロットは“必ず殺す”規律に従って宝具《縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)》を発動。窮地に閃く炯眼はアロンダイトに過負荷を与えて凝縮魔力を一点開放。体内殲滅に等しい効果を与えて竜城明日香の体内を引き裂き、彼女の体内から漏れ出る湖光の斬撃でソウルジェムを破壊した。────はずが、千秋理子の召喚魔法により竜城明日香のソウルジェムは死の瀬戸際で転移。千秋理子の手の中で破壊されず無事だった。ランスロットは黄金の粒子を立ちのぼらせて消滅する。

 

「雄雄雄雄雄雄々々々々(オオオオオオォォォォ)────ッッッ!!! 圧政ィイ!! 滅ぶべしィッ!!」

 悪魔の同盟者たる叛逆の英雄スパルタクスが推して参る。文字通りの一騎当千。されど敵の数は倍々に増えていく。「クシュと三蔵陣営よ! 左翼は中衛が少ないゆえ一任した! 熊之介は巨大化し、右翼を押しとどめよ! いっときでもいい! 私は完璧な布陣たる正面を単騎で突破せんッ!!」

「いやだから単騎はダメだってば! しょーがないわねー! 我が弟子ゆきかちゃん! ついて行ってあげなさい!」

「ハイィイイイイイイイ────ィヤッホォゥウウウウウウウウ────ッッッ!!」

 恍惚破顔、唾液迸らせる狂気の沙汰。七瀬ゆきかは毎秒絶死の逆境を乗り越えんとスパルタクスより早く敵陣に突撃する。そのあとを追うピカチュウの電光石火は低級サーヴァント一騎の霊核を頭突きで貫通し、放電により周囲の軍勢が感電・硬直する。

「フハハハハハハハハハ!!」そこへ豪快に大笑するスパルタクスが切り込んで敵陣粉砕。遠隔攻撃で全身に矢が突き刺さるが、被虐の誉れスキルにより自動治癒。さらに治癒に要する魔力消費量が通常の四分の一になるため、七瀬ゆきかとピカチュウから少量の活性魔力を回されることでみるみると全快。斯くてスパルタクスは、今日何度目かも分からない──おそらく1001回目の──宝具を解放する。

「我が愛は千度(千°)を超えても爆発するゥウウウ! 《疵獣の咆哮(クライング・ウォーモンガー)》ッ!!」

 受けたダメージの一部を魔力に変換し蓄積。用途は能力のブーストや肉体改造、果てには極大の爆発を引き起こす。戦場極大轟爆発。味方をも巻き込む虐殺蹂躙だが、七瀬ゆきかとピカチュウは逆境活路魔法により窮地を脱して敵軍の鏖殺を続行する。

 一方左翼ではオンバーンが音速飛翔。地面スレスレの低空飛行で、背中に仁王立つ入名クシュが双剣を奮う。相手がCランク級サーヴァントであれば、一撃、確実に敵の首を獲り、一撃、正確に霊核を貫く。分析魔力なぞ不要。既にサーヴァントとの長く濃厚な戦闘経験で霊核の位置は勘が働く。魔女にも弱点となる急所があるため、要領はそれと同じだ。魔法少女としての経験も組み合わさり、入名クシュは無双を演じる。敵の砲撃支援。降り注ぐ宝具の雨。矢の雨はオンバーンの暴風で吹き飛ばし、Cランク程度の質量兵器ならオンバーンの爆音波で正面から粉砕。

 一方右翼ではアシュリー・テイラーの使い魔たる熊之介が十メートル大に巨大化し、足元の敵サーヴァントを踏み潰し、戦場を踏み荒らす。彼女の主人はもう死んでいるはずだが、その認識は正しくない。アシュリー・テイラーのポケモンたるミミッキュの特性は化けの皮。幻影戦馬(ベイヤード)みたく、一度だけ攻撃を無効化する能力である。乱戦の中、首を刎ねられてソウルジェムを砕かれたアシュリーは、スイッチ魔法により化けの皮の発動対象をア(・)シ(・)ュ(・)リ(・)ー(・)・(・)テ(・)イ(・)ラ(・)ー(・)自(・)身(・)に切り替えて生還していた。ソウルジェムへの攻撃を無効化したアシュリーは、首だけのまま千秋理子に回収されて、今もなお無属性の魔力による構築効果の迷彩で姿を隠している。なお、スイッチ魔法による特性の活用は、ミミッキュの指示だった。主人を生かすため一度きりの特性を使ったミミッキュは、その後の度重なる死闘を潜りきれず殺されたが、合理有益たる命のバトンは今なお堅固に繋がっている。彼がいなければ、今こうしてアシュリー・テイラーと熊之介が敵陣右翼を押しとどめることはできなかっただろう。ひいてはそれがスパルタクス陣営全体の生存に繋がっていた。

 一方、吸血鬼エッダの暴虐蹂躙。ダークポワルンの活性増殖あられが一時間以上続いた結果、神浜市の大東区から中央区東端は凍土の帯びが形成されている。氷上を滑走するエッダは両眼から気化冷凍法の冷凍光線を放ち、不死者の戦闘術によって数々の強敵サーヴァントを屠っている。

「ぎゃてぇ! 飛び道具はやめてって言ってるでしょ! 毎秒対軍宝具ぶち込んできて飽きないの!? 仕方ない。我が弟子・梨花ちゃん! やってやりなさい!」

「了解! 必殺魔法(マギア)────《豪華絢爛・極大光線(キラ盛りビーム)》!!」

 綾野梨花は赤く輝くコンパクトを取り出す。ソウルジェム明滅。分解魔力圧縮。軌道前方一直線。即時開放。必殺魔法(マギア)による極大ビーム兵器は、戦場を縦断して軌道上に存在するものを跡形もなく吹き飛ばし滅する。その怒濤砲撃から生還したサーヴァントに対して、すかさず玄奘三蔵が真名解放。

「御仏パワー全開! でぇえーい! 《五行山・釈迦如来掌(ごぎょうさん・しゃかにょらいしょう)》!!」

 覚者掌底・必勝連打。敵陣、主に魔獣・妖怪系が多いサーヴァント百騎を打ち飛ばす。

 

 一方、中央区西端にて。

「ゴォオオオオルデェン! バーサーカー・坂田金時! 雷土(いかづち)の如く登場だぜ!!」

 轟快落雷。その周囲に十咎ももことノコッチ、水波レナ、秋野かえでとクワガノンが揃う。

「かんら、から、から! いやぁ久しい死闘だな! 人理関係の次は世界征服か!」

 鬼一法眼〔アサシン〕。その周囲に夏目かことアギルダーとダダリン、常盤ななか、純美雨とアブソルが集う。

 刹那、坂田金時と鬼一法眼は殺気を感じる。冷や汗を流し、互いにやるべきことを成す。どこからか環いろはの念話が届き、真名看破した情報が伝達される。だが眼前の敵だけは不要。なぜなら生前からの因縁があるからだ。迅雷疾走、爆雷跳躍。

「カートリッジ九回分! 激励も頼むぜ、ももこ! 吹き飛べ、必殺! 《黄金衝撃(ゴールデンスパーク)》!!」

「来たれぃ牛頭天王の神使達。我が記憶の具象となりて参れ! 《牛王招雷・天網恢々(ごおうしょうらい・てんもうかいかい)》!!」

 真名、源頼光〔バーサーカー〕。宝具は牛鬼召喚による敵陣一掃。さらに神が鳴れば是れこの通り(四匹の牛鬼が源頼光に分身)、彼女の配下たる四天王の魂、その象徴たる武具を招来し、黄金喰い(マサカリ)、鬼切(名刀)、氷結丸(長巻)、豪弓、終いには自らの刀から放つ紫電雷撃にて、敵軍二百を撃滅せん。

 激励魔法によりA+ランクと化した黄金衝撃と、恐るべき紫電雷撃の轟激衝突爆雷乱波。刹那、穴を掘って地中からハイパードリルを放ったノコッチが黄金喰い持ちの分身体を貫き殺す。刹那、殺された分身体が即時自爆。壊れた幻想にも等しいダメージを受けたノコッチは致命傷を負うが特性・逃げ足により絶命は避けた。すかさず十咎ももこの分析狙撃、速射される分解活性魔弾が鬼切と豪弓の分身体を射抜くが、氷結丸の猛吹雪が地表を攫う。秋野かえでの植物生成魔法で瓦礫から大樹の硬化防壁を育成するが、一撃で防壁は半壊。水波レナの発散疾走。成長変身魔法で十年後の水波レナに変身。全能力が飛躍的にパワーアップし、迫り来る敵サーヴァントのうち一騎を相手取る。

「臨兵闘者皆陣列在前。我が剣、魔性を斬る物。《大江山・菩提鬼殺(おおえやま・ぼだいきさつ)》!」

「レナのタマザラシの仇ぃいっ!!」

 燃え盛る火炎の剣と滴り猛る水流の槍は気炎怒涛の剣戟を見せる。

「燃えろ、罪障が消滅する」

「レナたちのどこに、罪も障りもあるわけ!?」

「それは────のちのち魔女となる物だからだ」

「死んだらサーヴァント(言いなりの兵器)になるアンタたちも……大概だと、思うけどッ!!」

「そうだな。では、殺し合うか」

 渡辺綱の傍らを駆け抜けるは真名、酒呑童子〔アサシン〕。

「なにっ!?」

 坂田金時の驚愕。クワガノンの電磁砲が発射されるが、それを跳躍して躱した酒呑童子は空中にて数回半身ひねり、のち抜剣して羽虫(クワガノン)をたたっ斬る。が、硬化したクワガノンの硬度は、たとえ筋力Aランクのサーヴァントでも容易には破壊できない。

「あらま、かったいわぁ……」

 半壊防壁の上に着地した酒呑童子は、再び軽く跳んで十咎ももこの大剣と斬り合う。音速突破の高速剣戟。狂気的な妖顔で咲う酒呑童子と恐怖で顔が引き攣る十咎ももこ。

「どうしたん? もっと楽しまんと。せっかくの美貌が台無しやでぇ?」

 刹那、宝具《百花繚乱・我愛称(ボーンコレクター)》により、十咎ももこの体から全ての骨が抜かれた。突として筋肉の支えがなくなり全身脱力する十咎ももこは瞬時に分析、骨が消失しているため活性魔力をブン回して瞬時再生。その間隙を突かんとばかりに瓢箪(ひょうたん)から妖気を噴射。そこへ発散疾走する常盤ななかが鎮静発散魔力で妖気を払拭し、時雨華心流の剣技を以て凶敵・酒呑童子と切り結ぶ。

「フハハ! 吾も混ぜろ酒呑!」

 真名、茨木童子〔バーサーカー〕が参戦。発散で跳んできた純美雨と激突。鬼の手と鉤の爪が互いを切り裂き合う。

「喰らえ! 我が破山抜骨の奥義を! 《大江山大炎起(おおえやまだいえんぎ)》ィッ!!」

 その宝具は、三名までの対象を完膚なきまで砕き灼き尽くす十連撃。すかさず鎮静魔力の結界を張るアブソルが、主人たる純美雨を庇う。悪属性の攻撃を受けるたび特性・正義の心が働き攻撃力を向上させる。だが灼熱の連打はアブソルと純美雨の肉体を焼き尽くし、骨が黒炭となるまで討ち滅ぼした。次の瞬間、純美雨の偽装魔法が解かれる。

「にゃんと!?」

 一切無傷の純美雨とアブソルがどこからともなく現れての挟撃。対象に躱させて次弾を当てる技を蒼碧拳から繰り出し、続くアブソルの辻斬りが茨木童子の首を刎ねる。直後、鬼種の魔による魔力放出で大跳躍した茨木童子は首を繋ぎ直して仕切り直しスキルを発動、一時戦線を離脱した。

「源氏、死に候らへ。鏖殺遂行。一同、この世の摂理を知るがいい。《諸行無常・盛者必衰(しょぎょうむじょう・じょうしゃひっすい)》!」

 夏目かこと斬り合うは二刀流の武者、真名を平景清〔アヴェンジャー〕。宝具は、平家の怨念を巨大長刀に込めて叩きつける呪詛の一撃。摂理の刃は対象の存在ごと削ぎ落とし、削り殺す。対する夏目かこは硬化魔力を迸らせる。その程度でB+ランクの単純威力系宝具は防げない。故に盾役を務めるダダリンが両者の間に割って入った。四メートルもの巨大錨舵輪はそれだけで鉄壁の硬度を誇る。そこへ更に硬化魔力を活性させ、防御技ではなく特性・鋼使いを活かした攻撃技・アンカーショットを使用。巨大長刀の怨念一撃がダダリンを一刀両断せしめんと叩きつけられる。が、夏目かこの硬化魔力付与もあり袈裟斬りの傷が付くに留まった。既にダダリンの全身は、熾烈な戦闘による無数の傷が付けられている。斯くて平景清の胴体にアンカーが貫いて雁字搦めに絡まり、これにて回避は不可となった。刹那、忍者アギルダーがガードスワップ。自身と平景清の防御数値を入れ替えて、結果的に耐久をランクダウンさせる。同時、夏目かこの硬化栞槍が霊核を貫く。さらに再現魔法で坂田金時の宝具《黄金喰い(ゴールデンイーター)》のカートリッジ一個を複製し、栞(しおり)槍の穂先に挟(・)ん(・)で(・)おいた。霊核を貫くと同時、カートリッジも砕けて、内部に蓄積していた硬化雷撃魔力が爆発放電。体内殲滅と同等の効果を与えて、確実に平景清を消滅させた。

「私たちは、宝具《鮮血の伝承(レジェンド・オブ・ドラキュリア)》を使った、かのワラキア公ブラド三世を倒した……彼に噛まれて吸血鬼と化した無数のサーヴァント軍勢も、今の必殺コンボでひとり残らず殺しきった……! でもまだまだ……! もっと強く、ならなくちゃ……ッ!!」

 サングラスの奥にみなぎる決意。初対面時からその覚悟を気に入っていた坂田金時は豪快に叫ぶ。

「その粋だぜ、ゴールデンブラザー!! いや、ゴールデンシスターか? オレっちのマスターなら、やっぱそう来なくっちゃなぁ!」

 坂田金時は最初、支配英霊として召喚された。そして夏目かことの対決時、幸運にも《黄金喰い(ゴールデンイーター)》がジャムった。宝具発動は失敗し、坂田金時の霊基に亀裂が迸る。そのおかげで支配魔法の呪縛から解かれた坂田金時は、色こそ黄色(ゴールデン)ではないのでちょっと残念だったが、夏目かこのソウルジェムと契約を交わす。その後、常盤ななか達の下に駆けつけて、吸血鬼と化したサーヴァントの軍団に囲まれていた常盤組を救い出し、今に至る。なお志伸あきらは吸血鬼と化していたため、一瞬躊躇した常盤ななかと純美雨に代わり、夏目かこが容赦なく殺した。独りで生き抜く決意を固めた少女は、この地獄の具現と言える絶望的状況下にあっても、煌めく道を志し、逞しく生きようと足掻いてみせる。

「だがもう少しオレっちに頼れよ、マスター!!」

「はい! でも坂田さんは、ななかさんたちを優先して守ってください! 私はこのまま一騎当千、行ってきます!!」

 敵は平安組だけではない。全方位から有象無象のサーヴァントが襲い来る。本屋の娘としての造詣で、一瞬の外見情報と衣装・武具から英霊の真名を瞬発考察し、ヤマカンでもいいから低級っぽいサーヴァントを付け狙う。そして敵の攻撃を敢えて受けることでダダリンに庇ってもらいアンカーショットで縛り付ける。無属性魔力の構築迷彩で姿を隠しつつ高速移動し、影分身で極力被弾を避ける暗殺役のアギルダーがガードスワップまたはアシッドボムで防御数値および特殊防御数値を大幅削減。夏目かこの栞槍の一撃はダダリンの車輪の隙間を突き、敵の胴体は正中線の中央を貫く。そして黄金喰いのカートリッジ破壊による疑似・壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)によって、エーテル体と霊基・霊核もろとも塵芥すら残さず殺し潰し爆撃する。その戦闘法は、まさに殺戮技巧と称される代物だった。

 無論、夏目かこも自惚れてはいない。この即死戦法が通じるのは、マギウス陣営のサーヴァントが“従わない魔法少女には即時宝具使用”の命令を下して義務付けているからだ。真名解放の際は隙が生じる。その隙を突いて即死戦法を成立させているに過ぎない。もし敵サーヴァントが宝具を使用してこず、純粋な技量で攻め込まれた場合、先ほどの平景清ならばほんの十秒足らずで、夏目かこ達を細切れにできていた事だろう。故に宝具開放時の隙は決して逃さない。後の先を取って勝利を逃した瞬間、弱い魔法少女に待っているのは“死”のみだ。それを自覚している夏目かこは決して油断しない。そして長時間続く激闘の中、極限まで研ぎ澄まされつつある集中力が疾うに限界を迎えつつあっても、鋼鉄の決意で地獄を渡る。

 

 だが時には一拍の休息も必要だろう。呼吸を忘れて戦えるのは、生身じゃないサーヴァントだけだ。故に鬼一法眼は宝具を奮う。

「天鼓音有り。雷が如きも雷に非ず。天狗、長大流星の如し。いざ! 我らが断つは転生地獄の魔界なれば! 《六韜三略・魔王尊大羽扇(りくとうさんりゃく・まおうそんだいうせん)》! さぁ吹き飛べ吹き飛べぇ~!」

 暴風・豪雨・雷撃・獄炎。神浜市全土が文字通り浮(・)き(・)上(・)が(・)り(・)、まさしく“吹くように飛ばされる”天変地異が巻き巻き起こる。500騎ものトップサーヴァントが消滅。それを狙って成し遂げた鬼一法眼だが、不意に身の毛が弥立つ。恐るべき神霊の気配を感じて、思わず苦笑い。

「おいおい……君らが出てきたら、この世の終わりだろう……」

 

          ♪~VIVID VICE~♪

 

「畏れよ、敬え、震えよ、崇めよ……人知の及ばぬモノが世に在ると、此処にて思え……神威抜刀! 《神剣・草那芸乃太刀(しんけん・くさなぎのたち)》! 現世と常世、その境が脆く虚ろなることを識るがいい!」

 日本神話に曰く。災害竜・八岐大蛇の尾より、ひと振りの神剣が生まれた。三種の神器のひとつと数えられる神剣は、その一斬にて八つの谷と峯(みね)を切り拓き、八つの大河を新たに生み出すほど、恐るべきものだったという。されど神剣の真価は、その比ではない。

「余を喚んだな……? 眠りから醒ましたな……! 然らば、覚悟はできていよう……此の一斬にて、阿頼耶識(人の世)の動乱は終いとする。追撃────終止符宝具《伊吹御霊・八脈怒涛(いぶきのみたま・はちみゃくどとう)》」

 真名、伊吹童子〔セイバー〕……もとい、今は災害竜(伊吹童子)〔バーサーカー〕。かの神剣、空を絶った刹那。列島動乱、海原怒涛、天雷風雲、世界崩落。神浜市の東西南北が切り取られて浮上。北の山地は斬り崩れ、東西の平地は斬り穿たれ、南の遠洋まで渦が巻く。空は神が吼え鳴り、地は蛇の如くうねり狂い、轢断される空間は神浜の大地を天へ押し上げる。故、今ここに神浜市は、空中轢断都市・神浜と相成った。地殻を切り取るその威力はサーヴァントに可能な規模ではない。眠りを邪魔されたことで怒り狂い、支配英霊を殺しまくって八百万の魂を集め、宝具の真価を引き出すに至ったと鬼一法眼は推察。随分と厄介な神霊を手放しにしてしまった。この様子では災害竜だけではなく、他(・)の(・)神(・)霊(・)も(・)同(・)様(・)の(・)こ(・)と(・)を(・)し(・)て(・)い(・)る(・)だろう。

「当然じゃ! 我らつよつよドラゴンズ! さぁ……この“障害”を乗り越えてみせい、人類!! 《魔よ、悉く天地を塞げ(アスラシュレーシュタ)》!」

 真名、堰界竜(ブリトラ)〔ランサー〕、笑みを浮かべて降臨。

「今度は水着の方で来ちゃった★ 加減はしない!! 《誰も知らぬ、無垢なる鼓動(ホロウハート・アルビオン)》は────《虹を駆ける、無垢なる鼓動(スプライト・アルビオン)》となりて!! たくさん撃ち落としたニホンの戦闘機を魔力に変換して宝具換装! ASM発射! ジャレット・フルオープン! 虹を描け、カルデアが守りし世界の人の子よ!」

 真名、美しき精霊/境界竜(メリュジーヌ・オンディーヌ/アルビオン)〔ルーラー〕、しぶきを上げて降臨。

「────煩い。滅べ。滅びてしまえ!! ────《汝、宙を裂く雷霆(ネガ・ケラウノス)》────」

 看破。真名融解、無常の果実/太祖竜(テュフォン・エフェメロス)〔プリテンダー〕、怒筋を浮かべて降臨。

「……え? なにこれ? フッツーに世界の終わりってやつ? ハハッ! いいね! ……止めてみろよ、人類最後の挑戦者ども。所詮、竜なんざ英雄が名を挙げるために倒される存在に過ぎない。要は前座だろ。手間取る必要、ある? ────《彼方とおちる夢の瞳(ライ・ライク・ヴォーティガーン)》ッ!!」

 看破。真名、奈落の虫(ヴォーティガーン)、不敵な微笑みで降臨。

 

 災害竜は神浜の大地を宙に浮かべ、堰界竜は浮遊大地神浜の八方を山のような雲海の遮断膜で塞ぐことで逃げ場を無くし、境界竜は浮遊大地神浜の端から大地を根こそぎ撃ち落とし、太祖竜は雷霆の一撃で浮遊大地神浜の地表を灼熱一掃、奈落の虫は崩れゆく大地からこぼれ落ちる命と魂の全てを呑み込み、一切の光が届かぬ奈落へ墜落させる。

 

 鬼一法眼の宝具による爆風で空間が蹂躙される最中、悪魔沢田綱吉は超直感が働く。このまま神霊や竜種を暴れさせていたら、マギウスの本拠地にある大聖杯まで破壊されてしまう。そうなれば蹂躙され破壊されたこの世界を元に戻す方法が潰えてしまう。それだけは回避しなければならない。故に悪魔沢田綱吉は非情な決断を下した。ちょうど目の前に吹き飛ばされてきた水波レナのソウルジェムに触れて叛逆魔法を行使。他者の魔法を一時的に自分のものとして使う。

「《視線固定》《逆転勝利》────竜城明日香、綾野梨花、千秋理子、アシュリー・テイラー、入名クシュ!!」

 視線固定魔法と逆転勝利魔法を掛けられた五人は、悪魔の意図を理解。五人は決死の覚悟で五大竜に挑む。

 竜城明日香は災害竜から目(・)を(・)離(・)せ(・)な(・)い(・)。それ即ち『お前が奴を倒せ』という指示だと理解。足場が無くなる前に発散跳躍。薙ぎ払われる草薙の剣。ソウルジェムを鎮静魔力で守るが、真空の刃で胴体から下を斬り飛ばされる。されど猛進は止まらず。神風の荒波を乗り越え、刹那、災害竜の霊核に薙刀の切っ先が届く────

 綾野梨花は堰界竜から目を離せない。手持ちのコンパクトに分析魔力と分解魔力を二弾に分けて圧縮。一弾目発射。堰界竜は難なくビームを躱すが、むしろ当たってもらっては困る。一弾目は遥か後方の遮断膜に直撃。分析効果が迸り、宝具解析。ヴリトラの宝具は、伝承からもたらされた代物である。“ヴリトラは自らの体で水を山に閉じ込めた”という逸話を有するのだ。……山・雲。偶然か否か、死ぬ気の炎にも山の炎と雲の炎がある。イタリアとインド。なんの関係もないはず。しかし世界は丸いが故に繋がっている。ヴリトラは死ぬ気の炎を使わないが、彼女の分体たる魔の軍勢は遮断の性質を持つ。そして天地と同調させた魔の軍勢を使うことで、天地を覆い対象を隔絶する。つまり山のような雲海の遮断膜は、雲の炎が浮遊大地神浜を覆っていると言える。刹那の解析は済んだ。一弾目発射から一秒未満で二段目発射。分解効果を有する極大光線を解き放つ。しかしヴリトラの対魔力はAランク。それを超える魔力攻撃でなければ無効化される。

 千秋理子は境界竜から目を離せない。死の恐怖に身が竦む中、ただ猛然とアーマーガアを連れて叫び突貫。境界竜の尾を追う空中格闘戦(ドッグファイト)を始める。釣瓶打ちにされる弾丸とミサイル。三百発の鉛玉を浴びたアーマーガアは五体砕けて墜落、その背中から発散魔力で蹴り跳んだ千秋理子は、愛犬マメジとポケモンたちの仇を取るべく発散飛行。活性魔力を回し速度ブースト、屈折魔力を廻しジグザグ飛行で弾幕に次ぐ弾幕を躱し凌ぐ。鳴動するソウルジェム。亀裂が入る中、更に魔力を回して(一瞬だけでもいい────!!)音速三百号を突破。魂の砕ける音が空白の視界に響く。固定された視線は真っ白な世界の中、視えない一点を注視していた。その虚空一点に向かって、ただひたすら、がむしゃらに、こぼれ落ちる涙を堪えて魔法武具(お弁当ピック)を突き刺す。

 墜落するアーマーガアから一枚の化けの皮がひらりと空に舞う。その皮を内側から剥いだアシュリー・テイラーが出現。魔力を回して首から下を瞬間再生。視線は太祖竜に固定されている。雷霆轟爆。アシュリーの全身が消し炭どころか細胞一片も残さず滅却されるが、遮断魔力で覆ったソウルジェムは無事。そしてあらかじめフル回転させていた魔力により肉体が瞬間復活。地表から熊之介が跳躍。アシュリーの体を掴んで全力投擲。音速五号で太祖竜に迫る。再び、光速の雷霆一撃。光の速さを避ける事は不可能。だが、たとえ光の速さで殺されても、ソウルジェムが無事なら何度でも蘇る魔法少女を殺しきることは不可能。雷霆、都合十撃。全身が滅却されるたび、増殖魔力で復活し、ソウルジェムから何度もドッペルが出現しては滅却される。繰り返される死と再生の中、アシュリーの拳が太祖竜の左胸を殴る。当然、効果はない。対魔力があれば尚更だ。(あとは逆転勝利を信じマス! ────《転換(スイッチ)》ッ!!)

 入名クシュの視線は奈落の虫に固定されている。オンバーンに跨り亜音速で飛び翔ける。大量の蟲が降り注ぎ、絨毯爆撃してくるが、我が身に降りかかるそのことごとくを二刀連閃。さらに増殖魔力を使い“斬撃そのものを増やす”。魔力という神秘の曖昧性を活かした無数の斬撃は、死ぬ気の炎では不可能な“攻撃現象の増大”を実現し、有象無象の蟲を斬り殺す。そして奈落の虫に接近。霊核に二刀の刃を突き立てる。

 

 しかして振り下ろされる竜の力。剣一斬、蛇ひと睨み、妖精掃射、雷霆一撃、カイコガの飛翔突撃により、五人の魔法少女のソウルジェムは完膚なきまで砕け散った。主を失ったポケモンのソウルジェムも契約に従い砕け散る。瞬間、逆転勝利が発動。魔法少女の魂がひと欠片でも残っていれば、神だろうが竜だろうが凌ぐ人の底力を見せてやろう。五人の宝魂(ソウルジェム)の欠片から、それぞれの色をした死ぬ気の炎が燃え盛る。

 雨の炎を宿す時雨竜真流の薙刀は、神剣草薙の太刀と鍔迫り合い、受け流す。魔力ではない死炎攻撃は対魔力で無効化されない。しかし神秘もないためサーヴァントにダメージを与えることは不可能。だが悪魔からもらった逆転勝利により、そのルールに叛逆する。鎮静効果で災害竜の剣筋が鈍る。その間隙を死ぬ気で突き、薙刀の切っ先が霊核を刺し貫いた。

 対魔力Bランクも突破できない極大分解魔力光線が、逆転勝利の助けを得て対魔力Aランクを突破。堰界竜の全身を打ち砕く。そして死に際に放った嵐の炎の三弾目が遮断膜の一点を突き破り、魔の空を赫々と晴らした。

 逆転勝利の助けは要らなかった。「これが……神風特攻……」千秋理子のピックが境界竜の心臓と霊基を穿つ。穂先に込められていた莫大な活性発散魔力が爆発。人体と霊基は五体四散し、霊核はズタボロに引き裂かれた。

 逆転勝利が発動し、対魔力や概念防御といった魔力障壁を突破。転換(スイッチ)魔法により、太祖竜の左胸が裏返って霊核が露出。そこへ既に叩き込まれていた拳は雲の炎の増殖効果で巨大化していた。いかな神霊とて、その身がサーヴァントであるなら、霊核という弱点が存在する。振り抜かれた剛拳は、巨大な竜の霊核を殴り抜いて打ち砕いた。

 二刀の刃は打ち砕かれた。ならば雲の炎の一斬が閃く。宝魂と胴体に風穴が空けられようと、今際の一撃は暗黒の異端審問官として外さない。最期の一斬は奈落の虫の胴体に叩き込み、骨肉を斬り込み、霊基まで割り込んで刻み、霊核にかすり傷を付ける。倒しきれない。逆転勝利発動。霧の炎の構築効果で自身と奈落の虫の体を縛る。そのまま入名クシュは奈落の虫を道連れに、底なしの闇へ墜落した。なぜか抵抗しない奈落の虫は「ま、ここ、ブリテンじゃないしなぁ……もちろん汎人類史も気に食わないけど、ここまでされたら……ねぇ?」と呟き、眠るように奈落へ潰えていった。

 斯くて魔法少女の命が五つをなげうつことで、悪魔沢田綱吉は最悪のシナリオを回避した。

 

 崩落地砕都市・神浜。ひとひとりの足場となる地面すら無くした岩石の集合体は、五大竜の神威からなる力場を失って自由落下を開始する。そして落石の上から落石へと跳躍疾走するは二頭の馬。ベミヤと赤兎馬。二人はもう争っておらず、無限の剣と偽・軍神五兵(イミテーション・ゴッドフォース)を行使。天変地異の中で未だに殺し合いを続ける魔人悪魔と九人のヘラクレスに無限剣と宝具を叩き込んだ。

「ヒヒーン! 私は反骨の相を持っていませんが、色々と考えた末、悪魔陣営に鞍替えしました! ところでベミヤさん。私と人参を食べません?」

 上半身は人型の女性、心はベイヤード。見た目が麗しいからと、赤兎馬は人参を差し出して口説く。無論それが理由で鞍替えしたわけではない。単に悪魔陣営に与したほうが、戦士として面白い戦いができると判断したからだ。

 

 酒呑童子の宝具《千紫万紅・神便鬼毒(せんしばんこう・しんぺんきどく)》が発動。虐殺された神浜市民の辛みを吸い上げ、古来から続く東西軋轢の恨みが毒酒の味を極上へと変える。五大竜にこの酒を分け与えていれば逆転勝利魔法すら意に介さず、この世界を終わらせることもできただろう。だが酒呑童子はそうしなかった。理由はシンプル。誰かに上げるより、酒呑童子が極上の酒を呑んでみたかっただけである。その気まぐれに世界は助けられていたが、魔法少女を殺すのに竜などという大物は不要。毒酒の香りを拡散させることで、十咎ももこ、ノコッチ、秋野かえで、クワガノンのソウルジェム(魂)を一瞬で腐敗させて溶け殺す。舞い戻ってきた茨木童子の奇襲宝具《羅生門大怨起(らしょうもんだいえんぎ)》により水波レナを殺害。「綱の獲物を奪ってやったぞ!」と、鬼らしい悪事ができたことに茨木童子は呵々大笑。そこに常盤ななかの時雨華心流が迫る。二刀一閃にて首と心臓を断ち貫き、仕切り直しの隙も与えず回し蹴りが霊核を蹴り砕く。そして常盤ななかの両肩に足を置いて跳躍する純美雨とアブソルは酒呑童子に肉薄。毒酒の香りを鎮静発散魔力で抑制し払拭、酒呑童子の攻撃を偽装魔法で躱し、蒼碧拳と辻斬りの交差で首と心臓、すなわち霊基霊核を穿ち斬る。ようやく倒した。純美雨が次の獲物に移ろうとした刹那「おっと、その手の油断はあきまへんで?」酒呑童子の戦闘続行。もはや消え入る身である首だけの鬼は、牙を突き立てて純美雨のソウルジェムを破砕。主人が死んだことでアブソルのソウルジェムも砕け散った。常盤ななかは無心の心得で戦闘継続。そこへ眼前にわざわざ渡辺綱が現れた。鬼切安綱を抜刀。奇襲もせず正面から打ち合うつもりか。「水の魔法少女は発散の効果を持つ……道理で、この鬼切安綱の重圧が効かないわけだ」刹那、常盤ななかの心身にランクB相当の重圧効果が掛かる。即座に発散魔力で打ち消そうとするが────「しかしそれも十年の積み重ねがあってのことらしい。まだ若い君は、先ほどの水波レナ(貴婦人)のようにはいかないようだ」名刀疾風。重圧の力で身動きを封じられた常盤ななか。そのソウルジェムが断ち切られる。「うわぁああああ────!!」夏目かこの絶叫咆哮。常盤ななかを殺した間隙を突いて、渡辺綱の背後から霊核を突き刺し、栞槍の穂先に挟んだカートリッジを起爆。渡辺綱の霊核霊基体内を殲滅し尽くして退去させる。

「大将ッ!!」

「よそ見をしている暇が」「あるのですか? 四天王・坂田金時!!」

 一方の坂田金時は、二騎の源頼光と戦っていた。かたやバーサーカーの源頼光だが、かたやランサーの源頼光。平安最強の同一人物がふたり。刹那でも気を抜けば容赦なく瞬殺される轟雷死闘。

「行け」

 その両者の猛攻激発、何人も立ち入ること叶わぬ激戦の只中に、なんと悪魔沢田綱吉が割って入り、坂田金時を逃がす。

「坊主、礼を言うぜ!!」

 坂田金時、一時撤退。マスターたる夏目かこの下に駆けつける。彼女は突出しすぎだ。あのままでは格好の的。

 一方、二騎の源頼光が悪魔沢田綱吉に向かって必殺の一撃を振る舞う。極限の逆転勝利が発動。宝具発動前に二つの霊核を両拳で穿ち抜く。二騎の源頼光が消滅した次の瞬間。

「ンンッ! 顕光殿、お目覚めを! 疑似神核・並列接続! 暗黒太陽臨界! 《狂瀾怒濤・悪霊左府(きょうらんどとう・あくりょうさふ)》! フフフハハハハハンンンンンッ!! あ、ご馳走様でございま~すっ!!」

 真名、蘆屋道満〔アルターエゴ〕。いかなる因果によってかは不明だが、召喚されたからには刹那的快楽主義に耽るのみ。闇の神と黒き神の仮想複合顕現。暗黒の太陽は都市を食い殺し、地獄の宴へと変貌させる。悪鬼羅刹の国と化す。低級サーヴァントが雨あられの如く即死していく。転じて魔性の獣物と化し、敵味方を問わず殺戮と弑逆を開始。大混沌を極める神浜戦場。それを眺め俯瞰し悦に浸る蘆屋道満は、ふと自身に迫る英雄を目視。岩石を蹴り砕いて飛ぶ坂田金時と夏目かこ。刹那、黄金の雷撃と暗黒の雷撃が激発、翠緑の栞槍と魔性の鉤爪が激突、今も自由落下を続ける絶賛墜落都市の中空にて、豪快な黄緑の雷土が轟然と鳴り響く。

 

          ♪~ALONE~♪

 

 経過時間────4分99秒。

「待たせたな、マスター。────《抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)》ッ!!」

 悪魔が疑似魔人化した瞬間、魔力パスを繋ぐサーヴァントたちに瘴気が流れ込んだ。それにより疑似魔人(ドッペル)化したランサーは霊基変貌(オルターエゴ化)。新たな規格外(エクストラ)クラス・虐殺者(リーパー)を獲得し、新宝具を引っ提げて栄区方面より対軍魔槍(ホーミングミサイル)を投擲した。肉体の限界を超えた全力投擲。瘴気の力で射程(レンジ)と最大捕捉(ターゲット)が十数倍化。宝具の文字通り、1000騎のサーヴァントの霊基霊核を抉り穿って鏖殺(おうさつ)する。続けて肉体の限界を無視した神速跳躍。全種ルーンを治癒に当てることで可能となる敏捷A++の超(ハイパー)跳躍は、もはや人の身を超えた化け物として中央区方面の墜落岩石群に着弾。そこへ一気呵成に飛びかかるマギウス陣営と悪霊左府軍団を、絶技化した殺戮技巧で一瞬のうちに仕留める。

「スゥ……Uuuuurururugurugurugurrr...────アァア゛アアア゛アアアア゛!!! 《捻れ狂う波濤の獣(カサド・ウルガバイル)》ッッ!!」

 カサド・ウルガバイルとは「ねじれの・発作」を意味する。本来はバーサーカーでのクラス召喚で持ち込む宝具だが、瘴気逆流による疑似魔人化で限定獲得。宝具使用者に狂化A+を付与。さらに瘴気の影響で変転の魔スキルを獲得。筋力がA++にランクアップ。そして霊基更新、精霊の狂騒スキルを獲得し、強制発動する。クー・フーリンの唸り声は、大地に眠れる精霊たちを呼び起こし、狂騒の咆哮は敵軍の精神を打ち砕く。具体的には敵陣の筋力と敏捷がランクダウン。その間隙を逃さず威力と俊敏に特化した朱槍乱閃が幾多数多の敵サーヴァントと悪霊を突き殺しては虐殺と弑逆と鏖殺と蹂躙と破壊の限りを尽くす。

 斯くてその狂奔猛攻は、やがて魔人悪魔と九騎のヘラクレスの激戦地を横断する。敵軍を血祭りにあげるランサーの姿は、比喩なく鮮血の濁流と化していた。────アイルランドとギリシャの大英雄が激突する。朱い津波は九騎のヘラクレスを呑み込み霊基を引き裂く。魔人悪魔も九騎のヘラクレスの霊基に噛み付いて砕く。しかし命と数の差がありすぎる。閃くは十二の試練(ゴッド・ハンド)と射殺す百頭(ナインライブズ)。幾度となく魔人悪魔が浴びせられた九百連撃が再び迫り来る。

 そんな“死闘の場”に、蒼銀から漆黒へと染まった、不撓の騎士王が降り立った。

「助太刀する。水面どころか空中もぶっぱなす(駆ける)ぞ。不撓の魔弾を喰らうがいい。《不撓燃えたつ勝利の剣(セクエンス・モルガーン)》!!」

 瘴気逆流による疑似魔人化により、オルタ化と似て非なる霊基状態となったアルトリア・ペンドラゴンは、新宝具を提(ひっさ)げてきた。その宝具は“死闘の場にのみ携える”と言われる短剣セクエンス。だがその姿はどこからどう見ても自動拳銃。太樹の頂きで吹き飛ばされる刹那、悪魔から《自己改造:C》の概念結晶体を受け取っていたセイバーは、悪魔沢田綱吉の叛逆魔法と組み合わせることで《自己改造:C》を武器にも使えるよう応用。エクスカリバーとセクエンスを合体することで対物ライフル(アンチ・マテリアル・ライフル)に改造した。彼女の秩序・悪というアライメントにより合理的な側面が表出した新宝具は、正確無比な対城狙撃として一騎のヘラクレスの霊核を撃ち砕く。バーサーカーのヘラクレスが十三の命尽きて消滅。敵ヘラクレス、残り八騎。

 刹那、極限の死闘の場に偽・螺旋剣Ⅱ(カラドボルグ)と赤原猟犬(フルンディング)が撃ち込まれた。ガンナーのヘラクレスが十三の命尽きて消滅。敵ヘラクレス、残り七騎。魔人悪魔からの瘴気逆流を概念武装(赤い外套)で防御するエミヤは、敵を倒したというのに歯噛みする。九騎のヘラクレスと相対した時の計画では、悪魔と七海やちよのコネクトにより、ランサーに絶大な知名度補正を与え、こういった最悪の窮地を脱する予定だった。が、疾うの悪魔は魔人化している。逆転勝利と叛逆魔法によって完全な魔人化には至ってないが、疑似的な魔人化で完全に正気を失っているのなら、たとえ大英雄をひとり殺したところで、この劣悪な状況は変わらない。

「オレが召喚されていなければな」

「っ!? マスター!?」

 超音速でエミヤの傍らを通過した悪魔沢田綱吉は、音速五十号に至り虹の軌跡を描く七海やちよと空中併走。互いに手のひらを重ねて合体魔法を行使する。

「《叛逆》《施術》────」「────《幸運》《英霊召喚》ッ!!」

 ランサーは触媒を見つけてくる暇がなかった。それも仕方ない。五大竜の神威によって、神浜市は完全にかつての姿を失った。つちくればかりの岩石雨。全ての浮遊岩石が地表に着弾するまで、あと数秒もない。地表といっても、そこは海の水が流れ込んで巨大な湖を形成しつつある。もはや神浜市から大地という概念は消え去った。見る影もない。これでは望郷の念も記憶の底に霞むばかり。だからだろうか。無意識に街を破壊しないよう、行動を制限していた魔法少女たちは、あらゆる精神的な縛りが無くなっていた。それは長く苦しい戦いにより、精神が麻痺したとも取れる変化。それを直感しつつ、それすらも狙っていた悪魔沢田綱吉は、合理冷淡に目的を遂行する。

 降臨するは水名正綱の魂。狂戦士の如く荒れ狂うクー・フーリンの霊基に幸運(絶対)喚起して施術霊着。しかし滅茶苦茶で無理矢理な霊基改造は、その魂を軋ませる。瘴気が流れ込み、長時間の死闘もあって、もはや霊基はボロボロのはず。それでも悪魔沢田綱吉は念話を送る。英雄たるもの、そ(・)の(・)程(・)度(・)で(・)死(・)な(・)れ(・)て(・)は(・)侮(・)蔑(・)の(・)言(・)葉(・)し(・)か(・)出(・)て(・)こ(・)な(・)い(・)と。

 九騎のヘラクレスと死闘を演じるクー・フーリンの周囲に魔法陣が展開して弾けた。悪魔沢田綱吉から純度の高い大空の炎による瘴気浄化を受けて、変転の魔と狂化の二種スキルを一時的に消失する代わり、クー・フーリンは役を羽織った(水名正綱のフリをした)。

「────ったく! うちのマスターは英霊使いが荒いったらありゃしねぇなぁ!! 発破のかけ方もそれしかねぇのか性格悪いぞ!」

 そして環いろはの真名看破魔法による真名情報が、悪魔陣営に念話で伝達される。

 

 水名正綱────“真名叛逆”────水名正綱〔クー・フーリン〕

 

 知名度補正、最大値。どうやら栄区の神浜市民は、まだ生き残っているようだ。悪魔沢田綱吉がランサーの心情を直感するに、栄区に陣を敷いた太公望が民間人を死守する役目を買ってくれているらしい。

 

 霊基更新。

 不眠の加護スキル獲得。

 行動阻止スキル獲得。効果は、敵軍の行軍を遅らせる能力。

 

 宝具更新。中には復活した宝具もある。

 《鏖殺戦馬(セングレン)》

 《鮮血神馬(マッハ)》

 《噛み殺す乱杭の歯(ドゥヴ・セングレン)》

 《踏み殺す神速の蹄(リアト・マッハ)》

 《駆け屠る蹂躙の轍(ポサド・クー・フーリン)》

 

 刹那、七騎のヘラクレスが第二宝具解禁。セイバーはマルミアドワーズを。アーチャーは極・射殺す百頭を。ランサーは世界を繋ぎ留める光の柱を。ライダーは地獄の番犬ケルベロスを。アサシンとアヴェンジャーは────

 

「させないっ!!」

 光速には及ばないが神速に比肩する虹霓の速度によって、七海やちよの虹槍一閃がアサシンのヘラクレスの霊核を貫き、ただの人の身である悪魔沢田綱吉の貫手が神性を失っていたアヴェンジャーのヘラクレスの霊核を掴み砕いた。なおも戦闘続行で暴れるアサシンとアヴェンジャーに対し、ダメ押しの二連狙撃が命中、振り上げた腕を破壊する。それは暁美ほむらとアタランテの狙撃と強弓。だがそれでもアサシンとアヴェンジャーは壊れた腕を振りぬこうとした。刹那、トドメの一撃が天乃鈴音と美琴椿によって繰り出される。人体を轢断され、首を刎ね飛ばされた二騎は、それでようやく沈黙しを遂げた。

 

 ────その間、一秒。五騎のヘラクレスは今に宝具をぶつけてくる。噛み切られて刺し貫かれた骨肉の隙間から、霊基と融合するソウルジェムが見える。明滅するソウルジェムは、それぞれの固有魔法を発動しようとしていた。時間停止や幻術など、あらゆる魔法が封じられる。ならば正面突破しかあるまい。殺される前に殺るしかない!

(佐倉ァアアアアアアアアアアアアッッ!!)

 悪魔沢田綱吉の拡声念話。真紅迅雷・音速十号に至る佐倉杏子は、空気の壁に顔や体の皮膚を削がれながら吶喊する。それはまるで千秋理子の散り際を真似るように。無論、神風特攻で玉砕する気は皆無。ソウルジェムの臨界点ギリギリを攻めて、神話最高の大英雄を屠るべく、駆けたのだ。稼ぐべき刻(じかん)は一瞬でいい。分解増殖構築と分析遮断夢現の六種魔力を全速死力前進(フルスロットル)。

 

 斯くて御覧あれ。これから起きることは、0.1秒にも満たない世界で繰り広げられし、世界最速の大英雄と魔法少女の死闘攻防である。

(《縛鎖結界(ばくさけっかい)》ッッ!!)それは魔法であって魔法ではない。ただの魔力放出(ブースト)だ。故に魔法封印魔法では防げない。さらにマーリンの英雄作成スキルによって、佐倉杏子の特攻と敏捷性を倍々に強化。出の早い極・射殺す百頭が叩き込まれて瞬く間に縛鎖結界が破壊される傍ら(《異端審問(インクィジトーリオ)》ッツ!)周囲の落石から無数の槍を突き出して編み重ね壁とするが簡単に打ち砕かれて(《断罪の磔柱(サクロ・モンテ)》ッッッ!!)巨大な槍が次々と現れて鋼鉄の壁となるが軽々と打ち砕かれて(《最後の審判(ジュディツィオ・ウニヴェルサーレ)》ェエッ!!)さらに巨大な槍を一本突き出すことで一枚の鉄壁とするがいとも容易く打ち砕かれて(《反撃鉄槌(アンチ・カウンター)》ァアッ!!)とうとう魔法が発動するが、ヘラクレスたちの封じ込みが間に合わない反応の速度で発動し、対象の攻撃に自動対応する鉄槌が五十個ほど出現するも風に吹かれて飛ぶように打ち砕かれて(《針山業火(バーンスピア)》ァアアッ!!)無数の炎槍が揺らめき現れ翻り神速の百連撃を迎え撃つがことごとく打ち砕かれて(《紅霊分身(ロッソ・ファンタズマ)》ァアアアアアアアアア!!)ヘラクレスの魔法封印魔法が間に合う。が、それは魔法ではない。ただの魔力操作だ。増殖と構築の魔力による数体の分身。彼女のトラウマによって封じられている真の開発魔法は《紅霊幻分身(ロッソ・ファンタズマ)》の方である。傍目には区別が難しい魔法と魔力操作の違い。それゆえに、ヘラクレスたちが一手、どれが魔力でどれが魔法かを見誤った。五体の佐倉杏子が朱槍を多節棍として乱舞。そのすべてが打ち砕かれて、佐倉杏子は南凪区方面へと天高く吹き飛ばされる。そしてアーチャーのヘラクレスは心の底から称えた。真紅の魔法少女の連続魔法行使は、英雄作成の手助けがあったとはいえ、真に鍛錬を積んだからこそ可能な神速の絶技だと。なぜなら刹那のうちに百撃の矢を叩き込む攻撃を、彼女は背後の味方を守るため、単身で防ぎ凌ぎ生き延びてみせたのだから。

 

 刹那の攻防は続く。0.2秒目。ライダーヘラクレスのケルベロスが疾走し牙と爪を突き立てる。対する悪魔沢田綱吉とランサーは、佐倉杏子が作り出した0.1秒の活路時間を使って、施術魔法とルーンにより宝具を合体。鎌形戦車に太陽神の車輪たる《父神の日輪(ルー・ロゥ)》を装着。そして橙青の主従は阿吽の呼吸で、かたや見送り、かたや駆け出した。

(《叛逆》)

 それは宝具発動時の詠唱を破棄するための魔法。たとえヘラクレスたちの魔法封印魔法であっても、叛逆魔法を封じることは叶わない。

(《灼き屠る鏖殺の轍(コラン・コガド・タラニス)》)

 其は太陽神の車輪を取り付けた二頭立ての鎌形戦車。大陸ケルトに伝わる雷神タラニスの名を借りし火雷蹂躙走破は、宝具発動直後で硬直しているアーチャーヘラクレスを轢き殺し、十三の命を使いきらせて消滅させ、地獄の番犬ケルベロスと激突。轢き殺して灼き潰して瞬殺しながら突貫し、さらにランサーは別神話の大神宝具を借り受ける。

(《轟き穿つ五星の槍(ゲイ・ボルク)》)

 それは大神オーディンのグングニルを模した宝具。穂先を向けた先にある陣営に勝利を約束する権能を有するが、今回は単純威力系宝具としての機能に制限されている。すなわち対軍魔槍A+ランク。全種ルーンを使用してA++ランクに強めて投擲。ランサーヘラクレスの光の柱と激突。同ランクの宝具激突は聖槍ロンゴミニアドに比肩する極光となりて死光の極大爆発を引き起こす。ライダーヘラクレスを轢き殺して、ようやく十三の命が尽きることで消滅。一方ランサーヘラクレスは仕切り直しで一時離脱。

「そこか」

 山の翁が逃がさずトドメを刺す(首を刎ねる)。されど命のストックはまだありランサーヘラクレスは撤退を続行。ここで逃せば次はない。刹那、桃色の光矢がランサーヘラクレスの背中に無数と突き刺さり、爆撃。全身を吹き飛ばし、霊基を打ち壊し、霊核を射抜いて殺しきった。十三の命尽きて、とうとうランサーヘラクレスが消滅する。

 しかして最優ゆえに宝具発動まで0.3秒の時間が掛かったセイバーヘラクレスの宝具が放たれる。後方両側からベミヤの干将・莫耶、赤兎馬の剛槍斬撃を受けても微動だにせず、頭上から殴り抜いて頭部を削ぎ落としてきたナイチンゲールすら意に介さない。────否、セイバーヘラクレスは直感。魔人悪魔の姿がどこにもない。だが気配はある。そこで閃く。思えば透明化している魔法少女がいた。しかし関係ない。向かう者は全て殺す。極光抜刀。刹那、セイバーヘラクレスの視界が魔霧に覆われた。立て続けにセイバーヘラクレスの霊核が爆破されて霊基全壊、体内殲滅に等しい蹂躙を受けて、どうしようもなく肉体が停止に追い込まれる。それはなぜか。セイバーヘラクレスは、眼前に迫り来る灼熱の鎌形戦車を見据えて悟った。

(怪物────透明化は囮か。自らの体を霧と化して、俺に吸い込ませ……体内に入り込み、内部から殺し尽くした。さながら吸血鬼が霧に変身するかのようにして……)

 ランサーが轢き殺す。十三の命尽きて、とうとうセイバーヘラクレスが消滅した。

 

 刹那の攻防が終熄し、悪魔陣営の大半は息も絶え絶えに膝をつく。もしセイバーヘラクレスに宝具を放たれていたら、その時点で悪魔陣営は壊滅していた。確実に悪魔以外は死んでいた。否、相手がマルミアドワーズでは、その悪魔でさえ危うかったかもしれない。

【■■■■■■■────!!!!!!!】

 魔人悪魔が肉体を形成して天高く飛翔する。行く先々で目に入った敵サーヴァントを殺しては無軌道に翔んで敵を探し殺して翔ぶを繰り返す。もはやあれは魔女より厄介な怪物のたぐいだ。殺戮することしか頭にない羅刹。さながら修羅道に棲む鬼神である。

「あ(・)の(・)オ(・)レ(・)は放っておけ。じきに蘇生して目を覚ます。それよりひと呼吸置いただろ。陣形を立て直せ。九騎のヘラクレスに掛かりきりで、いつ奇襲を受けてもおかしくなかった」

 悪魔沢田綱吉が指示を出す。他のサーヴァントの奇襲に関しては、ブーディカ、希望の英雄ナポレオン、巌窟王、ほかステンノとエウリュアレが警戒して、たびたび庇ってくれていた。悪魔陣営は前衛と後衛に移動し、敵の殲滅戦に意識を戻す。休む間もない。

 

 一方その頃。坂田金時&夏目かこVS蘆屋道満の戦いも決着が付いていた。坂田金時と蘆屋道満が激突した瞬間、背後に回っていた夏目かこが刺突。式神の地水火風攻撃をダダリンで防ぎアンカーショット、アギルダーのガードスワップで防御数値を置換、夏目かこの硬金栞槍(ゴールデンスピア)が人体を貫いた時点で爆雷。霊基霊核を全損させて退去させる。────と思わせて戦闘続行。蘆屋道満の不意打ちを見切って防いだ坂田金時は宝具《黄金衝撃(ゴールデンスパーク)》を発動。蘆屋道満を跡形もなくたたきつぶした。

 

 同時、無数の岩石が神浜市跡の巨大湖に落下。局所的に湖より積み上がって激突破砕を繰り返しながら砂地を形成。着地した悪魔陣営のもとに、夏目かこと坂田金時が降り立つ。

「悪魔さん!」

「かこ。頼みがある。ヘラクレスの攻撃を受けた時、生(・)前(・)の(・)オ(・)レ(・)の所持品が全て吹き飛んだ。それを探して、生前のオレに渡してほしい。その後は坂田金時、鬼一法眼、できればスパルタクスと共闘し、敵を一騎でも減らせ。ただし玄奘三蔵陣営とは別行動だ。七瀬ゆきかの魔法長所を潰すわけにはいかない」

「……! はいっ! ────坂田さん。たしかバイクの宝具がありますよね? 走れば走るほど威力が上がる……」

「おう、あるぜ。大将! オレっちの相棒のゴールデンヒュージベアー号だ!」

「悪魔さんの所持品を探しつつ敵を倒すなら、バイクで走りながら敵を倒しつつ探すのが一番だと思うんです。できますか?」

「いいけどヨ……魔力消費がやべぇぞ?」

「大丈夫です。もう限界は超えてますから」

 夏目かこはドッペルを纏いながら戦っている。制御が難しいため、もっぱら肉壁として使用していた。Cランク程度の単純威力系宝具なら裁(・)断(・)することで威力を削いで、時には相殺してくれるため、意外と重宝している。しかも今の精神状態(感情エネルギー)ならば、Bランクの火力宝具さえ防ぐことができるだろう。

 夏目かこは坂田金時のバイクに同乗して疾走開始。同時に佐倉杏子が駆け戻ってきた。多数の敵サーヴァントを引き連れて逃げてきている。神浜市が浮遊して落下したことで各地に散らばっていたマギウス陣営も集結しつつあり、再び大混戦の大乱戦が始まりそうだった。

「総員、戦闘態勢」

 

          ♪~Missing You~♪

 

 刹那、悪魔沢田綱吉は、ヘラクレス級の一撃が迫ると直感し、逆転勝利が極まった。

「うおあああああああああっっっ!!!」

 それは力任せの一撃。悪魔は二本の戦斧による両断を死炎爆噴で退(の)き躱す。

 真名、アステリオス〔バーサーカー〕。宝具は────

「アステリオス……」エウリュアレの呟き。神霊サーヴァントは英霊の座に帰っても、再び召喚された時、記憶の引き継ぎを可能とする。

「っ────まずい!! ランサー!!」

「迷え……彷徨え……死ねぇ!!」

「《刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)》ゥッ!!」

 因果逆転の槍がアステリオスの霊核めがけて翻る。刹那、それを金髪の偉丈夫が棍棒で叩き返した。

「彼は二度と英雄に殺させない! 子供たる魔法少女を食い殺させもしないっ! 《いと眩しき宿命螺旋(ディスコリア・スピラ)》ッ!!」

 真名、テセウス〔セイバー〕。宝具は、同害報復の逸話が昇華したカウンター能力。彼は棍棒で人を殺した者を棍棒で殺し、怪物に人を食わせていた者はその者を餌として怪物に食わせた。目には目を、歯には歯を。ならば因果逆転の槍には、因果逆転でお返ししよう。刹那、時が巻き戻るように朱槍が同じ軌道を描いてランサーの手元に戻る。しかし直前で軌道を変えてランサーの左胸に突き刺さった。

「ガッ……!?」

「────《万古不易の迷宮(ケイオス・ラビュリントス)》ッ!!」

 視界が歪曲する。アステリオスの宝具は、固有結界とは似て非なる大建築大魔術。別名ミノタウロスと呼ばれる怪物は迷宮の番人として広く伝わる。その逸話が昇華されたことで、巨大湖の全面に渡って大迷宮が構築された。悪魔陣営は地下迷宮内部に取り込まれて、薄暗い闇の広間に降り立つ。周囲には魔獣の気配。人か獣かも分からない白骨死体が散乱している。そして眼前にはアステリオスとテセウスが仁王立つ。しかし次の瞬間────

「さよならだ。《かくして紡糸は(アリアドネ)────」

 ヘラクレスに並ぶギリシャ神話の英雄テセウスは、人食いの怪物ミノタウロスを倒すべく大迷宮を攻略し、見事討ち果たしてみせた逸話を有する。それゆえか彼の第二宝具は、迷(・)宮(・)か(・)ら(・)の(・)絶(・)対(・)脱(・)出(・)能(・)力(・)。さらにアステリオスの迷宮宝具は、脱出条件として“アステリオスが宝具を解除する”か“アステリオスを倒す”しかない。自力で脱出方法を見つけることもできなくはないが、本宝具の神髄として迷宮の構造は“その時代における迷宮という概念の知名度”によって左右される。つまり現代の複雑怪奇した情報社会においては、ほぼ自力での脱出は不可能と言っても過言ではない。────悪魔の逆転勝利が極まる。だというのにテセウスは、ア(・)ス(・)テ(・)リ(・)オ(・)ス(・)を(・)連(・)れ(・)て(・)迷(・)宮(・)か(・)ら(・)脱(・)出(・)し(・)よ(・)う(・)と(・)し(・)て(・)い(・)た(・)。アステリオスを倒さなければ迷宮から脱出できないというのに、そのアステリオスが迷宮からいなくなる? これがゲームなら、とんだバグで、とんだクソゲーだ。そんなとんちの効いた概念勝負で完封されるわけにはいかない。だが既にテセウスの迷宮脱出宝具は発動してしまっている。たとえテセウスを殺しても宝具は止まらないだろう。残り時間は三秒もない。悪魔は一言または一撃で勝負を決める必要がある。高速思考する脳内は、逆転勝利の末に最適解を導き出した。

 

 ────彼は二度と英雄に殺させない! 魔法少女を食い殺させもしないっ!────

 

「宝具を拒否しろ! ア(・)ス(・)テ(・)リ(・)オ(・)ス(・)!!」

「……────っ!!?」

「────《極点へ誘う《アポリト・アディス》》ッ!!」

 極光。視界明滅。閃光弾の如し光から目が慣れて眼前の空間を捉える。アステリオスとテセウスの姿は無くなっていた。

「っ……ランサー、無事か!?」

「あぁ……さすがに因果逆転まではカウンターできなかったみてぇだ。心臓(急所)からは外れている。霊基も問題ない。ただオレの槍は治癒阻害の呪いがあってな……ルーンでの治癒ができねぇ。サーヴァントだから大量出血で死ぬことはねぇがな。ンなこと言ったら心臓破られた程度でサーヴァントは死にはしねぇんだが」

 それでも環いろはが治癒魔法を行使すると、ランサーの傷が時(・)を(・)巻(・)き(・)戻(・)す(・)よ(・)う(・)に(・)治癒された。

「あ? ……また嬢ちゃんの奇天烈な魔法か。魔法少女ってのはよくわかんねぇな。まぁ、礼は言っとくか。治してくれてありがとよ!」

「いえ。ランサーさんは、この戦いの要ですから……」

 ふと、その言葉にセイバーとエミヤが反応する。すかさず悪魔がフォロー。

「ランサーだけじゃないがな。……それで、脱出方法の目処は? ルーンの探索は時間が掛かるだろう」

「つってもそれ以外ねぇだろうが。マスターこそ叛逆魔法でどうにかならないもんかね?」

「またオレに宝具を撃ってみるか?」

「お、なるほど。やってみっか!」

 当たり前のように即死宝具をマスターに向けるランサー。慌ててセイバーが止めようとするが、ランサーは逡巡する。その心情を見抜いた悪魔は、ならば無理には強要しないと別の策を提案する。

「やはりルーンで地道に行くか」

「げっ。今のオレの心、読まれた? かーっ! 恥ずかしいねぇまったく! ご配慮ご苦労さん! だが変な遠慮はすんじゃねぇぞ」

 ランサーは一瞬だけ思ってしまったのだ。自慢の槍がそう何度も防がれたり外されたりしたら、自らの名の沽券に関わる。だがマスターの頼みとあらば割り切るしかあるまい、と。

「そういうんじゃない。…………」

 俯いた悪魔は脱出方法を思案する。ほかの魔法少女は座り込んで休息。サーヴァントは姿を現した魔獣を掃討し、片手間に脱出方法を考える。ランサーは既に探索のルーンをいくつも走らせており脱出ルートを探っていた。

 

 そこで暁美ほむらが聞く。

「あの……悪魔さん。こんな時に、こんな事を聞くのも、なんですが……」

 悪魔は直感する。皆まで言わせず返答してもいいが、ここはあえて黙ることにした。

「どうして本拠地に乗り込まないんですか? なんで夕方まで、こんな戦場で粘る必要が……」

 一同に、疑念・期待・不信感・信頼が増大する心情を直感。悪魔は誤解による諍いを避けるべく、自身の思考を全て口に出す。

「無理もない。傍から見たら無意味な行動だ。もはや神浜市で守るべき人間はいない。栄区以外の者はみんな死んだ。フニャディ・ヤーノシュや太公望の守りも、いつまで続くか分からない。ならば本丸に攻め込んで、こんな地獄を一刻も早く終わらすべきだ。しかしそれはできない。たとえ無駄な行動でも、未来で視た光景にたどり着くような行動をしなければ、最善の結果は得られない。なんというか……順序が逆なんだ。今を救うために未来へ走るんじゃない。未来を救うために今を走るんだ。たとえ走る今が、迷走しているように他者から見えたとしても。正直、理解者は要らない。ただ自分が最善を尽くし、結果をもたらせばいい。信頼は結果から付いてくる。もし邪魔者が現れたら、たとえ友人だろうが殺す。後々な(・)ぜ(・)あ(・)の(・)と(・)き(・)殺(・)し(・)た(・)の(・)か(・)という抗議の声を受けても、結果を示せば黙らせることができるからだ。今までそうだった。でもそうじゃない時も多かった。人間とは理屈に合わない、感情的な言動をする。子供は特にそうだ。お前らを下に見ているわけじゃない。ただオレは……オレのやるべきことを、やっているだけなんだ。信じることができなければ自害しろ。お前らがいなくても、オレは独りで全てを救う。だから安心しろ」

 それは未来視と蘇生者、どちらの能力も備えるが故の独特な価値観と言えた。誰かが未来で死んでも生き返らせればいい。そこに感情を挟む余地は、あるはずで、あるべきだ、と思っているが……現実は残酷で、他者を思いやる余裕を挟んでくれない。

「今からマギウスの本拠地に突っ込むことは可能だ。しかし、その結果────この中の誰かが永(・)久(・)に(・)居(・)な(・)く(・)な(・)る(・)可(・)能(・)性(・)が、オレには耐えられない」

『……!!』

「だから、もうこれ以上、戦うのが嫌で疲れたのなら、死んでくれ。オレが手を下してもいい」

 究極超直感を目にした者は、今までの倫理観が崩壊する。自らの視た者が真実だと思い込めば思い込むほど、未来を重視するあまり、無意識に現在を軽視してしまう。その経験が、千里眼を持つマーリンにはあるのか、それとも今の話に共感できる要素が少しでもあったのか、どこか物憂げな視線で悪魔の後ろ姿を見据えていた。

 ふと佐倉杏子が立ち上がると、悪魔沢田綱吉の背中を軽く拳骨で殴る。

「バカ言ってんじゃないよ。要するに、あんたを見捨てて楽になれってことだろ? あたしはゴメンだね。まだ死にたくないし。あんたがあたしたちに生きる可能性があるって言うなら、その言葉を信じるよ。あたしはね」

「佐倉」

 透明な二葉さなと環いろは、そして七海やちよと鹿目まどかは、佐倉杏子の決意表明に同感したのかうなずく。悪魔を独りで戦わせるなんてことはできない。頼ってばかりなのは嫌なのだと。一方の暁美ほむらは、悪魔が視ている物事や価値観について詳細を聞きたかったが、今はそんな場合じゃないと悟る。敵の気配だ。

 

「UGAAAAAAAAAAA!!」

 真名、カリギュラ〔バーサーカー〕────どうやら迷宮宝具展開の際、共に取り込まれて別の広間にいたようだ。即刻、悪魔陣営のサーヴァントが倒しにかかる。刹那、二本の斧槍がカリギュラを両断した。

『────!?』

「……まっていた。アステリオス」

 悪魔は、脱出の可能性のひとつとして、諦めていない作戦があった。それはカリギュラを倒して現れた、支(・)配(・)英(・)霊(・)ア(・)ス(・)テ(・)リ(・)オ(・)ス(・)の(・)宗(・)旨(・)替(・)え(・)である。

「う……うがぁあああああ!!」

「オレが相手をする! 全員下がっていろ!」

 アステリオスの猪突猛進。対する悪魔は叛逆施術の貫手を繰り出す。刹那、テセウスの棍棒が頭上に飛来。逆転勝利が極まる。死炎轟爆。同じやり方で仕返しをするなら、同じやり方ができない方法で捌けばいい。雲の炎を地面に叩きつけることで爆煙を起こす。直感持ちのテセウスは視覚妨害への補正を持つため煙幕による視覚阻害の効果は半減される。だが真の狙いはそこではない。

「オレは英雄じゃない」

「!」

 たった一言。その言葉は、あらゆる英雄が持つ極限の刃より鋭い一言として、テセウスの心に突き刺さる。テセウスは気付いた。悪魔は煙幕の中で棒立ち。一切の回避行動を取っていない。確かに彼はただの子供だ。このままではアステリオスは、ただの子供を叩き殺すことになる。それはつまり、怪物(ミノタウロス)の所業を繰り返させるということで────

「くっ!」

 ────斧槍と棍棒の激突。生前とは異なり、今回は守るべき者がいたため躱せない。悪魔を庇ったテセウスは、アステリオスの膂力に吹き飛ばされて迷宮の壁に背中を強打。そして悪魔の頭上に二本目の斧槍が振り下ろされる。

「マーリン」

 悪魔の一言で勝敗は決していた。マーリンの英雄作成スキルがアステリオスに掛かる。

 英雄。それはミノタウロスのままでは決して成れないモノ。だけど今はアステリオス(雷光)の名を以て召喚された。ひとり(テセウス)だけでも、その名前で呼んでくれる人がいれば、支配英霊として召喚されても大丈夫だと言い聞かせてきた。しかし結果はこの有様だ。逆らう人間や魔法少女を殺すために戦っている。でも────

 悪魔沢田綱吉の真横に斧槍が着弾する。地面爆砕。血管浮き上がる巨躯の豪腕は、必死に支配の呪力と戦っていた。

「ぐっ……うがぁ……っっ!!」

「アステリオス。お前の精神年齢は……随分と幼いな。ならば握手だ。よろしく、ヘラクレスに並ぶ英雄よ」

 煙が晴れる。斧槍を掴んで震えるアステリオスの手に触れる。叛逆施術を行使。本人が支配に抗っているのなら霊核を掴む必要はない。アステリオスの全身から金色と紫色の混じる支配魔力が弾けて消える。

「ぐぅ……う……?」

 死炎爆噴。悪魔沢田綱吉はテセウスの背後に回る。その肩に触れて叛逆施術を行使。悪魔を助けようとした時点で、かなり支配魔法に逆らったはずだ。その時に生じた魔力の歪みを突けば、アステリオスと同様、叛逆施術で支配から解くことが出来る。

「────! 君は……」

「お前らが別々に行動していたら、こうも簡単に支配を解くことはできなかっただろう。だがテセウス。オレを庇ったために、今の攻撃で霊基にヒビが入ったな? 宝具を使ってオレたちを脱出させたあとは、アステリオスの援護に回って突出するな。軍師の立ち回りを意識しろ」

「……!」

「マーリン。アステリオスに斧術スキルを授けることは可能か?」

「うーん。斧術かぁ……剣術なら教えられるんだけどなぁ~」

「────ほう。何かを教える、と。それはつまり、儂の出番なわけだな?」

 不意に玲瓏な声が迷宮の広間に響く。ランサーはその声に覚えがありすぎた。

「師匠!? アンタも迷宮に閉じ込められていたのかよ!」

「気付いたら、な。それまでは分刻みで一万騎近くを屠っていたのだ。まるで迷宮に閉じ込められたことが失態であるかのような物言いはよせ」

「スカサハ。魔境の叡知を使ってアステリオスに斧術スキルを与えてほしい。できれば心眼(真)スキルも頼む。その後は迷宮を脱出して依然変わりなく鏖殺してくれ」

「儂に指図するとは生意気な小僧だ。しかし、その依頼は面白いので特別に許そう」

 スカサハは教師の目付きでアステリオスをまじまじと観察する。

「ふむ……多島海の覇者たるミノス王の子か。胤(たね)違いとはいえ、世が世なら王子に等しい待遇や権力は与えられたかもしれんな。ミノス王の護衛兵となる未来もあったやもしれん。……よし、儂の目利きに間違いはない。才能も申し分ないぞ。もったいないほどだ。伽藍洞ならば色々と詰め込めるとは言うが、これほど詰め込みがいのある弟子はなかなかいない。セタンタは最初から、ある程度完成されていて可愛げがなかったからなぁ……」

「そりゃ悪うござんしたね。で、師匠。そいつ、鍛えてやるのか? オレから見ても、かなりイイ線行くと思ってんだが。なんせヘラクレスより膂力も体格も上だ。そこに勇士の心構えと技を授けりゃ、まず怖いもんはないだろうよ。なんなら伯父貴と双璧をなす英霊が誕生しちまうかもな!」

 悪魔沢田綱吉は、困惑するアステリオスに指示を出す。

「アステリオス。一度宝具を解除し、再び宝具を使用して、取り込めるだけの敵サーヴァントを取り込め。最大捕捉はオレの叛逆魔法でなんとかする。そしてスカサハから授かった技術を使い、テセウスと共にマギウス陣営を駆逐しろ。オレたちは地上で戦う。地下(ここ)は任せた」

「……!」

「しかしアステリオスは反英雄だ。正英雄に弱い。そういう時はテセウスのカウンター宝具だ。生前殺し合った仲なら互いの癖も見抜けるだろう。ピンチになったら栄区方面に脱出しろ。太公望の守りを当てにすれば仕切り直しも可能なはずだ。そして調子を整えたら再び迷宮に潜って、彷徨う奴らを殺しまくればいい。あとの細かいところは一任する」

 そう言って悪魔沢田綱吉は振り返り、テセウスに宝具を要求する。

「テセウス。迷宮脱出宝具を頼む。そして総員、外に出た瞬間が勝負だ。まず間違いなく囲まれている。迷宮の天井は障害物のないまっさらな地形のはずだ。初手ぶっぱで先制し、場を制圧。戦いの流れをこちらに引き込む。そのためには脱出の際に東西南北へ宝具を撃つ必要があるだろう。オレ、セイバー、ランサー、アーチャーの四人が担当する。それでいいな」

『了解!』「応ッ!」

「早くしろ、テセウス。アステリオスを任せたぞ」

「…………はは。君に言われるまでもないさ。────そして、ありがとう。君たちの武運を祈るよ」

 テセウスは宝具を発動。悪魔陣営は迷宮から脱出した。

 

 視界明滅。平面戦場。斯くて予想通りの四面楚歌。どこを見ても地平線の彼方まで、マギウス陣営のサーヴァント軍勢しか見えない。次の瞬間、敵宝具が発動するより先に、あらかじめ用意していた四つの宝具が切られる。死炎轟爆噴射(イクスバーナー)、聖剣極光(エクスカリバー)、対軍魔槍(ゲイ・ボルク)、偽・螺旋剣Ⅱ(カラドボルグ)。平面極光、戦場が十文字に爆発する。敵軍数千騎を撃破。されど敵軍、残るは数万騎、いや数十万騎に及ぶ。

 

 一方地下迷宮では。

「では、ミノスの子よ。影の国へ来るがいい。時間軸の概念も原初のルーンでどうにかしよう。向こう側で一年ほど修行したあと、こちら側に戻ってくればいい。その間、こちら側では、ほんの数秒足らずだ。さぁ行くぞ! 儂の修行は過酷だからな! 覚悟しろ!!」

「え、あ……う、うん!」

 スカサハは影の国の門を開く。その中に入って門が閉じた直後、再び門が開いた。スカサハと共にアステリオスが出てくる。その風貌を目にしたテセウスは目を見開いて驚いた。彼の全身から黒い焔が燃え盛っているのだ。その気配は禍々しく、この宇宙にあるものとは思えない代物だが……当のアステリオス自身の気配は、いつも通りの穏やかなものだった。

「アステリオス……!」

「てせ、うす! ひさし、ぶり……! あれ? でも、てせうす、は、ひさしぶり、じゃ、ないのか……」

「ふふ。儂好みに鍛えてやったぞ。スキルも宝具も更新された。────まぁ、ちょっと誤算があって失敗した部分もなくはないが────」

「え?」

 スカサハは小声でボロリとこぼす。テセウスは聞き逃さなかった。まさか失敗とは、彼の体から立ち昇る黒い焔のことだろうか。しかしアステリオスは特に気にしていないようだ。むしろ新たな力を手に入れて、早くそれを使いたがっているように見える。

「そら、アステリオス。魔力パスはあの小僧と繋いであるだろう。迷宮宝具を再発動すれば、じき気付く。さぁ、新米英雄よ。そんなに穏やかな暮らしが欲しければ、その手自らで勝ち取ってみせよ!」

「うん……! あり、がとう! すかさは、ししょう!」

「よし! よく我が名を噛まずに言えた! えらいぞ! また噛んだら今度は千本の槍で串刺しにするところだったわ! ははっ!」

 アステリオスは迷宮宝具を再使用する。解除の必要はない。改めて迷宮に獲物を誘えばいい。それほどまでにアステリオスは成長していた。

「うぅうううう! 《万古不易の巨怪迷宮(ギガ・ケイオス・ラビュリントス)》……!!」

 次の瞬間、悪魔沢田綱吉は、契約したサーヴァント・アステリオス〔バーサーカー〕の霊基情報が更新されたことを感知する。

 

 アステリオス〔バーサーカー/フォーリナー〕────スキルは《漆黒の焔:C》《神性:E》《領域外の生命:E》が追加。いったい何があったのか。悪魔沢田綱吉は直感する。どうやらスカサハが失態を演じた(ちょっとやらかした)らしい。そういえばスカサハは、螺湮城教本から招来された外宇宙の生命体を、全て鏖殺するため影の国へ招き入れた。しかしその中で一匹だけ、殺し損ねた生命が居たようだ。その生命は、いかなる理由かアステリオスと逸話的な相性が良すぎたらしい。アステリオスの霊基に憑依して完全融合を果たしてしまったのだ。もはや原初の18のルーンをもってしても漆黒の焔を引き剥がすことができなかったので、仕方なくアステリオスには“領域外の生命を使いこなす技術”を授けたようだ。ほか斧術スキルもBランク相当で、心眼スキルは霊基に追加されてこそいないが、それなりの戦術眼は持ち前の聡明さで備えたと見ていい。

 すかさず悪魔は叛逆魔法を行使。アステリオスの魔力パスを通して、迷宮宝具の最大捕捉数を倍々に増やす。そして巨大地下迷宮に数百を越すマギウス陣営のサーヴァントが閉じ込められた。彼らを殺し尽くしたあとは、再び迷宮宝具を使用して、また数百騎以上のサーヴァントを迷宮に閉じ込め、殺し、呼び、殺し、呼び、殺すのを繰り返す。それはまるで怪物のような戦い方だが、アステリオスは自身が怪物であることを否定していない。過去の罪は消え去らない。だからこそアステリオスは、“たとえミノタウロスらしくあっ(怪物と後ろ指を指され)ても、アステリオス(誰かを守る者)として戦う”のだ。それが、いつかどこかの海洋冒険譚で得た、英雄らしい姿だと思うから。

 そしてアステリオスの目の前に、迷宮を攻略すべしと、一人目の挑戦者が現れる。その姿をよく覚えていないアステリオスでも、どことなく雰囲気で察してしまった。驚愕するテセウスの反応がなかったら、もしかしたら気付かないまま戦って、真名解放の時に動揺して致命的な隙を晒してしまったかもしれない。だからテセウスがハッとしてポーカーフェイスをする必要はない。謝罪したそうな顔も、だいじょうぶ。気付けて良かった。あとはもう、英雄として、マスターのために、今を生きる子供たち、いや、全ての人々のために。がんばって、戦うしかないのだから。

「……おとう、さん……」

 既存情報ゆえ目視のみで真名看破。ミノス王〔ライダー〕。

「……アステリオス」

「!!」

「敵としてまみえた以上、敵として扱うのが礼儀だ。《多島海の覇王(クノッソス・パシレイオン)》」

「……っ!」

 その宝具は、かつてエーゲ海を支配した王権の象徴たるクノッソス宮殿を召喚する能力。ミノス王の威光を知らしめる青銅の城の輝きは、Aランク級の防御数値を誇り、その分のダメージを削減する。つまりBランク以下の攻撃は、ほぼ無効化されてしまう。青銅の輝きの庇護下にある者は、たとえ軍神アテナの武器であろうとも害せないだろう。それほどの強固な守りを前に、アステリオスも宝具を発動する。

「この斧は、落雷と、大地の女神の、あかし……! 《深遠に彷徨う雷光の戦斧(キュベレイ・ラブリュス)》!!」

 その宝具は、巨大な両刃斧(ラブリュス)を二つに分けた、一対の片刃斧槍。ラブリュスとは、主神ゼウスの雷霆を象徴するものであり、また、クレタ島の地母神とされる知識の保護者にして百獣の王キュベレイと繋がりがあるとされることから、一対の斧槍には二つの能力が付与された。一つは雷撃を発する能力。もう一つは刃で傷つけたものを石化させる能力。石化判定は対魔力または魔力・幸運で抵抗可能。しかし本宝具はBランク。青銅の輝きの守りには勝てない。ならばとアステリオスは、裡に宿る領域外の生命を活性化。漆黒の焔スキルを使用し、青い雷撃が迸る戦斧に黒い焔を混ぜ込んだ。火花散る黒青の雷焔戦斧は一時的にAランク相当の火力を獲得。あとは怪力スキルを使用して筋力のランクを向上。いざ、咆哮と共に戦闘を開始する。

「うがぁあああああああああああ!!」

 アステリオスの戦斧とミノス王の戦斧が交差爆撃する。青銅の光を雷光で塗りつぶし、漆黒の焔で焼き尽くす。天性の魔の才能を活かして蹂躙し、怪力の一撃で吹き飛ばす。

「ぐぅ────!! ならば……《冥府に導く裁きの判決(クリシス・タルタロス)》!」

 ミノス王は第二宝具を発動。かつてミノス王は冥府の裁判官を務めたことがある。その権力を宝具として再現。能力は“死者を断罪する権能”である。そして、その権能を何かに付与することで、ミノス王は自他を強化する。今回は、自らの武器たる戦斧に“死者断罪概念”を付与。それは亡霊は無論、過去の人間であるサーヴァントも特攻対象となるため、聖杯戦争においては非常に強力な宝具となる。さらに、その対象が生前“裁かれたことで命を終えた”ことがあれば、判定次第で即死さえ通る。アステリオスは、テセウスに倒されることが裁きだと思っているのか、それは分からない。だが通るかどうかは半々だろう。後方に待機するテセウスは、アステリオスに即死判定が通った時、いつでもカウンター宝具が発動できるよう機を見逃さない。

 激発し、周囲の建造物を破壊・蹂躙する巨大戦斧の激突。爆雷と爆熱はミノス王の霊基を痺れさせ、服を焦がし、青銅の輝きを貫いてダメージを与える。

「アッハハハハハハハハハ! あぁ美しき光の牡牛! あなたに恋するわあなたを愛するわ孕むわ産むわたくさん産むわ! でも仔は愛さない。……本当に? いいえ、いいえ、愛するべきよ! でも私はどうしていいか分からない! だ(・)っ(・)て(・)私(・)の(・)せ(・)い(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)の(・)に(・)!! あぁ我が仔よ(ミノタウロス!)、我が愛し恋しこの欲情に、死を以て終止符を打つべきかどうか断罪してちょうだい! 《狂い暴れる恋いした私(クレタン・ブル)》ゥウウウウ!!」

 真名、パーシパエー〔バーサーカー〕と看破。宝具は、アステリオスの母胎(父親)となった青銅の牡牛。

 かつてミノス王は、海神ポセイドンに牡牛を捧げる約束を交わしていた。しかしミノス王は何を思ったか、その牡牛を捧げず、別の牡牛を捧げた。約束を破られたポセイドンは怒り、ミノス王の妻たるパーシパエーに“牡牛に欲情する”呪いを掛けた。

 そして、この世界のパーシパエーは、名工ダイダロスに“人間の女性と牡牛が交われる機械”の製作を頼んだ。その機械こそ、異種族間交配を可能とする髄液型外骨格(パワードスーツ)。かの豊穣神デメテルの神の液体(テオス・クリロノミア)を使った最先端技術の結集である。

 しかしてパーシパエーは、そのスーツを着て牡牛と交わり、アステリオスを身ごもった。しかし、ただの牡牛と精通したのではない。アステリオスの父親は、十二の試練に挑んでいた大英雄ヘラクレスが捕縛したあと解放したクレタ島の暴れ牛であり、その後さらに凶暴化した牛に困っていた人々を助けるべくテセウスに殺された牡牛でもあるのだ。

「……おかあ、さん……」

 アステリオスは狼狽する。だが斧術の冴えに揺らぎはない。

「ふむ。よし。心技体ともに鍛え抜いたからな。家族と戦うハメになろうと驚くには値しない。それがケルト流だ。しかし……あの宝具、メイヴでさえ眉をしかめそうな代物だな……」

 アステリオスの戦いぶりを見守るスカサハは、パーシパエーの宝具に戦慄を抱く。真名解放により宝具のパワードスーツを着込んだパーシパエーは、神の呪いによる高い狂気と、狂戦士のクラス別能力の狂化によって、もはや牡牛との交尾にとどまらず“異種族なら何でもアリ”になっている。そのためバーサーカーとして召喚されたパーシパエーの精神は目も当てられない。『今度は“わたしという牡牛”と“あなたという異種族”で恋愛を成就』させてくるのだ。そして一度精通してしまうと、上半身は牛頭で、下半身はその異種族の魔獣、すなわち様々な形態のミノタウロスが、パワードスーツの腹から大量に出産(量産)される。

 パーシパエーは召喚直後、性別を問わず人間の男女を襲い、無理やり精通したようだ。よって牛頭の人間(ミノタウロス)が大量に産まれてくる。その全てが高ランクの天性の魔を有し、母親たるパーシパエーの言いなりになって狂気に奔走する。

「さぁ我が子たち! 遊びなさい!! 人を喰らい、殺し、犯し、孕め!!」

『GAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaa────!!!!!』

 パーシパエーと、この魔獣軍団は、決して迷宮の外に出してはならない。そう直感が告げるアステリオスは、テセウスとスカサハの手を借りて、いざ鏖殺を開始した。ミノス王に手間取っている暇はない。出し惜しみは無しだ。全身全霊を懸けた一撃で、自身が生前、一度も足を踏み入れることがなかった宮殿を粉砕する。

「第三宝具解禁────《雷霆万鈞の星霜(アステロペーテース)》ッ!!」

 一説によれば、星・雷光を意味する“アステリオス”は、主神ゼウスの別名たる“雷光を投げる者(アステロペーテース)”と同じ名前であるとされる。その縁からアステリオスは、スカサハから教わった汎用スキル《投擲/斧槍》を使い、雷霆の如し稲光を轟かす斧槍を投擲する。肉体の痛みも辞さない全身全霊の投擲はA+ランク相当の一撃となって、轟閃雷鳴、青銅の光が砕けるクノッソス宮殿を貫き、ミノス王とパーシパエーを射殺(いころ)し、十二体の魔獣を爆雷と灼熱で打ち殺した。

「ほう……あの牛小僧が、ここまでに成るか。ほとほとミノス王は勿体無いことをしたものだ。英雄も怪物も、その運命は解せぬモノが多い。────《機械仕掛けの復讐機(ミカニ・メガイラ)》」

 真名、ダイダロス〔キャスター〕。宝具は、サイバーパンクを想起させる神像兵器の製作と操縦。タロス型・アラクネ型・スキュラ型・スフィンクス型の大型戦闘機械が迷宮の広場に所狭しと出現し、アステリオスを狙う。一撃、鉄塊をひしゃげて、一撃、鉄塊を打ち砕いて内部構造を露出、稼動に必要な何かのオイルを撒き散らす。爆雷爆焔轟鳴連閃。瞬く間に複数の兵器を鉄板のガラクタの山に変えてみせたアステリオスは、ダイダロスの頭部から股下まで紙切れのように一刀両断し、次々と襲い来る敵サーヴァントの軍勢に跳躍して身を投じる。

「かかって、こい……! おれは、アステリオス……! 雷光の名を持つ、英雄(かいぶつ)、だぁ……っ!!」

 

          ♪~1,000,000 TIMES~♪

 

 一方地上では。四種宝具の解放直後、そのダメージを全く受けていない一万の軍勢が存在した。

「UOOoooooo────!! イスカンダル……ゥウウウウウウウウッッ!!」

 真名、ダレイオス三世〔バーサーカー〕。宝具は《不死の一万騎兵(アタナトイ・テン・サウザンド)》。対軍魔槍を受けたが、Aランクの仕切り直しスキルにより治癒阻害のバッドステータスを解除。ダメージもAランクの戦闘続行で物ともせず、不死の戦象に跨り、周囲に親衛隊神官骸骨兵を配備、さらに周囲に牛頭複合兵、骸骨騎兵を配備。最前列から雑魚骸骨兵、双剣兵、骸骨槍兵、骸骨盾兵、骸骨騎兵を並べ、いざ進軍開始。不滅の概念を備えた不死隊が、悪魔陣営に怒涛のごとく押し寄せる。

「ランサーぁっ!!」

「正面突破する! ついてこれなかった奴は死ぬぞ! 死ぬ気で走れぇっ!!」

 ランサーは手綱を奮って戦車宝具を発動しようとする。刹那、上空後方から胴間声の雷声がこだました。

「AAAALALALALALAIE(アアアアラララララ────イィ)!! 待たせたな! ダレイオスよ! 貴様が待ちわびたであろう、この戦、無論、我が無双なる軍勢の圧勝にて終わらせてくれようぞ!! 開幕だ! 《王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)》ィッ!!」

 真名、イスカンダル〔ライダー〕────大樹迷宮で一時共闘したアレキサンダーとは別霊基、すなわち同一人物の別人だと分かる。そして宝具は、固有結界の展開。巨大湖の上に建設された地下迷宮の天井は平面。その空間から征服王イスカンダルの心象風景へと引きずり込まれる。視界歪曲明滅。ふと目に映るは、天地一面のカンカン日照り大蒼穹と、遥か彼方まで続く大砂漠。王の軍勢と不死の一万騎兵に挟まれた悪魔陣営は、絶体絶命の窮地に陥る。

「ランサー。ダレイオスを任せた」

「了解」

「セイバーは横合いに一息で駆けたあと、両軍の交差地点に聖剣を叩き込め。アーチャーはその援護だ」

「了解」「了解した」

「ブーディカ、大仕事だ。ほかは生還を重視しつつ敵を殺しまくれ。オレはイスカンダルを仕留める」

「了解!」『了解!!』

「行くぞ。ここが死ぬ気の正念場だ。三つ巴だからといって狙われないなんて希望的観測は捨てろ。目に映る者は全て敵だ!」

 死炎轟爆。悪魔沢田綱吉は、軍勢の最前線を駆ける征服王イスカンダルに突貫(挑む)。

「横槍か! 大歓迎だ! 蹂躙してくれるわい! 《遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)》!!」

 それは宝具《神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)》による蹂躙走法。雷気みなぎりほとばしる神威の突進。静止状態から数百メートルを瞬時に詰める神速の加速で悪魔沢田綱吉と超激突。神速領域の膠着状態。A+ランク相当の一撃を、虹色の死炎爆発突撃で食い止める悪魔沢田綱吉は逆転勝利を極限解放している。

「おぉほう! これを食い止めるか、小僧ぉっ!!」

「っ────うおおおおおおおっ!!」

 極光。魔力と死炎の虹霓爆裂。激突地点の砂漠が猛火に熱せられてガラスを形成し、大砂丘に火炎竜巻が発生する。

「ぐぅ────!?」

 押し負けた悪魔沢田綱吉は後方に吹き飛び、ランサーと不死隊が激突する戦場に着弾。背後から突き刺そうとしてきた骸骨兵の部隊を瞬間イクスバーナーで消し飛ばし、なぜ押し負けたのか直感する。

(そうか! サーヴァントになったことで、オ(・)レ(・)は(・)生(・)前(・)よ(・)り(・)強(・)く(・)な(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)! そのせいで逆転勝利の呪護が働きにくい……っ!!)

 王の軍勢と不死隊の激突。両軍の雄叫びと雄叫びが織り成す殺戮咆哮。戦場の南方に抜けた悪魔陣営のうちセイバーが聖剣を振り抜く。極光斬撃が南北を一刀両断した直後、セイバーは奔流を抑えつつ一回転し、再び最大開放。西から東へと、王の軍勢の尻から不死隊の顔面を横一文字に斬り飛ばした。対城宝具の名に偽りなし。聖剣の十字斬撃は二つの軍勢を一撃で壊滅状態に陥れた。それに巻き込まれる形となった悪魔沢田綱吉とランサーは死炎飛翔と戦車飛行で回避。同様にイスカンダルや他の軍勢も飛行宝具で躱していた。そのうち一騎が紫電一閃、飛竜型戦車に乗って蹂躙走法を仕掛ける。神速にて詰め寄る先には、悪魔沢田綱吉。

「我が名はヘファイスティオン! 史上最も偉大なる征服王、イスカンダル第一の腹心なり! 故に我が忠誠は王の下に! 然らばこの一時、御身の宝を借り受けん! さぁ、我が虚偽の誇りを以て蹂躙しろ! 《魔天の車輪(ヘカティック・ホイール)》ッ!!」

 真名、ヘファイスティオン〔プリテンダー〕。宝具は紫電疾走の蹂躙突撃。対する悪魔沢田綱吉は、紫色のハーフソウルリングに救援要請を呼びかけた。

「オレと死んでくれ、恭弥」

 叛逆助太刀魔法。悪魔沢田綱吉の傍らに、ただの人間であり魔法少女である恭弥アーデルハイトが現れる。並盛町からいきなり召喚された恭弥は、既に大勢のサーヴァントと戦闘中だったのか全身傷だらけ。しかし多くのサーヴァントを屠ってきたらしく、満身創痍とは程遠い猛獣の気迫を帯びていた。そして状況が分からずとも、眼前から神速で迫り来る紫電の飛竜めがけてトンファーを奮った。状況が分からずとも戦意は揺るがず。豪雷瞬打。蒼穹を覆い尽くす雲ハリネズミの大増殖。それは地上まで届き混戦する戦場を真っ二つに分割して串刺しにした。飛竜型戦車が破壊されるも、ヘファイスティオンは直前で跳躍退避。悪魔沢田綱吉と恭弥は落下しつつ言葉を交わす。

「ちょっと。なに勝手に召喚してるわけ? 今、李書文とかいう人と戦ってたんだけど」 

「殺されそうだったから召喚した。ちなみに骸は九騎のヘラクレスと戦って殺されたぞ。死ぬならもっと“イイ仕事”をして死ね」

 殺されそうという発言に“ムッ”とし、六道骸の名を聞いて“!”と察し、イイ仕事という言葉に“つまりこれからもっと面白い強敵と戦わせてくれる”と理解した恭弥は、凶暴な笑みを地上の両軍勢に向ける。刹那、王の軍勢の前衛後衛から二極の宝具が解放された。

「吼え猛れ我が鼓動!」「いざ開け、叡知の門!」「滾る光よ、見えるもの全てを焼き尽くせ!」「全知全能ならざる我らが、全知全能なる(ラプラスの)悪魔へと挑む!」「《月は知らず、久遠の光(ファロス・ティス・アレクサンドリアス)》!!」「遥かなる歴史を失墜した魂に刻め! 《王の書庫(ビブリオテーケ・バシレイオー)》!!」

 真名、プトレマイオス〔アーチャー〕が二騎。宝具は熱量反射と叡知要塞。魔力熱光線と自動制御レーザーが空中に斉射される。その全てを極大増殖する雲ハリネズミの遮断膜が完全防御し、ふと雲ハリネズミの群れが回転を始めると一斉掃射。雲ハリネズミの増殖遮断弾幕が大砂漠一帯を爆撃する。

「小動物。誰が殺されるって?」

「調子に乗るな。次が来るぞ」

 雲ハリネズミの大軍勢を神威の戦車が神速突破。破顔大笑する征服王が二人を狙う。

「!」

「任せた」

 爆雷蹂躙。悪魔は敢えて何もせず突き飛ばされる。霊基霊核に亀裂が迸る中、逆転勝利が極まっていく。対する恭弥は遮断魔力を込めたトンファーの一撃で難を凌ぐ。吹き飛ばされて砂漠に着地。四方八方から兵士が飛び込んでくる死地を瞬時に鏖殺して突破。血塗れの狂獣は一騎当千の強者を相手に、一千の首を獲る戦果を挙げていく。

「恭弥(安珍)さまァアアアアアアアアア────!!」

 ストーキングスキルにより固有結界の内部に侵入してきた清姫の声。彼女は死んだはず。霊基を見るに別人と分かる。どうやら恭弥も並盛町で、彼女(ストーカー)に絡まれていたようだ。恭弥は女子供も容赦せずトンファーでぶっ叩く頭のイカれた奴だが、自らに好意を寄せる相手には折り目正しく接する時(・)が(・)あ(・)る(・)。

「邪魔だよ」

 遮断トンファーの一撃で清姫の頭部を粉砕した恭弥は戦闘続行。もはやバーサーカー顔負けの戦闘狂と化して王の軍勢と不死隊を相手に三つ巴の一騎当千を演じる。

 死炎轟爆。悪魔沢田綱吉も一秒一殺の勢いで敵兵を殺していく。

 遠方でランサーが宝具開放。対軍魔槍の一撃が砂漠一帯を吹き飛ばし、ダレイオス三世にダメージを与える。だが仕切り直しと戦闘続行の合わせ技で全快。まさに不死の戦いぶりを見せる。

 上空で雲ハリネズミが大量増殖し、再び蒼天を覆う。神雷と紫魔の度重なる交差激突は曇天の嵐を呼び起こし、とうとう雲ハリネズミ軍団の連続投射により戦車が破壊。二頭の神牛が絶命する。

 死炎爆発噴射。自由落下するイスカンダルの背中に貫手。そこへ影が走る。征服王を庇ったヘファイスティオンの霊核を貫いて握り砕く。死体を蹴り飛ばし、再び征服王の霊核を狙うが────大跳躍していた黒馬の蹴撃に防がれる。悪魔沢田綱吉は蹴り飛ばされつつ真名、ブケファラス〔ライダー〕と看破。ほかにも王の軍勢で召喚されたブケファラスが、落下する征服王を受け止めており、砂上を神雷疾走。どうやら戦場の乱戦に紛れた奇襲・暗殺には慣れているようで、一筋縄ではいかないらしい。二騎のプトレマイオスによるレーザー砲撃や、王の軍勢で召喚されたわけではない他の臣下の宝具も戦場に乱舞する。

 業火灼熱と化す大砂漠だった戦場。そこは疾うに地獄か天国かも分からぬ様相と成り果てている。熱量と熱量の激突により、熱せられた砂は硝子となり、太陽の光が乱反射する透明な大地が広がっていく。極光戦場と言い換えても過言ではない光の大地。裸足で走る者はガラスを踏みつけ血を流し、兵士は乱反射する陽光に目を焼かれて失明する。だが不死隊に地形のバッドステータスは効果がない。人間だからこそガラスの戦場に苦戦する王の軍勢とは違い、不死隊は怪物だからこそガラスの戦場を苦もなく突破する。それを見て悪魔沢田綱吉は思う。

(不死隊が王の軍勢を押している……今も形は三つ巴だが、いつの間にかダレイオスに2対1の地形戦を作られていた。よほどこの時を待って対策を練っていたらしい。バーサーカーとは思えない理知的さだ……!)

 無論、征服王は既にそのことを軍略的直感で看破していた。未だ砂漠の名残を残す北方地形を走る分隊が大外回りで不死隊に挟撃を仕掛ける。北と西からの包囲。数の差では圧倒的に王の軍勢が上だ。数の上では数十万騎兵と一万騎兵となっている。

 故に悪魔も王の軍勢の数を減らすように駒を偏らせた。最も強いランサーは不死隊に当たらせ、それに比肩するコンビとなる自身と恭弥は王の軍勢と戦い、それ以外は三つ巴の状態を維持する。もし悪魔陣営がダレイオス陣営に完全に付けば、征服王イスカンダルは“まとめて潰す”方策を取ってきたはずだ。現に南方は悪魔陣営の大半が陣取っているため、その出方を窺うべく、王の軍勢のうち少数の分隊しか送り込まれていない。

(あくまで征服王はダレイオスとの決着を優先している。悪魔陣営のことは二の次と考えている。だがダレイオスを潰されれば次はこっちだ。向こうもそれを分かって、オレたちがどう出るか誘(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)……)

 悪魔沢田綱吉の超直感が働く。下手に動けば征服王イスカンダルの軍略によって完膚なきまでに叩き潰される。だがユーラシア大陸の大半を版図とした史上最強の軍勢を率いる征服王を相手に、本当に軍略で勝てるのか。個の勝負ならば、逆転勝利の高まりに託せばいい。だが数の勝負となると、逆転勝利は役に立たない。

(ならば無理やり、こちらの土俵に上がらせるっ!!)「────アーチャー、宝具だ!!」

 エミヤが詠唱開始。アタランテが男性特攻の愛の矢を戦場全体に降り注がせる。絨毯爆撃の中、とうとう征服王とダレイオスが正面切って激突した。ブケファラスと不死戦象が互いの骨肉を噛み殺し踏み殺す。征服王の剣とダレイオスの一対戦斧が交差激発、青い爆雷と緑の爆焔が轟然と交わされる。互いの鮮血が湯水のように迸り、百合の音速鈍重剣戟が酌み交わされたのち、血塗れの双王は軍略の覇を競う。

「我に続けぇい! 全軍、突撃ィイイイイ!!」

「UoOOOOOOOOO(ウォオオオオオオオオオ)────!!」

「────《無限の剣製(アンリミテッド・ブレイド・ワークス)》!!」

 南方の砂漠が、英霊エミヤの心象風景へと塗り変わる。天は赫々とした曇天と浮かぶ巨大歯車。地は砂塵が舞い、無数の剣墓の荒野がどこまでも広がる。しかし、すぐに荒野は砂漠に押し返された。宝具《王の軍勢》は、固有結界の展開維持に必要な魔力の大半を、召喚された数万の兵士が担っている。その兵士ひとりひとりは幻霊級・亡霊級だとしても、その数が万を超えれば英霊顔負けの魔力となる。その膨大な魔力を相手に、エミヤひとりの魔力で拮抗することは不可能だ。故に悪魔沢田綱吉は敵兵を一人でも多く減らすべく殺して回っていた。それでも足りない。ならばと女神が力を貸す。魔力EXランクのステンノとエウリュアレが、悪魔沢田綱吉に指示されて退屈そうに魔力を回す。心象風景の規模と固有結界の魔力が拮抗を開始。広がり続ける紅い空の荒野は日照りの砂漠を侵食していき、無数の墓標から剣が舞う。だが距離が遠い。エミヤの無数の刀剣は中央の戦場まで届かない。故にベミヤが疾走。エミヤの刀剣操作領域の範囲外に駆けて、彼の固有結界の力を一部継承し、地に突き立つ剣を意思ひとつで抜剣抜刀、中央の大混戦地帯に無数の剣を叩きつける。

「狙うは漁夫の利です!」

「ベミヤさん! この赤兎馬がお供しますヒヒーン!!」

 駆けるベミヤと赤兎馬。中央地帯に降り注ぐ矢剣。それを物ともせず戦う悪魔沢田綱吉、恭弥、ランサーの三者は、征服王とダレイオス以外のサーヴァントを討ち取り殺し尽くす。

 やがて双王の死闘に決着がつく。征服王はダレイオスの右手戦斧を両断。戦象はブケファラスを叩き殺す。地を転がる征服王は、ダレイオスの左手戦斧を剣で耐え凌ぎ、起き上がりざまに駆けて、なんと固有結界を解除。世界が極光に包まれた直後、王の軍勢は退去し、悪魔陣営と不死隊はそ(・)の(・)位(・)置(・)が(・)入(・)れ(・)替(・)わ(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)。

「なにっ!?」

 エミヤが驚愕する。宝具《王の軍勢》は、その解除時、固有結界に取り込んだ対象を、ある程度好きな位置に下ろすことができる。固有結界を使える者なら誰もが有しているであろう、現実空間の位相に干渉できる能力だ。その原理を用いた征服王イスカンダルは、今まで王(・)の(・)軍(・)勢(・)と(・)不(・)死(・)隊(・)が(・)正(・)面(・)衝(・)突(・)し(・)て(・)い(・)た(・)盤(・)面(・)を、悪(・)魔(・)陣(・)営(・)と(・)不(・)死(・)隊(・)が(・)一(・)秒(・)後(・)に(・)正(・)面(・)衝(・)突(・)す(・)る(・)盤(・)面(・)に書き換えて、無限の剣製の戦場に下ろしていた。

 刹那、七海やちよが音速五十号を遥かに超える虹霓を描く。瞬く間に不死隊を屠っていくが、それは悪手。環いろはによる大量の真名看破が念話によって届けられる。どうやら征服王はそのカリスマによって、事前に他のサーヴァント軍勢を召し抱えていたようだ。

「殺すゥウウウ! 殺すゥウウウウ゛ウ゛ッッ!! 《血塗れの戴冠式(ブラッドバス・クラウン)》!!」

 真名、エイリーク・ブラッドアクス〔バーサーカー〕が、宝具発動寸前で七海やちよに瞬殺される。支援呪術が七海やちよのソウルジェムを苦しめて破裂へといざなう。魔力のフル回転を続ければ本当に破裂すると驚いた七海やちよは止まらざるを得ない。そこに────あってはいけない光景が、四方の大地を囲い、四方の上空に整然と整列していた。

「おとなしく死ぬがよい。《東西南北の竜牛巨鳥(ヘイムスクリングラ)》!」

 真名、スノッリ・ストゥルルソン〔キャスター〕。宝具は、現代のアイスランドの国章に描かれている“自己保存の大盾”と、アイスランドの守護者たる四体の幻想種(ランドヴェッティル)の魂を召喚する能力。召喚された魂は霊体ゆえ、肉体を構成する素材を必要とする。その素材とは大地自然や人工物を問わない。鋼鉄ビルの破片から巨大な盾を錬成し、巨大湖の大水は大きく逆巻いて巨大な竜を象り、森林の木屑は巨大な鳥の姿を思い出し、泥の土は巨人の形を模し、大地に散らばる岩石は巨大な牡牛を形作る。斯くて、北東の守護者ドラゴン、北西の守護者グリフォン、南東の守護者ジャイアント、南西の守護者オックスは、悪魔陣営と不死隊を囲い込む。大盾はスノッリを守護しており、Bランク相当の堅牢な守りを有する。

「ハッハァ! ようやくこっちのターンが回ってきたぜ! さぁ皆殺しだァ!! 《宵闇の狼(クヴェルドウールヴ)》!!」

 真名、エギル・スカラグリームソン〔バーサーカー〕。宝具は、夜の間に月を見ると狼に変身する能力。だが今は朝方。しかし魔法少年となったことで固有魔法《月光作成》を獲得。その魔法を使うことで月の光を浴び、強制的に狼に変身する。狂化Aランクと同等の効果を得、肉体には再生能力が付与される代わり、銀製の武器を弱点とする。

『……同位体、顕現開始。同期開始、照準完了。みんな、行くよ。真名解放……《終末幻想・少女降臨(ラグナロク・リーヴスラシル)》!!』

 真名、ワルキューレ〔ランサー〕が東に十万騎、ワルキューレ〔ライダー〕が西に十万騎、ワルキューレ〔アサシン〕が南に十万騎、ワルキューレ〔コロニー〕が北に百十万騎。合計140万騎のワルキューレによる対軍宝具が一斉掃射される。

 射程武器の長所は、近接武器と比べて“火力を集中させやすい”点にある。接近戦の場合、一人に掛かれる人数は四方を取り囲んだ時点で四人が限度。だが射撃戦の場合、一人に掛かれる人数は距離の数だけ存在できる。十メートル先からの狙撃と、十五メートル先からの狙撃。その狙撃が同方向からの攻撃だとしても、高低差が生まれるのなら、味(・)方(・)の(・)背(・)中(・)を(・)撃(・)つ(・)こ(・)と(・)も(・)な(・)く(・)、実質無限の総攻撃が可能となる。

 刹那、絶命の光輝が燦然と輝く。王の軍勢の中に紛れていた北欧陣営は、征服王イスカンダルの指揮通り、固有結界の解除に合わせて猛威を奮い始めた。しかし悪魔沢田綱吉は、こ(・)の(・)展(・)開(・)を(・)知(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)。征服王の心を読むことで、北欧陣営を引っ張り出さなければいけない状況に追い込んだ。そのための無限の剣製。王の軍勢で不死隊を倒すことはできても、その後は軍勢の過半数が殺されたことで固有結界が維持できず、エミヤの固有結界に囚われる。そうなれば趨勢は一気に逆転。後手に回った征服王と北欧陣営は、悪魔陣営と対等に戦い合うことになる。必勝戦術は奇襲にあり。その展開を避けるべく、征服王は絶妙なタイミングを見極めて自ら固有結界を解除し、悪魔陣営に奇襲を仕掛けた。ならばと悪魔沢田綱吉は、か(・)の(・)征(・)服(・)王(・)の(・)軍(・)略(・)を(・)相(・)手(・)に(・)、(・)た(・)と(・)え(・)心(・)が(・)読(・)め(・)て(・)い(・)て(・)も(・)、(・)そ(・)の(・)奇(・)襲(・)は(・)回(・)避(・)で(・)き(・)な(・)い(・)”と悟り、その奇襲を受けて立った。

 死炎轟爆噴。悪魔沢田綱吉の逆転勝利が限界を極める。七海やちよの傍らに滑り込みソウルジェムに触れて叛逆行使、幸運英霊召喚。喚び出すはコロニーのサーヴァント。展開する召喚魔法陣。そこに叩き込まれる絶命光輝。刹那を争う魔法行使の中、悪魔は叛逆魔法で今から召喚されるサーヴァントの宝具詠唱を代行した。

(────同位体、顕現開始。同期開始、真名解放。絶望に恋し、希望を愛し、人知の未来を切り拓け!)

「マスター承認。魔力回路、接続開始。《終末幻想・少女騎行(ラグナロク・ワルキューレ)》!!」

 真名、ワルキューレ〔コロニー〕。目には目、歯には歯、ワルキューレにはワルキューレ。エクストラクラス・コロニーのワルキューレは、彼女自身が宝具となる。英霊としての性質は百貌のハサン・サッバーハと類似。その宝具とは、マスターの魔力量に合わせて、戦乙女(ワルキューレ)が群体として召喚される能力。悪魔沢田綱吉はサーヴァント化したことで多少の魔力を持ち合わせており、さらには笹川京子のソウルジェム、水泳の魔女のグリーフシード、そして六つのハーフソウルリングにより────最大百騎のワルキューレ召喚に成功。叛逆魔法で最大数を突破したいが間に合わない。そこで青音すずが叛逆魔法を行使した。最大数を超えて数万に及んだワルキューレの大軍は、クラス別能力《機軍行動:A》により、一糸乱れぬ機動行軍で飛翔。マスターの意思に応じて自ら肉壁となり、敵の燦然光輝爆撃を対軍宝具《終末幻想・少女降臨(ラグナロク・リーヴスラシル)》で迎え撃つ。中空極大爆発の連続。止むことのない爆撃が天地を分かつ。

 恭弥が雲ハリネズミの裏・球針態を発動。ランサーは全種ルーン解放。ブーディカやエミヤが防御宝具を緊急解放。セイバーも聖剣を抜き放ち、大薙の光輝奔流で千騎のワルキューレとその宝具を撃墜していく。

 斯くて轟然と唸り狂う空間は轢断されて亜空間と化し、次元の壁を打ち壊して一時的に神代に匹敵する魔力濃度へと高まる。蹂躙され暴虐される剣の墓標。宙に浮かぶ巨大歯車は墜落し、紅い空は鮮血のように彩りを増す。神の鉄槌の如し絨毯爆撃の中、恐るべき再生能力で死にながらに駆け抜けるエギルは、悪魔陣営に跳躍突貫。ベミヤと赤兎馬を牙と爪で瞬間殺害し、ナイチンゲールの霊核を射抜く────が、白衣の天使の心臓を貫いたエギルの腕は、彼女自身の豪腕により砕き折られた。

「ギャアアアアア!! AGAAAAAAAA────!!」

 痛覚あれど、エギルは瞬間再生してナイチンゲールを殺そうとする。刹那、白衣の天使は頚動脈を噛み切られ、右腕を切り飛ばされ、胴体にいくつもの風穴をくり抜かれようと、弁慶の如き仁王立ちをかまし、宝具を言祝いだ。

「すべての毒あるもの、害あるものを断ち、我が力の限り、人々の幸福を導かん……! 《我はすべて毒あるもの、害あるものを断つ(ナイチンゲール・プレッジ)》!!」

 ナイチンゲールの背後に、彼女の精神性が具象化した“白衣の女神”が降臨。清浄なる青光の斬撃(メス)が戦場に振り下ろされる。刹那、固有結界の中にある全ての攻撃が無効化された。九騎のヘラクレスの神速攻撃に対しては間に合わなかったが、今度は何が何でも間に合わせる。ナイチンゲールの消滅と合わせて、悪魔沢田綱吉が叫んだ。

「総員ッ!! 反撃だァっ!!」

 大空の炎の調和で、七海やちよのソウルジェムを苦しめるグンヒルドの呪詛を焼き払った悪魔沢田綱吉は死炎轟爆。虹霓を描く七海やちよと共に征服王を狙う。立ちはだかる二騎のプトレマイオスの霊核を殴り抜き、刺し貫く。暁美ほむらの狙撃がエギルの霊核を穿ち、セイバーの聖剣がドラゴンを殺し、アーチャーの強弓がグリフォンを撃ち落とし、山の翁の斬撃が巨人の首を落とし、美琴椿の居合い切りが牡牛の霊核を一閃する。鹿目まどかの光矢とランサーの魔槍投擲が上空のワルキューレを次々と討ち滅ぼし、セイバーの聖剣が地表に広がる征服王の家臣軍勢を再び一掃、斯くて音速七十号の虹槍が征服王の剣キュプリオトと激発した直後、彼の背後に回っていた悪魔沢田綱吉が貫手、霊核を打ち砕いた。

「ゴボッ────見事……あぁ、此度もオケアノスは、見れなんだか……」

 征服王イスカンダル消滅。次の瞬間、魔力を回復した上空の敵ワルキューレ百万騎が一斉に急降下。接近的殲滅戦を仕掛けてくる。

「エミヤ! 固有結界は死んでも解くな!! ここで解いたら、百数万騎の戦乙女(これ)にプラスして数万の敵軍を相手取ることになるッ!!」

「わかっている! マスターこそ死力を尽くせッ!!」

 恭弥の一撃。自己保存の大盾を打ち砕く。スノッリの頭部をトンファーでかち割り、立て続けに襲ってくるワルキューレを撃ち殺し蹴り殺し、雲ハリネズミの大増殖で串刺しにしていく。一方、佐倉杏子も疾風迅雷。真紅の閃光はワルキューレの霊核位置を分析。同位体ゆえ霊核位置は変わらない。あとは同じ箇所を朱槍で突き刺すだけ。最効率にして最低限の身体稼働にて敵軍を殺し尽くす。

「準備はいい?」

「任せたまえ!」

 天乃鈴音とマーリンの合体技。天乃鈴音の宝具は最大捕捉数1人だが、そこをマーリンの幻術スキルで誤魔化し、ソウルジェムを溶かす炎を広範囲に延焼させる。その炎に触れたワルキューレは、身体的に火傷する程度だが、呪術的に対魔力と霊基をすり抜けて霊核と対をなすソウルジェムに引火。羽虫を落とすように数万のワルキューレは魂が焼け死んで消滅していく。そのさまは、まるで大量のイカロスが失墜するような光景だった。

 

 それから一時間が経過。現在時刻は朝の九時ごろ。百四十万騎のワルキューレを鏖殺し、悪魔陣営は最後の一騎を殺して一息つく。もはや満身創痍で疲労困憊。呼吸さえ忘我して戦い続けた魔法少女たちの心身は限界の遥か先を超えている。

「ッ────ハァ、ハァ……エミヤ、固有結界は、あと、どれくらい続く……」

「……女神たちが力を貸してくれているが、そろそろ限界だ。しかし休む時間くらいは……なんとかして稼ごう」

 エミヤは大きく呼吸して肩を上げ下げしている。サーヴァントでさえ息が上がる状態。悪魔沢田綱吉が召喚したワルキューレ〔コロニー〕も、既に大半が殺されている。どれだけ魔力があっても追加召喚は難しいようで、もし叛逆魔法で追加召喚を試みれば彼女の霊基は瓦解するかもしれない。

 悪魔沢田綱吉は直感する。自陣の士気が低下している。主に魔法少女の士気だ。極限まで疲弊し、やつれた顔。この世の地獄という地獄を味わい尽くしたかのような絶望の表情。それを目にした悪魔沢田綱吉は、胸の中につっかえるものを感じた。

「そう、それだよ、悪魔。その心を忘れてはいけない」

「……マーリン……?」

 ふとマーリンが声をかける。少し疲れたような笑みを浮かべてあぐらをかく花の魔術師は、千里眼の持ち主として、先達ゆえのアドバイスを送る。

「君とあのバカ(ギルガメッシュ)は、ちょっと似てるところがあるね。王としての責務ってやつかな? それが無意識にだが、君の中にもあるようだ。さすがはボンゴレファミリー次期ボス候補!」

「ケンカ売ってんのか」

「いやいや! はは! ……ただね、先輩として、これだけは言っておくよ。千里眼持ちに先輩後輩は関係ないと言うけど、それでも君は新参だ。なぜなら君は生(・)ま(・)れ(・)な(・)が(・)ら(・)の(・)異(・)端(・)者(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)。だからおとなしく、大人の言うことは聞いておきなさい。僕も多少は家庭教師(導き手)として、君を支えてやりたいのさ」

「…………」

 悪魔沢田綱吉は、マーリンの心情を直感できない。それは非常に複雑怪奇で、もはや宇宙人なのでは? と思うほどの倫理観と価値観を備えているからだ。つまり現代の地球に生きる若者としての価値観を持つ悪魔からしたら、まったく理解できない精神構造をしている。故に、彼の口から何が飛び出すか、まったくもってわからない。

 

「────正しさよりも、優しさを」

 

          ♪~Re:make~♪

 

 悪魔沢田綱吉は息を止めて目を見開く。それは究極超直感による究極的な未来光景を目にした時、常に気を付けようと思っていた倫理観である。そのことを悪魔沢田綱吉は、マーリンの言葉で思い出した。

「確かに君の行動はこの上なく正しい。誰にも理解されないが、誰にも否定できない正しさに満ちあふれている。……だがそれは決して、優(・)し(・)さ(・)に(・)は(・)満(・)ち(・)あ(・)ふ(・)れ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)。君の取り柄を思い出せ。無力で、脆弱で、矮小で、何をしても失敗する男の子。そんな君の唯一の取り柄はなんだった? あまり自覚していないようだから、僕が教えよう。君はね。本来は、とても優しい子だったんだよ?」

「……逃がせ、というのか」

「今は一応、君がマスターだからね。命令とあらば、花の魔術師の名に懸けて、彼女たちを守りきることくらいはできるさ。一時的に楽園に避難させるとか、なんとかしてね」

「…………」

「判断は任せるよ。彼女たちを逃がすことが、もしかしたら最大の失敗になるかもしれない。だがこのまま夕刻まで生き残れるとはとてもじゃないが思えない。というか、既にここまで生き残っていること自体が奇跡だ。さて、奇跡はそう連続するものかな?」

 悪魔沢田綱吉は考える。たとえ、ねずみ算式の英霊召喚であろうとも、同一の英霊が四十万騎も召喚されるのには、何か意味があるはずだ。────戦乙女、魔法少女。まさか大神オーディンは、ワルキューレの素材にソウルジェムを使用したとでもいうのか? ならば理屈は合う。QB魔法界と関わりのある英霊は、それだけ魔法少女が関わる聖杯戦争に召喚されやすいはずだ。なぜなら魔法少女のソウルジェム自体が、その英霊の触媒となるのだから。

(おそらく北欧系のサーヴァントが召喚されてから、爆発的にワルキューレが召喚されたに違いない。一騎のワルキューレが七騎のワルキューレを召喚し、七騎のワルキューレがそれぞれ七騎ずつワルキューレを召喚する……もしかしたら今もそれが続いている? だとしたら────)

 エミヤの固有結界を解いた瞬間、眼前には同じ顔があまりない敵サーヴァント軍勢が待ち構えており、上空を見上げれば数億を越すワルキューレがこちらを見下ろしているかもしれない。そうなれば生き残れる者は、抑止力の守護者だけである。

「……マーリン、頼む」

「……わかった」

 次の瞬間、悪魔の胴体を音速の朱槍が貫通した。晴の炎の活性効果で腹部の孔はみるみると治る。

「────佐倉」

「バカ、聞こえてんだよ。魔法少女の聴力をナメんな。……あたしは残る。連れて逃げるなら、ほかの奴らにしな」

 佐倉杏子は多節棍を手繰って朱槍を手元に戻す。全身血まみれ傷だらけだが、魔力を回して治癒していく。

 一方、青槍を杖にしてしゃがみこんでいた七海やちよが立ち上がる。

「同感ね。水臭いわよ、悪魔。少なくとも私は貴重な戦力のはず。ミネルヴァの時のように、独りで全部背負い込むのは無しよ。それにそもそも悪魔の命令には妥協性がある時しか従わない。なんたって、うちのリーダーはいろはだもの」

 二葉さなは、環いろはの透明化を解く。その傍らにピジョットとスピアーが降り立つ。

「悪魔さん。私とさなちゃんも残ります。ただし、これよりみかづき荘は、マギウスの本拠地に乗り込もうと考えています。このままじゃ、らちがあきませんから……」

 オタチを首に巻く暁美ほむらが立ち上がる。傍らにはドーミラーとエルレイド。

「私も……みかづき荘に同行します。まどかも行こう? だって、もう、私はサーヴァントとの戦いに付いて行くことができない……それに悪魔さんは逆転勝利を使えるから、きっと単独行動した方が強いと思う……」

 鹿目まどかが言う。

「なら問題は、どう敵陣を突破して本丸に近付くか、だよ。今まではそれができなかったから、結局、悪魔さんと一緒に行動して生き残ろうとしたんだし……だから、つまり、戦力も必要だけど、手札を増やした方がいいよ! 私が召喚したナイチンゲールさんも殺されちゃったし……また英霊召喚とかは、できないのかな……」

 悪魔は思案する。魔法少女たちが自発的に行動を始めた。これを諌めるか、これを勧めるか。悪魔は決断を迫られる。

「……巌窟王の脱獄宝具とオレの叛逆魔法を組み合わせれば、大勢でマギウスのアジトに侵入できるだろう。そこに横槍を入れてくる敵宝具はナポレオンが撃ち落とせばいい。既に突入できる手札は揃っているんだ。しかしアジトの中にも大量のサーヴァントが待ち構えているはず。オレ無しでそいつらとどう戦う? ……やはり最初から大人しく逃げてくれていた方が、こっちとしては楽な仕事だったんだがな……」

 悪魔の嘆息。測定型の未来視を持つ者としては、それ以外の人物の行動は全て無駄に見えてしまう。だがそれでも人としての倫理観を忘れまいと、悪魔沢田綱吉は策を授ける。

「やちよ。できるか」

「むしろ出来ないと思う?」

「ほむら。巌窟王を出せ。やちよだけをマギウスの本拠地に送り込む。いろは、それでいいな」

「えっ……」環いろはの狼狽。

 七海やちよの魔力速は、既に音速三百号に至っている。それは雷速に匹敵する速さだ。百万騎のワルキューレの希望を継承したことで、魔法少女としては無双の域に到達している。もはや誰も彼女を止められない。神速級のサーヴァント以外は。

「いろは、行かせて。今の私なら、きっと大丈夫だから」

「やちよさん……っ……でも……本当にそれで、いいんでしょうか? どうせ行くなら、私たちも……」

 悪魔が忠告する。

「正直邪魔なんだ。やちよを送るか、楽園に逃げるか、二つに一つ。今すぐ選べ。オレもやちよも単騎の方が強い。いちいちお前らを庇いながら戦闘するのは骨が折れるんだ。逃げるのが嫌なら自害してやちよに魔法を託せ。オレは何度もそう言っているはずだが」

 何度も。大樹迷宮の頂きで、絶望したなら自害しろ、という言葉はそういう意味だったのか。環いろはは歯噛みする。そこでアーチャーが言った。

「そろそろ固有結界が解ける。大事な決断なら、なおさら急いでくれ。変化を好まないというなら、私はこのまま戦い続けていいと思うがね。本丸に挑めなくて痺れを切らす気持ちも分かるが、守護者としては君たちも抹殺対象なんだ。手を下さず死んでくれるなら、こちらとしてこれほどありがたいことはない」

「皮肉を言っているヒマがあるなら一秒でも伸ばせ」

 エミヤの顔色が悪い。相当無理して固有結界の展開を維持しているようだ。悪魔は可及的速やかに指示を出す。

「おそらく現実空間の位相に戻ったら、最悪ワルキューレの軍勢が待ち構えている。その場合、空を飛べる者は空中戦闘で鏖殺。地上組はいつも通りやれ。……ただしピジョットとスピアーは空中戦闘に参加するな。お前ら影が薄いと思ったら、いろはと視覚共有して真名看破の範囲を広げていたのか? ならばそのまま偵察・索敵を任せる。さて、総員、疾うに限界は超えているだろうが……また次の正念場に向かう。死ぬと悟った者・諦めた者は、やちよにあとを託せ。────行くぞ!!」

「……はぁ。仕方ないわね。いろは、話はまた後で。絶対に死なないでよ」

「やちよさん……判断が遅くてすみません……でも────はい! さなちゃん、透明化よろしく! 私は真名看破でみなさんを援護します!」

 環いろはが透明化。アーチャー・エミヤの固有結界が限界を超えて崩壊し強制解除される。

 

 視界暗転光芒明滅。空間位相が現実に戻った刹那、感覚が飽和するほどの殺気を直感。予想通り、遥か上空には大嵐の曇天を埋め尽くすほどのワルキューレが五百万騎ほど待ち構えていた。地上には空を飛べない敵サーヴァント軍団の顔ぶれ。即時宝具が叩き込まれる。次の瞬間、アレキサンダーらしき声が轟いた。

「行け、タマモ!」

「了解だワン! キャットの大王よ! 《燦々日光午睡宮酒池肉林(さんさんにっこうひるやすみしゅちにくりん)》!!」

 真名、タマモキャット〔アルターエゴ〕。宝具は、とにかく敵陣がとんでもないことになる超絶怒涛の攻撃。悪魔陣営に宝具を叩き込もうとして先陣を切った三十騎のサーヴァントを撃滅する。続けてアレキサンダー陣営が大量の宝具をマギウス陣営に打ち込んだ。しかし────

 

「我が旗よ、我が同胞を守りたまえ! 《我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)》!」

 真名、ジャンヌ・ダルク〔ルーラー〕。宝具は天使の祝福により味方を鼓舞する鉄壁の守護結界。数百の対軍宝具を受け止めるたび旗は傷つくが、彼女の後方に広がる数十万騎のサーヴァントを守りぬく。

「悪魔よ! 罪なき少女を率いてなんとする! さっさと退かせて我らと死合なさい!」

「あいにくそう簡単に言うことを聞いてくれるほど、魔法少女ってのはお淑やかじゃなくてね! あんたみたいに!!」

 死炎噴射。悪魔とジャンヌのガントレットが激突する。そのまま殴り合いに発展。旗槍の薙ぎ払いを死炎噴射で躱し、死炎拳打を鎧で弾く。

「悪魔よ! 聖人ゲオルギウス、聖女マルタ……両名から貰った秘蹟は、いったいどこへやったのです!」

「────?」

「……っ! そうですか……かの聖人がふたりがかりで秘蹟を授けても、まだ足りぬと……ならば! 笹川京子……否! 悪魔 沢田綱吉よ! それほどまでに罪深い、あなたの身に沈む呪い! 自ら聖人と名乗るにはおこがましいですが、我が秘蹟も合わせ、啓示に従い、導かん! ────主よ、この身を捧げます。《紅蓮の聖女(ラ・ピュセル)》!」

 その宝具はジャンヌ・ダルクそのものとも言える固有結界の聖剣転用。彼女の心象風景を概念武装(一本の炎剣)に結晶化させ、サーヴァントたるジャンヌ・ダルクの消滅に伴い、対象に規格外の攻撃をもたらす。そしてジャンヌ・ダルクは消滅間際、霊核が砕かれたことで支配が解かれたことを確認し、すかさず聖人スキルを発動。“聖骸布の作成”を選択し、紅蓮の炎を燃やす火炙りの聖剣を悪(・)魔(・) (・)沢(・)田(・)綱(・)吉(・)に託した。それは支配英霊として、マギウス陣営に対する明確な裏切り行為に等しい。

「な────に?」

「聖人ゲオルギウスからは“HP(生命)の自動回復”を。聖女マルタからは“格闘による浄化の秘蹟”を。そして私からは“聖骸布”を。────さぁ行きなさい、少年。悪魔の名には相応しくない、ちょっと他人より劣るけど、誰よりも優しい人の子よ────」

 ジャンヌ・ダルク、黄金の粒子となって消滅。

(今までオレは、こうやって何度も、どれだけの人に助けられてきただろう)

 悪魔沢田綱吉は火炙りの聖剣を手に取る。死炎轟々爆発噴射。一息に遥か上空まで翔んでワルキューレの軍勢と激突する。その後方に悪魔沢田綱吉のサーヴァント・ワルキューレ〔コロニー〕の数十騎が追随。マスターの攻撃を支援する。

 

「こらーダーリン! またほかの女の子サーヴァントを口説いたわねぇ~~!!」

「いやちがうんだって。さっきのはほら、あれじゃん……ねぇ?」

「何が“ねぇ?”なの!? もー許さない! あれいっちゃうわ!」

「え、“あれ”ですか!? あれだけはやめてください!! 神相手になんでもはしませんけど!」

「うるさいうるさーい! あの悪魔って子を見習って、一途とはなんなのかをお勉強してきなさい!」

「イヤだぁあああ!! つーかあいつもかなりのプレイボーイに見えるんですが!?」

「────《射法・玉天貫(みこっと)》ォオッ!!」

「いやぁあああああああああああ────!! 男のあんなところに顔面ぶつけたくなぁあああい!!」

 真名、オリオン〔アルテミス〕〔アーチャー〕。地獄の戦場には似つかわしくない、ひとりの浮気男の地獄のような絶叫が、悪魔の股間に差し迫る。すかさず死炎爆噴で躱すが、女神の矢は物理法則を無視した軌道で標的の股間を追尾。逆転勝利が極まる中、激突直前にオリオンの首を刎ねる。

「あ、死んだ。霊核、逝ったわ……」

「わーんダーリン……! これで一緒に星になれるね!」

「あんま怖いこと言わないでぇ!?」

 オリオン〔アルテミス〕消滅。直後、悪魔の斬撃の隙を突いて無数のワルキューレと竜の翼を生やすエリザベート=バートリーが突撃してくる。戦闘機のような超音速格闘戦。その全てを極まる逆転勝利による瞬間イクスバーナーで殺し尽くした瞬間、魔人悪魔とすれ違う。数百のワルキューレを一瞬で喰らい尽くす魔人悪魔は、敵味方の見境なく悪魔沢田綱吉を襲う。

 

「はぁまったく。世話が焼けますねぇ────《水天日光天照八野鎮石(すいてんにっこうあまてらすやのしずいし)》!」

 真名、玉藻の前〔キャスター〕。別霊基ゆえ記憶は持ち越せないはずだが、変化スキルを使用して尻尾を増やし、高ランクの神性スキルを獲得。白面金毛九尾のギリギリに近付くことで、以前の召喚の記録を持ち越してきたらしい。

 突如、悪魔沢田綱吉の眼前に張られた隔絶結界。それに激突した魔人悪魔は跳ね返されて墜落するも、すぐに急上昇して近くにいたワルキューレの集団を殺しまくる。目に映るもの全てを食い殺す勢いは途轍もない。そして呪術により空中に浮かぶ玉藻の前は、悪魔沢田綱吉に会釈する。

「ご無事ですか、マスター? まったく、あの海賊黒ひげ野郎、今度会ったら蜂の巣にしてやりますか……」

「玉藻。ランサーの援護を頼む」

「えー。感動の再会もクソもないですね! しかし承りました。この玉藻の前、全身全霊でご奉仕いたしまーす!」

 玉藻の前はランサーの戦車に同乗。次の瞬間、無限の魔力を得たランサーの殺戮技巧は鋭さを増す。

 

 一方地表では、とある羊飼いが曇天を見上げていた。

「ふむ……“悪魔を発見次第、宝具を使用せねばならない”か……じゃあ1(アレフ)、《五つの石(ハメシュ・アヴァニム)》!」

 真名、ダビデ〔アーチャー〕。宝具は巨人ゴリアテを倒した投石器。四発の警告後、致命の五発目を放つ。しかし緊急時は一発の警告からの即発射が可能。そして投石が命中した者は意識不明に陥るか、ダビデに主武装を奪われる。

「っ!?」

 悪魔沢田綱吉の逆転勝利が極まる。それは自分に対してではなく、魔人悪魔に対しての超直感。死炎轟爆。魔人悪魔に命中する投石を庇う瞬間、主武装たる紅蓮の聖女を手放す。霊基を貫かれた悪魔沢田綱吉は意識明滅のち自由落下を始める。コロニーのワルキューレがマスターを守る中、地表の悪魔陣営もダビデ抹殺に動く。

「まぁそう来るよね。となると僕は《燔祭の祭壇(サクリファイス)》を使うしかないんだなぁ!」

 神浜市の上空に、シナイ山を思わせる雷雲と霧が立ち込める。直後、天より遣われし業火が降り注ぐ。それは敵味方を問わず、神の意に沿わぬ者を焼き尽くす。血しぶきの一滴に至るまで焼熱する宝具は神浜全土に爆灼し、あらゆるものを灰燼と帰す。

「えぇっと、それと《契約の箱(アーク)》は置いていった方がいいかな? それとも持ち帰る? 僕はどちらでもいいよ。ただし扱いには要注意だ! 触れたら消滅しちゃうからね!」

「と言いながら、悪魔(かれ)の墜落する場所にアークを置いているのはどういうことなんですぅ?」

「ほら、そこは君が! サーヴァントたるもの、きちんと務めは果たさないとね! そしてマギウスには慰謝料を請求する! これはサーヴァントの人権侵害だ! 令呪だけならともかく、人格の尊厳まで支配の魔法で縛るなんてひどいじゃないか!」

「はぁ……尊厳破壊については同感ですけどぉ……いつも通りでなによりですぅ。では────《三つの謎かけ(スリー・エニグマズ)》!」

 真名、シヴァの女王〔キャスター〕。意識を失った悪魔沢田綱吉が、頭からアークに激突する瞬間、三匹の霊鬼が悪魔沢田綱吉を蹴り上げ、さらに遠方に殴り飛ばし、最後は莫大の魔力を投げて叩きつける。逆転勝利が極まる中、ギリギリで意識を──そして秘蹟により霊基を──回復した悪魔沢田綱吉は、虹色の死ぬ気の炎を壁となるようなびかせてガード。着地と同時、四方八方から飛び込んでくる敵サーヴァント軍勢を打ち砕いては殺し尽くす。

「やぁ悪魔。もうひとりの君は随分と苦しそうだね。アークで楽にしてあげたらどうだい?」

「────っ!!」

 悪魔沢田綱吉は、ダビデの心情を直感。その手があったかと閃いた。すかさず死炎轟噴で緊急上昇。魔人悪魔の眼前に姿を晒して引き付ける。アークとは契約の箱。そして契約魔法の使い手たる悪魔は、契約とはどういうものなのかを知っている。

「契約とは、都合の良い時に守り、都合の悪い時に破るものだ。伝承の悪魔は契約に厳格(曖昧)なことが多く、契約を破るのは大抵神々の方が多い。ならばオレは契約に厳格か? 否、ど(・)ち(・)ら(・)も(・)契(・)約(・)の(・)使(・)い(・)方(・)を(・)間(・)違(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)。真の契約とは使(・)う(・)も(・)の(・)だ。契約(ルール)は守るものでも破るものでもない。賢く生きるため使いこなす。そのためにこそ存在する!」

 悪魔沢田綱吉の旅路の知慧スキルが発動。摂理への叛逆こそ彼の真骨頂。叛逆魔法を行使しつつ、ほんの一瞬だけ魔人悪魔をア(・)ー(・)ク(・)に(・)触(・)れ(・)さ(・)せ(・)る(・)。次の瞬間、触れたモノの魔力を問答無用で奪い尽くし消滅に導く契約の箱が反応。魔人悪魔の魔力を吸い尽くすが、そもそも彼は人間だ。魔力は持ちえない。しかし触れたならば何かを奪うのが契約の箱。ならば奪い取るべきは、その生命(いのち)か────否、叛逆魔法によって指向性が変わる。奪い取るべきは瘴気となり、魔人悪魔の魂と肉体、精神を侵していた瘴気がごっそりと消えてなくなった。

「────っ!!? ぐっ……!!」

 疑似魔人化解除。突として覚醒した悪魔は満身創痍・疲労困憊の体で迷宮の屋根に激突して激しく転がり意識を失う。すかさずダビデとシヴァの女王が殺しにかかるものの、ランサーの対軍魔槍が飛来、着弾し、悪魔に飛びかかった周囲の敵サーヴァントを撃滅せしめた。悪魔沢田綱吉は生前の自分の傍らに降り立ち、その顔面に火炙りの聖剣を突き刺す。極まる逆転勝利。強引に覚醒された悪魔は意識が明滅する中、聖剣の刺突を回避した。

「っ!?」

 対話は不要。互いに心を直感して、今までの記憶と思考を共有する。もうひとりの自分と対面するとは不思議な気分だ。これにて出番交代。サーヴァントの悪魔沢田綱吉はワルキューレ軍団の鏖殺に集中する。人間の悪魔は火炙りの聖剣の柄を握り、再び聖杯戦争に身を投じる。

「────そうか。オレがヤバかったあいだ、みんなを守ってくれてありがとう」

「自分自身に礼なんてよせ。当然のことなんだから」

 悪魔沢田綱吉は飛び立つ。悪魔は概念結晶武装たる火炙りの聖剣を引き抜いた瞬間、背後からの必殺斬撃を時雨蒼燕流の回避奥義・五風十雨で退き躱した。

 

「おぉっと今の必殺を躱されると、オジサンちょっとムキになっちゃうかな!」

 真名、ヘクトール〔セイバー〕。

「────へいへい。無駄口叩いてないで、この悪魔って子を殺ればいいんでしょっと」

 彼は悪魔と剣戟を交わしつつ、念話で誰かと話しているのか、戦闘中に頭を掻いて心底ウンザリとしている。だが油断ならない。飄々としていながら、その技の冴えは常に必殺となっている。

「正味、気は乗らないけど、オジサンやると決めたら張り切っちゃうタチだから悪いね! ……あぁでも、お前さん────ぶっちゃけた話、逃げた方がいいよ?」

 それはどういう意味か。超直感をもってしてもヘクトールの内心が読み切れない。どうやら読心術の対策法を有しているようだ。さすがは九偉人の一人というべきか。次の瞬間、悪魔の逆転勝利が極まる。

「標的確認、方位角固定……《不毀の極剣(ドゥリンダナ・スパーダ)》! 消し飛びなぁ!!」

 その宝具は、覇者の剣の原型。柄の空洞に篭められし圧倒的な魔力が外部に漏出し、迸る魔力が刀身を滑走するタイミングで振り抜くと、対象に飛来する黄金斬撃となって空間を切断する。死炎轟爆で緊急回避。しかし逆転勝利の高まりは依然として上昇中。

「システムアポロン、起動! トロイアスバレル、チェック! サンライトオーバー! 3、2、1────《輝かしき終天の一矢(トロイア・ヴェロス)》! 発射ぁ────っ!!」

 真名、パリス〔アーチャー〕。宝具は、いかなる障害をも乗り越えて対象の急所に必中する太陽神が渾身の一矢。悪魔の弱点とは右眼球内部・笹川京子のソウルジェム。これが砕かれることは悪魔の敗北を意味する。故に極まる逆転勝利。しかし必中の概念は必ずや急所を打ち砕くだろう。概念同士の矛盾衝突。勝つのは無論、より神秘の高い方。しかして神秘は古い方が強い。だが、その理に従いながら叛逆する悪魔がいる。逆転勝利の呪いによって高まった叛逆魔法で必中効果を阻害。究極の一矢を火炙りの聖剣で跳ね返し、着弾時、そばにいたヘクトールに爆風が被弾。すかさず悪魔は死炎爆噴で急接近、ヘクトールの霊核に聖剣を突き立てた。

「この程度の窮地、この数刻でいくらでも乗り越えてきた」

「あっそう。なら“アレ”はどうする?」

 ヘクトール消滅。上空を蹂躙する悪魔沢田綱吉がパリスの霊核を打ち砕いた。そして悪魔は、今際の際に消え入るヘクトールの苦笑から、その心情を直感する。刹那、恐怖、悪寒、冷や汗、身震いが、悪魔を襲った。とうとうこの時が来たと悟る。脅威度は九騎のヘラクレスに匹敵する。悪魔は吼えた。

 

 

 

          †

 

 

 

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