アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
桐野紗枝は没落貴族の貧乏令嬢っていううわさ。それを語る謎の存在・ウワサさんを目にした桐野紗枝は、驚きのあまり呼吸を忘れていた。
(……は? なに……あれ? 魔女? 使い魔? でも人間のように喋る魔女や使い魔なんて聞いたことがないし……つーか、なんでそんなよくわからない奴が私のこと言いふらしてんの!? あぁもうダメだ。なんかあったまきた……)
桐野紗枝は生徒が行き交う中、何を恥じらうこともなく魔法少女の姿に変身する。周囲の驚きとどよめき。それはすぐに桐野紗枝の固有魔法によって認識を改竄され、周囲の認識は
「ちょっとアンタ! 何者よ!?」
桐野紗枝は胸ぐらを掴んでしばき倒してやろうと飛びかかる。が、生徒から“ウワサさん”と呼ばれていた存在は「キャー!」とふざけたように叫びながら逃げていく。その移動方法は浮遊に近く、滑走するように階段を下りていく。
「ちょ、はやっ────待て! ────ッ!?」
桐野紗枝は全力疾走で追い掛ける。直後、彼女のソウルジェムは魔女の反応を感知した。空間が歪み、学園全体が魔女結界に覆われる。それでもなりふり構わず階段を駆け下りていくと、ある階層の廊下で戦闘音がこだました。状況確認のため廊下に出た桐野紗枝は、そこで使い魔と戦う都ひなのと由貴真里愛という二人の魔法少女と視線を交わした。
「ひなのさん……真里愛さん……!」
「おぉ、紗枝! 無事だったか!」
「紗枝ちゃん! 後ろ!」
由貴真里愛の声で振り返った桐野紗枝は、背後から襲いかかってきた使い魔に仮面をかざす。すると仮面から赤い魔力のビームが放たれ、その使い魔は消し飛んだ。
「ありがとうございます、真里愛さん」
「どういたしまして」
「よし、この階層の使い魔はあらかた片付いたな。紗枝、これから一緒に魔女を叩きに行くぞ! 団体行動した方が危険は少ない」
神浜市の中でも中央区のトップを務めるベテラン魔法少女・都ひなのは的確な判断で指示を出す。
それに対し桐野紗枝は、ふと脳裏をよぎる不安があった。
(一緒に……でも今回の件は、どう考えても私が狙われてる……だから二人を巻き込むわけには……ウワサさんとかいう存在はまだよく分からないけど、きっと同時に出現した魔女結界と何か絡んでいるに違いない……だからここは……)
「……ごめんなさい、ひなのさん。この魔女の狙いは、たぶん私です。だから……私が倒しに行きます」
「は? いや、おまえ何を言って……」
「あ、紗枝ちゃん!」
桐野紗枝は共闘を突っぱねて駆け出し階段を降りる。先ほどいた上層では戦闘音。おそらく新手の使い魔が出現したのだろう。
(やっぱり私の判断は間違っていなかった。二人には学園のみんなを守ってもらって、その間に私が魔女を始末する!)
そして桐野紗枝は一階に降りると、魔女結界の中で平然と動いている少年と出くわした。彼は自分を悪魔と名乗り、正直ウワサさんと同様、非常に怪しい存在だった。魔力パターンが複数あるのも疑念に拍車をかけた。しかし魔女反応は感じないので無害と即断。悪魔の共闘を突っぱねて独り突き進んだ。
(私はもう誰にも頼らない。放課後の教室では、裏の顔を認めてくれる友人たちの優しさに寄りかかったから今こんな目に遭っている。悪いのは甘かった自分だ。これからは自分を律して、全て自分の力だけで成り上がる)
それは孤高への挑戦者の姿勢だった。桐野紗枝は孤独を貫く覚悟を決めていた。それもこれも貧乏生活から“成り上がる”ためである。自分を守り、家族を守り、友達や仲間を守るために、彼女は独力の強さを追い求める。
桐野紗枝は校庭に出ると、魔女結界とはまた異なるゲートを発見し、それに迷うことなく飛び込んだ。今までと勝手が違う魔女結界。それも当然。そこは魔女結界の上位版。魔女迷宮である。次々と襲い来る質量ともに高水準の使い魔を撃退しつつ、どんどん奥に進んでいく。
(っ……ここの使い魔、強い……! っていうか、あれからウワサさんとかいう存在は見かけないし……あれは結局なんだったの……? 私のうわさを吹聴していた存在……あれは魔女の使い魔? でも魔女反応なんて感じなかった……それとは別の魔力パターンだった……この魔女結界もいつものとは違うし、なんかヤバそうだ……それでも早く解決しないと……)
桐野紗枝は一階層を突破し、二階層に突入する。そこで階層の存在に驚き、ゴールが分からないダンジョンに先行き不安の危機感を煽られるが、それでも精神を強く保って突き進む。撤退したところで魔女結界は学園を覆ったままだ。故に独りで解決しなければと、孤高を目指す魔法少女は迷宮の奥深くに潜っていく。
†
時は戻り。悪魔は校庭で魔女迷宮のゲートを発見する。どうやら魔女は学園の地下にアジトを作って潜んでいたようだ。しかし違和感を覚える。これは通常の魔女とは異なる。そう直感していた。
「ねぇねぇ。ワタシ、ウワサさん。こんなウワサがあるって知ってる?」
「────っ!?」
突如として悪魔の背後に現れたウワサさん。悪魔は一切の気配を感じなかったことに恐れを抱く。
「なんだ……こいつは……」
「悪魔? そこに誰かいるのかい? “ウワサさん”とは……これまた聞いたことのない名前だ」
悪魔はジリジリと後退し、臨戦態勢の構えを崩さない。対するウワサさんは、先ほどの悪魔の言葉を受けて、自分のウワサを語り始めた。
「ナンダコイツハ? それってワタシのこと? ワタシのウワサは魔女ガタリ。魔女とウワサの融合体」
「────ウワサとは、なんだ」
会話可能。そう判断した悪魔は試しに質問してみた。
「知りたいの? イイヨー!」
アラもう聞いた? 誰から聞いた? 魔女ガタリのそのウワサ!
創造主の想像を超えて、魔女がウワサを取り込んで!
被造物の臓物を換えて、ウワサが魔女を取り込んで!
天然由来? 人工由来? ともかくワレラハ魔女ガタリ!
魔女ガタリは魔女を語る。特に魔女の過去は大好物!
でもでも魔女さん気を付けて それって自分の鏡ダヨ?
過去をなぶれば自分も痛い! それが魔女ガタリの嫌いなこと!
ルイハトモヲ! ジショーコーイー!
不思議なウワサを語った次の瞬間、ウワサさんは忽然と消え去った。悪魔が周囲を警戒しても、既に気配は存在しない。
「……ふむ。今のウワサさんとやらの語りは実に興味深い。この神浜市は不思議なことばかりだ。いったい何が起きているんだろう。悪魔は何か気付いたことあるかい?」
「そうだな……少なくとも直感したのは“魔女の過去”という言葉が、おそらく“魔法少女”を指しているってことくらいか……」
「なるほど。その線はありそうだ。となるとウワサさんとやらは魔法少女の成れの果てが魔女であることを知っていることになる。ウワサと魔女……この二つにはどんな関係性があるんだろうね?」
「それも調査すれば自ずと分かることだ。今は桐野紗枝を追い掛ける」
悪魔は気を取り直して魔女迷宮のゲートに飛び込んだ。何もかもが謎のまま、いつかその謎を解くために。
†