アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
並盛町のバッティングセンターにて。黒髪の少女はバットを振って全球ホームランを決めていた。
「よっし! 今日も絶好調だぜ!」
友人だけでなくバッティングセンターの店長からも野球の腕を褒められて少女は嬉しそうに照れる。次の瞬間、ソウルリングを通して悪魔の声が脳裏に響いてきた。それは悪魔の救援要請である。
「わりっ! ちょっとトイレに行ってくる!」
急いでトイレに駆け込んだ少女は日本刀を生成し、助太刀魔法で悪魔のいる場所に瞬間移動した。
†
悪魔の前方にて青い光が輝く。次の瞬間、ひとりの少女が忽然と現れた。
「助っ人登場! よぉ
「むく。来てくれてありがとう」
「へへっ。
悪魔の表情が和らぐ。
そこで水野むくは、後方に立つ桐野紗枝を見つけた。
「お、アンタも魔法少女か? よろしくな!」
「え? あ、あぁ……よろしく……」
「なぁクマ、この子も一緒に戦うのか? かなりケガしてっけど」
「だからお前を呼んだんだ。魔女迷宮の魔女を単身で倒そうとした無謀者は休ませる。俺たちでケリをつけるぞ」
「りょーかい。そーゆーことね……つっても、なんでも一人で解決しようとすんのはクマも同じじゃねぇか?」
「それは昔の話だろ。今は違う。お前らは頼りがいのある奴らだよ」
「へへっ。当然! んじゃ、久しぶりのダチ兼、師弟共闘と行きますかね!」
「あぁ。時雨蒼燕流は最強無敵────」
「────完全無欠! だからな!」
悪魔と水野むくは刀を構える。
「クマ、お前も消耗が激しいだろ。まずオレが先陣を切る」
「あぁ。一の太刀は任せた。二の太刀から連撃で仕留める」
水野むくは炎のように揺らめく青い水をまとって突撃する。
「時雨蒼燕流 攻式・八の型────《
続けて悪魔が二の太刀を浴びせる。
「時雨蒼燕流 攻式・一の型────《
水野むくの突撃奥義は魔女を押し込み、悪魔の刺突奥義は魔女の体を突き刺す。
「……っ! こいつ硬いな!? さすがに魔女迷宮のボスはつえーな!」
「仕方ない……魔法を使用する」
「! ……おい、あんま無茶すんなよ?」
「心配するな。むくが来てくれたおかげで、だいぶ楽できてるよ」
魔女の弱点を突いたことによりダメージは大きい。だが魔女も弱点を見破られたとあらば出し惜しみはしない。大技を使って仕留めに掛かってくる。
「時雨蒼燕流 守式・二の型────《
それを水野むくは巻き上げた水の陰に隠れて回避し、悪魔は相手の呼吸を読んで回避した。
「時雨蒼燕流 守式・四の型────《
そこで魔女が持つ遷延の性質により、悪魔と水野むくの全行動力が低下する。しかし、それを悪魔の叛逆魔法が打ち破る。加えて悪魔は“逆転勝利の魔法は悪魔にしか掛からないというルールに叛逆魔法で叛逆する”ことで、膨大な魔力を消費。その代わり水野むくに逆転勝利魔法の応用魔法たる《潜在能力開花》の魔法を掛けることに成功した。
「即興で奥義を編み出し、この強敵に逆転勝利する」
「マジか! こりゃ責任重大だな!」
「才能あふれるお前なら出来るさ」
「そっか? ところで技は何がいい?」
「あの魔女の弱点は協力だ。となれば答えは一つ」
「協力か……なら簡単だな!」
両雄並び立ち、時雨蒼燕流にはない構えを取る。
「────行くぜ、クマ!」
「あぁ、いつでも行ける!」
「時雨蒼燕流」
「交式・型破りの型・一番目」
双璧の剣士は疾走し、莫大な魔力の一撃を放つ魔女に向かって突貫していった。
『────《
その技の名を聞いて、桐野紗枝は気付いた。日本には雨天の友という言葉がある。それは人に二つの友があることを教えることわざ。晴れやかなる順境の人生を歩んでいる時は多くの友を作れこそするが、いざ雨が降り逆境の人生に立たされると友は次々と去っていく。その中で傘を差し、肩や足を濡らしながら駆けつけてくれる友こそが“真の友”である……そんな話。
晴天の友もまた会心の友であるが、雨天の友こそ莫逆の友なれば。
その言葉に違わぬ両雄を目にした桐野紗枝は、まさに慧眼こそが今の自分に必要な力であると悟った。
水の太刀筋が交差して、魔女の肉体を十字に斬る。胴体を四分割された魔女は鎮静効果で硬直し、すぐに爆発霧散して消滅した。そして魔女迷宮は消失し、景色が学園の校庭に戻る。かくして強力な魔女を必殺の剣技で葬った水野むくと悪魔は、着地と同時に血糊を払い、鞘にしまって改めて宣言した。
「時雨蒼燕流は最強無敵!」
「完全無欠だ。……なぁこれ、毎回言わなきゃいけないのか?」
「あったりまえだぜ! クマも時雨蒼燕流の十代目継承者なんだから、ちゃんとルールは守ってくれよな!」
「承知した。ダチである前に、師匠の言い付けには逆らえないからな」
水野むくは悪魔の肩を抱き寄せて「そういや俺たちのチーム、前の球技大会で勝ったんだぜ!」と近況報告する。そうして雑談しつつ、二人は桐野紗枝の下に戻った。
「ところでむく。何か用事があったならすまない」
「いんや。ちょうど腕慣らししたいって思ってたとこだったから大丈夫だぜ! あ、でもそろそろ帰んないとトイレ長すぎって言われるな……んじゃ、ちょっと名残惜しいけど、そういうことだからオレは帰るぜ! またな、クマ!」
「あぁ。またな」
水野むくは助太刀魔法を使って瞬間移動する。今頃シトピ隼人か羅宇らんの所に出現しているだろう。助太刀魔法は場所ではなく個人の下に飛ぶ魔法。なんでも好きな場所に飛べない所がネックだが、その代わり友の危機を感じ取る能力に長けている。つまり今回は悪魔が呼び掛けたから駆けつけてくれたが、悪魔が呼び掛けなくてもピンチと感じ取れば駆け付けてくれることもある。かつて二木市で囚われて拷問を受けた際も、そこからいの一番に助け出してくれたのは水野むくだった。彼女は頼れる親友である。
「……悪魔」
「なんだ」
ふと桐野紗枝が呼び掛ける。
「あなたたちの戦いを見て思ったのは……単純に、いい友達だねってこと」
「あぁ」
「それで私、すぐには無理だろうだけど……。っ……」
桐野紗枝は歯噛みする。実力と精神、共に強靭。故に折れない。絶対に曲がらない。質の悪い間違った強者だ。
そんな頑固すぎる魔法少女に引導を渡すため、悪魔は直感した。
「お前が絶対に折れないように。お前がどれだけ突き放そうと、お前を死んでも助けようとするバカが必ず現れる。その優しさは
「……! うん……」
「お前の周りに集まる奴らは、そういう奴らだと直感した。だってその通りだろ? ────由貴真里愛」
「────え?」
悪魔と桐野紗枝の所に、なんともない由貴真里愛が歩いてくる。彼女は無事に生きており、ケガはどこにもなさそうだった。
「────ま、真里愛、さん……!」
桐野紗枝は友に飛びついて抱き締める。
「あらあら……あの紗枝ちゃんが泣くなんて……心配させてごめんなさいね」
「いえ……それは、私のセリフで……」
桐野紗枝は、てっきり死んだものと覚悟していた由貴真里愛がしれっと生きていたことに喜び、今までの件を謝罪する。やがて都ひなのが駆け付けてきて、桐野紗枝に対し年長者として小一時間に及ぶであろう説教を始めた。
「独断専行禁止! 次からは魔女と戦う際に必ず連絡を入れること! 倒した時もその報告を入れること! これは中央区の魔法少女には周知させていることだ! でも今回は流石に目に余るから、紗枝にも報告の義務を付けさせるぞ!」
ということである。その様子を遠巻きに眺める悪魔は、傍らに立つ由貴真里愛に問いかけた。
「真里愛。お前……わざと
「……察しのいい男の人は、少し疎ましく思われちゃうかもよ?」
「あれは危険な賭けだった。桐野紗枝に「ちゃんと仲間に頼れば死なせることにはならなかった」という自制心を促す企みがあったのは見抜けた。だが一歩間違えれば彼女は絶望して魔女化していたかもしれない」
「そうね……でもあの子はそんなにやわじゃないわ」
「……それだけの理由で、あんなことをやったのか?」
「あなたも親しい友達がいるのなら分かるでしょう?」
とんだ女傑である。母は
「お前も危険だったんだぞ。死んだフリとはいえ無防備な状態で横たわっていて、よく使い魔に狙われなかったな」
「そこは私のハンドパペットが守ってくれたから問題ないわ。ちゃんと考えてやっているのよ?」
「……分の悪い賭けはヒヤッとするから好きじゃない。仲間の命が掛かっているなら尚更だ。しかも俺に説教役まで押し付けやがって……」
「だって悪魔さん、勘が鋭いんだもの。きっと私以上に彼女の本質を捉えて助言してくれると思っていたの。でも……やっぱり怒っているわよね。ごめんなさい……」
「怒ってはいない。ただ呆れているだけだ。そもそも勘が良いからこそ、突然の猿芝居にも気付いて付き合ってやったんだ。怒りがあるなら協力していない」
「あらそう? ふふっ……私も説教されちゃったわね」
「……ホントに敵わないな、アンタには……」
悪魔は失笑して立ち去る。それに気付いた桐野紗枝が呼び止めた。
「悪魔……今回は、助けてくれてありがとう……」
「……どうも」
返事の手を挙げた悪魔は、あることを思い出す。
「そうだ、お前ら。“魔法少女をやめられるうわさ”って知ってるか? 興味があるなら次の機会に声を掛けてくれ。なんでも魔法少女をやめれば願い事が無かったことになるそうだ。ちなみに、このうわさは他言無用だぜ」
由貴真里愛は静かに見守り、都ひなのは神妙な面持ちで聞き届け、桐野紗枝は驚いていた。その反応を目にした悪魔は、悪魔契約を受ける可能性があるのは桐野紗枝だけだと悟る。
「あ、それともう一つ。小さなキュゥべえって知ってるか?」
知らないらしい。空振りだ。ともあれ魔女は討伐し、一人の強情な魔法少女をある程度改心させ、うわさも流した。ひと仕事を終えた悪魔は、また次の街へと流れる。
その背中を見つめる由貴真里愛は、どこか悲しげな表情で呟いた。
(彼、常に眉間にシワを寄せているけど……魔女を倒す時は、より一層シワを濃くして、とても辛そうにしていたわ……それはきっと、魔女のことも想っているからなんでしょうね……優しすぎて、危うい人……魔法少女と魔女という過酷な世界を見る中で、彼の心を守ってあげられる友達は、はたして何人居るのかしら……? 水野むくさんという友達が居るようだけど、だからって彼はひとりで何もかもを背負い込みすぎな気がするわ。それが少しだけ心配ね……いつ潰れてもおかしくない。
余裕がないのに他者を気遣える……それはとても気高くて偉大なことだけど……それでもやっぱり人の心としては歪んでしまってもおかしくないこと……いえ、もう既に歪んでしまっているのかもしれない。だって彼の性格は、きっともっと柔らかいはずだもの……)
由貴真里愛の心配は的中していた。だが悪魔は止まることなんて出来ない。彼は目的を叶えるまで、立ち止まることはできないのだ。
†