アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
刀剣アイドル史乃沙優希のライブが盛況の内に終わる。会場は
先ほどまでライブ会場を行っていた大広場。遠目には逆三角形の巨大建造物・コンベンションセンターが見える。その道中で悪魔の背中を発見。二人は声をかける。そして挨拶もそこそこに──悪魔から「存分に息を抜け」と言われたのもあり──祭りを思う存分に楽しむため、多種多様な露店が並ぶ通りに駆け出した。
†
一方その頃。鹿目まどかと暁美ほむらは、広場のベンチに座って休憩していた。背後は海。波打ち際のベンチ。コンクリートブロックの高台外周に設けられた柵。そこから下を覗けば、海岸に多数のテトラポッドが設置されている。波が寄せ合う音。強めの潮風。色を濃厚にし始めた夕焼け。休憩場所としては多少不慣れな場所だが、普段と異なる気分にさせてくれる波打ち際のベンチは、二人の談笑を華やかなものにさせた。
そんな折、三人分の飲みものを買いに出ていた美樹さやかが、グロッキーな顔で戻ってくる。鹿目まどかと暁美ほむらはいったいどうしたのかと聞けば、美樹さやかはやつれた顔で一方を指さす。その先には、なんと。
────上条恭介と空穂夏希が、手をつないで歩いていた。
二人とも笑っており、とても楽しそうだ。どこからどう見てもデートである。それ以外の何ものでもない。
「あっ……」
「……えっと……」
「────言うな! 何も言わんでいい……正直来ているとは思っていた……だからなるべく会わないよう注意していた……だが運命とはやはり残酷……乙女の傷心が癒えてきたであろう頃に、神はなぜかくもこのような仕打ちをなさるのかぁ!!」
失恋。心のひび割れに追撃の一発が突き刺さったことに悶絶する美樹さやかは、太陽に熱せられて潮風に冷やされたコンクリートブロックの上でもんどり打つ。そんな彼女の語り口と奇抜な動きを見ていた鹿目まどかは、こっそりと暁美ほむらに耳打ちした。
「なんか、さやかちゃん……早乙女先生みたいになっちゃったね……」
「そ、そうだね……」
「聞こえてるぞまどかぁ! うぉおおおおっ……今なら早乙女先生の気持ちがわかるかもしれないぃいいい……それは決してわかりたくなかった、失恋の味ぃ……というわけで、お二方はどうぞメロンジュースとサイダーを……あたしは、もう、だめだぁ……────ガクッ」
美樹さやか、撃沈。これはしばらく立ち直れそうにない。鹿目まどかと暁美ほむらは倒れた彼女をベンチに戻し、休憩と談笑を続けることにした。美樹さやかの口から魂のようなものが漏れ出る中、鹿目まどかと暁美ほむらは慣れたように、普段通りの時間を過ごす。
†
海が望める広場。そこには様々な公共用物が存在する。なだらかな草地の斜面。タイル張りの橋。遠目には、深月フェリシアがかつて暮らしていたタワーマンションが立ち並び、赤レンガの建物や南凪水族館、テーマパークの巨大遊具が目立つ。特に観覧車の中心には巨大なデジタル時計が設けられており、現在時刻の『16:01』を赤い電光で表示していた。
そこに一人の少女の姿がある。名を神名あすみ。人混みの中で佇立する少女は、じっと《チョコスイカバー》の看板を見つめていた。
「買ってやろうか?」
「え、ほんと? ────って、あっ!?」
神名あすみの背後に、突として悪魔が現れる。いつの間に接近していたのか。恥ずかしいところを見られたと顔を赤くする神名あすみは、心の中で悪態をつきまくる。
「相変わらず暴言のボキャブラリーが凄まじいな。つってもまだ子供なんだから、ワクワクして何が悪い」
「別にワクワクしてねぇしっ!! それにテメェこそガキだろうが!」
「楽しんでいるようで何よりだ。────おじさん、チョコスイカバーひとつ!」
「……っ!!?」
悪魔は五百円を払ってチョコスイカバーを受け取り、ついでにとなりの屋台のわたあめも買う。そして神名あすみの前にしゃがみこむと、両手に持ったお菓子を「ほいっ」と差し出した。
「っ……」
「気に食わなくて結構。確かに、こんな魔法少女殺しの悪童に目をかける奴は、オレくらいだろうさ。でもな、お前も死なせたくない一人なんだよ。あすみは、まだ子供なんだ。もちろん無責任に“やり直せる”とは言わない。天涯孤独の身を活かして好きに生きればいい。お前が精神攻撃魔法で誰かを魔女化させようとすれば、何度でも止めるだけだ。ストレス発散できなくてお前が魔女化しようものなら、こうして相手して可愛がって────」
「いちいち説教うっせぇんだよ死ね糞が! ロリコンも板についてきたなペド野郎……テメェの妹と笹川京子が泣いてるぞ!」
「────オレを使って発散してもらえれば、それでいいさ」
神名あすみは唾を吐いて駆け出す。悪魔はため息一つ。立ち上がるなりきびすを返し、魔法少女たちが集まる広場に戻っていった。
†
広場に戻った悪魔は、ふと見覚えのある二人の友人を目にして、少し心が和らぐ。
「……よぉ。隼人、むく」
「っ! 十代目悪魔様! お変わりないようで……ご無事で何よりです!!」
「聖杯戦争、大変だったな! それはともかくどこ行ってたんだ?」
「探しててくれたのか? ちょっとみんなの様子を見てまわってたんだ。あとひとつやることがあるから、オレのことは気にせず、祭りを楽しんでくれ」
「はいっ! それで、悪魔様。例のブツは開発完了しています!」
「
「……そうだな。なら付いてこい。これからクジ引きをやる」
夕方の広場。とある露店の前に行列ができている。はっぴを着た店員が、盛大に抽選会を催しているのだ。八角形の抽選器。取っ手をガラガラと回すと、色のついた玉がポンと出てくる。抽選会に参加するためには抽選券が必要で、栄区から南凪区の通りに並ぶ露店で五百円以上の買い物をすると、その抽選券がもらえる。
悪魔は先ほど、神名あすみのために五百円のチョコスイカバーを購入し、一枚の抽選券をもらっていた。悪魔は隼人から魔力をもらうと、笹川了子のハーフソウルジェムリングに魔力を回す。笹川了子の固有魔法は《幸運》……ただし由比鶴乃と比べると非常に限定的で、それゆえに超強力。
「悪魔様……いったい何を当てるつもりなんです? ……そういえば、あの芝生頭……妹が欲しがった抽選のぬいぐるみを当てるために、インキュベーターに願ったとか、バカなこと言ってたような……だとしたら────」
「先輩の固有魔法は《幸運
「そういうことだ」
悪魔は列に並ぶ。美国織莉子の未来視によって、自分の番が回るまで、誰も最高峰の商品を当てないことは保証済み。仮に何かしら不備が起きて当てても、幻術の暗示をかけてなんとかする。しかし未来通りに物事は進み、悪魔の番がやって来た。笹川了子の《幸運(クジ引き限定)魔法》を行使。抽選器をガラガラと回し、ポンッと────虹色の玉が出てきた。次の瞬間、店員の一人が鈴を鳴らしまくり、喧騒で賑わう広場全体に轟き渡る大声で拍手喝采を送る。
「おぉおおおおおお当たりぃいいいいい! 一等賞を超える超・一等賞を当てたお客様には、なんとぉおおぉおぉ! 《タダで飲み食いできる、一泊二日の豪華客船チケット》を贈呈いたしまぁああああすっ!!!!!!」
『うぉおおおおおおおお!!!!!!』
「さぁどうぞお客様! なおチケットの裏に記載されている通り、お客様のお連れ様は無制限でございます! 家族と言わずご友人ともお越し下さい! 詳細はパンフレットをご覧に! QRコードを読み込めば、公式ホームページにさらなる詳細が載っておりますので! どうぞ、神浜フェスをお楽しみください!!」
周囲の客は祭りの熱に浮かれているのか、大歓声が上がる。悪魔はクールな風貌を崩さず、当たり前のように店員からチケットをもらうと、ヘッドホンを開匣。頭に装着して発散念話を送る。
(────神の羽たちに告げる。六時までに全員、オレの下に集合しろ。豪華客船に乗り込むぞ。今夜はそこでディナーだ。寝泊りもできるから、今のうちに家族に連絡しとけ。無理そうならオレに言え。なんとかする。
そしてディナーのあとは作戦会議だ。それも終わって豪華客船で一泊したあとは、作戦については頭の片隅に残しつつ、海水浴でもして思う存分に最後の神浜フェスを楽しめ。以上。────繰り返すが、二時間後に集合だ。遅れてきた奴は乗せてやんないぞ)
悪魔はヘッドホンを外して匣の中に戻す。すると水野むくが、悪魔の肩に手を回して笑った。
「ははっ! すげぇな悪魔! 超・一等賞だってよ!」
「あぁ。そうだな」
「ったりめぇだろうが野球バカ! 魔法を使ったんだからよ! ────しかし悪魔様! まさかそこまで魔法少女たちのことを考えているとは、お見それいたしました! さすがです!!」
「隼人たちも一週間前から、ずっと脱出魔法装置の開発に取り掛かっていたから疲れてるだろ。今日明日を使って羽を伸ばしてくれ。休むことも任務だ」
それに水野むくは「それは悪魔もだろ?」と返し、シトピ隼人は「はいっ!」と返しつつ「ですが悪魔様もお疲れでしょうから、充分に休まれてください!」と頭を下げた。
そこで水野むくが笑う。
「でもさ! 一人のチケットで連れが無制限なんて、なんか変な客引きの仕方だよな?」
「あの店員の心情を直感するに。豪華な景品は用意したいが、あまり予算は削りたくない。その折衷案として、こうなったらしい」
「なるほど……急に決まった豪華客船。家族は連れてこられるとしても、友人までには手がまわらない。つまり、この一泊二日には、あまり客が来ないだろうという船側の狙いがあったってことか。せこい商売しやがるぜ……」
「へぇー。まぁ食べ物とか無料みたいだからさ! しょーがねーんじゃねぇーかな?」
「そうだな。まぁ、もう船側の狙いは外れて、オレたちは百人規模のただ乗りをするわけだから……多少罪悪感はあるが。しかし向こうもプロだ。表立ってオレたち客に悪態をつくことはないだろう」
「へっ! そういうことなら、俺は一番高い、最高級のフルコースを頼んでやるぜ!」
「フルコースかー! 寿司とかも出てくんのかな? あ、そうだ。なぁ悪魔、豪華客船ってほかに何があんだ? バッティングセンターとかあんのかな!?」
「あるみたいだぞ。ほら、パンフレットを見ろ。映画館にゲームセンターまであるぞ。どれも遊び放題だ」
「うおっ、プールは当然として、サーカスまであるぜ! これは俄然、楽しみになってきた!」
悪魔、隼人、むくの三人は、一枚のパンフレットを回して駄弁りながら歩く。
「悪魔みっけ!」
「ボス……集合は、早すぎても……いい?」
そこに、ランボを抱っこするジュリー凪が現れた。悪魔は凪に、黒江たちとはどうしたのかと雑談。普通に楽しんできたが、悪魔の集合命令を聞いて切り上げてきたらしい。悪魔は「そのまま遊んでも良かったのに」と返すが、凪は休憩も兼ねていたからと返す。どうやら祭りに参加するのは初めてらしく、あまりの人の混雑ぶりに目を回して疲れてしまったようだ。
ならばと凪と悪魔がベンチに座り、柵に腰掛ける隼人とむく。彼らは凪の酔い覚めも兼ねた雑談を始める。ランボはクジ引きで当てた紙飛行機を投げて遊び始めた。やがて会話の内容は、今も並盛町で留守番している笹川了子と、孤高の魔法少女たる恭弥アーデルハイトに関するものへと移る。
「でも先輩たちも残念だよなー。豪華客船、なんとかして来れねぇのかな?」
「芝生頭は“京子の大好きな町を守るのが俺の使命だ!”とか言って、どうせこねぇだろ。恭弥もそうだぜ。群れるの嫌いなんだしよ」
「……それに、雲の人は……豪華客船くらい、日常かも……」
「恭弥はお金持ちだもんね! たまに遊びに行くとぶっ飛ばされるから、やっぱ金持ちは悪人だ!」
「……ランボ。お前、恭弥の家に行くことがあるのか……? 本当に怖いもの知らずだな……」
†
悪魔たちの雑談休憩。いつの間にか時計の針が回り、集合時刻の夜六時が迫ってきた。
夕暮れの海岸公園。水平線に日が沈みかかる中、続々と魔法少女たちが集い始める。
悪魔はベンチから立ち上がると死炎噴射で上昇。電灯の上に降り立ち、全ての魔法少女が見下ろせる位置で話し始める。
「よく集まってくれた。まずは礼を言う。────さて、各々マギウスに対する思いは複雑で、それぞれ目的も異なるだろう。だが一致しているのは打倒マギウスの旗印。そこで作戦会議と親睦会、さらには戦いの終わりと次なる戦いに備えた休息のために、一泊二日の豪華客船ツアーを用意した。これはオレの仲間である、並盛町の笹川了子という魔法少女が用意したチケットだ。道場で会ったことがある奴もいるだろう。ありがたく使え」
一泊二日の豪華客船。そのワードを聞いて浮き足立つ魔法少女たち。その心を直感する。
「飲食は基本無料だ。神浜魔法少女SNSに、豪華客船についてわかるQRコードをアップしている。まだ見てない奴はあとで確認しとけ。そして、船に乗り込んだらドレスコードに合う服に着替えて、すぐディナーの時間だ。その後、集会室を借りて作戦会議を執り行う。ほかの細かいことは、七海やちよ・都ひなの・和泉十七夜もといエッダに質問しろ。まぁ、黒羽根が周囲に多くて盗み聞きしてるから、質問してもはぐらかされるだろうがな。とりあえず今は、なんのドレスを着るか、ディナーのコースは何にするかを考えとけばいいさ。────じゃ、行くぞ」
電灯から飛び降りた悪魔は軽やかに着地し、南凪区の港に停泊する豪華客船に向かって歩き始める。それに追随する魔法少女たちは、その半数が旅行気分で心が沸き立っていた。
†
夜の豪華客船。チケットを持った一人の少年は、百人を優に超す少女たちを連れて現れた。船のスタッフたちは驚くが、客に対して失礼があってはいけない。超特急でディナーの品数を間に合わせるため、裏側では慌ただしく奔走する。そんな焦る気持ちを大量に直感した悪魔だが、仕事はきちんとこなす意思があると見て安堵。堂々と船に乗り込む。
それに続く魔法少女たちは、自分たちが場違いの存在ではないかと思う者もいるが────豪華客船に足を踏み入れ、スタッフに案内された先で……少女たちの目はキラキラと光り輝く。
しかし魔法少女たちは思う。こんなの、一時間半で決められるドレスの量ではない、と。
†
一方、男の方は楽だった。選べるのはスーツのみ。悩むのは色くらい。
悪魔は自前の黒スーツを開匣して着用。フランは窮屈なスーツを嫌がり、幻術でスーツを着ているように見せかける。フゥ太は慣れているのか、子供用の蝶ネクタイ付きスーツを着用。和泉壮月は不慣れながら、髪の色より少し濃い灰色のスーツを着てみた。
そこで悪魔は霧の炎を灯し、スタッフの目や監視カメラをごまかして、ある少年を呼びかける。
「……バジル。いるのは分かってる。出てこい。今夜はお前も楽しめ」
「────さすがですね、悪魔殿。しかし拙者は、悪魔殿をお守りする任務がございますので……いえ。聖杯戦争ではなんのお役にも立てなかった拙者が護衛など、出過ぎた話でした」
「気にするな。それにお前の任務は護衛というより監視……いや、観察の方が近いだろう。なにはともあれ無礼講だ。肩の力を抜いて、お前も年相応に楽しめ。オレがそばにいれば任務をこなしているも同然だろう」
「……御配慮、痛み入ります」
バジルは、胸元に刺した青いピンがワンポイントの黒い燕尾服を選んで着用。
悪魔は、身内が一名増えたとスタッフに報告する。
「ねぇツナ兄! みんな、どんなドレスを着てくるのかな?」
「へー。フゥ太はそういうの気になるんだー。ミーはどうでもいいですねー。早く美味しいもの食べてゲームセンターに行ってみたいですー」
「はは。そうだな。じゃあ外に出てみるか。行くぞ、壮月」
「お、おう! ……なぁ、俺のスーツ、変じゃねぇよな?」
男性陣はドレスルームを出て廊下に出る。すると、それぞれ似合ったスーツ姿のシトピ隼人と水野むくが、ちょうど女性陣のドレスルームから出てきた。
「悪魔様! とても似合っておられます!」
「ドレスとか股下がスースーするから、スーツがあってよかったぜ!」
「そうか。ドレスとか興味ないのか?」
「……いえ、興味がないといえば嘘になりますが、いつ敵襲があるか分かりませんから動きやすいものを、と考えているうちに、スーツに落ち着きました!」
「俺もだなー。動きやすいのが一番だろ。ハイヒールとか、たぶん転んで折るのが目に見えてっからさ! 弁償すると金かかりそうだし! 何かに引っ掛けて破いちゃうのも怖いしな!」
「なるほど。それもそうだな」
その時、女性陣のドレスルームの両扉が爆発。バズーカ砲で打ち破った白煙の中からランボが出てくる。
「やだもんね! ランボさんはこの牛柄のパジャマしか認めないもんねー!」
「なっ……! ゴラァ! このアホ牛! 悪魔様に迷惑かけんじゃねぇー! 牛柄のドレスくらいあんだろ! 俺が探してやっから、それで我慢しろ!」
ランボを捕まえた隼人はドレスルームに戻る。すかさずランボを追いかけてきた凪が、構築魔力で壊れた両扉を修復した。
「……はは! なんか賑やかになりそうだな!」
「……騒がしいの間違いだろ」
†
七時半頃。豪華客船のレストラン。その入口付近で悪魔は待機している。きちんと魔法少女たちが来るかどうか、全員の顔を確認するためである。そして一人ひとり似合ったドレスを着て姿を現し、悪魔と挨拶、魔法少女たちは続々とレストランに入っていく。なお店内は普通の客でも賑わっているが、やはり悪魔一行のせいか、年若い少女が多い様子。
そこへ五十鈴れんと綾野梨花が歩いてきた。
「うぅ……梨花ちゃん。やっぱり恥ずかしいよ……」
「えぇ~! 大丈夫だって! れんちゃんバッチリかわいいよっ!」
「でも……こんなに脚が見えて……ドレスなんて着たの初めてだから、どうしても不安で……」
「そっかぁ。そんなこと言ったら私も、こんなスゴいドレス着たの初めてだから、ちょっと緊張するけど……二人で行けば大丈夫だよ!」
白銀のドレスにユリの花を添えた五十鈴れん。
対するはラフな真紅のドレスに、赤いハイビスカスを髪に挿した綾野梨花。
どちらも脚を出しており、綾野梨花によって“ザ・カワイイ!”を追求したオシャレになっている。
「あ、悪魔だ! ねぇねぇ、れんちゃんのドレス、似合ってるでしょ?」
「あぁ。雪の妖精みたいだ。普段の魔法衣装は白い天使みたいだが、いつもと違う感じがあるのが、また別の可愛さがあっていいな」
「そ、そんな……」
「でっしょー!! 悪魔の言う通りで、れんちゃんはスッゴく可愛いんだから、もっと自信持っていいんだよ!」
五十鈴れんは照れるあまり耳が赤くなって俯いてしまう。そこで、ちょっとした反骨心を直感。それも可愛い反骨心だ。
「な、なら……悪魔さんは、梨花ちゃんのドレス……かわいいって、思いますよね?」
思わなかったら殺す。────とは露ほども思っていないが、不思議と五十鈴れんから圧を感じる。
「当然だ。梨花のドレスは対照的に、夏の妖精って感じだな。そのまま真昼のビーチに出ても通用する美しさだ。なんといってもハイビスカスがいい味を出している。香りも少し付けたのか? れん、梨花がナンパされて困ってたら助けてあげてやれよ」
「──……そ、れは褒めすぎだよー! えへへー。れんちゃん、そろそろ行こっか!」
「? う、うん……!」
綾野梨花は、自分が気合いを入れた香水のアクセントまで見破られて、それについて正面から褒められたことが少し照れくさかったのか、逃げ出すようにレストランへ向かう。悪魔は直感する。五十鈴れんの圧に負けたせいでもあるが、たしかに少し褒めすぎた。
(恋愛性質……つくづく厄介だな。そろそろ好感度調整をしておくか? いや……明日の夜には一律、下がる予定だ。あまり気にしなくてもいいか……)
そこに環いろはが現れる。淡いピンク色のドレス。アクセントの装飾品も豪華で、普段と違う雰囲気が漂う。
「悪魔さん!」
「いろはか。似合ってるぞ。しかし、なんというか……みんなソウルジェムの色に合わせたドレスを着てくるんだな」
「はい。なにせドレスがたくさんありすぎて……選ぶだけでもひと苦労でした。それなら、普段の魔法衣装と似ているものの方が、選びやすいし気楽かなと思って……たぶん、みなさんも似たような感じで選んだんだと思います。あ、だからといって手を抜いたわけじゃなく、いつもとは少し違う雰囲気のものを選んだんですよ? ほら、このアクセサリーとか、可愛いと思いませんか? ういが選んでくれたんです」
「あぁ。キレイだ。──ところでみんなは?」
「フェリシアちゃんのトイレ待ちです……お祭りで色々買って食べ過ぎちゃったみたいで……その報告に来ました」
「あぁ~……なるほど。──まぁレストランは十時までやっている。普通の客も多いし、少し遅れたくらいが人も少なくていいだろう。のんびりしてけ」
「はいっ!」
そう言って環いろはは、みかづき荘の面々を待つべく、悪魔の傍らに佇立する。悪魔は直感。何やら話があるようだ。さすがに人目のつく場所で口論は避けたい。だが環いろはは切り出した。
「……あの、悪魔さん。改めて聖杯戦争の時は、みんなを助けてくれて、ありがとうございました」
「…………」
「でも、その、ずっと前から疑問だったんですけど……といっても、割と前から同じ質問をしてしまっているかもしれないんですけど……やっぱり何度考えても分からないんです。────どうしてひとりで、全部解決しようとするんですか?」
「……別に一人で解決しようとはしてないだろ。だが強いて言うなら……また同じことを言わなきゃダメか?」
「戦力外なのは分かっています。でも私たちだって出来ることがあるはずです。悪魔さんの指示なら従います。それで少しでも、悪魔さんの負担が減るのなら……」
悪魔は嘆息。腰に手を当てて足を崩し、視線を逸らして不機嫌そうに佇む。
「なぜ一人で全てを解決するのか……か。いいだろう。答えてやる」
「え……」
「戦力外。危険な目に遭わせたくない。確かにそれも理由の一つだ。けどな。ほかにもある理由としては……オレが恋愛性質に対して過敏になっているから、というのも大きい」
「……!」
恋愛性質。それは叛逆魔法の副作用。叛逆魔法の効果を受けた者は、悪魔に好意を抱いてしまう。その効果の程度は人によってまちまち。だが、たまに悪魔に対する愛が重すぎる者が現れるという。
「故にオレは、基本的に信用してないんだ」
「……何を、ですか?」
「“誰を”にならないあたり、単に天然なのか、既に毒されているのか。わからないな────ハァ。そんなの……
悪魔は、環いろはの瞳を見据えて言い切った。そして向き直り、廊下の反対側にある窓。その外に広がる夜の海を見据える。
「普通に言えば恋愛性質。悪く言えば全身媚薬。恋する女の言葉には、必ずと言っていいほど裏がある。経験則だ。身に沁みてビビってる。超直感でさえ読み逃すほどの深い愛憎は、本当に恐ろしい。今じゃ鹿目まどかに対する暁美ほむらの想いがイイ例だ。ああいう“重すぎる愛”が、もし自分に向けられると想像してみろ。友達でも信じられなくなる。もっとオレのことは軽く扱ってもいいのにさ。命を賭してでも
「……悪魔さ──」
「もう一度言う。オレは今ここにいる全ての魔法少女が信用できない。特に環いろはと暁美ほむらは要注意だ。黒江と綾野梨花も兆候がある。……その点、百江なぎさは楽でいい。あいつはまだ子供だから恋心をよく分かってない。おかげで単なる“執着”で済んでいる。だが紅晴結菜って奴は最悪だ。今もどこかでオレを見ている。凄まじい恩讐を持ったストーカーだよ。まぁ悪い奴じゃないんだけどな? むしろイイ奴だ。一時は相棒として本当に頼りにしていたよ。……
「……っ!!」
「お前らにはそうなってほしくない。だから適切な距離感を保っている。その距離感が、なんでもかんでも一人で解決するような動きに見えているだけだ。考えてもみろ。本当にオレひとりでなんとかしようとしてるなら、こうして魔法少女を集めて作戦会議なんて開かない」
「……それは、そうなんですけど……」
環いろはは俯く。だがこれは大きな一歩だ。悪魔について、またひとつ詳しくなった。この調子で仲良くなり、仲間としての絆を深めることができれば、きっとみかづき荘は素晴らしいチームになるはずだ。そう環いろはは思う。少なくとも自分は恋愛について疎い。自覚はないが、他人から言わせればそうらしい。だから悪魔が心配するような事にはならないだろう。
「それはどうかな」
そんな心を直感していたのか、悪魔は失笑混じりにわざとらしく呟いた。
「っ! 悪魔さんっ!」
「単独行動が気になるなら、なぜフランには何も言わない? ただの仲間なら、あいつにも少しは目をかけてやれよ」
「もちろんフランくんにも心を開いてもらうよう頑張ってます! でも……おふたりを比べるのは、少し違うじゃないですか……」
「違うって、立場や状況が? それともオレだけ特別扱いってことか? 一見、自惚れとも取れる悩みだが……それだけ怖がってるってことで、これ以上はもう、あまり触れないでくれ。お前らの頭がイカれるところなんて、死んでも見たくない。本当にオレのことを思ってくれてるなら、ほどよい距離感をお願いする」
「…………」
そこで七海やちよたちが現れる。深月フェリシアは紫色のドレスを着ており、本来は子供用のドレスに付ける牛のアクセサリーを腰に垂らしていた。そしてなんともスッキリした顔で腹を叩く。
「はー! 出た出た!」
「こら、はしたないわよフェリシア。あなた黙ってたら美少女なんだから、レストランでは静かにしなさい。食べることだけ集中して。この際、フォークの扱い方とか、多少の粗相は見逃すから」
「えー。なんか今日のやちよはうるさいぞー!」
「家の中でなら別にいいのよ。でも今日は団体として来ているの。つまり、あなたが誰かに迷惑かけたら、ここにいる全ての魔法少女の責任にもなってしまうの。連帯責任ってわかる?」
「しらねー」
「あっそ。ならスタッフにはこう言っておくわ。体のでかい幼稚園児が一人混じってるから、何かあったら言ってくださいって」
「はぁ!? オレは中学生だぞー!」
「なら中学生らしい振る舞いを期待しているわ。もしスタッフから出禁を言い渡されたら、私は庇ってあげないからね」
「あーいいぜ! 別になんとも起きねーからさ!」
悪魔の前に深月フェリシアが通りかかる。そこで悪魔は、わざと深月フェリシアの肩にぶつかった。
「いてっ! おいどこ見て歩いてやが────」
「はい減点。オレがスタッフなら既にご退場願ってる頃だ」
「……」
「ただまぁ、やちよ。そんなに気にする必要はない。既にレストランではランボが好き勝手やってる。凪が幻術をかけて、周りの人にはなんでもないように見せているから。だからフェリシアも気楽に過ごせばいい」
「え、マジ!? やったー!」
七海やちよはため息をつく。
「ちょっと甘くない?」
「作戦会議する前に追い出されても困るからな。──じゃ、みんな行ってこい。いろは、どのフルコースも絶品らしいぞ」
「あ、はい……あの、悪魔さんは?」
「ちょっと飲みに行く」
そう言って悪魔は立ち去り、最後の客であるみかづき荘はレストランに入っていった。
†