アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
本章のクロスオーバー先:ワールドトリガー、Fate/EXTELLAシリーズ、モンスターハンターetc
6月3日(土曜日)【土・雷・隠の掛け合わせは、晶遁の魔係淘汰に昇華する】巴マミ〔予知映像〕
未明。
魔翼移動要塞の地表・中央部に当たる《遊園エリア》の構内ステージ。そこはキレーションランドのウワサの一角を成す第六ステージ《縦横廻転する嘶きの轟嵐》と呼ばれるメリーゴーランドを意識したウワサ空間。そのステージの最奥部に位置する
対するは宙を舞う黄色いリボン。魔法少女がたくしあげたスカートから、七丁のマスケット銃が現れて地に突き立つ。まくるリボンはカップに変形し、魔力で練られた紅茶が注がれる。数滴口に含んで、しばしティータイムを開く。
「マミ。ようやく会えたな」
「えぇ。ひさしぶり。今は六月だから、ちょうど一年ぶりかしら。懐かしいわ。あの頃が……」
「なぜマギウスに就いた」
「……もう。せっかくの再会なんだから、世間話くらいさせてよね」
「こうしている間にも幾重に罠を張る。それが巴マミの戦い方だ」
「それなら掛かってらっしゃい。いつでも相手になるわよ」
それでも少年は対話を優先する。
魔法少女はため息をつくと、玲瓏な金属音を静かに立てて、紅茶カップを手皿に置いた。
「……ねぇ、聞いてくれる? 私、とても、つらかったの。魔法少女はいずれ魔女になる。友達だと思ってたのに、キュゥべえはそんなこと、一言も……教えてくれなかった。それは、貴方も同じことよ……?」
「…………悪かったと思っている。黙っててごめん。言い訳はしない」
「言い訳をしないのは、
「……そうだな。一年前のオレなら、同じセリフを吐いた時、心の中では“本当に申し訳ない”としか思っていない。そんな浅慮な子供だった。でも今のオレは心の中で“こう言っておけばマミの精神は安らぐだろう”という打算がある。それは事実だ」
「……変わったわね。あの日から。本当にちょっとだけ、大人っぽくなった。男子三日会わざればとは言うけど……先輩としては感慨深いものを覚えるわ。でも……みんな、私から離れていく。佐倉さんも、貴方も……両親を失ってからずっといっしょにいてくれたキュゥべえでさえも────」
絶望する魔法少女の手から紅茶カップが落下。地面に激突。甲高い音を立てて紅茶カップが砕け散る。オレンジ色のソウルジェムがくすむ。濁っても穢れてもいない。ただ
「……、……? ────っッ!!!? まて、マミ……お前は……!」
「直感したのね。止めないで。私は決意したの。貴方が見滝原市の病院で、壮絶な覚悟を決めた時のように……私も、覚悟したのよ」
「マミ……」
「ソウルジェムが魔女を産むなら、みんな死ぬしかないじゃない……」
ひとりの魔法少女は、発狂するでもなく、絶望するでもなく、湛えるような表情で淡々と現実を口にする。
「貴方もそう思ってるんでしょう?
「あれは……あくまで心構えを説くものだ。オレは諦めてない。無謀だろうが絶望だろうが、キュゥべえのせいで笹川京子が苦しまない世界を創る。それがオレの人生の最終目標だ」
「……理想を語って死にたいなら、お好きにどうぞ。私は現実的に物事を片付けていく」
「マミ!」
「キリサキさん事件の時、私は感銘を受けたのよ。天乃鈴音が操られていたというのは、かわいそうと思う反面、少し残念に思ったわ。だって憧れたんだもの。その決意は、どれほどの覚悟を要するのか。私にはそんな発想、たとえ閃いても実践するのは無理だった……」
「マミッ!! 頼む、早まるな……そんなことになったら、オレは、お前を────いや、お前と……!」
殺すことになる────殺し合いをすることになる。戦いは避けられない。互いに無事ではいられない。
されど魔法少女は、少年の慟哭を讃美しつつ見下げ果てた。
「全ての魔法少女が魔女になる前に殺害する。それが、こんな私が施してあげられる唯一の救済。私以外の全ての
「……っ」
「────私は、死んでも死にきれない」
魔法少女はマスケット銃を手に取ると、銃口の先を少年の右目・左目に当てた。
「これは決闘ね。私たちの最期の友情の印に、せめてイタリア語で名乗りを挙げない?」
「…………────オレは、悪魔。笹川京子を守る者」
「私は巴マミ。聖なる殺人を果たすため、“
「本気、なんだな」
「でなければ、この
巴マミのソウルジェムから、透き通るように
死ぬ気の炎を灯すリングの原材料はソウルジェムである。ならばソウルジェムそのものに死ぬ気の炎を灯すことも理論上は可能である。
そしてソウルジェムは魔力を生成する魂の具現器官。ならばソウルジェムから魔力を回しつつ死ぬ気の炎と混ぜ合わされば、それは
「生命力と精神力の混成熱量。そこからさらに土と雷の死炎魔力を掛け合わせれば、あとは絶妙な比重の偏りで、それは爆遁・鋼遁の魔係限界に昇華する」
「────」
「つまり貴方と
巴マミの死炎魔力が爆破する。悪魔の噴射のように目にも止まらぬ爆発的高速移動を実現した魔法少女は敵の背後に回る。刹那、大空の炎が瞬いた。巴マミの背後を取り返す悪魔、の背後を取り返した巴マミ、の背後に悪魔が回る。
「年季が違う」
「そうやって驕っていると、足をすくわれるわよ?」
極小のリボン繊維が縄を作る。それは悪魔の足元に設置されていた。鋼鉄ワイヤーのような頑丈さと細さで悪魔の足首が締め上げられる。そのワイヤーを焼き切る案が悪魔の中に浮かぶ間際、巴マミはマスケット銃を構えた。回避は間に合わない。轟く発砲音。水泳の魔女の手助けで転移していた悪魔は宙に放られる。
対する巴マミは地上で踊るように五丁のマスケット銃を振るい、正確無比の弾丸を発射。
悪魔は死炎噴射で一発目を躱そうとして右頬に掠める。続けて二発目から五発目が四肢の関節を撃ち抜く。瞬間、構築で粉砕された骨肉を再現し、調和でコーティング。炎圧を上げた噴射で急接近。
あらかじめマスケット銃を取り上げていた巴マミは、銃口の先に悪魔の顔面を捉える。発砲。虚空を飛ぶ弾丸。巴マミの視界から悪魔が消える代わり青い魔力がまたたく。叛逆助太刀魔法の転移で背後に回られた。
悪魔は轟炎の拳を敵の背中に殴りつける。瞬間、悪魔の拳が砕けた。
「っ……!!」
「鋼遁の性質変化・鋼化────木雷属性の硬化より、よっぽど硬いわよ」
しかし悪魔の狙いは打撃にあらず。死ぬ気の零地点突破で、巴マミの死ぬ気の炎ごとソウルジェムを凍らせることにある。だが────
「────なん、だと……?」
「土・雷・隠の掛け合わせは、晶遁の魔係淘汰に昇華する」
晶遁の性質変化は、結晶化。悪魔の右グローブは結晶化しており、死ぬ気の炎を結晶の中に封じ込められていた。しかし硬度はそれほどではない。炎圧を最大限まで引き上げれば一瞬で破壊できる。だが、その一瞬の工程が既に、致命的な隙を生む。
巴マミの回し蹴り。腹部がめり込んで肋骨が折れる音。直後にマスケット銃の速射。吹き飛ばされる悪魔は弾丸を右手で受けて結晶を破壊。
(後手に回れば一気に詰められる)
(だからって先手を許すほど甘くはないわよ。舐めないで!)
未だどちらも本気を出していない。そろそろ準備体操は済んだ。ここから先は、下手すれば魔翼移動要塞が墜落するほどの熾烈な激闘が繰り広げられる。最後に立っているのは、ただ独り────
不意に悪魔は両手を挙げる。巴マミはマスケット銃を振り上げて銃口を向けた────が、悪魔は何もしてこない。巴マミは眉間にしわを寄せる。両手を挙げる動作の意味を解するのに、一息ぶんの秒数が掛かった。
「降参だ。捕らえて煮るなり焼くなり覗き見るなり好きにしろ」
巴マミは油断しない。照準は微動だにせず、悪魔の左目に狙いを定めている。
「笹川京子を殺す気がないのは直感している。厳密に言えば、殺すのは最後にしてくれるそうだな? ならオレが戦う必要はない」
巴マミは動揺しない。……ように努める。ここで悪魔が巴マミを止めなければ、多くの魔法少女が聖なる殺人の犠牲者になる。それを死ぬ気で食い止めない人ではない。悪魔は、そういう人のはずだ。
「お前こそ舐めるな」
「……!」
「オレの生徒たちは、マミに殺られるほど弱くはないよ」
生徒たち。それは神の羽のもとに集った魔法少女たちのことを指しているのか。
「…………
「あぁ」
「……貴方も、あまり見くびらない方がいいわ。私だって、今はまだマギウスの可能性を信じている段階。自動浄化システムが地球を覆えば、私の覚悟は不要になる。だから今すぐ聖なる殺人を始めることはしない。命拾いしているのは、そちらの方だということを……肝に銘じた方がいいわ」
「そうだな。──それよりオレはマギウスの翼の中でやることがたくさんある。お前だってマギウスの今の方針は反対の立場だろ? 人々に犠牲を強いてでも魔法少女が救われようとするのは違うと……ならば目的は一致している。さっさとマギウスの翼の幹部らしく、オレを捕らえてくれないか?」
巴マミは、ゆっくりとマスケット銃を下ろした。そして手元からリボンを手繰ると、悪魔の全身は黄色いリボンで緊縛される。やろうと思えばいつでも脱出できるだろう。しかし悪魔の目的はマギウスに囚われる事にあるらしい。何が目的か知らないが、好きにさせておく。ここで悪魔を捕らえず、マギウスを裏切るような真似はしたくない。巴マミはそう思う。
「────里見灯花。悪魔を捕らえたわ。監獄エリアにでもぶち込めばいいわけ?」
ふと遊園エリアの拡声器から幼女の声が発せられる。
『いいえ。記憶ミュージアムに運んでくれると嬉しいにゃー』
「記憶エリアに? ……いえ、わかったわ」
『そうそう。そうやってきちんと言うことを聞いてくれれば、こっちは多少の反意に気付いても見逃してあげるから。気をつけてね? 巴マミ!』
そこで柊ねむの声が拡声器に加わる。
『それにしても、全てのインキュベーターと魔女と魔法少女を殺す、か……大きく出たね、巴マミ。でもそんな野蛮な真似はさせないよ』
「だったら、そっちもきっちり働いてくれると嬉しいわ。もし自動浄化システムの拡大が失敗すれば、こっちも多少の犠牲は見逃してあげるから。せいぜい気をつけなさい? マギウスの三巨頭。里見灯花、柊ねむ、アリナ・グレイ」
ふと拡声器からアリナ・グレイの嘲笑が響き渡る。
『ハァ? アリナにケンカ売るとか、フールすぎて笑えてくるんデスケド!』
巴マミは記録エリアに向かって歩き出す。そこで悪魔は問いかけた。
「多少の犠牲は見逃す……本気で言っているのか?」
「────っ……」
「……なるほど。トロッコ問題か。すまない。意地の悪いことを聞いたな」
「許さないで!」
突として巴マミは叫ぶと、自らの片腕を掻き毟るように抱きしめる。その表情は、後ろを歩く悪魔には見えないが……奥歯が砕けるほど歯噛みしている。それを察することぐらいはできた。
「──……マミの罪はマミの罪だ。オレが許そうが許すまいが関係ない。覚悟とはそういうものだろう?」
「……えぇ、そうね……」
「それと、マミの目的には理解も賛同も示せない。だが、その答えに至るまでの絶望と覚悟には理解を示そう。到底許容はできないが、その考えは決して最善ではないが……合理的で効率的だ。お前ほどの強者なら、本当に可能にしてしまいそうな怖さを感じる。……まったく、どこのバカをお手本にしたんだかな」
「……ほんとね。ところで髪のふけ、相変わらず多いのね。あとで貴方の牢屋に
ふたりは軽口を叩き合う。脳裏によぎるのは、互いの勝手すぎる自己犠牲の精神。
かくして悪魔は、記憶ミュージアムと呼ばれるウワサ空間に幽閉された。
…