※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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第4.5章 終盤戦



【たすけておばあちゃ~ん! 行き倒れ見つけたー!】フラン

 

『……っッ!!』

 

 悪魔は空間結合の孔に突入。次の瞬間、景色が様変わりした。

 

          †

 

         ♪~色彩 決別の時来たれり~♪

 

 澄み渡る青空。奥深い森林。流れの緩やかな河川。浅瀬の砂利道に降り立った悪魔は、河川中央の三角州に敷設された大聖杯と、そこに佇む里見灯花を発見。晴拳銃を開匣しようと思った矢先、悪魔の逆転勝利が極まった。光速の魔法少女が黒く閃き剣を奮う。黒い閃光はまたたくと、森林一帯を横薙ぎに両断して吹き飛ばす。紙一重で躱した悪魔は、光の速度で動くサーヴァントを倒すべく徒手空拳で挑む。

 

 閃光に次ぐ閃光。明滅のたび無限の斬撃を浴びる。その全てを間一髪で躱す悪魔は逆転勝利が光の速度を超えるほど極まり迎撃。光速の蹴りを放って直感。敵の名はジャンヌ・ラ・ピュセル〔タルト〕。鎧を蹴り砕いて追撃殴打。顔面を殴り抜いて吹き飛ばす。

 

「殺すな、タルト!」

 

 荘厳な声色。風になびく金髪。紅く光る目はインキュベーターより醜悪。それは女王の如し風格を備える魔女にして魔法少女。彼女の名はイザボー・ド・バヴィエール〔アルターエゴ〕と直感。どうやらマギウスは、ようやく悪(・)魔(・)の(・)攻(・)略(・)法(・)を知ったらしい。肉体的に殺せば逆転勝利が極まる。精神的に殺すとしても鋼鉄の決意が磐石で崩せない。ならば殺さなければいい。生かして殺さず……つまり生殺しにすれば、悪魔は逆転勝利の助けを借りられず、地力で勝負するしかない。しかし悪魔も経験豊富。簡単には生殺しにされないだろう。故にサーヴァントを使うのだ。どう足掻いても人間では勝てない相手を用意することで悪魔を完封する。首や心臓は取らず、四肢を切断する。死ぬ気の炎も魔力も再生させないよう阻害し、笹川京子のソウルジェムが“死”と捉えないであろうレベルで殺し、封印する。それは今回の聖杯戦争における目的のひとつでもあった。世界征服より先に、悪魔を封じなければ、必ずマギウスは潰されてしまう。

 

「だのに!」

 

 里見灯花はかんしゃくを起こすように激怒する。なぜなら悪魔は今もなお五体満足で抵抗している。あれだけのサーヴァントを相手に生き残っている。

 

「たったひとり! たったひとりの人間を殺すだけで解決するのに! どうしてサーヴァントがこうも手をこまねくの!? 信じられない!!」

「決まってる。マスターが悪かったんだろう」

 

 今まで戦ってきたサーヴァントのほとんどは、支配に逆らって本気で悪魔を殺しに来ていた。故に逆転勝利が発動できた。もしマスターが一騎一騎に対して、しっかりと手綱を握っていれば、悪魔は緒戦で負けていただろう。

 

「まぁ、これだけのサーヴァントを全て御するなんて、魔術王でもなければ不可能な話だが」

 

「む~~っ! イザボー! あなたの支配は距離が近ければ強まるんだよね! ならちゃっちゃと悪魔を生け捕りにして!」

「まぁそう慌てるな、里見灯花。少しくらいは楽しまないと、せっかくの興が醒めるというものだ」

「興? 遊びじゃないのよ、イザボー!」

「妾からしたら世界征服も悪魔生け捕りも遊び同然。なに、最後はきっちり仕留めるゆえ安心して見ておれ」

 

 タルトが起き上がる。悪魔は着地。その周囲に魔法少女とサーヴァントが現れて悪魔を囲い込む。

 

 ウワサを着込む巴マミと、真名エリザ・ツェリスカ〔アーチャー〕と直感。

 八雲みたまと、真名メリッサ・ド・ヴィニョル〔ランサー〕と直感。

 梓みふゆと、真名リズ・ホークウッド〔アサシン〕と直感。

 そして、真名ペレネル・フラメル────否、悪魔は違和感を抱く。

 

(……なに? そうか、そういうことか────)

 

 悪魔は悟る。ならば話を合わせておこう。

 真名、ペレネル・フラメル〔キャスター〕と直感。

 その傍らに立つは、真名メディア〔キャスター〕と直感。

 

 アリナ・グレイと、真名ラピヌ〔マザーガーディアン/ライダー〕と直感。

 白羽根の神楽燦と、真名コルボー〔マザーガーディアンス/アサシン〕と直感。

 白羽根の観鳥令と、真名ミヌゥ〔マザーガーディアン/シールダー〕と直感。

 

 白羽根の天音月咲と、真名ラム〔マザーガーディアン/セイバー〕と直感。

 白羽根の天音月夜と、真名フレシュ〔マザーガーディアン/アーチャー〕と直感。

 

 ほか真名、微姉妹〔セイバー〕、黎利〔セイバー〕、ラクシュミー・バーイー〔セイバー〕、鶴姫〔ランサー〕、巴御前〔アーチャー〕、カイニス〔ランサー〕、ジョン・ホークウッド〔ライダー〕と直感。

 

 そこでイザボー・ド・バヴィエールが嗤う。

「さぁ悪魔よ。単純明快な技量勝負で、この布陣をどう切り抜ける?」

「勝ち誇っているところ悪いが。この顔ぶれのどこに勝(・)つ(・)要(・)素(・)があるんだ?」

 

 煽られたメリッサの心情が怒髪天を衝く。支配を脱して一番槍を飾るのは彼女だと直感。

 瞬発。悪魔完封を懸けた激闘が幕を上げる。

 

「うがぁああああ!!」

 

 メリッサの魔法武具は槍と鎚の合体。騎乗槍(ランス)の穂先から青雷が帯状に伸びており、頭しかないハンマーと接続している。そのため中距離から槍を震えば、力が鎖の役割を果たす青雷に伝わり伸びて、ハンマーがかっ飛び、悪魔の足元に爆裂、青い放電が広がる。フレイルのような攻撃を、悪魔は死炎噴射で回避。同時、放電が命中した周囲の物体(大地や木々)が忽然と《消滅》した。

 

(──消滅系の魔法か。それにしても攻撃が直線的すぎる。心情も怒りまみれだ。まさか狂化しているのか?)

 

 背後から殺気。悪魔は逆転勝利魔法を行使。僭主カイニスの槍撃を受け流し、左から迫る鶴姫の薙刀袈裟斬りを半歩スレスレで躱す。返す刀で火炙りの聖剣を振り上げ、右の巴御前の薙刀と打ち合い、頭上から躍りかかる黎利の剣を死炎噴射で躱す。空を飛んだことで真下からの攻撃を直感。微姉妹のコンビネーション攻撃を退き躱し、不意に遠距離から号砲を聞く。巴マミとエリザ・ツェリスカの無限銃声。無限のマスケット銃と斧剣付き五連ライフルから放たれる魔弾は悪魔に降り注ぐ。しかしその弾幕は、カイニスたちの猛攻を邪魔する形となった。悪魔は冷静に死炎噴射で弾幕の網目を縫い躱し、死炎爆発、エリザの斧剣とガントレットが激突、火花を散らす。

 

(……前後衛の連携が取れていない。マミは何を考えている?)

 

 そろそろ逆転勝利魔法の効果が切れる。ならば再び逆転勝利魔法を掛ければよいが、その間隙を巴マミに突かれると一瞬で四肢が撃ち抜かれる。故に魔法行使は、常に奇襲と同時でなければいけない。悪魔の回し蹴りをエリザはバックステップで回避、だがそれは攻撃のための蹴撃ではない。

 

(時雨蒼燕流 槍式・三の型・改────《刺し穿つ死散(しさん)の雨》)

 

 魔槍蹴撃と同時、叛逆助太刀魔法を行使。巴マミの狙撃が悪魔の右肩を撃ち抜いた刹那、三人を狙える位置に転移した悪魔は左手に開匣した晴拳銃を速射四連発、罪悪感から行動が鈍っていた八雲みたまと梓みふゆ、油断していた神楽燦と観鳥令のソウルジェムを打ち砕き、小刀三本は巴マミ、メリッサ、エリザの霊基(ソウルジェム)を貫いた。残る晴拳銃の二発はアリナ・グレイのキューブに防がれる。

 

「なっ────」

 

 里見灯花は目を見開いて一歩後退。するとイザボーは即座に撤退開始。古(・)城(・)に逃げ込む思考を直感。アリナ・グレイとラピヌ、コルボー、ミヌゥ、天音月咲とラム、天音月夜とフレシュ、ジョン・ホークウッドも、イザボーのあとに続いてしんがりをつとめた。

 

(……)

 

 逆転勝利魔法を行使。紙一重でカイニスの直線槍撃を躱した悪魔は霊核貫手。吐血するカイニスは槍を手放して悪魔の両脇を担ぎ上げるように締め上げる。「今だッ!」カイニスの血声に応じて巴御前と鶴姫が刀と薙刀を奮う。刹那、音速斬撃で両腕を肩先から切り落とされた悪魔は《叛逆》を行使。悪魔の手元に戻ってくる小刀三本は、“巴(・)マ(・)ミ(・)、(・)メ(・)リ(・)ッ(・)サ(・)、(・)エ(・)リ(・)ザ(・)の心臓を貫いた”という因果が水平的に逆転(横転)し、“《《巴御前、鶴姫、微姉妹の姉の心臓を貫いた”という因果に切り換えられた。三騎の霊核が貫かれる。コンビ英霊として現界する微姉妹は片方が殺されればもう片方も霊基が瓦解する仕組み。そして両腕をなくした悪魔はカイニスの絞め上げから逃れ、着地。両肩の切断面から死炎噴射。傷口を焼いて止血しながら突貫。ラクシュミー・バーイーの顔面に頭突きをかまそうとする。ラクシュミーは選択を迫られる。剣を振り抜けば頭蓋を割ることになる。銃口を向けても頭蓋を貫くことになる。どちらを選んでも即死となり、すなわち逆転勝利が誘発される。幸運値の低いラクシュミーは既に手詰まり。顔面に頭突きをもらった直後、雷炎硬化の鋭い蹴撃で霊核貫通。すかさず飛び込んだ黎利が悪魔の右脚を切り落とし、刹那の連撃で左脚を膝から上まで薙ぎ払う。卓越した剣術はそのまま悪魔の脊髄を断つことで飛行すら封じようとするが────

 

「はい終わり」

 

 ペレネル・フラメルが防御特化の結界魔法を行使。悪魔の背中に張られたシールドが黎利の聖剣を防ぎ、悪魔は空中で身を反転、肩口から放つ瞬間イクスバーナーで黎利を吹き飛ばす。刹那、ガントレットからオリジナルへと形態変化していたナッツが音速突貫。黎利の背中から霊核を頭突きで貫いた。すかさずチーズが四肢の切断面から針を増殖して伸ばし、地面に散らばる両腕と両脚を拾い上げて切断面と接着縫合。

 

(……)

 

 悪魔は思う。タルトとリズの姿が見えない。彼女の光魔法なら、文字通りの光速技で、とっくに悪魔は四肢を切断されていた。意識で感じる暇もなく、ナッツとチーズは殺されて、回復する手段もなかった。だというのに、なぜ彼女たちは戦いに参加しなかったのか。それは別の戦場で戦っていたからである。振り返った悪魔の瞳に映るは、タルトとリズに瞬殺される、加賀見まさらとミブリム、都ひなのとベトベター、桐野紗枝とエイパムの姿だった。

 

 戦闘開始から七秒にも満たない攻防。

 

 光の速さで動くタルトは、瞬く間にメディアの首を切り払ってペレネル・フラメルの胴体を貫く。同時、タルトの全身が魔力含めて硬直した。オルタ化し、支配されても、親しい友を殺す命令には、魂を焼き尽くす感情で抗う。そして太公望陣営にとっては、まさにその時が好機。縮地で飛んできた太公望は仙術を行使する。

 

「思想鍵紋(しそうけんもん)、励起! 聖印遡光・封神執行!」

 

 その宝具は、光の速さでプラス方向に動く物体に、光の速さでマイナス方向に動く概念をぶつけることで静止状態に近付ける仙術。メディアとペレネルを殺したタルトが再び光の速さで悪魔の四肢を切り落とそうとした刹那、悪魔の眼前でタルトは静止。

 

「ゴボッ……! あぁ……心臓は貫かれてないが、これは致命傷だな……っ。悪魔!」

 

 ペレネルは何かを投擲。それは紫色に妖しくきらめく短剣。それが全ての魔術を破戒する宝具の模造品だと見抜いた悪魔はキャッチしてすかさずタルトの胸元に突き刺した。

 

 極光暗転。刹那、悪魔は背後から一突きで脊髄を貫かれていた。視界が明滅する。誰の仕業か分からない。太公望も同様の暗殺で消滅した。消去法でリズの宝具に違いない。同時、悪魔の手元から短剣が強奪された。そしてリズのものと思われる苦悶の声が────悪魔の足元、影の中から聞こえたような気がした。

 

 魔術破戒による閃光が鎮まる。光の衝撃で五感が悲鳴を上げる中、悪魔は周囲の心情を直感。事の経緯を理解する。

 ペレネル・フラメルは生者である。英霊ではない、今を生きる人間だ。魔法少女でもある。彼女はマギウスのアジトに潜入し、タルトが召喚された時、自分も抑止力に召喚された体を装って姿を現した。そしてイザボーに支配されたはずだが、彼女は“魔法英霊の霊基を支配する魔法”を掛けたので、霊基を持たないペレネルには効かなかった。もしイザボーが念には念を入れて通常の支配魔法を掛けていたら危なかったが、そこは彼女の傲慢さを予測していたペレネルの計算勝ちという事らしい。

 そして悪魔とランサーが契約し、マギウス陣営のサーヴァントと戦闘していた頃。ペレネルとメディアは二手に分かれて、かたや仙術で支配を解いた太公望と接触し、光の強さを誇るタルトをどうにかして支配から解くための作戦を考案。かたや七海やちよにサーヴァントの倒し方を助言したあと、栄区に集合。メディアの神代魔術、ペレネルの錬金術、太公望の仙術による合作で、概念宝具の模造に取り掛かっていた。ランサーが水名正綱の名を名乗りに来た頃には完成しており、悪魔とタルトが戦う時を今か今かと待ちわびていたそうだ。

 そして都ひなの達は、悪魔がほかのサーヴァントを倒している間、タルトに邪魔をさせないための時間稼ぎ要員。その役回りは本人たちも承知の上で、光の死地に飛び込んだようだ。

 

 五感の明滅が元に戻る。前方には黄金の粒子となって消滅するメディアと太公望。さすがに光の速さを相手に身を守る術は持ちえていなかったようだ。その近くには胴体に風穴を開けられて血をこぼすペレネル・フラメル。悪魔は振り返る。模造ルールブレイカーを手に持つタルトの足元にリズ・ホークウッドが倒れている。

 

「はぁ、はぁ……っ……リズ! ペレネル!」

「……っ。私は平気。影の中に入ればマスターがいなくても現界できる。こっちはサポートに回るから、タルトはイザボーを倒して」

「ま、そういうこと……私は死ぬけど気にしないで。むしろ作戦が大成功して嬉しい事この上ない。さぁ、彼と再契約して、巨悪を討ちに行きなさい。それが聖女の仕事なのだから……」

 

 リズは、タルトの影の中に沈む。

 ペレネルは血だらけの姿で朗らかに笑い、タルトと悪魔に後を託した。

 

 上空轟然。空の世界では、主に世界大戦時の英霊が、現代のヨーロッパが誇る戦闘機とドッグファイトを繰り広げている。その中に紛れてワイバーンなどの竜種も飛翔しており、あちこちで魔獣の咆哮が轟いて、都市や山々に火の手が上がる。

 斯くて、戦闘開始から七秒の攻防が経過。悪魔の逆転勝利魔法が解かれる。立ち上がり、ふらつく足元。たたらを踏むが、なんとか気を引き絞り、火炙りの聖剣をタルトに手渡す。

 

「ジャンヌ・ラ・ピュセル……またの名をタルト。ジ(・)ャ(・)ン(・)ヌ(・)・(・)ダ(・)ル(・)ク(・)が(・)魔(・)法(・)少(・)女(・)だ(・)っ(・)た(・)ら(・)という世界線の英霊か。そ(・)う(・)じ(・)ゃ(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)ジ(・)ャ(・)ン(・)ヌ(・)・(・)ダ(・)ル(・)ク(・)からの餞別だ。啓示スキルでこの未来がなんとなく見えていたんだろうな。受け取れ。そして終わらせに行くぞ」

「……! ────はい、よろしくお願いします、マスター!」

 

 火炙りの聖剣を受け取ったタルトは手を差し出す。それに応じた悪魔も手を差し出し、握手。施術魔法で霊基と接続。依代と魔力パス、二つを成立させて、ここに悪魔と聖女の契約が完了した。

 

「オレは既に死に体だ。逆転勝利が発動しない間は気力だけ(死ぬ気)で意識を保っている。向こうが手加減してくるならオレはお荷物だ。ここから先はタルト、君だけの戦いになる」

「はい。任せてください。マスターはここで休息を……」

「いや、オレもサポートのため同行する。イザボーたちが逃げ込んだ古城というのが気になる。おそらくジョン・ホークウッドの宝具だろう。ペレネル、何か知らないか?」

 

 死にかけのペレネルは息をするのも辛そうだが、悪魔の問いかけに心中で答える。

 

「────なるほど。城の召喚宝具か。彼の子孫に当たるリズなら、もっと詳しいはずだが」

 

 タルトの影からリズの声が響く。

 

「宝具《我が最高栄華の三雷教典(モンテッキオ・ヴェスポーニ・エトルスキ)》……裏切りの英雄が権謀術数の果てに得た金で買った魔城を召喚する能力……その城には地下牢(ダンジョン)があったみたいで、それを攻略したジョン・ホークウッドは、三冊の魔導書を手に入れた。それが────」

「エトルスキ教典か。聞いたことがある。たしか運命と雷電を操る魔導書だったか。神のイカヅチともなれば、それは光速とは別次元の神速に至っているはずだ。回避は難しい。神秘の格も十分だ。当たればヘラクレスだろうが一撃で十二のストックを削られるかもしれない。──タルト、オレがどうなろうと一直線に突っ切って城を叩け」

「承知しました」

 

 刹那、閃光と共にタルトの姿が消えた。否、彼女の残像は、今まで立っていた地点に残され続けている。悪魔も死炎噴射で後を追う。川の上流まで昇ると、ふと古城の尖塔が見えた。塔の数は八本。さらに昇ると台地に差し掛かり、前方の開けて焦土化した高原にイタリア風の古城を発見。おそらく宝具で召喚した魔城だろう。城の前には兵士が並んでおり、その数は二百人。既に戦闘を開始しており、タルトの光魔法が連閃となって炸裂する。

 

「足止めを依頼されたからには、きっちり仕事は果たすぜ! 《辣腕将軍の白衣団(レ・アクート・カヴァリエーリ)》!」

 

 それは切れ者たる指揮官ジョン・ホークウッドが率いる白衣の傭兵団が二百人。歩兵、騎馬兵、弓兵の三種構成が基本となるが、現界の際に得た知識とイザボーからの提案で、銃手や砲兵、戦車隊や魔術師の部隊も用意されており、さらにその全てがQ(・)B(・)契(・)約(・)を(・)交(・)わ(・)し(・)て(・)い(・)た(・)。

 されどタルトには関係ない。魔法に掛かる前に殺せば良いだけ。魔法の射程に捉えられないよう動けば良いだけ。光そのものと化していくタルトを殺すことは、真の暗黒しか存在しない。そしてタルトは火炙りの聖剣を乾坤一擲、古城に向かって投げ飛ばした。

 

「おおおらりゃああっ!!」

「させるか! 一つ目の雷よ、邪悪なる聖女を穿て!」

 

 八つの尖塔が莫大な魔力を濃縮する。その魔力濃度が神代クラスに至った刹那、青緑の魔力は曇天を貫き、神なるイカヅチとなってタルトの頭上に着弾した。助太刀魔法によってタルトの頭上に転移した悪(・)魔(・)に(・)着(・)弾(・)し(・)た(・)。

 

「っ!?」

「なにぃっ!」

 

 全身黒焦げと化した悪魔は墜落。タルトは脇目こそ振ったが命令通り光魔法を行使する。投擲した火炙りの聖剣は古城に突き刺さり、瞬間、壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)を用いて爆裂。業火の灼熱は瞬く間に古城を破壊して焼き尽くし、一切の瓦礫を風化させて塵に変えた。刹那、タルトが奮うクロヴィスの剣が、ジョン・ホークウッドの霊核を貫いて光魔法で体内から圧縮爆発。雲散霧消と化したジョン・ホークウッドは消滅。そのまま地下牢(ダンジョン)に繋がる地下階段に突入する。

 

 そこは迷宮だった。TP魔法界における古代の魔術工房とも言える構造。聖堂教会からの弾圧を避けるために造られた秘密の地下室は、アステリオスの迷宮宝具ほどではないが、古代の魔獣がそれなりに跋扈しており、薄闇の魔力がステータスを軒並みダウンさせてくる。

 

 刹那、背後から殺気を感じたタルトは閃光回避。即座に殺気を放っていた者を殺すが、そのサーヴァントが兎の白仮面を付けていることを知るなり、殺害は無意味と悟って先へ進む。

 

「《魔女化転生(ラピヌ・オ・サンテュ)》」

 

 それはラピヌの蘇生宝具。生前は魔女化しても魔法少女に戻る不死身の魔法だったが、強引なサーヴァント化に伴う召喚により、シンプルな不死の概念へと改造されている。攻撃宝具としての魔法も組み合わさっているのか、無数の兎仮面が浮遊し、目元から魔力光線を解き放つ。そこに魔眼スキルも組み合わさり、命中した場合、判定次第で魔法少女の変身を強制解除させる。

 しかし光の速さには追いつけない。途中途中で立ちはだかる魔獣を鏖殺するタルトは広間に出る。

 

「《死の舞踏(ラ・ダンスマカブル)》」

 

 それはコルボーの疫病宝具。即効性の黒死病を引き起こす黒羽根を超広範囲に撒き散らす無差別生物兵器。判定には魔力と幸運を必要とし、知名度補正でその全てがAランクオーバーのタルトはゴリ押しで閃光。コルボーの霊基を切り裂く。刹那、それこそが狙いだったのだと言わんばかりに四方向からの同時攻撃が炸裂。ラピヌの魔眼投射、ラムの魔剣ビーム、フレシュの強弓、そしてミヌゥの宝具《九尾の猫(シャ・ア・ヌフクゥ)》が爆裂する。刹那、閃く光の刃がまばたきする間に四者を殺し、そのマスターである天音姉妹の影から現れたリズが短剣を投擲、ソウルジェムを砕き割る。

 

 その時、広間の柱の陰からアリナ・グレイが両手を挙げて出てきた。

 

「待った、アリナは降参するんデスケド。光の速度で動くサーヴァントとか、チートすぎて話にならないヨネ。さすがに灯花とねむには、荷が重すぎる計画だったってワケ」

「それは間違いないでしょうね。無数のサーヴァントを召喚して支配して世界を征服するだなんて、無謀です」

「……ま、デモ。そうしないと魔法少女が救われないっていうのが、灯花の考え方みたいダカラ」

 

 刹那、青い光が輝く。叛逆助太刀の行使によって、アリナの傍らに悪魔が降り立った。

 

「甘いな。目的は正しいが、手段を致命的に間違えている。それに加えて私欲まみれだ。魔法少女救済と謳うには余分(世界征服などの野望)が多すぎる。まぁ、フェリシア級のガキンチョどもの問題は近々解決するとして……タルト、リズ。アリナは殺すな。どうやら魔法英霊が魔女化しないよう、地球全体に結界魔法を張っているらしい」

 

 悪魔は、神浜市外で魔法英霊が一騎も魔物化しないのはおかしいと思っていた。そこで今しがたアリナの心情を直感したところ、序盤の時点で支配したサーヴァントに自害を命じて魂を回収し、その魔力リソースを使って地球全体を結界魔法で覆うことに成功したようだ。そうなると穢れを回収する幸福の魔女は、今ごろ、とんでもない規模に膨張して羽化しているに違いない。おそらく現在の神浜市では、七海やちよが九百兆を超えるワルキューレを相手にしながら、三騎士が完全形態となった幸福の魔女と死闘を繰り広げているに違いない。

 

「だからふたりはそのまま先へ進め。──アリナ、降伏したなら肩を貸せ。オレはもう歩けない」

 

 アリナはやれやれと両手を広げて首を振ると、気だるそうに悪魔の腕を首に回す。

 閃光、タルトは先へ進む。そして最奥部の大空洞に到着した。前方には断崖。その奥には白き輝きを放つ大聖杯が鎮座している。その手前には金髪の王妃と里見灯花。

 

「っ……にゃー!! なんでこうなるの!? なんでタルトがそっち側に付いてるわけ!? 私の作戦は完璧だったのに!」

「あぁ。完璧に負ける作戦だったな」

 

 叛逆助太刀魔法で里見灯花の背後に現れた悪魔は晴拳銃を発砲。里見灯花のソウルジェムの一部を削るようにして、破片が飛び散る。

 

「ぁ────」

 

 里見灯花は意識が明滅して足元がふらつく。そして倒れた。

 イザボーは何もしない。ただ流し目でマスターの最期を見届ける。

 

「ソウルジェムを少し削っただけだ。完全に死ぬには、あと四割削る必要がある。あと一割削れば自我が錯綜し、もう一割削れば廃人となり、もう一割……つまりソウルジェムの四割が削れると自我を失う。五割まで行ったらソウルジェム全体の比重が保てなくなり完全崩壊する」

「……が……ぁ……こ、ころし、な、さい……いざ、ぼぉ……」

「里見灯花。どうやらオレは抑止力に動かされているようだ。おかげでギルガメッシュの言う通り、体力の配分を間違えた。本来ならエミヤと戦った時に、オレは生命力(まりょく)の使い過ぎで気を失っているはずだったんだ。今までこんな激しい長丁場な戦いを経験したことがなかったから、体力と意識が保つのは、てっきり逆転勝利の加護のおかげだと勘違いしていたんだ」

「ころ、して……あく、まを、ころ……」

「といっても、ここまでの戦いは全て無駄じゃなかった。ただ少しばかり、疲れるだけの確定事項。これからお前を殺し、イザボーをタルトが殺し、大聖杯を使って全てを解決したあと、オレは眠りにつくだろう。そして目が覚めたあと、日本から全力で走ってきたエミヤと、夕方のレーヌ川で死闘を演じることになる。それが何日後かは不明だがな」

 

 悪魔は銃口の先を里見灯花のソウルジェムに合わせる。

 

「これは確定した未来だ。そのあいだオレに報復心を燃やして、また何かを計画するんだろう。それは構わない。だが二度と同じ真似はするな。お前は魔術協会に喧嘩を売ったんだ。ほかの魔法界にも喧嘩を売った。そろそろボンゴレの魔法少女特殊暗殺部隊(ヴァリアー)も動き出し始めているはずだ。オレが今ここで、このフランス聖杯戦争を解決し(・)て(・)い(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)、マギウスはそいつらから完膚なきまで叩き潰されていたんだ。今回はオレに借りを作った形になる。この借りは次の戦いで返してもらうぞ」

 

 ────悪魔(オレ)を捕らえるという形でな。

 

 そう心中で呟いた悪魔は引き金を引いた。里見灯花のソウルジェムが木っ端微塵と砕かれる。イザボー・ド・バヴィエールは高ランクの単独行動スキルを持つため、マスターが不在でも宝具を使用可能。なんなら既に彼女は受(・)肉(・)している。支配英霊の魂を使って受肉を果たしたのだ。

 

 悪魔は、タルトやイザボーの心情を直感する。イザボーはラピヌの願いによって不死身の加護が備わっている。それは逆転勝利とは似て非なる不死身の呪い。故に、まず殺すのは不可能だ。しかし抜け道はある。ラピヌの魔力係数では、限定的な不死性しか授けられなかった。すなわちイ(・)ザ(・)ボ(・)ー(・)は(・)魔(・)法(・)少(・)女(・)に(・)殺(・)さ(・)れ(・)な(・)い(・)という不死性である。これは魔法少女以外の攻撃ならば殺される、ということ。

 しかしイザボーはサーヴァント化し、英霊の魂を使って霊基を補強したことで、その不死性が強化されている。魔法少女だけではなくサーヴァントにも殺されない不死性を獲得した。その不死性は対粛清防御に匹敵する堅固な概念を誇る。

 

「……」

 

 ならば悪魔が殺すか? 悪魔は人間だ。魔法少女でもサーヴァントでもない。しかし逆転勝利魔法を使っても、フランスにあって最大の知名度補正を得たイザボー・ド・バヴィエールを殺すのは至難の業だろう。ならば、やることはひとつ。

 

 悪魔は英霊の魂を煮詰めた匣を開匣。叛逆施術で指向性を定める。

 

「────極大魔力(令呪)を以て命じる。タルト、受肉しろ」

 

 その判断を読んでいたイザボー・ド・バヴィエールは、懐から白い珍獣を取り出して、インキュベーターと大聖杯、双方に願いを告げる。

 

「────インキュベーターよ、妾を今一度、魔法少女にさせよ! しこうして大聖杯よ、妾に真の暗黒を! かくして魔法英霊を超越する、冠位級の霊基霊核を! 妾は手に入れるぞ……世界を(モール)、死を(モール)────!」

 

 光を飲み込む暗黒。それすなわち黒桐の螺旋(ブラックホール)。幸福の魔女と魔力パスで接続していたのか、超抜級の瘴気がイザボー・ド・バヴィエールの中に奔流となって流れ込む。そしてタルトと大聖杯の白くきらめく極光。刹那、リズが真名を解放する。

 

「────光あるところに影うまれ、光強まれば影強まる。ならば影あるところに光があり、影強まれば光強まるは神秘の道理。光と影は表裏一体、なればこそ切磋琢磨と高め合う。光吸い込む黒桐なんて眼中にない。影(私)はタルト(光)の強さを相乗する、希望の匣(はこ)になるのだから! 《妄執黒影(パンドラ)》────」

 

 苦境と好機は闇と光のように表裏一体。窮地であればあるほど逆転にふさわしい反撃の術策を用意できるカウンター宝具。それは光無きところに顕れる影の孤高を描いた、鏡写しの陰陽螺鈿(ドッペル・ウィッチ)。

 

 暗黒閃光時空爆縮。受肉したタルトはイザボーの不死性を突破し、冠位級の霊基を得たイザボーはタルトにとって決してかなわぬ格の違いを見せつける。そこにリズのカウンター宝具が発動し、タルトは最終(ファイナル)形態に移行する。

 

 悪魔は霊基情報を確認。真名、ジャンヌ・ラ・ピュセル〔タルト/Fate Ver.〕────

 

 大空洞(ダンジョン)の天井が爆発する。地殻と山中を貫いて空へ、曇天と大気圏を貫いて上昇しつつ死闘を繰り広げるイザボーとタルトは、暗黒の一撃、ユーラシア大陸を瞬く間に吸い上げ、極光の一撃、星を揺るがし覆い尽くす。イザボーは黒桐を魔弾として発射し、それを躱したタルトの背後にある火星が落ちたガラス瓶のように砕け散る。タルトの極光斬撃は時空断層を創り出し、太陽を背にして目くらましを狙ったイザボーは回避、太陽は両断されて超新星爆発に等しい大爆発を引き起こし、太陽系は崩壊した。

 

 悪魔は開匣。数百騎に及ぶ英霊の魂を分解した超抜級の魔力をアリナのソウルジェムに流し込み、結界を無敵化。太陽の灼熱で黒焦げとなるはずだった地球を守り抜くが、その代償としてアリナのソウルジェムが砕け散った。刹那、全世界の百京を優に超す魔法英霊が一斉に魔女化。地球は跡形もなく粉砕された。

 

「────《女王の抱擁(エクロジオン)》────」

 

 それはイザボー・ド・バヴィエールの対国宝具。一国に死の呪いを撒き散らし、人間ならば一瞬で存在が消失し、その人間が存在したという記憶がレンジ内すべての対象から消え去る。それをタルトに向かって解き放った。

 

「A vaillans Drapeau riens impossible(我が果敢なる旗に不可能なし)────主なる光よ、浄火の騎士は斯(か)く燃へ昂(もえあ)がりし! 《天国の扉(ラ・ポルトゥ・ドゥ・パラディ)》────ッ!!」

 

 対するタルトは、第一宝具・第二宝具・第三宝具を同時多展開。其は終局の一撃。天界の光を借り受け、聖なる武装に主の加護を宿し受け、最強の一撃を以て対象1人を完全に撃滅する、浄化の劫火。

 

 それは暗黒呪権と極天聖光の激発。太陽系を超えて天の川銀河を粉砕する超火力のぶつかり合いは────極まった不死性と極まった主の威光により決着がつかない。銀河系を超えてそのまたさらに向こうの宇宙を戦場とする両者は、熾天を愉悦して苛烈なる激闘を窮め尽くす。

 

 一方その頃。悪魔は地球があったであろう座標の宇宙空間にて、逆転勝利魔法を掛けたために無事だった大聖杯の傍らに浮かんでいた。地球爆発時、太陽系の外まで吹き飛ばされずに済んだのは、雨のマーレリングによる純度100%の鎮静効果のおかげである。そして雲の炎の遮断で全身を覆い宇宙服を作成していた悪魔は、小さな結界魔法を足場にして大聖杯に近付く。

 

 大聖杯は霊体でなければ触れることができないが、その問題は叛逆魔法を使えば解決する。それより悪魔は思案する。願いの内容は決まっているが、大聖杯の中身(性格)次第で、願いの指向性が変化するのだ。願う言葉を曲解して受け取られたらたまったものではない。直感するに大聖杯の中身は、どこにでもいる自然霊を擬人化させた代物のようだ。叛逆魔法を織り交ぜた嵐の炎による分析効果も走らせたが、擬人化の際に年代物のアゾット剣を用いたようで、要は付喪神のようなものであると分かる。取り立てて不審な点は見当たらないが、万が一ということもある。悪魔は叛逆施術を行使。大聖杯と接続し、柊ねむが願いを叶えるためにセットしておいた《具現魔法》を発見。それを用い、自らの意思(ねがい)を具現化(かなえ)させる。

 

「────……大聖杯を破壊した事実はそのままに、世界を元に戻す(全てを無かったことにする)。さらに全ての生命と物質から、今回の事件の記憶を消し去る。ただしマギウスとその翼、神浜市の魔法少女、ほかオレが認めた者は記憶消去の例外とする。……────さぁ叶えてくれ、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの魔術回路から製造された、至極完璧な模造聖杯よ!!」

 

 

 

     『 』

 

 

 

 かくして扉はひらかれた(そうして願いはかなえられた)。

 

          †

 

 ────────

 ────

 ……

 

 5月20日。午前2時頃。深夜のフランスはレーヌ川にて。

 赤いりんごの被り物を頭にかぶる少年は、ゆったりと冷たい川に流されていた。

 

「あぁ~どんぶらこ~どんぶらこ~。……ハァ……きれいな夜空だなぁ~……いやぁ、日暮れの帰りに森の中で、狼の群れに襲われた時はマジで死ぬかと思ったぁ……でも川に飛び込んで逃げ切ったから、めでたし、めでたし!」

 

 ただし、どうやって川から上がるか、という問題が現在発生中である。

 

「あだっ!?」

 

 それも川から露出する大岩に頭をぶつけたことで解決した。りんごの被り物の上からたんこぶを生(・)や(・)し(・)た(・)少年は、涙目で痛がりながら大岩の上に登り、浅瀬まで続く点々とした岩の上を次々と飛び越えて陸地に戻る。

 

「ふぅ。死ぬかと思った! あ~~~~~、どっこいしょ~どっこいしょ~」

 

 そのまま鼻歌を歌いながら森に入る。ふと林の先から人の声。不審者と思った少年は草陰に身を潜めて様子をうかがう。林冠の下、月光を浴びるは金髪の少女。まさに聖女のような美しさを光として放つ姿に、少年は(怪しさが天元突破しました)と思う。しかし同時に羨ましいと思った。なぜならその美少女に膝枕されている男がいるのだ。全身傷だらけで今にも死にそうな男は、深い眠りに就いている。そんな男に、少女は語りかけた。

 

「ふぅ……これで世界は救われました。マスターのおかげです。ただ、まさか本当に“聖杯戦争を無かったことにする”とは……しかしこれでマギウスは、今回の失敗から学び、二度と同じマネはしないはずです。そう願います。仮に、またマギウスが同じことをするなら、受肉したこの私が天誅を下します!」

「私も協力する」

 

 ふと、どこからともなく金髪の少女以外の声が響いた。それは金髪の少女の足元、否、影の中から聞こえたような気がした少年は、おっかなびっくりと全身を震わせる。

 

「ただし今は、マスターの安全を考慮する必要があります。彼は心身ともに極めて疲弊しており、生命力も枯渇寸前。このままでは一生目覚めないかもしれません。いったいどうすれば……さすがに、こんな人里離れた山奥の森の中で、ずっと悩んでいるわけにもいきませんし……」

 

 その時、金髪の少女は赤ら顔でなにかに反応する。

 

「んっ! …………す、すごい、ですね……触れているだけで、どんどん魔力が吸われていく……聖杯からの知識によると、魔力発作? というもののようだけど……彼が魔力を吸ったところで、それは毒素にしかならないようです。ならば魔力を持つ私たち魔法少女、あるいはサーヴァントが看病するわけにはいきません。近くに誰か人間が住んでいるなら、その方にマスターの看病を頼みたいのですが……」

 

 そう言って金髪の少女は、ふと少年の気配に気付いた。おそらく幻術のたぐい。おかげで気付くのに時間が掛かった。害意はなさそうなので安心する。そして金髪の少女は、少年が隠れている草陰に向かって、にっこりと微笑むと────その姿を黄金の粒子に変えて霊体化した。というより、リズの影魔法からなる気配遮断スキルを借りての存在抹消である。

 

「わわっ! お、おばけぇ~!?」

 

 指さす少年は尻餅を搗く。そして少年は、一緒に暮らすおばあちゃんに言われたことを思い出した。このあたりには魔女がいる。魔女は男の精気(生気)を吸い取るため、見かけたらすぐに逃げろ、と脅されていた。まさかそんなのはホラ話だろうと思って夜遊びしていたが、現に目の前で人が《光》となって消え去った。魔力がどうとかも話していた。

 

「あわわ……逃げろ逃げろ……!」

 

 少年は当たり前のように、倒れている男をほっぽって逃げ出そうとする。すると少年の影が急に反対方向に引っ張られた。自分の影に引っ張られた少年は、何が起きたのか分からず転ぶ。

 

「あだっ!」

「倒れている男を助けないと呪うぞ」

「ひぃいいいいい!?」

 

 またどこからともなく少女の声が響いた。今度は自分の足元の影から響いた気がした少年は口から魂を吐きかかる。それでも逃げなければ呪われると思い出し、必死に倒れている男をおんぶして「すたこらさっさ!」と逃げ出した。

 

「おばあちゃーん! たすけておばあちゃ~ん! 行き倒れ見つけたー! そんで助けないと呪われるってお化けに言われたぁああああ!!」

 

 少年は叫びながら家路に着く。そんな孫の声を聞いた老婆は扉を開けて「あらあら」と行き倒れの青年を心配し、家の中に招き入れた。

 

          完

 

 

 

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