※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【これは平和な戦争だよ】



【なんだ? 久々に好感度チェックか?】佐倉杏子

 

 月夜の下、海原の上。今ごろ三星級のレストランでは、豪華なディナーが振る舞われていることだろう。甲板に出た悪魔は、トレイを持って歩くウェイターに視線を配る。

 

「どうもこんばんは。こちらオレンジジュース、赤ワイン、白ワイン、ビールとなっております」

「……すみません。炭酸のジュースはありますか?」

「もちろんです。今すぐお持ちします。お味はどうしますか? ピーチ、アップル、メロンなど、一通りの果物は揃えてあります」

「じゃあ……オススメの赤い果物と、オレンジ色の果物を、それぞれ別々で、二本。一緒に飲みたい人がいまして」

「承知いたしました。失礼ながらお名前は?」

「青音ツナと言います」

 

 ウェイターは頭を下げると一歩後退。厨房に向かっていく。

 

「死んでも“沢田”って苗字は使いたくないのね」

「────織莉子」

 

 ふと美国織莉子が現れる。その傍らには呉キリカ。そして姿と気配を消しているが、妙な存在感を直感する。おそらくアサシンの天乃鈴音だろう。

 

「お前には関係ない」

「あれから私を脅して未来予知魔法を使わせまくったのに、いまさら赤の他人扱いはないでしょう」

「なんの用だ」

「一言お礼を言おうと思って。あなたがチケットを当てたあと、私たちの名前をスタッフに伝えてくれた未来を予知してね。まさかと思ってきてみたら、本当に船に入れるのだから驚いたわ」

「協力してくれたお礼だ」

「そう。──あ、そうだ。安心して。私は国を愛する女。この日本のために全てを尽くす。ひとりの男に尽くすほど、安い女じゃないわ」

「そうか」

「では、これからレストランで優雅な夕食があるので」

「────まて。まどかたちがいるレストランで食べるつもりか? せっかくの休暇なんだ。神経が張り詰めるようなことはしないでくれ」

「冗談よ。私たちがいることはバレずに行動するわ。作戦会議の盗聴も鈴音にやらせる」

「魔力パターンでバレないか?」

「これだけの魔法少女が密集しているのよ? 独立した魔法少女が五十人、常闇騎士団の魔法少女が五十人。合計百人規模の団体。まず私の魔力パターンを感知することはありえないと言っていいわ。魔法少女じゃないあなたには分からないことでしょうけど」

「そうか。ならいい」

 

 美国織莉子は豪華なドレスの裾を上げて会釈すると、黒いドレスを身にまとった女の子らしい呉キリカと腕を組んで船内に向かう。どうやら呉キリカの魔法衣装は執事服っぽいので、たまには可愛いものを着ろと美国織莉子が強要したらしい。なんだかんだ言って楽しんでいるようだ。

 

「青音ツナ様。お待たせいたしました。こちら炭酸のストロベリージュースとアプリコットジュースです。どちらも百パーセントで、絶品の果物を使用しました」

「……アプリコット?」

「アンズという果物です。樹木の木に顔の口で、子どもの子」

「……杏子か。なるほど。これは幸運だ」

「と言うと?」

「実は一緒に飲もうと思っていた相手が、杏子という名前で」

「それはそれは……図らずしも粋な計らいが出来たようで、わたくしどもも嬉しいです。それでは、良き夜を」

「はい。ありがとうございます」

 

 そして悪魔は、叛逆助太刀魔法を行使した。甲板の中心に青い閃光がまたたく。一人の少年が消えたことには、誰も気付かない。

 

          †

 

 南凪区のテーマパーク《ミナギーランド》の中で最も高い純白の城。その最上階はお姫様の部屋になっており、窓辺にはチョコスイカバーをかじる佐倉杏子が座っていた。青い月光を浴びる赤い少女は、満月を眺めて夜を過ごす。

 

「また珍しい場所にいるもんだな。ここ、どこだ?」

「ミナギーランドのお城だよ。扉の前に立ち入り禁止の札が見えるだろ。お昼には観光客がそこまで来て、部屋の中が見れるらしい」

「その部屋を我が物顔で使う、わがまま姫が一人ってか」

「ハッ! バカ言え。あたしのどこが姫ってガラだよ。盗賊の間違いだろ」

 

 部屋の中で青い光を発し、突として現れた悪魔。それに動じず、いつもの口調で返す佐倉杏子は、月から視線をそらさず、いったいなんのようだと背後の少年に告げる。

 

「乾杯」

 

          ♪~Cheers~♪

 

「────あ?」

 

 悪魔は、オレンジ色のジュースを差し出す。佐倉杏子は訝しむ。

 

「……赤い方じゃないのか」

「オレもそうするつもりだったんだが、このオレンジ色、なんでもアプリコットという果物を使ったジュースらしい」

「……────」

「佐倉に合うと思ってな。もちろんストロベリーの方でもいい。好きなものを選べ」

「…………共食いはゴメンだね。いつものでいいよ」

「そうか。ならオレは、お前を飲むとするか」

 

 悪魔は赤い飲み物を渡す。佐倉杏子は受け取りつつ、苦虫を噛み潰すような呆れ顔で返した。

 

「お前さぁ……どーしてそーゆーこと言うかねー?」

「満更でもないだろ?」

「なんだ? 久々に好感度チェックか? 安心しな。それで照れるほど、まだあんたにゃ落ちてねぇよ。このドンファン野郎。つか自分で言ってて恥ずかしくなんねぇのか?」

「…………チョー恥ずかしい」

「ははっ! ま、自業自得ってやつさ。観念して受け入れることだね。自分で選んだ道だろ? 罪な男なら、その罪、きちんと背負って生きなきゃな」

 

 ────カキン。と、グラスとグラスがぶつかる甲高い音が鳴り響く。

 

「乾杯。……でも、なんの乾杯だ?」

「聖杯戦争。大変だったろ」

「あーあれね。あれはマジでヤバかった。今までの中で五本の指に入るほどヤバイ。もうあんなのゴメンだね。二度とやりたくない。もし次あんなことになったら裸足で逃げ出すよ。はぁまったく! 思い出すだけで身の毛がよだつ!」

 

 よくも思い出させてくれたなと、佐倉杏子は悪態をつく。

 

『……』

 

 一転、静寂の宴。それぞれジュースを飲み、佐倉杏子は夜景を眺め、悪魔は無粋だと知りつつ心を読む。

 

「神浜フェス、楽しんだか?」

「あぁ。まぁな。あっちもこっちも旨いもんだらけだ。もう腹いっぱいだよ」

「ゆまは楽しんでなかったぞ」

「──…………」

「人生で一二を争うほど辛いこと。それは良かれと思ってやったことで、相手を不快な気持ちにさせてしまった時だ。たとえその後、結果オーライに終わったとしても……胸の奥にくすぶる“やるせなさ”は、しばらく消えてくれない。なんせ相手の気持ちを推し量りきれなかった負い目がある。さらに追撃として、もし、自分が謝らなければいけないのに、相手に気を遣われてしまったら……これ以上の情けなさは無いだろう。惨めな己を恥じて、懺悔することしかできない」

 

 不意に佐倉杏子は窓辺を蹴って飛び降りると、悪魔にガンつけて胸ぐらをつかみあげる。

 

「いっちょまえに説教かよ。しかもちょっと遅かったんじゃない?」

「そうだな。オレも、つい先週に知ったことだ。聖杯戦争の終盤、いろはとほむらに『お前らの頑張りは間違いだった』と言ってしまった。もう少し言葉は違ったが、そういったニュアンスで受け取られてしまってもおかしくない失言だった」

「……」

「まだ謝罪ができていない。それなのに気を遣わせて『戦力外なのは理解している』と言わせてしまった」

「……なんで謝んねぇ」

「意地だよ。佐倉と同じさ。全部一人でケリをつけようとしてる。……だから、お前もいっちょまえにキレてないで、この手を離せ」

「……────チッ」

 

 佐倉杏子は言われた通り手を離す。そこで悪魔は直感した。

 

「道場で答えは見つけたんじゃなかったのか?」

「見つけたさ。でもまだ悩み中」

「も(・)う(・)他(・)人(・)の(・)た(・)め(・)に(・)魔(・)法(・)は(・)使(・)わ(・)な(・)い(・)。それは裏を返せば自(・)分(・)の(・)た(・)め(・)だ(・)け(・)に(・)魔(・)法(・)を(・)使(・)う(・)ってことだ」

「……」

「それが道場で見つけた答え。しかし、それが“ごまかし”であることにも気付いていた」

「…………」

「この二つは似ているようで違う。最初の誓いは窮屈だ。でもごまかしの方は自由度がある。解釈の仕方で様々な受け取り方ができる。そうなれば、あとは許容範囲を決めるだけだ」

「……許容範囲?」

「千歳ゆまを拾って育てたことも、何度もオレのピンチを見捨てきれず助けたことも。全部“自分のため”だと思えばいい。それじゃダメか? 実際、ゆまのことは好きだろ。オレのことも好きだ。我が意の儘(まま)にあれよ、暴食の魔法少女」

「暴食? 何を急に訳分かんねぇことを……つか、そ(・)れ(・)も(・)また“ごまかし”だろ」

(そ(・)れ(・)も(・)、か……《しかし、それがごまかしであることにも気付いていた》って前置きしたのに、それとこれとを無意識に分けて考えているな。認知バイアスが発生している。これ以上は危険か……)「なら、いつか真実にしなくちゃな」

 

 悪魔は思う。いつかもなにも、とっくにその“ごまかし”は事実になっている。だがそれを受け入れれば、佐倉杏子は《他人のために魔法は使わない》という当初の信念を曲げたことを認めることになる。

 

 人間とは、往々にして自分の間違いを受け入れることができない、なかなか難儀な生き物だ。既に間違ったことをしたと分かっているのに、それについて反省せず、意地になって現状を曲解し、現実を受け入れようとしない。

 だがそれは、場合によっては悪いことではない。自らの心を守る防衛反応でもあるからだ。しかし間違いを認めなければ、人は歩けなくなる。道の途中で立ち止まってしまい、進むことも戻ることもできなくなる。にっちもさっちも行かなくなり、二の足を踏んでドツボにはまる。

 

 しかし佐倉杏子は、そのドツボにハマったことを自覚しつつある。だが、その上で間違いを認めたがらず、心の整理をつけている最中と言えた。

 

 他人のために魔法は使わない。他者の犠牲も容認する。理性を吐き捨て、本能に殉じる。気まぐれに人を殺し、人を助けることもある。道徳や矜持、法律や犯罪という概念を忘れ、ただ欲しいままに生きる。おかげでストレスを溜め込まず、魔女化することがなかった。しかし本心では、その生き方を嫌っている。かと言って今更、過去に犯した罪を気にする人情深い奴に戻ったら、魔女化まっしぐらだ。

 故に悪魔は思う。既に《自分のためだけに魔法を使う》という行動(ごまかし)をしており、それを認めることができているのだから……あとは“自分は自分をごまかしていた”事実を受け入れ、しっかりと許容範囲を決めるだけ。 例えて言うなら、認知・受容・決定。この三つのプロセスのうち、一つ目は達成しているのだ。二つ目の受容までいけたら、あとはドミノ倒し式で解決する心理問題である。

 

「単純な問題も複雑に考えてしまうのが、感情のある生命体の悪い癖だよな」

「まったくだよ。だからこそエネルギーの回収効率は素晴らしいんだけどね」

 

 悪魔の呟きに、匣の中にいるDキュゥべえが答える。

 

「チッ。バカにしやがって……。もう用は済んだろ。とっとと帰れ」

「それがな。今日は帰る場所が違うんだ。あそこに見える豪華客船の宿泊券がクジ引きで当たってな。佐倉の名前も入れてあるから、明日まで入れるぞ」

「────マジ? でもあそこ、ヤベェくらいの魔力パターンあるぜ?」

「そりゃあ対マギウスの作戦会議を開く予定だからな。レストランが旨いらしい。ゲームセンターもあるぜ。映画館もある。映画といえば、マミの家で見ようって言って、まだ見てないものがあったよな。どうする?」

「……いや、いいよ。ゆまもいるんだろ。今は鉢合わせたくない。ま、ゆまが寝た頃に行くよ」

「そうか。じゃ、またな」

 

 悪魔は窓辺に足をかけると、佐倉杏子の体を乗り越えて飛び降りる。死炎噴射飛行。まっすぐと星空を照り返す夜の海に飛んでいく。

 

「……ったく。余計なお世話なんだよ……」

 

 佐倉杏子はジュースを一気に飲み干すと、グラスをカーペットに放り投げた。

 

          †

 

 夜の九時頃。悪魔は集会室の広間を借りる。まず七海やちよ・都ひなの・エッダの代表者を呼びつけて、作戦会議の概要と流れを説明。三人の代表者を立てつつ、彼女たちに魔法少女の招集を掛けさせる。そうして五十人ほどの魔法少女が揃った。常闇騎士団の魔法少女は顔を出さない。作戦会議の内容については、後日エッダを通して伝えるようだ。

 

「さて、もう眠い奴もいるだろうから手早く行こうか。隼人、解説を頼む」

「分かりました! ────おぉテメェら、久しぶりに見た顔だな。俺は並盛町のシトピ隼人だ! 覚えてねぇとは言わせねぇぜ! さて、この作戦会議で話す内容は二つ! ひとつ、《マギウスの要塞の潜入方法》! ひとつ、《ベイルアウト魔法の紹介》! 以上だ!」

 

 シトピ隼人は簡潔に説明する。

 

「まず《マギウスの要塞の潜入方法》だが、あいつらは神浜市の中央区の直上、高度1,000m付近に存在する! 空間系の魔法を使って、位相空間を多層構造にしている。マトリョーシカみたいな感じだ」

「隼人。もっと噛み砕いて」

「……要は魔女迷宮みたいなもんだ。魔女結界の中に魔女結界があって、その魔女結界の中にさらに魔女結界がある。それをありえない量で積み重ねている。おかげで簡単には侵入できねぇ。魔女結界のゲートのように、専用のゲートを使わなきゃ通行できねぇ」

 

 そこで悪魔が直感する。

 

「既に専用ゲートの位置は割れている。だが確かに、バカ正直にそこへ突っ込んでも大敗を喫するだろう。戦力差は歴然だ。マギウスの黒羽根の総数は不明だが、最低でも五百名は超えていると踏んでいる。その全てがスタンド使いである可能性も考えろ。まず戦略で勝たなければ勝機はない」

「悪魔様の言う通りだ! ってーわけで、突入は大胆不敵に行なう! ってーのも、建造系の魔法で大量の人間を輸送できる乗り物を作り、その乗り物に破壊系の魔法をかけて多層結界を突破する! そんで、そんな作戦を実現させるためには────鼓星かずみ! テメェの魔法が必要だ!」

 

「────……えっ? わ、私ぃっ!?」

 

「あぁそうだ! テメェの固有魔法は《破壊(破戒)》! スタンド能力は《料理》だ。料理に関しては、物質を捌けば食べ物以外に乗り物まで作れるそうだな? あと黒江の錬金術でも同じことができるだろう。百江なぎさの野営魔法で内装も完璧に仕上げることができる。ほかにも似たような魔法を持ってる奴には協力してもらう! 分解魔力と構築魔力、そして破壊系と作成系の魔法だ! オレの指示通りに分担して、マッハで乗り物を作り上げられるように効率化する! 分かったか!」

 

 そこで常盤ななかが手を挙げる。

 

「なんだ!」

「乗り物を作ることは分かりましたが、多層結界の突破は具体的にどのような方法を採るのですか?」

「それは今から話そうと思ってたところだ。当然、一点突破しかありえねぇ! 乗り物自体に破壊系の魔法が宿ってんだからな! 結界に頭突きして砕くんだよ!」

「しかし、先ほど魔女結界を例に挙げていましたが。それならマギウスの要塞がある空間も、その位相を現実空間とは異ならせているのではありませんか? ならば突撃しても結界には当たらず、意味を成さないかと」

「いい質問だ。つまり位(・)相(・)が(・)異(・)な(・)る(・)空(・)間(・)を(・)ど(・)う(・)や(・)っ(・)て(・)攻(・)撃(・)す(・)る(・)か(・)?(・) そんなもん、同じ空間をぶつける以外に攻撃する方法はねぇ」

「……────!」

「詳しい解説はまたの機会にするつもりだったが、いいだろう。少し長くなるが、まぁ聞いとけ。必要なものは分析魔力と分解魔力、そして空間系・空間転移系の魔法だ。この中では水野むくが空間転移系の魔法を有している。で、具体的な方法は────例えば位相が異なる空間の中に転(・)移(・)しようとすれば、当然、マギウスはそれを弾く魔法を使っている。だが弾(・)か(・)れ(・)る(・)瞬(・)間(・)は、同時に接(・)触(・)し(・)て(・)い(・)る(・)瞬(・)間(・)でもある。ここで一気に分析魔力を走らせて多層結界の構造を理解・把握し、虚数位置を特定。破壊系の魔法や魔力で風穴を開けるって寸法だ。もちろんそれが通用しなかった場合の次善の策も考えてある。ぶっちゃけ、突入や侵入の方法はいくらでもやりようがあるんだ。その全部を説明してたら日が暮れっぞ!」

「……理解しました。方法がいくらでもあるなら安心ですね。ありがとうございます」

 

 シトピ隼人は、二つ目の話に入る。

 

「では次! 《ベイルアウト魔法の紹介》だ! これは都ひなのとか言う奴の要望で用意した。本当はそれを予見した悪魔様が、一週間前に製作を命じた開発品なんだがな! テメェら悪魔様の慈悲深いお心に感謝しやがれ!」

「隼人。……フェリシアが爆睡してる。ほかの小学生も眠そうだ。余計は省け」

「失礼しました悪魔様! ──で、ベイルアウト魔法っていうのはだな……細かい仕様は後日説明するとして……説明するより、見てもらった方が早いか。おい野球バカ!」

「ん? あ、オレの番か!」

 

 水野むくは壇上に上がる。

 

「みんなよろしくな! オレは水野むく! お、道場で一緒に特訓した奴もいるのな!」

「テメェの自己紹介はいらねぇんだよ! さっさと説明しやがれ!」

「オッケー! まず、ここに青い小刀があるだろ? これがベイルアウト魔法を結晶化させた刀剣だ。これを一人につき一本、懐に忍ばせてもらう。で、これを持っているとな! ヤ(・)バ(・)い(・)殺(・)さ(・)れ(・)る(・)!(・)ってなった時、青い懐刀が、それを知らせてくれるんだ! んで一回だけ、死ぬはずだった攻撃を防いでくれる。あとは青い懐刀に魔力を流せば、あらかじめ決めていた所定の位置に転移する。そういう魔法だ!」

「……要は緊急脱出魔法だ。あと今この野球バカ、ひとつだけウソをついた。この懐刀に危険を知らせる機能はない」

「あり?」

「ただし危険感知系の魔法を持っている奴がいたら取り付ける予定だ。もしいるなら今すぐ教えろ。言えねェならあとでこっそり教えろ」

 

 そこで悪魔が直感して補足する。

 

「この懐刀は量産する予定だ。一人につき十本用意できれば上々、百本用意できれば理想、と言ったところか。そしてベイルアウト先は、さっき説明した乗り物の中となる。いっそのこと軍用機と言ってしまおうか。全体の大まかな流れとしてはこうだ。

 ────軍用機でマギウスの多層結界を突破。軍用機からベイルアウト魔法の懐刀を装備した魔法少女が出撃。敵地の迎撃機能の即時破壊、前哨基地の作成といった電撃作戦を終えたのち、そのまま敵本陣を迎え撃って、マギウスの親玉三人を討ち取るか拘束する。なお、戦いの中で殺されても、一回だけなら懐刀が無効化してくれる。瞬間、即時に魔力を流して軍用機に転移しろ。間に合わなければ追撃されて殺されるぞ。そして再び懐刀を装備して出撃。これを繰り返す。もちろん死ぬたびスタート地点から最前線まで走るのは無駄の極みだ。故に敵を一掃できたら、簡易的な前哨基地を作成し、どんどん転移先を奥へ奥へと更新していく。

 ────最後に。ノルマンディー上陸作戦について調べろ。それでマギウス決戦がどういう戦いになるか想像しておけ。こっちは事前のリサーチ不足で、多層結界の破壊後、何が起きるかわからない状態だ。つまり完全アウェーの戦いとなる。その中で勝利に貢献するためには、過去の戦史を知ることも大切なことだ」

 

 そう言って悪魔は、魔法少女の中をかき分け、集会室から出ていく。

 

「今日の作戦会議は以上だ! 敵の襲撃がいつあるか分からねぇから、前もって必要最低限のことを伝えようってのが今夜の集まりだ。もっと詳しい話をしたい奴は、ここに残れ。質問は全て受け付ける。だがさっき悪魔様が言ったように、こっちはマギウスの要塞について何も知らねぇ! お望み通りの返答はできねぇものと思え。今ここを去っても、後日の作戦会議で情報は共有するから安心しろ。そもそもマギウスの翼に盗聴されてっから、あまり手の内も明かしたくねぇ。最も勝率の高い作戦は、決戦の直前、お前らが軍用機に乗っている時に話す予定だ。頭っから不利な戦いで挙兵しようとしてるってことがようやく分かってきたら、今夜のうちは頭を冷やして来い!」

 

 魔法少女たちはざわめき始める。あえて士気を下げるようなことを最後に言ったのは、悪魔の指示である。

 

「────いいか! もうわかったように、まだ作戦は練っている段階だ! そして今ここで話した作戦は、並盛町が考えた作戦でもある! ほかの奴らが俺らより名案を出してくれるって言うなら、それに越したことはねぇ。だが、それについて話すのは、やはり軍用機の中だ! 決戦前に話すと混乱が生まれるってのはその通りだが、悪魔様はこう仰られていた」

 

 ────そもそも軍人じゃない魔法少女たちが、軍隊のように作戦通り動けるわけがない。だから魔法少女がやることは、オペレーターの指示に従うこと。そのオペレーターとは、いわゆる指揮官のたぐいだ。

 

「そのオペレーターを決める試験も、のちのち行う予定だ。まぁ俺ひとりでも出来るから、急にマギウスが攻め込んで戦いになっても大丈夫だ。ってーわけで、俺も最後に言っておく! 今ここで話したことは、頭の片隅に入れておけ。その代わり明日は存分に遊べ! なんたって海水浴場が開かれるんだからよ。この二日間は羽を伸ばすために悪魔様が用意した催しだ。きっちり休んどけ。そして神浜フェスが終わったら、悪魔様が言ったようにノルマンディー上陸作戦でも勉強しとけ! ────以上! 解散! 質問がある奴は俺について来い! ゲームセンターに行くぞ!」

「なら俺はバッティングセンターだな! ……みんな、そう不安がらずに、まずは祭りを楽しもうぜ! 難しい戦いのことは、楽しんだあとに考えればいいさ! だろ? ははっ!」

 

 集会室から、少しずつ魔法少女が解散していく。そこで三人の代表者が会話する。

 

「なんか……かなりアバウトな作戦会議だったな?」

「私が急かしたからね。でも必要な時間だったわ。これでマギウスの奇襲に備えたも同然よ」

「そうだな。悪魔も軍用機やベイルアウトについては、既に人数分、用意している様子だった。ただ念入りに準備するなら、もっと時間をかけた方がいいという理由で、あまり詳しく伝えず、この集会を打ち切ったのだろう。そもそも、あの銀髪魔法少女(シトピ隼人)が言うように。我々は打倒マギウスを掲げるだけで、具体的な作戦は何一つ用意していなかったからな」

「ウソつけ。十七夜お前、本当は何か企んでただろ。じゃなきゃ言葉だけの打倒なんて掲げるわけがない」

「そうよ。危険感知系の魔法、どうせ常闇騎士団……だっけ? その構成員が持っているんでしょ? さっさと出して並盛町の人たちに協力しなさい。突入方法についても調べ上げてるんでしょ? マギウスの調査はあなたに一任して、私はウワサ退治に奔走していたから……マギウスの要塞に関する情報は、十七夜の方がたくさん持っているはずよ」

「十七夜ではないエッダだ。もちろん本当に情報を持っているなら伝えるつもりだ。では、私はこれで」

 

 エッダは立ち去る。

 

「……なぁ、やちよ。もしかして十七夜の奴。今回の集まりがなかったら、常闇騎士団だけでマギウスに決戦を仕掛けるつもりだったんじゃないか?」

「それは十二分に有り得るわね。でもそれは無謀の極みよ。それが分かっているから虎視眈々と機を窺ってもいた。そんなところじゃないかしら?」

 

 七海やちよと都ひなのも解散する。

 

 かくして夜の作戦会議は数十分のうちに終わった。魔法少女たちは、マギウス決戦の具体的な作戦を伝えられたことで、本当に自分たちは殺し合いをするのだという現実を改めて突きつけられる。だが及び腰ではいられない。改めて湧き上がった恐怖、改めて感じた胸の震え、高鳴り。それを押さえ込むためか、それを鎮めるためか、それを忘れるためか。魔法少女たちは日常に戻り、夜の豪華客船を楽しもうとする。

 

 レストラン。ショッピングモール。映画館。ゲームセンター。プール、サーカス。豪華客船の中はよりどりみどり。夜は長い。魔法少女たちは夜も更ける頃まで、ちょっと大人な豪華絢爛の夜遊びを楽しみ抜いた。

 

 ある者たちは、これが最後の晩餐とならぬよう、強く願いながら。

 

          †

 

 深夜。皆が眠りにつく頃。豪華客船の屋根に、悪魔は寝そべっていた。そこにエッダが現れる。

 

「悪魔。どういう了見だ」

「……どうも何も、オレの心を読めばいい」

 

 今夜の作戦会議はお粗末なものだった。マギウスの要塞について情報が少ないことは事実だが、あえてそのことを赤裸々に公開し、魔法少女たちの士気を下げたのはなぜか。そのせいで今後、早くても明日には、個人単位で《やっぱりマギウス決戦に参加するのはやめにする》という声が相次ぐ可能性がある。

 

「どうせそこをぼかして話を進めても、常盤ななかや遊佐葉月が突っついてたさ。……みんな聖杯戦争の件で怒るあまり冷静さを欠いている。マギウスの戦力も分からないのに戦いたい・やり返したいだと? ふざけるのも大概にしろ」

「そもそも“決戦”だのなんだのほざいたのは貴様だ。焚きつけておいて自ら火消しにかかるとは、この責任、どう取ってくれる」

「もちろん勝利で取るさ」

「────────」

 

 エッダは仮面の奥で目を見開く。衝撃と驚愕。恐ろしい陰謀を読心した。

 

「…………たしかに……たしかに、その方法なら……士気は、今まで以上に高揚する……。悪魔のことを好いている者は多い……愛するが故に憎しみを抱く……それが人間の本性かもしれん……。悪魔、貴様は……」

「もちろん、オレひとりで解決できるなら理想だ。でも巴マミを甘く見るな。あいつはオレを知り尽くしている。エミヤはオレの情報を網羅していたが、巴マミは情報だけでなくオレの感情まで把握している。その差は大きい。メンタルの調子がいい時なら戦略を戦術で覆す女だぞ? しかもウワサを着ているからメンタル面は常に万全。だからまぁ……自分が負けた時のことを考えて、また“魔法少女にブチギレさせる”ってのが、第一次マギウス決戦の全容だ」

「死ぬつもりか?」

「おいおい。オレは死ねないんだぜ?」

「第一次というのが気になっていたが、よもや第二次で決着をつけるということか。初戦は負けるつもりか?」

「まさか。勝つための敗北は、負けとは言わない。布石と言うんだ。撤退とは反撃の準備なれば、決して敗走と侮ってはいけない。向こうは囲碁を二局、打ったつもりで第二次マギウス決戦に望むだろう。そこが敗因だ。こっちは向こうの想定を上回る大きな戦略思想で、囲碁を一局、打っているだけなのだから」

「……戦争とは、より準備をした方が勝つ。悪魔の一(ひと)打ちで“道”が完成し、“天地”把握せず一見大敗を喫するが、第二次マギウス決戦にて我らが一打ちし、“天地”を制して“将”を糺すため、“法”は自ずと完成する……。あとはもう、ただ勝つだけのこと……」

「孫子の兵法を読んだのか? あれ未だに難しくてよくわかんないだが、今回は作戦がハマりそうで何よりだ。織莉子をこき使った甲斐があった」

 

 悪魔は内心で呟く。

 

「────了解した。オペレーターについては、全て常闇騎士団が担当しよう」

「それがいい。恋愛性質を利用した兵士の動員だ。常闇騎士団の連中は、あまりオレに興味ないからな」

「……悪魔。お前は本当に恐ろしい奴だ。人の心を弄ぶことに、罪悪感はないのか……?」

「…………それが最善で、それでみんなが無事で済むなら……オレは、みんなを騙した罪悪感で苦しむことくらい、簡単に受け入れるよ」

「敬意を表する。貴様は、理・備・果・戒・約の五条件を揃えた将だ。しかもその五条件を、その一手で全ての魔法少女に植え付けようとしている。軍人ではない魔法少女たちが集まって勝つためには、ひとりひとりが将そして兵になればいい……いやはや、発想のベクトルが驚きだな」

「兵は詭道なりって言うだろ? 騙し合いでオレに勝てる奴はいないよ。この世で最も強い武器は情報だ。そして心や未来が読める奴は、誰よりも情報を持つことができる。故の見透かされた勝利。面白くもない確定事項だ。それゆえに、これは平和な戦争だよ」

 

 エッダは立ち去る。悪魔は時を待つ。

 

「もちろん戦わないで降伏させるのが理想だ。しかし、その最善策が打てないならば仕方がない。どちらも損害なく、命の浪費もなく、完璧な勝利を飾ってやる……」

 

 それが未来を見た者の責務だと、悪魔は堅く決意した。

 

          †

 

 

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