※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【中盤戦② 叛逆並航海者 アルティメット・コスモス ‐data世界線‐】

FGOマテリアルとの戦い②



【《揺籃の大空よ、呪われし赤ん坊を言祝げ(リトルクイーン・アルコバレーノ)》】ユニ〔大空のアルコバレーノ〕

 

「この程度の窮地、この数刻でいくらでも乗り越えてきた」

「あっそう。なら“アレ”はどうする?」

 

 ヘクトールは黄金の粒子を弾いて消滅。

 刹那、彼の心を読んだ悪魔は天を仰ぎ、とにかく吼え猛った。

 

 

 

          †

 

 

 

          ♪~Hacking to the Gate~♪

 

「ッ……!!? クソッ! ──狙うならオレを狙え!! ────アキレウスぅっ!!」

 環いろはの真名看破が間に合わない。あまりにも速すぎて魔法の対象として捉えられない。上空にて神速の韋駄天が縦横無尽と駆け抜け、あまねくサーヴァントを轢き屠る。

「へぇ、俺を呼ぶか! いいぜ、立ち塞がってみろ! 我が命運と戦車は流星の如く、容赦なくおまえを轢き潰す! 《疾風怒濤の不死戦車(トロイアス・トラゴーイディア)》────!!」

 神速。たったその二文字だけで、かの大英雄アキレウスは刹那の間際、神浜全土のサーヴァントを皆殺しにしてみせた。支配魔法なぞ何するものぞ。英雄ならば愛と義のない命令には叛旗を翻し、己が信念に殉じて見せろ。さもなくばそいつは英雄じゃない。ただの機械仕掛けの絡繰奴隷だ。

 その挑発に乗ったランサーは神速の槍術で打ち返し、セイバーは直感で凌いだ。エミヤは抑止の守護者として事前に仕入れていた情報から心眼を駆使し防御宝具を展開、七枚の花弁が全て瞬く間に砕き割られたが首の皮一枚はなんとかして繋ぐ。天乃鈴音は美琴椿の手を引いてパリィで躱し、山の翁は純然たる剣術で弾き、マーリンは幻術で回避。ブーディカの守りは突破されるも希望の英雄ナポレオンは守りきる。だがブーディカ本人は瀕死、そこで水泳の魔女が笹川京子のソウルジェムを使用して逆転勝利を掛け、霊基半壊程度で生存させた。しかし悪魔沢田綱吉は逆転勝利が発動せず、コロニーのワルキューレ集団と共に、真っ正面から霊核を轢き潰されて消滅する。一方、魔法少女たる七海やちよは虹速で対応し迎撃。鹿目まどかは眼前に彗星を見て死を覚悟するが、戦神の軍帯の力を借りて諦めず極矢爆撃。すると戦車の軌道が逸れて生還。佐倉杏子も経験による直観で跳躍するが、彗星の通過による余波で体の七割を持っていかれる。しかしなんとか遮断魔力の結界でソウルジェムは守りきった。そして二葉さなは透明化魔法により、環いろはとアタランテ、エウリュアレとステンノの姿を隠していたことで生還。同様に暁美ほむらも顔のない王で姿を隠していたことで戦車の軌道に巻き込まれない位置にいた。といってもピジョットとスピアーが撃ち落とされていないところを見るに、どうもアキレウスは支配に逆らって魔法少女や魔法生物は極力狙わず疾走したと分かる。

 つまりアキレウスの狙いは、悪魔とサーヴァントのみ。彼によってマギウス陣営のワルキューレ数百万騎は一網打尽にされて、地表の敵サーヴァント軍勢も一掃されたが、依然としてそれを遥かに上回る脅威が、刹那の瞬間、悪魔の眼前に差し迫る。

 この間、0.1秒未満。そしてここから先の死闘も、およそ0.1秒あるかないかの熾烈な攻防になるだろう。悪魔は死ぬ気の炎を青天井まで燃やし尽くす。それは覚悟の表れとして仁王立ちの姿を取らせた。すなわちアキレウスを待(・)ち(・)構(・)え(・)る(・)構(・)え(・)である。

「ハッ! いいねぇ────オレにケンカを売るたァ、気に入った!! その勝負、英雄として受けて立つ!!」

 破顔から一転、腹坐る真剣な目付きへと切り替わったアキレウスは、手綱を奮って全身全霊・全力全開の神速突破・蹂躙走破を仕掛ける。刹那、悪魔は両手を交差し、瞬間圧倒超爆発(イクスバーナー)。三頭立ての戦車のうち、サーヴァントの宝具と化したことで不死の概念を持たなくなったクサントス、バリオス、ペーダソスの霊基を滅却、劫火の如し炎圧で消し飛ばした。それはアキレウスの霊核すら灼き滅ぼす一撃だったが、戦車が破壊される刹那、神速の跳躍で飛び降りていたアキレウスは宝具《彗星走法(ドロメウス・コメーテース)》により瞬間移動に等しい速度で疾走開始。戦車破壊の余波で悪魔の真横を通過し──互いの視線が火花を散らすように衝突し合い──足先が地面に着いた瞬間、アキレウスは三角飛びで悪魔の背後に迫る。無論、逆転勝利の助けを借りて神速の領域に片足を突っ込んだ悪魔は振り返り迎撃態勢。アキレウスは一瞬だけでも自(・)分(・)よ(・)り(・)迅(・)く(・)な(・)っ(・)た(・)悪魔を見て、史上最速の誇りが傷つけられる。故に、負けてはいられない。彼は常に本気だが、それを越える本気の殺意が悪魔めがけて打突し、アキレウスの気迫は神速の殴り込みを見せる。そして宝具《宙駆ける星の穂先(ディアトレコーン・アステール・ロンケーイ)》を取り出した。斯くていざ、悪魔の火炙りの聖剣と────神速激突交差激発轟震迅雷────太陽系外まで極まる逆転勝利の魔力。悪魔の意識は神速の領域にどっぷりと浸かり、光しか見えない真っ白な世界を総身に浴びて痛感する。

(次はない────最初の一撃は単なる小手調べ────そして今の二撃目は勇者としての一撃必殺狙い────故に次は────三撃目は────確実に────押(・)し(・)潰(・)し(・)に(・)来(・)る(・)────ッッッ!!!)

 悪魔の超直感が深刻な警鐘を発する。明滅する意識の中、地平の一点に夏目かこの姿を見つける。彼女は必死の形相で何かを投げた。坂田金時の宝具カートリッジを破壊して投擲したそれは雷速の勢いで悪魔の手元に届く。彼女の心情を直感。悪魔の所持品を探して、すぐに見つかったのはこれしかなかった。その道具を受け取った刹那────

「さぁ悪魔(勇者)よ! 三回目の攻撃は完膚なきまでおまえを圧し潰すだろう! 故にこの攻撃はどう対応する!? 見せてみろ、男の意地をォッ!! 《蒼天囲みし小世界(アキレウス・コスモス)》────ッ!!」

「《いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)》────ォ゛ッ゛!!」

 大英雄アキレウスの宝具は、鍛治神ヘパイストスの神造兵装。結界宝具たる大盾の中には、アキレウスが走りきった人生と、アキレウスが生き抜いた世界、その全てが極小の宇宙となって内包されている。故にそれを展開することは“世界そのもの”を召喚することに等しい。すなわち、この大盾を突破するには、世界を破壊するほどの攻撃でなければ攻略は不可能ということだ。しかしアキレウスは、この結界宝具を攻撃に転用した。つまり“世界そのもので対象を圧殺する”という正真正銘、間違いなく必殺の一撃である。

「ぅ────っ゛……あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛!!!」

 咆哮。対する悪魔の宝具は、ギャラハッドより借り受けし円卓の大盾。白亜の城キャメロットの召喚による究極の守りは、使用者の心が折れない限り、決して崩れ去ることはない無敵の城壁と化す。ならばこれは信念と信念の激突。ひとりの英雄が駆け抜けた信念と、ひとりの少年が駆け抜ける信念の、仁義なき真っ向勝負となる。だが、そのぶつかり合いは、わずかにアキレウスの方が優っていた。

「う゛お゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛────ッッッ!!!!」

 雄叫び。それは決して悪魔の信念が弱いことを意味しない。悪魔の心が折れたことを意味しない。概念勝負は結局のところ、最終的・究極的には、やはり“神秘の格付け勝負”と相成る。確かにこの戦いは、互いの信念を懸けた勝負だ。しかしアキレウスは信念に次いで、既(・)に(・)自(・)分(・)だ(・)け(・)の(・)人(・)生(・)を(・)走(・)り(・)抜(・)い(・)た(・)末(・)の(・)答(・)え(・)を有している。すなわち“世界”だ。故に、この戦いは厳密なところ、純粋な信念同士の戦いとは言えない。ひとりの英雄が駆け抜けた(・)信(・)念(・)の(・)世(・)界(・)と、ひとりの少年が駆け抜けよ(・)う(・)と(・)し(・)て(・)い(・)る(・)信(・)念(・)、その真っ向勝負と相成らん。

「っっ゛っ゛────ぁ゛ァ゛────らああああ゛ア゛ア゛ア゛────ッ゛ッッ゛!!!!!」

 絶叫苦悶。だからといって負けるわけにはいかない。悪魔はもう心が折れることはない。沢田綱吉の頃とは違う。痛み、戦い、泣き腫らし、絶望し、展望し、殺し、走って、ただひたすらに戦って生きた。それと比べれば、確かにアキレウスの偉大さにはかなわない。小学生ならば誰もが知っている名前。その逸話までは知らずとも、世界に色濃く幅広く名を残す何かしらの英雄であるとは伝わっている。自分はそんな大層な人間にはなれない。

「だけど! オレの気持ちが、アンタに負けることは、絶対にないっ!!」

「ならば押し通してみせろ! 言葉ではなく、貴様の身体で!! 覚悟を示せ!!」

 否、気迫で勝負は決まらない。魔法少女ならば感情エネルギーが直接魔力に変わるため、気迫による勝利は当然ある。だが魔法少女ではない人間は、たかが精神の賦活程度で、圧倒的な劣勢がひっくり返るほど、この世の中は甘くない。もしその程度で希望と絶望がひっくり返るなら、今ごろ、こんなに大勢の人間が死んでいるわけがない!

「くそっ……ふざけるな……」

「あ……?」

「あんたら英雄に……凡人のオレの何が分かるッ!!」

 悪魔の心は鋼鉄だ。されど世界に圧し潰される白亜の城壁は、まずその正門が木っ端微塵と吹き飛ばされた。砕け散った破片が悪魔の左腕に着弾して骨ごともぎ取る。

「────なんだ。急に弱者のざれごとを述べやがって!」

「オレは最初から弱者だ! 自分が強いと思ったことなんて一度もない! ただの一度も……!」

「泣き言を言って勝てるのか! この俺に!!」

「勝てるかどうかじゃなくて、勝つしかないんだよ!! オレには────守るべきものが、もう、たくさん、ありすぎるっ!!」

 城壁の上部が粉砕。飛び散る瓦礫が悪魔の頭部に命中。たたらを踏むがその瞬間、さらに世界が押し込まれる。すかさず押し返すが、城壁がさらに爆破して悪魔の右脇腹に命中、肉片と内臓をごっそり持っていく。さらに城壁下部が圧潰爆砕。悪魔の両足に命中して膝から下を吹き飛ばす。地に伏した悪魔はされど大盾を前に掲げて、文字通り無敵の守りを続ける。だが────

「確かにおまえの信念は、俺の世界を前にしても決して崩れず、強力堅固だった! しかしおまえの言う通り、世界ってのは強者が弱者を蹂躙する世界だ! ……惜しかったぜ。おまえなら英雄になれる。いや、もうなってたか。次に会ったら、また殺し合おうぜ」

「っ────嫌だ……殺し合いなんか、まっぴらごめんだ!!」

「そうかい! お優しい勇者様で! じゃあもう────潰れろッ!!」

「嫌だって……言ってんだろ……この……殺人鬼がァ゛ッ……!!」

 宇宙の果てまで極まる逆転勝利の魔法。それは加護か呪いか、はたまた愛か。祝福と宿命。叛逆と摂理。悪魔は大盾をほんのわずかに押し返すも、すぐにアキレウスの怒髪天を衝く勢いで潰されかかる。

「貴様────英雄を侮辱するか!!」

「侮辱なんてしてない! 英雄だマフィアだなんだ言ったって、結局のところオレたちはただの人殺しじゃないか! それとこれの何が違う!? 言ってみろ、たかが足が速いだけのバカ野郎────ッ!!」

「テメェ……急に幼稚なことばっかまくしたてやがって……。いいだろう、問うてやる」

 アキレウスは絶対の殺意を込めて問い糺す。

「貴様、戦士の誇りを侮辱するか────ッ!!」

「そんな誇り、俺がぶっ壊してやる────ッ!!」

 そこでアキレウスは眉をひそめた。既に圧し潰してもいい頃合だ。されど悪魔は潰されない。アキレウスの世界を“ただ人殺しをして満足しているだけの世界だ”と一蹴して、彼の誇りを穢し、怒りを買ってもなお、依然として拮抗している。よもや幼稚なことをまくしたてているのは何かの時間稼ぎか? そう思って観察しても、特に何もない。ただひたすら真っ向からぶつかっているだけに見える。どこからどう見ても、純粋に死ぬ気の覚悟で戦っているだけに見える。そして、とうとう白亜の城が完全崩壊した。残るは悪魔が片腕一本で支える大盾のみ。されど悪魔は血反吐を吐き、五体不満足で血を流し、見るに堪えない瀕死の姿となっても────その眼光は、透き通るような眼でアキレウスを見据えていた。その時、アキレウスは悟ってしまった。彼は勇者でも英雄でもなく、本当にただの少年だったのだと。折れぬ信念のみで生きてきた、どこにでもいる普通の少年だったのだと。

「……────だが、容赦はしねぇぜ」

 悪魔もとい沢田綱吉からしたら、英雄と殺人鬼はてんで変わらない隣人同士なのだろう。しかしアキレウスにもアキレウスなりの考え、価値観、人生観がある。まず勇者と英雄の心構え、その大原則として、一(・)度(・)勝(・)負(・)し(・)た(・)の(・)な(・)ら(・)手(・)加(・)減(・)し(・)て(・)は(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)。もし加減すれば、それは相手への最上級の侮辱に繋がる。故にアキレウスは戦士の礼儀に則り、最後の膂力を発揮して────悪魔の魂もろとも、己が信念世界で磨り潰した。

 

 ────叛逆魔法行使。

 

 それは悪魔自身、何に対して使ったか分からない。そもそもなんで使ったかも分からない。ただがむしゃらに、気付いたら使っていた魔法(がんぼう)。それはつまり、この魔法で何かが起こってくれることを願うに等しい、賭けのような希望(まほう)だった。

 

 

 

 

 

          †

 

 

 

 

 

          ♪~機物~♪

 

 そこは時の概念がない世界。

 世界というには極小で、極小というには遠大すぎる小宇宙。

 

 悪魔はまぶたを開ける。視界一面に銀河が広がる。まるで宇宙の中心に立っているかのようだ。足元には花畑。見滝原市で巴マミや佐倉杏子たちとピクニックに行った時と、同じ花畑だと気付く。だが、なぜこんな宇宙の真ん中に、花畑なんてあるのか。そしてなぜ、こんなところに、自分は立っているのか。

 

「……ここは、地獄? 天国なわけ……ないよな。オレ……死んじゃったのか?」

 

 さすがは大英雄アキレウスと言ったところか。九騎のヘラクレスを相手にした時も実質殺害されていたも同然だが、こうも三途の川、否、三途の天の川を渡りきったあとの光景を見たのは初めてだ。これはもう走馬灯を見る暇さえなく、二度と現実世界には戻れないだろう。

 

「そうか……オレ、とうとう死んじゃったのか。なんとか煽って本気出させて逆転勝利を引き出そうとしたけど……最期の言葉としてはつまらないこと言って死んじゃったな……ま、いっか! ダメダメなオレらしい死にざまだよ! ────あれ? じゃあ、京子ちゃんは? もう、京子ちゃんが苦しまなくていい……そんな結末(セカイ)に、なったんだよね……?」

 

 悪魔の額から死ぬ気の炎が消える。テンションはノーマル状態(モード)に戻り、肩の荷が降りたような安堵の表情で尻餅を搗く。

 

「あいてっ! っ……はは、もう死んだから大丈夫だってのに、アキレウスが怖すぎて膝が笑ってるよ……あの人マジでこっちが中学生でもお構いなしに殺しに来るんだもんなぁ……はーあ。つかれた……でも、ほんとに京子ちゃんは大丈夫なのかな……最後くらい、会いたいな……嫌われてるだろうけど、無事かどうかくらいは、そりゃ知りたいし……もし神様が居るなら、京子ちゃんと合わせてくれないかなぁ……? でも無理かぁ。彼女は天国に逝ったろうし。オレは地獄かもわからない、なんか変な場所にいるし」

 

 沢田綱吉は花畑で仰向けとなる。その時、頭上でガサッと音がした。

 

「ん?」

 

 眠りに就こうと思っていたが目を開き、起き上がって振り返る。そして────悪(・)魔(・)は目を疑った。

 

「────あ、悪魔、さん……?」

「……────ほむら。なんで……」

 

 花畑に暁美ほむらが倒れていた。今しがた目を覚ましたらしく、周囲の現実然としていない光景を目の当たりにして激しく動揺している。

 

「う、宇宙……? それと、花畑……? なんで……? えっと、あの……悪魔さん。ここ、どこなんですか……? 私たち、神浜市にいて……アキレウスの攻撃から、私たちを守るために、悪魔さんが円卓の盾を使ってぶつかって……それで……それから……えっと……?」

 

 ────ここは天国でも地獄でもない。息をしているからには真空の宇宙でもない。おそらく何か概念的な場所だ。そうとしか考えられない。

 

 悪魔は立ち上がる。死ぬ気の炎を額に灯す。逆転勝利魔法を使って自発的に超(ハイパー)化。もしや敵の宝具か。アキレウスとの戦いは負けてもおかしくない戦いだった。そのため、ついにとうとう死んだかと思い込み、気を抜いてしまった。とんだ失態である。しかしそれも負け惜しみ。悪魔は心機一転、現状打破の思考に移る。

 

「…………」

 

 悪魔は周囲を観察する。だがどこにも異常はない。どう見ても異常しかないというのに、どこか安心できる環境にどうしても気が緩んでしまう。

 

「……あの、わ、私たち、死んでしまったんでしょうか……?」

「いや、それはない。オレたちはどこかに飛ばされたんだ。おそらく意識、または魂だけ……」

「意識か魂だけ……?」

「しかも、おそらく次元が一つ上の場所だ。外宇宙の生命体が出てきてもおかしくない。ほむら、いつまでもボーッとしてないで臨戦態勢の構えを取れ」

「は、はい……! ……で、でも、さっき悪魔さん、寝転んでましたよね……?」

「あれは死んだと思ってたからだ。けどほむらがいるとなれば話が違う。だがなぜオレとほむらなんだ? 距離は離れていたはずだ。なんらかの宝具に巻き込まれたのなら、ランサーたちも入っているはず。何かしらの条件に合致する者しか閉じ込めないような宝具なら、オレとほむらの共通点はなんだ?」

「共通点……」

 

 悪魔と暁美ほむらは背中合わせで周囲を警戒。

 

「おふたりの共通点。それは当然のごとく」

「“並行世界移動者”という共通点でしょう」

 

 ふと悪魔と暁美ほむらの真横に、白いローブに身を包む二人の女性が現れた。

 

『っ!?』

 

 悪魔と暁美ほむらはおっかなびっくり距離を取る。

 

「なんだ……お前らは……心が、読めない……?」

 

「沢田綱吉。またの名を悪魔」

「この現象は宝具でもなんでもありません」

「そして我々は、あなたの人生に訪れた“ある思考”────」

「あるいは、このdata(データ)宇宙に顕れた“ある意思”とお思いください」

 

 その時、悪魔の腰に提げてある匣兵器が揺れ動いた。それはDキュゥべえが収納されている保存用匣兵器。だがそれは有り得ない。悪魔はヘラクレスの攻撃で全ての所持品を紛失しており、今は円卓の盾しか持っていないのだから。その円卓の盾も、今は手元に存在しない。そして匣兵器の中からDキュゥべえが喋りだす。

 

「まさか君たちは……宇宙の脳、チェルベッロ?」

「インキュベーターですか。そう呼ぶ者もいます」

 

 すかさず悪魔はDキュゥべえの心を読む。インキュベーターに感情はないため真っ暗だが、超直感ならば微かな光明から思念を読み取ることができる。読み取るとは、つまり“インキュベーターの知識を”である。

 

「チェルベッロ……死炎界にもたびたび現れる謎の集団……トゥリニセッテに関わりがあると睨んでいる……それ以上はインキュベーターにも詳細不明? なんだそれは……」

「それについては一つ一つ丁寧にご説明いたしましょう」

「何か質問はございますか? ここは時の流れがありません。いくらでも時間をかけて落ち着いてください」

 

 そう言われても悪魔はすぐに現実世界へ戻りたい。故に手早く質問を繰り出す。

 

「ここはどこだ」

「悪魔さまの精神世界でございます」

「なに?」

 

 それからチェルベッロは、今の質問を皮切りに語り始めた。

 

「それにはまず、ブルーベル……いえ、今の名で呼びましょう。青音すずさまの固有魔法《叛逆》が、“無かったことにする能力ではない”ことを説明する必要があります」

「……!?」

「青音すずさまの固有魔法は《並行世界移動》……すなわち多(・)世(・)界(・)を(・)亘(・)る(・)力(・)なのです」

「────」

 

 悪魔は直感する。実は固有魔法を勘違いしていた? そんなことがあるのか。悪魔自身、多くの実験を重ねて、叛逆魔法は“事実を無かったことにする能力”だと定義した。それで矛盾が無かったからだ。しかしチェルベッロの言い分でも、たしかに辻褄は合ってしまう。というより、多世界解釈ならば、なんにでも辻褄が合(・)わ(・)せ(・)ら(・)れ(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)と言った方が正しい。要は、“それは全て神のおかげだ”と言うような、なんでもありのチートな回答だからだ。加えて、さすがに青音すずの魔力係数では、そこまでの力はないはずだと悪魔は思う。

 

「魔力係数の規模で魔法が決まるなら、暁美ほむらはどうなのです?」

「っ! それは……将来的に鹿目まどかの因果が宇宙数個分に増加するからこその逆説論理で……」

「ならばその理屈、なぜ青音すずには当てはまらないとお思いで?」

 

 ならば青音すずは、誰かのせいで魔力係数が増大したと言うのか。

 

「それは違います。そもそも並行世界の移動に、それほどパワーは要らないのです。故に青音すずは、叛逆魔法を一回行使するたび、世(・)界(・)線(・)を(・)跨(・)ぐ(・)ことができる」

「────」

「一度目の移動は、事故により家族と水泳を失い、インキュベーターとの契約でそれを取り戻すため“力”を願い、家族と水泳を失うことがない世界に移動したコト。そして、彼女が元いた世界をアルファ世界線とするなら、彼女の最初の願いにより、青音すずはベータ世界線へ移動したと言えます」

「世界線……」

「しかし、アルファ世界線における世界線変動率(ダイバージェンス)1パーセントの壁を超えても、さほど運命は変わらなかった。青音すずは交通事故で両親を失い、足を怪我したことで水泳の道も失った。いえ、既に魔法少女なのですから、足の怪我は魔力で治癒できるため、水泳の道は失うことはなかった。それでも両親を失ってしまった。しかし彼女は両親を蘇らせるため再び叛逆魔法を使うことはなかった。強い魂は欺瞞に満ちた繰り返しを否定したのです。その後、以前いた世界(アルファ世界線)とは違う出来事が起きた。……そう、両親を失ったことで、なんの因果か悪魔さまのお父上、つまり沢田家光に拾われて、沢田家の養子となったのです」

「……!!」

「彼女はブルーベルという名前から戸籍を変えて青音すずと名乗り、日本の並盛町で暮らすことになった。彼女は魔法少女としてグリーフシードを求め、幼稚園児であるというのに魔女との戦いを勝ち抜き、たくましく生き抜いていた。しかし彼女は、すぐに二回目の叛逆魔法を使うことになります」

 

 チェルベッロは語る。

 

「二度目の移動は、悪魔さま、もとい沢田綱吉の交通事故による死亡を受けて、それを“無かったことにする”つもりで、叛逆魔法を行使したコトです。しかし何度も言うように、彼女の本来の魔法は並行世界の移動。青音すずはベータ世界線からガンマ世界線へと移動し、沢田綱吉が交通事故を起こさない世界線に転がり込みました」

「……オレが……交通事故で、死んだ……?」

 

 悪魔は驚愕する。チェルベッロは嘘を付いてない。心が読めないというのに、超直感は相手の真偽を見透かしている。おかしな話だ。何もかもがデタラメすぎて、信じる気も疑う気も起きない。

 

「三度目の移動は、青音すずが落下死するところを、沢田綱吉が身代わりとなって死亡したコトです。青音すずは沢田綱吉を生き返らせようと叛逆魔法を行使しました。そしてガンマ世界線からデルタ世界線に到着したのです」

「……落下死……?」

「そして、先ほどまで悪魔さまと暁美ほむらさまが居た世界こそ、そのガンマ世界線なのです」

『……っ!?』

「その後、青音すずさまは魔女化し、沢田綱吉さまは放浪の旅の果てに悪魔と名乗りはじめ、叛逆魔法の行使を繰り返してきた。しかし青音すずさまは、別のあらゆる世界線でマーレリングの保持者。つまり並行世界を亘る適性があったのですが、沢田綱吉さまはあらゆる世界でボンゴレリングの保持者。つまり並行世界を亘る適性がないために、いくら叛逆魔法を行使しても、さすがに多世界を亘る(隣り合う世界線に転がり込む)……ダイバージェンス1パーセントの壁を超えるほどの力は発揮できなかった。……ですが悪魔さまは、叛逆魔法を一回行使するたび、0.01パーセント前後ですが、本当に微量ずつ、多世界を移動していたのです。それはおそらく水泳の魔女が常にそばにいたおかげでしょう」

「────ちょっと、まて……なんか、色々と、思い出して、きた……」

「えぇ。例えば、笹川了子。彼女は、いつから“笹川了子になった”のですか? 以前はもっと違う名前だったのではないですか? なんなら性別さえも異なるものだったのでは?」

「────────」

「誰かの名前が変わろうと、性別が変わろうと、並行世界移動の適性者ではない悪魔さまは、どんな大きな変化にも、些細な変化にも気付くことができない。故に“無かったことにする理屈で矛盾がない”と思い込んでしまった。……笹川了子は、0.4パーセントくらい前のデルタ世界線では、たしか“笹川もみじ”という名前の女性だったのではないですか?」

「……っ!!」

 

 悪魔は思う。思い出しかかるが、思い出しにくい。言われてみれば、そんな気がしないでもない。頭にモヤがかかる。

 

「悪魔さまは今まで、何万回と叛逆魔法を行使してきました。そのたび、ごくごく微量ずつ、ダイバージェンス1パーセントの壁を超える領域まで近付いていき────そしてとうとう、アキレウスの宝具に勝つべく行使した苦し紛れの叛逆魔法により────見事、悪魔さまは1パーセントの壁を越えて、ここ……イプシロン世界線へと辿り着いたのです」

「────……だが、それはおかしい。どこを見ても銀河が広がるだけだ。ただの空間の広がり。星も遠くに景色として見えるだけ。地球はどこだ? ここは本当にイプシロン世界線なのか?」

「お答えしましょう。ここイプシロン世界線は、真実のイプシロン世界線ではありません。先ほど申し上げた通り、ここは悪魔さまの精神世界とも言える場所。偽りの夢の世界とも言える座。三次元空間でもなく、四次元時空でもなく……言うなれば、デルタ世界線の宇宙とイプシロン世界線の宇宙の、狭間にある“名も無き小宇宙”のような場所です。さながら、アキレウスが疾走した世界を大盾の中にしまいこんだ、極小の宇宙のように。ここは、悪魔さまが走ってきた世界を極小の宇宙で表した、悪魔さまの心象風景なのです」

「オレの……心象風景……というより、オレの亘(わた)ってきた“ごくごく微量の多世界可能性”を内包した泡の宇宙……TP魔法界で言うところの固有結界というべき代物か」

「理解が早くて助かります」

 

 悪魔は思う。ならばこの小宇宙、アキレウスの大盾にぶつけれ(ブロークン・ファンタズムすれ)ば、まず間違いなく引き分けに持ち込めると。

 

「ここは生命のいない小宇宙。オレの生き様が星のような輝きとなって広がるだけの虚無。ならば一度きりの切り札として使いきってしまっても構わんだろう」

「どうぞ、お好きに。なぜならこの世界は、悪魔さまだけの世界なのですから。この狭間においては、悪魔さまこそが神でございます。しかしそれは裏を返せば、この小宇宙の中では文字通りな(・)ん(・)で(・)も(・)で(・)き(・)る(・)。万能の願望機なぞ顔負け、根源接続者が如き振る舞いで、好きに世界を塗り替えることができます」

「だがそれは夢だ。幻に過ぎない。たとえ目の前に京子を創ってデートしたところで、その偽物の京子の中に心を創ったところで、そんなもの、むなしいだけだ。自分を騙すような生き方はしたくない。伽藍洞はなんにでも詰め込めると言うが、この世界ほど詰(・)め(・)込(・)む(・)だ(・)け(・)無(・)駄(・)な(・)空(・)間(・)は無い。故に、壊れた幻想以外の使い道が、バカなオレには思いつかないよ」

「……念のため、ご説明したまでです。使い方は、ご自由に」

 

 チェルベッロは会釈する。そこで悪魔が訊いた。

 

「ところで、これからオレが叛逆魔法を使い続けたら、不意にイプシロン世界線に転がり込んでしまう、なんてことはあるのか?」

「まず無いと言えます」

「それは、オレに多世界を亘る“適性”とやらが無いためか」

「はい。その通りです。しかし────」

 

 チェルベッロはローブの中から何かを取り出そうとする。

 そのとき、小宇宙の遥か彼方から、極めて白く輝く何かが迫ってくる。

 

『っ!?』

 

 この小宇宙には、悪魔しか存在しないのではなかったのか。悪魔が何かが創り出したわけでもない。明らかに外宇宙からの侵入者だ。しかし嫌な気配はしない。逆転勝利も発動しない。つまり危険はない。そして悪魔と暁美ほむらは、事象の地平面の彼方からやって来る“見覚えのある顔”を目にして度肝を抜いた。

 

『────まどか……!?』

 

 宇宙の彼方より飛来した宇宙サイズの少女。天使あるいは女神のような純白の衣をまとう鹿目まどかは、真っ白な大翼を羽ばたかせて縮小し、人間サイズの姿で花畑に降り立った。

 

「わ、よかった! やっと会えた……この大宇宙、私の手が入ると風船みたいに割れちゃいそうだから、今まで見守ることしかできなかったけど……いきなり宇宙の外側に新たな小宇宙ができたから、なにかなー? って思ってきてみたら……すごいね! 悪魔って名前がちょっと物騒だけど……あなたが怖い人じゃないってことは、ちゃんと知っているから安心して!」

 

 鹿目まどかと瓜二つの顔をする女神は、よくわからないことを言う。そこでチェルベッロが呼んだ。

 

「アルティメットまどか。何用ですか」

「あ、えっと……私も、何かお手伝いできたらなと思って……その、おとなりさんが引っ越してきたから、ご挨拶……みたいな?」

「……別宇宙への干渉は、ほどほどに。あまり介入されると、よくない胡蝶の影響が出るかもしれませんから」

「あ、はい! すみません! ありがとうございます!」

 

 アルティメットまどかは、にこやかに微笑むと、悪魔と暁美ほむらの手を取ってギュッと握る。

 

「悪魔さん。私の羽根を一枚あげます。これ以上は宇宙間のバタフライエフェクト? が起きちゃうから、この程度の力添えしかできませんけど……私、応援してるので、頑張ってください!」

「────!!」

 

 悪魔は直感する。アルティメットまどかと呼ばれた彼女が、どういう人生を送り、どういう結末を迎えたのか。そして数個の大宇宙を運営・管理する立場となり、ふと管轄外の大宇宙を観察したところ、沢田綱吉と鹿目まどかがどのような関係となったのか。アルティメットまどかからしたら、それは宇宙の数だけある“異性経験”だろうが……赤らむアルティメットまどかは、生前できなかった“異性への贈り物”というイベントを楽しむかのように、そっと“別の宇宙で恋人関係だった沢田綱吉”にプレゼントを授けた。

 

「……────まどか、お前は……」

「あ、だ、ダメ! その……悪魔さんは、心が読めるんですよね……? じ、じゃあ、私の方から、言わせてもらってもよろしいでしょうか!?」

「……あぁ」

「……そのぅ……実は、あの……」

 

 赤らむ鹿目まどかは、視線を泳がせ、両手の人差し指をくっつけて身をよじり、しどろもどろになりながら答える。

 

「この大宇宙の中にいくつもある中の、とある宇宙では……私とあなたが、こ、こ────恋人っ……同士っ……だったんです……」

「それは未来の出来事だな? いま言うことで未来が変わるかもしれないが、大丈夫なのか?」

「それは……そうなんですけど……どうしても、一度きりでもいいから、会ってみたくて……な、なぜかといいますと、別の宇宙でも、大人になれた私には、何人か恋人はできたんですけど……みなさん一般人で……私のことを認識できる人は、あなたしかいなかったんです。だからこうして、別宇宙なのに特別に見ちゃって、押しかけてきちゃいました。すみません!」

「いや……宇宙そのものになったんだ。ずっと孤独で寂しかったろう。円環の理のシステムも、いい落としどころだと思う。……もしオレの目的が達成できたら、今度はこっちから会いに行くよ。恋人になれるかどうかは、ちょっとわからないけどな」

「え、会いに来れるんですか? じゃあ……楽しみにしてますね! もし会えるなら、マミさんたちとティーパーティーの用意をして待っています! ……えへへ。なんだか不思議な感覚ですね。ほかの神っぽい人と会うの、今まで一度も無かったから……」

 

 一方、暁美ほむらは、いったいどういうことなのかてんで分からず固まっていた。どこからどう見ても鹿目まどか。でも自分の知る鹿目まどかとは明らかに何かが違う。まるで悪魔(沢田綱吉)のように、全てを覚悟して何かをやり遂げてしまったかのような……そんな貫禄が見え隠れする。

 

「まどか……あなたは……」

「あ、ほむらちゃん! ごめんね、待たせちゃって。その、なんて言えばいいのかな……“こっちの世界でも、バカな私をよろしくね!”なんて言ったら、あまりほむらちゃんに苦労させないでって、誰かに怒られちゃうかな? えへへっ!」

「……っ!」

 

 暁美ほむらは何もかもが理解不能な中、なぜか涙があふれてくる。理由は不明。だが、彼女が握る手を放してはならないと強く思った。

 

「まどか……あなたは、別の時間軸のまどかなの……?」

「えっと……どちらかというと、別の風船宇宙のまどかなんだけど……難しいよね? でもね! 私の宇宙では、もう全部が解決したんだ。ほむらちゃんがずっと頑張って、並行世界を亘り続けたおかげで、ワルプルギスの夜を倒すことができたし、魔法少女が魔女になることもなくなった。その代わり私は、こんな感じの姿になったけど……これで良かったんだって思ってる。だから、泣かないで。私とほむらちゃんで世界を守れたんだよ? なら、いま私の目の前にいるほむらちゃんの世界だって、そっちの世界の私とほむらちゃんが、きっとなんとかできるよ! だってそっちには、いろはちゃんや、やちよさんっていう、私の世界にはいなかった、とっても頼もしい仲間がいるんだもん!」

「っ……ちがう……そういうことを、聞きたいんじゃなくて……」

 

 暁美ほむらは、本能的な部分で察していた。鹿目まどかは誰かの為に動ける子だ。そして宇宙の女神になるほどの力を手に入れている。そんな状態、インキュベーターと契約したからに決まっている。

 

(きっと、あっちの世界の私は、まどかとインキュベーターを契約させない方針で動いていたんだ……私も今回のループでその発想はあった……でもループした時点で既にまどかは契約済みだった。だから今回のループではまどかをインキュベーターと契約させないように動くことができなかった────)

 

 しかし、その顛末が結局、鹿目まどかをインキュベーターと契約させて、全て万々歳という結果。

 

「……まどかは、その結末で満足しているの? 納得しているの?」

「…………」

「答えて、まどか!!」

 

 暁美ほむらは強く訴えて問いかける。返答次第では、そ(・)ん(・)な(・)結(・)末(・)は(・)許(・)さ(・)な(・)い(・)と言いたげに。その心情を直感した悪魔は、ひとつの可能性に思い至った。暁美ほむらは、困っている人がいたら助ける優しい女の子だが、やはり一番の優先順位は“鹿目まどかの平穏な幸福”である。そのためならば彼女は、かつて沢田綱吉が悪魔のような決断を下したがゆえに、自らを悪魔と名乗り始めた時のように────暁美ほむらが“悪魔”になる可能性を直感した。

 

「……満足してるし、納得してる。だって全てを救うことができたんだもん。これ以上のことを望んだらバチが当たっちゃうよ」

「……私にとっては、その“すべて”の中に、あなたがいなきゃ……っ!!」

「うん。ありがとう、ほむらちゃん。そんなに私のことを想ってくれるほむらちゃんだからこそ、私はほむらちゃんにだけは記憶を残したのかな? なんて。あ、こっちの話ね!」

「────さっき、悪魔さんが“ずっと孤独で寂しいだろう”って言ってたよね? それって、どういうことなの?」

「! もー、そこは流してほしかったなぁ! まぁ、うん。ちょっぴりね? でも円環の理には、魔法少女のみんながいるし……今もまだほむらちゃんは魔法少女として頑張っているけど、そろそろ限界みたいだからお迎えに行こうかなって……だから、こっちの私は心配しないで。こっちの私は、こっちのほむらちゃんと、円環の理の中で仲良くやっていくから。ほら、あの……北欧神話の、なんだっけ?」

 

 悪魔が言う。

 

「ヴァルハラか?」

「そう、それです! 天国とか楽園って言ってもいいんだけど……そんな場所」

 

 暁美ほむらは俯いている。鹿目まどかの手を握って放さない。

 その心を直感した悪魔は、戦慄と共に“やはり暁美ほむらとは戦う可能性が高い”と悟った。

 

(極まった愛は、世界も神も欺瞞の幸福に満たすか……その未来予想図を脳内で克明に描ける時点で、お前はすごくて、非常に厄介だよ、ほむら)

 

 悪魔は、鹿目まどかに忠告する。

 

「愛ってすごいな。どちらか一方ではなく、世界も友人も両方、救い出してしまった。これはオレも見習うべきかな?」

「え? ツナくん……じゃない! す、すみません……急に馴れ馴れしく! ……で、えっと、悪魔さん……それって、なんの話ですか?」

「気をつけろ、まどか。そっちのほむらは、かなり食わせ者だぞ。まぁ、そっちの宇宙にオレはいないようだから、オレには関係ない話だが」

 

 女神となった鹿目まどかは、過去現在未来すべてを見通す千里眼を有しているはずだ。その眼力でも捉えられないとなれば、それはよほどの確定事項なのだろう。あるいは、何かしらの要因で神の力が封じられている間に暁美ほむらが計画したことで、アルティメットまどかに戻って暁美ほむらを円環の理に導こうとした際、すぐに気付けなかったか。

 

「話は終わりましたか?」

「あ、はい! すみません! お時間おかけしました……!」

 

 チェルベッロが問いかけると、鹿目まどかは会釈して後退する。

 

「いえ、あなたが訪れたことは朗報です。悪魔さまと暁美ほむらさまは、この小宇宙から自力で元の世界に戻ることができません。ですから、アルティメットまどか。あなたの力で送り届けてあげてください」

「え、いいんですか? そのつもりで来てもいたんですけど……大丈夫かなぁ……」

「あくまで悪魔さまの小宇宙を送り返すだけのことです。彼らの大宇宙に直接干渉するわけではありません。間接的な介入であれば、それほど影響力を気にしなくてもいいでしょう」

「そっか。じゃあ……」

「ですがその前に。悪魔さまたちには、渡すべきものがあります」

 

 そう言ってチェルベッロは、懐から二つの指輪を取り出した。

 

「悪魔さまが保有するべき大空のマーレリングと、青音すずさまが保有するべき雨のマーレリングです。元々はジッリョネロファミリーが秘蔵していたトゥリニセッテの一角ですが、今回は特別に許可を頂いて一時的にアルコバレーノのボスから預かり、各々のマーレリング保持者に渡して回る役割を担っています」

「……ジッリョネロファミリー?」

「はい。というわけで、こちら、暁美ほむらさまが保有するべき雲のマーレリングです」

「えっ……わ、私にもあるんですか……?」

「えぇ。ほか、六道輪廻という名の六つの世界を巡った経験者として六道骸さまに霧のマーレリングを渡し、十年バズーカによって数多の並行世界とその縦軸を行き来するランボさま──できれば二十年後の──に雷のマーレリングを渡す予定です。嵐と晴は未定ですが、場合によっては雷も含め、貝(あさり)たる悪魔さまと同様の立場にある、虹と海の御二方(大空)に渡す予定が来るかもしれません。あるいは、そうそう並行世界を亘る適性者がいないこともあり、永久欠番も有り得ますが」

「……オレと同じ立場のふたり?」

「いずれ分かることです。では、アルティメットまどか。よろしくお願いします」

 

 鹿目まどかは任されたと張り切る。花畑から跳ぶと、その体は宇宙サイズまで大きくなっていき、女神の息吹が宇宙をそっと優しく撫でるように吹いて飛ばす。極光の旋風。悪魔と暁美ほむらは、あまりの風と光の強さに目を閉じ────やがて、覚えのある彗星の圧殺と似た感覚が、意識の底から蘇ってきた。

 

          †

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【────《蒼天壊せし小世界(ディアベル・コスモス)》ッ!!】悪魔

 

          ♪~夢喰い~♪

 

 悪魔とアキレウスの世界的激突。それが大英雄アキレウスの圧勝に終わるかと思われた刹那────悪魔は手に入れたばかりの奥の手を切って、幻想を破壊した(ブロークン・ファンタズム)。

 

「意識もねぇのに粘るたぁ、マジでガッツのある奴だな! ここまでオレの盾に耐えた奴は初めてだ! 尊敬に値する! しかし、いい加減に潰れやがれッ────!!」

 

 アキレウスが大盾を押し込む。

 

「────《蒼天囲みし小世界(アキレウス・コスモス)》ッ!!」

「────《蒼天壊せし小世界(ディアベル・コスモス)》ッ!!」

 

 それを悪魔が、圧倒的な小宇宙で以て押し返した。

 

「なっ────にぃ!?」

「これで分けだ! 男なら公平に行こうぜ……殴り合いだ! 槍の宝具を解放しろ、アキレウス!!」

「……────へっ。生意気な小僧め。いいぜ、とことん付き合ってやるよ!!」

 

 世界極光、小宇宙大爆発。神浜市全土を襲う爆縮破壊(ビックバン)。巨大地下迷宮の中央付近にある屋根も破壊され、周囲にある全ての物質を超新星爆発のごとき威力で吹き飛ばす。その宇宙嵐のような大乱の中、アキレウスは神速の走りで悪魔に接敵。宝具《宙駆ける星の穂先(ディアトレコーン・アステール・ロンケーイ)》を発動する。

 その宝具は、公平無私の一騎打ちを執り行う闘技場を作り出す能力。一対一で公平に戦うというシンプル故に堅牢な概念は、あらゆる加護・呪い・魔術・宝具を使用不可能とし、無敵・治癒・蘇生も無効化し、幸運や時間の概念すら破却し忘却することで、あらゆる不公平を排した正真正銘の技量勝負を持ちかける。それは究極の実力勝負であり、万能無敵勇者と称されるアキレウス相手に、現代人の悪魔が純然たる徒手空拳で勝てるわけがない。

 しかし悪魔は、先ほどの小宇宙同士の激突の中、1秒だけ膠着した時の中で、環いろはが看破した真名情報から唯一の逆転劇を直感した。それは────アキレウスは、この槍でアマゾネスの女王ペンテシレイアを殺したことがトラウマとなっており、女(・)性(・)相(・)手(・)に(・)は(・)使(・)用(・)不(・)可(・)能(・)という点だ。

「────さぁ、殺ろうか」

「あぁ……騙して悪いが、オレの勝ちだ」

 悪魔の逆(・)転(・)勝(・)利(・)が(・)極(・)ま(・)る(・)。純粋な技量勝負でアキレウスに敵うはずがない。故に逆転勝利は、悪魔の勝利を約束する。アキレウスの神速打撃。それは確実に悪魔の首から上を刎ねる一撃。それを一瞬だけ上回る神速二号が、アキレウスの霊核を拳で打ち砕いていた。

「────ッ!?!?」

「……オレの目の中には、笹川京子と青音すず(女)がいる。それに対魔力や“より強い神秘が勝つ”という概念すら介在しないこの闘技場では、あぁ……たしかにオレが負ける。だからこそ、オレが勝つ」

「……ハハッ。マジかよ……俺の槍が、まさか破られるとはな……初めての、経験だぜ……たとえ女の魔法(逆転勝利と叛逆)でも、絶対に破られないって自信が、あったんだけどなぁ……」

「悪い。公正な決闘を穢してしまって」

「あぁ……まったくだ。けど、それでも勝てると踏んだ俺も……大概だな……」

「安易な挑発に乗るからだ」

「あぁ? やっぱあの幼稚なまくし立ては、このための布石かよ……盾の押し込みをやめさせて闘技場の決闘に持ち込みたかったのか? 抜かりねぇなぁ……畜生が……ろくな謀将にならねぇぞ、テメェ……」

 歴史とは、後世の価値観を以て評価してはならない。それは偏見というものである。故に悪魔の言葉は、闘技場の誘いを掛ける煽りの側面が強かった。しかしながら悪魔の発言は、多少なりとも本心が混ざっていたのも事実である。

 かくしてアキレウスは黄金の粒子となって消滅した。悪魔は逆転勝利の限界という限界を極め尽くしたことで吐血。意識が明滅し膝をつく。そして、これはしばらく動けないと悟った。

 

「アキレウスを破ったか。それがいかなる方法であれ、打倒を叶えたのであれば見事だ。では、次は俺が相手しよう。戦いは好まないが、これもサーヴァントの宿命か。できれば俺を止めてみせろ。あのアキレウスを止めたのだ。できないはずがあるまい。いざ、推して参る! ────神体結界(アイギス)接続! 宝具格納庫より発進! 多重加護同時連結! 魔力増大! 殲滅形態で叩く! 《終焉の大木馬(トロイア・イポス)》ッ!! こいつで決まりだ────! 倒して見せろ、俺を驚かせ、悪魔たち!!」

 真名、オデュッセウス〔ライダー〕。宝具は、巨大な機神の召喚。どう見ても巨大ロボにしか見えない馬型の機械に搭乗して操縦開始。そこに夏目かこのサーヴァント・坂田金時が助太刀に現れた。

「よぉ悪魔! ソークールな匣(はこ)をぶら下げた超イカすベルトを見つけたぜ! これはアンタの探し物じゃねぇのかい? ってーわけでお遣い完了だ! マスターと手分けして探した甲斐があったぜ! そんでマスターのリーダーのピンチとあらば、これを使わなきゃいけねぇなぁ! 行くぜ! ゴールデン・ヒュージ・ベアー号! オイラたちの未来を生きる若人を守るべく、今こそ真の力を解放する時だぜ! なぁ、相棒!! 《摂津式大具足・熊野(せっつしきおおぐそく・くまの)》────さぁて、一撃・必殺ッ!! 《極大・黄金衝撃(ギガ・ゴールデンスパーク)》ゥウウウッ!!」

 坂田金時の決戦兵器。其は真紅の鎧武者。どう見ても巨大ロボにしか見えない人型の武者は、肩に源(・)の字を刻み、極大雷撃。黄金の爆雷を敵ロボットに叩きつける。それは大宝具同士の巨人決戦。殴って蹴って頭突きして、マサカリ奮って白刃取り。ビーム撃って鎧で弾く。超絶怒涛・大地震撼の巨大爆発激闘が、悪魔陣営の頭上で繰り広げられる。

「悪魔さん!」

 夏目かこが合流。悪魔にベルトを手渡す。

「ナイスだ、かこ」

 ナッツとチーズが収納されている匣は著しく傷ついている。だが死んではいない。シールドも何枚か砕かれて故障しているが、再びC.A.I.を開匣した。瞬時に武装を換装し、悪魔の体内をチーズが串刺しにして骨肉を補強、ナッツはガントレットとなって装着。悪魔は立ち上がろうとするが、肉体の酷使により限界が近いのか、不意によろける。

「ぐっ……」

 ゲオルギウスの生命自動回復秘蹟により、一息つけば少しは回復する。マーレリングから大空の炎を灯し、秘蹟と肉体の定着具合を調和して補強。回復量を上げた悪魔は無理やり筋肉を動かして立ち上がる。その時、悪魔のポケットから白い羽が一枚、舞い落ちた。

 

 ────怯えないで。

 

 鹿目まどか……否、アルティメットまどかの声が聴こえたような気がする。悪魔は白い羽を拾い上げてポケットにしまい、直感する。“怯えるな”とは、“夕方にこだわりすぎるな”という意味合いか。……優しさと正しさ。そう言われても、どちらも正しいと思うし、どちらも厳しいように思う。悪魔は考える。いったい何が正解なのか。最初の決断は揺るがない。その上で、改めて魔法少女たちに問いかける。

「隊を分ける。“ここで夕方まで戦うチーム”と“マギウスのアジトに突撃するチーム”だ。後者のチームは、アジトに乗り込むところまで、前者のチームが全力で援護する」

『……!!』

「選べ。みかづき荘のリーダー。見滝原市の魔法少女たち。……そして、さな。いろはが考えている間は、お前がオペレーターだ」(────ランサー。こいつらの思考時間を稼ぐぞ)

(守りに回るのか? 攻めてないと一気に囲い込まれて叩き潰されるぞ)

(それならそれでいい。ここで死んでも大丈夫だと、オレの超直感が告げている。さらに女神のお墨付きだからな)

(女神ぃ? そういや、いつの間に知らねぇ指輪を二つも付けてやがるな。アキレウスとの一瞬で何があったんだ)

(まぁ、色々な。少し肩の荷が降りたよ。命の取捨選択は、いつになっても慣れないが)

 悪魔は飛び立つ。眼前に海賊船。大空のマーレリングから死炎轟海爆噴。極まる逆転勝利の末、真名、嵐の王 フランシス・ドレイク〔ライダー〕の海賊船を拳一撃で粉砕。直後、フランシス・ドレイクの面影を残す妖艶の少女(リリィ)が現れた。

「あぁ私の愛しき栄光。誇れるものはこの輝きただひとつ。《浮上、欲望の泥に溺れし極上の都(イース・ルテティア・オッピドゥム)》!」

 真名、ダユー〔ライダー〕と看破。宝具は、フランスの伝説につたわる水没都市イースの召喚。水上都市イースの光景は、現代の豪華絢爛都市パリにも引けを取らない優美な姿を以て降臨する。それは都市宝具にして城壁宝具。一面平地の迷宮屋根に栄光栄華を極めし都市が君臨する。そして黄金都市から解き放たれし魔力は敵陣に絶大な破壊をもたらす。

 死炎轟噴。リングの質がAランクオーバーのマーレリングにより炎圧が爆発的に向上。圧倒的な光の魔力攻撃を、周囲の大気に循環する魔力残滓と調和することで無害化。さらに雨のマーレリングから死炎を発散し、広範囲を鎮静化。後方の自陣に攻撃が届く前に魔力の攻撃性を鎮めて、環いろは達を守る。

「我が悪精の竜号(ヴィス・フェ・シュヴァル)よ、妖精の声に従い地獄へ導け。《悪精竜と闇の海(リュタン・バヤール・コリガン)》!」

 海を渡る力を持つ妖精馬。体が水で出来た水馬はダユーを乗せて周囲の雨水を操作し津波を起こす。また、水上都市イースは“大洪水により一夜のうちに姿を消した”という逸話から、河川の如し水流を浴びると都市の転移を可能とする。ダユーはその転移能力を攻撃に転用。水流に流される極上都市イースが、悪魔を押し潰しにかかる。死炎爆噴。水の奔流には光の奔流。

「《約束された勝利の剣(エクスカリバー)》!!」

 極光。極上都市イースが粉砕され、ダユー〔ライダー〕も消し飛ばされる。

「《降臨、信仰の泥に塗れし邪神の都(イース・ルルイエ・オッピドゥム)》」

 真名、ダユー〔フォーリナー〕。宝具は、邪神の神殿を復活させ、巨大海魔を喚起する能力。そして巨大海魔の眷属が多数召喚。ヒュドラやダゴンと似た領域外の生命が波濤の如く押し寄せる。その中に混ざるサーヴァント集団。ランサーの魔槍投擲。敵陣を絨毯爆撃する真っ只中を飛行して突っ切る悪魔は、

「《比翼にして連理(カリビアン・フリーバード)》!」

 狙撃を狙っていたアーチャーのアン・ボニーを殺すべく貫手。彼女を庇うコンビ英霊メアリー・リードと剣戟を交わし、極まる逆転勝利によって霊核を貫く。直前、メディア・リリィ〔ラ(・)イ(・)ダ(・)ー(・)〕の宝具が発動していた。味方の負傷を治癒する効果。悪魔は敵陣が全快したことで逆転勝利が更に極まり晴拳銃を開匣。全弾撃ち尽くしてリロード。六騎のサーヴァントの霊核が射抜かれて消滅する。その中にはフォーリナーのダユーも含まれており退去。されど神殿宝具は一度発動すれば使い手が不在でも残り続ける厄介な性質を持つようで、巨大海魔は坂田金時とオデュッセウスの戦いに横槍を入れる。悪魔の頭上で繰り広げられる三体の巨人の怪獣決戦。一撃、大地を轟かせ、一撃、大気を引き裂き、一撃、互いの腹に拳をめり込ませる。魔力爆雷暴雨。

 

 引き続き悪魔は数百の敵サーヴァント軍勢を屠る。ふと戦場を駆けていた天乃鈴音と背中がぶつかる。彼女は新選組を相手にしていた。

「手を貸すか」

「要らない」

 悪魔は死炎爆噴。別の戦場に移る。天乃鈴音は霊基とソウルジェムの魔力をフル回転。沖田総司〔セイバー〕の縮地斬撃を躱した瞬間、斎藤一〔セイバー〕が背後からの抜刀斬撃を受け流し、続けて土方歳三〔バーサーカー〕が凄烈なる怒涛攻撃を放つもこれを凌ぎ、永倉新八〔バーサーカー〕が直上一直線に踏み込んでくる。刹那、無明の如し点閃が三度きらめき、射程を掴ませる自在の剣が泳ぐように斬り伏せて、不滅の誠翻る鬼が狂気を叫び、命知らずの爆砕剣術が天乃鈴音の顎を打ち上げる。「一歩音越え超え二歩無間、三歩絶刀! 《無明三段突き(むみょうさんだんづき)》!!」「我が剣は無形無限ゆえに無敵。《無形(むぎょう)》!」「俺が! 新選組だアァアアア!」「アギトを砕く! 《龍飛剣(りゅうひけん)》ッ!!」────「翻る炎(パリィ)」四方囲まれ袋叩きされる絶対の包囲一殺。その全てを無限の炎の刃が受け流し、天乃鈴音の姿が揺らいで完全に気配が絶たれる。刹那「翔んでついばめ、《約束と仇討ちの欺瞞希望(ドッペル・ウィッチ)》!」天乃鈴音の第三宝具が発動。対軍クラスの蝶々炎蛇が四騎の全身を噛みちぎり喰らい殺す。直後「悔いはない。《山桜(やまざくら)》」宝具発動後の間隙を突くべく身を伏していた山南敬助〔セイバー〕がここぞとばかりに飛びかかる。さらに霊基自壊前提の自軍超強化により新選組は戦闘続行スキルを獲得。霊核がなかろうと退去までの数秒、誠の咆哮をブチ上げて天乃鈴音を包囲絶殺する。「《燃ゆるは椿の紅(もゆるはつばきのくれない)》」美琴椿の乱入宝具は斎藤一を一刀両断。天乃鈴音の幸運C+が発動。倍加した戦闘幸運判定により沖田総司が病弱吐血。土方歳三と永倉新八の剣鬼爆砕猛攻と鍔迫り合い、蝶々炎蛇が狂戦士の霊基を貫通。鬼神爆砕の両剣術の隙間を縫って脱した天乃鈴音はすれ違いざまに宝具発動、沖田総司のソウルジェムを融かし、美琴椿が山南敬助と剣戟。天乃鈴音の加勢により、山南敬助の霊基を両断した。

 

 一方、悪魔は織田軍と激突する。

「侍は刀を握るなり、その躰(からだ)が戦(いくさ)用に造り替わると聞く。ならば僕も《へし切長谷部(侍ノふるまい)》────さて、これでいいのか?」

 織田信長〔セイバー〕。自己暗示スキルにより筋力耐久敏捷のパラメーターが向上。悪魔の火炙り聖剣と剣戟激発。

「殿、助太刀いたします。《滝川水軍(おだのうみ)》────ひいては引き撃ち、《俯瞰狙撃(おだのため)》」

 真名、滝川一益〔スナイパー〕。千里眼と透視の魔眼の合わせ技による遮蔽無視の狙撃宝具が差し迫る。水軍船舶も召喚され、低霊級の亡霊滝川忍者集団が甲賀流・航海スキルを発動。滝川一益が騎乗せずとも自立的に鉄甲船を操舵し、ギリシャ由来の鋼鉄大砲から魔光砲弾が逐次一斉掃射される。死炎轟爆。悪魔は狙撃を躱し、砲煙弾雨を避けながら織田信長と斬り結ぶ。ほか著名な織田信長の家臣軍団サーヴァントが現れるが、刹那、スカサハの魔槍がこれを鏖殺した。喜々として戦場を駆け抜けるスカサハは、別の戦場に跳んで秒間千殺を成し遂げる。

 

          ♪~祝福~♪

 

「────っ!?」

 その時だった。悪魔は突然の気配を直感する。それは世界に“点”として現れたような光の魂。悪魔の背後に何かが憑依する。逆転勝利は働かない。悪(・)い(・)も(・)の(・)で(・)は(・)な(・)い(・)。そして光の魂は何かにひどく怯えており、希うように囁いてきた。

(────たすけて……)

 それは年若い少女の声。歳は自分と同じくらいだろうか。彼女の心情を直感した悪魔は、事の次第を把握する。彼女の名前はユニ。どうやら並行世界からの転移者らしい。とある男に“魂を破壊する劇薬”を投与されるところだったユニは、自分の魂を別の世界に飛ばすことで、なんとか生き残ろうとした。結果、その“別の世界”とやらが、この悪魔がいる世界だったようだ。

 悪魔は思う。これもマーレリングを手に入れた影響なのだろうか。ともあれ助けを求めている子を見捨てるわけにはいかない。

(オレでよければ守ってやる。だがこっちは今、地獄じみた死闘の真っ最中でな。もっとほかのところに飛んだ方が安全だと思うぜ)

(……!? あなたは……まさか、沢田綱吉さん……?)

 悪魔は敵サーヴァント軍勢を相手取りながら心の中でユニと対話する。そして直感。どうやらユニは、この世界が一番安全だという自らの予知を信じて飛んできたようだ。ユニはQB魔法界について何も知らない。だが彼女の予知は、逆転勝利魔法を当てにして飛んできたと見て間違いない。

(オレを知っているのか)

(はい。……でも、私が知っている沢田綱吉さんとは、随分と……心が……その……)

(荒れているか。別の世界線のオレがどうなっているのかは知らないが、正直どうでもいい)

(…………)

(あと守ってやるとは言ったが見ての通り余裕はない。タダ乗りさせてやるほどオレは優しくもないから、ちょっとだけその魂を貸してくれ)

(貸す?)

 悪魔は叛逆施術を行使。天乃鈴音とすれ違いざま、その体に触れて魔力パスを分担。天乃鈴音の魔力パスをユニの魂と繋げた。

「っ!? 悪魔、なにしたの?」

「潤沢な魔力資源と接続した。宝具の連発速度をあと十倍は早めろ。やちよの発散魔力と合わせて、敵陣のソウルジェムを一気に融かしてやれ」

「了解」

 ユニの魂を燃料とする天乃鈴音は、霊基に流れ込んでくる熱量を全て宝具開放の魔力に回し、七海やちよとコネクト。一度の宝具使用で数千騎のサーヴァントのソウルジェムを融解させる。

(これは……いったい……!)

(あんたの魂は人間換算で数百人を優に超す輝きを秘めている。なら数人分くらいの輝きは貰ってもいいだろ? 嫌ならほかの世界に飛べ。支障のない範囲で魂を削ってほしいだけだ)

(……わかりました。そのくらいなら、私の方からも差し上げようと思っていたところです。ほかに何か力になれることはありませんか?)

 ユニは助力を申し出てくる。魂だけの存在。自分の知らない世界。なんなら魔法やらサーヴァントやら、自分が全く知らない文明と技術が戦争をしている世界。そこに飛び込んで怖くはないのか、まさかの協力的な発言に悪魔は釘を刺す。

(あんた、お人好しが過ぎるぞ)

(それを沢田さんが言うんですか?)

(オレは悪魔だ。……じゃあサーヴァントを召喚してくれ。グランドキャスターの冠位資格があるなら、聖杯なしでも自前の魔力でサーヴァントを呼べるはずだ)

(サーヴァント……というのは、よくわかりませんが……ならば私自身を呼びましょう。この世界にも“私”がいます。きっと“その私”は、今のあなたを助けようとしている。その想いの縁を辿って────)

 次の瞬間、悪魔の背後に後光が射す。それは光の奇跡。一瞬だけユニの霊体が顕現し、この世界の法則を借りてサーヴァントのように、宝具のような力を行使する。

(────《揺籃の大空よ、呪われし赤ん坊を言祝げ(リトルクイーン・アルコバレーノ)》────)

 刹那、ユニは敵軍の動きを全て予知。然るのち六人の赤ん坊の影が飛び出して戦いを開始する。中華服を着た嵐の赤ん坊は恐るべき拳法で数千の敵軍を鏖殺。軍服を着た雨の赤ん坊は熟練した狙撃術で数千の敵軍を爆撃。白衣を着た雷の赤ん坊は巨大なモスカを操縦して数千の敵軍を一掃。スーツを着た晴の赤ん坊は卓越した拳銃の腕で数千の敵軍を瞬く間に射殺。ヘルメットを被る雲の赤ん坊は悪魔を狙う数千のAランクオーバー宝具をその身ひとつで受け止めて相殺。ローブを羽織る霧の赤ん坊は精密な幻術で数千の敵軍を縛り凍らせ爆殺し、生き残ったサーヴァントすらも強制的に自害させる。斯くて六千騎の敵軍を一瞬で討ち滅ぼしたユニは、少し疲れたようなため息をついた。

(ふぅ……これでいいですか?)

(上出来だ。助かる。しかしアルコバレーノは化け物ぞろいだな)

(その時代最強と謳われる人たちですから。私は……予知しか取り柄がありませんけど)

(弱気になるな。同じ予知能力者として、あんたの苦労も心痛も分かる。だが──言われなくても承知しているだろうが──そっちではユニしかできない役割があるんだろう。ならば、それに向かってひた走れ。たとえその先が“死”で終わろうとも、あんたを想う奴がひとりでもいるなら、怖さなんて無くなるはずだ。死の恐怖は、ほんの一瞬だけ忘れられる)

(────……そうですね。……沢田綱吉さん。助けていただき、ありがとうございます。私、そろそろ帰りますね。私が元いた世界では、あっという間に数年が過ぎて、もう戦い(チョイス)が終了したようです)

(そうか。じゃあな)

 最後にユニは、悪魔が大空と雨のマーレリングを有している姿を見て、ここの(8兆1個目の)世界における沢田綱吉の半生を悟り、憐憫の念を抱く。しかし、自分には元の世界でやるべきことがある。白蘭の野望を食い止めるため。ボンゴレファミリーを平和な十年前の世界に戻すため。この命を賭してでも、果たさねばならぬ宿命がある。 

 ふと、悪魔の背後から光の魂が消えた。まさに、ほんのいっときの邂逅。特に意味はなく、単なる一期一会の共闘だった。その短時間で悪魔は、ユニという少女にどこか自分と近しいものを感じていた。そこでチェルベッロの言葉を思い出す。

「“オレと同じ立場のふたり”……虹と海……ハァ。まさか、マミからイヤってほど叩き込まれたイタリア語が、ここで役立つとはな」

 イタリア語で、虹はアルコバレーノ。海はマーレ。

「なんの因果だか」

 この世界では縁がない。あるいは、ま(・)だ(・)縁(・)が(・)な(・)い(・)虹と海。いつか出会い、ぶつかる時が来るのだろうか。仮に来るとしても、それはマギウスとの戦いを乗り越えたあとの話だろう。悪魔は気持ちを仕切り直し、目の前の鏖殺に集中する。

 

 刹那、二本の槍を自在に操る騎士が突撃。激発剣戟。

「これは魔法少女の未来を懸けた戦いである。マギウスの翼に属する魔法少女のため、いざ推して参らん!」

「その先にあるのが破滅だとしてもか。それにお前は、ただ忠を尽くせればそれでいい男だろ。未練がましい」

「!」結局は己がため。そう悟った彼は、ならば武の限りを尽くして主に報いようとする。

 真名、ディルムッド・オディナ〔ランサー〕。宝具は二つ。紅の長槍と黄の短槍。破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)は刃が触れた対象の魔力的効果を打ち消し、必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)は刃で傷つけた対象に治癒不能の傷を負わす。魔力を使わず死炎で殴る悪魔に前者の宝具は無意味。だが後者の宝具は長期戦に不利だ。派手さがない宝具構成ゆえ逆転勝利も働きにくい。繰り返される攻防はじわじわと悪魔の最大HPを削っていく。

「私の第三宝具《親指かむかむ智慧もりもり(フィンタン・フィネガス)》により、悪魔はどうせ殺せないことが分かってしまった。ディルの短槍でも、いずれは最大HP1の時点で、最大HP0になる前に逆転勝利が働いてしまう。ならばどうするか。簡単なことだ。倒せなければ封じればいい。それは古今東西の定番ネタではないかね? 魔封波!!」

 真名、フィン・マックール〔ランサー〕。第二宝具《この手で掬う命たちよ(ウシュク・ベーハー)》の癒しの水を込めた、第一宝具《無敗の紫靫草(マク・ア・ルイン)》により、超絶怒涛の大河奔流が地表を襲う。神霊殺しの神秘を内包する水槍は、邪神神殿を打ち砕くほどの津波を以て敵味方を問わず押し流す。

「だが残念。私は悪魔を封印する術を持たない。だが一応、君を捕らえる“最善の答え”は、我がマスター・マギウスに教え授けておこう」

「────!」

 悪魔は、フィン・マックールの心情を直感する。

「君も辛いね」

「……礼を言う」(オレの計画を補強してくれたことに……)

 されどフィン・マックールは悪魔に与したわけではない。少しでも悪魔の猛攻を押し止めようと全力で足止めにかかる。

 

 一方、別の戦場では────音速五百号に至る虹速の七海やちよが数百万騎のワルキューレを屠っていた。それを見据える男は雄叫びを上げる。

「ほう! 虹の戦乙女か! 陣営が違えば夜の酒に誘ったものを……惜しいな! だが敵であれば殺すのみ! さぁ、真の虹霓をご覧に入れよう……! 《螺旋虹霓剣(カレドヴールフ・カラドボルグ)》────!!」

 真名、フェルグス・マック・ロイ〔セイバー〕。宝具は螺旋描く(ドリルのような)刀身の一撃。迷宮の屋根に突き刺した刀身は、虹の螺旋を描いて地表粉砕。巨大地下迷宮を粉々に回し砕く極光は、地形破壊兵器の如し威容を天空にまで広げる。

「────! なに!?」

「天地天空大回転ッ!!」

 巨大地下迷宮を砕き、巨大湖に渦を巻き、大気を廻し切り裂いて、曇天と大嵐すらも斬り拓いた虹霓の螺旋は、全ての障害物を蹂躙する。その宝具の射程には、反骨の相スキルが働いたのか、明らかにマギウスの本拠地たる魔翼移動要塞も入っていた。悪魔は叫ぶ。

「やちよ!」

「わかってる!!」

 虹霓一閃。標高10kmから地上まで一瞬。瞬間移動の如し極光の軌跡を描いてフェルグスの霊核を貫いていた。されど螺旋は止まらない。

「やちよ! 私に虹霓の魔力を!!」

「っ!!」

 それはセイバーの声。神速に等しい速度で駆け抜けた七海やちよは、虹霓の魔力をアルトリアに譲渡。刹那、聖剣使いは宝具を解き放った。

「逆回転の力を懸けた聖剣抜刀で相殺する! 加えて虹霓の光には卑王を鉄槌せし闇を以て打倒しよう! 覚悟しろ! 《約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)》────ッ!!」

 暗黒聖剣は天を突き、時計回りの螺旋に対し、反時計回りの薙ぎ払いを撃つ。天地天空を掻き乱す歯車を、天地天空を打ち砕く歯車を以て食い止めた。刹那、天地含む戦場全体の空間が極光・虹霓・断絶されて亀裂が入る。三次元空間の位相を切断するほどの回転激突。轢断された空間亀裂は事象飽和現象となり、亀裂の入った層と重なっていた存在は抹消される。

「あらゆる力が私の力。人を統べる王権、人を虐げる鋼鉄、人を震わす恐怖! あぁ《愛しき私の鉄戦車(チャリオット・マイ・ラブ)》!」

 真名、メイヴ〔ライダー〕。宝具は固有結界を内包する戦車の突撃。悪魔は逆転勝利が働かず、鉄戦車に轢かれた瞬間、真っ赤な寝室に存在していた。悪魔は直感して身震いする。タイプじゃない女と寝るのは御免こうむる。そして逆転勝利が極まった。眼前にはメイヴと、ランサー クー・フーリンと似た男性と少年がふたり、寝台の上という極小空間にて、互いに避けようのない宝具を解放する。

「《愛しき人の虹霓剣(フェルグス・マイ・ラブ)》!」

「《噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)》!」

「おいマジでやんの!? あぁくそっ────《裂き断つ死輝の刃(クルージーン・セタンタ)》ァ!!」

 メイヴは宝具《愛しき人の未来視(コンホヴォル・マイ・ラブ)》により、このあとの未来を視たはずだ。故に彼女の心境は、まったく穏やかなものではない。天井から宝具《愛しき私の蜂蜜酒(マイ・レッド・ミード)》が奔流。なんとしてでも男たる悪魔を撃滅しようとメイヴは企むが────

(叛逆+(プラス)助太刀)

 ────極限まで極まった逆転勝利により、悪魔は固有結界から脱出。刹那、傍らを通過した鉄戦車が爆砕した。四種宝具同時使用の無理が祟りメイヴは霊基崩壊。悪魔やクー・フーリンをモノにできなかったことに「悔しいィーッ!」と叫びつつ消滅。真名、クー・フーリン〔オルタ/バーサーカー〕は戦闘続行スキルで生還し、ルーンで足場を作成、悪魔を付け狙う。真名、セタンタ〔セイバー〕も宝具が外れた場合の矛先として螺旋剣を相殺する位置に叩き込んでいたため、固有結界の消失とともに脱出。蜂蜜酒は浴びたもののメイヴは退去したので効果消滅。「やっぱダメじゃん」と呟きつつ、通りすがりのワルキューレの頭を「悪いな!」と踏んで跳躍、悪魔めがけて宝具を切る。

「逃がさん!」

「囲んだぞ!」

 悪魔の背後よりディルムッドとフィンが飛びかかる。前門のアルスター、後門のフィニアン。逆転勝利は極まり、悪魔は火炙りの聖剣を抜き放つ。瞬間イクスバーナーと同等の炎圧を込めて轟炎、旋回一閃。それを四騎のケルト系サーヴァントは宝具で以て対抗しようとしたが、詠唱が間に合わない。炎に灼かれる。だがその程度、負傷しながらでも宝具開放は可能────のはずだった。

『!?』

 火炙りの聖剣は、ジャンヌ・ダルクを象徴する概念を武装として結晶化させたものだ。聖女の最期は磔にされて火炙りにされた。故にその炎を浴びた者は磔刑されるがごとく四肢を縛られ身動きが取れなくなる。そこへ叩き込まれる神秘の斬撃。聖女を捌いた断罪の炎斬が、四騎のケルト系サーヴァントだけでなく、周辺を飛行するワルキューレ数千騎をも切り裂いて灼き滅ぼした。

「名付けるなら、斬り灼く磔刑の剣(ラ・ピュセル)────ってところか?」

 刹那、悪魔の逆転勝利が明滅。

 

「すごいや。僕の父を倒すなんて。でも俺だって負けないよ! 《擲ち斃す魔風の石(サウィルダーナハ)》!」

 悪魔の頬に一石の投石が掠る。次の瞬間、昏倒判定を強いられた悪魔は逆転勝利が閃いて勝利。なんとか意識を失わず、二葉さなより送られる真名看破情報を取得。

 真名、コンラ〔アーチャー〕。黄金の髪を風のようになびかせる少年は、クー・フーリンの息子である。宝具は、ただの小石の投擲を命中させず、赤枝の騎士を気絶させた逸話を昇華した投石器。小石を命中させて気絶を強いるなら分かる。ダビデの宝具がまさにそのような能力だった。しかし小石を命中させず、一切の魔力も用いず、ただの衝撃波のみで脳や三半規管を揺らす“その技術”は、まさしく自(・)然(・)を(・)も(・)手(・)足(・)と(・)す(・)る(・)絶(・)技(・)と言うほかない。故にこの宝具の真髄は“気絶を強いるもの”ではなく、“その技量”に真価があると直感。その証拠に、無窮の武練(未来)スキルを確認。

 コンラは生前、クー・フーリンを除く赤枝の騎士団を相手に無双を演じた経験がある。しかし成(・)長(・)途(・)中(・)の(・)道(・)半(・)ば(・)でクー・フーリンの魔槍を受けて死んだコンラは、未来視を持つコンホヴォルから『あと五年もあれば、その王権は遥かなるローマにまで届くはずの無双ぶりを見せていた』と称されて、その死を嘆かれたという。

 悪魔とコンラの超音速剣戟。その武芸、父たるクー・フーリンを超える技量。一撃一撃が必殺であることには、どのサーヴァントも変わらない。だがコンラは、その“一撃必殺の精密度”が桁違いに高かった。極まり続ける逆転勝利の中、悪魔は焦り思う。この少年兵は、魔槍ゲイ・ボルクのような“どう足掻いても死ぬ”ような宝具でなければ倒せない戦士なのではないか? そう直感する。なぜそう思うのか分からないが、その身震いを今に見せつけられる。

「えぇと、たしか若いお父さんはこうやってたっけ? 《裂き断つ死輝の刃(クルージーン・コンラ)》!!」

 単純威力系宝具B+ランクの火力が“ただの通常攻撃”として叩き込まれる。神速の剣戟。その全てを死の瀬戸際で捌く悪魔は後手に回る。逆転勝利の目処が立たない。その間隙を突くようにコンラは次の手を打つ。刹那、逆転勝利が働いて貫手。霊核を穿たんと────

「で、怖いお父さんは、こんな感じだったかな? ルーンで魔槍をゴニョゴニョして甲冑に改造して……。よーし! 《偽・噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)》!!」

 魔槍ゲイ・ボルクの素材となった紅の海獣クリードの骨から構築された甲冑。それを戦闘中の土壇場で再現したコンラは、悪魔の貫手を甲冑で防ぎ、霊基にヒビが入りながらも霊核破壊を凌いだ。そして悪魔の総身にAランクの火力が殴り込まれる。

「オラオラオラ! ……でもこれ、ルーンで補強すればもっと凄くなるよね? よーし、やっちゃお! 全種ルーン開放! 全呪熾槍────《完全再現・燃え狂う死牙の獣(クリード・コインヘン)》!」

 魔槍を甲冑としたなら、甲冑自体を対軍魔槍とする事も可能。甲冑から無数の棘が逆立ち、全方位に治癒阻害の穂先を繰り出す。全身を串刺しにされた悪魔は逆転勝利が極まり、魔槍甲冑を破壊しながら打撃、霊核を殴り抜かんと────

「《完全模倣・剛炎放射(イクスバーナー)》!」

 ────した瞬間、悪魔は、自身の必殺技で吹き飛ばされた。全身が滅却される前に叛逆助太刀で瞬間転移。一時戦場を離脱して思考。コンラの本当の宝具について考察する。

 宝具《無窮に及ばず(サウィルダーナハ)》────天賦の才能により、あらゆる技量系のスキル・宝具を模倣・再現できる能力。召喚時、既に修得している宝具は、生前一度だけ目にして殺された父クー・フーリンの《刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)》のみ。つまりコンラは、魔槍ゲイ・ボルクを宝具として持ってきていない。だが今しがた確かに魔槍を甲冑に換えたはずだ。その魔槍はどこから手に入れた。

(まさか────原初の18のルーンで創ったのか!?)

 そして今、悪魔の必殺技(イクスバーナー)を“七つ目の宝具”として霊基に登録したことで、コンラ自身すら知らない隠されし第三宝具が発動する。二葉さなが真名看破。宝具《無窮に至り、百の武練(セブンス・ノウブル・ファンタズム)》────それは模倣した七つの絶技を集約させることで、コンラだけの全く新たな“武術の型”とする宝具。

 一つ目に《刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)》、二つ目に《虹霓剣(カラドボルグ)》、三つ目に《約束された勝利の剣(エクスカリバー)》、四つ目に《斬り灼く磔刑の剣(ラ・ピュセル)》、五つ目に《裂き断つ死輝の刃(クルージーン・コンラ)》、六つ目に《偽・噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)》、七つ目に《剛炎放射(X BURNER)》。魔槍の因果逆転はルーン魔術で再現可能。虹霓剣の聖剣性能は再現不可だがルーンで模造可能。聖剣エクスカリバーも再現不可だが、騎士王の魔力放出による抜剣術は模倣可能。火炙りの聖剣も概念的な要素は再現不可だが、死ぬ気の炎による旋回斬撃は模倣可能。セタンタの斬撃の太刀筋も看破し、本人以上の完成度で模倣可能。クー・フーリン〔オルタ/バーサーカー〕の魔槍甲冑操縦技術も本人以上の完成度で模倣可能。悪魔のイクスバーナーも同様に、本人と比べて次元違いの完成度で模倣できる。故に、この時点でコンラは第三宝具の真名が変化し、今回の聖杯戦争限定の霊基として完成する。その名も《百芸に通じし勇者(コンラ・サウィルダーナハ)》────

「七つの武技を、一つの奥義として! 子供ゆえにど(・)こ(・)ま(・)で(・)も(・)成(・)長(・)す(・)る(・)英(・)霊(・)として定義された、我が闘争進化の真髄、その果て、その極致を見よ! 《この世一つの業(サウィルダーナハ)》ッ!!」

 刹那、一息のうちに七つの必殺が繰り出される。一撃、因果逆転のルーンで悪魔の心臓を穿ち、一撃、時計回りの剣舞で悪魔の上半身を袈裟斬りし、一撃、ルーンによる魔力放出で踵を返した反時計回りの剣閃で悪魔の上半身を逆袈裟斬りにし、悪魔の体をX字に斬り裂き、一撃、大空と大海からなる計十四種の死ぬ気の炎の爆発回転斬撃によって“円を描く太刀”を出現させ、後退する悪魔に、燕でさえ避けられない回避不能の一太刀を頭部に浴びせ、一撃、影郷の武練からなる恐るべき戦闘技術によって悪魔の首を刎ね、虹霓剣に匹敵する火力で轟爆一閃、一撃、悪魔の反撃を予想しての甲冑化で死炎轟爆の貫手を再び防ぎ、一撃、今度はコンラの死炎轟々爆発噴射によって、悪魔の眼球内部にある弱点を滅却せんと────

「《刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)》」

 ────刹那、コンラの背中から左胸にかけて魔槍が貫かれる。体内で炸裂する無数の増殖棘が五臓六腑と骨肉、さらには霊基霊核を殲滅破壊。コンラの心身は朱い茨の呪いによって棘の杭が打たれたように縛り付けられ、後一歩だった悪魔の殺害を紙一重で食い止められた。

「カハッ……おとう、さん……」

「脇が甘い。だから不意打ちなんざ喰らうんだ。戦いを楽しむところはオレに似たんだろうが、だからって油断していいわけじゃねぇ。そんなんじゃ赤枝の騎士団には入れてやんねぇな。この、ひよっ子が」

「……はは……また会えて、嬉しいよ……僕を、お母さんといっしょに、召喚してくれて、ありがとね……お父さん……あぁでも、もうひとりのお母さん(エメル媛)にも、会いたかった、かな……だから僕は、聖杯戦争に召喚されたがるところも、あるわけだし……?」

 コンラ、黄金の粒子となって消滅。チーズの針が伸びて悪魔の首と胴体を繋ぎ縫合。ヘラクレスとアキレウスに次いで死の淵を彷徨った悪魔は、ランサーにこぼす。

「素直じゃないな」

「うっせぇ! 俺のガキに殺されそうになってんじゃねぇぞ。おかげで二度、手ずから殺すハメになっちまった」

「悪い。だが助かった。できればコンラも仲間にしたかったが……」

「そりゃ無理だ。あいつには金輪の三戒(かなわのさんかい)がある」

 名を名乗るな。道を変えるな。勲を逃がすな。それは青年のクー・フーリンが、まだ生まれる前のコンラに授けた誓約(ゲッシュ)。その中で“道を変えるな”は、“宗旨替えするな”とも取れる。しかしコンラ自身がどう思っているのかは不明。だがそれも過ぎた話。そして余談だが、そのゲッシュに従う限り三倍の力を得るコンラは、頑なにゲッシュに従うあまり、クー・フーリンと殺し合う宿命になってしまった。マスターとしてランサーの霊基からその情報を取得した悪魔は、自身の父・沢田家光について連想する。

「……お互い、親子運が悪いな」

「そいつは、どういう意味かにもよるな」

 悪魔とランサーは背中合わせで跳躍。地獄の戦場に返り咲く。

 

 頭上では坂田金時とオデュッセウスと巨大海魔による三つ巴の怪獣決戦が今もなお繰り広げられている。近付きすぎれば踏み潰される。悪魔陣営の七海やちよを除く魔法少女たちは、サーヴァントに守られながら移動し、環いろははマギウスのアジトへ突入するタイミングを窺う。

「何を悩むの? 何を決めるの? 当たって砕けろが人生よ。でもたいへん気をつけて。ソウルジェムが砕かれれば、女の子は寂しくてうさぎのように死んじゃうんだから!」

 真名、ナーサリー・ライム〔キャスター〕。宝具は彼女自身。童話という概念が固有結界となり、マスターの心象風景を映すサーヴァント。マスターは、不思議の国のアリス〔キャスター〕。故に彼女の固有結界は、まさにその絵本の世界を再現するかのような能力となる。

 四十体のトランプ兵が、悪魔が召喚した海魔の群れと激突。トランプ兵は何らかの力で高い再生力を有し、海魔集団は死んでも死体を媒介に即再召喚されるため、互いに不死身の如し死闘を見せる。

「死んで戦い、死んで戦って、まったくみんな飽きないのかしら? さぁジャバウォック、繰り返される少女帝国を討ち滅ぼしなさい。魔法は素晴らしいけど、魂を代償にするなんてひどいわ! でも安心して。全て消え去れば絶望もなくなる。名無しの森よ、抵抗する魔法少女たちを安寧の永眠に導きなさい!」

 螺旋虹霓剣によって天井が破壊された巨大地下迷宮はその内部を晒している。故に名無しの森は地下迷宮を巻き込んで顕現。固有結界の森に囚われた者は自らの名を忘れてしまう。だが効果はそれだけ。そして正体不明の怪物ジャバウォックが降臨して咆哮を上げる。名無しの魔法少女たちは戦闘開始。勝負は一瞬で着いた。ジャバウォックは“名も無き一人の勇者によって倒される怪物”として語られる。故に名を忘れて名を失った魔法少女(ゆうしゃ)によって真紅迅雷。怪物は倒された。

 

 その瞬間を突く。宝具《暗黒霧都(ザ・ミスト)》によって霧が立ち込める。周囲には女性しかいない。暗殺の瞬間は今。回帰願望成就の機会は決して逃さない。

「此よりは地獄。わたしたちは炎、雨、血から(チカラ)────殺戮をここに。《解体聖母(マリア・ザ・リッパー)》!!」

 真名、ジャック・ザ・リッパー〔アサシン〕。無数の水子の怨念が上乗せされた呪詛斬撃は、遥か遠方からでも攻撃が届く。狙うは美琴椿〔セイバー〕。刹那、彼女の肉体が爆破。皮膚・筋肉・骨・内臓が凄まじい力で外部に弾き出されて殺された。美琴椿はわけもわからないまま死亡。体内にあるはずの霊基霊核すらも体外に放出した理屈(こと)で消滅。

 

「妹よ、私に合わせて! 名無しの森ごと吹き飛ばします! 《猛り狂う乙女狼(イーラ・ルプス)》!」

「露骨に姉ヅラすんな! 《我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)》!」

 赤雷爆撃、一掃蹂躙。既に瓦解していた迷宮の一角が崩壊し、焼き払われる名無しの森。そこへ真名、ガレス〔ランサー〕が猪突猛進。今を生きる魔法少女として常に姿を晒す鹿目まどかと佐倉杏子に突撃する。すかさず暁美ほむらが隠密狙撃。霊核を撃ち抜くが、その魔力余波で居所を掴まれる。

「そこか!」

「させない」

 真名、モードレッド〔セイバー〕と天乃鈴音の剣戟。その横を縫うようにジャック・ザ・リッパーが迫る。刹那、何もない場所から光矢速射。難なく弾いたジャックは、透明化している魔法少女へ標的変更。佐倉杏子が迎え撃つ。短刀と朱槍の激発。そこへ、片腕の腕章に“風紀”の二文字を掲げた魔法少女が疾風横断。一撃、ナーサリー・ライムの頭部を砕き、蹴撃、ジャック・ザ・リッパーの腹部と霊核を貫き、一撃、雲ハリネズミの球針態でガレスの宝具を正面から食い止め、一撃、見たものに戦慄が走るような笑顔で恭弥アーデルハイトはモードレッドと殺し合う。

「なんだテメェ!」

「君らはぜんぶ僕の獲物だよ。出会う強者は全て、咬み殺す」

 無論その中には鹿目まどかや佐倉杏子も入っている。殺気を受けた二人は、恭弥が円卓の騎士と戦闘している今のうちに後退。そこで環いろはが念話で叫ぶ。

(え、佐倉さん!? あの人と一緒に戦った方が……!)

(バカ言ってんじゃねぇ! あいつ隙あらばこっちも殺す勢いだ! だから恭弥(あのバトルマニア)からも距離を取って移動してんだろうが! もし次に顔を突き合わせたら問答無用でさっきのサーヴァントみたく脳天かち割られると思え!)

 上空からワルキューレ軍団。ナポレオンの砲撃で一掃。環いろは達の頭上に道が拓ける。行くなら今だ。

(悪魔さん! 急ですが、チームみかづき荘、空中要塞に乗り込みます!)

(────! わかった。援護する! マーリンと山の翁もついて行ってくれ! この場はオレ、ランサーと玉藻の前、アルトリアとエミヤが受け持つ!)

 

「────と、考えているな? そうは問屋が卸さない。ご覧に入れよう、神の雷霆を握る人の力を! 《人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)》!」

 真名、ニコラ・テスラ〔アーチャー〕。宝具は見た方が早い。刹那、世に轟く雷電が神浜全土に落雷。上空を翔ぶワルキューレ軍団含む飛行系サーヴァントは飛行機能が灼かれて墜落し、大地におびただしく群れる天地人や魔獣系サーヴァントも落雷を受けて霊基感電大破損、黄金の粒子となって即消滅。天地を分かつ時空断層によって飛翔の道が絶たれた環いろは達は瞬発回避。魔力で動体視力を上げて間一髪、雷速の連撃を躱していく。

 虹霓一閃。七海やちよの虹槍がニコラ・テスラの霊核を穿つ瞬間。世界の信仰は、さる偉人によって強奪された。

「万人に等しく光を与えよう! これより闇の世界は、我が輝きに塗り潰される業(カルマ)にある! 魔法少女もまた、我が発明によって魔女化などという絶望もぬぐい去ってくれよう! 《W・F・D(ワールド・フェイス・ドミネーション)》!」

 真名、トーマス・エジソン〔キャスター〕。獅子頭の獣人が吼える。刹那、虹槍は難なくニコラ・テスラとトーマス・エジソン、両名の霊核を貫いた。

「なにィ!?」

「やはりそうか! QB魔法界の魔法は信仰による神秘を必要としない! インキュベーターによる他惑星由来の技術なれば! そう、それは世界と世界の交流! TP魔法界の神秘を奪ったところで、なんら意味はない! 故に直流は悪!」

「なんの理屈にもなっていないぞ! ただのダジャレではないか、このミスター・すっとんきょうがぁ!!」

「はいはい! 死んでもケンカしてないでとっとと退去する! エジソンも効かないの分かってて使ったくせにすっとぼけてないの! ────でもごめんなさいね。私の宝具は攻撃系なの。《金星神・火炎天主(サナト・クマラ)》!」

 真名、エレナ・ブラヴァツキー〔キャスター〕。宝具は謎の円盤飛行物体と光り輝くエーテルの巨人召喚。不可思議なそれらは広範囲に炎をばらまき周囲を焼き尽くす。虹槍疾駆。円盤を両断し巨人の胸部に大穴を開けた七海やちよはエレナの霊核を貫いて地表に爆雷。宝具を解き放とうとしていた嵐の王 アルトリア・ペンドラゴン〔オルタ/ランサー〕を殺害。

 

「わたしと、いっしょに、こい! 《磔刑の雷樹(ブラステッド・ツリー)》ィイイッ!!」

 真名、フランケンシュタイン〔バーサーカー〕。宝具は戦鎚《乙女の貞節(ブライダル・チェスト)》の真名解放。地面に突き立てた戦鎚は魔力を雷雲に換えて一斉放電。聳え立つ雷炎太樹の硬化雷撃が追尾性能を持って拡散する。さらに全リミッター解除。最大出力の一撃はBランクの火力となる代わり、フランケンシュタインは絶命する。魔法少女たちは跳躍退避して迷宮の奥地に逃げ込み、拡散放電を迷宮の屋根を使って防ごうとするが間に合わない。

「うぁああああ!」

 次の瞬間、アステリオスが迅雷の踏み込みで一撃、戦斧の爆発的風圧で雷撃を跳ね返し、一撃、もう片方の戦斧から漆黒の焔を燃え盛らせて追尾放電を防御する。刹那、悪魔は叛逆施術魔法でフランの両手を両断。宝具の戦鎚を奪って環いろはに投げ渡す。

「持っていけ!」

「悪魔さん!」

 フランケンシュタインの宝具は地表だけでなく、上空を含めて射程に入れていた。敵であるのに用意された空への道。

「俺の虹はいつでも準備万端だぜ! そろそろ活躍させてくれ!」

「じゃあ、ほむらちゃん!」

「うんっ! ────お願い、巌窟王! 宝具を────!!」

 

「恨みはありません。どうか、お逃げを。────《元素使いの魔剣(ソード・オブ・パラケルスス)》」

 真名、ヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス〔キャスター〕。賢者の石で構成された刀身は五大元素の魔力を渦巻いて、真エーテルを疑似構成。ほんのわずかひと欠片の塊が砕け散った瞬間、それは莫大な破壊の力となって敵陣三百を蹂躙する。それは迷宮の一角を吹き飛ばす宝具だが、対象に巻き込まれていた恭弥が球針態を増殖発動。

「なに────! 我がエーテルを防ぐほどの、遮断魔力……!? これは、ただの人間という生き物が出していい出力ではない……!」

「当然だよ。僕は君らとは、生物としての規格が違う。ただ面白いのは、君たちが僕に魔(・)力(・)を(・)使(・)わ(・)せ(・)る(・)ところだ」

 ガレスを撲殺し、モードレッドを鎧ごと引き裂いていた恭弥アーデルハイトは標的変更。

「確かに君は最凶だ。でも万能ではない。大空のように全てを包容する力には、まだ敵わないんじゃないかな? なんて煽ってみたら、動きが正直だ。まっすぐこっちを殺しに来る。さて、《万能の人(ウォモ・ウニヴェルサーレ)》!」

 真名、レオナルド・ダ・ヴィンチ〔キャスター〕。宝具は万能性の具現。恭弥アーデルハイト殺害のために必要な要素すべてを瞬時に解析、魔力性能を調整して解き放つ。また、相手の宝具または攻撃を仮構成して反射するカウンター宝具でもあり、恭弥の球針態を解析して増殖遮断魔力を模倣し完全再現。

「!」

 恭弥とダ・ヴィンチの間に紫色の魔力が際限なく膨張して激突を繰り返し、雲ハリネズミ同士の膨張合戦は遥か上空まで続く。それすなわち魔法少女陣営とマギウス陣営が完全に分断されたことを意味した。空を飛ぶチャンスが訪れては邪魔される。だが今度こそチャンスを────

 

「飲むしか……ないのか……! うぅ……来た、きたきたきたきたァッ!!」

 真名、ヘンリー・ジキル&ハイド〔バーサーカー〕。宝具は《密やかなる遊戯(デンジャラス・ゲーム)》。ジキルからハイドへ、あるいはその逆へ変身する霊薬。三騎士クラスをも圧倒する近接戦闘能力は二重構造の遮断魔力を突き破り、佐倉杏子と激発、苛烈なる攻撃を叩き合い互いの命を奪い合う。しかしここでかかずらっているわけには行かない。佐倉杏子は分解魔力を込めた大ぶりの大槍攻撃を繰り出し、あえて隙を晒す。そこに獣の如し風貌となるハイドの鉤爪が迫る瞬間、鹿目まどかの光矢が爆撃。それを跳んで躱した刹那、高速で背後に回っていた佐倉杏子の朱槍が、分析魔力で見抜いたハイドの霊核を正確無比に貫いた。

 

「見果てぬ夢を、ここに。我が空想、我が理想、我が夢想────されど、此度の夢にそれが現れることはなかろう。ならば────命儚き夢見ろ乙女、我が蒸気の煙に紛れて、いざ飛びたて! 《絢爛なりし灰燼世界(ディメンジョン・オブ・スチーム)》────!!」

 真名、チャールズ・バベッジ〔キャスター〕。宝具は彼自身の心象風景が固有結界と化した蒸気文明(スチームパンク)の夢現召喚。霧烟(けぶ)る倫敦(ロンドン)は勝利(ヴィクトリア)の朝日(王朝)を越えて。

「今だ! タイミングは今しか無いッ!!」

 悪魔の絶叫。バベッジの宝具はその特殊性からB~Cランク相当の火力しか持ち得ない。その程度ならばナポレオンの宝具で防げる。

 

「────待て、しかして希望せよ。とうとう好機(こくげん)がやって来た。漸(ようやく)くだ! 時空を翔ぶぞ、マスター! その先は更なる灼熱地獄が待っている! 悔いはないな! 覚悟しろ! ────《虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)》!!」

 漆黒の毒炎が魔法少女陣営の肉体に憑依。だが宝具の射程(レンジ)は20まで。つまり上空の曇天より遥か上にある多層結界の近くまで接近しなければ宝具は発動しない。時空という無形の牢獄を脱する巌窟王の真価は、脱獄間近の領域まで進まなければ始動しない。

「だから、俺がいる。送り届けるぜ、魔法少女! 俺の辞書に不可能の文字はないからなぁ! 《凱旋を高らかに(アルク・ドゥ・トリオンフ・)告げる虹弓(ドゥ・レトワール)》!!」

 巌窟王の漆黒炎で構成されたマントに包まれる魔法少女たちは急上昇。だがそのままでは格好の的だ。バベッジの蒸気攻撃を防ぎつつ煙に紛れて一気に数百メートル上昇するが、まだ目的地の三割程度。迷宮の一角がバベッジの宝具で吹き飛ぶと同時、マーリンの聖剣がバベッジの霊基を切り崩す。そして巌窟王たちは蒸気噴出の範囲外に出たことで空中に身を晒した。今まさに一億へ昇らんとするワルキューレの軍勢が目標補足、一斉攻撃を開始。そこにナポレオンの虹霓砲撃が叩き込まれ、音速七百合の虹槍が七百万のサーヴァントを一秒で屠る。

「俺が虹の橋を架ける! 熱いだろうがそれに乗っかって突っ切れぇえええええ────!!」

 虹霓砲撃、上空一掃。曇天の真下に燦然たる虹色の光輝が散逸する。同時、ナポレオンは全存在を消費したため消滅した。

 

          ♪~輪廻~♪

 

 刹那、真名看破。その宝具の能力を知るまでもなく、太陽の如き灼熱の光と炎を放つ神々しいサーヴァントを目にし、その莫大にして膨大な魔力を肌で感じて────魔法少女たちは、絶(・)望(・)し(・)た(・)。恐るべき神威、猛威、太陽系を死に至らしめる一撃。北養区方面の上空に浮かぶ一騎のサーヴァントは、黄金の鎧から後光たる太陽の神炎を昇らせる。

「神々の王の慈悲を知れ。絶滅とは是、この一刺。インドラよ、刮目しろ。しかして灼き尽くせ! 《日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)》────!!」

 真名看破、カルナ〔ランサー〕。宝具は神をも滅する究極の一撃。雷光炎槍は必滅の理を以て抛(なげう)つたれる。同時、インドの大英雄の眼前に一人の悪魔が立ちはだかる。突としてカルナの第二宝具《梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)》が使用不可に陥った。その宝具は“カルナより実力が上の相手には使用できない”呪いが掛かっている。おそらく悪魔の逆転勝利によって、明確にカルナの実力を上回ったために呪いが発動したのだろう。しかし問題はない。今回その宝具は封じられたが、いま使った宝具は別の最終宝具。これを防げる者はいまい。

「────ナッツ、死ぬ気で撃つぞ」

「……ガウッ!」

 空中にて悪魔は両腕を交差。肘パーツから姿勢制御用の柔炎を噴射。両手のガントレットから剛炎を蒸し炎圧向上。神速の投槍が迫る中、悪魔は────

「ダメ押しです。神性領域拡大。空間固定。神罰執行期限設定……全承認。シヴァの怒りを以て、汝らの運命を此処で断つ。────《破壊神の手翳(パーシュパタ)》! 悪魔よ、弾けて堕ちよ!」

 真名、アルジュナ〔アーチャー〕。宝具は、神浜全土を討ち滅ぼす崩壊魔力の始動。悪魔の逆転勝利が大宇宙の彼方まで極みに極まっていく。

 ────悪魔は一回転。小刀三本を旋回蹴撃。叛逆施術魔法を込めた刺し穿つ死棘の雨(ゲイ・ボルク)を蹴り放ち、即時死炎、極限放射。さらに髑髏型死炎放射器から七色の死炎を轟爆発射、雨のマーレリングから発散効果を付与。それら三種死炎を大空のマーレリングから噴き出す調和効果で死炎を整合化し、炎圧補強。

「うぉおおおおおおおおお!! XX BURNER(ダブルイクスバーナー)ァアアアアア────ッッ!!」

 極死、吼え猛る獄海の炎が三種。空間ごと焼却する虹霓死炎砲撃、一国ごと滅却する雷光炎槍、終末をもたらす崩壊の魔力。拮抗する甚大炎熱は神浜中の大気の酸素を焼き尽くし、両者が睨み合う空間は飽和し轢断、巨大地下迷宮は爆砕し、巨大湖は一瞬にして干上がり、日本海の一部が消失して海底の土が吹き飛ぶ。抉られた地殻からマントルが噴き出し、関東平野は文字通り木っ端微塵と吹き飛んだ。

 列島轟然。神威の爆風を受けて吹き飛ばされる魔法少女陣営。七海やちよが虹色魔力を発散して結界を張るが一瞬で砕かれ、再び張り直して砕かれるを永劫と繰り返す。

「────まさかあいつらの宝具が囮(・)とはな。まぁ、どうせやるなら全力ってのには賛成だ。なんせ面白ぇ奴がいる! 今回の召喚には納得できねぇことだらけだったが、こいつとの戦いは俺でも戦士の本能が刺激される! さぁ料理してやるよ! 《風神の子、此処に在り(マールティ・ヴァーユプトラ)》!」

 真名、ビーマ〔ランサー〕。宝具は、神性活性・暴風圧縮・風神佩帯。筋力と敏捷が飛躍的に上昇。あとはただ閃光のように殴って殴って殴りまくる。刹那、悪魔は叛逆助太刀を行使。眼前に恭弥を転移させる。この世の終わりとも言える爆風の中でパラケルススとダ・ヴィンチを殺したらしく、返り血に濡れる恭弥は自分の意思を無視して転移されたことにキレながらもビーマと殴り合う。

「────! 風神の息子たるこの俺と互角に撃ち合うだと!?」

「……ちょっと、小動物。僕に《逆転勝利魔法》を掛けるとか死にたいの? 咬み殺すよ」

「神話の英雄と戦えてるんだ。それでチャラにしてくれないか?」

「ダメだよ。あとできっちり、君も咬み殺すから」

 恭弥は雲の炎と闇の魔力を無意識に織り交ぜた風遁の一撃でビーマのアゴを砕く。ニヤリと笑ったビーマは拳を返し、一撃、恭弥の首から上を細胞一辺たりとも残さず打ち飛ばした。ビーマはすかさず神速の二撃目を胴体に叩き込むが、増殖魔力で頭部を瞬間再生した恭弥は、逆転勝利の魔法を一度も使うことなく遮断魔力をまとうトンファーで迎撃。毎秒数千発の亜光速格闘戦が猛攻激発する。

「俺は怒るぜ……なぁ悪魔……テメェも怒ってんだろ……? なら何故それを表に出さねぇ! テメェがクールに決め込むなら、俺は誰よりも怒り狂うぜ!! ナァ────オイ!! 俺の宝具は誰かを守る転輪だ。それを、こんなクソみてぇな現界では使えねェ!! 悪魔! 貴様は何を求める!!」

 真名、アシュヴァッターマン〔アーチャー〕。宝具は二種類。誰かを守る為の宝具《転輪よ、噴炎を巻き起こせ(スダルシャンチャクラ・ヤムラージ)》と……

「────死ぬ気で来い」

「……言ったな? 後悔……しねぇなァ!!? 死ぬほど癪だが、俺の怒りを託すぜ!! そして暴れろ! 敵だろうが味方だろうが、嫌な奴だろうが好きな奴だろうが、無関心な奴だろうがまだ見ぬ知らぬ奴だろうが、なにがなんでも関係なく! 魔法少女どもを、守る為に!! ────究極兵器、起動。世界を麻痺させる破壊力を以て、この災厄に満ちた世界を滅ぼさん。アァ……《光赫よ、獄死の海を顕現せよ(ブラフマーシラーストラ)》────ァアアアアアッッッ!!」

 その宝具は、端的に言えば核兵器のような一撃。発動したが最後、周囲一帯が十二年もの間、不毛の土地となる。だが既に神浜は亡(な)く、日本列島も関東部分が寸断されて孤島となり、世界は数億を越すサーヴァントに襲われて殲滅されている。ならば、たかが神浜跡地に核を落とすぐらい、もはや痛(・)く(・)も(・)痒(・)く(・)も(・)な(・)い(・)世(・)界(・)になってしまった。

 さらに真名、ラーマのフリをする(プリテンダー・)ラーヴァナの羅刹宝具、看破するはアサシンの二十代目ジャナカ王の神弓宝具(二挺拳銃)が、悪魔めがけて放たれる。その全てが必殺を超える必滅の一撃。

 

「この終焉を止められる英雄……いえ、聖雄は、ラーマ様しかいない。ならば私の為すべき役目は────《追想せし無双弓(ハラダヌ・ジャナカ)》!」

 真名、シータ〔アーチャー〕。本来の宝具の使い方ではないやり方で、自らの霊基を自壊させて放つは渾身の剛矢。アーラシュの宝具のような二重の壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)として発動した宝具は、瞬く間にシータを退去させる。そして悪魔めがけて飛来する剛矢にシータの愛が宿る。追想するはラーマとの思い出。その夢が触媒となり、剛矢極光。これを見ていたヴィシュヌ神の力が作用し、聖なるサーヴァントが連鎖召喚される。

「────シータ、君の声が聴こえたよ。よ(・)う(・)な(・)気(・)が(・)し(・)た(・)だけだけど……きっと君だと確信した! 君の死ぬ気の覚悟を、余は決して、無駄にはしない! 支配英霊に喚ばれし英霊ならいざ知らず、支配英霊の愛よって生まれし余は支配される身に非ず! 悪魔よ、今までよく持ちこたえた! あとは余に任せろ! 悪魔の名を持つが、その実態は余と同じ一途な少年よ! 汝もまた聖雄の名に相応しい麒麟児だ! ────《極愛・羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)》ァッ!!」

 真名、ラーマ〔アーチャー〕。宝具は、この世全ての壊を滅する一撃。此度の召喚においてのみ獲得した宝具にて、世界を滅ぼす破壊を相殺せん。

 

 極死相殺。地球の一角が光り輝く。暗雲を斬り払い、一点の極光が太陽系を白く浚う。空も、海も、地も、消え、残るは虹の円環だけが、天使の輪っかのように、惑星の頭上に燦然と廻る。

 

 視界白光。認識明滅。小刀三本は、その一本が宝具《日輪よ、具足となれ(カヴァーチャ&グンダーラ)》を貫通し、二本目がカルナの鎧を打ち砕き、三本目が霊核を貫いた。七海やちよの虹槍一閃。アルジュナの霊核を刺し砕く。逆転勝利が働いた恭弥の遮断打突はビーマの霊基を一撃で吹き飛ばし、ラーマの極矢一閃がアシュヴァッターマンの霊核を透き通るように貫通した。

 

「兄弟たちを呼び出したくはないが、これも支配されてのことだ! 文句があるならマギウスに言え! 《一より生まれし百王子(ジャイ・カウラヴァ)》!!」

 真名、ドゥリーヨダナ〔ライダー〕。宝具は百人の兄弟王子による数の暴力。狙うは魔法少女陣営。悪魔&聖雄ラーマとインド系サーヴァントの宝具激突時、巌窟王は時空を脱する宝具で一瞬、極光相殺の際に位相が異なる時空へ自身と魔法少女たちを避難させていた。そして今、現実空間の位相に舞い戻ってきた瞬間、上空から降ってくる百人の王子によって上昇を邪魔される。すかさず鹿目まどかが爆撃の矢を打ち込み、数十人の王子を瞬く間に射殺していくが間に合わない。

「構わず昇れ!」

 エミヤの怒号。速射された二発の赤原猟犬(フルンディング)が百王子を食い殺していく。ランサーの魔槍投擲も加わり、一度に四十人の王子が爆破。残る百王子とドゥリーヨダナを討ち滅ぼす。だが次々と曇天を抜けて、先刻召喚されたばかりらしき数千万のワルキューレ軍勢が降下。セイバーの聖剣極光。光の奔流が天地を巻いてあらゆる外敵を蹂躙する。

 

 一方、悪魔は全身麻痺を起こして落下していた。

「っ……」

 地表はマグマの海だ。アステリオスが即時迷宮宝具を発動して、足場となる迷宮の屋根を形成したが……噴き上げるマントルは迷宮の屋根の端に降り注いで四方を閉ざす。北養区、新西区、水名区、南凪区、工匠区、大東区に当たる場所は、既にマグマの奔流によって埋め尽くされていた。しかしサーヴァントに物理的なダメージは聞かない。当たり前のようにマグマの上を走って突っ切って殺しに来る。刹那、虹槍連閃。悪魔を討とうとしたサーヴァント数千騎を屠った七海やちよは尻尾で悪魔を抱えて飛行する。

「あなた、大丈夫!?」

「…………」

 逆転勝利の反動が来ている。だが七海やちよが助けなければ、再び逆転勝利が発動してなんとかしていた。故に悪魔は思う。自分を助けるのは無駄の極みだと分かっているはずなのに、どうして彼女たちは何度も自分を助けようとするのか。そんな暇があるなら、今は一騎でも多くサーヴァントを殺せと言いたい。

 しかし、その考え自体が合理の獣。人情の欠片もない思考であると自覚した悪魔は、そんな考えは自分らしくないと悟る。だが、それでも究極超直感の光景にたどり着くべく、全ての無駄を排したいとも思ってしまう。

「悪魔! 聞こえてるの!? それとも体が動かないの? 放っておいても殺されそうになったらまた動けるんでしょうけど、あいにく私はそこまで鬼にはなれないの! 休める時に休んでおきなさい! 片腕でも毎秒億殺、やってやるわっ!」

「……」

 七海やちよは宣言通り、毎秒召喚数を増やして曇天を切り裂き降りてくるワルキューレ軍勢、三億騎と殺し合い、音速千号に達して雷速を凌ぐ神速に至る。

 悪魔の視界端。インド系サーヴァントの壮絶なる宝具によって、坂田金時とオデュッセウスの機体は内部回路が見えるほどに崩壊しており、文字通り満身創痍(ボロボロ)。しかし邪神巨大海魔は不死なのか圧倒的な再生力で治癒。大具足熊野とトロイア・イポスを取り込もうとヒゲのようなタコの触手を伸ばす。

 その時、悪魔の腰に提げてある保存用匣兵器の隙間から極光が洩れた。それは回収して煮詰めた英霊の魂。七海やちよが有する希望継承魔法と反応しているのか、分解魔力でただの魔力リソースとなっているはずの超抜級魔力が励起する。そこで悪魔は直感した。濾過されても英霊の性質は色濃く残るのだろう。数多くの英雄と反英雄の魂が一つの匣に煮詰まったことで、今この匣の中身は“人理を内包する卵”のような代物となっている。それはギリシャ神話に伝わる希望と絶望が詰まったパンドラの箱に近しい。

(……怒り、か。そうだな、アシュヴァッターマン……マギウスが(あいつら)や(・)り(・)や(・)が(・)っ(・)た(・)から、オレもや(・)り(・)や(・)が(・)る(・)ことにしたよ……)

 悪魔は痙攣する指先を必死に動かして、英霊の魂を煮詰めた匣を開匣しようとする。聖杯戦争とは元々、根源到達のための儀式。サーヴァント同士で争わせること自体が余計なこと。五騎以上の英霊の魂を使って根源の孔を開ける。そのためだけの儀式。あらゆる願いが叶うなんて言い分は、英霊の魂を呼び込むための虚偽宣伝に過ぎない。つまり聖杯戦争とは戦争詐欺だ。勝利すればなんでも手に入るから戦士よ来い、とうそぶいて、本当は戦いに参加する戦士の命(たましい)が欲しいという企画なのだから。しかし亜種聖杯戦争などでは、その真意に気付かない魔術師が、英霊の魂を煮詰めたことで生涯使い切れない超抜級の魔力となった聖杯を手に入れる、という目的としか思っていない。

(そしてマギウスは、根源到達の真意には気付いているものの、亜種聖杯戦争の動機で開催しており、インキュベーターを利用した契約永久機関で世界制服を企んでいる)

 では、これを超えるほどの“やらかし”とは何か。どうせ大聖杯に願えば全て元に戻る。悪魔は怒りを力に変えるべく、一発逆転の秘策を閃いた。刹那、逆転勝利が外宇宙まで極まる。どうやらこの発想は、悪魔を確実に殺してしまうような手法らしい。

「やちよ。ちょっと根源の向こうに行ってくる」

「!? なに? どういうこと……?」

 悪魔、超抜級の魔力を開匣。いま七海やちよが殺したワルキューレ七騎の魂を濾過して集積し解き放つ。極光。空間に純白な孔が開く。その先は、宇宙の理から外れた場所。第六魔法は、その先に行くことで手に入るのだろうか。悪魔は死炎極爆。根源の孔に突っ込んだ。

「悪魔!?」

 

 ────意識が明滅する。逆転勝利の力でなんとか飛び続け────

 

 ふと、どこかの宇宙に出る。眼前に領域外の生命。敵意はないが害意を直感。逆転勝利が外宇宙の外にまで高まる。刹那、悪魔は玉虫色の銀河を死炎極爆螺旋轟噴(イクスバーナー・ネビュラ)で塵芥残さず吹き飛ばした。他の銀河系すら巻き込んで放った一撃。その時、どこかで聞き覚えのある声が響いた。

「あぁ────!! 超抜級のフォーリナー反応があったので駆けつけたら、違法フォーリナーハンターを発見! 許可のない駆除は銀河警察法で禁止されているのですよ! 私の宝具を喰らって反省しなさい、いたずら小僧!」

「え……セイバー?」

「《蒼輝銀河即ち(エーテル宇宙然るに)────え? キミ、私のことを知ってるんですか?」

 悪魔は直感する。彼女の名前は、謎のヒロインXX(ダブルエックス)。サーヴァントユニヴァースの銀河警察に務める邪神対策の宇宙刑事。……ちょっと何言ってるかわからない。今日もフォーリナーを斬(ちぎ)っては投げ、法的に有効と見なせばついでに愚連隊系セイバーも斬(ちぎ)っては投げ、蒼輝銀河の平和を守っているコメディドラマの主人公なのである。……ちょっと何言ってるのか本当にわからない。

「──……あぁっ!! 思い出したぁ! キミは、銀河アーチャー刑務所から最近脱獄した“スモーキング・ビックバン隼人”が、この蒼輝銀河の救世主と崇めるボス! 蒼輝銀河の最大手マフィア・ネオボンゴレジェネシスファミリーが次期ボス候補の────“沢田綱吉クン”じゃあありませんか!」

「いやオレの名前は普通なのかよ」

「そりゃあキミは、この蒼輝銀河の中でも珍しい、普通の中の普通な男の子ですから! サーヴァントですらありません! どこにでもいる起源《普通》でさえ裸足で逃げ出すほどの起源《ダメダメ》な青二才なんです! しかし、そんなキミがなぜここに? 眉間にシワを寄せて、そんなに苦悩を湛えた目をして……もしかして宇宙家庭教師リボーン=タランテラの悪辣極まるスパルタ教育に根を上げて、とうとう非行に走ってしまったのですか? そんな……キミはネオボンゴレジェネシスファミリーの未来をより善きものへと導く申し子だと思っていたのに……お姉さん残念です。そういうわけで違法フォーリナーハンターは逮捕しますね」

「いやまて、たぶん人違いだ。オレは普通の宇宙から来た。それよりあんたの力を貸して欲しい。あんた銀河警察なんだよな? ならオレの世界に来てフォーりナーを倒してほしい。その働きだけで十分だ。報酬はこれでいいか?」

 悪魔は英霊の魂が煮詰まった匣を一部開匣。前払いで謎のヒロインXXに超抜級の魔力を与える。

「えっ────ふ、ふ、ふぉおおおおお!? おぉおおおおおなんだこの魔力はサーヴァント数億を屠ってもこんな魔力は手に入りませんよやったお金持ちだ私もう働かなくていいんだ一生引きこもってニートしてやるゲームづくしだ! あ、まって、もしかしてカップラーメン並行宇宙の数だけ買えちゃう? イヤッター! 毎朝億万長者になった夢を見て飛び起きて現実を見て絶望することはなくなるんだイヤッホォオオオオオオオ!!」

 すかさず悪魔は、謎のヒロインXXの肩に触れて、いま渡した魔力を回収魔法で没収する。

「え────どぅわぁあああああ!! わわわ私の魔力がぁああああなんということをぉおおおおひどぃいいいい甘い夢を見せて絶望させるキミは悪い子を超えてもはや悪魔だぁあああああ!!」

「あぁそうだ。オレは悪魔だからな。しかし今ヒキニートになるのは勘弁してくれ。オレの宇宙に来てひと働きしてくれたら、そうだな……今の魔力の一億分の一を与える。前払いでいいか?」

「なぜ一億分の一!? いえそれでもボーナスたっぷりで嬉しいのですが! 正直、キミは蒼輝銀河の相場を間違えてますよ!? お姉さん心配です! 赤の他人にそんなにポンと億万円、いえ那由多円を差し出すところを悪い人に見られたら狙われちゃいますよ!!」

「忠告どうも」

 悪魔は来た道を戻る。英霊七騎分の魔力を開匣して再び根源の孔を開通。思念を込めれば、自分が元いた宇宙へのゲートが開く。

「むむっ! それもまた並行宇宙への無許可移動なのですが……まぁ、今は目を瞑りましょう! そして確かに、そちらの宇宙でフォーリナー反応を確認しました! 謎のヒロインXX、すぐ現場へ急行します!」

「よろしく頼む」

 悪魔と謎のヒロインXXは根源の孔を通る。

 

 その途中、悪魔の横顔をチラチラと、謎のヒロインXXが見ていた。

「なんだ」

「えっと……もしかしてこれ、新シーズン突入! ではなく、劇場版なのかな? と思いまして」

「……なに? どういうことだ?」

 悪魔は聞いておいて直感する。(あ、これは説明されても全くわからないやつだ)と。

 対する謎のヒロインXXは、いったいどこから毒電波を受けているのか、急に台本を理解した。

「なるほど! やはりこれは劇場版ですね! どうやら私がいた蒼輝銀河は、インキュベーターの技術を流用して魂の物質化を果たし、転生(リポップ)システムを構築。小宇宙の中に存在する人類がサーヴァント化し、かくてミニ・サーヴァント・ユニヴァースが爆誕した! という設定に(この劇場版限定で)なるようです! 要はマルチバースなスターシステムですね! 私の蒼輝銀河も似たようなことを多々やりますので要領は分かります! 任せてください!」

「いやオレは何一つわからん」

「つまりですね! 私は一肌脱いで、十代の頃まで若返ってもいいんですよ! なんせ昔の私は謎のヒロインX(エックス)! つまりこれは、ボンゴレⅩ(デーチモ)と謎のヒロインX(エックス)による、X(クロス)繋がりの“ありえざる”蒼輝(ゴールデンエーテル)コンビ! 著作権的に叛逆的な、無許可劇場版コラボ(マルチプル・クロスオーバー・ダイナミック)なんですよ!」

「……」

「ちなみにシーズンは1.1.1.1.になるようですね。でも作中の時系列はシーズン2以降という、この整合性が取れてないワケノワカラナサ。うーんこれは監督の苦悩が透けて見えますね。本(・)当(・)は(・)昔(・)の(・)私(・)と(・)コ(・)ラ(・)ボ(・)し(・)た(・)か(・)っ(・)た(・)け(・)ど(・)、バ(・)ト(・)ル(・)の(・)イ(・)ン(・)フ(・)レ(・)的(・)に(・)つ(・)い(・)て(・)行(・)け(・)そ(・)う(・)に(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)の(・)で(・)、聖(・)槍(・)甲(・)冑(・)ア(・)ー(・)ヴ(・)ァ(・)ロ(・)ン(・)と(・)双(・)槍(・)ロ(・)ン(・)ゴ(・)ミ(・)ニ(・)ア(・)ド(・)L(・)R(・)を(・)持(・)つ(・)謎(・)の(・)ヒ(・)ロ(・)イ(・)ン(・)X(・)X(・)を(・)出(・)演(・)さ(・)せ(・)る(・)こ(・)と(・)に(・)な(・)っ(・)た(・)のかもしれません! 現に謎のヒロインX時代の私は、フォーリナー反応なんかどうでもよく、全てのセイバーを殺せればそれでよしな普通の女の子だったので!」

「…………」

「あぁ! 起源が《ツッコミ》でも出来ていると称される、あの沢田綱吉クンが突っ込んでこないだとぅ!!? これはまさかダーQ(ク)ラウンズBチームによる闇堕ち案件なのでは……!? 闇堕ちするあまり起源が裏返って《キリツグ》にでもなりましたか綱吉クン? あ、でも思春期特有の反抗期という線も捨てがたいですね! そちらの方が濃厚でありたいという希望的観測と願望。……お姉さん静かでちょっと寂しいです。昔の私ならこの手の若者でも普通にキャッキャウフフとお話できていたのに……歳を重ねるというのも考えものですね。────あ、そろそろ着きます! では、前払い分は働きますので!」

「あぁ。実力は本物だと直感している。フォーリナーに関しては全面的に任せたぞ。あとできるなら、ほかのサーヴァントも倒してほしい。オレの味方の真名と姿を教える」

 悪魔は霧の炎で仲間たちの姿と名前を描き、謎のヒロインXXと情報を共有する。

「情報共有完了! この私におっまかせあれぇ! ────銀河警察所属、謎のヒロインXX現着! いざフォーリナー退治を開始する! 行くぞタコ! なんか“パンチカリバー了平”に似てるから、今から貴様をタコヘッドと呼ぶ! パンチカリバーで銀河警察の取調室の壁をぶっ壊したこと、まだ根に持ってんだからな! あれで私は減給喰らったんだカップラーメン九杯分の恨みはらさでおくべきかツインミニアド・ディザスター!!」

 真名、謎のヒロインXX〔フォーリナー〕。宝具《蒼輝銀河即ちコスモス(エーテル宇宙然るに秩序)》が発動。ダイナミックセイバー斬りで演出上は惑星ごと爆発し、邪神巨大海魔は消滅。ほか対象に巻き込んでいた全ての敵サーヴァントをまとめて太陽系を背景に爆破し、オデュッセウスも銀河の果てで爆発した。

 そのとき謎のヒロインXXは、とても非常識な新設定を知らされて愕然とする。

「なにぃっ!? サーヴァント・ユニヴァースは、将来的にスゴく逞しくなった地球人類が、根源の孔つまり英霊の座を生身で通過したことで全人類がサーヴァント化し、外宇宙の邪神軍団を撲滅したことで生まれた世界……だってぇ!? そして邪神軍団を外宇宙の更に外側に追放したことで“うちゅうのちつじょがみだれて!”宇宙は崩壊、原始宇宙と化し、その後なんやかんやあって蒼輝銀河となったぁ!? なんだその設定ウチにはないぞ! 妄言も大概にしろ! そんな御大にケンカ売るような設定つけるわけないでしょう! そういうエピソード0は、まだまだ秘密にしておくものなんですよ! ────あ、秘密といえば、思い出したかのような《無銘星雲剣(ひみつみにあど)》────!!」

 その宝具は、宇宙の天秤と言われる双槍ロンゴミニアドLRを使った銀河星雲斬撃。槍をブンブン振り回すことで発生する光芒はネビュラのように渦巻き、敵味方の区別なく、とにかくすべてを薙ぎ払う! 結果、ブリュンヒルデ〔ライダー〕と、数億のワルキューレ軍団が消滅。

「ふぅ……あれ? なんか地上が赤いなぁ……えっ。もしかしなくてもアレ、マグマ? え、やだ、うそ……もしかして私、やりすぎちゃった!?」

 そこで坂田金時が大具足熊野から出てくる。

「へい、そこの聖槍使いの姉ちゃん! あれは元からだ、気にすんな! それより倒してくれてありがとよ! まったくうちのマスター(大将)のリーダー(総大将)は、本当に規格外にゴールデンだぜ!」

「おや、あなたは! 銀河警察すべての憧れ! 邪悪なウシミツ将軍との悲劇有り涙ありの大激闘の末、蒼輝銀河に愛と勇気の平和をもたらした、大正義金赫竜(だいせいぎこんかくりゅう)ゴールデン・キンタローさんと瓜二つではないですか!」

「……あ?」

「いえ、失礼! 今は任務に集中します! でも別人とはいえ、やはりお会いできて嬉しいので、あとで色紙を持っていきますね! ぜひ書いてください! ファンなんです! セイバーだったらブチ殺していましたけど!」

「お、おう……? そんくらいいけどよ……オレっち、そんなに有名人だったか……? あいつ西洋系のサーヴァントだろ?」

 

 一方、巌窟王が運ぶ魔法少女陣営は、曇天を通過して雲海に顔を出す。蒼穹の空に白い翼を生やすワルキューレ軍団が十億騎。刹那、神速の虹槍がそれら全てを瞬く間に一閃鏖殺した。いよいよ巌窟王は宝具を発動する。時空転移。

 

 それを見届けた坂田金時は、魔翼移動要塞の多層結界により、マスターたる夏目かことのパスが遮断されたことを認識した。

「お。うちの大将も、なんとか時空転移に相乗りできたか。これでオレっち達の役目も終わりか? 大将のリーダーも忙しそうだし、再契約する暇はなさそうだな。ま、再契約しても既に霊基がガタガタだから何もしてやれねぇんだけどよ。けど……」

 最期に坂田金時は、自身の相棒とともに、霊基と宝具を敢えて暴走させて自壊することで壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)を敢行。総勢数万の敵サーヴァントを道連れに、黄金の豪雷粒子を立ちのぼらせて退去した。

 

 一方、悪魔は敵サーヴァント軍勢を鏖殺しつつ、それぞれの陣容を確認する。

 

 悪魔陣営は、悪魔、クー・フーリン、玉藻の前、セングレン、マッハ、七海やちよ、アルトリア、エミヤ、恭弥アーデルハイト、謎のヒロインXX。

 

 魔法少女陣営は、環いろは(乙女の貞節を装備)、ピジョット、スピアー、二葉さな(真名看破魔法を保有)、透明化魔法を常に受けているアタランテとエウリュアレとステンノ、鹿目まどか(戦神の軍帯を装備)、佐倉杏子、暁美ほむら(顔のない王を装備)、エルレイド、ドーミラー、オタチ、夏目かこ、アギルダー、ダダリン、天乃鈴音、巌窟王エドモン・ダンテス、山の翁、マーリン、ブーディカ。

(……? 鬼一法眼の姿が見えない。まさか……)

 

 孤軍奮闘するは、スカサハ、スパルタクス、ラーマ。

 

 巨大地下迷宮には、アステリオスとテセウス。

 

 神浜全土を巡りながら今もなお勢い衰えない西遊陣営は、玄奘三蔵、七瀬ゆきか、ピカチュウ、エッダ、ダークポワルン。

 

 栄区方面で今も陣を張る栄区陣営は、太公望の土遁結界がチラリと見える。魔法少女も一人か二人いるらしい。神浜市の生き残りを守っているようだ。加賀見まさらとミブリム、都ひなのとベトベター、桐野紗枝とエイパムらしき姿を一瞬だけ視認。

 

 アレキサンダー陣営は、神浜全土を自由に駆け回り、主にフランス王家とアルゴナウタイからなる二個部隊を率いて激しい戦争を継続中。サーヴァントの勧誘には、特にマリー・アントワネットのスキルと、イアソンの宝具が大きく貢献しているようだ。撃ち漏らしたワルキューレともメディアの宝具を使って契約を交わしており、ワルキューレからなる飛行部隊も出来つつある。

 

「……さて。いろは、ほむら。みんな、頼むぞ────」

 

          †

 

          ♪~飛行艇~♪

 

 一方その頃。魔翼移動要塞の底面より内部へ潜入。薄暗い通路。水気のある煉瓦の建造物。おそらく侵入には既に気付かれているが、侵入場所の位置を特定されるまで多少の猶予が残っているはず。その間に陣容を整えた魔法少女陣営は、分析魔力を走らせて建造物の地図を製作。不意に男性の声が響く。

「ようこそ神浜監獄へ。脱獄囚が自ら戻ってくることは、殊勝な事だな」

『……!』

「……クハハ! 我が煉獄はここにあり! ゆけ、マスターと魔法少女ども! 奴の相手は俺以外に務まらん!」

 真名、ベオウルフ〔バーサーカー〕。刹那、黒き毒炎をなびかせる巌窟王と、二本の大剣を奮うベオウルフが激突。その衝撃音で位置を特定されたに違いない。即座に暁美ほむらたちは戦場の真横を駆け抜ける。

「おぉっと! 悪いが行かせねぇ!」

 ベオウルフが魔剣《鉄槌蛇潰(ネイリング)》を投擲。それは複数回使用で自壊するが、自壊の瞬間、壊れた幻想と類似する原理で、周囲に高濃度の魔力爆発をばらまく魔剣。さらにベオウルフはもう片手に握る魔剣《赤原猟犬(フルンディング)》を投擲。それは対象を自動追尾する魔剣。

「クハハ! 武器を手放すとはッ!」

「ステゴロの方がおもしれぇだろ!」

 魔法少女陣営の行く手を遮るように突き刺さったネイリング。その魔剣にフルンディングが執拗に攻撃。次の瞬間、ネイリングの爆発に巻き込まれてフルンディングも破壊。二重の壊れた幻想(核兵器数個分の大爆発)が神浜監獄の一角を吹き飛ばし、暁美ほむらたちをほうぼうに散らせた。

「今回の現界には文句しかねぇ。だが殴って蹴ってりゃ解決すんだろ。てめぇらの悪魔(大将)もそうしてるみたいだしなぁ! 《源流闘争(グレンデル・バスター)》!!」

「我が恩讐は彼方にこそ燃え盛る! 《虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)》!」

 毒拳猛拳の黒閃爆発。互いに血を吐き合い、肉体を殴り穿ち、血みどろの格闘を続ける。

 

「うむ! 監獄の天井が破壊されて明るくなった! やはり世界は黄金に輝いていなければなっ! というわけで────《招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)》! しこうして我が美を讃えよ! 《星馳せる終幕の薔薇(ファクス・カエレスティス)》!!」

 真名、ネロ・クラウディウス〔ブライド/セイバー〕。宝具は大建築大魔術。ベオウルフの宝具爆発で破壊された神浜監獄を、直すではなくむしろぶち壊してその上に建てるように、黄金劇場が展開する。そしてネロが疾走。天乃鈴音が立ちはだかり、両者猛攻剣戟。首狙いの一閃を霊核狙いの一閃で返し、互いに必殺の一撃を交わしていく。

「おぉやるな貴様! だがここで時間を費やすと詰みに持っていかれるぞ! 大聖杯展示場は魔翼移動要塞の中央頂きにある! そこまでにはマギウスの翼をマスターに持つ数え切れぬ程のサーヴァントが待ち構えているぞ! 何か策があってきたのか? 余はてっきり悪魔が単身で乗り込んでくるものと思っていたのだがな!」

 環いろはは宝具《乙女の貞節》に魔力を回す。生成される電撃を纏い、瞬間、雷撃光矢永久速射。黄金劇場の一角を打ち砕いて逃げ道を作る。

「たしかにこんな地獄、もう私たち魔法少女がどうにかなる状況(もの)じゃない……だとしても! だからって、全部を悪魔さんに背負わせたくないっ! わずかでも活路があるなら、そこに向かって進みたい! 私たちだって出来るんだってこと、見せます!!」

 環いろはは開匣。魔力をチャージしたピジョットとスピアーを繰り出す。かたや電光石火、かたやミサイル針。サーヴァントの五感でさえ捉えにくい突貫。その一撃をかろうじて剣で防いだネロは突き飛ばされて壁に激突。そこへ無数のミサイル針が叩き込まれる。環いろはの号令一下。

「マーリンさん! 山の翁さん! 後ろをお願いします!」

 ネロを無視して環いろはたち魔法少女は黄金劇場を出る。ミサイル針で串刺しにされたネロが行かせまいと動くが、そこで山の翁の大剣が首を刎ねる。巌窟王とベオウルフの戦いは、マーリンの幻術支援と聖剣砲撃によって趨勢が決まる。背後に聖剣の斬撃を受けたベオウルフの胴体に巌窟王が拳を叩き込んで霊基を殴り穿ち吹き飛ばした。

 

 神浜監獄と呼ばれた区画から外に出る。魔法少女陣営の目に映るは豪華絢爛な巨大回廊。地平線が望めるほどの数キロ以上ある廊下は、どう考えても空間がいじられていた。南から北に向かうだけでも、神浜市と同程度の規模があると見て取れる。それもまた肉眼で確認できる一部のみ。そこでマーリンが言う。

「ウワサとやらで空間を拡張しているね。それでも元々は中央区と同程度の広さしか有していなかったはずだ。ここまで領土を広げることができた理由は一つ。────どっかのサーヴァントの宝具と連(・)結(・)したんだろう。たとえば空中庭園の宝具とか?」

 考察は後回しだ。前方より大量の敵サーヴァント行進を確認。

「みんな、戦うよ!」

 環いろはの号令。透明化している二葉さなは、アタランテと女神さまに願い、敵陣に矢を降り注がせる。鹿目まどかも光矢爆撃。同じく透明化している暁美ほむらも、オタチの観測と佐倉杏子から分析魔力を貰い、Aランクサーヴァントの霊核を狙撃。

「先陣は任せてください。邪魔な奴らは切り払います」

「え────かこちゃん!?」

 不意に夏目かこが姿を現す。両脇にダダリンとアギルダーを従える夏目かこは雷の炎を灯して自らを電磁誘導投射。レールガンの要領で地を浮き滑る夏目かこと彼女のポケモンは、容赦極まりない殺戮技巧を駆使して敵サーヴァント軍勢の鏖殺を開始。

「かんらからから、と、笑えないな。まったく最近の少女は死に急ぐ! 仕方ない、僕も行くか! 露払いは任せてくれ! なぁに、大聖杯があるところまでの道は、一気に切り開いてみせるとも!」

 どうやって付いてきたのか鬼一法眼も姿を現し、敵陣最奥に吶喊。宝具を発動して広範囲一帯の地形を軒並み暴風雷火で吹き飛ばす。

「……! みんな、走って! 一気に突っ切る! 射撃組は両脇警戒! 鈴音さんは一番槍をお願いします!」

『了解!!』

 

 走り続けて数十秒。魔法少女の疾走は音速に至る。魔翼移動要塞の南端から中央付近までは一息に移動できたか。中庭らしき噴水広場に到着。そこで一同は妙な違和感を抱く。ど(・)う(・)も(・)楽(・)に(・)た(・)ど(・)り(・)着(・)き(・)す(・)ぎ(・)る(・)。戦闘経験豊富なマーリンと山の翁、智慧に優れる巌窟王などのサーヴァントは、既に誘(・)い(・)込(・)ま(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)こ(・)と(・)には気付いていた。だがそれを指摘したところで止まれば死、迷えば死。ならば勇猛果敢に突っ込んで、力尽くで罠を踏み越えさせればいい。それ以外に、この脆弱な魔法少女たちの生き残る術はないのだから。

「人類救済。その中には魔法少女たちも含まれている。だがこれはあまりにも……《双腕・零次収束(ツインアーム・ビッグクランチ)》!」

 真名、天草四郎〔ルーラー〕。宝具は、あらゆるものを取り込む暗黒物質の精製。ブラックホールのような黒洞に周囲の物質が吸い込まれて噛み砕かれ、圧縮し粉砕される。万物を破滅に導く宝具は防御不可。ブーディカの守りは打ち砕かれて霊基破壊、即時消滅。同時、黒洞着弾、爆縮殲滅。マーリンの幻術すら吸い込む破滅の一撃は、魔法少女陣営を壊滅状態に持ち込んだ。

 着弾付近に存在した二葉さなは、ソウルジェムが黒洞に吸い込まれて粉砕死亡。彼女の傍らにて透明化していたアタランテ、エウリュアレ、ステンノも、エーテル体と全魔力を奪い尽くされて強制退去。しかし二葉さなが所有していた真名看破魔法を宿すソウルジェムは、土壇場で環いろはに投擲。環いろはがキャッチする前に、真名看破は黒洞に吸い寄せられていく。刹那、朱色一閃。佐倉杏子が掴んで奔る。情報は武器だ。仲間の命は失っても、この魔法だけは失うわけにはいかない。

「ゆけ、《驕慢王の美酒(シクラ・ウシュム)》の大毒蛇(バシュム)よ」

 真名、セミラミス〔アサシン/キャスター〕。宝具は周囲環境の毒化と、毒性魔獣の一時召喚。全身が実体化した大毒蛇が数体、魔法少女陣営を襲う。が、戦神の軍帯をまとう鹿目まどかの神性励起・光矢爆撃。大毒蛇の群れを瞬殺する。さらに佐倉杏子は真名看破、膨大な魔力を消費するため、すぐに環いろはにパスする。念話で情報共有。

 どうやらセミラミスは、宝具《虚栄の空中庭園(ハンギングガーデンズ・オブ・バビロン)》により作り上げた富裕要塞を、魔翼移動要塞に融合させることで拡張したと分かる。しかし作成に時間が掛かるはずの宝具を、たった一刻でどう成し遂げたのか。その疑問を見抜いたかのように、セミラミスが語る。

「まったくマギウスの翼は人材の宝庫よな。我が宝具は中東に実在する素材でしか造り上げることは不可能。そこでマギウスの翼は、空間連結系の魔法で中東に飛び、探索系の魔法で素材を探し、蒐集系の魔法で効率よく素材を集め、創作系と概念短縮系の魔法で造形に費やす詠唱時間を極端に短縮し、数ヶ月から数年かかる一大事業を、わずか一刻で果たしてしまった。王としてこれほど胸躍り、そして落胆することはない。人は手を取り合えばこうも容易く奇跡を成せるというのに────愚かな少女どもは、互いにいがみ合い、争うばかりで手を組まず、奇跡を望みながら絶望に身を落とす。これを愚物と言わずしてなんという!」

 これにマーリンが返す。

「ほほう! 君ほどの孤高の女帝が、そうまでして魔法少女の世を憂うとは、なにか心境の変化でもあったのかな? 予想外の浮遊要塞の完成ぶりに心の腰を抜かして感心し、勢い余って母性でも抱いてしまったかな?」

「巫山戯たことを抜かすな下郎!!」

 浮遊要塞の防衛機構、起動顕現。無数の熱量光線が敵味方を問わず噴水広場全体を焼却する。佐倉杏子が叫んだ。

「おいなに刺激してんだ!」

「いやぁ、とある妖妃を思い出してね! ちょっとからかっただけなのに、そんなに怒ることないじゃないか!」

「そうですよ、アッシリアの女帝よ。別にいいじゃありませんか。あなたがマギウスの翼を憂いでいるのは誰の目から見ても明らかなのですから」

 天草四郎の破顔追撃。セミラミスは苦虫を噛み潰すような顔で紅潮、目を伏せ歯ぎしり、次いで開眼と同時に、全防衛機構を一斉稼働、蹂躙掃射した。その背後に回っていた天乃鈴音の暗殺宝具。「!」すかさずセミラミスは毒蛇を配して迎撃、天草四郎もセミラミスを守るべく黒鍵を奮う。

 周囲からマギウス陣営のサーヴァント軍勢が囲い込んでくる。夏目かこと鬼一法眼、巌窟王や山の翁、マーリンや鹿目まどかが迎撃鏖殺するが、徐々に包囲は狭まり、絶体絶命。そこで環いろはが号令一下。

「佐倉さんっ!!」(スピアーに乗ってください!)

「!? ──よしわかった!」

 環いろはは乙女の貞節から回収した魔力を全力開放し、跳躍、ピジョットに騎乗。佐倉杏子もスピアーの背中に仁王立つ。環いろはは高速移動を指示。二匹に余剰魔力を逐次分け与えてソウルジェムが明滅する。

(一撃で道を切り拓きます!)

(それっきゃねぇな。いっちょ死地に飛び込むか!)

 ピジョットとスピアーが音速突破。環いろはと佐倉杏子はマギアを行使。二匹のポケモンが敵サーヴァントの群れを回避通過し、佐倉杏子が跳躍。環いろはの無限光矢に包まれし佐倉杏子の迅雷一閃が、セミラミスの防御機構の一部を破壊してその先まで吶喊する。

「行かせない! 《魔術万能攻略書(ルナ・ブレイクマニュアル)》!!」

 真名、アストルフォ〔ライダー〕。サーヴァント軍勢の群れの中にいたカリギュラが発動した宝具の月光を受けて精神が汚染されるも、それと理性蒸発スキルが掛け合わされた結果、マイナスかけるマイナスはプラス、真名を思い出したアストルフォは、本宝具の真価を発揮する。

「────じゃなかった! 《破却宣言(キャッサー・デ・ロジェスティラ)》!!」

 それは全ての魔術を無効化する宝具。全ての魔法少女とサーヴァントは変身が解かれて宝具始動が解除される。全体に生まれた一瞬の間隙。

「走れ」

 山の翁の一声。魔法少女は変身せずとも魔力を扱える。即ちその身体は依然として魔法少女のまま。対するサーヴァントは、その存在規格ゆえに宝具封印の煽りを食らって即座に動き出せない。生身と霊体の違いが如実に表れる。ピジョットが匣兵器に戻って墜落した環いろはだが、すぐに起き上がり中央の建物に向かって走り出す。直後、一斉に全サーヴァントが動き出す。しかしアストルフォだけは、宝具の効果を知るがゆえに、誰よりも一手早く宝具を起動できる。それは別霊基でも同様のこと。

「さぁ走れ魔法少女! じゃないと君たちごと吹き殺しちゃうよ! 《恐慌呼び起こせし魔笛(ラ・ブラック・ルナ)》!」

「そうそう! 我らシャルルマーニュ十二勇士は、英雄の名にかけて君らの道行きを助けるとも! もちろんマギウスの翼を裏切るわけじゃない。引導を渡すべきは我が主、マギウスにあり! 《分別なき偶像分身(クレイジートリップ・ドライブアイドル)》か~ら~の~! 《僥倖の拘引網(ヴルカーノ・カリゴランテ)》ぇ~!!」

 真名、アストルフォ〔セイバー〕。宝具《この世ならざる幻馬(ヒポグリフ)》の虚数的存在特性を応用し、アストルフォが多重分身。倍々ゲームで増えていくアストルフォたちは、神をも捕らえる網をムチのように奮って斬撃。理性蒸発しているがゆえに、敵味方を問わず拘束し斬撃。自らも縛り付けてしまうが、戦場は大混乱。数百人のアストルフォがウサギのようにジャンプして網剣を奮い、サーヴァントも建造物もすべてをがんじがらめにして────

『あ、やばっ! 無理やり宝具を連発したせいで霊基が爆発するぅううう!』

『────……えぇええええええええ!?』

 マギウス陣営の敵サーヴァント軍勢が絶叫した次の瞬間、極大爆発が噴水広場より立ち上がる。形成されるはキノコ雲。マギウスに一つ大きな失態があるとすれば、それは理性蒸発者たるアストルフォを召喚してしまったことだろう。

 

 魔法少女陣営は中央建物に突入。広大な大広間。外周の壁に沿って無限に続くかのような螺旋階段が二階へと続いている。いったい何階まであるのかは分からない。だが駆け上がるほかないだろう。

「そこまで!」

『!!?』

 不意に少年サーヴァントが手を挙げて制止する。真名看破、子ギル〔アーチャー〕。

「……貴女たちの努力は認めます。てっきり悪魔さんがこちらに来られると僕も思ってました。しかしここから先を行くことはオススメしません。なぜなら────どうあがいても“死ぬ”からです。さすがに勝てぬとわかっている戦いに、みすみす行かせて見殺しにするような真似はしたくありません」

 暁美ほむらの狙撃。天の鎖が弾丸を食い止める。刹那、佐倉杏子と天乃鈴音が跳んだ。

「言って聞かないのは、自身が強いと勘違いしているからでしょうか」

 宝具《王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)》による一斉掃射。鹿目まどかの光矢爆撃が迎撃するも、それより展開量も射出スピードも速い王の財宝の方が制圧射撃の面で魔法少女陣営を凌駕する。極光爆撃。押し返された佐倉杏子と天乃鈴音。魔法少女陣営は一歩後退する。

「後ろに戻っても死。前に進んでも死。ならばここで悪魔を待ちましょう。正直、僕の眼には────《全知なるや全能の星(シャ・ナクパ・イルム)》からの未来情報によれば……最終決戦の舞台には貴(・)女(・)た(・)ち(・)の(・)姿(・)は(・)な(・)い(・)んです。これがどういう意味か、言わなくても分かりますよね?」

 朱槍一閃。子ギルは一歩後退するだけで首狙いの一撃を躱す。そして佐倉杏子の眼光を見て子ギルは悟った。

「なるほど……ならば、その愚かしい意地! 見事押し通して未来を覆してみせろ! 烏合の衆に何ができるか見ものだ! アハハハハハ!」

 刹那、子ギルは驚愕の相貌を作る。直(・)近(・)の(・)未(・)来(・)が(・)変(・)わ(・)っ(・)た(・)。世界線が0.001%ほど切り替わったのだ。すなわち叛逆魔法!

「なにっ!? わけのわからない外宇宙(サーヴァント・ユニヴァース)と繋がった次は、根源接続者を喚び出した事による幽世の一太刀か! まったく悪魔(彼)は摂理への叛逆が過ぎる!」

「直死────両儀の狭間に消えさない」

 真名、『』〔■■■■〕。獣性(ほうぐ)は《無垢識・空の境界(むくしき・からのきょうかい)》と看破。

 突として顕れた和装美人。透過流麗の大和撫子が薙ぐ一太刀は、子ギルの右肩から左下腹部、すなわち霊基を一刀両断し、霊核を直死で斬り殺した。子ギルは可笑しさのあまり笑って消滅する。

「悪魔に召喚されて助太刀に参ったわ。────さぁ、迅(はし)り続けなさい。一階は任せてちょうだいな。殺し合いを愉しみすぎて、多少は敵を素通りさせてしまうかもしれないけど、そこは御愛嬌ということで勘弁してちょうだいね?」

 にっこりと微笑む和装麗人は白刃を斬って血を払い、マギウス陣営の巌窟王エドモン・ダンテス〔アヴェンジャー〕の毒炎を一閃両断。ナイチンゲール〔バーサーカー〕の銃撃を斬り裂き胴を直死、クー・フーリン〔オルタ/ランサー〕の暴虐蹂躙を真正面から受け止めて斬り殺してなお、どこか殺(・)人(・)を(・)愉(・)し(・)む(・)様(・)に(・)、涼やかに咲っていた。

 

 魔法少女陣営は螺旋階段を駆け上がり二階に到達。即刻宝具が叩き込まれた。メイヴ〔キャスター〕、エレナ・ブラヴァツキー〔フォーリナー〕、シータはどこだと叫ぶラーマ〔セイバー〕、李書文〔ランサー〕、トーマス・エジソン〔キャスター〕による怒涛攻撃。その全てを山の翁が剛剣一閃。

「この場は任せろ。時間との勝負だ。さて────」

「わかってるよ。任せてくれたまえ!」

 山の翁に後を託されたマーリンは、魔法少女陣営と共に三階に駆け上がる。刹那、雷速の宝具が閃いた。

「《壊音の霹靂(サンダラー)》────」

 真名、ビリー・ザ・キッド〔アーチャー〕。その宝具の名前が言祝がれるより早く、環いろは、鹿目まどか、佐倉杏子のソウルジェムが撃ち抜かれた。しかし、その事象は幻術の風と消える。

「ありゃりゃ。やっぱカウンター狙いじゃないとダメか。というわけでよろしく! アパッチの超戦士!」

「了解した。任せたまえ」

 真名、ジェロニモ〔キャスター〕。宝具は《大地を創りし者(ツァゴ・デジ・ナレヤ)》。タバコをくわえた巨大なコヨーテと太陽精霊が召喚される。タバコを奪われた太陽精霊はそれを返せとコヨーテを追いかける。太陽精霊の灼熱は一撃で敵陣を壊滅させる陽光の輝き。縦横無尽と駆け抜けるコヨーテによって太陽精霊もまた浮遊移動。次の瞬間、鹿目まどかの光矢爆撃が太陽精霊を爆発させた。超新星爆発が如し極光と爆発と爆風。灼熱の閃光は広間を吹き飛ばし、その隙に真名、カラミティ・ジェーン〔アーチャー〕が宝具を発動する。

「なんの因果で今さっき召喚されたのか意味不明だけど、とにかく召喚されたので撃っちまーす! 《死を招く黒の一手(スペース・デッドマンズ・ハンド)》……! しかしそれは支配ゆえの宝具。ならば二度目は私の勝手! 《極星よ我が敵を照らせ(センチネル・ステラリス)》!!」

 不運の弾丸が鹿目まどかの背中を穿ち、ソウルジェムを破壊する。ジェーンの裏切りを見抜いたビリーがカウンター宝具を発動。三発の早撃ちがジェーンと佐倉杏子と天乃鈴音の霊核・ソウルジェムを穿つ。

「みんな────ッッ!?」

「まどかッ!! っ────!! 伏せて、いろはちゃん!!」

 暁美ほむらが飛びかかり、環いろはを地に倒してビリーの速射から守る。そこへジェロニモが攻め込むが、エルレイドと格闘し猛攻激発。

 

 その時、なぜか環いろはと暁美ほむらの脳内に“逆転の一手”が閃く。それは人類では打倒しようのない、次元の違う脅威に対する弱点創生宝具。ただし敵の弱点を見破るだけで、その弱点を突く攻撃手段が手に入るわけではない。故に二人は、絶望した。

(この事態を収束するためには、大聖杯を守護して操る灯花ちゃんとイザボーを倒す必要がある……)

(イザボーは不死だけど、悪魔さんの叛逆魔法があれば不死を無視して殺せる……)

(でもその悪魔さんは地上に居る……! そして大聖杯を使えば、世界は平和な頃に戻る……)

(けど大聖杯は霊体しか触れられない。しかも……その大(・)聖(・)杯(・)は(・)フ(・)ラ(・)ン(・)ス(・)に(・)あ(・)る(・)っ!!)

 つまり悪魔でなければイザボーは倒し得ないし、ランサーというサーヴァントを従えている悪魔でなければ大聖杯は扱えない。環いろはは今、天乃鈴音というサーヴァントを失った。まだ巌窟王とマーリンが居るが、マーリンは霊体ではない。巌窟王は────

「度し難いわね。何がって……この世界の全てがよ! 私は本来、二度と召喚されるサーヴァントではないのに! 《吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロントメント・デュ・ヘイン)》ッ!!」

「マスター!!」

 真名、ジャンヌ・ダルク〔オルタ/アヴェンジャー〕。その巌窟王も、今まさに環いろはと暁美ほむらを狙った呪炎宝具から二人を庇い、焼き払われてしまった。もはや手詰まりだ。しかし絶望はそれだけにとどまらない。

 

『しかも悪魔さんは、そのことを知っていて、私たちを送り込んだ……!!』

 

 それは少し違う。そもそも行きたがっていたのは環いろはと暁美ほむらの両名である。だが、なぜこのことを教えてくれなかったのかという気持ちが、過酷な戦場というストレスに直結し、八つ当たりのように怨嗟となる。ソウルジェムが明滅して穢れていく。

 

「やっぱり悪魔がいねぇと、人間ってのはなんにもできねぇ。こ(・)の(・)世(・)全(・)て(・)の(・)理(・)不(・)尽(・)に(・)は(・)な(・)に(・)か(・)理(・)由(・)が(・)あ(・)る(・)は(・)ず(・)だ(・)。そ(・)の(・)理(・)由(・)こ(・)そ(・)、(・)こ(・)の(・)世(・)全(・)て(・)の(・)悪(・)を(・)担(・)う(・)魔(・)性(・)の(・)者(・)し(・)か(・)無(・)い(・)は(・)ず(・)だ(・)。そうやって俺は人身御供どころの騒ぎじゃないハメに陥ったわけですが。ま、俺のことなんざどうだっていい。それより君ら、本当にそこで寝転んで終わるつもり?」

 真名、アンリマユ〔アヴェンジャー〕。最弱の英霊。だが相手が人間ならば、その殺人スピードは蜘蛛や犬に勝るとも劣らない。魔法少女も人間判定だ。殺ろうと思えば、既に九回は殺れていた。なら何故、殺さないか。それはひとえに────

「ま、気まぐれっしょ」

 アンリマユは双剣を以て駆ける。刹那、環いろはと暁美ほむらの首は刎ねられんと────

「諦めちゃ、だめ……」

 ────次の瞬間、霧の炎の幻覚がアンリマユの方向感覚を狂わせ、環いろはと暁美ほむらの姿を隠す。同時、くノ一の斬撃がアンリマユの首を刎ねた。転がる首は落胆して嘲る。

「あーあ。せっかく手柄を挙げられると思ってたのに、こりゃないっしょ! つーか……俺を殺しちゃっていいわけ? 大聖杯、汚染されても知らないよー?」

「《ボス》からの指示だから……たぶん、大丈夫……」

 ふたりを救うべく現れた者は、なんと凪だった。生きていたのかと一同は驚愕する。そして凪の傍らにはサーヴァント。真名を加藤段蔵〔アサシン〕が付き従っていた。

「行くよ、お竜さん!」

「おう!」

 真名、坂本龍馬〔ライダー〕。抑止の守護者たる坂本龍馬はジェロニモと斬り合って胴を薙ぎ殺し、お竜さんと呼ばれた女性はビリーを豪腕一撃で粉砕殺害。エルレイドはジャンヌ・ダルクと斬り合い、スピアーが彼女の背後からトドメ針で霊核を貫く。

「凪……ちゃん? 生きててくれたんだ……」

「いろはちゃん。おはよっ」

 凪は、今日の朝の挨拶がまだだったためか、のんきに挨拶する。そして簡潔に経緯を語る。

「突然の爆発で吹き飛ばされたあと、瓦礫の下で動けなくて。一時間かけて脱出したら、加藤段蔵(かのじょ)に殺されそうになったの。でも聖杯戦争についての知識は湯国市の一件で聞いていたから、なんとか施術魔法で霊基情報を改竄して支配下に置いた。それから彼女と隠密行動して、彼女に教えてもらった北養区の山中に隠されていた空間結合魔法を見つけて、ここに潜入した。それからずっとボスが来るのを待って隠れていたけど……みんなが危なかったから、出てきちゃった」

「凪ちゃん……」

 悪魔が打っていた隠し玉の布石を、環いろは達は消費してしまった。しかし絶望している暇はない。今も地表では悪魔や七海やちよたちが奮闘している。ふたりは立ち上がり、螺旋階段を駆け上がる。

 

 四階に到着。刹那、外壁が打ち砕かれた。

「AAAaLaLaLaLaLaLaie(アアアァララララララーイ)!!」

 大東区に隠されし空間結合魔法からマギウスのアジトに侵略してきたのは、まさかまさかのアレキサンダー陣営。しかし紅顔の美少年はどこへやら。むくつけき筋肉の塊たる大男は、傍らにフランス王妃マリー・アントワネットと裏切りの王妃メディアを侍らせて、イアソン副司令官が隊長を務める親衛隊アルゴナウタイを率い、いざ四階大広間を守るマギウス陣営のサーヴァント軍勢と激突する。

「今のうちに駆け上がろう!」息せき切る環いろはの声。

 

 五階に到着。次の瞬間、坂本龍馬が叫んだ。

「なんてことだ! 《天駆ける竜が如く(あまかけるりゅうがごとく)》!」

「抑止の守護者同士がぶつかるなんて世も末だ。《時のある間に薔薇を摘め(クロノス・ローズ)》!」

「おそらく霊長の抑止力(アラヤ)が、一般人側と魔法少女側に二分されたが故の事象だろう。俺と瓜二つの紅い弓兵は中立を保っているが、俺とアサシンのアンタは一般人側に寄って立ち、そちらの坂本龍馬は魔法少女側に寄って立った。といっても、なぜ片方に味方するのか? そんなものに大した理由は無い。俺たちはただの掃除屋だからな。やがては人間も魔法少女も関係なく全て皆殺しにする。そういうお達しだ。故に死んでもらうぞ。《無/の剣製(アンリミテッド・ブレイド・ワークス)》!」

 真名、エミヤ〔アサシン〕とエミヤ〔オルタ/アーチャー〕。どちらも抑止の守護者。宝具は、かたや固有時制御(自身体内限定の時間加速)による高速移動斬撃と銃撃。かたや固有結界を敵体内で炸裂させる必滅の銃弾。それから魔法少女たちを庇うべく坂本龍馬とお竜さんが吶喊。極光爆風、三者消滅。

「────っ!! まずい、それすらも囮か!」

 マーリンが叫ぶ。不意に魔法少女陣営の背後に影が揺らめき、気配遮断が解かれた。一撃、ピジョット、スピアー、エルレイド、ドーミラーのソウルジェムを打突・刺突して破壊。凪のソウルジェムも貫き、加藤段蔵の霊核も破壊。環いろはのソウルジェムを穿つ短剣は、マーリンが身を呈して庇い、鮮血が迸る。

「っ! マーリンさん!!」

 環いろはが叫ぶ。暁美ほむらと肩に乗るオタチは、顔のない王で姿を隠していたため助かった。

「ゴブッ……ははっ。まったく、やっぱり魔術の詠唱は噛むから嫌だね。噛まなければ間に合っていたのに……」

 聖剣極光、薙ぎ払い。真名、百貌のハサン・サッバーハ〔アサシン〕を一網打尽。マーリンは血反吐を吐いて膝をつく。

「ぐっ……聖杯の寵愛を受けていた抑止の守護者(エミヤ〔アサシン〕)の幸運判定にしてやられたよ……まったく、衛宮切嗣が百貌を使うなんてチートにもほどがあるんじゃないかな? ──あはは、まぁ君たち、安心したまえ。まず僕が死ぬことはない。そして謝ることがある。ここから先は君たちだけで行きたまえ。どうやら五階は僕が受け持つことになりそうだ。一騎たりともサーヴァントは通さないと誓おう。さぁ急いで。ほら早く!」

「っ……ありがとうございます! どうかご無事で!」

 環いろはと暁美ほむらは六階へ駆け上がる。それを見届けたマーリンの傍らに毒炎が現れた。

「やぁ巌窟王。生きていたのか。君はマスターを守りに行かなくていいのかい?」

「そう焦るな花の魔術師。《待て、しかして希望せよ(アトンドリ・エスペリエ)》────」

 その宝具は、自陣のうち一名を瀕死状態から完全回復させ、全パラメーターを一時的にランクアップさせる超回復宝具。

「おや、ありがとう。別に楽園を持って来れば回復できたのだけれどね」

「持続回復では、ここから先の連戦に持ちこたえられまい」

「それもそうだね。ここは素直に礼を言っておこうか」

「頼むぞ。貴様が最後の砦だ」

「言われずとも、出来る限りの努力はするさ。────たとえ、その全てが徒労に終わろうともね」

「…………」

 毒炎は消える。下層で『』(から)やキング君、アレキサンダー陣営が取りこぼしたマギウス陣営のサーヴァントが迫り来る。

「そもそも五階より上に防衛用のサーヴァントを配置していない時点で、何かキナ臭いものがプンプンと臭うんだよなぁ……二人とも、大聖杯はフランスにあるって知ったみたいだし、上なんかに昇ってどうするつもりなのやら。まぁ、いまさら下に行ったところで死ぬだけだから、駆け上がるしかないというのは、また尤もな話なんだけど」

 マーリンは呟きながら聖剣を奮う。ピンチになったら楽園に帰らせてもらう。そして観戦者に戻ろう。どうせ悪魔が強引にハッピーエンドを引っ張ってくる。たとえわかりきった結末でも、胸躍るのが物語というものだ。しかしマーリンは時に思う。少なくともこの世界では、悪魔を中心に世界が回っているのではないかと。

「とんだ宿命を背負ったものだよね。悪魔は天使が失墜した姿というけど……そもそも失墜した理由は、神に取って代わろうとしたからだし……もうこの時点で、彼の結末は決まりきっているようなものだ。機械仕掛けの悪魔ってね」

 

六階に到着。刹那、環いろはは大量真名看破。酒呑童子〔キャスター〕、三蔵法師〔ルーラー〕、源頼光〔アーチャー〕、茨木童子〔セイバー〕、風魔小太郎〔バーサーカー〕、坂田金時〔ライダー〕が一斉に飛びかかり宝具発動。

「うるさい。余の神殿前で騒ぐな!」

 次の瞬間、真名オジマンディアス〔ライダー〕の宝具《光輝の大複合神殿(ラムセウム・テンティリス)》が発動。天井付近からピラミッドが召喚されて高速落下。地面付近からピラミッドが召喚されて高速上昇。二つのピラミッドに挟まれたサーヴァントたちは一撃で霊基圧潰、四肢が爆砕して消滅した。

『っ……!?』

「よくぞここまで来た、挑戦者よ。余はくだらぬモノに支配される器にはない。ファラオとは自らが頂点に君臨する者を指す。それは古き魔術女王も同じこと。して、ひとつ問いを投げよう。貴様らは、なにゆえに頂上を目指す?」

 環いろはと暁美ほむらは答える余裕を持たない。一刻も早く頂上に登らなければ。その先で何をすればいいのか分からなくても。とにかくフランスに行くため魔翼移動要塞を脱出するか、それとも大聖杯展示場にフランスへ続く空間結合の門でもあるならそれを探すか。いずれにせよ暁美ほむらは狙撃銃を構えて引き金を引いた。しかし狙撃した弾丸はデンデラ大電球の魔力砲撃により撃ち落とされる。

「不敬である! ファラオの問いに攻撃で答えるとは、万死に値する!!」

 真名、ニトクリス〔キャスター〕。宝具は《冥鏡宝典(アンプゥ・ネプ・タ・ジェセル)》。冥府を映す鏡は、この世ありえざる暗黒の異形を映し、鏡の中より招来する。環いろはは乙女の貞節を全力稼働させて雷樹硬撃。異形のモノを一掃するが、瞬時にオジマンディアスの宝具《熱砂の獅身獣(アブホル・スフィンクス)》が鉤爪一回の攻撃で雷樹を引き裂いた。その間に螺旋階段を駆け上がる環いろはと暁美ほむら・オタチだが────

「逃げられるとお思いですか! 《穢れを漱げ、青く美しきナイル(スネフェル・イオテル・ナイル)》!」

 ニトクリスは生前、神々を軽んじる有力者を巨大な地下室に閉じ込めて水を満たし、溺死させて復讐した。その逸話が昇華された宝具は、その地下室を召喚する。喚起された外壁はせり上がり、螺旋階段を打ち壊して七階への道を塞ぐ。覆われた四方の壁。外壁に刻まれた眼が開き、大量の水を流す。魔法少女は酸素がなくても生きていけるか。魔力で酸素を確保すれば多少は肉体が持つはずだ。暁美ほむらは雲のマーレリングから遮断膜を生成し、空気を圧縮して取り込み、即席の酸素ボンベを作成。環いろはは必殺光矢速射で外壁を打ち崩そうとするが、多少のキズがつくだけで即座の破壊には至らない。

「そんな……」

「いろはちゃん!」

 暁美ほむらが雲の炎で覆った酸素ボンベを手渡す。満たされていく水は瞬く間に二メートルを超えた。このままでは何もできず溺死する。環いろはと暁美ほむらは両手を重ねてコネクト。魔力が臨界点に至り、ソウルジェムが明滅。活性遮断の圧縮光矢を解き放つ────が、外壁の表面が多少崩れた程度で、水を抜くほどの貫通は出来なかった。

 

「《再現》────黄金を喰え、栞槍!」

 刹那、黄金雷撃・一点突破。黄金硬化槍の一撃は外壁を貫き崩し、大量の水が下層に流れ落ちていく。

「なにっ!? 私の宝具を破るとは……! その火力、サーヴァント級と見ました!」

「っ……ぷはっ! かこちゃん!」

「油断しないで! まだ奥に大量のサーヴァントが控えている!!」

 真名看破、アルトリア・ペンドラゴン〔ランサー〕、ランスロット〔セイバー〕、トリスタン〔セイバー〕、日中三倍で強化されたガウェイン〔セイバー〕。

「だから不意打ちで殺す!! 巌窟王!」

 かこと呼吸を合わせた巌窟王が宝具が発動。時空転移に等しい高速移動は、残像どころか複数の分身が存在するかのように見せかける。巌窟王の主観では、世界は時が止まっているように見えているだろう。刹那の七撃。オジマンディアスやニトクリス、円卓の騎士たちの霊基霊核を殴り抜いて毒炎で蝕み焦がし、瞬く間に消滅させる。が、オジマンディアスだけは霊基の格が違うのか、消滅せず健在だった。

「クハハ! 俺が焼き尽くすべき焦熱地獄を今! 眼前に捉えた! マスター、おまえは最後の大罪を目指し、ひた走れ! 遥か恩讐の彼方まで!」

「エドモンさん……! わかりました。ここは任せます! いろはちゃん、七階に行こう!」

 巌窟王とオジマンディアスが激突。毒炎が空間を侵し灼き、大放電が広間を蹂躙する。それを夏目かこの硬化魔力結界で防御しつつ、ダダリンに乗って三人は浮上。環いろは、暁美ほむらとオタチ、夏目かことダダリンとアギルダーは七階に到着する。外周に螺旋階段がない。どうやらここが最上階のようだ。

 

 そして環いろはは目を見開く。遥か前方、広間の中心に────柊ねむの姿を見つけたからだ。

「ねむ、ちゃん……」

「……敵だ。排除しろ」

 柊ねむの周囲には作家系サーヴァントが集結している。真名看破────した瞬間、夏目かこはソウルジェムを砕き割られた。

「え────」

 真名、静謐のハサン・サッバーハ〔アサシン〕。短刀の一刺しで背後からソウルジェムを貫かれた。即座に環いろはが光矢全力開放。静謐のハサンの肉体を打ち砕き貫いて霊基霊核を破壊する。

「ダメだ。原稿を落とした。俺の宝具《貴方のための物語(メルヒェン・マイネスレーベンス)》は完成しない。これは確定事項だ。まったく、どうせなら悪魔を書かせろ! 権力にあぐらをかくイザボー妃め! おまえなんかを書いたところで、出来上がるのは物語もクソもない、ただ貴様を賛美礼賛するだけのクズ紙だ! この下衆め!! さぁ殺せ、裏切ってやったぞ! こんな駄文しかできないテーマで何枚書かせようとも、既にイザボーは下衆の極みにある! 既に到達点にあるのだから、これ以上なにを足す必要がある? 完成した物語をさらに完成させろなぞ、かの売国妃は蛇足という言葉を知らんのか!!」

 真名、ハンス・クリスチャン・アンデルセン〔キャスター〕。独りで断末魔のごとし絶叫を上げて憤死寸前まで憤っている。どうやら支配の力で無理やり、好きでもない物語を書かされて発狂しているようだ。

「ふむぅ。同じ作家として、アンデルセン氏の屈辱は魂に染み入るほど理解できます。その点、私はある程度の自由が許されて良かった! いえ、その時点でマギウスは、私の取扱いを間違えていると言えなくもないのですが。まぁいいでしょう。私にとってはありがたいことです。さぁ舞台の幕を上げよ! 《開演の刻は来たれり、此処に万雷の喝采を(ファースト・フォリオ)》!!」

 真名、ウィリアム・シェイクスピア〔キャスター〕。宝具はシェイクスピアが執り行う究極劇場の開幕。効果は状況によって異なり、今回は里見灯花の命令で悪(・)魔(・)の(・)心(・)を(・)へ(・)し(・)折(・)る(・)劇(・)しか脚本を作らなかった。しかし目の前に悪魔はいない。発動したところで詮無いことだが、イザボーが掛けた支配“魔法少女を発見次第宝具使用”はシェイクスピアにも掛かっている。そのため支配に抵抗できないシェイクスピアは、ゲームでたまにあるバグのように、どうしようもない宝具使用を強いられた。

(ふむ。これもまた悪魔の逆転勝利の力が働いているのですかな? 完全なる無駄打ち! しかし悪魔の役割を両名どちらかにおっかぶせることで、同情心を誘い、彼女たちの心をへし折ることは可能かと思われる。ならばその方針で行きますか)

 そして世界は改変する。閉塞する空間は環いろはたちを閉じ込め、彼女たちを脚本の登場人物として仕立て上げることで劇の幕が上がる。

「それは一人の少年の物語。運命に翻弄されし少年は、あるとき憧れのクラスメイトたる笹川京子の首を刎────」

 その時、不思議なことが起こった!

 

 

 

「牛若大明神!」

 

 

 

 劇が止まる。シェイクスピアは台本を読む口を思わず止めてしまい、開けっ放しの口は呆けて呆けて思考がフリーズする。環いろはたちも、彼の演劇に取り込まれて何がどうなっているのか分からないまま、突として現れた真名看破不可能の謎の人物(牛若大明神)の登場に困惑。

 

 

 

「然したる用もなかりせば、これにて御免!」

 

 

 

 牛若大明神はドロンと姿を消す。まるで忍者のように煙に紛れてどこかへ行った。

「……いえ、誰ですか今の?」

 シェイクスピアは気を取り直して台本を読み直す。

「そう! 少年は、なんと! 守ると誓ったはずの笹川京子の首を刎────」

 その時、不思議なことが起こった!

 

 

 

「イェーイ! サプライズ忍者! 望月千代女がドロンとサラダバ!」

 

 

 

 望月千代女と名乗る真名看破不可能の謎のくノ一が現れてはドロンと消える。けむにまくように消える。

「……………………、────!!!!!?!?!?!!??!!?!?!」

 あまりの荒唐無稽な出来事。こんなことは台本にない。そこでシェイクスピアは気付いた。まさか、まさかまさかまさかまさかまさか!

「まさか悪魔こと沢田綱吉の心を折るのは抑止力案件だと!? (しかも相手は悪魔ではない魔法少女だというのに!? 過去を明かそうとするだけで阻まれるとはなんたることか!) おお、馬を引け! 国をくれてやる!」

 シェイクスピア、自ら退去を選ぶ。黄金の粒子が立ちのぼった。

 

 閉塞空間が消失。呆然とするアンデルセンはズレた眼鏡をかけ直し、その傍らでは真名、アレクサンドル・デュマ・ベール〔キャスター〕と清少納言〔アーチャー〕が抱腹絶倒、地面に倒れて後頭部と背中を強打、もんどりうって爆笑していた。

「ブワハハハハハハハハッ! なんだ今のは傑作だぞオイ!! シリアスな空気が台無しじゃねぇかグワハハハハ!!」

「うわははははははははははっ! いーひひっ! 今のはダメだって! 日本人特攻だからぁっ!! 牛若大明神とかサプライズ忍者とか、マジ嬉し懐かし歌舞伎チックなエモーショナルなんですけどぉっ!?」

「せ、清少納言さん……! はしたないですよ、そんなに転げまわっては……!」

 真名、紫式部〔キャスター〕と看破。しかしその口角はわずかにぴくついており、釣り上がるのをこらえている。

 

 一方、柊ねむはアンデルセン同様ズレたメガネを掛け直し、環いろはと暁美ほむらは何が何やらわからず唖然とするほかない。とりあえず狙撃連発。アンデルセン、デュマ、清少納言、紫式部の霊核を撃ち抜く。アンデルセンは血を吐きながら遅れて豪快な笑い声を上げ、紫式部はそれに釣られてぷくっと頬を膨らませると、少量の笑息を血混じりに吹き出して消滅した。

 

 柊ねむは車椅子に座っている。その背後に真名、ベディヴィエール〔ランサー〕が実体化。執事のように仕えている。ほか俵藤太〔アーチャー〕も実体化し、環いろはたちの前に立ちはだかる。

 

「くっ……いかんいかん。どうも今のは腹に悪い。別の要因とは言え、死人が出ているのに笑ってしまってはほうぼうに失礼だ。うむっ! さて、魔法少女たちよ。見てわかるように拙者は支配英霊だ。しかも悪魔特攻の宝具を有している。ここで拙者を倒した方が、悪魔のためになると思う。さて、どうする?」

「……もちろん。戦います」

 俵藤太は矢避けの加護スキルを持っている。飛び道具は利かない。クロスボウと銃器を得者とする二人は、彼に対して致命的に相性が悪い。環いろはは乙女の貞節より、慣れ親しんだナイフを取り出し、暁美ほむらは雲のマーレリングを灯す。

「……まともに戦えば、拙者がお主らを瞬殺して終いだ。いかに策を弄しても、覆らぬものはある。故に……《無尽俵》にて出直せい! 宝具は発動したゆえ命令違反ではあるまい!」

 突として俵を投げつけた俵藤太。その俵から無限の如く米が湧き出る。瞬く間に津波のごとく米の波が荒れ狂い、環いろはと暁美ほむらを押し流そうとする。時間停止。暁美ほむらは米の海から這い上がって接近。サーヴァントは宝具発動直後に隙がある。ドッペルの髪を暁美ほむらの腕に巻いていた環いろはは賦活魔法を行使。米の海を活性跳躍疾走。霊核めがけてナイフを振りかざす。しかし分析効果の助けなしでは霊核を特定できず、霊基を傷つけるだけに留まった。直後、暁美ほむらは狙撃。密度の高い雲の炎と遮断魔力による一撃はベディヴィエールの鎧を砕いて霊基を貫く。時が動き出す。

「────ほう? うむっ! なかなか良い戦法だ! では……《八幡祈願・大妖射貫(なむはちまんだいぼさつ・このやにかごを)》!」

 俵藤太の宝具発動。五人張りの強弓狙撃は水龍となりて、あちこちに霊体化して隠れていた敵サーヴァントを次から次へと殺し尽くす。しかしベディヴィエールは霊基が傷つけられて支配から解かれたというのに、槍を翻して俵藤太を狙う。刀と槍の激発。環いろはの光矢援護射撃。

「まぁ……どちらに着いても魔法少女を救うことは同じだからな。己が心の天秤が、マギウスの翼の魔法少女に傾くか、地表の人類と魔法少女に傾くか。敵味方に分かれるのは、その違いでしかない。うむっ! ならば存分に殺し合おうぞ!」

「まぁあ? 翼も可愛そうだし、ほかの子も可哀相だけど……私は断然、マギウス絶許だぁっ!! 英霊の人格を完全無視した兵器運用なんて、少なくとも私は認めない!」

 真名、ダ・ヴィンチ〔ライダー〕。宝具は巨大自動車の疾走突撃。俵藤太の宝具で霊核が貫かれた刹那、消滅までの僅かな時間を死ぬ気でこらえて、宝具発動。ほかに生き残ったサーヴァント……エリザベート・バートリー〔セイバー〕、ヴラド三世〔ランサー〕、クレオパトラなどを蹂躙していく。

 

          ♪~FAKEit~♪

 

 そして七階の戦いは決着した。俵藤太とダ・ヴィンチは、マギウス陣営のサーヴァントと相打ちに持ち込んで消滅。環いろはと暁美ほむら・オタチ、柊ねむだけが生き残る。柊ねむは疲れたように溜め息をつくと、魔導書を一冊パラパラと開いた。すかさず暁美ほむらが銃口を向けるが、環いろはが制止する。

「待って! ねむちゃんもやめて! どうしてこんなことするの!? 地上はとんでもないことになってる……これが、こんなことが、本当に魔法少女の救済になると、本気で思ってるの!?」

「……環いろは。君は僕たちのことを知っているようだけど、残念ながら僕たちは君のことについて何一つ知らない。そして僕らの思想を語り聞かせるには、君は無知が過ぎる。そんな愚者に言って聞かせる道理はない。潔く死んでくれないかな?」

「ねむ……ちゃん……」

 柊ねむは詠唱する。何かとパスを繋いだ。

「僕らには女神がついている。君たちは確かに善なる者だ。故に、彼女には敵わない────」

 環いろはの眼前に降臨するは、最高ランクの神性を誇るサーヴァント、否────それは神霊に近しい存在。真名を女神ケツァルコアトル〔ライダー〕が顕現する。

「……ごめんなさいね。子供達。さぁ、ムーチョムーチョしましょう!」

 そう言ってケツァルコアトルは跳躍。環いろはは光矢速射、暁美ほむらは狙撃。その一撃一撃は確かにケツァルコアトルに命中した。しかし女神は無傷。アライメントが善なる者の攻撃を一切無効化する権能と看破。二人は目を見開いて絶望する。一撃、環いろはの首をねじ切り、一撃、暁美ほむらの体を掴んで抱き上げ海老反り、頭部を地面に打ち砕いた。刹那、活性と増殖の魔力が爆発。頭部を瞬間再生した環いろはと暁美ほむらは跳躍して後退する。

「! ……諦めない子たちは、やっぱりお姉さん好きよ? さぁ、それじゃあ────楽(・)し(・)み(・)ま(・)し(・)ょ(・)う(・)か(・)?」

 極悪の笑顔。ゾクリと戦慄する暇もなく、ケツァルコアトルは一歩で距離を詰めてくる。なぜかソウルジェムは狙ってこない。掴まれては首をねじ切られ、全力で逃げても再び掴まれては首から上がはじけ飛ぶを繰り返す。

『っッ────!!』

「イェーイ! さぁどうしますか人類? どうか私を驚かせてくだサーイ!」

 

          †

 

 一方その頃。悪魔は死炎打撃一発で地表一帯を吹き飛ばし、一兆騎のワルキューレ軍勢を殺し尽くす。七海やちよは虹霓一閃で大空大気を切り裂いて、同じく一兆騎を優に超すワルキューレ軍勢を殺し尽くす。別の戦場ではゴルゴーン〔ランサー〕が真なる神性怪物と成り果てて日本列島は沈没した。ユーラシア大陸も誰かの宝具で十文字に切り裂かれたのか日本海と太平洋が混ざり合う。まさに、この世の終わりと言っても差し支えない光景。そこに、一条の黄金が飛び立ち、数本の鎖を巻き、悪魔めがけて突貫する。

「────《人よ、神を繋ぎとめよう(エヌマ・エリシュ)》────」

 それは殺意のない攻撃。悪魔の逆転勝利が働かない。天地を貫く巨大な光槍は楔となり、悪魔の体をがんじがらめに繋ぎ留めた。

「っ!?」

 そして悪魔の眼前に、空飛ぶ舟が停泊。玉座に鎮座するは最古の英雄王ギルガメッシュ。無聊をかこつように悪魔と対面して、その無様な姿を見据える。ふと彼の傍らに、悪魔を縛った緑髪の人間が降り立つ。中性的な顔立ちで性別は不明。その心情は自らを兵器として律しており、直感。真名をエルキドゥ〔ランサー〕と分かる。

「…………」

「…………」

 悪魔とギルガメッシュのあいだに言葉はなく、ただ眼で語る。しかし言わねば伝わらないのが人情だ。英雄王は嘆息する。

「────チッ。くだらん。あれだけ息巻いておいて未熟の極みともなれば手も付けられん。以前の貴様であれば(それが救いともなるゆえ)疾く殺してやったが……究極光景を目にした貴様は、我が無二の友と同じ心構えを得るらしい。これでは興が醒めるというものだ」

「僕と同じ? つまりこの子も、自分を兵器として律しているということかい?」

「どちらかといえば“機械仕掛けの神”だ。限定的に未来視を獲得した人間は、その善性が極まっていると、どうやら滅私奉公の権化となるようだ。まったく、自らの生も謳歌できぬとあれば、それはもはや獣ですらない。機械の暴走だ」

「ふむ。で、殺さないのかい?」

「まてエルキドゥ貴様は血気が盛んすぎる。……こほん。で、だ。これより語るは王の言葉である。解釈を違えれば未来はないと思え、この下郎が」

「……」

 最古の英雄王は、悪魔に何かを伝えたいのか語りだす。

「────まず第一に。貴様はいつまで無(・)駄(・)な(・)死(・)闘(・)に興じている。戦闘狂の悪癖にでも目覚めたか?」

「なに?」

「さっさと本丸を叩けと言っている。貴様は他人の体力と精神力を慮る力に叩けていても、自身の体力を計算する力においては度が外れた逸材だ。雑種以下と云えよう」

「────!」

 それは、この戦いが終わったあと悪魔が気絶することを指しているのか。今までの戦いの中で、悪魔は戦闘が過酷であればあるほど長い眠りを要した。そして今回もそ(・)う(・)な(・)る(・)と英雄王は言っている。ならば究極光景で見た夕方の問題はどうなる? まさか、それは眠(・)り(・)か(・)ら(・)覚(・)め(・)た(・)あ(・)と(・)の(・)話(・)なのか。

「分かったのなら疾く往け。……あぁだが、それまでには、まだ時間があるか。ならばもう少し説教してやろう。────あぁ、確かに勢い勇んで早期のうちにマギウスの本拠地へ乗り込んでいたら、五大竜の災厄を食い止められず大聖杯を喪う未来があった。それはひいては世界の崩壊だ。螺旋虹霓剣やインド系サーヴァントの火力もそうだ。もし我が止めようと乖離剣を使えば、神代の魔力濃度を持たぬこの星はとうとう耐え切れず木っ端微塵と砕け散っていた。……だがその心配は、我(オレ)で最(・)期(・)だ」

「……!!」

「我(オレ)にエアを抜かせるな。それは万死に値する前に、この星が滅ぶことを意味する。まぁ今回の召喚でエアは引っ提げて来なかったがな。それでも王の財宝を開けば……あとは言わずと知れたことよ」

 タイムリミットは、ギルガメッシュが王の財宝から乖離剣エアを見つけて抜き放つまで。

「あ、僕は心配ないよ。《民の叡知(エイジ・オブ・バビロン)》で霊基情報を改竄して支配から逃れたんだ。もしギルがエアを抜こうとしても、僕が戦ってしばらくは抑えるよ」

「そういうわけだ。まったく、我の手を煩わせるな、たわけ。さっさと終わらせてこい。最古の英雄王が、この先の未来を保障すると言っているのだ。もし失敗すれば死罪とする! 疾く去ね、王の命令であるぞ」

 鎖が解かれる。刹那、悪魔は助太刀魔法を行使した。

「ありがとう、ギルガメッシュ」

 斯くて未来は確定した。エアによって崩壊する世界。悪魔の逆転勝利の力が際限なく極まる。

 

 極光、空間転移(助太刀魔法)。

 

「ごめんなさい。時間切れよ。────《炎、神をも灼き尽くせ(シウ・コアトル)》!!」

 環いろはと暁美ほむらが背後に居ると直感し、頭上に女神の飛来を観測。流星の如きかかと落としは太陽面爆発に匹敵するエネルギーを有する。そのまま炸裂させては地球が砕ける。悪魔の逆転勝利が太陽系を貫いて極まり、瞬発、叛逆貫手。女神の神核を撃ち抜いた。

「ゴブッ……!? おぉ……! 見事、デース……!!」

 だが神なる霊核を潰した程度で神霊サーヴァントは止まらない。否、もはやサーヴァントの枠組みさえ超えている。ならばその魂と身体すべてを焼き尽くさなければ止まるまい。瞬間イクスバーナーの炎で神を灼き尽くす。叛逆効果で善性無敵効果を突破し、極剛の炎で真名ケツァルコアトルを滅却。極柔の炎が環いろはと暁美ほむらを包み込み、悪魔は焦げ付いた大広間に着地した。晴拳銃を開匣。柊ねむのソウルジェムを撃ち抜く。砕け散る魂の輝き。環いろはは一瞬の出来事に呆然とする。

「────え……?」

「どうせあとで蘇る。今は動きを封じるのが先決だ」

 悪魔は嵐の炎の分析効果を雨のマーレリングで発散。七階の広間の中央には、確かに先刻まで大聖杯があったと確認できる。究極光景で見た大聖杯展示場と比べると、焦げ付いている部分を除けば、確かに同じ部屋だと分かる。

(焦げ付いていない未来があったのか……やはりいろはとほむらをマギウスのアジトに向かわせるのは、究極光景通りの未来じゃなかった。しかし大きな変化にはなっていない。ギルガメッシュの未来視は信頼できる。まだ未来は、そんなに大きな転換点には至っていない。ならば勝負は、ここからだ……!)

 悪魔は死炎噴射。分析の結果、大聖杯が在ったはずの空間が、別の空間と置換されている事が分かった。おそらく、その置換先の空間はフランスのレーヌ川。いよいよ聖杯戦争は終盤戦に突入する。

「悪魔さん!」

 暁美ほむらの呼び声。その心情を直感して悪魔は即答する。

「やはり間違っていた。お前たちがここに来るのは未来通りじゃない。もういいからそこで休んでいろ。あとはオレが全てのケリをつける!」

『……っッ!!』

 悪魔は空間結合の孔に突入。次の瞬間、景色が様変わりした。

 

          †

 

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