アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
神の羽は、仮称:アルキメデスの真円結界を破壊し、結界内部に隠遁していた魔翼移動要塞、すなわち世界から隔絶されていた魔法少女の理想郷を発見。まるでイナズマのように、これの攻略に当たる。
♪~飛行艇~♪
深夜零時九分。魔翼移動要塞の転移エリア・第一ステージ《自由に凪ぐ南の学園》に環隊が突入する。
そこは学園風のウワサ空間。美国織莉子の未来予知通り、南凪区の学園を模している。
学園周囲の道路。正門と裏門・校庭・校舎・別棟・体育館など、様々な施設が揃う。
「環隊、現着! これよりセクター
環隊。隊長は環いろは。隊員は環うい、万年桜、二葉さな、ウワサのアイ。そしてなぜかリリスも付いてきている。司令室に留まる黒江に預けたはずだが、いつの間にか遠征艇に潜り込んでいたようだ。
道路を駆け抜けて正門前に向かう。刹那、一発の音速弾丸を万年桜が弾いた。
環隊は、前方に敵性エネミーの集団を捉える。オペレーターとは視覚を共有しているため細かいことは逐一報告しなくてもいいが、言葉を尽くせる余裕があるなら言うべきだと、環ういが報告する。
「敵性エネミー目視! 黒羽根が七人、白羽根が一人! スナイパーからの狙撃を受けた!」
「│作戦通り、攻撃手の私が先陣を切る│」
桜色のブレードを二刀携える万年桜が誰よりも前を走る。敵の武装から役職を想定。オペレーターの高速演算と合わせて、敵戦力の分析と数値化を図る。そして一秒と待たずオペレーターから、分析結果の報告が入った。
『黒橙羽根の
常闇騎士団の構成員は元黒羽根が多い。顔が見えずとも声色や体格、口調や戦法、トリガー装備で個体識別は可能。百名を超す構成員が情報を持ち寄って精査すれば、一目見ただけで、ある程度の個体識別と
地形は都市部の車道と酷似。中央から南北にかけて車道。西側に塀と正門。東側に並木。障害物と言える障害物はない。
車道の最前列に黒赤羽根と黒藍羽根。その奥に黒橙羽根。正門に隠れる黒黄羽根と白青羽根。並木の陰に隠れる黒青羽根と黒紫羽根。最も後方の塀の上に膝立ちする黒緑羽根。
「│狙撃警戒。落とせる駒から落とす│」
万年桜は両足から誘導魔力を浸透滑出。
環いろはは、背中に立方体を分割したキューブを生成する黒橙羽根の頭上を越えて着地。互いに振り返って左手のナイフと両手の
同時、万年桜は黒藍羽根のシールドと胴体を
一瞬の無力化、武装解除に成功。すかさず万年桜は誘導魔力を使い、黒藍羽根と黒赤羽根のソウルジェムを抜き取る。さらに環ういは回収魔法を行使。環いろはが無力化した黒橙羽根のソウルジェムを回収し、万年桜の誘導魔力で運ばれた二つのソウルジェム含め、腰に提げた保存用匣兵器に収納。匣兵器の内部は環ういの遮断魔力によって外界から隔絶されている。半径百メートルに及ぶ魂の射程距離をわざわざ取らずとも、三人の黒羽根は意識を失って崩れ落ちた。
その頃、初めから透明魔法で姿を消していた二葉さなとアイは、環いろはが造った閉塞結界を抜けていた。実は閉塞魔法による結界の造形は、迷路のようになっている。右の壁に沿ってジグザグに進めば簡単に攻略できる構造だ。あらかじめ環いろはと迷路の図形を共有していた二葉さなは、光学的な透明結界を難なく抜けて、塀の上に陣取る黒緑羽根に奇襲を仕掛ける。誘導魔力でソウルジェムを抜き取り、環ういが作成した遮断結界入りの保存用匣兵器に収納。突として黒緑羽根は意識を失って塀から崩れ落ちた。
何事かと驚く黒青羽根と黒黄羽根。黒紫羽根はまさかと思い、二葉さなの存在を疑う。全員の視線が後方に移った瞬間、閉塞魔法を解除した環いろはと万年桜が突貫。一歩音超え、二歩穿つ。環いろはは正門に隠れていた黒黄羽根にアローバンカーを叩き込むが、唯一視線を外さなかった白青羽根には躱された。万年桜は並木の陰に隠れていた黒青羽根の胴体を大木ごと切り落とし、続けて二刀目のブレードを硬化投擲。並木の幹をくり抜いて黒紫羽根のシールドごと下半身を吹き飛ばす。環ういは回収魔法を掛けた二つの凧を噴射。一つ目は正門に沿って黒黄羽根のソウルジェムを回収し、白青羽根のことは深追いせず、凧を旋回させて帰還させる。深追いしない理由は、撃墜されれば回収したソウルジェムを奪われて、せっかく倒した敵が復活する可能性を危惧してのこと。二つ目の凧は並木をするすると飛び抜けて二人の黒羽根のソウルジェムの回収に成功。
黒緑羽根の死体がある方へ後退する白青羽根は、ローブの中でソウルジェムを青く光らせる。二葉さなが盾で殴ろうと接近するが、突然転倒。その衝撃で透明魔法が解除。白青羽根は明確な殺意を持って
「────セクター1、攻略完了。この転んじゃう魔法の分析をお願いします」
『転倒系の魔法ね。分解か鎮静の魔力で洗い流して。あとそろそろセクター2から増援が来るかも知れない。ここは地形的に良くないから、早く次のセクターに進んで』
なぜ白青羽根は、いきなり意識を失ったのか。それは二葉さなの体内に隠れていたウワサのアイに起因する。アイは普段魔力を貯めて、緊急時のみ姿を現して助力するよう、環いろはに指示されていた。そのためアイは、二葉さなが人質に取られてどうしようもなくなった時、誘導魔力を用いて白青羽根のソウルジェムを奪い、二葉さなの腰に提げてある匣兵器に収納させたのだ。
アイはデータ上の存在である。その特性を最大限に利用して、二葉さなの体内に潜むことで、魔力パターンで自身の存在に気付かれるリスクを減らし、ひっそりと事を成していた。透明魔法を有効に使うため、誰よりも前線に出張る必要が生じやすい二葉さなは、そのぶん敵に捕まりやすい。
アイは匣兵器から白青羽根のソウルジェムを取り出し、鎮静魔力を発散。転倒魔法の魔力を洗い流す。環隊は起立。休んでいる暇はない。今の調子のままではいけない。もっとスピードを上げる必要がある。
その時、セクタートラップが発動した。どうやら侵入者を検知してから一分前後で発動するようだ。突として環いろはと白青羽根の肉体が浮かび上がり、見えない力に引っ張られて塀に激突。塀の壁から拘束器具が出現。全身が拘束されて身動きが取れなくなる。これは人質の布陣罠だ。マギウス陣営の誰か一人が囚われる代わり、強制的に侵入者も一人、確実に捕らえるという神秘が働いている。さらに拘束器具から、環いろはと白青羽根の肉体に猛毒が注入される。それはみるみると肉体を溶かす劇薬。即座に万年桜が拘束器具を破壊。二葉さなが駆け寄って白青羽根のソウルジェムを使い、環いろはの体内の毒を鎮静魔力で洗い流す。
『予定より三十秒遅れています。急いでください。──報告。七海隊がセクター3をクリア。情報共有。火と水の基本セクタートラップと、一部の
「了解。情報を閲覧……確認完了。環隊、セクター2に攻撃を仕掛けます!」
†
時は遡り、十数秒前。
転移エリア・第二ステージ《南に凪ぐ海水の浴場》のセクター2に七海隊が現着。
南凪区の海水浴場を模したステージ。
大地揺籃。増殖させた分解鎮静硬化の槍による制圧掃射で、黒羽根7人と複製魔法少女のスタンド使いを瞬く間に撃滅。誘導魔力でソウルジェムを回収し、保存用匣兵器に収納する。その後方では、七海やちよのソウルジェムから《英霊召喚魔法》で呼び出された安名メル・雪野かなえ・セイバーももこ・シスターももこが追随していた。四騎は(ぶっちゃけ自分たちが召喚された意味ある?)と訝しむ。だが奪ったセクターは防衛する必要がある。実質単騎で一つのステージを蹂躙する七海やちよでも、防衛となれば一人だと手が足りない。また、セクタートラップの確認のためにも、オペレーターと視覚を共有した四騎は必要なのである。
セクター1で人質魔法と猛毒魔法が発動。セイバーももこが拘束器具に囚われるが、分析魔力を走らせると拘束器具の中に解毒薬があることを発見。そのことをオペレーターに報告。速やかに全部隊へ情報を共有。
七海やちよがセクター3を一秒で蹂躙する頃。セクター2でもトラップが発動。建物が吹き飛ぶレベルの突風と共に、セクターの各所に設置された爆弾が次々と爆発。爆薬には燃焼効果の強い
†
一方その頃。第三ステージ《
そこは南凪区のタワーマンションを模したステージ。
地形は六棟の高層ビルが立ち並ぶ大通り。前のセクターでは八棟の高層ビルが立ち並ぶ大通りだった。構造はどのセクターもシンプルだが、高層ビルという高低差のある戦場は、立体的な思考を刺激してくる。なにより不思議なのが、水没した地上である。水深五センチ。地面を踏むたびピシャピシャと水音が鳴る。分析魔力で走査すると、多少の鎮静魔力が混じっている。そのぶん分析の走査速度と個々人の機動力が落ちることを踏まえたうえで、由比隊は駆け抜ける。
隊長は由比鶴乃。隊員は深月フェリシア。
セクター突入時、深月フェリシアが増殖させた超巨大ハンマーのぶったたきで、セクターの五割を粉砕・爆砕・大喝砕。四棟のビルが倒壊。セクタートラップを(おそらく)破壊し、敵性エネミーを目視。由比鶴乃は分析魔力を走らせて、装備から
「かかってこーい!」
黒橙羽根の
不意に黒黄羽根が透明化して姿を消す。由比鶴乃は
ホルスターから拳銃を抜き取った黒緑羽根は拳銃から
「……っと!?」
唐突に由比鶴乃の体が揺らぐ。足首に違和感。壁面を上がる際、足元に着弾した弾丸からワイヤーのようなものが伸びて壁面に突き刺さっており、それに足を引っ掛けた。体勢を崩して慣性を失った肉体は落ちるのみ。そこへ叩き込まれる拳銃型の秒間3発の硬化通常弾と
「……それ、隠れてた意味薄くない?」
所詮は黒羽根。刹那、猪突猛進の勢いでハンマーを振り回し、ビルの一階の壁を壊しながら一直線に抜けてきた深月フェリシアが、由比鶴乃が落下中のビルとビルの間に出現。彼女にとっては、いきなり目の前に現れた黒赤羽根と黒緑羽根を巨大ハンマーのひと振りで殴り飛ばし、黒黄羽根に忘却魔法を掛ける。着地した由比鶴乃は、既に分析魔力の走査でソウルジェムの位置を割っている。茫然自失と佇む黒黄羽根のローブからソウルジェムを取り出し、さらにビルの壁面に叩きつけられて気を失った黒赤羽根と黒緑羽根のローブからもソウルジェムを回収、保存用匣兵器に収納する。
「あーしゃらくせぇ!!」
巨大ハンマーに更なる増殖魔力を流し込み、超巨大化させたハンマーの大きさは校舎一個分に相当。大地震撼。振り回された巨大質量の一撃一撃は、ビル二棟を瞬間破砕。崩れ落ちる瓦礫の雨の中を跳躍疾走する由比鶴乃と深月フェリシアは、さっさとセクター4に移動する。
暴れ牛の深月フェリシアは、敵が残っていても本営セクターさえ落とせば勝利と考えているようで、分散している敵は追いかけて片付けることはしない。スピード勝負なのだから、先を急ぐことを考える。それには由比鶴乃も同感だが、敵を残しておくと背後からの追撃を受けるし、下手すれば次のセクターで挟撃を受ける形となる。ならば挟撃される前にセクターを抜ければいいというのはその通り。本営セクターに行く頃には、残党の数も相当なものになっているだろうが、そのときはそのとき。一方で残党の何割かが追いかけてこず、遠征艇に向かう可能性も大いにある。かと言って深月フェリシアは言って聞くような子ではない。諭している時間も惜しい。七海やちよの言い分によれば『フェリシアが次のセクターに行く前に、鶴乃がなるべく敵を落としておけばいい』とのこと。確かに狙撃手を追いかけていちいち潰していたらキリがないため、由比鶴乃は暴走機関車の前進速度を考慮して立ち回る。
ふとビル崩落で巻き上がる土埃の煙に紛れてスナイパーの狙撃が飛んでくる。音速魔弾を鉄扇で防いだ由比鶴乃は、深月フェリシアの後背を守り通す。そして射線を切った瞬間、由比鶴乃は暴走機関車より素早く先駆けてセクター4に飛び込んだ。再び深月フェリシアの巨大ハンマーが振るわれて、大地爆砕、セクターの半分を破壊する。おそらく本営セクターまで、これの繰り返しになるだろうことは想像に難くない。おかげでセクタートラップの情報が集められないが、そこは別部隊に任せようと、由比鶴乃は割り切った。
†
第四ステージ《三水に酔う神族水兵の館》のセクター4に暁美隊が現着。
そこは南凪区の神浜水族館を模したステージ。
地形は、ステージ全体を見ればラグーン・ファーム・デカゴンランド・ファンタジー・ミュージアムの五つに大別。セクター4はデカゴンランドに位置し、鬱蒼と森林が生い茂るフィールド。上空には暗雲が立ち込めており、たびたび緑雷が雲間を走る。
隊長は暁美ほむら。隊員は鹿目まどか、美樹さやか、百江なぎさ。
彼女たちは鳥のように早く、奥深い森林を駆け抜ける。
「────っていうか、なんでほむらが隊長なわけ?」
「えっ。さやかちゃん。それは作戦会議室で、もう……」
「いや、そりゃ覚えてるよ、まどか。ほむらの方が経験豊富なんでしょ? それは認めるよ。あの子、私たちより何倍も戦い慣れてる」
美樹さやかの鋭い洞察力。二人の会話が耳に入ってしまった暁美ほむらは、空気を読んだつもりで問い返す。
「────ところで……美樹さんは、どうして神の羽に? こんな危険な場所にわざわざ来る必要は……」
「はぁ? そりゃ友達が戦場に行くってんなら、これに同行しないで何が友達よ」
「あ、そ、そうですよね……! つまらないこと聞いてしまって、ごめんなさい……」
「……まぁ、それ以外にも理由はあるけどね」
鹿目まどかは「理由?」と小首をかしげる。
「悪魔だよ。この前、私が恭介の件で魔女化しそうになった時、助けてくれたでしょ? その借りは、いつか必ず返すって決めてたんだ。だから私はここにいる。……これでいい? ほむら」
「う、うん! ……ありがとう、美樹さん」
「────みんな警戒するのです。雲行きが怪しくなってきたのですよ」
魔力で視力を強化していた百江なぎさと暁美ほむらが、森の奥地に隠れ潜む敵の気配に勘付く。
敵部隊を目視。同じくしてオペレーターから敵戦力の分析結果が開示される。
黒橙羽根の攻撃手B級・黒赤羽根の万能手C級・黒青羽根の狙撃手C・黒緑羽根の銃手B・黒黄羽根の攻撃手C級・黒紫羽根の狙撃手B級・黒藍羽根の万能手C級。
白橙羽根は波動系・暗視系の魔法持ちで狙撃銃使い。
白赤羽根は遠視系・暗視系の魔法持ちで迫撃砲使い。
総括:前衛2名・中衛4名・後衛1名+側衛2名。総合評価C・連携評価C・遠隔評価A。
「遠距離戦は避けて! 詰めて仕留める!」
暁美ほむらの号令一下。圧縮した魔力を足元に込め、地を蹴り木々を駆け跳ぶ。
刹那、ウワサ空間を照らす照明が
「ほむら! このままだと何もできないよ! どうすんの!?」
「────……」
暁美ほむらは思考をそのまま念話で垂れ流す。
「……これでどう?」
「────名案じゃん」
暗闇の中、暁美ほむらと美樹さやかの視線が合ったような気がする。刹那、半球膜の後方に孔を開けた暁美ほむらと美樹さやかが脱出。その上ラルトスの
『十秒で決めるッ!!』
発散跳躍、音速爆走。木の枝を踏み越える美樹さやかは構築増殖魔力で多数生成した
時が動き出す。敵部隊の沈黙を確認。匣兵器にポケモンを収納。暁美隊はセクタートラップが発動する前にセクター5へと侵攻開始。電撃的進軍は一度の失速も許さず継続されていく。
†
♪~The Beginning~♪
第五ステージ《公南に凪ぐ三水神兵の園》のセクター5に鼓星隊が現着。
そこは南凪区の神浜公園一帯を模したステージ。
地形は平坦な芝生と砂地。遊歩道の周囲に木々が並ぶ。
隊長は鼓星かずみ。副官は夏目かこ。隊員は綾野梨花、竜城明日香、千秋理子、アシュリー・テイラー、入名クシュ。
オペレーターから内務通話が入る。
『セクター1から4で落とし損ねた黒羽根が合流し、セクター5と連携を取っていると思しき光景を観測手が捉えた。挟撃の恐れ有り。気をつけて』
『了解!!』
全ての部隊には、
「一応、砲撃支援の準備をお願いします」
『了解。砲撃地点の指図と要請があればすぐに』
前方1kmに敵部隊を目視。同じくしてオペレーターから敵戦力の分析結果が開示される。
黒橙羽根Aの攻撃手B級・黒赤羽根Aの攻撃手B級・黒青羽根Aの射手D級・黒緑羽根Aの攻撃手A級・黒黄羽根Aの攻撃手C・黒紫羽根Aの射手A・黒藍羽根Aの攻撃手B級。
白黄羽根は治癒系の魔法持ちで槍使い。赤魔力も保有。
総括:前衛5名+側衛1名・中衛2名。総合評価B・連携評価D・遠隔評価E。
「前方部隊は正面突破で蹴散らします」
前方部隊は遠距離攻撃手段に乏しい。しかしそれはこちらも同様。ならば接近戦に持ち込んでゴリ押しで突破する。次いで夏目かこは情報を求む。
「念のため追撃部隊の詳細をください」
以前のセクターで倒しきれなかった、またはセクター突破を重視したことで無視した敵は、全て記憶している。だが一応、記憶に間違いかないか確認。オペレーターは、標準装備として神の羽に配ったディスプレイコンタクトにデータの一覧を映す。
黒橙羽根Bの攻撃手A級・黒赤羽根Bの狙撃手A級・黒青羽根Bの狙撃手B級・黒緑羽根Bの万能手C級・黒黄羽根Bの攻撃手C級・黒紫羽根Bの攻撃手A級・黒藍羽根Bの狙撃手C級。
入名クシュの複製魔法少女は、吸血系の魔法持ちで双剣使い。仮称:偽クシュ。スタンドは時短能力。
千秋理子の複製魔法少女は、誘導系の魔法持ちで槍使い。仮称:偽理子。スタンドは隆起能力。
総括:前衛3名+側衛2名・中衛1名・後衛3名。総合評価A・近接評価A+。
「明日香さんだけ背後の狙撃諸々を警戒。それ以外、背後は無視です。追いつかれる前に突破しますッ!!」
『了解ッ!!』
前方部隊との相対距離が200mを切った。綾野梨花はコンパクトを開いて分解魔力の光線を打ち出す。その中に飛び込んだ鼓星かずみ・夏目かこ・千秋理子・入名クシュが四重コネクト。硬化・鎮静・遮断の魔力を調和させた四重障壁を背中に張って、分解光線から身を守りつつ、光線の中に身を潜めて敵陣に自らの体を打ち込む。着弾、爆発、爆風。前方部隊は一斉に退避。土煙が晴れるのを待つまでもない。白黄羽根が分析魔力を地に流す。クレーターの中央には、武器の先端を地に突き刺して硬直する四人の姿。分解光線の奔流に耐えた四人のうち、千秋理子は夏目かこの体に触れて発散魔力を流す。夏目かこは誘導魔力を発散、指定物体はソウルジェム。前方部隊のソウルジェムが、二人の下に引き寄せられるように、ローブの中の衣服から浮かび上がる。前方部隊はそれを阻止すべく必死に魔力を回す。
ソウルジェムには抗魔力と呼ばれる免疫のようなシステムが備わっており、魔力を帯びるだけで他者の魔力を弾く効果がある。
しかし千秋理子の
そして入名クシュは夏目かこの体に触れて増殖魔力を流し込み、夏目かこと鼓星かずみがコネクト。夏目かこは栞槍の投擲モーションに入りながら、構築魔力による再現魔法を行使。自らの分身体と栞槍を一つずつ構築再現し、それを七つまで増殖。全方角に向けて円陣を作るように出現した、本体含む八体の夏目かこは、破壊魔法が込められた硬化栞槍を全力投擲。放物線を描く八本の栞槍は、セクターの端に着弾。直後、八本の栞槍は黄金の
その間、竜城明日香は椀飯振舞の働きを見せていた。グラスホッパーで変則的な攻撃を仕掛ける黒橙羽根Bの二刀流スコーピオンを完璧に凌ぎ、黒紫羽根Bの射程40m旋空弧月を跳び躱す。もし受けていれば遮断魔力で斬撃性能を増していた一斬で胴体を横薙ぎにされていた。されど逃げた先は無防備な空中。黒赤羽根B・黒青羽根B・黒藍羽根Bの狙撃。それぞれ
────発散魔力励起、規律順守魔法。
竜城明日香の周囲に存在するモノすべてが“敵を倒すならソウルジェムを狙うべき”という規律を遵守する。竜城明日香のソウルジェムは帯留め。腹部のへその位置に有り。ふと、噴射
────敵の攻撃の迫る部位さえ明解ならば、後の対処は容易い。
それを自信を持って言い切れるのは、自らが達人であると驕らない、真の達人なれば。
噴射マンティスは後ろ右腰から
竜城明日香の体勢は着地から身を起こす直前。右足は前、左足は後ろ。これが運動会ならば、下半身だけはよーいドンのポーズと言える。
薙刀の構えは、左足の近くに穂先が上向き。右手を穂先寄りの柄に。右脇の下に柄の中心を通し、右腕の腹に
この姿勢、この体勢、この位置。ならば竜城明日香の取る行動は一択。武身一体。
軸足は右。薙刀の穂先を地に滑らせつつ、かかとを上げた左足を右足小指の後ろに。攻防一体の歩法は、左肩30cm先の炸裂弾に切り込みを入れつつ、竜城明日香の身体を反転させ、眼前に黒橙羽根Bを捉える。薙刀の一回転が済んだ一瞬、穂先の位置は竜城明日香の左脇腹に置かれる。そこは即ちマンティスと旋空弧月の集中位置。噴射マンティスと硬化旋空弧月は、一瞬で30cm後退した臍のソウルジェムに追いつかず、鎮静穂先の前に阻まれる。甲高い音を鳴り響かせるのも束の間、竜城明日香は優雅に流れるように二瞬目の所作に突入。
リング点火、雨の炎を刀身に帯びさせる。軸足は右のまま。上半身を左にひねりつつ、穂先を上げて薙刀を一回転。無駄のない洗練されきったほんの一動作は、竜城明日香の身体を反転させ、眼前に黒黄羽根Bを捉えると同時、穂先の軌道は絵画に大きな絵筆で円を描くような形となっていた。雨の炎を帯びていた刀身の旋回は、
かくて武身一体の終息位置は、さながら着剣捧げ銃の敬礼に近い。左足が前、右足は後ろ。右手は柄を添え握り、右腕はガッツポーズの構え。右肘に左手首を通し、左手の指は柄に対して示指・中指・薬指、そして小指とその腹を添えている。
二瞬に及ぶ攻防一体。その終了を知らせるように、弾体に切れ目を入れられた活性炸裂弾が不安定となり爆発。竜城明日香は前方に鎮静魔力を発散。爆薬の威力を鎮静化しつつ、大きく後退して活性炸裂弾の直撃を回避。黒橙羽根B・黒緑羽根B・黒黄羽根Bは規律遵守魔法の影響で回避行動すら取れず、活性炸裂弾の爆発に巻き込まれて重傷を負った。
「おいおいおいおいおい。なんや今の、頭と体の回転なめらかすぎやろ」
一秒にも満たない攻防。それを刮目した黒紫羽根Bの両目には、
「死中に活を求む。それが竜真流の……いえ、武士の神髄なれば!」
竜城明日香の咆哮。それと共に放たれる黒紫羽根Bの旋空弧月。さらに黒藍羽根B・黒青羽根B・黒赤羽根Bの三重狙撃。その全てを竜城明日香は、刃で受け流し、叩き、回し払い、斬り流す。二度目の旋空弧月と三重狙撃は、綾野梨花とアシュリー・テイラーを狙うものでもあったが、これすらも難なく打ち落とす。
その時、夏目かこの八本投槍により、全てのセクタートラップが破壊された。同時、追撃部隊の最後尾にいた複製魔法少女が二体、ペルソナカードを光らせてスタンドを発現。
「回復に時間が掛かった」
「倍返しだ!!」
偽クシュは時短能力で、セクタートラップの発動時間一分を短縮。即時発動を誘発する。しかし全てのセクタートラップは破壊し終えているため無意味。何も起こらない。
偽理子は隆起能力で、竜城明日香の足元にある地面を五階建てビル程度の高さまでせり上げる。ならばと竜城明日香は跳躍退避。綾野梨花やアシュリーと合流。隆起した立方体の地面によって、敵狙撃手の射線が切れた今が撤退時。
「複製魔法少女は連携を取れんのがアレやな」
黒紫羽根Bの旋空弧月。射程40mの長大飛翔斬撃は、質量の塊である土くれの立方体を一刀両断。袈裟斬りにして切り崩した。
夏目かこが合図する。それは指揮系統の明確性を、隊員に対して何度も確認するための呼び声。
「かずみさん!」
「うん、前進!!」
鼓星かずみの号令一下。鼓星隊はセクター6へ全力疾走を開始した。
後ろから相次ぐ狙撃は、竜城明日香とアシュリーの熊之介が撃ち落とす。
とにかく前へ、とにかく先へ、とにかく奥へ。止まるな。止まってはいけない。
遅れることは誰ひとりとして許されない。三巨悪を完膚なきまで討ち滅ぼすまでは。
†
第六ステージ《南に凪ぐ遊園帝国》のセクター6に十咎隊が現着。
そこは南凪区のミナギーランドを模したステージ。
地形は、大別してカントリー・ウエスタン・アドベンチャー・バザール・ランド・タウン・ファンタジーの七つ。そしてセクター6はウエスタンに位置する。
隊長は十咎ももこ。隊員は水波レナ、秋野かえで。
敵部隊を目視。同じくしてオペレーターから敵戦力の分析結果が開示される。
黒橙羽根の攻撃手B級・黒赤羽根の射手A級・黒青羽根の狙撃手A級・黒緑羽根の銃手A級・黒黄羽根の攻撃手A級・黒紫羽根の攻撃手C級・黒藍羽根の銃手B級。
白紫羽根は超視力系の魔法持ちで狙撃銃使い。
アグレッサー・モスカ、1体。
総括:前衛3名・中衛3名+側衛1名・後衛1名+側衛1名。総合評価A・連携評価D・中距離評価A+。
まず十咎ももこが分析魔力で地形操作。床下に隠し機銃と地雷を発見。秋野かえでは植物生成魔法で木々を生やし、硬化魔力で補強。敵の発散高速
その間、秋野かえでの一時消去魔法。十咎ももこが世界から消える。硬化魔力で身を守る秋野かえでは樹木の壁から飛び出て身を晒す。それに釣られた黒青羽根が銃狙撃。秋野かえでの側頭部に命中し、衝撃のあまり地を転がる。刹那、忽然と現れた十咎ももこの活性狙撃が黒青羽根の狙撃銃と右腕、右半身を吹き飛ばした。直後、白紫羽根の超長距離狙撃。血を流しつつ起き上がる秋野かえでは一時消去魔法で十咎ももこの姿を消しつつ屋内に駆け込む。狙撃された弾丸は何もない場所に着弾。
水波レナとアグレッサー・モスカの激突。水波レナは発散魔力による高速移動で、両手指による五連装マシンガンの一斉掃射を回避。圧縮粒子砲の一撃は水波レナを狙うと見せかけて、秋野かえでが逃げ込んだ屋内を狙い、命中。建物が跡形もなく爆破する。木屑舞う黒煙からモスカを睨んだ水波レナは発散投槍。アグレッサー・モスカの胴体を貫いて稼働不能状態に持ち込む。
その頃、世界に出現した十咎ももこは活性魔力で跳躍疾走しており、白紫羽根の背後を取っていた。脊椎に突きつけた大剣の先端から分解魔力を流し込み、意識喪失を促す。
水波レナは中衛3名も瞬く間に片付ける。槍で刺すと同時、鎮静魔力を流し込んで動きを鈍らせる。これの繰り返しで確実に弱らせ、最後はありったけの鎮静魔力を叩き込んでソウルジェムを鎮静化。眠らせる。
チームももこはソウルジェムを回収し、保存用匣兵器に収納。セクター7へ移動する。
†
第七ステージ《南に凪ぐ異海皇国》のセクター7に常盤隊が現着。
そこは南凪区のミナギーシーを模したステージ。
地形は、大別してディスカバリー・アメリカン・アイランド・ポルトフィーノ・デルタ・ラグーン・アラビアンの七つがある。セクター7はポルトフィーノに位置。外観はセレブリティな港湾都市。
隊長は常盤ななか。隊員は純美雨、志伸あきら。
敵部隊を目視。同じくしてオペレーターから敵戦力の分析結果が開示される。
黒橙羽根の銃手A級・黒赤羽根の万能手C級・黒青羽根の前衛銃手A級・黒緑羽根の攻撃手A級・黒黄羽根の攻撃手B級・黒紫羽根の銃手C級・黒藍羽根の銃手B級。
白藍羽根は使役系の魔法持ちで刀使い。
魔女反応感知。データベース参照。仮称:砂場の魔女とその手下。火属性。本体:没頭性質。手下:電車ごっこ性質。本体の砂嵐攻撃と手下の群体攻撃に注意。
総括:前衛4名・中衛3名・後衛1名+1体+群体。総合評価A・連携評価C。近接評価A・中距離評価A。
常盤隊のアイコンタクト。とある役割を担う志伸あきらは後方の遮蔽物に身を潜めて待機。手の甲のソウルジェムに発散魔力を貯め続ける。その護衛として純美雨が周囲を警戒。常盤ななかは単身敵陣に殴り込む。
建物の屋根に立つ黒橙羽根の
常盤ななかは分析情報をオペレーターと共有。オペレーターを経由して仲間の
────偽装魔法。
青い魔力が閃光のように瞬いた刹那、幻影から躍り出た五体満足の常盤ななかは、
一方、その直前。純美雨は共有情報から
志伸あきらの動揺。ダミービーコンは魔力パターンの感知を阻害する。常盤ななかの魔力パターンに似せた青魔力が一斉に場に現れたのだ。鎮静魔力は属性の中で最もスピードが遅い。発散魔力で走査しても大雑把な位置しか掴めない。一瞬の躊躇。ならば視覚情報で常盤ななかの位置を捉えれば良い。が、視線の先には純美雨と黒紫羽根・黒藍羽根の三人の体があり、戦闘で交錯する三つの体の隙間から垣間見える十数メートル先に、常盤ななかの衣服らしきものと黒緑羽根・黒青羽根らしきローブが二つ翻っている。困惑。
純美雨は、仲間の射線に入っていることは理解している。むしろあえて仲間の射線に入ることで、これから志伸あきらが何をしようとしているのかを敵に悟られないよう立ち回っている。後方待機しているのだから、誰もが遠隔攻撃を予想する。ならば誰もが回避行動を準備する。だからこそ、予想は可能でも回避は不可能という攻撃を成立させるため、二人はタイミングを合わせる。純美雨が飛び退く。それと全く同じタイミングで、志伸あきらはあることをしなければいけない。しかし常盤ななかの敵に照準が合わせられないまま実行すれば、下手すると常盤ななかを巻き込んでしまう。二瞬目のためらい。連続する躊躇は、脳が攻撃中断の決断を正当化させようと、心を迷わせる。
やはり魔力パターンで位置を探るか。大雑把でもいい。しかし前述したように、いまさら常盤ななかの位置を走査しても、それには時間が掛かる。詳細に走査すれば数分。大雑把でも数秒。青魔力は魔力速が致命的に足りない。やはりダメだ。オペレーターにも期待はできない。オペレーターは戦闘員と視覚共有し、その情報をもとに戦場を俯瞰している。だが基本的に把握できる情報は魔力属性のみ。俯瞰図の盤面を動き回る魔力色の一つ一つに“この青魔力は常盤ななか、この青魔力は純美雨、この青魔力は志伸あきら”とマーキングすることで個体を識別している。この一秒で爆発的に増えた十数個の青魔力を、視覚情報をもとに一から精査してマーキングするだけでも数十秒かかる。
思考に余裕はない。緊張で世界が遅延して見える。純美雨が飛び退いている。志伸あきらは撃たなければならない。だが、撃てない────
「迷うな!! 私ごと撃てッ!!」
刹那、口を荒げる常盤ななかの激昂命令。われに帰った志伸あきらはリーダーの言葉を信じ、仲間の窮地をその身ひとつで打ち砕く。それは道場で学んだ必殺技。弱点を克服するべく修得した魔力練度の極意。拳が武器だというのに、手の甲には魔法少女の急所たるソウルジェム。ソウルジェムの真実を知る常盤ななかが、今まで志伸あきらを前線に出したがらず、鎮静や発散による魔力支援で充分だと言っていた理由が、ようやく分かった。それでも志伸あきらは仲間の役に立ちたい。かと言って今更、マギウスとの決戦が近付いているというのに、慣れない遠距離武器で修行する時間もない。その時、一人の極限少女が助言してくれた。彼女は空手家ではなくボクサーだったが、志伸あきらに必要な言葉をかけてくれた。
────好きな空手を辞める必要はない! とことん空手で押し通せばよいのだ!
どうやって? 最初はそう思っていた。でも彼女の言うことは尤もだった。
────魔法があるならなんでもできる! 悪魔に頼まれなくとも、お前になら見せてやっても良い。このライオンパンチニストの、極限の熱き魂の拳を!!
手の甲のソウルジェムに限界まで貯蓄した発散魔力。魔力の臨界点ギリギリを攻めるレベルまで溜め込んだそれを、空手の正拳突きで一点解放。目標、雑に前方。標的、ほぼ確認してないけど、仲間を信じてぶちかます。
「いっくぞぉ!! ────《
刹那、蒼き白虎が極光の咆哮を轟かせた。セクター7を縦断する超圧縮発散魔力の一撃。大地は抉れ、建物は
白く光り輝く視界。明滅する視野が開かれた時、豪奢な港湾都市は一変、真っ平らな更地というよりも、大地の土が掘り返されてよく耕された田園風景のような景色に様変わりしていた。セクターの最奥部には、ウワサの壁を突き破って吹き飛ばされた黒羽根6人と、魔女とその手下を使役していた白藍羽根が1人、さらに砂場の魔女の手下と連携し、不意打ちを画策していた黒赤羽根が、まとめて転がって気を失っていた。
青魔力は属性の中で最も鋭性が低く、鈍性が高い。故に殺傷能力は低め。銃弾で例えるなら、ほかの魔力は鉛玉なのに、青魔力だけゴム弾のようなもの。七海やちよや常盤ななかに代表されるように、意識的に鋭性魔力を使い、魔力を圧縮すれば、ダイヤモンドを切り裂くほどの殺傷力を持たせることは可能。だが今回の志伸あきらは鈍性魔力を意識した。閃光弾のような一撃を受けた敵は失神。命を取らず最大戦果を取る神の羽の方針としては、百点満点の決着だった。
「────ふぅ……終わった────って、ななか! ななかは!?」
「……やぱり、あきらのそれは何度見てもヤバイネ……」
「私は無事です。そして同感ですね。一撃で戦局を引っくり返す……戦略を戦術で覆すなんて、本来あっては困る代物なのですが……正直なところ、あきらさんが敵でなくて良かったです」
と言いつつ、魔法衣装がボロボロの常盤ななかがしれっと戻ってくる。敵と攻防中のさなかに狙撃された戦略級大砲の一撃を、どうやって躱したのか。
「水野むくさんの助太刀魔法を盗みました。完璧に盗めて開発したわけではないため、単なる
常盤ななかの修得魔法《刀転移》────自らの魔法武具の近くに転移する魔法。黒緑羽根との攻防時、常盤ななかは短刀を投擲。それは志伸あきらの砲撃の射程外に突き刺さる。あとは長刀のみで鍔迫り合い、位置関係で黒青羽根の射撃を妨害。そして黒橙羽根の射撃が飛んできた瞬間、志伸あきらの
「肉体深部にダメージはありません。戦闘行動に支障はないので心配なさらず。──それではオペレーター。常盤隊は、これよりセクター8へ侵攻します」
†
【────おかしいとは、思わないのか……?】七瀬ゆきか
第八ステージ《南に凪ぐ逆三角錐の展示場》のセクター8に静海隊が現着。
そこは南凪区のコンベンションセンターを模したステージ。
地形は大広間と大階段、逆
隊長は静海このは。副官は遊佐葉月。隊員は三栗あやめ。
今まで黒羽根7人のチームと、白羽根1人+その他の七陣営を倒し、数々のセクタートラップを乗り越えて、七つのセクターを攻略してきた。1ステージにつきセクターは15個。ここが折り返し地点となる。そして常闇騎士団のデータベースに記載されていた情報の通りなら────
────刹那、赤黒い雷気が地を穿つ。浮遊城の低面が爆発し、降り注ぐ瓦礫、荒れ狂う暴風。巨大な質量の何かが着地する轟音。荒々しい息遣い。獣臭いニオイ。土煙の中で揺れる獣影。次の瞬間、砂塵を吹き飛ばす咆哮が上がり、静海隊は思わず耳を塞いで硬直する。そして眼前に現れたのは────
『“獄狼竜”ジンオウガ亜種! 速やかに戦域を離脱してください! 奴は
漆黒の体躯。頭部から背筋を通して尻尾まで生える
直後、浮遊城の中心が爆発、全ての襖が吹き飛ばれて建物が燃え上がり、爆炎に包まれる浮遊城が崩落を始める。次いで突然、天守閣の奥座から竜の顔が突き出した。狭い場所に閉じ込められた鬱屈と憤怒を解き放つべく咆哮を上げた竜は、全てを灰燼に帰す火球を吐き出し、浮遊城内部から脱出。雄大な両翼を広げて大空へと羽ばたき、ふと目に付いたジンオウガ亜種に八つ当たりを決行する。
『“火竜”リオレウス! くちから吐き出す火球に気をつけてください!』
数百メートル上空を飛ぶリオレウスは、一方的に火球を連発して絨毯爆撃。一発の火球が着弾するたび、熾天極める炎熱が大地を溶かし、上昇気流が発生して雷雲を形成、爆風が一切合切を吹き荒らし、竜巻と化した爆風に煽られて吹き上げられた全てのものが落雷に打たれて焼き焦げる。その炎熱はリオレウス自身の喉をも焼き切る温度だが、恐るべき再生能力によって喉の負傷は瞬時に治る。そして再びの火球連射。
されどジンオウガ亜種は臆さない。首を伸ばして上空を観察。全ての火球を跳び躱し、体内に蓄電した竜気によって龍殻を形成。赤黒い龍光を身に纏うことで装甲を作り、爆風と落雷から完璧に身を守る。
しかして飛竜と牙竜の咆哮と激突。爆熱と赤雷が渦巻く怪獣大決戦の傍ら、静海隊は敵部隊を目視。
「嘘でしょ……何がどうなって……この状況で挟撃されるの?」静海このはの狼狽。
「やるしかない。むしろ今までがチュートリアルだったんだ。二人とも、準備はいい?」遊佐葉月の決意は固い。
「あたぼーだ! やってやんよ!」三栗あやめはフルスロットルで魔力を回す。
同じくしてオペレーターから敵戦力の分析結果が開示される。
黒橙羽根の前哨狙撃手A級・黒赤羽根の攻撃手C級・黒青羽根の攻撃手A級・黒緑羽根の銃手B級・黒黄羽根の攻撃手A級・黒紫羽根の狙撃手B級・黒藍羽根の万能手B級。
白橙羽根は拘束系の魔法持ちで縄使い。
モンスターは“獄狼竜”ジンオウガ亜種、“火竜”リオレウス。
総括:前衛3名・中衛2名+側衛1名・後衛2名、ほか竜種2体。総合評価EX(B~S相当)・連携評価D。
『敵モンスターは仲間割れ。あの様子では羽根との連携は不可能と予想。四つ巴の戦局想定を試みます』
「最悪、連携や三つ巴も計算に入れといて。羽根に使役魔法持ちがいたら厄介だ」遊佐葉月の指示が飛ぶ。
エリア中央から全域に掛けて縄張り争いをする獣竜が二体。いつ戦いに巻き込まれるか分からない状況。出来るなら戦闘を回避して突破したいが、敵部隊はきっちり次のセクターへ進むゲートの前に陣取っている。不意に静海隊の背後が爆発。散発的に吐いた火球が着弾し、赤黒い雷気が空間を切り裂いて地を抉った。立ち止まれば死。走るしかない静海隊はアイコンタクトで役割分担。静海このははモンスターによる不意の一撃を防ぐため後方警護。三栗あやめと遊佐葉月が敵部隊を相手取る。
三栗あやめが無敵魔法を行使。頭部・心臓・ソウルジェムの三点に掛ける。四肢が砕けようとも魔力を回せば再生する。急所さえ守っていれば戦闘継続は可能。黒橙羽根と黒紫羽根の狙撃。ソウルジェムは噴射
前衛と激突。黒赤羽根の鍔付き孤月で受け止められる。刹那、横手40mの位置から黒青羽根が旋空弧月。活性魔力を脚部に回して伸縮斬撃を跳躍回避した三栗あやめは敵頭上を飛び越えて黒赤羽根の背中をかかと蹴り。そこへ黒緑羽根の硬化
「あちしが暴走した時は頼んだ、デカヌチャン……!!」
────三栗あやめのドッペル化。突貫の半魔女が顕現。その姿は引き金。ピンク色の
ハンドルのアクセルを回せば
「アァアアアアアアアアアッッッ!!!!」
『
三者の絶叫咆哮。三栗あやめとジンオウガ亜種の激突。追尾する棘付き防風は、大空を飛ぶリオレウスの頭部に激突、角を一撃で破壊して撃墜。次いで赤黒い竜気が落雷、地を貫通して三栗あやめのドッペルとを撃滅し、下半身を吹き飛ばす。ジンオウガ亜種は追撃を仕掛けてトドメを刺しに飛び上がる。すかさずデカヌチャンが分解デカハンマーでジンオウガ亜種の顔面を打ち砕き、大きく吹き飛ばした。打ち上げられながら中空で身を反転させたジンオウガ亜種は着地と同時に赤雷を迸らせて不屈の追撃。デカヌチャンは主を守るためラスターカノンを放つ。鋼エネルギーと龍属性エネルギーの激突は、爆発、大地結晶化、爆雷と爆風は物質を燃やし、粒子と瓦礫を巻き上げて土埃の雲海を形成、轟轟落雷。赤黒い天変地異が突如発生し、セクター全土が撃砕する。
極限の暴風の中で倒れる三栗あやめ。無敵魔法さえ貫通する分解魔力の雷気は一体何なのか。黒い魔力の性質は不明だが、オペレーターは龍属性の再現と推測。遊佐葉月は電流走査魔法で分析。黒い魔力の性質は炎熱貫通。静海このはは、ジンオウガ亜種は三栗あやめの無敵魔法を突き破る危険な存在と認定し恐れ、幻惑魔法を行使。辺り一帯を構築魔力の濃霧で包む。
既に敵部隊はドッペルのゴリ押しで殲滅した。これ以上危険地帯に留まる必要はない。遊佐葉月は電流走査魔法で、意識を失っているのに動き出そうとする三栗あやめの身体に電流を流し、麻痺させる。電撃の麻痺で硬直した隙を突いて、静海このはの鎮静魔力がソウルジェムに注ぎ込まれる。鎮魂によるドッペル解除。すかさず遊佐葉月の活性魔力で、三栗あやめの吹き飛ばされた下半身を瞬間再生しつつ意識の覚醒を促し、状況を立て直す。覚醒した三栗あやめはデカヌチャンを匣兵器に収納。ジンオウガ亜種が飛びかかってきた刹那、その横っ腹をリオレウスが飛び込んで噛み付いた。静海隊は二体の激闘の隙を突いて全力遁走を図る。
「静海隊、現セクター攻略を放棄し、セクター9へ突入する!」
†
「そんな……やっとリオレイアを倒したと思ったら……!」
それは七瀬ゆきかの絶望を表した一声。しかし、その表情は言葉に反して恍惚としていた。
第九ステージ《南に凪ぐ別荘の地》のセクター9に七瀬隊が現着。
そこは南凪区の海水浴場近くにある別荘地を模したステージ。
地形は砂浜と海岸、高速道路と岬の別荘地。セクター9は岬の別荘地に位置する。しかし、とあるモンスターの生息によって砂色と青色の環境は激変。そこは焦げ付いた黒土と岩溶けたマグマの赤海と化していた。
隊長は七瀬ゆきか。隊員はミザリー立会人、水樹塁、香春ゆうな。
敵部隊を目視。同じくしてオペレーターから敵戦力の分析結果が開示される。
黒橙羽根の銃手C級・黒赤羽根の狙撃手B級・黒青羽根の狙撃手A級・黒緑羽根の攻撃手A級・黒黄羽根の銃手B級・黒紫羽根の前哨狙撃手A級・黒藍羽根の万能手B級。
白赤羽根は偏差射法系の魔法持ちで銃使い。
モンスターは“炎戈竜”アグナコトル。
総括:前衛1名+側衛1名・中衛2名・後衛3名+側衛1名。ほか竜種3頭。総合評価A・連携評価D・遠隔評価S。
七瀬隊の視界を埋め尽くす溶岩大地。三頭の竜種は縄張りを共有しているのか、馴れ合いはしないものの互いに争う気配はない。それは溶岩の殻を纏う
『“炎戈竜”アグナコトル! 体内から分解魔力濃度100%を検知! 赤魔力は無効化されます! 体液としてばらまくマグマに注意してください!』
マグマをばらまく生態を持つなんて、極限環境生物すぎて笑えてくる。七瀬ゆきかの釣り上がる口角。黄色い魔力を輝かせるレイピアを引き抜いて、いざ溶岩地帯を駆け抜ける。
「三人は変わらずサポートをお願いします!」
七瀬ゆきかの一騎当千。常時発動型の逆境活路魔法が、七瀬ゆきかの窮地を知らせて魔力圧・魔力速を飛躍的に引き上げる。活性魔力を全身に帯びて全能力を急上昇、逆境活路魔法で高ステータスを維持。開匣────
別荘の屋根に匍匐する黒青羽根の偏差
『解析完了!
オペレーターが当該トリガーの詳細を説明しようとするが、流動的な戦いの中でそれを聞き取るほど七瀬ゆきかの能力は高くない。姿勢が崩れた七瀬ゆきかのソウルジェムに二種類の狙撃が飛ぶ。黒赤羽根はグラスホッパーで高速機動し、大きく西に回ってからの分解
ソウルジェムが割れなければ魔法少女に死は訪れない。あらかじめ全身に帯びていた活性魔力が回転。吹き飛ばされた頭と体を瞬間再生。中空で回転する体が着地と同時に疾走開始。七瀬ゆきかは失速せず、中衛の射程圏内に突入。黒橙羽根の噴射
七瀬ゆきかは中衛を護衛する黒藍羽根に突進。射程15mを切ろうとする刹那、黒藍羽根の旋空弧月が活性
『
よく分からないが、射出前に設定した任意の方向にいくらでも曲がる弾らしい。弾体と噴射剤が尽きなければ、どこまでも使い手の思考通りに弾道を引いてくる。そして七瀬ゆきかの逃げ先を読んでいたのか、黒藍羽根がグラスホッパーを使って跳躍接近、踏み込み旋空弧月で射程20mの拡張斬撃を浴びせてくる。さらに総火力を出すため狙撃手と銃手が連携。同時狙撃はもとより多種多様な属性の追尾弾が迫り来る。
その時、爆熱の嵐がセクター全体を席巻した。
『ッ!!?』
香春ゆうなの固有魔法・屈服。それにより一頭のアグナコトルを服従させた。高圧熱線で戦場両断。大地爆砕、火砕流の津波が襲い来る。全員は回避行動を余儀なくされるが、七瀬ゆきかだけは違った。死ぬ気の突撃を敢行。拡張斬撃で切られた腹部の切断面を瞬間癒着しつつ、黒藍羽根の胴体を突き刺して活性魔力を集中。黒藍羽根の体内が爆発してローブが吹き飛ぶ。空中を回転するソウルジェム。不意にミザリー立会人が現れるとソウルジェムを掴んで忽然と消え去る。神出鬼没のウワサさんはソウルジェムの回収係。黒緑羽根は
が、突として正面の防壁が切り刻まれ、マグマによって顔がドロドロに溶けた七瀬ゆきかが防壁を蹴破って顔を出す。マグマを浴びたおぞましき異形、溶け落ちた目玉が黒緑羽根を射抜く。マグマを浴びてなお進撃を選ぶ狂気。その恐怖に竦んだ黒緑羽根は腹部に一撃、拳をもらう。活性魔力を注入された瞬間、爆発、大きく吹き飛ばされて地を転がり押し寄せるマグマの浅瀬に沈む。不意に神出鬼没のミザリー立会人が現れ、融解して灼けていくローブの中をまさぐり、ソウルジェムを回収、忽然と姿を消す。
残るは中衛と後衛。ふと電撃と爆炎が地を砕き、雷雲の竜巻が空間を浚う。咆哮を上げる一頭のアグナコトルとピカチュウの死闘。二頭目のアグナコトルは香春ゆうなが従えている。三頭目のアグナコトルが中衛の黒羽根を襲撃。地中から飛び上がったかと思いきや、黒黄羽根を喰らって地中に潜り込む。
『っ!?』
七瀬隊は驚愕する。モンスターハンターのモンスターに変身させられた魔法動物たちは、完全な統制が取れているわけではないのか。
『────敵性黒黄羽根。魔力パターンの喪失を確認しました……』
それはソウルジェムの反応が消えたことを意味する。アグナコトルの喉の中、腹の中で、超高熱の分解魔力に灼かれて死んだことを意味する。
茫然自失と立つ七瀬ゆきかは、かつてマギウスに洗脳されていた頃の出来事をフラッシュバックしそうになるが、敵はそのいとまを与えない。三重狙撃を活性回避、黒黄羽根がアグナコトルに喰われて死んだというのに、敵部隊は戦闘続行する。
「────おかしいとは、思わないのか……?」
震える声で衝いてこぼれた疑問。そう、おかしいとは
故に、自分がその疑問を口にする資格はない。かつて確殺賭博場ミネルヴァで、自分は悪魔を殺そうとした。みかづき荘の人々を殺そうとした。自らもマギウスの為だと、当たり前のように命を賭けて死のうとした。
七瀬ゆきかの目付きが絶望に閉じる。だが、次に開かれた眼は────本当の正しさを求め続ける闘志を燃やしていた。
命懸けで戦っているのは今も変わらない。だが少なくとも、この戦いに挑んだのは自らの意志だ。贖罪の意味もある。恩返しの意味もある。しかし今だけは、本当の意味で、自分のためだけに戦わせてほしい。
「何が魔法少女の救済だ……結局はマギウスが好き放題やるための兵隊じゃないか……それに気付かない貴方たちの目を覚まさせるために、私はこの剣を執る」
狙撃と銃撃。七瀬ゆきかの肉体が19分割される。
活性魔力励起。七瀬ゆきかの19の肉片が瞬間再生。ソウルジェムの効果範囲は100m。その中でなら、十九人の七瀬ゆきかが存在することも可能だろう。
敵部隊の驚愕。増殖魔力は感知しなかった。活性魔力による肉体の別個再生。十九人の七瀬ゆきかは、ソウルジェムを持つ七瀬ゆきかから100m以上離れないよう、一斉に走り出す。活性疾走、音速突破、肉体は雷光のように、瞬間的に
「
一人あたり秒間百回の高速刺突。十九人ともなれば秒間一千九百回の高速刺突。中空から大地に突き刺さる刺電突雷の散発豪雨は、橙・赤・青・紫の黒羽根と白赤羽根の全身に数万数千個の風穴を空けて肉体を粉みじんにする。しかしソウルジェムは破壊されていない。鋭性に優れる分解と活性を使えば、まず間違いなく一撃でソウルジェムを破壊する威力だというのに、立会人は四人の黒羽根の肉片からソウルジェムを回収した。
話は単純。逆境活路。その魔法の行使先が、四人の黒羽根と白赤羽根だっただけの話。死ななければ負けではない。それは悪魔の姿を見て学んだこと。だからこそ十九人の自分を作り出すという、狂気の
十九人の七瀬ゆきかは着地。一方、ピカチュウも戦闘を終えた。ほぼ瀕死状態だが、一頭目のアグナコトルも瀕死に追い込まれて撤退。二頭目のアグナコトルが地中から飛び出し、ピカチュウに襲いかかる。すかさず水樹塁が天門眼の直死魔法でアグナコトルの尻尾を部位破壊。開匣────
「はぁ、はぁ────七瀬隊! 至急、次のセクターへ進撃!!」
十九人の七瀬ゆきかの焦燥的号令。走り出した七瀬隊は現セクターのモンスター・アグナコトルの討伐を後回しにする。今はとにかく進軍する必要がある。増援が来る前に重要拠点を攻略する電撃作戦の成否が勝敗に直結する。セクターの出口付近で香春ゆうなは屈服魔法を解除。そして七瀬隊は次なる死闘に挑む。
†
【シシシシ指示ヲ……貫通砲レベル
第一ステージ《自由に凪ぐ南の学園》のセクター10に環第一分隊が現着。
そこは南凪区の南凪自由学園を模したステージ。
地形は大学の校舎の中層階。回廊と教室が連なる巨大建造物。環隊がこれを見たのは今回で四度目。基本的に本ウワサ空間と敵部隊の配置は、外周道路・校庭広場・全学年の校舎という三要素で構成される。よってセクターを三つ四つ突破するたび、また別の
隊長は環いろは。隊員は環うい、リリス、万年桜、二葉さな、アイ。
黒橙羽根の銃手C級・黒赤羽根の銃手C級・黒青羽根の攻撃手C級・黒緑羽根の銃手B級・黒黄羽根の狙撃手B級・黒紫羽根の万能手B級・黒藍羽根の攻撃手A級。
白青羽根は強制系の魔法持ちで大剣使い。
モンスターは“海竜ラギアクルス”
総括:
黒緑羽根と黒黄羽根の姿が見えない。かたや
球状の自立型浮遊物体は、あらかじめ供給された魔力と入力された設定に従い、人間にしては少々固い動きでセクター内を移動する。よくレーダーを見ていれば偽物と見破ることは容易いが、ビーコン一つを見破るのに目視五秒から十秒かかる。それを数十回やるのは現実的ではない。戦闘は流動的だ。戦闘員とオペレーターが、その大半の業務を割いてまで取り掛かる仕事とは言い難い。取り掛かれば相手の思うツボだろう。戦闘隊員は
オペレーターは思う。環隊の戦闘員は、あまりレーダーを見ていない。特に環いろはが顕著だ。悪魔の情報によれば、環いろはは機械音痴と聞く。なので機械担当は、オペレーターは当然として、ほかに二葉さなとアイが担うと本隊結成時に
オペレーターは思う。本物の黒緑羽根は光学迷彩を使用しているが、遮断外套は使用していないため、黒緑羽根はレーダー上に映っている。なぜなら光学迷彩の使用中は、他の規格化武装を使用できない仕様となっているからだ。このことは今までの戦闘報告で解析班が割り出した情報である。信ぴょう性は高い。しかしレーダーに映っているとは言え、黒緑羽根は欺瞞信号の固い動きと同じような直線的な動きを繰り返しているため、なかなかひと目で真偽を見分けることができない。やはり数分を費やさねば本物を割り出すことはできないだろう。だがそうすると数分間、環隊はオペレーターの助け無しで戦闘することになる。それだけは避けたい。
このことから本体の割り出しは諦めて──もちろん片手間に暇があれば割り出しに掛かるが──潜伏者は二名と即決。悩むのは時間の無駄だ。加えてオペレーターは、既に欺瞞信号の数が三十個であることを割り出していた。いきなり緑魔力の反応が増えて以降、ずっとレーダーから目を離していない。そのため欺瞞信号の直後、光学迷彩から遮断外套に切り替えて、レーダー上の光点が一つ消失したが、それに気付かなかった……なんてこともない。
環隊の進行方向たる北方では、敵部隊の前衛が待ち構えている。レーダー上では敵部隊の中衛が両翼から挟み込む形で接近中。このままでは十字路の廊下で前と左右から集中砲火を受ける。だが減速は許されない。一時停止も無しだ。環隊は強行突破を敢行。
刹那、点在する
オペレーターの処理能力に限界が来る。おそらく黒緑羽根の巧みな位置誤認戦術は、二葉さなとアイが気付いている。が、その思考は即棄却。オペレーターが決して犯してはいけないことのひとつがリンゲルマン効果だ。誰かが黒緑羽根の割り出しをしてくれるだろう、誰かが黒緑羽根の奇襲に気をつけているだろう、そんな人任せな期待を寄せてはいけない。オペレーターは口を開く。情けないことに黒緑羽根の位置を割り出せない。だが出来る範囲で報告する。
『黒緑羽根の奇襲警戒! 白青羽根とモンスターの痕跡も北方にあり!』
それを聞いた環いろははキモチの使用を想定に入れる。そして既に活性跳躍をしており、十字路を高速で横切ろうとする。対する黒青羽根も既に発散跳躍していた。数百メートルを一歩で音速突破した二人は激突。十字路の中空にて、逆手に持った活性ナイフと両手に持った鎮静孤月が鍔迫り合い、ナイフが滑走、孤月の鍔に当たり、なおも激しく火花を散らす。そこへ怒濤の銃撃。東廊下からは黒橙羽根の
黒黄羽根が、環いろはの着地時の硬直の隙を突いて撃たなかったのは、狙撃警戒されていることに気付いており、環隊の作戦目標を考慮に入れていた事にある。今まで環隊は、とにかく前へ進むことに囚われており、セクターに強敵を残すことが多かった。それは全ての神の羽がそうである。ならば黒紫羽根や黒赤羽根に撃たれても、防御より前進をすると見越した。同じ黄色魔力を使う者として、全身に活性魔力を帯びてから体を起こしつつ跳躍する瞬間は、手に取るように分かる。その瞬間を狙撃させてもらった。────が、黒黄羽根は魔法使用有りなら中堅魔法少女。その上で環いろはと比べると、まず魔力運用の熟練度が違った。
環いろはの頭部が瞬間再生する。分解散弾銃と増殖拳銃で撃ち抜かれた全身も瞬間再生。黒黄羽根の誤算は、自身と相手の魔力量にあった。黒黄羽根は全身に活性魔力を帯びた上で頭部を貫かれた場合、頭部の再生に数秒かかる。しかし環いろはは
不意を打たれた環いろはのソウルジェムにマンティスの刃先が命中するが、あらかじめ二葉さなが掛けていた硬化魔力によって割れずに済む。しかしマンティスの刃先に
昂ぶるモルガナイトの
次の瞬間、環いろはと万年桜の全身がワイヤーのようなものに絡め取られた。
「■■■■────!!!!」
環ういの回収魔法。指定対象は二名の人体。環いろはと万年桜を鎮静
その時、オペレーターから緊急の通信が入った。
『────“副官”シトピ隼人より報告。モンスターによる進軍速度の低下に伴い、緊急ミッションを発令。
本作戦にはいくつかの段階が存在する。通常なら第一段階から第二段階へと続くが、何かしらの緊急事態が発生した場合、それを解決する派生作戦が展開される。そして、今しがた発令された千雷とは、何らかの理由──おそらくモンスターによるものだろうとは予想されていた──によって進軍速度に遅延が見られた場合、七海やちよの対軍攻撃を使って広域殲滅を図る代物である。
刹那、七海やちよの
環隊は、槍の雨によって倒壊していく校舎の崩落に巻き込まれる。遮断魔力をドーム状に覆って降りかかる槍と瓦礫から身を守り、万年桜は誘導魔力を使って環ういとリリスを引き寄せて遮断ドームの中に入れる。しばらくの轟音。外界で砂塵が舞う中、晴の炎の活性を利用して遮断ドームを暴走させ、外側に向けて爆発。爆風で砂塵を晴らす。周囲は瓦礫の山。その上に七海やちよの槍が無数に突き刺さっている。
ラギアクルスはその巨体ゆえ、瓦礫の山の中から全身の一部をあらわにしていた。外殻が貫かれて倒れ伏す海竜は、しばらく動きそうにない。それを見たオペレーターが報告する。
『第一ステージ・セクター
言われるまでもない。一応ラギアクルスの体から誘導魔力でソウルジェムを回収した環隊は全力疾走。転移エリアの外からやって来た増援部隊の追撃を躱して逃げ切り、次々とセクターを通過、
「────環隊、本営に現着! 最終セクターの攻略に当たります!」
地形は大広間。障害物らしき障害物が存在しない。
敵性エネミーを目視。
プラント・モスカ。魔力を最大まで蓄積すると複製シャドウサーヴァントを一騎生産する。だが霊基の霊格によって、生産までに数日から数週間、数ヶ月は掛かるらしく、今のところ生産される兆候は見えない。ただしプラント・モスカを破壊すれば、内部に封印されているシャドウサーヴァントが解放される。生産の特性上、野放しには決してできないため破壊は必須。その後のサーヴァント戦は苛烈を極めると予想される。いずれにせよ邪魔が入る前に、プラント・モスカだけは速やかに始末しなければならない。
環いろはは本営に来るまでの間、クロスボウの宝石に活性・硬化・増殖の三種魔力を蓄積・収束していた。これを一気に解き放ち、
────第二陣営・マギウスの翼。
火無月の
黒橙羽根の攻撃手A級・黒赤羽根の射手A級・黒青羽根の銃手D級・黒緑羽根の特殊工作兵A級・黒黄羽根の万能手B級・黒紫羽根の銃手C級・黒藍羽根の狙撃手A級。
白橙羽根は予知系の魔法持ちで弓使い。
総括:英霊1騎。前衛1名+側衛1名・中衛3名・後衛1名+側衛1名。総合評価A・連携評価C。
────第三陣営・テゾーロファミリー。
光無雨の治癒型射手クロハ。火木無雲の防衛型銃手サン。魔水無嵐の時短型攻撃手ユミリ。
総括:複製魔法少女3名。総合評価A・連携評価C。
環隊とマギウスの翼の前に、突として現れた第三勢力。複製魔法少女からなる小規模のチームは、美国織莉子の未来予知によると“テゾーロファミリー”と名乗っており、ペルソナカードだけでなく、死炎系リングや死炎界の匣兵器を保有している。さらにクロハという者は、黒いフードで顔こそ覆い隠しているものの、その魔法衣装の色以外は環いろはと瓜二つだった。かつて七海やちよの指導を受け、果てなしのミラーズに挑戦した際、ソウルジェムの型を取られていたのだろう。そのデータをもとにマギウスによって大量生産された中の一個体が脱走し、魔法界の少女でありながら死炎界の人間として名乗りを上げ、なぜか今ここにいる。
その理由を、既に環いろはは知っている。美国織莉子から教えてもらった。その上で対話を欠かさない。知っている事は話し合いをしない理由にはならない。一方、白橙羽根も未来予知の魔法を有する。なるべく自分に有利な未来へ誘導するため、白橙羽根は口を挟むべき時まで寡黙に徹する。やがて環いろはの問いかけがあり、クロハが答える。
「──……あなたたちは、何者なの?」
「……ほう? あまり驚いた様子ではないな。傍から見て予定調和に過ぎる戦争だとは思っていたが、なるほど。解せなかった違和感が今を以て氷解した。両方の陣営に未来予知能力者がいるのか。これは滑稽だなぁ? どちらが勝つか負けるか分かりきった戦いほど不毛なものはない。生命とは争いを求める獣なれば、仕方のない顛末ではあるが……」
「質問に答えて。何が目的で、ここにいるの?」
「ふん。その口ぶり、既に知っているのだろう? ならば言わないでおこう。運命を覆してこその魔法少女だ。予知者の予知通りに事が運ばれてたまるか」
その返答は、多少の言葉遣いの差異こそあっても、予知にあった言葉であった。しかしオペレーターはバタフライエフェクトの発生を予測。開戦から既に、未来予知による予知のズレは
一方、黒いモヤに包まれる影霊源為朝は、霊核と霊基の半分以上が曖昧な状態で戦闘行動を開始する。それは半ば理性を失い、理由も分からぬまま聖杯戦争を勝ち抜こうとする、壊れた自走機械の如し戦闘衝動。
「────エエエエエ英霊、キキキ弓兵、ギギ起動……対軍戦闘、モノノフ、殺戮技巧、狂化ユニット……戦闘再開中、シシシシ指示ヲ……貫通砲レベル
鋼鉄の大弓を構え、数人張りの強弓を引き絞り、残存霊基内部に格納された真紅白銀のソウルジェムより、火と月の精神波動を抽出、高密度エネルギーに変換、分解と狂気の魔力を籠めた砲撃を、発射。
総員一斉跳躍退避。着弾後、赫々たる爆発がセクターの中央を粉砕して焼き払う。その一撃は環隊と羽根達、そしてテゾーロファミリーを含む全てを爆風範囲に収めた全体攻撃だった。となればこれは四つ巴。シャドウサーヴァントは敵味方の識別ができない。そもそも魔法で従えられているわけではなく、魔法で捕まっていたところを解放されたのだから、野生の虎が一匹迷い込んだようなものだ。
いったいマギウスは何を考えているのか。全て悪魔によって解決されてしまうなら、自分たちでさえ制御できない化け物を飼うことで、対策したとでも言うつもりなのか。いずれにせよ環隊は勝たなければならない。決戦はまだまだ前哨戦。こんなところでかかずらっていては、到底マギウスのもとには辿り着けない。
『敵部隊の名称統一! マギウスの翼の部隊は“翼部隊”と命名! 第三陣営の複製魔法少女は“複製部隊”と命名! 第四陣営のシャドウサーヴァントは“真名”または“影霊部隊”と命名する!』
影霊源為朝の弾雨。降り注ぐ分解狂気光矢は被弾した者の
不意に姿を消す二葉さなと黒藍羽根。万年桜の疾走。影霊源為朝は霊基半壊で対魔力スキルを失っているため、環ういの修得魔法《
翼部隊の射撃と銃撃。黒赤羽根の百数分割した分解追尾弾の射撃が、複製部隊の頭上に降り注ぐ。側面や背後に回り込もうとする黒青羽根と黒紫羽根の銃撃もまた複製部隊を狙う。環隊が倒れれば、次は翼部隊が倒される。環いろはは実質単身で影霊源為朝に挑み、万年桜も単身複製部隊に挑んだ。傍から見ても無防備な環隊の行動は、環隊より先に複製部隊を倒したい翼部隊を強引に動かし、一時的に味方につける事に成功していた。複製部隊はスタンドで射撃の雨を防ぎ、クロハは雨の炎の鎮静、サンは硬化魔力、ユミリは青魔力の発散で、側面と背後の銃撃を防ぐ。黒藍羽根の光学迷彩狙撃がサンに迫る。刹那、
攪拌。影霊源為朝の極矢掃射。爆撃を受けるセクターに砂塵が舞う。万年桜はサンのスタンド能力を空間拡張と予想。不意にユミリが砂塵に紛れて姿と魔力反応を消す。否、それは姿と魔力反応を消したと勘違いするほどの超高速移動。時短魔法の行使を確認。突として環ういの横っ腹にブレードのついたローラースケートが蹴り込まれて切り飛ばされるも、体の周囲に張り巡らせていた遮断魔力によって無傷。ただし負傷こそないものの、環ういの脇腹が鉄のように変色して重くなる。まるで肉体が鉄化したような感覚。実際に触れても鉄としか思えぬ質感。ユミリのスタンド能力は切断箇所の鉄化と予想。環ういは腰が曲げられず機動力を損なう。そこへ黒橙羽根の二刀流・旋空弧月が閃いた。ユミリの四肢を切断。スタンドの防御スピードが間に合わないほどの高速斬撃。否、再びの時短魔法が行使されていた。防御よりも反撃を選んでいたユミリは、黒橙羽根の頭部にラッシュを決めて、その顔面を鉄化。「脳みそも鉄にしてやったぜ!!」そんなユミリの発言の直後、黒橙羽根は糸の切れた人形のように崩れ落ちた。彼女のカバーに入るはずだった黒青羽根の鎮静
剛弓爆撃。戦場一帯を薙ぎ払う月光の極矢と黄緑の光矢。爆風は全てを吹き飛ばす。環いろはは秒間一回の魔法行使によって、影霊源為朝との攻防を凌いでいる。戦闘開始から十秒が経過。一秒につき“殺された”と思う回数は二回以上。シャドウサーヴァントといえど相手は一騎当千の英霊。勝ち筋の見えない戦いを死の瀬戸際で生き凌ぐ中、既にソウルジェムの濁りは九割に達しつつある。そこへ黒黄羽根の活性
未来予知した白橙羽根が弓を構えて噴射矢を射る。何もない地点を射抜いた瞬間、
環いろはと影霊源為朝の殴り合いは戦場蹂躙と形容すべき死闘になっていた。万年桜とクロハ&サンの疾走攻防。起き上がる二葉さな。後の先を取るべく状況を読む環うい。後方待機する翼部隊。現時点の脱落者は黒橙羽根とユミリ。戦闘時間は開始から十五秒が経過していた。
不意に転移エリア外から第二、第三の翼部隊が増援として到着。七名の黒羽根が二組も来た。突としてクロハとサンは万年桜から距離を取って視線を配る。その意味を万年桜は理解できなかったが、環ういは察した。複製部隊は、マギウスに対して思う所がある。だからここにいる。マギウスに忠誠を誓う複製魔法少女ならファミリーとは名乗らない。加えて自分の名前を持っている複製魔法少女とは、何度か戦ったことがある。敵の敵は臨時の味方だ。どうせ三組のうち勝った二組が殺し合う。ならば共闘しよう。環ういは万年桜を呼び出し、疾走しつつコネクト。橙色魔力と緑色魔力の複合注入で、天空電燕Ver.カイデンを開匣する。カイデンのボルトチェンジ、両翼に黄緑色の電撃を帯びて噴射突進、活性した体で硬化した翼の突撃を影霊源為朝に見舞う。直後、匣兵器に高速で帰還したカイデンの代わりに、彼の魔力を譲り受けたモスノウが開匣。本来は天空氷蛾として橙色の魔力しか持たないが、カイデンのボルトチェンジによって活性硬化の魔力を多少保有しており、ワイドガードを使用。
刹那、剛弓砲撃、船舶破壊クラスの一撃が撃ち込まれる。原型を留めぬほど崩壊するセクター。しかし環隊はワイドガードのおかげで一切の防御行動を取らなくても無傷のままで済んだ。その間に魔力を圧縮フル回転、環いろはの極矢が閃き、影霊源為朝の腹部に殴り込まれる。同時、万年桜の構築し直した硬化ブレード二刀が影霊源為朝の右腕に切り込まれ、環ういの噴射遮断凧が影霊源為朝の左腕に飛来。腹部貫通、両腕切断。霊基の三割を失った影霊源為朝は戦闘行動不能の状態に持ち込まれて停止。黄金の粒子が立ち昇る。しかして活動限界に達した途端、霊核内部のソウルジェムが砕かれて、大海シリーズの
そして影霊源為朝が放った最後の一射は、第二翼部隊を吹き飛ばし、第三翼部隊を半壊させていた。一方、第三翼部隊の残党を狙い打ちした
突として倒れた指揮官と参謀。上司の突然死に戸惑う黒黄羽根と黒紫羽根は、味方部隊とは離れた位置にいたため、そこを万年桜に切り込まれる。万年桜は黒紫羽根の胴体を切り飛ばして誘導魔力によりソウルジェムを奪取。対する黒黄羽根は活性孤月で硬化ブレードを防ぎ、活性拳銃で牽制銃撃しつつ退避。同時、環いろはの光矢から逃げていたクロハとサンは転移エリアの外に離脱した。そして去り際にクロハが一言。
「シャドウサーヴァントは倒したから次だ次! このまま一時共闘してやっから、マギウスをこてんぱんにしてくれよ!」
それが複製部隊の狙いなのか。オペレーターの報告によれば、現在あちこちで似たような複製魔法少女の集団が第三陣営として出現しているとのこと。その全てが一枚岩ではないことも確認が取れている。なんとかというファミリーとなんとかというファミリーが出会い頭に神の羽やマギウスそっちのけで殺し合う場面があったそうな。しかし彼女たちに共通しているのは、神の羽がサーヴァントを倒せば、すぐにその場から離脱して、神の羽が次に狙うエリアへ侵入を開始する点。一時共闘と口々に言うが、どう考えても共闘する気はない。漁夫の利する気は満々で、隙あらば殺してくるだろう。たとえ敵のシャドウサーヴァントをまだ倒せていなくても、殺せるチャンスがあれば殺しにくるはずだ。複製魔法少女とは鏡の魔女が生み出した尖兵。利害を無視して魔法少女を殺す習性を持つことは念頭に入れておく必要がある。そして環いろはは、ひとまずの
「環隊、転移エリア・第一ステージの攻略を完了! 至急、次のエリアへ向かいます! ──うい、このステージの防衛は任せるね! 万年桜さんも、ういをお願い!」
「うん! いってらっしゃい、お姉ちゃん!」
「│ういは絶対に守る。いろはも気をつけて│」
環いろはは二葉さなとコネクト。二人は活性魔力を全身に帯びると跳躍疾走を開始。環ういと万年桜を置いて転移エリアを離脱。新たな戦場──悪魔が囚われていると思しき──監獄エリアへと進軍した。
†
【多量分解────伝播ッ!!】胡桃まなか
転移エリアの制圧完了と同時、神の羽は超電撃的な四面作戦を展開。転移エリアから見て四方の隅。南西部に当たる培養エリア、南東部に当たる複製エリア、北東部に当たる監獄エリア、北西部に当たる調整エリアへ、一気果敢に侵攻を開始する。
†
培養エリア・第1ステージ《名声とどろく玉水の神社》のセクター15に胡桃隊が現着。
そこは水名区の水名神社を模したステージ。
地形は広大な境内。神社の屋根や塀、鳥居の上に黒い集団が垣間見える。
セクタートラップはtype1とtype8が融合したもの。その全てのトラップを分析し、逐次、分解して破壊していく。
隊長は胡桃まなか。隊員は若菜つむぎ。
胡桃まなかは噴射魔力でセクター1から
遥か前方に三百人規模の白羽根と黒羽根とアグレッサー・モスカを目視。転移エリアは防備が薄く、他のエリアの方が厳重に守られている。さらに自律型警備兵としてモスカ・シリーズが各所に配備されていた。本ステージのセクター1から
以上の戦況から、転移エリアでは一部隊から三部隊との戦闘が最大規模だったが、その他のエリアからは文字通りの一騎当千、多勢に無勢の大立ち回りが要求されると推測できる。無双できねば死、あるのみ。神の羽は絶死の戦場にこそ舞い踊る。
直後、オペレーターから敵戦力の名称変更が公開され、分析結果が開示された。
『敵部隊、多数の部隊が連なった大隊へと拡大! 羽根の色識別とアルファベット識別は以前変更なし! ただし敵軍編成の変化に対応し、敵の名称を変更! これより攻撃手隊・銃手隊・射手隊・狙撃手隊を基本に、“その他分類”として万能手隊・工作兵隊・観測手隊などへと、名称を統一する! なお敵軍内部における属性の違いに留意せよ!』
────第二陣営・序・翼部隊。
攻撃手隊C級・銃手隊B級・射手隊C級・狙撃手隊C級。
防衛用アグレッサー・モスカが数百体。門衛用アグレッサー・モスカが道を塞ぐようにして一体ずつ。アグレッサー生成用プラント・モスカとサーヴァント生成用プラント・モスカが、本営の隅に逃げるようにして一体ずつ。
ちなみに
だがその最たる特徴は、武装が
そのため各種アグレッサー・モスカには、数種類の武装タイプが存在する。侵攻用および防衛用のアグレッサー・モスカには、
以上の情報は、常闇騎士団のデータベースと全く異なる。美国織莉子が嘘を吐いたのだろうか。だが悪魔が信憑性を確認したと報告している。ならば悪魔が嘘を吐いたのか。彼の叛逆魔法なら、エッダの読心魔法を封じる事も容易い。しかし今は戦犯探しをしている場合ではない。
事前情報と異なる状況。これに当初、神の羽は困惑した。が、資料と比べれば遥かにモスカの性能が弱体化していたため、黒羽根よりも倒しやすい雑魚として容易く蹴散らしていた。
そして常闇騎士団の団長エッダは思う。戦犯探しはさておき、おそらくマギウスは一般界に侵攻するため、少数精鋭より多数尖兵の案を取ったのだ、と。アグレッサー・モスカ一体を倒すためには、最低限の戦力として、突撃銃を持った歩兵三人または戦車一台が必要だ。そんなアグレッサー・モスカを数千・数万・数十万と蓄えているのなら、聖杯戦争の時と同様、いよいよマギウスは世界征服に大手を掛ける。仮に各国から核兵器を打ち込まれても、打ち込まれた国が干上がるだけで、プラント・モスカが生きていれば事実上──鏡の魔女の性質によって──無限に複製、つまりは増殖・生産していくことが可能だ。つまりマギウスの兵力に“底”という概念は存在しない。
そんな戦略上の要とも言えるプラント・モスカとは、アグレッサー・モスカ同様、マギウスの三巨頭によって造られたが、その用途だけが異なる、いわば生産用兵站兵器だ。形状はUFOのような円盤。その丸みを帯びた外観から別名、
まずはプラント・モスカを倒さなければ、雑魚といえども邪魔なアグレッサー・モスカが逐次大量生産され、そのうちシャドウサーヴァントまで複製されてしまう。単体性能としては攻撃能力を有さない雑魚だからこそ、そのぶん装甲に特化しており、生半可な火力では一撃で倒せない。また、生産能力に大部分を割いているからこそ機動力が低く、そのぶん浮揚することで射程を持たない攻撃から逃げおおせることが可能。要するに、全ての意味でイヤらしい兵器である。その性質は、まさにハエ。叩き潰したくても巧妙に逃げ回る、致命の毒を持った小バエである。
────第二陣営・破・モンスター。
モンスターはフルフル、イヤンクック。
────第二陣営・急・影霊部隊。
サーヴァント生成用プラント・モスカ、その中に封印されているシャドウサーヴァントの真名を、胡桃まなかは分析魔力で看破。
総括:前衛113名・中衛108名・後衛145名(※羽根達とモスカ・シリーズを含む数)。ほか竜種?頭・?種?匹。ほか魔影霊3騎、複製魔影霊2騎。総合評価SS・連携評価E・近接評価E・中隔評価E・遠隔評価E。
────第三陣営・クチナーレファミリー。
火無雷の複製魔法少女クミド。スタンド能力は毒味拡大。匣兵器は
水木無嵐の複製魔法少女ワナムギ。スタンド能力は転倒罠。匣兵器は
モンスターとサーヴァントはセクター中央付近を徘徊。胡桃隊が中央突破すれば、まず間違いなく地獄の乱戦が始まる。防衛側の翼部隊は中央を通る必要がないため、胡桃隊の回り込みを阻止すべく、セクターの東西に待機して待ち受けている。一方の複製隊は、中央と東西の中間点に待機中。実にいやらしい位置取りだ。明らかに胡桃隊を地獄の戦場へ誘導しようとしている。
胡桃まなかは考える。こちらを足止めすればよいだけの翼部隊からすれば、胡桃隊が左右に回り込むことを見越した上で戦術を組んでいるはず。あえて強者ばかりの中央を突破する利点は少ないからだ。一方の複製隊は目的こそ不明瞭だが、どうも神の羽とマギウスの共倒れを狙っている模様。一言で言えば漁夫の利。こちらが楽をしようとすれば必ず邪魔してくる。それは翼部隊も同じこと。
故に、もし胡桃隊が東西いずれかを攻めれば、それは事前準備をして罠を張り巡らせているであろう翼部隊の有利に働くため、複製部隊は
では、もし胡桃隊が中央を攻めれば、まず間違いなく胡桃隊は苦戦を強いられる。モンスターとサーヴァントとの死闘。さらに東西からは翼部隊の横槍が入る。中遠距離から射撃と狙撃を警戒して自らのソウルジェムを守りながら、化け物たちと死闘を演じるのは骨が折れるどころの騒ぎではない。確実に不利な戦いとなる。
胡桃まなかは自軍の目的を想起する。本作戦は電撃戦だ。時間は掛けられない。自ら有利な局面に飛び込んで多くの敵を作り、二つの勢力を全て倒さなければ本営を突破できないとなれば、時間を掛けてしまうことは容易に想像できる。ならば、自ら不利な虎口に飛び込んで味方を作り、状況の主導権を握りつつ、
「────嗚呼。ごちゃごちゃと面倒だ。すべて、一撃で終わらせるッ!! 行きますよ、つむぎ!!」
「はい! その命令を待ってました!」
魔法少女はゴリ押しこそ正義。このかた魔女退治で属性やら性質やら、魔女文字からの弱点解読やら何やらを気にしたことは一度もない。昔からの戦法を変えれば、どこで
覚悟を決めた胡桃隊は、リングに純度の高い炎を灯す。
『────開匣ッッ!!』
火力こそ正義。初手ぶっぱこそ至高。天空嵐焔獣Ver.リザードンを繰り出してフレアドライブを指示。その背中に若菜つむぎと雷大食獣Ver.ゴンベが飛び乗る。さらに並行して飛ぶは雨ペリカンVer.キャモメ。彼らは戦場を横断突貫。敵陣を二分して抜き去る。同時、胡桃まなかは地面に片手を突いて、必殺の一撃を繰り出した。
「多量分解────伝播ッ!!」
分解魔力を伝播魔法で戦場全体に行き渡らせる。直後、大地肉体建造物その全てが内側から爆砕。地に足ついてい羽根共もサーヴァントもモンスターも内部破壊が著しく機能停止。その間に胡桃まなかは疾走、とんぼ返りしてきたリザードンに飛び乗り、さっさと次の戦場へ向かう。
その時、オペレーターから全隊に通達が入る。
『緊急レベルEX発令! 敵陣、全ての羽根・サーヴァント・モンスターを放流ッ!! 電撃戦のタイムリミットを十分の一まで縮めます!
†
なんて無茶な命令だ。それでもやるしかない。
培養エリア・第2ステージ《名峰いただく玉水の城》のセクター15に美凪隊──美凪ささら、空穂夏希、矢宵かのこ、眞尾ひみか、枇々木めぐる──が現着。
総員、ありったけの死炎を込めて開匣。美凪ささらは嵐従騎獣Ver.イエッサン。空穂夏希は雨応援獣Ver.マイナン。矢宵かのこは雲菌獣Ver.キノココ。眞尾ひみかは嵐海狸Ver.ビーダル。枇々木めぐるは嵐噴獣Ver.バクーダ。それぞれの相棒ポケモンと共に死力疾駆、戦場縦断、砲煙弾雨の中を一撃必殺で駆け抜ける。
†
培養エリア・第3ステージ《術美しき玉水の館》のセクター15に阿見隊──阿見莉愛、梢麻友、史乃沙優希──が現着。嵐豹Ver.レパルダス。、雨美獣Ver.
†
培養エリア・第4ステージ《名実かがやく玉水の女学園》のセクター15に御園隊──御園かりん、恵萌花、春名このみ──が現着。嵐南瓜Ver.バケッチャ、大地鼠Ver.サンド、雷蕾獣Ver.スボミーを開匣。速攻殲滅を仕掛けるが、弱小集団ゆえ鈍臭く、ほかシャドウサーヴァント一同──バーソロミュー・ロバーツ、マンドリカルド、クリストファー・コロンブス、バニヤン──の足止めにまんまと引っかかる。
†
培養エリア・第5ステージ《滅び迎えた玉水の旅館》のセクター15に由良隊──由良蛍、真井あかり──が現着。雷雨夢現獣Ver.ネッコアラ、天空嵐桜獣Ver.ポジチェリムを開匣。由良蛍の入眠魔法を発散魔力で拡散し、セクター全土の敵性エネミーを夢世界に引きずり込んで制圧完了。
†
培養エリア・第6ステージ《名宝冠する玉水の大橋》のセクター15にタルト隊──タルト、リズ──が現着。というより、ずっとこのセクターを防衛していた。本セクターは転移エリアへ直通するステージ。ここを抜けられると背後の自陣に敵がなだれ込むため非常に困る。そのため本エリアには、最も強い者を通せんぼとして置くのがベターだと、常闇騎士団は判断した。
セクター15の一本道を攻略すべく投入された黒羽根の数は五十万、白羽根の数は百名弱。さらには影霊 紅閻魔の至高剣技、影霊 上杉謙信の神憑戦術、影霊 鬼女紅葉の暴虐突貫、影霊 卑弥呼の万能支援。そして“奇しき赫耀”バルファルク。“蛇王龍”ダラ・アマデュラが襲い来る。
されど、その全てを光速の殲滅で凌駕し、暗澹の蹂躙で殺害する。タルトとリズは防衛のため、文字通り数千数万の
†
【抜け駆け戦】略叙
南西部の培養エリア制圧作戦。それと同時進行で行われていた、南東部の複製エリア制圧作戦。電撃作戦・第二段階の始動と合わせて、複製エリアに侵攻を仕掛けた“神の羽”の部隊は、各ステージの
複製エリア・第1ステージ《未だ降りて来ぬほとりの研究棟》のセクター15に都隊──都ひなの、由貴真里愛、桐野紗枝──が現着。雷ヘドロ獣Ver.アローラベトベター、雨妖精Ver.ラッキー、雲猿Ver.エイパムを開匣。影霊ガラテア、影霊ミス・クレーン、雷顎竜アンジャナフと鍔迫り合い、速攻で五割を削り、敵の出足が鈍ったところで即、戦線離脱。次の戦場に向かう。
†
複製エリア・第2ステージ《特例・衣まとう複合列棟》のセクター15に木崎隊──木崎英美里、五十鈴れん、毬子あやか──が現着。空魔犬Ver.デルビル、雨霧浮遊獣Ver.ブルンゲル、雲音符鳥Ver.ペラップを開匣。妖精騎士ガウェイン、妖精騎士トリスタン、彩鳥クルペッコと一合交わし、幻惑でかく乱、速やかにセクターを突破する。
†
複製エリア・第3ステージ《小物群れなす劇場の館》のセクター15に加賀見隊──加賀見まさら、粟根こころ、江利あいみ──が現着。静粛妖精Ver.テブリム、晴盾獣Ver.タテトプス・雷棘獣Ver.テッシード、嵐雛Ver.アチャモを開匣。
†
複製エリア・第4ステージ《一に纏めて栄える学園》のセクター15にエッダ隊──エッダ、和泉壮月、八雲みかげ、常闇騎士団精鋭構成員四名──が現着。霧闇妖精Ver.ダークポワルン(ダークウェザー)、嵐虎と八雲みたまから借りた霧封獣Ver.ミカルゲ、霧雛鳥Ver.ヒラヒナを開匣。特にエッダは真っ向勝負でノーガード戦法。影霊パーシヴァルと一撃で殺し合い、即時蘇生。和泉壮月と八雲みかげは氷狼竜ルナガロンと交戦。一撃で殴り飛ばし、肉体崩壊を引き起こして敵陣を殲滅。セクターを奪い取る。
†
複製エリア・第5ステージ《征塵・術美しき神のほとり》のセクター15に相野隊──相野みと、桑水せいか、伊吹れいら──が現着。大地雷鬼蜻蛉Ver.メガヤンマ、雨水鳥Ver.ペリッパー、嵐雨ホイップ獣Ver.ペロリームを開匣。ペリッパーの特性はあめふらし、ペロリームは火炎放射と波乗りを使用。影霊ゼノビアと影霊出雲阿国を抑え、紫盾蟹ダイミョウザザミと交戦。三人三獣の
†
複製エリア・第6ステージ《忘れ去られた博物の館》のセクター15に古町隊──古町みくら、吉良てまり、三穂野せいら──が現着。雨霧渦巻獣Ver.オムナイト・雲霧死面獣Ver.ガラルデスカーン、雨霧魂獣Ver.デスマス、晴雨雲変身Ver.メタモンを開匣。影霊ドブルイニャ・ニキチッチ、アトラル・カと交戦。古町みくらは刃物にトラウマを持つため、大抵の戦闘では戦意が減衰する弱点を持つ。だが仲間と一緒なら戦える。敵の宝具に対して、合体必殺魔法・遺失言語魔砲撃を行使。セクターが消し飛ぶほどの爆撃に紛れ込んで、次の戦場に転がり込む。
†
複製エリア・第7ステージ《古き衣まとう天蓋の街》のセクター15に時女隊──時女静香、土岐すなお、広江ちはる、南津涼子、青葉ちか──が現着。時女秘伝の双炎系匣兵器たる
†
【敵が知るべき事柄は、我々の軍靴だけで充分です】オペレーター〔環第一分隊/常闇騎士団構成員〕
神の羽が執る超電撃的な四面作戦。その中でも三面目に当たる
†
監獄エリアの第一ステージ《鏡合わせの迷宮監獄》のセクター2に環第一分隊が現着。
そこは大東区の神浜監獄を模したステージ。
地形は、赤レンガの巨大な回廊で構成されており、螺旋のようにねじれる回廊が
セクタートラップは不明。
隊長は環いろは。隊員はリリス、二葉さな、アイ。この四名からなる攻撃班。
環ういと万年桜は、環第二分隊という防衛班として、数百の黒羽根と戦い、転移エリアの第一ステージ《自由に凪ぐ南の学園》を防衛している。
しかし、その防衛の意味は薄い。本作戦の目的は、マギウスの三巨頭の捕縛あるいは抹殺。兵力の数で押し負ける以上、兵士の質で短期的に勝負を仕掛け、電撃的に敵拠点を攻略、一気に本営まで殴り込み、敵将の首を獲ることが先決。その後は降伏勧告を促し、マギウスの翼を武装解除。仮にマギウスの翼が敵将を奪い返しに来るなどして徹底抗戦の構えを取る場合、懐刀の
一に、敵を惑わす為。──敵は思考するだろう。
一に、想定外を想定するため。──敵はベイルアウト機能を知らない。
悪魔の方針は、いのちだいじに。たとえ電撃作戦としての意義が本末転倒になろうとも、致命的な隙は作らない。部隊を分けることで進撃速度が下がり、多少の隙を与えることになろうとも、惨敗の隙は作らせない。肉を切らせて骨を断つことはしない。思い切った行動を取らねば結果は手に入らないというが、そのような英雄的行動は最終手段に限る。堅実に動いて、負ければ敵も味方も死者を出さず撤退。勝てば同じくして凱旋。悪魔はそのような作戦を執るように、“副官”シトピ隼人に命じていた。
しかしそれは表向きの虚言。悪魔の思惑は次のごとく。……英雄的行動は最終手段。しかしそれは
そのことを神の羽は知らない。“副官”シトピ隼人も知らない。全ては悪魔の手のひらの上であることを知っているのは、未来視や読心が使える
そして、本作戦で全ての決着を付けようと意気込む環第一分隊は、ふと敵部隊を目視。同じくしてオペレーターから作戦の第二段階を告げられる。
『分隊化したことで進軍速度は三割低下。この遅れを取り戻すべく、
ライトニングは空に光る雷を意味する。五官で言うなら視覚情報の光。対するサンダーは雷が光ったあとに鳴り響く雷の音を意味する。五官で言うなら聴覚情報の衝撃音。要するに、
激化する勇姿は、さながら燃え上がる雷光の如し。
環いろはの賦活魔法。ソウルジェムとリングから晴の炎が燃え盛る。活性と賦活の相乗効果で
「────環第一分隊、本営に現着。戦闘を開始します!」
地形は大広間。障害物らしき障害物は存在しない。本ステージの敵将と敵部隊、敵モンスターを目視。同じくしてオペレーターから敵戦力の分析結果が開示される。
無数の黒羽根、少数の白羽根。プラント・モスカ。巨獣ガムート。
†
【獅子身中の虫であります】三浦旭
監獄エリア・第2ステージ《西方魔焼かす背徳の町》のセクター15に七海隊──七海やちよ、英霊安名メル、英霊雪野かなえ──が現着。流麗なる虹槍豪雨によって一気呵成に殲滅完了。次の戦場に赴く。
監獄エリア・第3ステージ《大いなる東の学院》のセクター15に暁美隊──暁美ほむら、鹿目まどか──が現着。大魔法陣を展開。桃色死炎光矢・一斉掃射。敵陣殲滅。先を急ぐ。
監獄エリア・第4ステージ《
監獄エリア・第5ステージ《廃れた湖畔の廃園草原》のセクター15に七瀬隊と美凪隊の各分隊が現着して合流。
監獄エリア・第6ステージ《神統べる逢瀬の商業館》のセクター15に都隊と木崎隊の分隊が現着して合流。
監獄エリア・第7ステージ《東浜の大神団地》のセクター15に時女隊が現着。
それぞれ敵陣と交戦。速攻殲滅で敵陣を数割削り、あとはセクター突破に専念して駆け抜ける。
かくして監獄エリアの各ステージに、続々と神の羽が集結。次のエリアに赴いた。
†
四面作戦の中で最後の攻撃エリア。ほか三エリアと比べてステージ数が少ないため、おそらくどのエリアよりも早く制圧が完了することを願われている。そして、他のエリアの各部隊が本営に現着した時刻と、全く同じタイミングで────調整エリア・全5ステージにおける最後の領土争いが勃発した。
†
調整エリア・第1ステージ《
調整エリア・第2ステージ《星砂落ちるミレナ座の館》のセクター1に和泉分隊──和泉壮月、八雲みかげ──が現着。エッダに投げ飛ばされて空を飛んだ和泉壮月と八雲みかげは、転移エリアの上空を横切り、調整エリアの第二ステージへ着地。美国織莉子の未来予知情報によれば、このステージの本営に八雲みたまが存在するとのこと。さっそく匣兵器を開匣し、音速突破。嵐虎の分解作用で障害物を貫通し、彼らは瞬く間に本営へとカチコミを入れる。
調整エリア・第3ステージ《八雲に咲き誇る那由多の三日月》のセクター15に美国隊──美国織莉子、呉キリカ、アサシンの天乃鈴音──が現着。天空念獣Ver.ゴチルゼル、雨雲刃獣Ver.ドドゲザンを開匣。未来予知通りに敵陣を突破する。
調整エリア・第4ステージ《八徳なおす忠義の機関》のセクター15にピュエラケア──リヴィア・メディロス、篠目ヨヅル、佐和月出里──が現着。雲霧怪獣Ver.カイリキー、雨霧念獣Ver.ケーシィ、天空嵐霧防念獣Ver.バリヤードを開匣。ポケモンの力のみでつゆ払いを済ませ、次の戦場に赴く。
調整エリア・第5ステージ《大きく立ち上がる神々の学び舎》のセクター15に、神の羽の姿はない。
数万の黒羽根、数十の白羽根、数騎の影霊、数頭のモンスター。マギウスの翼は、これら有り余る布陣で籠城戦の構えを取り、
刹那、黒緑羽根の銃撃が、白羽根と黒羽根の体に無数の風穴を空けた。
『…………っッ!!?』
羽根たちは理解が追いつかない。モンスターとサーヴァントは銃撃の音を耳にして何事かと振り返る。羽根たちの脳裏に“裏切り者”“スパイ”という言葉が思い浮かんだ途端、既に勝敗は決していた。羽根の体に打ち込んだ弾丸には遮断魔力が宿っており、体内からソウルジェムめがけて魔力が浸透、瞬く間にソウルジェムの全方位を覆って外界と遮断。羽根たちは糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
「獅子身中の虫であります」
彼女の名は────三浦旭。湯国市の魔法少女。悪魔に味方する“謎の勢力”である。すかさず
†
遠征艇の周囲にて熾烈を極める防衛戦。演じる死闘はそろそろ幕引き。シトピ隼人の命令で遠征艇を爆破。鹵獲されないよう木っ端微塵と打ち壊す。敵陣は動揺。帰りの船を自ら壊したことの意味を考察。そしてシトピ隼人はネタばらし。懐刀のベイルアウトシステムを起動し、一瞬でベースキャンプに帰還した。すかさず司令室に駆けつけて、状況確認後、シトピ隼人は副官として指揮を執る。
「常闇ども! どうなってる!?」
《目的達成! 敵勢力の八割を、遠征艇周辺までおびき寄せることに成功しました!》
「よし! それほどの敵を足止めすることができたなら、攻撃隊は電撃戦がやりやすくなってるはずだ! それで進捗は!?」
《防衛報告! 培養エリア・複製エリア・監獄エリア・調整エリア。全4エリアの制圧完了! 防衛分隊によって、制圧度は50%から70%を維持! 敵の進軍速度を大幅に遅延させています!》
「よーし! 次!」
《攻勢報告! 環隊・七海隊をはじめとする精鋭部隊が、中部の遊園エリアに侵攻を開始! 未来予知の振れ幅によれば、約70%の確率で精鋭部隊と巴マミがぶつかります!》
「それでいい! このまま一気に攻め込んで、一番ヤベェ奴を潰す!」
直後、司令室に赤いランプが回る。警戒警報だ。何らかの緊急事態が発生した。
「なんだっ!?」
《異常報告っ!! 遊園エリアの南部ステージが三つ、突として陥落・崩落・崩壊しました……!!》
「なに……!? いったい何が起きたってんだ! まだ俺たちは、そこに攻めようとしてる時だろうが! まさか七海やちよがやったのか!? いや、いくらあいつでも、こんなに早く落とせるわけがねえ……! いったい誰の仕業だ……!?」
†
遊園エリア・第1ステージ《崩壊そろえる
†
遊園エリア・第2ステージ《経済まわす都心の帳》のセクター1に、謎の勢力が現れる。その面々は二木市の魔法少女。どうやって魔翼移動要塞に潜入し、なぜこの戦いに割り込んできたのか定かではないが、唯一判明している状況はひとつ。それは、二木市とマギウスの翼は、敵対関係にあるということ。紅晴結菜の一撃、軽々とステージを爆砕する。そして追随する、煌里ひかる、智珠らんか、大庭樹里、笠音アオ、鈴鹿さくやの五名はひたすら、鬼神・紅晴結菜の援護に当たっていた。
†
遊園エリア・第3ステージ《神史ひもとく編纂の館》のセクター15には、まだ神の羽の姿はない。七色の黒羽根と一名の白羽根が暇を持て余しており、その中の黒赤羽根がつまらなさそうに呟いた。
「あーあ。暇だねぇ」
「……黒赤羽根。無駄口は謹んでください」
「そうは言われてもね。暇なもんは暇なんだよ。この通り、お菓子を食うしかない」
「……」
「ん? なんだい、物欲しそうに見て」
「え? いえ、別に物欲しそうには……」
「食うかい?」
「……遠慮しておきます。それより真面目に待機しててください。いつ敵の奇襲があるか分からないのですから」
「へーい」
黒赤羽根はエスクードを起動。六名の黒羽根と白羽根の足元から生成。突として下から突き上げてきた物体に股間を突き上げられて吹き飛ばされた七名は目を見張って宙を舞う。
『ッ!!??』
「警戒してこのザマじゃ、
真紅一閃。分解魔力を込めた多節棍の乱打。それは被弾した魔法少女のソウルジェムに作用して、意識を分解する。当たり所が悪ければ一撃で昏倒し、当たり所が良くても意識が明滅して行動不能状態に陥る。
「ぐっ……!? 急に何を……まさか、スパイ……!? 卑怯、な────」
当たり所が良かった白羽根は、最後に吠えて気絶する。
「
彼女の名は佐倉杏子。黒羽根となってマギウスの翼に潜入していた、強かな一匹狼である。
「そうはさせませんよ」
佐倉杏子の前に藍色の魔力が瞬き、梓みふゆが現れる。
「……やっぱり来たか。こんだけ魔法少女が雁首揃えてんだ。黒羽根が数千人もいて、スパイを見つけ出す魔法を持ってない魔法少女がいないってことは、さすがにないだろうってね」
「では、ここでマギウスの幹部と戦うことは織り込み済みだったと?」
「まぁね。じゃ、さっそくやり合おうか!」
幻覚と
「っ……!」
「老いた魔法少女は滑稽だね!」
されど老いた魔法少女は、七年分の経験値を総動員して佐倉杏子と切り結ぶ。敢えて隙を作ってみせて、そこに打ち込んできたところを瀬戸際で防ぎ、いなす。その繰り返しで時間を稼ぐ。佐倉杏子は焦ることこそないものの、老いたくせになかなか死なないしぶとさに違和感を抱く。
「なんだお前。マミとは違うタイプだな」
「──はぁ、はぁ……舐めないでください。これでも私は、生きるために必死なんですよ……っ!」
「そうかい。じゃあ死ねよ!」
†
遊園エリア・第4ステージ《中つ王の学び舎》のセクター1から14が、たった一人の少女によって蹂躙された。紫色の死ぬ気の炎を灯す少女は、両手に血塗れのトンファーを握っている。悠然と歩く少女は、退屈そうにあくびをしながら、徒歩で
「!」
少女は勘付く。紫色のソウルジェムから、久しぶりに戦闘用の魔力を回す。なぜなら彼女の前方には、自身の実力に匹敵する一人の魔法少女が立っていた。匂いでわかる。相手は強者だ。その強者は華奢な唇を開いて問いかける。
「────恭弥アーデルハイト。なぜ貴女がここにいるのかしら?」
「……そういう君は、巴マミだね。小動物から話には聞いている。ウワサを着込んでいるそうだけど、邪魔だね。さっさと化けの皮を剥がそう。そうすれば本当の君と戦えそうだ」
恭弥はトンファーを構えると同時、巴マミ────否、神浜聖女のウワサを着込むホーリーマミは、無限にも思えるマスケット銃を生成した。
「ワオ」
「野蛮な人ね。そんなに戦いが好きなら、この私が相手してあげるわ」
この時と場に恭弥アーデルハイトが現れることは、マギウス専属の未来予知能力者の情報提供で、既に知り得ていることだった。故に、このステージの本営には、白羽根と黒羽根は待機させておらず、モンスターやサーヴァントも用意していない。マギウスの翼の幹部の双翼を担うホーリーマミが単身、最凶の魔法少女を待ち構えていた。
「野蛮人ね。好きに呼べばいいけど、こちらは正当な理由があって、君たちの城に攻め込んでいる」
「正当な理由?」
「あぁ。君たちマギウスは先日、聖杯戦争というものを使って
「……つまるところ、報復というわけね」
「あぁ。並盛の風紀を乱した罪は重い。この僕が直々に、君たちを一人残らず……“咬み殺す”」
純粋にして鋭利な殺気が放たれる。
それを総身に浴びたホーリーマミは、思わず額にひと雫の汗が流れた。
恭弥の疾走。巴マミは無数の銃を展開して弾幕を張る。ひと目で被弾最小限の最短経路を見抜いた恭弥は突っ走り、跳躍。無数の弾丸の嵐の中を掠り傷一つなく駆け抜けて、一撃。巴マミの頭蓋をかち割った。直後、巴マミの全身が巨大なリボンとなって消失。
「……手応えはあった。逃げるための分身か。どうやら
返答はない。恭弥は無聊をかこつように、あくびをひとつ。ともあれ並盛中の風紀を乱したことに対する
暴虐の武人たる恭弥は、一本の刀を取り出して青い光を放ち、姿を消した。助太刀魔法によって並盛中に帰還したのだ。
†
遊園エリア・第5ステージ《這い回る観覧の火車》のセクター15に環隊・七海隊・暁美隊が現着して合流。新生環隊として部隊を再編成。環いろは、七海やちよ、暁美ほむら、鹿目まどかの四名が揃う。二葉さなとアイ、安名メルと雪野かなえは、後続から迫る敵陣を排除するため置いてきた。それは、これから巻き起こる激闘に横槍を入れさせないための防衛を任せたとも言える。
「ようやく来たわね。神の羽の精鋭魔法少女が……」
つい先ほど、恭弥アーデルハイトによってウワサを剥がされた巴マミが、回らない観覧車の真上に降り立つ。
「巴マミさん……」
「それはこちらのセリフよ。悪魔が知る限り“最強の魔法少女”という話だそうだけど……その実力、たしかめさせてもらおうかしら」
「マミさん……どうして……」
「マミさん! もうこんなことやめてよ! どうしてマギウスの仲間になったんですか……? わたしが知るマミさんは、こんなひどいことをする人じゃ……!」
暁美ほむらと鹿目まどか。ふたりの後輩に責められた巴マミは、忸怩たる思いで目を伏せる。
「これは仕方のない
『っ……!!』
巴マミは銃口を向ける。総員、臨戦態勢。最初に動いたのは────鹿目まどかだった。
予備動作なしの
轟然と震撼する爆撃の大嵐。セクターの地盤が崩壊を始める。崩れ落ちる観覧車から巴マミが後退。追跡する新生環隊。七海やちよの発散槍術が巴マミの硬化リボンと激発し、閉塞魔法で回避経路を閉じた環いろはの
鹿目まどかの弾幕と張り合いながら、七海やちよと環いろはとの格闘戦をこなし、死角から放たれる暁美ほむらの時間停止凶弾を完封する。それはまさしく、最強の名に恥じぬ戦士の振る舞い方だった。
しかして、狭い戦場での高速戦闘は、その激しさから、広い戦場での高速戦闘に発展。
戦場は、第6ステージ《一声とり憑くウワサの城》のセクター15に移る。
「えっ!?」
刹那、巴マミの頭上に、紅晴結菜の豪雷棍棒が迫る。気配探知が一手遅れた理由を瞬時に看破。紅晴結菜の棍棒から夜の炎を感じる。夜の炎の性質は加速。気配を気取られる前に高速接近されていた。回避は間に合わない。一撃、爆雷、城の尖塔を木っ端と砕かれる。頭部が割れた巴マミの死体はリボンへと変わり、砂塵に紛れて百合の花が咲く。すかさず七海やちよが分析魔力を発散。活性硬化結界をところどころ張られており、発散させた分析魔力が活性して暴走、硬化結界に弾かれて位置を掴めない。
(そんな使い方が……!)「いろは! ほむら! 罠に誘い込まれたわ!」
七海やちよは看破する。今の一瞬でそこまで頭が回るわけがない。おそらく活性硬化結界はあらかじめ用意していた代物だ。そして環いろはと暁美ほむらは、いまさら第三勢力の介入に驚いて足を止めることはない。警戒しつつ隙を晒さず、その上で巴マミを追い詰める。
「そう。だからチェックメイトよ」
いつの間に巴マミは、戦場のど真ん中に立っていたのか。十丁のマスケット銃を地に突き刺して、構築魔力で迷彩効果を施していた透明なリボンを可視化。環いろはと暁美ほむらの手足を絡め取る。なおも背後からは鹿目まどかの弾幕が飛んできているが、巴マミは優雅に佇みながら、背後に展開した無限のマスケット銃で拮抗している。それだけのことをしながら魔力が尽きないのは、巴マミが魔法を使っておらず、全て初歩的な魔力操作だけで戦っているからだろう。刹那、巴マミの二丁銃撃が、拘束対象二名のソウルジェムに襲いかかる。前もって七海やちよが放っていた投槍が硬化リボンを貫通、環いろはと暁美ほむらの拘束を解き、ふたりは脱出、銃撃を回避。すかさず巴マミはマスケット銃を手に取り踊るように順次射出。七丁の銃撃が飛ぶ。七海やちよは高速の槍捌きで三発弾き、環いろはと暁美ほむらは首と身をひねり二発ずつ躱す。そして白兵戦に持ち込んだ途端「無駄な動作ね」回転しつつマスケット銃を撃っていた巴マミの回転蹴りが暁美ほむらの小盾に命中し、
(うっ……! 攻撃の速さが
(攻撃と防御を同時にこなしてる……! これじゃあ単純なスピードで、せっかくの手数の差を覆されちゃう……!)
攻撃してから防御する。回避してから攻撃する。そんな動き方では巴マミの次元には立てない。
「ふたりは援護を!」
その次元に立てる魔法少女は、この中で一人のみ。
『やちよさん!!』
「今まで様子見に徹していたの?」
「あなたの魔力操作技術は大体見抜いた。平凡も極めれば、無骨の極限に達するのね」
選手交代。環いろはと暁美ほむらは下がって巴マミを挟み込むように走り、中距離支援の射撃に徹する。七海やちよの槍術。巴マミは後退して
同時、先ほど発散した鋭性分析魔力が、城の上に立つ巴マミの美脚に命中。すかさず七海やちよは振り返る。今まで戦っていたのは分身。それは紅晴結菜の一撃の時点から心得ていた。問題は、本体の索敵がうまくいかないこと。それから七海やちよの視線を追って、環いろはと暁美ほむら、紅晴結菜と鹿目まどかも、巴マミの姿を発見。
「さすが七年も生き抜いているだけあるわね」
「そっちは三年でよくもそこまで。今の分身も臆病者が成せる技かしら」
七海やちよの精神攻撃。思いのほか巴マミは効いているのか無言に徹する。その時、環いろはが好機とばかりに問いただす。
「悪魔さんは、どこにいますか」
「……知らないわ」
「知らないって……監獄エリアのどこにも、悪魔さんはいませんでした! 巴さんがマギウスの翼の幹部なら、絶対に知っているはずです……!」
「……──あぁ、そういうこと」
ふと、巴マミは
『……っ?』
環いろはたちは、なぜこの場面で笑うのか分からない。
「ふふ……ごめんなさいね? ただ、あの子ったら……
「っ……? なんの話ですか……?」
「だって、おかしいと思わない? 組織としてはマギウスに一日の長がある。黒羽根は魔法禁止としても、組織としてまとまってひと月も経たないあなたたちが、ここまでの電撃戦を成功させられる?
「……何を、言って……」
「教えてあげる。あの子は今どこかで、この戦いを見守っている。人を育て上げることは一流だけど、最後の最後で生徒を裏切るところがダメダメね。家庭教師としてなっていない」
環いろは達は、巴マミの言葉の意味合いが掴めない。
「分からない? あなたたちは利用されているのよ。あなたたちにとって、より良き未来のために」
つまり悪魔は、無事ということか。マギウスに囚われているわけではない、ということか。ならば安心する。そして怒る。
「……知っています。そういうところは、悪魔さんの悪い癖ですから────」
ならば悪魔の筋書き通り……にはなるか分からないが、全力を尽くすのみ。そうして環いろはが意気込むと、角張って盛り上がる肩を叩く人物が現れた。佐倉杏子である。
「ま、そんなこったろーと思ってたさ」
「っ!? 佐倉さん……!? どうしてここに……!」
「アタシのことはどうでもいいんだよ。それより、あんたらも気をつけなよ。悪魔ってのはね、純粋な魂をたぶらかして契約を取り付けて堕落させて満足する、身勝手な生き物なのさ。そう、たとえば他人のために願いを叶えた魔法少女とか大好物だろうね。白い悪魔に騙されて
「……」
「正直者は馬鹿を見る。真面目な奴ほど損をする。呪いによって世の中はそうなっちまってる。だからそんな肩肘張らず、もう少し利口にわがままに生きてもいいんじゃない? そうじゃなきゃ、ほんとバカみたいな人生を送っちまうよ。これは先輩魔法少女からの忠告さ。どうだい? この説法は聞いたかい?」
「はい。……それでも、です」
「……────そうかい。こりゃ末期だね」
佐倉杏子は肩をすくめる。だが巴マミに言わせれば、それは佐倉杏子も同様の末期患者である。それは巴マミ自身もそうだと言える。
「滑稽ね。これだけの魔法少女が雁首を揃えて、少年ひとり助けられない」
『────!!』
「でも安心して。私が悪魔に変わって全てを救う。人も魔法少女も、その全てを!」
巴マミの撃鉄が落ちる。それはマスケット銃の撃鉄ではない。会話の最中に誘導魔力で張り巡らせていた透明リボンの具現化。刹那、七海やちよと佐倉杏子が槍を高速で振るい、鋭性魔力で周囲の硬化リボンを切断。環いろはと暁美ほむらも二の轍は踏まない。身の回りに発生させた活性光矢を爆発させて硬化リボンを焼き払い、マーレリングの遮断魔力で硬化リボンを切り刻む。紅晴結菜は硬化打撃でリボンを切断。
次の瞬間、弾幕が止む。鹿目まどかの魔力切れだ。となりのステージから跳躍してきた鹿目まどかは、弓から光矢を引き絞って射抜く。極矢、城内貫通、地盤爆砕、城が傾く。砂塵の中、宙を舞う巴マミは回避しつつ無限のマスケット銃で迎撃。魔法陣を展開して硬化弾丸を跳ね返す鹿目まどかは、暁美ほむらの近くに着地する。
「まどか!」
「ごめんほむらちゃん! 弾幕途切れた。やっぱりマミさんに勝つためには────、っ!」
鹿目まどかの頭上に、巴マミのかかと落としが落雷する。寸前で飛び退いていた鹿目まどかと暁美ほむらは射撃。硬化リボンで防がれる。そこへ紅晴結菜が疾走打撃。硬化マスケット銃で受け流し、慣性を流しきれない巴マミの全身が高速回転しつつ螺旋射撃。七海やちよと佐倉杏子は銃弾を躱しつつ交差して分解斬撃を繰り出すが、二丁の硬化マスケット銃に阻まれる。そこへ環いろはのアローバンカーが切り込むが、巴マミの蹴り上げで環いろはの顎を掠めて頬を切る。蹴り上げた足の勢いのまま天地を逆さまにした巴マミはマスケット銃を手放し、両腕を交差────否、何かを引っ張ったために両腕が交差した。足元に張り巡らせた硬化リボンが、七海やちよと佐倉杏子の足首に絡まってすくい上げる。鹿目まどかと暁美ほむらの援護射撃を身をひねって躱す巴マミは、とんぼ返りしてくる紅晴結菜の豪雷打撃と激発。
(っッ……! 加速と硬化で衝撃力を引き上げている……! まともに受け止めると、一瞬だけだけど硬直してしまうわね……!)
激突力は紅晴結菜の圧勝。音の壁を突き破って巴マミが吹き飛ばされると同時、紅晴結菜の首が捻じれ狂って数回転、引きちぎられて鮮血を巻き上げて素首が吹き飛んだ。直後、紅晴結菜は首が回り始めた中でフル回転させておいた活性魔力で首から上が瞬間復活。
(今のは何……? ──そうか、知らぬ間にリボンを首に巻きつけられて……! やるわね、巴マミ……!!)
巴マミの背中がセクターの壁に強打。クレーターが形成される。されど巴マミの瞳には、力強い闘志が燃え滾っていた。直後、リボンを切断して突貫していた七海やちよと佐倉杏子の刺突が、巴マミの胸部と腹部を貫いて縫いとめる。一拍後、七海やちよが放っていた十本の槍が自動飛来、巴マミの四肢を穿ち抜いて壁に縫い付ける。分身を残す暇もなかったはずだ。これで確実に捕らえた。
「やった……!」
環いろはがそう呟いた瞬間、彼女の五体は爆散した。
『……っッッ!!?』
環いろはの鮮血と骨肉が弾け飛ぶ。そして環いろはの心臓があった空間に、
「だから、チェックメイトだって言ってるでしょ?」
「────そんな、嘘よ」
「マジか────
七海やちよと佐倉杏子が串刺しにした
「まどか!?」
リボンに絡め取られた鹿目まどかは、活性魔力によって瞬時に手首を治癒。
「遅い」
巴マミの蹴りが鹿目まどかの腹部を貫通。圧縮した活性魔力を流し込むことで脳に痛覚を入力。痛覚遮断を無視して、幻覚作用の激痛を与えた。
「カ゛ハッ……!!」
鹿目まどかは激痛によって硬直する。その隙を突いた巴マミは誘導魔力を使って、鹿目まどかのソウルジェムを抜き取る。そしてソウルジェムに、そっと手を触れて活性魔力を流し込む。外界からめちゃくちゃな活性魔力が流し込まれた鹿目まどかは、うまく魔力を回すことができなくなる。巴マミは、鹿目まどかをお姫様のように抱きながら城の上に着地すると同時、無限のマスケット銃を展開。七海やちよの無数の槍と撃ち合う。佐倉杏子が構築魔力を使って姿を消した。奇襲を仕掛けるつもりだ。巴マミは警戒のため、眼前上方に生成した一丁のマスケット銃をただ落とす。次の瞬間、それは突然、眼前下方にまで転移するように落ちていた。事象の飛び飛び。それで暁美ほむらが時間停止を使ったことを看破。背後と頭上に殺気。動きが素直すぎる。半歩すり足で背後からのアローバンカーを躱し、頭上からの遮断ゴルフクラブすらも躱す。リボンを展開。今度こそ環いろはと暁美ほむらを絡め取る。
「チッ────!!」
佐倉杏子は奇襲を取り止める。巴マミは環いろはと暁美ほむらを殺す気だ。鹿目まどかは殺そうと思えばいつでも殺せたはず。ならば取るべき選択は一つに絞られる。それも巴マミに読まれているだろう。それでも────飛び込んだ。
佐倉杏子の音速刺突。巴マミは半歩すり足で躱すが、刺突はもとよりフェイント。分解魔力を通した多節棍を振り回してリボンを高速切断、乱舞する多節棍を環いろはと暁美ほむらにぶち当ててなるべく遠くに吹き飛ばす。直後、巴マミが構えたマスケット銃が、佐倉杏子のソウルジェムを捉えた。
(しまっ────)
それは分かっていた失策だった。それでも飛び込んだのは自分の責任。ふたりを見捨ててひとりを殺せずひとりを助ける。それは計算が合わないと思っただけのこと。発砲。唸る魔弾。佐倉杏子は本能的に身を守る。
七海やちよの傍らに倒れている佐倉杏子。彼女のソウルジェムを微かに砕いた魔弾が地面にめり込んだ銃痕。そこにはオレンジ色のソウルジェムが輝いていた。
「……っっ!!」
絶妙な位置だ。気になって無意識にちらりと覗いたら、それを見つけてしまった。二択を迫られる。先ほど環いろはの体の中から現れた巴マミは、きちんとタネがある。環いろはの心臓を貫いた弾丸。それは硬化リボンを丸めた魔弾ではなく、
「さぁ、どっちが本物かしら?」
「────────────────」
どっちも本物だ。今、七海やちよの眼前で鹿目まどかを抱き上げる巴マミと、佐倉杏子の傍らで地面に埋もれているソウルジェム。硬化魔力で覆っているため、音速で地面に叩きつけられても傷一つない。だが、分解硬化遮断魔力で一突きすれば
「残念」
発砲。七海やちよのソウルジェムが三割砕け散る。ギリギリ硬化魔力でソウルジェムを覆ったが、間に合ったとは言えない。意識が明滅する。衝撃。宙を舞う視界。佐倉杏子の体も目に映る。激突。回転。否、転がっている。七海やちよと佐倉杏子は、城の上から地上まで蹴り落とされていた。
「やちよさん……ッッ!!」
本物は、巴マミの髪に光るソウルジェムだけだった。二択を外した。否、二択ですらなかった。まんまと思考を誘導された。由比鶴乃に幸運魔法を掛けてもらえば良かった。後悔先に立たず。七海やちよ、悔恨の歯噛み。そこへ環いろはと暁美ほむらが駆け寄る。
「やちよさん! しっかりしてください!! 佐倉さんも……! お願い、死なないで……っ!!」
「っ……! ソウルジェムが、欠けて……!!」
咄嗟に環いろはは、ふたりのソウルジェムに治癒魔法を掛ける。
その時、美国織莉子の美声が響き渡った。
「双方、武器を収めて。そこまでにしておきましょう」
環いろはと暁美ほむらは何事かと振り返る。巴マミは言われた通りマスケット銃を下ろした。
「私の未来予知のおかげで、マギウスは鹿目まどかの捕縛に成功しました。ならば今度は、私との約束も履行してくださいまし?」
「────え……?」
「……っ! 美国、織莉子……! あなた、まさか……っ!!」
二枚舌。
「はい。私は今回の電撃戦のため、神の羽に未来予知の情報を授けました。ところでマギウスの翼にも、どうやら強力な未来予知の魔法を持つ者がいたそうですが……はて、それは誰なのでしょう……?」
美国織莉子は、いたずらっぽく微笑む。
環いろはと暁美ほむらは武器を構え────ようとした刹那、七海やちよがクロスボウを握り締めた。
「やめて……死ぬわ、私たち……」
「……っ! やちよさん……! でも……ッ!!」
美国織莉子は三人に会釈すると、歩を進めて飛び上がり、巴マミの傍らに降り立つ。
「美国織莉子。あなたとマギウスが交わした盟約は、たしか“マギウスとその翼に可能なことなら、美国織莉子の願いを一つだけ叶える”という約束だったわね? いいわ。言ってみなさい」
「では、遠慮なく」
美国織莉子は、なぜか暁美ほむらを一瞥する。
「……っ?」
「────美国一派と暁美ほむらを、マギウスの翼の幹部クラスに迎え入れてください」
環いろはと暁美ほむらは目を見張る。いったい何を言っているのか。
「……美国織莉子さん。あなたには、いったいどんな未来が視えているの?」
「秘密です。知りたければ心を読むなり、なんなりと」
巴マミは溜め息をつく。
「分かったわ。それじゃあ鹿目まどかと暁美ほむら以外の魔法少女を、今ここで始末する」
『っ……!!』
七海やちよと佐倉杏子は、なんとかソウルジェムに魔力を回して、歯を食いしばって起き上がろうとする。環いろはは臨戦態勢の構え。一方の美国織莉子は泰然と振舞っており、暁美ほむらは放心していた。
活性魔力をソウルジェムに流し込まれて苦しむ鹿目まどかの体が、巴マミから美国織莉子に手渡される。そして巴マミは跳躍、スカートの中から数本のマスケット銃を取り出し、着地。その間に暁美ほむらは考える。
「────いろはちゃん!!」
「!?」
時間停止。巴マミの時間だけ止まらない。やはり、先ほどゴルフクラブで攻撃した直後、リボンを巻かれていた。すかさず時間停止を解除する。
「逃げて────!!」
「──……っ!!」
巴マミの発砲。暁美ほむらは自ら射線上に躍り出て盾となる。すかさず巴マミは誘導魔力で軌道を逸らし、暁美ほむらの脚を貫通。発砲。佐倉杏子と七海やちよの背中を貫通。ソウルジェムは割れない。ふたりは魔力を回せない代わり、こしゃくにもソウルジェムの位置を直接手元でいじって位置をずらしていた。
「ベイル、アウト……!!」
ようやく七海やちよの魔力が回る。しかも出力
「ほむらちゃんも!」
「ダメ……まどかは置いていけない……!!」
暁美ほむらは懐刀を取り出すと、環いろはの伸ばした手の甲に突き刺す。
「────っ!!」
「ベイルアウト!!」
環いろはは青い閃光と共に消失。ベースキャンプまで転移した。同時、巴マミの魔弾が暁美ほむらの耳朶を貫き、環いろはのソウルジェムがあった空間を通過する。
「……イイ判断ね。それは読めていなかったわ」
「……謙遜しないでください。殺す気なら、もっと早く殺せたはずです」
「──……そうね。まだ私も、覚悟が決まってないみたい。でもそれは、次の戦いまでの話よ」
脚から血を流す暁美ほむらのそばを、毅然とした顔つきの巴マミが横切る。
「ばいばい、暁美さん」
「……! ……?」
これ以上、交わす言葉はない。巴マミは周囲にマスケット銃を生成する。そして、誰かを待ち受けるように、臨戦態勢の状態で佇んでいた。そこへ美国織莉子が声をかける。
「暁美ほむら。奥のエリアまで行きましょう。マギウスと対面して、正式にマギウスの翼への加入許可をいただくのです」
「……どうして、あなたは、こんなこと……」
「それは歩きながらでも。少なくとも、これ以上彼女の邪魔をしたら、私たちも無事では済みませんよ」
巴マミは殺気を放って佇んでいる。それはこの場にいる誰かに向けられたものではないが、たしかに近寄りがたい雰囲気を感じる。とにかく今は従うしかない。暁美ほむらは貫かれた脚を増殖魔力で再生し、鹿目まどかを抱いて先行く美国織莉子を追いかけた。
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